(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】歯科用補綴物の着色装置、加工装置及び着色方法
(51)【国際特許分類】
A61C 5/77 20170101AFI20221129BHJP
A61C 13/08 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
A61C5/77
A61C13/08 A
(21)【出願番号】P 2021507409
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012176
(87)【国際公開番号】W WO2020189745
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019053329
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 承央
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-143393(JP,A)
【文献】特開2003-340813(JP,A)
【文献】特開2010-220882(JP,A)
【文献】特開2018-158564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0326878(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/77
A61C 13/08
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用補綴物に対してインクジェット方式で着色を行う着色装置であって、
インク滴を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、
前記補綴物を保持する保持部と、
前記インクジェットヘッド又は前記保持部を、XYZ直交座標系において所定方向へ移動させる駆動部と、
前記インクジェットヘッド及び前記駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記駆動部は、前記保持部又は前記インクジェットヘッドを、互いに交差する少なくとも2軸を中心に回転させる回転駆動部を備え、
前記制御部は、前記補綴物の三次元データ及び所定の着色データに基づいて、前記インクジェットヘッド及び前記駆動部を制御するように構成されたことを特徴とする歯科用補綴物の着色装置。
【請求項2】
前記回転駆動部は、互いに交差する第1軸、第2軸及び第3軸を中心に前記保持部を回転可能に構成され、前記第3軸周りに回転自在に設けられた第1のアーム部と、この第1のアーム部に、前記第3軸と交差する前記第1軸周りに回転自在に設けられた第2のアーム部と、この第2のアーム部に前記第1軸周りに回転自在に設けられた第3のアーム部と、この第3のアーム部に、前記第1軸と交差する前記第2軸周りに回転自在に設けられた第4のアーム部と、を有し、前記第4のアーム部の先端に、前記保持部が固定されていることを特徴とする請求項1に記載の歯科用補綴物の着色装置。
【請求項3】
前記インクが、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu,Bi、Pr、Eu、Tb、Er、Tm及びSi、並びにこれらの酸化物の中から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用補綴物の着色装置。
【請求項4】
形状の異なる複数の前記補綴物の三次元の基準データ及び各基準データに対応付けられた着色パターンが予め記憶されている記憶部を有し、前記制御部は、前記補綴物の前記三次元データと、前記記憶部の前記基準データとを比較して、対応する前記着色データを選択することを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の歯科用補綴物の着色装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の歯科用補綴物の着色装置で実行される着色方法であって、
前記三次元データ及び前記着色データに基づいて、前記インクジェットヘッド又は前記補綴物を保持する前記保持部を、XYZ直交座標系において所定方向へ移動させる工程と、
互いに交差する少なくとも2軸を中心に前記保持部又は前記インクジェットヘッドを回転させる工程と、
前記三次元データ及び前記着色データに基づいて、前記インクジェットヘッドのノズルから前記補綴物に向けて前記インク滴を吐出する工程と、
を有することを特徴とする歯科用補綴物の着色方法。
【請求項6】
前記補綴物が、セラミックス系多孔体からなることを特徴とする請求項5に記載の歯科用補綴物の着色方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れか一項に記載の歯科用補綴物の着色装置を備えたことを特徴とする歯科用補綴物の加工装置。
【請求項8】
請求項1~4の何れか一項に記載の歯科用補綴物の着色装置を備えたことを特徴とする乾燥装置。
【請求項9】
請求項1~4の何れか一項に記載の歯科用補綴物の着色装置を備えたことを特徴とする焼成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科用補綴物の着色装置、この着色装置を備えた加工装置及び着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯冠治療やインプラント治療等、歯の欠損部分を人工材料(補綴物)で修復する補綴治療では、生体親和性及び強度の高いセラミックス系材料が多く使用されている。このような材料を用いて補綴物を作製する技術として、患者の歯型の三次元データを取得し、この三次元データに基づいてセラミックス系のブロック材料を、レーザ加工等によって所望形状の補綴物に加工する加工装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、加工後の補綴物の色はセラミックス材料そのものの色であるため、患者の天然歯の色合いとは異なっている。そこで、焼成によって発色する着色料を補綴物の表面に塗布し、その後補綴物を焼成して焼結体とすることで、補綴物の色合いを、患者の天然歯に近く、より自然の色合いに調整し、審美性を高めようとしている。
【0004】
しかしながら、補綴物への着色作業は、歯科技工士等が筆等の塗布具を用いて、部位によって色分けしながら行っているため、熟練した技術が必要であり、手間や時間もかかっていた。また、歯科技工士等の技量によっては色調のばらつきが発生し、安定的な色調が得られないことがあった。
【0005】
一方、特許文献2には、インクジェット方式によって着色インクを印刷することで、補綴物の表面に、自動的に着色を施す補綴物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-6445号公報
【文献】特開2010-220882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の発明では、主成分として顔料を含む油性インクを使用しているため、セラミックス等の多孔性材料からなる補綴物では、インクが浸透しにくく、良好な仕上がりが得にくかった。
【0008】
本開示は、上記の事情に鑑みて為されたもので、歯科用補綴物を、より簡便かつより短時間で効率的に、しかも仕上がりよく着色することを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本開示に係る歯科用補綴物の着色装置は歯科用補綴物に対してインクジェット方式で着色を行う着色装置であって、インク滴を吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、前記補綴物を保持する保持部と、前記インクジェットヘッド又は前記保持部を、XYZ直交座標系において所定方向へ移動させる駆動部と、前記インクジェットヘッド及び前記駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記補綴物の三次元データ及び所定の着色データに基づいて、前記インクジェットヘッド及び前記駆動部を制御するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、歯科用補綴物を、より簡便かつより短時間で効率的に、しかも仕上がりよく着色することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る歯科用補綴物の着色装置を備えた歯科用補綴物の加工装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示される加工装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3A】被加工物及び補綴物を説明するための図であり、被加工物及び被加工物を切削加工して得られる補綴物の例を示す。
【
図3B】被加工物及び補綴物を説明するための図であり、補綴物の着色イメージを示す。
【
図4】
図1に示される加工装置で実行される加工処理(切削加工処理及び着色処理)の動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態に係る歯科用補綴物の着色装置の主要部の概略構成を示す図である。
【
図6】
図5に示される着色装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図7】第1実施形態に係る歯科用補綴物の着色装置を備えた歯科用補綴物の加工装置の変形例であり、加工装置が、さらに乾燥装置を備える場合の概略構成を示す図である。
【
図8】第1実施形態に係る歯科用補綴物の着色装置を備えた歯科用補綴物の加工装置の他の変形例であり、加工装置が、さらに焼成装置を備える場合の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係る歯科用補綴物の着色装置(以下、単に「着色装置」という。)及びこの着色装置を備えた歯科用補綴物の加工装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は第1実施形態に係る着色装置20を備えた加工装置100の概略構成を示す図であり、
図2は、加工装置100の概略構成を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、第1実施形態に係る加工装置100は、加工装置本体10と、着色装置20と、制御装置30とを備えている。この他にも、加工装置100は、歯、陰型又は陽型等の画像を取得するためのデジタルカメラやデジタルビデオカメラ、3Dスキャナ等の計測装置や、補綴物Pを焼成するための焼成装置等を備えていてもよい。
【0014】
制御装置30は、加工装置100の動作全体を制御するが、加工装置本体10及び着色装置20の各々の制御装置としても機能する。また、制御装置30は、被加工物Bを加工、着色に用いる三次元データ及び着色データを設計する設計装置として機能させることもできる。制御装置30の詳細については後述する。
【0015】
本明細書では、
図1に示すように、XYZ直交座標のX軸、Y軸及びZ軸を設定する。
図1における左右方向をX軸方向、前後方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向として明細書中の説明を行う。X軸方向は着色装置20の主走査方向に対応し、Y軸方向は着色装置20の副走査方向に対応する。
【0016】
加工装置本体10と着色装置20とは、カバー部材1aによって被覆された筐体1内に並列に設けられている。筐体1内には、加工装置本体10によって被加工物Bを切削加工する加工室2と、この加工によって得られた補綴物Pを着色装置20によって着色する着色室3とが設けられている。各々には被加工物Bや補綴物Pを出し入れするための扉体4,5が開閉自在に設けられている。
【0017】
加工装置本体10は、被加工物Bを切削加工して歯冠、ブリッジ、インプラント等の歯科用補綴物Pを作製する装置である(
図3A参照)。加工装置本体10は、切削部11と、被加工物保持部12と、切削部駆動部13及び保持部駆動部14を有する駆動部15と、制御装置30と、を備えて構成される。また、加工装置本体10は、加工空間2a内の粉塵を集めて除去するための集塵管や集塵装置等を備えている。本実施形態では、加工装置本体10として、これらの構成を備えた公知の適宜のCAD/CAM加工装置を適用できる。
【0018】
切削部11は、加工室2の加工空間2a内に設けられ、歯科用補綴物Pの原材料である被加工物Bを切削加工して補綴物Pを作製する。切削部11は、切削部駆動部13によって、X軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。切削部11はスピンドル11aと、このスピンドル11aに着脱自在に設けられボールエンドミル等からなる工具11bとから構成される。スピンドル11aは、切削部駆動部13によって、Z軸を回転軸として回転される。以下、Z軸等を回転軸として回転することを、「Z軸周りに回転」等という。
【0019】
被加工物保持部12は、加工室2の加工空間2a内に設けられ、被加工物Bを着脱自在に保持する。被加工物Bの三次元加工を可能とするため、被加工物保持部12は、保持部駆動部14によって、Y軸方向に移動可能で、X軸周りに回転可能となっている。
【0020】
切削部11の各部と被加工物保持部12とが、上述のような方向に移動が可能となっている。このことから、切削部11の工具11bと、被加工物保持部12に保持された被加工物Bとの相対的な位置関係は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の任意の方向で変化可能となる。よって、加工装置本体10は、被加工物Bの三次元加工が可能となる。
【0021】
切削部駆動部13は、制御装置30の制御部31の制御により、切削部11をX軸方向及びZ軸方向へ移動させるとともに、Z軸周りに回転させる。このため、切削部駆動部13は、より詳細にはX軸方向駆動機構、Z軸方向駆動機構、Z軸回転駆動機構等を備えて構成される。
【0022】
保持部駆動部14は、制御装置30の制御部31の制御により、被加工物保持部12をY軸方向に移動させるとともに、X軸周りに回転させる。このため、保持部駆動部14は、より詳細にはY軸方向駆動機構、X軸回転駆動機構等を備えて構成される。
【0023】
切削部駆動部13及び保持部駆動部14は、ボールねじ機構、ラック・アンド・ピニオン機構、クランク・スライダ機構、空圧や水圧や油圧によって直動する流体シリンダ、スピンドルモーター、電動モータ等から構成できる。
【0024】
図3Aは、被加工物Bと、この被加工物Bが加工されてなる補綴物Pの一例を図示したものである。被加工物Bとして、例えば、略立方体形状のブロック体が用いられるが、これに限定されるものではなく、公知の何れのものを用いてもよい。被加工物Bの一面には、被加工物保持部12に被加工物Bを取り付けるための金属製の取付部材6が接着固定されている。この取付部材6は、台座6aと、この台座6aから突出するピン6bとが設けられている。
【0025】
被加工物B及び補綴物Pの材料(素材)は、歯冠、ブリッジ、インプラント等の歯科材料として用いられるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、焼結後、補綴物として完成した際に生体親和性及び強度に優れる、セラミックス系多孔体が好適に用いられ、この中でも、生体親和性及び強度がより高く審美性にも優れていることから、ジルコニア多孔体が最も好適に用いられる。
【0026】
着色装置20は、加工装置本体10で加工された補綴物Pに、インクジェット方式により着色を施す装置である。着色装置20は、ノズル21を有するインクジェットヘッド22と、補綴物保持部23と、ヘッド駆動部24及び保持部駆動部25を有する駆動部26と、制御装置30と、を主に備えて構成される。
【0027】
インクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)22は、着色室3の着色空間3a内に設けられ、着色インクのインク滴を吐出する少なくとも1つのノズル21を有している。ヘッド22には、インクタンク等のインク供給源から着色インクが供給される。ノズル21は、着色インクを1色のみ用いる場合は、1つ設ければよいが、ノズル21を複数設け、複数の色の着色インクを吐出できるようにすれば、色分けやグラデーションをつけて着色でき、補綴物Pの色合いを天然歯により近いものにできる。
【0028】
ヘッド22には、ノズル21からインク滴を吐出させるための吐出機構が設けられている。この吐出機構での吐出方式は、特に限定されるものではなく、ピエゾ方式、サーマル方式等、インクジェットプリンタに一般的に用いられる方式を適用できる。
【0029】
ヘッド22は、主走査方向(本明細書ではX軸方向)に沿って配置されたガイドレール16に取り付けられ、ヘッド駆動部24によって少なくともとも主走査方向(X軸方向)に移動可能である。また、ヘッド22は、主走査方向に交差する副走査方向(本明細書ではY軸方向)に移動可能であってもよいし、さらに、これらの方向に交差する方向(本明細書でZ軸方向)に移動可能であってもよい。
【0030】
本実施形態では、ヘッド22は、ヘッド駆動部24によってX軸方向及びY軸方向に移動可能であり、X軸方向に往復移動しながらY軸方向にも移動する構成であるが、Y軸方向に往復移動しながらX軸方向に移動する構成であってもよい。
【0031】
なお、移動する部材がヘッド22に限定されるものではなく、補綴物保持部23をこれらの方向に移動可能としてもよい。ヘッド22と補綴物保持部23とが相対的にX軸、Y軸及びZ軸方向の少なくとも何れかの方向、より好ましくはX軸、Y軸の二方向、さらに好ましくはX軸、Y軸及びZ軸の三方向に移動可能であればよい。
【0032】
着色インクは、歯科用補綴物Pの着色に用いられる着色インクであって、インクジェットプリンタで使用できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、補綴物Pの材料として、ジルコニア等のセラミックス系多孔体を用いる場合は、これらの仮焼体(半焼結体)に塗布し、焼成によって発色するような着色インクを用いることが好ましい。着色インクは、補綴物Pの材料や性質に応じて、適切なものを用いることができる。
【0033】
セラミックス系多孔体の着色に好適なものとするため、着色インクは、具体的には、例えばTi(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Pr(プラセオジム)、Eu(ユウロピウム)、Tb(テルビウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、又はこれらの酸化物の少なくとも何れかを含むことが望ましい。若しくは、着色インクは、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Pr(プラセオジム)、Eu(ユウロピウム)、Tb(テルビウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Si(ケイ素)、又はこれらの酸化物の少なくとも何れかを含むことが望ましい。これらの成分を含むことで、焼成後の補綴物Pは、天然歯の色合いにより近い色で発色するものとなる。着色インクは、着色インクの色、塗布する補綴物Pの材料、性質、発色方法等に応じて、これらの成分の中から選択された1つの成分を含んでいてもよいし、2以上の成分を含んでいてもよい。また、着色インクは、これらの成分を含むものに限定されるものでもなく、他の成分を含んでいてもよい。また、着色インクは、この他にも溶媒、添加剤等、インクジェット式の着色装置20の着色インクとして必要な成分を含んでいる。
【0034】
また、従来のように歯科技工士等の作業者が手作業によって着色インクを塗布する場合には、作業者が視認によって塗布状態を把握できるように、着色インクは、焼成によって消失する色材を含んでいた。これに対して、本実施形態では、着色装置20によって補綴物Pを自動で着色するため、このような色材を含有させる必要はない。しかし、このような色材を含んでいてもよく、例えば、補綴物Pが着色前のものであるか着色後のものであるかを、作業者が容易に確認できる。
図3Bに、補綴物Pの種類や形状に応じた塗分けパターンの例を示す。
【0035】
また、着色インクの種類は、上述のような成分を含むものであれば、特に限定されるものではなく、水性インクであってもよいし、油性インクであってもよいし、溶剤系インクであってもよい。この中でも、セラミック系多孔体への浸透性や焼成炉への負担の観点から水性インクが最適である。
【0036】
補綴物保持部23は、着色室3の着色空間3a内に設けられ、補綴物Pを着脱自在に保持する。補綴物Pには、加工装置本体10の被加工物保持部12への取付部材6が接続されているため、この取付部材6を利用すべく、補綴物保持部23には、台座6a及びピン6bを挿入して固定する孔部23aが設けられている。この孔部23aへの台座6a及びピン6bの挿入により、補綴物保持部23によって補綴物Pが固定され、不測の脱落やガタツキ等が抑制される。
【0037】
ところで、補綴物Pには、口腔内に装着したときに外部から視認される面、例えば、咬合面や頬側面(表面)に着色が施されればよく、審美性が担保される。より好ましくは補綴物Pの外縁や裏面等、より広い範囲に着色を施すことができれば、審美性をより向上できる。そこで、本実施形態では、補綴物Pのより広い範囲に着色を施すべく、保持部駆動部25が、補綴物保持部23をX軸周りに回転可能な構成としたものである。
【0038】
ヘッド駆動部24は、
図2に示すように、ヘッド22をX軸方向へ移動させるX軸方向駆動部24aと、ヘッド22をY軸方向へ移動させるY軸方向駆動部24bと、を備えている。保持部駆動部25は、補綴物保持部23をX軸周りに回転させるX軸回転駆動部25aを備えている。ヘッド駆動部24は、この他にも、ヘッド22又は補綴物保持部23をZ軸方向へ移動するZ軸方向駆動部等を備えていてもよく、立体的な補綴物Pへの着色を、より精巧に行える。
【0039】
制御装置30は、加工装置本体10及び着色装置20の制御を含む、加工装置100全体の動作を制御する。制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク装置やフラッシュメモリ等からなる不揮発性ストレージ、通信インタフェース、外部記録媒体インタフェース等を備えたパーソナルコンピュータ(PC)や、マイコン等を主体として構成される。
【0040】
また、制御装置30は、表示部33や入力部34等を備えている。表示部33は、液晶ディスプレイ等からなり、加工装置本体10、着色装置20の操作画面等が表示される。入力部34は、液晶ディスプレイ上に搭載されたタッチパネル、キーボード、マウス、操作ボタン等からなり、制御装置30に対して各種操作指示等を入力できる。
【0041】
制御装置30は、機能的には制御部31と記憶部32とを有している。制御部31は、CPU等から構成され、記憶部32は、RAM、ROM、不揮発性ストレージから構成される。記憶部32には、外部記録媒体インタフェースを介してアクセス可能な外部記録媒体も含まれる。外部記録媒体としては、SDカード、USBメモリ、CD、DVD等が挙げられる。CPUは、RAMをワークエリアとして、ROM等の記憶部32に記憶されたオペレーティングシステムやその他のプログラムを読み出し、実行することにより加工装置100全体の動作を制御する。
【0042】
記憶部32には、上記各種プログラムやプログラムが用いるパラメータ等が記憶される。さらに記憶部32には、加工装置本体10での被加工物Bの加工や着色装置20での補綴物Pの着色のための三次元データ、着色データ等が記憶されている。
【0043】
この三次元データに基づいて、制御部31が加工装置本体10を制御し、駆動部15を駆動して切削部11及び被加工物保持部12を移動又は回転させ、切削部11を駆動して被加工物Bを切削加工させる。さらに、この三次元データ及び着色データに基づいて、制御部31が着色装置20を制御し、駆動部26を駆動してヘッド22や補綴物保持部23を移動又は回転させ、ノズル21からインク滴を吐出させて補綴物Pを着色させる。
【0044】
三次元データは、加工や着色対象の補綴物Pの三次元形状を表す三次元座標アドレスである。三次元データは、外部の設計装置等で生成され、SDカード等の外部記録媒体を用いて、記憶部32に格納される。また、加工装置100は、有線又は無線の通信手段を介して接続された設計装置から、三次元データを取得し、記憶部32に格納してもよい。
【0045】
また、他の既存の加工装置で加工済みの補綴物Pに対して、着色装置20での着色のみを行う場合には、この既存の加工装置の三次元データを利用することもできる。この場合も、外部記録媒体や通信手段を用いて既存の加工装置から三次元データを取得し、記憶部32に格納できる。
【0046】
また、制御装置30に設計装置としての機能を持たせ、制御装置30が三次元データを生成してもよい。この場合、例えば、3Dスキャナ等の測定装置で患者の歯、陰型又は陽型をスキャンし、スキャンデータに基づいて、作業者が補綴物Pの三次元形状を設計する。制御部31は、この設計に基づいて三次元データを生成して記憶部32に記憶する。三次元データの生成は、汎用ソフト等を用いて公知の手法を用いて実行できる。
【0047】
着色データは、色情報と、歯の形状や部位(例えば、上下の中切歯、側切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯、等)ごとの塗分けパターン(グラデーションパターン)等が対応づけられて記憶されている。色情報は、RGB、CMYK値に代表される原色数値、及びこの数値に対応する色データであってもよいし、シェード番号及びシェード番号に対応する色データであってもよい。また、色情報は、色データごとに付された符号の組み合わせであってもよい。
【0048】
また、形状の異なる複数の補綴物の三次元の基準データ及び各基準データに対応付けられた着色パターンを記憶部32に記憶しておき、制御部31が補綴物Pの三次元データと基準データとを比較して、対応する着色データを自動的に選択してもよい。また、作業者が入力部34から色番号を入力し、この色番号に基づいて、制御部31が記憶部32から着色データを選択してもよい。さらには、設計装置としての制御装置30を用いて、作業者が補綴物Pの三次元形状を設計する際に、色や塗分けパターンも設計し、これに基づいて制御部31が着色データを生成してもよい。また、カメラ等で撮影した患者の歯の画像を制御部31が解析して着色データを選択してもよい。
【0049】
以下、上述のような構成の加工装置100で実行される加工処理の動作の一例を、
図4のフローチャートを参照しながら説明する。加工処理は、加工装置本体10で実行される切削加工処理(切削加工方法)と、着色装置20で実行される着色処理(着色方法)とを含む。切削加工処理と着色処理とは、連続して行ってもよいし、何れか一方のみを単独で行ってもよい。以下では、加工装置100が、切削加工処理と着色処理とを連続して行う場合について説明する。
【0050】
作業者が、加工装置100の電源を入れ、加工装置本体10の被加工物保持部12に被加工物Bを装着し、扉体4を閉じ、入力部34から切削加工開始指示を行う。この切削加工開始指示を、加工装置本体10が取得することで、切削加工処理が開始される。
【0051】
まず、ステップS1で、制御部31が加工のための三次元データを記憶部32から取得する。次いで、ステップS2で、制御部31は三次元データに基づいて、切削部駆動部13を駆動し、切削部11を移動しつつスピンドル11aを回転させる。また、ステップS3で、制御部31が必要に応じて保持部駆動部14を駆動し、被加工物保持部12を移動及び回転させる。すると、三次元データに従って切削部11が移動しつつ、被加工物Bを切削加工する(ステップS4)。以上により、所望の形状の補綴物Pが作製される。
【0052】
そして、作業者は、ステップS4で得られた補綴物Pを、加工装置本体10から取り出し、着色装置20の補綴物保持部23に装着し、入力部34から着色開始指示を入力する。着色装置20は、この着色開始指示を受けて着色処理を開始する。まずステップS5で、制御部31が、三次元データと着色データとを記憶部32等から取得する。着色データは、予め決められていてもよいし、作業者が入力部34から入力した色番号等に基づいて記憶部32から選択して取得してもよい。
【0053】
次に、ステップS6で、制御部31は三次元データに基づいて、ヘッド駆動部24を駆動し、ヘッド22をX軸方向、Y軸方向に移動させる。また、ステップS7で、制御部31は、必要に応じて保持部駆動部25を駆動し、補綴物保持部23を移動及び回転させる。そして、ステップS8で、制御部31は、ヘッド駆動部24でヘッド22の位置を調整しつつ(さらに必要に応じて保持部駆動部25により補綴物保持部23を回転しつつ)、着色データに基づいてヘッド22を制御し、ノズル21からインク滴を吐出させて、補綴物Pを着色する。以上の動作により、補綴物Pは、所望の色及び塗分けパターンで着色される。
【0054】
その後、焼成装置が補綴物Pを焼成して焼結体とすることで、天然色により近い色合いの補綴物Pを取得できる。
【0055】
以上説明したように、第1実施形態に係る着色装置20及びこの着色装置20を備えた加工装置100は、制御部31の制御によって駆動部26を駆動し、インクジェットヘッド22又は補綴物保持部23を、XYZ直交座標系において所定方向(例えば、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の少なくとも何れかの方向)へ移動させつつ、インクジェットヘッド22を制御してノズル21からインク滴を吐出させる。これにより、加工装置100は、立体的な補綴物Pに対して、所望の色及び塗分けパターンで着色する。また、人手による着色に比べて、塗布ムラや色調のばらつきを抑制して、より均一で、安定した色調での着色が可能となる。したがって、歯科用補綴物Pを、より簡便かつより短時間で効率的に、しかも仕上がりよく着色できる着色装置20及び加工装置100及び着色方法を提供できる。
【0056】
また、第1実施形態では、加工装置本体10や他の既存の加工装置は、加工に用いる三次元データを、着色装置20の着色用の三次元データとして援用している。これにより、補綴物Pの加工時と同一の座標系によって着色が可能となり、加工形状に応じた適切でより正確な着色が可能となるとともに、着色作業をより効率的に行うことが可能となる。
【0057】
なお、上記第1実施形態では、加工装置本体10と着色装置20とは、並列に設けられ、加工空間2aと着色空間3aとを別空間としているが、この構成に限定されるものではない。例えば、被加工物Bの加工と補綴物Pの着色が、一つの空間で行われる構成としてもよい。すなわち、この空間内に切削部11とヘッド22とを各々、又は付け替え可能に配置し、被加工物保持部12を、補綴物保持部23としても使用する。これにより、保持部及び保持部駆動部を1つにできる。この保持部で保持した被加工物Bを切削部11で切削加工して補綴物Pを作製し、粉塵の処理等を行った後に、保持部で補綴物Pを保持した状態で、続けてヘッド22を用いて着色を行うことができ、着脱の手間を省ける。また、切削部11とヘッド22の駆動部も、一部又は全部を兼用する構成とすることも可能である。このような構成により、着色装置を備えた加工装置の部品点数や容積を削減して、コンパクト化や低コスト化、さらには作業の効率化を図ることができる。
【0058】
または、第1実施形態の加工装置100において、保持部が加工室2と着色室3とを自在に出入りできる構成としてもよい。この構成により、被加工物Bは、加工室2の加工空間2aで切削加工され、その後、得られた補綴物Pは、保持部によって加工室2から着色室3へ移動され、その着色空間3a内で補綴物Pは着色される。これにより、作業者による補綴物Pの出し入れの手間を省いて、作業時間の短縮化や作業の簡易化が図られる。
【0059】
また、第1実施形態では、着色装置20が加工装置100に組み込まれているが、この構成に限定されるものではない。例えば、第1実施形態のような構成の着色装置20を単体で製造し、提供してもよい。これにより、この着色装置20は、既存の加工装置で加工した補綴物Pを着色できる。よって、ユーザは加工装置として導入済のものを継続して使用し、着色装置20のみを新たに導入すればよく、導入コストの削減等が図られる。
【0060】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態の着色装置20Aについて、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
図5は、第2実施形態に係る着色装置20Aの主要部の概略構成を示す図であり、
図6は着色装置20Aの概略構成を示すブロック図である。
【0061】
第2実施形態に係る着色装置20Aは、所定の加工装置10’で加工された補綴物Pに、インクジェット方式により着色を施す装置である。
図5及び
図6に示すように、第2実施形態に係る着色装置20Aは、ノズル21を有するインクジェットヘッド(ヘッド)22と、補綴物保持部23と、ヘッド駆動部24及び保持部駆動部25を有する駆動部26と、制御装置30と、を主に備えて構成される。制御装置30は、制御部31と記憶部32とを有して構成され、さらに表示部33と入力部34とが設けられている。
【0062】
ノズル21を有するヘッド22は、着色装置20Aの着色空間3a内に設けられている。着色インク及びノズル21からのインク滴の吐出機構は、第1実施形態と同様のものを用いることができる。
【0063】
ヘッド駆動部24は、ヘッド22をZ軸方向に移動させるZ軸方向駆動部24cを備えている。このZ軸方向駆動部24cは、
図5に示すように、ガイドレール40、このガイドレール40上を移動自在に設けられたスライダ41及びスライダ41を移動させる駆動モータ等を備えている。スライダ41に、ヘッド22が固定されている。この構成では、Z軸方向駆動部24cが、ヘッド22をZ軸方向に移動させることで、ヘッド22の高さを自在に調整できる。
【0064】
保持部駆動部25は、補綴物保持部23を、X軸方向及びY軸方向へ移動させるXY軸方向駆動部25bと、補綴物保持部23をX軸周り、Y軸周り及びZ軸周りに回転させるXYZ軸回転駆動部25cと、を備えている。
【0065】
XY軸方向駆動部25bは、X軸方向に延びる第1のガイドレール50、Y軸方向に延びる第2のガイドレール51、これら第1、第2のガイドレール50,51上を移動自在に設けられたスライダ52及びスライダ52を移動させる駆動モータ等を備えている。XY軸方向駆動部25bがX軸方向及びY軸方向に各々延びる第1、第2のガイドレール50,51を有していることにより、補綴物保持部23をXYの二次元方向に移動できる。
【0066】
このスライダ52上に、XYZ軸回転駆動部25cが固定されている。このXYZ軸回転駆動部25cは、スライダ52に固定された固定部60と、この固定部60にZ軸(第3軸A3)周りに回転自在に設けられた第1のアーム部61と、この第1のアーム部61に、Z軸と交差する第1軸A1周りに回転自在に設けられた第2のアーム部62と、この第2のアーム部62に第1軸A1周りに回転自在に設けられた第3のアーム部63と、この第3のアーム部63に、第1軸A1と交差する第2軸A2周りに回転自在に設けられた第4のアーム部64と、を有している。この第4のアーム部64の先端に、補綴物保持部23が固定され、第4のアーム部64とともに第2軸A2周りに回転自在となっている。
【0067】
なお、
図5に示すようなXYZ軸回転駆動部25cの基本姿勢においては、第1軸A1はX軸と略一致し、第2軸A2はY軸と略一致する。これに対して、第1のアーム部61のZ軸周りの回転や第3のアーム部63の第1軸A1周りの回転により、第1軸A1及び第2軸A2はX軸又はY軸と不一致となる。すると、Z軸周りでの回転位置によっては、第1軸A1がY軸と略一致し、第2軸A2がX軸と略一致することがある。さらには、第1軸A1、第2軸A2がX軸、Y軸、Z軸と交差することもある。何れの場合でも、XYZ軸回転駆動部25cにより、補綴物保持部23を、Z軸と、このZ軸とは異なる第1軸A1及び第2軸A2との、3つの軸周りに回転可能である。よって、XYZ軸回転駆動部25cは、補綴物保持部23で保持する補綴物Pをノズル21に対して所望の位置及び姿勢で配置できる。
【0068】
上述のような構成の第2実施形態に係る着色装置20Aでも、上記第1実施形態の着色装置20と同様に、基本的には
図4に示すステップS5~S8の処理を実行することで、補綴物Pへの着色が行える。
【0069】
まず、作業者は、補綴物保持部23に着色対象の補綴物Pを装着して、入力部34から着色開始指示を入力する。この着色開始指示を受けて、着色装置20Aが着色処理を開始し、ステップS5で、制御部31が記憶部32と、外部記録媒体、外部のPC(設計装置)又は既存の加工装置10’とから、三次元データ及び着色データを取得する。次のステップS6で、制御部31は、三次元データに基づいて、必要に応じてヘッド駆動部24のZ軸方向駆動部24cを駆動してヘッド22の高さ調整をする。
【0070】
次のステップS7で、制御部31が保持部駆動部25のXY軸方向駆動部25bを駆動して、第1、第2のガイドレール50,51上でスライダ52を移動させ、スライダ52上のXYZ軸回転駆動部25c及び補綴物保持部23のX軸方向及びY軸方向の位置決めをする。また、制御部31は、XYZ軸回転駆動部25cを駆動して、第1のアーム部61のZ軸周りの回転、第2、第3のアーム部62,63の第1軸A1周りの回転、第4のアーム部64の第2軸A2周りの回転を適宜行う。これにより、ノズル21に臨ませて、補綴物保持部23で保持した補綴物Pが、XYZ空間の所望の位置及び所望の姿勢(角度)で配置される。
【0071】
そして、ステップS8で、制御部31は、XYZ軸回転駆動部25cで、ノズル21に対する補綴物Pの位置及び姿勢を適宜変更しつつ、着色データに基づいてヘッド22を制御して、ノズル21からインク滴を吐出させて、補綴物Pを着色する。
【0072】
以上説明したように、第2実施形態の着色装置20Aは、第1実施形態と同様に、三次元データ及び着色データに基づいて、インクジェットヘッド22によって、補綴物Pを所望の色及び塗分けパターンで、より均一かつ安定した色調で着色できる。よって、着色装置20Aは、補綴物Pを、より簡便かつより短時間で効率的に、しかも仕上がりよく着色することが可能となる。
【0073】
また、第2実施形態では、XYZ軸回転駆動部25cが、Z軸(第3軸A3)周り、第1軸A1周り及び第2軸A2周りに回転自在とし、補綴物Pを、XYZ空間の所望の位置に所望の姿勢で配置可能としている。そのため、補綴物Pの咬合面や頬側面だけでなく、より広い範囲に立体的に着色することが可能となり、着色精度や仕上がりをより向上でき、より審美性の高い補綴物Pが得られる。
【0074】
また、第2実施形態の着色装置20Aは、加工装置と別個の単体の装置として提供されているが、この着色装置20Aを組み込んで加工装置を構成してもよい。例えば、第1実施形態の加工装置100は、着色装置20に代えて第2実施形態に係る着色装置20Aが組み込まれていてもよい。このような加工装置によっても、加工及び着色を効率的に行って、仕上がりのよい補綴物Pが得られる。
【0075】
以上、本開示の実施形態を図面により詳述してきたが、上記各実施形態は本開示の例示にしか過ぎないものであり、本開示は上記各実施形態の構成にのみ限定されるものではない。本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本開示に含まれることは勿論である。
【0076】
例えば、着色装置20,20Aは、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、比色計等の測色装置を備えていてもよい。この測色装置によって患者の天然歯の色を取得し、取得した色に基づいて、着色インクの色、着色パターンを制御部31が決定し、補綴物Pの着色を行うようにする。このようにすれば、設計の手間を省くとともに、天然歯に近い色合いでの補綴物Pの着色が可能となり、審美性が向上する。
【0077】
また、制御装置30は、人工知能(AI;Artificial Intelligence)を搭載していてもよい。例えば、AIによって三次元データ及び着色データの設計を行うようにすれば、より迅速かつより高精細なデータが得られ、天然歯の形状や色合いにより近く、より審美性の高い補綴物Pが得られる。
【0078】
さらに、着色装置20,20Aが別の機能を有する装置に備わっていてもよい。例えば、本開示は、前述の歯科用補綴物の着色装置を備えた乾燥装置を含む。該乾燥装置は、着色装置と別個の単体の装置として提供されていても、着色装置を組み込んで構成してもよい。また、このような着色装置と乾燥装置との組み合わせを他の装置(例えば、加工装置)に組み込んでもよい。歯科用補綴物を着色装置で着色した後、作業者が使用したインクの使用量に対して、インクの溶媒量を算出したうえで、該乾燥装置を用いることにより、最適な乾燥時間による効率的な乾燥作業が可能となる。該乾燥装置が制御部をさらに備える場合には、制御部がインクの使用量や着色に要した作業時間に応じて、自動的に最適な乾燥時間を算出することで、最適な乾燥時間による効率的な乾燥作業が可能となる。該乾燥装置の機構は特に限定されるものではなく、電熱ヒーター式であっても、温風式であっても、IH式であっても、マイクロウェーブ式であってもよい。
【0079】
該乾燥装置を設けた加工装置の実施形態の一例を、
図7に示す。
図7に示す加工装置100Aは、第1実施形態の変形例であり、第1実施形態の着色装置20を備えた加工装置100に、さらに乾燥装置70が備わる構成としたものである。このため、第1実施形態と同様の構成については、説明を省略する。該乾燥装置70は、扉体7bを有する乾燥室7の乾燥空間7aにおいて、補綴物Pを着脱自在に保持する補綴物保持部71と、補綴物Pを乾燥するための熱源72とを備える。前述したように、補綴物Pには取付部材6が接続されているため、この取付部材6を利用すべく、補綴物保持部71には、台座6a及びピン6bを挿入して固定する孔部71aが設けられている。この孔部71aへの台座6a及びピン6bの挿入により、補綴物保持部71によって補綴物Pが固定され、乾燥中の不測の脱落が抑制される。なお、加工装置100Aは、着色装置20に代えて、第2実施形態の着色装置20Aを備えるものでもよい。
【0080】
また、本開示は、前述の歯科用補綴物の着色装置を備えた焼成装置を含む。該焼成装置は、着色装置と別個の単体の装置として提供されていても、着色装置を組み込んで構成してもよい。また、このような着色装置と焼成装置との組み合わせを他の装置(例えば、加工装置)に組み込んでもよい。着色装置で歯科用補綴物を着色した後、作業者が補綴物のサイズやインクの使用量に対して、最適な焼成スケジュールを算出したうえで、該焼成装置を用いることにより、効率的な焼成作業が可能となる。該焼成装置が制御部をさらに備える場合には、制御部がインクの使用量や着色に要した作業時間に応じて、自動的に最適な焼成スケジュールを算出することで、最適な焼成スケジュールによる効率的な焼成作業が可能となる。該焼成装置の機構は特に限定されるものではなく、電熱ヒーター式であっても、IH式であっても、マイクロウェーブ式であってもよい。
【0081】
該焼成装置を設けた加工装置の実施形態の一例を、
図8に示す。
図8に示す加工装置100Bは、第1実施形態の他の変形例であり、第1実施形態の着色装置20を備えた加工装置100に、さらに焼成装置80が備わる構成としたものである。該焼成装置80は、扉体8bを有する焼成室8の焼成空間8aにおいて、補綴物Pを着脱自在に保持する補綴物保持部81と、補綴物Pを焼成するための熱源82とを備える。前述したように、補綴物Pには取付部材6が接続されているため、この取付部材6を利用すべく、補綴物保持部81には、台座6a及びピン6bを挿入して固定する孔部81aが設けられている。この孔部81aへの台座6a及びピン6bの挿入により、補綴物保持部81によって補綴物Pが固定され、焼成中の不測の脱落が抑制される。なお、加工装置100Bは、着色装置20に代えて、第2実施形態の着色装置20Aを備えるものでもよい。
【関連出願への相互参照】
【0082】
本出願は、2019年3月20日に日本国特許庁に出願された特願2019-053329に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。