(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】演算処理装置、無線操縦飛行機
(51)【国際特許分類】
G05D 1/08 20060101AFI20221130BHJP
B64C 13/20 20060101ALI20221130BHJP
B64C 13/16 20060101ALI20221130BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20221130BHJP
G05D 1/00 20060101ALI20221130BHJP
A63H 27/18 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
G05D1/08 Z
B64C13/20 Z
B64C13/16 Z
B64C39/02
G05D1/00 B
A63H27/18 E
(21)【出願番号】P 2020148992
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】田中 昌廣
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス エドワード マックスウェル
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-83399(JP,A)
【文献】特開2003-237695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00- 1/12
B64C 13/00-13/50
A63H 27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を算出する演算部を備える
演算処理装置。
【請求項2】
前記無線操縦飛行機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、前記無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出する
請求項1に記載の演算処理装置。
【請求項3】
前記無線操縦飛行機の操縦者からの操作に基づく信号に応じて前記制御量の算出を開始する
請求項1又は請求項2に記載の演算処理装置。
【請求項4】
前記ロール軸回りの変化量と所定の閾値との比較に基づいて前記制御量の算出を開始する
請求項1から請求項3の何れかに記載の演算処理装置。
【請求項5】
無線通信により操縦される無線操縦飛行機であって、
自機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を算出する演算処理装置を備える
無線操縦飛行機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信により操縦される無線操縦飛行機の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば操縦機器の操作に基づく無線通信により飛行する無線操縦飛行機が知られている。特許文献1には、無線通信によって操縦を行う無線操縦飛行機であって、サーボモータを搭載した機体ブロックごと水平尾翼が本体から脱着できるものが開示されている。
このような無線操縦飛行機においては、観客を楽しませたり操縦技能を競ったりするために様々なアクロバット飛行が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクロバット飛行の一つとして、ロール軸回りに機体を回転させながら飛行するロール飛行が知られている。機体をロール飛行をさせるときには、ロール軸回りの操作のみではロール飛行中に機体の高度が上昇又は下降してしまうため、操縦者は、当該ロール軸回りの操作に加えてピッチ軸回りの操作及びヨー軸回りの操作を並行して行う必要がある。
このとき機体の回転に伴いピッチ軸とヨー軸も回転してしまうため、操縦者はピッチ軸とヨー軸の現在位置を考慮しながら操作を行う必要があるが、このような操作には多くの経験や高い技術が必要とされ、一般の操縦者には難易度の高いものとなっていった。
【0005】
そこで本発明では、簡易な操作により軸の通った無線操縦飛行機のロール飛行を実現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る演算処理装置は、無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を算出する演算部を備える。
これにより、無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量が、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量に影響を及ぼさない。
【0007】
上記した本発明に係る演算処理装置において、前記無線操縦飛行機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、前記無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出することが考えられる。
これにより、ロール軸回りの角度に基づいてピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とのそれぞれのベクトルが虚数項と実数項に分割され、ピッチ軸回りの実数項とヨー軸回りの虚数項が加算されることで機体の重力方向の制御量が算出され、ピッチ軸回りの虚数項とヨー軸回りの実数項の差分から機体の水平方向の制御量が算出される。
ここで基準姿勢とは、補正制御量の算出に用いられるロール軸回りの角速度を検出する際に始点となる無線操縦飛行機の姿勢のことをいう。
【0008】
上記した本発明に係る演算処理装置において、前記無線操縦飛行機の操縦者からの操作に基づく信号に応じて前記制御量の算出を開始することが考えられる。
これにより、当該制御量の算出を実行するか否かが操縦者からの操作により切り換え可能とされる。
【0009】
上記した本発明に係る演算処理装置において、前記ロール軸回りの変化量と所定の閾値との比較に基づいて前記制御量の算出を開始することが考えられる。
これにより、飛行中の無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量に応じて自動的に補正制御量の算出を実行するか否かが切り換えられる。
【0010】
本発明に係る無線操縦飛行機は、無線通信により操縦される無線操縦飛行機であって、自機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を算出する演算処理装置を備える。
当該演算処理装置を備える無線操縦飛行機も、上記の本発明に係る演算処理装置と同様の作用が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な操縦操作により無線操縦飛行機のロール飛行を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態における飛行操縦システムを示す図である。
【
図2】実施の形態の無線操縦飛行機の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態の基準姿勢の無線操縦飛行機に対するピッチ軸及びヨー軸回りの積分項を示す図である。
【
図4】実施の形態の基準姿勢からロール軸回りに回転した無線操縦飛行機に対するピッチ軸及びヨー軸回りの積分項を示す図である。
【
図5】実施の形態の演算部の処理を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態の演算部の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を次の順序で説明する。
<1.飛行操縦システムの概要>
<2.無線操縦飛行機の構成>
<3.演算部の処理例>
<4.まとめ及び変形例>
【0014】
なお、説明にあたり参照する図面に記載された各構成は、本発明に係る要部の構成のみを抽出したものである。図面は模式的なものに過ぎず、各構造の厚みと平面寸法の関係、比率等は一例に過ぎない。また図面に記載された構成は、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲であれば設計などに応じて種々な変更が可能である。
また、一度説明した構成、処理は、それ以降同一の符号を付して説明を省略することがある。さらに、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0015】
<1.飛行操縦システムの概要>
本実施の形態における飛行操縦システム100の概要について
図1を参照して説明する。飛行操縦システム100は、例えば無線操縦飛行機1と操縦機器2から構成される。以下の説明では、無線操縦飛行機1の機体を前後に貫く軸をロール軸とする。また機体を上下に貫く軸をヨー軸とする。さらに機体を左右に貫く軸をピッチ軸とする。
【0016】
無線操縦飛行機1は、操縦機器2と無線通信可能とされ、操縦機器2に対する操縦者の入力操作に応じて各種動作を行う。無線操縦飛行機1は、例えば主翼3、水平尾翼4、及び垂直尾翼5が設けられている。
主翼3には、例えば機体をロール軸回りに回転させるために動作するエルロン6が設けられている。また水平尾翼4には、例えば機体をピッチ軸回りに回転させるために動作するエレベータ7が設けられている。さらに垂直尾翼5には、例えば機体をヨー軸回りに回転させるために動作するラダー8が設けられている。エルロン6、エレベータ7、及びラダー8を動作させることで、無線操縦飛行機1の飛行姿勢を変化させることができる。
【0017】
なお、以下の説明では、機体をロール軸回りに(ロール軸に対して)回転させることをロール軸回転とも表記する。また、機体をピッチ軸回りに(ピッチ軸に対して)回転させることをピッチ軸回転とも表記する。さらに、機体をヨー軸回りに(ヨー軸に対して)回転させることをヨー軸回転とも表記する。
【0018】
<2.無線操縦飛行機の構成>
本実施の形態における無線操縦飛行機1の構成について
図2を参照して説明する。
無線操縦飛行機1は、受信部10、エルロン・サーボモータ20、エレベータ・サーボモータ30、ラダー・サーボモータ40、及び演算処理装置50を有している。
【0019】
受信部10は、操縦機器2から受信した操縦者の入力操作に基づく各サーボモータの動作量に関する操作信号(以下、単に操作信号と表記する)、及び後述するPID(Proportional-Integral-Differential)制御に用いられるゲイン設定に関する信号(以下、単にゲイン設定信号とも表記する)を受信し、復調した受信データを演算処理装置50に供給する。
【0020】
エルロン・サーボモータ20は、例えば無線操縦飛行機1をロール軸回りに回転させるために、演算処理装置50からの駆動制御信号に基づき
図1に示すエルロン6を動作させる。
エレベータ・サーボモータ30は、例えば無線操縦飛行機1をピッチ軸回りに回転させるために、演算処理装置50からの駆動制御信号に基づきエレベータ7を動作させる。
ラダー・サーボモータ40は、例えば無線操縦飛行機1をヨー軸回りに回転させるために演算処理装置50からの駆動制御信号に基づきラダー8を動作させる。
【0021】
演算処理装置50は、受信処理部51、角速度検出部52、及び演算部53を有している。
受信処理部51は、受信部10から供給された受信データのコードから操作信号及びゲイン設定信号を認識する。受信処理部51は、認識した各種信号を演算部53に出力する。
【0022】
角速度検出部52は、例えばロール軸回りの回転の角速度(ロール軸角速度)を検出するロール軸角速度センサ、ピッチ軸回りの回転の角速度(ピッチ軸角速度)を検出するピッチ軸角速度センサ、及びヨー軸回りの回転の角速度(ヨー軸角速度)を検出するヨー軸角速度センサを有している。
角速度検出部52は、各角速度センサにより検出したロール軸角速度、ピッチ軸角速度、及びヨー軸角速度のデータを演算部53に出力する。
【0023】
演算部53は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータなどで構成され、モード切換制御部54、角度検出部55、ロール軸制御部56、ピッチ軸制御部57、ヨー軸制御部58、及び制御信号生成部59としての機能を有する。
【0024】
モード切換制御部54は、無線操縦飛行機1の操縦にあたり設定可能な制御モードとして、通常制御モードとロール飛行制御モードとの切り換えを所定の条件に応じて実行する。モード切り換えの条件の詳細については後述する。
【0025】
角度検出部55は、角速度検出部52から出力されたロール軸角速度を一定時間ごとの変化量を積分演算することで無線操縦飛行機1の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの回転角度(ロール軸角度)を算出する。
また角度検出部55は、ピッチ軸角速度を一定時間ごとの変化量を積分演算することで基準姿勢から現在の姿勢までのピッチ軸回りの回転角度(ピッチ軸角度)を算出する。
さらに角度検出部55は、ヨー軸角速度を一定時間ごとの変化量を積分演算することで基準姿勢から現在の姿勢までのヨー軸回りの回転角度(ヨー軸角度)を算出する。
ここで基準姿勢とは、各軸回りの機体の回転角度を算出するための基準となる無線操縦飛行機1の姿勢であり、例えば電源の投入時の姿勢が基準姿勢として設定される。本実施の形態では、一例として無線操縦飛行機1の水平状態が基準姿勢として設定されるものとする。
【0026】
ロール軸制御部56は、通常制御モード及びロール飛行制御モードにおいて、操縦者の入力操作の動作量に基づいてロール軸回りの機体の回転角度(目標角度)を算出する。
ロール軸制御部56は、或る時点における、算出したロール軸回りの目標角度と、角度検出部55が算出したロール軸角度との差分に基づいてPID制御の各項(比例項Pr、積分項Ir及び微分項Dr)を算出する。
【0027】
ここでPID制御とは、比例項P、積分項I及び微分項Dに基づいて制御量を決定する手法である。本例においては各軸ごとにPID制御が実行される。
PID制御の各項について、ロール軸を例に挙げて説明する。
PID制御における比例項Pは、例えば、その時点におけるロール軸回りの目標角度からロール軸角度を差し引いて得られる偏差に所定の比例ゲインKpを乗じることにより得られる。積分項Iは、例えば、偏差を積分して得られる積分値に所定の積分ゲインKiを乗じることにより得られる。微分項Dは、例えば、偏差を微分して得られる微分値に所定の微分ゲインKdを乗じることにより得られる。
ピッチ軸及びヨー軸についても同様に比例項P、積分項I及び微分項Dを算出可能である。
【0028】
なお、本実施の形態では、各軸回りのPID制御のために算出される比例項P、積分項I及び微分項Dについて、ロール軸回りを比例項Pr、積分項Ir及び微分項Drと、ピッチ軸回りを比例項Pp、積分項Ip及び微分項Dpと、ヨー軸回りを比例項Py、積分項Iy及び微分項Dyと表記する。また、特に各軸回りを区別する必要のないときは、単に比例項P、積分項I及び微分項Dとも表記する。
【0029】
ピッチ軸制御部57は、通常制御モードにおいて、操縦者の入力操作を換算した動作量に基づいてピッチ軸回りの機体の回転角度(目標角度)を算出する。
ピッチ軸制御部57は、或る時点における、算出したピッチ軸回りの目標角度と、角度検出部55が算出したピッチ軸角度との差分に基づいてPID制御の各項(比例項Pp、積分項Ip、及び微分項Dp)を算出する。
【0030】
ヨー軸制御部58は、通常制御モードにおいて、操縦者の入力操作を換算した動作量に基づいてヨー軸回りの機体の回転角度(目標角度)を算出する。
ヨー軸制御部58は、或る時点における、算出したヨー軸回りの目標角度と、角度検出部55が算出したヨー軸角度との差分に基づいてPID制御の各項(比例項Py、積分項Iy、及び微分項Dy)を算出する。
【0031】
制御信号生成部59は、通常制御モードにおいて、ロール軸制御部56が算出した比例項Pr、積分項Ir及び微分項Drに基づいてエルロン・サーボモータ20の動作を補正するための制御量を算出する。
また制御信号生成部59は、通常制御モードにおいて、ピッチ軸制御部57が算出した比例項Pp、積分項Ip及び微分項Dpに基づいてエレベータ・サーボモータ30の動作を補正するための制御量を算出する。
さらに制御信号生成部59は、通常制御モードにおいて、ヨー軸制御部58が算出した比例項Py、積分項Iy及び微分項Dyに基づいてラダー・サーボモータ40の動作を補正するための制御量を算出する。
そして制御信号生成部59は、各サーボモータの制御量に基づく制御信号を生成する。
【0032】
一方、ロール飛行制御モードにおいて、ピッチ軸制御部57は、角度検出部55が算出したピッチ軸角度と、ピッチ軸回りの目標角度との差分に基づいてPID制御のための比例項Pp、積分項Ip及び微分項Dpを算出する。そしてピッチ軸制御部57は、積分項Ipのベクトルをロール軸角度に基づいて水平方向の虚数項Ipiと重力方向の実数項Iprに分割する。
例えば
図3及び
図4に示すように、積分項Ipの制御量について、無線操縦飛行機1が
図3に示す基準位置からのロール軸角度を変数θに代入することで、虚数項Ipi及び実数項Iprが[式1]及び[式2]により算出される。
[式1]Ipi=Ip×sinθ
[式2]Ipr=Ip×cosθ
【0033】
ヨー軸制御部58は、ロール飛行制御モードにおいて、角度検出部55が算出したヨー軸角度と、ヨー軸回りの目標角度との差分に基づいてPID制御のための比例項Py、積分項Iy及び微分項Dyを算出する。そしてヨー軸制御部58は、積分項Iyのベクトルをロール軸角度に基づいて、重力方向の虚数項Iyiと水平方向の実数項Iyrとに分割する。
例えば
図3及び
図4に示すように、積分項Irの制御量について、無線操縦飛行機1が
図3に示す基準位置からロール軸角度を変数θに代入することで、虚数項Iyi及び実数項Iyrが[式3]及び[式4]により算出される。
[式3]Iyi=Iy×sinθ
[式4]Iyr=Iy×cosθ
【0034】
制御信号生成部59は、ロール飛行制御モードにおいて、ピッチ軸制御部57が算出した比例項Pp及び微分項Dpに加え、[式5]により算出した積分項Wpを用いてエレベータ・サーボモータ30の制御量を算出する。
また制御信号生成部59は、ヨー軸制御部58が算出した比例項Py及び微分項Dyに加え、[式6]により算出した積分項Wyを用いてラダー・サーボモータ40の制御量を算出する。
これにより、無線操縦飛行機1のロール軸角度の変化量に応じて、機体のピッチ軸回転の変化量とヨー軸回転の変化量とを補正するための制御量が算出される。
[式5]Wp=Ipr+Iyi=Ip×cosθ+Iy×sinθ
[式6]Wy=Iyr-Ipi=Iy×cosθ-Ip×sinθ
【0035】
エルロン・サーボモータ20の制御量については通常制御モードと同様に、ロール軸制御部56が算出した比例項Pr、積分項Ir及び微分項Drに基づいてエルロン・サーボモータ20の制御量が算出される。
制御信号生成部59は、各サーボモータの制御量に基づく制御信号を生成する。
【0036】
なお、本実施の形態では一例として、通常制御モードにおいてもPID制御のための積分項Ipと積分項Iyを算出するにあたり[式1]から[式6]が用いられており、ここでは変数θに「0」を代入することで、積分項Wpが積分項Ipと、積分項Wyが積分項Iyとなるようにしている。
以上の構成に基づいて本発明の実施の形態が実現される。
【0037】
<3.演算部の処理例>
本実施の形態を実現するための演算部53が実行する処理例について
図5及び
図6を参照して説明する。なお、
図5及び
図6に示す処理を実行するにあたり、既に無線操縦飛行機1の水平状態が基準姿勢として設定されているものとして説明する。
【0038】
まず演算部53は、ステップS101において、操縦機器2から受信した操縦者の入力操作に基づく操作信号、及びゲイン設定信号を取得する。
【0039】
そして演算部53は、ステップS102において、取得した操作信号をロール軸回りの動作量、ピッチ軸回りの動作量、及びヨー軸回りの動作量にそれぞれ換算する。また演算部53は、ロール軸回りの動作量に基づくロール軸回りの目標角度、ピッチ軸回りの動作量に基づくピッチ軸回りの目標角度、及びヨー軸回りの動作量に基づくヨー軸回りの目標角度をそれぞれ算出する。
【0040】
また演算部53は、ステップS103において、取得したゲイン設定信号に基づいてPID制御にあたり用いられる比例ゲインKp、積分ゲインKi、及び微分ゲインKdを算出する。
【0041】
続いて演算部53は、ステップS104において、ロール軸角速度、ピッチ軸角速度、及びヨー軸角速度を角速度検出部52から取得する。
ここで演算部53は、一定時間ごとに、ロール軸角速度の変化量を積分演算することで基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸角度を算出する。また演算部53は、一定時間ごとに、ピッチ軸角速度の変化量を積分演算することで基準姿勢から現在の姿勢までのピッチ軸角度を算出する。同様に演算部53は、一定時間ごとに、ヨー軸角速度の変化量を積分演算することで基準姿勢から現在の姿勢までのヨー軸角度を算出する。
【0042】
その後、演算部53は、無線操縦飛行機1の制御モードを通常モードからロール飛行制御モードに切り換えるか否か、又はロール飛行制御モードを維持するか否かを判定する。
例えば演算部53は、制御機器2から受信した操縦者からの操作(例えばロール飛行制御モードがオンの状態)に基づくロール飛行制御要求信号に応じて制御モードを通常制御モードからロール飛行制御モードに切り換える。また演算部53は、ロール飛行制御モードに切り換えた後、操縦者からの操作に基づく通常制御要求信号に応じて制御モードをロール飛行制御モードから通常制御モードに切り換える。
【0043】
他の例として演算部53は、無線操縦飛行機1のロール軸角度の変化量と所定の閾値との比較に基づいて通常制御モードとロール飛行制御モードを切り換えることができる。例えば演算部53は、あらかじめ設定した閾値thよりもロール軸角度が大きくなったことに応じて、制御モードを通常制御モードからロール飛行制御モードに切り換えることができる。このとき演算部53は、ロール軸角度が閾値th以下となったことに応じてロール飛行制御モードから通常制御モードに切り換えることができる。
【0044】
また上記の組み合わせとして、演算部53は、制御機器2からロール飛行制御要求信号を受信し、かつ閾値thよりもロール軸角度が大きくなった場合に、制御モードを通常制御モードからロール飛行制御モードに切り換えることができる。このとき演算部53は、ロール軸角度が閾値th以下となったこと、又は制御機器2からロール飛行制御要求信号を受信したことをもって、ロール飛行制御モードから通常制御モードに切り換えることができる。
【0045】
ロール飛行制御モードにおいて、演算部53は、ステップS105からステップS106に処理を進める。演算部53は、ステップS106において、変数θにロール軸角度を代入する。これにより、後述する処理において無線操縦飛行機1のロール軸角度の変化量に応じて、機体のピッチ軸回転の変化量とヨー軸回転の変化量とを補正するための制御量が算出される。
【0046】
続いて演算部53は、ステップS107において、ロール軸回りのPID制御のための比例項Pr、積分項Ir、及び微分項Drを算出する。
そして演算部53は、ステップS108において、比例項Pr、積分項Ir、及び微分項Drを加算することにより、エルロン・サーボモータ20の制御量を算出する。当該制御量信号がエルロン・サーボモータ20に出力されることで、当該制御量に応じてエルロン6の動作が制御される。
【0047】
また演算部53は、
図6のステップS109に処理を進め、PID制御のためのピッチ軸回りの積分項Ipとヨー軸回りの積分項Iyを算出する。
そして演算部53は、ステップS110において、ピッチ軸回りの積分項Ipとヨー軸回りの積分項Iyを変数θに基づいて分解する。
具体的には、演算部53は、上記[式1]及び[式2]により、積分項Ipのベクトルを変数θに代入したロール軸角度に基づいて、水平方向の虚数項Ipiと重力方向の実数項Iprに分解する。また演算部53は、上記[式3]及び[式4]により、積分項Iyのベクトルを変数θに代入したロール軸角度に基づいて、重力方向の虚数項Iyiと水平方向の実数項Iyrとに分解する(
図4参照)。
【0048】
また演算部53は、ステップS111において、PID制御のためのピッチ軸回りの比例項Ppと微分項Dpを算出し、ステップS112において、ヨー軸回りの比例項Pyと微分項Dyを算出する。
【0049】
演算部53は、ステップS113において、上記[式5]により、ピッチ軸回りの積分項Ipの実数項Iprと、ヨー軸回りの積分項Iyの虚数項Iyiとを加算することで積分項Wpを算出する。
【0050】
また演算部53は、ステップS114において、上記[式6]により、ヨー軸回りの積分項Iyの実数項Iyrと、ピッチ軸回りの積分項Ipの虚数項Ipiとの差分から積分項Wyを算出する。
【0051】
そして演算部53は、ステップS115において、ステップS111で算出したピッチ軸回りの比例項Pp、微分項Dp、及びステップS113で算出した積分項Wpを加算することで、エレベータ・サーボモータ30の制御量を算出する。当該制御量信号がエレベータ・サーボモータ30に出力されることで、当該制御量に応じてエレベータ7の動作が制御される。
【0052】
また演算部53は、ステップS116において、ステップS112で算出したヨー軸回りの比例項Py、微分項Dy、及びステップS114で算出した積分項Wyを加算することで、ラダー・サーボモータ40の制御量を算出する。当該制御量信号がラダー・サーボモータ40に出力されることで、当該制御量に応じてラダー8の動作が制御される。
【0053】
エレベータ・サーボモータ30の制御量の算出にあたり積分項Wpを用い、ラダー・サーボモータ40の制御量の算出にあたり積分項Wyを用いることで、無線操縦飛行機1のロール軸角度に依存しないでエレベータ・サーボモータ30及びラダー・サーボモータ40を制御することが可能となる。
【0054】
ステップS116の後、演算部53は、
図5の
ステップS101に処理を戻し、以降同様の処理を実行する。
【0055】
一方、
図5のステップS105において通常制御モードであるときは、制御部53はステップS117に処理を進める。制御部53は、ステップS117において、変数θに「0」を代入する。
【0056】
その後、制御部53は、ステップS107で算出したロール軸回りの比例項Pr、積分項Ir、及び微分項DrをステップS108において加算することで、エルロン・サーボモータ20の制御量を算出する。
【0057】
また制御部53は、続く
図6のステップS109において、ピッチ軸回りの積分項Ipとヨー軸回りの積分項Iyを算出する。
ここでステップS110において、制御部53により上記[式1]及び[式2]の変数θには「0」が代入されることから、積分項Ip=実数項Ipr、積分項Iy=実数項Iyrとなり、変数θに基づいて積分項Ip及び積分項Iyはそれぞれ分解されない状態となる。
【0058】
また演算部53は、ステップS111に処理を進め、ピッチ軸回りの比例項Ppと微分項Dpを算出し、ステップS112において、ヨー軸回りの比例項Pyと微分項Dyを算出する。
【0059】
ここでステップS113において、演算部53は上記[式5]により積分項Wpを算出するが、このとき変数θには「0が」代入されているため、積分項Wp=積分項Ipとなる。同様に、ステップS114においても演算部53は上記[式6]により、積分項Wy=積分項Iyとなる。
【0060】
従って、演算部53は、ステップS115において、ステップS111で算出したピッチ軸回りの比例項Pp、微分項Dp、及びステップS113で算出した積分項Wpとしての積分項Ipを加算することで、エレベータ・サーボモータ30の制御量を算出する。
【0061】
また演算部53は、ステップS116において、ステップS112で算出したヨー軸回りの比例項Py、微分項Dy、及びステップS114で算出した積分項Wyとしての積分項Iyを加算することで、ラダー・サーボモータ40の制御量を算出する。
【0062】
即ち、通常制御モードにおいては、無線操縦飛行機1のロール軸角度の変化量を加味することなく、エレベータ・サーボモータ30及びラダー・サーボモータ40の制御量が算出される。
【0063】
ステップS116の後、演算部53は、
図5の
ステップS101に処理を戻し、以降同様の処理を実行する。
以上により、本実施の形態における演算部53の処理が実現される。
【0064】
<4.まとめ及び変形例>
以上の実施の形態の演算処理装置50は、無線操縦飛行機1のロール軸回りの変化量(ロール軸角度の変化量)に応じて、ピッチ軸回りの変化量(積分項の変化量)とヨー軸回りの変化量(積分項の変化量)とを補正するための制御量を算出する演算部53を備える(
図6のS110、S113、S114参照)。
無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量が、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量に影響を及ぼさない。従って、ロール飛行を行う無線操縦飛行機1の高度が維持される。
これにより、無線操縦飛行機1がロール軸回りに回転動作を行っているときの、無線操縦飛行機1の姿勢を反映させたピッチ軸回りの動作、及びヨー軸回りの動作の制御量の補正が行われ、ロール飛行の制御の精度を向上させることができる。これにより、経験や技術の少ない一般の操縦者であっても容易な操作によりロール飛行を行うことができる。
また無線操縦飛行機1のPID制御において支配的な積分項Iについて制御量の補正を行うことで、効果的にロール飛行のための動作制御を行うことができる。
【0065】
演算処理装置50は、無線操縦飛行機1のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量(変数θ)として算出する(
図5のS106参照)。
これにより、ロール軸回りの角度に基づいて、ピッチ軸回りの変化量(積分項Ip)のベクトルが虚数項Ipiと実数項Iprに分割され、ヨー軸回りの変化量(積分項Iy)のベクトルが虚数項Iyiと実数項Iyrに分割され(
図4参照)、ピッチ軸回りの実数項Iprとヨー軸回りの虚数項Iyiが加算されることで機体の重力方向の制御量Wpが算出され、ピッチ軸回りの虚数項Ipiとヨー軸回りの実数項Iyrの差分から機体の水平方向の制御量Wyが算出される。
従って、ロール飛行においてロール軸回りに回転する無線操縦飛行機1に対して、無線操縦飛行機1の現在の姿勢を反映させたピッチ軸回り及びヨー軸回りの動作制御を行うことができる。
【0066】
演算処理装置50は、無線操縦飛行機1の操縦者からの操作に基づく信号に応じて上記制御量の算出を開始する(
図5のS105参照)。
これにより、制御モードにおいて、通常制御モードとロール飛行制御モードが操縦者からの操作により切り換え可能とされる。
制御モードが操縦者の操作により切り換え可能とされることで、無線操縦飛行機1の飛行態様に応じて適した制御モードに切り換えることができ、操縦者の快適な操縦を実現することができる。
【0067】
演算処理装置50は、ロール軸回りの変化量(ロール軸角度)と所定の閾値thとの比較に基づいて上記制御量の算出を開始する(
図5のS105参照)。
これにより、飛行中の無線操縦飛行機1のロール軸回りの変化量に応じて自動的に当該制御量の算出を実行するか否かが切り換えられる。
従って、操縦者の操作によらずに必要に応じて制御モードに切り換えることができるようになるため、操縦者がより簡易な操作により無線操縦飛行機1を操縦することができる。
【0068】
また本実施の形態における無線操縦飛行機1は、無線通信により操縦される無線操縦飛行機1であって、自機のロール軸回りの変化量(ロール軸角度の変化量)に応じて、ピッチ軸回りの変化量(積分項の変化量)とヨー軸回りの変化量(積分項の変化量)とを補正するための制御量を算出する演算処理装置を備える(
図6のS110、S113、S114参照)。上記の演算処理装置50が内蔵された無線操縦飛行機1においても、上記と同様の作用効果が発揮される。
【0069】
本実施の形態の演算処理装置50は、無線操縦飛行機1に内蔵されている例について説明したが、演算処理装置50は操縦機器2側に設けられていてもよいし、他の外部機器に設けられていてもよい。
【0070】
また本実施の形態の無線操縦飛行機1は、水平尾翼4と垂直尾翼5を有する飛行機として説明したが、本実施の形態の無線操縦飛行機1は、上記に限られず、Vテール機やTテール機においても適用することができる。
【0071】
なお、本開示に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、他の効果を奏するものであってもよいし、本開示に記載された効果の一部を奏するものであってもよい。
本開示に記載された実施の形態はあくまでも一例であり、本発明が上述の実施の形態に限定されることはない。従って、上述した実施の形態以外であっても本発明の技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能なことはもちろんである。また、実施の形態で説明されている構成の組み合わせの全てが課題の解決に必須であるとは限らない。
【符号の説明】
【0072】
1 無線操縦飛行機
2 操縦機器
6 エルロン
7 エレベータ
8 ラダー
20 エルロン・サーボモータ
30 エレベータ・サーボモータ
40 ラダー・サーボモータ
50 演算処理装置
52 角速度検出部
53 演算部
55 角度検出部
56 ロール軸制御部
57 ピッチ軸制御部
58 ヨー軸制御部
59 制御信号生成部