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▶ ゲー カー エヌ ドライブライン インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/223 20110101AFI20221129BHJP
【FI】
F16D3/223
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021500078
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2018068265
(87)【国際公開番号】W WO2020007476
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504467521
【氏名又は名称】ゲー カー エヌ ドライブライン インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】GKN Driveline International GmbH
【住所又は居所原語表記】Hauptstrasse 130, D-53797 Lohmar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イーダ ベンナー
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ クレメリウス
(72)【発明者】
【氏名】アンナ グレメルマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ヒルデブラント
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン マウハー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ユルゲン ポスト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヴェッカーリング
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-189417(JP,A)
【文献】特公平8-26899(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速ジョイントであって、
長手方向軸線(L12)と複数の外側のボール溝(22)とを備えたジョイント外側部分(12)であって、接続側と開口側とを有するジョイント外側部分(12)と、
長手方向軸線(L13)と複数の内側のボール溝(23)とを備えたジョイント内側部分(13)と、を含んでおり、
それぞれ1つの外側のボール溝(22)と内側のボール溝(23)とが1つの溝対(22,23)を互いに形成しており、
前記等速ジョイントは、
各溝対(22,23)内におけるそれぞれ1つのトルクを伝達するボール(14)と、前記ジョイント外側部分(12)と前記ジョイント内側部分(13)との間に配置されたボールケージ(15)であって、前記トルクを伝達するボール(14)のうちの少なくとも1つをそれぞれ収容する、周方向で分配されたケージ窓(18)を有しているボールケージ(15)と、を含んでおり、
前記ジョイント内側部分(13)の前記長手方向軸線(L13)と前記ジョイント外側部分(12)の前記長手方向軸線(L12)とが同軸に向けられている状態で、前記ボールケージ(15)の前記ボール(14)が、ジョイント中央平面(EM)を規定していて、前記ジョイント内側部分(13)の前記長手方向軸線(L13)と前記ジョイント外側部分(12)の前記長手方向軸線(L12)とは、屈曲角度(β)がゼロ度(0°)ではない場合に、ジョイント屈曲平面(EB)を画定しており、
前記ジョイント屈曲平面(EB)で見て、前記等速ジョイント(11)の各角度位置において、外側のボール溝(22)とボール(14)との間の外側の接触点において前記外側のボール溝(22)と当接する外側の接線(T)と、内側のボール溝(23)とボール(14)との間の内側の接触点において前記内側のボール溝(23)と当接する内側の接線(T’)との間に開放角(δ)が形成されており、
前記ボール(14)の中心点は、前記外側のボール溝(22)および前記内側のボール溝(23)に沿って移動する際に、それぞれ1つの中心線(A,A’)を規定し、
さらに、-20°<β<20°である屈曲角度(β)の範囲の第1の屈曲角度範囲が規定されていて、かつ前記第1の屈曲角度範囲に続いてβ<-20°またはβ>20°である屈曲角度(β)の範囲の第2の屈曲角度範囲が規定されており、
前記溝対(22,23)の少なくともいくつかは、
-前記ジョイント屈曲平面(EB)内で、前記ジョイント外側部分(12)の前記接続側に向かって移動するボール(14)の接続側の開放角(δa)が、前記第1の屈曲角度範囲内では、屈曲角度(β)が増加するにつれ増加し、前記接続側の開放角(δa)の接続側の第1の平均開放角勾配(S1)は、前記第1の屈曲角度範囲内の屈曲角度(β)に関して規定されており、
-前記第1の屈曲角度範囲の前記接続側の第1の平均開放角勾配(S1)は、前記第2の屈曲角度範囲の接続側の第2の平均開放角勾配(S2)よりも大きいように、
形成されている、等速ジョイント。
【請求項2】
前記接続側の第1の平均開放角勾配(S1)は0.5よりも大きい、
かつ/または
前記接続側の第2の平均開放角勾配(S2)は0.5よりも小さい、請求項1記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記少なくともいくつかの溝対(22,23)は、
-屈曲角度がゼロ度(β=0°)の場合に、前記開放角(δ)が少なくともゼロ度(δ≧0°)であるように、かつ/または8度未満(δ<8°)であるように、特に4度未満(δ<4°)であるように、
形成されている、請求項1または2記載の等速ジョイント。
【請求項4】
前記少なくともいくつかの溝対(22,23)は、前記接続側の開放角(δa)が、前記第2の屈曲角度範囲内の屈曲角度(β)に関して可変であるように構成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項5】
前記少なくともいくつかの溝対(22,23)は、前記第2の屈曲角度範囲内の各屈曲角度(β)について、前記ジョイント屈曲平面(EB)で前記ジョイント外側部分(12)の前記開口側へと移動しているボール(14)の開口側の開放角(δo)と、屈曲角度(β)が同じ場合に前記ジョイント屈曲平面(EB)で前記ジョイント外側部分(12)の前記接続側へと移動しているボール(14)の接続側の開放角(δa)とが、同じ軸方向に向かって開いているように形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項6】
前記ジョイント外側部分(12)の前記ボール溝(22)はその長さにわたってそれぞれ1つの開口側の溝区分(22o)と接続側の溝区分(22a)とを有しており、
前記ジョイント外側部分(12)の前記ボール溝(22)の前記接続側の溝区分(22a)は、異なる曲率を有したそれぞれ少なくとも2つのセグメント(22a1,22a2)を有している、
請求項1から5までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項7】
前記ジョイント外側部分(12)の前記接続側の溝区分(22a)の第1のセグメント(22a1)は第1の曲率半径(Ra1)を有しており、
前記接続側の溝区分(22a)の前記第1の曲率半径(Ra1)に対するピッチ円半径(PCR)の比は1.4よりも大きく、
前記第1のセグメント(22a1)の前記第1の曲率半径(Ra1)は、第1のセグメント中心点(Ma1)を中心とする第1の円弧区分によって形成されており、前記第1のセグメント中心点(Ma1)は、前記ジョイント中央平面(EM)に位置していて、前記長手方向軸線(L12)から、前記ボール溝(22)の方向に半径方向間隔(オフセット)を有していて、前記第1の円弧区分は、前記第1のセグメント中心点(Ma1)を中心として14°~22°の第1の溝セグメント角度(γ1)(14°<γ1<22°)にわたって延在しており、
前記ジョイント外側部分(12)の前記接続側の溝区分(22a)の第2のセグメント(22a2)は第2の曲率半径(Ra2)を有しており、
前記接続側の溝区分(22a)の前記第2の曲率半径(Ra2)に対する前記ピッチ円半径(PCR)の比は1.4よりも小さく、
前記第2のセグメント(22a2)の前記第2の曲率半径(Ra2)は、第2のセグメント中心点(Ma2)を中心とする第2の円弧区分によって形成されており、前記第2のセグメント中心点(Ma2)は、前記ジョイント中央平面(EM)から開口側の方向に軸方向間隔(オフセット)を有していて、前記第2の円弧区分が、前記第2のセグメント中心点(Ma2)を中心として12°~20°の第2の溝セグメント角度(γ2)(12°<γ2<20°)にわたって延在している、
請求項6記載の等速ジョイント。
【請求項8】
前記ボールケージ(15)は、前記ジョイント外側部分(12)の内面に対して前記ボールケージ(15)をガイドするための球面状の外面(16)と、前記ジョイント内側部分(13)の外面に対して前記ボールケージ(15)をガイドするための球面状の内面(17)とを有しており、
前記球面状の外面(16)の中心点と、前記球面状の内面(17)の中心点との間に、軸方向のずれ(オフセット)が設けられている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項9】
前記等速ジョイント(11)を潤滑するための潤滑剤が設けられており、前記潤滑剤は0.02~0.09の摩擦係数(μ)(0.02<μ<0.09)を、特に0.05~0.06の摩擦係数(μ)(0.05<μ<0.06)を有している、請求項1から8までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項10】
前記少なくともいくつかの溝対(22,23)については、以下の記載、すなわち:
ピッチ円半径(PCR)とボール直径(D14)との比が1.4~2.1である;
ピッチ円半径(PCR)と前記ボールケージ(15)の軸方向のずれ(オフセット)との比が5.0~12.5である;
ピッチ円半径(PCR)と前記第2のセグメント中心点(Ma2)の軸方向のずれ(オフセット)との比が4.0~8.0である;
ピッチ円半径(PCR)と前記ジョイント内側部分(13)の接続成形部の直径(D13i)との比が1.0~1.25である;
ピッチ円半径(PCR)と前記ジョイント外側部分(12)の外径(D12o)との比が0.315~0.345である、
のうちの少なくとも1つが当てはまる、請求項7記載の等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクを伝達するための等速ジョイントであって、外側のボール溝を備えたジョイント外側部分と、内側のボール溝を備えたジョイント内側部分と、外側のボール溝と内側のボール溝とから成る対偶内にガイドされる、トルクを伝達するボールと、ボールケージとを有しており、ボールケージは、周方向で分配された窓内にボールを収容し、1つの共通の平面で保持している、等速ジョイントに関する。等速ジョイントによって、屈曲運動を行いながら、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間でトルク伝達が可能である。
【0002】
基本的に等速ジョイントは、固定式ジョイントおよび摺動式ジョイントの形態で区別される。固定式等速ジョイントでは、実質的に、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間には屈曲運動可能性しかなく、すなわち通常の許容誤差を除いては軸方向の運動は行われない。これに対して、摺動式等速ジョイントによっては、屈曲運動の他、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間で軸方向の摺動運動も可能とされる。
【0003】
独国特許出願公開第102012102678号明細書により、固定式ジョイントの形態の等速ジョイントが公知である。等速ジョイントの各角度位置で、ボールへの外側の接線と内側の接線との間に開放角が形成されている。溝対は、小さな屈曲角度範囲内では、少なくとも1つのジョイント屈曲角度で開放角がゼロであり、より大きな屈曲角度範囲内では、ジョイント外側部分の開口側へと移動しているボールの開口側の開放角と、同じジョイント屈曲角度でジョイント外側部分の接続側へと移動しているボールの接続側の開放角とが、ゼロではなく、同じ軸方向に開いているように形成されている。
【0004】
欧州特許出願公開第0802341号明細書により、8個のトルクを伝達するボールを備えた固定式ジョイントの形態の等速ジョイントが公知である。それぞれ1つの外側のボール溝と内側のボール溝とから成る溝対は、ジョイントの開口側に向かって開いている。1つの実施形態では、ボール溝は、長さにわたって一様の半径を有している。別の実施形態では、ボール溝は、円弧状区分とそれに続く直線部分とから成っている;このような形式の等速ジョイントは、アンダカットのないジョイント(UF-ジョイント)とも呼ばれる。
【0005】
米国特許第8267802号明細書により公知の固定式等速ジョイントでは、外側のボール溝の中心点と内側のボール溝の中心点とが、球面中心点に対してシフトされている。ピッチ円半径(PCR)に対して相対的な軸方向のシフト(F)の比は、0.045~0.065である。さらに、ジョイント中央平面で互いに移行する湾曲した溝区分とまっすぐな溝区分とを有した固定式等速ジョイントが公知である。さらに、溝長さ全体にわたって一様の湾曲された溝区分を有する固定式等速ジョイントが公知である。
【0006】
等速ジョイントの構造では、部分的に矛盾する多種の要求を満たさなければならない。すなわち、最も重要な目的は、損失出力を最小にするために、もしくはジョイントの効率を最大にするために、作動時に協働するジョイント構成部分の反力をできるだけ僅かにすることである。同時に、等速ジョイントは、運転時に生じる全ての角度位置において、確実に、かつできるだけ摩耗なしで作動されるのが望ましい。
【0007】
溝の曲率の構成に応じて、等速ジョイントの比較的大きなまたは比較的小さな開放角が生じる。ジョイント内側部分における僅かな曲率もしくは小さい曲率半径を有する溝の延在により、屈曲角度が比較的大きな場合にボールがボール溝から外へ大きく出ることがある。ジョイント内側部分における大きな曲率もしくは大きな曲率半径を有する溝の延在により、ジョイントが屈曲する際の開放角の増加が比較的僅かになり、このことはボールケージの制御にとっては欠点となり得る。
【0008】
したがって本発明の根底を成す課題は、屈曲角度が小さい場合でも確実なケージ制御を可能とし、屈曲角度が比較的大きい場合に、ジョイント内側部分で十分なトルク伝達容量を有するような等速ジョイントを提案することである。
【0009】
この課題を解決するために、等速ジョイントであって:長手方向軸線と複数の外側のボール溝とを備えたジョイント外側部分であって、接続側と開口側とを有するジョイント外側部分と;長手方向軸線と複数の内側のボール溝とを備えたジョイント内側部分と、を含んでおり、それぞれ1つの外側のボール溝と内側のボール溝とが1つの溝対を互いに形成しており;この等速ジョイントは、各溝対内におけるそれぞれ1つのトルクを伝達するボールと;ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間に配置されたボールケージであって、トルクを伝達するボールのうちの少なくとも1つをそれぞれ収容する、周方向で分配されたケージ窓を有しているボールケージと、を含んでおり;ジョイント内側部分の長手方向軸線とジョイント外側部分の長手方向軸線とが同軸に向けられている状態で、ボールケージのボールが、ジョイント中央平面(EM)を規定していて、両長手方向軸線(L12,L13)は、屈曲角度(β)がゼロ度ではない場合に、ジョイント屈曲平面(EB)を画定しており;ジョイント屈曲平面(EB)で見て、等速ジョイントの各角度位置において、外側のボール溝とボールとの間の外側の接触点において外側のボール溝と当接する外側の接線(T)と、内側のボール溝とボールとの間の内側の接触点において内側のボール溝と当接する内側の接線(T’)との間に開放角(δ)が形成されており;ボールの中心点は、外側のボール溝および内側のボール溝に沿って移動する際に、それぞれ1つの中心線(A,A’)を規定し;さらに、20度よりも小さい屈曲角度(β)(-20°<β<20°)を含む第1の屈曲角度範囲が規定されていて;かつ20度よりも大きい屈曲角度(β)(β>±20°)を含む第2の屈曲角度範囲が規定されており;溝対の少なくともいくつかは、ジョイント屈曲平面(EB)内で、ジョイント外側部分の接続側に向かって移動するボールの接続側の開放角(δa)が、第1の屈曲角度範囲内では、屈曲角度(β)が増加するにつれ増加し、第1の屈曲角度範囲内の屈曲角度(β)に関する、接続側の開放角(δa)の接続側の第1の平均開放角勾配(S1)は、第2の屈曲角度範囲内の屈曲角度(β)に関する開放角(δ)の接続側の第2の平均開放角勾配(S2)よりも大きいように、形成されている、等速ジョイントが提案される。
【0010】
この等速ジョイントの利点は、ジョイント中央平面を中心として20度までの中央の屈曲角度範囲内で開放角が増加することに基づき、ボールケージの確実なケージ制御が、特に中央平面から接続側に移動しているボールによっても、保証されていることである。この場合、中央の屈曲角度範囲内の比較的大きな溝半径により、この屈曲角度に関する開放角の増加は小さくなる。しかしながら、20度を超える比較的大きな屈曲角度の場合には開放角の上昇率は再び減少し、特に、中央の屈曲角度範囲におけるよりも小さくなることにより、ボールは、このような大きな屈曲角度の場合でもジョイント内側部分で確実にガイドされ、ジョイント内側部分のボール溝から軸方向にごく僅かにしか出ない。
【0011】
開放角は、それぞれ外側のボール溝および内側のボール溝内でガイドされるボールとの接触領域における、外側のボール溝への外側の接線と、内側のボール溝への内側の接線との間で規定されている。この場合、開放角は、ジョイント外側部分の長手方向軸線とジョイント内側部分の長手方向軸線とによって画定されるジョイント屈曲平面に、もしくはこのジョイント屈曲平面内に位置し内部にボールを収容している溝対に、関する。ボールとボール溝との接触領域はこの場合、例えば、横断面半径がボールの半径に相当する円形の溝横断面では、ジョイント屈曲平面内に直接位置しており、または例えばボール溝の横断面が円形ではない場合には、ボールとボール溝との間のボール接触線によって画定される、ジョイント屈曲平面に対して平行にシフトされた平面に位置している。後者の場合は、開放角を成す、各ボール溝に当接する接線の投影図が、ジョイント屈曲平面で見られる。
【0012】
等速ジョイントについて、それぞれ1つの外側のボール溝と内側のボール溝とから形成される溝対のうちの少なくともいくつかは、屈曲角度が比較的大きい場合に、開放角の比較的小さな増加率を有する本発明による形態を有している。等速ジョイントのボールもしくは溝対の個数は、ジョイントに対する技術要件に応じて任意に選択することができ、例えば6個、7個、または8個であってよい。本開示の範囲内で、1つの溝対または少なくともいくつかの溝対と言う場合は、それぞれ記載された特徴は、ジョイントの2つの、3つ以上の、より大きな部分の、または全ての溝対にも相応に関連させてよい。
【0013】
ジョイントの屈曲に関する開放角の変化は、開放角勾配または開放角増加率とも呼ばれる、開放角の増加率Sを意味する(S=Δδ/Δβ)。この場合、ジョイント中央平面から接続側の方向に移動するボールについての、中央の第1の溝区分の平均開放角勾配S1は、それに続く第2の溝区分の平均開放角勾配S2よりも大きい。1つの実施形態によると、ジョイント外側部分の接続側の区分における、もしくはジョイント内側部分の所属の開口側の区分における、少なくとも1つの溝対は、接続側の第1の平均開放角勾配(S1)が0.5よりも大きいように形成されている。代替的にまたは補足的に、溝形状は、接続側の第2の平均開放角勾配(S2)が0.5よりも小さいように形成されていてよい。開放角(δ)の第1の開放角勾配(S1)は、第1の屈曲角度範囲内の屈曲角度(β)に関して、一定または可変であってよい。代替的にまたは補足的に、少なくともいくつかの溝対は、第2の屈曲角度範囲内で屈曲角度(β)に関する、開放角(δ)の第2の開放角勾配(S2)が可変であるように構成されていてよい。しかしながら、第2の屈曲角度範囲の開放角勾配(S2)は一定であってもよい。特に、第2の屈曲角度範囲内の少なくとも1つの開放角(δ)は、中央の屈曲角度範囲の最大の開放角よりも大きくなっている。
【0014】
少なくとも1つの溝対は、好適には、ジョイントが屈曲していない状態(β=0°)で開放角(δ)がゼロ度以上(δ≧0°)であるように、かつ/または8度未満(δ<8°)であるように、特に4度未満(δ<4°)であるように、好適には2度未満(δ<2°)であるように、構成されている。ジョイントが屈曲していない状態での開放角が比較的小さいことにより、ボール溝とボールとの間でボール溝に沿って作用する軸方向力は僅かである。したがって全体として、接触しているジョイント部分間には僅かな反力しか生じず、これにより摩擦損失は相応に僅かである。
【0015】
ジョイントが屈曲していない位置もしくはジョイント中央平面を起点として、第1の屈曲角度範囲(β=0°±20°)内ではジョイントの屈曲が増加するにつれ、開放角は実質的に増加する。この場合、少なくとも1つの溝対は、開放角(δ)が、第1の屈曲角度範囲内では、少なくとも5度、特に少なくとも10度増加するように構成されていてよい。中央の第1の屈曲角度範囲には、第2の屈曲角度範囲が続いている。第2の屈曲角度範囲は、数値的に20°よりも大きな、すなわちマイナス20°よりも小さなまたはプラス20°よりも大きな屈曲角度(β)(β>±20°)を含んでいる。第2の屈曲角度範囲は、例えば40°までの、特に50°までの、特に最大屈曲角度までの屈曲角度を含んでいてよいが、これに限定されるものではない。
【0016】
ジョイントが屈曲していない状態では、トルクを伝達するボールの中心点は、ジョイント中央平面に位置している、もしくはジョイント中央平面を規定している。この場合、ジョイントが屈曲していない状態でボールの中心点が位置している直径は、ピッチ円直径(PCD)と呼ばれる。相応に、ピッチ円半径(PCR)は、ジョイントが屈曲していない状態でボールの中心点が位置している、ジョイント中心点を中心とする半径を規定している。
【0017】
屈曲しながら等速ジョイントが回転する際に、トルクを伝達するボールはボール溝に沿って移動する。この場合、ジョイント屈曲平面で見て、ジョイント外側部分の開口側へと移動しているボールは、ジョイント外側部分の開口側の溝区分内へ、かつジョイント内側部分の接続側の溝区分内へガイドされる。ジョイント屈曲平面で見て、ジョイント外側部分の接続側へと移動しているボールは、ジョイント外側部分の接続側の溝区分内へ、かつジョイント内側部分の開口側の溝区分内へガイドされる。
【0018】
ジョイント外側部分のボール溝は、その長さにわたって、ジョイント中央平面に関してそれぞれ1つの開口側の溝区分と接続側の溝区分とを有している。ジョイント中央平面を起点として開口側で続いている、ジョイント内側部分の溝区分は、ジョイント外側部分の接続側の溝区分に実質的に相応している。すなわち、ジョイント内側部分の開口側の溝区分は、この溝区分の所属の中心点軌道が、ジョイント外側部分の接続側の溝区分の中心点軌道に対して、角度を二分する平面に関して鏡像対称的であるように形成されている。これは、各溝対に当てはまる。
【0019】
1つの実施形態によれば、少なくとも複数の溝対は中央の屈曲角度範囲で、第1の屈曲角度範囲内の各屈曲角度(β)について、ジョイント屈曲平面(EB)でジョイント外側部分の開口側へと移動しているボールの開口側の開放角(δo)と、屈曲角度(β)が同じ場合にジョイント屈曲平面(EB)でジョイント外側部分の接続側へと移動しているボールの接続側の開放角(δa)とが、同じ軸方向に開いているということが当てはまるように形成されていてよい。同じ軸方向を向く開放角とは、ジョイント屈曲平面で、接続側の方向に移動しているボールに、外側のボール溝および内側のボール溝から作用する合力が、開口側の方向に移動しているボールに作用する合力の軸方向の力成分と同じ軸方向に向いている軸方向の力成分を有していることを意味する。この構成により、ボールケージは少なくともほぼ、角度を二分する平面に沿って制御される。場合によっては、他の溝対も、好適には本発明による溝対の開放角と同じ軸方向を向いている開放角を有している。好適には全ての溝対が、ジョイントの屈曲状態で、全てのボールの開放角δが、各ジョイント屈曲平面で見て、同じ軸方向に開いているように形成されている。このことは、中央の屈曲角度範囲に続く第2の屈曲角度範囲にも適用されてよい。さらに、良好な製造のためには好適には、全ての外側のボール溝が互いに同様に形成されていて、全ての内側のボール溝が互いに同様に形成されている。
【0020】
ボールの中心点は、外側のボール溝および内側のボール溝に沿って動く際に、ジョイント屈曲平面で見て、中心線(A,A’)を規定する。この場合、好適な構成によれば、中心線(A,A’)は、その長さにわたって、異なる曲率を有する少なくとも2つの溝区分を有している。異なる曲率を有する少なくとも2つの溝区分は、外側のボール溝および内側のボール溝の、開口側の区分内にかつ/または接続側の区分内にかつ/または部分的に開口側の区分内にかつ接続側の区分内に位置していてよい。
【0021】
1つの好適な構成によれば、ジョイント外側部分のボール溝の接続側の溝区分は、したがってジョイント内側部分の開口側の溝区分も、セグメントとも呼ぶことができる、異なる曲率を有するそれぞれ少なくとも2つの部分区分を有している。
【0022】
ジョイント外側部分の接続側の溝区分の第1のセグメントは、特に、接続側の溝区分の第1の曲率半径(Ra1)に対するピッチ円半径(PCR)の比が1.4よりも大きいように形成されている第1の曲率半径(Ra1)を有していてよい。第1のセグメントの第1の曲率半径は、例えば第1のセグメント中心点(Ma1)を中心とする第1の円弧区分によって形成されていてよく、第1のセグメント中心点(Ma1)は、長手方向軸線から、ボール溝の方向に半径方向間隔(オフセット)を有している。第1の円弧区分は好適には、第1のセグメント中心点(Ma1)を中心として14°~22°の第1の溝セグメント角度(γ1)(14°<γ1<22°)にわたって延在している。第1のセグメント中心点(Ma1)は、ジョイント中央平面(EM)に位置していてよく、またはこのジョイント中央平面から軸方向にシフトされていてよい。
【0023】
ジョイント外側部分の接続側の溝区分の第2の部分セグメントは、特に、接続側の溝区分(22a)の第2の曲率半径(Ra2)に対するピッチ円半径(PCR)の比が1.4よりも小さいように形成されている第2の曲率半径(Ra2)を有していてよい。第2のセグメントの第2の曲率半径(Ra2)は、第2のセグメント中心点(Ma2)を中心とする第2の円弧区分によって形成されていてよく、第2のセグメント中心点(Ma2)は、特にジョイント中央平面から開口側の方向に軸方向間隔(オフセット)を有している。第2の円弧区分は好適には、第2のセグメント中心点(Ma2)を中心として12°~20°の第2の溝セグメント角度(12°<γ2<20°)にわたって延在している。既に上述したように、ジョイント内側部分のボール溝は相応に同様に形成されている。
【0024】
好適な構成によれば、ボールケージは、ジョイント外側部分の内面に対してボールケージをガイドするための球面状の外面と、ジョイント内側部分の外面に対してボールケージをガイドするための球面状の内面とを有している。球面状の外面の中心点と、球面状の内面の中心点との間に、軸方向のずれ(オフセット)が設けられていてよい。このような措置により、等速ジョイントの角度運動の際に、良好なケージ制御が達成される。しかしながら、球面状の内面と球面状の外面との中心点が一平面内に位置していることも可能である。ボールケージの外側の球面状の外面と、ジョイント外側部分の内側の球面状の面との間かつ/またはボールケージの球面状の内面とジョイント内側部分の球面状の外面との間には、好適には半径方向の遊びが設けられている。
【0025】
好適な構成によれば、等速ジョイントを潤滑するための潤滑剤が設けられており、潤滑剤は0.02~0.09の摩擦係数(μ)(0.02<μ<0.09)を、特に0.05~0.06の摩擦係数(μ)(0.05<μ<0.06)を有している。
【0026】
さらに、1つの可能な構成によれば、少なくともいくつかの溝対については、以下の記載、すなわち:ピッチ円半径(PCR)とボール直径(DB)との比が1.4~2.1である;ピッチ円半径(PCR)とボールケージの前記軸方向のずれ(オフセット)との比が5.0~12.5である;ピッチ円半径(PCR)と第2の溝セグメント中心点(Ma2)の軸方向のずれ(オフセット)との比が4.0~8.0である;ピッチ円半径(PCR)とジョイント内側部分の接続成形部の直径との比が1.0~1.25である;かつ/またはピッチ円半径(PCR)とジョイント外側部分の外径との比が0.315~0.345である;のうちの少なくとも1つが適用されてよい。これらの範囲の1つ以上によるジョイントの構成では、特にコンパクトな構造が達成される。
【0027】
等速ジョイントの互いに可動な部分の間には通常、遊びが設けられている。この場合、ジョイントは、例えば以下の寸法の1つ以上を有することができるが、これに限定されるものではない:ケージとボールハブ(ORC)との間の半径方向の遊びは、例えば0.01mm~0.08mmであってよい;ケージとジョイント外側部分(IRC)との間の半径方向の遊びは、例えば0.01mm~0.08mmであってよい;ボールと各ボール溝(SKR)との間の半径方向の遊びは、例えば0mm~0.05mmであってよい;かつ/またはボールとボールケージのケージ窓(SKF)との間の遊びは、例えば-0.03mm~0.03mmであってよい。
【0028】
等速ジョイントの組込み状態で、ジョイント室をシールするためにベローズを設けることができる。ベローズは、予荷重をかけて組み付けられてよく、これによりベローズによって、ジョイント内側部分とジョイント外側部分とに互いに離れるように荷重をかける軸方向の力が生じる。ベローズは、予荷重をかけられた状態で、上記構成部分間に存在する遊びを押し出す軸方向の力成分を発生させる。例えばトルクのない状態から高いトルクへ変化するような突然の負荷変更により、内側部分もしくは外側部分に対してケージが当接することがないので、望ましくない騒音は回避される。予荷重は、例えば30N~150Nのオーダにあってよい。
【0029】
溝角度β/2としては、本開示の範囲では、ジョイント中心点Mから、トルクを伝達するボールのボール中心までの半径がジョイント中央平面EMと形成する角度であると理解される。この場合、ジョイントの各角度位置で、溝角度β/2は、通常、ジョイント屈曲角度βの半分であり、すなわち例えば10°までの溝角度β/2は、20°のジョイント屈曲角度に相当する。
【0030】
等速ジョイントは、ジョイント外側部分の球面状の内面もしくはジョイント内側部分の球面状の外面に対するボールケージのガイドに基づき、固定式ジョイントの形態で構成されており、その摺動運動は、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間の軸方向の遊びの範囲でのみ許容される。しかしながら、ケージを、ジョイント外側部分の内面およびジョイント内側部分の外面に対して軸方向で解放して、これによりジョイントが摺動式ジョイントとして形成されることも考えられる。
【0031】
次に、図面につき好適な実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A】本発明による等速ジョイントを、屈曲していない状態で示す縦断面図である。
図1B図1Aのジョイントの細部を示す拡大図である。
図1C図1Aのジョイントのボールケージを個別に示す図である。
図1D図1Aのジョイントのジョイント外側部分を示す縦断面図である。
図1E図1Aのジョイントのジョイント内側部分を示す縦断面図である。
図1F図1Aのジョイントのジョイント外側部分を記入されたさらなる詳細と共に示す縦断面図である。
図1G図1Aのジョイントのジョイント内側部分を記入されたさらなる詳細と共に示す縦断面図である。
図2A図1Aのジョイントを、屈曲していない状態で、すなわち0°の屈曲角度で示す図である。
図2B図1Aのジョイントを、20°の屈曲角度だけ屈曲した状態で示す図である。
図2C図1Aのジョイントを、40°の屈曲角度だけ屈曲した状態で示す図である。
図3】屈曲角度β(角度)に関する開放角δ(角度)を示すグラフである。
【0033】
以下に、図1A図1G図2A図2C、および図3をまとめて説明する。本発明による等速ジョイント11が示されている。この等速ジョイント11は、ジョイント外側部分12、ジョイント内側部分13、トルクを伝達するボール14、ならびにボールケージ15を含む。ボールケージ15は、ジョイント外側部分12内にガイドされている球面状の外面16と、ジョイント内側部分13上でガイドされている球面状のケージ内面17とを有している。ボール14は、ボールケージ15に周方向で分配されたケージ窓18において、ジョイント中央平面EMで保持されている。ジョイント外側部分12には長手方向軸線L12が示されており、ジョイント内側部分13には長手方向軸線L13が示されている。ジョイント中央平面EMとの長手方向軸線L12,L13の交点が、ジョイント中心点Mを成している。
【0034】
ジョイント外側部分12は、接続ピン24が結合されている底面19と開口20とを有している。ジョイント内側部分13は開口21を有しており、この開口には、トルクを伝達するための駆動軸25のピンが相対回動不能に差し込まれている。本開示では、底面19の位置は、「接続側に向かう」軸方向と言い、開口20の位置は「開口側に向かう」軸方向と言う。これらの概念は、ジョイント内側部分13に関しても用いられ、この場合、軸25がジョイント内側部分13に実際に接続されていることは重要ではない。ジョイント外側部分は、底面の代わりに、例えばたわみ継手の場合のように、接続側に向かって開かれて構成されていてもよいことを理解されたい。
【0035】
ジョイント外側部分12には等速ジョイント11の外側のボール溝22が形成されていて、ジョイント内側部分13には等速ジョイント11の内側のボール溝23が形成されている。それぞれ1つの外側のボール溝22と内側のボール溝23とが互いに対向して共に1つの溝対を互いに形成しており、この溝対内に、それぞれ1つのトルクを伝達するボール14がガイドされている。互いに対向している外側のボール溝22と内側のボール溝23とは、各長手方向軸線L12,L13を中心とした半径方向平面に位置していてよい。これらの半径方向平面は、それぞれ等しい角度間隔を互いに有している。しかしながら、周方向で隣接するそれぞれ2つの溝対が、長手方向軸線L12,L13に対して平行に位置する互いに平行な平面に延在していることも考えられる。この構成は「ツインボール」ジョイントとも呼ばれる。ジョイントの屈曲の際には、すなわち、ジョイント外側部分12に対して相対的にジョイント内側部分13が屈曲運動を行う場合には、ボール14は、ジョイント中央平面EMから出て、ジョイント外側部分12の長手方向軸線L12と、ジョイント内側部分13の長手方向軸線L13との間の角度を二分する平面へと少なくともほぼガイドされる。少なくともほぼとは、これらのボール14のボール中心点によって画定される平面が、角度を二分する平面の±10%の角度範囲内に位置すること、および特にこれに相当し得ることを意味する。
【0036】
内側のボール溝の形状に少なくともほぼ相当する外側のボール溝22の形状は、特に図1Dおよび図1Gからわかる。ボール14は、ジョイント外側部分12における外側のボール溝22と、ジョイント内側部分13における内側のボール溝23とに接触している。この場合、ボール14は、縦断面図で見て、外側のボール溝22との接触領域で外側の接触線Kを形成しており、内側のボール溝23との接触領域で内側の接触線K’を形成している。ボール14は、ボール溝22,23の溝底部で接触して示されているが、これは必ずしも必要ではない。したがって、図示したように、外側の接触線Kと内側の接触線K’とは、溝底部に位置していてよく、すなわち、長手方向軸線L12,L13を含む1つの半径方向平面内に、または長手方向軸線に対して平行な複数の平面内に位置していてよい。外側のボール溝22および内側のボール溝23に沿って移動する際に、ボール14の中心点がそれぞれ1つの中心線A,A’を規定する、即ち中心線A,A’に沿って移動する。中心線A,A’は、各接触線K,K’に対して平行に延在している。ボール溝22,23を記述するために、溝底部における接触線K,K’に、またはジョイントの屈曲運動の際のボール中心点の軌道若しくは軌跡により定義される中心線A,A’に関連付けて説明することができる。この場合、ボール中心線Aとは、ジョイント外側部分12の外側のボール溝22に沿ったボール14のボール中心点の線であり、ボール中心線A’とは、ジョイント内側部分13の対応する内側のボール溝23に沿ったボール中心線である。
【0037】
この実施形態では、ボールケージ15の球面状の外面16の中心点M16と、ボールケージ15の球面状の内面17の中心点M17との間に、軸方向のずれ(オフセット)が設けられている。これにより、等速ジョイントの角度運動の際に、良好なケージ制御が達成される。ボールケージ15の球面状の内面17と、ジョイント内側部分13の球面状の外面との間ならびにボールケージ15の球面状の外面16とジョイント外側部分12の球面状の内面との間にはオプションとしてそれぞれ遊びが設けられている。ケージ15とジョイント内側部分13との間のかつ/またはケージ15とジョイント外側部分12との間の半径方向の遊びは、例えば0.01mm~0.08mmであってよい。ボール14と各ボール溝22との間の半径方向の遊びS14rは、例えば0mm~0.05mmであってよい。ボール14とボールケージ15のケージ窓18との間の軸方向の嵌め合いS14aは、例えば-0.03mm~0.03mmであってよい。
【0038】
ジョイントを外部の影響に対してシールするために、通常、シールエレメント、例えばベローズまたはダイヤフラムベローズが設けられる。シールエレメントによって取り囲まれるジョイント室には、好適には少なくとも部分的に潤滑剤が充填されている。潤滑剤は例えば、0.02~0.09の摩擦係数μ(0.02<μ<0.09)を、特に0.05~0.06の摩擦係数μ(0.05<μ<0.06)を有していてよい。
【0039】
さらに等速ジョイント11は、少なくともいくつかの溝対22,23について、以下の特徴の1つ以上を満たすように形成されていてよい:ピッチ円半径PCRとボール直径D14との比が1.4~2.1である;ピッチ円半径PCRとボールケージの軸方向のずれ(オフセット)との比が5.0~12.5である;ピッチ円半径PCRと第2の溝セグメント中心点Ma2の軸方向のずれ(オフセット)との比が4.0~8.0である;ピッチ円半径PCRとジョイント内側部分の接続成形部の直径との比が1.0~1.25である;かつ/またはピッチ円半径PCRとジョイント外側部分の外径との比が0.315~0.345である。
【0040】
以下に、本発明による等速ジョイントの独自性について、特にボール溝22,23の構成について、詳しく説明する。この場合、本発明による等速ジョイントもしくはボール溝の設計に関して以下の定義が適用される:
【0041】
ジョイント屈曲角度βは、ジョイント外側部分12の長手方向軸線L12と、ジョイント内側部分13の長手方向軸線L13との間に形成される角度を定義する。ジョイント屈曲角度βは、屈曲していないジョイントではゼロである。
【0042】
溝角度β/2は、ジョイント中心点Mからボール中心までの半径がジョイント中央平面EMと形成する角度を定義する。この場合、溝角度β/2は、ジョイントの全ての角度位置で常に、ジョイント屈曲角度βの半分である。
【0043】
開放角δは、第1のボール溝22もしくは第2のボール溝23とボール14との接触点における接線T,T’によって形成される角度と定義される。この場合、本開示における体系は、技術的に可能な屈曲角度範囲により様々な大きさとなり得る開放角は概してδで示されている、というものである;選択された具体的な屈曲角度は、各屈曲角度と、ボールの位置に関する記述とにより補完することができる(例えばδ0は、屈曲角度がゼロの場合の開放角を示し、またはδ20oは、屈曲角度が20°の場合の開口側のボールにおける開放角を示す)。
【0044】
ジョイント11の屈曲βに対する開放角δの変化は、開放角δの増加率Sとして定義される(S=Δδ/Δβ)。
【0045】
中心点平面EMは、ジョイントが屈曲していない状態における、トルクを伝達するボール14のボール中心点によって定義されている。つまり、中心点平面EMに、各ボール14の中心点が位置する。
【0046】
ジョイントが屈曲していない状態でボール14の中心点が位置している直径は、ピッチ円直径PCDと呼ばれる。相応にジョイントが屈曲していない状態でボール14の中心点が位置している半径は、ピッチ円半径PCRと呼ばれる。
【0047】
図1Dではジョイント外側部分12が、互いに等間隔で延在するその中心線Aと接触線Kと共に示されている。
【0048】
この場合、等速ジョイント11は、6個のボール14もしくは6個の溝対22,23を含んでいるが、他の個数も勿論考えられる。ジョイント外側部分12の中心線Aは、開口側から接続側の方向で、ジョイント中央平面EMまで延在する開口側区分Aoと、この開口側区分Aoに連続的に接続している接続側区分Aaとを有している。相応に、ジョイント内側部分13の中心線A’も、開口側から接続側の方向で、開口側区分Ao’と、この開口側区分に連続的に接続している接続側区分Aa’とを有している。
【0049】
等速ジョイント11の少なくともいくつかの溝対22,23は、第1の屈曲角度範囲β1内の屈曲角度βに対する開放角δの平均開放角勾配S1が、第2の屈曲角度範囲β2内の第2の平均開放角勾配S2よりも大きいように形成されている。開放角についての詳細は、図3との関連でさらに後述する。
【0050】
図1D図1Gには、ジョイント外側部分12の外側のボール溝22もしくはジョイント内側部分13の内側のボール溝23の溝形状のさらなる詳細が示されている。
【0051】
ジョイント外側部分12の接続側の溝区分22aがそれぞれ2つのセグメント22a1,22a2を有していることがわかる。ジョイント外側部分12の接続側の溝区分22aの第1のセグメント22a1は、ジョイント中央平面EMから、10°の溝角度β/2にわたって延在していて、これは20°のジョイント屈曲角度に相当する。第1の接続側の溝セグメント22a1は、第1のセグメント中心点Ma1に対して第1の曲率半径Ra1を有している。曲率半径Ra1は、ピッチ円半径PCRよりも小さく、第1の曲率半径Ra1に対するピッチ円半径PCRの比は特に1.4よりも大きくてよい。第1のセグメント中心点Ma1は、ジョイント中央平面EMに位置しており、長手方向軸線L12から所属のボール溝22の方向に半径方向間隔Or1を有している。第1の溝セグメント22a1は、第1のセグメント中心点Ma1を中心として第1の溝セグメント角度γ1にわたって延在しており、この溝セグメント角度γ1は特に14°~22°であってよい。
【0052】
第1の溝セグメント22a1には、第2の溝セグメント22a2が連続的に続いている。ジョイント外側部分12の接続側の溝セグメント22a2は、第2のセグメント中心点Ma2を中心として第2の曲率半径Ra2を有している。第2の曲率半径Ra2は、第1の曲率半径Ra1よりも大きく、接続側の溝区分22aの第2の曲率半径Ra2に対するピッチ円半径PCRの比は1.4よりも小さくてよい。接続側の第2の溝セグメント22a2のセグメント中心点Ma2は、この場合、長手方向軸線L12上に位置していて、ジョイント中心点Mよりも軸方向で開口側の方向に軸方向間隔O2aだけシフトされており、この場合、円中心点Maの半径方向のシフトを有する別の構成も考えられる。第2の溝セグメント22a2は、第2のセグメント中心点Ma2を中心として第2の溝セグメント角度γ2にわたって延在しており、この溝セグメント角度は特に12°~20°であってよい。図1Eおよび図1Gからわかるように、ジョイント内側部分13のボール溝23は相応に同様に形成されている。
【0053】
この等速ジョイントのボール溝22,23は、したがって全体として2つの曲率変更点を有しているが、これに限定されるものではない。曲率変更とはこの関連では、数学的な意味で中心線A,A’の傾きの各変化であると理解されたい。
【0054】
第1の曲率変更点P1は、開口側の溝区分22oと接続側の溝区分22aとの間に形成されている。曲率変更点P1は、ジョイント中央平面EMに位置している。曲率変更点P1を通って延在する接線は、長手方向軸線L12に対して平行に延在している。この場合、開口側の溝区分22oは、長手方向軸線L12に対して平行な直線によって形成されているが、これに限定されるものではない;円弧または高次曲線による開口側の溝区分の構成も考えられる。第2の曲率変更点P2は、第1の接続側の溝セグメント22a1と第2の接続側の溝セグメント22a2との間に形成されている。
【0055】
本発明による等速ジョイント11のジョイント内側部分13は、ジョイント外側部分12のボール中心線Aに対して相補的に形成されているボール中心線A’を有している。すなわち、ジョイント内側部分13のボール中心線A’は、ジョイント中央平面EMに関して、もしくはジョイント外側部分12の長手方向軸線L12とジョイント内側部分13の長手方向軸線L13との間の角度を二分する平面に関して、ジョイント外側部分12のボール中心線Aに対して鏡像対称的である。したがって繰り返しを避けるため、ジョイント内側部分13のボール中心線A’の溝延在形状に関しては、ジョイント外側部分12のボール溝22の説明に関連して行った説明が参照される。
【0056】
図2A図2Cには、等速ジョイント11が様々な角度位置で示されていて、図2Aにはジョイント外側部分12とジョイント内側部分13とが同軸に向けられている状態で、すなわち屈曲角度β=0°の状態で示されていて、図2Bには屈曲角度が20°の状態で示されていて、図2Cには屈曲角度が40°の状態で示されている。この場合、ジョイントの様々な屈曲角度において異なる開放角が形成されている。開放角δは、それぞれ、各ボール14との外側の接触線Kに当接する外側の接線Tと、上記ボール14の内側の接触線K’に当接する内側の接線T’との間に形成される。
【0057】
図2Aにより、屈曲角度βがゼロ度の場合に外側の接触線Kに接触する外側の中央の接線Tと、内側の接触線K’に接触する内側の中央の接線T’とが互いに平行に延在しており、すなわちジョイントが屈曲していない状態では、開放角δ0はゼロ度であることがわかる。しかしながら、ジョイントが屈曲していない状態で開放角δがゼロよりも大きくてもよく、例えば0~8度であってもよい。ジョイントが屈曲していない状態での開放角δ0が小さいことにより、ボール溝22,23からボール14へは比較的小さい軸方向の力しか作用せず、これはジョイントの摩擦低減の効果をもたらす。
【0058】
さらに、図2Bおよび図2Cにより、外側のボール溝22および内側のボール溝23が、ジョイント屈曲平面において、ジョイント中央平面EMから開口側の方向に移動しているボール14o(図面の下半側)においても、ジョイント中央平面EMから接続側の方向に移動しているボール14a(図面の上半側)においても、同じ軸方向で開く開放角δが生じるように構成されていることがわかる。すなわち、開放角δによってボール溝22,23からボール14に作用する軸方向の合力は、同じ軸方向に作用する。
【0059】
第1の屈曲角度範囲は、この場合、ジョイント中央平面EMを中心としてプラスマイナス20度(β=0°±20°)の屈曲角度を含むように、すなわち-20°~+20°の屈曲角度範囲β1を含むように(-20°<β1<20°)、規定されている。これに続く第2の屈曲角度範囲β2は、数値的に20度よりも大きな屈曲角度βを、すなわち20°よりも大きなかつ-20°よりも小さな屈曲角度β(β<-20°またはβ>20°)を含んでいる。
【0060】
20°の屈曲角度β(図2B)について、ジョイント屈曲平面において開口側の方向に移動しているボール14oにおける外側の接線T20oと内側の接線T20o’との間には、この実施形態では特に約20°である第1の開放角δ20oが形成され、ジョイント屈曲平面において接続側の方向に移動しているボール14aにおける外側の接線T20aと内側の接線T20a’との間には、特に約10°である第2の開放角δ20aが形成される。
【0061】
より大きな40°の屈曲角度β(図2C)の場合は、開口側のボール14oおよび接続側のボール14aにおける開放角δ40o,δ40aは、この実施形態ではそれぞれ20°の屈曲角度の場合の開放角よりも大きい。この場合、開口側のボール14oにおける開放角δ40oは特に約40°であり、接続側のボール14aにおける開放角δ40aは特に約20°である。
【0062】
上記屈曲角度βに関連する上記開放角δは、例えば選択された溝形状に依存することがわかる。
【0063】
次に、屈曲角度β(角度)に対する開放角δ(角度)の関係を示した図3のグラフに基づき、溝対22,23の可能な構成を説明する。この場合、ジョイントの屈曲時にジョイント外側部分12の接続側に向かって移動するボール14についての開放角δは、マイナスの屈曲角度βに関して記載されている。したがって、ジョイントの屈曲時にジョイント外側部分12の開口側に向かって移動するボール14についての開放角δは、プラスの屈曲角度βに関して記載されている。ゼロ~50°の屈曲角度βの角度範囲における下方の点線は、実質的に、図1図2に示した溝対の本発明による構成を示している。ゼロ~50°の屈曲角度βに関する上方の点線は、本発明による開放角δの例としての上限を示している。下方の点線と上方の点線との間には、ジョイントの屈曲時にジョイント外側部分12の接続側に向かって移動するボール14に関して、別の例としての構成が実線で示されている。
【0064】
ジョイントが屈曲していない状態(β=0°)では開放角δがゼロである(δ=0°)ことは全ての図において共通である。下方の点線を示す溝対に関しては、第1の接続側の溝セグメント22a1,23a1の第1の平均開放角勾配S1は、0.5であり、すなわち、屈曲角度β=-10°の場合、開放角δは5°であり、屈曲角度β=-20°の場合、開放角δは10°である。好適には、第1の接続側の溝セグメント22a1,23a1の内側では、開放角δは少なくとも10度増加する(δ20-δ0≧10°)。第2の接続側の溝セグメント22a2,23a2では、すなわち20°よりも大きい屈曲角度以降は、開放角δは、下方の点線の構成では一定の10°であり、すなわち開放角勾配S2はゼロである。
【0065】
屈曲角度βに対する開放角δの延在範囲が両点線の間に生じる、溝対22,23の接続側の区分22a,23aの任意の別の構成が考えられる。例えば、第1の接続側の溝セグメント22a1,23a1の内側の数値的に15°までの屈曲角度において第1の平均開放角勾配S1は、2.0であってよく、すなわち、屈曲角度β=-10°の場合、開放角δは20°であり、屈曲角度β=-15°の場合、開放角δは30°である(上方の点線)。第2の接続側の溝セグメント22a2,23a2では、開放角δはさらに増加することができるが、例えば0.5未満の僅かな勾配(増加率)S2である。
【0066】
溝対22,23の開口側の区分22o,23oは、この構成では、ジョイントの屈曲角度βが増加する場合に開放角δが一定の割合で増加するように構成されている。すなわち、屈曲角度β=10°の場合、開放角δは10°であり、屈曲角度β=20°の場合、開放角δは20°であり、以下同様である(破線)。このような構成により、第1の屈曲角度範囲内の各屈曲角度βにおいて、ジョイント屈曲平面EBでジョイント外側部分12の開口側へと移動しているボール14の開口側の開放角δoと、屈曲角度βが同じ場合にジョイント屈曲平面EBでジョイント外側部分12の接続側へと移動しているボール14の接続側の開放角δaとが、同じ軸方向に向かって開いている。
【0067】
全体として、等速ジョイントでは、ジョイント中央平面EMを中心として20度までの中央の屈曲角度範囲内では開放角δは比較的大きく上昇し、これによりこの場合、ボールケージ15の確実なケージ制御が保証されている。しかしながら、20度を超える比較的大きな屈曲角度βの場合には開放角δの増加率は再び減少し、特に、中央の屈曲角度範囲におけるよりも小さくなることにより、ボール14は、このような大きな屈曲角度βの場合でもジョイント内側部分13で確実にガイドされ、ジョイント内側部分13のボール溝23から軸方向にごく僅かにしか出ない。
【符号の説明】
【0068】
11 等速ジョイント
12 ジョイント外側部分
13 ジョイント内側部分
14 ボール
15 ボールケージ
16 外側のボール面
17 内側のボール面
18 窓
19 接続側
20 開口側
21 開口
22 外側のボール溝
22a,22o 溝区分
23 内側のボール溝
23a,23o 溝区分
24 ピン
25 駆動軸
A,A’ 中心線
Aa,Ao 中心線
R 半径
M ジョイント中心点
EM ジョイント中央平面
T,T’ 接線
β ジョイント屈曲角度
δ 開放角
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図2C
図3