IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タイカの特許一覧

特許7185253水圧転写方法及びこの方法に用いられる活性剤
<>
  • 特許-水圧転写方法及びこの方法に用いられる活性剤 図1
  • 特許-水圧転写方法及びこの方法に用いられる活性剤 図2
  • 特許-水圧転写方法及びこの方法に用いられる活性剤 図3
  • 特許-水圧転写方法及びこの方法に用いられる活性剤 図4
  • 特許-水圧転写方法及びこの方法に用いられる活性剤 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】水圧転写方法及びこの方法に用いられる活性剤
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/175 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
B44C1/175 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018064802
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019171758
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】田島 友章
(72)【発明者】
【氏名】亀井 隆一
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-338334(JP,A)
【文献】特開平11-114093(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142000(WO,A1)
【文献】特開平08-039610(JP,A)
【文献】特開昭64-047476(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106515290(CN,A)
【文献】特開平06-040198(JP,A)
【文献】特開2017-177571(JP,A)
【文献】特開2013-000893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0037538(US,A1)
【文献】特開2007-185926(JP,A)
【文献】特表平08-502301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/16-1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性基体フィルムと前記水溶性基体フィルムの上に形成された伸展性の加飾層とから成る水圧転写フィルムを水圧転写槽の水面に配置し、前記水圧転写フィルムに物品を押し当て、前記物品の表面に前記加飾層を水圧転写する方法において、エンボス表面付き金属薄膜小片材料を含有する活性剤を用いて前記水圧転写フィルムの加飾層を膨潤伸展し、この際に前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料を前記加飾層に付着し及び/又は前記金属薄膜小片材料の少なくとも一部を前記加飾層に入り込んで前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料によって前記転写された加飾層に光輝性を付与する水圧転写方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水圧転写方法であって、前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、金属薄膜に積層された樹脂薄膜を含んでいる水圧転写方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水圧転写方法であって、前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、前記活性剤中の金属薄膜小片材料を除く成分100重量部に対して0.5~5重量部含有している水圧転写方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の水圧転写方法であって、前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、表面の長手方向の最大長さが80μm以下の寸法を有する水圧転写方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の水圧転写方法であって、前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、1.0~2.0の比重を有する水圧転写方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水圧転写方法であって、前記活性剤は、溶剤型活性剤又は前記加飾層を溶解する光重合性モノマーを含む紫外線硬化型活性剤である水圧転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属調、メッキ調、ホログラム調等の光輝性を付与する加飾層(転写層)を水圧転写によって形成する方法及びこの方法に用いられる水圧転写フィルムを活性化する活性剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の表面を加飾する技術において、従来の顔料系、染料系のインクや塗料による印刷又は塗装による加飾に代えて又は加えて、金属や金属酸化物等の薄膜形成による光輝性を物品の表面に付与する技術が多岐に渡って実施されている。
【0003】
このような光輝性意匠を得るために、従来から行われているスパッタ処理に代えて水圧転写処理による加飾技術が開発されている。この水圧転写による光輝性加飾技術は、水圧転写フィルム(水圧転写シートと称されることもある)に金属層を含む加飾層を有するものが用いられ、必要に応じて加飾層にエンボス加工が施されており、その典型的な技術が特開2013-000893号公報(特許文献1)及びWO2016/088702号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された技術は、水溶性基体フィルム上に順次施された転写調整層と金属薄膜層とを含み、この転写調整層と金属薄膜層との間にエンボス加工によって凹凸模様が形成されている水圧転写フィルムを用いている。この水圧転写フィルムを用いて物品上に水圧転写すると、物品上にホログラム効果を有する加飾層が形成される。しかし、水圧転写フィルムの金属層は、水湿潤性を有しないため、水圧転写フィルムが水で湿潤する際に、金属層に不均一なクラックが発生し、加飾層が物品の立体的な表面への追従性や意匠性を低下し、また、金属層のクラックの発生パターンは、エンボス(凹凸)のピッチや深さに応じて変化するため、エンボスのピッチや深さを制御してクラックの均一性を実現しようとすると、エンボスに起因する光輝性の意匠作用(例えばホログラム効果等)の設計の自由度が制限される場合がある。
【0005】
特許文献2は、これを改善するために考案されたものであり、この特許文献2に開示された加飾技術は、水溶性基体フィルムとこの水溶性基体フィルムの上に形成された少なくとも非伸展性加飾層(例えば、金属層)と伸長性加飾層(例えば、印刷層)とを含む水圧転写フィルムを用いるが、水圧転写フィルムが水面に着水する前に、水圧転写フィルムの非伸展性加飾層は、その厚み方向に複数の事前クラックを形成する技術である。非伸縮性加飾層に事前クラックを形成すると、水圧転写フィルムの伸展を均一に行うことができると共に、活性剤が事前クラックを介して伸展性加飾層である印刷層を確実に活性化することができ、従って物品表面への付き回り性と光輝性とを向上しつつ高い意匠性の加飾層を水圧転写することができる。
【0006】
しかし、特許文献1,2の加飾技術は、いずれも転写フィルムの膨潤伸展が不十分であるか、この伸展を制御することが必要となり、それに加えて所望の光輝性を得るために、その都度、水圧転写フィルムの加飾層自体を調整しなければならないので、種々の光輝性を有する加飾物品を得るためには、多種の異なる水圧転写フィルムを準備する必要があることから生産性が低く、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-000893公報
【文献】WO2016/088702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、光輝性を調整するために、異なる多種の水圧転写フィルムを用意することなく、種々の光輝性を得ることができる光輝性加飾層の水圧転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題解決手段は、水溶性基体フィルムと前記水溶性基体フィルムの上に形成された伸展性の加飾層とから成る水圧転写フィルムを水圧転写槽の水面に配置し、前記水圧転写フィルムに物品を押し当て、前記物品の表面に前記加飾層を水圧転写する方法において、エンボス表面付き金属薄膜小片材料を含有する活性剤を用いて前記水圧転写フィルムの加飾層を膨潤伸展し、この際に前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料を前記加飾層に付着し及び/又は前記金属薄膜小片材料の少なくとも一部を前記加飾層に入り込んで前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料によって前記加飾層に光輝性を付与する水圧転写方法を提供することにある。
【0010】
本発明の課題解決手段において、前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、金属薄膜に樹脂薄膜が積層されて形成されているのが好ましい。
【0011】
本発明の課題解決手段において、前記エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、前記活性剤中の金属薄膜小片材料を除く成分100重量部に対して0.5~5重量部含有しているのが好ましい。
【0012】
本発明の課題解決手段において、前記エンボス付き金属薄膜小片材料の表面の長手方向の最大値が80μm以下であるのが好ましい。
【0013】
本発明の課題解決手段において、前記エンボス付き金属薄膜小片材料は、1.0~2.0の比重を有するのが好ましい。
【0014】
本発明の課題解決手段において、前記活性剤は、溶剤型活性剤であってもよいし、加飾層を溶解する光重合性モノマーを含む紫外線硬化型活性剤であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加飾層に光輝性を付与する材料は、従来技術(特許文献1及び2)のように、水圧転写フィルム側ではなく、水圧転写時に、この水圧転写フィルムを活性化する活性剤中にあるので、従来技術では得ることができない下記の効果を達成することができる。
(1)水圧転写フィルムの膨潤伸展性の向上
特許文献1、2による従来技術のように、光輝性を付与するために水圧転写フィルム側に金属層を含んでいると、金属層にクラックが生じないと、転写フィルムの膨潤伸展が困難であるため、光輝性加飾層を得るために良好な水圧転写を行うことができないが、本発明によれば、水圧転写フィルム側には加飾層の膨潤伸展を妨げる金属層を設ける必要がないので、転写フィルムの膨潤伸展を円滑に行うことができるため、光輝性加飾層を良好な水圧転写によって得ることができる。
【0016】
(2)転写フィルム側での膨潤伸展を促進する作業の不要(作業性、経済性の向上、その1)
特許文献2の従来技術のように、水圧転写フィルムの金属層に事前クラックを形成することによって活性剤がこの事前クラックを介して伸展性加飾層を膨潤伸展する場合には、事前クラックを形成する工程が必要となって作業性が低下するが、本発明は、転写フィルムに金属層を必要としない、従って、事前クラックの形成を必要としないので、光輝性加飾層を高い作業性と経済性で得ることができる。
【0017】
(3)活性剤の塗布前の準備作業の不要又は低減(作業性、経済性の向上、その2)、
光輝性を付与するエンボス表面付き金属薄膜小片材料は活性剤中に均一に分散していることが望ましいが、エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、比較的比重が低いので、この材料を活性剤の主成分に混入した後の材料の沈降降下が遅く、活性剤を攪拌する作業が不要であるか、攪拌作業は僅かでよく、この面からも高い作業性と経済性を得ることができる。特に、この沈降防止の傾向は、エンボス表面付き金属薄膜小片に樹脂薄膜が積層されている場合に、顕著である。
【0018】
(4)加飾層の光輝性の調整の容易性
従来技術では、光輝性を付与する金属層は、エンボス加工のパターンを変えて光輝性を調整するため、エンボス加工のパターンが異なる複数の水圧転写フィルムを個別に作成する必要があるが、本発明は、活性剤中のエンボス表面付き金属薄膜小片材料の配合割合や活性剤の塗布量を変えることによって加飾層の光輝性を容易に調整することができる。また、エンボス加工された金属層が形成された水圧転写フィルムを用いる従来技術は、エンボス加工のパターンは、一定であるので、視認の方向性が一定となるため、方向によっては視認性が低いが、本発明によれば、エンボス表面付き金属薄膜小片材料は、活性剤中でランダムに分散しているので、視認の方向性が不定となり、視認性が等方的に向上するとともに、金属薄膜小片材料のランダムなホログラム効果と水圧転写された加飾層とが融合した従来にない独特な光輝性加飾層が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の方法が適用される水圧転写方法の概要説明図である。
図2】本発明の方法に用いられる水圧転写フィルムの拡大断面図である。
図3】本発明の方法によって光輝性加飾層を物品に水圧転写する工程を示す概略断面図である。
図4】本発明の方法によって光輝性加飾層を物品に水圧転写する工程を示す概略断面図である。
図5】本発明の方法に用いられるエンボス表面付き金属薄膜小片材料の異なる形態の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水圧転写方法を図面を参照して詳細に述べると、図1示すように、本発明は、水溶性基体フィルム(キャリアフィルム)21上に印刷層の如き活性剤によって膨潤伸展する伸展性の加飾層22を有する水圧転写フィルム20(図2参照)をその供給源20Sから供給ロール20Rによって繰り出して、物品10と共に水圧転写槽30の水30W内に押込んで、水圧転写フィルム20の加飾層22を物品10の表面に水圧転写して加飾層(転写層)20Tを形成する(図3(C)、(D)、図4参照)。活性剤は、水圧転写フィルム20に任意の方法で水圧転写フィルム20に塗布することができるが、典型的には、図1に示すように、水圧転写フィルム20が着水する前に供給ロール20Rの手前のスプレー塗布式又はローラ塗布式の活性剤塗布装置40によって塗布される。なお、活性剤は、水圧転写フィルムが着水した後にスプレー塗布してもよい。
【0021】
水圧転写フィルム20の水溶性基体フィルム21は、水を吸収して膨潤して軟化し伸展する、例えば、ポリビニルアルコールを主成分とする水溶性材料から成っている。この水溶性基体フィルム21は、水圧転写時に、転写槽30内の水30Wに触れて軟化し加飾されるべき物品に付き回って、水圧転写を行うことができるようにする。
【0022】
水圧転写フィルム20の伸展性の加飾層22は、後に述べるように、インキ、塗料によって形成された模様等の印刷層の如く、活性剤によって溶解又は軟化して水圧転写時に伸展することができる加飾層である。この加飾層22は、水溶性基体フィルム21の上にグラビア印刷その他の適宜の印刷手段によって形成される。
【0023】
水圧転写フィルム20の加飾層22は、物品10に絵柄、色を付与する印刷層22Pから成っており、この印刷層22Pは、水圧転写フィルムの保管の目的で、活性剤が塗布されるまでは乾燥された状態になっており、活性剤が塗布された後はこの活性剤によって溶解又は軟化して接着性が回復されると共に伸展し易くなる。印刷層に用いられるインクは、従来の水圧転写フィルムに用いられているものと同じものとすることができる。なお、この印刷層22Pは、模様、文字、記号等の他に無地(無模様)の印刷層も含む。
【0024】
本発明の方法は、図3(A)に示すように、水圧転写フィルム20を活性化するために、エンボス表面付き金属薄膜小片材料(以下単に金属薄膜小片と略称することもある)52を含有する活性剤50を用いて水圧転写フィルム20の加飾層22を湿潤伸展し、この際にエンボス表面付き金属薄膜小片材料52が加飾層22に付着し及び/又は前記金属薄膜小片材料の少なくとも一部を前記加飾層に入り込ませてエンボス表面付き金属薄膜小片材料52によって加飾層22に光輝性を付与することにある。このように、エンボス表面付き金属薄膜小片材料52が付着し及び/又は前記金属薄膜小片材料の少なくとも一部が前記加飾層に入り込んだ(図4参照)加飾層22を有する水圧転写フィルム20を用いて図3(B)に示すように、加飾層22が物品10に水圧転写されると、物品10の表面に光輝性の加飾層20Tが付着される。
【0025】
活性剤50が溶剤系である場合、図3(C)に示すように、加飾層22に化学的、機械的に保護するために、加飾層22の上に化学的、機械的保護層として機能するトップコート60が施されるが、活性剤50が加飾層20を溶解する機能を有する光重合性モノマーを含む紫外線硬化型樹脂から成っている場合には、紫外線硬化型樹脂が加飾層22内に浸透して加飾層22に化学的、機械的保護機能が付与されるので、図3(D)に示すように、トップコートを必要としない。なお、以後、紫外線硬化型樹脂が一体化した加飾層22を符号22Mで表示する。
【0026】
なお、図3の例では、金属薄膜小片52が水圧転写フィルム20の加飾層22の上に整然と配列されているが、金属薄膜小片52は、従来技術(特許文献2)の水圧転写フィルム20の金属層のように平面的ではなく、活性剤50内で多層化されるので、視認性の方向が多様化した高度の光輝性を発揮することができるが、図4に示すように、金属薄膜小片52は、平面的、立体的にランダムに分散することもでき、この場合にも同様の高度の光輝性を発揮することができる。
【0027】
このように、活性剤50は、活性化(溶解)の機能を有する主成分と金属薄膜小片52とを含んで構成されているが、これを更に以下に詳細に述べる。
【0028】
活性化に寄与する主成分は、活性剤が溶剤系である場合には、活性剤は、樹脂分と溶剤分と可塑剤分とを必須成分として含む組成物であることが好ましく、これは公知の溶剤系活性剤に用いられる組成物とすることができる。また活性剤が光硬化系である場合には、活性剤は、加飾層22を溶解する機能を有する光重合性モノマーを必須成分として含む組成物であることが好ましく、公知の光硬化性活性剤に用いられる組成物とすることができる。
【0029】
本発明に用いられる金属薄膜小片52の幾つかの形態が図5に示されている。以下に、それぞれについて詳細に説明する。
【0030】
図5(A)に示されている金属薄膜小片52Aは、その典型的な例であり、金属薄膜52Mをエンボス加工して表面にのみエンボス52eを有する。この形態の金属薄膜小片52は、典型的には、ホロパウダーとして市販されているものである。この金属薄膜小片52Aに用いられる金属としては、例えば、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、金、錫、亜鉛、黄銅、ステンレスの如き金属単体又は合金、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素の如き金属酸化物を用いることができる。
【0031】
図5(B)乃至図5(E)に示されている金属薄膜小片52B乃至52Eは、金属薄膜52Mに樹脂製の薄膜(以下樹脂薄膜と称する)52Pを積層して形成された形態のものである。金属薄膜52Mに積層するのに適当な樹脂は、典型的には、ポリエチレンテレフタラート(PET)であるが、これに限定はされない。また、この樹脂薄膜52Pは、裏面からも金属薄膜52Mを視認できるように透明であることが好ましい。
【0032】
図5(B),(C)及び(E)の金属薄膜小片52B、52C、52Eは、金属薄膜52Mが樹脂薄膜52P内に埋め込まれた形態であるが、図5(D)に示された金属薄膜小片52Dは、樹脂薄膜52Pの上に金属薄膜52Mが積層された形態である。いずれの形態も、金属薄膜52M及び樹脂薄膜52Pにエンボス加工が施されているが、図5(B)、(D)及び(E)の金属薄膜小片52B、52D及び52Eは、表面にのみエンボスが施され、裏面は平坦になっており、図5(C)の金属薄膜小片52Cのみが表裏両面にエンボスが施されている。
【0033】
金属薄膜小片52は、活性剤50内で必ずしも表面と裏面とが同じ向きで分散しているわけではないため、活性剤50を水圧転写フィルム20に塗布した場合に、エンボス面が水圧転写後に物品の表面側になるとは限らないので、図5(C)のように、両面にエンボス面があるのが好ましい。
【0034】
また、図5(B)乃至(E)に示すように、樹脂薄膜52Pが積層されていると、金属薄膜小片52の比重が調整され、また、樹脂薄膜52Pは、その材質を適宜選択することにより水圧転写後に金属薄膜小片52を有する加飾層Tと物品10との接着性(密着性)を向上させることができる。更に、樹脂薄膜52Pの厚みによって加飾層Tの光輝性を調整することができる。また、樹脂薄膜52Pによって金属薄膜小片52の表面が帯電しやすくなるので、活性剤を静電型のスプレーによって塗布する場合に活性剤を細かくミスト化され塗工性が向上する。
【0035】
金属薄膜小片52が金属のみから成っている場合には、例えば、金属箔を形成した後、型押し又はレーザー加工等によって、この金属箔にエンボス加工を施してエンボス金属箔を形成し、そのエンボス金属箔を粉砕することによって形成することができる。
【0036】
(金属薄膜小片の寸法)
金属薄膜小片52は、表面の長手方向の最大値が80μm以下の寸法を有することが好ましいが、50μm以下の寸法を有することが一層好ましく、30μm以下の寸法を有するのが最も好ましい。表面の長手方向の最大値が80μmを超えると、物品10と転写された光輝性加飾層20Tとの密着性が低下したり、トップコート60(図3(C))の平滑性が保てなくなることがある。なお、金属薄膜小片52の表面の長手方向の下限値は、エンボスによる光輝性が失われない程度であればよく、具体的には、エンボス間隔以上であればよい。この寸法範囲とすることによって、活性剤の塗工性を確保し、物品10と光輝性加飾層20Tとの密着性やトップコート60の平滑性を確保しつつも水圧転写後の光輝性加飾層20Tに所望の光輝性を付与することができる。
【0037】
(金属薄膜小片の比重)
金属薄膜小片52は、1.0~2.0の範囲の比重を有するのが好ましく、これは、活性化に寄与する主成分の比重に応じて設定される。金属薄膜小片52の比重がこの範囲であると、活性剤中で金属薄膜小片52の沈降や浮遊による分離が起こりにくいため、活性剤塗工時のムラが生じ難く、水圧転写後の光輝性加飾層20Tの光輝性を安定して得ることができる。
【0038】
(金属薄膜小片の配合割合)
活性剤50中の金属薄膜小片52の配合割合は、活性剤50中の金属薄膜小片材料以外の成分100重量部に対して0.5~5重量部であることが好ましい。この配合割合が0.5重量部未満であると十分な光輝性が得られ難い場合があり、5重量部を超えると、活性剤50の塗工性の低下や、物品10と光輝性加飾層20Tとの密着性が低下する場合があるため、この割合の範囲が好ましいのである。
【0039】
活性剤50は、本発明の効果を損なわない範囲で、体質顔料、レベリング剤、艶消し剤の如き公知の添加物を添加してもよい。
【0040】
以下に、本発明の幾つかの具体的な実施例を以下の表1を参照して詳細に述べる。
【0041】
【表1】
【0042】
表1は、19の実施例を示し、いずれの実施例も、活性剤の塗布方法(活性化方法)を除いて図1の形態で実施された。いずれの実施例でも、活性剤の塗工条件は、下記の通りであった。
(a)活性剤塗工量:12g/m2
(b)活性化(溶解)方法
A:ロールコーター塗布 (図1参照)
B:静電スプレー塗布
(c)被転写物:100mm×200mm×厚さ3mmのユーエムジー・エービエス株式会社製ABS樹脂製の平板
(d)トップコート:藤倉化成株式会社製「RECRACK 7000クリヤー」をスプレー塗布(溶剤系活性剤を用いた実施例1乃至17)
(e)紫外線硬化型UV活性剤系の硬化条件
Aタイプメタルハライドランプ(ジーエス・ユアサパワーサプライ社製、MAN800NL)を用いて、ピーク強度が300mW/cm、積算光量が2300mJ/cm
【0043】
(活性剤)
実施例1乃至17は、溶剤型の活性剤(株式会社タイカ製 溶剤型活性剤CPA-H)を用い、実施例18,19は、紫外線硬化樹脂型の活性剤(大橋化学工業株式会社製 商品名「ユービックSクリアー33-N2」を用いた。
【0044】
(金属薄膜小片)
実施例1乃至11及び18、19は、樹脂層が積層された金属薄膜小片が配合された活性剤を用い、実施例12乃至17は、樹脂層を有しない金属薄膜小片が配合された活性剤を用いた。樹脂層を有する金属薄膜小片は、いずれも、株式会社十条ケミカル製の樹脂層付アルミニウム箔COLOSER-PRISMを粉砕して形成したが、実施例1では、COLOSER-PRISM#315,実施例2乃至8及び18,19ではCOLOSER-PRISM#500,実施例9では、COLOSER-PRISM#256,実施例10、11ではCOLOSER-PRISM#375が用いられた。全ての実施例において、金属薄膜小片の寸法は、表面の長手方向の長さの最大値を示し、同じく全ての実施例において、金属薄膜小片の配合量は、活性剤の溶解機能を有する成分に対する配合割合を重量部で表してしている。各実施例における寸法、比重及び配合量は、表の各実施例に相応する欄に記載された通りであった。
【0045】
図6の表の評価の欄に記載されたそれぞれの特性は、下記の基準で評価した。
1.活性剤の塗工性
被転写物に、各実施例の活性剤を相応するA又はBの方法で塗布し、金属薄膜小片の沈降状態に起因した塗工ムラの発生の有無を目視で確認した。この塗工性は、金属薄膜小片が10分を超えても沈降することなく塗工ムラが発生しなかった場合を「良」(「〇」で表示)と評価し、10分以内に沈殿して塗工ムラが発生した場合を「不可」と評価した。
2.加飾層(転写層)20Tの光輝性
各実施例によって得られた水圧転写品の加飾層(転写層)のカラーシフト発現状態を目視で確認し、金属薄膜小片によるカラーシフトに加えて加飾層全面でカラーシフトが発現した場合を「優良」(「○」で表示)と評価し、金属薄膜小片のカラーシフトのみが発現した場合を「良」(「△」で表示)と評価し、カラーシフトが発現しなかった場合を「不可」と評価した。なお、溶剤系活性剤を用いて水圧転写した場合は、トップコートを施した状態で評価し、紫外線硬化系活性剤を用いた場合は、トップコート無しの状態で評価した。
3.トップコート平滑性
加飾層(転写層)にトップコートを形成した各実施例1乃至17の水圧転写品については、トップコート表面における金属薄膜小片由来の凹凸の有無を目視で評価し、50mm四方の領域中の凹凸の個数が、0の場合を「優良」(「◎」で表示)と評価し、1~9個の場合を「良」(「〇」で表示)と評価し、10~19個の場合を「可」(「△」で表示)と評価し、20個以上の場合を「不可」と評価した。
4.物品と転写層との密着性
各実施例で得られた水圧転写品の加飾層(転写層)に、1mm間隔で格子状に切込を入れて1mm□の正方形のマス目を100個形成したのち、マス目を形成した領域において、セロテープ(登録商標)(ニチバン製)を用いて、クロスカット試験(旧JIS K5400-8.5準拠)で剥離状態を観察し、密着性を評価した。この場合、クロスカット試験後に加飾層(転写層)の剥がれたマス目が無い場合を「良」(「○」で表示)と評価し、マス目の一部が剥がれた場合を「可」(「△」で表示)と評価し、1個以上のマス目が剥がれた場合を「不可」と評価した。なお、溶剤系活性剤を用いて水圧転写した場合は、トップコートを施した状態での評価とし、紫外線硬化系活性剤を用いた場合は、トップコート無しの状態での評価とした。
【0046】
表1の評価結果から、いずれの実施例でも、全ての特性(評価項目)において「不可」と評価されることがなく、良好な効果が得られることが解る。以下、評価項目毎に結果の詳細を説明する。
(1)活性剤の塗工性
全ての実施例において「良」であった。なお、静電スプレー塗布による活性化方法(B)を用いた実施例12、15、16においては、活性剤中の金属薄膜小片は、樹脂層を有していないので、樹脂層を有する金属薄膜小片に比べて導電性が高いため、樹脂層を有する金属薄膜小片を含む活性剤を静電スプレー塗布した他の実施例に比べて、問題がない程度ではあるが塗布ミストが粗くなる傾向があった。このように、活性剤塗布ムラが生じると、塗布ミストが細かい場合よりも転写した加飾層の意匠の質が低下し、また金属薄膜小片の分布が不均一になってホログラム効果も不均一になる。従って、制電スプレー塗布の場合には、樹脂層を有する金属薄膜小片を用いるのが好ましいことが解る。
(2)優れた光輝性
実施例2、12、13を除いて、光輝性が「優良」又は「良」であったが、実施例2、12、13の光輝性が「可」であった。実施例2、12、13が他の実施例に比べて劣るのは、実施例2は、活性剤中の金属薄膜小片の配合量が少なく光輝性の効果が減じているためであり、実施例12,13は、金属薄膜小片の最大長さが他の実施例の金属薄膜小片よりも小さく、エンボスによる光輝性(ホログラム効果)が弱くなったためである。
(3)溶剤型活性剤の実施例で用いられるトップコートの平滑性
実施例10、11、16、17を除いてトップコートの平滑性が「優良」又は「良」であった。実施例10、11、16、17では「可」であったが、他の実施例よりも劣るのは、活性剤中の金属薄膜小片の最大長さが他の実施例の金属薄膜小片よりも大きいため、転写された加飾層の表面に凹凸が形成された部分が生じ、この凹凸がトップコートに反映されて平滑性が低下したためである。
(4)転写層の物品への密着性
実施例7、8、10乃至16を除いて、物品への密着性が「優良」又は「良」であった。実施例7,8,10乃至16では、「可」であったが、他の実施例よりも劣るのは、実施例7、8は、活性剤中の金属薄膜小片の配合量が多いためであり、実施例10,11は、金属薄膜小片の最大長さが大きいためである。また、実施例12乃至16は、前記理由に加えて、金属薄膜小片が樹脂層を有していないので密着性が低下しているためである。
【0047】
本発明によれば、上記のように、水圧転写フィルムには加飾層に光輝性を付与する材料を設けることなく、水圧転写時に、この水圧転写フィルムを活性化する活性剤中に光輝性の付与作用を有するエンボス表面付き金属薄膜小片材料を含有したので、水圧転写フィルムの膨潤伸展を確実に行うことができ、光輝性加飾層を得るための水圧転写を良好に行うことができる。
【0048】
また、従来技術における水圧転写フィルム側に光輝性付与のための金属層を有する場合のように、事前クラックを形成する工程を必要としないので、光輝性加飾層を高い作業性と経済性で得ることができる。
【0049】
更に、光輝性を付与するエンボス表面付き金属薄膜小片材料は、比較的比重が低いので、この材料を活性剤の主成分に混入した後の材料の沈降降下が遅く、活性剤を攪拌する作業が不要であるか、攪拌作業は僅かでよく、高い作業性と経済性を得ることができる。既に述べたように、この沈降防止の傾向は、エンボス表面付き金属薄膜小片に樹脂薄膜が積層されている場合に、顕著に表れる。
【0050】
更に、エンボス表面付き金属薄膜小片材料52は、活性剤50中でランダムに分散しているので、視認の方向性が不定となり、いずれの方向からも光輝性を良好に視認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、加飾層に光輝性を付与する材料を水圧転写フィルム側ではなく、活性剤中に含有するので、光輝性付与材料を水圧転写側に設ける場合の欠点を解消し、水圧転写の作業性及び経済性が向上し、高い産業上の利用性を有する。
【符号の説明】
【0052】
10 物品
20 水圧転写フィルム
21 水溶性基体フィルム(キャリアフィルム)
20S 供給源
20R 供給ロール
20T 加飾層(転写層)
21 水溶性基体フィルム(キャリアフィルム)
22 伸展性の加飾層
30 水圧転写槽
30W 水
40 活性剤塗布装置
50 活性剤
50A 乾燥固化した活性剤
50B 紫外線硬化した活性剤
52、52A乃至52E エンボス表面付き金属薄膜小片材料(金属薄膜小片)
52M 金属薄膜
52P 樹脂膜
52e エンボス
60 トップコート

図1
図2
図3
図4
図5