(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】1,5-アンヒドロフルクトース誘導体を含むAMPK活性化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/351 20060101AFI20221130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221130BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20221130BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20221130BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20221130BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221130BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221130BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221130BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
A61K31/351
A61P43/00 111
A61P3/06
A61P9/12
A61P3/04
A61P3/10
A61P29/00
A61P35/00
A61P9/10
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2018219529
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000173924
【氏名又は名称】公益財団法人野口研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 征郎
(72)【発明者】
【氏名】川原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 浩太朗
(72)【発明者】
【氏名】松田 昭生
(72)【発明者】
【氏名】水野 真盛
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/171165(WO,A1)
【文献】特開2005-154425(JP,A)
【文献】特表2018-501293(JP,A)
【文献】特表2016-531855(JP,A)
【文献】特表2003-519660(JP,A)
【文献】Natural Product Communications,2012年,Vol.7, No.11,p.1501-1506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-デオキシ-1,5-アンヒドロフルクトース又は6-(ヒドロキシメチル)-2H-ピラン-3-オンを含む、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5-アンヒドロフルクトース誘導体を含むAMPK活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は、細胞内ATPレベルの低下に伴って活性化されるセリン・スレオニンキナーゼである。近年、AMPKが細胞ストレス応答において中心的役割を果たすことが明らかになった。AMPKは、代謝・生理学的ストレスなどに起因するAMP/ATP比率の上昇(ATPの減少とAMP等の増加)に対する細胞のエネルギーセンサーとして機能し、細胞のエネルギー恒常性の最上位の調節因子として重要な役割を担っている。AMPKは、下流の様々な生体酵素のリン酸化を介して、解糖系や脂肪酸β酸化系などのATPを産生するシグナル経路(異化経路)を正に調節(亢進)する一方、糖新生、脂質やタンパク質の生合成等のATPを消費する経路(同化経路)を負に調節(抑制)することにより、ATPレベルを回復させることが知られている。
【0003】
AMPKの活性化は、多様な生理学的効果をもたらすことが報告されており、例えば、コレステロール生合成抑制、ミトコンドリア生合成促進、虚血耐性向上、オートファジー促進、細胞増殖抑制、糖新生抑制、糖分解促進、血流増加等の効果が知られている。AMPK活性化による、がん細胞増殖抑制効果についても、様々な報告がある。AMPK活性化は、高脂血症、高血圧、肥満等のメタボリック症候群、2型糖尿病、ミトコンドリア病、オートファジー関連疾患、老化関連症状、がん、炎症性疾患等の多くの疾患や状態の治療及び予防に有効と考えられており、AMPKを標的とした治療・予防法の開発は世界的に大きな注目を集めている。
【0004】
抗糖尿病薬として世界中で広く使用されているメトフォルミンについて、最近、AMPK活性化作用が証明された(非特許文献1)。非特許文献1は、メトフォルミンを、血管内皮細胞に1mMで添加し、4時間刺激後のAMPKリン酸化を調べた結果を報告している(非特許文献1のFig. 2A参照)。
【0005】
1,5-アンヒドロフルクトース(1,5-AF)はグルコースとの構造上類似性を示す単糖である。特許文献1は1,5-AFがカスパーゼI活性化阻害作用を有することを開示している。非特許文献2は、1,5-AFがAMPKリン酸化活性を有することを報告している。
【0006】
しかし、1,5-AFのAMPKリン酸化活性は満足できるレベルではなく、より効果の高いAMPK活性化剤の開発がなお望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Shang F., et al., PLOS ONE, (2016) 11(3):e0151845
【文献】Kojima-Yuasa A., et al., Nat. Prod. Commun., (2012) 7(11): p.1501-1506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を効果的に活性化できる薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、所定の1,5-AF誘導体が高いAMPK活性化能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 1,5-アンヒドロフルクトース誘導体を含む、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化剤。
[2] 1,5-アンヒドロフルクトース誘導体が、1,5-アンヒドロフルクトースのデオキシ体又はエノン体である、上記[1]に記載のAMPK活性化剤。
[3] 1,5-アンヒドロフルクトース誘導体が、3-デオキシ-1,5-アンヒドロフルクトース又は6-(ヒドロキシメチル)-2H-ピラン-3-オンである、上記[1]又は[2]に記載のAMPK活性化剤。
[4] 上記[1]~[3]のいずれかに記載のAMPK活性化剤を含む、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態の治療又は予防のための医薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、AMPKを効果的に活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、1,5-AF及びその3-デオキシ体のAMPKリン酸化活性を示す、ウェスタンブロット解析の電気泳動写真である。Aは1,5-AF、Bは1,5-AFの3-デオキシ体を用いた結果を示す。電気泳動写真には、リン酸化AMPK(p-AMPK)のバンドが認められる。
【
図2】
図2は、1,5-AFの3-デオキシ体及びエノン体のAMPKリン酸化活性を示す、ウェスタンブロット解析の電気泳動写真である。電気泳動写真には、リン酸化AMPK(p-AMPK)のバンドが認められる。
【
図3】
図3は、1,5-AF投与後の体重変化(A)及び脂肪量(B)を示す。A中、ひし形記号は1,5-AF(+)、四角記号は1,5-AF(-)を示す。
【
図4】
図4は、培養の膵臓細胞株(Min6)における1,5-AFのインスリン分泌促進活性を示す。四角記号は1,5-AF 10μg/ml添加群、三角記号は1,5-AF 1μg/ml添加群、ひし形記号は対照群を示す。
【
図5】
図5は、1,5-AF前投与がもたらす虚血耐性を示す写真である。最も左側のレーンに、1,5-AFを投与せずに脳血管網結紮閉塞を行った対照脳の結果、それ以外の右側4レーンに、1,5-AF投与後に脳血管網結紮閉塞を行った試験脳の結果を示す。それぞれ、白色の部分が虚血壊死巣を示すが、左端(対照)に比べ、1,5-AF前投与で虚血壊死が縮小している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、1,5-アンヒドロフルクトース誘導体を含む、AMP活性化プロテインキナーゼ活性化剤に関する。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は、α、β、及びγの3つのサブユニットから構成されるヘテロ三量体であり、αサブユニット(α鎖)の172番目のスレオニンにてAMPKキナーゼ(AMPKK)によりリン酸化されることによって活性化される。活性化されたAMPKは、下流の様々な生体因子をリン酸化により活性化又は抑制し、下流のシグナル伝達を誘導又は阻害する。
【0015】
本発明において、AMPK活性化剤の有効成分として用いることができる1,5-アンヒドロフルクトース誘導体は、例えば、下記の一般式(I)又は(II):
【0016】
【0017】
一般式(I)において、R1及びR2のいずれか一方は水酸基又はアシルオキシ基を示し、他方は水素原子又はフッ素原子を示す。好ましくはR1及びR2のいずれか一方は水酸基又はアシルオキシ基を示し、他方は水素原子を示す。さらに好ましくは、R1及びR2のいずれか一方は水酸基を示し、他方は水素原子を示す。アシルオキシ基を構成するアシル基としては、置換されていてもよいアルキルカルボニル基や置換されていてもよいアリールカルボニル基などを用いることができる。より具体的には、例えばアセチル基、トリフルオロアセチル基などのアルキルカルボニル基、又はベンゾイル基(ベンゼン環はフッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子、メトキシ基などのアルコキシ基、アルキル基やアシル基で置換されていてもよいアミノ基、又はメチル基などのアルキル基などから選ばれる1以上の基で置換されていてもよい)などを用いることができる。
【0018】
R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子を示す。R3及びR4のいずれか一方が水素原子であり、他方がフッ素原子である場合、又はR3及びR4がともに水素原子であることが好ましい。
【0019】
式中の----は単結合又は二重結合を示すが、----が二重結合を示す場合にはR1及びR4は存在せず、R2及びR3のみが存在することを意味する。----が二重結合を示す場合には、R2が水素原子であり、R3がフッ素原子であるか、R2及びR3がともに水素原子であることが好ましい。
【0020】
R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はフッ素原子を示すが、R5及びR6がともに水素原子であることが好ましい。本明細書において、アルキル基としては例えばC1-6アルキル基を用いることができ、好ましくはC1-4アルキル基を用いることができる。アルキル基は直鎖、分枝鎖、環状、又はそれらの組み合わせのいずれであってもよい。アルキル部分を有する他の置換基(例えばアルキルカルボニル基)のアルキル部分についても同様である。
【0021】
R7は-CH2-OR8、-CHF-OR8、-CF2-OR8、水素原子、アルキル基、又はトリフルオロメチル基を示すが、R7が-CH2-OR8であることが好ましい。R8は水素原子、アルキル基、又はアシル基を示すか、あるいはR8はR6と結合して-R8-R6-となって単結合を示す。アシル基としては、置換されていてもよいアルキルカルボニル基や置換されていてもよいアリールカルボニル基などを用いることができる。より具体的には、例えばアセチル基、トリフルオロアセチル基などのアルキルカルボニル基、又はベンゾイル基(ベンゼン環はフッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子、メトキシ基などのアルコキシ基、アルキル基やアシル基で置換されていてもよいアミノ基、又はメチル基などのアルキル基などから選ばれる1以上の基で置換されていてもよい)などを用いることができる。好ましくは、R8は水素原子又はアシル基を示すか、あるいはR8はR6と結合して-R8-R6-となって単結合を示す場合である。
【0022】
好ましい組み合わせとしては、
(a)R1及びR2のいずれか一方が水酸基又はアシルオキシ基であり、他方が水素原子であり;R3及びR4がそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子を示し;式中の----は単結合又は二重結合を示し、----が二重結合を示す場合にはR1及びR4は存在せず;R5及びR6が水素原子であり;R7が-CH2-OR8であり、R8が水素原子、アルキル基、又はアシル基を示すか、あるいはR8はR6と結合して-R8-R6-となって単結合を示す場合;及び
(b)R2が水素原子又はフッ素原子であり;R3が水素原子又はフッ素原子であり;式中の----が二重結合を示し;R5及びR6が水素原子であり;R7が-CH2-OR8であり、R8が水素原子又はアシル基を示すか、あるいはR8はR6と結合して-R8-R6-となって単結合を示す場合を挙げることができる。
【0023】
さらに好ましい組み合わせとしては、
(c)R2が水素原子であり;R3が水素原子又はフッ素原子であり;式中の----が二重結合を示し;R5及びR6が水素原子であり;R7が-CH2-OR8であり、R8が水素原子又はアシル基を示すか、あるいはR8はR6と結合して-R8-R6-となって単結合を示す場合;及び
(d)R2が水素原子であり;R3が水素原子又はフッ素原子であり;式中の----が二重結合を示し;R5が水素原子であり;R7が-CH2-OR8であり、R8がR6と結合して-R8-R6-となって単結合を示す場合を挙げることができる。もっとも、好ましい組み合わせはこれらに限定されることはない。
【0024】
一般式(II)において、R11及びR12は上記のR1及びR2と同様である。R14はアシル基を示すが、アシル基としてはR1及びR2の説明においてアシルオキシ基を構成するアシル基として説明したものを用いることができる。R17及びR18もR7及びR8と同様である。
【0025】
好ましい組み合わせとしては、
(e)R11及びR12のいずれか一方が水酸基又はアシルオキシ基であり、他方が水素原子であり;R13が水素原子又はフッ素原子であり;R14がアシル基であり;R15及びR16がそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子であり;R17が-CH2-OR18であり、R18が水素原子、アルキル基、又はアシル基である場合を挙げることができ、さらに好ましい組み合わせとしては、
(f)R11及びR12のいずれか一方がアシルオキシ基であり、他方が水素原子であり;R13が水素原子であり;R14がアシル基であり;R15及びR16が水素原子であり;R17が-CH2-OR18であり、R18が水素原子、アルキル基、又はアシル基である場合を挙げることができる。もっとも、好ましい組み合わせはこれらに限定されることはない。
【0026】
一般式(I)又は(II)で表される化合物は一個以上の不斉中心を有する場合があり、このような不斉中心に基づく光学対掌体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、又はラセミ体などを本発明の医薬の有効成分として用いてもよい。環状構造に起因する二以上の立体異性体についても、純粋な形態の任意の立体異性体又は立体異性体の任意の混合物を本発明の医薬の有効成分として用いることができる。
【0027】
一般式(I)で表される化合物は、ケト型であってよい。一般式(II)で表される化合物は、一般式(I)で表される化合物の水和物であってよい。
【0028】
なお一般式(I)又は(II)で表される化合物は、下記式(III)で表される1,5-アンヒドロフルクトースを明らかに含まない。
【0029】
【0030】
本発明でAMPK活性化剤の有効成分として用いる1,5-AF誘導体の例として、1,5-アンヒドロフルクトース(典型的には、1,5-D-アンヒドロフルクトース)のデオキシ体(例えば、3-デオキシ体)又はエノン体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明でAMPK活性化剤の有効成分として用いる1,5-AF誘導体の具体例として、下記式(IV)で表される3-デオキシ-1,5-アンヒドロフルクトース、下記式(V)で表される6-(ヒドロキシメチル)-2H-ピラン-3-オンが挙げられる。
【0032】
【0033】
【0034】
一般式(I)又は(II)で表される化合物は、例えば本明細書の実施例に具体的に示した方法、若しくは公知の方法により合成することができ、又は市販品として入手することができる。
【0035】
本発明に係る1,5-AF誘導体は、AMPKをリン酸化(具体的には、AMPKのαサブユユニットのN末端から172番目のスレオニンをリン酸化)することができ、すなわち、AMPK活性化能を有する。1,5-AF誘導体のAMPKリン酸化活性(すなわち、AMPK活性化能)は、血管内皮細胞に1,5-AF誘導体を添加して一定時間(例えば1~2時間)反応させた後、その細胞におけるリン酸化AMPKを定量し、1,5-AF誘導体を添加しないこと以外は同じ条件で試験した陰性対照での定量値と比較することにより評価することができる。1,5-AF誘導体のAMPKリン酸化活性の、血管内皮細胞を用いたそのような測定は、例えば、後述の実施例の記載に従って行うことができる。1,5-AF誘導体を血管内皮細胞に添加した場合に、陰性対照と比較してリン酸化AMPKが増加した場合、その1,5-AF誘導体はAMPKリン酸化活性(すなわち、AMPK活性化能)を有すると判断される。例えば、1,5-AF誘導体処理群において陰性対照と比較して20%以上高いリン酸化AMPKの定量値が示された場合、陰性対照と比較してリン酸化AMPKが増加したと判断することができる。
【0036】
本発明に係る、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤は、上記1,5-AF誘導体を有効量で含むものであってよい。本発明に係るAMPK活性化剤は、上記1,5-AF誘導体を有効成分として含むAMPK活性化のための組成物であってよい。本発明に係るAMPK活性化剤は、in vitroで単離された細胞、組織又は臓器に対して使用してもよいし、in vivoで体内の細胞、組織又は臓器に対して使用してもよい。
【0037】
本発明は、本発明に係る1,5-AF誘導体、又はそれを含むAMPK活性化剤を含む医薬も提供する。本発明に係る医薬は、上記1,5-AF誘導体のAMPKリン酸化活性(AMPK活性化能)に基づき、AMPK活性化のために用いることができる。
【0038】
本発明に係るAMPK活性化剤又は医薬は、上記1,5-AF誘導体に加えて、製薬上許容される添加剤、例えば、担体(固体や液体担体など)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、希釈剤、安定化剤、噴射剤等をさらに含んでもよい。
【0039】
本発明に係る医薬は、任意の剤形であってよい。本発明に係る医薬は、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の固形製剤、乳剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤等の液体製剤、座剤、吸入剤、エアロゾル剤、軟膏剤、クリーム剤、ジェル剤、貼付剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等の剤形であってよいが、これらに限定されるものではない。本発明に係る医薬は、経口用であっても非経口用であってもよい。
【0040】
本発明に係る医薬における上記1,5-AF誘導体の配合量は、当業者が適宜設定することができ、剤形、添加剤、対象疾患の重症度等によって調整することができる。本発明に係る医薬は、上記1,5-AF誘導体を1種類含んでもよいし、2種類以上含んでもよい。
【0041】
本発明に係る医薬は、特に、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態の治療又は予防のために用いることができる。ここで「AMPK活性化が有効な」とは、AMPK活性化がその疾患若しくは状態に対して治療又は予防的効果を有することを意味する。本発明において「治療」とは、完治、寛解、病状の進行の遅延若しくは阻止、予後の改善、症状の回復、改善若しくは軽減、全身状態の改善等を含む。本発明において「予防」とは、発症の予防若しくは遅延、及び再発の予防若しくは遅延等を含む。一実施形態では、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態は、AMPK活性化がその疾患若しくは状態の治療又は予防に効果があることが知られている疾患若しくは状態であり得る。
【0042】
AMPK活性化は多彩な生理活性を誘導することが知られている。本発明で対象となるAMPK活性化が有効な疾患若しくは状態としては、以下に限定されないが、メタボリック症候群(肥満、高血圧、糖代謝異常、高血糖、高脂血症、動脈硬化など)、2型糖尿病、老化関連疾患(フレイル、骨粗しょう症、認知機能障害など)、ミトコンドリア病(パーキンソン病、神経変性疾患,アルツハイマー病、加齢黄斑変性など)、オートファジー関連疾患、悪性腫瘍(がん)、炎症性疾患(腎炎、肝炎、NASH、脂肪肝など)、虚血性疾患(脳、心循環器系の虚血性疾患)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明は、上記1,5-AF誘導体、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤、又はAMPK活性化剤を含む医薬を細胞又は被験体にin vitro又はin vivoで投与することによる、AMPK活性化方法も提供する。本発明はまた、上記1,5-AF誘導体、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤、又はAMPK活性化剤を含む医薬を被験体に投与することによる、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態の治療又は予防方法も提供する。「AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態」及び「治療又は予防」は上述のとおりである。
【0044】
上記1,5-AF誘導体の投与量は特に限定されず、患者の体重、年齢、病歴等、予防又は治療の目的、疾患の種類や症状、投与経路など通常考慮すべき種々の要因に応じて、適宜増減することができる。上記1,5-AF誘導体、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤、又はAMPK活性化剤を含む医薬は、単回投与してもよいし、数時間~数ヶ月の間隔で複数回投与してもよい。
【0045】
本発明に係る上記1,5-AF誘導体、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤、又はAMPK活性化剤を含む医薬は、非経口的に投与してもよいし、経口的に投与してもよい。本発明に係る上記1,5-AF誘導体、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤、又はAMPK活性化剤を含む医薬は、患部に直接投与してもよいし、上記1,5-AF誘導体が患部に標的化送達されるように投与してもよい。
【0046】
本発明に係る上記1,5-AF誘導体、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤、又はAMPK活性化剤を含む医薬を投与する被験体は、以下に限定されないが、例えば、ヒト、家畜(ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)、実験動物(マウス、ラット、サル等)等を含む任意の哺乳動物(被験体)であってよい。一実施形態では、投与対象の被験体は、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態に罹患しているか、又は罹患していることが疑われる被験体であってよい。一実施形態では、投与対象の被験体は、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態に罹患しやすい素因を有するか又は罹患しやすい環境にある被験体であってよい。
【0047】
本発明に係る上記1,5-AF誘導体、上記1,5-AF誘導体を含むAMPK活性化剤、又はAMPK活性化剤を含む医薬を投与する単離された細胞、組織又は臓器は、特に限定されず、例えば、上記被験体に由来する細胞、組織又は臓器であってよい。投与対象の細胞、組織又は臓器は、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態の患部(例えば、腫瘍、炎症部位、変性部位、血管内皮細胞等)に由来するものであってよい。
【0048】
本発明の方法によれば、AMPKを強く活性化することができ、それにより、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態を治療又は予防することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]1,5-AF誘導体の合成
1,5-アンヒドロフルクトース(1,5-AF)の3-デオキシ体(3-デオキシ-1,5-アンヒドロフルクトース)、及び1,5-AFのエノン体(6-(ヒドロキシメチル)-2H-ピラン-3-オン)の合成を行った。
【0051】
【0052】
アルゴン雰囲気中、テトラヒドロフラン(50mL)に化合物1(2.46g, 9.45mmol)と1,1'-チオカルボニルジイミダゾール(3.37g, 18.9mmol)を加え、加熱還流下で一晩攪拌した。溶媒を減圧留去後、得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=3:2)で精製し、化合物2(3.60g, quant.)を得た。"quant."は「定量的(quantitative)」、すなわち収率ほぼ100%を意味する。
【0053】
【0054】
化合物2(3.50g, 9.45mmol)とトリス(トリメチルシリル)シラン(5.83mL, 18.9mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(307mg, 1.89mmol)をトルエン(50mL)に溶解させ、溶液を脱気後、アルゴン雰囲気中で100℃で2時間攪拌した。反応溶液を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィーにチャージし、精製(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1)を行い、化合物3の粗生成物(2.79g)を得た。
【0055】
【0056】
工程2で得られた化合物3の粗生成物(2.79g)に0.1M硫酸水溶液(100mL)を加え、60℃で一晩攪拌した。反応溶液を炭酸水素ナトリウム(1.85g)で中和後、溶媒を減圧留去した。得られた残査にピリジン(40mL)と無水酢酸(20mL)を加え室温で一晩攪拌した。メタノールを加えて反応を停止させた後、溶媒を減圧留去し、得られた残査を酢酸エチルに溶解させ、酢酸エチル相を水、1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥させた。溶媒を減圧留去後、得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 トルエン:酢酸エチル=3:1)で精製し、化合物4(2.96g, 94%(3工程))を得た。
【0057】
【0058】
化合物4(1.52g, 4.57mmol)をジクロロメタン(6mL)に溶解させ、25%臭化水素酢酸溶液(9mL)を加え、室温で2.5時間攪拌した。反応溶液にジクロロメタンを加え、有機相を氷水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。溶媒を減圧留去後、化合物5の粗生成物(1.53g)を得た。
【0059】
【0060】
工程4で得られた化合物5の粗生成物(1.53g)を1,4-ジオキサン(15mL)とトルエン(15mL)の混合溶媒に溶解させ、トリス(トリメチルシリル)シラン(4.23mL, 13.7mmol)とトリエチルボラン(1.0M n-ヘキサン溶液, 1.37mL, 1.37mmol)を加え、室温で一晩攪拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、化合物6(781mg, 62%(2工程))を得た。
【0061】
【0062】
化合物6(774mg, 2.82mmol)をメタノール(15mL)に溶解させ、触媒量のナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液)を加え、室温で4時間反応させた。酸性イオン交換樹脂(AMBERLITE(商標登録)IR120 H)を加えて反応系を中和した。樹脂を濾別した後、溶媒を減圧留去し、得られた残査(471mg)をアセトニトリル(50mL)に溶解させ、ベンズアルデヒドジメチルアセタール(1.25mL, 8.45mmol)と(+)-10-カンファースルホン酸(100mg, 0.43mmol)を加えて室温で一晩攪拌した。トリエチルアミン(0.5mL)を加えて反応を停止させ、溶媒を減圧留去した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、化合物7(523mg, 78%)を得た。
【0063】
【0064】
化合物7(494mg, 2.09mmol)をジクロロメタン(20mL)に溶解させデス-マーチンペルヨージナン(976mg, 2.30mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で攪拌した。2.5時間後に反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)と飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(10mL)を加え室温で20分攪拌した。反応溶液に酢酸エチルを加え、得られた有機相を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウム上で乾燥させた。溶媒を減圧留去し、得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 トルエン:酢酸エチル=10:1)で精製し、化合物8(477mg, 97%)を得た。
【0065】
【0066】
化合物8(475mg, 2.03mmol)をジクロロメタン(10mL)に溶解させ、70%酢酸水溶液(50mL)を加え、70℃で2.5時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 クロロホルム:メタノール:水=85:15:1)で化合物9と化合物10の分離精製を行い、3-デオキシ体(化合物9)(251mg, 85%)と、エノン体(化合物10)の粗精製物(41mg)を得た。エノン体の粗精製物を水に溶解させ、酢酸エチルで洗浄後、水相を濃縮し、得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=1:2)で精製し、化合物10(25mg, 10%)を得た。
3-デオキシ体(化合物9)
1H NMR(600MHz, CDCl3): δ 2.50(dd,1H), 2.98(dd,1H), 3.54-3.59(m,1H), 3.85-3.97(m,2H), 3.99(d,1H), 4.15(d,1H), 4.19-4.25(m,1H).
エノン体(化合物10)
1H NMR(600MHz, CDCl3): δ 2.50(dd,1H), 3.78-3.82(m,1H), 3.85-3.88(m,1H), 4.18(dd,1H), 4.34(d,1H), 4.45-4.47(m,1H), 6.24(dd,1H), 7.01(d,1H).
【0067】
[実施例2]1,5-AF誘導体のAMPKリン酸化活性の評価-1
1,5-AFの3-デオキシ体のAMPKリン酸化活性を、1,5-AFと比較して評価した。
具体的には、培養血管内皮細胞(Lonza社)を6ウェルディッシュ(Thermo Fisher Scientific社)に1×106細胞/ウェルで播種した。播種後、一晩静置した。次にopti-MEM(Thermo Fisher Scientific社)に培地交換し、2時間後に1,5-AF、又は1,5-AF誘導体である3-デオキシ体(最終濃度0~0.1mg/ml)を添加した。1~2時間後に培地を除き、冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。冷PBSを完全に除いたあと、タンパク質溶解剤(界面活性剤、2-メルカプトエタノールを含む)を200μL加えた。得られた200μLの細胞溶解液を用いてウェスタンブロット法にてリン酸化AMPKを検出した。一次抗体には抗ヒトリン酸化AMPK抗体(CST社)を用いた。検出にはEz-Capture MG(アトー社)を用いた。バンドの定量にはImageJソフトを用いた。
【0068】
結果を
図1に示す。1,5-AFの3-デオキシ体は、1,5-AFと比較して、約2倍のAMPKリン酸化活性を示した。AMPKはリン酸化により活性化することから、1,5-AFの3-デオキシ体は高いAMPK活性化能を有することが示された。
【0069】
[実施例3]1,5-AF誘導体のAMPKリン酸化活性の評価-2
1,5-AFの3-デオキシ体とエノン体のAMPKリン酸化活性を評価した。
具体的には、培養血管内皮細胞(Lonza社)を6ウェルディッシュ(Thermo Fisher Scientific社)に1×106細胞/ウェルで播種した。播種後、一晩静置した。次にopti-MEM(Thermo Fisher Scientific社)に培地交換し、2時間後に1,5-AF誘導体である3-デオキシ体又はエノン体(最終濃度0~0.1mg/ml)を添加した。1~2時間後に培地を除き、冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。冷PBSを完全に除いたあと、タンパク質溶解剤(界面活性剤、2-メルカプトエタノールを含む)を200μL加えた。得られた200μLの細胞溶解液を用いてウェスタンブロット法にてリン酸化AMPKを検出した。一次抗体には抗ヒトリン酸化AMPK抗体(CST社)を用いた。検出にはEz-Capture MG(アトー社)を用いた。バンドの定量にはImageJソフトを用いた。なお、対照には、1,5-AF誘導体の調製に用いた溶媒を用いた。
【0070】
結果を
図2に示す。1,5-AFの3-デオキシ体は反応開始の1時間後には高いリン酸化活性を示し、2時間後にはさらに高いリン酸化活性を示した。1,5-AFのエノン体も、反応開始の1時間後にリン酸化活性を示し、2時間後にはリン酸化活性の急激な増加を示した。1,5-AFの3-デオキシ体だけでなくエノン体も、高いAMPK活性化能を有することが示された。
【0071】
[参考例1]1,5-AFの経口摂取によるGLP-1分泌促進
1,5-AF(240mg)をヒト健常被験体(健常ボランティア)に経口投与した。経口投与前と、経口投与の15分後に、被験体の血中GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)を測定した。測定結果の一例として、経口投与前の血中GLP-1濃度が2.7 pmol/L、経口投与後の血中GLP-1濃度が3.8 pmol/Lであった。
測定の結果、複数の被験体において1,5-AFのGLP-1分泌促進活性が示された。
【0072】
[参考例2]1,5-AF投与の効果
1,5-AFを加えた通常食餌(1,5-AF(+))又は1,5-AFを加えない通常食餌(1,5-AF(-))を、健常ラットに与えて飼育し、1,5-AF摂取量、体重、脂肪量、及び血中成分量を経時的に測定した。
1,5-AF摂取量(g/day/動物)の平均(各週の7日間分の1,5-AF摂取量の個体間平均値)は以下のとおりである。
【0073】
【0074】
体重の経時変化を
図3Aに、脂肪量を
図3Bに示す。1,5-AF投与群(1,5-AF(+))では、体重が増加した一方で、脂肪量は減少した。1,5-AFの投与は、糖代謝を改善し、脂肪蓄積を抑制することによって、より健康な状態で動物の成長を促進することができると考えられた。
また血液分析結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
1.5-AFの投与により、インスリン分泌の増加と血糖値低下が示された。1,5-AGが低下したことから、糖代謝状態の改善が示された。
【0077】
[参考例3]1,5-AF投与のインスリン分泌促進活性
1,5-AF(320mg)をヒト健常被験体に経口投与した。経口投与前と、経口投与の2時間後に、被験体の空腹時インスリン値(μU/mL)及び空腹時血糖値(mg/dL)を測定した。以下の式に従ってHOMA-βを算出した。HOMA-β<30%はインスリン分泌低下を示す。
HOMA-β=(空腹時インスリン値 x 360)/(空腹時血糖値-63)
測定結果の一例として、経口投与前のHOMA-βが60.7、経口投与後のHOMA-βが91.4であった。
1,5-AFの投与により、インスリン分泌が促進されたことが示された。
【0078】
[参考例4]1,5-AFの膵臓β細胞に対するインスリン分泌促進活性
1,5-AFを培養マウス膵臓β細胞に1μg/mL又は10μg/mLで添加して培養し、上清中のインスリン濃度を経時的に測定した。対照として1,5-AFを添加せずに同様の試験を行った。
結果を
図4に示す。1,5-AFの投与によりインスリン分泌が促進された。1,5-AFは、膵臓β細胞を直接刺激し、AMPK活性化を介してインスリン分泌を促進することが示された。
【0079】
[参考例5]1,5-AFによる虚血耐性の付与
1,5-AF(38.5 mg/day/kg体重)を3日間連続で健常ラットに腹腔内投与し(1,5-AF前投与)、その後、脳血管網結紮閉塞を行った。死亡後、ラットから取り出した脳を観察した結果を
図5に示す。
図5中の脳の写真の左側半分に見られる白色部分は虚血脳神経細胞壊死巣である。
図5に示されるように、1,5-AFの前投与により虚血脳神経細胞壊死巣が顕著に縮小し、虚血耐性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、AMPK活性化が有効な疾患若しくは状態の治療又は予防効果や、AMPK活性化に基づく細胞のエネルギー代謝促進効果をもたらす薬剤を提供することができる。