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特許7185107有機性排出物の発酵生産物を利用した揮発性有機成分の除去方法
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  • 特許-有機性排出物の発酵生産物を利用した揮発性有機成分の除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】有機性排出物の発酵生産物を利用した揮発性有機成分の除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/85 20060101AFI20221130BHJP
   B01D 53/44 20060101ALI20221130BHJP
   B01D 53/52 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B01D53/85 ZAB
B01D53/44 100
B01D53/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2016046310
(22)【出願日】2016-03-09
(65)【公開番号】P2016172250
(43)【公開日】2016-09-29
【審査請求日】2019-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2015053937
(32)【優先日】2015-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503040413
【氏名又は名称】株式会社県南衛生工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葉坂 勝
(72)【発明者】
【氏名】矢部 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真哉
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】山田 倍司
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532967(JP,A)
【文献】特開2009-273987(JP,A)
【文献】特開平9-225254(JP,A)
【文献】特開平5-329326(JP,A)
【文献】特許第3416067(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34-53/85,53/92,53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排出物の発酵・分解化により得られた発酵生産物と、揮発性有機成分を含むガスとを接触させる工程を含む、ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去する方法であって、
発酵生産物が担体と混合又は固定化されており、
発酵生産物が、木質材、天然繊維質を粉砕して最初の床材とし、それに有機性排出物を投入混合し、続いて切り替え搬送装置を稼働させて、有機性排出物を発酵槽の搬出口の方向に移動させるとともに発酵・分解させる工程を連続的に繰り返す槽内循環するシステムにより生産されたものであり、
揮発性有機成分が、硫化水素、ヘキサデカフルオロ-ヘプタン、パーフルオロオクチルヨージド、トルエン、エチルベンゼン、p-キシレン、o-キシレン、1,3-ジメチル-ベンゼン、ノナン、α-ピネン、(1S)-2,6,6-トリメチルビシクロ[3.1,1]ヘプタ-2-エン、プロピル-ベンゼン、1-エチル-2-メチル-ベンゼン、2,6-ジメチル-ヘプタン、1,2,3-トリメチル-ベンゼン、メシチレン、デカン、4-メチル-デカン、2-エチル-1,4-ジメチル-ベンゼン、1-エチル-3,5-ジメチル-ベンゼン、o-シメン、1-エチル-2,4-ジメチル-ベンゼン、及びウンデカンからなる群から選択される少なくとも1種である、上記方法
【請求項2】
揮発性有機成分が、硫化水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触させる工程が、揮発性有機成分を含むガスを発酵生産物を含むカラム内に通過させることにより行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
有機性排出物の発酵・分解化により得られた発酵生産物と担体とを含む、ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去するために使用される組成物であって、
発酵生産物が担体と混合又は固定化されており、
発酵生産物が、木質材、天然繊維質を粉砕して最初の床材とし、それに有機性排出物を投入混合し、続いて切り替え搬送装置を稼働させて、有機性排出物を発酵槽の搬出口の方向に移動させるとともに発酵・分解させる工程を連続的に繰り返す槽内循環するシステムにより生産されたものであり、
揮発性有機成分が、硫化水素、ヘキサデカフルオロ-ヘプタン、パーフルオロオクチルヨージド、トルエン、エチルベンゼン、p-キシレン、o-キシレン、1,3-ジメチル-ベンゼン、ノナン、α-ピネン、(1S)-2,6,6-トリメチルビシクロ[3.1,1]ヘプタ-2-エン、プロピル-ベンゼン、1-エチル-2-メチル-ベンゼン、2,6-ジメチル-ヘプタン、1,2,3-トリメチル-ベンゼン、メシチレン、デカン、4-メチル-デカン、2-エチル-1,4-ジメチル-ベンゼン、1-エチル-3,5-ジメチル-ベンゼン、o-シメン、1-エチル-2,4-ジメチル-ベンゼン、及びウンデカンからなる群から選択される少なくとも1種である、上記組成物
【請求項5】
揮発性有機成分が、硫化水素である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
有機性排出物の発酵・分解化により得られた発酵生産物を含む、ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去するために使用されるカラムであって、
発酵生産物が担体と混合又は固定化されており、
発酵生産物が、木質材、天然繊維質を粉砕して最初の床材とし、それに有機性排出物を投入混合し、続いて切り替え搬送装置を稼働させて、有機性排出物を発酵槽の搬出口の方向に移動させるとともに発酵・分解させる工程を連続的に繰り返す槽内循環するシステムにより生産されたものであり、
揮発性有機成分が、硫化水素、ヘキサデカフルオロ-ヘプタン、パーフルオロオクチルヨージド、トルエン、エチルベンゼン、p-キシレン、o-キシレン、1,3-ジメチル-ベンゼン、ノナン、α-ピネン、(1S)-2,6,6-トリメチルビシクロ[3.1,1]ヘプタ-2-エン、プロピル-ベンゼン、1-エチル-2-メチル-ベンゼン、2,6-ジメチル-ヘプタン、1,2,3-トリメチル-ベンゼン、メシチレン、デカン、4-メチル-デカン、2-エチル-1,4-ジメチル-ベンゼン、1-エチル-3,5-ジメチル-ベンゼン、o-シメン、1-エチル-2,4-ジメチル-ベンゼン、及びウンデカンからなる群から選択される少なくとも1種である、上記カラム
【請求項7】
揮発性有機成分が、硫化水素である、請求項6に記載のカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排出物の発酵生産物を利用した、ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
埋立地や廃棄物最終処分場等では、石膏ボード等の廃棄物に起因する硫酸イオンが、有機物の存在下、嫌気状態において微生物によって還元されることにより硫化水素が発生する。硫化水素は悪臭防止法第2条において「不快な臭いの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質」として特定悪臭物質に指定されているだけでなく、人体への毒性が強いことから、硫化水素の発生や拡散は近隣住民に大きな影響を及ぼし得る。
【0003】
今日では、硫化水素の発生を抑えるべく、廃棄物と鉄粉を混合して硫酸イオンを硫化鉄に変換して安定化する方法、覆土として有機物の少ない関東ローム層土壌(火山灰土壌)や石灰とコンクリートの混合物を用いる方法、発生した硫化水素を水酸化ナトリウム溶液で中和する方法、消臭液や硫化水素除去液の散布、燃焼脱臭装置の設置等が検討されているが、このような化学的処理や物理的処理を用いた手法はいずれも多大なコストがかかることが問題となっている。
【0004】
そのため、当該分野においては、低コストで効率的に硫化水素等の揮発性有機成分を除去することが可能な新たな手法が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硫化水素等の揮発性有機成分を低コストでかつ効率的に除去することが可能な新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、有機性排出物を発酵・分解する過程で得られる発酵生産物を、硫化水素等の揮発性有機成分を含むガスと接触させることによって、ガス中に含まれる硫化水素等の揮発性有機成分を低減又は除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有する。
[1] 有機性排出物の発酵・分解化により得られた発酵生産物と、揮発性有機成分を含むガスとを接触させる工程を含む、ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去する方法。
[2] 発酵生産物が担体と混合又は固定化されている、[1]の方法。
[3] 前記接触させる工程が、揮発性有機成分を含むガスを発酵生産物を含むカラム内に通過させることにより行われる、[1]又は[2]の方法。
[4] 発酵生産物がハザカプラントより生産されたものである、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] 有機性排出物の発酵・分解化により得られた発酵生産物と担体とを含む組成物。[6] 発酵生産物が担体に固定化されている、[5]の組成物。
[7] ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去するために使用される、[5]又は[6]の組成物。
[8] 発酵生産物がハザカプラントより生産されたものである、[5]~[7]のいずれかの組成物。
[9] 有機性排出物の発酵・分解化により得られた発酵生産物を含むカラム。
[10] 発酵生産物が担体と混合又は固定化されている、[9]のカラム。
[11] ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去するために使用される、[9]又は[10]のカラム。
[12] 発酵生産物がハザカプラントより生産されたものである、[9]~[11]のいずれかのカラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、有機性排出物を発酵・分解する過程で得られる発酵生産物を硫化水素等の揮発性有機成分を含むガスと接触させることによって、ガス中に含まれる硫化水素等の揮発性有機成分を低減又は除去することができる。本発明によれば、従来法と比べて低コストで、簡便かつ効率的に硫化水素等の揮発性有機成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、発酵生産物を充填したカラムを用いた、ガス中に含まれる硫化水素及びその他の揮発性有機成分の除去方法を示す模式図である。
図2-1】図2-1は、発酵生産物を充填したカラムの通過前後における、ガス中に含まれる硫化水素濃度の測定結果を示す。表中の数値の単位はppmである。
図2-2】図2-1の続き。
図3図3は、発酵生産物を充填したカラムの通過前後における、ガス中に含まれる各種揮発性有機成分量の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において「発酵生産物」とは、有機性排出物を微生物により発酵・分解化又は堆肥化することにより得られた生産物を意味し、有機性排出物の発酵・分解化又は堆肥化において一般的に用いられる手法により得ることができる。例えば、発酵生産物は、剪定枝、バーク、木屑、抜根、流木、モミガラ等の木質材や天然繊維質を粉砕して最初の床材とし、それに有機性排出物を投入・混合し発酵・分解させて得られた生産物であり、より好ましくは、その得られた生産物をさらに「床材」として用いて、それに有機性排出物を混合・投入し発酵・分解することによりさらなる生産物を得る工程を繰り返すことによって得られた生産物である。当該工程を繰り返すことによって、発酵生産物中に含まれる病原性の微生物を死滅させ、有機性排出物の発酵・分解に優良な微生物を増やすことができる。すなわち、「発酵生産物」とは、有機性排出物の発酵・分解に優良な微生物が着床した床材といえる。
【0011】
「有機性排出物」としては、下水処理施設、屎尿処理施設、汚水処理施設又は浄化槽等から排出される汚泥や汚水類、家畜糞尿、水産魚介類残査物、食肉加工場や食品加工場から排出される残査物、家庭や食堂、学校給食、レストラン、ホテル、旅館等から排出され生ゴミと称される厨芥類、外食産業、スーパー、デパート等から排出される食品の売れ残り品や残査物、酒、焼酎、ビール、味噌、醤油、漬け物等の醸造産業から排出される残査物等が挙げられる。
【0012】
発酵生産物は、有機性排出物の発酵・分解化又は堆肥化において一般的に用いられる手法により得ることができ特に限定されるものではないが、例えば特許第3416067号公報に記載される手法により得ることができる。
【0013】
すなわち、上記木質材等を含む最初の床材を、予め発酵槽内に適量入れ、床をつくる。切り替え搬送装置を1回稼働させることによって、予め詰め込まれた木質材等が搬出口から搬出される。この搬出されたものを、投入する有機性排出物とともに投入混合させる。「投入混合」は、予め有機性排出物と混合してから投入してもよいが、有機性排出物と同時に投入することによって行ってもよい。有機性排出物が液状のもの、例えば尿等の場合は、発酵槽の中央近辺に直接散布することが好ましい。この投入混合の工程は毎日1回程度行うことが好ましいが、その回数は投入物の質と量に応じて適宜変更することができる。切り替え搬送装置はこの間稼働させて有機性排出物を搬出口の方向に移動させるとともに、発酵・分解を助長させる。「切り替え」とは、槽内容物の上部と下部を置き換えながら混ぜ合わせることであるが、槽内容物を攪乱して混ぜ合わせる、いわゆる「攪拌」もこの範疇に含まれる。
【0014】
搬出口から搬出されたものは、再び有機性排出物とともに投入混合し発酵・分解させる。これを繰り返して行うことができる。本発明においては、少なくとも1回以上の投入混合、続く発酵・分解の工程を経て、搬出口から搬出されたものを「発酵生産物」として利用することができる。
【0015】
好ましくは、発酵槽として「ハザカプラント」(県南衛生工業)(特許第3416067号公報)を利用することができる。本発明においては、ハザカプラントより生産された発酵生産物を利用することができる。ハザカプラントは上記投入混合、続く発酵・分解の工程を連続的に繰り返す槽内循環するシステムであり、ハザカプラントより生産された発酵生産物には長年馴養され、代謝が活発で選りすぐりの微生物群が安定的に存在しており、その数は1g当たりおよそ300億匹も存在し、これは通常の土壌の100倍にあたる。ハザカプラントより生産された発酵生産物は他社の小規模な発酵槽を用いた場合と比べて、微生物相が初期に固定されやすく、その相の再現性が高いことを特徴とする。また、ハザカプラントより生産された発酵生産物は、単位面積あたりに棲息する微生物の数が多く、かつ通気性が良いことから、本発明において好適に利用することができる。
【0016】
発酵生産物は、担体と混合された組成物の形態とすることができる。好適な担体としては、例えば、樹脂、ガラス、金属等が挙げられるがこれらに限定はされない。担体の形状は、例えば、球、繊維、粒子、棒、平板、フィルム等の任意の形状とすることができる。担体は多孔質や繊維状であることが好ましい。担体を多孔質や繊維状とすることにより、担体の表面積や通気性を増大し、発酵生産物と混合された場合に、発酵生産物とガスの接触を効率的に行うことができる。
【0017】
発酵生産物は、担体に固定化された形態とすることができる。担体への発酵生産物の固定化は、任意の手段により行うことができ、例えば、糊、ボンド、接着剤等を担体に噴霧/塗布し、これに発酵生産物を付着させることにより行うことができる。
【0018】
発酵生産物は、給気及び排気のための開口部が供えられた容器に充填することができる。容器の大きさや形状は特に限定されず、開口部(流入口)より給気されたガスが、容器内を充填された発酵生産物に接触しながら通過して開口部(排気口)より排気されるものであればよい。開口部の大きさや数は特に限定されず、少なくとも一つ以上、より好ましくは、給気のための少なくとも一つの開口部と排気のための少なくとも一つの開口部を備えることができる。
【0019】
なお、本明細書中、発酵生産物が充填された当該容器を「カラム」と記載する場合がある。
【0020】
発酵生産物は、ガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去する方法において利用することができる。
【0021】
本発明において「揮発性有機成分」とは硫黄化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、テルペン等の化合物が挙げられ、このような化合物には例えば、硫化水素、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ヘプタン、ノナン、デカン、ウンデカン、パーフルオロオクチルヨージド、ピネン等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0022】
本発明手法においては、揮発性有機成分を含むガスを発酵生産物と接触させることを含む。「揮発性有機成分を含むガス」としては、揮発性有機成分の発生源(例えば、埋立地、廃棄物最終処分場、屎尿処理場、下水処理場、ヘドロ、下水管、石油精製工場、化学工場、パルプ製造工場等(これらに限定はされない))より排出されるガスが挙げられる。
【0023】
揮発性有機成分を含むガスと発酵生産物との接触様式は、両者を接触させることができ、それによってガス中に含まれる揮発性有機成分を低減又は除去できればよく、特に限定されないが、揮発性有機成分を含むガスを発酵生産物が充填されたカラム中に通過させることにより行うことができる。当該カラムを使用することにより、揮発性有機成分を含むガスと発酵生産物とを効率的に接触させることができ、ガス中に含まれる揮発性有機成分を効率的に低減又は除去することができる。カラムには随時、発酵生産物を追加してもよいし、カラム中に含まれる発酵生産物を随時、撹拌及び/又は交換してもよく、これにより揮発性有機成分の低減又は除去効率の低下を防ぐことができる。
【0024】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0025】
実施例1:ラボスケールでの硫化水素無毒化試験
1cm角程度の大きさに調製したスポンジに糊をスプレーで塗し、これにハザカプラントより生産された発酵生産物をまんべんなく付着させ、ガスの流入口と排気口を設けた13L容のプラスチックコンテナーにこれを充填し、流入口と排気口を除いて密封した。対照には、発酵生産物を付着させていない1cm角程度の大きさのスポンジを、同様の13L容のプラスチックコンテナーに充填したものを用いた。
【0026】
各プラスチックコンテナーの流入口を閉じ、排気口より内部の気体を排出した後、排気口も閉じた。
【0027】
次いで、廃棄物埋立処分場のガス抜き管から排出されたガス(180ppmの硫化水素を含む)を、各プラスチックコンテナーの流入口より噴入・充填し、流入口を閉じて1分間静置した。
【0028】
次いで、排出口を開け、各プラスチックコンテナーより排出されたガス中の硫化水素濃度を検知管(ガステック社製)を用いて測定した。
【0029】
結果、発酵生産物を付着させたスポンジを充填させたプラスチックコンテナーより排出されたガス中の硫化水素濃度は検出限界値以下となった。一方、対照のプラスチックコンテナーより排出されたガス中の硫化水素濃度に変化は認められなかった。
この結果より、発酵生産物により硫化水素を除去できることが明らかとなった。
【0030】
実施例2:フィールドでの硫化水素及びその他の揮発性有機成分の無害化実験
図1に本実施例の模式図示す。ガスの流入口(1)と排気口(2)を設けた200L容の容器にカラム(3)を調製した。
【0031】
ガスの流入口(1)はカラム(3)の底部側に配置され、廃棄物埋立処分場に設置されたガス抜き管(4)と接続した。ガス抜き管(4)には、それぞれバルブ((5’),(6’))により開閉可能な2つの開口部((5),(6))を設け、そのうちの一つをカラムの流入口(1)にチューブ(8)を介して接続した。バルブによりガス抜き管からのガスの排出方向をいずれかの開口部へと制御することができる。
【0032】
ガスの排気口(2)は、カラム(3)の上部側に設けた。
こぶし程度の大きさに調製したグラスウール(7)とハザカプラントより生産された発酵生産物(10)を混合し、それをカラム(3)に充填し、流入口(1)と排気口(2)を除いて密封した。
【0033】
バルブ(5’)を閉めて開口部(5)を閉じ、バルブ(6’)を開けて開口部(6)を開けることにより、ガス抜き管(4)より排出されたガス(9)は接続された流入口(1)よりグラスウール(7)と発酵生産物(10)を充填したカラム(3)内に侵入し、内部を通過して排気口(2)より排出される。
【0034】
(i)硫化水素
本実験においては、ガス抜き管(4)より排出されたガスにおける硫化水素濃度(流入濃度)及び排気口(2)より排出されたガス中における硫化水素濃度(流出濃度)を硫化水素測定器(ポータブルガスモニターGX-2012(理研計器社製))を用いて定期的に測定した。なお、流入濃度は、バルブ(6’)を閉めて開口部(6)を閉じ、バルブ(5’)を開けて開口部(5)を開けることにより、流入口(1)と接続されていない開口部(5)よりガスを排出することによって測定した。
【0035】
結果を図2-1及び図2-2に示す。ガス抜き管(4)より排出されたガスにおける硫化水素は、グラスウール(7)と発酵生産物(10)を充填したカラム(3)内を通過させることによって、顕著に除去又は低減できることが明らかとなった。また、この効果は長期(半年間)にわたって安定して維持されることが確認された。この事から、硫化水素の除去又は低減は、発酵生産物やグラスウールへの物理的吸着によりもたらされるものではなく、発酵生産物中の微生物の代謝による生化学的な変換によるものであることが示唆された。
【0036】
廃棄物埋立処分場のガスの温度は常に50℃程度であるため、これを通過させるカラム(3)内は冬季であっても一定の温度環境を保持することができ、発酵生産物、より詳細には発酵生産物中の微生物を安定に保持することができる。また、発酵生産物による硫化水素の除去又は低減機能は長期間にわたって維持することができ、これによりカラム(3)の維持管理の負担が少なく、硫化水素の除去又は低減に伴う人的及び設備的コストを小さくすることができる。
【0037】
(ii)硫化水素以外の揮発性有機成分
本実験においては、ガス抜き管(4)より排出されたガス(流入ガス)における硫化水素以外の揮発性有機成分の量、ならびに、排気口(2)より排出されたガス(流出ガス)中における前記揮発性有機成分の量を測定した。
【0038】
各揮発性有機成分量の測定は、ガスより固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction:SPME)法により揮発性有機成分を抽出し、ガスクロマトグラフィーにより分析することによって行った。
【0039】
すなわち、ガス抜き管(4)又は排気口(2)より排出されたガスを、それぞれコック付テドラーバック(容量5L:ポリフッ化樹脂製)(アズワン社)に回収し、コックを閉め密閉した。各テドラーバックのコック部より、固相ファイバー(SPME Fiber Assembly 85μm CAR/PDMS,Stableflex 24Ga,Manual Holder,3pk(Light Blue):SUPELCO社)を差し込み、10分間の常温吸着を行った。吸着終了後、固相ファイバーを抜き取り、直ちにガスクロマトグラフ質量分析計(GC7890A MS5975C:Agilent社)の注入口へ穿刺し、下記表1の条件で分析した。
【0040】
【表1】
【0041】
各ピークについての化合物は、得られたスペクトルデータを利用して、質量スペクトルデータベース(NIST11,米国国立衛生研究所(NIH))より検索・同定した。
【0042】
結果を図3に示す。揮発性有機成分として芳香族化合物、脂肪族化合物、テルペンの各種化合物が検出された。また、流入ガスにおける各種揮発性有機成分は、グラスウール(7)と発酵生産物(10)を充填したカラム(3)内を通過させることによって、顕著に除去又は低減できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0043】
1:流入口
2:排気口
3:カラム
4:ガス抜き管
5:開口部
5’:バルブ
6:開口部
6’:バルブ
7:グラスウール
8:チューブ
9:ガス
10:発酵生産物
図1
図2-1】
図2-2】
図3