(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
F16L 15/06 20060101AFI20221129BHJP
E21B 17/042 20060101ALI20221129BHJP
F16L 15/04 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F16L15/06
E21B17/042
F16L15/04 A
(21)【出願番号】P 2021543693
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031462
(87)【国際公開番号】W WO2021044862
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019159375
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】堂内 貞男
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/076622(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/213048(WO,A1)
【文献】特表2012-512347(JP,A)
【文献】国際公開第2018/052140(WO,A1)
【文献】米国特許第4822081(US,A)
【文献】中国実用新案第205558826(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/06
F16L 15/04
E21B 17/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径ODが240mmより大きい鋼管の先端部に設けられる管状のピンと、前記ピンがねじ込まれて前記ピンと締結される管状のボックスとを備え、前記ピンは、前記ピンの外周に形成されたテーパネジからなる雄ねじを有し、前記ボックスは、前記ボックスの内周に形成されたテーパネジからなる雌ねじを有し、前記雄ねじ及び雌ねじのねじ山断面形状はダブテイル形状であり、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面ピッチよりも前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面ピッチが小さい、鋼管用ねじ継手において、
前記雄ねじは次の式(1)及び(2)を満たす、鋼管用ねじ継手。
【数1】
W
min≧3.0mm ・・・(2)
式(1)及び(2)中、ODは前記鋼管の外径、IDは前記鋼管の内径、D
Wは前記雄ねじの先端側の終端部の荷重面側の底径、T
Hは前記雄ねじのねじ山高さ、W
minは前記雄ねじの先端側の終端部のねじ底のねじ山幅である。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手において、前記雄ねじは次の式(3)を満たす、鋼管用ねじ継手。
【数2】
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋼管用ねじ継手において、前記雄ねじのねじ山高さ(T
H)は1.8mm以上である、鋼管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の鋼管用ねじ継手において、前記雄ねじのねじ山高さ(T
H)は2.3mm以下である、鋼管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手において、前記雄ねじのテーパ角は5.72°以下である、鋼管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管の連結に用いられる鋼管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう。)の試掘又は生産、オイルサンドやシェールガス等の非在来型資源の開発、二酸化炭素の回収や貯留(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)、地熱発電、あるいは温泉等では、油井管と呼ばれる鋼管が用いられる。鋼管同士の連結には、ねじ継手が用いられる。
【0003】
この種の鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。
【0004】
カップリング型の場合、管状のカップリングを介して鋼管同士が連結される。具体的には、カップリングの両端部の内周に雌ねじ部が設けられ、鋼管の両端部の外周には雄ねじ部が設けられる。そして、カップリングの一方の端部に一の鋼管の一方の端部がねじ込まれるとともに、カップリングの他方の端部に他の鋼管の一方の端部がねじ込まれることにより、鋼管同士が連結される。すなわち、カップリング型では、直接連結される一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。
【0005】
インテグラル型の場合、鋼管同士が直接連結され、別個のカップリングを用いない。具体的には、鋼管の一端部の内周には雌ねじ部が、他端部の外周には雄ねじ部が設けられ、雌ねじ部が設けられた一の鋼管の一端部に、雄ねじ部が設けられた他の鋼管の他端部がねじ込まれることにより、鋼管同士が連結される。
【0006】
一般に、雄ねじ部が形成された鋼管の管端部の継手部分は、鋼管又はカップリングに形成された雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、「ピン」と称される。雌ねじ部が形成された鋼管又はカップリングの端部は、鋼管の雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、「ボックス」と称される。これらピン及びボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0007】
近年、DwC(Drilling with Casing)や水平掘削などの井戸開発技術が広まりつつあり、ハイトルク継手の需要が急増している。本願出願人は、従前より、外径サイズが9‐5/8″(244.5mm)までの鋼管用のハイトルク継手として、例えば下記の特許文献1に開示しているように、楔形ねじとも称される断面形状がダブテイル形のテーパねじを採用したねじ継手を製造している。楔形ねじでは、ピンの雄ねじ部のねじ山幅がねじの螺旋に沿って先端側に至るにしたがって徐々に狭くなり、相対するボックスの雌ねじ部のねじ溝幅も同様に徐々に狭くなる。また、雄ねじ部及び雌ねじ部のそれぞれのねじ山の荷重面及び挿入面のいずれも負のフランク角を有しており、ピンとボックスとの締結が完了したときに、荷重面同士及び挿入面同士が接触することで、雄ねじ部及び雌ねじ部のそれぞれのねじ山同士が強固に嵌まり合う。かかる構成により、楔形ねじを採用したねじ継手は、高い耐トルク性能を発揮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願出願人は、より大径サイズの鋼管用のハイトルクねじ継手の開発を行っているが、9‐5/8″以上の大径サイズのねじ継手を従前と同様の設計基準にしたがって設計すると、ISO13679:2011 Series Aに準拠した試作品の複合荷重負荷試験において、最大引張荷重負荷時に、ピンの雄ねじ部のねじ山がせん断破壊するという問題が発生した。
【0010】
本開示の目的は、高い耐トルク性能及び高い密封性能を発揮できるとともに、連結対象の鋼管のサイズに応じた耐せん断性能を有する大径サイズの鋼管用のねじ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、大径サイズの鋼管用のハイトルクねじ継手における雄ねじ部のねじ山破断の原因を究明すべく鋭意検討を重ねた結果、大径サイズの鋼管に求められる引張強度、言い換えれば耐せん断性能に対して、雄ねじ部のねじ山の先端側のねじ終端部のねじ山幅が小さすぎ、このねじ終端部から1周分のねじ山(以下、「第1ねじ山」とも言う。)が最初にせん断破壊することを見出した。第1ねじ山がせん断破壊すると、断面においてその1つ内側に位置する第2ねじ山に荷重が集中して第2ねじ山がせん断破壊し、第2ねじ山がせん断破壊するとその1つ内側の第3ねじ山に荷重が集中してせん断破壊し、このようにして次々と広範囲に亘って雄ねじのねじ山がせん断破壊していくと考えられる。
【0012】
また、断面が台形状の従前のテーパネジの場合、過大な引張荷重の負荷時に、ピン及びボックスが変形して雄ねじと雌ねじがジャンプアウトすることはあるが、ねじ山が広範囲に亘って破断することはなかった。一方、上記のハイトルクねじ継手では、断面ダブテイル形状の雄ねじ及び雌ねじのねじ山同士が強固に噛み合っていることから、雄ねじと雌ねじとの噛み合いが外れることがない。
【0013】
そのため、断面ダブテイル形状の楔形ねじにより雄ねじ及び雌ねじを構成したハイトルクねじ継手では、最初にせん断破壊が生じる第1ねじ山の剛性が引張強度の確保のためには重要となる。本発明者らは、第1ねじ山の耐せん断性能を評価する指標として、雄ねじの先端側の終端部における最もねじ山幅が小さい部分のねじ山底部の最小ねじ山幅Wminを軸長とし、その部分のねじ底径DWを円筒の内径とし、ねじ山高さTHを肉厚とする円筒の体積V=π/4・{(DW+2TH)2-DW
2}×Wminに着目した。
【0014】
また、鋼管の管本体が降伏する引張荷重の大小によっても、ねじ山に求められる耐せん断性能は異なる。
【0015】
これらの検討の結果、本発明者らは、鋼管のサイズに応じた耐せん断性能を雄ねじ部のねじ山の終端部に持たせることで、大径サイズの鋼管用のねじ継手においても、ねじ山のせん断破壊を生じることなく、高い耐トルク性能及び高い密封性能を発揮できることを見出した。
【0016】
本開示に係る鋼管用ねじ継手は、外径ODが240mmより大きい鋼管の先端部に設けられる管状のピンと、前記ピンがねじ込まれて前記ピンと締結される管状のボックスとを備える。前記ピンは、前記ピンの外周に形成され且つ断面形状がダブテイル形状のテーパネジからなる雄ねじを有する。前記ボックスは、前記ボックスの内周に形成され且つねじ断面形状がダブテイル形状のテーパネジからなる雌ねじを有する。この雌ねじは、前記雄ねじに対応するねじプロファイルを有する。また、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面ピッチよりも前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面ピッチが小さい。
【0017】
前記雄ねじは次の式(1)及び(2)を満たす。
【0018】
【0019】
式(1)及び(2)中、ODは前記鋼管の外径、IDは前記鋼管の内径、DWは前記雄ねじの先端側の終端部の荷重面側の底径、THは前記雄ねじのねじ山高さ、Wminは前記雄ねじの先端側の終端部のねじ底のねじ山幅である。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、大径の鋼管のサイズに応じた耐せん断性能をピンの雄ねじに付与することができ、高い耐トルク性能及び高い密封性能をも有する大径サイズの鋼管用のねじ継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の管軸方向に沿った縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1中の雄ねじ及び雌ねじを拡大した縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図1中の雄ねじの先端側のねじ終端部を拡大した縦断面図である。
【
図4】
図4は、FEM解析による耐トルク性能の評価結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、FEM解析による密封性能の評価における荷重条件の経路を示す図である。
【
図6】
図6は、FEM解析による密封性能の評価結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、FEM解析による耐せん断性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手は、外径ODが240mmより大きい鋼管の先端部に設けられる管状のピンと、前記ピンがねじ込まれて前記ピンと締結される管状のボックスとを備える。前記ピンは、前記ピンの外周に形成され且つ断面形状がダブテイル形状のテーパネジからなる雄ねじを有する。前記ボックスは、前記ボックスの内周に形成され且つねじ断面形状がダブテイル形状のテーパネジからなる雌ねじを有する。この雌ねじは、前記雄ねじに対応するねじプロファイルを有する。
【0023】
また、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面ピッチよりも前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面ピッチが小さい。すなわち、雄ねじ及び雌ねじは、先端側に至るにしたがって徐々にねじ山幅が狭くなる楔形ねじである。
【0024】
前記雄ねじは次の式(1)及び(2)を満たす。
【0025】
【0026】
式(1)及び(2)中、ODは前記鋼管の外径、IDは前記鋼管の内径、DWは前記雄ねじの先端側の終端部の荷重面側の底径、THは前記雄ねじのねじ山高さ、Wminは前記雄ねじの先端側の終端部のねじ底のねじ山幅である。雄ねじ及び雌ねじのねじ山高さは略等しい。雄ねじのねじ山高さ、並びに、雌ねじのねじ山高さは、螺旋状の完全ねじ部の全長にわたって均一である。
【0027】
より好ましくは、前記雄ねじは次の式(3)を満たす。
【0028】
【0029】
本開示に係る鋼管用ねじ継手において、前記雄ねじのねじ山高さTHは、十分な耐トルク性能を得るために、1.8mm以上であることが好ましい。一方、雄ねじのねじ山高さTHが高すぎると、ボックス内周に深いねじ溝が形成され、ボックスの引張強度を低下させることとなるため、前記雄ねじのねじ山高さTHは、2.3mm以下であることが好ましい。
【0030】
前記雄ねじ及び雌ねじのねじ山頂部の断面形状、並びに、前記雄ねじ及び雌ねじの谷部の断面形状は、いずれも前記鋼管の軸心に平行な線分であってもよいし、また、雄ねじ及び雌ねじの全体のテーパ角に沿って傾斜する線分であってもよい。
【0031】
請求項に定義されている「雄ねじ」及び「雌ねじ」は完全ねじ部であってよく、ピン及びボックスの締結状態において雄ねじの完全ねじ部と雌ねじの完全ねじ部とが嵌合する範囲は、40~60mmの軸長を有していてよい。雄ねじ及び雌ねじを構成する完全ねじ部の先端側には不完全ねじ部が連設されていてよい。請求項に定義されている雄ねじ及び雌ねじを構成する完全ねじ部の基端側(鋼管の管本体側)には、不完全ねじ部や、ねじ山幅が一定の別の完全ねじ部が連設されていてもよい。本開示において、完全ねじ部とは、ねじ山高さが均一に連続する部分であってよく、不完全ねじ部とは、徐々にねじ山高さが小さくなる部分であってよい。締結状態において、雄ねじの完全ねじ部及び不完全ねじ部のねじ山の荷重面及び挿入面のいずれも、雌ねじのねじ山の荷重面及び挿入面にそれぞれ接触していてよい。締結状態において、雌ねじの完全ねじ部及び不完全ねじ部のねじ山の荷重面及び挿入面のいずれも、雄ねじのねじ山の荷重面及び挿入面にそれぞれ接触していてよい。
【0032】
断面ダブテイル形状のねじ山の荷重面及び挿入面は、いずれも負のフランク角を有する。例えば、荷重面及び挿入面のフランク角は、-10°~-1°であってよい。荷重面のフランク角は、縦断面において荷重面と管軸CL(
図1参照)に直交する直線とのなす角度である。挿入面のフランク角は、縦断面において挿入面と管軸CLに直交する直線とのなす角度である。荷重面又は挿入面が、管軸CLに直交する直線と平行な場合、フランク角は0°である。雄ねじの荷重面又は挿入面が径方向外方に向くように傾倒している場合、それらのフランク角は正の値である。反対に、雄ねじの荷重面又は挿入面が径方向内方に向くように傾倒している場合、それらのフランク角は負の値である。また、雌ねじの荷重面又は挿入面が径方向内方に向くように傾倒している場合、それらのフランク角は正の値である。反対に、雌ねじの荷重面又は挿入面が径方向外方を向くように傾倒している場合、それらのフランク角は負の値である。
【0033】
鋼管の管本体の外径は、より好ましくは245mm以上であり、さらに好ましくは270mm以上とすることができる。また、鋼管の管本体の外径は、400mm以下とすることが好ましく、より好ましくは350mm以下であり、さらに好ましくは310mm以下である。鋼管の管本体は、軸方向全長に亘ってほぼ均一な肉厚を有することが好ましい。また、鋼管の管本体は、軸方向全長に亘ってほぼ均一な外径及び内径を有することが好ましい。前記ピンは、鋼管の管本体の端部に設けられる。
【0034】
なお、鋼管を製管する際は工具を用いて回転させながら内外表面が圧延される。しかし、圧延時の工具位置、工具の摩耗や圧延温度などの諸因子の影響を受けるため、必ずしも鋼管の断面形状が真円ではなく、楕円等の非真円形状に変形することがある。真円、非真円の形状によらず、製造された鋼管の外径を円周方向で複数点計測し、その最大値が、API(米国石油協会)で定める値(現在の規格上は鋼管外径の公称値の101%)以内であれば合格品として出荷している。本開示における鋼管の外径ODは、鋼管外径の公称値であってよい。
【0035】
内径に関しても、製造された鋼管に対し、特開2016-130668号公報に開示しているように、ドリフトゲージを用いて鋼管の内径並びに内表面検査を実施している。このドリフトゲージの直径もAPI規格で定められており、10‐3/4″65.7#(管本体外径:273.05mm、管本体内径:242.82mm)の鋼管の場合、ドリフト径は(鋼管内径公称値-5/32)インチと規定されているため、製造された鋼管の内径の最小値が242.82-5/32×25.4=238.851mm以上であれば合格品として出荷できる。本開示における鋼管の内径IDは、鋼管内径の公称値であってよい。
【0036】
また、ねじ山高さTHについても、鋼管のねじ山高さの公称値であってよい。また、上記式(1)のDWおよびWminについては、テーパねじのプロファイルを規定する各種パラメータ、例えばねじ長さ、ねじテーパ角、ねじ山高さ、荷重面ピッチ、挿入面ピッチなどのそれぞれの公称値に基づいて算出された値であってよい。
【0037】
なお、上記公称値は、油井管の場合にはAPI規格に適合するものであり、API規格に定められた公差内であれば各部の寸法が公称値であるとすることができる。外径OD、内径ID、ねじ山高さTH、DWおよびWminは、それぞれの実測値であってもよい。鋼管の断面形状が真円でない場合には、断面が真円形状となるように鋼管を現実に若しくはシミュレーション上で矯正したときのそれぞれの値を用いることが好ましい。
【0038】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手を説明する。図中、同一及び相当する構成には同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0039】
図1を参照して、本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手1は、管状のピン10と、管状のボックス20とを備える。ピン10は、鋼管2の端部に形成される。ボックス20は、カップリング3の端部に形成され、ピン10が挿入されてピン10と締結される。本明細書において、鋼管2の端部以外の部分を「管本体」ということがある。
図1には、鋼管2の軸心CLと、鋼管2の管本体の外径OD、すなわち外周面の直径と、管本体の内径ID、すなわち内周面の直径とが示されている。本実施形態の鋼管2は、管本体の外径ODが240mmより大きい大径サイズの鋼管である。
【0040】
ピン10は、雄ねじ11と、リップ12とを有する。雄ねじ11は、ピン10の外周面に螺旋状に形成されたねじ山から構成される。雄ねじ11は、ねじ山幅がピン10の先端側に至るにしたがって徐々に狭くなる楔形ねじで構成される。雄ねじ11のねじ山は、ダブテイル形状の断面形状を有する。リップ12は、雄ねじ11の先端側のねじ終端部よりも先端側に延びている。リップ12の外周面には、ピンシール13が設けられている。ピンシール13は、図示例では断面円弧状の円筒状シール面により構成されているが、ピンシール13の断面形状は直線状であってもよいし、直線と円弧とを組み合わせた形状であってもよい。
【0041】
ボックス20は、ピン10を受け入れる開口端部を有する。ボックス20は、その内周面に設けられた雌ねじ21と、ボックスシール22とを含む。雌ねじ21は、雄ねじ11に対応してボックス20の内周面に螺旋状に形成されたねじ山から構成される。雌ねじ21は、ねじ山幅がボックス20の開口端部から奥側に至るにしたがって徐々に広くなる楔形ねじで構成される。雌ねじ21のねじ山は、ダブテイル形状の断面形状を有する。ボックスシール22は、雌ねじ21よりもボックス20の奥側に設けられたテーパ面からなる。なお、ボックスシール22は、断面円弧状の円筒状シール面により構成されていてもよいし、断面において直線と円弧とを組み合わせた形状であってもよい。
【0042】
本実施形態の雄ねじ11は、
図1及び
図2に示すように、ピン完全ねじ部とピン不完全ねじ部とを有する。ピン完全ねじ部は、所定のねじ山高さT
Hを有し、所定の荷重面ピッチLP及び挿入面ピッチSPでねじ山が形成された部分である。ピン不完全ねじ部は、テーパねじのテーパ形状を定義する仮想テーパ面が鋼管2の外表面に交わることにより、鋼管2の外表面の切削深さが不足して、所定のねじ山高さが形成されていない部分である。また、雌ねじ21は、ボックス完全ねじ部とボックス不完全ねじ部とを有する。ボックス完全ねじ部は、ボックス20の開口端部近傍からピン10の雄ねじ11の第2ねじ山近傍まで設けられている。ボックス不完全ねじ部のねじ山は、ピン10及びボックス20の締結状態でピン10の雄ねじ11の第1ねじ山11Aに係合する。締結状態では、
図2に示すように、雄ねじ11のねじ山頂面と雌ねじ21のねじ底面との間には僅かな隙間(例えば0.1mm程度)が形成され、雌ねじ21のねじ山頂面と雄ねじ11のねじ底面とは接触するように、雄ねじ11の完全ねじ部のねじ山高さは、雌ねじ21の完全ねじ部のねじ山高さより小さい。締結状態で雄ねじ11の完全ねじ部と雌ねじ21の完全ねじ部とが嵌合する範囲は、好ましくは40~60mmの軸長を有する。
【0043】
なお、
図1及び2に示すように、雄ねじ11及び雌ねじ21のねじ山の荷重面11L,21L及び挿入面11S,21Sは、それぞれ負のフランク角θを有する。荷重面11L,21L及び挿入面11S,21Sのフランク角θは同じでもよいし、異なるフランク角が設定されていてもよい。
【0044】
ピン10とボックス20とが締結されている状態では、雄ねじ11のねじ山の挿入面11S及び荷重面11Lが、それぞれ雌ねじ21のねじ山の挿入面21S及び荷重面21Lと接触することによってピン10がボックス20にロックされ、これにより高い耐トルク性能を発揮するとともに、ピンシール13がボックスシール22に締まり嵌めの状態で嵌合して高い密封性能が発揮される。
【0045】
本実施形態では、
図1及び
図3に示すように、雄ねじ11の完全ねじ部の先端側のねじ終端部のねじ山11Aが、次の式(1)及び(2)を満たすように、雄ねじ11のプロファイルが設計されている。
【0046】
【0047】
式(1)及び(2)中、ODは鋼管2の外径、IDは鋼管の内径、DWはねじ山11Aの荷重面側の底径、THはねじ山11Aの荷重面側のねじ溝を基準としたねじ山高さ、Wminはねじ山11Aのねじ底のねじ山幅である。
【0048】
本実施形態に係る鋼管用ねじ継手1は、雄ねじ11及び雌ねじ21を楔形ねじで構成し、且つ、雄ねじ11の第1ねじ山11Aの底部の最小ねじ山幅を3mm以上確保しつつも、上記式(1)を満たすように雄ねじ11を構成することで、高い耐トルク性能、高い密封性能、並びに、高い耐せん断性能をバランス良く両立できる。
【0049】
本開示は、カップリング型だけでなく、インテグラル型のねじ継手にも適用できる。その他、本開示は上記の実施の形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0050】
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値解析シミュレーションにより、耐トルク性能、密封性能並びに耐せん断性能を評価した。
【0051】
<試験条件>
FEM解析では、ねじプロファイルを変えた複数の供試体(解析モデル)を作成し、各供試体毎に弾塑性有限要素法解析を実施して性能の差を比較した。各供試体は、
図1~
図3に示す基本構造を有するカップリング型のねじ継手であり、以下の鋼管を用いた。
鋼管サイズ: 10‐3/4″65.7#(管本体外径:273.05mm、管本体内径:242.82mm)
材料:API規格の油井管材料Q125(公称耐力YS=862MPa(125ksi))
ねじの荷重面及び挿入面のフランク角:-5°
【0052】
表1は、解析に供試したねじ継手の寸法等を示す。
【0053】
【0054】
表1中、供試体#1は従来の中小径サイズの鋼管用ねじ継手と同様の設計ルールで作成されたものであり、供試体#2~#7は、供試体#1の設計をベースとして、荷重面ピッチLPと挿入面ピッチSPとを変更したものである。供試体#8は、供試体#1をベースとして、その荷重面ピッチLPを11.00mm、挿入面ピッチSPを10.50mmとし、かつ、ねじ山高さTHを大きくしたねじプロファイルを有する。供試体#9は、供試体#8をベースとして、ねじテーパを小さくすることでねじ長さを大きくしたねじプロファイルを有する。供試体#1~#9について式(1)の値並びにWminの値を求めたところ、供試体#1~#3は本開示の範囲内ではない比較例であり、供試体#4~#9が本開示の範囲内となった。なお、表1中、「ねじ長さ」は、完全ねじ部及び不完全ねじ部を含むねじ全長である。「ねじテーパ」は、雄ねじの断面における各ねじ山の荷重面の高さ方向中間を通る直線と、鋼管の軸心との間の角度の2倍の角度である。
【0055】
[耐トルク性能の評価]
トルク性能については、締結トルク線図が降伏し始める値MTV(Maximum Torque Value)を降伏トルクと定義し、その値で評価した。その評価結果を表1及び
図4に示す。
【0056】
[密封性能の評価]
密封性能評価については、
図5に示されるように、実体試験を模擬した複合荷重を負荷し、シール13,22に生じるシール接触力を算出した。荷重経路において接触力が最も低い値を最小シール接触力Fsと定義し、その値の大小で密封性能を評価した。その評価結果を表1及び
図6に示す。
【0057】
[耐せん断性能]
耐せん断性能については、鋼管2の管本体が降伏する引張荷重の90%の荷重を負荷し、雄ねじ11のせん断破壊の起点となる第1ねじ山11Aの荷重面側のねじ底近傍の表面(荷重面と荷重面側ねじ溝表面とを接続するR部近傍の表面)のせん断塑性ひずみPsを算出し、この値の絶対値が小さいほど耐せん断性能に優れていると評価した。その評価結果を表1及び
図7に示す。
【0058】
[評価結果]
図4に示すように、供試体#1~#7については、ねじ山の荷重面ピッチLPの増加に伴い、MTVは若干低下したものの、製品に要求される耐トルク性能は確保されていると評価できる。また、供試体#8及び#9では、雄ねじの剛性が向上したこと、並びに、ねじ長さが若干増加したことよりMTVは若干増加した。かかる結果より、本開示にしたがったねじ継手は、従前の中小径サイズの鋼管用ねじ継手と同様の設計ルールにしたがったねじ継手と同等の耐トルク性能を発揮するものと評価できる。
【0059】
一方、
図6に示すように、供試体#1~#7については、ねじ山の荷重面ピッチLPが変化しても、最小シール接触力Fsはほぼ横ばいで推移した。また、供試体#8及び#9では、供試体#1~#7に比して、密封性能は若干低下した。しかしながら、その低下量は許容し得る範囲に抑えられており、製品に求められる密封性能は確保できているものと評価できる。なお、いずれの供試体においても、最小シール接触力Fsは、外圧+圧縮の荷重ステップ(9),(17)におけるものであった。
【0060】
耐せん断性能については、
図7に示すように、本開示の条件を満たさない供試体#2及び#3ではせん断塑性ひずみPsが供試体#1に比して殆ど低減しなかった。一方、本開示にしたがった供試体#4~#9のいずれにおいても、供試体#1に比して大幅にせん断塑性ひずみPsが低減できていることが判る。
【0061】
以上より、本開示にしたがった供試体#4~#9は、耐トルク性能と密封性能については供試体#1と同程度であるものの、耐せん断性能は格段に向上することが判明した。
【0062】
[実管試験]
供試体#1及び#9について、サンプルを製造して、実管試験による耐せん断性能評価も実施した。
【0063】
試験サンプルの表面処理は、ピンについては切削後の表面処理を行わず、ボックスはリン酸マンガンによる表面処理を行った。ピン及びボックスの締結の際に、継手部に環境適合型潤滑剤であるBOL4010NMを塗布し、所定のトルクで締結した後、鋼管の管本体が降伏する引張圧縮荷重の90%の引張荷重及び圧縮荷重を交互に負荷する引張圧縮試験を行い、ピンの雄ねじのせん断破壊の有無を確認した。
【0064】
かかる試験の結果、供試体#1は、15回目の引張時に雄ねじがせん断破壊したのに対し、供試体#9では、25回の引張荷重及び圧縮荷重の繰り返し負荷によってもせん断破壊は発生しなかった。これにより、本開示に係るねじ継手の優れた耐せん断性能が実証された。
【符号の説明】
【0065】
1:鋼管用ねじ継手,10:ピン,11:雄ねじ,20:ボックス,21:雌ねじ
2:鋼管