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特許7185248送風機の状態監視システム及び空気調和装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】送風機の状態監視システム及び空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F04D 27/00 20060101AFI20221130BHJP
   F24F 11/52 20180101ALI20221130BHJP
   F24F 11/75 20180101ALI20221130BHJP
   F25B 49/02 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
F04D27/00 Q
F04D27/00 F
F04D27/00 H
F24F11/52
F24F11/75
F25B49/02 570A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017057902
(22)【出願日】2017-03-23
(65)【公開番号】P2018159348
(43)【公開日】2018-10-11
【審査請求日】2019-09-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】594185097
【氏名又は名称】伸和コントロールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】小 森 浩 史
(72)【発明者】
【氏名】川 里 浩 之
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】田合 弘幸
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-81693(JP,A)
【文献】特開2016-211780(JP,A)
【文献】特開2009-293908(JP,A)
【文献】特開平6-86449(JP,A)
【文献】特開2003-75034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 27/00-27/02
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風機に電力供給を行うインバータと、
前記インバータの電力供給状態に基づき前記送風機の状態を監視する状態監視装置と、を備え、
前記インバータは、所定の風量範囲内で前記送風機に設定される設定風量に対応する電力供給条件で前記送風機に電力供給を行い、
前記状態監視装置は、設定された設定風量で運転される前記送風機の所定期間の運転中に前記インバータから前記送風機に供給される電流のピーク値を前記インバータが前記送風機に供給する電流から特定するピーク値特定部と、前記ピーク値特定部が前記ピーク値を特定した後、前記ピーク値よりも大きい値を閾値として決定する閾値決定部と、前記送風機の運転開始から計時される待機期間の終了後に、前記ピーク値特定部に前記ピーク値の特定処理を実行させる移行制御部と、前記設定された設定風量で前記送風機が運転され、前記送風機へ供給される電流が前記閾値以上となり、閾値以上の電流が一定の期間継続した際に、前記送風機に異常が生じた旨の警告を報知する報知部と、を有し、
前記ピーク値特定部は、前記移行制御部が前記送風機の運転開始から計時される前記待機期間の終了を確認した後、前記ピーク値の特定処理を実行し、前記送風機に設定された設定風量に対応する電力供給条件で前記送風機に供給される電流の値が所定範囲を超えることなく、前記送風機が設定風量で連続的に運転されている前記送風機の前記所定期間の運転中に、前記インバータが前記送風機に供給する電流から前記ピーク値を特定する、ことを特徴とする送風機の状態監視システム。
【請求項2】
前記閾値は、前記ピーク値に所定係数を乗算して決定され、前記所定係数は、1.05~1.15である、ことを特徴とする請求項1に記載の送風機の状態監視システム。
【請求項3】
前記インバータは、前記送風機における負荷変動によらず、前記送風機に設定された設定風量に対応する電力供給条件により規定される電圧及び周波数で前記送風機に電力供給を行う、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の送風機の状態監視システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された送風機の状態監視システムを備える、空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風機の状態監視システム及び方法、並びに空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送風機によって通流させた空気を温調及び湿調して所望の空間に供給する空気調和装置が知られている(例えば特許文献1参照)。このような空気調和装置の用途として、半導体製造設備の温調及び湿調を挙げることができる。半導体製造設備のクリーンルームには、例えば、フォトリソグラフィ用のレジストをウェハに塗布するための装置が設置される場合がある。このような装置によって塗布されるレジストの厚みは、温度及び湿度の変化に応じて変化し、この厚みの変化は、製品にばらつきを生じさせる。そのため、半導体製造設備では、通常、このようなレジストを空気調和装置によって所望の温度及び湿度に制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-63242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような空気調和装置が半導体製造設備に用いられる際には、例えば数年間等の長期間にわたる運転をノーメンテナンスで実施することが求められる場合がある。しかしながら、使用環境や運転状態によっては、不意に構成部品に異常が発生する。特に空気を通流させるための送風機が故障した際には、半導体製造設備における製造条件が急激に変化し得るため、製造中の製品に多大な影響が生じ、著しく歩留まりが低下する虞がある。
【0005】
本件発明者は、送風機の故障の前兆を簡易に精度良く検出することにより、上述のような不所望な状況の発生を未然に回避或いは抑制できるようにすれば、半導体製造設備の空調において新規且つ極めて有用な価値を提供できるものと確信し、鋭意研究の結果、本発明に想到した。本発明は、送風機の故障の前兆を示す異常を簡易に精度良く検出することができる送風機の状態監視システム及び方法、並びに空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、送風機に電力供給を行うインバータと、前記インバータの電力供給状態に基づき前記送風機の状態を監視する状態監視装置と、を備え、前記インバータは、所定の風量範囲内で前記送風機に設定される設定風量に対応する電力供給条件で前記送風機に電力供給を行い、前記状態監視装置は、設定された設定風量で運転される前記送風機の所定期間の運転中に前記インバータから前記送風機に供給される電流のピーク値を特定するピーク値特定部と、前記ピーク値よりも大きい値を閾値として決定する閾値決定部と、前記送風機へ供給される電流が前記閾値以上となった際に、前記送風機に異常が生じた旨の警告を報知する報知部と、を有する、ことを特徴とする送風機の状態監視システム、である。
【0007】
本発明によれば、所定期間にわたり正常な状態で運転された送風機への供給電流のピーク値をピーク値特定部により特定することができる。そして、このピーク値よりも大きい電流値を閾値決定部により閾値として決定し、この閾値を、送風機に異常に生じたことを判定するための指標にすることができる。このように決定した閾値を用いて送風機に供給される電流に基づく異常の検出を実施できるため、正常な運転で生じ得る電流上昇や送風機の個体差に起因する電流のばらつき等が異常として検出されることを除外することが可能となる。また専用のセンサを用いることなく、異常検出を実施することができる。これにより、簡易に精度良く異常を検出することができる。
具体的には例えば、電流が正常の範囲を超えた場合に生じている虞がある送風機における軸受の固着の開始や、送風機における異物の巻き込み等の発生を精度良く検出できるようになる。軸受の固着の開始等により送風機の負荷が増加した場合には、インバータから送風機に供給される電流の値が増加する。この現象は、モータ、特に交流モータにおけるすべりの増大により生じる。このような電流増加を、上述のように決定された閾値によって検出することで、軸受の固着の開始等の異常を精度良く検出できるようになる。
【0008】
本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記ピーク値特定部は、前記送風機に設定された設定風量に対応する電力供給条件で前記送風機に供給される電流の値が所定範囲を超えることなく、前記送風機が設定風量で連続的に運転されている際に、前記ピーク値を特定する、ようになっていてもよい。
【0009】
この構成によれば、実際に正常に運転されている送風機に供給された電流から閾値の基準となるピーク値を特定することが可能となり、閾値の信頼性を向上させて、異常検出の信頼性を高めることができる。
【0010】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記状態監視装置は、前記送風機の運転開始から計時される待機期間の終了後に、前記ピーク値特定部に前記ピーク値の特定処理を実行させる移行制御部をさらに有していてもよい。
【0011】
この構成によれば、送風機の運転直後の不安定な状態でピーク値が特定されないように、移行制御部によりピーク値特定部の処理を制限することで、特定されるピーク値の信頼性を向上させることができる。
【0012】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記移行制御部は、前記待機期間をユーザの操作に応じて設定する、ようになっていてもよい。
【0013】
この構成によれば、ユーザが例えば自身の経験に基づき送風機の運転状態が十分に安定したと見做すことができる期間を待機期間として任意に決定できることで、使い勝手を向上させることができる。
【0014】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記移行制御部は、前記送風機に供給される電流の最大値と最小値との差が所定範囲内に入った際に、前記待機期間が終了したものと判定する、ようになっていてもよい。
【0015】
この構成によれば、送風機の運転状態が十分に安定したことを精度良く判定することができる。
【0016】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記閾値決定部は、ユーザの選択に応じて、前記閾値をユーザの操作により決定するマニュアルモード、又は、前記閾値を自動で決定するオートモードを設定し、設定されたモードに応じて前記閾値を決定する、ようになっていてもよい。
【0017】
この構成によれば、ユーザが例えば自身の経験に基づき閾値を決定したり、作業負担を軽減するべく自動で閾値を決定するモードを選択したりすることができるため、使い勝手を向上させることができる。
【0018】
また本発明による送風機の状態監視システムは、前記マニュアルモード又は前記オートモードを選択するための操作画面、及び、前記マニュアルモードにおいて前記閾値を決定するための操作画面を表示する表示装置をさらに備えていてもよい。
【0019】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記閾値は、前記ピーク値に所定係数を乗算して決定され、前記所定係数は、1.05~1.15であってもよい。
【0020】
この構成によれば、早い段階で送風機の異常を検出でき、とりわけ送風機の軸受の固着の初期状態を精度良く判定できることを、本件発明者は実験的に見出した。
【0021】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記報知部は、前記ピーク値を特定する際の前記送風機の設定風量と同一の設定風量で運転されている前記送風機への電流が前記閾値以上となった際に、前記送風機に異常が生じた旨の警告を報知する、ようになっていてもよい。
【0022】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記所定期間は、5分間以上10分間以下の範囲で設定されてもよい。
【0023】
この構成によれば、信頼性の高いピーク値を過剰に処理時間を長くすることなく特定することができ、信頼性の高い閾値を効率的に決定できることを、本件発明者は見出した。
【0024】
また本発明による送風機の状態監視システムにおいて、前記インバータは、前記送風機における負荷変動によらず、前記送風機に設定された設定風量に対応する電力供給条件により規定される電圧及び周波数で前記送風機に電力供給を行う、ようになっていてもよい。
【0025】
また本発明は、インバータからの電力供給により駆動される送風機の状態を前記インバータの電力供給状態に基づき監視する送風機の状態監視方法であって、前記インバータは、所定の風量範囲内で前記送風機に設定される設定風量に対応する電力供給条件で前記送風機に電力供給を行うようになっており、当該送風機の状態監視方法は、設定された設定風量で運転される前記送風機の所定期間の運転中に前記インバータから前記送風機に供給される電流のピーク値を特定する工程と、前記ピーク値よりも大きい値を閾値として決定する工程と、前記送風機へ供給される電流が前記閾値以上となった際に、前記送風機に異常が生じた旨の警告を報知する工程と、を有する、ことを特徴とする送風機の状態監視方法、である。
【0026】
また本発明は、上記の送風機の状態監視システムを備える、空気調和装置、である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、送風機の故障の前兆を示す異常を簡易に精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施の形態にかかる空気調和装置の側面図である。
図2】上記空気調和装置に備えられた状態監視システムの概略構成図である。
図3】上記状態監視システムの一部のブロック図である。
図4】上記状態監視システムの動作の一例を説明するフローチャートである。
図5】上記状態監視システムの動作の一例を説明する時系列図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
(空気調和装置の構成)
図1は、本発明の一実施の形態にかかる空気調和装置1の側面図である。まず、空気調和装置1の構成について説明する。図1に示すように、空気調和装置1は、空気を通流させる空気通流路2と、空気通流路2に設けられた冷却器3、加熱器4及び加湿器5と、空気通流路2において空気を通流させるための駆動力を付与する送風機6と、送風機6から吐出される空気を受け入れた後に外部に流出させるためのチャンバ7と、を備えている。
【0031】
本実施の形態では、空気通流路2が、上下方向に沿って延びる管状の縦流路部21と、縦流路部21の上部に連通し当該上部から水平方向に沿って延びる管状の水平流路部22と、を有している。縦流路部21は、その下部に、水平方向に沿って開口する上流側開口21Aを設けられ、本実施の形態では、上流側開口21Aが、縦流路部21の内部から水平方向の一方側(図1の左方向)へ向けて開口している。
【0032】
上流側開口21Aは、縦流路部21の内部に空気を取り込むために設けられ、本実施の形態では、上流側開口21Aの外側に設けられたフィルタ装置23が、上流側開口21Aを覆っている。これにより、フィルタ装置23を通ってパーティクルを除去された空気が、上流側開口21Aから縦流路部21の内部に取り込まれることになる。また、水平流路部22は、縦流路部21側とは反対側の端部に、すなわち水平方向の他方側の端部に、下流側開口22Aを設けられ、下流側開口22Aを介して送風機6と連通している。
【0033】
冷却器3は、縦流路部21の下部内に設けられ、加熱器4は、縦流路部21の上部内に設けられている。冷却器3は、圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器が熱媒体を循環させるように当該順序で配管により接続された冷却回路における蒸発器であってもよい。また加熱器4は、電気ヒータ等であってもよいし、上述の冷却回路において高温となった熱媒体の一部を利用するものであってもよい。これら冷却器3及び加熱器4によって、空気通流路2内の空気が温度調節されることになる。また加湿器5は、水平流路部22に設けられ、空気通流路2内に蒸気を供給可能となっている。加湿器5は、例えば、上方に向けて水平流路部22の内部に開放した水を貯留する貯留槽と、当該貯留槽内の水を加熱するヒータと、を有し、ヒータによって蒸気の量を調節することで、空気通流路2内の空気の湿度を調節可能となっている。
【0034】
送風機6は、空気通流路2の下流側開口22Aに接続される吸込み口6Aを有するとともに、吸込み口6Aから吸い込まれた空気を吐出する吐出口6Bを有している。本例では、吐出口6Bが上方に向けられている。
【0035】
図2は、詳細は後述する空気調和装置1に備えられた状態監視システムSの概略構成図を示し、同図には、送風機6の内部構成も概略的に示されている。送風機6は、図2に示されるように、羽根車61と、羽根車61を収容し且つ上述の吸込み口6A及び吐出口6Bが設けられるケーシング部62と、羽根車61に駆動軸63Aを介して連結するモータ63と、駆動軸63Aを回転可能に支持する軸受64と、を有している。ここで、送風機6のモータ63には、インバータ30が電気的に接続され、インバータ30は、モータ63に電力供給を行うようになっている。本実施の形態におけるモータ63は、三相誘導モータであり、インバータ30からの電力供給によって駆動されることになる。なお、モータ63は三相誘導モータに限られるものではなく、例えば他の形式の交流モータであってもよい。
【0036】
送風機6は、所定の風量範囲内で設定される風量(以下、設定風量)で運転可能となっており、本実施の形態では、ユーザが、このような設定風量をインバータ30に電気的に接続されたタッチパネル41に表示される操作画面を操作することで任意に設定可能となっている。より詳しくは、ユーザは、所望の設定風量となるよう、インバータ30からモータ63に供給する電力の周波数をタッチパネル41上で設定し、これにより、インバータ30が、タッチパネル41上で設定された周波数及び設定風量を得るために必要な電圧でモータ63に電力供給を行い、モータ63を駆動するようになっている。本実施の形態では、上述のように設定される設定風量を得るためにインバータ30からモータ63に供給する電圧及びその周波数が、電力供給条件として予め定められている。このような電力供給条件は、例えばタッチパネル41内のメモリに予め記憶されていてもよい。
【0037】
送風機6がモータ63の駆動によって羽根車61を回転させた際には、空気通流路2の内部の空気をその内部に取り込んで、吐出口6Bからチャンバ7内へ吐出する。ここで、送風機6が空気通流路2の内部の空気を取り込むことで、外部の空気が、上流側開口21Aから空気通流路2の内部に取り込まれる。これにより、空気通流路2において空気が通流することになる。そしてチャンバ7は、送風機6の吐出口6Bから供給された空気を流出させるための流出口7Aを有している。送風機6の吐出口6Bから供給された空気は、流出口7Aから図中の矢印に示すように上方に向けて流出し、ダクト等を介してクリーンルームや所望の装置等に送られることになる。
【0038】
なお、本実施の形態におけるインバータ30は、送風機6における負荷変動によらず、送風機6に設定された設定風量に対応する電力供給条件により規定される基本的に一定の電圧及び周波数でモータ63に電力供給を行うようになっている。
【0039】
また図2に示すように、上述したタッチパネル41には、インバータ30の電力供給状態に基づき送風機6の状態を監視するための状態監視装置42が電気的に接続されている。本実施の形態では、状態監視装置42が、CPU、ROM、RAM等から構成される演算記憶ユニット40の一部の機能によって構成されている。この状態監視装置42と、タッチパネル41と、インバータ30とによって、本実施の形態における状態監視システムSが構成されるが、その詳細については後述する。
【0040】
なお、演算記憶ユニット40は、空気調和装置1の制御に関する種々の機能を有しており、例えば、空気調和装置1から供給する空気の目標温度及び目標湿度に応じて、冷却器3、加熱器4及び加湿器5の操作量を演算する機能等を有している。またタッチパネル41は、上述のように送風機6の設定風量を設定するための操作画面の他にも種々の操作画面を表示することができる。例えば、タッチパネル41は、送風機6の駆動開始及び停止を指示するための操作画面や、空気調和装置1から供給する空気の目標温度及び目標湿度を設定するための操作画面等を表示可能となっている。また、上述した状態監視装置42は、一部の機能として、送風機6の異常検出のために用いる「閾値」の決定処理を実施するが、タッチパネル41は、この「閾値」の決定処理のための操作画面も表示可能となっている。
【0041】
(状態監視システムの構成)
図2及び図3を参照しつつ状態監視システムSの構成について説明する。図2は、空気調和装置1に備えられた状態監視システムSの概略構成図であり、図3は、状態監視システムSの一部のブロック図である。本実施の形態にかかる状態監視システムSは、インバータ30と、タッチパネル41と、状態監視装置42と、を有して構成されている。
【0042】
図3に示すように、状態監視装置42は、ピーク値特定部51と、閾値決定部52と、報知部53と、移行制御部54と、を有している。ピーク値特定部51は、設定された設定風量で運転される送風機6の所定期間の運転中にインバータ30から送風機6に供給される電流のピーク値を特定するものである。閾値決定部52は、ピーク値特定部51により特定されたピーク値に所定係数を乗算して閾値を決定するものである。報知部53は、送風機6へ供給される電流が上記の閾値以上となった際に、送風機6に異常が生じた旨の警告を報知するものである。また移行制御部54は、送風機6の運転開始から計時される待機期間の終了後に、ピーク値特定部51にピーク値の特定処理を実行させるものである。
【0043】
本実施の形態では、ピーク値特定部51によるピーク値の特定処理及び閾値決定部52による閾値の決定処理が連続的に行われるようになっており、これらの処理は、タッチパネル41に表示される操作画面でユーザにより開始指示がなされることで開始され、このうち、まずピーク値の特定処理が開始される。ここで、本実施の形態にかかる状態監視システムSは、上記所定期間にわたり正常な状態で運転された送風機6への供給電流のピーク値をピーク値特定部51により特定し、このピーク値に基づき閾値を決定し、そして送風機6への供給電流が閾値以上となることをもって送風機6の異常の検出を行うために、構成されている。そのため、ピーク値特定部51は、正常な状態で運転されている送風機6に供給されている電流のピーク値を特定する必要がある。
【0044】
したがって、まず、本実施の形態におけるピーク値特定部51は、設定された設定風量に対応する電力供給条件で送風機6に供給される電流の値が所定範囲を超えることなく、送風機6が設定風量で連続的に運転されている際に、ピーク値を特定するように構成されている。具体的には、ピーク値特定部51は、その処理を開始した際に、送風機6への電流が正常と見做される例えば定格電流範囲である所定範囲(許容範囲)を超えており、明らかに何らかの異常が生じている場合には、その処理の続行を禁止するようになっている。これにより本実施の形態では、信頼性の低いピーク値が特定されることを防ぎ、その後、信頼性の低い異常検出が行われることを回避できるようになっている。なお、ピーク値とは、供給される電流において最大に振れた値を意味する。
【0045】
またピーク値特定部51は、正常な状態で運転された送風機6への供給電流のピーク値を特定するために、送風機6の運転開始後、ほどなく処理を開始することが好ましく、典型的には出荷後の最初の運転開始後に、ほどなく処理を開始することが好ましい。ただし、送風機6の運転開始直後は、電源の投入や空気調和装置1の他の構成部材の運転開始の影響等によって、送風機6への電流が安定しないことが多くある。そこで、本実施の形態では、上述の移行制御部54が、送風機6の運転開始から計時される待機期間の終了後に、ピーク値特定部51にピーク値の特定処理を実行させるようになっている。すなわち、移行制御部54は、送風機6の運転開始から計時される待機期間の終了前にピーク値の特定処理が行われることを制限している。これにより、上述と同様に、信頼性の低いピーク値が特定されることを防ぎ、その後、信頼性の低い異常検出が行われることを回避できるようになっている。
【0046】
より詳しくは、本実施の形態では、ピーク値特定部51によるピーク値の特定処理及び閾値決定部52による閾値の決定処理の開始指示がなされた際に、送風機6の運転期間が上述の待機期間を超えていない場合には、移行制御部54の制限によって、ピーク値の特定処理が待機期間終了後に開始されるようにする。この際、タッチパネル41上には、例えば「待機期間終了後に、ピーク値の特定を開始します。」といった表示を行ってもよい。また、ピーク値特定部51によるピーク値の特定処理及び閾値決定部52による閾値の決定処理の開始指示がなされた際に、送風機6が運転されておらず、送風機6の運転期間が上述の待機期間を超えていない場合にも、移行制御部54の制限によって、ピーク値の特定処理が待機期間終了後に開始されるようにする。この際には、タッチパネル41上に「送風機6の運転開始後の待機期間終了後に、ピーク値の特定を開始します。」といった表示を行ってもよい。一方で、ピーク値特定部51によるピーク値の特定処理及び閾値決定部52による閾値の決定処理の開始指示がなされた際に、送風機6の運転期間が上述の待機期間を超えている場合には、ピーク値の特定処理が直ちに開始されてもよい。また、この際に、タッチパネル41上に、「ピーク値の特定を直ちに開始しますか?YES/NO」といった表示を行ってもよい。
【0047】
またピーク値特定部51が送風機6への電流を監視する上記の所定期間は、任意に設定可能であるが、本件発明者は、鋭意実験の結果、当該所定期間は、5分間以上10分間以下の範囲で設定されることが好ましいことを見出した。この範囲で所定期間が設定される場合、信頼性の高いピーク値を過剰に処理時間を長くすることなく特定することができ、信頼性の高い閾値を効率的に決定できることを、本件発明者は見出している。
【0048】
また移行制御部54の待機期間も、ユーザの操作に応じて任意に設定可能であるが、本件発明者は、鋭意実験の結果、当該待機期間は、25分間以上35分間以下の範囲で設定されることが好ましいことを見出している。この範囲で待機期間が設定される場合、送風機6の電力供給状態が十分に安定することで、信頼性の高いピーク値を過剰に処理時間を長くすることなく特定することができ、信頼性の高い閾値を効率的に決定できるようになる。なお、本実施の形態では、待機時間が任意に設定されるが、移行制御部54は、送風機6に供給される電流の最大値と最小値との差が所定範囲内に入った際に、待機期間が終了したものと判定してもよい。この場合、送風機6の運転状態が十分に安定したことを精度良く判定することができる。
【0049】
また閾値決定部52は、ピーク値特定部51によってピーク値が特定された後にその処理を開始するようになっている。閾値決定部52は、ユーザの選択に応じて、閾値をユーザの操作により決定するマニュアルモード、又は、閾値を自動で決定するオートモードを設定し、設定されたモードに応じて閾値を決定するようになっている。本実施の形態では、ピーク値特定部51によるピーク値の特定処理及び閾値決定部52による閾値の決定処理の開始指示がなされた際に、タッチパネル41上に、マニュアルモード又はオートモードを選択するための操作画面が表示され、この際に、ユーザによってモードが選択される。
【0050】
マニュアルモードが設定されている場合、ピーク値特定部51によってピーク値が特定された後、タッチパネル41上に閾値を決定するための操作画面が表示される。操作画面には、例えば、ピーク値の数値と、これに乗算する所定係数の入力欄が表示される。この場合、ユーザは、所定係数の入力欄に数値を入力することで、閾値が決定されることになる。一方で、オートモードが設定されている場合には、ピーク値特定部51によってピーク値が特定された後、自動で閾値が決定され、直ちに電流と閾値との関係を監視する処理が開始される。
【0051】
ここで、本件発明者は、鋭意実験の結果、ピーク値に乗算する所定係数は、1.05~1.15であることが好ましいことを見出している。このような値は、送風機6の型式、特にモータの型式や出力によって変動し得るため、特に限られるものではない。なお、閾値は、ピーク値よりも大きい値に設定する必要があるため、所定係数は、少なくとも1.00より大きい値とされる。
【0052】
そして報知部53は、閾値の決定後に運転されている送風機6へ供給される電流が閾値以上となった際に、送風機6に異常が生じた旨の警告を報知する。より詳しくは、ピーク値を特定する際の送風機6の設定風量と同一の設定風量で運転されている送風機への電流が閾値以上となった際に、送風機6に異常が生じた旨の警告が報知される。警告は、例えば、タッチパネル41上で行ってもよいし、警告音を発することで行ってもよい。また本実施の形態では、警告を報知した後、タッチパネル41上に、警告を停止するか否かをユーザに選択させるための操作画面が表示される。ここで、警告の停止が選択された場合には、一定の期間の間、警告の報知が停止されるようになっている。
【0053】
(状態監視システムの動作)
次に、図4及び図5を参照しつつ状態監視システムSの動作の一例について説明する。図4は、状態監視システムSの動作の一例を説明するフローチャートであり、図5は、状態監視システムSの動作の一例を説明する時系列図である。
【0054】
本実施の形態における状態監視システムSの動作は、ピーク値特定部51によるピーク値の特定処理及び閾値決定部52による閾値の決定処理の開始指示がユーザによりなされた際に開始される。この際、まず、ステップS1において、閾値決定部52が、タッチパネル41に、マニュアルモード又はオートモードをユーザに選択させるための操作画面を表示し、ユーザによってモードが選択される。
【0055】
次いでステップS2において、移行制御部54が、送風機6が運転開始済みであるか否かを検出する。ここで、運転開始前である場合には、運転開始が確認されるまで待機する。この際、タッチパネル41上に「送風機6の運転開始後の待機期間終了後に、ピーク値の特定を開始します。」といった表示を行ってもよい。これにより、ユーザに送風機6の運転開始を促してもよい。そして、運転開始済みが検出された場合には、ステップS3の処理が行われる。
【0056】
ステップS3では、移行制御部54が、送風機6の電力供給状態が安定するまでの期間である待機期間が終了しているか否かを検出する。ここで、待機期間の終了前である場合には、待機期間の終了が確認されるまで待機する。この際、タッチパネル41上に、例えば「待機期間終了後に、ピーク値の特定を開始します。」といった表示を行ってもよい。そして、待機期間の終了が検出された場合に、ステップS4におけるピーク値の特定処理が行われる。なお、ステップS3に移行直後に既に待機期間が終了している場合には、直ちにステップS4の処理が行われてもよいし、またタッチパネル41上に「ピーク値の特定を直ちに開始しますか?YES/NO」といった表示を行って、開始指示(YES)が操作された際に、ステップS4の処理が行われてもよい。
【0057】
そしてステップS4においては、ピーク値特定部51が、設定された設定風量で運転されている送風機6の所定期間の運転中にインバータ30から送風機6に供給される電流のピーク値を特定する。次いでステップS5において、閾値決定部52が、ピーク値特定部51によって特定されたピーク値に所定係数を乗算して閾値を決定する。
【0058】
次いでステップS6において、報知部53が、送風機6へ供給される電流が閾値以上となるか否かを監視する。そして電流が閾値以上となった場合に、ステップS7において、閾値以上の電流が一定の期間継続しているか否かが監視され、一定の期間の継続が確認された場合、ステップS8で報知部53は、送風機6に異常が生じた旨の警告を報知する。一方、閾値以上の電流が一定の期間継続しなかった場合には、ステップS6に戻り、電流の監視が継続される。
【0059】
その後、本実施の形態では、ステップS9において報知部53が、タッチパネル41上に、警告を停止するか否かを選択させるための操作画面を表示する。ここで、警告の停止が選択された場合には、ステップS10において、一定の期間だけ警告が停止され、ステップS11において、一定の期間の経過が確認されると、ステップS6で、電流が閾値以上となるか否かを監視する処理が再び行われる。一方で、ステップS9において警告の停止が選択されない場合には、警告が報知されたままとなる。
【0060】
上述の状態監視システムSの動作の流れが、図5の時系列図に概略的に示されている。図5に示すように、本実施の形態にかかる状態監視システムSでは、送風機6の電力供給状態が安定するまでの期間である待機期間が終了するまで、ピーク値の特定が行われない。そして、待機期間終了後に、ピーク値を特定するためのピーク値特定期間を経て、閾値決定処理が行われる。そして、その後の通常運転において、閾値以上の電流が送風機6に供給されたことが検出されると、異常発生が判定され、警告が報知されることになる。
【0061】
以上に説明した本実施の形態によれば、所定期間にわたり正常な状態で運転された送風機6への供給電流のピーク値をピーク値特定部51により特定することができる。そして、このピーク値よりも大きい電流値を閾値決定部52により閾値として決定し、この閾値を、送風機6に異常に生じたことを判定するための指標にすることができる。このように決定した閾値を用いて送風機6に供給される電流に基づく異常の検出を実施できるため、正常な運転で生じ得る電流上昇や送風機6の個体差に起因する電流のばらつき等が異常として検出されることを除外することが可能となる。また専用のセンサを用いることなく、異常検出を実施することができる。これにより、簡易に精度良く異常を検出することができる。
【0062】
具体的には例えば、電流が正常の範囲を超えた場合に生じている虞がある送風機6における軸受64の固着の開始や、送風機6における異物の巻き込み等の発生を精度良く検出できるようになる。軸受64の固着の開始等により送風機6の負荷が増加した場合には、インバータ30から送風機6に供給される電流の値が増加する。この現象は、モータ、特に交流モータにおけるすべりの増大により生じる。本実施の形態では、このような電流増加を、上述のように決定された閾値により検出することで、軸受64の固着の開始等の異常を精度良く検出できるようになる。
【0063】
またピーク値特定部51は、送風機6に設定された設定風量に対応する電力供給条件で送風機6に供給される電流の値が所定範囲を超えることなく、送風機6が設定風量で連続的に運転されている際に、ピーク値を特定するようになっている。これにより、実際に正常に運転されている送風機6に供給された電流から閾値の基準となるピーク値を特定することが可能となり、閾値の信頼性を向上させて、異常検出の信頼性を高めることができる。
【0064】
また移行制御部54が、送風機6の運転開始から計時される待機期間の終了後に、ピーク値特定部51にピーク値の特定処理を実行させる。これにより、送風機の運転直後の不安定な状態でピーク値が特定されないように、ピーク値特定部51の処理を制限することで、特定されるピーク値の信頼性を向上させることができる。
【0065】
また移行制御部54は、待機期間をユーザの操作に応じて設定する。これにより、ユーザが例えば自身の経験に基づき送風機6の運転状態が十分に安定したと見做すことができる期間を待機期間として任意に決定できることで、使い勝手を向上させることができる。
【0066】
また閾値決定部52は、ユーザの選択に応じて、閾値をユーザの操作により決定するマニュアルモード、又は、閾値を自動で決定するオートモードを設定し、設定されたモードに応じて閾値を決定する。これにより、ユーザが例えば自身の経験に基づき閾値を決定したり、作業負担を軽減するべく自動で閾値を決定するモードを選択したりすることができるため、使い勝手を向上させることができる。
【0067】
また閾値決定部52が閾値の決定の際にピーク値に乗算する所定係数は、1.05~1.15であることが好ましい。この場合、早い段階で送風機6の異常を検出でき、とりわけ送風機6の軸受の固着の初期状態を精度良く判定できることを、本件発明者は実験的に見出している。
【0068】
一方で、ピーク値特定部51がピーク値を特定する際に、送風機6に供給される電流を監視する期間である所定期間は、5分間以上10分間以下の範囲で設定されることが好ましい。この場合、信頼性の高いピーク値を過剰に処理時間を長くすることなく特定することができ、信頼性の高い閾値を効率的に決定できることを、本件発明者は見出している。
【0069】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、上述の実施の形態には、種々の変更を加えることができる。例えば、上述の実施の形態では、空気調和装置1の送風機6を状態監視システムSにより監視したが、当該システムSの適用分野は特に限られるものではない。また上述の実施の形態では、閾値決定部52が、閾値をピーク値に所定係数を乗算して決定するが、閾値がピーク値よりも大きい値になるのであれば、その決定方法は特に限られるものではなく、ユーザがピーク値を確認した上で、手動で任意の閾値を決定できるようなインタフェースを提供してもよい。また、本実施の形態では、各種の操作画面を表示する表示装置がタッチパネル41であるが、その他の表示装置であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…空気調和装置、6…送風機、30…インバータ、40…演算記憶ユニット、41…タッチパネル、42…状態監視装置、51…ピーク値特定部、52…閾値決定部、53…報知部、54…移行制御部、63…モータ、63A…駆動軸、64…軸受、S…状態監視システム
図1
図2
図3
図4
図5