(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】食品の常温乾燥装置
(51)【国際特許分類】
F26B 21/04 20060101AFI20221130BHJP
F26B 9/06 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F26B21/04 C
F26B9/06 K
(21)【出願番号】P 2021130489
(22)【出願日】2021-08-10
(62)【分割の表示】P 2020024178の分割
【原出願日】2014-08-08
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】517050101
【氏名又は名称】株式会社ベジア
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075987(JP,A)
【文献】特開平06-026703(JP,A)
【文献】特開平06-281331(JP,A)
【文献】特開2012-135279(JP,A)
【文献】実開平05-027589(JP,U)
【文献】特開2005-087104(JP,A)
【文献】実開昭61-130892(JP,U)
【文献】特開昭52-095368(JP,A)
【文献】特開平09-252714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 21/04
F26B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農産物又は海産物の食材を収容して乾燥する乾燥庫と、
前記乾燥庫内に設けられ、該乾燥庫内のガスを除湿し、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す除湿機と、
前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられ、上端部が吸気口、下端部が送風口とされる、前記乾燥庫内のガスを循環させるためのダクトと、
前記ダクトの下端部に設けられたファンと、
を備え、
乾燥庫内のガスを取り込む前記除湿機の取込み口と、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す前記除湿機の送出し口が、前記ダクトの吸気口、送風口と異なる位置に設けられ、かつ前記除湿機の取込み口が前記除湿機の下側に設けられ、前記除湿機の送出し口が前記除湿機の上側に設けられ、
前記除湿機
の取込み口から該乾燥庫内の
下部ガスを取り込み、除湿したガスを前記送出し口から該乾燥庫内
の上部に送り出すと共に、
更に、前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられたダクト上端部の吸気口から、ダクトの下端部に設けられたファンによって、該乾燥庫内の上部ガスを吸気し、ダクトの下端部の送風口から前記上部ガスを
該乾燥庫内の下部に送風し、
該乾燥庫内のガスを循環させ、
前記除湿機からの除湿したガスを、乾燥庫の上部の食材に対して供給すると共に、前記除湿機からの除湿したガスを含む該乾燥庫内の上部ガスを、乾燥庫の下部の食材に対して供給し、
前記乾燥庫内の農産物又は海産物の食材を大気圧下で除湿乾燥することを特徴とする食品の常温乾燥装置。
【請求項2】
農産物又は海産物の食材を収容して乾燥する乾燥庫と、
前記乾燥庫内に設けられ、該乾燥庫内のガスを除湿し、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す除湿機と、
前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられ、上端部が送風口、下端部が吸気口とされる、前記乾燥庫内のガスを循環させるためのダクトと、
前記ダクトの上端部に設けられたファンと、
を備え、
乾燥庫内のガスを取り込む前記除湿機の取込み口と、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す前記除湿機の送出し口が、前記ダクトの吸気口、送風口と異なる位置に設けられ、かつ前記除湿機の取込み口が前記除湿機の上側に設けられ、前記除湿機の送出し口が前記除湿機の下側に設けられ、
前記除湿機の取込み口から該乾燥庫内の
上部ガスを取り込み、除湿したガスを前記送出し口から該乾燥庫内の
下部に送り出すと共に、
更に、前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられたダクト下端部の吸気口から、ダクトの上端部に設けられたファンによって、該乾燥庫内の下部ガスを吸気し、ダクトの上端部の送風口から前記下部ガスを
該乾燥庫内の上部に送風し、
該乾燥庫内のガスを循環させ、
前記除湿機からの除湿したガスを、乾燥庫の下部の食材に対して供給すると共に、前記除湿機からの除湿したガスを含む該乾燥庫内の下部ガスを、乾燥庫の上部の食材に対して供給し、
前記乾燥庫内の農産物又は海産物の食材を大気圧下で除湿乾燥することを特徴とする食品の常温乾燥装置。
【請求項3】
前記除湿乾燥が温度60℃以下、相対湿度60%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の食品の常温乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物や野菜等の生鮮食品の乾燥において、酸化を抑制し、できるだけ生の成分を損なわないように乾燥する食品の常温乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品乾燥は、食品中に含まれる水分を除去することにより、軽量化させて運搬性を高めたり、微生物の繁殖を抑制して食品の長期貯蔵を可能としたりすることを目的として行われていた。
このような食品乾燥のための処理方法としては、様々な方法が知られているが、例えば、天日乾燥、高温加熱する場合にはマイクロ波や遠赤外線、熱風を利用した乾燥があり、また、減圧(真空)乾燥、凍結乾燥等もある。
【0003】
しかしながら、天日乾燥は、天候に左右されやすく、一定の品質の乾燥食品を得ることが難しい。
また、高温加熱下での乾燥は、食材に含まれるビタミン類や蛋白質の破壊又は熱変性が生じ、また、食材の表面のみが急激に乾燥硬化しやすく、均質に乾燥されない場合もあり、栄養価の大幅な低減のみならず、色や香り、食味も損なわれる等の課題を有していた。
一方、減圧(真空)乾燥は、装置内の密閉性が要求され、使用する装置が高コストである。また、凍結乾燥は、上記のような高温加熱による栄養価の低減を抑制することができるものの、装置自体が高価であり、また、装置の稼働コストも高く、さらに、凍結による細胞組織の破壊により、香りや食味が損なわれるという課題を有していた。
【0004】
このような課題に対しては、例えば、温度や湿度のムラを改善し、常温(恒温)で乾燥する方法として、乾燥剤を用いる方法や、30~50℃程度の空気を循環させる方法、外部からの空気の送入・排気を常時行う方法、また、40℃以下のランダムな気流で効率的に乾燥する技術等が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-75048号公報
【文献】特許第4448008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような常温乾燥は、高温加熱しないため、成分の変質や色の変化が少なく、コストの抑制も図ることができる。しかしながら、常温で5時間以上と長時間を要するため、乾燥前に十分に殺菌されていない場合、雑菌が繁殖することもあった。また、酸化しやすい白桃やリンゴ等は、果肉の色の変化を防ぐことができず、乾燥果物として品質が十分に保証されているとは言えなかった。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、常温乾燥により成分の変質や色の変化を抑制すると共に、乾燥庫内のガスの循環を、より効率的に行うことができる食品の常温乾燥装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る食品の常温乾燥装置は、農産物又は海産物の食材を収容して乾燥する乾燥庫と、前記乾燥庫内に設けられ、該乾燥庫内のガスを除湿し、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す除湿機と、前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられ、上端部が吸気口、下端部が送風口とされる、前記乾燥庫内のガスを循環させるためのダクトと、前記ダクトの下端部に設けられたファンと、を備え、乾燥庫内のガスを取り込む前記除湿機の取込み口と、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す前記除湿機の送出し口が、前記ダクトの吸気口、送風口と異なる位置に設けられ、かつ前記除湿機の取込み口が前記除湿機の下側に設けられ、前記除湿機の送出し口が前記除湿機の上側に設けられ、前記除湿機の取込み口から該乾燥庫内の下部ガスを取り込み、除湿したガスを前記送出し口から該乾燥庫内の上部に送り出すと共に、更に、前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられたダクト上端部の吸気口から、ダクトの下端部に設けられたファンによって、該乾燥庫内の上部ガスを吸気し、ダクトの下端部の送風口から前記上部ガスを該乾燥庫内の下部に送風し、該乾燥庫内のガスを循環させ、前記除湿機からの除湿したガスを、乾燥庫の上部の食材に対して供給すると共に、前記除湿機からの除湿したガスを含む該乾燥庫内の上部ガスを、乾燥庫の下部の食材に対して供給し、前記乾燥庫内の農産物又は海産物の食材を大気圧下で除湿乾燥することを特徴とする。
また、本発明に係る食品の常温乾燥装置は、農産物又は海産物の食材を収容して乾燥する乾燥庫と、
前記乾燥庫内に設けられ、該乾燥庫内のガスを除湿し、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す除湿機と、前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられ、上端部が送風口、下端部が吸気口とされる、前記乾燥庫内のガスを循環させるためのダクトと、前記ダクトの上端部に設けられたファンと、を備え、乾燥庫内のガスを取り込む前記除湿機の取込み口と、除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す前記除湿機の送出し口が、前記ダクトの吸気口、送風口と異なる位置に設けられ、かつ前記除湿機の取込み口が前記除湿機の上側に設けられ、前記除湿機の送出し口が前記除湿機の下側に設けられ、前記除湿機の取込み口から該乾燥庫内の上部ガスを取り込み、除湿したガスを前記送出し口から該乾燥庫内の下部に送り出すと共に、更に、前記乾燥庫内の側面に上下方向に設けられたダクト下端部の吸気口から、ダクトの上端部に設けられたファンによって、該乾燥庫内の下部ガスを吸気し、ダクトの上端部の送風口から前記下部ガスを該乾燥庫内の上部に送風し、該乾燥庫内のガスを循環させ、前記除湿機からの除湿したガスを、乾燥庫の下部の食材に対して供給すると共に、前記除湿機からの除湿したガスを含む該乾燥庫内の下部ガスを、乾燥庫の上部の食材に対して供給し、前記乾燥庫内の農産物又は海産物の食材を大気圧下で除湿乾燥することを特徴とする。
このような雰囲気下での常温又は低温での乾燥によれば、食材本来の栄養価、色や香り、食味の変化及び雑菌の繁殖による食品の劣化を抑制して乾燥することができる。
【0009】
前記常温乾燥装置においては、乾燥庫内の側面に上下方向に設けられたダクト上端部の吸気口から、ダクトの下端部に設けられたファンによって、該乾燥庫内の上部ガスを吸気し、ダクトの下端部の送風口から送風し、該乾燥庫内のガスを循環させている。
前記乾燥庫内のガスをこのように循環させることにより、該乾燥庫内の上部と下部の温度及び湿度が均一になりやすく、食材を均質かつ短時間で乾燥させることができる。
また、前記常温乾燥装置においては、乾燥庫内の側面に上下方向に設けられたダクト下端部の吸気口から、ダクトの上端部に設けられたファンによって、該乾燥庫内の下部ガスを吸気し、ダクトの上端部の送風口から送風し、該乾燥庫内のガスを循環させている。
同様に、前記乾燥庫内のガスをこのように循環させた場合にも、該乾燥庫内の上部と下部の温度及び湿度が均一になりやすく、食材を均質かつ短時間で乾燥させることができる。
尚、前記除湿乾燥が温度60℃以下、相対湿度60%以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る食品の常温乾燥装置によれば、常温乾燥により成分の変質や色の変化を抑制すると共に、乾燥庫内のガスの循環をより効率的に行うことができる食品の常温乾燥装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図2】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図3】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図4】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図5】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図6】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図7】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図8】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図9】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図10】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図11】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図12】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図13】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図14】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図15】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図16】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図17】他の態様の食品の常温乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図18】従来の食品乾燥装置の一例を示した概略図である。
【
図19】実施例の実験1における人参の含水率の経時変化の比較を示したグラフである。
【
図20】実験1における乾燥庫内の相対湿度の経時変化の比較を示したグラフである。
【
図21】実験2における乾燥したケール中のβ-カロテン量の比較を示したグラフである。
【
図22】実験2における乾燥したケール中の総アスコルビン酸量の比較を示したグラフである。
【
図23】実験2における乾燥したケール中の総クロロフィル量の比較を示したグラフである。
【
図24】実験2における乾燥したケールのスーパーオキシド消去活性の比較を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明に係る食品の常温乾燥装置は、乾燥庫内に該乾燥庫内のガスを除湿する除湿機が設けられた、農産物又は海産物の食材の乾燥品を得る乾燥装置であり、前記食材を収容して乾燥する乾燥庫内に配置し、前記乾燥庫内の側面に設けられたダクトファンにより前記乾燥庫内の上部と下部のガスを循環させて除湿乾燥することを特徴とするものである。
食材を、常温で、このような雰囲気下で乾燥することにより、食材本来の栄養価の低減を抑制し、色や香り、食味が維持され、かつ、雑菌の繁殖による劣化も抑制された乾燥食品を得ることができる。
【0021】
ここで、本発明において乾燥する食材は、農産物又は海産物である。
本発明でいう農産物としては、穀物、豆類、芋類、野菜、山菜、きのこ、種実類、果物、ハーブ等が挙げられ、また、海産物としては、海藻類、魚介類等が挙げられる。
なお、肉類等の畜産物は、動物性脂肪及び蛋白質が多く、乾燥工程において腐敗しやすいため、本発明に係る加工方法には適さない。
【0022】
乾燥する食材は、通常、水で洗浄し、加工する食材の外表面に付着している土や泥等の汚れを落とし、適当な大きさにカットしておく。
カットするサイズは、食材を満遍なく、均等に乾燥させるために、ほぼ同等のサイズに揃えるようにカットすることが好ましい。例えば、乾燥時間を短縮する観点から、また、取り扱い容易とするために、厚さ5mm以下のスライス又は細片とする。
【0023】
なお、雑菌の繁殖を抑制するために、乾燥する食品は、予め、色や食味を損なわない方法で、殺菌・消毒処理をしておくことが好ましい。例えば、次亜塩素酸水溶液への浸漬等により殺菌した後、水洗しておく。
【0024】
そして、適当なサイズに調整された食材を乾燥する。この乾燥は、60℃以下で行う。なお、本発明においては、60℃以下でのほぼ一定した温度での乾燥を常温乾燥と言う。
常温乾燥によれば、食材に含まれる酵素等を失活させず、凍結乾燥のような高価な設備や稼働コストを要することなく、栄養価も凍結乾燥と同等程度に保持することができ、添加物を使用しなくても、生に近い色や香り、凝縮された味を有する乾燥食品を得ることができる。
【0025】
従来のような熱風等による高温での乾燥は、常温乾燥よりも乾燥時間を短縮することが可能であるが、上述したように、熱により栄養価が大幅に低減し、色や香り、食味も損なわれやすい。特に、60℃を超える温度に加熱すると、酵素が失活するため、食材本来の優れた特性を備えた粉末状食品が得られないこととなる。乾燥温度は、55℃以下であることがより好ましい。また、魚介類等の動物性食品の場合には、腐敗防止の観点から、15℃以下で乾燥することが好ましい。
【0026】
前記常温乾燥の方法は、特に限定されるものではないが、満遍なく、効率的に食材を乾燥させるためには、温度をできる限り一定に保ちながら、相対湿度60%以下で除湿乾燥することが好ましい。
そのためには、前記乾燥庫内の側面にダクトファンにより該乾燥庫内の上部と下部のガスを循環させることが好ましい。
【0027】
より好ましくは、前記ダクトファンを、前記乾燥庫内の上部から吸気し、下部において水平方向に送風する、又は、前記乾燥庫内の下部から吸気し、上部において水平方向に送風するように配置する。
このようなダクトファンを設けることにより、前記乾燥庫内のガス循環をより効果的に制御することができる。
なお、前記乾燥庫内の容積に応じて、効果的なガス循環の観点から、前記ダクトファンは、同一側面に複数設けてもよい。
【0028】
また、前記乾燥庫内に水平方向にランダム風を発生させて、前記乾燥庫内の水平方向の温度及び湿度が均一になるようにすることが好ましい。
なお、前記ランダム風は、上記特許文献2に記載されているような方法を用いて、一定時間間隔で発生させるようにすることが好ましい。具体的には、前記乾燥庫内の側面に、該乾燥庫内に水平方向にランダム風を発生させるファンを複数設けることが好ましい。
【0029】
また、前記乾燥後の食材中の水分含有量(含水率)は、食材の種類や形態、乾燥食品の使用態様等により適宜定められるが、保存性等の観点からは、20%以下、好ましくは5%以下になるまで行うことが好ましい。その乾燥時間は、食材の種類や形態にもよるが、10時間以内、通常、2~5時間程度である。
【0030】
前記常温乾燥においては、前記乾燥庫内の酸素濃度を10%以下にすることが好ましい。あるいはまた、前記乾燥庫内に酸素濃度10%以下のガスを送り込むようにしてもよい。より好ましくは、外気よりも湿度の低いガスを送り込む。
通常、乾燥庫内に送り込むガスは、空気を酸素濃度10%以下としたものが用いられ、外気よりも湿度の低い空気であることが好ましい。これにより、効率的に除湿乾燥することができる。
大気中(酸素濃度約20%)よりも、低酸素濃度の雰囲気下で除湿乾燥することにより、食材中の抗酸化作用を有する物質の減少が抑制され、また、活性酸素除去能力の低下を抑制することができる。このため、乾燥食品の酸化の抑制が図られる。
【0031】
酸素濃度10%以下の空気は、例えば、大気圧状態において、空気1L(酸素濃度約20%)に不活性ガス1Lを注入することにより、酸素濃度10%とすることができる。10%を超える場合は、十分な酸化抑制効果が得られない。
【0032】
前記ガスは、酸化抑制効果の観点から、少なくとも一部が不活性ガスにより置換されたガスであることが好ましい。
前記不活性ガスは、具体的には、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンであるが、コストの観点からは、窒素を用いることが好ましい。より好ましくは、純度90%以上の窒素が用いられる。
【0033】
上記のような本発明に係る乾燥方法を用いることにより、従来の常温乾燥食品よりも品質向上が図られた乾燥食品が得られる。
【0034】
上記のような乾燥方法は、例えば、
図1~
図17に示すような常温乾燥装置を用いて行うことができる。各図における矢印は、ガスの流れを示している。
図1に示す食品の常温乾燥装置は、筐体1の中に、ダクトファン10及びランダム風を発生する複数のファン3を内部側面に備えた乾燥庫2と、乾燥庫2内に乾燥空気(除湿ガス)Dを送り込むとともに除湿するための除湿機4を備えている。
尚、前記したように、各図における矢印はガスの流れを示し、前記除湿機4において、除湿機4の内部に向く矢印側が乾燥庫内のガスを取り込む除湿機の取込み口であり、除湿機4から外部に向く矢印側が除湿したガスを該乾燥庫内に送り出す除湿機の送出し口である。
また、乾燥庫2内には、試料Sの乾燥の経過を測定するための計測器として、温湿度計5と、酸素濃度計6と、重量計7とが設けられている。
このような常温乾燥装置においては、乾燥させる試料Sを、乾燥庫2内に設置した重量計7に載せた後、筐体1を密閉し、不活性ガスIを注入することにより、内部の酸素濃度を調整する。
なお、乾燥庫2内は、60℃以下までであれば、乾燥庫2内にヒータ(図示せず)を設けて昇温してもよい。
【0035】
また、
図1に示す食品の常温乾燥装置におけるダクトファン10は、ダクト上部に吸気口を備え、かつ、屈曲したダクトの下部から乾燥庫2内に水平方向に送風する送風口及びファン11を備えた構成からなるものである。
このような装置で乾燥庫2内のガスを循環させることにより、試料S全体に当たる送風ガスの均一化が図られ、試料Sの配置による乾燥具合のムラを抑制することができ、乾燥時間の短縮化も図られる。
なお、ダクトファン10のファン11には、軸流ファン、クロスフローファン、シロッコファン、ターボファン等のいずれでも使用することができる。
【0036】
さらに、試料Sの乾燥具合のムラを抑制するために、試料Sをフロート状態で載置し、試料Sが落下しないように回転させる等の手段を用いることもできる。
【0037】
比較のため、
図18に、従来の食品乾燥装置の一例の概略を示す。
図18に示す乾燥装置は、乾燥庫2内の空気Aを除湿機4で除湿した乾燥空気(除湿ガス)Dを乾燥庫3内に送り込み、除湿乾燥するものである。乾燥庫2内の側面に設けられたダクトファン10は、直管状であり、ダクト上部に吸気口及びファン11を備えている。
このような吸気口側にファン11が配置された従来型のダクトファン10では、乾燥庫2内のガスをムラなく効率的に循環させることができず、乾燥庫2内の上部と下部の温度及び湿度が均一になるように制御することは困難である。このため、試料Sの配置による乾燥具合のムラが生じやすく、また、試料S全体を乾燥する時間も、
図1に示すような本発明に係る装置よりも長くかかる。
【0038】
図2~
図17に、他の態様の食品の常温乾燥装置の例の概略を示す。
図2に示す食品の常温乾燥装置は、乾燥庫2内に除湿機4が設けられ、また、ダクト上部に吸気口、ダクト中央部にファン11を備え、かつ、屈曲したダクトの下部から乾燥庫2内に水平方向に送風する送風口を備えたダクトファン10が設けられている。
ダクトファン10内のファン11を、このようにダクト中央部、又は、
図1に示したように送風口に配置することにより、
図18に示す従来の装置のように吸気口に配置するよりも、乾燥庫2内のガスの循環を制御しやすく、より効率的に乾燥を行うことができる。
また、このような乾燥装置においては、除湿機4により、乾燥庫2内の除湿を行うとともに、その排熱を乾燥庫2内のガスの昇温に利用することができる。
【0039】
図3に示す食品の常温乾燥装置は、
図1におけるダクトファン10のダクトの送風口が屈曲していない直管状のものである。このような送風口でも、乾燥庫2内の側面及び底面に沿って、乾燥庫2内の下部において水平方向に送風するようにすることが可能である。
同様に、
図4に示す食品の常温乾燥装置のように、ダクトファン10のファン11がダクト中央部に配置されていてもよい。
【0040】
図5に示す食品の常温乾燥装置は、
図1におけるダクトファン10のダクトが側面及び天面に沿って延伸して屈曲し、ダクトの吸気口が試料Sの上方の乾燥庫2内の天面に配置されているものである。
乾燥庫2の規模が大きい場合、ダクトファン10をこのような構成にすることにより、
除湿機4から供給されるガスをダクトファン10内に誘導しやすく、効率的な乾燥を行うことができる。
同様に、
図6に示す食品の常温乾燥装置のように、ダクトファン10のファン11がダクト中央部に配置されていてもよい。
【0041】
図7に示す食品の常温乾燥装置は、
図5におけるダクトファン10の天面位置のダクトに複数の穴12をあけたものである。このような構成とすることにより、試料Sから蒸発した水蒸気が、試料Sの上方に滞留することを防止することができる。
同様に、
図8に示す食品の常温乾燥装置のように、ダクトファン10のファン11がダクト中央部に配置されていてもよい。
【0042】
図9~15は、
図1~6,8のそれぞれと、ガスの流れが逆になるように、ダクトファン10が配置され、かつ、除湿機4のガス流も逆になるように構成されたものである。このように、乾燥庫内2のガス流が逆方向であっても、乾燥庫2内の上部と下部の温度及び湿度が均一になるように、ムラなく循環するような構成であれば、試料Sを効率的に乾燥することができる。
【0043】
図16に示す食品の常温乾燥装置は、
図3における除湿機4を乾燥庫2外に設けたものであり、それ以外の構成は、
図3に示す乾燥装置と同様である。
このような乾燥装置では、除湿機4の排熱を乾燥庫2外の大気中に放出することができるため、乾燥庫2内のガスの昇温はヒータ8のみで行うため、温度調整管理を簡便に行うことができる。
【0044】
図17に示す食品の常温乾燥装置は、
図16における除湿機4を窒素発生器9に変更したものであり、それ以外の構成は、
図17に示す乾燥装置と同様である。
このような乾燥装置では、乾燥庫2内にガス(空気)Aを導入すれば、窒素発生器10によって、乾燥庫2内の空気が、水分Wと酸素Oと不活性ガス(窒素)Iに分離される。そして、水分Wと酸素Oは、乾燥庫2外の大気中に放出され、窒素発生器9からは、不活性ガス(窒素)Iのみを乾燥庫2内に送り込むことができる。
なお、窒素発生器10は、膜分離方式やPSA(圧力変動吸着)方式等による公知の窒素発生器を用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実験例に基づき、より具体的に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。
【0046】
(実験1)除湿の有無による乾燥効率の比較
[実験1A]
図1に示すような食品乾燥装置を用いて、5mm角の人参1kgを、除湿しながら40℃で乾燥した。
【0047】
[実験1B]
実験1Aにおいて、除湿せずに、外部の空気の送入・排気を常時行うことにより、5mm角の人参1kgを40℃で乾燥した。
【0048】
上記実験1Aと実験1Bとの人参の含水率及び乾燥庫内の相対湿度の経時変化を比較したグラフを
図19及び
図20に示す。
図19のグラフに示したように、人参の含水率は、除湿乾燥の場合(実験1A)、約8時間後に16%に低下して一定値を示した。これに対して、除湿しない従来の常温(恒温)乾燥の場合(実験1B)は、約13時間後に16%に低下して一定値を示した。
このように、除湿した場合の方が、除湿しない場合よりも、約40%早く乾燥させることができた。
また、
図20のグラフに示したように、乾燥庫内の相対湿度は、除湿乾燥の場合(実験A)、乾燥開始後、約20~25%で推移したが、除湿しない従来の常温(恒温)乾燥の場合(実験1B)は、乾燥開始直後は約60%であり、約13時間後に30%の一定値を示した。
【0049】
(実験2)乾燥食品の成分変化の比較
[実験2A,2B](低酸素雰囲気)
試料としてケールを用い、前処理として茎部分を除去し、20mm×20mmの大きさにカットし、次亜塩素酸水溶液に10分間浸漬させて殺菌・消毒した後、水道水で洗い、付着した水分を拭き取った。
このケールを、
図1に示すような食品乾燥装置を用いて乾燥した。乾燥庫2内には、除湿機4からの乾燥空気(除湿ガス)Dを送り込み、ダクトファン10により乾燥庫2内のガスを循環させ、また、複数のファン3により水平方向にランダム風を発生させた。
カットしたケール500gを200mm×200mm×高さ50mmのメッッシュトレー(網目5mm×5mm)3つに均等に分けて入れ、乾燥庫2内に設置した重量計7に重ねて載せた。
そして、筐体1を密閉し、不活性ガスIとして窒素ガスを注入して、内部の酸素濃度を調整した。
乾燥は、温度55℃で、乾燥庫2内の酸素濃度を0%(実験2A)、10%(実験2B)にそれぞれ設定し、常圧で20時間行った。
【0050】
[実験2C](大気下)
実験2Aにおいて、酸素濃度20.9%(大気下)として、それ以外は実験2Bと同様にして、乾燥を行った。
【0051】
[実験2D](凍結乾燥)
実験2Aと同様にしてカットしたケール450gを220mm×220mmのアルミ箔に150gずつ3層に分け、凍結乾燥機内に入れた。
-40℃で20時間の予備凍結を行った後、20分間の吸気過程を経て、2Pa程度まで減圧した。その後、-10℃で12時間の一次乾燥を行った後、20℃で12時間の二次乾燥を行った。
【0052】
上記実験2A,2B及び実験2C,実験2Dにおいて、いずれも含水率が5%程度となるまで乾燥したケールについて、β-カロテン、総アスコルビン酸、総クロロフィル及びスーパーオキシド消去活性について成分分析を行った。β-カロテン及び総アスコルビン酸は高速液体クロマトグラフィーにより、また、クロロフィルは吸光光度法により、また、スーパーオキシド消去活性は電子スピン共鳴法により測定した。
これらの分析結果を比較したグラフを、
図21~
図24にそれぞれ示す。
【0053】
ここで、β-カロテンは、強い抗酸化作用を持ち、体内でビタミンAに変換される。総アスコルビン酸は、ビタミンCと呼ばれ、抗酸化作用を持つほか、加熱や酸化に弱いため加工食品の品質の目安にされることが多い。総クロロフィルは、葉緑素とも呼ばれ、野菜の葉の緑色はこの成分によるものである。また、スーパーオキシド消去活性とは、体内に過剰に存在すると老化の原因ともなる活性酸素をどの程度除去できるかという指標である。
【0054】
上記実験2A,2B及び実験2C,実験2Dにおいて、酸素濃度の違いによる乾燥経過(含水率の変化)の大きな差は見られなかった。
乾燥ケールの成分分析においては、β-カロテン(
図21参照)は、酸素濃度の違いによる大きな差は見られなかったが、凍結乾燥(実験2D)よりも減少が抑制された。総アスコルビン酸(
図22参照)は、低酸素濃度であるほど減少が抑制され、凍結乾燥(実験2D)よりも減少が抑制された。総クロロフィル(
図23参照)についても、総アスコルビン酸に比べて乾燥条件の違いによる差が小さいものの、凍結乾燥(実験2D)及び大気下の場合(実験2C)よりも減少が抑制された。また、スーパーオキシド消去活性(
図24参照)については、低酸素雰囲気下で乾燥した場合(実験2A,2B)は、凍結乾燥(実験2D)にまでは及ばなかったものの、大気下の場合(実験2C)よりも減少が抑制された。
以上から、常温での除湿乾燥により、凍結乾燥よりも簡便な工程で、食品中の総アスコルビン酸の減少や活性酸素除去能力の低下を効果的に抑制することができることが認められた。
【0055】
(実験3)乾燥食品の歩留まりの比較
[実験3A](従来の乾燥装置)
図18に示すような従来の乾燥装置を用いて、試料Sとしてケールを実験2Aと同様に準備して乾燥した。
乾燥庫2内には、除湿機4からの乾燥空気(除湿ガス)Dを送り込み、吸気口側にファン11を備えたダクトファン10により、乾燥庫2内のガスを循環させ、温度55℃で、常圧で20時間乾燥した。
【0056】
上記実験2Aにおいては、乾燥したケールは、いずれの位置に配置されたものもムラなく乾燥しており、乾燥による歩留まりは99%であった。これに対して、上記実験3Aにおいて、従来の乾燥装置で乾燥したケールは、配置位置が中央部付近のものは乾燥が十分とは言えず、配置位置により乾燥具合にムラが生じ、乾燥による歩留まりは85%に止まった。
【符号の説明】
【0057】
1 筐体
2 乾燥庫
3,11 ファン
4 除湿機
5 温湿度計
6 酸素濃度計
7 重量計
8 ヒータ
9 窒素発生器
10 ダクトファン
12 穴
A ガス(空気)
D 乾燥空気(除湿ガス)
I 不活性ガス(窒素)
S 試料
W 水分
O 酸素