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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/68 20060101AFI20221130BHJP
   H05K 7/20 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
F16K31/68 B
H05K7/20 M
F16K31/68 S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020056336
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021158201
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100182545
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 雪恵
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100213757
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 詩人
(72)【発明者】
【氏名】横田 純一
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280722(JP,A)
【文献】特開平11-223426(JP,A)
【文献】特開平9-329374(JP,A)
【文献】特開2020-16256(JP,A)
【文献】特開2006-292185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/64-31/72
F25B 41/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過する冷媒の流量を冷却対象の温度に応じて調整する流量調整弁と、前記冷媒を所定方向に送り出す送流体手段と、前記冷媒を放熱する放熱手段と、前記冷媒を通過させるとともに前記冷却対象から受熱する受熱部と、を備え、前記流量調整弁と前記送流体手段と前記放熱手段とを接続する流路において前記冷媒を循環させる冷却装置であって、
前記流量調整弁は、前記冷媒が導入される一次ポートと、前記一次ポートから流入した前記冷媒を通過させる弁ポートを有する弁本体と、前記弁本体に移動自在に設けられて前記弁ポートの開度を変更する弁体と、前記弁ポートを通過した前記冷媒を送り出す二次ポートと、前記弁体に所定の弁閉力を付与する弁閉力付与手段と、前記弁体を駆動する駆動エレメントと、を備え、
前記駆動エレメントは、封入ガスが封入される封入空間を形成する空間形成部と、前記冷媒が導入される空間と前記封入空間とを区画するとともに前記弁体に対して弁開力を付与可能なダイヤフラムと、を有し、
前記空間形成部は、前記冷却対象の熱を前記封入空間の内部に伝達する伝熱部を有し、
前記冷媒が流れる方向において、前記流量調整弁が前記受熱部に対して下流側に設けられていることを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記空間形成部は、開口を有する箱状に形成されるとともに、前記開口を覆うように前記ダイヤフラムが設けられ、
前記空間形成部を構成する壁部の少なくとも一部が前記伝熱部として機能することを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記空間形成部は、前記壁部としての底部及び筒状部を有して有底筒状に形成され、
前記底部は、前記受熱部に接触することにより、前記伝熱部として機能することを特徴とする請求項2に記載の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷媒(流体)を用いて冷却対象を冷却する冷却装置では、冷却対象の温度に応じて冷却能力が変化するような構成が採用されることがある。従来、このような冷却装置として、作動流体の圧力に応じて弁開度が調節される流量調整弁が設けられたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された冷却装置では、冷却器の上流側と下流側とにおける作動流体の圧力差によってダイヤフラムが変位し、流量調整弁が移動することにより、冷却器を通過する作動流体の流量が調節されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-038302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された冷却装置では、作動流体の圧力差を利用して弁を移動させる圧力式の調節方法が採用されているため、例えば作動流体における温度変化に対する圧力変化が小さい場合や、冷却器の上流側からダイヤフラムに至るまでの流路において圧力損失が大きい場合等に、冷却対象の温度変化に対する弁開度の応答性(即ち、冷却能力の応答性)が低くなってしまう可能性があった。そこで、作動流体とは異なる弁開度調節用のガスを用い、冷却対象の温度変化に応じて弁開度調節用のガスの圧力を変化させることにより、弁開度を調節する方法(温度方式の調節方法)が考えられる。
【0005】
このような温度方式の調節方法では、ダイヤフラムによって、作動流体(冷媒)が導入される空間と、弁開度調節用のガスが導入された空間と、が区画されるため、ダイヤフラムを介して、両側の空間の流体同士で熱交換されてしまう可能性があった。特に、作動流体の方が弁開度調節用のガスよりも低温である場合、弁開度調節用のガスの熱が奪われてしまうため、冷却対象の熱を利用して弁開度調節用のガスの圧力を上昇させることが困難になってしまう。そこで、冷却装置において温度方式の調節方法を採用するとともに、温度に対する応答性を向上させることが望まれていた。
【0006】
本発明の目的は、温度に対する応答性を向上させることができる冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の冷却装置は、通過する冷媒の流量を冷却対象の温度に応じて調整する流量調整弁と、前記冷媒を所定方向に送り出す送流体手段と、前記冷媒を放熱する放熱手段と、前記冷媒を通過させるとともに前記冷却対象から受熱する受熱部と、を備え、前記流量調整弁と前記送流体手段と前記放熱手段とを接続する流路において前記冷媒を循環させる冷却装置であって、前記流量調整弁は、前記冷媒が導入される一次ポートと、前記一次ポートから流入した前記冷媒を通過させる弁ポートを有する弁本体と、前記弁本体に移動自在に設けられて前記弁ポートの開度を変更する弁体と、前記弁ポートを通過した前記冷媒を送り出す二次ポートと、前記弁体に所定の弁閉力を付与する弁閉力付与手段と、前記弁体を駆動する駆動エレメントと、を備え、前記駆動エレメントは、封入ガスが封入される封入空間を形成する空間形成部と、前記冷媒が導入される空間と前記封入空間とを区画するとともに前記弁体に対して弁開力を付与可能なダイヤフラムと、を有し、前記空間形成部は、前記冷却対象の熱を前記封入空間の内部に伝達する伝熱部を有し、前記冷媒が流れる方向において、前記流量調整弁が前記受熱部に対して下流側に設けられていることを特徴とする。
【0008】
以上のような本発明によれば、冷媒が流れる方向において流量調整弁が受熱部に対して下流側に設けられていることで、冷却対象と熱交換することで温度上昇した冷媒が、ダイヤフラムによって封入空間に対して区画される空間に導入される。従って、熱交換前の冷媒が流量調整弁に対して導入される構成と比較して、冷却対象の熱が封入空間の内部に伝達されて封入空間において封入ガスの圧力が上昇する際に、封入空間と冷媒が導入される空間との温度差を小さくすることができる。即ち、封入空間の温度低下を抑制し、封入空間において封入ガスの圧力を正常に上昇させて弁開力を生じさせることができ、温度に対する応答性を向上させることができる。
【0009】
この際、本発明の冷却装置では、前記空間形成部は、開口を有する箱状に形成されるとともに、前記開口を覆うように前記ダイヤフラムが設けられ、前記空間形成部を構成する壁部の少なくとも一部が前記伝熱部として機能することが好ましい。さらに、本発明の冷却装置では、前記空間形成部は、前記壁部としての底部及び筒状部を有して有底筒状に形成され、前記底部は、前記受熱部に接触することにより、前記伝熱部として機能することが好ましい。このような構成によれば、冷却対象の熱を封入空間の内部に伝達しやすく、さらに応答性を向上させることができる。特に、伝熱部としての底部を受熱部に接触させることにより、底部と受熱部との間で熱交換する際の面積を確保しやすい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の冷却装置によれば、冷媒が流れる方向において流量調整弁が受熱部に対して下流側に設けられていることで、温度に対する応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一例である実施形態にかかる冷却装置を示すシステム図である。
図2】前記冷却装置の流量調整弁を示す断面図である。
図3】前記流量調整弁の各空間における圧力温度特性を示すグラフである。
図4】前記流量調整弁の弁開度温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の冷却装置100は、図1に示すように、4つの流量調整弁1と、冷媒を所定方向に送り出す送流体手段としてのポンプ101と、冷媒を放熱する放熱手段としての放熱器102と、4つの受熱部としての冷却器(例えばコールドプレート)103を備え、冷媒が循環する流路を形成する。この冷却装置100は、例えば、純水やフッ素系不活性液体(例えばフロリナート(登録商標)や、ガルデン(登録商標)、ノベック(登録商標))等の絶縁性の冷媒を用い、電気自動車やハイブリッド車等に搭載される電気機器を冷却する。即ち、電気自動車やハイブリッド車にはモータやインバータ等の発熱を伴う発熱部品が搭載されており、冷却装置100はこれらの発熱部品を冷却する。あるいは、大型のコンピュータシステムやサーバ等に搭載される電子部品を冷却する。即ち、大型のコンピュータシステムやサーバ等にはCPUやメモリ等の発熱量の大きい発熱部品が搭載されており、冷却装置100はこれらの発熱部品を冷却する。複数の発熱部品を1つのユニット(冷却対象)と捉え、図1に示す例では、冷却装置100は4つの冷却対象201~204を冷却するものとする。尚、冷却装置が冷却する冷却対象の数は任意であるが、冷却対象の数と同数の流量調整弁及び冷却器が設けられていることが好ましい。
【0013】
4つの冷却対象201~204のそれぞれに対して冷却器103及び流量調整弁1が設けられており、4つの流量調整弁1は並列に接続されている。ポンプ101によって送り出された冷媒は、冷却対象201~204に接触するように設けられた冷却器103内を通過することで冷却対象201~204と熱交換し、流量調整弁1を通過し、放熱器102によって放熱され、再びポンプ101に戻る。尚、冷却器103は、冷媒を通過させるとともに冷却対象201~204から受熱することで受熱部として機能するものであればよく、冷却対象201~204から冷媒に充分に熱伝達させることができるものであればよい。即ち、冷却器103と冷却対象201~204とが直接接触してもよいし、熱伝達部材を介して冷却対象201~204から冷却器103に熱伝達される構成であってもよい。このとき、各々の冷却器103を通過する冷媒の流量は、後述するように流量調整弁1によって調節され、温度の高い冷却対象201~204に対して設けられた冷却器103に、より多くの冷媒が流れるようになっている。図1に示す例では、冷却対象201の温度が比較的高く、冷却対象201に対して設けられた冷却器103を通過する冷媒の流量が多くなっている。尚、冷却対象201~204の合計の発熱量に基づいて、ポンプ101が送り出す冷媒の流量が調節されてもよい。
【0014】
ポンプ101としては、液体状態の冷媒(液冷媒)を送り出すためのポンプを用いることが好ましい。このとき、冷却器103及び流量調整弁1を通過する冷媒は液体であることが好ましいが、冷却装置100の流路の一部において冷媒が気液混合状態となってもよい。放熱器102は、自然に放熱する方式であってもよいし、送風されて放熱する方式であってもよいし、あるいは、水冷方式であってもよい。
【0015】
以下に、流量調整弁1の詳細について説明する。流量調整弁1は、図2に示すように、弁本体としてのハウジング2と、一次側導管3と、二次側導管4と、弁体5と、弁体5に弁閉方向の力を付与する弁閉力付与手段としての圧縮ばね6と、駆動エレメント7と、を備える。一次側導管3と二次側導管4とは平行に延びており、これらの延在方向をX方向とし、X方向に直交する2方向をY方向及びZ方向とする。
【0016】
ハウジング2は、ハウジング本体21と、蓋体22と、を備える。ハウジング本体21は、全体が金属部材によって構成され、X方向の一方側(図2における左側)に開口した一次ポート211と、X方向の他方側(図2における右側)に開口した二次ポート211と、Z方向の一方側(図2における上側であり、以降において単に「上側」と呼ぶことがある)に開口した開口部213と、一次ポート211と二次ポート212との間に延びる第1隔壁部214及び第2隔壁部215と、第1隔壁部214に形成された弁ポート216及び連通孔217と、第2隔壁部215からZ方向の他方側(図2における下側であり、以降において単に「下側」と呼ぶことがある)に突出したガイド部218と、第2隔壁部215に形成された連通孔219と、を有する。
【0017】
一次ポート211と二次ポート212とは、中心部同士がZ方向にオフセットして配置され、一次ポート211の中心部の方が上側に配置されている。一次ポート211には一次側導管3が接続され、二次ポート212には二次側導管4が接続される。
【0018】
開口部213は、ハウジング本体21内に弁体5及び圧縮ばね6を配置するために形成されており、蓋体22によって閉塞されるようになっている。尚、蓋体22は、ろう付けや溶接等によってハウジング本体21に対して気密に固定されればよい。
【0019】
第1隔壁部214は、一次ポート211の下端部と二次ポート212の上端部との間においてXY平面に沿って延びる板状に形成されている。第2隔壁部215は、第1隔壁部214に対して略平行に延びるとともに、間隔を開けつつ下側に配置されている。ハウジング本体21内には、第1空間A1と第2空間A2とが形成される。第1空間A1は、一次ポート211に連通する空間であって、弁体5のうち後述するニードル部52を収容する。第2空間A2は、二次ポート212に連通する空間であって、弁ポート216を通過した冷媒が流出する。なお、第1空間A1は第1隔壁部214よりも上側に形成され、第2空間A2は第1隔壁部214と第2隔壁部215との間に形成される。
【0020】
弁ポート216は、一次ポート211から流入した冷媒を通過させるものであって、第1空間A1と第2空間A2とを連通するように第1隔壁部214に形成された貫通孔である。連通孔217は、X方向において弁ポート216よりも二次ポート212側に形成され、第1空間A1と第2空間A2とを常に連通する。即ち、弁体5が弁ポート216の周囲の弁座部216Aに着座して全閉状態となっても、一次ポート211と二次ポート212との間で冷媒が通過可能となっている。
【0021】
ガイド部218は、円筒状に形成され、その内周面が、後述する延長部53を案内する案内面となり、その外周面が、後述する伝達部材75を案内する案内面となる。連通孔219は、第1隔壁部214に形成された連通孔217に対してZ方向から見て重なる位置に形成され、第2空間A2と、第2隔壁部215の下側における空間(後述する第3空間A3)と、を連通し、均圧孔として機能する。
【0022】
弁体5は、ハウジング2に移動自在に設けられて弁ポート216の開度を変更するものであって、上面に形成されたばね受け部51と、下側に形成されたニードル部52と、ニードル部52の先端から下側に延びる延長部53と、を有する。ばね受け部51は、圧縮ばね6と当接することでZ方向の下側への弁閉力(付勢力)が付与される部分である。ニードル部52は、下側に向かうにしたがって先細るように円錐台状に形成され、弁座部216Aに対して接近または離隔することで弁ポート216の開度(弁開度)が調節されるようになっている。延長部53は、断面円状の棒状部であって、円筒状のガイド部218に挿通される。延長部53の外径がガイド部218の内径よりも若干小さくなっていることにより、延長部53がガイド部218の内周面によって案内され、弁体5がZ方向に沿って移動するようになっている。
【0023】
圧縮ばね6は、Z方向を軸方向とするコイル状に形成され、ハウジング2の蓋体22と弁体5のばね受け部51との間に配置される。圧縮ばね6は、弁体5に対して所定の弁閉力(付勢力)を付与するように、自然状態から圧縮されて配置される。即ち、蓋体22がハウジング本体21に螺合されるようになっており、蓋体22をハウジング本体21に螺合させていくことで圧縮ばね6を所定量圧縮した後、蓋体22とハウジング本体21とが溶接や接着等によって固定される。
【0024】
駆動エレメント7は、金属製の上ケース71及び下ケース72と、ダイヤフラム73と、吸着材74と、伝達部材75と、を有する。上ケース71は、開口が形成された板部711と、板部711の外周縁から下側に向かって延びる筒状部712と、筒状部712の下端から外側に向かって延びるフランジ部713と、を有して有底筒状に形成される。上ケース71は、ハウジング本体21の下方側端部に対して加締め及びろう付けによって気密に固定される。
【0025】
下ケース72は、底部721と、底部721の外周縁から上側に向かって延びる筒状部722と、筒状部722の上端から外側に向かって延びるフランジ部723と、を有し、上側に開口した有底筒状(箱状)に形成され、空間形成部として機能する。筒状部722には、後述する封入空間A4に封入ガスを導入するための管状の導入部724が設けられており、導入部724は、封入ガスの導入後に封止される。
【0026】
ダイヤフラム73は、弁体5に対して弁開力を付与可能なものであって、外周縁部がフランジ部713、723によって挟み込まれることで保持され、ダイヤフラム73とフランジ部713、723とが溶接やろう付けによって気密に固定される。上記のように上ケース71がハウジング本体21に対して気密に固定されることから、ハウジング本体21の下面と上ケース71とダイヤフラム73とによって囲まれた第3空間A3が形成される。第3空間A3は、連通孔219によってハウジング2内の第2空間A2と連通され、冷媒が導入される空間となっている。
【0027】
下ケース72の上側の開口がダイヤフラム73によって覆われることにより、封入空間A4が形成される。即ち、下ケース72が空間形成部として機能する。ダイヤフラム73は、上ケース71によって形成される第3空間A3と、下ケース72によって形成される封入空間A4と、を区画する。封入空間A4には、封入ガスとして、例えば二酸化炭素が封入される。封入ガスは、使用される温度域で気体状態として存在するものであり、の安定性や環境負荷等を考慮して封入ガスの種類が適宜に選択されればよい。
【0028】
吸着材74は、例えば活性炭等の多孔質体であり、吸着材74の材質や表面積、空孔の大きさ等は、封入ガスの種類に応じて選択され、且つ、後述する圧力温度特性が所望の特性となるように選択されればよい。吸着材74は、封入空間A4の内部に設けられ、下ケース72の底部721に載置され、底部721の上面に接触する。このとき、底部721の下面は、冷却器103に接触しており、冷却対象201~204の熱が、冷却器103を介して底部721に伝達され、底部721によって吸着材74に伝達されるようになっている。即ち、底部721は、冷却対象201~204の熱を吸着材74に伝達する伝熱部として機能する。
【0029】
吸着材74は、封入ガスを吸着可能であるとともに温度が上昇するにしたがって吸着量が減少する特性を有する。封入ガスが封入され且つ吸着材74が設けられた封入空間A4の圧力PAは、図3に示すように変化する。即ち、封入空間A4の圧力PAは、温度上昇とともに高くなる。尚、図3に示すグラフでは、封入空間A4内の圧力PAの変化を示す特性の曲率が、圧力PCの変化の特性を示す曲率と比べて十分小さいため、模式的に、温度と圧力PAとが一次の関係を有した直線として図示している。
【0030】
伝達部材75は、例えば金属製であって、第3空間A3に配置され、ダイヤフラム73に沿うように延びる板部751と、板部751から上側に突出した筒状の被案内部752と、を有する。板部751の下面がダイヤフラム73に当接して力を受け、上面が弁体5の延長部53の先端に当接して力を伝達する。即ち、封入空間A4の圧力PAが上昇してダイヤフラム73が上側に凸に変位しようとすると、板部751を介して弁体5に力が伝達され、この力が弁開力となる。尚、弁体5の延長部53と板部751の上面とが固定されていてもよい。
【0031】
被案内部752の内径がガイド部218の外径よりも若干大きくなっており、被案内部752がガイド部218の外周面によって案内されることにより、伝達部材75がZ方向に沿って移動するようになっている。伝達部材75がZ方向に移動して弁開度が所定値となった際に、ガイド部218の先端と板部751の上面とが当接し、伝達部材75及び弁体5の移動が規制されるようになっており、このとき弁開度が最大となる。
【0032】
ここで、冷却対象201~204の温度が上昇した際(冷却対象201~204が熱源となる際)の流量調整弁1の動作の詳細について、図3、4を参照しつつ説明する。尚、冷却対象201~204の熱が、冷却器103を通過する冷媒と、封入空間A4及び吸着材74と、のそれぞれに充分に伝達されるものとして、図3のグラフにおける横軸は、冷却対象201~204の温度を示している。図3に示されるように、冷却装置100が使用される使用温度範囲(冷却対象201~204の想定される温度の範囲;後述する温度T2以下)のうち温度T0より高い温度においては、封入空間A4の圧力PAが第3空間A3の圧力PBよりも常に高くなる。なお、温度T0以下の温度においては、圧力PBが圧力PAよりも高くなるような温度が存在してもよい。
【0033】
上記のように温度T0より高い温度においては圧力PAが圧力PBよりも高いことから、ダイヤフラム73に圧力PA及び圧力PBが作用した際、圧力PAと圧力PBとの圧力差に応じた弁開方向の力(即ち圧力差とダイヤフラム面積との積)である弁開力が生じる。一方、弁体5には圧縮ばね6によって弁閉力が付与されている。冷却対象201~204の温度が上昇すると、封入空間A4及び吸着材74の温度が上昇し、上記のように封入空間A4の圧力PAが上昇していく。これと同時に、冷却器103を通過する冷媒の温度も上昇することから、第3空間A3の圧力PBも上昇する。図3に示すように、圧力PAの方が圧力PBよりも温度に対する変化率が高く(グラフの傾きが大きく)、温度が上昇するにしたがって圧力PAと圧力PBとの圧力差が大きくなっていく。温度が上昇し、圧力PAと圧力PBとの圧力差によりダイヤフラム73に作用する弁開力が、圧縮ばね6による弁閉力を上回ると、弁体5が弁開を開始し、冷却対象201~204の温度の応じた弁開度となる。弁体5が弁開を開始する際の封入空間A4の圧力をP0とし、このときの冷却対象201~204の温度をT0とする。
【0034】
図4に示すように、冷却対象201~204の温度がT0未満である場合、弁体5は弁座部216Aに着座しており、弁開度は、最小となるとともに温度によらず一定の値となる。T0未満の温度領域をブリード域とする。上記のような連通孔217が形成されていることで、ブリード域においても一次ポート211から二次ポート212に冷媒を通過させることができるようになっている。
【0035】
冷却対象201~204の温度がT0以上である場合、温度上昇とともに圧力PAと圧力PBとの圧力差が大きくなっていき、弁開力が大きくなり、弁開度が上昇していく。冷却対象201~204の温度がT1となると、上記のようにガイド部218の先端と板部751の上面とが当接し、弁開度が最大となる。T0~T1の温度領域を弁開度可変域とする。冷却対象201~204の温度がT1以上である場合、圧力PAと圧力PBとの圧力差が大きくなって弁開力が大きくなっても、弁開度は変化せず一定となる。T1以上の温度領域を全開域とする。尚、使用温度範囲は、例えば15~90°である。
【0036】
冷却対象201~204の想定される最高温度をT2とすると、圧力差によってダイヤフラム73に加わる力の最大値は、温度T2における圧力PAと圧力PBとの差ΔP1に応じた力となる。尚、温度T2は、温度T1以上であってもよいし、温度T1未満であってもよい。
【0037】
ここで、封入空間A4に圧縮性ガスを封入し、吸着材74を設けず、圧縮性ガスを気液混合状態とした構成を参考例とする。この参考例では、封入空間A4の圧力PCと温度との関係は、圧縮性ガスの飽和蒸気圧曲線に対応したものとなる。参考例においても本実施形態と同様に、圧力差によってダイヤフラム73に加わる力の最大値は、温度T2における圧力PCと圧力PBとの差ΔP2に応じた力となる。
【0038】
飽和蒸気圧曲線は、下に凸の曲線となりやすく、温度が上昇するほど曲線の傾きが大きくなる傾向がある。一方、本実施形態のように吸着材74を設ける構成では、吸着材74の量や封入空間A4の容積、基準温度における封入空間A4の圧力(封入ガスの封入量)を調節することによって、圧力温度特性のグラフの傾きを調節することができる。例えば、吸着材74の量を多くしたり、封入空間A4の容積を小さくしたり、基準温度における封入空間A4の圧力を高くしたりすることにより、グラフの傾きを大きくすることができる。
【0039】
本実施形態の冷却装置100のように、純水やフッ素系不活性液体等の流体を冷媒として用い、使用温度範囲において液体の状態を維持しやすい場合には、冷媒が導入される空間(第3空間A3)は、高温になっても圧力が上昇しにくい。即ち、温度の上昇に伴う圧力PBの上昇が生じにくい。従って、参考例のように封入空間A4の圧力変化が飽和蒸気圧線に従って変化する場合、高温において圧力の差ΔP2が大きくなりやすい。
【0040】
これに対し、本実施形態では、使用温度範囲で気体状態の封入ガスとし、かつ、封入空間A4に吸着材74を設けていることから、圧力温度特性のグラフの傾きを調節することができ、高温における圧力の差ΔP1が大きくなりすぎないようにすることができる。
【0041】
また、冷却対象201~204の温度が変化した際、圧力PAと圧力PBとの差の変化が大きいほど、弁体5の弁開度も変化しやすく、温度変化に対する冷媒流量の応答性(即ち冷却能力の応答性)が高くなる。本実施形態では、封入空間A4に吸着材74を設けていることから、圧力温度特性のグラフの傾きを調節することができ、温度変化に対する圧力差の変化を適宜な値とし、開度特性を良好なものとすることができる。
【0042】
ここで、再び冷却装置100全体における冷媒の流れについて説明する。冷却装置100では、冷媒が流れる方向において、流量調整弁1が冷却器103に対して下流側に設けられており、即ち、冷媒が流れる方向において、放熱器102と冷却器103と流量調整弁1とがこの順で並んでいる。上記のように流量調整弁1において、冷却対象201~204の温度に応じて弁開度が変化し、通過する冷媒の流量が調節されることから、各々の冷却器103を通過する冷媒の流量が独立に変化する。尚、主として液冷媒が冷却器103を通過することから、本実施形態の冷却装置100において弁開度が変化した際に冷却器103を通過する液冷媒の流量の変化は、流量調整弁1を冷却器103に対して上流側に設ける構成において弁開度が変化した際の流量の変化と同様となる。
【0043】
放熱器102において冷却された冷媒は、冷却器103を通過することによって冷却対象201~204と熱交換し、温度上昇する。このように温度上昇した冷媒が流量調整弁1を通過することとなり、第3空間A3には、温度上昇した冷媒が導入される。従って、熱交換前の冷媒が流量調整弁1に対して導入される(流量調整弁1を冷却器103に対して上流側に設ける)構成と比較して、冷却対象201~204の熱が封入空間A4の内部に伝達された際、封入空間A4と第3空間A3との温度差を小さくすることができる。これにより、第3空間A3と封入空間A4との熱交換を抑制し、封入空間A4の温度を低下しにくくすることができる。
【0044】
流量調整弁1では、冷却対象201~204の温度と、弁開度と、の関係が予め設定され、例えば、温度T0において弁開するように設定される。このとき、第3空間A3と封入空間A4との熱交換が生じると、温度T0となっても封入空間A4の圧力が弁開に必要な圧力P0に到達せず、温度T0よりも高い温度になってから弁開する。即ち、第3空間A3と封入空間A4とにおいて熱交換が生じるほど、所定の弁開度を得るための設定温度と、実際にこの弁開度が得られる温度と、の差が大きくなる。従って、上記のように第3空間A3と封入空間A4との熱交換を抑制することにより、封入ガスの圧力PAを正常に上昇させて弁開力を生じさせ、所定の弁開度を得るための設定温度と、実際にこの弁開度が得られる温度と、の差を小さくし、温度に対する応答性を向上させることができる。
【0045】
以上の本実施形態によれば、冷媒が流れる方向において流量調整弁1が冷却器103に対して下流側に設けられていることで、封入空間A4の温度低下を抑制し、封入ガスの圧力を正常に上昇させて弁開力を生じさせることができ、温度に対する応答性を向上させることができる。
【0046】
また、有底筒状の下ケース72の底部721が、冷却器103に接触して伝熱部として機能することにより、下ケース72と冷却器103との間で熱交換する際の面積を確保しやすい。これにより、熱伝達効率を向上させ、温度に対する応答性をさらに向上させることができる。
【0047】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、前記実施形態では、空間形成部としての下ケース72の底部721が伝熱部として機能するものとしたが、有底筒状の下ケース72を構成する他の壁部として、筒状部722が伝熱部として機能する構成としてもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、冷却器103を介して冷却対象201~204から封入空間A4内部の吸着材74に熱伝達されるものとしたが、冷却対象から封入空間の内部に対して直接的に熱伝達される構成としてもよい。例えば、空間形成部の一部が冷却対象に対して直接的に接触する構成としてもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、封入空間A4の内部に吸着材74が設けられ、伝熱部としての底部721が吸着材74に熱伝達するものとしたが、封入空間に吸着材を設けない構成としてもよく、この場合、伝熱部は、封入空間の内部に封入された封入ガスに対して熱伝達すればよい。即ち、封入ガスを気液混合状態とし、温度変化に伴う飽和蒸気圧の変化を利用して弁開力を変化させてもよいし、封入ガスを常に気体状態とし、温度変化に伴う気体の膨張を利用して弁開力を変化させてもよい。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
100…冷却装置、101…ポンプ(送流体手段)、102…放熱器(放熱手段)、103…冷却器(受熱部)、201~204…冷却対象、1…流量調整弁、2…ハウジング(弁本体)、211…一次ポート、212…二次ポート、216…弁ポート、5…弁体、6…圧縮ばね(弁閉力付与手段)、7…駆動エレメント、72…下ケース(空間形成部)、721…底部(伝熱部)、722…筒状部、73…ダイヤフラム
図1
図2
図3
図4