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特許7185217ガスのプラズマ化が可能なエンドエフェクタおよび当該エンドエフェクタを備えた内視鏡
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ガスのプラズマ化が可能なエンドエフェクタおよび当該エンドエフェクタを備えた内視鏡
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/04 20060101AFI20221130BHJP
   A61B 1/018 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
A61B18/04
A61B1/018 515
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018150290
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020025607
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム(START)、プロジェクト支援型、「マルチガス温度制御プラズマを用いたプラズマ内視鏡治療装置の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518285142
【氏名又は名称】東 克彌
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】沖野 晃俊
(72)【発明者】
【氏名】宮原 秀一
(72)【発明者】
【氏名】川野 浩明
(72)【発明者】
【氏名】林 悠太
(72)【発明者】
【氏名】東 健
(72)【発明者】
【氏名】高松 利寛
(72)【発明者】
【氏名】野村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 学
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0121134(US,A1)
【文献】特表平10-503410(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0238987(US,A1)
【文献】特表2017-508485(JP,A)
【文献】特開2015-062733(JP,A)
【文献】米国特許第06039736(US,A)
【文献】特開2013-211153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/00-18/04
A61B 1/018
A61N 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスのプラズマ化が可能であって止血が可能なエンドエフェクタであって、
前記エンドエフェクタは、内部空間を有する筐体構造を有し、
前記エンドエフェクタは、
内視鏡の挿入部の遠位端部から突出可能に設けられ、
体内であって 前記エンドエフェクタの外部に存在するガスをその孔を介して直接前記エンドエフェクタの内部に通すための第1の孔であって、前記第1の孔は、前記エンドエフェクタの遠位端部に隣接する位置に設けられている、第1の孔と、
前記ガスをプラズマ化するための手段と
を備え、
前記プラズマ化されたガスを放出するための第2の孔をさらに備え、前記第2の孔は、前記第1の孔とは異なる孔である、エンドエフェクタ。
【請求項2】
前記ガスをプラズマ化するための手段は、第1の電極と、前記第1の電極とは異なる第2の電極とを含み、
前記ガスは、前記第1の電極と前記第2の電極との間の放電によってプラズマ化される、請求項1に記載のエンドエフェクタ。
【請求項3】
前記第1の電極は、アースされた電極であり、前記第2の電極は、前記第1の電極より高い電圧を有する高電圧電極である、請求項2に記載のエンドエフェクタ。
【請求項4】
前記第1の電極は、前記エンドエフェクタの前記筐体構造を形成し、前記第1の孔および前記第2の孔は、前記第1の電極上に存在する、請求項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項5】
前記第2の電極は、柱状形状であり、かつ、前記内部空間に配置される、請求項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項6】
前記第1の孔から前記筐体内部に入り込むガスを プラズマ化可能な位置まで導するための手段をさらに備える、請求項1~のいずれか一項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項7】
プラズマ化可能な位置まで前記ガスを誘導するための手段は、ポンプである、請求項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項8】
前記ガスは、体内に存在するガスである、請求項1~のいずれか一項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項9】
前記体内に存在するガスは、腹腔内に存在するガスである、請求項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項10】
前記ガスは、二酸化炭素である、請求項1~のいずれか一項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項11】
前記第2の孔は、前記エンドエフェクタの側面表面上に設けられており、
前記プラズマ化されたガスは、前記第2の孔を通して前記エンドエフェクタの長手方向に対して斜めに放出され、
前記エンドエフェクタは、前記プラズマ化されたガスの照射位置を指し示すためのレーザー照射器をさらに備える、請求項1~10のいずれか一項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項12】
前記エンドエフェクタの遠位端部を覆うテーパー状のフードをさらに備え、前記フードは、前記プラズマ化されたガスを放出するための孔を前記フードの先端部分に備える、請求項1~11のいずれか一項に記載のエンドエフェクタ。
【請求項13】
挿入部と、前記挿入部の近位端部に接続された操作部とを備える内視鏡であって、
前記挿入部は、前記挿入部の遠位端部から突出可能なエンドエフェクタを備え、
前記挿入部は、前記先端部の向きを変えるように湾曲することが可能であり、
前記エンドエフェクタは、内部空間を有する筐体構造を有し、
前記エンドエフェクタは、
前記エンドエフェクタの外部に存在するガスを直接前記内部空間に通すための第1の孔であって、前記第1の孔は、前記エンドエフェクタの遠位端部に隣接する位置に設けられている、第1の孔と、
前記ガスをプラズマ化するための手段と
を備え、
前記プラズマ化されたガスを放出するための第2の孔をさらに備え、前記第2の孔は、前記第1の孔とは異なる孔である、内視鏡。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載のエンドエフェクタ、または請求項13に記載の内視鏡を含む、対象の腹腔内止血用システム。
【請求項15】
体外に存在する 外部ガス供給源を含まない、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスのプラズマ化が可能なエンドエフェクタおよび当該エンドエフェクタを備えた内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマ化されるガスの供給源に接続された低温プラズマ発生装置が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。低温プラズマは、表面処理のほか、医療分野では殺菌、血液凝固(止血)、創傷治癒などの効果を得ることができる。特に、低温プラズマは、組織に損傷を与えることなく短時間で血液を凝固できるため、止血への応用が期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】株式会社マイナビ、“東工大など、-90~+150℃で温度を精密制御可能な大気圧プラズマ装置を開発”、[online]、[平成30年1月31日検索]、インターネット<URL:https://news.mynavi.jp/article/20111026-a080/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、ガスのプラズマ化が可能な、改善された止血用エンドエフェクタおよび当該エンドエフェクタを備えた内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの局面において、本発明のエンドエフェクタは、ガスのプラズマ化が可能なエンドエフェクタであり、前記エンドエフェクタは、内部空間を有する筐体構造を有し、前記エンドエフェクタは、前記エンドエフェクタの外部に存在するガスを前記エンドエフェクタの内部に通すための第1の孔であって、前記第1の孔は、前記エンドエフェクタの遠位端部に隣接する位置に設けられている、第1の孔と、前記ガスをプラズマ化するための手段とを備える。
【0006】
本発明の1つの実施形態では、前記ガスをプラズマ化するための手段は、第1の電極と、前記第1の電極とは異なる第2の電極とを含み、前記ガスは、前記第1の電極と前記第2の電極との間の放電によってプラズマ化されてもよい。
【0007】
本発明の1つの実施形態では、前記第1の電極は、アースされた電極であり、前記第2の電極は、前記第1の電極より高い電圧を有する高電圧電極であってもよい。
【0008】
本発明の1つの実施形態では、前記プラズマ化されたガスは、前記第1の孔から放出されてもよい。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、前記プラズマ化されたガスを放出するための第2の孔をさらに備え、前記第2の孔は、前記第1の孔とは異なる孔であってもよい。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、前記第1の電極は、前記エンドエフェクタの前記筐体構造を形成し、前記第1の孔および前記第2の孔は、前記第1の電極上に存在してもよい。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記第2の電極は、柱状形状であり、かつ、前記内部空間に配置されてもよい。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、プラズマ化可能な位置まで前記ガスを誘導するための手段をさらに備えてもよい。
【0013】
本発明の1つの実施形態では、プラズマ化可能な位置まで前記ガスを誘導するための手段は、ポンプであってもよい。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、前記ガスは、体内に存在するガスであってもよい。
【0015】
本発明の1つの実施形態では、前記体内に存在するガスは、腹腔内に存在するガスであってもよい。
【0016】
本発明の1つの実施形態では、前記ガスは、二酸化炭素であってもよい。
【0017】
本発明の1つの実施形態では、前記エンドエフェクタは、前記プラズマ化されるガスの供給源に直接的にも間接的にも接続されていなくてもよい。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、前記第1の孔は、前記エンドエフェクタの側面表面上に設けられており、前記プラズマ化されたガスは、前記第1の孔を通して前記エンドエフェクタの長手方向に対して斜めに放出され、前記エンドエフェクタは、前記プラズマ化されたガスの照射位置を指し示すためのレーザー照射器をさらに備えてもよい。
【0019】
本発明の1つの実施形態では、前記エンドエフェクタの遠位端部を覆うテーパー状のフードをさらに備え、前記フードは、前記プラズマ化されたガスを放出するための孔を前記フードの先端部分に備えてもよい。
【0020】
本発明の1つの局面において、本発明の内視鏡は、挿入部と、前記挿入部の近位端部に接続された操作部とを備える内視鏡であり、前記挿入部は、前記挿入部の遠位端部から突出可能なエンドエフェクタを備え、前記挿入部は、前記先端部の向きを変えるように湾曲することが可能であり、前記エンドエフェクタは、内部空間を有する筐体構造を有し、前記エンドエフェクタは、前記エンドエフェクタの外部に存在するガスを前記内部空間に通すための第1の孔であって、前記第1の孔は、前記エンドエフェクタの遠位端部に隣接する位置に設けられている、第1の孔と、前記ガスをプラズマ化するための手段とを備える。
【0021】
本発明の1つの局面において、本発明の対象の腹腔内止血用システムは、上記記載のエンドエフェクタまたは上記記載の内視鏡を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、前記システムは、外部ガス供給源を含まない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ガスのプラズマ化が可能な、改善された止血可能なエンドエフェクタおよび当該エンドエフェクタを備えた内視鏡を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明のエンドエフェクタを備える内視鏡10の概略図を示す。
図2図2は、挿入部11の遠位端部11’の拡大斜視図である。
図3A図3Aは、本発明のエンドエフェクタ100の構成の一例を示す断面図である。
図3B図3Bは、本発明のポンプ140の構成の一例を示す断面図である。
図3C図3Cは、本発明のエンドエフェクタ100の構成の他の一例を示す断面図である。
図4A図4Aは、本発明のエンドエフェクタ200の構成の一例を示す断面図である。
図4B図4Bは、本発明のエンドエフェクタ200の構成の他の一例を示す断面図である。
図4C図4Cは、本発明のエンドエフェクタ200の構成の他の一例を示す断面図である。
図5A図5Aは、本発明のエンドエフェクタ300の構成の一例を示す断面図である。
図5B図5Bは、本発明のエンドエフェクタ300の構成の他の一例を示す断面図である。
図5C図5Cは、本発明のエンドエフェクタ300の構成の他の一例を示す断面図である。
図6A図6Aは、本発明のエンドエフェクタ400の構成の一例を示す断面図である。
図6B図6Bは、本発明のエンドエフェクタ400の構成の他の一例を示す断面図である。
図7図7は、本発明のエンドエフェクタの遠位端部の表面の形状の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において、「遠位」という用語は、ユーザ(操作者)からより遠い部分を指し、「近位」という用語は、ユーザからより近い部分を指す。本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、本明細書全体を通して、同一の構成要素には同一の参照数字を使用している。
【0027】
図1は、本発明のエンドエフェクタを備える内視鏡10の一例の概略図を示す。
【0028】
内視鏡10は、挿入部11と、挿入部11の近位端部に接続された操作部12と、操作部12に接続された供給源13とを備える。
【0029】
供給源13は、供給物を供給するためのものである。供給源13は、図1に示されるように、操作部12に相互に接続され、これにより、供給物を操作部12にひいては挿入部11に供給する。供給源は一つであっても複数であってもよい。供給源13から供給される供給物は、プラズマ化されるガス以外であれば、任意であり得る。例えば、治療部位や検査部位周辺を照らす照明光であってもよいし、エンドエフェクタから照射されるプラズマの照射位置をガイドするためのレーザー光源であってもよいし、治療部位の洗浄または内視鏡などを冷却する冷却水であってもよい。
【0030】
操作部12は、挿入部11と、挿入部11に内蔵されるデバイスとを操作するためのものである。操作部12は、図1に示されるように、供給源13に相互に接続され、操作部12から供給される供給物の供給量を制御することが可能なように構成されている。
【0031】
挿入部11は、体内に挿入される部分である。挿入部11は、操作部12によって制御され、操作部12における入力に応じて挿入部11の向きを変えるように湾曲することが可能なように構成されている。挿入部11は、挿入部11の遠位端部11’から突出可能なエンドエフェクタ100を備える。挿入部11の直径の大きさは、任意の大きさであり得る。微小な空間内(例えば、腸内や消化器官内)でも動作可能なように可能な限り小さいのが好ましい。例えば内視鏡10が大腸用の内視鏡である場合、約13mmであるが、本発明はこれに限定されない。また、エンドエフェクタの直径の大きさは、任意の大きさであり得る。微小な空間内(例えば、腸内や消化器官内)でも動作可能なように可能な限り小さいのが好ましい。例えばエンドエフェクタが大腸用の内視鏡の鉗子チャネル内に設けられる場合、約3mmであるが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
図2は、挿入部11の遠位端部11’の拡大斜視図である。
【0033】
挿入部11は、鉗子用チャネルを備え、エンドエフェクタ100は、状況に応じて鉗子用チャネルを通り、挿入部11の遠位端部11’上の鉗子用チャネルの開放端部から突出可能なように構成されている。例えば、エンドエフェクタにより治療部位に対する治療を行う際は突出し、内視鏡10自体を移動させる場合などでは挿入部11内に収納される。
【0034】
エンドエフェクタ100の外観形状は、任意の筒状体であり得る。図2に示される実施形態において、円柱状であるが、本発明はこれに限定されない。
【0035】
挿入部11に内蔵されるデバイスは、エンドエフェクタ100に加えて、例えば、撮像ユニット(例えば、カメラレンズ)、照明用デバイス(例えば、ライト)を含み得る。挿入部11に内蔵されるデバイスは、一つであってもよいし、複数であってもよい。さらに、供給源13からの供給物を放出するためのノズルが、挿入部11に設けられ得る。
【0036】
(1)エンドエフェクタの第1の実施形態
図3Aは、本発明のエンドエフェクタ100の構成の一例を示す断面図である。
【0037】
エンドエフェクタ100は、内部空間を有する筐体構造を有する。図3Aに示される例では、エンドエフェクタ100は、エンドエフェクタ100の外部に存在するガスを通すための流入孔110と、エンドエフェクタ100の外部から流入孔110を通して内部空間に入り込んだガスをプラズマ化するための手段として第1の電極120aおよび第2の電極120bと、プラズマ化されたガスを放出するための放出孔130とを備える。流入孔110は、エンドエフェクタの遠位端部に隣接する位置に設けられている。ここで隣接する位置とは、エンドエフェクタの遠位端部側の、当該エンドエフェクタの使用時に体内に挿入される任意の位置をいう。
【0038】
第1の電極120aは、エンドエフェクタ100の筐体構造を形成しており、第2の電極120bは、エンドエフェクタ100の遠位端部上に存在する放出孔130の付近まで延在する柱状形状の導電体の先端部に設けられている。例えば、第1の電極120aは、アースされた電極であり、第2の電極120bは、第1の電極120aより高い電圧を有する高電圧電極である。第1の電極120aと第2の電極120bとの間に図示しない電源により電圧を印加すると、第1の電極120aと第2の電極120bとの間で放電が発生する。従って、流入孔110を通して入り込んだガスは、エンドエフェクタ100の内部空間を通ってエンドエフェクタ100の遠位端部の周りまで移動し、第1の電極120aと第2の電極120bとの間での放電によって放出孔130の周りでプラズマ化され、放出孔130から放出される。これにより、プラズマ化されたガスが放出孔130から噴射され、プラズマ化されたガスを照射対象(例えば、出血部位)に照射することによって、血液凝固および殺菌効果がもたらされる。放電部へ向かうエンドエフェクタ内のガスの流量は、0超~約15L/分、0.01L/分、または約0.1~約3L/分であり、好ましくは、約1~約3L/分であり、最も好ましくは、約2~約3L/分である。放電部へ向かうエンドエフェクタ内のガスの流量が多いほど、プラズマ化されるガスによる患部の表面処理効果がより向上する。なお、流入孔110および放出孔130は、プラズマ化されるガスが通過することが可能である限り、任意の形状を有する。例えば、流入孔110および放出孔130の形状は、円形であってもよいし、四角形であってもよいし、多角形であってもよい。流入孔110の開口面積は、約0.03~約4mmであり、より好ましくは、約0.8mmである。流入孔110の大きさは小さすぎるとガスをエンドエフェクタ内部に取り込むのに負荷がかかる恐れがあり、逆に大きすぎると異物などを取り込む恐れがある。なお、図3Aに示される例では、流入孔110の数は1つであるが、本発明はこれに限定されない。流入孔110の数は、1以上の任意の数であり、流入孔が複数存在する場合、流入孔の開口面積は、複数の流入孔のそれぞれの面積の総和であってもよい。
【0039】
さらに、エンドエフェクタ100は、流入孔110から筐体内部に入り込むガスをプラズマ化可能な位置まで誘導するための手段を備え得る。この手段は、例えば、放電が発生する放出孔130周りまでの気流を生成することが可能なポンプ140である。ポンプ140は、図3Aに示されるようにエンドエフェクタ100の内部空間に設置された場合、流入孔110から入ったガスを放出孔130に向けて誘導可能なように構成されている。ポンプ140によってエンドエフェクタ100の外部から流入孔110を通して内部への気流が発生し、ポンプ140は、流入孔110を通して入り込んだガスを放出孔130の周りまで誘導する。このように、エンドエフェクタ100がポンプ140を備えることにより、プラズマ化されるガスをエンドエフェクタ100の内部に効率的に継続して誘導することが可能になり、ひいては、プラズマ化されるガスのプラズマ化を効率的に行うことが可能になる。なお、ポンプ140は、エンドエフェクタが備えることが可能な任意のタイプのポンプであり得る。ポンプ140の一例としては、小型軽量化が図れる圧電ポンプ、ピストンポンプ、インペラポンプが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。エンドエフェクタ100に内蔵されるポンプ140の流量は、例えば、0超~約1.0L/分である。ポンプ140を通るガスの流量が多いほど、プラズマ化されるガスによる患部の表面処理効果がより向上する。なお、求められる流量に応じてポンプ140を複数設けるようにしてもよい。
【0040】
図3Bは、本発明のポンプ140の構成の一例を示す断面図である。図3Bに示される例では、ポンプ140は、ポンプ室141と、給気口142と、排気口143と、圧電素子(図示せず)により振動するダイヤフラム144と、給気弁145と、排気弁146とを有する。給気口142は、エンドエフェクタ内部に外部のガスを取り込むための流入孔110側に設けられている。排気口143は、ガスがプラズマ化される位置側に設けられている。ポンプ室141は、給気口142に接続されており、かつ、排気口143にも接続されている。ダイヤフラム144は、ポンプ室141に配置されている。給気弁145は、逆止弁であり、これにより、ポンプ140は、給気口142からのガスをポンプ室141に給気可能であるが、ポンプ室141から給気口142へはガスが排気できないように構成されている。また、排気弁146も逆止弁であり、これにより、ポンプ140は、ポンプ室142から排気口143へとガスを排気可能であるが、排気口143からのガスをポンプ室141へは給気できないように構成されている。圧電素子の駆動によりダイヤフラム144が振動し、それによりポンプ室141は負圧状態と正圧状態を繰り返すことになる。ポンプ室141が負圧状態のとき、給気弁145は開放され、給気口141からのガスをポンプ室141に吸入する。このとき、排気弁146は閉鎖しているため、ポンプ室にあるガスは排気口143に排気されない。ポンプ室141が正圧状態のとき、排気弁146は開放され、ポンプ室141に存在するガスは排気口143へ排気される。このとき、給気弁145は閉鎖しているため、ポンプ室141に存在するガスは給気口142に排気されない。
【0041】
また、図3A図3Bに示される例では、ポンプ140は、エンドエフェクタ100の内部空間に設置されているが、ポンプ140が設置される場所は、エンドエフェクタ100の外部(例えば、エンドエフェクタ100の外側表面上の流入孔110の周り)であってもよい。
【0042】
さらに、エンドエフェクタ100は、流入孔110、または、流入孔110から放電部(すなわち、第1の電極120aと第2の電極120bとの間)までの経路のうちの一方または両方において、液体または異物が放電部に入り込むことを防止する異物遮蔽手段を備え得る。異物遮蔽手段の一例は、気体は通すが液体は通さないPTFEなどからなる止水フィルター、液体や気体に含まれる異物を取り除く多孔質あるいはメッシュを有する異物除去フィルターであるが、本発明はこれに限定されない。エンドエフェクタ100がこのような異物遮蔽手段を備えることにより、異物が放電部に入り込むことによる不具合が発生する可能性を低減させることが可能である。なお、本発明では、異物遮蔽手段は、フィルター機構を備えるポンプに限定されない。異物遮蔽手段は、液体または異物が放電部に入り込むことを防止する限り、任意の手段であってよい。
【0043】
図3Cは、本発明のエンドエフェクタ100の構成の他の一例を示す断面図である。
【0044】
図3Cに示されるエンドエフェクタ100’は、流入孔110から筐体内部に入り込むガスをプラズマ化可能な位置まで誘導するための第2の手段と、ポンプ140に代えて仕切り板150とをさらに備え得る。仕切り板150は、ガスを通さないように構成されており、これにより、流入孔110から入り込んだガスをポンプ140’に効率的に供給することが可能である。
【0045】
ポンプ140’は、任意のタイプのポンプであり得る。ポンプ140’の一例としては、ロータリーポンプ、ピストンポンプ、インペラポンプが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。ポンプ140’の流量は、例えば、0超~約15L/分、0.01L/分、または約0.1~約3L/分であり、好ましくは、約1~約3L/分であり、最も好ましくは、約2~約3L/分である。ポンプ140’を通るガスの流量が多いほど、プラズマ化されるガスによる患部の表面処理効果がより向上する。なお、求められる流量に応じてポンプ140’を複数設けるようにしてもよい。
【0046】
また、この第2の手段は、例えば、プラズマ化されるガスをエンドエフェクタ100の外部環境下(例えば、ヒトの体内)から内視鏡10外の別の環境下(例えば、ヒトの体外)を通ってエンドエフェクタ100の放出孔130周りまでの気流を発生させることが可能なポンプ140’である。図3Cに示される例では、エンドエフェクタ100は、エンドエフェクタ100と挿入部11の遠位端部11’との間の隙間またはエンドエフェクタ100の内部空間からポンプ140’にプラズマ化されるガスを供給することを可能にする第1のパス141と、ポンプ140’から放出孔130周りにプラズマ化されるガスを供給することを可能にする第2のパス142とを有する。図3Cに示される例では、エンドエフェクタ100と挿入部11の遠位端部11’との間の隙間から入り込んだガスをポンプ140’に供給するためのパス141’と、エンドエフェクタ100の内部空間からポンプ140’にガスを供給するためのパス141’’とが合流して第1のパス141を形成するように構成されている。また、図3Cに示される例では、第2のパス142は、第2の電極120bの中を通り、放電部まで貫通するように延在するが、本発明はこれに限定されない。第2のパス142は、ポンプ140’から放出孔130周りにプラズマ化されるガスを供給することを可能である限り、任意の場所に延在することができる。例えば、第2のパス142は、第2の電極120bの遠位端部表面以外の表面のうち仕切り板150よりも遠位端部側の表面上まで貫通しているように構成されていてもよい。
【0047】
ポンプ140’は、図3Cに示されるようにエンドエフェクタ100の外部に配置され、流入孔110周りのガスを放出孔130に向けて誘導可能なように構成されている。ポンプ140’によって流入孔110周りから第1のパス141および第2のパス142を通して放出孔130周りまでの気流が発生し、ポンプ140’は、流入孔110周りのガスを放出孔130の周りまで誘導する。なお、第1のパス141とポンプ140’と第2のパス142とから形成される経路には、補助的な手段(例えば、ガスの成分を分析可能な装置、プラズマ生成を助長するサポートガスの供給源、特定の治療に特化したガスの供給源)を設けてもよいし、そのような補助的な手段との接続部が設けられてもよいし、内視鏡10外の別の環境下(例えば、ヒトの体外)にあるガスが入り込む開口部や外部ガス供給源との接続部を設けず、外部のガスが、第1のパス141および第2のパス142に介在しないようにしてもよい。
【0048】
ガスの成分を分析可能な装置は、例えば、ガスクロマトグラフィー、質量分析装置、電気化学測定装置、臭気分析装置などであるが、本発明はこれらに限定されない。サポートガスの一例は、プラズマの温度を高くする効果があるアルゴンガスであるが、本発明はこれに限定されない。また、特定の治療に特化したガスとしては、例えば、可視光線の発光の増加による光治療が可能となるキセノンガス、高エネルギーのイオンや副次的に発生する紫外線による治療が可能となるヘリウムガスであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
ガスの成分を分析することにより、例えば、体内のガスを、プラズマを生成するためのガスとして再利用する上で所望の濃度や純度を検知したり、副次的なガスを使用している場合にはその副次的なガスの混合比を検知したり、プラズマ状態、病気の有無、プラズマの照射状態を確認することが可能になる。その結果に基づいて、プラズマ生成を助長するサポートガスの供給源や特定の治療に特化したガスの供給源からのガスの供給量を調節することが可能になる。
【0050】
エンドエフェクタ100が、体内のガスを循環させることができるポンプ140’を備えることにより、腹部の膨らみを抑制でき、ガスの流量を自由に調節することが可能である。従来は、体外のガスを体内に導入して使用していたため、臨床医は腹部(腹腔内)の膨張の程度を常に意識して組織の処置を行わなければならなかったのに対して、本発明では、体内のガスを循環させて使用するため、そのような腹部(腹腔内)の膨張を意識する必要が軽減される。このようなガスの流量調節の自由度は、プラズマガスを用いた患部などの組織の処置の効果に大きく影響し、ガスの流量が多めになるように調節することが可能であることは、組織の処置の効果(例えば、止血効果)を高めることにつながるため、有利である。
【0051】
また、ポンプ140と同様に、ポンプ140’、第1のパス141、第2のパス142のうちの少なくとも1つに異物遮蔽手段(例えば、フィルター機構)を備えることにより、例えば、流入孔110からガスと一緒に入り込んだ液体や異物を放電部に到達する前に除去することが可能である。さらに、ポンプ140’を断続的に作動可能なように構成することにより、第2のパス142を通るガスをパルス状にし、定常的な流量のガスとパルス状の流量のガスとを放電部に提供することが可能である。さらに、パルス状ガスのピーク時と印加電圧のピーク時とを合わせることにより、高密度のプラズマを生成するようにしてもよい。これにより、止血効果を高めることができ、消費電力量を低減することもでき、無用な電極の消耗や高温化を避けることもできる。パルス状ガスのピークのタイミングに合わせて放電電力のピークとするように電力を供給可能な任意の電源であり得る。例えば、独立して制御可能な二つの電力発生部を備えた電源を用いてもよい。二つの電力発生部の一方の電力発生部で常時低電圧大電流を生成し、他方の電力発生部でパルス状ガスのピークに合わせて高電圧を生成することによってパルス状ガスのピークのタイミングに合わせて放電電力のピークとすることが達成される。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0052】
なお、図3Cに示される実施形態においては、エンドエフェクタ100’がポンプ140’のみを備える例が説明されたが、本発明はこれに限定されない。エンドエフェクタ100’は、ポンプ140’と、仕切り板150に代えてポンプ140との両方を備えていてもよい。また、図3Cに示される実施形態では、パス141’とパス141’’とが合流して第1のパス141を形成している例が説明されたが、本発明はこれに限定されない。第1のパス141は、パス141’のみを有するパスであってもよいし、パス141’’のみを有するパスであってもよい。また、エンドエフェクタ100と挿入部11の遠位端部11’との間の隙間は、自然に開いている空間であってもよいし、図7を参照して後述される形状をエンドエフェクタ100が有することによりこの隙間を作り出すようにしてもよい。
【0053】
また、図示されていないが、挿入部11の近位端部において、エンドエフェクタ100またはエンドエフェクタ100’を通すための孔に、流入孔110から入り込んだガスおよび/または液体を外部に漏出するのを防止するためのシール機構が備え付けられてもよい。これにより、流入孔110から入り込んだガスおよび/または液体が操作部12に流れ込むことを防ぐことができる。シール機構は任意の機構であり得る。例えば、ゴムパッキン、Оリング、メカニカルシールなどが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。
【0054】
本発明において、プラズマガスの発生は、常時放電を行う連続放電であってもよいし、断続的に放電を行うパルス放電であってもよい。パルス放電の場合には、放電ONのときにプラズマガスが発生し患部の止血などの治療が行われ、放電OFFのときにプラズマは発生していないが放出されているガスによって邪魔な血液などの除去が行える。このようにすることで、内視鏡のカメラの視認性を高めつつ、より効率的に止血などの治療を行うことが可能となる。
【0055】
エンドエフェクタ100の外部環境およびエンドエフェクタ100’の外部環境の一例は、ヒトの体内であり、より具体的には、ヒトの腹腔内(例えば、胃内、腸内)であるが、これらに限定されない。エンドエフェクタ100の外部環境は、例えば、任意の動物(例えば、豚、マウス)の体内であり得る。すなわち、プラズマ化されるガスは、体内に存在するガスであり、より具体的には、腹腔内に存在するガスであるが、これらに限定されない。プラズマ化されるガスは、例えば、任意の動物(例えば、豚、マウス)の体内に存在するガスであり得る。本発明のエンドエフェクタ100は、プラズマ化されるガスを体内に存在するガスを利用するため、改めてガス供給源が必要なく、装置の簡素化およびコストの低減を図ることが可能となる。
【0056】
エンドエフェクタ100およびエンドエフェクタ100’を腹腔内で使用する実施形態においては、プラズマ化されるガスは好ましくは二酸化炭素であり得る。なぜなら、二酸化炭素は、生体吸収性が高く、酸素などとは異なり血液に吸収されやすいため、血栓などが形成されるリスクを低減することが可能であるからである。また、出願人は、二酸化炭素が不燃性である点に着目し、二酸化炭素をプラズマ発生に使用した場合には術中にガスの引火事故が発生することが無いことから、二酸化炭素が内視鏡下の止血に適していることを発見した。また、プラズマ化されるガスの温度は、低温(すなわち、約50~約150℃)であるのが好ましい。なぜなら、低温のプラズマは、処置される組織への熱損傷が無く、それ故、術後の患者の負担を軽減することが可能であるからである。なお、ガスの温度は高いほど止血効果が得られる反面、逆に回復期間は長くなる。従って、ガスの温度は、止血の程度や回復期間を考慮して設定されるのが好ましい。
【0057】
なお、本実施形態のエンドエフェクタ100およびエンドエフェクタ100’は、体外に存在するプラズマ化されるガスの供給源に直接的にも間接的にも接続されていない。本明細書において、止血を行う対象の体外に存在するガス供給源を「外部ガス供給源」という。好ましい実施形態においては、本発明のエンドエフェクタは、外部ガス供給源を備えず、外部ガス供給源に接続もされていない。
【0058】
従来は一般的に、加圧ガスがエンドエフェクタに送られ、そのガスがプラズマ化されていた。しかしながら、本発明はこのような従来技術とは明確に異なり、本実施形態のエンドエフェクタ100において、プラズマ化されるガスは、流入孔110を通してのみ、エンドエフェクタ100の内部空間に提供され得る。このように、本実施形態のエンドエフェクタ100は、プラズマ化されるガスの供給源を用いることなく、体内に存在するガス(例えば腸内の二酸化炭素)をプラズマ化することによって、腹腔内の止血を達成するものであり得る。このような構成にすることによって、ガス供給源を別個に設ける必要がなく、内視鏡全体の構成の簡素化、コストの低減を達成することが可能である。また、体内に存在するガスを用いるので、体外のガスを用いた場合による体内への異物の混入を防止できるとともに、体内のガスや治療部位などとの化学反応により体に悪影響を及ぼす副生成物が生成される危険性を抑制することも可能となる。
【0059】
本発明のエンドエフェクタは、外部ガス供給源から供給されたガスの使用量を低減し、ヒトの体内に存在するガスを循環させて使用することにより、腹部の膨らみを抑制しつつ、ガスの流量を稼ぐことができ、体内の気腹圧の変動を抑制し、それ故、患者の負担軽減につながる。加えて、体外のガスを導入するためのチューブを不要とすることができるため、内視鏡の直径をさらに小さくすることができ、これは患者の負担や苦痛を和らげる。さらに、体外のガスの使用量を低減できるため、処置後に体内から出さなければならないガスの量を低減させるかまたはゼロにすることができ、これにより、排気するガスの処理を簡単または不要にすることが可能である。さらに、体外のガスに含まれるミスト類による二次感染などのリスクを低減することも可能である。
【0060】
(2)エンドエフェクタの第2の実施形態
図4Aは、本発明のエンドエフェクタ200の構成の一例を示す断面図である。
【0061】
エンドエフェクタ200は、小さい内部空間を有する筐体構造を有する。図4Aに示される例では、エンドエフェクタ200は、エンドエフェクタ200の外部に存在するガスを通すための流入孔110’と、エンドエフェクタ200の外部から流入孔110’を通して内部空間に入り込んだガスをプラズマ化するための手段として第1の電極120aおよび第2の電極120bとを備える。図4Aに示される例では、第1の電極120aは、エンドエフェクタ100の筐体構造を形成しており、第2の電極120bは、エンドエフェクタ200の小さい内部空間を作り出すように環状形状を有する。例えば、第1の電極120aは、アースされた電極であり、第2の電極120bは、第1の電極120aより高い電圧を有する高電圧電極である。本実施形態では、第1の電極120aと第2の電極120bとの間でパルス放電を発生させるように、第1の電極120aと第2の電極120bとの間に図示しない電源により電圧を印加する。放電のON/OFFを繰り返すパルス放電のため、放電OFFのときに体内のガスを流入孔110’の内部に取り込み、放電ONのときに、流入孔110’の内部に存在するガスが高温になり、プラズマ化されて流入孔110’から噴出する。これは、一度放電すると流入孔110’周りの気体が膨張し、温度が下がるとその流入孔110’周りの気体が流入孔110’に入り込み、ここでもう一度放電すると、流入孔110’の入り込んだ気体がプラズマ化されて流入孔110’から噴出するというような気体の性質を利用したものであるため、本実施形態では、気流も、その気流を生成するためのポンプも不要であり、むしろプラズマガスをより勢いよく噴出させることが可能である。なお、本実施形態において、第1の電極120aと第2の電極120bとの間での放電によってプラズマ化されるガスの流量は、0超~約0.5L/分である。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0062】
なお、本実施形態のエンドエフェクタ200もまた、第1の実施形態のエンドエフェクタ100と同様に、外部ガス供給源に直接的におよび間接的に接続されていない。すなわち、本実施形態のエンドエフェクタ200において、プラズマ化されるガスは、体内のガスを流入孔110’を通してのみ、エンドエフェクタ200の小さい内部空間に提供される。このように、本実施形態のエンドエフェクタ200では、プラズマ化されるガスを体外に存在する供給源を用いることなく、例えば腸内の二酸化炭素を用いることによって、安全に止血などの治療行為が行えるとともに、内視鏡全体の構成の簡素化を達成することが可能である。
【0063】
図4Bは、本発明のエンドエフェクタ200の構成の他の一例を示す断面図である。
【0064】
図4Bに示されるエンドエフェクタ200’は、プラズマ化されるガスを滞留させるための空間をさらに備えており、プラズマ化されるガスを滞留させるための空間は、エンドエフェクタ200’の外部と流入孔110’を介して連通している。エンドエフェクタ200’にこのような空間が設けられることにより、この空間内でプラズマガスを生成するためのガスを貯蔵できるため、プラズマ化されたガスを継続して発生することが可能である。
【0065】
図4Cは、本発明のエンドエフェクタ200の構成の他の一例を示す断面図である。
【0066】
図4Cに示されるエンドエフェクタ200’’は、流入孔110’周りにおいて第1の電極120aと第2の電極120bとが層を成す構成を有する。このような構成により、プラズマ化されるガスの気流が無い場合であっても、プラズマ化されたガスの生成および噴出を実現することが可能である。また、プラズマ化されるガスのごく少量の気流によって、プラズマ化されたガスのより強烈な噴出を実現することも可能である。
【0067】
(3)エンドエフェクタの他の構成1
図5Aは、本発明のエンドエフェクタ300の構成の一例を示す断面図である。
【0068】
低温プラズマを発生させた場合、放出孔130の周りが高温となることがあるため、エンドエフェクタは、その高温部分によって患部が火傷を負わない構成にする必要があった。
【0069】
図5Aに示されるエンドエフェクタ300は、第1の実施形態のエンドエフェクタ100の表面を覆うように被覆部材150を設けたものである。被覆部材150は、放出孔近辺の高温が、患部が火傷を負わない程度の温度に下げることが可能な程度に熱伝導性の低い(断熱性を有する)物質であれば、任意の素材であり得る。一つの実施形態において、被覆部材150の素材は、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素樹脂であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、エンドエフェクタ300がテフロン(登録商標)加工されるように被覆部材150がフッ素樹脂である場合、および、エンドエフェクタ300の表面形状が凹凸(例えば、ダイス状の凹凸)を有する場合には、患部などの組織がエンドエフェクタ300に焼き付いてしまうことを防止することができるため、このような被覆部材150を設けたりその被覆部材150の凹凸の表面形状にしたりすることは有意である。被覆部材150の表面を凹凸形状にすることでさらに、上記効果を得ることが可能となる。また、被覆部材150は成形された固形部材であってもよいし、コーティングされた薄膜であってもよい。被覆部材150を設けることにより、放出孔130の周りの高温部分が患部に接触したとしても、高温部分の熱は患部に伝わらず、それ故、その患部が火傷を負うことはない。
【0070】
図5Bは、本発明のエンドエフェクタ300の構成の他の一例を示す断面図である。
【0071】
図5Bに示されるエンドエフェクタ300’は、第1の実施形態のエンドエフェクタ100の遠位端部周りの側面表面を完全に覆うようにフード160を設けたものである。フード160の遠位端部および近位端部は、両方とも開放端部であり、フード160の近位端部をエンドエフェクタ300’の遠位端部に取り付け可能なように構成されている。フードをエンドエフェクタに取り付ける手段は任意の手段であり得る。一つの実施形態において、フード160の内表面上には、取り付け時のスライド移動を停止させるための突起部が、内表面に沿って環状に設けられるが、本発明はこれに限定されない。このようなフード160を設けることにより、放出孔130の周りの高温部分が患部に接触することはなく、それ故、その患部が火傷を負うことはない。また、フード160を設けることにより、プラズマガスが照射される領域をガイドすることが可能となる。さらに、フード160を、透光性を有する材質とすることにより、プラズマガスの照射方向の視認が可能となる。
【0072】
図5Cは、本発明のエンドエフェクタ300の構成の他の一例を示す断面図である。
【0073】
図5Cに示されるエンドエフェクタ300’’は、図5Bに示されるフード160’を、フード160’の近位端部から遠位端部に向かって先細りとなるようにテーパー状にしたものである。このようなフード160’のおかげで、放出孔130の周りの高温部分が患部に接触することはなく、それ故、その患部が火傷を負うことはない。また、フード160’の遠位端部が先細りとなるテーパー状であるため、放出されるプラズマガスの照射範囲が絞られ、ガスの照射位置をより正確にガイドする機能を発揮する。さらにフード160’の遠位端部を物理的に患部に押し付けることにより、プラズマガスを照射が必要な患部にのみ当てることが可能となる。図5Bおよび図5Cには示されていないが、フード160、160’の遠位端部を患部に押し付ける際に、フード160、160’内部に充満するガスを外部に放出するための孔をフード160、160’に設けてもよい。
【0074】
(4)エンドエフェクタの他の構成2
図6Aは、本発明のエンドエフェクタ400の構成の一例を示す断面図である。
【0075】
従来から、エンドエフェクタ100およびエンドエフェクタ200のようにエンドエフェクタの遠位端部の表面上に放出孔130を設けると、内視鏡に設けられたカメラの画像を見たときに、プラズマ化されたガスの照射位置が、エンドエフェクタの遠位端部に隠れてしまい、視認しづらかったという問題があった。
【0076】
本発明のエンドエフェクタ400は、ガスをプラズマ化するための手段として第1の電極120aおよび第2の電極120bと、プラズマ化されたガスを放出するための放出孔130と、絶縁体170とを備える。図6Aに示されるように、放出孔130は、エンドエフェクタ400の長手方向に対して側方にプラズマ化されたガスを放出することが可能なように位置付けられている。プラズマ化されたガスをエンドエフェクタの側方に噴出させることにより、プラズマ化されたガスの照射位置が、エンドエフェクタ400の陰に隠れることなく視認可能となる。
【0077】
図6Bは、本発明のエンドエフェクタ400の構成の他の一例を示す断面図である。
【0078】
図6Bに示されるエンドエフェクタ400’は、レーザー照射器を備えるエンドエフェクタ400である。レーザー照射器から照射されるレーザーを用いて、プラズマ化されたガスの照射位置を指し示すことにより、プラズマ化されたガスの照射位置をより容易に認識することが可能となる。
【0079】
なお、レーザー照射器から照射されるレーザーは、図6B(a)に示されるように、エンドエフェクタ400’の遠位端部の内表面上に備え付けられたレーザー照射器から照射されることによりエンドエフェクタ400’から射出されてもよいし、図6B(b)に示されるように、エンドエフェクタの近位端部に備え付けられたレーザー照射器から照射されてミラーで反射されることによりエンドエフェクタ400’から射出されてもよい。
【0080】
なお、図6Aおよび図6Bを参照して、プラズマガスの照射位置を指し示すための部材としてレーザー照射器が説明されたが、プラズマガスの照射位置を指し示すための部材は、近位端部が挿入部11の遠位端部11’に接続されており遠位端部がプラズマガスの照射位置に配置する棒状部材であってもよいし、その棒状部材の遠位端部に設けられたリングの中心がプラズマガスの照射位置を示すリング付き棒状部材であってもよい。このような棒状部材やリング付き棒状部材の遠位端部を患部に当てながらプラズマガスの照射を行うことにより、棒状部材の遠位端部およびリング付き棒状部材のリングの中心がプラズマガスの照射位置のガイドの役割を果たす。これにより、プラズマ化されたガスの照射位置が視認可能となる。また、棒状部材の遠位端部およびリング付き棒状部材のリングを出血部に物理的に接触させることにより、出血部を押さえた状態で止血処置を行うことが可能である。
【0081】
図7は、本発明のエンドエフェクタの遠位端部の断面形状の一例を示す。本発明のエンドエフェクタの遠位端部の断面形状は、体外のガスや異物などの混入をふせぐために、円形の鉗子チャネルの形状に合わせた円形であることが好ましいが、本発明はこれに限定されない。本発明のエンドエフェクタの断面形状は、図7に示されるような非円形(例えば、四角形、六角形、1本の弦より外側の部分を削り取った部分円形、2本の平行な弦より外側の部分をそれぞれ削り取った部分円形、小円形をくり抜いた部分円形)であってもよい。エンドエフェクタがこのような非円形の形状をとることにより、円形の鉗子チャネルとエンドエフェクタとの間に隙間が生じるため、体内に滞留してしまったガスをその隙間を通して抜き出すことが可能である。
【0082】
なお、図3A図6Bを参照して説明された本発明のエンドエフェクタには、放電部(すなわち、第1の電極120aと第2の電極120bとの間)に溜まった汚れを取り除くためのクリーニングモードが実装されていてもよい。クリーニングモードは、エンドエフェクタが、例えば、高圧ガスを放電部に流すことが可能な機構、または、放電部付近のガスを汚れと共に吸引することが可能な機構、または、ノズルから出る洗浄水を汚れと共に吸引することが可能な機構を備えることによって、エンドエフェクタに実装され得る。これにより、放電部に溜まった汚れを取り除くことが可能になり、従って、安定したプラズマを継続的に生成することが可能である。
【0083】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、ガスのプラズマ化が可能な、改善された止血用エンドエフェクタおよび当該エンドエフェクタを備えた内視鏡等を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0085】
10 内視鏡
100 エンドエフェクタ
110 流入孔
120a 第1の電極
120b 第2の電極
130 放出孔
140 ポンプ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7