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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
B23B51/00 S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018083817
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019188525
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 繁栄
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 輝明
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/151155(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158463(WO,A1)
【文献】特表2012-529375(JP,A)
【文献】特開2010-115750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル本体の軸方向先端の先端面に回転方向前方側を向いて形成された一対の切れ刃と、
前記各切れ刃の回転方向後方側に位置する逃げ面の回転方向後方側と前記切れ刃との間に形成された切屑排出溝と、
前記各逃げ面の回転方向後方側と前記切屑排出溝との間に形成された一対のシンニング面とを備え、
前記一対のシンニング面間に前記ドリル本体の回転軸上を通り前記シンニング面に接するチゼルエッジが形成されたドリルであり、
前記切れ刃は前記チゼルエッジの端部から前記先端面の半径方向外周側に連続する内側刃と、この内側刃より半径方向外周側に連続する外側刃とに区分され、
前記逃げ面の内、前記切れ刃の回転方向後方側に連続して形成された2番面の少なくとも前記内側刃の区間の回転方向の幅は半径方向外周側へ向かって次第に拡大する形状に形成され、
前記チゼルエッジの全長が前記一対のシンニング面の境界線であり、前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記チゼルエッジの延長線の全長は前記内側刃に重ならずに、前記2番面の範囲内を通過している ことを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記シンニング面は前記先端面の半径方向には、前記チゼルエッジを挟んだ片側に付き、前記一対の切れ刃の内、一方の前記切れ刃の前記内側刃と前記外側刃の境界から前記チゼルエッジを経由し、前記一対の切れ刃の内、他方の前記切れ刃の前記内側刃と前記外側刃の境界の回転方向後方側の位置にまで形成されていることを特徴とする請求項に記載のドリル。
【請求項3】
前記2番面は前記先端面の半径方向には、前記チゼルエッジの端部から前記内側刃と前記外側刃の境界までを含む区間の内周側2番面と、この内周側2番面の半径方向外周側に連続する外周側2番面とに区分され、
前記内側刃と前記外側刃の境界、もしくはその付近から形成される前記シンニング面は前記内周側2番面の回転方向後方側と前記外周側2番面の前記切屑排出溝側に連続する曲面を有していることを特徴とする請求項に記載のドリル。
【請求項4】
前記外周側2番面の回転方向後方側に3番面が連続して形成され、前記シンニング面は前記外周側2番面の前記切屑排出溝側から前記3番面の前記切屑排出溝側に連続して形成されていることを特徴とする請求項に記載のドリル。
【請求項5】
前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記シンニング面は回転方向前方側の前記逃げ面側から回転方向後方側の前記切屑排出溝側へかけて1段目シンニング面とこの1段目シンニング面より深い2段目シンニング面とに区分されている特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転軸を挟んだ一対のシンニング面がチゼルエッジを形成し、切削時にドリル本体の先端面が被削材から受けるスラストを低減するドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸を挟んだ一対のシンニング面からチゼルエッジを形成することは、一対のシンニング面の、回転方向前方側の逃げ面側の部分間距離である行き違い量を大きくすることになるから、ドリル先端部(先端面)の被削材への接触面積を減少させる意味がある。結果として、ドリル先端部が切削時に被削材から受けるスラストを低減することができる利点がある(特許文献1~6参照)。
【0003】
一方、一対のシンニング面間の行き違い量を大きく取ることは(特許文献2、3、6、7)、切れ刃の回転方向後方側に形成される逃げ面(2番面)の、シンニング面寄りの部分の回転方向の幅を小さくすることでもあるため、切れ刃が被削材から受ける抵抗であるトルクに対する強度が低下し易くなる不利益を伴う。
【0004】
シンニング面間の行き違い量を大きく取れば、2番面の内、切れ刃とシンニング面とに挟まれた領域のドリル本体の回転方向の幅を狭めることになる。トルクは逃げ面には回転方向に作用し、トルクによるせん断応力度は回転軸(中心)からの半径方向の距離に比例することから、行き違い量が大きくなれば、トルクに対する強度を低下させ、切れ刃に欠けを発生させ易くなるため、行き違い量を大きく取ることには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-91415号公報(請求項1、段落0009~0012、図1
【文献】特開2008-213121号公報(請求項1、段落0014~0019、図3
【文献】特開2008-296313号公報(請求項1、段落0023~0031、図3図6
【文献】特開2015-139845号公報(請求項1、段落0020~0028、図2図4
【文献】特開2015-155137号公報(請求項1、段落0010~0032、図2図3
【文献】国際公開第2016/158463号(請求項1、段落0022~0029、0027~0040、図3図5
【文献】特開2006-212724号公報(請求項1、段落0006、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一対のシンニング面間に行き違い量を確保している特許文献2、3、6、7でも切れ刃は半径方向外周側からチゼルエッジまでに形成される一方(特許文献2の段落0015、特許文献3の段落0024、特許文献6の段落0027、0028、特許文献7の0007)、切れ刃の回転方向後方側の2番面を挟んだシンニング面はほぼチゼルエッジの端部までに形成されるに過ぎない(特許文献2の図3、特許文献3の図3、特許文献6の図1)。
【0007】
このようにいずれの特許文献でもシンニング面を切れ刃の回転方向後方側の2番面(逃げ面)側へ深く入り込ませることには限界があり、例えば2番面の半径方向中心(回転軸)寄りの、シンニング面を除いた一部区間を帯状に形成するような例はない。特許文献6では一見、2番面が帯状に形成されているように見えるが、回転方向にチゼルエッジとシンニングの回転軸O寄りの部分との間は切れ刃のない領域であるから、被削材の切削に関与することはないため、被削材からトルクを受けることはない。
【0008】
本発明は上記背景より、切れ刃の半径方向中心寄りの区間が被削材から受けるトルクに対する抵抗力を高め、シンニング面を半径方向外周側へ向けて2番面側へ深く入り込ませることを可能にする形態のドリルを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明のドリルは、ドリル本体の軸方向先端の先端面に回転方向前方側を向いて形成された一対の切れ刃と、
前記各切れ刃の回転方向後方側に位置する逃げ面の回転方向後方側と前記切れ刃との間に形成された切屑排出溝と、
前記各逃げ面の回転方向後方側と前記切屑排出溝との間に形成された一対のシンニング面とを備え、
前記一対のシンニング面間に前記ドリル本体の回転軸上を通り前記シンニング面に接するチゼルエッジが形成されたドリルであり、
前記切れ刃は前記チゼルエッジの端部から前記先端面の半径方向外周側に連続する内側刃と、この内側刃より半径方向外周側に連続する外側刃とに区分され、
前記逃げ面の内、前記切れ刃の回転方向後方側に連続して形成された2番面の少なくとも前記内側刃の区間の回転方向の幅は半径方向外周側へ向かって次第に拡大する形状に形成され、
前記チゼルエッジの全長が前記一対のシンニング面の境界線であり、前記ドリル本体の前記先端面を前記回転軸の方向に見たとき、前記チゼルエッジの延長線の全長は前記内側刃に重ならずに、前記2番面の範囲内を通過していることを特徴とする。
【0010】
「ドリル本体の先端面」は図5に示すドリル本体の先端(先端面30)をその側から軸方向(回転軸Oの方向)に見たときの端面を言う。「ドリル本体の先端面30を軸方向(回転軸Oの方向)に見たとき」とは、「先端面30を回転軸Oの方向に、ドリル本体の軸方向先端側の反対側であるシャンク部2側へ向かって見たとき」の意味である。「ドリル本体」はドリル1の本体(全体)を指す。切れ刃4は一対であるから、切れ刃4の本数(枚数)は2本(枚)である。一対の切れ刃4、4は回転軸Oを挟んで(回転軸Oに関して)点対称位置に形成され、2本であるから、切れ刃4の少なくとも一部(内側刃41)の稜線が直線であれば、その稜線は互いに平行になる。
【0011】
請求項1における「各切れ刃の回転方向後方側に位置する逃げ面」は切れ刃4の回転方向後方側に連続して形成された2番面61を指す場合と、2番面61の回転方向後方側に3番面62が連続して形成された場合の3番面62を指す場合と、2番面61と3番面62を合わせた逃げ面6全体を指す場合がある。逃げ面6としては4番面以降の面が形成されることもある。「逃げ面6の回転方向後方側と切れ刃4との間に形成された切屑排出溝7」とは、逃げ面6の回転方向後方側と、その回転方向後方側に位置する切れ刃4との間に切屑排出溝7が形成されることを言う。
【0012】
「一対のシンニング面」はシンニング面8、8が2個で対になることを言う。一対のシンニング面8、8は回転軸Oを挟んで(回転軸Oに関して)点対称位置に形成される。「回転軸Oを通りシンニング面8、8に接するチゼルエッジ5」とは、回転軸Oを通るチゼルエッジ5の全長一対のシンニング面8、8の双方に接して(面して)いることを言う
【0013】
図1図2に示すようにチゼルエッジ5の全長がシンニング面8に接することで、チゼルエッジ5の全長が一対のシンニング面8、8の境界線になる(請求項)。このことは、上記のシンニング面8とその回転方向前方側の2番面61との間の境界線84がチゼ
ルエッジ5の端部(点P)に交わることであるため、参考例を示す図6図7との対比から分かるように両シンニング面8、8の境界線84、84がチゼルエッジ5、または回転軸Oを挟んで行き違う配置状態になることでもある。
【0014】
「行き違う」とは、各境界線84を含むシンニング面8を半径方向外周側から見たとき、各境界線84が回転軸Oを越えた位置にあり、各境界線84の、回転軸Oを挟んだ反対側のシンニング面8側の延長線が、そのシンニング面8の境界線84に連続する境界線85(シンニング面8と逃げ面6との間の境界線85)に交わる状態にあることを言う。この場合、先端面30を軸方向に見たときの先端面30の面積に占めるシンニング面8の面積が拡大するため、シンニング面8が有する切屑収容能力が向上することが言える。
【0015】
請求項1における「切れ刃4はチゼルエッジ5の端部(点P)から先端面30の半径方向外周側へ連続する内側刃41」とは、先端面30側へ凸の稜線をなす直線状のチゼルエッジ5の一方の端部(点P)から切れ刃4が開始し、半径方向外周側へ連続して形成されることを言う。その切れ刃4の内、チゼルエッジ5の端部P寄りの区間が内側刃41である。先端面30を軸方向に見たとき、チゼルエッジ5は直線状であるから、切れ刃4は直線(チゼルエッジ5)の両側の端部(P、P)からそれぞれ半径方向外周側へ形成され、対になる。
【0016】
切れ刃4は先端面30の半径方向(以下、半径方向)には、図2に示すようにチゼルエッジ5の端部Pに接し、チゼルエッジ5(直線PP)に連続する内周側の内側刃41と、内側刃41の半径方向外周側の端部(点Q)に接し、そのまま半径方向外周側へ連続する外側刃42とに区分される。点Qは内側刃41と外側刃42の境界(交点)であるから、点Pと点Qを結ぶ(凸の)稜線が内側刃41(稜線PQ、またはQP)である。このことと、上記のようにチゼルエッジ5が一対のシンニング面8、8の境界線になっている場合(請求項)には、シンニング面8は先端面30を軸方向に見たとき、チゼルエッジ5の片側に付き、稜線QPとチゼルエッジ5(直線PP)を通る、または稜線QPとチゼルエッジ5(直線PP)を含む平面、あるいは曲面として、稜線QPの回転方向後方側(切屑排出溝6側)へ形成される。
【0017】
後述するようにシンニング面8が2段に区分された場合(請求項)の例を示す図1図2では、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間の境界線86が切れ刃4と交わる点が、内側刃41と外側刃42との境界としての交点Qのように描かれているが、交点Qは境界線86と切れ刃4との交点とは関係ない。
【0018】
請求項1における「逃げ面6の内、切れ刃4の回転方向後方側に連続して形成された2番面61の少なくとも内側刃41の区間」とは、2番面61の全体を半径方向に、切れ刃4の半径方向の区分に合わせて内側刃41の区間と外側刃42の区間に区分したときの、内側刃41の回転方向後方側に位置する領域を指す。この「2番面61の内側刃41の区間」と「2番面61の外側刃42の区間」はそれぞれ後述の「内周側2番面61a」と「外周側2番面61b」に相当する(請求項)。
【0019】
この2番面61の中の内側刃41の区間(2番面61の半径方向中心(回転軸O)寄りの区間)の回転方向後方側の領域(内周側2番面61a)の回転方向の幅が半径方向外周側へ向かって次第に拡大する形状に形成される(請求項1)。このことは、半径方向に、チゼルエッジ5の端部(点P)から、内側刃41と外側刃42との境界(交点Q)と、その回転方向後方側の位置の2方向へ向け、ドリル本体の回転方向の幅が次第に拡大する形状に形成されることを言う。「内側刃41と外側刃42との境界(交点Q)とその回転方向後方側の位置へ向け」とは、「チゼルエッジ5の端部Pから交点Qへ向かう方向と、交点Qより回転方向後方側の位置へ向かう方向の2方向に向けて」の意味である。チゼルエッジ5の端部Pから交点Qまでの区間の稜線が内側刃41であり、交点Qから切れ刃4の半径方向外周側の縁(端縁)までの区間の稜線が外側刃42になる。
【0020】
チゼルエッジ5の端部Pから交点Qへ向かう方向と、交点Qより回転方向後方側の位置へ向かう方向の2方向に向け、2番面61中の内側刃41の区間が、回転方向に幅が次第に拡大する形状に形成されることで、チゼルエッジ5の端部Pから半径方向外周側へ向けて幅が次第に拡大する形状に形成される。具体的には2番面61中の内側刃41の区間(内周側2番面61a)はチゼルエッジ5の端部Pを頂点とする三角形状、もしくはチゼルエッジ5の端部Pを中心とする扇形状に近似した形状等になる。
【0021】
この三角形状の頂点、または扇形状等の中心から2方向に向かう2本の線の内、回転方向前方側の線は切れ刃4(内側刃41(稜線PQ))であり、回転方向後方側の線は2番面61(内周側2番面61a)とその回転方向後方側のシンニング面8との間の境界線84である。この2方向の線は直線とは限らず、曲線の場合もある。内側刃41(稜線PQ)の回転方向後方側の境界線84は回転軸Oを通るチゼルエッジ5(直線PP)に沿った方向を向くため、半径方向に沿った方向を向く。なお、内側刃41はチゼルエッジ5の端部Pから半径方向外周側へ形成されるから(請求項1)、先端面30を軸方向に見たとき、チゼルエッジ5の延長線が内側刃41の回転方向後方側に連続する2番面61の範囲内を通過するようにチゼルエッジ5を形成することができる(請求項)。
【0022】
「チゼルエッジ5(直線PP)の延長線が内側刃41の回転方向後方側の2番面61の範囲内を通過する」とは、先端面30を軸方向に見たとき、図2に示すようにチゼルエッジ5の延長線が内側刃41(稜線PQ)に重なる状態から、2番面61の回転方向後方側とシンニング面8との間の境界線84に重なる状態までの範囲内を通ることを言う。図2中、チゼルエッジ5の延長線を破線で示している。
【0023】
「チゼルエッジ5(直線PP)の延長線が内側刃41に重なる」とは、先端面30を軸方向に見たとき、内側刃41(稜線PQ)がチゼルエッジ5に連続した直線である(直線を描く)こと、または連続した直線に近い緩やかな曲線状である(曲線を描く)ことを言う。チゼルエッジ5の延長線が直線に近い曲線を描くことは、少なくともチゼルエッジ5と内側刃41の交点Pを挟んでチゼルエッジ5と内側刃41が不連続な線とはなっていないこと、または交点Pに近い内側刃41の接線がチゼルエッジ5とは明確な角度をなさないこと、とも言い換えられる。
【0024】
この場合(請求項では)、図6図7に示すようにチゼルエッジ5(直線PP)の延長線が内側刃41(稜線PQ)の回転方向前方側を通過し、内側刃41とチゼルエッジとが鈍角をなす場合との対比では、図1図2に示すように内側刃41とそれが接するシンニング面8との間の境界線83の内、内側刃41と外側刃42の交点Qの部分を、交点Qを含む2番面61の回転方向後方側へ寄せ易くなる。このことは、図6図7に示す例との対比では各切れ刃4の内側刃41(境界線83)を2番面61の回転方向後方側へ寄せ易くなることであるから、内側刃41とシンニング面8との間の境界線83が回転方向後方側へ後退できる分、シンニング面8内の容積が増すことになる。結果として、シンニング面8内での切屑の収容能力が増大し、切屑の詰まりの抑制効果と排出性が向上することになる
【0025】
このことはまた、図6図7図1との対比から分かるようにチゼルエッジ5を挟んだ一対のシンニング面8、8とそれぞれの回転方向前方側が接する2番面61、61との間の境界線84、84を互いに接近させる(境界線84、84を通る直線間距離を短縮させる)ことでもあり、チゼルエッジ5(直線PP)と境界線84とのなす角度を小さくすることでもある。シンニング面8内の容積が増すことは、先端面30を軸方向に見たときの、先端面30の面積を減少させることでもあるから、切れ刃4による被削材の切削時に先端面30が被削材から受けるスラストとトルクを低減させる効果も向上する。
【0026】
請求項1では2番面61中の内側刃41の区間(稜線PQ(境界線83)と境界線84とに挟まれた領域(内周側2番面61a))が、点Pから半径方向外周側へかけて回転方向に幅が次第に拡大する形状に形成されることで、特に2番面61中の内側刃41の区間に内側刃41から作用する被削材からのトルク(捩りモーメント)に対する、内側刃41の区間の抵抗力(せん断応力度)を一様にすることができる。結果的に、内側刃41の区間(内周側2番面61a)内ではいずれかの部分がトルクに対して弱点になりにくくなり、内側刃41に欠けを生じにくくする利点が得られる。前記のように「2番面61中の内側刃41の区間」は内側刃41(稜線PQ)と、その回転方向後方側の内周側2番面61aとその回転方向後方側のシンニング面8との間の境界線84とに挟まれた三角形状の領域を指す。
【0027】
詳しく言えば、前記したようにトルクは内側刃41の区間では内側刃41から2番面61の内周側2番面61aに回転方向後方側へ作用し、中心(回転軸O)からの距離が異なる各部分に作用するトルクTによる力(負担)の程度を示すせん断応力度τは中心(回転軸O)からの半径方向の距離rに比例する(τ=(T/Ip)・r(Ipは断面二次極モーメント))。このことは、回転軸Oからの半径方向の距離rが大きくなる程、その部分(2番面61)に作用するせん断応力が大きくなり、せん断応力は半径方向の中心からの距離rに比例して増大し、切れ刃4から三角形を描くように直線状に分布することを意味する。
【0028】
従ってトルクTを負担する2番面61(内側刃41の区間(内周側2番面61a))の回転方向の幅を、先端面30を軸方向に見たときに回転軸O側から半径方向外周側へ向けて次第に拡大する形状に形成すれば(請求項1)、2番面61(内周側2番面61a)のトルク(せん断応力度)に対する抵抗力が半径方向の各部において均等になり易くなる。トルクに対する抵抗力が半径方向の各部において均等になることで、内側刃41の半径方向のいずれかの部分が相対的に弱点になりにくくなり、内側刃41の半径方向各部の破損(欠け)に対する安全性が向上する。
【0029】
2番面61中の内側刃41の区間(内周側2番面61a)のトルク(せん断応力度)に対する半径方向各部の抵抗力が均等になり、破損に対する安全性が高まることで、2番面61中の内側刃41の区間の回転方向の幅(奥行き)の大きさを調整、あるいは抑制することが可能になる。この結果、前記のように2番面61の回転方向後方側と切屑排出溝7との間に形成されるシンニング面8をこの2番面61中の内側刃41の区間の回転方向後方側において、半径方向外周側にまで入り込むように形成することが可能になる(請求項)。
【0030】
言い換えれば、先端面30の半径方向には、図1に示すようにチゼルエッジ5(直線PP)を挟んだ片側に付き、シンニング面8を一対の切れ刃4、4の内、一方の切れ刃4の内側刃41と外側刃42の境界(交点Q)からチゼルエッジ5を経由し、一対の切れ刃4、4の内、他方の切れ刃4の内側刃41と外側刃42の境界(交点Q)の回転方向後方側の位置にまで形成することが可能になる(請求項)。このことは、シンニング面8とその半径方向外周側(の縁)が接する逃げ面6(2番面61と3番面62)との間の境界線85を半径方向外周側へ寄せ易くなることであるから、シンニング面8上の容積を大きく確保できることになり、シンニング面8内での切屑の収容能力を高め、切屑の詰まりを抑
制できる利点に結び付く。シンニング面8と逃げ面6との間の境界線85は図1に示すように境界線84に交差する半径方向に沿った方向を向く。
【0031】
シンニング面8は上記のように稜線QPとチゼルエッジ5(直線PP)を通るため、請求項ではシンニング面8の開始位置側から見たときに、チゼルエッジ5を越えた部分が、チゼルエッジ5を挟んだ側に位置する2番面61(外周側2番面61b)内に入り込む形になる。
【0032】
シンニング面8、8はチゼルエッジ5(直線PP)を挟んで対になるから、対になるシンニング面8、8のチゼルエッジ5を越えた部分がチゼルエッジ5(回転軸O)を挟んで互いに半径方向に行き違う状態になるため、一対のシンニング面8、8の行き違い量を大きく確保することが可能になる。この結果、被削材の切削時に被削材に接触する先端面30の面積を抑制することができるため、先端面30が被削材から受ける抵抗であるスラストとトルクを低減することが可能になる。「シンニング面8、8の行き違い量」はチゼルエッジ5の方向に、各シンニング面8の2番面61(外周側2番面61b)内に入り込む部分(境界線84が湾曲して境界線85に移行する部分)間の距離を指す。
【0033】
請求項では内側刃41とそれが接するシンニング面8との間の境界線83を2番面61の回転方向後方側へ寄せ易くなり、請求項ではシンニング面8とその回転方向前方側が接する2番面61との間の境界線84を半径方向外周側へ寄せ易くなるが、シンニング面8上の容積を増し、先端面30の面積を減少させる点では共通し、共に切屑の収容能力を高めることと、被削材から受ける抵抗力を低減させることの利点が得られる。
【0034】
請求項1では2番面61中の内側刃41の区間(内周側2番面61a)の回転方向の幅が回転軸O側から半径方向外周側へ向けて次第に拡大する形状に形成されることで(請求項1)、前記のように2番面61全体を半径方向に見たとき、内側刃41の区間である内周側2番面61aとそれより半径方向外周側の外周側2番面61bとに半径方向に区分することができる(請求項)。2番面61は詳しくは、先端面30の半径方向には、チゼルエッジ5の端部Pから半径方向外周側へ向け、内側刃41と外側刃42の境界Qまでを含む区間の内周側2番面61aと、内周側2番面61aの半径方向外周側に連続する外周側2番面61bとに区分される(請求項)。
【0035】
前記のように内周側2番面61aはチゼルエッジ5の端部Pを頂点とする三角形状に形成されるから、チゼルエッジ5の端部Pから開始する内周側2番面61aの区間は、内側刃41(境界線83)上では内側刃41と外側刃42の境界Qまでであり、内周側2番面61aとその回転方向後方側のシンニング面8との境界線84上では境界Qから回転方向後方側に向かう線と境界線84との交点までになる。
【0036】
内周側2番面61aは内側刃41(境界線83)から回転方向後方側に向け、内側刃41と外側刃42の境界(交点Q)より回転方向後方側に位置する境界線84までの領域であり、境界線84上では境界線84が湾曲して境界線85に移行する部分までになる。外周側2番面61bは内周側2番面61aの半径方向外周側に連続する領域を指す。2番面61が内周側2番面61aと外周側2番面61bとに区分された場合、境界線84が湾曲して境界線85に移行する関係で、内側刃41と外側刃42の境界(交点Q)、もしくはその付近から形成されるシンニング面8は内周側2番面61aの回転方向後方側と外周側2番面61bの切屑排出溝7側に連続する曲面を有する(請求項)。
【0037】
具体的には、境界線84が湾曲して境界線85に移行することに伴い、例えば外周側2番面61bの回転方向後方側に3番面62が連続して形成され、外周側2番面61bの切屑排出溝7側から3番面62の切屑排出溝7側に連続してシンニング面8が形成される(
請求項)。
【0038】
この場合、シンニング面8の逃げ面6寄りの部分(シンニング面8と逃げ面6(シンニング面8とその半径方向外周側が接する逃げ面6)との間の境界線85)が外周側2番面61bの切屑排出溝7側から3番面62の切屑排出溝7側に連続することで、シンニング面8の逃げ面6との間の境界線85はチゼルエッジ5から外周側2番面61b側へ半径方向外周側へ入り込んだ後に、回転方向後方側へ向かい、2方向を向く形になる。結果的に先端面30を軸方向に見たとき、シンニング面8の外周側2番面61b寄りの部分が外周側2番面61b側へ深く入り込んだ形状になり、シンニング面8上の空間の容積が拡大されるため、シンニング面8上での切屑の収容能力が高まり、切屑のシンニング面8での詰まりが発生しにくくなる。
【0039】
また先端面30を軸方向に見たとき、シンニング面8が回転方向前方側の逃げ面6側から回転方向後方側の切屑排出溝7側へかけて1段目シンニング面81と、この1段目シンニング面81より深い2段目シンニング面82とに区分されれば(請求項)、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間に、先端面30側へ凸の稜線となる境界線86が形成されるため、境界線86での切屑の切断効果を期待することが可能になる。ここで言う「逃げ面6」は主に2番面61を指す。
【0040】
「回転方向前方側の逃げ面6(2番面61)側から回転方向後方側の切屑排出溝7側へかけて」とは、「シンニング面8から見たときに、回転方向前方側に位置する2番面61側から回転方向後方側に位置する切屑排出溝7側へ向かって」の意味である。「1段目シンニング面81より深い2段目シンニング面82」とは、先端面30を軸方向に、シャンク部2側へ向かって見たとき、1段目シンニング面81(表面)が2段目シンニング面82(表面)より手前(先端面30寄り)に位置し、2段目シンニング面82(表面)が1段目シンニング面81(表面)よりシャンク部2寄りに位置することを言う。
【0041】
先端面30を回転方向前方側の2番面61側から回転方向後方側の切屑排出溝7側へ向かって見たときに、1段目シンニング面81が回転方向前方側の2番面61寄りに位置し、2段目シンニング面82が切屑排出溝7寄りに位置することで、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間には角度が付く。
【0042】
上記のように1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間の境界線86は先端面30側へ向かって凸の稜線をなし、先端面30側へ突起状(峰状)に連続して突出する。このため、切屑が1段目シンニング面81と2段目シンニング面82に沿って円錐形状に丸まりながら境界線86に接触したときに、境界線86が切屑に対し、円錐形状の軸方向(長さ方向)に交差する方向のせん断力(切断力)を与える状態にある。1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間の境界線86が円錐形状に丸まる切屑に、軸方向に交差する方向のせん断力を与えることで、円錐形状に丸まりながら軸方向に成長しようとする切屑を軸方向に分断させることができるため、切屑が軸方向に成長することが防止、または抑制される。
【0043】
ここで、シンニング面8は上記のように切屑排出溝7側から見たとき、稜線QPとチゼルエッジ5(直線PP)、及び直線PPに連続する稜線PQの回転方向後方側の位置へ向けて形成されるため、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間の境界線86は切屑排出溝7側から見たとき、回転方向前方側の2番面側へ凸の曲線状に形成される。
【0044】
この形状から、切屑が例えば2段目シンニング面82に沿って円錐形状に丸まるときに、境界線86が円錐を円錐の軸(中心)に交差する平面で円錐台と円錐に切断するような曲線になるため、円錐形状に丸まろうとする切屑を軸方向に分離させるように作用し易くなる。円錐の軸(中心)に交差し、円錐を切断する平面(切断面)と円錐との交線は円形、もしくは楕円形であるが、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間の境界線86が2番面61側へ凸の曲線状であれば、この境界線86が円錐の軸に交差する平面と円錐との交線に近い曲線を描くからである。
【発明の効果】
【0045】
切れ刃をチゼルエッジの端部からドリル本体先端面の半径方向外周側へ連続する内側刃と、内側刃より外周側に連続する外側刃とに区分し、逃げ面の内、切れ刃の回転方向後方側に連続して形成された2番面の少なくとも内側刃の区間を、チゼルエッジの端部から、内側刃と外側刃との境界とその回転方向後方側の位置へ向け、ドリル本体の回転方向の幅が次第に拡大する形状に形成するため、2番面のトルクに対する抵抗力を半径方向の各部において均等にし易くすることができる。この結果、内側刃の半径方向のいずれかの部分が相対的に弱点になりにくくなり、内側刃の半径方向各部の破損(欠け)に対する安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】チゼルエッジの延長線がドリル本体先端面の逃げ面の内、2番面の範囲内を通過する場合の、ドリル本体の先端面を軸方向に見たときのドリルの製作例を示した端面図である。
図2図1のチゼルエッジ部分の拡大図である。
図3図1に示すドリルの先端面をやや斜め上方からx-x線の方向に見たときの側面図である。
図4図1に示すドリルの刃部を回転軸に垂直なx-x線の方向に見たときの側面図である。
図5図1に示すドリル本体の全体を示した側面図である。
図6】(a)は内側刃とチゼルエッジが鈍角をなす場合の、ドリル本体の先端面を軸方向に見たときのドリルの参考製作例を示した端面図、(b)は(a)の拡大図である。
図7】(a)は内側刃とチゼルエッジが鈍角をなす場合の、ドリル本体の先端面を軸方向に見たときのドリルの他の参考製作例を示した端面図、(b)は(a)の拡大図である。
図8】シンニング面とその回転方向前方側が接する2番面との間の境界線がチゼルエッジの端部(点P)以外の点に交わる場合のドリルの参考製作例を示した端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1図5はドリル本体の軸方向先端の先端面30に回転方向前方側を向いて形成された一対の切れ刃4、4と、各切れ刃4の回転方向後方側に位置する逃げ面6の回転方向後方側と切れ刃4との間に形成された切屑排出溝7と、各逃げ面6の回転方向後方側と切屑排出溝7との間に形成された一対のシンニング面8、8とを備え、一対のシンニング面8、8間にドリル本体の回転軸O上を通り、少なくとも一部がシンニング面8、8に接するチゼルエッジ5が形成されたドリル1の製作例を示す。
【0048】
ドリル本体(ドリル1)は図5に示すようにドリル本体の軸(回転軸O)方向後方側に位置するシャンク部2とそれより軸方向先端側に形成される刃部3とに軸方向に区分され、刃部3の軸方向先端の先端面30に一対(2本)の切れ刃4、4が形成される。以下、ドリル本体はドリル1の本体のことを言う。図面では刃部3がドリル本体に一体化したソリッド型のドリル1の例を示しているが、刃部3がドリル本体に対して着脱自在に固定され、保持される刃先交換型のドリル1の場合もある。
【0049】
「先端面30」はドリル本体の先端面30を回転軸Oの方向に見たときの、切屑排出溝7とシンニング面8を除いた領域(部分)を指し、逃げ面6の領域を指す。図面では図1に示すように切れ刃4の回転方向後方側に、逃げ面6としての2番面61が連続して形成され、2番面61の回転方向後方側に逃げ面6としての3番面62が連続して形成されているが、この場合、逃げ面6は2番面61と3番面62を合わせた領域になる。
【0050】
切れ刃4は図1図2に示すようにチゼルエッジ5(直線PP)の端部(点P)から先端面30の半径方向外周側へ形成され、先端面30の半径方向には、チゼルエッジ5の端部(点P)に接する内周側の内側刃41(稜線PQ)と、内側刃41より半径方向外周側に連続する外側刃42とに区分される。内側刃41と外側刃42の境界が交点Qであり、外側刃42は交点Qから半径方向外周側の端部(端縁)まで連続して形成される。図面では内側刃41(稜線PQ)を直線状に、外側刃42(稜線Q~)を曲線状に形成しているが、内側刃41と外側刃42の形状はこれには限定されない。
【0051】
外側刃42(稜線Q~)は内側刃41(稜線PQ)から連続する曲線を描くように形成されることもあるが、図面では図2に示すように内側刃41と外側刃42とに挟まれた交点Qに2番面61側が鈍角となるような角度を付け、あるいは交点Q部分を湾曲させ、ドリル本体の回転軸O回りの回転時に、被削材に内側刃41が先行して接触し、内側刃41の後に外側刃42が被削材に接触するようにしている。
【0052】
逃げ面6の内、切れ刃4の回転方向後方側に連続して形成された2番面61の少なくとも内側刃41の区間(後述の内周側2番面61a)の回転方向の幅は半径方向外周側へ向かって次第に拡大する形状に形成される。言い換えれば、先端面30の半径方向には、図2に示すようにチゼルエッジ5の端部Pから、内側刃41と外側刃42との境界(交点)Qとその回転方向後方側の位置(後述の境界線84の方向)へ向かい、ドリル本体の回転方向の幅が次第に拡大する形状に形成される。ここで、「端部(点)Pから、境界Qとその回転方向後方側の位置へ向かい」とは、「半径方向中心(回転軸O)側から半径方向外周側にかけ、点Qの方向と境界線84に沿った方向の2方向へ向けて」の意味である。
【0053】
切れ刃4は半径方向に、内周側の内側刃41とそれより外周側の外側刃42とに区分されるから、この区分に従い、2番面61は「2番面61の内側刃41の区間」に対応する「内周側2番面61a」と、それより外周側の「外周側2番面61b」とに区分される。内周側2番面61aの回転方向前方側の稜線が内側刃41であり、外周側2番面61bの回転方向前方側の稜線が外側刃42である。
【0054】
内周側2番面61aは半径方向外周側へかけ、ドリル本体の回転方向の幅が次第に拡大する形状に形成されるから、内周側2番面61aを区画する内側刃41と、内周側2番面61aとその回転方向後方側のシンニング面8との間の境界線84とで挟まれた領域は三角形状、またはこれに近似した扇形状等に形成される。内周側2番面61aが三角形状等に形成されることで、被削材から内周側2番面61aに作用するトルクに対しては内側刃41の全長(稜線PQ)は均等な抵抗力を持つため、内周側2番面61aが三角形状等でない形状の場合よりトルクによる破損に対する安全性が高まっている。
【0055】
このことから、図面では図3図4に示すように内側刃41の区間には破損(欠け)を防止するためのホーニングを(形成)せず、内側刃41に繊細な切削能力を持たせている。一方、内側刃41にホーニングを(形成)しないことによる欠けを予防する目的で、内側刃41の軸方向すくい角を負にし、内側刃41の区間の刃部3の肉厚を増している。「軸方向すくい角が負」とは、シンニング面8の内、内側刃41の回転方向前方側に連続するすくい面となる部分の接平面と、内周側2番面61aとが刃部3側になす角度が、内側刃41の方向に見たときに90°より大きいことを言う。
【0056】
これに対し、外側刃42には内側刃41程の繊細な切削能力を要しないことから、図3図4に示すように外側刃42にはホーニング42aを形成し、破損に対する安全性を確保している。これに伴い、外側刃42の軸方向すくい角を正にしている。「軸方向すくい角が正」とは、外側刃42の回転方向前方側に連続するすくい面となる部分の接平面と外周側2番面61bとの刃部3側になす角度が、外側刃42の方向に見たときに90°より小さいことを言う。
【0057】
各切れ刃4の半径方向外周縁からは図1に示すようにドリル本体の軸方向後方側(シャンク部2側)へ向かってマージン9が連続し、ドリル本体の周方向(回転方向)にはマージン9の回転方向後方側の部分であるランド10の区間に3番面62が形成される。図面では2番面61はドリル本体の周方向にはマージン9からランド10に移行した部分まで形成されている。
【0058】
シンニング面8は切屑排出溝7側から見たときには、図1に示すように外側刃42と内側刃41のすくい面を兼ねながら、一旦、2番面61(内周側2番面61a)の回転方向後方側へ入り込み、そのまま2番面61(外周側2番面61b)と3番面62の切屑排出溝7側を向いた部分の側面をなすように形成される。シンニング面8と、外周側2番面61bの回転方向前方側の稜線との境界線は外側刃42であり、内周側2番面61aの回転方向前方側の稜線との境界線83は内側刃41である。
【0059】
内側刃41と外側刃42の境界Qから2番面61側へ向かって形成されるシンニング面8は内周側2番面61aの回転方向後方側と外周側2番面61bの切屑排出溝7側に連続する曲面を有する。2番面61の回転方向後方側に3番面62が連続して形成された場合、シンニング面8は外周側2番面61bの切屑排出溝7側から3番面62の切屑排出溝7側に連続して形成される。
【0060】
図1図2はまた、チゼルエッジ5の全長が一対のシンニング面8、8の境界線となり、両シンニング面8、8の境界線84、84がチゼルエッジ5、または回転軸Oを挟んで行き違う状態にある場合のドリル1の製作例を示している。この例では各シンニング面8を半径方向外周側から見たとき、各シンニング面8の各境界線84が図2に示す回転軸Oを越え、反対側のシンニング面8寄りに位置するため、両境界線84、84の、チゼルエッジ5の端部P側の延長線が、チゼルエッジ5を越えた側のシンニング面8の境界線84に連続する境界線85(シンニング面8と逃げ面6との間の境界線85)に交わる状態になっている。このことから、図1図2に示す例では後述の図6図7に示す例との対比では先端面30を軸方向に見たときの先端面30全体の面積に占めるシンニング面8の面積が拡大し、シンニング面8の切屑収容能力が増す利点がある。
【0061】
図面ではドリル本体の先端面30を回転軸Oの方向に見たとき、シンニング面8を回転方向前方側の逃げ面6側から回転方向後方側の切屑排出溝7側へかけて1段目シンニング面81とこの1段目シンニング面81より深い2段目シンニング面82とに区分し、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間に先端面30側へ凸となる稜線(境界線86)を形成している。境界線86は先端面30側へ凸の稜線になることで、切屑が1段目シンニング面81と2段目シンニング面82に沿って円錐形状に丸まりながら成長するときに、切屑を軸方向に分断させる働きをする。
【0062】
図面では特に先端面30を軸方向に見たとき、チゼルエッジ5(直線PP)の延長線が2番面61(内周側2番面61a)の範囲内を通過するようにチゼルエッジ5の方向を調整することで、各切れ刃4の内側刃41(境界線83)を2番面61の回転方向後方側へ寄せ、図6図7に示す例よりシンニング面8内の容積を増している。
【0063】
なお、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82に沿って成長しようとする切屑は1段目シンニング面81と2段目シンニング面82の少なくともいずれか一方に接触し続けることにより捩れ、円錐形状に丸まりながら成長しようとする。この関係で、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82が切屑を丸ませようとする上では、1段目シンニング面81と2段目シンニング面82は共に、先端面30を軸方向に見たときに先端面30側へ凹の曲面をなしていることが適切である。両シンニング面81、82が凹曲面をなすことは、シンニング面8内の容積を増すことにもなる。
【0064】
図6図7は各(b)に示すようにチゼルエッジ5(直線PP)の、破線で示す延長線が内側刃41(境界線83(稜線PQ))の回転方向前方側を通過し、内側刃41とチゼルエッジとが鈍角をなす場合の製作例(参考例)を示している。この場合、チゼルエッジ5が内側刃41に対して回転方向前方側を向き、内周側2番面61aの範囲内を通過しない関係で、チゼルエッジ5を挟む一対の内側刃41、41間(内側刃41、41の延長線間)に距離が確保され、結果的に内周側2番面61aの回転方向の幅が大きめになる。
【0065】
これに対し、図1に示す例では図1の拡大図である図2図6図7の各(b)との対比から分かるようにチゼルエッジ5の、破線で示す延長線が2番面61(内周側2番面61a)の範囲内を通過することで、チゼルエッジ5を挟む一対の内側刃41、41間(内側刃41、41の延長線間)に距離が図6図7に示す例より短縮され、内側刃41が回転方向後方側へ後退している。結果的に図6図7に示す例より内周側2番面61aの回転方向の幅が相対的に小さくなり、シンニング面8内の容積が増しているため、シンニング面8内での切屑の収容能力が増大し、切屑の詰まりの抑制効果が向上することになる。
【0066】
図7は内側刃41、41(境界線83、83)間距離が図6に示す例より小さい場合の例を、図1図7に示す例より小さい場合の例を示している。「内側刃41、41間距離が相対的に大きいこと」は2番面61(内周側2番面61a)とその回転方向後方側のシンニング面8との間の境界線84とチゼルエッジ5とのなす角度が相対的に大きいことでもある。図6図7に示す例では図1に示す例との対比で「内側刃41、41間距離が相対的に大きいこと」の結果、内側刃41とその回転方向後方側の境界線84との間の距離が相対的に大きくなり、内周側2番面61aの回転方向の幅が相対的に大きくなる。
【0067】
結論として、図1図2に示すようにチゼルエッジ5(直線PP)の延長線が2番面61の範囲内を通過すれば、チゼルエッジ5の延長線が2番面61の回転方向前方側の境界線83である内側刃41(稜線PQ)の回転方向前方側を通過する場合より内周側2番面61aの回転方向の幅が相対的に小さくなり、シンニング面8内の容積が増すことにつながる。
【0068】
図8はシンニング面8とその回転方向前方側が接する2番面61との間の境界線84がチゼルエッジ5の端部(点P)以外の点に交わるようにドリル1を製作した場合(参考例)のチゼルエッジ5とその両端部P、P、及び境界線84の関係を示す。この例のシンニング面8は図1に示す製作例と図6図7に示す製作例の中間的な形状になる。
【符号の説明】
【0069】
1……ドリル(ドリル本体)、
2……シャンク部、
3……刃部、30……先端面、
4……切れ刃、
41……内側刃、42……外側刃、42a……ホーニング、
5……チゼルエッジ、
6……逃げ面、61……2番面、61a……内周側2番面、61b……外周側2番面、62……3番面、
7……切屑排出溝、
8……シンニング面、
81……1段目シンニング面、82……2段目シンニング面、
83……内側刃41とそれが接するシンニング面8(内側刃81とその回転方向前方側のシンニング面8)との間の境界線、
84……シンニング面8とその回転方向前方側が接する2番面61(2番面61とその回転方向後方側のシンニング面8)との間の境界線、
85……シンニング面8とその半径方向外周側が接する逃げ面6(逃げ面6とその回転方向後方側のシンニング面8)との間の境界線、
86……1段目シンニング面81と2段目シンニング面82との間の境界線、
87……シンニング面8と切屑排出溝7との間の境界線、
9……マージン、10……ランド、
O……回転軸、
P……チゼルエッジ5の端部(チゼルエッジ5と内側刃41との交点)、
Q……内側刃41と外側刃42との境界(交点)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8