IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルマ・マテール・ストゥディオルム・ウニベルシータ・ディ・ボローニャの特許一覧

特許7185278改変糖タンパク質Bを有するヘルペスウイルス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】改変糖タンパク質Bを有するヘルペスウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/38 20060101AFI20221130BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20221130BHJP
   C07K 14/03 20060101ALI20221130BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20221130BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C12N15/38
C12N15/31
C12N15/62 Z
C12N7/01 ZNA
C07K14/03
C07K7/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K35/763
A61P31/00
A61P35/00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2018564214
(86)(22)【出願日】2017-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2017063944
(87)【国際公開番号】W WO2017211941
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】16173830.7
(32)【優先日】2016-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514027872
【氏名又は名称】アルマ・マテール・ストゥディオルム・ウニベルシータ・ディ・ボローニャ
【氏名又は名称原語表記】ALMA MATER STUDIORUM UNIVERSITA DI BOLOGNA
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】マリア ガブリエラ カンパデリ
(72)【発明者】
【氏名】ビルヤナ ペトロビッチ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-532039(JP,A)
【文献】特表2011-522532(JP,A)
【文献】国際公開第2007/027774(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/130749(WO,A2)
【文献】PLOS Pathog., 2014, Vol.10, Issue 9, e1004373 (pp.1-16)
【文献】J. Virol. Methods, 2002, Vol.105, pp.13-23
【文献】PLOS Pathog., 2015, Vol.11, Issue 5, e1004907 (pp.1-18)
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci., 2007, Vol.104, No.32, pp.13140-13145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドを備える組み換えヘルペスウイルスであって、
a)前記異種ポリペプチドリガンドが、ヘルペスウイルスのエンベロープ内に存在する糖タンパク質B(gB)に挿入されており、
b)前記ヘルペスウイルスが、前記標的分子を発現させ又は結合させている細胞に、前記異種ポリペプチドリガンドを介して結合する能力を有し、
c)前記ヘルペスウイルスが、前記細胞に、前記異種ポリペプチドリガンドを介して侵入する能力を有し、
d)前記異種ポリペプチドリガンドが、配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子のエピトープを含むGCN4酵母転写因子の一部であり、
e)前記リガンドが、以下によって特徴づけられる:
e1)前記リガンドが、gBの不規則領域内における任意のアミノ酸に挿入されているが、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内若しくは相同gBの対応領域内におけるいずれのアミノ酸にも挿入されていないか、又は
e2)前記リガンドが、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸31~77若しくは88~184、若しくはアミノ酸31~77若しくは88~136、若しくは31~77若しくは88~108にわたる領域内、及び/若しくはアミノ酸409~545、若しくはアミノ酸459~545、若しくはアミノ酸459~497、若しくはアミノ酸460~491にわたる領域内若しくは相同gBの対応領域内における任意のアミノ酸に挿入されているか、又は
e3)前記リガンドが、5~120アミノ酸の長さを有し且つ配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内における任意のアミノ酸に挿入されている、
組み換えヘルペスウイルス。
【請求項2】
前記標的分子が細胞培養物中に存在する細胞上にある請求項1に記載のヘルペスウイルス。
【請求項3】
前記細胞がヘルペスウイルスの増殖に適した培養細胞である請求項2に記載のヘルペスウイルス。
【請求項4】
細胞培養物中に存在する前記細胞上にある標的分子が、人工分子である請求項2または3に記載のヘルペスウイルス。
【請求項5】
前記標的分子が抗体、抗体誘導体又は抗体模倣物である請求項4に記載のヘルペスウイルス。
【請求項6】
前記標的分子が、GCN4酵母転写因子の前記一部に結合可能な一本鎖抗体(scFv)である請求項1~5のいずれかに記載のヘルペスウイルス。
【請求項7】
前記標的分子が配列ID番号39に含まれるscFvであり、又は配列ID番号41の配列により特定される分子である請求項6に記載のヘルペスウイルス。
【請求項8】
前記ヘルペスウイルスが改変gD及び/又は改変gHを備え、
前記改変gD及び/又は前記改変gHが疾患細胞への再標的化を可能にするリガンドを備え、
前記gDが、配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域に関して、gDのアミノ酸30~38又はそのサブセットの欠失を有するように改変されている、
請求項1~7のいずれかに記載のヘルペスウイルス。
【請求項9】
前記ヘルペスウイルスが改変gDを備え、
配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域に関して、前記gDがアミノ酸30及び/又はアミノ酸38の欠失を有するように改変され、若しくは前記gDがアミノ酸30及びアミノ酸38の欠失を有するように改変されている請求項1~8のいずれか一項に記載のヘルペスウイルス。
【請求項10】
配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域に関して、異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸30~38若しくはそのサブセットの代わりにgDに挿入され、又は前記異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸30若しくはアミノ酸38の代わりに挿入され、又は前記異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸38の代わりに挿入されると共にアミノ酸30が欠失している請求項9に記載のヘルペスウイルス。
【請求項11】
前記ヘルペスウイルスが、細胞若しくは疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子をコードする請求項1~10のいずれかに記載のヘルペスウイルス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のヘルペスウイルスと薬学的に許容可能な担体とを備える医薬組成物。
【請求項13】
細胞若しくは疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子を備える請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
腫瘍、感染、変性疾患又は老化関連疾患の治療において使用される請求項1~11のいずれかに記載のヘルペスウイルス。
【請求項15】
細胞若しくは疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子と組み合わされて投与される請求項14に記載のヘルペスウイルス。
【請求項16】
請求項1~6のいずれかによって定義される前記gBをコードする核酸を備える核酸分子。
【請求項17】
請求項1~11のいずれかに記載のヘルペスウイルス、又は請求項16に記載の核酸分子を備える細胞。
【請求項18】
請求項1~11のいずれかに記載のヘルペスウイルスを用いて細胞培養物中に存在する細胞において組み換えヘルペスウイルスを産生するためのインビトロな方法。
【請求項19】
前記細胞が、標的分子として、GCN4酵母転写因子の前記一部に結合可能なscFv若しくは配列ID番号39に含まれるscFv、若しくは配列ID番号41の配列により特定される分子、を発現又は結合している、請求項18に記載のインビトロな方法。
【請求項20】
前記組み換えヘルペスウイルスが、疾患細胞上にある標的分子に結合可能な追加的リガンドを備える請求項18又は19に記載のインビトロな方法。
【請求項21】
前記ヘルペスウイルスが改変gD及び/又は改変gHを備え、
前記改変gD及び/又は前記改変gHが疾患細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドを備える、請求項20に記載のインビトロな方法。
【請求項22】
前記改変gD及び/又は前記改変gHが配列ID番号32により特定されるscFvを備え、前記標的分子がHER2であり、並びに前記細胞が、HER2を発現する腫瘍細胞である請求項21に記載のインビトロな方法。
【請求項23】
前記細胞が、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形性膠芽腫細胞、又は唾液腺腫瘍細胞である請求項22に記載のインビトロな方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に至る研究は、欧州連合第7次フレームワーク計画(FP7/2007‐2013)/ERC助成契約第340060号の下に欧州研究会議からの資金提供を受けたものである。
【背景技術】
【0002】
ヘルスケアの着実な発展にもかかわらず、治療することができない又は十分に治療することができない疾患及び病変の負担は依然として高まっている。これらの中でも種々の形態の腫瘍が抜きん出ているが、特に化学放射線療法や生物学的薬剤あるいはそれらの組み合わせで治療される転移性形態の腫瘍に対する成果は限定的である。
【0003】
腫瘍治療への代替的なアプローチは腫瘍溶解性ウイルス療法(oncolytic virotherapy)であり、それによると、増殖型ウイルス(replication competent virus)が腫瘍細胞に感染し、腫瘍の細胞から細胞に広がり、それらを破壊する。
【0004】
腫瘍溶解性ウイルス療法は、癌の免疫療法と組み合わせることができる。従って、患者は腫瘍溶解性ウイルス及び免疫療法薬の両方を投与されることがあり、あるいは腫瘍溶解性ウイルスが、腫瘍に対する宿主の免疫応答を高める、サイトカイン(cytokine)、ケモカイン(chemokine)、又は免疫チェックポイント制御因子(immune checkpoint regulators)等の分子を発現するように操作されてきた。免疫チェックポイント制御因子は、CTLA4、PD1、PDL1、LAG3、KIR、NKG2A、TIM3、TIGIT、CD96、BTLAに対する抗体又は一本鎖抗体を含む。それらは、単独で又は組み合わせて投与することができる。腫瘍に対する免疫応答を生じさせることが可能なこのカテゴリーの組み換え腫瘍溶解性ウイルスには、タリモジェンラヘルパレプベク(Talimogene laherparepvec)(商用名イムリジック(Imlygic))とも命名され、GM‐CSFをコードするHSVであって、FDAによって転移性黒色腫の治療に対して認可されたT‐VECが含まれる。
【0005】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、ヒトに対する病原体ウイルスである。培養においては、HSVは多数の哺乳動物細胞に感染する。HSVは、標的細胞の種類に応じて、原形質膜にて又はエンドサイトーシスを通してのいずれかで、膜融合によって細胞に侵入するエンベロープウイルスである。HSVの標的細胞への侵入は、ウイルス糖タンパク質gD、gH/gL、gC及びgBの複雑な相互作用及び立体構造変化を必要とする多段階プロセスである。これらの糖タンパク質は、HSV粒子の最も外側の構造であり膜からなるウイルスエンベロープを構成する。細胞への侵入のために、gC及びgBが、細胞表面ヘパラン硫酸へのHSV粒子の最初の付着を媒介する。その後、gDが、ネクチン1(Nectin-1)及びHVEM又はHVEAである少なくとも2つの代替的細胞受容体(alternative cellular receptors)に結合し、ビリオン‐細胞膜融合を引き起こす事象の連鎖を開始するgDにおける立体構造変化をもたらす。これにより、中間タンパク質gH/gL(ヘテロ二量体)が活性化され、膜融合を触媒するようにgBをトリガーする。結果として、gBは膜結合性であり、ウイルス融合因子(viral fusogen)として機能する。
【0006】
腫瘍溶解性HSVs(o‐HSV)は、近年、腫瘍溶解剤として使用されてきている。野生型HSVウイルスは非常に毒性が高いので、o‐HSVsは弱毒化される必要がある。臨床試験に達したT‐VEC/イムリジック及びそのウイルスは、1つ以上のHSV遺伝子の欠失を担持し、これらの遺伝子は、感染細胞におけるタンパク質合成の遮断を妨げる役割を果たすICP34.5タンパク質をコードするガンマγ34.5遺伝子と、リボヌクレオチド還元酵素の大サブユニットをコードするUL39遺伝子と、を含む。子孫ウイルスの高い収量を産生することができない等、これらのウイルスによって示される幾つかの欠点に加えて、それらは更に、それらの天然受容体を有する任意の細胞に結合してしまう保存された能力を有する。従って、腫瘍細胞死滅の治療効果は減少し、上記ウイルスは医療用途において限界を有する可能性がある。
【0007】
これらの限界を克服する1つのアプローチは、腫瘍細胞に対して高い特異的親和性(specific tropism)を示し、そうでなければ弱毒化されないo‐HSVsの遺伝子操作であった。このアプローチは、腫瘍特異的受容体に対するHSV親和性の再標的化として定義されてきた。
【0008】
癌特異的受容体へのHSVの再標的化は、特異的リガンドをコードする異種配列を有するようなgDの遺伝子改変を伴う。組み換えウイルスによる感染によって、エンベロープ内にキメラgD‐リガンド糖タンパク質を担持する子孫ウイルスが、野生型gDの代わりに形成される。リガンドは、選択された細胞上に特異的に発現した分子と相互作用し、選択された細胞内への組み換えo‐HSVの侵入を可能にする。HSVの再標的化に成功裏に使用されたリガンドの例は、IL13α、uPaR、HER2に対する一本鎖抗体、及びEGFRに対する一本鎖抗体である。
【0009】
また、糖タンパク質の改変による再標的化もgCで試みられてきた。挿入されたリガンドは、EPO及びIL13であった。gC‐EPOポリペプチドを担持しているウイルスは、EPO受容体を発現する細胞に付着した。しかし、この付着は感染性の侵入にはつながらなかった。加えて、gC‐IL13ポリペプチドは、gD遺伝子内にIL13の第2のコピーを担持するウイルス内に存在した。従って、これらの研究からは、gC‐IL13がIL13アルファ2受容体への再標的化に寄与したのか否かは推論することはできない。
【0010】
また、gHの遺伝子改変による再標的化も達成されてきた。挿入されたリガンドは、gH遺伝子内の欠失を伴い又は伴わないHER2に向けられた一本鎖抗体(scFv)であった。ウイルスは、HER2受容体を担持している細胞に成功裏に再標的化された(Gatta et al., 2015)。加えて、gH内のHER2に向けられたscFvと成熟gDタンパク質内のEGFRに向けられたscFvとを含有する組み換えウイルスが構築された。その結果、受容体を担持している細胞への二重再標的化がもたらされた。更に、gH内のHER2に向けられたscFvと成熟gDタンパク質内のHER2に向けられたscFvとを含有する組み換えウイルスが構築された。その結果、HER2受容体への二重再標的化がもたらされた(PCT出願)(Abstract # P-28, 9th International conference on Oncolytic virus Therapeutics, Boston 2015)。
【0011】
gBによるウイルスの再標的化はこれまで全く報告されていない。保存された膜融合活性を有する生存できるウイルス変異体を結果としてもたらすgB遺伝子内の挿入部位が特定されたが(Gallagher et al., 2014; Lin and Spear, 2007; Potel et al., 2002)、ポリペプチド‐gB融合体を分析するために用いられたアッセイは、挿入されたポリペプチドが標的受容体に結合することが可能な異種ペプチドである場合に、その後の組み換え体が、gBの融合活性に寄与し、リガンドによって標的化された受容体に再アドレス(再標的化)された親和性を示し得るかどうかを予測しなかった。先ず、当該分野における経験に基づく予測によれば、HSVを含むウイルスの親和性を再標的化するいかなる努力も、改変のために選択された糖タンパク質、例えば異種リガンドの挿入のために選択された糖タンパク質がウイルス親和性の決定因子である場合に限って成功する。HSVgBに対して主張されてきた受容体は、gB及びgCが結合したへパラン硫酸プロテオグリカン、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ペア型免疫グロブリン様2型受容体アルファ(paired immunoglobulin-like type 2 receptor alpha)(PILRアルファ)、DC-SIGN、及び非筋肉性ミオシン重鎖9MYH9/NMHC-IIAである。いずれの場合も、これらの分子とのgBの相互作用がHSV親和性を決定することは示されなかった。このように、PILRアルファは、単球細胞内へのHSVの侵入、HSVによって通常は標的化されない細胞タイプ、優先的に表皮細胞及び神経細胞に感染するウイルスに関与する。他の受容体については、それらがHSV感染において果たす役割は調査されなかった。従って、当該分野における専門家は、gBに対する適切な改変が、最適な標的受容体に対して再標的化された親和性をもたらし得ることを予測することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
当該分野においては、幾つかの代替的な再標的化戦略を提供する必要がある。この必要性は、同じ腫瘍における癌細胞の異質性により細胞が異なる受容体を発現すること、癌細胞の受容体とは異なる受容体のレパートリーを発現し得る癌幹細胞を除去する必要性、又は標的療法に耐性を示す細胞の抵抗(insurgence)に起因する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、除去される必要のある細胞の受容体にウイルスを再標的化する改変gBタンパク質を有する組み換えHSVを表現する。
【0014】
本発明者らは、gBとの融合タンパク質としての特異的細胞受容体に向けられたポリペプチドリガンドを備える組み換えHSVを構築することが可能であり、これにより、リガンドの存在に起因してHSVが、受容体を担持している細胞に再標的化されることを示した。更に、HSVが感染性を維持し、受容体を担持している細胞への侵入をもたらし、感染細胞を死滅させることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の特徴は個々の段落で説明される。しかし、これは、ある段落で説明されるある特徴が、他の段落で説明される1つ以上の特徴から分離して存在することを意味するものではない。むしろ、ある段落で説明されるある特徴は、他の段落で説明される1つ以上の特徴と組み合わせることができる。
【0016】
ここで用いられる「備える/備えている(comprise/es/ing)」の用語は、開示された特徴及び特に言及されていない更なる特徴を「含む又は包含する(include or encompass)」ことを意味する。また、「備える/備えている」の用語は、示された特徴「からなる(consist/s/ing of)」という意味、従って示された特徴以外の更なる特徴を含まないという意味であることも意図されている。従って、本発明の製品は、示された特徴に加えて追加的な特徴によって特徴付けられてもよい。
【0017】
第1の側面においては、本発明は、標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドであってヘルペスウイルスのエンベロープ内に存在する糖タンパク質B(gB)に融合又は挿入された異種ポリペプチドリガンドを備える組み換えヘルペスウイルスであって、リガンドがgBに融合され、又はリガンドが、gBの不規則領域(disordered region)内における任意のアミノ酸に挿入されているが、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内若しくは相同gB(homologous gB)の対応領域内におけるいずれのアミノ酸にも挿入されていない、又はリガンドが、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸31~77若しくは88~184、好ましくはアミノ酸31~77若しくは88~136、若しくはより好ましくは31~77若しくは88~108にわたる領域内、及び/若しくはアミノ酸409~545、好ましくはアミノ酸459~545、より好ましくはアミノ酸459~497、若しくは更に好ましくはアミノ酸460~491にわたる領域内若しくは相同gBの対応領域内における任意のアミノ酸に挿入されている、組み換えヘルペスウイルスを提供する。
【0018】
更に、本発明は、標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドであってヘルペスウイルスのエンベロープ内に存在する糖タンパク質B(gB)に挿入された異種ポリペプチドリガンドを備える組み換えヘルペスウイルスであって、リガンドが、5~120アミノ酸の長さを有し且つ配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内における任意のアミノ酸に挿入されている、組み換えヘルペスウイルスを提供する。
【0019】
本発明の実施形態においては、ヘルペスウイルスは、標的分子を発現させ又は結合させている細胞に結合する能力、好ましくはその細胞と融合する能力、より好ましくはその細胞に侵入する能力、最も好ましくはその細胞を死滅させる能力を有する。
【0020】
本発明の実施形態においては、標的分子は疾患細胞上にあり、好ましくは疾患細胞は腫瘍細胞、感染細胞、変性障害関連細胞(degenerative disorder-associated cell)若しくは老化細胞であり、又は標的分子は細胞培養物中に存在する細胞上にあり、好ましくは細胞はヘルペスウイルスの増殖に適した培養細胞であり、より好ましくはヘルペスウイルス増殖のために認められた細胞株であり、更に好ましくはVero、293、293T、HEp‐2、HeLa、BHK若しくはRS細胞であり、最も好ましくはVero細胞である。
【0021】
本発明の実施形態においては、疾患細胞上にある標的分子は、腫瘍関連受容体であり、好ましくはHER2、EGFR、EGFRIII若しくはEGFR3(ERBB3)、EGFRvIIIを含むEGF受容体ファミリーのメンバー、若しくはMET、FAP、PSMA、CXCR4、CEA、CADC、ムチン、葉酸結合タンパク質、GD2、VEGF受容体1及び2、CD20、CD30、CD33、CD52、CD55、インテグリンファミリー、IGF1R、エフリン受容体ファミリー、タンパク質‐チロシンキナーゼ(TK)ファミリー、RANKL、TRAILR1、TRAILR2、IL13Rアルファ、UPAR、テネイシン、若しくはPD‐1、PD‐L1、CTL‐A4、TIM‐3、LAG3を含む免疫チェックポイントファミリー制御因子のメンバー、若しくはIDO、腫瘍関連糖タンパク質72、ガングリオシドGM2、A33、ルイスY抗原、若しくはMUC1であり、最も好ましくはHER2であり、又は細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子は、人工分子であり、好ましくは抗体、抗体誘導体若しくは抗体模倣物であり、より好ましくは一本鎖抗体(scFv)であり、更に好ましくはGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFvであり、更に好ましくは配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFvであり、更に好ましくは配列ID番号39に含まれるscFvであり、最も好ましくは配列ID番号41の配列により特定される分子である。
【0022】
本発明の実施形態においては、リガンドは天然ポリペプチド又は人工ポリペプチドであり、好ましくはリガンドは細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子又は疾患細胞上にある標的分子に結合可能であり、より好ましくはリガンドは、細胞上でアクセス可能な標的分子の天然リガンド、標的分子に結合可能な天然リガンドの一部、天然ポリペプチドの一部、抗体、抗体誘導体、抗体模倣物であり、更に好ましくはリガンドは、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子又はscFVに結合可能な天然ポリペプチドの一部であり、更に好ましくはリガンドは、配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子の一部等のGCN4酵母転写因子の一部、又は腫瘍細胞上にある標的分子、好ましくはHER2に結合可能なscFvであり、最も好ましくはリガンドは、配列ID番号37の配列により特定される分子又は配列ID番号32により特定されるscFvである。
【0023】
本発明の実施形態においては、標的分子はHER2であり、リガンドは配列ID番号32により特定されるscFvであり、疾患細胞はHER2を発現する腫瘍細胞、好ましくは乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形性膠芽腫細胞、若しくは唾液腺腫瘍細胞であり、及び/又は標的分子は配列ID番号41の配列により特定される分子であり、リガンドは配列ID番号37の配列により特定される分子であり、細胞は細胞培養物中に存在すると共に配列ID番号41の配列により特定される分子を発現する。
【0024】
本発明の実施形態においては、1つ以上のリガンドはgBに融合又は挿入され、好ましくはgBは細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドと疾患細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドとを備える。
【0025】
本発明の実施形態においては、ヘルペスウイルスは改変gD及び/又は改変gHを備え、好ましくはgBは細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドを備え、改変gD及び/又は改変gHは疾患細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドを備え、最も好ましくはgBは配列ID番号37により特定される配列を備え、標的分子は配列ID番号41により特定される配列を有する分子であり、細胞は細胞培養物中に存在すると共に配列ID番号41の配列により特定される分子を発現し、改変gD及び/又は改変gHは配列ID番号32により特定されるscFvを備え、標的分子はHER2であり、細胞は、HER2を発現する腫瘍細胞、好ましくは乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形性膠芽腫細胞、又は唾液腺腫瘍細胞である。
【0026】
本発明の実施形態においては、配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域に関して、gDはgDのアミノ酸30~38又はそのサブセットの欠失を有するように改変され、好ましくはgDはアミノ酸30及び/又はアミノ酸38の欠失を有するように改変され、より好ましくはgDはアミノ酸30及びアミノ酸38の欠失を有するように改変されている。
【0027】
本発明の実施形態においては、配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域に関して、異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸30~38又はそのサブセットの代わりにgDに挿入され、好ましくは異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸30又はアミノ酸38の代わりに挿入され、より好ましくは異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸38の代わりに挿入されると共にアミノ酸30が欠失している。
【0028】
本発明の実施形態においては、ヘルペスウイルスは、細胞、好ましくは疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子をコードする。
【0029】
糖タンパク質B(gB)は、ヘルペスウイルス科の外表面上に存在しウイルスの細胞への結合及び細胞への侵入に関与するエンベロープタンパク質である。細胞への侵入に関与する糖タンパク質の中でも、gBは、gD及びgH/gLによる刺激下で融合促進構造変化(fusion-promoting conformational rearrangement)を受ける融合因子である。gBは、30アミノ酸のシグナルペプチド、696アミノ酸の細胞外ドメイン、69アミノ酸の膜貫通ドメイン、及び109アミノ酸のC尾部を含む904アミノ酸から構成される。gBは、ヘルペスウイルス科ファミリーのうちで最も高度に保存された糖タンパク質に属する。単純ヘルペスウイルス(HSV)1型gBの結晶構造は、その融合後の立体構造において、5つの構造ドメイン(I~V)を有する三量体であることが解明された。ドメインIはアミノ酸154からアミノ酸363まで伸び、ドメインIIはアミノ酸142からアミノ酸153まで及びアミノ酸364からアミノ酸459まで伸び、アミノ酸460~491の不規則領域がそれに続き、ドメインIIIはアミノ酸117からアミノ酸133まで、アミノ酸500からアミノ酸572まで、及びアミノ酸661からアミノ酸669まで伸び、ドメインIVはアミノ酸111からアミノ酸116まで及びアミノ酸573からアミノ酸660まで伸び、ドメインVはアミノ酸670からアミノ酸725まで伸びている(Heldwein et al., 2006)。不規則構造を有するN末端領域は、アミノ酸31からアミノ酸108まで伸びる。EBV及びHCMVの結晶構造も解明されており、HSV1型のものと本質的に類似している(Backovic et al., 2009; Burke and Heldwein, 2015)。その特異構造により、ヘルペスウイルスgBはウイルス膜融合糖タンパク質の新たなクラス、クラスIIIに属する。異なるヘルペスウイルスの種々のgBのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が当該分野において知られている。例示のみの目的で、これに限定されないが、配列ID番号1としてここに開示されるヒトヘルペスウイルス1のgBのアミノ酸配列を参照する。対応するヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、アセッション番号「ゲノム(Genome)」、GU734771.1、座標52996~55710の下でNCBI(National Centre for Biotechnology Information; National Library of Medicine, Bethesda, MD20894, USA; www.ncbi.nlm.nih.gov)から利用可能である。
【0030】
1 MRQGAPARGC RWFVVWALLG LTLGVLVASA APSSPGTPGV AAATQAANGG PATPAPPAPG
61 PAPTGDTKPK KNKKPKNPPP PRPAGDNATV AAGHATLREH LRDIKAENTD ANFYVCPPPT
121 GATVVQFEQP RRCPTRPEGQ NYTEGIAVVF KENIAPYKFK ATMYYKDVTV SQVWFGHRYS
181 QFMGIFEDRA PVPFEEVIDK INAKGVCRST AKYVRNNLET TAFHRDDHET DMELKPANAA
241 TRTSRGWHTT DLKYNPSRVE AFHRYGTTVN CIVEEVDARS VYPYDEFVLA TGDFVYMSPF
301 YGYREGSHTE HTSYAADRFK QVDGFYARDL TTKARATAPT TRNLLTTPKF TVAWDWVPKR
361 PSVCTMTKWQ EVDEMLRSEY GGSFRFSSDA ISTTFTTNLT EYPLSRVDLG DCIGKDARDA
421 MDRIFARRYN ATHIKVGQPQ YYLANGGFLI AYQPLLSNTL AELYVREHLR EQSRKPPNPT
481 PPPPGASANA SVERIKTTSS IEFARLQFTY NHIQRHVNDM LGRVAIAWCE LQNHELTLWN
541 EARKLNPNAI ASATVGRRVS ARMLGDVMAV STCVPVAADN VIVQNSMRIS SRPGACYSRP
601 LVSFRYEDQG PLVEGQLGEN NELRLTRDAI EPCTVGHRRY FTFGGGYVYF EEYAYSHQLS
661 RADITTVSTF IDLNITMLED HEFVPLEVYT RHEIKDSGLL DYTEVQRRNQ LHDLRFADID
721 TVIHADANAA MFAGLGAFFE GMGDLGRAVG KVVMGIVGGV VSAVSGVSSF MSNPFGALAV
781 GLLVLAGLAA AFFAFRYVMR LQSNPMKALY PLTTKELKNP TNPDASGEGE EGGDFDEAKL
841 AEAREMIRYM ALVSAMERTE HKAKKKGTSA LLSAKVTDMV MRKRRNTNYT QVPNKDGDAD
901 EDDL
配列ID番号1
【0031】
gB相同体(gB homolog)は、ヘルペスウイルス科の全メンバーにおいて見出される。従って、ここで参照される「糖タンパク質B」の用語は、ヘルペスウイルス科において見出される任意のgB相同体を参照する。あるいは、ここで参照されるgBは、配列ID番号1の配列の少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%に対してアミノ酸同一性を有する任意のgBを参照する。あるいは、ここで参照されるgBは、配列ID番号1の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、又は100%に対してアミノ酸相同性を有する任意のgBを参照する。ここで参照されるgBはまた、gBの断片(fragment)を含む。好ましくは、ここで参照されるgBは、ヘルペスウイルス科において見出される任意のgBと、上記で定義された配列ID番号1の配列に対してアミノ酸同一性を有する任意のgBと、gBの任意の断片と、を含み、配列ID番号1に係るgBと同じ活性を有する。より好ましくは、細胞へのウイルスの侵入プロセスの間、gBは細胞の膜とのウイルスの融合を促進する立体構造変化を受け、更に好ましくは、細胞膜とのウイルスの融合を媒介する融合因子として作用する。
【0032】
ここで用いられる「配列同一性」のパーセンテージは、2つの最適に整列された配列における対応する位置において同一であるアミノ酸残基のパーセンテージを参照する。このパーセンテージは、2つの最適に整列された配列を比較ウインドウにおいて比較することによって決定され、比較ウインドウ内のアミノ酸配列の断片は、2つの配列の最適な整列のための参照配列、配列ID番号1(付加又は欠失を備えていない)との対比において、付加又は欠失(例えば、ギャップ又はオーバーハング)を備えていてよい。パーセンテージは、一致位置を生じさせる同一のアミノ酸残基が両方の配列において存在する位置の数を決定し、一致位置の数を比較のウインドウ内の位置の総数で除し、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを求めることによって計算される。比較のための配列の最適な整列は、スミス及びウォーターマン(Smith and Waterman)、1981の局所的相同性アルゴリズムによって、ニードルマン及びブンシュ(Needleman and Wunsch)、1970の相同性整列アルゴリズムによって、ピアソン及びリップマン(Pearson and Lipman)、1988の類似性検索法(search for similarity method)によって、カーリン及びアルツシュール(Karlin and Altschul)、1993により修正されたカーリン及びアルツシュール、1990のアルゴリズムによって、若しくはこれらのアルゴリズムのコンピュータ実装(GAP, BESTFIT, BLAST, PASTA, and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WI)によって、又は検査によって、実施されてよい。最適な整列を決定するためにギャップ(GAP)及びベストフィット(BESTFIT)が好ましく採用される。典型的には、ギャップウェイトに対しては5.00、ギャップウェイト長に対しては0.30のデフォルト値が用いられる。
【0033】
ここで用いられる「相同性のパーセンテージ」は、2つの最適に整列された配列における対応する位置において相同であるアミノ酸残基のパーセンテージを参照する。2つの配列の間の「相同性のパーセンテージ」は、計算において同一位置だけでなく相同位置も考慮されているという事実を除き、「同一性のパーセンテージ」の決定を参照して上述したものと実質的に同一の方法で確立される。2つの相同アミノ酸は、2つの同一又は相同のアミノ酸を有する。相同アミノ酸残基は類似した化学物理的特性を有しており、例えば、アミノ酸は、同じグループ、即ち芳香族(Phe、Trp、Tyr)、酸(Glu、Asp)、極性(Gln、Asn)、塩基性(Lys、Arg、His)、脂肪族(Ala、Leu、lie、VaI)、水酸基含有(Ser、Thr)、又は短側鎖含有(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)、に属する。そのような相同アミノ酸の間での置換はタンパク質表現型(protein phenotype)を変化させないことが期待されている(同類置換(conservative substitutions))。
【0034】
gBは、配列ID番号1の少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%に対して同一性を有する場合、配列ID番号1の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%に対してアミノ酸相同性を有する場合、又は配列ID番号1に係るgBと同じ活性を有する場合、「相同(homologous)」又は「相同体(homolog)」である。好ましくは、「同じ活性」は、gBが細胞受容体に結合するという意味で理解されてよく、より好ましくは、細胞へのウイルスの侵入プロセスの間、gBが細胞の膜とのウイルスの融合を促進する立体構造変化を受け、更に好ましくは、gBが融合因子として作用するという意味で理解されてよい。相同体は、上述した活性を有する完全長gBの断片であってもよい。
【0035】
本発明のキメラgB(配列ID番号2によって例示される)は、異種ポリペプチドリガンドを担持し、これにより、gB部分が野生型(wt)ウイルスに対して達成する活性に加え、ウイルスに対し新たな活性をもたらす。キメラgBは、一旦組み換えウイルスのエンベロープの一部になると、組み換えウイルスの標的分子への結合を可能にし、リガンドの標的分子を担持している細胞に組み換えウイルスの親和性を再標的化する。好ましくは、キメラgBは細胞の膜とのウイルスの融合を促進する立体構造変化を受け、更に好ましくは、キメラgBは融合因子として作用する。リガンドの標的分子を担持している細胞との融合の後、組み換えヘルペスウイルスは細胞に侵入し、組み換えヘルペスウイルスが感染した細胞は、異種ポリペプチドリガンドを有するキメラgBを含む、ウイルスゲノムによってコードされたタンパク質を産生する。感染細胞は細胞を溶解する子孫ウイルスを産生し、これにより細胞が死滅する。
【0036】
ここで用いられる「再標的化」の用語は、本発明の組み換えヘルペスウイルスがリガンドの標的分子を標的とすることを意味する。しかし、組み換えヘルペスウイルスは、依然として非改変ヘルペスウイルス(unmodified herpesvirus)の天然受容体を標的とすることが可能である。再標的化は「脱標的化(detargeting)」とは異なり、脱標的化は、組み換えヘルペスウイルスがもはや非改変ヘルペスウイルスの天然受容体を標的とすることができないことを意味する。「脱標的化」は、組み換えウイルスがリガンドの標的分子のみを標的とすることを意味する。
【0037】
ここで用いられる場合、gBの特定のアミノ酸番号又は領域の表示は、最初の30アミノ酸を備えるN末端シグナル配列を含む配列ID番号1において例示されるようなgBの「前駆体(precursor)」形態を参照する。gBの「成熟(mature)」形態は、配列ID番号1のアミノ酸31から始まりアミノ酸904まで伸びる。配列ID番号1とは異なるアミノ酸配列を有するgB糖タンパク質も本発明に含まれるので、配列ID番号1に関連する特定のアミノ酸番号又は特定のアミノ酸領域の表示はまた、相同gBのアミノ酸番号又は領域を意味し、これは配列ID番号1のそれぞれのアミノ酸番号又は領域に対応する。
【0038】
ここで用いられる「組み換え」ヘルペスウイルスの用語は、異種ポリペプチドをコードする追加の核酸配列を含むように遺伝子組み換えによって遺伝子操作されたヘルペスウイルスを参照する。組み換えヘルペスウイルスを産生する方法は、当該分野において周知である(例えばSandri-Goldin et al., 2006を参照)。しかし、本発明は遺伝子工学的方法に限定されない。他の方法を用いて、異種ポリペプチドリガンドをgBに融合又は挿入したヘルペスウイルスを産生してもよい。
【0039】
ここで用いられる「キメラ糖タンパク質B」若しくは「キメラgB」の用語又は「キメラgB」は、異種ポリペプチドリガンドをgBに融合又は挿入したgBを意味する。キメラgBは、組み換えウイルスによってコードされ、組み換えウイルスを産生する細胞で合成され、ビリオンのエンベロープ内に組み込まれる。遺伝子工学によって組み換えウイルスを産生する方法は、当該分野において知られている。キメラ糖タンパク質Bを産生する方法は、当該分野において知られている。
【0040】
ここで参照される「ヘルペスウイルス」の用語は、潜伏感染又は溶解感染を引き起こす二本鎖DNAウイルスのヘルペスウイルス科ファミリーのメンバーを参照する。全てのヘルペスウイルスは共通構造を共有し、それらのゲノムは、カプシド(capside)と呼ばれる二十面体タンパク質ケージ内に包み込まれた80~200遺伝子をコードする比較的大きな(約100,000~200,000塩基対)二本鎖の直線状DNAからなり、カプシドそれ自体は、ウイルスタンパク質及びウイルスmRNAsの両方を含むテグメント(tegument)と呼ばれるタンパク質層とエンベロープと呼ばれる脂質二重層膜とによって包まれている。この全体粒子はビリオンとしても知られる。「ヘルペスウイルス」の用語はまた、例えば実験室で改変されたヘルペスウイルス等の1つ以上の変異遺伝子を備える変異させられたヘルペスウイルス科ファミリーのメンバーを参照する。
【0041】
好ましい実施形態において、ヘルペスウイルスは、単純ヘルペスウイルス1(HSV‐1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV‐2)、水痘帯状疱疹ウイルス(ヒトヘルペスウイルス3(HHV‐3))、ブタアルファヘルペスウイルス亜科仮性狂犬病ウイルス(swine alphaherpesvirus Pseudorabiesvirus)(PRV)、チンパンジーアルファ1ヘルペスウイルス(ChHV)、ヒヒヘルペスウイルス2(Papiine herpesvirus 2)(HVP2)、オナガザルヘルペスウイルス2(Cercopithecine herpesvirus 2)(CeHV2)、マカシンヘルペスウイルス1(Macacine herpesvirus 1)(MHV1)、リスザルヘルペスウイルス1(Saimiriine herpesvirus 1)(HVS1)、カリトリシンヘルペスウイルス3(Callitrichine herpesvirus 3)(CalHV3)、リスザルヘルペスウイルス2(Saimiriine herpesvirus 2)(HVS2)、ウシヘルペスウイルス1(BoHV‐1)、ウシヘルペスウイルス5(BoHV‐5)、ウマヘルペスウイルス1(EHV‐1)、ウマヘルペスウイルス2(EHV‐2)、ウマヘルペスウイルス5(EHV‐5)、イヌヘルペスウイルス1(CHV)、ネコヘルペスウイルス1(FHV‐1)、ダック腸炎ウイルス(DEV)、オオコウモリアルファヘルペスウイルス1(FBAHV1)、ウシヘルペスウイルス2(BoHV‐2)、ウサギヘルペスウイルス4(LHV4)、ウマヘルペスウイルス3(EHV‐3)、ウマヘルペスウイルス4(EHV‐4)、ウマヘルペスウイルス8(EHV‐8)、ウマヘルペスウイルス9(EHV‐9)、オナガザルヘルペスウイルス9(CeHV9)、ブタヘルペスウイルス1(Suid herpesvirus 1)(SuHV‐1)、マレック病ウイルス(MDV)、マレック病ウイルス血清型2(MDV2)、ハヤブサヘルペスウイルス1型(Falconid herpesvirus type 1)(FaHV‐1)、トリヘルペスウイルス3(Gallid herpesvirus 3)(GaHV‐3)、トリヘルペスウイルス2(GaHV‐2)、肺‐眼‐気管疾患関連ヘルペスウイルス(Lung-eye-trachea disease-associated herpesvirus)(LETV)、トリヘルペスウイルス1(GaHV‐1)、オウムヘルペスウイルス1(PsHV‐1)、ヒトヘルペスウイルス8(HHV‐8)、ヒトヘルペスウイルス4(HHV‐4)、ウミガメヘルペスウイルス5(ChHV5)、クモザルヘルペスウイルス3(AtHV3)又はシチメンチョウヘルペスウイルス1(MeHV‐1)からなる群から選択される。より好ましい実施形態においては、ヘルペスウイルスはHSV‐1又はHSV‐2であり、最も好ましくはHSV‐1である。
【0042】
ここで用いられる「異種」という用語は、ヘルペスウイルスゲノム又は他のいかなるヘルペスウイルスのゲノムによってもコードされていないポリペプチドを参照する。好ましくは、「異種」という用語は、リガンドの標的分子を担持する細胞であって本発明の組み換えヘルペスウイルスが感染する細胞に結合するポリペプチドを参照する。異種ポリペプチドは、天然ポリペプチド、又はその一部、あるいは天然に見出されない人工ポリペプチドであってよい。
【0043】
ここで用いられる「ポリペプチド」の用語は、ペプチド結合によって連結された複数のアミノ酸からなる連続的で非分岐のペプチド鎖である。ポリペプチド鎖の長さは無制限であり、5アミノ酸等の幾つかのアミノ酸から数百又は数千アミノ酸の範囲にあってよい。本発明においては、ポリペプチドは、リガンドとして又は標的分子として用いられてよい。鎖の長さは、リガンド又は標的分子の始点分子(starting molecule)である分子に依存する。2つ以上のポリペプチド鎖が抗体等の複合体に会合してよい。ここで用いられる「ポリペプチド」の用語はまた、ポリペプチド鎖の会合体を含む。ここで用いられる「ペプチド」の用語は、通常は約50アミノ酸残基未満からなり、好ましくは約40アミノ酸残基未満からなり、より好ましくは約10アミノ酸~約30アミノ酸からなる短いポリペプチド鎖である。最小長は5アミノ酸残基である。
【0044】
「相同gBの対応領域」の用語は、スミス‐ウォーターマン(Smith-Waterman)アルゴリズム及び整列パラメータMATRIX:BLOSUM62、GAP OPEN:10、GAP EXTEND:0.5を用いた場合に、配列ID番号1に係るgBの所与の領域と整列するgBの領域を参照する。このアルゴリズムは、ペアワイズ配列比較(pairwise sequence comparisons)を行う場合に当該分野において知られ用いられており、当業者はそれをどのように適用するのかを知っている。配列ID番号1の所与の領域の単一又は複数の部分のみが上記のアルゴリズム及びパラメータを用いて相同gBの配列と整列する場合、「対応領域」の用語は、配列ID番号1の所与の領域の単一又は複数の部分と整列する領域を参照する。この場合、リガンドが挿入されている相同gB内の領域は、配列ID番号1の所与の領域の単一又は複数の部分と整列するアミノ酸のみを備える。「対応領域」の用語はまた、対応する隣接配列(flanking sequences)が隣接する領域を参照し、隣接配列は、上記のアルゴリズム及びパラメータを用いて、配列ID番号1の領域に隣接する配列と整列する。これらの隣接配列は、少なくとも5、6、7、8、9、10、15、20、30、40又は50アミノ酸長である。用いられてよい他のアルゴリズムは、ニードルマン及びブンシュ(Needleman and Wunsch)、1970のアルゴリズム、ピアソン及びリップマン(Pearson and Lipman)、1988の類似法、若しくはカーリン及びアルツシュール(Karlin and Altschul)、1993により修正されたカーリン及びアルツシュール、1990のアルゴリズム、又はこれらのアルゴリズムのコンピュータ実装である。
【0045】
「対応アミノ酸」の用語は、対応領域内にあるアミノ酸であって、整列内において配列ID番号1の所与のアミノ酸のカウンターパートであるアミノ酸を参照する。対応アミノ酸は、対応領域内にある限り、整列において配列ID番号1のカウンターパートと同一であってはならない。
【0046】
ここで参照されるリガンドは、細胞の表面上でアクセス可能な標的分子に結合し又は結合可能である。好ましくは、リガンドは、細胞の表面上でアクセス可能な標的分子に特異的に結合し又は特異的に結合可能であり、これにより、「特異的に結合する」という用語は、対象となる特定の標的分子にリガンドが結合する結合反応を参照するが、リガンドは、相当量(10%未満)においては、細胞上にある他の分子又はリガンドが生体(organism)内において接触する可能性のある他の分子には結合しない。一般に、標的分子を「特異的に結合する」リガンドは、その標的分子に対して約10(例えば、10、10、10、10、1010、1011、1012又はそれ以上)モル/リットルを超える平衡親和定数(equilibrium affinity constant)を有する。好ましくは、リガンドは、ウイルスが細胞と融合する能力を媒介するので、より好ましくはウイルスは次いで細胞に侵入し、更に好ましくは細胞を死滅させる。リガンドはヒトに有害ではないことが理解される。また、リガンドはヘルペスウイルスタンパク質ではないか、又はヘルペスウイルスタンパク質から改変によって誘導されない。
【0047】
リガンドは、細胞上でアクセス可能な標的分子に特異的に結合することができる天然又は人工のポリペプチドリガンドであってよく、好ましくは異種ポリペプチドリガンドは、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子又は疾患細胞上にある標的分子に結合可能である。天然ポリペプチドリガンドは、標的分子に結合可能な天然ポリペプチドである。このように、リガンドは、細胞上でアクセス可能な受容体分子等の天然標的分子の天然リガンドであってよい。そのようなリガンドの例は、サイトカイン、ケモカイン、免疫チェックポイントブロッカー、又は成長因子であってよい。既知の例は、EGF及びIL13である。あるいは、リガンドは、標的分子に結合する抗体である。あるいは、リガンドは、人工標的分子に結合するように選択された天然ポリペプチドであり、これにより、標的分子はリガンドに結合可能に設計される。天然ポリペプチドは、任意の生体に由来してよく、好ましくはヒトに有害でない生体に由来してよい。例えば、天然ポリペプチドは、サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス(Saccharomyces)属からのポリペプチドのような真菌性又は細菌性のポリペプチドである。天然ポリペプチドの例は、GCN4酵母転写因子である。人工ポリペプチドリガンドは、特定の標的分子を結合するように機能する天然には生じないアミノ酸配列を有する。人工ポリペプチドリガンドの配列は、アミノ酸の挿入、欠失、置換及び/又は付加を含む改変された天然ポリペプチドに由来してよく、これにより、対応する天然ポリペプチドの結合能力が保持される。例えば、リガンドは、対応する全長ポリペプチドが結合する標的分子に結合可能である限り、上記で参照された天然ポリペプチドの一部であってよい。あるいは、天然ポリペプチドは、対応する天然ポリペプチドの少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%に対してアミノ酸同一性を備えるように改変されたものであり、これにより、改変ポリペプチドは、標的分子への結合等、対応する天然ポリペプチドの活性を保持する。あるいは、人工ポリペプチドリガンドは、274アミノ酸残基以下、好ましくは200アミノ酸残基未満、より好ましくは50アミノ酸残基未満、更に好ましくは40アミノ酸残基未満、更に好ましくは10~30アミノ酸の間、最も好ましくは20アミノ酸を有していてよく、天然ポリペプチドの一部又は(ランダム)ペプチドライブラリーからのペプチド等である。あるいは、ポリペプチドは、標的分子に結合する抗体誘導体又は抗体模倣物である。抗体、抗体誘導体又は抗体模倣物は、単一特異的(即ち、細胞の表面上でアクセス可能な1つの標的分子に特異的)であってよく、又は多重特異的(即ち同じ又は異なる細胞の表面上でアクセス可能な2つ以上の標的分子に特異的)、例えば二重特異的又は三重特異的(例えば、Castoldi et al., 2013, Castoldi et al., 2012)であってよい。ウイルスの特異性は、同じ細胞上の2つ以上の標的分子を同時に標的化することによって増大する。異なる細胞上にある2つ以上の標的分子が標的化される場合、腫瘍の異種性に対処することができる。
【0048】
ここで参照される「抗体誘導体」の用語は、少なくとも1つの抗体可変ドメインを備えているが、抗体の全体構造を備えているわけではない分子を参照する。抗体誘導体は、依然として標的分子に結合可能である。好ましくは、抗体誘導体は、ウイルスが細胞と融合する能力を媒介するので、より好ましくはウイルスは細胞に侵入し、更に好ましくは細胞を死滅させる。前記誘導体は、Fab、Fab2、scFv、Fv等の抗体断片、若しくはその一部、又はナノボディ(nanobodies)、ダイアボディ(diabodies)、ミニボディ(minibodies)、ラクダ科単一ドメイン抗体(camelid single domain antibodies)、単一ドメイン若しくはFab断片等の免疫グロブリンの他の誘導体若しくは組合せ、可変領域の重鎖及び軽鎖のドメイン(Fd、Vラムダ及びVカッパを含むVL、VH、VHH等)、その他少なくとも2つの構造ループによって連結された免疫グロブリンドメインの2つのベータストランドからなるミニドメインであってよい。好ましくは、抗体誘導体は、単鎖抗体、より好ましくは、短いリンカーペプチドで連結した免疫グロブリンの重鎖(V)及び軽鎖(V)の可変領域の融合タンパク質であるscFvである。VのN末端はVのC末端に連結されるか、又はVのN末端はVのC末端に連結される。
【0049】
ここで参照される「抗体模倣物」の用語は、抗体と同様に、抗原を特異的に結合することができるが、抗体と構造的には関連していない有機化合物を参照する。それらは、通常、約3~20kDaのモル質量を有する人工のペプチド又はタンパク質である。それらは、治療効果又は診断効果を有していてよい。抗体模倣物の限定されない例は、アフィボディ(affibodies)、アフィリン(affilins)、アフィマー(affimers)、アフィチン(affitins)、アンチカリン(anticalins)、アビマー(avimers)、DARPins、フィノマー(fynomers)、クニッツドメインペプチド(Kunitz domain peptides)、モノボディ(monobodies)、タンパク質AのZドメイン、ガンマB結晶、ユビキチン(ubiquitin)、シスタチン(cystatin)、スルフォロブスアシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)からのSac7D、リポカリン(lipocalin)、膜受容体のAドメイン、アンキリン反復モチーフ(ankyrin repeat motive)、FynのSH3ドメイン、プロテアーゼ抑制剤のクニッツドメイン、フィブロネクチンの10番目のIII型ドメイン(the 10th type III domain of fibronectin)、合成ヘテロ二価又はヘテロ多価リガンド(Josan et al., 2011, Xu et al., 2012, Shallal et al., 2014)である。
【0050】
ここで参照される「異種ポリペプチドリガンド」又は「リガンド」の用語は、2、3、又は4リガンド等の1つ以上のリガンドを含む。このことは、組み換えヘルペスウイルスが1つのリガンドを備えていてよく又は2つ以上のリガンドを備えていてもよいことを意味する。1つのリガンドの存在は、1つの標的細胞タイプの標的化を可能にする。2つ以上のリガンドが存在する場合、それらのリガンドは、1つのgBにおいて当該gB分子内の異なる部位上又は同じ部位上に位置するように融合又は挿入されていてよく、即ち逐次的に融合又は挿入されていてよく、あるいはそれらのリガンドは、異なるgBsに融合又は挿入されていてもよい。あるいは、2つ以上のリガンドが存在する場合、2番目のリガンド又は更なる1つ以上のリガンドは、gD及び/又はgH等のgB以外のヘルペスウイルスの糖タンパク質に含まれていてもよい。異なるリガンドは、同じ標的細胞上又は異なる標的細胞上、好ましくは異なる標的細胞上に存在する、異なる標的分子を標的化してよい。上記に類似して、ここで用いられる「標的分子」の用語は、2、3、又は4標的分子等の1つ以上の標的分子を含む。結果として、組み換えヘルペスウイルスは、1つの標的細胞に結合してよく、あるいは2つ、3つ、又は4つの異なる細胞等の2つ以上の標的細胞に結合してもよい。
【0051】
本発明の好ましい実施形態においては、異種ポリペプチドリガンドは、疾患細胞上、好ましくは腫瘍細胞上、より好ましくは乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形性膠芽腫細胞、又は唾液腺腫瘍細胞等のHER2を発現する腫瘍細胞上の天然受容体に結合可能な人工ポリペプチド、好ましくはscFvである。より好ましい実施形態においては、異種ポリペプチドリガンドは、HER2に結合可能なscFvである。最も好ましい実施形態においては、異種ポリペプチドリガンドは、配列ID番号32によって特定されるscFvである。
【0052】
本発明の付加的又は代替的に好ましい実施形態においては、異種ポリペプチドリガンドは、細胞培養物中に存在する細胞上にある人工標的分子に結合可能な人工ポリペプチド、好ましくは天然ポリペプチドの一部である。リガンドの長さは、より好ましくは約50アミノ酸残基未満、更に好ましくは約40アミノ酸残基未満、更に好ましくは約10~約30アミノ酸、又は最も好ましくは20アミノ酸である。リガンド及び標的分子は、互いに結合するように特異的に構築される。より好ましくは、異種ポリペプチドリガンドは、GCN4酵母転写因子の一部である。更に好ましくは、異種ポリペプチドリガンドは、配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子の一部であり、最も好ましくはリガンドは、配列ID番号37の配列によって特定される分子である。代替的な実施形態においては、リガンドは、配列ID番号38の配列によって特定される分子であってもよい。
【0053】
本発明のより好ましい実施形態においては、上述した好ましい実施形態及び代替的実施形態が組み合わされる。即ち、本発明の組み換えヘルペスウイルスは2つの異種ポリペプチドリガンドを同時に備え、一方は疾患細胞に結合可能であり、他方は細胞培養物中に存在する細胞に結合可能である。
【0054】
gBに融合又は挿入されたポリペプチドリガンドとして使用されるGCN4酵母転写因子は先端技術である(例えば、Arndt and Fin, 1986; Hope and Struhl, 1987参照)。例示的なGCN4酵母転写因子は、AJ585687.1(配列ID番号42)によってコードされた配列ID番号43(UniProtKB-P03069(GCN_YEAST))によって特定されるものである。ここで参照される「GCN4酵母転写因子」の用語は、天然に存在する任意のGCN4酵母転写因子を参照する。あるいは、ここで参照されるGCN4酵母転写因子は、配列ID番号43の配列の少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%に対してアミノ酸同一性を有する任意のGCN4酵母転写因子を参照する。あるいは、ここで参照されるGCN4酵母転写因子は、配列ID番号43の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、又は100%に対してアミノ酸相同性を有する任意のGCN4酵母転写因子を参照する。GCN4酵母転写因子は、配列ID番号43の少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%に対して同一性を有する場合、配列ID番号43の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%に対してアミノ酸相同性を有する場合、又は配列ID番号43に係るGCN4酵母転写因子と同じ活性を有する場合、「相同」又は「相同体」である。好ましくは、「同じ活性」は、GCN4酵母転写因子が配列ID番号43に係るGCN4酵母転写因子と同じように転写因子として働くという意味で理解されてよい。用語「その一部」は、「その一部」が結合可能な標的分子がGCN4酵母転写因子の任意の部分に対して生成され得る場合のその部分を含む。従って、好ましくは、「その一部」の長さは、274アミノ酸以下、好ましくは200アミノ酸残基未満、より好ましくは50アミノ酸残基未満、更に好ましくは40アミノ酸残基未満、更に好ましくは10~30アミノ酸の間、更に好ましくは20アミノ酸のリガンド長がもたらす長さであり、これによりリガンドはリンカー配列等の追加の配列を含んでいてよい。最も好ましい「その一部」は、2つの隣接wt(野生型)GCN4残基が各側に付加されてよいGCN4酵母転写因子の配列YHLENEVARLKK(配列ID番号38)である。gBへの融合又は挿入のために、ペプチドの各側にGSリンカーが追加的に存在していてよい。この構築物は、ここではGCN4ペプチド(配列ID番号37)と命名される。この20アミノ酸ペプチドは、ヘルペスウイルスに対して、「その一部」が結合する標的分子を有する細胞株に感染してそこで複製する能力を付与する。
【0055】
本発明の組み換えヘルペスウイルスにおいて、リガンドは、成熟gB(配列ID番号2)のアミノ酸13及び14に対応するgBのアミノ酸43及び44の間のgBに融合又は挿入されていてよい。この文脈において、ここで用いられる「融合された」又は「融合」の用語は、直接的に又はペプチドリンカーを介して間接的に、ペプチド結合によるgBのN末端アミノ酸へのポリペプチドリガンドの付加を参照する。「融合された」又は「融合」がgBの末端への付加を意味する限りにおいて、N末端領域に対する「融合された」又は「融合」は「挿入」とは異なる一方で、「挿入」はgBへの組み込みを意味する。
【0056】
ここで参照されるペプチドリンカーは、ポリペプチド内で、異なる供給源に由来するポリペプチド配列を連結するように機能する。このようなリンカーは、連結するように機能すると共に異種ポリペプチドリガンドの糖タンパク質B配列との適切な折り畳みを可能にし又は異種ポリペプチドリガンド内のリガンド部分を連結するように機能する。リンカーはまた、リガンド配列をgB以外の糖タンパク質配列と連結するように機能してよい。リンカーは、典型的には1及び30アミノ酸の間の長さ、好ましくは5~25アミノ酸の長さ、より好ましくは8、12又は20アミノ酸等の8~20アミノ酸の長さを有し、任意のアミノ酸を備えていてよい。好ましくは、リンカーは、1つ以上のアミノ酸Gly及び/又はSer及び/又はThrを含み、より好ましくは、Gly、Ser及び/又はThrからなる群から選択される少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30アミノ酸を備える。最も好ましくは、リンカーは、アミノ酸Gly及び/又はSerからなる。Gly及び/又はSerに基づくリンカーは、柔軟性、良好な溶解性及びタンパク質分解に対する耐性を提供する。あるいは、リンカーは、グリシン、セリン及び/又はトレオニンを主に備えていなくてもよいが、グリシン、セリン及び/又はスレオニンは存在しなくてもよく又は僅かしか存在しなくてもよい。
【0057】
本発明の組み換えヘルペスウイルスにおいては、リガンドは、gBの不規則領域(disordered region)内の任意のアミノ酸に代替的に挿入されていてよく、これにより、リガンドは、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内におけるいずれのアミノ酸にも挿入されていない。しかし、120アミノ酸を超えない短い長さのリガンドは、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内において挿入されていてよい。ここで参照される場合、不規則領域は、固定された三次構造を欠き、構造化されておらず、結果として結晶構造内で解くことのできない領域を備えていることを意味する。しばしば、不規則領域は拡張され、即ちランダムコイル状に拡張され、あるいはつぶれている、即ちモルテングロビュール(molten globule)状につぶれている。gB内の不規則領域は、ガラハーら、2014、ヘルドワインら、2006、及びリンら、2007(Heldwein et al., 2006, and Lin et al., 2007)において参照されており、HSVgBのN末端領域(アミノ酸31からアミノ酸108まで伸びる)内、中央領域(アミノ酸460からアミノ酸491まで伸びる)内及びC末端領域(アミノ酸796からアミノ酸904まで伸びる)内に存在していてよい(Heldwein et al., 2006)。不規則であると言及される位置は、HSV‐1gBのアミノ酸31~108(N末端領域)(Lin et al., 2007)、アミノ酸460~491(中央領域)(Heldwein et al., 2006)及びアミノ酸796~904(C末端領域)(Heldwein et al., 2006, Lin et al. 2007)である。好ましくは、リガンドは、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸31~108又は460~491にわたる領域内又は相同gBの対応領域内の任意のアミノ酸に挿入されていてよい。リガンドは、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内において挿入されていない。しかし、120アミノ酸を超えない短い長さのリガンドは、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内において挿入されていてよい。
【0058】
あるいは、リガンドは、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸31~77若しくは88~184、好ましくはアミノ酸31~77若しくは88~136若しくはより好ましくは31~77若しくは88~108にわたる領域内、若しくはアミノ酸409~545、好ましくはアミノ酸459~545、より好ましくはアミノ酸459~497、若しくは更に好ましくはアミノ酸460~491にわたる領域内又は相同gBの対応領域内における任意のアミノ酸に挿入されていてよい。また、120アミノ酸を超えない短い長さのリガンドは、配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内において挿入されていてよい。これらの領域は、gBの不規則領域内に位置するアミノ酸を含むが、不規則領域の近傍に位置するアミノ酸をも含む。上述したそれらの領域は、ポリペプチド挿入を受け入れることにより、gB及び受容体を担持している細胞の膜融合を媒介する融合因子として機能するgBの能力を維持することが分かっている(Gallagher et al., 2014; Lin and Spear, 2007; Potel et al., 2002)。
【0059】
リガンドがgBに挿入されるという意味でここで参照される「挿入された」又は「挿入」という用語は、gB内へのポリペプチドリガンドの組み込みを参照し、組み込まれたポリペプチドは、直接的に、又は1つ以上のペプチドリンカー、より具体的には挿入部分に関して上流側及び/又は下流側に位置するペプチドリンカーを介して間接的に、ペプチド結合によって、gBの2つのアミノ酸の間に導入される。リンカーはポリペプチドリガンドに直接連結される。gBへのポリペプチドリガンドの融合はまた、配列ID番号1又は相同gBによって例示されるgB前駆体の、gBのアミノ酸1の直前へのポリペプチドリガンド配列の挿入としても見ることができ、このような挿入をここでは融合と称する。融合又は挿入されたポリペプチドを担持しているgBは、ここではキメラgBと称される。キメラgBは、ビリオンエンベロープの一部である。「リンカー」の定義は上述したとおりである。
【0060】
挿入及び融合は、好ましくは、HSVのゲノム中のgB遺伝子の遺伝子操作によって実施される。HSVゲノムの遺伝子操作は当該分野において既知であり、限定はされないが、BAC技術が例示される。
【0061】
本発明者らは、HER2に対するscFvがアミノ酸81~82の間に挿入される、配列ID番号3により例示されるgBのアミノ酸77~88の領域内でのアミノ酸への異種ポリペプチドリガンドの挿入が、リガンドの受容体を担持している細胞に対する組み換えヘルペスウイルスの再標的化をもたらさないことを見出した。本発明者らは、この再標的化の欠如の理由が、この領域内の高プロリン領域(proline-rich region)(PPPPXP)及び予測されるNグリコシル化部位(NAT)の存在であると考えている。プロリンは、タンパク質二次構造を破壊し、及び/又はそれ自身の種類の二次構造であって、二次構造の他の形態を無効にする(overrides)制限されたファイ角(confined phi angle)を有する二次構造を課し(Morgan and Rubistein, 2013)、またポリプロリンヘリックスが局所的形状において急な屈曲を誘発し得るので、この領域におけるポリプロリンストレッチは、リガンドによって採用された立体構造を制限した可能性がある。加えて、この領域内のNグリコシル化部位は、リガンドを遮蔽していた可能性がある。結果として、リガンドは、細胞表面上のその受容体との相互作用に対して十分には利用可能でない可能性がある。また、本発明者らは、異種ポリペプチドリガンドが短い長さのものである場合に、gBのアミノ酸77~88にわたる領域内の任意のアミノ酸への異種ポリペプチドリガンドの挿入が、リガンドの受容体を担持している細胞に対する組み換えヘルペスウイルスの再標的化をもたらしていることも見出した。従って、本発明は、標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドであってヘルペスウイルスのエンベロープ内に存在する糖タンパク質B(gB)に挿入された異種ポリペプチドリガンドを備える組み換えヘルペスウイルスであって、リガンドが、短い長さを有し且つ配列ID番号1に係るgBのアミノ酸77~88にわたる領域内又は相同gBの対応領域内における任意のアミノ酸に挿入されている、組み換えヘルペスウイルスを提供する。「短い長さ」は、5~120アミノ酸、5~110、5~100、5~90、5~80、5~70、5~60、5~50、5~40、5~30、5~25、10~30、10~20、20又は12アミノ酸等の120アミノ酸を超えない長さを意味する。好ましくは、リガンドは10~30アミノ酸の長さを有し、より好ましくはリガンドは12~20アミノ酸の長さを有し、更に好ましくはリガンドは12又は20アミノ酸である。挿入は、アミノ酸77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、又は87の後ろ等のアミノ酸77~88の間の任意のアミノ酸におけるものであってよい。好ましくは、リガンドは、アミノ酸81及び82の間に挿入される。上述した任意のアミノ酸の後ろで挿入された上述の長さのリガンドの任意の組み合わせは、リガンドの標的分子に対するヘルペスウイルスの再標的化をもたらす。好ましくは、異種ポリペプチドリガンドは、配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子の一部のようなGCN4酵母転写因子の一部等の、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能な天然のポリペプチドの一部であってよい。最も好ましくは、リガンドは、配列ID番号37の配列によって特定される分子である。このようなリガンドは、アミノ酸77~88にわたる領域内の任意のアミノ酸に挿入されてよく、好ましくはアミノ酸81~82の間に挿入される。最も好ましくは、リガンドは、gBのアミノ酸81及び82の間に挿入された配列ID番号37の配列によって特定される分子である。アミノ酸番号は、配列ID番号1又は相同gBの対応アミノ酸を参照する。
【0062】
ここで用いられる場合、標的分子は、細胞の表面上でアクセス可能な任意の分子であって、異種ポリペプチドリガンドによって結合され得る任意の分子であってよい。標的分子は、ポリペプチド若しくはタンパク質等の天然分子、糖脂質又はグリコシドであってよい。例えば、標的分子は、タンパク質受容体等の受容体であってよい。受容体は、リガンドの結合を介して外部から化学信号を受け取り、何らかの形態の細胞応答を生じさせる、細胞の膜に埋め込まれた分子である。あるいは、標的分子は、細胞の表面上に存在する酵素、輸送体又はイオンチャネル等の薬物標的である分子であってよい。好ましくは、標的分子は、疾患細胞上又は細胞培養物中に存在する細胞上にある。好ましい標的分子は、生体の疾患細胞上に以下に述べるような特異的な又は異常な様式(specific or abnormal manner)で自然に存在するものである。「特異的な様式」は、標的分子が疾患細胞上で過剰に発現しているという意味で理解されてよいが、標的分子は、正常細胞上では発現していないか、発現していても僅かな程度、即ち標的分子がそれぞれの正常細胞上に通常存在するほどの程度でしかない。「異常な様式」は、標的分子が、それぞれの非疾患細胞のそれぞれの分子との対比において、疾患細胞上に変異形態で存在するという意味で理解されてよい。従って、特異的に発現又は変異した標的分子等の標的分子にヘルペスウイルスを再標的化すると、結果として、標的分子を担持していない又は標的分子をより低いレベルで担持している又は野生型(変異していない)標的分子を担持している細胞と比較して、標的分子を担持している細胞の感染率及び根絶率がより高くなる。
【0063】
あるいは、標的分子は人工分子であってよい。ここで参照される「人工標的分子」の用語は、天然に存在しない分子、即ち非天然アミノ酸配列を有する分子である。このような人工分子は、例えばダグラスら、1999及びナカムラら、2005(Douglas et al., 1999; and Nakamura et al., 2005)に記載されているように、その表面上の細胞によって発現するように構築されてよく、あるいは細胞表面によって結合されてよい。人工標的分子は、特定のリガンドを結合するように機能する天然には生じないアミノ酸配列を有する。人工標的分子の例は、抗体誘導体又は抗体模倣物である。人工標的分子は、好ましくは、組み換えヘルペスウイルスを産生するために使用されてよい細胞培養物中に存在する細胞の表面上にある。細胞培養物中に存在する細胞上にある好ましい人工標的分子はscFvである。人工標的分子との関連で、抗体は、抗体が天然には産生されない細胞培養物中に存在する細胞上にあってよい「人工標的分子」という用語に含まれる。
【0064】
好ましい実施形態においては、標的分子は、、腫瘍関連受容体であり、好ましくはHER2、EGFR、EGFRIII若しくはEGFR3(ERBB3)、EGFRvIIIを含むEGF受容体ファミリーのメンバー、MET、FAP、PSMA、CXCR4、CEA、CADC、ムチン、葉酸結合タンパク質、GD2、VEGF受容体1及び2、CD20、CD30、CD33、CD52、CD55、インテグリンファミリー、IGF1R、エフリン受容体ファミリー、タンパク質‐チロシンキナーゼ(TK)ファミリー、RANKL、TRAILR1、TRAILR2、IL13Rアルファ、UPAR、テネイシン、PD‐1、PD‐L1、CTL‐A4、免疫チェックポイントファミリー制御因子の追加メンバー、腫瘍関連糖タンパク質72、ガングリオシドGM2、A33、ルイスY抗原、又はMUC1であり、最も好ましくはHER2である。好ましくは、標的分子は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形性膠芽腫細胞、若しくは唾液腺腫瘍細胞等の何らかの腫瘍細胞によって過剰発現されるが、非悪性組織においては非常に低いレベルでしか発現されないHER2である。腫瘍関連受容体は、腫瘍細胞によって特異的又は異常な様式で発現される受容体である。あるいは、標的分子は、細胞に感染した病原体(例えば、ウイルス、バクテリア又はパラサイト)等の感染因子に由来する分子である。標的分子は、感染細胞(HBVからのHBsAg、HIVからのgpl20、HCVからのE1又はE2、EBVからのLMP1又はLMP2等)の表面上で発現される。病原体は、慢性感染性疾患等の感染性疾患をもたらすことがある。あるいは、標的分子は、CXCR2若しくはIL‐1受容体等のように、変性障害関連細胞(degenerative disorder-associated cell)によって又は老化細胞によって発現される。他の好ましい実施形態においては、標的分子は、抗体誘導体、より好ましくはscFv、更に好ましくはGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFvであり、更に好ましくは配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFvであり、更に好ましくは配列ID番号39に含まれるscFvであり、最も好ましくは配列ID番号41の配列により特定される分子である。
【0065】
ここで用いられる「細胞」の用語は、標的分子を担持する任意の細胞であって、本発明の組み換えヘルペスウイルスが感染し得る任意の細胞である。細胞は、疾患細胞等の望ましくなく排除されるべき自然発生の細胞であってよい。疾患細胞の例を以下に示す。好ましい疾患細胞は、HER2を備えるものである。あるいは、細胞は、組み換えヘルペスウイルスを産生するように機能する細胞であってよい。そのような細胞は、本発明の組み換えヘルペスウイルスが感染し得る任意の細胞であって、ヘルペスウイルスを産生することができる任意の細胞であってよい。また、ヒトにおける腫瘍細胞のような疾患細胞のDNA、RNA及び/又はタンパク質等の物質の導入を避けるために、疾患細胞においてヘルペスウイルスの増殖を回避すべきである。従って、ヘルペスウイルスを産生する細胞は、ヒトに存在する場合に有害でない細胞、例えば非疾患細胞である。細胞は細胞株として存在してもよい。組み換えヘルペスウイルスを産生するために、細胞は細胞培養物中に存在する。従って、組み換えヘルペスウイルスを産生するように機能する細胞は、ここでは「細胞培養物中に存在する細胞」と称する。このように、細胞は、ヘルペスウイルスの増殖に適した培養細胞であってよく、好ましくは、細胞はヘルペスウイルス増殖のために認められた細胞株である。そのような細胞の例は、Vero、293、293T、HEp‐2、HeLa、BHK、又はRS細胞であり、好ましくはVero細胞である。好ましくは、細胞培養物中に存在する細胞は、対応する親細胞によっては自然に発現されない標的分子を発現するように改変されており、あるいは細胞培養物中に存在する細胞が改変され、その表面上の標的分子を結合する。より好ましくは、細胞は、標的分子として抗体誘導体を備え、更に好ましくはscFvを備え、更に好ましくはGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFvを備え、更に好ましくは配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFvを備え、更に好ましくは配列ID番号39に含まれるscFvを備え、最も好ましくは配列ID番号41の配列により特定される分子を備える。
【0066】
「培養」細胞は、当該分野で知られているように、維持及び増殖されたインビトロ細胞培養物中に存在する細胞である。培養細胞は、一般にそれらの自然環境の外で、制御された条件下で増殖する。通常、培養細胞は、多細胞真核生物、特に動物細胞に由来する。「ヘルペスウイルスの増殖のために認められた細胞株」は、ヘルペスウイルスが感染し得ることが既に示されている、即ちウイルスが細胞に侵入し増殖してウイルスを産生できることが既に示されている任意の細胞株を含むことを意味する。細胞株は、単一細胞に由来し、同じ遺伝子組成を含む細胞の集団である。組み換えヘルペスウイルスの増殖及び産生のための好ましい細胞は、Vero、293、293T、HEp‐2、HeLa、BHK、又はRS細胞である。
【0067】
ここで用いられる「疾患細胞」の用語は、生体に悪影響を及ぼし、従って望ましくない細胞を参照する。このような細胞を死滅させることは、生命を守ることができ、あるいは生体の健康を増強するので、そのような細胞の根絶が望まれている。好ましい実施形態においては、疾患細胞は異常増殖を特徴とし、より好ましくは細胞は腫瘍細胞である。代替的な実施形態においては、細胞は、慢性感染細胞等の感染細胞、変性疾患関連細胞又は老化細胞である。
【0068】
腫瘍細胞の場合、基礎疾患は腫瘍であり、好ましくは副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳/CNS腫瘍、乳癌、未知の一次治療の癌、キャッスルマン疾患、子宮頸癌、結腸/直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイングファミリーの腫瘍、眼癌、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(gist)、妊娠性絨毛性疾患、ホジキン疾患、カポジ肉腫、腎臓癌、咽頭及び下咽頭癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、皮膚のリンパ腫、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び口腔咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体部腫瘍、前立腺癌、網膜芽細胞腫、横紋筋腫、唾液腺癌、成人の軟組織肉腫癌、皮膚癌、小腸癌、胃癌、睾丸癌、胸腺癌、甲状腺癌、子宮肉腫、膣癌、外陰癌、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍からなる群から選択される腫瘍である。好ましい腫瘍疾患は、HER2陽性癌(乳癌、卵巣癌、胃癌、肺癌、頭頸部癌、骨肉腫及び多形性膠芽腫など)、EGFR陽性癌(頭頸部癌、多形性膠芽腫、非小細胞肺癌、乳癌、結腸直腸及び膵臓癌など)、EGFR‐vIII陽性癌(多形性膠芽腫など)、PSMA陽性癌(前立腺癌など)、CD20+陽性リンパ腫、並びにバーキットリンパ腫等のB細胞リンパ増殖障害、古典的ホジキンリンパ腫、及び免疫障害を持つ個体に生じるリンパ腫(移植後及びHIV関連リンパ増殖性障害)のようなEBV関連腫瘍、T細胞リンパ増殖性障害、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、鼻型節外性ナチュラルキラー/T細胞リンパ腫である。
【0069】
感染細胞の場合、基礎疾患は慢性感染性疾患等の感染性疾患であり、感染因子はウイルス、バクテリア又はパラサイトであってよい。例は、結核、マラリア、慢性ウイルス性肝炎(HBV、D型肝炎ウイルス及びHCV)、後天性免疫不全症候群(HIV、ヒト免疫不全ウイルスによって引き起こされるAIDS)、EBV関連障害、又はHCMV関連障害である。
【0070】
変性疾患関連細胞の場合、基礎疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ルーゲーリック病、変形性関節症、アテローム性動脈硬化症、シャルコーマリーツース病(CMT)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性脳症、糖尿病、エーラーダンロス症候群、本態性振戦(essential tremor)、フリードライヒ失調症、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、円錐角膜、球状角膜、黄斑変性症、マルファン症候群、多発性硬化症、多系統萎縮症、筋ジストロフィー、ニーマンピック病、骨粗しょう症、パーキンソン病、進行性核上麻痺、前立腺炎、網膜色素変性症、関節リウマチ、又はテイサックス病であってよい。「変性疾患関連細胞」の用語は、疾患と関連する細胞を参照し、細胞の変化が疾患の進行に寄与するか、あるいは疾患の結果として細胞が変化することを意味する。その細胞を破壊すると、その疾患の治療がもたらされる。
【0071】
老化細胞の場合、基礎疾患は、(i)早期老化を特徴とする早老症候群と呼ばれる希少遺伝的疾患:ウェルナー症候群(WS)、ブルーム症候群(BS)、ロスムンドトムソン症候群(RTS)、コケーン症候群(CS)、色素性乾皮症(XP)、硫黄欠乏性毛髪発育異常症(trichothiodystrophy)若しくはハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(HGPS)又は(ii)肥満、2型糖尿病、サルコペニア、変形性関節症、特発性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患、白内障、神経変性疾患、全身性自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、又はシェーグレン症候群)、若しくは多発性硬化症等の共通年齢関連疾患、等の老化関連疾患である。
【0072】
本発明の組み換えヘルペスウイルスは、キメラgBに加えて、WO2009/144755に開示されるような改変gD糖タンパク質を備えていてよいが、改変の種類には限定されない。改変gDは、成熟gDのアミノ酸部分6~38の欠失を担持していてよい(配列ID番号5によって例示される;例示的なgD野生型前駆体配列が配列ID番号4において示される)。あるいは、改変gDは、ヘルペスウイルス親和性を天然受容体ネクチン1及びHVEMから脱標的化する(detarget)他の改変を担持していてもよい。gDは、ヘルペスウイルス親和性を脱標的化とする改変に代えて、又はそれに加えて、選択された最適な受容体にヘルペスウイルスの親和性を再アドレスする追加的な配列をコードし、ここでいう選択された最適な受容体は、組み換えR‐LM113(配列ID番号6)に記載されているように、HER2受容体等の疾患細胞上の受容体である。gDの改変は、ここで定義されるような異種ポリペプチドリガンドをgDに融合させ又は挿入することによって生じる。本発明の組み換えヘルペスウイルスは、キメラgBに加えて、標的受容体分子にgHを再標的化することが可能な改変gH糖タンパク質であって、ここで定義されるような異種ポリペプチドリガンドを備える改変gH糖タンパク質を備えていてよい。本発明の組み換えヘルペスウイルスは、キメラgBに加えて、ガッタら、2015(Gatta et al., 2015)に開示されるような改変gD及び改変gH糖タンパク質を備えていてよいが、それらの記載には限定されない。両文献は参照によりここに組み込まれる。gD及び/又はgHの改変は、ここに定義される疾患細胞に対してヘルペスウイルスの親和性を再アドレスするのに役立つ。
【0073】
このように、本発明の実施形態においては、本発明の組み換えヘルペスウイルスは、疾患細胞等の細胞、例えばHER2を発現する細胞、又は細胞培養物中に存在する細胞等の細胞上でアクセス可能な標的分子に結合するリガンドを備えるキメラgBと、改変gDとを備え、それにより、改変はアミノ酸6~38の欠失であってよい。gDは、代替的に又は加えて、ヘルペスウイルスを疾患細胞に再標的化することが可能なここで定義される異種ポリペプチドリガンドの挿入によって改変されていてよい。加えて又は代替的に、組み換えヘルペスウイルスは、ヘルペスウイルスを疾患細胞に再標的化することが可能なここで定義される異種ポリペプチドリガンドを備える改変gHを備えていてよい。
【0074】
また、本発明者らは、配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域に関するgDからのアミノ酸30~38又はそのサブセットの欠失が、非改変gDの天然受容体から脱標的化される組み換えヘルペスウイルスをもたらすことを見出した。このように、本発明の実施形態においては、組み換えヘルペスウイルスは、ここで定義されるgBに融合又は挿入されリガンドの標的分子に再標的化されるここで定義される異種ポリペプチドリガンドとgDとを備え、配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域に関して、gDのアミノ酸30~38又はそのサブセット、好ましくはアミノ酸30及び/又は38、より好ましくはアミノ酸30及びアミノ酸38が、組み換えペルペスウイルスから欠失している。
【0075】
欠失アミノ酸30~38又はそのサブセットの代わりに、ここで定義される異種ポリペプチドリガンドが挿入されてよく、それにより、非改変gDの天然受容体からの組み換えヘルペスウイルスの脱標的化及びリガンドの標的分子への再標的化がもたらされる。異種ポリペプチドリガンドによるサブセットの置換に加えて、アミノ酸30~38内の追加のアミノ酸又は追加の範囲のアミノ酸が欠失していてよい。このように、好ましい実施形態においては、アミノ酸30及び38が欠失し、異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸30又は38の代わりに挿入される。より好ましくは、アミノ酸30及び38が欠失し、異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸38の代わりに挿入される。
【0076】
「そのサブセット」という用語は、アミノ酸30~38からなる領域のうちの1つのアミノ酸又は2、3、4、5、6、7、又は8等の少なくとも2つの隣接アミノ酸を意味する。従って、「そのサブセット」は、アミノ酸30、31、32、33、34、35、36、37、又は38、30~31、30~32、30~33、30~34、30~35、30~36、30~37、30~38、31~32、31~33、31~34、31~35、31~36、31~37、31~38、32~33、32~34、32~35、32~36、32~37、32~38、33~34、33~35、33~36、33~37、33~38、34~35、34~36、34~37、34~38、35~36、35~37、35~38、36~37、36~38、37~38を意味してよい。「サブセット」という用語は、2、3、4、又は5サブセット等の1つ以上のサブセットを備えていてよい。例えば「サブセット」は、アミノ酸30及びアミノ酸38を備えていてよく、その欠失は、アミノ酸30及び38を備えていないgDをもたらす。アミノ酸30~38のサブセット又は全体の欠失は、ネクチン1に対するgDの結合能力を低下させるgDのネクチン1結合部位の不活性化及び/又はHVEMに対するgDの結合能力を低下させるgDのHVEM結合部位の不活性化をもたらす。例えば、アミノ酸30が欠失すると、gDのHVEM結合部位が不活性化され、アミノ酸38の欠失は、ネクチン1結合部位の不活性化をもたらす。アミノ酸30及び38の両方の欠失は、HVEM結合部位及びネクチン1結合部位の不活性化をもたらす。
【0077】
アミノ酸30~38又はそのサブセットの代わりに挿入される異種ポリペプチドリガンドは、疾患細胞上に存在する標的分子に結合可能なリガンド、好ましくは乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形性膠芽腫細胞、又は唾液腺腫瘍細胞等の癌細胞上に存在するHER2等の標的分子に結合可能なscFv、より好ましくは配列ID番号32によって特定されるscFvであってよく、それにより、標的分子は、HER2を発現する腫瘍細胞上に存在するHER2である。
【0078】
本発明の特に好ましい実施形態においては、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドは、アミノ酸43~44の間のgBに挿入され、疾患細胞上に存在する標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドは、gDのアミノ酸38の代わりに挿入され、gDからアミノ酸30が更に欠失する。最も好ましくは、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドは、配列ID番号37によって特定される配列を備え、標的分子は、配列ID番号41によって特定される配列を有する分子であり、細胞培養物中に存在する細胞は、配列ID番号41の配列によって特定される分子を発現し、疾患細胞上に存在する標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドは、配列ID番号32によって特定されるscFvを備え、標的分子はHER2であり、細胞は、HER2を発現する腫瘍細胞、好ましくは乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、肺癌細胞、頭頸部癌細胞、骨肉腫細胞、多形性膠芽腫細胞、又は唾液腺腫瘍細胞である。
【0079】
また、gDを備える組み換えヘルペスウイルスが開示され、そこからは、配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応領域若しくは対応アミノ酸に関するアミノ酸30~38又はそのサブセット、好ましくはアミノ酸30及び/又は38、より好ましくはアミノ酸30及びアミノ酸38が欠失している。欠失アミノ酸30~38又はそのサブセットの代わりに、ここで定義される異種ポリペプチドリガンドが挿入されてよく、それにより、非改変gDの天然受容体からの組み換えヘルペスウイルスの脱標的化及びリガンドの標的分子への再標的化がもたらされる。異種ポリペプチドリガンドによる欠失アミノ酸又は欠失アミノ酸の範囲の置換に加えて、アミノ酸30~38内の追加のアミノ酸又は追加の範囲のアミノ酸が欠失していてよい。このように、例えば、アミノ酸30及び38が欠失し、異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸30又は38の代わりに挿入される。例えば、アミノ酸30及び38が欠失し、異種ポリペプチドリガンドがアミノ酸38の代わりに挿入される。
【0080】
gDに関するアミノ酸番号は、配列ID番号62に係る成熟gD又は相同gDの対応アミノ酸を参照する。従って、配列ID番号62に係る成熟gDに関するアミノ酸30はアミノ酸55に対応し、配列ID番号62に係る成熟gDに関するアミノ酸38は配列ID番号4(前駆体形態)に係るアミノ酸63に対応する。gBに関するアミノ酸番号は、配列ID番号1(前駆体形態)に係るgB又は相同gBの対応アミノ酸を参照する。
【0081】
gD相同体は、ヘルペスウイルス科のアルファサブファミリーの幾つかのメンバーにおいて見出される。従って、ここで参照される「相同gD」の用語は、ヘルペスウイルス科のgDコード化メンバー(gD-encoding members)において見出される任意のgD相同体を参照する。あるいは、ここで参照される相同gDは、それぞれ配列ID番号4又は62の配列の少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%に対してアミノ酸同一性を有する任意のgD、前駆体又は成熟体を参照する。あるいは、ここで参照される相同gDは、それぞれ配列ID番号4又は62の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、又は100%に対してアミノ酸相同性を有する任意のgD、前駆体又は成熟体を参照する。ここで参照される相同gDは、gDの断片をも含む。好ましくは、それぞれ配列ID番号4又は62の配列に対して上述したアミノ酸同一性又は相同性を有する、ヘルペスウイルス科で見出される任意のgD、任意のgD、前駆体又は成熟体を含む、ここで参照される相同gD、及びgDの任意の断片は、配列ID番号4又は62に係るgDの同じ活性を有する。より好ましくは、細胞へのウイルスの侵入プロセスの間、gDはその受容体の1つに結合し、それにより更に好ましくはgH/gLヘテロ二量体と相互作用し、更に好ましくは結果としてgDのプロフュージョンドメイン(profusion domain)を除去する。
【0082】
本発明の組み換えヘルペスウイルスは、更に、上記で定義した細胞、好ましくは疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子をコードしてよい。宿主免疫応答を刺激する分子は、「免疫療法分子(immunotherapy molecule)」とも称される。従って、本発明の組み換えヘルペスウイルスは、組合わされた腫瘍溶解性及び免疫療法ウイルス(combined oncolytic and immunotherapeutic virus)であってよい。免疫療法ウイルスは、細胞に対する宿主免疫応答を増強する分子をコードするウイルス、即ち細胞に対して向けられるように宿主免疫応答を刺激する分子をコードするウイルスである。そのようなウイルスの例は、T‐VECである(Liu et al., 2003)。
【0083】
キメラgBに加えて、免疫療法分子は、組み換えウイルスが、異種ポリペプチドリガンドを介した細胞の特異的な標的化及び死滅に加えて、特異的又は非特異的な様式で被験体の免疫系を刺激することを可能にする。被験体における組み換えウイルスによる免疫療法分子の発現は、最終的に疾患細胞の死滅をもたらす免疫応答を引き起こすことができる。免疫療法は特異的に作用してよく、免疫療法分子は、1つ以上の細胞上に存在する1つ又は幾つかの特異抗原に対する被験体の免疫系を刺激する。例えば、免疫療法分子は、特異的細胞表面受容体、例えばCD20、CD274、及びCD279に対して向けられる抗体であってよい。一旦抗原に結合すると、抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)を引き起こすことができ、補体系を活性化することができ、あるいは受容体がそのリガンドと相互作用するのを防ぐことができる。その全てが細胞死をもたらすことができる。好ましい細胞は腫瘍細胞である。この技術は当該分野において既知であり認められている。アレムツズマブ(Alemtuzumab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、オファツムマブ(Ofatumumab)、及びリツキシマブ(Rituximab)を含む、癌を治療するために認められた複数の抗体がある。あるいは、免疫療法分子は、被験体の免疫系を刺激することによって非特異的に作用することができる。免疫療法分子の例は、なかでもサイトカイン、ケモカイン又は免疫チェックポイント制御因子である。例えば、幾つかのサイトカインは、抗腫瘍活性を増強する能力を有し、受動的癌治療として使用することができる。サイトカインの免疫療法分子としての使用は、当該分野において既知である。サイトカインの例は、GM‐CSF、インターロイキン2(interleukin-2)、インターロイキン12、又はインターフェロンαである。GM‐CSFは、例えば、ホルモン抵抗性前立腺癌(hormone-refractory prostate cancer)又は白血病の治療に使用される。インターロイキン2は、例えば、悪性黒色腫及び腎細胞癌の治療に使用される。IL‐12は、膠芽細胞腫の実験的治療に使用される。インターフェロンαは、例えば、有毛細胞白血病、AIDS関連カポジ肉腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髄性白血病及び悪性黒色腫の治療に使用される。
【0084】
本発明の組み換えヘルペスウイルスは、例えば、ウイルス遺伝子y34.5、UL39、及び/又はICP47等の、ウイルス毒性を弱毒化するものとして知られている遺伝子の欠失又は変化によって弱毒化されてよい。「弱毒化された」という用語は、弱められた又は毒性がより小さくされたヘルペスウイルスを参照する。条件付き弱毒化が好ましく、弱毒化は非疾患細胞のみに影響する。より好ましくは、腫瘍細胞等の疾患細胞のみが、ヘルペスウイルスの完全な毒性によって影響を受ける。条件付き弱毒化は、例えば、y34.5、UL39及び/又はICP47遺伝子のプロモーター領域を疾患細胞においてのみ発現されるヒト遺伝子のプロモーター(例えば、腫瘍細胞中のサバイビンプロモーター)で置換することによって達成される。条件付き弱毒化のための更なる改変は、ICP‐4プロモーター領域のようなIE遺伝子(前初期遺伝子)の転写に関与する制御領域を疾患細胞においてのみ発現される遺伝子のプロモーター領域(例えばサバイビンプロモーター)で置換することを含んでいてよい。この変更の結果、条件的複製型HSV(replication conditional HSV)がもたらされ、これは疾患細胞内では複製し得るが、正常細胞内では複製し得ない。ウイルスの追加的な改変は、正常細胞内では豊富であるが腫瘍細胞内では豊富ではないマイクロRNAs(miRs)に応答する配列要素をICP4のような必須HSV遺伝子の3´非翻訳領域(3´ untranslated region)内に挿入することを含んでいてよい。その結果も、正常細胞内でのみ複製能力のないウイルスとなる。
【0085】
第2の側面においては、本発明は、本発明の組み換えヘルペスウイルスと薬学的に許容可能な担体とを備える医薬組成物を提供し、この医薬組成物は、随意的には、細胞、好ましくは上述したような疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子を追加的に備える。本発明の組み換えヘルペスウイルスは、薬剤として使用することができる。薬剤の製造のために、ヘルペスウイルスは、本発明の組み換えヘルペスウイルスと、所望の特性を提供する薬学的に許容可能な担体等の含有物(ingredients)の混合物と、を備える薬学的投薬形態(pharmaceutical dosage form)である必要がある。医薬組成物は、当業者に知られている1つ以上の適切な薬学的に許容可能な担体を備える。医薬組成物は、細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子を追加的に備えていてよい。細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子の定義は、本発明の第1の側面において上記で参照されている。
【0086】
医薬組成物は、全身、鼻、非経口、膣、局所(topic)、膣、腫瘍内投与のために製造することができる。非経口投与(parental administration)は、皮下、皮内、筋肉内、静脈内又は腹腔内投与を含む。
【0087】
医薬組成物は、カプセル、タブレット、ピル、粉末及び顆粒等の経口投与のための固形投与形態、医薬的に許容可能なエマルジョン、マイクロエマルション、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤等の経口投与のための液体投与形態、注射用製剤、例えば無菌注射剤又は油性懸濁液、直腸又は膣投与のための組成物、好ましくは座薬、並びに軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液、スプレー、吸入又はパッチ等の局所又は経皮投与のための投薬形態を含む種々の投薬形態として処方することができる。
【0088】
任意の特定の被験体に対する特異的な治療上有効な用量レベルは、本発明の組み換えヘルペスウイルスの活性、投与形態、被験体の年齢、体重及び性別、医学分野において周知の治療期間及び同様の要因を含む種々の要因に依存する。
【0089】
単回又は複数回の用量で被験体に投与される本発明の化合物の総用量は、例えば10~1010の量であってよい。単回用量組成物は、1日用量を準備するような量又はその約数を含有していてよい。組み換えヘルペスウイルスの投与量は、プラーク形成単位(pfu)の数として定義されてよい。投与量の例は、10、10、10、10、10、10、10、又は1010を含む。
【0090】
本発明の組み換えヘルペスウイルスは、疾患細胞がそれらの表面上に特異的な標的分子を発現する疾患を治療するのに役立ち、それらの標的分子は、細胞の外側からアクセス可能であり、正常細胞によっては産生されることがなく、あるいは正常細胞によって産生されたとしてもより低い程度である。正常細胞は、それぞれの正常細胞であってもよい。「それぞれの」は、疾患細胞と正常細胞が同じ起源であることを意味するが、疾患発生の影響により疾患細胞内には細胞が発現する一方で、同じ起源の他の細胞は健康なままである。
【0091】
第3の側面においては、本発明は、腫瘍、感染、変性疾患又は老化関連疾患の治療における使用のための本発明の組み換えヘルペスウイルスを提供し、この組み換えヘルペスウイルスは、随意的に、細胞、好ましくは上述したような疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子と組み合わされる。本発明の組み換えヘルペスウイルス、及び細胞に対する宿主免疫応答を刺激する分子は、同じ医薬組成物内又は異なる医薬組成物内に存在することができる。それらが異なる医薬組成物内に存在する場合には、それらは、同時に投与されてよく、あるいはその分子の前にヘルペスウイルス又はヘルペスウイルスの前にその分子というように続けて投与されてもよい。ヘルペスウイルス又はその分子は、異なる頻度及び/又は時点で投与されてよい。しかし、併用治療は、ヘルペスウイルス及びその分子が、疾患の同時治療を可能にする時間間隔及び/又は時点で投与されることを備える。
【0092】
また、本発明は、本発明の組み換えヘルペスウイルスの薬学的に効果的な量を投与することによって、腫瘍、感染、変性疾患又は老化関連疾患を有する被験体を治療する方法を開示する。
【0093】
本発明の組み換えヘルペスウイルスは、細胞、好ましくは疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する更なる治療及び/又は被験体の特異的疾患を治療するために役立つ更なる治療と組み合わせて被験体に投与されてよい。このような更なる治療は、他の薬物、化学療法、放射線療法、免疫療法、併用ウイルス療法等を含んでいてよい。
【0094】
また、本発明は、腫瘍、感染、変性疾患又は老化関連疾患の治療用の医薬組成物の調製のための本発明の組み換えヘルペスウイルスの使用を開示し、この組み換えヘルペスウイルス又はその使用は、随意的に、細胞、好ましくは上述したような疾患細胞に対する宿主免疫応答を刺激する1つ以上の分子と組み合わされる。
【0095】
本発明の組み換えヘルペスウイルスによって治療される被験体は、好ましくはヒトである。
【0096】
第4の側面においては、本発明は、リガンドを融合又は挿入した本発明のキメラgBをコードする核酸を備える核酸分子を提供する。核酸分子は、本発明の組み換えヘルペスウイルスのゲノム又はその一部であってよい。好ましくは、核酸分子は、gB糖タンパク質のシグナル配列を含むキメラgBの前駆体形態をコードする。キメラgBがそのN端アミノ酸にリガンドを保持するように操作された場合、対応する核酸は、シグナル配列の最後のアミノ酸と成熟タンパク質の最初のアミノ酸との間に挿入されたリガンドの核酸配列を有する。
【0097】
第5の側面においては、本発明は、核酸分子を備えるベクターを提供する。適切なベクターは当該分野で既知であり、プラスミド、コスミド、人工染色体(例えばバクテリア、酵母又はヒト)、バクテリオファージ、ウイルスベクター(レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)、特にバキュロウイルスベクター、又はナノ操作物質(nano-engineered substances)(例えば、オルモシル(ormosils))を含む。一実施形態においては、ベクターは、特に1以上の核酸塩基の欠失、挿入及び/又は変異によって、その毒性が好ましくはウイルスベクターの場合に弱毒化されるように、又はベクターが疾患細胞内では条件的に複製するが、非疾患細胞内では複製しないように、改変される。例えば、γ34.5遺伝子、UL39遺伝子、ICP47遺伝子の1つ又は両方のコピーの欠失は、ウイルスの弱毒化をもたらす。「弱毒化」又は「弱毒化された」は、弱められた又は毒性がより小さくされた毒性ウイルスを参照する。
【0098】
また、疾患細胞、例えば腫瘍細胞においてのみ発現されるヒト遺伝子のプロモーター(例えば、腫瘍細胞中のサバイビンプロモーター)によるγ34.5遺伝子のプロモーター領域の置換も含まれ、これにより、非疾患細胞における弱毒化表現型(attenuated phenotype)及び疾患細胞における非弱毒化表現型がもたらされる。更なる改変は、ICP‐4プロモーター領域のようなIE遺伝子の転写に関与する制御領域を疾患細胞においてのみ発現される遺伝子のプロモーター(例えばサバイビンプロモーター)で置換することを含んでいてよい。この変更により、疾患細胞内では複製し得るが、正常細胞内では複製し得ない条件的複製型ヘルペスウイルス(replication conditional herpesvirus)が産生される。ウイルス子孫の増殖のための細胞培養細胞は、高レベルの特異的プロモーター活性化タンパク質(specific promoter activating proteins)をもたらし、高いウイルス収量の産生を可能にする。
【0099】
第6の側面においては、本発明は、リガンドを融合又は挿入したキメラgBを備えるポリペプチドを提供する。
【0100】
第7の側面においては、本発明は、組み換えヘルペスウイルス、リガンドを融合若しくは挿入した本発明のキメラgBをコードする核酸を備える核酸分子、核酸分子を備えるベクター、又はリガンドを融合若しくは挿入したキメラgBを備えるポリペプチドを備える細胞を提供する。好ましくは、この細胞は細胞培養細胞である。適切な細胞培養及び培養技術は当該分野において既知である(Peterson and Goyal, 1988)。
【0101】
第8の側面においては、本発明は、本発明の組み換えヘルペスウイルスを用いて細胞を感染させるための方法を提供する。本発明の目的は、被験体において望ましくない細胞に感染し、その中で増殖し、細胞を溶解させ、それにより細胞を死滅させる組み換えヘルペスウイルスの提供である。また、感染のための方法は、細胞培養物中に存在する細胞における組み換えヘルペスウイルスの増殖に役立つ。「感染する(infecting)」は、ウイルスがウイルス表面膜と細胞膜の融合を介して細胞に侵入し、ウイルスゲノム等のウイルス成分が細胞内に放出されることを意味する。細胞をウイルスで感染させる方法は当該分野において既知であり、例えば感染させる細胞と共にウイルスを培養することによる(Florence et al., 1992; Peterson and Goyal, 1988)。「死滅(killing)」は、本発明のヘルペスウイルスの感染、細胞内でのウイルス粒子の産生、及び最終的に細胞を溶解させることによる新しいウイルス粒子の放出に起因して細胞が完全に除去されることを意味する。例えば細胞培養物中の細胞であって、それらの表面上にリガンドの標的分子を担持する細胞を用いて、組み換えヘルペスウイルスの溶解効率(lytic efficacy)を試験することができる。例えば、細胞は、被験体から得られた疾患細胞、例えば腫瘍細胞であってよい。この細胞は感染され、それにより組み換えヘルペスウイルスによって死滅させられる。成功した細胞の死滅は、被験体からの腫瘍細胞等の細胞を除去する治療の成功を評価するために、組み換えヘルペスウイルスの細胞特異性を指標する。更なる実施形態においては、非疾患細胞が同じ被験体又は疾患に罹患していない対照被験体から得られてもよく、即ち細胞は、それらの表面上にリガンドの標的分子を担持してしないか、あるいは担持していたとしてもより低い程度である。これにより、非疾患細胞が組み換えヘルペスウイルスによる感染の影響を受け易いかどうか及び/又は非疾患細胞が組み換えヘルペスウイルスによる感染の影響をどの程度受け易いのかを試験することができる。他の実施形態においては、非疾患細胞及び疾患細胞(例えば白血病細胞等の腫瘍細胞)を備える細胞集団(例えば血液等の組織)に含まれる疾患細胞は、被験体からの細胞集団の隔離(例えば白血球除去輸血(leukapheresis))の後に死滅させられる。これは、疾患細胞を含まない細胞集団を得るのに役立ち、例えば、特に被験体、好ましくは細胞集団がそこから隔離された同じ被験体への細胞集団の後の移植のための、白血病細胞等の疾患細胞を含まない血液を得るのに役立つ。この方法は、例えば血液及び白血病の場合、腫瘍細胞を含まない血液の再輸血を提供する。本発明の組み換えヘルペスウイルスを用いて細胞を死滅させるための方法は、インビトロ(in-vitro)又はインビボ(in-vivo)の方法であってよい。
【0102】
第9の側面においては、本発明は、請求項1~9のいずれかに記載のヘルペスウイルスを用いて細胞培養物中に存在する細胞において組み換えヘルペスウイルスを産生するためのインビトロな方法を提供し、好ましくは細胞は標的分子として人工分子を発現又は結合し、より好ましくは標的分子は、抗体、抗体誘導体又は抗体模倣物、更に好ましくはscFv、更に好ましくはGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFv、更に好ましくは配列ID番号37に含まれるGCN4酵母転写因子の一部に結合可能なscFv、更に好ましくは配列ID番号39に含まれるscFv、最も好ましくは配列ID番号41の配列により特定される分子を備えている。
【0103】
本発明の組み換えヘルペスウイルスは、ヒトの疾患細胞に感染して死滅させる目的に役立つ。これにはヘルペスウイルスの供給が必要であり、従ってその増殖及び産生が必要である。ヘルペスウイルスの増殖は、ヒトにおける腫瘍細胞のような疾患細胞のDNA、RNA及び/又はタンパク質等の物質の導入を避けるために、疾患細胞において回避されるべきであるので、組み換えヘルペスウイルスは、非疾患細胞にも感染可能に操作される必要がある。これは、組み換えヘルペスウイルスの、疾患細胞への死滅のための再標的化及び非疾患細胞への増殖のための再標的化を必要とする。従って、本発明の第9の側面は、2つ、3つ又は4つ等の2つ以上の異種ポリペプチドリガンド、好ましくは2つの異種ポリペプチドリガンドでの組み換えヘルペスウイルスの改変を備える。リガンドはgBのみで構成されてよいが、gB及びgD、随意的にはgB、gD及びgHによって構成されてもよい。
【0104】
結果として、第9の側面の一実施形態においては、組み換えヘルペスウイルスは、gBに融合又は挿入された異種ポリペプチドリガンドであって、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドと、gB、gD及び/又はgHに融合又は挿入された追加的異種ポリペプチドリガンドであって、疾患細胞上にある標的分子に結合可能な追加的異種ポリペプチドリガンドと、を備える。好ましくは、キメラgBは、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドを備え、改変gD及び/又はgHは、疾患細胞上にある標的分子に結合可能な異種ポリペプチドリガンドを備える。
【0105】
細胞内でヘルペスウイルスを増殖させるための適切な技術及び条件は、当該分野において既知であり(Florence et al., 1992; Peterson and Goyal, 1988)、ヘルペスウイルスを細胞と共に培養することと感染した細胞培養物の培地からヘルペスウイルスを回収することとを含む。組み換えヘルペスウイルスが産生される細胞は、組み換えヘルペスウイルスが異種ポリペプチドリガンドを介して結合する標的分子を担持する。好ましくは、標的分子は人工標的分子である。人工標的分子は、異種ポリペプチドリガンドに結合するように特異的に構築される。逆に、リガンドは、人工標的分子に結合するように特異的に選択され、構築される。従って、標的分子は、標的細胞によっては天然に産生されない抗体、抗体誘導体又は抗体模倣物、好ましくはscFvであってよい。異種ポリペプチドリガンドは、天然ポリペプチド、好ましくはサッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス(Saccharomyces)属からのポリペプチドのような真菌性又は細菌性のポリペプチド、あるいは標的分子に結合可能な天然ポリペプチドの一部等の人工ポリペプチドであってよい。細胞は、ヘルペスウイルスの増殖に適した任意の培養細胞であってよい。好ましくは、細胞は非疾患細胞である。細胞は細胞株として存在してよく、あるいは単離された細胞であってもよく、好ましくは細胞は細胞株として存在する。細胞株は、ヘルペスウイルス増殖のために認められていてよい。適切な細胞株は、Vero、293、293T、HEp‐2、HeLa、BHK、又はRS細胞であり、最も好ましくはVero細胞である。
【0106】
「培養」細胞は、当該分野で知られているように、維持及び増殖されたインビトロ細胞培養物中に存在する細胞である。培養細胞は、一般にそれらの自然環境の外で、制御された条件下で増殖する。通常、培養細胞は、多細胞真核生物、特に動物細胞に由来する。「ヘルペスウイルスの増殖のために認められた細胞株」は、ヘルペスウイルスが感染することが既に示されている、即ちウイルスが細胞に侵入し増殖してウイルスを産生できることが既に示されている任意の細胞株を含むことを意味する。細胞株は、単一の細胞に由来し、同じ遺伝子組成を含む細胞の集団である。組み換えヘルペスウイルスの増殖及び産生のための好ましい細胞は、Vero、293、293T、HEp‐2、HeLa、BHK、又はRS細胞である。
【0107】
インビトロな方法の好ましい実施形態においては、リガンドは天然ポリペプチドの一部であり、好ましくは274アミノ酸残基以下の長さ、好ましくは200アミノ酸残基未満の長さ、より好ましくは50アミノ酸残基未満の長さ、更に好ましくは40アミノ酸残基未満の長さ、更に好ましくは20アミノ酸等の10~30アミノ酸の間の長さを有し、それにより、その部分は、標的分子の構築、及びそれぞれの標的分子を担持している細胞に対するヘルペスウイルスの再標的化を可能にする。標的分子は、天然ポリペプチドの一部に結合可能な抗体誘導体である。より好ましくは、異種ポリペプチドリガンドはGCN4酵母転写因子の一部であり、標的分子はリガンドに結合可能な抗体誘導体であり、細胞は標的分子を発現するように改変された細胞である。最も好ましくは、異種ポリペプチドリガンドは配列ID番号37の配列によって特定される分子であり、標的分子は配列ID番号41の配列によって特定される分子であり、細胞は、配列ID番号41の配列によって特定される分子を発現するように改変されたVero細胞株であり、これをここではVeroGCN4細胞株と称する。
【0108】
Vero‐GCN4細胞株は、GCN4ペプチドに対するscFvである人工受容体を発現する。Vero‐GCN4細胞株は、HER2陽性細胞に再標的化され天然ヘルペスウイルス受容体に対しては脱標的化されたヘルペスウイルス組み換え体の培養を可能にする目的に役立つ。HER2は腫瘍遺伝子であり、HER2陽性細胞は癌細胞であるので、ヒトにおける腫瘍由来物質(DNA、RNA、タンパク質)の偶発的な導入の可能性を避けるために、ヒトの使用に供される腫瘍溶解性組み換えヘルペスウイルスの癌細胞における増殖及び産生は避けるべきである。同時に、ヘルペスウイルスは、疾患細胞に感染することが可能であるべきである。従って、Vero‐GCN4細胞株及びHER2再標的化ヘルペスウイルスが構築された。Vero‐GCN4細胞株は、ネクチン1の細胞外ドメイン2及び3、膜貫通部(transmembrane)(TM)並びにC尾部に融合したGCN4ペプチドに対するscFvから作られた人工受容体を発現する。HER2再標的化ヘルペスウイルスは、gB内でGCN4ペプチドを発現する。結果として、組み換えヘルペスウイルスは、癌細胞に感染するためにHER2に、及びウイルスの増殖及び産生を目的としてVero‐GCN4細胞株に感染するためにGCN4ペプチドに、同時に再標的化される。
【0109】
第9の側面の特に好ましい実施形態においては、gBは、細胞培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドを備え、それにより、リガンドは、人工ポリペプチド、より好ましくは天然ポリペプチドの一部、更に好ましくはGCN4酵母転写因子の一部であってよく、改変gD及び/又は改変gHは、疾患細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドを備え、それにより、標的分子は、抗体、抗体誘導体又は抗体模倣物、更に好ましくはscFv、更に好ましくはHER2に結合可能なscFvであってよい。最も好ましい実施形態においては、組み換えヘルペスウイルスは、配列ID番号37の配列により特定される分子を含むキメラgBを備え、改変gD及び/又はgHは、配列ID番号32により特定されるscFvを備える。そのようなヘルペスウイルスは、増殖のために、配列ID番号41の配列により特定される分子を発現するVero‐GCN4細胞株に感染することが可能であり、腫瘍細胞を死滅させるために、腫瘍細胞上に存在するHER2を介して腫瘍細胞に感染することが可能である。
【0110】
他の特に好ましい実施形態及び最も好ましい実施形態においては、gBは、疾患細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドを備え、gDは、培養物中に存在する細胞上にある標的分子に結合可能なリガンドを備える。リガンド、標的分子及び細胞の定義は上述したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1】組み換え体R‐BP901、R‐BP903、R‐BP909、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319のゲノム配置。(A‐G)HSV‐1ゲノムは、内部繰返し配列(IR)で囲われた(bracketed)線として表される。Lox‐P‐ブラケットBAC配列(Lox-P-bracketed BAC sequence)及びeGFP蛍光マーカーは、遺伝子間領域U3~U4に挿入される。(A)R‐BP903は、下流12Ser‐Glyリンカーを有するscFv‐HER2の挿入をgBのAA43~44の間に担持する。(B)R‐BP909はR‐BP903と同じであるが、加えて脱標的化目的で成熟gDからのAA6~38の欠失を担持する。(C)R‐BP901は、Ser‐Glyリンカーを有するscFv‐HER2の挿入をgBのAA81~82の間に担持する。(D)R‐313は、1つの上流Ser‐Glyリンカー及び1つの下流Ser‐Glyリンカーを有するGCN4ペプチドの挿入を未成熟gBのAA43~44の間に担持し、下流Ser‐Gly、11アミノ酸長リンカーを有するscFv‐HER2を成熟gDのAA6~38に代えて担持する。E)R‐315は、1つの上流Ser‐Glyリンカー及び1つの下流Ser‐Glyリンカーを有するGCN4ペプチドの挿入を未成熟gBのAA81~82の間に担持し、下流Ser‐Gly、11アミノ酸長リンカーを有するscFv‐HER2を成熟gDのAA6~38に代えて担持する。F)R‐317は、1つの上流Ser‐Glyリンカー及び1つの下流Ser‐Glyリンカーを有するGCN4ペプチドの挿入を未成熟gBのAA76~77の間に担持し、下流Ser‐Gly、11アミノ酸長リンカーを有するscFv‐HER2を成熟gDのAA6~38に代えて担持する。G)R‐319は、1つの上流Ser‐Glyリンカー及び1つの下流Ser‐Glyリンカーを有するGCN4ペプチドの挿入を未成熟gBのAA95~96の間に担持し、下流Ser‐Gly、11アミノ酸長リンカーを有するscFv‐HER2を成熟gDのAA6~38に代えて担持する。
図2】R‐BP901及びR‐BP909は、キメラscFv‐gB糖タンパク質を発現する。R‐BP901、R‐BP909又はR‐LM5に感染したSK‐OV‐3細胞の溶解物を入力感染多重度(input multiplicity of infection)3PFU/細胞でPAGEに付した。gBは、MAbH1817を用いたイムノブロットにより検出された。左側の数字は250K、130K及び95KMWマーカーの泳動位置を表す。
図3】単一受容体を発現するJ細胞の、組み換え体R‐BP901、R‐BP903及びR‐BP909による感染。J細胞はwt‐HSVに対して受容体を発現しない。J‐HER2、Jネクチン1、J‐HVEMは、示された受容体のみを発現する。示された細胞をR‐BP903、R‐BP909及びR‐BP901により感染させ、感染24時間後に緑色蛍光顕微鏡でモニタリングした。(A)R‐BP903は、この組み換え体がwt‐gDをコードするとして予想されたとおり、J‐HER2細胞、Jネクチン及びJ‐HVEMに感染した。このウイルスはHER2に再標的化され、自然親和性(natural tropism)を保持する。(B)R‐BP909は、HER2を唯一の受容体(J‐HER2)として発現する細胞に感染し、AA6~38のgD欠損の結果としてJネクチン及びJ‐HVEMに感染しない。R‐BP909はHER2に再標的化され、HSV‐1gD天然受容体から脱標的化される。(C)R‐BP901はJ‐HER2に感染しない;このウイルスはHER2に再標的化されない。
図4】R‐BP909はHER2癌細胞に特異的に感染する。示されたHER2及びHER2癌細胞株に、R‐BP909及びR‐BP903を感染させた。感染24時間後に蛍光顕微鏡で画像を撮影した。R‐BP909は、HER2陽性癌細胞に感染し、HER2陰性癌細胞に感染していない。R‐BP903は、脱標的化の欠如と一致して、HER2の発現に関係なく細胞に感染する。
図5】J‐HER2(A)及びSK‐OV‐3(B)細胞におけるR‐BP909侵入経路の特徴。示されたウイルスをHD1、52S、H126MAbと共にプレインキュベートし、次いでJ‐HER2又はSK‐OV‐3細胞に感染させた。記載がある場合、細胞をトラスツズマブ(trastuzumab)又は対照IgGsと共に前処理した。感染を24時間後にフローサイトメトリーにより定量化した。(A)J‐HER2細胞のR‐BP909感染は、トラスツズマブによって又はgBに対するMAbH126によって殆ど消失している。(B)SK‐OV‐3細胞のR‐BP909感染は、トラスツズマブによって又はgBに対するMAbH126、gHに対する52Sによって抑制されるが、gDに対するMAbHD1によっては抑制されない。R‐LM113、即ちgDにおけるHER2に対するscFvの挿入を介してHER2に再標的化された組み換え体は、R‐BP909と同様に挙動した。
図6】R‐BP909並びに対照組み換え体R‐VG809(gHを介してHER2に再標的化)及びR‐LM113(gDを介してHER2に再標的化)の成長曲線。SK‐OV‐3細胞を入力感染多重度0.1PFU/細胞で、示された組み換え体により感染させ、感染後の指定時間(時間)に採取した。子孫ウイルスをSK‐OV‐3細胞において滴定した。成長曲線は、R‐BP909がR‐VG809と同程度で複製し、R‐LM113より約1桁少なかったことを示している。
図7】感染したSK‐OV‐3及びMDA‐MB‐453細胞を死滅させるR‐BP909及びR‐VG809の能力並びにHER2癌細胞の死滅能力の欠如。HER2陽性SK‐OV‐3及びMDA‐MB‐453並びにHER2MDA‐MB‐231癌細胞を2PFU/細胞(MDA‐MB‐231細胞については0.1PFU/細胞)でそれぞれ示されたウイルスにより感染させた。生存率はアラマーブルー(Alamar-Blue)アッセイにより定量化した。R‐BP909は、R‐VG809と同様の効率でSK‐OV‐3及びMDA‐MB‐453を死滅させた。どちらのウイルスも、HER2陰性MDA‐MD‐231癌細胞を死滅させておらず、それらの細胞に感染する能力がないことと一致していた。
図8】組み換え体R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の感染のパターン。wt‐Vero、Vero‐GCN4R、SK‐OV‐3、親J、並びにwt‐HSVに対する受容体を発現するJ細胞 J‐HVEM及びJネクチンを、示されたウイルスにより感染させ、感染24時間後に緑色蛍光顕微鏡でモニタリングした。R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319は、HER2(ヒト及びサルの両方)及びGCN4を受容体として発現する細胞に感染し、gDのAA6~38の欠失の結果、ネクチン及びHVEMを介しては感染しない。操作されたウイルスの全ては、HER2及びGCN4に再標的化され、HSV‐1gD天然受容体から脱標的化される。トラスツズマブ(別名ハーセプチン)に曝露されたHER2陽性細胞株における感染の抑制は、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319がHER2をこれらの細胞における侵入のポータルとして用いていることを確認する。
図9】R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319並びに対照組み換え体R‐LM113(gDを介してHER2に再標的化)及びR‐LM5(HSV糖タンパク質のwtであって、R‐313、R‐315、R‐317、R‐319及びR‐LM113に存在する他のゲノム改変を有する)の成長曲線。Vero‐GCN4R及びSK‐OV‐3細胞を入力感染多重度0.1PFU/細胞(それぞれの細胞株において滴定)で、示された組み換え体により感染させ、感染後の指定時間(時間)に採取した。子孫ウイルスをSK‐OV‐3細胞において滴定した。
図10】異なる細胞株におけるR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319並びに対照組み換え体R‐LM113及びR‐LM5のコロニー形成率(plating efficiency)。組み換えウイルスの複製分量(replicate aliquots)をVero‐GCN4R、wt‐Vero及びSK‐OV‐3に播種した。感染後3日目に、蛍光顕微鏡下でプラークを数えた。
図11】異なる細胞株におけるR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の相対的なプラークサイズ。A)R‐313、R‐315、R‐317、R‐319、R‐LM113及びR‐LM5の複製分量をVero‐GCN4R、wt‐Vero及びSK‐OV‐3に播種した。感染の3日後、蛍光顕微鏡でプラークの写真を撮影した。代表的なプラークを示す。B)プラーク面積の定量化をpxE2で示す。
図12】GCN4に対するscFv‐ネクチン受容体のキメラの概略図。受容体は、N末端リーダーペプチド(N-terminal leader peptide)及びHAタグ配列(HA tag sequence)を提示し、2つの短いリンカー、即ちGA及びGSGAリンカーの間に位置する、GCN4に対するscFvがそれに続く。分子の第2の部分は、ネクチン1細胞外ドメイン2及び3とTMセグメントと細胞内細胞質尾部(intracellular cytoplasmic tail)とを備えるヒトネクチン1(PVRL1)残基Met143~Val517に対応する。
図13】Vero‐GCN4陽性細胞の安定性。scFvGCN4‐ネクチン受容体の発現をHAタグに対するMAbによるFACSによって分析した。これらの図は、10、15、30、40継代でのVeroGCN4クローン11.2細胞からの陽性細胞のパーセンテージを示す。結果:人工受容体の発現が連続40継代後も安定したままであった。
図14】組み換え体R‐321のゲノム配置。HSV‐1ゲノムは、内部反復(IR)で囲われた線として表される。Lox‐P‐ブラケットBAC配列及びeGFP蛍光マーカーは、遺伝子間領域U3~U4に挿入される。R‐321は、成熟gDのAA30及び38の欠失とgDのAA37の後のscFv‐HER2の挿入とを担持する。R‐321は、1つの上流Ser‐Glyリンカー及び1つの下流Ser‐Glyリンカーを有するGCN4ペプチドの挿入を未成熟gBのAA43~44の間に担持する。
図15】組み換え体R‐321の感染のパターン。wt‐Vero、Vero‐GCN4R、SK‐OV‐3、親J、並びにwt‐HSV J‐HVEM及びJネクチンに対する受容体を発現するJ細胞を、示されたウイルスにより感染させ、感染24時間後に緑色蛍光顕微鏡でモニタリングした。R‐321は、HER2(ヒト及びサルの両方)及びGCN4を受容体として発現する細胞に感染し、AA30及び38の欠失の結果、ネクチン及びHVEMを介しては感染しない。R‐321は、HER2及びGCN4に再標的化され、HSV‐1gD天然受容体から脱標的化される。トラスツズマブ(別名ハーセプチン)に曝露されたHER2陽性細胞株における感染の抑制は、R‐321がHER2をこれらの細胞における侵入のポータルとして用いていることを確認する。
図16】R‐321並びに対照組み換え体R‐LM113(gDを介してHER2に再標的化)及びR‐LM5(HSV糖タンパク質のwtであって、R‐321に存在する他のゲノム改変を有する)の成長曲線。Vero‐GCN4R及びSK‐OV‐3細胞を入力感染多重度0.1PFU/細胞(対応する細胞株において滴定)で、示された組み換え体により感染させ、感染後の指定時間(時間)に採取した。子孫ウイルスをSK‐OV‐3細胞において滴定した。
【0112】
配列
配列ID番号1:HSV‐1gB野生型前駆体(ヒトヘルペスウイルス1 F株、ジェンバンク(GenBank)アセッション番号:GU734771.1;位置52996~55710によりコードされたgB)のアミノ酸配列。
配列ID番号2:構築物R‐BP903及びR‐BP909によりコードされた、アミノ酸43及び44の間にトラスツズマブscFvを挿入したgB(配列ID番号1)の前駆体のアミノ酸配列。リンカーSSGGGSGSGGSG(配列ID番号30)は、scFV挿入部分のC末端アミノ酸配列とgBのアミノ酸44との間に導入される。
配列ID番号3:構築物R‐BP901によりコードされた、アミノ酸81及び82の間にトラスツズマブscFvを挿入したgB(配列ID番号1)の前駆体のアミノ酸配列。リンカーHSSGGGSG(配列ID番号29)は、gBのアミノ酸81とscFV挿入部分のN末端アミノ酸配列との間に導入される。リンカーSSGGGSGSGGSG(配列ID番号30)は、scFV挿入部分のC末端アミノ酸配列とgBのアミノ酸82との間に導入される。
配列ID番号4:HSV‐1gD野生型前駆体(ヒトヘルペスウイルス1 F株、ジェンバンクアセッション番号:GU734771.1;位置138281~139465によりコードされたgD)のアミノ酸配列。
配列ID番号5:HSV‐1gD野生型前駆体(配列ID番号4)のアミノ酸配列であって、R‐BP909によってコードされた、成熟gDのアミノ酸6~38の欠失を有するアミノ酸配列。
配列ID番号6:構築物R‐LM113によりコードされた、アミノ酸30及び64の間にトラスツズマブscFvを挿入したHSV‐1欠損gD(配列ID番号5)のアミノ酸配列。組み換え及びスクリーニングの容易さのために、アミノ酸ENを導入して制限部位を挿入した。
配列ID番号7:R‐BP901におけるのと同様に、pSG‐scFvHER2‐SGと命名されたプラスミド内に存在し、配列ID番号3の挿入をコードする、Ser‐Glyリンカーにより挟まれたトラスツズマブscFvカセット。
配列ID番号8:配列ID番号7によりコードされたアミノ酸配列;アミノ酸1~8は上流のSer‐Glyリンカー(配列ID番号29)であり、アミノ酸9~116はV領域であり、アミノ酸117~136はV及びV領域を連結するリンカー(配列ID番号31)であり、アミノ酸137~255はV領域をコードし、アミノ酸256~267は下流の12Ser‐Glyリンカー(配列ID番号30)をコードする。
配列ID番号9:p‐SG‐scFvHER2‐SGと命名されたプラスミド内に存在するが、R‐BP903及びR‐BP909の8残基長の上流Ser‐Glyリンカーを欠き、配列ID番号2において挿入部分をコードするトラスツズマブscFvカセット。
配列ID番号10:配列ID番号9によりコードされたアミノ酸配列;アミノ酸1~108はV領域であり、アミノ酸109~128はV及びV領域を連結するリンカー(配列ID番号31)であり、アミノ酸129~247はV領域をコードし、アミノ酸248~259は下流の12Ser‐Glyリンカー(配列ID番号30)をコードする。
配列ID番号11:gB43GalKfor
配列ID番号12:gB43GalKrev
配列ID番号13:gB43_sc4D5_for
配列ID番号14:gB43_sc4D5_rev
配列ID番号15:gB81fGALK
配列ID番号16:gB81GALKrev
配列ID番号17:gB81sc4D5f
配列ID番号18:gB81SGr
配列ID番号19:scFv4D5_358_r
配列ID番号20:scFv4D5_315_f
配列ID番号21:gD5_galK_f
配列ID番号22:gD39_galK_r
配列ID番号23:gD_aa5_39_f
配列ID番号24:gD_aa5_39_r
配列ID番号25:galK_129_f
配列ID番号26:galK_417_r
配列ID番号27:gB_ext_for
配列ID番号28:gB_431_rev
配列ID番号29:8Ser‐Glyリンカー
配列ID番号30:12Ser‐Glyリンカー
配列ID番号31:V及びV領域を連結するリンカー
配列ID番号32:トラスツズマブscFv
配列ID番号33:GCN4gB_43_44_fB
配列ID番号34:GCN4gB_43_44_rB
配列ID番号35:構築物R‐313によってコードされた、アミノ酸43及び44の間にGCN4ペプチドを挿入したgBの前駆体(配列ID番号1)のアミノ酸配列。GCN4ペプチドはSer‐Glyリンカーに隣接している。
配列ID番号36:gBへの組み換えのための上流及び下流リンカーを有するGCN4ペプチドをコードするヌクレオチド配列。
配列ID番号37:GCN4ペプチド
配列ID番号38:GCN4エピトープ
配列ID番号39:GCN4ペプチドに対するscFvのアミノ酸配列
配列ID番号40:scFv‐GCN4‐ネクチン1キメラをコードするヌクレオチド配列
配列ID番号41:配列ID番号40によりコードされたアミノ酸配列;N末端リーダーペプチド、HAタグ配列、短いGAリンカー、アミノ酸33~275のscFv配列、短いGSGAリンカー、及びヒトネクチン1(PVRL1)残基Met143~Val517を備えるGCN4ペプチドに結合可能なscFvのアミノ酸配列。
配列ID番号42:ジェンバンクアクセッション番号AJ585687.1(GCN4酵母転写因子をコードする遺伝子
配列ID番号43:GCN4酵母転写因子UniProtKB‐P03069(GCN_YEAST)のアミノ酸配列
配列ID番号44:gB_76_galK_for
配列ID番号45:gB_76_galK_rev
配列ID番号46:gB_76_GCN4_for
配列ID番号47:gB_76_GCN4_rev
配列ID番号48:構築物R‐317によりコードされた、アミノ酸76及び77の間にGCN4ペプチドを挿入したgBの前駆体(配列ID番号1)のアミノ酸配列。GCN4ペプチドはSer‐Glyリンカーに隣接している。
配列ID番号49:gB_81_GCN4_for
配列ID番号50:gB_81_GCN4_rev
配列ID番号51:構築物R‐315によってコードされた、アミノ酸81及び82の間にGCN4ペプチドを挿入したgBの前駆体(配列ID番号1)のアミノ酸配列。GCN4ペプチドはSer‐Glyリンカーに隣接している。
配列ID番号52:gB_95_galK_for
配列ID番号53:gB_95_galK_rev
配列ID番号54:gB_95_GCN4_for
配列ID番号55:gB_95_GCN4_rev
配列ID番号56:構築物R‐319によりコードされた、アミノ酸95及び96の間にGCN4ペプチドを挿入したgBの前駆体(配列ID番号1)のアミノ酸配列。GCN4ペプチドはSer‐Glyリンカーに隣接している。
配列ID番号57:gD5_galK_f
配列ID番号58:scFv_galK_rev
配列ID番号59:gDdel30_38for
配列ID番号60:gDdel30_38rev
配列ID番号61:構築物R‐321によりコードされた、成熟gDに関してアミノ酸30及び38を欠失しアミノ酸37の後にトラスツズマブscFvを挿入したgDの前駆体(配列ID番号4)のアミノ酸配列。
配列ID番号62:HSV‐1gD野生型成熟形態(ヒトヘルペスウイルス1 F株、ジェンバンクアセッション番号:GU734771.1)のアミノ酸配列。
【実施例
【0113】
実施例1
gDHSV遺伝子における欠失を有し若しくは有しておらずレポーター遺伝子(reporter gene)としてのeGFPをコードする、HER2に向けられた一本鎖抗体(scFv)(scFv‐HER2)を担持している遺伝子操作gBs(R‐BP901、R‐BP903、R‐BP909)又はGCN4ペプチドを担持している遺伝子操作gB(R‐313)を発現するHSV組み換え体の構築。
【0114】
A)R‐BP903:HSVgBのAA(アミノ酸)43及び44の間へのscFv‐HER2の挿入。
【0115】
本発明者らは、AA1~30を包含するシグナル配列の切断(cleavage)後の成熟gBにおけるAA13及び14に対応する、非成熟gBのAA43及び44の間に、トラスツズマブscFv(trastuzumab scFv)をコードする配列を挿入することによって、R‐BP903―このクローンはR‐903という名称も有する―(図1A)を操作した。開始ゲノムは、HSV‐1ゲノムのUL3及びUL4の間に挿入されたLOX‐PブラケットpBeloBAC11(LOX-P-bracketed pBeloBAC11)及びeGFP配列を担持するBACLM55であった(Menotti et al., 2008)。組み換えは、galK組み換え技術(galK recombineering)により行った。簡潔に説明すると、pGalKをテンプレートとして用い、プライマーgB43GalKfor GGTGGCGTCGGCGGCTCCGAGTTCCCCCGGCACGCCTGGGGTCGCGGCCGCGCCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号11)及びgB43GalKrev GGCCAGGGGCGGGCGGCGCCGGAGTGGCAGGTCCCCCGTTCGCCGCCTGGGTTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号12)により、gBへの相同アームを有するgalKカセットを増幅した。このカセットを、LM55BACを担持しているSW102バクテリア内で電気穿孔した。galKカセットを担持している組み換えクローンを、1mg/LのDビオチン、0.2%ガラクトース、45mg/LのLロイシン、1mMのMgSO・7HO及び12μg/mlのクロラムフェニコールを補給したM63培地(15mMの(NHSO、100mMのKHPO、1.8μgのFeSO・HO、pH7に調整)を含むプレート上で選択した。galK偽陽性バクテリアコロニーを除外するために、1%ガラクトース及び12μg/mlのクロラムフェニコールを補給したマッコンキー(MacConkey)寒天ベースプレートにもストリークし、プライマーgalK_129_f ACAATCTCTGTTTGCCAACGCATTTGG(配列ID番号25)及びgalK_417_r CATTGCCGCTGATCACCATGTCCACGC(配列ID番号26)を用いたコロニーPCRによりチェックした。次いで、以下に説明する下流Ser‐Glyリンカー(配列ID番号9;配列ID番号10をコードする)を有しgBへの相同アームにより挟まれたトラスツズマブscFvカセットを、プライマーgB43_sc4D5_for GGTGGCGTCGGCGGCTCCGAGTTCCCCCGGCACGCCTGGGGTCGCGGCCGCGTCCGATATCCAGATGACCCAGTCCCCG(配列ID番号13)及びgB43_sc4D5_rev GGCCAGGGGCGGGCGGCGCCGGAGTGGCAGGTCCCCCGTTCGCCGCCTGGGTACCGGATCCACCGGAACCAGAGCC(配列ID番号14)のアニーリング及び伸長を介して生成した。組み換えゲノムは、HER2に対するscFvと、配列SSGGGSGSGGSG(配列ID番号30)を有する1つの下流Ser‐Glyリンカーと、配列SDMPMADPNRFRGKNLVFHS(配列ID番号31)を有するVL及びVH領域間の1つリンカーと、を担持するキメラgBをコードする。galKカセットの切除及び好ましい配列scFv‐HER2の挿入を担持している組み換えクローンを、1mg/LのDビオチン、0.2%デオキシ‐2‐ガラクトース、0.2%グリセロール、45mg/LのLロイシン、1mMのMgSO・7HO及び12μg/mlのクロラムフェニコールを補給したM63培地(上記参照)を含むプレート上で選択した。また、プライマーgB_ext_for GAGCGCCCCCGACGGCTGTATCG(配列ID番号27)及びgB_431_rev TTGAAGACCACCGCGATGCCCT(配列ID番号28)を用いたコロニーPCRにより、好ましい配列の存在についてバクテリアコロニーをチェックした。
【0116】
B)R‐BP909(図1B):R‐BP903の成熟gDからのAA6~38の欠失。R‐BP909―このクローンはR‐909という名称も有する―は、R‐BP903と同一であり、加えてgDにおけるAA6~38に対応する配列の欠失を担持している。出発物質はR‐BP903BACゲノムであった。gDにおいてAA6~38欠失を生成するために、gDに対する相同アームに隣接するgalKカセットを、プライマーgD5_galK_f TTGTCGTCATAGTGGGCCTCCATGGGGTCCGCGGCAAATATGCCTTGGCGCCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号21)及びgD39_galK_r ATCGGGAGGCTGGGGGGCTGGAACGGGTCCGGTAGGCCCGCCTGGATGTGTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号22)で増幅した。次いで、本発明者らは、galK配列を、gD_aa5_39f TTGTCGTCATAGTGGGCCTCCATGGGGTCCGCGGCAAATATGCCTTGGCGCACATCCAGGCGGGCCTACCGGACCCGTTCCAGCCCCCCAGCCTCCCGAT(配列ID番号23)及びgD_aa5_39r ATCGGGAGGCTGGGGGGCTGGAACGGGTCCGGTAGGCCCGCCTGGATGTGCGCCAAGGCATATTTGCCGCGGACCCCATGGAGGCCCACTATGACGACAA(配列ID番号24)からなる合成二本鎖オリゴヌクレオチドで置換した。
【0117】
C)R‐BP901―このクローンはR‐901という名称も有する―(図1C):HSVgBのaa81及び82の間へのscFv‐HER2の挿入。
【0118】
手順は、以下の相違点を除き、R‐BP903のgBにおいてscFv‐HER2を操作する上述したものと同じである。先ず、galKカセットを、プライマーgB81fGALK CGGGGGACACGAAACCGAAGAAGAACAAAAAACCGAAAAACCCACCGCCGCCGCCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号15)及びgB81GALKrev CGCAGGGTGGCGTGGCCCGCGGCGACGGTCGCGTTGTCGCCGGCGGGGCGTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号16)により増幅した。次いで、以下に説明するSer‐Glyリンカー及びgBへの相同アームにより挟まれたトラスツズマブscFvカセットを、pSG‐ScFvHER2‐SGからの断片#1及び断片#2と名付けられた2つの別個の断片として増幅した。pSG‐ScFvHER2‐SGは、Ser‐Glyリンカー(配列ID番号7、配列ID番号8をコードする)によって挟まれたトラスツズマブscFvカセットを担持する。断片#1は、p‐SG‐ScFv‐HER2‐SGをテンプレートとして用い、プライマーgB81sc4D5f CGGGGGACACGAAACCGAAGAAGAACAAAAAACCGAAAAACCCACCGCCGCCGCATAGTAGTGGCGGTGGCTCTGGATCCG(配列ID番号17)及びscFv4D5_358_r GGAAACGGTTCGGATCAGCCATCGG(配列ID番号19)により増幅した。断片#2は、pSG‐ScFvHER2‐SGをテンプレートとして用い、プライマーgB81SGr CGCAGGGTGGCGTGGCCCGCGGCGACGGTCGCGTTGTCGCCGGCGGGGCGACCGGATCCACCGGAACCAGAGCC(配列ID番号18)及びscFv4D5_315_f GGAGATCAAATCGGATATGCCGATGG(配列ID番号20)により増幅した。断片#1及び#2をアニーリング及び伸長に付すことにより、Ser‐Glyリンカー及びgBへの相同アームにより挟まれたscFv‐HER2カセットを生成した。組み換えゲノムは、配列HSSGGGSG(配列ID番号29)を有する上流Ser‐Glyリンカーと配列SSGGGSGSGGSG(配列ID番号30
)を有する下流Ser‐Glyリンカーとにより挟まれた、HER2に対するscFvを担持する。VLとVHとの間のリンカーはSDMPMADPNRFRGKNLVFHS(配列ID番号31)である。
【0119】
D)R‐313:gD内のAA6~38の欠失において既にscFv‐HER2を発現しているHSV組み換え体におけるHSVgBのAA43及び44の間へのGCN4ペプチドの挿入。
【0120】
本発明者らは、AA1~30を包含するシグナル配列の切断後の成熟gBにおけるAA13及び14に対応する、非成熟gBのAA43及び44の間に、GCN4ペプチドをコードする配列を挿入することによって、R‐313(図1D)を操作した。開始ゲノムは、gDのAA6~38の代わりのscFv‐HER2と、HSV‐1ゲノムのU3及びU4の間に挿入されたLOX‐PブラケットpBeloBAC11及びeGFP配列とを担持するBACLM113であった(Menotti et al., 2008)。組み換えは、galK組み換え技術により行った。簡潔に説明すると、GCN4ペプチドをgBに挿入するために、pGalKをテンプレートとして用い、プライマーgB43GalKfor GGTGGCGTCGGCGGCTCCGAGTTCCCCCGGCACGCCTGGGGTCGCGGCCGCGCCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号11)及びgB43GalKrev GGCCAGGGGCGGGCGGCGCCGGAGTGGCAGGTCCCCCGTTCGCCGCCTGGGTTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号12)により、gBへの相同アームを有するgalKカセットを増幅した。このカセットを、BACLM113BGを担持しているSW102バクテリア内で電気穿孔した。galKカセットを担持している組み換えクローンを、1mg/LのDビオチン、0.2%ガラクトース、45mg/LのLロイシン、1mMのMgSO・7HO及び12μg/mlのクロラムフェニコールを補給したM63培地(15mMの(NHSO、100mMのKHPO、1.8μgのFeSO・HO、pH7に調整)を含むプレート上で選択した。galK偽陽性バクテリアコロニーを除外するために、1%ガラクトース及び12μg/mlのクロラムフェニコールを補給したマッコンキー寒天ベースプレートにもストリークし、プライマーgalK_129_f ACAATCTCTGTTTGCCAACGCATTTGG(配列ID番号25)及びgalK_417_r CATTGCCGCTGATCACCATGTCCACGC(配列ID番号26)を用いたコロニーPCRによりチェックした。次いで、下流及び上流Ser‐Glyリンカーを有しgBへの相同アームにより挟まれたGCN4ペプチドカセット(配列ID番号36、配列ID番号37をコードする)を、制限分析によるコロニーのスクリーニングに有用なBamHIエンドヌクレアーゼのためのサイレント制限部位(silent restriction site)を導入するプライマーGCN4gB_43_44_fB GGTGGCGTCGGCGGCTCCGAGTTCCCCCGGCACGCCTGGGGTCGCGGCCGCGGGATCCAAGAACTACCACCTGGAGAACGAGGTGGCCAGACTGAAGAAGCTGGTGGGCAGC(配列ID番号33)及びGCN4gB_43_44_rB GGCCAGGGGCGGGCGGCGCCGGAGTGGCAGGTCCCCCGTTCGCCGCCTGGGTGCTGCCCACCAGCTTCTTCAGTCTGGCCACCTCGTTCTCCAGGTGGTAGTTCTTGGATCC(配列ID番号34)のアニーリング及び伸長を介して生成した。組み換えゲノムは、配列GSを有する1つの下流Ser‐Glyリンカーと1つの上流Ser‐Glyリンカーとを含むGCN4ペプチドを担持するキメラgB(配列ID番号35)をコードする。galKカセットの切除及び好ましい配列GCN4ペプチドの挿入を担持している組み換えクローンを、1mg/LのDビオチン、0.2%デオキシ‐2‐ガラクトース、0.2%グリセロール、45mg/LのLロイシン、1mMのMgSO・7HO及び12μg/mlのクロラムフェニコールを補給したM63培地(上記参照)を含むプレート上で選択した。プライマーgB_ext_for GAGCGCCCCCGACGGCTGTATCG(配列ID番号27)及びgB_431_rev TTGAAGACCACCGCGATGCCCT(配列ID番号28)を用いたコロニーPCRにより、好ましい配列の存在についてバクテリアコロニーをチェックした。
【0121】
組み換えウイルスR‐BP909を再構成するために、500ngの組み換えBACDNAを、リポフェクタミン2000(ライフテクノロジーズ(Life Technologies))により、R6と命名されたgD相補細胞株(gD-complementing cell line)(HSV後期UL26.5プロモーター(HSV late UL26.5 promoter)の制御下でwt‐gDを発現しているウサギ皮膚細胞株(Zhou et al., 2000))にトランスフェクトし、次いでSK‐OV‐3細胞内で増殖させた。ウイルス増殖は緑色の蛍光によってモニタリングした。組み換え体の構造は、全gB、並びにR‐BP909についてgD及びgHORFs、R‐BP903及びR‐BP901のscFvHER2及びgBにおける挿入部位を配列決定することにより検証した。ウイルスストックを生成し、SK‐OV‐3細胞において滴定した。
【0122】
組み換えウイルスR‐BP901、R‐BP903、R‐313を再構成するために、500ngの組み換えBACDNAをリポフェクタミン2000(ライフテクノロジーズ)によりSK‐OV‐3細胞にトランスフェクトした。ウイルス増殖は緑色の蛍光によってモニタリングした。R‐313ウイルスをSK‐OV‐3内で6回継代し、凍結/融解してSK‐OV‐3細胞を溶解し、続いてVero‐GCN4細胞内で増殖させた。ウイルスストックをVero‐GCN4において生成し、Vero‐GCN4、wt‐Vero及びSK‐OV‐3細胞において滴定した。組み換えR‐313の構造は、GCN4及びgBにおける挿入部位の配列決定によって検証した。
【0123】
実施例2:R‐BP901及びR‐BP909のキメラscFv‐HER2‐gBの発現の検証
【0124】
SK‐OV‐3細胞をR‐BP901、R‐BP909、及び比較用のR‐LM5により入力感染多重度(input multiplicity of infection)3PFU/細胞で感染させ、感染72時間後に採取した。細胞溶解物をポリアクリルアミドゲル電気泳動に付し、PVDF膜に移し、gBに対するモノクローナル抗体(H1817)でイムノブロットした。図2は、R‐BP901及びR‐BP909からのキメラscFv‐HER2‐gBが、R‐LM5からのwt‐gBよりも遅い電気泳動移動度及び130Kダルトンの見かけ上Mrで移動したことを示している。矢印は、キメラ及びwtgBの泳動位置を示す。左側の数値は分子量マーカーの泳動位置をKダルトンで示す。
【0125】
実施例3:単一受容体を発現するJ細胞の、組み換え体R‐BP903、R‐BP909及びR‐BP901による感染
【0126】
既に示したように、gDにおけるscFv‐HER2の挿入は、組み換えウイルスR‐LM113に、HER2受容体を介して細胞に侵入する能力を付与する。gBの位置43~44又は81~82でのscFV‐HER2の挿入が、HER2受容体を介して細胞に侵入する能力を付与するという証拠を提供するために、本発明者らは、HER2を唯一の受容体として発現する細胞を用いた。親J細胞はgDに対する受容体を発現せず、従ってgDを活性化することができず、wt‐HSVが感染しない。J‐HER2細胞は、唯一の受容体としてHER2をトランスジェニック的に発現する。対照として、本発明者らは、受容体としてネクチン1又はHVEMをトランスジェニック的に発現しwt‐HSVが感染するJネクチン細胞及びJ‐HVEM細胞を含ませた。示された細胞にR‐BP903、R‐BP909及びR‐BP901を感染させ、感染24時間後に緑色蛍光顕微鏡でモニタリングした。
【0127】
図3Aに示すように、R‐BP903はJ‐HER2細胞に感染した。R‐BP903はwt‐gDをコードするので、Jネクチン、J‐HVEMの感染は驚くべきことではなかった。このウイルスはHER2に再標的化され、自然親和性(natural tropism)を保持する。
【0128】
本発明者らは、gBの位置43~44にscFv‐HER2を担持し、gDからの受容体結合部位の部分の欠失を担持する組み換え体を操作した。gDの2つの主要受容体はネクチン1及びHVEMである。gDにおけるHVEMの結合部位はAA1~32に位置する。成熟gDにおけるネクチン1の結合部位はより広範であり、Ig折り畳みコア(Ig-folded core)とAA35~38、199~201、214~217、219~221の間に位置する部分とを含む。本発明者らは、R‐BP903成熟gDからAA6~38領域、即ちR‐LM113から以前に欠失された同じ領域を欠失させ、HSVが、成熟gDのAA5及び39の間へのscFv‐HER2の挿入によって、HER2に再標的化された。この欠失は、HVEM結合部位全体及び、AA35~38の間に位置する部分を含むネクチン1との相互作用に関与する幾つかの残基を除去する。ネクチン1との相互作用に関与する少数のAAが欠失しているにもかかわらず、R‐LM113がネクチン1及びHVEMの両方から脱標的化されることが示された。R‐BP909と命名された組み換えウイルスは、J‐HVEM細胞だけでなくJネクチン細胞にも感染せず、J‐HER2細胞に効率的に感染する能力を維持した(図3B)。R‐BP909親和性は、R‐BP903のそれとは著しく異なる(図3A図3Bと比較されたい)。本発明者らは、HER2再標的化gBを介したR‐BP909感染が、gDにおけるHVEM及びネクチン1に対する結合部位、従って受容体を介したgD活性化を必要としないと結論する。要約すると、R‐BP909は、gBを介してHER2受容体に再標的化されgD受容体から脱標的化される、完全にリダイレクトされた親和性を示す。
【0129】
gBのAA81及び82の間にscFvHER2を担持しwtgDを有する組み換え体R‐BP901は、J‐HER2細胞に感染せず、このウイルスはHER2に再標的化されない(図3C)。
【0130】
実施例4:HER2及びHER2癌細胞の感染
【0131】
SK‐OV‐3、BT‐474及びMDA‐MB‐453のHER2癌細胞、HER2のHeLa及びMDA‐MB‐231癌細胞、並びにHER2非癌HaCaT細胞を、R‐BP909及びR‐BP903により、37℃で90分間、入力感染多重度5PFU/細胞(SK‐OV‐3において滴定)で感染させた。感染24時間後に蛍光顕微鏡で画像を撮影した。R‐BP909は、HER2陽性癌細胞に感染し、HER2陰性細胞に感染していない。R‐BP903は、脱標的化の欠如と一致して、HER2の発現に関係なく細胞に感染する(図4)。
【0132】
実施例5:J‐HER2及びSK‐OV‐3におけるR‐BP909侵入経路の特徴
【0133】
J‐HER2細胞へのR‐BP909の侵入が細胞受容体としてのHER2を介して起こることを証明するため、及びR‐BP909のSK‐OV‐3細胞への侵入経路におけるgDの役割を調べるために、本発明者らは、一連のブロッキングアッセイを行った。
【0134】
また、wt‐gD並びにR‐BP909及びR‐LM113内に存在する他のゲノム改変、即ちBAC配列の挿入及びGFPマーカーの挿入を担持するR‐LM5を対照として使用した。先ず、本発明者らは、R‐BP909の感染がHER2受容体を介して起こることを確認した。12ウェルプレート中のJ‐HER2細胞又はSK‐OV‐3細胞の複製単層を、scFv‐HER2が由来するHER2に対するMAbであるトラスツズマブと共に又は非免疫マウスIgC(最終濃度28μg/ml)と共にプレインキュベートした。抗体との37℃で1時間のプレインキュベートの後、R‐BP909及び比較としてのR‐LM113又はR‐LM5により入力感染多重度5PFU/細胞(SK‐OV‐3において滴定)で細胞を感染させた。両細胞タイプのR‐BP909感染はトラスツズマブによってほとんど消失しており、R‐BP909は、HER2を侵入のポータル(portal of entry)として用い、侵入のオフターゲット経路(off-target pathway of entry)を用いていないことが示された。R‐BP909がHER2を受容体として利用することができるという発見は、HSVの親和性が、gBにおける異種リガンドを操作することによって改変され得るという証拠を提供する。更に、gB再標的化HSVR‐BP909のJ‐HER2細胞への感染は、gD受容体を欠き、その同種受容体(cognate receptors)によっては活性化され得ず、活性化をgBに伝達することができない細胞において生じ得る。本発明者らは、R‐BP909の感染が、機能的受容体結合部位を有するgDを必要としないと結論付けた。これは、再標的化R‐BP909がHER2細胞をJ‐HER2細胞における侵入のポータルとして利用するという結論を立証している。
【0135】
必須糖タンパク質、gD、gH/gLの他、遺伝子操作により改変されなかったのgBの部分の寄与を解明するために、ビリオンをgDHD1に対するMAbs(1.5μg/ml)、gBH126に対するMAbs(1:2000)、gHに対するMAb52S(腹水1:25)と共に前述の37℃で1時間プレインキュベートし、次いで90分間細胞に吸着させた。MAbHD1の場合、HD1とトラスツズマブ(別名ハーセプチン)の組み合わせも試験した。次いで、ウイルス接種物(viral inocula)を除去し、示された抗体を含む培地で細胞を覆った。
【0136】
感染は、蛍光活性化セルソーター(fluorescent activated cell sorter)(FACS)によって定量化した(図5)。gBに対するMAbH126は、Tyr303に必須残基を有する、gBのドメインI内の直線状エピトープ(linear epitope)を認識する。gHに対するMAb52Sは、gLとは無関係に、Ser536及びAla537に必須残基を有する連続エピトープを認識する。SK‐OV‐3及びJ‐HER2細胞の両方のR‐BP909感染は、MAbH126(1:2000)によって消失し(図5A及びB)、wt‐gB中の重要な機能的ドメインは、キメラ内に保存され、gH/gLに対する役割であったことが示された。MAbHD1は、以前の知見(Gatta et al, 2015)と一致して、R‐BP909及びR‐LM113感染を抑制しなかった。この結果は、R‐BP909がgBによってHER2に再標的化され、成熟gDにおけるAA6~38欠失の影響でネクチン1/HVEMから脱標的化されるという結論を支持する。
【0137】
実施例6:組み換え体の複製の程度
【0138】
本発明者らは、R‐BP909の複製の程度を、それぞれgD及びgHにおけるscFv‐HER2の挿入を介してHER2に再標的化された組み換え体R‐LM113及びR‐VG809の複製の程度と比較した。複製は、受容体としてHER2及びネクチン1/HVEMを発現するSK‐OV‐3細胞において測定した。
【0139】
細胞を37℃で90分間、入力感染多重度0.1PFU/細胞で感染させ、未吸着ウイルスを酸性洗浄(40mMのクエン酸、10mMのKCl、135mMのNaCl[pH3])によって不活性化した。複製培養物を感染後の指定時間(3、24及び48時間)に凍結させ、その子孫をSK‐OV‐3において滴定した。図6の結果は、R‐BP909がR‐VG809と同程度で複製し、R‐LM113より約1桁少なかったことを示している。
【0140】
実施例7:HER2陽性癌細胞を死滅させるためのR‐BP909及び比較用のR‐VG809の能力並びにHER2癌細胞の死滅能力の欠如
【0141】
HER2陽性SK‐OV‐3及びMDA‐MB‐453並びにHER2陰性MDA‐MB‐231細胞を96ウェルプレートに8×10E3細胞/ウェルで播種し、37℃で90分間、組み換え体R‐BP909、比較用のR‐VG809に曝露し又は偽感染させた(mock-infected)。入力感染多重度(対応細胞株において滴定)は、SK‐OV‐3及びMDA‐MB‐453については2PFU/細胞、MDA‐231細胞については0.1PFU/細胞であった。アラマーブルー(Alamar-Blue)(10μl/ウェル、ライフテクノロジーズ)をウイルス曝露後の指定時間に培地に添加し、37℃で4時間培養した。グロマックスディスカバーシステム(プロメガ)(GloMax Discover System(Promega))を用いてプレートを560及び600nmで読み取った。各時点について、細胞生存率は、各サンプルについての培地単独の寄与を除外して、非感染細胞に対する感染細胞におけるアラマーブルー減少の百分率として表した。HER2陽性SK‐OV‐3及びMDA‐MB‐453においてR‐BP909及びR‐VG809によって引き起こされる細胞毒性は、感染後7日で70~90%の範囲であった。どちらのウイルスも、HER2陰性MDA‐MD‐231癌細胞を死滅させておらず、それらの細胞に感染する能力がないことと一致していた(図7)。
【0142】
実施例8 Vero‐GCN4及び癌細胞株SK‐OV‐3においてR‐313が複製する能力
【0143】
既に示したように、gDのAA6~38の代わりにscFv‐HER2を挿入すると、HER2受容体への再標的化並びにネクチン1及びHVEMの両方からの脱標的化が組み換えウイルスR‐LM113に付与される。本発明において、本発明者らは、gBのAA43~44の間にscFv‐HER2を担持するR‐BP909が、gBを介してHER2受容体に再標的化された、完全にリダイレクトされた親和性を呈する証拠を提供する。
【0144】
本発明者らは、更に、短いペプチド、ここではGCN4ペプチドと命名された2つの隣接wtGCN4残基及び2つのリンカーを有するGCN4酵母転写因子のエピトープYHLENEVARLKK(配列ID番号38)によりここでは例示される短いペプチドによってHSVを再標的化するために、gBが適切なタンパク質であるかどうかを調査した。20アミノ酸ペプチドは、GCN4に対するscFvがネクチン1の細胞外ドメイン2、3、TM及びC尾部に融合してできた人工的受容体(Zahnd et al., 2004)を発現するVero‐GCN4細胞株に感染してそこで複製する能力をR‐313に付与するはずである。
【0145】
R‐313の親和性を試験するために、本発明者らは、サルwt‐Vero、Vero‐GCN4、SK‐OV‐3、及びgDに対する受容体を発現し又は発現しない前述のJ細胞を使用した。示された細胞をR‐313により感染させ、そのような記載がある場合には、細胞をトラスツズマブ(別名ハーセプチン)(最終濃度28μg/ml)で前処理した。感染は、感染24時間後に緑色蛍光顕微鏡でモニタリングした。
【0146】
図8に示すように、R‐313は、未処理Vero‐GCN4及びVero‐wtの両方に感染したが、トラスツズマブの存在下では、Vero‐GCN4の感染のみが観察された。この結果は、R‐313がVero‐GCN4に感染できたことを示す。R‐313によるwt‐Vero細胞の感染とは対照的に、この感染はハーセプチンによっては抑制されず、実際にgBに挿入されたGCN4ペプチドによって媒介されたことが示された。R‐313によるwt‐Vero細胞の感染は、実際に細胞のハーセプチンへの曝露により抑制されるので、Vero細胞内に存在するHER2のサルオルソログ(simian ortholog)を介して生じる。
【0147】
gDに融合したscFv‐HER2は、ハーセプチンによる抑制によって立証されたように、HER2を介したSK‐OV‐3細胞の感染を依然として可能にした。J、Jネクチン及びJ‐HVEMの感染の欠如は、gDのAA6~38の欠失に起因してR‐LM113によって既に示された脱標的化プロファイルを確認した。累積的に、この一連の結果は、R‐313が、gBに融合したGCN4ペプチドを介してVero‐GCN4細胞に感染し、gDにおいてHER2を介してSK‐OV‐3細胞に感染する能力を有することを示している。
【0148】
実施例9:Vero‐GCN4及びSK‐OV‐3細胞におけるR‐313の複製の程度
【0149】
本発明者らは、R‐313の複製の程度を、Vero‐GCN4及びSK‐OV‐3細胞における組み換え体R‐LM113及びR‐LM5の複製の程度と比較した。細胞を37℃で90分間、入力感染多重度0.1PFU/細胞(対応細胞株において滴定)で感染させ、未吸着ウイルスを酸性洗浄(40mMのクエン酸、10mMのKCl、135mMのNaCl[pH3])によって不活性化した。複製培養物を感染後の指定時間(3、24及び48時間)に凍結させ、その子孫をSK‐OV‐3において滴定した。図9の結果は、Vero‐GCN4においてはR‐LM113よりも高い程度で且つR‐LM5と同程度でR‐313が複製したことを示している。R‐313は、SK‐OV‐3においてR‐LM113と同程度で複製することができ、R‐LM5よりも1桁ほど低い。
【0150】
累積的に、結果は、R‐313がGCN4及びHER2を介して同時に再標的化されることを示している。
【0151】
実施例10:異なる細胞株におけるR‐313のコロニー形成率(plating efficiency)
【0152】
コロニー形成率実験のために、示された細胞単層をR‐313の連続希釈物(10-5~10-10)の複製分量(replicate aliquots)により感染させた。感染及び接種物の除去後、寒天を含む培地をプレートに添加し、単層を37℃で3日間培養してプラーク形成(plaque formation)を可能にした。3日目に、蛍光顕微鏡下でプラークを数えた。数値は、SK‐OV‐3におけるR‐313コロニー形成率がVero‐GCN4におけるそれと非常に類似していることを示しており、両者は、wt‐Veroにおいて観測されたものよりも僅かに高く、R‐313が、gBにおいて操作されたGCN4ペプチドとgDに挿入されたscFv‐HER2とを二者択一的にそれぞれVero‐GCN4及びSK‐OV‐3細胞に侵入するために利用できることが確認された。J‐HER2細胞におけるR‐313のコロニー形成率は、同じ細胞におけるR‐LM113と区別することができず、GCN4ペプチドの挿入が有害ではないことが示された(図10)。
【0153】
実施例11:異なる細胞株におけるR‐313の相対的なプラークサイズ
【0154】
プラークサイズアッセイを行うために、R‐313、R‐LM113及びR‐LM5の10倍希釈物を、Vero‐GCN4、wt‐Vero及びSK‐OV‐3単層に播種した。感染した単層に、寒天を含む培地を重ねた。3日後、蛍光顕微鏡で写真を撮影した。代表的な写真は、試験したいずれの細胞株においてもR‐313がR‐LM113よりも大きなプラークを形成していることを示す。同様に、R‐LM5によって形成されたプラークは、R‐313によって形成されたプラークよりも更に大きかった(図11)。
【0155】
実施例12
A)R‐315:gD内のAA6~38の欠失において既にscFv‐HER2を発現しているHSV組み換え体におけるHSVgBのAA81及び82の間へのGCN4ペプチドの挿入。
【0156】
手順は、以下の相違点を除き、R‐313のgBにおいてGCN4ペプチドを操作するために上述したものと同じである。先ず、pGalKをテンプレートとして用い、プライマーgB81fGALK CGGGGGACACGAAACCGAAGAAGAACAAAAAACCGAAAAACCCACCGCCGCCGCCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号15)及びgB81GALKrev CGCAGGGTGGCGTGGCCCGCGGCGACGGTCGCGTTGTCGCCGGCGGGGCGTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号16)により、galKカセットを増幅した。次いで、下流及び上流Ser‐Glyリンカーを有しgBへの相同アームにより挟まれたGCN4ペプチドカセット(配列ID番号36、配列ID番号37をコードする)を、制限分析によるコロニーのスクリーニングに有用なBamHIエンドヌクレアーゼのためのサイレント制限部位(silent restriction site)を導入するプライマーgB_81_GCN4_for CGGGGGACACGAAACCGAAGAAGAACAAAAAACCGAAAAACCCACCGCCGCCGGGATCCAAGAACTACCACCTGGAGAACGAGGTGGCCAGACTGAAGAAGCTGGTGGGCAGC(配列ID番号49)及びgB_81_GCN4_rev CGCAGGGTGGCGTGGCCCGCGGCGACGGTCGCGTTGTCGCCGGCGGGGCGGCTGCCCACCAGCTTCTTCAGTCTGGCCACCTCGTTCTCCAGGTGGTAGTTCTTGGATCC(配列ID番号50)のアニーリング及び伸長を介して生成した。組み換えゲノムは、配列GSを有する1つの下流Ser‐Glyリンカーと1つの上流Ser‐Glyリンカーとを含むGCN4ペプチドを担持するキメラgB(配列ID番号51)をコードする。
【0157】
B)R‐317:gD内のAA6~38の欠失において既にscFv‐HER2を発現しているHSV組み換え体におけるHSVgBのAA76及び77の間へのGCN4ペプチドの挿入。
【0158】
手順は、以下の相違点を除き、R‐315のgBにおいてGCN4ペプチドを操作するために上述したものと同じである。先ず、pGalKをテンプレートとして用い、プライマーgB_76_galK_for GGCCCCGCCCCAACGGGGGACACGAAACCGAAGAAGAACAAAAAACCGAAACCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号44)及びgB_76_galK_rev CCCGCGGCGACGGTCGCGTTGTCGCCGGCGGGGCGCGGCGGCGGTGGGTTTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号45)により、galKカセットを増幅した。次いで、下流及び上流Ser‐Glyリンカーを有しgBへの相同アームにより挟まれたGCN4ペプチドカセット(配列ID番号36、配列ID番号37をコードする)を、制限分析によるコロニーのスクリーニングに有用なBamHIエンドヌクレアーゼのためのサイレント制限部位を導入するプライマーgB_76_GCN4_for GGCCCCGCCCCAACGGGGGACACGAAACCGAAGAAGAACAAAAAACCGAAAGGATCCAAGAACTACCACCTGGAGAACGAGGTGGCCAGACTGAAGAAGCTGGTGGGCAGC(配列ID番号46)及びgB_76_GCN4_rev CCCGCGGCGACGGTCGCGTTGTCGCCGGCGGGGCGCGGCGGCGGTGGGTTGCTGCCCACCAGCTTCTTCAGTCTGGCCACCTCGTTCTCCAGGTGGTAGTTCTTGGATCC(配列ID番号47)のアニーリング及び伸長を介して生成した。組み換えゲノムは、配列GSを有する1つの下流Ser‐Glyリンカーと1つの上流Ser‐Glyリンカーとを含むGCN4ペプチドを担持するキメラgB(配列ID番号48)をコードする。
【0159】
C)R‐319:gD内のAA6~38の欠失において既にscFv‐HER2を発現しているHSV組み換え体におけるHSVgBのAA95及び96の間へのGCN4ペプチドの挿入。
【0160】
手順は、以下の相違点を除き、R‐317のgBにおいてGCN4ペプチドを操作するために上述したものと同じである。先ず、pGalKをテンプレートとして用い、プライマーgB_95_galK_for CGCCGCCGCGCCCCGCCGGCGACAACGCGACCGTCGCCGCGGGCCACGCCCCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号52)及びgB_95_galK_rev GTTTGCATCGGTGTTCTCCGCCTTGATGTCCCGCAGGTGCTCGCGCAGGGTTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号53)により、galKカセットを増幅した。次いで、下流及び上流Ser‐Glyリンカーを有しgBへの相同アームにより挟まれたGCN4ペプチドカセット(配列ID番号36、配列ID番号37をコードする)を、制限分析によるコロニーのスクリーニングに有用なBamHIエンドヌクレアーゼのためのサイレント制限部位を導入するプライマーgB_95_GCN4_for CGCCGCCGCGCCCCGCCGGCGACAACGCGACCGTCGCCGCGGGCCACGCCGGATCCAAGAACTACCACCTGGAGAACGAGGTGGCCAGACTGAAGAAGCTGGTGGGCAGC(配列ID番号54)及びgB_95_GCN4_rev GTTTGCATCGGTGTTCTCCGCCTTGATGTCCCGCAGGTGCTCGCGCAGGGTGCTGCCCACCAGCTTCTTCAGTCTGGCCACCTCGTTCTCCAGGTGGTAGTTCTTGGATCC(配列ID番号55)のアニーリング及び伸長を介して生成した。組み換えゲノムは、配列GSを有する1つの下流Ser‐Glyリンカーと1つの上流Ser‐Glyリンカーとを含むGCN4ペプチドを担持するキメラgB(配列ID番号56)をコードする。
【0161】
組み換えウイルスR‐BP909を再構成するために、500ngの組み換えBACDNAを、リポフェクタミン2000(ライフテクノロジーズ)により、R6と命名されたgD相補細胞株(HSV後期UL26.5プロモーターの制御下でwt‐gDを発現しているウサギ皮膚細胞株(Zhou et al., 2000))にトランスフェクトし、次いでSK‐OV‐3細胞内で増殖させた。ウイルス増殖は緑色の蛍光によってモニタリングした。組み換え体の構造は、全gB、並びにR‐BP909についてgD及びgHORFs、R‐BP903及びR‐BP901のscFvHER2及びgBにおける挿入部位を配列決定することにより検証した。我々は、組み換えウイルスR‐909のgBについて、操作BAC‐DNAには存在しない1つの変異(Y276S)を特定した。ウイルスストックを生成し、SK‐OV‐3細胞において滴定した。
【0162】
組み換えウイルスR‐BP901、R‐BP903、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319を再構成するために、500ngの組み換えBACDNAをリポフェクタミン2000(ライフテクノロジーズ)によりSK‐OV‐3細胞にトランスフェクトした。ウイルス増殖は緑色の蛍光によってモニタリングした。R‐313ウイルスをSK‐OV‐3内で6回継代し、凍結/融解してSK‐OV‐3細胞を溶解し、続いてVero‐GCN4R細胞内で増殖させた。ウイルスストックをVero‐GCN4Rにおいて生成し、Vero‐GCN4R、wt‐Vero及びSK‐OV‐3細胞において滴定した。組み換えR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319のゲノムは、gB全体の配列決定によって部分的に検証した。
【0163】
実施例13:Vero‐GCN4R及び癌細胞株SK‐OV‐3においてR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319が複製する能力
【0164】
既に示したように、gDのAA6~38の代わりにscFv‐HER2を挿入すると、HER2受容体への再標的化並びにネクチン1及びHVEMの両方からの脱標的化が組み換えウイルスR‐LM113に付与される。本発明において、本発明者らは、gBのAA43~44の間にscFv‐HER2を担持するR‐BP909が、gBを介してHER2受容体に再標的化された、完全にリダイレクトされた親和性を呈する証拠を提供する。
【0165】
本発明者らは、更に、短いペプチド、ここではGCN4ペプチドと命名された2つの隣接wtGCN4残基及び2つのリンカーを有するGCN4酵母転写因子のエピトープYHLENEVARLKK(配列ID番号38)によりここでは例示される短いペプチドによってHSVを再標的化するために、gBが適切なタンパク質であるかどうかを調査した。20アミノ酸ペプチドは、GCN4に対するscFvがネクチン1の細胞外ドメイン2、3、TM及びC尾部に融合してできた人工的受容体(Zahnd et al., 2004)を発現するVero‐GCN4R細胞株に感染してそこで複製する能力をR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319に付与するはずである。
【0166】
R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の親和性を試験するために、本発明者らは、サルwt‐Vero、Vero‐GCN4R、SK‐OV‐3、及びgDに対する受容体を発現し又は発現しない前述のJ細胞を使用した。示された細胞を示された組み換え体により感染させ、そのような記載がある場合には、細胞をトラスツズマブ(別名ハーセプチン)(最終濃度28μg/ml)で前処理した。感染は、感染24時間後に緑色蛍光顕微鏡でモニタリングした。
【0167】
図8に示すように、R‐313(パネルA)、R‐315(パネルB)、R‐317(パネルC)及びR‐319(パネルD)は、未処理Vero‐GCN4R及びVero‐wtの両方に感染したが、トラスツズマブ(別名ハーセプチン)の存在下では、Vero‐GCN4Rの感染のみが観察された。この結果は、gBの異なる位置にGCN4ペプチドの挿入を担持する全ての組み換え体が、Vero‐GCN4Rに感染できたことを示す。wt‐Vero細胞の感染とは対照的に、Vero‐GCN4Rの感染はハーセプチンによっては抑制されず、実際にgBに挿入されたGCN4ペプチドによって媒介されたことが示された。R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319によるwt‐Vero細胞の感染は、実際に細胞のハーセプチンへの曝露により抑制されるので、Vero細胞内に存在するHER2のサルオルソログを介して生じる。
【0168】
gDに挿入されたscFv‐HER2は、ハーセプチンによる抑制によって立証されたように、HER2を介したSK‐OV‐3細胞の感染を依然として可能にした。J、Jネクチン及びJ‐HVEMの感染の欠如は、gDのAA6~38の欠失に起因してR‐LM113によって既に示された脱標的化プロファイルを確認した。累積的に、この一連の結果は、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319が、gBに挿入されたGCN4ペプチドを介してVero‐GCN4R細胞に感染し、gDにおいてHER2を介してSK‐OV‐3細胞に感染する能力を有することを示している。
【0169】
実施例14:Vero‐GCN4R及びSK‐OV‐3細胞におけるR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の複製の程度
【0170】
本発明者らは、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の複製の程度を、SK‐OV‐3細胞(図9A)及びVero‐GCN4R細胞(図9B)における組み換え体R‐LM113及びR‐LM5の複製の程度と比較した。細胞を37℃で90分間、入力感染多重度0.1PFU/細胞(対応細胞株において滴定)で感染させ、未吸着ウイルスを酸性洗浄(40mMのクエン酸、10mMのKCl、135mMのNaCl[pH3])によって不活性化した。複製培養物を感染後の指定時間(24及び48時間)に凍結させ、その子孫をSK‐OV‐3において滴定した。図9Aから、R‐315及びR‐317は、SK‐OV‐3細胞におけるR‐LM5及びR‐LM113と同様の力価(titters)まで増殖したことが分かる。対照的に、R‐313及びR‐319は、R‐315及びR‐317よりも1~2桁ほど少なく増殖した。図9Bの結果は、R‐313、R‐315及びR‐317が、Vero‐GCN4RにおいてはR‐LM113と同程度で且つR‐LM5よりも1桁低く複製したことを示している。同様に、R‐319は、R‐315、R‐317及びR‐319よりも1~2桁ほど少なく増殖した。
【0171】
累積的に、結果は、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319がGCN4及びHER2を介して同時に再標的化されることを示している。
【0172】
実施例15:異なる細胞株におけるR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319のコロニー形成率
【0173】
本発明者らは、異なる細胞株においてR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319がプラークを形成する能力を、数値(図10)に関して比較した。SK‐OV‐3細胞において滴定した同量のウイルス(50PFU)を含むR‐LM5、R‐LM113、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の複製分量をwt‐Vero、Vero‐GCN4R及びSK‐OV‐3上に播種した。寒天を含む培地を感染した単層に重ね、プラークの数を3日後に数えた。
【0174】
実験の結果は、gB内にGCN4ペプチド挿入を担持している全ての組み換えウイルス(R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319)のコロニー形成率が、wt‐Veroと比較してVero‐GCN4R細胞上でより高かったが、対照ウイルスについてはそうではなかった。全てのgB組み換え体は、Vero‐GCN4R及びSK‐OV‐3細胞において同様のコロニー形成率を示した。
【0175】
実施例16:異なる細胞株におけるR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の相対的なプラークサイズ
【0176】
プラークサイズアッセイを行うために、R‐313、R‐315、R‐317及びR‐319の10倍希釈物を、Vero‐GCN4R、wt‐Vero及びSK‐OV‐3単層に播種した。感染した単層に、寒天を含む培地を重ねた。3日後、蛍光顕微鏡で写真を撮影した。代表的な写真は、試験したいずれの細胞株においてもR‐313、R‐315、R‐317及びR‐319がR‐LM113よりも大きなプラークを形成していることを示す。R‐LM5によって形成されたプラークは更に大きかった(図11)。プラークサイズの決定(図11B)のために、各ウイルスについて5つのプラークの写真を撮った。プラーク面積(pxE2)をNisエレメントイメージングソフトウェア(ニコン)(Nis Elements-Imaging Software(Nikon))で測定した。各結果は平均面積±SDを表す。
【0177】
実施例17:R‐321:gDにおけるAA6~38の欠失においてscFv‐HER2を既に発現しており、gBのAA43及び44の間にGCN4ペプチドを既に発現しているHSV組み換え体におけるgDのAA6~29及び31~37の再導入。
【0178】
先ず、pGalKをテンプレートとして用い、プライマーgD5_galK_f TTGTCGTCATAGTGGGCCTCCATGGGGTCCGCGGCAAATATGCCTTGGCGCCTGTTGACAATTAATCATCGGCA(配列ID番号57)及びscFv_galK_rev GAGGCGGACAGGGAGCTCGGGGACTGGGTCATCTGGATATCGGAATTCTCTCAGCACTGTCCTGCTCCTT(配列ID番号58)により、galKカセットを増幅した。galKカセットは、galK組み換え技術によりR‐313バックボーンに挿入した。次いで、
プライマーgDdel30_38for TTGTCGTCATAGTGGGCCTCCATGGGGTCCGCGGCAAATATGCCTTGGCGGATGCCTCTCTCAAGATGGCCGACCCCAATCGCTTTCGCGGCAAAGACCTTCCGGTCC(配列ID番号59)及びgDdel30_38rev GAGGCGGACAGGGAGCTCGGGGACTGGGTCATCTGGATATCGGAATTCTCCACGCGCCGGACCCCCGGAGGGGTCAGCTGGTCCAGGACCGGAAGGTCTTTGCCGCGA(配列ID番号60)のアニーリング及び伸長を介して、gDのAA6~29及び31~37を備えるオリゴを生成した。組み換えゲノムは、gDのAA30及び38の欠失並びにgDのAA37の後におけるscFv‐HER2の挿入を担持するキメラgD(配列ID番号61)をコードする。配列ID番号35は、アミノ酸43及び44の間にGCN4ペプチドを挿入したキメラgBを示す。組み換えBACの構造は、gDの領域6~37の上流及び下流の配列決定によって検証した。
【0179】
組み換えウイルスR‐321を再構成するために、500ngの組み換えBACDNAをリポフェクタミン2000(ライフテクノロジーズ)によりSK‐OV‐3細胞にトランスフェクトした。ウイルス増殖は緑色の蛍光によってモニタリングした。R‐321ウイルスをSK‐OV‐3内で6回継代し、凍結/融解してSK‐OV‐3細胞を溶解し、続いてVero‐GCN4R細胞内で増殖させた。
【0180】
実施例18:R‐321をHGV‐1天然受容体から再標的化する。
【0181】
既に示したように、gDのAA6~38の代わりにscFv‐HER2を挿入すると、HER2受容体への再標的化並びにネクチン1及びHVEMの両方からの脱標的化が組み換えウイルスR‐LM113に付与される。本発明において、本発明者らは、gDのAA30~38のみの欠失及びgDのAA37の後のscFv‐HER2の挿入を担持するR‐321が、それがHSV‐1天然受容体を介して感染する能力を失っていることにより、完全に脱標的化されたプロファイルを呈する証拠を提供する。また、R‐321は、R‐313と同様に、gBのAA43及び44の間にGCN4ペプチドを担持する。
【0182】
R‐321の親和性を試験するために、本発明者らは、サルwt‐Vero、Vero‐GCN4R、SK‐OV‐3、及びgDに対する受容体を発現し又は発現しない前述のJ細胞を使用した。示された細胞をR‐321により感染させ、そのような記載がある場合には、細胞をトラスツズマブ(別名ハーセプチン)(最終濃度28μg/ml)で前処理した。感染は、感染24時間後に緑色蛍光顕微鏡でモニタリングした。
【0183】
J、Jネクチン及びJ‐HVEMの感染の欠如(図15)は、R‐321が、gDのAA30及び38の欠失に起因してHSV‐1天然受容体から脱標的化されることを示す。gDに融合したscFv‐HER2は、ハーセプチンによる抑制によって立証されたように、HER2を介したSK‐OV‐3細胞の感染を可能にした。図15に示すように、R‐321は、未処理Vero‐GCN4R及びVero‐wtの両方に感染したが、トラスツズマブ(別名ハーセプチン)の存在下では、Vero‐GCN4Rの感染のみが観察された。この結果は、R‐321が、R‐313と同様に、Vero‐GCN4Rに感染できることを示す。wt‐Vero細胞の感染とは対照的に、Vero‐GCN4Rの感染はハーセプチンによっては抑制されず、実際にgBに挿入されたGCN4ペプチドによって媒介されたことが示された。R‐321による感染は、実際に細胞のハーセプチンへの曝露により抑制されるので、Vero細胞内に存在するHER2のサルオルソログを介して生じる。
【0184】
累積的に、これらの結果は、R‐321が、gDにおけるaa30及び38の欠失の影響で、GCN4を介して及びHER2を介して同時に再標的化され、またHSV天然受容体から脱標的化されることを示している。
【0185】
実施例19:Vero‐GCN4R及びSK‐OV‐3細胞におけるR‐321の複製の程度
【0186】
本発明者らは、R‐321の複製の程度を、SK‐OV‐3細胞(図16A)及びVero‐GCN4R(図16B)における組み換え体R‐LM113及びR‐LM5の複製の程度と比較した。細胞を37℃で90分間、入力感染多重度0.1PFU/細胞(対応細胞株において滴定)で感染させ、未吸着ウイルスを酸性洗浄(40mMのクエン酸、10mMのKCl、135mMのNaCl[pH3])によって不活性化した。複製培養物を感染後の指定時間(24及び48時間)に凍結させ、その子孫をSK‐OV‐3において滴定した。図16Aから、R‐321は、SK‐OV‐3細胞におけるR‐LM5及びR‐LM113と同様の力価まで増殖したことが分かる。図16Bの結果は、R‐321が、Vero‐GCN4RにおいてはR‐LM113よりも1桁高く且つR‐LM5と同程度で複製したことを示している。
【0187】
実施例20:Vero‐GCN4細胞株
【0188】
VeroGCN4細胞株は、GCN4ペプチドに対するscFv(Zahnd et al., 2004)から作られ、配列ID番号39において報告されているようなヒトコドン使用(human codon usage)に最適化された配列を有し、ネクチン1に融合した人工キメラ受容体を発現する。GCN4ペプチドは、サッカロマイセスセレビシエ転写因子GCN4の一部であり、その部分的mRNA配列は配列ID番号42において報告されている。より詳細には、pDISPLAY(インビトロジェン)(pDISPLAY (Invitrogen))ベクターにおけるのと同様に、N末端リーダーペプチド(N-terminal leader peptide)及びHAタグ配列(HA tag sequence)が存在する。これは、リーダーペプチドの効率的で適切なプロセシングを確実にするはずである。HAタグの後に、短いGAリンカーがscFvの上流に存在する。GCN4に対するscFvのアミノ酸配列は、配列ID番号39において報告されている。scFvのC末端に短いGSGAリンカーが存在する。残りの分子は、ネクチン1細胞外ドメイン2及び3とTMセグメントと細胞内細胞質尾部(intracellular cytoplasmic tail)とを備えるヒトネクチン1(PVRL1)残基Met143~Val517に対応する(図12)。キメラを遺伝子技術(Gene Art)によりインビトロで合成し、pcDNA3.1‐Hygro_(+)へとクローン化させた結果、プラスミドscFv_GCN4_ネクチン1キメラがもたらされ、その挿入部分(insert)は、配列ID番号40により特定されるヌクレオチド配列を有し、これはscFv_GCN4ネクチン1キメラ配列ID番号41のアミノ酸配列をコードする。
【0189】
プラスミドscFv_GCN4_ネクチン1キメラからのDNAをリポフェクタミン2000によりVero細胞(ATCC CCL‐81(商標))にトランスフェクトした。GCN4ペプチドに対する人工受容体を発現するVero細胞をハイグロマイシン(200μg/ml)により選択し、次いでHAタグに対するMAbと組み合わされた磁気ビーズ(ミルテニー(Miltenyi))によりソートした。ソートした細胞を96ウェル(0.5細胞/ウェル)で単一細胞クローニングに付した。
【0190】
HAタグに対するMAbによるGCN4ペプチドに対するscFvの発現の検出のためのFACSにより単一クローンを分析した。選択されたクローンは11.2であった。我々は、Vero‐GCN4細胞株の連続継代中に人工受容体の発現が連続40継代後も安定したままであることを確認した(図13)。
【0191】
参照文献
Abstract # P-28, 9th International conference on Oncolytic virus Therapeutics, Boston 2015
Arndt K. and Fin G.R., PNAS 1986, 83, 8516-8520
Backovic M. et al., PNAS, 2009, 106, 2880-2885;
Burke H.G. and Heldwein E.E., Plos Pathogens, 2015, 11(11), e1005300, doi: 10.1371/journal.ppat.1005300
Castoldi R. et al., Oncogene, 2013, 32, 5593-601
Castoldi R. et al., Protein Eng Des Sel, 2012, 25, 551-9
Douglas J.T. et al., Nat Biotechnol, 1999, 17, 470-475
Florence G. et al., Virology: A Laboratory Manual, 1992, ISBN-13: 978-0121447304
Gallagher J.R. et al., PLOS Pathogens, 2014, 10, e1004373, 1-16
Gatta V. et al., PLOS Pathogens, 2015, DOI: 10.1371/journal.ppat.1004907
Heldwein E.E et al., Science, 2006, 313, 217-220
Hope I.A and Struhl K., EMBO J, 1987, 6, 2781-2784
Josan J.S. et al., Bioconjug Chem, 2011, 22, 1270-1278;
Karlin S. and Altschul S.F., PNAS, 1990, 87, 2264-2268
Karlin S.and Altschul S.F., PNAS, 1993, 90, 5873-5877
Lin E. and Spear P.G., PNAS, 2007, 104, 13140-13145
Liu B.L. et al., Gene Ther, 2003, 10, 292-303
Morgan A.A. and Rubistein E., PLoS One, 2013, 8(1), e53785. doi: 10.1371/journal.pone.0053785. Epub 2013 Jan 25. PMID: 23372670
Menotti L, et al., J Virol, 2008, 82, 10153-10161; doi: 10.1128/JVI.01133-08. Epub 2008 Aug 6.
Nakamura T. et al., Nat Biotechnol, 2005, 23, 209-214. Epub 2005 Jan 30
Needleman S.B. and Wunsch C. D., J Mol Biol, 1970, 48, 443-453
Pearson W.R. and Lipman D. J., PNAS, 1988, 85, 2444-2448
Peterson R.B. and Goyal S.M., Comp Immunol Microbiol Infect Dis. 1988, 11, 93-98
Potel C. et al., Journal of Virological Methods, 2002, 105, 13-23
Sandri-Goldin R.M. et al., Alpha Herpesviruses: Molecular and Cellular Biology, Caister Academic Press, 2006
Shallal H.M. et al., Bioconjug Chem, 2014, 25, 393-405
Smith T.F. and Waterman M.S., Add APL Math, 1981, 2, 482-489
Xu L. et al., PNAS, 2012, 109, 21295-21300
Zahnd C. et al.., J Biol Chem 2004; 279, 18870-18877
Zhou, G. et al., J Virol, 2000, 74, 11782-11791
図1AB
図1CD
図1EFG
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8AB
図8CD
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
0007185278000001.app