(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】複雑に設計された構造の3D印刷のためのセメントベースの直接インク
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20221129BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221129BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20221129BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20221129BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20221129BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20221129BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20221129BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20221129BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20221129BHJP
C09K 8/46 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C04B28/04
B33Y10/00
B33Y70/10
B33Y40/00
C04B14/10 B
C04B24/26 B
C04B24/02
C04B24/38 D
B28B1/30
C09K8/46
(21)【出願番号】P 2021518069
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 US2019055039
(87)【国際公開番号】W WO2020076724
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】510166102
【氏名又は名称】ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM MARSH RICE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】6100 Main Street,Houston,TX 77005, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】ラーマン,ムハンマド,エム.
(72)【発明者】
【氏名】サジャディ,セイエド,モハンマド
(72)【発明者】
【氏名】クマール,アショク
(72)【発明者】
【氏名】ブール,ピーター,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】テムリッツ,カール
(72)【発明者】
【氏名】アジャヤン,ピューリッケル,エム.
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024979(JP,A)
【文献】特開2008-230865(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0258256(US,A1)
【文献】特表2014-509726(JP,A)
【文献】特開2005-015333(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0177188(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03260258(EP,A1)
【文献】国際公開第2016/002688(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/108865(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104310918(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105384416(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106830843(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107311561(CN,A)
【文献】YIFEI Jら ,Self-Supporting Nanoclay as Internal Scaffold Material for Direct Printing of Soft Hydrogel Composite Structures in Air,ACS Applied Materials & Interfaces,2017年,Vol.9 No.20,p.17456-17465,doi:10.1021/acsami.7b03613
【文献】長縄成実,最新の坑井掘削技術(その11),石油開発時報,2008年,No.158(08/08),P.43-50,https://www.gipc.akita-u.ac.jp/~geosys/%e6%9c%80%e6%96%b0%e3%81%ae%e5%9d%91%e4%ba%95%e6%8e%98%e5%89%8a%e6%8a%80%e8%a1%93/0808s.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,40/00-40/06,103/00-111/94
B33Y 10/00,40/00,70/10
B28B 1/30
C09K 8/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタを用いて印刷可能なセメント組成物であって、
米国石油協会(API)クラスGセメントと、
親水性ベントナイト
を含むナノクレイと、
ポリカルボキシレートエーテルと、
ヒドロキシエチルセルロースと、
2-エチル-1-ヘキサノールと、
を含む、印刷可能なセメント組成物。
【請求項2】
水を含む、請求項1に記載の印刷可能なセメント組成物。
【請求項3】
3Dプリンタを用いて印刷可能なセメント組成物であって、
米国石油協会(API)クラスGセメントと、
セメントの4重量%~8重量%の量のナノクレイと、
セメントの0.75重量%~1重量%の量の超可塑剤と、
ヒドロキシエチルセルロースと、
消泡剤と、
からなる、印刷可能なセメント組成物。
【請求項4】
前記ナノクレイが親水性ベントナイトを含む、請求項
3に記載の印刷可能なセメント組成物。
【請求項5】
前記超可塑剤がポリカルボキシレートエーテルを含む、請求項
3または
4に記載の印刷可能なセメント組成物。
【請求項6】
前記消泡剤が2-エチル-1-ヘキサノールを含む、請求項3、
4または
5に記載の印刷可能なセメント組成物。
【請求項7】
水を含む、請求項3、4、
5または
6に記載の印刷可能なセメント組成物。
【請求項8】
3D構造を生成するための方法であって、
3Dプリンタを用いて、印刷可能なセメント組成物を用いて前記3D構造の1つ以上の層を印刷すること
を含み、前記印刷可能なセメント組成物が、
米国石油協会(API)クラスGセメントと、
親水性ベントナイト
を含むナノクレイと、
ポリカルボキシレートエーテルと、
ヒドロキシエチルセルロースと、
2-エチル-1-ヘキサノールと
、を含む
ものである、
方法。
【請求項9】
前記3D構造がハニカム構造である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記3D構造が管状である、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
前記3Dプリンタは、直接インク書き込み(DIW)プリンタを含む、請求項
8、9または
10に記載の方法。
【請求項12】
前記印刷可能なセメント組成物が水を含む、請求項
8、9、1
0または
11に記載の方法。
【請求項13】
3D構造を生成するための方法であって、
3Dプリンタを用いて、印刷可能なセメント組成物を用いて前記3D構造の1つ以上の層を印刷すること
を含み、前記印刷可能なセメント組成物が、
米国石油協会(API)クラスGセメントと、
セメントの4重量%~8重量%の量のナノクレイと、
セメントの0.75重量%~1重量%の量の超可塑剤と、
ヒドロキシエチルセルロースと、
消泡剤と、
からなるものである、
方法。
【請求項14】
前記ナノクレイが親水性ベントナイトを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記超可塑剤がポリカルボキシレートエーテルを含む、請求項
13または
14に記載の方法。
【請求項16】
前記消泡剤が2-エチル-1-ヘキサノールを含む、請求項
13、14または
15に記載の方法。
【請求項17】
前記3D構造がハニカム構造である、請求項
13、1
4、15または
16に記載の方法。
【請求項18】
前記3D構造が管状である、請求項
13、14、1
5または
16に記載の方法。
【請求項19】
前記3Dプリンタが直接インク書き込み(DIW)プリンタを含む、請求項
13、14、15、16、1
7または1
8に記載の方法。
【請求項20】
前記印刷可能なセメント組成物が水を含む、請求項
13、14、15、16、17、1
8または1
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月8日に出願された米国仮出願第62/742,706号、「複雑に設計された構造の3D印刷のためのセメントベースの直接インク」から優先権を主張するものであり、米国特許実務の目的のために、本出願はその全体を引用することにより、仮出願の内容を組み込んでいる。
【0002】
本開示の実施形態は一般に、付加製造(3次元(3D)印刷など)に関し、より具体的には、複雑に設計された構造の付加製造のためのセメントベースの直接インクに関する。
【背景技術】
【0003】
付加製造は3D印刷を含むか、または3D印刷と呼ばれることもあるが、様々な物体および構造を構築するために使用される。3D印刷の採用は、より高い解像度、新しいソース材料、および複雑さが増す物体および構造の製造に関連する技術的課題をもたらした。異なる用途への3D印刷の拡大は、これらの課題をさらに増大させた。これらの用途、および類似の用途において、様々な幾何学的形状および異なる機能を有する複雑な設計構造の高解像度3D印刷は、既存の技術を使用すると困難であり得る。例えば、3D印刷のための既存の材料(インクなど)はこれらの構造を作成することができない場合があり、または所望の用途で使用するための所望の幾何学的形状および機械的特性を有する構造を作成することができない場合がある。
【発明の概要】
【0004】
3D印刷による合成材料のパターン形成は、機械的特性を高めるための組織化された設計構造を有する材料を創り出し、大量生産する可能性を提供する。しかしながら、合成材料における強度および靭性は、しばしば相互排他的な特性である。3D印刷によって提供される精度は、別の方法では達成不可能な特徴を有する合成材料の設計を可能にする。
【0005】
多機能および多材料構造を3D印刷するために、付加製造のいくつかの技術が開発されてきた。そのような技術には、選択的レーザー焼結、インクジェット印刷熱溶解積層法、光造形法、および3D描画が含まれる。直接インク書き込み(DIW)は、複雑な構造の設計において比較的大幅な制御および柔軟性を提供し、セメントなどのコロイド材料を使用する高解像度材料パターン化を可能にする押出しベースの技術である。
【0006】
したがって、いくつかの用途では、セメントを使用して複雑な設計構造を形成することが望ましい場合がある。しかしながら、周囲条件では、セメントが時間の経過と共に粒子の詰まりや固化を受け、セメントによる高解像度の3D印刷が不可能になったり、極めて困難になったりする。様々な他の課題が、直接インク印刷における材料の開発および使用を困難にしている。3D印刷用の直接インクは、高い印刷圧力をかけずにノズルを通して押出すことができるべきである。ノズルを出た後、自己支持インクは十分に大きな弾性率および降伏応力点を有してフィラメント形状を維持し、そうして印刷プロセスを補助するべきである。
【0007】
一実施形態では、印刷可能なセメント組成物が提供される。印刷可能なセメント組成物は、米国石油協会(API)クラスGセメント、親水性ベントナイト、ポリカルボキシレートエーテル、ヒドロキシエチルセルロース、および2-エチル-1-ヘキサノールを含む。
【0008】
別の実施形態では、印刷可能なセメント組成物が提供される。印刷可能なセメント組成物は、セメント、ナノクレイ、超可塑剤、ヒドロキシエチルセルロース、および消泡剤を含む。いくつかの実施形態では、セメントは米国石油協会(API)クラスGセメントである。いくつかの実施形態では、ナノクレイは親水性ベントナイトである。いくつかの実施形態では、超可塑剤はポリカルボキシレートエーテルである。いくつかの実施形態では、消泡剤は2-エチル-1-ヘキサノールである。
【0009】
別の実施形態では、3D構造を作成するための方法が提供される。この方法は、3Dプリンタを使用して、印刷可能なセメント組成物を使用して3D構造の1つ以上の層を印刷することを含む。印刷可能なセメント組成物は、米国石油協会(API)クラスGセメント、親水性ベントナイト、ポリカルボキシレートエーテル、ヒドロキシエチルセルロース、および2-エチル-1-ヘキサノールを含む。いくつかの実施態様では、3D構造はハニカム構造である。いくつかの実施形態では、3Dプリンタは直接インク書き込み(DIW)プリンタである。
【0010】
別の実施形態では、3D構造を作成するための方法が提供される。この方法は、3Dプリンタを使用して、印刷可能なセメント組成物を使用して3D構造の1つ以上の層を印刷することを含む。印刷可能なセメント組成物は、セメント、ナノクレイ、超可塑剤、ヒドロキシエチルセルロース、および消泡剤を含む。いくつかの実施形態では、セメントは米国石油協会(API)クラスGセメントである。いくつかの実施形態では、ナノクレイは親水性ベントナイトである。いくつかの実施形態では、超可塑剤はポリカルボキシレートエーテルである。いくつかの実施形態では、消泡剤は2-エチル-1-ヘキサノールである。いくつかの実施態様では、3D構造はハニカム構造である。いくつかの実施形態では、3Dプリンタは直接インク書き込み(DIW)プリンタである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】未改質ポルトランドセメントおよび例示的なセメントインクのレオロジー挙動を示す図表である。
【
図1B】未改質ポルトランドセメントおよび例示的なセメントインクのレオロジー挙動を示す図表である。
【
図1C】未改質ポルトランドセメントおよび例示的なセメントインクのレオロジー挙動を示す図表である。
【
図1D】未改質ポルトランドセメントおよび例示的なセメントインクのレオロジー挙動を示す図表である。
【
図2】ノズルチップの直径およびノズルの移動速度の関数として、例示的なセメントインクの印刷性を示す図表である。
【
図3A】例示的なセメントインクを使用して印刷されたハニカム構造を異なる視点から描写する。
【
図3B】例示的なセメントインクを使用して印刷されたハニカム構造を異なる視点から描写する。
【
図3C】例示的なセメントインクを使用して印刷されたハニカム構造を異なる視点から描写する。
【
図3D】異なるパターンで印刷された3D構造を示す。
【
図3E】異なるパターンで印刷された3D構造を示す。
【
図3F】異なるパターンで印刷された3D構造を示す。
【
図3H】
図3Eに示されている三角形のセルを有するハニカム構造のグリッドおよび結合、また、互いの上にあるセメント層の描写を示す。
【
図3I】
図3Fに示すスターセルを有するハニカム構造の壁厚を示す顕微鏡写真である。
【
図4】例示的なセメントインクセル状構造の代表的な荷重-変位プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を示す添付の図面を参照して、本開示をより詳しく説明する。しかしながら、本開示は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載された例示された実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が完全かつ完璧となり、本開示の範囲を当業者に詳しく伝えるように提供される。
【0013】
本開示の実施形態は、3Dセメント構造および材料の3D印刷(これはまた、付加製造を含む)のためのセメントインクを含む。セメントインクは、「直接(direct)」インク、すなわち直接インク書き込み(DIW)などの直接3D印刷に使用されるインク、として説明される、または呼ばれることがある。セメントインクは、3Dセメント構造の形成前に3Dプリンタで使用される場合などに、セメントインクスラリーと呼ばれることがある。
【0014】
本開示に記載されるセメントインクは押出し可能で自己支持性であり、複雑な設計構造の3D印刷を可能にし、そのような用途における既存のセメントおよびインクの欠点を克服するために、レオロジー特性および凝集性層間特性を有する。セメントインクはマイクロノズル(例えば、周囲条件下で約400マイクロメートル(μm)のサイズを有するノズル)からでもインクの押出しを容易にする剪断減粘度を有する。セメントインクはまた、剪断後に比較的迅速なゲル強度の発現を有し、十分に強く、堅く、安定となり、それによって、ノズルからの押出後にフィラメント形状を維持し、変形することなくそれ自体の重量および上の印刷層の荷重を保持する。セメントインクは(未改質ポルトランドセメントと比較して)より速いセメント硬化を提供して、印刷材料のより速い強化を可能にし、より要求が厳しく複雑な構造の印刷を補助することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、セメントインクは米国石油協会(API)クラスGセメント、ナノクレイ、超可塑剤、ヒドロキシエチルセルロース、および消泡剤を含む。セメントインクの成分を水中で混合して、使用のためのセメントスラリーを形成することができる。
【0016】
いくつかの実施態様では、APIクラスGセメントは、ドイツ、ウィースバーデンのDyckerhofにより製造されたDyckerhofクラスGポルトランドセメントである。
【0017】
いくつかの実施形態では、ナノクレイは親水性ベントナイトであり得る。本明細書で使用されるように、「ナノクレイ(nano-clay)」という用語は、層状無機ケイ酸塩のナノ粒子を指す。ナノクレイはレオロジー改質剤として使用することができ、得られるセメントインクの剪断減粘挙動および降伏応力を改質することができる。加えて、ナノクレイは、セメント硬化促進剤としてセメントに作用し得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、超可塑剤はポリカルボキシレートエーテル超可塑剤である。ポリカルボキシレートエーテル超可塑剤は、印刷中のセメントインクの流動特性および粘度を改善することができる。ポリカルボキシレートエーテル超可塑剤はセメントインクの塑性粘度を低下させ、凝集を最小限に抑え、または防止し、長期間にわたるセメントインクの粘度および流動性を改善することができる。さらに、セメントインク中に使用されるポリカルボキシレートエーテル超可塑剤の量は、セメントインク粒子間の凝集力および降伏応力を減少させ得、セメントの硬化速度を減少させながら低圧を適用することによってノズルからのより良好な押出をもたらし得る。いくつかの実施形態では、ポリカルボキシレートエーテル超可塑剤は、フランスのCoatex of Genayによって製造されるEthacryl(商標)Gである。
【0019】
ヒドロキシエチルセルロースはレオロジー改質剤として使用することができ、得られるセメントインクを使用して印刷フィラメント形状の機械的安定性を改善することができる。いくつかの実施形態では、ヒドロキシエチルセルロースは、アメリカ合衆国テキサス州のFritz Industries of Mesquiteによって製造されるFSA-3であり得る。
【0020】
消泡剤は、得られるセメントインクを形成するための成分の混合中の、気泡、空隙、または両方の形成を減少させ得る。消泡剤はまた、印刷された構造体への空気の引込みを低減または防止することができる。いくつかの実施形態では、消泡剤は2-エチル-1-ヘキサノールである。
【0021】
いくつかの実施形態では、セメントインクがシリカナノ粒子を含み得る。いくつかの実施形態では、セメントインクがカーボンナノチューブを含み得る。いくつかの実施形態では、セメントインクがセルロースナノフィブリル(「ナノフィブリルセルロース」とも呼ばれる)を含み得る。変性剤の種類および量により、セメントインクを使用して形成された構造の機械的特性の変化が可能になる。
【0022】
有利には、本開示に記載されるセメントインクは、比較的高い印刷圧力を必要とせずに、周囲条件(すなわち、周囲温度および圧力)下でマイクロノズルを通した押出を可能にするために、有意な剪断減粘を示し得る。さらに、セメントインクは、後続の印刷層の重量にさらされた後でも、印刷フィラメント形状を維持するのに十分に高い貯蔵弾性率および降伏強度を有することができる。さらに、本開示に記載されるセメントインクは、硬化プロセスおよび粒子詰まりの両方から印刷プロセスを効果的に分離し、そうして作業性および流動性の問題を最小限にするかまたは防止しながら、セメントインクが一貫して印刷することを可能にする。本開示に記載されるセメントインクを使用してセメント構造を印刷する能力は、複雑な設計構造を含むそのような構造体を製造するコストおよび労力を低減し得る。セメントインクを使用してセメント構造を印刷する能力は、危険な(例えば、汚染された)または居住不能な場所でのこのような構造体を製造することも可能にする。
【0023】
本開示に記載されるセメントインクは、高解像度3Dプリンタ(3Dプリンタの高解像度モードを含む)を使用して複雑かつ軽量の構造体を印刷するために使用され得る。セメントインクは、多孔質および非多孔質セメント構造体の両方を印刷するために使用され得る。このような構造体は例えば、建築部品(例えば、支持体、支柱、タイ、壁、出入口、梁、橋脚、基礎など)を含むことができる。本開示の実施形態は、セメントインクを形成するためのプロセスを含む。いくつかの実施形態では、セメントインクは米国石油協会(API)クラスGセメント、ナノクレイを混合することによって形成され得、ヒドロキシエチルセルロースは第1の混合物を形成するために混合され得る。超可塑剤および消泡剤は水に添加されて第2の混合物を形成し、均質な混合物が形成されるまで混合され得る。第1の混合物および第2の混合物は、第3の混合物を形成するために容器に添加され、遠心ミキサーなどで混合され得る。いくつかの実施形態では、第3の混合物は、ステンレス鋼ボール(例えば、1/4インチ440鋼ボール)を使用して、毎分2000回転(rpm)の速度で約4分間混合され得る。有利には、セメントインクは3D印刷に使用する前に周囲条件で貯蔵することができる。
【0024】
本開示の実施形態は、セメントインクを使用して3Dセメント構造を印刷するためのプロセスを含む。いくつかの実施形態では、3Dセメント構造は直接インク書き込み(DIW)を使用して印刷され得る。そのような実施形態では、3Dプリンタがセメントインクの供給源(例えば、トレイまたはカートリッジ)を含むか、またはそれにアクセスすることができる。3Dプリンタは、それぞれがセメントインクを押出す1つ以上のマイクロノズルを有する1つ以上の印刷ヘッドを使用して、3Dセメント構造の層を印刷するように動作され得る。例えば、3Dプリンタを動作させて、セメントインクの積み重ねられた層を同じまたは異なるパターンで印刷することができる。いくつかの実施形態では、3Dセメント構造はセメントインクの複数の積み重ねられた層を同じまたは異なるパターンで印刷することによって印刷され得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、3D印刷セメント構造は、印刷後のある期間、周囲温度で硬化され得る。いくつかの実施形態では、3D印刷セメント構造は少なくとも4日間硬化され得る。
【0026】
本開示の実施形態は、セメントインクを使用する様々な用途のための3Dセメント構造またはセメント材料の付加製造のためのプロセスをさらに含む。いくつかの実施形態では、エネルギー(例えば、石油およびガス)産業における、土木建築用、断熱用、または建設製品用の3D構造体が製造され得る。例えば、いくつかの実施形態では、石油およびガスの穿孔および製造に使用するためのセメント構造体またはセメント材料がセメントインクを使用して製造され得る。
【0027】
本開示の実施形態は、セメントインクおよび記載されたプロセスを使用して印刷された3D構造体および構築物をさらに含む。セメントインクは、形成された構築物または構造体を印刷することができない他のインクと比較して、改善された特性を提供する設計構造を使用して、3D構造体の印刷を可能にし得る。セメントインクを使用して印刷された3D構造体は、セメントまたは他のインクを使用する構造体と比較して、改善された機械的特性(例えば、強度、衝撃耐性、および歪み耐性)を有する。3D構造体は、セメントインクが印刷ノズルから押出された後にフィラメント形状を維持することができ、3D構造体内の各層は、変形することなく、その重量および上の印刷層の荷重を支えることができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、セメントインクを使用して印刷される3D構造体はハニカム構造体であってもよい。いくつかの実施態様では、セメントインクを使用して印刷される3D構造体は、ヒルベルト曲線ハニカム構造体、三角形セルを有するハニカム構造体、またはスターセルを有するハニカム構造体であってもよい。いくつかの実施形態では、セメントインクを使用して印刷される3D構造体は管状であってもよい。
[実施例]
【0029】
以下の実施例は、本開示の実施形態を実証するために含まれる。以下の実施例において開示される技術および組成物は、本開示の実施において十分に機能することが発見された技術および組成物を表し、したがって、その実施のための様式を構成すると考えられ得ることが、当業者によって理解されるべきである。しかしながら、当業者は本開示を踏まえ、開示された特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、なおかつ、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【0030】
例示的なセメントインク(「改質セメント」とも呼ばれる)を調製し、未改質ポルトランドセメントに対して試験した。例示的なセメントインクは、クラスGポルトランドセメントを、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイスのSigma-Aldrichから入手可能な親水性ベントナイトおよびヒドロキシエチルセルロース(アメリカ合衆国テキサス州メスカイトのFritz Industriesによって製造されたFSA-3)と混合することによって調製した。ポリカルボキシレートエーテル(フランスのCoatex of Genayによって製造されたEthacryl(登録商標)G)および2-エチル-1-ヘキサノール(アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイスのSigma-Aldrichから入手可能)を水に添加し、ボルテックスミキサー(アメリカ合衆国ニューハンプシャー州のFisher Scientific of Hamptonから入手可能)を混合して均質な溶液を形成した。次に、成分を125ミリリットル(ml)の容器に注ぎ、アメリカ合衆国カリフォルニア州ラグーナヒルズのThinky USA,Inc.から入手可能なThinky Planetary Centrifugal Mixer(モデルAR 230)を使用して、3つの1/4インチ440ステンレス鋼ボールを使用して約4分(min)の間、約2000rpmの速度で混合した。
【0031】
表1は、各成分の量が、その成分の重量をセメントの重量で割ったものに100%を乗じたものとして表されるように、セメントの重量(BWOC)ごとにリストされた例示的なセメントインクの組成とその量を示す。
【表1】
【0032】
表2は、例示的なセメントインクの成分のいくつかの特性を示す。
【表2】
【0033】
歪みおよび応力制御レオメータ(オーストリア、GrazのAnton Parr GmbHから入手可能なMCR302)に取り付けたCouette geometryを用いて、未改質ポルトランドセメントおよび例示的なセメントインクのレオロジー特性を測定した。流速および粘度曲線は、約1~約1000s-1の剪断速度での歪み速度制御計測で得られた。約0.01~約10%の歪みで約1Hzの角周波数で振動振幅掃引を行った。例示的なセメントインクの揺変性挙動を研究するために、3間隔揺変性試験(3ITT)を行った。最初の間隔は、周波数を約1Hzに設定し、歪の振幅を約0.1%に設定した15分間の小振幅振動剪断(SAOS)実験であった。第2の間隔は約500s-1の剪断速度で5分間の回転高剪断であり、第3の間隔は10分間であった。周波数を約1Hz、歪みの振幅を約0.1%に設定したSAOS実験。
【0034】
セメントスラリーの水和に及ぼすナノクレイの影響を、25℃でのセメントの水和反応から経時的に発生した熱のデータを収集したTAM Air等温熱量計(アメリカ合衆国デラウェア州ニューキャッスルのTA Instrumentsから入手可能)を用いて測定した。
【0035】
高解像度3Dプリンタ(アメリカ合衆国ジョージア州ノークロスのHyrel 3Dから入手可能なEngine HR)を用いて、セメントベースのインクを印刷した。室温でインクを押出すために、コールドフローシリンジヘッド(アメリカ合衆国ジョージア州ノークロスのHyrel 3Dから入手可能なSDS-60押出機)を使用した。インクを60mlのルアーロックシリンジに装填し、振動させて、気泡が除去されたことを確認した。スムースフローテーパーチップ(アメリカ合衆国ロードアイランド、イーストプロビデンスのNordson EFDから入手可能)を使用して、インクの分注中の目詰まりおよび印刷の不連続性を防ぎ止めた。インクをワックス紙上に印刷して、ビルドプレートへのセメント構造の付着を防止し、ビルドプレートからの印刷物の取り外しを容易にした。Gコードスクリプトは、Slic3r(http://slic3r.orgから入手可能)を使用して生成され、幾何学的形状、ならびに押出し幅、印刷スピード、および層の高さなどの他のパラメータに基づいて、印刷経路を決定した。印刷された部品を、噴霧により断続的に水を用いて室温で約4日間硬化させた。
【0036】
100キロニュートン(kN)ロードセルを装備したInstron 4505試験機(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ノーウッドのInstronから入手可能)を用いて、セル状構造の一軸面内圧縮試験を室温で行った。サンプルを2つのクロスヘッドの間に保持し、誤整列または分離を回避するためにモニターし、次いで約1mm-s-1の一定圧縮速度で圧縮した。クロスヘッドの変位を記録しながら、ロードセルで荷重を測定した。荷重-変位データを記録し、少なくとも3つのサンプルを調べて一貫性を確かなものにした。例示的なセメントインクと未改質ポルトランドセメントとの機械的性能を分析、比較するために、2インチ×4インチの円筒形型枠に注入し、オートクレーブ中で約21メガパスカル(MPa)および約80℃で約24時間硬化させることによって、サンプルを作製した。硬化後、サンプルを減圧後にオートクレーブから取り出した。サンプルの円筒形端部を研磨し、次いでサンプルを銅被覆物で包んだ。歪みゲージを銅被覆物の表面にエポキシ化し、銅で包まれたサンプルを静水圧で加圧した閉じ込めチャンバー内に約1000psiまで加圧して配置した。次いで、配置された銅被覆試験片を、超音波変換器を備えた2つのステンレス鋼エンドキャップの間に置き、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストンのNew England Researchから入手可能なAutolab 3000の閉じ込め容器に入れた。試験片は約4.8MPaの閉じ込め圧で加圧した。軸方向荷重は、30分周期で約4.9MPaから約24.9MPaまで周期的に加えた。機械的特性をそれぞれ超音波変換器および歪みゲージで音響的および機械的に測定しながら、合計8回の荷重サイクルを試験片に加えた。
【0037】
未改質ポルトランドセメントを調製し、異なる速度で、異なるノズルサイズを用いて印刷した。未改質ポルトランドセメントは2つの重大な問題に遭遇した。不連続性および目詰まりが、未改質ポルトランドセメントの直接インク3D書き込みの失敗につながるすべての印刷試行において観察された。3D印刷におけるこの失敗は、未改質ポルトランドセメントスラリーにおける均質性の欠如によって引き起こされ、シリンジにおける粒子の詰まりおよびノズル内部の詰まりがもたらされたようであった。さらに、未改質ポルトランドセメントスラリーは、チップを通した押出後にビルドプレート上に広がることを引き起こす低い塑性粘度および降伏点を有し、いくつかの層を印刷することを不可能にした。不均質な混合に起因する未改質ポルトランドセメントスラリー内部の気泡の存在もまた、印刷の不連続性をもたらした。
【0038】
例示的なセメントインクは所望のレオロジー特性を達成するために、様々な成分を用いて調製された。等温熱量測定試験の結果は、ナノクレイがセメント硬化促進剤としてセメントに作用することを明らかにした。理解されるように、セメント硬化は、熱量測定で容易にモニターされる発熱プロセスである。セメントの硬化または水和には、いくつかの異なる相または期間がある。誘導期または休止期間は、水とのケイ酸カルシウム反応に関する相対的不活性期間として知られている。この期間に続いて、セメントからのケイ酸三カルシウムが水と反応してケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)およびポルトランダイトを生成することによるものと広く考えられている急速な熱発生の期間がある。C-S-Hの生成は、硬化したポルトランドセメントの初期強度の原因である。等温熱量測定で試験したセメントスラリーの異なる休止時間は、約5時間(未改質ポルトランドセメントの場合)の範囲と決定され、約4%ナノクレイの場合には30分未満に減少した。このようにして、データは、ナノクレイが室温でセメントの硬化を促進することを示した。観察されたセメント硬化促進効果がある一方、硬化セメントのヤング率とポアソン比に及ぼすナノクレイの影響は比較的穏やかであると決定された。NER Autolab3000を用いて試験したサンプルを約80℃で約24時間硬化して、硬化セメントの機械的特性からセメント硬化速度論の影響を除去した。1%、2%、および4%のナノクレイを有するセメントは、非改質セメントスラリーと比較して、それぞれ約10.1%、10.6%、および16.5%のヤング率の増加を示した。また、ポアソン比がやや上昇する傾向もみられた。
【0039】
図1A~1Dは、未改質ポルトランドセメント(
図1の「未改質ポルトランドセメント」)および例示的なセメントインク(
図1の「改質セメント」)のレオロジー挙動を示す。異なる非ニュートン性レオロジーモデルを用いて、例示的なセメントインクの流動挙動をシミュレートした。
図1Aは、未改質ポルトランドセメントおよび例示的なセメントインクについての見かけ粘度対典型的な剪断速度を示す。剪断速度対見かけ粘度曲線の傾斜は、剪断速度の増加と共に直線的に減少した。これは例示的なセメントインクの剪断減粘性挙動を実証する。
図1Aに示すように、例示的なセメントインクの粘度は、未改質ポルトランドセメントよりも約2桁大きい。
【0040】
WindhabおよびHerschel-Bulkleyモデルは、セメントおよび例示的なセメントインクを最も正確に説明することが分かった。Windhabモデルからの予測値を用いて、ゼロ剪断速度(τ
0)での未改質ポルトランドセメントスラリーの降伏応力は4.0Paであり、一方、例示的なセメントインクスラリーは、約56.0Paの有意に増加した降伏応力値を示した。さらに、未改質ポルトランドセメントスラリーの塑性粘度は0.080Pa-sであったが、例示的なセメントインクスラリーでは0.506Pa-sに増加した。Herschel-Bulkleyモデルと比較して、Windhabモデルで最も高いR
2値(~0.999)の最良の適合結果が得られた。
図1Bは、種々のレオロジーモデルからの降伏点および他のパラメータの予測値の比較を示す。Windhabモデルで予測した降伏点と塑性粘度の値は、Herschel-Bulkleyモデルのものより大きい。
【0041】
異なる歪みでの振動測定を実施して、例示的なセメントインクの粘弾性特性を決定した。
図1Cは、未改質ポルトランドセメントおよび例示的なセメントインクについての振動歪みの関数としての貯蔵弾性率および損失弾性率を示す。例示的なセメントインクでは、未改質ポルトランドセメントと比較して、著しく大きな貯蔵弾性率が観察された。未改質ポルトランドセメントは、約2×10
3Paの貯蔵係数(G´)のプラトー値と、非常に低い歪み(約0.01%)で約10
3の損失弾性率(G″)を示した。しかしながら、例示的なセメントインクにナノクレイおよびヒドロキシエチルセルロースを組み込むと、貯蔵弾性率が著しく増加した。例示的なセメントインクは、2×10
5 Paでの貯蔵弾性率が未改質ポルトランドセメントのそれよりも100倍高かった。例示的なセメントインクにおける貯蔵弾性率は、損失弾性率(約9×10
4 Pa)よりも2桁大きかった。したがって、貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比(損失正接と呼ばれる)は例示的なセメントインクについて1未満であり、これはセメントインクの挙動が液体よりも固体に近いことを示す。結果として、例示的なセメントインクはノズルからの押出後にフィラメント形状を保持することができる。
図1Bに示される振幅掃引は、例示的なセメントインクが様々な複雑な構造の3D印刷のために流動性で形状安定性であるレオロジー特性を有することを示す。さらに、例示的なセメントインクの流動点(G´とG″の交差点)は、未改質ポルトランドセメントよりも低い剪断歪みで生じる。
【0042】
図1Dは、3間隔揺変性試験(3ITT)によって決定された例示的なセメントインクの揺変性挙動を示す。
図1Cに示されるように、適用された剪断速度後の例示的なセメントインクの粘度およびゲル構造の回復は、急速かつほぼ瞬間的に起こる。
【0043】
図2は、ノズルチップの直径およびノズルの移動速度の関数として、例示的なセメントインクの印刷性を示す。実験は、チップの直径が700μmより大きいとき、例示的なセメントインクはノズルを通して容易に流れ、その流れは印刷速度に依存しないことを示した。700μmを超えるノズルサイズでは、非常に低速でも印刷が可能であった。400~700μmの間のノズルサイズでは、印刷速度に依存して印刷が安定または不安定であり得ることが見出された。例示的なセメントインクのノズルサイズの閾値は、限られた印刷速度間隔(約700~約1000cm/s)で約400μmであった。
図2に示すように、ノズル直径400μm以下では、例示的なセメントインクは、微細なノズル内に目詰まりすることにより、任意の印刷速度で不安定な印刷を示した。
図2は、3D印刷のための適切なサイズのチップおよび速度を選択することによって、高アスペクト比トポロジーを有する高解像度構造が印刷され得ることを示す。
【0044】
例示的なセメントインクを用いて、様々なセル形状を有するいくつかのセル構造を印刷した。
図3A~3Cは、例示的なセメントインクを使用して印刷されたハニカム構造を異なる視点から描写する。
図3A~3Cのハニカム構造は、1.64mmのテーパーノズルを用いて、例示的なセメントインクを用いて印刷した。ハニカム構造は、長さ11センチメートル(cm)、幅6cm、厚さ1.6cm(すなわち、約40層)であった。z方向の印刷の解像度を
図3Cに示す。
図3Cに示す各層の厚さは400μmである。
【0045】
図3D~3Fは、異なるパターンで印刷された3D構造を示す。各印刷構造は、長さ約8cm、幅約6cm、厚さ約3cmであった。
図3Dはヒルベルト曲線に印刷された3D構造を示し、スケールバーは1mmを表す。
図3Eは三角形のセルを有するハニカム構造を示す図であり、スケールバーは10mmを表す。
図3Fはスターセルを有し、約600ミクロンのセル壁厚および8mmの高さを含む高いアスペクト比を有するハニカム構造を示し、
図3Fのスケールバーは10mmを示す。
【0046】
図3G~3Iは、
図3D~3Fの構造のそれぞれの顕微鏡図を描写する。
図3G~3Iの各スケールバーは500μmを表す。
図3Gは、
図3Dのヒルベルト曲線3D構造のための、互いの上にある印刷された層のいくつかの断面図を示す。
図3Gに示すように、各層は、各層間に隙間のないフィラメント形状を示す。この構造は、例示的なセメントインクが、層間の優れた結合を維持しながら、ノズルからの押出後、ならびに上記の層の荷重下で、その形状を維持するのに十分な剛性を有することを示す。
図3Hは、
図3Eに示されている三角形のセルを有するハニカム構造のグリッドおよび結合、また、互いの上にあるセメント層の描写を示す図である。
図3Iは、
図3Fに示すスターセルを有するハニカム構造の壁厚を示す。
【0047】
例示的なセメントインクの機械的性能を実証するために、様々なセルサイズおよび幾何学的形状を有する、異なる例示的なセメントインクセル状構造に対して面内圧縮試験を行った。
図4は、例示的なセメントインクセル状構造の代表的な荷重-変位プロットを示す。圧縮では、構造は線形弾性領域を示し、続いて一定荷重の小さな平坦域を示し、その後、離散故障に対応して増分荷重降下を示した。非局在化損傷進行は材料の靭性に寄与するエネルギー散逸を改善した。したがって、理解されるように、構築の制御は、比強度を犠牲にすることなく、靭性の調整につながり得る。セル構造の剛性は、式(1)に示す関係によって予測することができる。
【0048】
ここで、Eおよびρはそれぞれ、セル状構造の剛性、強度、および密度であり、E
sおよびρ
sはそれぞれ固体構造の剛性、強度、および密度であり、Bおよびbは、単位セル依存負荷定数である。正六角形ハニカムの場合、B=3/2およびb=3である。六角形ハニカムの測定された剛性は約0.8±0.2GPaであることが見出され、一方、固体支柱の剛性(~13.0GPa)は密に充填された固体円筒を弾性的に圧縮することによって決定された。六角形ハニカム構造は0.38の相対密度
を有する。ハニカムの相対密度と固体支柱の測定された係数に基づいて、六角形ハニカムの計算された剛性は約1.1GPaであった。この構造は、固体支柱について測定した係数から計算した理論値と30%以下の不一致のある剛性を有する。実験値と理論予測値の間の不一致は、印刷切片の微細構造から観察できるような幾何学的不完全性、層内のうねり、および節点の誤整列に起因すると考えられる。
【0049】
上記に示されるように、例示的なセメントインクのレオロジー測定は、高いアスペクト比の幾何学的形状を有する3D構造物の直接印刷に適していることを実証する。例示的なセメントインクは、未改質のポルトランドセメントと比較して、機械的性能の低下を示さない。このように、セメントインクは複雑な形状の製造に使用されて、高い荷重支持能力の可能性と同様に、多様な変位モードを有する新たな構築物を得ることができる。そのような用途には、例えば、エネルギー(例えば、石油およびガス)産業における土木建築、断熱および建設製品が含まれ得る。
【0050】
本開示の様々な態様のさらなる修正および代替実施形態は、この説明を考慮すれば当業者には明らかであろう。したがって、この説明は例示としてのみ解釈されるべきであり、本明細書に記載された実施形態を実行する一般的な方法を当業者に教示することを目的とする。本明細書で示され、説明される形態は、実施形態の例として解釈されるべきであることを理解されたい。要素および材料は、本明細書に図示され、説明されたものと置き換えることができ、部品およびプロセスは逆にするか、または省略することができ、いくつかの特徴は独立して利用することができ、すべて、この説明の恩恵を受けた後に当業者には明らかであろう。以下の特許請求の範囲に記載されている本開示の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載されている要素に変更を加えることができる。本明細書で使用される見出しは、組織的な目的のためだけのものであり、説明の範囲を限定するために使用されることを意味するものではない。