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特許7185181半導体素子被覆用ガラス及びこれを用いた半導体被覆用材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】半導体素子被覆用ガラス及びこれを用いた半導体被覆用材料
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/04 20060101AFI20221130BHJP
   C03C 8/14 20060101ALI20221130BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20221130BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C03C8/04
C03C8/14
H01L23/30 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018189156
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020055724
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 将行
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/168236(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/160704(WO,A1)
【文献】米国特許第4319215(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 8/04
C03C 8/14
H01L 21/316
H01L 23/29
H01L 23/31
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO 18~43%、B 13~21%、Al 8~21%、ZnO 10~25%、MgO+CaO 10~25%を含有し、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする半導体素子被覆用ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末 75~100質量%、セラミック粉末 0~25%を含有することを特徴とする半導体素子被覆用材料。
【請求項3】
30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20×10-7/℃以上、且つ55×10-7/℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の半導体素子被覆用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子被覆用ガラス及びこれを用いた半導体被覆用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンダイオード、トランジスタ等の半導体素子は、一般的に、半導体素子のP-N接合部を含む表面がガラスにより被覆される。これにより、半導体素子表面の安定化を図り、経時的な特性劣化を抑制することができる。
【0003】
半導体素子被覆用ガラスに要求される特性として、(1)半導体素子との熱膨張係数差によるクラック等が発生しないように、熱膨張係数が半導体素子の熱膨張係数に適合すること、(2)半導体素子の特性劣化を防止するため、低温(例えば900℃以下)で被覆可能であること、(3)半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ成分等の不純物を含まないこと等が挙げられる。
【0004】
従来から、半導体素子被覆用ガラスとして、ZnO-B-SiO系等の亜鉛系ガラス、PbO-SiO-Al系ガラス、PbO-SiO-Al-B系ガラス等の鉛系ガラスが知られているが、現在では、作業性の観点から、PbO-SiO-Al系ガラス、PbO-SiO-Al-B系ガラス等の鉛系ガラスが主流となっている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭48-43275号公報
【文献】特開昭50-129181号公報
【文献】特公平1-49653号公報
【文献】特開2008-162881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、鉛系ガラスの鉛成分は、環境に対して有害な成分である。上記の亜鉛系ガラスは、少量の鉛成分やビスマス成分を含むため、環境に対して完全に無害であるとは言い切れない。
【0007】
また、亜鉛系ガラスは、鉛系ガラスと比較して、化学耐久性に劣り、被覆層を形成した後の酸処理工程で侵食され易いという問題がある。このため、被覆層の表面に更に保護膜を形成して酸処理を行う必要があった。
【0008】
一方、ガラス組成中のSiOの含有量を多くすると、耐酸性が向上すると共に、半導体素子の逆電圧が向上するが、半導体素子の逆漏れ電流が大きくなるという不具合が生じる。特に、低耐圧用の半導体素子では、逆電圧の向上よりも、逆漏れ電流を抑制して、表面電化密度を低減することが優先されるため、上記不具合がより問題になる。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、環境負荷が小さく、耐酸性に優れ、且つ表面電荷密度が低い半導体素子被覆用ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定のガラス組成を有するSiO-B-Al-ZnO系ガラスを用いることにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 18~43%、B 5~21%、Al 8~21%、ZnO 10~25%、MgO+CaO 10~25%を含有し、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする。ここで、「MgO+CaO」は、MgOとCaOの合量を指す。また、「実質的に~を含有しない」とは、ガラス成分として該当成分を意図的に添加しないことを意味し、不可避的に混入する不純物まで完全に排除することを意味するものではない。具体的には、不純物を含めた該当成分の含有量が0.1質量%未満であることを意味する。
【0011】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、上記の通り、各成分の含有範囲を規制している、これにより、環境負荷が小さく、耐酸性が向上すると共に、表面電荷密度が低下する。結果として、低耐圧用の半導体素子の被覆に好適に使用可能になる。
【0012】
また、本発明の半導体素子被覆用材料では、上記の半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末 75~100質量%、セラミック粉末 0~25%を含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の半導体素子被覆用材料では、30~300℃の温度範囲における熱膨張係数が20×10-7/℃以上、且つ55×10-7/℃以下であることが好ましい。ここで、「30~300℃の温度範囲における熱膨張係数」は、押し棒式熱膨張係数測定装置により測定した値を指す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 18~43%、B 5~21%、Al 8~21%、ZnO 10~25%、MgO+CaO 10~25%を含有し、実質的に鉛成分を含有しないことを特徴とする。各成分の含有量を限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、%表示は、特に断りのない限り、モル%を意味する。
【0015】
SiOは、ガラスの網目形成成分であり、耐酸性を高める成分である。SiOの含有量は18~43%であり、好ましくは20~40%、特に22~36%である。SiOの含有量が少な過ぎると、耐酸性が低下する傾向がある。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融時の失透性が強くなり、均質なガラスが得られ難くなる。
【0016】
は、ガラスの網目形成成分であり、軟化流動性を高める成分である。Bの含有量は5~21%であり、好ましくは5~18%、特に7~15%である。Bの含有量が少な過ぎると、結晶性が強くなるため、被覆時に軟化流動性が損なわれて、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる。一方、Bの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなったり、耐酸性が低下する傾向がある。
【0017】
Alは、ガラスを安定化すると共に、表面電荷密度を調整する成分である。Alの含有量は8~21%であり、好ましくは5~20%、特に8~18%である。Alの含有量が少な過ぎると、ガラスが失透し易くなる。一方、Alの含有量が多過ぎると、表面電荷密度が大きくなり過ぎる虞がある。
【0018】
ZnOは、ガラスを安定化する成分である。ZnOの含有量は10~25%であり、好ましくは12~22%である。ZnOの含有量が少な過ぎると、溶融時の失透性が強くなり、均質なガラスが得られ難くなる。一方、ZnOの含有量が多過ぎると、耐酸性が低下し易くなる。
【0019】
MgOとCaOは、ガラスの粘性を下げる成分である。MgOとCaOの合量は10~25%であり、好ましくは12~20%である。MgOとCaOの合量が少な過ぎると、ガラスの焼成温度が上昇し易くなる。一方、MgOとCaOの合量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎたり、耐酸性が低下したり、絶縁性が低下する虞がある。なお、MgOの含有量は、好ましくは0~20%、特に0~5%である。CaOの含有量は、好ましくは1~25%、特に10~20%である。
【0020】
上記成分以外にも、他の成分(例えば、SrO、BaO、MnO、Ta、Nb、CeO、Sb等)を7%まで(好ましくは3%まで)含有してもよい。
【0021】
環境面の観点から、実質的に鉛成分(例えばPbO等)を含有せず、実質的にBi、F、Clも含有しないことが好ましい。また、半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ成分(LiO、NaO及びKO)も実質的に含有しないことが好ましい。
【0022】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、粉末状であること、つまりガラス粉末であることが好ましい。ガラス粉末に加工すれば、例えば、ペースト法、電気泳動塗布法等を用いて半導体素子表面の被覆を容易に行うことができる。
【0023】
ガラス粉末の平均粒子径D50は、好ましくは25μm以下、特に15μm以下である。ガラス粉末の平均粒子径D50が大き過ぎると、ペースト化が困難になる。また、電気泳動法による粉末付着も困難になる。なお、ガラス粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。なお、「平均粒子径D50」は、体積基準で測定した値であり、レーザー回折法で測定した値を指す。
【0024】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、例えば、各酸化物成分の原料粉末を調合してバッチとし、1500℃程度で約1時間溶融してガラス化した後、成形(その後、必要に応じて粉砕、分級)することによって得ることができる。
【0025】
本発明の半導体素子被覆用材料は、前記半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末を含むが、必要に応じて、セラミック粉末と混合し、複合粉末としてもよい。セラミック粉末を添加すれば、熱膨張係数を調整し易くなる。
【0026】
セラミック粉末は、ガラス粉末100質量部に対して、25%未満、特に20%未満であることが好ましい。セラミック粉末の含有量が多過ぎると、ガラスの軟化流動性が損なわれて、半導体素子表面の被覆が困難になる。
【0027】
セラミック粉末の平均粒子径D50は、好ましくは30μm以下、特に20μm以下である。セラミック粉末の平均粒子径D50が大き過ぎると、被覆層の表面平滑性が低下し易くなる。セラミック粉末の平均粒子径D50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0028】
本発明の半導体素子被覆用材料において、30~300℃の温度範囲における熱膨張係数は、好ましくは20×10-7/℃以上、55×10-7/℃以下、特に30×10-7/℃以上、50×10-7/℃以下である。熱膨張係数が上記範囲外になると、半導体素子との熱膨張係数差によるクラック、反り等が発生し易くなる。
【0029】
本発明の半導体素子被覆用材料において、表面電荷密度は、例えば1000V以下の半導体素子表面を被覆する場合、好ましくは6×1011/cm以下、特に5×1011/cm以下である。表面電荷密度が高過ぎると、耐圧が高くなるが、同時に漏れ電流も大きくなる傾向がある。なお、「表面電荷密度」は、後述する実施例の欄に記載の方法によって測定した値を指す。
【実施例
【0030】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0031】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~4)と比較例(試料No.5、6)を示している。
【0032】
【表1】
【0033】
各試料は、以下のようにして作製した。まず表中のガラス組成となるように原料粉末を調合してバッチとし、1500℃で1時間溶融してガラス化した。続いて、溶融ガラスをフィルム状に成形した後、ボールミルにて粉砕し、350メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径D50が12μmとなるガラス粉末を得た。なお、試料No.4では、得られたガラス粉末に対して、コーディエライト粉末(平均粒子径D50:12μm)を15質量%添加して、複合粉末とした。
【0034】
各試料について、熱膨張係数、表面電荷密度及び耐酸性を評価した。その結果を表1に示す。
【0035】
熱膨張係数は、押し棒式熱膨張係数測定装置を用いて、30~300℃の温度範囲にて測定した値である。
【0036】
表面電荷密度は、次のようにして測定した。まず、各試料を有機溶媒中に分散し、電気泳動によってシリコン基板表面に一定の膜厚になるように付着させた後、焼成して被覆層を形成した。次に、被覆層の表面にアルミニウム電極を形成した後、被覆層中の電気容量の変化をC-Vメータを用いて測定し、表面電荷密度を算出した。
【0037】
耐酸性は次のようにして評価した。各試料を直径20mm、厚み4mm程度の大きさにプレス成型した後、焼成してペレット状試料を作製し、この試料を30%硝酸中に25℃、1分浸漬した後の質量減から単位面積当たりの質量変化を算出し、耐酸性の指標とした。なお、単位面積当たりの質量変化が1.0mg/cm未満を「○」、1.0mg/cm以上を「×」とした。
【0038】
表1から明らかなように、試料No.1~4は、表面電荷密度が6×1011/cm以下であり、且つ耐酸性の評価も良好であった。よって、試料No.1~4は、低耐圧用半導体素子の被覆に用いる半導体素子被覆用材料として好適であると考えられる。
【0039】
一方、試料No.5、6は、耐酸性試験の評価が不良であった。更に、試料No.6は、熱膨張係数が高く、また表面電荷密度も高かった。