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特許7185236放射線撮影システムで散乱を補正するための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】放射線撮影システムで散乱を補正するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
A61B6/00 350Z
A61B6/00 390A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019546026
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 GB2018050528
(87)【国際公開番号】W WO2018158577
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】1703291.3
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519300703
【氏名又は名称】イベックス イノベーションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ロクスリー,ニール
(72)【発明者】
【氏名】スコット,ポール
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/051212(WO,A1)
【文献】特開2016-063926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0086328(US,A1)
【文献】特開2008-000190(JP,A)
【文献】特開2005-270551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線画像化方法であって、
i.1組の少なくとも1つのトレーニング材料を提供するステップであって、前記組は、異なる材料、および/または前記材料の、もしくは各材料の異なる厚さを備えるステップと、
ii.画素化検出器を用いて、前記少なくとも1つのトレーニング材料の観察X線画像を得るステップと、
iii.異なる材料とのX線光子の相互作用をシミュレートするシミュレータを用い、トレーニング材料ごとに、電圧、濾過、およびサンプルの位置のうち少なくとも1つを含むシミュレータのパラメータに関してシミュレートし、散乱カーネルを得て、散乱カーネルのデータベースを構築するステップと、
iv.観察X線画像と、前記シミュレータにより作成されたX線画像シミュレーションとの間の、材料の種類および厚さとは無関係な、伝達関数を生み出すステップと、
.前記画素化検出器を用いて得る、前記少なくとも1つのトレーニング材料を含む少なくとも1つのサンプルの観察X線画像を、前記材料によりX線光子がどのような影響を受けるかを表すものとするステップと、
vi.前記サンプルに含有される前記材料の種類および/または前記厚さの初期推定を行うステップと、
vii.複数の空間的に分離された前記サンプル上の点の各々から前記検出器の各画素まで、前記サンプルの前記材料および前記厚さがあたかも前記ステップviの前記初期推定に対応するかのように、前記サンプルに対して光線経路トレースを遂行するステップと、
viii各々の光線経路トレースの広がり関数に対応する散乱カーネルを散乱カーネルデータベースから得て、
ix.前記散乱カーネルごとに散乱を合計して、画像全体の散乱推定を提供して、
.前記散乱カーネルごとに直接放射線を予測して、
xi.前記散乱推定および前記直接放射線に前記伝達関数を適用して、または前記観察X線画像の個々の画素または画素グループの強度値に逆伝達関数を適用して、
xii.Zが前記観察X線画像であり、Sが前記伝達関数適用後の散乱推測値であり、Dが前記伝達関数適用後の直接放射線である場合、あるいは、Zが前記逆伝達関数適用後の前記観察X線画像であり、Sが前記散乱推測値であり、Dが前記直接放射線である場合、画像差異Z-S-Dを決定し
xiii.前記画像差異がしきい値よりも低いかどうか決定し、
xiv.前記画像差異が前記しきい値よりも低い場合、前記Zから前記Sを減算して、散乱のないデータおよび/または散乱のない画像を提供するステップと
を備えるX線画像化方法。
【請求項2】
前記ステップiiiで構築された前記散乱カーネルの前記データベースは、前記少なくとも1つのトレーニング材料ごとに、前記シミュレータ内部のパラメータすべてのサブセットに関して構築される、請求項1に記載のX線画像化方法。
【請求項3】
前記画素化検出器を用いて前記X線画像を得る前記ステップは、前記検出器の各画素で強度値を記録するステップを備える、請求項1~のいずれか一項に記載のX線画像化方法。
【請求項4】
前記初期推定(前記ステップvi)は、前記ステップから得られる前記観察X線画像の個々の画素または画素グループの強度値;前記トレーニング材料の前記データベースに含有される、前記材料の種類および厚さの中央値前記材料の種類および厚さのランダムな推測;のうち1つに基づく、請求項1~のいずれか一項に記載のX線画像化方法。
【請求項5】
前記散乱カーネルを前記散乱カーネルデータベースから得るステップは、前記散乱カーネルデータベースの中で、前記材料の種類および厚さに対応する散乱カーネルのうち最も近い散乱カーネルを選択する、あるいは、前記散乱カーネルデータベースの中の、前記材料の種類および厚さに対応する複数の散乱カーネルを補間して散乱カーネルを導出する、ステップを備える、請求項1~のいずれか一項に記載のX線画像化方法。
【請求項6】
前記散乱のないデータは、前記材料の種類および前記材料の厚さの情報を備える、請求項1~のいずれか一項に記載のX線画像化方法。
【請求項7】
請求項1~に指定されるような、前記X線画像化方法の少なくともステップii~ステップivを遂行するように構成されるX線画像化装置。
【請求項8】
請求項1~に指定されるような、前記X線画像化方法の少なくともステップ~xivを遂行するように構成される、請求項に記載のX線画像化装置。
【請求項9】
請求項1~に指定されるような、前記X線画像化方法の少なくともステップ~ステップxivを遂行するように構成されるX線画像化装置。
【請求項10】
X線画像化システムであって、請求項のいずれか一項に記載のX線画像化装置、および1組の少なくとも1つのトレーニング材料を備え、前記組は、異なる材料、および/または前記材料の、もしくは各材料の異なる厚さを備えるX線画像化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮影システムで散乱を補正するための装置および方法に関し、詳細には散乱線除去グリッドを使用しないそのような装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物がX線照射を受けるとき、X線光子の一部は吸収され、一部は対象物を通過し、散乱されず、X線検出器に衝突する。これは「直接放射線」と呼ばれる。吸収されるX線があれば、散乱されるX線もある。作り出された散乱の強度は、検出器が検出する直接放射線の大きさを超え得る。散乱放射線は、コントラストを低下させ、かつ雑音を増大させることにより、不十分な画質をもたらす。吸収されたX線は、X線画像にコントラストを作り出す。散乱されたX線光子が検出器に到達する場合、散乱されたX線光子がどこから到来したかを識別することができないので、画像内のランダム雑音は増大する。
【0003】
散乱の問題に対処するために使用される、最も広く採用される技法は、X線検出器と被検対象物の間に散乱線除去グリッドを置くことである。散乱線除去グリッドは、X線吸収材料から形成され、間隔を置いて配置された、一連の平行な薄層を備える。散乱X線の大部分は、薄層の1つに引きつけられ、吸収される。したがって、散乱線除去グリッドが存在するときにX線検出器により吸収されるのは、大部分は直接放射線である。
【0004】
最初の散乱線除去グリッドについては、米国特許第1164987号明細書(Bucky)に記述されている。
【0005】
散乱線除去グリッドに伴う問題の1つは、X線吸収薄層が、検出画像内の散乱の影響を低減することに加えて、直接放射線の一部を、すなわち、薄層の経路を移動する光子を吸収することである。
【0006】
散乱線除去グリッドで失われた光子を、したがって、低下した画質を補償するために、X線束を増大させることは、一般的慣行である。しかしながら、X線束を増大させることは、X線画像化がX線感光材料からなる場合、不利である。このことは、散乱線除去グリッドの存在を補償するために、患者へのX線放射線量を増大させなければならない医用画像化で最も懸念される。
【0007】
X線画像化で使用するX線出力を低減するために、いくつかの試みが行われてきた。
【0008】
米国特許第7551716号明細書は、散乱線除去グリッドを使用する代わりに、数学的方法を使用して、散乱X線光子を近似的に決定する。数学的方法を利用して散乱X線光子を決定することにより、散乱線除去グリッドを使用するX線装置と比較したとき、X線量を低減することができる、または信号対雑音比を増大させることができる。米国特許第7551716号明細書で使用する数学的方法は、調査中の材料に関して、組織が乳腺組織であること、および組織が圧迫板の間で圧縮される結果として一定の厚さを有することという仮定を行うことに依存する。
【0009】
多重吸収板を含むX線装置について、英国特許第2498615号明細書で公表された本出願人の特許出願に記述されている。このX線装置では、X線エネルギースペクトルは、多くの異なる方法で摂動される。この装置および方法は、材料特性を識別できるようにする情報を提供する。
【0010】
国際公開第2016/051212号で公表された本出願人の特許出願は、直接放射線と散乱放射線の両方に影響を及ぼすX線信号に変更を加えて、散乱放射線を識別できるようにし、かついくつかの実施形態では、識別された散乱放射線を、それが直接放射線であるかのように戻して付け加えることができるようにする装置について記述している。
【0011】
国際公開第2016/051212号に記述された発明は、X線量を低減することができるようにし、信号対雑音比を改善することができるようにする一方で、それにもかかわらず、X線に変更を加えるために使用する構造物は、X線放射を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第1164987号明細書
【文献】米国特許第7551716号明細書
【文献】英国特許第2498615号明細書
【文献】国際公開第2016/051212号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
国際公開第2016/051212号に記述された装置および方法の利点を提供するが、X線線量をさらにまた低減し、信号対雑音比を改善することができるようにする装置および方法を提供することが望ましい。
【0014】
本発明は、散乱放射線の測定を提供するだけではなく、材料および材料の厚さを識別する際に、およびコントラスト対雑音比を改善する際に使用すべき散乱放射線の測定も提供する。
【0015】
観察X線画像と、材料および厚さに対して不変のX線画像のシミュレーションとの間の伝達関数を確立することにより、観察画像およびシミュレート画像から得られる情報は、伝達関数を適用することを条件として交換可能になる。シミュレーションでは、直接放射線および散乱放射線を分離することが可能である。したがって、観察画像から、散乱放射線を除去することができる。それにより、コントラスト対雑音比を増大させることが可能である。X線により害され得る材料を分析するためにX線を使用する医療適用分野および他の適用分野に関連して、本発明は、線量を低減して、類似の画像標準を作り出すことができるようにする、または同じX線量を使用して、よりよい画像を生成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、
i.1組の少なくとも1つのトレーニング材料を提供するステップであって、その組は、異なる材料、および/またはその材料の、または各材料の異なる厚さを備えるステップと、
ii.画素化検出器を用いて、少なくとも1つのトレーニング材料の観察X線画像を得るステップと、
iii.少なくとも1つのトレーニング材料ごとに、シミュレータ内部の可変パラメータに関してシミュレートされた散乱カーネルのデータベースをシミュレータ内に構築するステップと、
iv.観察画像のパラメータとシミュレータにより作成された画像のパラメータを比較し、シミュレータへの入力パラメータを識別するステップであって、シミュレータへの入力パラメータは、識別されたシミュレータの入力パラメータと、サンプルの種類および厚さとは無関係な観察画像のパラメータとの間の伝達関数を生み出すステップと、
v.伝達関数を生成するステップと、
vi.画素化検出器を用いて、少なくとも1つのトレーニング材料に類似する少なくとも1つの材料を含有するサンプルの観察X線画像を得るステップと、
vii.サンプルに含有される材料の種類および/または厚さの初期推定を行うステップと、
viii.複数の空間的に分離されたサンプル上の点の各々から検出器の各画素まで、サンプルの材料および厚さがあたかもステップviiiの推定に対応するかのように、サンプルに対して光線経路トレースを遂行するステップと、
ix.光線経路トレースの広がり関数に対応する散乱カーネルを散乱カーネルデータベースから得て、
x.散乱カーネルごとに散乱を合計して、画像全体の散乱推定を提供して、
xi.散乱カーネルごとに直接放射線を予測して、
xii.散乱推定および直接放射線に伝達関数を適用して、または観察強度値に逆伝達関数を適用して、
xiii.Zが観察強度値であり、Sが伝達関数適用後の散乱放射線であり、Dが伝達関数適用後の直接放射線である場合、Z-S-D<しきい値の計算を遂行して、
xiv.Z-S-D<しきい値である場合、ZからSを減算して、散乱のないデータおよび/または散乱のない画像を提供するステップと
を備えるX線画像化方法が提供される。
【0017】
好ましくは、ステップiiiで構築された散乱カーネルのデータベースは、少なくとも1つのトレーニング材料ごとに、シミュレータ内部の可変パラメータすべての部分集合に関して構築される。
【0018】
ステップiiiの可変パラメータは:kV、濾過、およびサンプルの場所からなるグループから選択され得る。
【0019】
有利には、画素化検出器を用いてX線画像を得るステップは、検出器の各画素で強度値を記録するステップを備える。
【0020】
初期推定(ステップviii)は:ステップviiから得られる個々の画素または画素グループに関連する強度値;トレーニング材料のデータベースに含有される材料および材料の厚さに関係がある統計値;ランダムな推測;別のシステムから得られる、材料の種類および厚さの情報のうち1つに基づき得る。
【0021】
散乱カーネルデータベースを得るステップは:散乱カーネルデータベース内のいくつかの散乱カーネルから、ある1つの散乱カーネルをエミュレートするステップ;散乱カーネルデータベースから得られる散乱カーネルの間を補間するステップ;および散乱カーネルを選択するステップのうち1つを備える。
【0022】
散乱カーネルデータベースは、疎にデータを加えられ得る、そして散乱カーネルは、疎にデータを加えられた散乱カーネルデータベース内の点からエミュレートされ、それらの点の間で補完される。
【0023】
X線画像化方法は、散乱放射線を、散乱放射線がまるで直接放射線であったかのうように散乱のないデータに戻して付け加えて、強化された散乱のないデータおよび/または強化された散乱のない画像を提供するステップをさらに含み得る。
【0024】
散乱のないデータは、材料の種類および/または材料の厚さの情報を備え得る。
【0025】
本方法の好ましい特徴はまた、本明細書の記述および図面に提示されている。
【0026】
本発明の第2の様態によれば、X線源、画素化X線検出器、シミュレータ、およびデータプロセッサを備えるX線画像化装置が提供され、データプロセッサは、本発明の第1の様態のX線画像化方法の少なくともステップii~ステップvを遂行するように構成される。
【0027】
データプロセッサは、本発明の第1の様態のX線画像化方法の少なくともステップvi~ステップxivを遂行するように構成され得る。
【0028】
本発明の第3の様態によれば、X線源、画素化X線検出器、シミュレータ、およびデータプロセッサを備えるX線画像化装置が提供され、データプロセッサは、本発明の第1の様態のX線画像化方法の少なくともステップvi~ステップxivを遂行するように構成される。
【0029】
装置の好ましい特徴はまた、本明細書の記述および図面に提示されている。
【0030】
本発明の第4の様態によれば、本発明の第2の実施形態または第3の実施形態のX線画像化装置と、1組の少なくとも1つのトレーニング材料とを備えるX線画像化システムが提供され、1組は、異なる材料、および/またはその材料の、もしくは各材料の異なる厚さを備える。
【0031】
本発明の方法、装置、およびシステムは、X線画像化データから散乱を除去するための散乱線除去グリッドを必要としない。散乱の除去は、本発明の第1の様態により達成される。さらに、本方法は、サンプルの厚さを測る必要がない。
【0032】
図面では、本発明の好ましい実施形態を例によって示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1a】本発明の装置の一実施形態を示す。
図1b】本発明の装置の一実施形態を示す。
図2図1aおよび図1bに示す本発明の実施形態の動作方法を示す流れ図である。
図3a図1aおよび図1bに示す本発明の実施形態の動作方法を示す別の流れ図である。
図4】v kVの濾過のための妥当と思われる設定を示すグラフである。
図5】アルミニウムおよびPMMAに関する伝達関数のグラフである。
図6】サンプルと検出器の間の光線経路トレーシングを示す。
図7】実施例1で使用するファントムの例示である。
図8】散乱補正なし、および散乱補正ありの、図7のファントムのX線画像、およびX線画像に関する強度ヒストグラムを示す。
図9図8のX線画像から得られる線輪郭を示す。
図10a】本発明の方法を用いた、散乱補正後の大腿骨頸部のX線画像を示す。
図10b】散乱線除去グリッドを用いた、散乱補正後の大腿骨頸部のX線画像を示す。
図11】本発明の方法を用いて散乱に関して補正された画像と、散乱線除去グリッドを用いて散乱に関して補正された画像の間の画質差を示す、図10aおよび図10bの画像に対応するヒストグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1aおよび図1bは、本発明の一実施形態による装置1を示す。X線源2は、検出器3と一直線に合わせられる。
【0035】
図1aは、被検材料5に入射するX線光子に起きることを示す。X線源2から放出されたX線光子mの中でも、X線光子の一部m’は、被検材料5をまっすぐ通過して、検出器3に衝突し、これらのX線光子は、「直接放射線」を表し、一部は吸収され、一部のX線光子nは散乱される。
【0036】
散乱X線光子nは、望ましくない。本発明のこの実施形態により、図1aに示す散乱X線光子nを画像から除去して、散乱X線光子nに関連する直接放射線m’に対する疑似直接放射線n’として再割り当てすることができるようになる。その結果、図1bに示すように、検出器3に衝突するX線光子から得られる、検出器3の任意の1画素出力は、直接放射線m’および再割り当てされた疑似直接放射線n’を備える。これにより、コントラストが高まり、したがって、検出器3により生成される画像内のコントラスト対雑音比は増大し、さらにまた、散乱X線光子nは、散乱線除去グリッドを用いる場合とは違って除去されるのではなく、X線光子が、散乱されていなければ相互作用していた検出器の空間的位置で出力信号に付け加えられるので、より望ましい画像が提供される。したがって、この結果は、画像コントラストを増強することになる。散乱を再割り当てするステップがなかったとしても、コントラストおよびコントラスト対雑音比は改善される。
【0037】
検出画像から散乱光子nを除去できるようにし、かつ散乱光子を疑似直接放射線n’として再割り当てすることが好ましい本発明の方法は、第1の構成要素および第2の構成要素を備える。第1の構成要素では、値のデータベースが作成され、これらの値は、第2の構成要素で分析され得る材料に類似する材料に関係がある。
【0038】
本発明の基礎となる仮説は、特定の材料、材料のグループ、および1つまたは複数の材料の異なる厚さに及ぼすX線光子の影響をシミュレートするとき、そのようなシミュレーションおよび観察X線画像が、基礎となる同じエネルギースペクトルを有する場合、シミュレーションを観察X線画像の表現として使用することができ、シミュレータから得られる情報を使用して行われるどんな処理も、あたかも観察X線画像から得られるかのように役に立つ。
【0039】
観察X線画像から得られるデータではなく、シミュレーションから得られるデータを使用する利点は、シミュレータでは、散乱放射線と直接放射線を分離することが可能であることである。
【0040】
方法の第1の構成要素-伝達関数の作成
トレーニング材料のグループを選択する。トレーニング材料は、本発明の装置および方法が提案する使用法で遭遇する材料であり得る、または本発明の装置および方法が使用される材料と比べて非常に類似する影響をX線光子に及ぼす材料であり得る。
【0041】
選択したトレーニング材料に関して、それらのさまざまな厚さに関して検出器3から観察X線データセットを得る。たとえば、PMMAの5つの異なる厚さおよびアルミニウムの5つの異なる厚さごとに、X線データセットを得られ得る。
【0042】
選択したトレーニング材料に関して可変の、シミュレータ内のパラメータすべてのサブセット(たとえば限定ではなく、kVの範囲、サンプルの場所、エアギャップの範囲、濾過の範囲)に関して、異なる材料、および異なる材料の異なる厚さの散乱パターンのデータセットをシミュレータ内に作成する。身体部位を画像化するためにX線装置を使用する一実施形態では、ポリマーポリメタクリル酸メチル(polymer polymethyl methacrylate、PPMA)およびアルミニウムを、それぞれ筋肉組織および骨組織によりX線光子がどのように影響を受けるかを表すとして使用し得る。
【0043】
材料の種類または材料の厚さに伴い、ランダム誤差の限界の範囲内で変わらない伝達関数に到達するために、検出器3の各画素の出力または検出器3の画素グループの出力(シミュレートされたパラメータのサブセットに対応するパラメータ、たとえばkVに関する)を、パラメータのサブセットに関する散乱パターンのデータセットと比較する。すなわち、検出器3の特定の画素または特定の画素グループの出力と、画素または画素グループの出力と最も厳密に一致する散乱パターンとの間に差があり得るが、その差は、乗数であり、材料の種類または材料の厚さに伴って変わらない。したがって、観察X線から得られるデータとシミュレータから得られるデータの間で選択されたパラメータに関する最も厳密な一致が、完全な一致である場合、伝達関数は1になる。観察X線から得られるデータとシミュレータから得られるデータの間で選択されたパラメータに関する最も厳密な一致が、シミュレーションから選択されたパラメータの値に2を乗算する必要のある別の事例では、伝達関数は2である。
【0044】
本方法の第1の構成要素では、アルゴリズムは、X線検出器から得られるデータの1つまたは複数のパラメータと、シミュレーションから得られるデータの同じ1つまたは複数のパラメータとの間で(ランダム誤差の範囲内で)一致に到達するまで、画素または画素グループごとに、可能性がある伝達関数を反復する。
【0045】
材料の種類および厚さが同一である場合でさえ、1つの画素または画素グループに関して演繹された伝達関数は、隣接する画素または画素グループに関して演繹された伝達関数と異なり得ることに留意されたい。X線源から生じるヒール効果(Heal effect)を考慮するために、画素ごとに、または画素グループごとに、伝達関数を演繹することが望ましい。明らかに、画素グループが検出器の画素をすべて備える場合、伝達関数は、すべての画素に共通になる。
【0046】
方法の第2の構成要素-新しいサンプルの散乱補正画像の生成
取込み前較正
本方法は、明視野画像および暗視野画像の集合体を伴う、X線源および検出器の取込み前補正を含み得る。
【0047】
画像取込および前処理
画素化検出器3により散乱物体のX線画像(Z)を取り込む。
【0048】
取り込んだ画像を、たとえば暗視野補正および明視野補正のために較正する。
【0049】
画像の副サンプルを取得し得る。このステップは、計算効率を促進し得る。
【0050】
散乱推定
ステップ1:散乱を推定する第1のステップでは、X線画像(Z)に基づき、散乱物体の材料の種類および厚さの初期推定を行う。この推定の基礎は、本発明の装置および方法が据え付けられる設備の種類に依存し得る。たとえば、初期推定は、個々の画素もしくは画素グループに関する強度値、トレーニング材料のデータベースに含有される材料および材料の厚さに関係がある統計値に基づき得る、しかしながらまたは初期推定は、ランダムな推測であり得る。
【0051】
ステップ2:第2のステップでは、サンプル(推定された材料の種類および厚さからなると仮定されるサンプル)の入射面の、選択された数の点の各1つから、画像内部のあらゆる画素または画素グループまで放射する各光線の光線経路トレースを遂行する。光線経路トレースを図6に示す。この光線経路トレースにより、(観察材料の種類および厚さが、推定された材料の種類および厚さと同じである場合)X線光子が通過した材料の種類および厚さの指示を明らかにすることができるようになる。
【0052】
図6から理解することができるように、x=1、y=0からP1に至る経路に従うX線光子は、厚さT1の材料を通過するのに対し、x=2、y=0から画素3(P3)に伸びる光線経路に従うX線光子は、厚さT2を有する材料を通過する。
【0053】
ステップ3:第3のステップは、推定された材料の種類および厚さにできるだけ近く対応する散乱カーネル、および光線経路ごとの広がり関数を得るステップを備える。散乱カーネルを得る1つの方法は、推定された材料の種類および厚さ、ならびに疎にデータを加えられた散乱カーネルデータベース内の点から得られる光線経路ごとの広がり関数をエミュレートすることによる。あるいは、光線経路トレースを、非常に大規模な散乱カーネルデータベース、および選択された厳密な一致と比較することができる。
【0054】
ステップ4:第4のステップは、S+DにZを近似する式で、シミュレートされた散乱放射線および直接放射線の値を使用することができるように、画素または画素グループごとに推定された散乱放射線および直接放射線に、画素または画素グループごとに事前に計算された伝達を適用するステップを備え、ここで、Zは、直接放射線Dと散乱放射線Sを合計した全放射である。当然のことながら、SおよびDに伝達関数を適用する代わりに、Zに逆伝達関数を適用することができる。理想的には、Z-S-Dはゼロに等しくなる。しかしながら、当業者に周知の、X線画像化システムの構成要素のランダムな性質のために、ZとS+Dの間に小さな差が必然的に存在する。したがって、本明細書では、Z-S-D<しきい値と表し、これは、しきい値が、X線画像化システムの構成要素により導入される許容範囲の組合せと著しく異なることがないことを意味する。
【0055】
シミュレートされたデータを観察データに対応させる工程は、具体化として知られる。
【0056】
上記の第1のステップで行った初期推測が正しい推測である場合、Z-S-D<しきい値になる。
【0057】
ステップ4a:このステップは、Z-S-Dの結果が0ではない場合だけ完了する、すなわち、初期推定は正しくなかったということであり、その可能性は高い。第1のステップから第4のステップは、各反復で、第1のステップで新しい初期推測を用いて反復する。新しい初期推定は、新しいランダムな推測、すなわち、これまでに使用されていない統計値、または別のシステムにより生成された材料の種類および厚さの推定であり得る。
【0058】
ステップ5:材料の種類および厚さの満足のいく推定、すなわち、Z-S-D<しきい値に到達すると、検出器3の各画素で、画素または画素グループごとにSの値を値Zから減算する。その結果は、補正された散乱のない画像Cである。
【0059】
ステップ6:任意選択のステップは、散乱のない画像Cに散乱放射線を、散乱放射線がまるで散乱されなかったかのようにではあるが、戻して付け加えるステップを備える。これについては、図1aおよび図1bに関連して上で記述されている。
【0060】
シミュレーションモデル
上記で言及するシミュレーションは、図3に示すシミュレーションモデルを使用して行われ、このシミュレーションモデルは、異なる材料および異なる材料の異なる厚さが、異なる材料の上にX線光子のペンシルビームが入射したときにどのように散乱するかをシミュレートする。
【0061】
多重画像検出器の1つの画素と一直線に合わせられたペンシルビームを使用することにより、光源と一直線に合わせられた画素に到達するX線光子が、大部分は「直接放射線」、または直接放射線の経路から非常に小さな角度を通って散乱された散乱放射線を表すこと、ならびに他の画素により検出されたすべてのX線光子が、入射するペンシルビームに由来する散乱X線光子であることを確信することができる。したがって、所与の厚さの任意の材料の固有の特徴の散乱パターンを確立することが可能である。同じ材料の異なる厚さに関してこの処理を繰り返すことにより、同じ材料の異なる厚さの固有の特徴のパターンを確立することができる。同様に、異なる材料および/またはこれらの材料の異なる厚さに関して処理を繰り返して、固有の特徴の散乱パターンのデータベースを構築することができる。
【0062】
物質を通過する粒子をシミュレートする、GEANT4と呼ばれるソフトウェアパッケージを使用して、X線ステムおよびX線物理学のモンテ・カルロ・モデルを作成した。このモデルを使用して、異なる材料および異なる材料の異なる厚さにX線光子のペンシルビームが入射する結果をシミュレートした。異なる材料および異なる材料の異なる厚さに関する結果を記録した。
【0063】
各散乱パターンは、図3aでグラフ1に示す形状に類似する形状を有する。散乱に関しては、この形状はまた、散乱カーネルとして公知である。任意の1つの散乱カーネルについて、ペンシルビームと一直線に合わせられていない検出器3の画素に入射するすべてのX線光子が表す散乱光子を識別することができる。したがって、画像内の直接放射線および散乱放射線を定量化することができる。画像から散乱放射線を除去して、直接放射線だけの画像を提供し得る。
【0064】
しかしながら、関心のある材料およびその材料の厚さすべてに関する固有の特徴の散乱カーネルのデータベースを作成し、使用するには、膨大なデータ記憶容量および非常に強力な処理能力を必要とする、またはあるいは、そのようなデータベースに記憶されたデータを使用するには、非常に時間がかかる。
【0065】
したがって、本発明のこの実施形態のモデルは、それ自体具体的にシミュレートされなかった材料と材料の厚さの組合せに関して散乱カーネルを導出するために、補間技法を使用する。補間の技法、およびこの実施形態でのエミュレーションは、それ自体新しくはない。
【0066】
図2は、本発明の処理がどのようにして、X線検出器3が記録したデータから散乱X線光子を除去して、散乱光子を疑似直接放射線として再割り当てする、散乱のない画像および/または強化された画像を作り出すかを示す流れ図である。
【0067】
図3aに示す流れ図は、図2に示す処理をより詳細に示し、詳細には、散乱のない画像をもたらす副ステップを示す。
【0068】
ステップ18で、トレーニング材料およびトレーニング材料の異なる厚さに及ぼすX線光子の影響をシミュレートする。
【0069】
ステップ19で、シミュレートされたトレーニング材料と、トレーニング材料の観察サンプルに及ぼすX線光子の影響の間のように、材料および厚さに対して不変の伝達関数を作成する。
【0070】
ステップ20で、トレーニング材料に類似する材料の新しいサンプルに関するデータを得て、そのデータは、検出器2の画素または画素グループごとに検出器2が記録するエネルギー強度の形をとる。
【0071】
ステップ21で、材料の種類および材料の厚さの第1の推定を行う。「材料」という用語は、材料の組合せを含む。たとえば、このステップの出力は、検出器2の中のある画素で識別された材料が、筋組織および骨組織であるということがあり得る。実際に、このステップ21の出力は、材料の識別および/または厚さの第1の推定である。第1の推定は、画素で記録された暗さに基づき得る、ランダムな推測であり得る、またはデータベース30内の情報に関係がある統計値であり得る。たとえば、第1の推測は、トレーニング材料のデータベースから得られる材料および厚さの中央値であり得る。以下に記述する例では、第1の推測は、5cmの50%PMMA/アルミニウムであった。
【0072】
図3aを参照すると、散乱カーネルのデータベース31から得られる推定された材料に関する散乱カーネルをステップ22aでエミュレートし、検出器2の画素または画素グループごとに、ステップ21で推定した材料に関する散乱カーネルをエミュレートする(導出する)。ステップ22bで、個々の散乱カーネルを一緒に畳み込む。散乱カーネルをこのように畳み込むことにより、図3でグラフ2に示す、画像に関する散乱推定として公知のものが形成される。グラフ2から理解することができるように、散乱推定で検出器の各画素に散乱値を関連づける。ステップ22cで、散乱推定、およびステップ22bで畳み込まれた散乱カーネルに関する直接放射線に、計算が遂行されている画素または画素グループに関する伝達関数を適用する。ステップ22dで、Z-S-D<しきい値の計算を行う。Z-S-D<しきい値である場合、収束が存在し、ステップ24’で散乱データを作成し、散乱のない画像、ならびに/または材料の種類および厚さの識別を作成し得る。
【0073】
ステップ24’で遂行した散乱のない画像、および材料識別のあり、またはなしで、散乱再割当てのステップ25を遂行し得る。ステップ22cの出力を散乱のない画像22dとして示し、散乱のない画像22dは、画像であり得る、または画像として表現し得る強度値であり得る。
【0074】
ステップ21で材料および厚さの第1の推測が正しくない場合、ステップ24で収束はまったく存在せず、材料および厚さの第1の推測ステップ21および後続のいくつかのステップを繰り返す。この繰返しを、ステップ22dでZ-S-D<しきい値となるまで行う。
【0075】
ステップ24で、散乱カーネルが、観察画像内の散乱と一致するかどうか、すなわち、Z-S-D<しきい値であるかどうかを判断する。答えがNOである場合、これはいくつかの反復では、こうなる可能性が高いが、Z-S-D<しきい値となるまで、ステップ21~ステップ24を反復する。答えがYESである場合、処理はステップ25まで移動し、ステップ25で、散乱を再割り当てして再割り当てされた散乱を伴う画像を作り出す、または散乱を再割り当てせず散乱のない画像を作り出す。
【0076】
材料識別および/または厚さを表す値は、コントラスト、散乱カーネル、散乱推定などを含み得る。
【0077】
散乱の影響が低減されれば、ステップ23の材料識別は、収束後の散乱のない画像24’により表される、より正確な結果を作り出すことができる。
【0078】
ステップ21~ステップ24を、Z-S-D<しきい値となるまで再び反復する。
【0079】
ステップ24の後に散乱のない画像出力を取得し得る、または処理は、ステップ25まで移動し得る。
【0080】
ステップ25では、出力は、除去された散乱放射線を、除去された散乱放射線のX線光子が散乱されていなければ相互作用していた検出器の空間的位置で、出力信号に付け加えることにより、散乱を再割り当てした画像である。再割当てステップ25の結果を、ステップ25’で再割り当てされた画像により表す。
【実施例1】
【0081】
1.36cmのアルミニウムの挿入物を伴う7.6cmのPMMA塊を備えるサンプルから撮った画像から散乱を除去した。
【0082】
3mmのアルミニウム濾過、80kV、5mAのタングステン管、およびRayence社製検出器を伴うGE社製医療システムを備えるX線画像設備を使用して、観察X線画像を得た。
【0083】
サンプルを表す材料の具体化トレーニングセットは、厚さが5cmの5つのPMMA板および厚さが1cmの5つのアルミニウム板を備えていた。
【0084】
以下の手法でX線画像化設備を使用して、材料のトレーニングセットの画像を撮った。
【0085】
PMMAについては、トレーニングセットの中の厚さが5cmの1つのPMMA板を備えるサンプルに関して第1のX線画像を得た。トレーニングセットの中の厚さが5cmのPMMA板をもう1つ付け加えるたびに、第2の画像、第3の画像、第4の画像、および第5の画像を撮った。
【0086】
アルミニウムについては、トレーニングセットの中の厚さが1cmの1つのアルミニウム板を備えるサンプルに関して第1のX線画像を得た。トレーニングセットの中の厚さが1cmのアルミニウム板をもう1つ付け加えるたびに、第2の画像、第3の画像、第4の画像、および第5の画像を撮った。
【0087】
上に記述した「オフライン」処理を続けた。1.5mm濾過および76kVのシミュレータ設定は、材料および厚さに対して不変の伝達関数を作り出した。図4および図5を参照のこと。1.5mm濾過および76kVに設定されたシミュレータを用いて、ヒール効果を考慮するために検出器の個々の画素に関して、空間的に相違する伝達場を、すなわち、1組の空間的に相違する伝達関数を生成した。
【0088】
トレーニング材料に似た材料を含有する観察サンプルの開始のX線画像を撮って、ダウンサンプリングしており、ダウンサンプリングは、計算効率を増大させるが、本質的ではない。
【0089】
サンプル内の物質の第1の推定を行った。データベースから得られる中央値の材料および厚さを使用し、それは、50%のPMMAおよび50%のアルミニウムを備える5cmの厚さの材料であった。
【0090】
上に記述したステップ1~ステップ4aを、Z-S-D<しきい値となるまで繰り返した。
【0091】
図7は、全体の厚さが7.6cm、および厚さが1.36cmのアルミニウムを有するPMMA/Alファントムの画像を示す。
【0092】
散乱線除去グリッドが存在しないファントムに関して、図8に示すX線画像を撮った。図8の最下部にある強度ヒストグラムは、散乱による歪みを強調している。それにより、広い非対称のピークが得られる。散乱補正後の第2の画像は、より幅が狭く、より対称的な分布を伴う平坦な画像をもたらす。
【0093】
2つの画像に関するコントラスト範囲を、C1およびC2で画定される範囲までウインドウ処理することにより、本発明の散乱低減方法を適用した後の画像の改善を示す。得られた画像は、基になるサンプルのはるかに近い表現であり、コントラストをはるかにより効果的にウインドウ処理することができる。
【0094】
ファントムのシミュレーション、および存在する材料の知識を使用して、Monte Carlo truthから、完全に散乱補正された画像がどのように見えるかを決定することが可能である。完全に散乱補正された画像は、図9に示され、本発明の散乱低減方法が、完全な散乱補正の限界事例に忠実な補正画像をもたらすことを例証している。
【0095】
本発明の散乱低減方法は、散乱を予測して、補正するために、材料情報の決定に依存する。したがって、最終的に収束した解は、補正されたX線画像と、材料組成および厚さのマップの両方を作り出す。アルゴリズムがもたらす組成および厚さは、真の値の数パーセントの範囲内にある。
【実施例2】
【0096】
図10aおよび図10bに示す画像は、本発明の方法による散乱補正後の大腿骨頸部(図10a)、および比較のために散乱線除去グリッドを伴う大腿骨頸部(図10b)からなる。Rayence社製1417Csl検出器を伴うGE社製VMX Plus携帯型X線システムでこれらの画像を撮った。
【0097】
6.4mAおよび75kVの等価なビーム設定、および光源から検出器までの距離115cmで、図10aおよび図10bを撮った。図10aの画像は、散乱線除去グリッドに関連する吸収損失を欠点として持たず、検出器での線量は、患者への線量がたとえ同じであったとしても、図10aよりも著しく高いことを意味する。画像全体にわたり信号対雑音比(signal to noise ratio、SNR)を比較すると、散乱線除去グリッドよりも本発明の散乱低減方法を使用するほうが利益が大きいことが示される。図10aの画像は、画像をさらにまた改善することになる疑似直接放射線として散乱放射線を戻して付け加えるステップを含まなかったことに留意されたい。
【0098】
図11は、図10aおよび図10bの2つの画像にわたるSNRのヒストグラムを示す。本発明の散乱低減方法は、散乱線除去グリッドが存在する状態で撮った画像と比較したとき、画像全体にわたりSNRの改善を示す。この改善は、グリッド内部の鉛の羽根に関連する画像アーチファクトの低減と相まって、散乱線除去グリッドを除去することによる、より高い検出器線量に関係がある。
【0099】
ASGからの改善の概要を表1に示す。
表1:ASGを使用することに対する検出器線量およびSNRの改善の概要
【0100】
【表1】
【0101】
SNRの改善を利用して、診断画質を高める、または患者の線量を低下させることができる。本発明の散乱低減方法を使用して、依然として同じ画質をもたらす一方で、ほぼ係数2だけ患者線量を低減することが可能になると推定される。
【0102】
材料情報と相まって線量またはSNRを改善することにより、散乱線除去グリッドを使用するシステムよりも、利用可能なX線をはるかに多く利用する方法がもたらされる。
図1a
図1b
図2
図3a
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10a
図10b
図11