(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ブスルファン組成物及びその調製方法と使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/255 20060101AFI20221130BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20221130BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20221130BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20221130BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221130BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
A61K31/255
A61K47/40
A61K9/19
A61K9/20
A61K9/08
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021531154
(86)(22)【出願日】2018-08-29
(86)【国際出願番号】 CN2018102925
(87)【国際公開番号】W WO2020029345
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】201810888451.1
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521056560
【氏名又は名称】江▲蘇▼▲領▼航生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU LINGHANG BIOLOGICAL TECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Floor 3,No.23,C5 Building,Hongfeng Kejiyuan, Nanjing Economic And Technological Development Zone,Nanjing,Jiangsu 210038, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王▲剛▼
(72)【発明者】
【氏名】董祥玉
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-530866(JP,A)
【文献】特表2020-518608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
35℃以下の環境で、アセトン、メタノール、エタノール又はプロピレングリコールから選択される有機溶剤にブスルファンを溶解させ、濃度が1~20mg/mLのブスルファン溶液を調製する工程と、注射用水でスルホブチル-β-シクロデキストリンを溶解させ、10~40%(w/v)のスルホブチル-β-シクロデキストリン水溶液を調製する工程と、窒素雰囲気で、両溶液を混合させ、1時間攪拌後、有機溶剤を除去する工程と、濾過、冷凍乾燥する工程と、を含む方法により調製され、
ブスルファン:
スルホブチル-β-シクロデキストリンが1~20:100~2000であるように、ブスルファン及び
スルホブチル-β-シクロデキストリンを含むことを特徴とする、ブスルファン組成物。
【請求項2】
ブスルファン:スルホブチル-β-シクロデキストリンが1:30~100であることを特徴とする、請求項1に記載のブスルファン組成物。
【請求項3】
ブスルファン:スルホブチル-β-シクロデキストリンが1:75~100であることを特徴とする、請求項1に記載のブスルファン組成物。
【請求項4】
前記組成物は、ブスルファン60mg、スルホブチル-β-シクロデキストリン4.5g
からなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のブスルファン組成物。
【請求項5】
前記組成物は、ブスルファン原料60mgを取り、35℃以下の環境で、10mLアセトンに溶解させる工程と、スルホブチル-β-シクロデキストリン4.5gを20mL注射用水に溶解させる工程と、両溶液を混合させ、窒素を入れ、窒素雰囲気で1時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液を0.22μmミリポアフィルターで濾過した後、冷凍乾燥し、パッケージングする工程と、を含む方法により調製されることを特徴とする、請求項
4に記載のブスルファン組成物。
【請求項6】
アセトン、メタノール、エタノール又はプロピレングリコールから選択される有機溶剤でブスルファンを溶解させ、濃度が1~20mg/mLのブスルファン溶液を調製する工程と、注射用水で
スルホブチル-β-シクロデキストリンを溶解させ、10~40%(w/v)の
スルホブチル-β-シクロデキストリン水溶液を調製する工程と、窒素雰囲気で両溶液を混合させ、1時間攪拌後、有機溶剤を除去する工程と、濾過、冷凍乾燥する工程と、を含む方法1
;
を含むことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載のブスルファン組成物の調製方法。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のブスルファン組成物を用いることを特徴とする、ブスルファン錠剤又は注射剤の調製における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品分野に属し、特に、ブスルファン組成物及びその調製方法と応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ブスルファンは、1953年に最初に発見されたビスメタンスルホネートの二官能性アルキル化剤である。作用機序として、ブスルファンは細胞毒類の抗腫瘍薬であり、人体に入った後、そのスルホン酸基が腫瘍細胞内のグアニンとアルキル化し、腫瘍細胞の遺伝物質の形成を阻害するため、腫瘍細胞の増殖を阻害する。ブスルファンは主に血液や骨髄の増殖性疾患に適し、特に慢性骨髄性白血病、原発性血小板血症、多発性赤血球血症、原発性骨髄線維症などによい治療効果を有する。しかしながら、ブスルファンの溶解性が低く、特に水溶性が最も低いため、経口投与後の吸収が難しく、経口投与に必要な投与量が多いと同時に、薬物吸収の個人差により投与量を正確に制御することが難しいため、市販のブスルファン製品は依然として主に注射である。
【0003】
現在市販しているブスルファン注射剤はBen VenueLaboratories.Inc.によってのみ調製され、サブパッケージ化された後、中国で販売される。注射剤の調製は、Andersson、Borje S.et al.などによって出願された特許取得済みの技術的方法(特許文献1)に従い、一定割合のN,N-ジメチルアセトアミド及びポリエチレングリコール400と水の混合比溶液を使用して調製する。しかしながら、N,N-ジメチルアセトアミドの生殖毒性とプラスチック製品の腐食性は、ブスルファン製品の臨床応用に大きな隠れた危険をもたらした。同時に、市販のブスルファン注射剤は保管中に結晶化し、振とうして結晶を溶解することはできない。市販の製品の説明書には、使用前に結晶を観察する必要があると記載される。結晶化は、第一に薬の投与量を計算できなくなり、第二に注射針または患者の毛細血管を塞ぎ、臨床薬に大きな不便をもたらし、使用のリスクを高める。結晶化したブスルファン注射は臨床的に使用することはできず、破壊することしかできないため、投薬コストが大幅に増加する。
【0004】
ABS(アリルニトリル、ブタジエン、スチレンで構成されるポリマー)で作られた硬質プラスチック器具は、ジメチルアセトアミド(ブスルファン市販製剤の賦形剤の一種)に接触すると、それを分解することが報告されている。ブスルファン市販製剤において、可塑剤DEHP(フタル酸ビス[2-エチルヘキシル])がポリビニルクロリド(PVC)容器から抽出するのを防ぐために、DEHPを含まないガラスなどの大容量滅菌容器を使うか、又はポリオレフィン容器でブスルファン市販製剤の希釈溶液を調製する。ブスルファン市販製剤を患者に注入する場合は、DEHPのない装置を使用する必要がある。
【0005】
更に、ジメチルアセトアミドも生殖能力に影響を与える可能性がある。ラットに0.45g/kg/dのDMA(mg/m2として計算し、ブスルファン市販製剤の1日推奨量に含まれるジメチルアセトアミドの44%に相当)を9日間連続して与えた結果、マウスの精子産生は大幅に減少する。人工授精の4日後、ハムスターに2.2g/kgのジメチルアセトアミド(mg/m2で計算し、この製品に含まれるジメチルアセトアミドの27%に相当)を皮下注射した結果、100%のハムスターの妊娠は終了になった。
【0006】
これまで、現在のブスルファン薬基準を満たすだけでなく、薬の安全性と長期保存の安定性も備えたブスルファン注射に関する研究と報告はない。したがって、治療効果、薬剤の安全性、生産の観点から、安定な、長期保存が便利なブスルファン注射剤を調製することは、早急に解決する必要のある難題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術の不足に対し、ブスルファン組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、ブスルファン組成物の調製方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、ブスルファン組成物の応用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は以下の技術的方案により実現される。
【0012】
ブスルファン:シクロデキストリンが1~20:100~2000であり、好ましくは1:30~100であり、より好ましくは1:75であるように、ブスルファン及びシクロデキストリンを含む、ブスルファン組成物。
【0013】
前記シクロデキストリンはスルホブチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、スルホブチル-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンのうちのいずれか1種から選ばれ、好ましくはSBE-β-シクロデキストリンである。
【0014】
好ましくは、前記ブスルファン組成物は、有機溶剤でブスルファンを溶解させ、濃度が1~20mg/mLのブスルファン溶液を調製する工程と、注射用水でSBE-β-シクロデキストリンを溶解させ、10~40%(w/v)のSBE-β-シクロデキストリン水溶液を調製する工程と、窒素雰囲気で、両溶液を混合させ、1時間攪拌後、有機溶剤を除去する工程と、濾過、冷凍乾燥する工程と、を含む方法により調製される。
【0015】
好ましくは、35℃以下の環境で、アセトンでブスルファンを溶解させ、濃度が1~20mg/mLのブスルファンアセトン溶液を調製する。
【0016】
ブスルファンを溶解させるための有機溶剤はアセトン、メタノール、エタノール、又はプロピレングリコールから選ばれ、好ましくはアセトンである。
【0017】
より好ましくは、前記組成物は、ブスルファン60mg、SBE-β-シクロデキストリン4.5g、アセトン10mL、注射用水20mLからなる。
【0018】
更に、前記組成物は、ブスルファン原料60mgを取り、35℃以下の環境で、10mLアセトンに溶解させる工程と、スルホブチル-β-シクロデキストリン4.5gを20mL注射用水に溶解させる工程と、両溶液を混合させ、窒素を入れ、窒素雰囲気で1時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングする工程と、を含む方法により調製される。
【0019】
本発明に記載のブスルファン組成物の調製方法は:
有機溶剤でブスルファンを溶解させ、濃度が1~20mg/mLのブスルファン溶液を調製する工程と、注射用水でSBE-β-シクロデキストリンを溶解させ、10~40%(w/v)のSBE-β-シクロデキストリン水溶液を調製する工程と、窒素雰囲気で両溶液を混合させ、1時間攪拌後、有機溶剤を除去する工程と、濾過、冷凍乾燥する工程と、を含む方法1;又は
ブスルファン原料とスルホブチル-β-シクロデキストリンを取り、注射用水を入れ、そして有機溶剤を入れる工程と、窒素を入れ、窒素雰囲気で4時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングする工程と、を含む方法2(但し、スルホブチル-β-シクロデキストリンと注射用水の質量体積比は1g:10~40mLであり、ブスルファンと有機溶剤の質量体積比は1~20mg:1mLである)を含む。
【0020】
ブスルファンを溶解させるための有機溶剤はアセトン、メタノール、エタノール、又はプロピレングリコールから選ばれ、方法1において、好ましくは、有機溶剤がアセトンであり、方法2において、好ましくは、有機溶剤がエタノールである。
【0021】
本発明に記載のブスルファン組成物を用いるブスルファン錠剤又は注射剤の調製における使用。
【発明の効果】
【0022】
本願のブスルファン組成物は以下のメリットを有する。
1.ジメチルアセトアミドを含まないため、ジメチルアセトアミドによる幻覚や不妊のリスクが軽減される。ジメチルアセトアミドを含まないため、本発明では、プラスチック容器を分解させる可能性のある成分がないため、抽出および構成プロセス中の充填容器のDEHPリスクまたは器具のDEHPリスクについての心配がない。
【0023】
2.組成物は安定しており、希釈過程で結晶化しないため、使用コストが削減される。
【0024】
3.組成物は希釈後12時間以内に結晶化することなく安定しており、安全性が向上される。
【0025】
4.組成物の安定性が向上し、保管コストが削減され、薬物の有効性と安全性が保証される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例1により調製されるブスルファン組成物の-20℃で30日保存後のサンプリング液体クロマトグラムである。
【
図2】実施例1により調製されるブスルファン組成物の40℃で30日保存後のサンプリング液体クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施例1:本発明のブスルファン組成物の調製
ブスルファン原料60mgを取り、35℃以下の条件で10mLアセトンに溶解させた。スルホブチル-β-シクロデキストリン4.5gを20mL注射用水に溶解させた。両溶液を混合させ、窒素を入れ、窒素雰囲気で1時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングした。
【0028】
実施例2:本発明ブスルファン組成物の調製
ブスルファン原料60mgを取り、35℃以下の条件で10mLアセトンに溶解させた。スルホブチル-β-シクロデキストリン6.0gを20mL注射用水に溶解させた。両溶液を混合させ、窒素を入れ、窒素雰囲気で1時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングした。
【0029】
実施例3:本発明ブスルファン組成物の調製
ブスルファン原料60mgを取り、35℃以下の条件で10mLアセトンに溶解させた。スルホブチル-β-シクロデキストリン2.0gを10mL注射用水に溶解させた。両溶液を混合させ、窒素を入れ、窒素雰囲気で2.5時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングした。
【0030】
実施例4:本発明ブスルファン組成物の調製
ブスルファン原料60mgとスルホブチル-β-シクロデキストリン3.0gを取り、10mL注射用水を入れ、10mLエタノールを入れた。窒素を入れ、窒素雰囲気で4時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングした。
【0031】
実施例5:本発明ブスルファン組成物の調製
ブスルファン原料60mgとスルホブチル-β-シクロデキストリン4.5gを取り、20mL注射用水を入れ、10mLエタノールを入れた。窒素を入れ、窒素雰囲気で4時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングした。
【0032】
実施例6:本発明ブスルファン組成物の調製
ブスルファン原料60mgとスルホブチル-β-シクロデキストリン6.0gを取り、20mL注射用水を入れ、10mLエタノールを入れた。窒素を入れ、窒素雰囲気で4時間攪拌し、有機溶剤を除去し、残余溶液が0.22μmミリポアフィルターで濾過された後、冷凍乾燥し、パッケージングした。
【0033】
本発明ブスルファン注射剤希釈安定性実験
市販のブスルファン注射剤説明書には、ブスルファン注射剤は保管中に結晶化し、振とうして結晶を溶解することはできないことが記載されている。結晶化は、第一に薬の投与量を計算できなくなり、第二に注射針又は患者の毛細血管を塞ぎ、臨床薬に大きな不便をもたらし、使用のリスクを高める。結晶化したブスルファン注射は臨床的に使用することはできず、破棄することしかできない。実施例1~6により調製されたブスルファン組成物を6ヶ月保存した後に、それぞれ50mLと500mLまでに希釈し、4、12、24時間静置して、析出した結晶を観察し、表1から見れば、4時間内に結晶の析出がなく、組成物が極めて良い希釈安定性を有することがわかる。
【0034】
【0035】
ブスルファン組成物の安定性実験
本願は、オリジナルの研究薬におけるジメチルアセトアミドの潜在的なリスクを除去する。オリジナルの研究薬では、保管中に結晶化が見られ、結晶化すると、投与量を正確に計算できない。本願の製品は、再可溶化と結晶化がないため、信頼性が向上される。
【0036】
組成物の安定性を研究する際には、含有量と2つの主要な不純物を観察する。薬典を参照して、不純物の総量が3.8%を超えてはならず、組成物が認定要件を満たしているという不純物含有量基準が提案される。
【0037】
実施例1により調製されるブスルファン組成物を、-20℃と40℃条件下で30日静置し、関連不純物を検測し、2つの主要な不純物の増加量を対比する。
【0038】
サンプル検測条件:
高性能液体クロマトグラフィーによる測定
クロマトグラフィー条件:C18クロマトグラフィーカラム(250mm×4.6mm、5um)、流体相:アセトニトリル:水:テトラヒドロフラン=55:25:20(V:V)、流体速度:1.0mL/分。検測波長:278nm。サンプリング量:20uL。カラム温度:30℃。
【0039】
データ分析:
測定された液相スペクトルには、保持時間がそれぞれ約14.6分と約15.7分で、2つの既知の不純物ピークがある。保持時間が約26.1分のクロマトグラフィーピークはブスルファンメインピークである。薬典を参照して、総不純物が3.8%を超えてはならず、不純物含有量基準が提案され、組成物が適格要件を満たす。ピーク面積が表2を参照し、対比すれば、組成物形式のブスルファンが-20℃と40℃の条件で30日保管され、含有量が1.2%のみ下が、ブスルファン組成物が良好な安定性を有することがわかる。
【0040】