(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】油圧リフト
(51)【国際特許分類】
B66F 7/08 20060101AFI20221130BHJP
B66F 7/06 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B66F7/08 C
B66F7/06 E
(21)【出願番号】P 2022541194
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030247
(87)【国際公開番号】W WO2022044933
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2020152395
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520351358
【氏名又は名称】要 賢一
(72)【発明者】
【氏名】要 賢一
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】実公平07-005114(JP,Y2)
【文献】特開2001-089086(JP,A)
【文献】特開2006-264966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 7/08
B66F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両や物を載せて昇降する荷台と、荷台を上昇させるためのばねと、荷台を下降させる
ための油圧シリンダと、油圧シリンダを作動させる油圧ポンプと、フロートバルブ又はフ
ロート式ワイヤーハンドルを主な構成要素とし、
ばねを荷台が上がる方向に力がかかるように組込み、また油圧シリンダは荷台が下がる方
向に力がかかるように組込み、油圧シリンダの油圧回路を閉じることによりブレーキがか
かって荷台の昇降を止め、荷台を上げる時にバルブを開いて油圧回路を開き油圧シリンダ
によるブレーキを緩めてばねの力で荷台が上がるようにし、
荷台にフロートバルブを取付けて油圧シリンダと油圧ポンプとの間にバイパス接続してそのバルブの作動によりバイパス回路を開いて、或いはフロート式ワイヤーハンドルを取付けて油圧ポンプのリリーフバルブに連結してワイヤーが引かれることによりリリーフバルブが開いて、油圧シリンダによるブレーキが緩んで荷台が上がるようにした
ことを特徴と
するリフト機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下敷き事故防止及び浸水時自動上昇機能を備えた、車両や物を載せて昇降する油圧式リフト機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の油圧式リフト機は
図7の構造例に示すように、荷台を上げる時に人力や動力を用いて油圧を発生させ油圧シリンダを作動して荷台を持ち上げ、また荷台を下げる時にはバルブを開き油圧を抜くことにより自重で荷台が下がる機構になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の油圧式リフト機で車両や物を荷台に載せて持ち上げ、その下で保守や点検等の作業をしている時に、バルブの誤操作や配管が損傷や外れたりして油圧が抜けてしまうと、荷台が下がってきて作業者が下敷きになる事故を起こす恐れがある。
【0006】
また洪水等の浸水から車両や物を守るために上記のリフト機を利用したい場合には、事前に人が操作して予め荷台を上げておいたり、センサー等で浸水を感知させて電気等の動力を用いて荷台を上げる必要がある。しかし急な浸水や停電等により人力での操作や動力の利用が期待できないこともある。
【0007】
また車両や物を載せた荷台を持ち上げるために油圧シリンダに必要な力は、荷台に載せた積載物の全重量を持ち上げるのに必要な力を油圧ポンプで発生させなければならず、さらに油圧を抜いて自重で荷台を下げるとそれまで荷台を持ち上げるために発生させたエネルギーを失い、荷台を昇降させる度に毎回積載物の全重量を持ち上げるために必要なエネルギーを発生させる必要がある。
【0008】
本発明は、このようなバルブの誤操作や配管が損傷や外れたりして油圧シリンダの油圧が抜けても、荷台が下がってきて下敷きになる恐れのない下敷き事故防止機能と、また洪水等で浸水が予想される場合にも、事前の操作が不要でいつ浸水が起きても無人無動力にて自動的に荷台が上昇して、その上に載せた車両や物を浸水から守る浸水時自動上昇機能を備え、さらに油圧シリンダを作動させるのに必要な力を上記のリフト機に比べ大きく削減して、荷台の昇降に必要なエネルギーを削減する省エネ型のリフト機を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第一発明は、車両や物を載せて昇降する荷台と、荷台を上昇させるためのばねと、荷台を下降させるための油圧シリンダと、油圧シリンダを作動させる油圧ポンプとを主な構成要素とし、ばねを荷台が上がる方向に力がかかるように組込み、また油圧シリンダは荷台が下がる方向に力がかかるように組込み、油圧シリンダの油圧回路を閉じることによりブレーキがかかって荷台の昇降を止め、荷台を上げるときはバルブを開いて油圧回路を開き油圧シリンダによるブレーキを緩めてばねの力で荷台が上がるようにし、また荷台を下げる時に油圧ポンプを用いて油圧シリンダを作動させて荷台を下げるようにしたことを特徴とするリフト機である。
【0010】
第二発明は、上記の荷台にフロートバルブを取付けて、油圧シリンダと油圧ポンプとの間にバイパス接続してそのバルブの作動によりバイパス回路を開いて、或いはフロート式ワイヤーハンドルを取付けて、油圧ポンプのリリーフバルブに連結してワイヤーが引かれることによりリリーフバルブが開いて、油圧シリンダによるブレーキが緩んで荷台が上がるようにしたことを特徴とするリフト機である。
【0011】
第三発明は、荷台を上昇させるためのばねの取付け長さを変えれるようにしてばね荷重を変えることにより、荷台が持ち上げることのできる積載可能荷重を調節できるようにしたことを特徴とするリフト機である。
【発明の効果】
【0012】
第一発明の、リフト機の荷台が上がる方向に力がかかるようにばねを組込み、油圧回路が開いて油圧シリンダによるブレーキが緩むと荷台が上がるようにしたことにより、車両や物を載せて荷台を上げてその下で保守や点検等の作業をしている時に、万一バルブを誤って開放したり配管が損傷や外れたりして油圧が抜けたりしても、荷台が上がる方向に動くため作業者が積載物やリフトの下敷きになる事故を防ぐことができる。
【0013】
第二発明の、荷台に取付けたフロートバルブ或いはフロート式ワイヤーハンドルの作動により荷台が上昇するようにしたことにより、洪水等による浸水でフロートが水に浸かるとそれらが作動して荷台が上昇するため、いつ浸水が起きても無人無動力にて自動的に荷台が上昇してその上に載せた車両や物を浸水から守ることができる。
【0014】
第三発明の、荷台が持ち上げることのできる積載可能荷重を調節できるようにしたことにより、同じような重さの車両や物を載せて繰り返し昇降させて使用する場合に、積載可能荷重をそれら積載物の重さに近づけておくことにより、油圧シリンダで荷台を下げるために必要な力は、積載可能荷重から積載物の重量を差し引いた分の重さを支えるだけの力を残しているばね荷重を少し上回るだけの力を油圧ポンプで発生させてやればよいため、人力ポンプの場合は僅かな力で楽に押し下げることができ、また電動ポンプを用いる場合は少ない消費電力ですみ省エネルギーになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のリフト機の荷台が上がった状態を示した斜視図
【
図4】フロートバルブの作動により荷台が上昇した状態を示した側面図
【
図5】荷台を上昇させるために引張ばねを用いて積載可能荷重を調節できるようにした例の斜視図
【
図6】フロート式ワイヤーハンドルと単動油圧シリンダを用いた例の斜視図
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
図1に本発明の実施形態の一例を示す。
この図例では、リフト機にかかる力の関係が解り易いように圧縮ばねを用いている。
全体構成は、車両や物を載せて昇降する荷台1を有するリフト機と、荷台1を上昇させるためのばね2と、荷台1を下降させるための油圧シリンダ3と、油圧シリンダ3を作動させる油圧ポンプ4と、荷台1に取付けられて一緒に昇降するフロートバルブ5とに大別される。
リフト機には、荷台1に上昇する方向に力が加わるようにばね2が組込まれ、さらに荷台1が下降する方向に力が加わるように油圧シリンダ3も組込まれている。
【0017】
昇降する荷台1には、フロートバルブ5が取付けられており、荷台1の昇降に伴いフロートバルブ5も一緒に昇降する。
【0018】
ばね2は、荷台1に積載能力内の重さの車両や物を載せても、荷台1を上に持ち上げようとする力が与えられる強さを持ったものが組込まれている。
【0019】
油圧シリンダ3は、荷台1がばね2の力によって上昇しようとするのを、油圧回路を閉じることによりピストンが動けずにブレーキの役割をして荷台1をその高さで止めている。そして油圧ホース6で接続された油圧ポンプ4に付随するリリーフバルブ4aを開くと、油圧回路が開いてピストンが動けるようになりブレーキが緩んでばね2の力により荷台1が上昇する。
また油圧シリンダ3は、荷台1を下げたい時に油圧ポンプ4を用いて油圧を発生させて押し下げる。
【0020】
油圧ポンプ4は、油圧ホース6で油圧シリンダ3と接続されていて、荷台を下げたい時にペダルを踏む等の人力操作をしたり或いは動力を用いて油圧を発生させ、油圧シリンダ3を作動して荷台1を押し下げる。
【0021】
フロートバルブ5は、昇降する荷台1に取付けられており、油圧ホース6で油圧シリンダ3と油圧ポンプ4の間にバイパスで接続されている。平常時はフロート5aが自重で下がっていてバルブが閉じているが、洪水等でリフト機が浸水した場合、水に浸かってフロート5aが浮き上がるとバルブが開くように働き、バイパス回路が開いて油圧シリンダ3のピストンが動けるようになりブレーキが緩んで荷台1が上昇するようになっている。荷台1が上がることにより再びフロート5aが下がるとバルブが閉じられ、バイパス回路も閉じてピストンが動けなくなりブレーキがかかるため荷台1もその高さで止まる仕組みになっている。
この場合、油圧シリンダ3はフロートバルブ5とバイパス回路を組むため複動シリンダを用いることになる。
【0022】
次に
図1のリフト機の動作の状態を、
図2と
図3を参照しながら説明する。
図2は、
図1のリフト機の荷台1が一番下まで下がった状態を表した側面図である。
この状態では、ばね2は大きく圧縮された状態で荷台1を上に押し上げようとする強いばね荷重F1が働いている。しかし油圧シリンダ3の油圧回路が閉じられていればピストンが動けずブレーキがかかった状態となり、荷台1は上がらずに停止した状態となる。
ここで油圧ポンプ4に付随しているリリーフバルブ4aを開くと、油圧回路が開いてピストンが動けるようになり、ブレーキが緩んだ状態となり荷台1が上がりだす。またリリーフバルブ4aを閉じると、油圧回路も閉じてピストンが動けなくなり再びブレーキがかかった状態となり、荷台1はその高さで停止した状態となる。
【0023】
図3は、
図1のリフト機の荷台1が一番上まで上がった状態を表した側面図である。
この状態では、ばね2は荷台1が
図2での下がった状態の時よりも伸びた状態になっているが、この状態でもまだ荷台1が積載能力以上の重量を支えられるだけのばね荷重を残している強さのばねを組付けておけば、たとえリリーフバルブ4aを開いて油圧回路が開きブレーキが緩んでも荷台1が下がってくることはない。
荷台1がどの高さにあっても、下に降ろす時はリリーフバルブ4aを閉じた状態にしておき、油圧ポンプ4を用いて油圧シリンダ3を作動させて荷台1を押し下げる機構になっている。
このとき荷台1を押し下げるのに必要な力F3は、荷台1が持ち上げることのできる積載可能荷重から荷台1に載せている積載物の重量W1を差し引いた分の重さを支えるだけの力を残しているばねによる荷台1を押し上げようとする力F2を少し上回るだけの力を油圧シリンダに発生させてやれば押し下げることができる。
【0024】
図4は、
図1のリフト機が浸水により水に浸かってフロートバルブ5が作動して荷台1が上昇した状態を示した側面図である。
フロートバルブ5は荷台1の側面に取付けられており、水に浸かってフロート5aが浮き上がるとフロートバルブ5のバルブが開いてブレーキが緩んで荷台1が上昇し、再びフロート5aが下がってバルブが閉じられるまで上昇し続けるため、自動的に水位の上昇に伴い荷台1も上昇する仕組みになっている。
また浸水がおさまり水位が下がった場合、バルブは閉じられたままブレーキがかかった状態となるため、荷台1はその時の最高水位の高さで停止したままの状態となる。
【実施例2】
【0025】
図5は、
図1の実施例では荷台1を上昇させるためのばね2に圧縮ばねを用いているのに対し、引張ばねを用いた場合の実施例を示している。
図1から
図4まではリフトにかかる力の関係が解り易いように圧縮ばねを用いて説明しているが、本発明が実際に実用化される場合はこの
図5のような引張ばねを用いた構成にすると、下記の説明のように省力化に優れた機構に応用し易くなる。
この場合、ばね2はワイヤーロープ7或いはローラーチェーン等を介して油圧シリンダ3と同じ側の位置に力がかかるようにして組込まれ、ばね2が引っ張る力で荷台1が上がる機構になっている。
また、ばね2はばね荷重調整ねじ8によりリフト機の基台部に固定されていて、ばね荷重調整ねじ8をスライドさせてばね2の固定位置を変えることによりばね2の取付け長さが変わってばね荷重が変わり、荷台1が持ち上げることのできる積載可能荷重を調節することができる機構になっている。
【実施例3】
【0026】
また
図6のようにばね荷重調整ねじ8の代わりに油圧シリンダ10を組込んで油圧ポンプ4に接続すれば、楽にばね2の取付け長さを変えて積載可能荷重を調節することもできる。
この積載可能荷重を調節できる機能を用いて、例えば1.0 tonの重さの車両を載せて繰り返し昇降させて使用する場合に、積載可能荷重を1.1 tonに設定しておくことにより、油圧シリンダ3を用いて荷台1を押し下げるために必要な力は、設定した積載可能荷重から荷台1に載せている車両の重量を差し引いた0.1 ton分の重さを支えられるだけの力を残しているばね荷重を少し上回るだけの力を油圧ポンプ4で発生させてやればよいため、人力ポンプの場合は僅かな力で楽に押し下げることができ、また電動ポンプを用いる場合は少ない消費電力で済むため、従来の油圧式リフト機が積載物を持ち上げるために必要とするエネルギーと比較して大きな省エネルギーになる。
【0027】
また
図6では、フロートバルブの代わりにフロート式ワイヤーハンドル9を荷台1に取付けて、油圧ポンプ4のリリーフバルブ4aに接続し油圧シリンダ3に単動油圧シリンダを用いた場合の実施例も示している。
フロート式ワイヤーハンドル9は、フロート9aが水に浸かって浮き上がるとワイヤー9bが引っ張られ、その先端に接続されたリリーフバルブ4aが連動して開き油圧シリンダ3の油圧が抜けて荷台1が上がる仕組みになっている。
【符号の説明】
【0028】
1 荷台
2 ばね
3 油圧シリンダ
4 油圧ポンプ 4a リリーフバルブ
5 フロートバルブ 5a フロート
6 油圧ホース
7 ワイヤーロープ
8 ばね荷重調整ねじ
9 フロート式ワイヤーハンドル 9a フロート 9b ワイヤー
10 油圧シリンダ
F1 ばね荷重
F2 荷台を押し上げようとする力
F3 荷台を押し下げるのに必要な力
W1 積載物の重量