(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】枕
(51)【国際特許分類】
A47G 9/10 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
A47G9/10 F
A47G9/10 G
(21)【出願番号】P 2022539425
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2022017661
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2021084314
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515138768
【氏名又は名称】角田 紀臣
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】角田 紀臣
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-095368(JP,U)
【文献】特開2016-106908(JP,A)
【文献】登録実用新案第3131886(JP,U)
【文献】登録実用新案第3096217(JP,U)
【文献】特開2020-116281(JP,A)
【文献】登録実用新案第3169132(JP,U)
【文献】特開2012-135510(JP,A)
【文献】特開平08-000422(JP,A)
【文献】登録実用新案第3215283(JP,U)
【文献】特表2015-526153(JP,A)
【文献】特開2020-115996(JP,A)
【文献】特開2010-063704(JP,A)
【文献】実開平07-011976(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋体と、前記袋体に収容される複数種の収容部材とを備える枕であって、
仰臥姿勢の人体の頭部を載せたときの左右方向に沿う方向を幅方向、人体の身長方向に沿う方向を前後方向としたときに、
前記幅方向に沿って設けられ、頚椎を支持するための頚椎支持部と、
前記頚椎支持部の後縁の幅方向中央部に接続され、後頭部を支持するための後頭部支持部と、
前記頚椎支持部の後縁の両端部にそれぞれ接続されるとともに、前記後頭部支持部の両側縁に接続され、側頭部を支持するための2つの側頭部支持部と、
を備え、
前記頚椎支持部に頂部が前記幅方向に沿って設けられ、前記後頭部支持部に最も高さの小さい最薄部が設けられ、前記側頭部支持部の表面は、前記頚椎支持部から後方に向かうにしたがって下り勾配に傾斜し、前記側頭部支持部から前記後頭部支持部に至る表面が前記最薄部に向けて下り勾配に傾斜しており、
前記袋体は、少なくとも、前記頚椎支持部を表側層及び裏側層に区画する頚椎表側小袋部及び頚椎裏側小袋部と、前記側頭部支持部の表側を構成する2つの側頭部表側小袋部と、該側頭部表側小袋部の下方空間を前記後頭部支持部の下方空間を介して連通させてなる後方裏側小袋部とを有し、
前記収容部材は、柔軟な軟質充填材と、該軟質充填材より反発力の大きい粒状充填材と、シート状に成形されたシート状成形体とを備えており、前記頚椎表側小袋部に前記軟質充填材が充填され、前記頚椎裏側小袋部に前記粒状充填材が充填され、前記後方裏側小袋部に前記シート状成形体が収容されており、
前記頚椎支持部は、前記頚椎表側小袋部と前記頚椎裏側小袋部とがこれらの前端縁で接合されており、前記裏側層の前後方向寸法は前記表側層の前後方向寸法より小さいことを特徴とする枕。
【請求項2】
前記側頭部表側小袋部内に前記粒状充填材が充填されるとともに、前記頚椎裏側小袋部内の充填密度より前記側頭部表側小袋部内の充填密度が小さく、前記側頭部表側小袋部内で前記粒状充填材が移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の枕。
【請求項3】
前記側頭部表側小袋部には、その外周部を除く中央部位に、該側頭部表側小袋部の一部を線状に縫い合わせてなる縫合部が幅方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項
2に記載の枕。
【請求項4】
前記側頭部支持部の表面は、前記頚椎支持部との接続部から後方に向かうにしたがって下り勾配に傾斜しており、水平面に対する傾斜角度が頚椎支持部との接続部側における第1角度が大きく、前後方向の中央部における第2角度が小さいことを特徴とする請求項1
から3のいずれか一項に記載の枕。
【請求項5】
前記後頭部支持部の前記最薄部の高さが1cm以上2cm以下であり、
前記頚椎支持部の前記頂部の高さは、前記後頭部支持部の前記最薄部の高さの3倍以上9倍以下であることを特徴とする請求項1
から3のいずれか一項に記載の枕。
【請求項6】
直径100mmの円板状の圧縮治具を用いて10mm/minの速度で最大荷重6kgfまで前記枕を圧縮したときの、前記頚椎支持部の圧縮特性の直線性をLC1、前記側頭部支持部の圧縮特性の直線性をLC2、前記頚椎支持部の圧縮仕事量をWC1(mm・gf/78.5cm
2)、前記側頭部支持部の圧縮仕事量をWC2(mm・gf/78.5cm
2)、前記頚椎支持部の圧縮回復量をRC1(%)、前記側頭部支持部の圧縮回復量をRC2(%)としたとき、LC1<LC2、WC1>WC2、RC1>RC1であることを特徴とする請求項1
から3のいずれか一項に記載の枕。
【請求項7】
前記軟質充填材はポリエステル綿からなるとともに、前記粒状充填材は樹脂パイプからなり、
前記シート状成形体は、ポリウレタンフォームからなる1枚のウレタンシートであることを特徴とする請求項1
から3のいずれか一項に記載の枕。
【請求項8】
前記袋体の前記頚椎表側小袋部、前記頚椎裏側小袋部、前記側頭部表側小袋部、前記後方裏側小袋部のそれぞれには、開口部と、前記開口部を開閉可能な止め部とが設けられていることを特徴とする請求項1
から3のいずれか一項に記載の枕。
【請求項9】
前記軟質充填材、前記粒状充填材、前記シート状成形体は抗菌及び消臭機能を有することを特徴とする請求項1
から3のいずれか一項に記載の枕。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、就寝時に首の筋肉の緊張を生じさせることなく気道の確保が可能な枕に関する。本願は、2021年5月19日に出願された特願2021-084314号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、頚椎が自然に湾曲せずストレート形状となるストレートネックという現代病が問題となっている。このようなストレートネックを緩和するためのオーダーメイド枕が販売されている。しかしながら、枕をオーダーメイドで作成したとしても、個々人の枕作成時の筋肉の緊張度合いやゆがみの程度に合わせて枕を作成するため、一定期間が経過すると枕が合わなくなり、不眠症となるケースがある。
【0003】
このような事態に対応するため、寝た人の頸椎近傍の形状に適合し易いように、所定箇所の高さ等を容易に調整できる特許文献1に記載の枕が知られている。この特許文献1に記載の枕は、寝たときに首近傍に当接する枕の首側部が後頭部に当接して頭を支える支え部よりも高い枕において、該枕の首側部と支え部とが分割されて形成されていると共に、首側部と支え部とがピロケースに収納され、且つ支え部の袋に充填されたそば殻の充填高さを調整すべく、そば殻が充填された状態で袋の一部が折り畳み可能とされている。
【0004】
一方、特許文献1の枕は、仰向けで睡眠をとる際にはストレートネックであっても気道の確保がされるものの、寝返りを打ち横向きで睡眠をとる際には頭位を支持できないため気道を確保できない。このような問題に対処するため、例えば、特許文献2や特許文献3に記載の仰臥(仰向け)と横臥(横向き)の両状態において安定な睡眠を得ることができる枕が知られている。
【0005】
特許文献2に記載の枕は、仰臥した時に後頭部を支える後頭部支持部及び頸部を支える頸部支持部と、該後頭部支持部及び頸部支持部の両側に位置して、横臥した時に横頭部(側頭部)を支える2個の横頭部支持部とを備えている。これら後頭部支持部と頸部支持部の高さは仰臥した時の鼻と顎の高さがほぼ水平になるように調整され、横頭部支持部の高さが横臥した時の頸椎と胸椎とがほぼ直線になるように調整されている。また、密度0.2以下、厚さ10~40mmの軟質ポリウレタンフォームからなる肩支持部が設けられ、さらに、横頭部支持部が頸部支持部より3cm以上高く設定されている。
【0006】
また、特許文献3に記載の枕は、一対の反発弾性部と、頭部支持部と、頸椎支持部とを有する。一対の反発弾性部は、幅方向の両側に位置する。頭部支持部は、一対の反発弾性部の間に位置する。頸椎支持部は、幅方向に対して垂直な奥行方向において頭部支持部に隣接し、かつ一対の反発弾性部の間に位置している。一対の反発弾性部の各々の高さは、頸椎支持部の高さよりも大きく、頭部支持部の高さは、頸椎支持部の高さよりも小さい。また、一対の反発弾性部の各々の内部には、ポリエステル繊維が充填され、ポリエステル繊維には長手方向に沿って延在する少なくとも1以上の孔が設けられており、かつポリエステル繊維は螺旋状の部分を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-422号公報
【文献】特開平11-253287号公報
【文献】実用新案登録3215283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の枕では、頚椎支持部は、発泡ポリスチロールにより形成されているため、気道の確保はできるものの首の筋肉が緊張状態のまま支持される。
【0009】
また、特許文献3に記載の枕では、頚椎支持部の内部には中空パイプ(樹脂パイプ)のみが充填された状態であるため、頚椎支持部が頭部の自重により沈み込み過ぎて首の筋肉が引っ張られる状態となり、この場合も首の筋肉が緊張状態のまま支持されることとなる。さらに、
図13に示すように、使用者の側頭部が支持される状態で肩関節が首側に挙がった状態(
図13の矢印で示す方向に肩関節が挙がった状態)であると、肩関節により頭蓋骨が斜め上方に押し上げられ、頭蓋骨の側頭部(
図14に示す円で囲まれた領域P1)の負荷が大きくなり、ストレスを感じる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、仰向け及び横向き状態のいずれの場合であっても首の筋肉の緊張を生じさせることなく気道を確保でき、ストレートネックの緩和にも有効な枕を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の枕は、袋体と、前記袋体に収容される複数種の収容部材とを備える枕であって、仰臥姿勢の人体の頭部を載せたときの左右方向に沿う方向を幅方向、人体の身長方向に沿う方向を前後方向としたときに、前記幅方向に沿って設けられ頚椎を支持するための頚椎支持部と、前記頚椎支持部の後縁の幅方向中央部に接続され、後頭部を支持するための後頭部支持部と、前記頚椎支持部の後縁の両端部にそれぞれ接続されるとともに、前記後頭部支持部の両側縁に接続され、側頭部を支持するための2つの側頭部支持部と、を備えている。前記頚椎支持部に頂部が前記幅方向に沿って設けられ、前記後頭部支持部に最も高さの小さい最薄部が設けられ、前記側頭部支持部の表面は、前記頚椎支持部から後方に向かうにしたがって下り勾配に傾斜し、前記側頭部支持部から前記後頭部支持部に至る表面が前記最薄部に向けて下り勾配に傾斜しており、前記袋体は、少なくとも、前記頚椎支持部を表側層及び裏側層に区画する頚椎表側小袋部及び頚椎裏側小袋部と、前記側頭部支持部の表側を構成する2つの側頭部表側小袋部と、該側頭部表側小袋部の下方空間を前記後頭部支持部の下方空間を介して連通させてなる後方裏側小袋部とを有し、前記収容部材は、柔軟な軟質充填材と、該軟質充填材より反発力の大きい粒状充填材と、シート状に成形されたシート状成形体とを備えており、前記頚椎表側小袋部に前記軟質充填材が充填され、前記頚椎裏側小袋部に前記粒状充填材が充填され、前記後方裏側小袋部に前記シート状成形体が収容されている。
【0012】
なお、ここで「高さ」とは、枕を平面上に載置した状態での、枕の各部位の平面からの高さを示している。
【0013】
本発明では、頚椎支持部、後頭部支持部及び側頭部支持部が袋体により一体化されているとともに、頚椎支持部が幅方向に沿って設けられ、頚椎、後頭部及び側頭部のそれぞれを支持する表面の傾斜を上記のように設定しているので、仰向け及び横向きのいずれの場合であっても頚椎、頭部及び側頭部のそれぞれを適切に支持でき、頚椎に負担をかけることなく、気道が確保できる。
この場合、頚椎支持部が、表側層と裏側層との二層構造となっており、軟質充填材が充填されている表側層が、頚椎をやさしく包み込むように支持しつつ、粒状充填材が充填されて反発力が大きい裏側層により、頚椎を所定の高さに支持することができる。
【0014】
ここで、頚椎支持部が粒状充填材の層のみからなると、頚椎支持部の反発力が大きくなりすぎる他、粒状充填材の硬さや形状によっては、頚椎に負担をかける可能性がある。一方、頚椎支持部が軟質充填材の層のみからなると頚椎支持部の反発力が小さくなりすぎる他、経年劣化により頚椎支持部の高さが小さくなる可能性がある。また、二層構造でなく、粒状充填材と軟質充填材との混合状態の単一層であると、経年劣化により高さが小さくなったり、型崩れが生じたりする可能性がある。
このため、上記態様の頚椎支持部では、裏側層に粒状充填材を、表側層に軟質充填材を充填することで、表側層の軟質充填材を粒状充填材が充填された裏側層により支持し、頚椎支持部の型崩れを防止するとともに、頚椎への負担を軽減している。
【0015】
また、頚椎支持部が枕の幅方向に沿って形成されるとともに、側頭部支持部の高さが奥側に向かうにしたがって漸次高さが小さく、かつ、後頭部支持部と側頭部支持部との間がなだらかなスロープであることにより、仰向け状態から横向き状態に体勢を変更する際に、頭位を容易に変更できるとともに、寝返りを打つ時に枕使用者の側頭部を適切に沈み込ませながら支持することができ、頚椎に余計な張力が生じないようにできる。
【0016】
特に、自然な寝返りを打った場合肩関節が内転内旋位となるが、頚椎支持部により引き続き頚椎を支持できるとともに、側頭部支持部の高さが奥側の方が低く形成されているので側頭部が適切に支持され、上腕骨後部、肩甲棘、肩峰の3つのエリアで上半身を安定して支えることができ、寝返りを打った場合においても頚椎に余計な張力が生じないようにできる。
【0017】
特に、ベッドやマットレス上に寝ている使用者は、身体の重みでマットレスが沈み込み、相対的に枕が高くなって首や肩の負担が大きくなるが、本発明では、後頭部支持部の高さがかなり低く形成されているため、ベッドやマットレスを用いている使用者であっても、頚椎や肩にかかる負担を確実に軽減できる。
【0018】
さらに、
図13に示すように、使用者の側頭部が支持される状態で肩関節が首側に挙がり頭蓋骨が斜め上方に押し上げられた場合でも、側頭部支持部の高さ(厚さ)が奥側に向かうにしたがって漸次小さいので、頭蓋骨の側頭部を適切に支持でき、頭蓋骨の領域P1(
図14参照)にかかる負荷を小さくできる。
【0019】
本発明の枕において、前記頚椎支持部は、前記頚椎表側小袋部と前記頚椎裏側小袋部とがこれらの前端縁で接合されており、前記裏側層の前後方向寸法は前記表側層の前後方向寸法より小さいとよい。
頚椎支持部では裏側層が表側層より前後方向寸法が小さいことから、頚椎を支持したときに、裏側層の支持がない表側層の後縁部付近がたわんで、その頂部から後方へと緩やかな傾斜面とすることができ、その傾斜面に後頭部支持部が続くことにより、頚椎から後頭部をその表面形状に沿って適切に支持することができる。
【0020】
この場合、前記頚椎支持部における前記裏側層の前後方向寸法は、前記表側層の前後方向寸法の1/2以上3/4以下であるとよい。
【0021】
また、前記頚椎支持部の前記裏側層の高さは前記頚椎支持部の高さの10%以上30%以下であるとよい。
【0022】
本発明の枕において、前記側頭部表側小袋部内に前記粒状充填材が充填されるとともに、前記頚椎裏側小袋部内の充填密度より前記側頭部表側小袋部内の充填密度が小さく、前記側頭部表側小袋部内で前記粒状充填材が移動可能であるとよい。
【0023】
側頭部支持部では、裏側にシート状成形体、表側に粒状充填材を配置することで、シート状成形体により必要な厚みを確保し易くするとともに、粒状充填材により側頭部をその表面形状に沿って適切に支持することができる。
ここで、側頭部支持部が粒状充填材の層のみであると、側頭部支持部の反発力が小さくなる他、粒状充填材の硬さや形状によっては、側頭部に負担をかける可能性がある。一方、側頭部支持部がシート状成形体の層のみからなると、その形状にもよるが、寝返りを打ったときに側頭部の表面形状に沿って適切に支持できない可能性がある。
【0024】
また、後頭部支持部及び側頭部支持部の裏側をシート状成形体によって支持しているので、枕の安定性を向上でき、寝返りを打ったときにも配置が乱れることがない。
また、側頭部表側小袋部内で粒状充填材が移動可能であるので、寝返りを打ったときに、その頭の移動に伴って粒状充填材が移動して、側頭部を適切な高さで支持することができる。
【0025】
この場合、前記側頭部表側小袋部には、その外周部を除く中央部位に、該側頭部表側小袋部の一部を線状に縫い合わせてなる縫合部が幅方向に沿って形成されているとよい。
縫合部が外周部を除いて幅方向に形成されていると、寝返りの際の粒状充填材の移動が容易になる一方、粒状充填材が偏って配置されることを抑制できる。
【0026】
本発明の枕において、前記側頭部支持部の表面は、前記頚椎支持部との接続部から後方に向かうにしたがって下り勾配に傾斜しており、水平面に対する傾斜角度が頚椎支持部との接続部側における第1角度が大きく、前後方向の中央部における第2角度が小さいとよい。
側頭部支持部の表面が二段階で傾斜しているので、横向き姿勢で寝たときに、頚椎から側頭部を適切な高さで支持することができる。
【0027】
本発明の枕の好ましい態様としては、前記後頭部支持部の前記最薄部の高さが1cm以上2cm以下であり、前記頚椎支持部の前記頂部の高さが前記後頭部支持部の高さの3倍以上9倍以下であるとよい。
最薄部の厚さが1cm未満であると、後頭部支持部の高さが小さすぎて、後頭部を適切に支持できないおそれがある。最薄部の高さが2cmを超えると、頚椎支持部により頚椎を適切に支持できないおそれがある。この最薄部の高さ(後頭部支持部の高さ)は、1cm以上1.5cm以下がより好ましい。
上記態様では、後頭部支持部の高さが1cm~2cmと小さく、頚椎支持部の高さ及び側頭部支持部の高さがいずれも後頭部支持部の3倍以上であるので、後頭部支持部に後頭部が配置された際に頚椎支持部により頚椎が適切に支持され、首の筋肉が緊張状態となることを確実に防止できる。
【0028】
本発明の枕の好ましい態様としては、直径100mmの円板状の圧縮治具を用いて10mm/minの速度で最大荷重6kgfまで前記枕を圧縮したときの、前記頚椎支持部の圧縮特性の直線性をLC1、前記側頭部支持部の圧縮特性の直線性をLC2、前記頚椎支持部の圧縮仕事量をWC1(mm・gf/78.5cm2)、前記側頭部支持部の圧縮仕事量をWC2(mm・gf/78.5cm2)、前記頚椎支持部の圧縮回復量をRC1(%)、前記側頭部支持部の圧縮回復量をRC2(%)としたとき、LC1<LC2、WC1>WC2、RC1>RC1であるとよい。
【0029】
圧縮特性の直線性は、圧縮初期の圧縮容易性を示すパラメータであり、値が小さいほど圧縮初期に圧縮し易い素材であることを示す。圧縮仕事量は、全体的な圧縮容易性を示すパラメータであり、値が大きいほど圧縮し易い素材であることを示している。圧縮回復量は、圧縮後の回復性を示すパラメータであり、値が大きいほど形状が回復し易い素材であることを示している。つまり、上記態様では、頚椎支持部は側頭部支持部より圧縮初期の圧縮容易性に優れているとともに、全体的な圧縮性に優れ、かつ、圧縮後の回復性に優れている。
【0030】
本発明の枕の好ましい態様としては、前記軟質充填材はポリエステル綿からなるとともに、前記粒状充填材は樹脂パイプからなり、前記シート状成形体は、ポリウレタンフォームからなる1枚のウレタンシートであるとよい。
【0031】
上記態様では、前記シート状成形体が1枚のウレタンシートにより形成されているので、ウレタンシートの厚さを変更するだけで、後頭部支持部の高さを適宜変更できる。
【0032】
本発明の好ましい態様としては、前記袋体の前記頚椎表側小袋部、前記頚椎裏側小袋部、前記後頭部表側小袋部、前記側頭部表側小袋部、及び前記後方裏側小袋部のそれぞれには、開口部と、前記開口部を開閉可能な止め部とが設けられているとよい。
【0033】
上記態様では、各収容部材の交換等が可能であるとともに、頚椎支持部、後頭部支持部及び側頭部支持部を構成する粒状充填材や軟質充填材の量を調整でき、これにより枕使用者の頭部や頚椎を適切に支持する状態を維持できる。つまり、経年劣化により各支持部の高さが変わることを抑制できる。
【0034】
本発明の好ましい態様としては、前記軟質充填材、前記粒状充填材、及び前記シート状成形体は抗菌及び消臭機能を有するとよい。
【0035】
上記態様では、これら部材の抗菌及び消臭作用により枕を清潔な状態で保つことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、仰向け及び横向き状態のいずれの場合であっても首の筋肉の緊張を生じさせることなく気道を確保でき、ストレートネックも緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図3】上記実施形態の枕の表側と裏側とを展開し、分離して並べた図である。
【
図4】
図2に示すA1-A1線で切断した断面を示す断面図である。
【
図5】
図2に示すB1-B1線で切断した断面を示す断面図である。
【
図6】上記実施形態の枕を使用する使用者の後頭部を支持する様子を示す模式図である。
【
図7】上記実施形態の枕を使用する使用者の側頭部を支持する様子を示す模式図である。
【
図8】
図6の状態にある使用者を枕の側面側から見た模式図である。
【
図9】
図7の状態にある使用者を枕の側面側から見た模式図である。
【
図10】本発明の実施例における枕を加圧する様子を示す模式図である。
【
図11】本発明の実施例における交感神経活動における実験結果を示す図である。
【
図12】本発明の実施例における唾液アミラーゼの測定結果を示す図である。
【
図13】使用者の側頭部が枕に支持され肩関節が首側に挙がった状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施形態に係る枕について、図面を用いて説明する。なお、本明細書では、仰臥姿勢の人体の頭部を載置したときの左右方向に沿う方向を幅方向、人体の身長方向に沿う方向を前後方向(又は奥行方向)とする。
図2の上面図では、左右方向を幅方向とし、上下方向を前後方向(又は奥行方向)とし、上記幅方向及び前後方向のそれぞれに直交する方向を枕の高さ方向(又は厚さ方向)として説明する。
【0039】
[枕の構成]
本実施形態の枕10は、使用者の就寝時に用いられる枕であり、例えば、ストレートネック症状の患者に有効な枕である。この枕10は、袋体20と袋体20に収容される収容部材(軟質充填材31,粒状充填材32,シート状成形体33)とを備え、表面側から見た平面視で幅方向の寸法が60cm~80cm、奥行方向の寸法が35cm~55cmである。例えば、
図1及び
図2に示す例では、幅方向の寸法が70cm、奥行方向の寸法が45cmとされている。
【0040】
枕10は、
図1及び
図2に示すように、幅方向に沿って設けられ、頚椎を支持するための頚椎支持部11と、頚椎支持部11より高さが小さく頚椎支持部11の後縁の幅方向中央部に接続され後頭部12を支持するための後頭部支持部12と、頚椎支持部11の後縁の両端部にそれぞれ接続され後頭部支持部12を両側から挟むように、後頭部支持部12の両側縁に接続され、側頭部を支持するための2つの側頭部支持部13と、を備えている。
【0041】
頚椎支持部11は、枕10の幅方向の全体にわたり、かつ、枕10の奥行方向の手前側に位置し、枕10の使用者が仰向け状態(仰臥姿勢)及び横向き状態(側臥姿勢)で寝た際に使用者の頚椎を支持する。後頭部支持部12は、枕10の幅方向の中心、かつ、枕10の奥行方向の奥側(後ろ側)に位置し、枕10の使用者が仰向け状態で寝た際に使用者の後頭部を支持する。
【0042】
各側頭部支持部13は、後頭部支持部12に対して枕10の幅方向の両側(外側)に配置され、枕10の使用者が仰向け状態から横向き状態に寝返りを打つことにより後頭部支持部12により支持されていた使用者の後頭部が移動した際に、横向き姿勢の使用者の側頭部を支持する。つまり、本実施形態の枕10は、使用者が仰向け状態及び横向き状態のいずれの場合でも使用者の頭部及び頚椎を適切に支持可能な構成となっている。
【0043】
この場合、頚椎支持部11に、他より高さの大きい頂部110が幅方向に沿って設けられ、後頭部支持部12に最も高さの小さい最薄部120が設けられ、側頭部支持部13の表面は、頚椎支持部11から後方に向かうにしたがって下り勾配に傾斜し、側頭部支持部13から後頭部支持部12に至る表面が最薄部120に向けて下り勾配に傾斜している。
【0044】
袋体20は、繊維状素材、例えば、ポリエステル繊維等の化学繊維や綿等の植物繊維により形成されている。袋体20を形成する素材は、使用者の頭部が載置される表面側(
図1及び
図2は表面を示している)及び表面の反対側の裏面のそれぞれで素材を異ならせてもよく、例えば、表面をポリエステル繊維100%とし、裏面を綿65%、ポリエステル繊維35%の混紡としてもよい。
【0045】
袋体20は、頚椎支持部11を表側層111及び裏側層112に区画する頚椎表側小袋部201及び頚椎裏側小袋部202と、側頭部支持部13の表側の部分を構成する2つの側頭部表側小袋部203と、後頭部支持部12の表面を構成する後頭部表側小袋部204と、側頭部表側小袋部の203下方空間を後頭部支持部12の下方空間を介して連通させ、平坦な空間を形成する後方裏側小袋部205とを有している。したがって、表面側に4個(頚椎表側小袋部201、2個の側頭部表側小袋部202、及び後頭部表側小袋部204)、裏面側に2個(頚椎裏側小袋部202及び後方裏側小袋部205)の合計6個の小袋部を有している。
【0046】
なお、
図3は、袋体20を表側と裏側とに分けて分離し、その合わせ面を上にして左右に並べた状態に配置している。この
図3では、左側が表側、右側が裏側を構成する部材を示している。この
図3に示すように、袋体20は、表側を構成する頚椎表側小袋部201と、側頭部表側小袋部203と、後頭部表側小袋部204とが一体に接続され、他方、裏側を構成する頚椎裏側小袋部202に、後頭部支持部12及び側頭部支持部13の全体に広がる裏地205aが一体に接続されている。そして、これら表側と裏側とを矢印で示すように重ね合わせて、その周縁部を縫合することにより、表側を構成する頚椎表側小袋部201、側頭部表側小袋部203及び後頭部表側小袋部204に、頚椎裏側小袋部202及び裏地205aが重ね合わせられ、後方裏側小袋部205が形成される。この場合、頚椎表側小袋部201と頚椎裏側小袋部202とは、軟質充填材31及び粒状充填材32が充填されることにより、ほぼ密接して、これら頚椎表側小袋部201と頚椎裏側小袋部202との間の空間がほぼなくなるため、後方裏側小袋部205としては、実質的には、頚椎支持部11の後方に配置された空間により形成される。
【0047】
頚椎支持部11、後頭部支持部12及び側頭部支持部13を使用者が認識しやすいように、表面側に配置される各小袋部(4個の小袋部)ごとに異なる色に染色されているとよいが、すべてが同じ色に染色されていてもかまわない。
【0048】
袋体20のうち、後頭部表側小袋部114を除き、他の各小袋部201~205のそれぞれには、開口部(図示省略)と、この開口部を開閉可能な止め部21とが設けられていて、開口部を介して各小袋部201~205に収容部材31,32,33を適宜充填可能としている。止め部21としては、ボタンとボタン穴、ホック、スナップ、金属や樹脂製のファスナー、ジッパー、あるいは面ファスナーなどが用いられる。
【0049】
(頚椎支持部の構成)
頚椎支持部11は、袋体20の頚椎表側小袋部201には軟質充填材31が充填され、頚椎裏側小袋部202には多数の粒状充填材32が充填されている。軟質充填材31としては、変形容易な綿(植物繊維、動物繊維、合成繊維のいずれであってもよい)が好適であり、例えば、ポリエステル繊維を綿状に加工したものであり、柔軟性に優れる。また、表側層111を構成するポリエステル綿の一部(例えば、50%)は、抗菌及び消臭機能を有している。
【0050】
粒状充填材32としては、弾性変形可能な多数のパイプ(樹脂製パイプであり、円筒状のもの以外にも、丸形ビーズなどの球殻状のものも含む)が好適である。例えば、ポリエチレン樹脂により形成された樹脂パイプであり、その長さは5mm~20mm、外径が5mm~10mmとされている。また、樹脂パイプを形成するポリエチレン樹脂には、備長炭が含まれている。つまり、樹脂パイプは、抗菌及び消臭機能を有している。
【0051】
また、頚椎裏側小袋部202には粒状充填材32の自由な移動が制限される程度に粒状充填材32が隙間を詰めて充填される。
したがって、頚椎支持部11においては、裏側層112の反発力が表側層111の反発力より大きく形成される。つまり、表側層111の軟質充填材31の層を裏側層112の粒状充填材32の層により支持することで、頚椎支持部11の型崩れを防止するとともに、頚椎への負担を軽減している。
【0052】
頚椎支持部11の全体が軟質充填材31のみからなる層であると、その高さが経年劣化により小さくなる可能性がある。一方、頚椎支持部11の全体が粒状充填材32のみからなる層であると、粒状充填材32の硬さや形状によっては、頚椎に負担をかける可能性がある。また、これら軟質充填材31及び粒状充填材32が混合されている、つまり、各層に分割されていない場合、経年劣化により高さが小さくなったり、型崩れが生じたりする可能性がある。
【0053】
頚椎支持部11の頂部110の高さh1は、後頭部支持部12の最薄部120の高さh2の3.0倍以上9.0倍以下(例えば、本実施形態では6.0cm以上9.0cm以下、より好ましくは7.0cm以上8.0cm以下)に設定されている。また、頚椎支持部11における裏側層112の高さは、頚椎支持部11全体の高さh1の10%以上30%以下に設定されている。
【0054】
なお、裏側層112の高さが頚椎支持部11の高さh1の10%未満であると裏側層112が薄くなり過ぎて頚椎支持部11の高さh1が経年劣化により変化するのを抑制しにくくなり、30%を超えると枕10の型崩れを抑制しにくい。
【0055】
また、頚椎支持部11の幅方向の寸法は枕10の幅方向と同じ60cm~80cmであり、奥行方向の寸法は10cm~20cmとされている。さらに、頚椎支持部11の頚椎表側小袋部201と頚椎裏側小袋部202とは、これらの前端縁で接合されており、頚椎裏側小袋部202の前後方向寸法は頚椎表側小袋部201の前後方向寸法より小さく形成されている。例えば、頚椎支持部11における裏側層112の前後方向寸法L1は、表側層111の前後方向寸法L2の1/2以上3/4以下であり、表側層111の後縁部は、その下方で裏側層112の支持がない状態とされる。
【0056】
このため、人体の頚椎を載置したときに、頚椎支持部11の前縁から前後方向の半分以上の部位では、二層構造の表側層111と裏側層112とで頚椎が支持され、その後方部位では、裏側層112による支持のない表側層111のみで支持される。したがって、頚椎支持部11の後部においては表側層111が頭部の重量によりたわむことにより、頚椎支持部11の前側の二層構造となる部分で頚椎をしっかり支持しつつ、頚椎支持部11から後頭部支持部12にかけて表面がなだらかに傾斜して、頚椎から後頭部をその表面に沿う適切な形状で支持することができる。
なお、裏側層112の前後方向寸法が表側層111の1/2未満では、頚椎支持部11を適切な高さに保持することが難しく、3/4を超えると、表側層111のたわみが少なくなって頚椎から後頭部に至る表面形状に沿った支持が難しくなる。
【0057】
なお、頚椎支持部11の両小袋部201,202の開口部及び止め部21は、表側層111と裏側層112との合わせ面に形成されている。これにより、表側層111と裏側層112との充填材31,32の両方を容易に調整でき、充填材31,32を平坦にしたり、中心部に集中させたりすることで高低の調整を簡単に行う事ができ、中身調整の手間を省くことが可能となる。
【0058】
(後頭部支持部の構成)
後頭部支持部12は、後方裏側小袋部205と、その上に形成され、後頭部支持部12の表面を形成する後頭部表側小袋部204とを有しており、後方裏側小袋部205には1枚のシート状成形体33が収容されている。このシート状成形体33は、例えば、ポリウレタンに発泡剤を混合して化学反応をさせ硬化させて製造された、一様な厚さのポリウレタンフォームからなるウレタンシートにより形成される。後頭部表側小袋部204内には何も充填されておらず、小袋部204の表面が後頭部支持部12の表面を形成しているだけである。この後頭部表側小袋部204の表面がたるんでいることにより、そのほぼ中心部が、枕10の最も高さの小さい最薄部120に形成されている。
【0059】
後頭部支持部12の幅方向の寸法は15cm~27cmであり、奥行方向の寸法は20cm~35cm、その厚さ(高さ)は側頭部支持部13よりも低く、最薄部120では1cm以上2cm以下とされている(
図4参照)。
【0060】
枕10の最薄部120の高さh2が1cm未満であると、後頭部が低くなりすぎ適切に支持できず、高さh2が2cmを超えると、後頭部が高くなりすぎ頚椎支持部11により頚椎を適切に支持できない。最薄部120の高さh2は、1cm以上1.5cm以下がより好ましい。
【0061】
(側頭部支持部の構成)
側頭部支持部13は、前述の後頭部支持部12の下方空間と一体の後方裏側小袋部205と、その幅方向の両端部上に形成された側頭部表側小袋部203とにより二層構造をなすように設けられており、側頭部表側小袋部203内には、粒状充填材32が充填されている。後方裏側小袋部205内には、前述したようにシート状成形体33が収容されている。
なお、側頭部表側小袋部203に、粒状充填材32に変えて、頚椎表側小袋部201内の軟質充填材31と同様の素材(軟質充填材)を充填することは可能であるが、頚椎表側小袋部201に用いられているものよりも反発力の高いものを用いるのが好ましい。
【0062】
粒状充填材32は、頚椎裏側小袋部202内に充填されている粒状充填材32と同じ素材、同じ形状のものが用いられているが、頚椎支持部11の裏側層112では、頚椎裏側小袋部202内に粒状充填材32がほぼ満充填されるのに対して、側頭部支持部13においては、
図5に示すように、側頭部表側小袋部203の内容積に対して隙間を形成した状態に充填される。言い換えると、粒状充填材32の充填密度は、側頭部表側小袋部203の充填密度が頚椎裏側小袋部202の充填密度より小さい(頚椎裏側小袋部202の充填密度が、側頭部表側小袋部203の充填密度より大きい)。このため、側頭部表側小袋部203内で粒状充填材32の流動が容易であり、人体の頭部が側頭部支持部13の上で移動したときに、その移動に応じて側頭部表側小袋部203内の粒状充填材32が小袋部203内を移動できる。
【0063】
本実施形態では、側頭部支持部13の表側を粒状充填材(樹脂パイプ)32の層により構成し、裏側をシート状成形体(ウレタンシート)33の層により構成している。この二層構造とすることで、頚椎支持部11に段差を設けずに接続され、奥側に向かうにしたがって漸次高さが小さくでき、かつ、ウレタンシートの層により側頭部支持部13を安定した形状で維持するととともに、適切な反発力を確保している。
【0064】
側頭部支持部13の内容物が粒状充填材(樹脂パイプ)32のみであると側頭部支持部13の反発力が小さすぎ、さらに粒状充填材32の硬さや形状によっては側頭部に負担をかける可能性がある。側頭部支持部13の内容物がシート状成形体(ウレタンシート)33のみであると、その形状にもよるが、側頭部を適切に支持できる幅方向の寸法が小さすぎる可能性がある。
【0065】
仮に、側頭部支持部13の表側にシート状成形体(ウレタンシート)33の層が位置し、裏側に粒状充填材(樹脂パイプ)32の層が位置していると、シート状成形体33を後頭部支持部12と共通して用いることができず、別のウレタンシートを収容する必要がある。さらに、頚椎支持部11との接続部から奥側に向かうにしたがって漸次高さを小さくすることできず、また、側頭部を支持するための幅寸法が小さくなりすぎるなどの不具合が生じる可能性がある。
【0066】
側頭部支持部13の表面は、頚椎支持部11との接続部から後方に向かうにしたがって下り勾配に傾斜しており、水平面に対する傾斜角度が頚椎支持部11との接続部側における第1角度θ1が大きく、前後方向の中央部における第2角度θ2が小さい、二段階の傾斜角度に設定されている。
側頭部支持部13の最奥側の高さと、頚椎支持部11の頂部110の高さ(最大高さh1)との差(h4)は、4cm以上8cm以下とされている。この差は3cm以上7cm以下がより好ましい。
【0067】
なお、側頭部支持部13の最も奥側の高さは1cm以上2cmm以下とされているが、後頭部支持部12のシート状成形体33が共用されているので、後頭部支持部12(最薄部120)の高さh2と同じかそれよりも若干高く設定される。
なお、側頭部支持部13から後頭部支持部12の最薄部120に向けて下り勾配に傾斜する傾斜面14に形成されており、寝返りし易くなっている。この傾斜面14の水平面に対する傾斜角度は、10°以上60°以下、より好ましくは20°以上30°以下であることが好ましい。
【0068】
また、側頭部支持部13のそれぞれの幅方向の寸法は15cm~27cmであり、奥行方向の寸法は20cm~35cmとされている。さらに、側頭部支持部13における側頭部表側小袋部203の止め部21は、頚椎支持部11の表側層111を構成する頚椎表側小袋部201との接続部近傍に形成されている。
【0069】
また、その側頭部表側小袋部203は、その周辺部を除く中央部位に、小袋部203の一部を線状に縫い合わせてなる縫合部50が幅方向に沿って形成されている。
図1及び
図2に示す例では、2本の縫合部50が幅方向に沿ってほぼ平行に形成され、内部の空間は縫合部50により区画されるものの、周辺部で相互に連通した状態となっており、内部の粒状充填材32は、この縫合部50により区画された部位を移動することになり、その分、移動が制限される。そして、その小袋部203内に充填される粒状充填材32の地ならしや、量を、手前側を多く、奥側を少なくするなど、高低の調整を簡単に行う事ができ、中身調整の手間を省くことが可能となる。
【0070】
[各支持部の圧縮特性]
頚椎支持部11は、表側層111が軟質充填材31の層により形成されているので、表側層111が粒状充填材32により構成される側頭部支持部13より圧縮特性の直線性LCが小さく、圧縮初期の圧縮容易性に優れている。また、頚椎支持部11は、側頭部支持部13より圧縮仕事量WC及び圧縮回復量RCがともに大きく、全体的な圧縮性に優れ、かつ、圧縮後の回復性に優れている。
【0071】
ここで、圧縮特性とは、表面に垂直方向に圧縮した時の厚みと圧力との関係をいう。圧縮特性の直線性LCは、厚みと圧力との関係が直線にどの程度近いかを表すパラメータであり、値が小さいほど圧縮初期に圧縮し易い柔らかい素材であることを示している。圧縮仕事量WCは、最大圧力までの仕事量を示すパラメータであり、値が大きいほど圧縮し易い(つぶれ易い)素材であることを示している。圧縮回復量RCは、圧縮後の回復性を示すパラメータであり、値が大きいほど形状が回復し易い素材であることを示している。
【0072】
本実施形態の枕10では、頚椎支持部11、後頭部支持部12及び側頭部支持部13が袋体20により一体化されているとともに、頚椎、後頭部及び側頭部の支持部11~13ごとにその高さを上記のように設定しているので、
図6及び
図8に示す仰向け及び
図7及び
図9に示す横向きのいずれの場合であっても頚椎、頭部及び側頭部のそれぞれを適切に支持でき、頚椎に負担をかけることなく、気道が確保できる。
【0073】
具体的には、仰向けの場合には、
図8に示すように、使用者の頚椎が頚椎支持部11により適切に支持されることにより、使用者が横たわる床面に対する頚椎の角度θ11を理想的な略17°とすることができる。床面に対する頚椎の角度をこのように維持することにより、頚椎の過前弯を物理的に発生させて相対的に過後弯であるストレートネックを改善させるとともに、頸部全面の広頚筋のストレッチを促して首とあごのしわを伸ばす美容的作用を得ることもできる。
【0074】
横向きの場合には、枕使用者が腕の位置を変えると横断面T及び矢状面重心線Sが矢印C1及び矢印D1方向に10°~20°の範囲で変化する。このため、枕10は、横向きで寝ている間に上側にしている腕の位置が変わっても、首や頭部に負荷のかからない形状である必要がある。
【0075】
また、下にする腕の位置が上半身の真下であると、上腕のみで上半身を支える事になり支持面積が少なくなる。このため、基本的に枕10の高さは、腕を胸側につけ、上腕、肩甲骨及び側胸部と側腹部にて寝ている身体を支えることを前提に、適切に設定しなければならない。
【0076】
本実施形態の枕10は、各支持部11~13のそれぞれが袋体20により一体化されているとともに、頚椎、後頭部及び側頭部のそれぞれを支持する領域ごとにその高さや収容部材を上記のように設定しているので、横向き状態においても頚椎支持部11により頚椎を適切に支持し、かつ側頭部支持部13により側頭部を適切に支持できる。
【0077】
また、頚椎支持部11は、側頭部支持部13より圧縮初期の圧縮容易性に優れているとともに、全体的な圧縮性に優れ、かつ、圧縮後の回復性に優れており、また、側頭部支持部13の反発力が頚椎支持部11の反発力よりも大きいので、
図7及び
図9に示すように、寝返りを打って横向き状態となった枕使用者の側頭部を適切に沈み込ませながら支持することができ、寝返りを打った場合において確実に頚椎に余計な張力が生じないようにできる。
【0078】
特に、自然な寝返りを打った場合、肩関節が内転内旋位となるが、頚椎支持部11により引き続き頚椎を支持できる。また、側頭部支持部13の高さが奥側の方が低く形成されているので、肩関節内転内旋位のまま寝返りを打った時に側頭部が適切に支持され、上腕骨後部、肩峰の3つのエリアで上半身を安定して支えることができ、寝返りを打った場合においても頚椎に余計な張力が生じないようにできる。
【0079】
この場合、後頭部支持部12が側頭部支持部13よりも低く形成され、頚椎支持部11が枕10の幅方向にわたって形成され、側頭部支持部13の高さが奥側に向かうにしたがって漸次高さが小さく形成されているので、仰向け状態から横向き状態に体勢を変更する際に、頭位を容易に変更できる。具体的には、後頭部支持部12の高さが1cm以上2cm以下と最も低く形成されているため後頭部をあまり沈み込ませることなく適切に支持できる。
【0080】
特に、ベッドやマットレス上を敷いた状態で寝ている使用者は、身体の重みでマットレスが沈み込み、相対的に枕が高くなって首や肩の負担が大きくなるが、本実施形態では、後頭部支持部12の高さがかなり低く形成されているため、ベッドやマットレスを用いている使用者であっても、頚椎や肩にかかる負担を確実に軽減できる。
【0081】
さらに、
図13に示すように、使用者の側頭部が支持される状態で肩関節が首側に上がった状態となり、頭蓋骨が斜め上方に押し上げられた場合でも、側頭部支持部13の高さが奥側に向かうにしたがって漸次高さが小さく形成されているので、頭蓋骨の側頭部を適切に支持することで、頭蓋骨の領域P1にかかる負荷を小さくできる。
【0082】
また、後頭部支持部12の最薄部120の高さが1cm~2cmと薄く、頚椎支持部11の高さが後頭部支持部12の3.0倍以上となるので、後頭部支持部12に後頭部が配置された際に頚椎支持部11により頚椎が適切に支持され、首の筋肉が緊張状態となることを確実に防止できる。さらに、後頭部支持部12はシート状成形体(ウレタンシート)33により形成されているので、シート状成形体33の厚さや枚数を変更するだけで、後頭部支持部12の高さを1cmから2cmの間で適宜変更できる。
【0083】
また、頚椎支持部11の裏側層112に粒状充填材(樹脂パイプ)32の層を、表側層111に軟質充填材(ポリエステル綿)111の層を配置したので、表側層111により頚椎を柔らかく包み込むように支持するとともに、この表側層111を反発力の大きい裏側層112で支持して、頚椎支持部11の型崩れを防止することができる。
【0084】
加えて、側頭部支持部13では、裏側にシート状成形体(ウレタンシート)33を、表側に粒状充填材(樹脂パイプ)32を配置したので、側頭部支持部13の高さを奥側に向かうにしたがって漸次小さく形成できる。
【0085】
また、後頭部支持部12と側頭部支持部13の裏側とをシート状成形体33により構成したので、後頭部支持部12と側頭部支持部13との裏側部位が別体で構成されている場合に比べて枕の安定性を向上でき、シート状成形体33により側頭部支持部13を安定した形状で維持できる。このため、寝返りを容易に打つことができ、横向き状態でも頚椎への負担を軽減するとともに、気道を確保できる。
【0086】
また、頚椎支持部11及び側頭部支持部13を構成する各小袋部201~204に開口部及び止め部21を設けているので、内部の軟質充填材31や粒状充填材32の量を調整でき、これにより枕10の使用者の頭部や頚椎を適切に支持する状態を維持できる。つまり、経年劣化により各支持部11~13の高さが変わることを抑制できる。
【0087】
さらに、頚椎支持部11及び側頭部支持部13の一部を形成する粒状充填材32及び軟質充填材31の抗菌及び消臭作用により枕10を清潔な状態で保つことができる。また、頚椎支持部11の軟質充填材31の層は頚椎を押し付けると摩耗で嵩減りしていくので、使用時間が長くなるにつれて使用者の筋肉の緊張度合いや頚椎のゆがみに対し適切な高さとなり、ストレスを低減できる。
【0088】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、例えば次のような変更も可能である。
【0089】
例えば、上記実施形態では、袋体20に充填される粒状充填材は、大量の小さな樹脂パイプであることとしたが、これに限らず、2~3本の長尺の樹脂パイプであってもよい。
【0090】
上記実施形態では、側頭部支持部13は粒状充填材及びシート状成形体を備えたが、これに限らず、例えば、粒状充填材に代えて軟質充填材としてもよいし、シート状成形体のみの単層とすることも可能である。
【0091】
上記実施形態では、袋体20の各小袋部201~205のそれぞれに開口部及び止め部21が設けられていることとしたが、これに限らず、例えば、後頭部支持部12については、その厚さが極めて小さく沈み込みもないため、このような開口部及び止め部21はなくてもかまわない。
【0092】
上記実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【実施例】
【0093】
上記実施形態で示した枕と同形状の枕を製造した。具体的には、平面視で幅方向の寸法が67cm、奥行方向の寸法が36cm、頚椎支持部の幅方向の寸法が67cm、奥行方向の寸法が11cm、頂部の高さが8.3cm、後頭部支持部の幅方向の寸法が21cm、奥行方向の寸法が25cm、最薄部の高さが2cm、側頭部支持部の幅方向の寸法が23cm、奥行方向の寸法が25cm、最奥側の高さが3cmの枕を作成した。
【0094】
頚椎支持部は、表側層をポリエステル綿の層、裏側層を樹脂パイプの層により形成し、樹脂パイプ層(裏側層)の高さを3cmとした。なお、樹脂パイプは、外径5mm、長さ8mmのものを用いた。後頭部支持部は、後方裏側小袋部内にポリウレタンフォームからなる1枚のウレタンシートを収容し、その厚さを2cmとした。側頭部支持部は、ウレタンシートの層と、その上部の後頭部表側小袋部に充填される樹脂パイプの層とにより構成した。
【0095】
(圧縮特性の算出方法)
圧縮特性として、
図10に示すように、枕10の上に直径100mmの円板状の圧縮治具を当接し、ハンディー圧縮試験機(カトーテック株式会社製KES-G5)を用いて、10mm/minの速度で最大荷重6kgfまで圧縮したときの圧縮特性の直線性LC、圧縮仕事量WC(mm・gf/78.5cm
2)及び圧縮回復量RC(%)を頚椎支持部及び側頭部支持部のそれぞれにおいて算出した。この算出は5回行い、その平均値を表1に示した。
なお、頚椎支持部では頂部に圧縮治具を当接し、側頭部支持部では、前後方向の中間部に圧縮治具を当接して測定した(次の繰り返し圧縮試験においても同様)。
【0096】
(繰り返し圧縮試験)
アムスラー型試験機(カトーテック株式会社製:自動化圧縮試験機KES-FB3-AUTO-A)を用いて、頚椎支持部及び側頭部支持部のそれぞれに対して繰り返し圧縮試験を実行した。この試験機の圧縮子は円板状で、その直径は略110mmであり、この圧縮子を荷重6kgf、2秒に1回の試験速度で36000回、頚椎支持部及び側頭部支持部を圧縮し、圧縮処理直後及び圧縮処理後24時間経過後の頚椎支持部及び側頭部支持部の高さを計測した。その結果を表2に示した。
【0097】
(枕使用時のリラックス評価)
上述した枕を使用した際に実際に使用者がリラックスできるか否かを評価するため、自律神経機能のバランスを計測する交感神経活動指標(ストレス指標)であるLF/HFを用いた。LF/HFは、心拍変動から自律神経のバランスを推定するために、心拍変動の時系列データから、呼吸変動に対応する高周波変動成分(HF成分)と、血圧変動であるメイヤー波(Mayer wave)に対応する低周波成分(LF成分)を抽出し、両者の大きさを比較して上記LF/HFを算出した。
【0098】
呼吸変動を反映するHF成分は、副交感神経が緊張(活性化)している場合にのみ心拍変動に現れる。一方、LF成分は、交感神経が緊張しているときも、副交感神経が緊張しているときも心拍変動に現れる特徴を有している。この心拍変動については、株式会社YKC製のTAS9を用いて心拍変動をLFとHFに分けて解析した。なお、1回の測定時間は5分間とした。
【0099】
また、LF/HFの測定と同時に、唾液アミラーゼ活性値の測定を行った。この唾液アミラーゼ活性値は酵素分析装置(ニプロ株式会社製:アミラーゼモニター)を用いて測定した。実験内容は、座位にて100マス計算(10×10の格子を用いてかけ算などの計算をする学習方法)を実行した後15分そのまま安静にし、座布団を引いたパイプベッドの上に移動し、上記枕を配置し、枕に頭を乗せた仰向けの状態(
図8に示す状態)で15分安静にした。なお、仰向け状態では、タオルケットを用い、かつ、消灯した状態とした。室温は25℃、湿度50%とした。
【0100】
LF/HFは、経時的に心電図測定を実行し、100マス計算時、座位安静時、枕を使用した仰向け安静時の数値を算出した。唾液アミラーゼ活性値は、100マス計算前、100マス計算直後、枕を使用して15分間安静にした直後の数値を測定した。
【0101】
また、上記実験の被験者は3人とした。被験者Aは、60歳、女性、身長156cm、60kgであり、被験者Bは、34歳、女性、身長159cm、46kgであり、被験者Cは、36歳、男性、168cm、体重68kgであった。実験結果のうち、交感神経活動指標LF/HFの結果を
図11に、唾液アミラーゼ活性値の結果を
図12に示した。
【0102】
【0103】
【0104】
表1から、頚椎支持部は、側頭部支持部より圧縮初期の圧縮容易性に優れているとともに、側頭部支持部より全体的な圧縮性に優れ、かつ、圧縮後の回復性に優れていることがわかった。
【0105】
表2から、側頭部支持部は、初期厚さと圧縮処理後24時間後の厚さが同じであったため、圧縮後の回復性が特に高いことがわかった。また、頚椎支持部は圧縮直後の厚さは初期厚さに比べて大きく減少しているものの、圧縮処理後24時間後の厚さと初期厚さとの差が1.0mmであったため、頚椎支持部も圧縮後の回復性が高いことがわかった。つまり、上記枕は耐久性に優れていることがわかった。
【0106】
図11より、被験者B,Cでは、LF/HFは、枕を使用した仰向け状態にある場合が最も低く、枕によりストレスを解消できていることがわかった。また、
図12より、被験者B,Cでは、唾液アミラーゼ活性値は、枕を使用した仰向け後が最も低く、この結果からも枕を使用してストレスを解消できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
仰向け及び横向き状態のいずれの場合であっても首の筋肉の緊張を生じさせることなく気道を確保でき、ストレートネックも緩和できる枕を提供する。
【符号の説明】
【0108】
10…枕
11…頚椎支持部
12…後頭部支持部
120…最薄部
13…側頭部支持部
14…傾斜面
20…袋体
21…止め部
31…軟質充填材(収容部材)
32…粒状充填材(収容部材)
33…シート状成形体(収容部材)
111…表側層
112…裏側層
201…頚椎表側小袋部
202…頚椎裏側小袋部
203…側頭部表側小袋部
204…後頭部表側小袋部
205…後方裏側小袋部
【要約】
袋体と、袋体に収容される複数種の収容部材とを備え、頚椎を支持する頚椎支持部と;頚椎支持部より高さが小さく頚椎支持部に接続され後頭部を支持する後頭部支持部と;頚椎支持部に接続され、後頭部支持部を両側から挟むように配置されるとともに、側頭部を支持する2つの側頭部支持部と;を備え、頚椎支持部を構成する表側小袋部内に軟質充填材、裏側小袋部内に粒状充填材が充填されており、側頭部支持部の表側充填材に粒状充填材、側頭部支持部の裏側から後頭部支持部の裏側にシート状成形体が収容されている。