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特許7185389空調機用ロータリ圧縮機システム、空調機用ロータリ圧縮機及びモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】空調機用ロータリ圧縮機システム、空調機用ロータリ圧縮機及びモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/18 20060101AFI20221130BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20221130BHJP
   F04C 23/02 20060101ALI20221130BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20221130BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20221130BHJP
   H02K 21/16 20060101ALI20221130BHJP
   H02P 25/089 20160101ALI20221130BHJP
【FI】
H02K3/18 P
F04B39/00 106E
F04C23/02 B
F04C29/00 T
H02K7/14 B
H02K21/16 M
H02P25/089
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017016618
(22)【出願日】2017-02-01
(65)【公開番号】P2018125976
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-01-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 真
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 創
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幹人
(72)【発明者】
【氏名】清水 健志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆史
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】関口 哲生
【審判官】佐々木 芳枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/163229(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/045999(WO,A1)
【文献】特開2001-103721(JP,A)
【文献】特開2009-65823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K3/18
H02K7/14
H02K21/16
F04C23/02
F04C29/00
F04B39/00
H02P25/089
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリ圧縮機と、
前記ロータリ圧縮機が備えるモータを制御するセンサレスベクトル制御回路と、
を備え、
前記モータにおいて、ステータの外径が100mm以上112mm以下の範囲で、前記ステータが有するティース部と巻線スロット部とヨーク部の合計面積に対する前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲であり、巻線の導体断面積が0.84mm以上で前記導体断面積とターン数との積が40mm以上65mm未満の範囲にあり、空調機用ロータリ圧縮機に用いられるセンサレスベクトル制御を用いずに制御されるモータである第1モータのステータが有する第1ティース部と第1巻線スロット部と第1ヨーク部の合計面積に対する前記第1巻線スロット部の合計面積の割合が25%未満であり、前記第1モータのロータの外径の長さを第1ロータ外径、前記第1巻線スロット部の径方向の長さを第1長さ、前記第1ティース部の幅を第1幅、前記第1モータのステータ外径を第1ステータ外径とした場合に、前記モータが、前記モータの前記ステータの外径が前記第1ステータ外径に維持され、前記モータのティース部の幅が前記第1幅に維持されたまま、前記モータの前記巻線スロット部の径方向の長さを前記第1長さよりも大きくし、前記モータのロータの外径を前記第1ロータ外径よりも小さくすることで、前記モータの前記ティース部と前記巻線スロット部と前記ヨーク部の合計面積に対する前記モータの前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲となるように構成された
空調機用ロータリ圧縮機システム。
【請求項2】
センサレスベクトル制御によって制御されるモータを備え、
前記モータにおいて、ステータの外径が100mm以上112mm以下の範囲で、前記ステータが有するティース部と巻線スロット部とヨーク部の合計面積に対する前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲であり、巻線の導体断面積が0.84mm以上で前記導体断面積とターン数との積が40mm以上65mm未満の範囲にあり、空調機用ロータリ圧縮機に用いられるセンサレスベクトル制御を用いずに制御されるモータである第1モータのステータが有する第1ティース部と第1巻線スロット部と第1ヨーク部の合計面積に対する前記第1巻線スロット部の合計面積の割合が25%未満であり、前記第1モータのロータの外径の長さを第1ロータ外径、前記第1巻線スロット部の径方向の長さを第1長さ、前記第1ティース部の幅を第1幅、前記第1モータのステータ外径を第1ステータ外径とした場合に、前記モータが、前記モータの前記ステータの外径が前記第1ステータ外径に維持され、前記モータのティース部の幅が前記第1幅に維持されたまま、前記モータの前記巻線スロット部の径方向の長さを前記第1長さよりも大きくし、前記モータのロータの外径を前記第1ロータ外径よりも小さくすることで、前記モータの前記ティース部と前記巻線スロット部と前記ヨーク部の合計面積に対する前記モータの前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲となるように構成された
空調機用ロータリ圧縮機。
【請求項3】
空調機用のロータリ圧縮機に搭載するセンサレスベクトル制御によって制御されるモータであって、
ステータの外径が100mm以上112mm以下の範囲で、前記ステータが有するティース部と巻線スロット部とヨーク部の合計面積に対する前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲であり、巻線の導体断面積が0.84mm以上で前記導体断面積とターン数との積が40mm以上65mm未満の範囲にあり、空調機用ロータリ圧縮機に用いられるセンサレスベクトル制御を用いずに制御されるモータである第1モータのステータが有する第1ティース部と第1巻線スロット部と第1ヨーク部の合計面積に対する前記第1巻線スロット部の合計面積の割合が25%未満であり、前記第1モータのロータの外径の長さを第1ロータ外径、前記第1巻線スロット部の径方向の長さを第1長さ、前記第1ティース部の幅を第1幅、前記第1モータのステータ外径を第1ステータ外径とした場合に、前記モータの前記ステータの外径を前記第1ステータ外径に維持し、前記モータのティース部の幅を前記第1幅に維持したまま、前記モータの前記巻線スロット部の径方向の長さを前記第1長さよりも大きくし、前記モータのロータの外径を前記第1ロータ外径よりも小さくすることで、前記モータの前記ティース部と前記巻線スロット部と前記ヨーク部の合計面積に対する前記モータの前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲となるように構成した
モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機用ロータリ圧縮機システム、空調機用ロータリ圧縮機及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の省エネルギー化の要求に対し、空調機用の圧縮機においても、通年エネルギー消費効率(APF)が重視されている。一般に圧縮機は、低速運転時に効率が低下することが多く、低速域での効率改善がAPFの向上にも大きく役立つ。圧縮機が備えるモータの損失は、低速運転時では銅損が支配的であり、低速域での効率改善のためには、銅損を低減する必要がある。
【0003】
銅損を低減する手法の一つに、モータロータの外径を小さくして、ステータ巻線スロットを大きくする事で巻線径を大きく取り、巻線抵抗値を下げる手法が存在する。
【0004】
なお、特許文献1には、巻線抵抗および電流密度を抑制しながら、モータロータの慣性モーメントを大きくして1回転中の回転速度の変動を抑制し、高効率な運転を可能とする圧縮機について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-183474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、モータロータ外径が小さくなると、回転方向のイナーシャ(慣性)が小さくなり、ガス圧縮トルクの変動により、角速度の変動が生じ、モータの効率が低下してしまう。従って、APFの改善にもつながらない。モータ効率向上のため、モータロータ外径を小さくしつつ、銅損低減対策を施こすことが求められていた。
【0007】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできる空調機用ロータリ圧縮機システム、空調機用ロータリ圧縮機及びモータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、ロータリ圧縮機と、前記ロータリ圧縮機が備えるモータを制御するセンサレスベクトル制御回路と、を備え、前記モータにおいて、ステータの外径が100mm以上112mm以下の範囲で、前記ステータが有するティース部と巻線スロット部とヨーク部の合計面積に対する前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲であり、巻線の導体断面積が0.84mm以上で前記導体断面積とターン数との積が40mm以上65mm未満の範囲にあり、空調機用ロータリ圧縮機に用いられるセンサレスベクトル制御を用いずに制御されるモータである空調機用ロータリ圧縮機システムであり、第1モータのステータが有する第1ティース部と第1巻線スロット部と第1ヨーク部の合計面積に対する前記第1巻線スロット部の合計面積の割合が25%未満であり、前記第1モータのロータの外径の長さを第1ロータ外径、前記第1巻線スロット部の径方向の長さを第1長さ、前記第1ティース部の幅を第1幅、前記第1モータのステータ外径を第1ステータ外径とした場合に、前記モータが、前記モータの前記ステータの外径が前記第1ステータ外径に維持され、前記モータのティース部の幅が前記第1幅に維持されたまま、前記モータの前記巻線スロット部の径方向の長さを前記第1長さよりも大きくし、前記モータのロータの外径を前記第1ロータ外径よりも小さくすることで、前記モータの前記ティース部と前記巻線スロット部と前記ヨーク部の合計面積に対する前記モータの前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲となるように構成されている。
【0011】
本発明の第の態様は、センサレスベクトル制御によって制御されるモータを備え、前記モータにおいて、ステータの外径が100mm以上112mm以下の範囲で、前記ステータが有するティース部と巻線スロット部とヨーク部の合計面積に対する前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲であり、巻線の導体断面積が0.84mm以上で前記導体断面積とターン数との積が40mm以上65mm未満の範囲にあり、空調機用ロータリ圧縮機に用いられるセンサレスベクトル制御を用いずに制御されるモータである第1モータのステータが有する第1ティース部と第1巻線スロット部と第1ヨーク部の合計面積に対する前記第1巻線スロット部の合計面積の割合が25%未満であり、前記第1モータのロータの外径の長さを第1ロータ外径、前記第1巻線スロット部の径方向の長さを第1長さ、前記第1ティース部の幅を第1幅、前記第1モータのステータ外径を第1ステータ外径とした場合に、前記モータが、前記モータの前記ステータの外径が前記第1ステータ外径に維持され、前記モータのティース部の幅が前記第1幅に維持されたまま、前記モータの前記巻線スロット部の径方向の長さを前記第1長さよりも大きくし、前記モータのロータの外径を前記第1ロータ外径よりも小さくすることで、前記モータの前記ティース部と前記巻線スロット部と前記ヨーク部の合計面積に対する前記モータの前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲となるように構成された空調機用ロータリ圧縮機である。
【0013】
本発明の第の態様は、空調機用のロータリ圧縮機に搭載するセンサレスベクトル制御によって制御されるモータであって、ステータの外径が100mm以上112mm以下の範囲で、前記ステータが有するティース部と巻線スロット部とヨーク部の合計面積に対する前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲であり、巻線の導体断面積が0.84mm以上で前記導体断面積とターン数との積が40mm以上65mm未満の範囲にあり、空調機用ロータリ圧縮機に用いられるセンサレスベクトル制御を用いずに制御されるモータである第1モータのステータが有する第1ティース部と第1巻線スロット部と第1ヨーク部の合計面積に対する前記第1巻線スロット部の合計面積の割合が25%未満であり、前記第1モータのロータの外径の長さを第1ロータ外径、前記第1巻線スロット部の径方向の長さを第1長さ、前記第1ティース部の幅を第1幅、前記第1モータのステータ外径を第1ステータ外径とした場合に、前記モータの前記ステータの外径を前記第1ステータ外径に維持し、前記モータのティース部の幅を前記第1幅に維持したまま、前記モータの前記巻線スロット部の径方向の長さを前記第1長さよりも大きくし、前記モータのロータの外径を前記第1ロータ外径よりも小さくすることで、前記モータの前記ティース部と前記巻線スロット部と前記ヨーク部の合計面積に対する前記モータの前記巻線スロット部の合計面積の割合が25%以上40%以下の範囲となるように構成したモータである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コイルの巻線径を大きくとり、巻線抵抗値を下げることでモータの銅損を低減し、モータの高効率化、圧縮機の高効率化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態におけるロータリ圧縮機の縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態におけるロータリ圧縮機の制御回路を示す第一の図である。
図3】本発明の一実施形態におけるロータリ圧縮機の制御回路を示す第二の図である。
図4】本発明の一実施形態におけるロータリ圧縮機が備えるモータの断面図である。
図5】従来のロータリ圧縮機が備えるモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態によるロータリ圧縮機システムを図1図5を参照して説明する。
図1は、本発明の第一実施形態におけるロータリ圧縮機の側方断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る圧縮機10は、モータ18と、モータ18によって回転されるクランクシャフト16と、クランクシャフト16の回転に伴って偏心回転するピストンロータ13A,13Bと、ピストンロータ13A,13Bを収容する圧縮室が内部に形成されたシリンダ12A,12Bと、シリンダ12A,12Bを囲うことで圧縮された冷媒が排出される吐出空間Vを形成するハウジング11と、を備えている。
【0017】
この圧縮機10は、円筒形状のハウジング11に、ディスク状のシリンダ12A、12Bが上下2段に設けられた、いわゆる2気筒タイプのロータリ圧縮機である。シリンダ12A、12Bの内部には、各々、シリンダ内壁面の内側よりも小さな外形を有する円筒状のピストンロータ13A、13Bが配置されている。ピストンロータ13A、13Bは、各々、ハウジング11の中心軸線に沿った回転軸の偏心軸部14A、14Bに挿入固定されている。
上段側のシリンダのピストンロータ13Aと、下段側のピストンロータ13Bとは、その位相が互いに180°だけ異なるように設けられている。
また、上下のシリンダ12A、12Bの間には、ディスク状の仕切板15が設けられている。仕切板15により、上段側のシリンダ12A内の空間Rと、下段側の空間Rとが互いに連通せずに圧縮室R1とR2とに仕切られている。
【0018】
クランクシャフト16は、シリンダ12Aに固定された上部軸受部17A、及びシリンダ12Bに固定された下部軸受部17Bにより、軸線O回りに回転可能に支持されている。
クランクシャフト16は、クランクシャフト16の中心線に直交する方向にオフセットした偏心軸部14A、14Bを有している。これら偏心軸部14A、14Bがクランクシャフト16の中心軸線回りに旋回することで、上下のピストンロータ13A、13Bがこの旋回に追従してシリンダ12A、12B内で、偏心回転する。
【0019】
クランクシャフト16は、上部軸受部17Aから上方(すなわち、圧縮機10から見てモータ18が位置する方向)に突出している。クランクシャフト16における軸線O方向一方側の端部には、該クランクシャフト16を回転駆動させるためのモータ18のモータロータ19が一体に設けられている。モータロータ19の外周部に対向して、ステータ20が、ハウジング11の内周面に固定して設けられている。
【0020】
圧縮機10には、圧縮機10に供給するのに先立って冷媒を気液分離するアキュムレータ24がステー25を介してハウジング11に固定されている。アキュムレータ24には、アキュムレータ24内の冷媒を圧縮機10に吸入させるための吸入管26A、26Bが設けられている。吸入管26A、26Bの先端部は、開口22A、22Bを通して、吸入ポート23A、23Bに接続されている。
【0021】
圧縮機10は、アキュムレータ24の吸入口24aからアキュムレータ24の内部に冷媒を取り込む。具体的には、アキュムレータ24内で冷媒を気液分離して、その気相を吸入管26A、26Bから、シリンダ12A、12Bの吸入ポート23A、23Bを介し、シリンダ12A、12Bの内部空間である圧縮室R1、R2に供給する。
そして、ピストンロータ13A、13Bが偏心回転することにより、圧縮室R1、R2の容積が徐々に減少して冷媒が圧縮される。この冷媒は、モータ18の周囲を通過してから、上部に設けられた吐出口を経由して冷凍サイクルを構成する配管27に排出される。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態におけるロータリ圧縮機の制御回路を示す第一の図である。
図2にモータ18の制御を行うセンサレスベクトル制御回路1のブロック図を示す。図2に示すセンサレスベクトル制御回路1は、コンバータ31と、コンデンサ32と、リアクタ33と、インバータ34と、電流センサ35と、電流検出回路36と、A/D変換回路37と、PWM(Pulse Width Modulation)デュ-ティ計算回路38と、A/D変換回路39と、電圧検出回路40と、フルベクトル制御回路41と、を備えている。また、フルベクトル制御回路41は、2相/3相変換回路42と、2相/3相変換回路43と、電流PI制御回路44と、電流変換テーブル45と、速度PI制御回路46と、速度位置推定回路47と、減算器48と、減算器49と、を備える。
なお、ロータリ圧縮機システムは、回転速度制御装置60とセンサレスベクトル制御回路1とロータリ圧縮機10とを含んで構成される。
【0023】
コンバータ31は、電力系統Eから入力される三相交流電流を整流する。コンデンサ32、リアクタ33は、整流された電圧を平滑化して直流電圧を生成する。インバータ34は、PWMデュ-ティ計算回路38が出力したデュ-ティ指令値に基づいて、直流入力電圧から3相の駆動電圧を生成し、圧縮機10が備えるモータ18に駆動電圧を供給する。これにより、センサレスベクトル制御回路1は、モータ18を駆動する。
【0024】
電流検出回路36はモータ18に流れる電流を検出し、A/D変換回路37へ出力する。A/D変換回路37は、電流検出回路36が検出した電流をデジタル信号に変換し、変換後の信号をフルベクトル制御回路41へ出力する。フルベクトル制御回路41では、2相/3相変換回路42が、A/D変換回路37から入力した3相の信号を座標変換(dq変換)し、変換後の電流値id、iqを速度位置推定回路47に出力する。このとき2相/3相変換回路42は、後述するモータロータ19による磁極角度の前回の推定値θesを参照する。速度位置推定回路47は、電流値id、iqと、電流PI制御回路44が出力したdq座標系での電力指令値vd、vqを入力し、モータ18の回転速度の推定値ωesとモータロータ19の磁極角度(磁極位置の角度)の推定値θesを、例えば、MRAS(model reference adaptive system:モデル規範適応システム)と呼ばれる方法で算出する。
【0025】
回転速度制御装置60は、回転速度の指令値ωcmdをフルベクトル制御回路41へ出力する。減算器48は、回転速度制御装置60による回転速度の指令値ωcmdと、速度位置推定回路47が推定した回転速度の推定値ωesとの偏差Δωを算出して、速度PI制御回路46へ出力する。速度PI制御回路46は、Δωに基づいてPI制御により、偏差を小さくする(0にする)トルク指令値を算出する。フルベクトル制御回路41は、電流変換テーブル45に基づいて、トルク指令値を電流指令値id´、iq´に変換する。減算器49は、電流指令値id´、iq´と、2相/3相変換回路42が出力したid、iqとの偏差Δid、Δiqを算出して、電流PI制御回路44へ出力する。電流PI制御回路44は、偏差Δid、Δiqに基づいてPI制御により、偏差を小さくする(0にする)電圧指令値vd、vqを算出する。電流PI制御回路44は、電圧指令値vd、vqを2相/3相変換回路43へ出力する。2相/3相変換回路43は、速度位置推定回路47が推定したモータロータ19の磁極角度の推定値θesを参照して電圧指令値vd、vqの2相から3相への座標変換を行い、変換後の電圧指令値VをPWMデュ-ティ計算回路38へ出力する。PWMデュ-ティ計算回路38は、電圧指令値Vと、電圧検出回路40が検出したインバータ34への直流入力電圧をA/D変換回路39でデジタル変換した信号とを入力し、デュ-ティ指令値を算出する。PWMデュ-ティ計算回路38は、算出したデュ-ティ指令値をインバータ34へ出力する。
【0026】
図3は、本発明の一実施形態におけるロータリ圧縮機の制御回路を示す第二の図である。
図3に速度位置推定回路47のブロック図を示す。速度位置推定回路47は、電流推定回路50と、速度推定回路51と、積分回路52とを備える。電流推定回路50は、電力指令値vd、vqと、速度推定回路51が推定したモータロータ19の回転速度の推定値ω_Mを入力し、モータ18をモデル化した適応モデル(Adjustable Model)に基づいて、電流推定値id_est、iq_estを推定する。速度推定回路51は、電流推定値id_est、iq_estとid、iqを入力し、回転速度の推定(ω_M)を行う。積分回路52は、回転速度の推定値ω_Mを積分して、モータロータ19の磁極角度の推定値θesを算出する。速度位置推定回路47は、速度推定回路51が推定した回転速度の推定値ω_Mを回転速度の推定値ωesとして、積分回路52が算出したモータロータ19の磁極角度の推定値θesと共に出力する。
【0027】
圧縮機10の内部は、高温高圧環境となるためピストンロータ13の位置を検出するセンサを設けることが難しい。図2図3に示す制御回路によるセンサレスベクトル制御(例えばMRAS制御)よれば、センサを用いることなくモータロータ19の回転速度や磁極角度を高精度に検出することができる。また、モータロータ19とクランクシャフト16、ピストンロータ13A、13Bとは一体的に構成され回転するので、モータロータ19の磁極角度とピストンロータ13A、13Bの位置は一定の位置関係にあると考えられる。そのため、MRAS制御により、ピストンロータ13A、13Bの位置を高精度に推定し、制御することでクランクシャフト16の角速度の変動を抑制することができる。一般にロータリ圧縮機では、シリンダ12A、12Bにおける冷媒ガスの圧縮が進むにつれ高圧冷媒ガスからの力を受けるため、1回の圧縮工程中にガス圧縮トルクが大きく変動する。その影響で圧縮工程中のクランクシャフト16の角速度には変動が生じる。しかし、本実施形態のMRAS制御を導入すると、モータロータ19の回転速度や磁極角度の推定値に現れる変動を抑制するように回転速度制御装置60が、回転速度の指令値を算出することにより、クランクシャフト16の角速度変動を抑制することができる。
【0028】
圧縮工程中のガス圧縮トルク変動への対策を別の面から考えると、従来のモータ制御(MRAS制御を用いない場合)では、ガス圧縮トルク変動の影響を低減するためにモータロータ19のサイズをある程度大きく設計することでイナーシャを稼ぐ必要があった。しかし、MRAS制御の導入により、モータロータ19の回転速度を一定に保つことが可能となるため、上記の制約を考慮せずにモータロータ19を小型化できるようになる。モータロータ19を小型化することにより、モータの効率を向上することができる。次にモータロータ19の小型化の一例およびその効果について説明する。
【0029】
図4は、本発明の一実施形態におけるロータリ圧縮機が備えるモータの断面図である。
図4は、図1の圧縮機10においてA-A線での断面図のうちモータ18を示す。図4に示すのは、実際に本実施形態のMRAS制御を適用し、回転数変動を抑止し所望の回速度で圧縮機10を駆動することができるモータ18の断面図である。
図4においてステータ20は、9個のティース部3、9個の巻線スロット部4、ヨーク部5を有している。モータロータ19には磁石6が6極分配置されている。
【0030】
図5は、比較のために示したロータリ圧縮機が備える従来のモータの断面図である。
図5に示すのは、MRAS制御を適用しない場合、モータ18の代わりに圧縮機10に組み込んで使用するモータの断面図である。
図5においてステータ20´は、9個のティース部3´、9個の巻線スロット部4´、ヨーク部5´を有している。モータロータ19´には磁石6´が6極分配置されている。
ここで、図4に示すステータ外径20dと図5に示すステータ外径20d´は等しく、モータロータ19の外径19d<モータロータ19´の外径19d´である。
【0031】
MRAS制御による速度変動抑制効果を前提とした場合、上記のようにモータロータ19の外径を小さくすることができる。また、モータロータ19の外径を小さくすることにより、図示するようにステータ20の巻線スロット部4の面積を大きくすることができる(なお、ティース部3とティース部3´の幅は等しく、モータロータ19の外径を小さくすることによってのみ巻線スロット部4の面積を拡大した)。例えば、図示した例では、巻線スロット部4の合計面積は、巻線スロット部4´の合計面積の約1.7倍である。また、図4に例示したステータ20の場合、ステータ20全体の面積に対する9つの巻線スロット部4の合計面積の割合は約32%である。一方、図5に例示した従来のステータ20´の場合、ステータ20´全体の面積に対する9つの巻線スロット部4´の合計面積の割合は約23%である。なお、計算上、空調機のロータリ圧縮機に使用する同程度の大きさのモータ(例えば、ステータ外径が100mm~112mmの範囲にあるモータ)に対しても巻線スロット面積を同程度に拡大することが可能であると考えられる。また、ステータ20全体の面積に対する9つの巻線スロット部4の合計面積の割合は32%でなくても、その割合が25%から40%までの間の何れかの値を取るように設計することも可能である。25%とは、計算上、従来(23%の場合)に比べて、後述する銅損低減作用の有意な効果を得られるときの上記割合の下限値である。また、余りにもステータ20全体の面積に対する巻線スロット部4の合計面積の割合を大きくとると強度、振動、騒音などの問題が生じるところ、40%とは、そのような問題を回避しつつ運転できる上記割合の最大値である。
上記割合を25%~40%の範囲で設計したモータについても、空調機用に設計された従来のロータリ圧縮機に搭載されるモータと比較して、後述するモータ効率向上効果が得られると考えられる。
【0032】
また、巻線スロット部4の合計面積が、巻線スロット部4´の合計面積の約1.7倍であることにより、同じターン数のままでより太い径の巻線21をティース部3に巻きつけることができるようになった。つまり、ターン数を変更しないことによって、図5に例示した従来のモータと同様の制御で同等の誘起電圧を発生させることができ、巻線径を太くすることで抵抗を小さくし、銅損を低減することができる。今回の例の場合、図5で例示したモータでは、直径0.8mm、1スター結線の巻線21´を6極に対して集中巻き(70ターン)していた。この場合、導体断面積は、約0.503mm(0.4mm×0.4mm×π)である。また、導体断面積とターン数の積は、0.503mm×70=35.21mmとなる。一方、図4で例示したモータでは、直径0.6mm、3スター結線の巻線21を6極に対して集中巻き(210ターン)することができた。この場合、導体断面積は、約0.848mm(0.3mm×0.3mm×π×3)である。また、導体断面積とターン数の積は、0.848mm×70=59.346mmである。巻線スロット部4の合計面積と同様、導体断面積についても約1.7倍とすることができた。
【0033】
なお、ステータ外径やロータモータ外径のサイズは同じまま、印加する電圧の大きさ別に、例えば100V、200V、400V用のモータが存在する場合がある。現在、これら印加する電圧別のモータについて、100V用のモータでの巻線の導体断面積をYmm、100ターンとすると、200V用のモータについては巻線の導体断面積を0.5×Ymm、ターン数を200ターンとし、400V用のモータについては巻線の導体断面積を0.25×Ymm、ターン数を400ターンとして対応している。本実施形態のMRAS制御を適用した場合でも、印加電圧と導体断面積とターン数の関係は同じである。つまり、印加電圧に関わらず、導体断面積とターン数の積の値は変わらない。例えば、上記の例の場合、約59.346mmである。
【0034】
なお、上記の例では、ステータ外径が100mm~112mmの範囲にある空調機用ロータリ圧縮機に搭載するモータのモータロータについて小型化を行った例を挙げたが、さらに、出願人は、ステータ外径が125mm~135mmの範囲にある空調機用のロータリ圧縮機に搭載するモータについてもMRAS制御を前提とする小型化を行い、同程度にモータロータ外径を小型化することができた。その結果、巻線21の導体断面積を上記例と同程度に拡大(約0.848mm)することができた。
【0035】
また、モータロータ19の外径を上記の例まで小型化しなくても、MRAS制御を適用しつつ、モータロータの外径を、従来の90%程度に小型化して設計することも可能である。その場合でも、空調機用に設計された従来のロータリ圧縮機に搭載されたモータと比較して、高効率化の効果が得られると考えられる。また、その場合、巻線21の導体断面積は、約0.848mmまで大きくしなくても、従来よりも巻線を太くし(例えば、0.57mm)、抵抗を下げることによって銅損を低減することができる。また、上記図4で例示の小型化したモータは、従来のモータと同じ制御の下で同等の性能を発揮するように巻線径を太くし銅損を低減したものであって、巻線21の導体断面積の大きさ約0.848mmは最大値ではない。例えば、巻線21の導体断面積は0.92mm程度まで広げてもよい。
【0036】
本実施形態によれば、MRAS制御によって回転速度の変動を抑制することができるので上記のようにモータロータ19を小型・軽量化することができ、モータ18の効率を向上することができる。また、モータロータ19の外径を小さくすることで、磁石6の使用量を低減しコストを削減することができる。また、モータロータ19が占めていた空間にまでステータ20を拡大し、巻線スロット部4の面積の拡大することができる。巻線スロット部4の面積の拡大により、コイルの巻線径を太くすることができる。コイルの巻線径を太くすることによりコイルの抵抗を低減し、銅損を低減することができる。これによりモータ18の効率を向上し、圧縮機10の高効率化、通年エネルギー消費効率(APF)の向上を実現することができる。
【0037】
例えば、暖房定格出力、冷房定格出力、冷房中間出力での運転に比べてAPF向上への寄与率が高い(APFが低い運転状態である)暖房中間出力運転の場合、モータ損失は鉄損に比べ銅損の割合が多いことが分かっている。従って、本実施形態のロータリ圧縮機システムを空調機に適用することで、暖房中間出力運転におけるモータ18の銅損を低減し、モータ効率、圧縮機効率、空調機のAPFを向上させることができる。
なお、モータ18は、永久磁石同期モータ、誘導モータなど各種モータを適用することができる。
また、上記の実施形態では、ステータ外径が100mm~112mmの例、125mm~135mmの例を挙げたがこれに限定されない。例えば、ステータ外径が90mm程度のモータ、ステータ外径が170mm程度のモータにおいても同程度の小型化が可能であり、巻線21の導体断面積とターン数との積を約40mm~65mm程度に拡大することは可能と考えられる。
【0038】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記例では、6極9スロットのモータを例に挙げたが、他の極数、スロット歩数を有するモータ(例えば4極6スロット)であっても同程度の結果が得られると考えられる。なお、ロータリ圧縮機システムは、回転速度制御装置60とセンサレスベクトル制御回路1とロータリ圧縮機10とを含んで構成される。本実施形態のロータリ圧縮機システムは空調機に使用される。
なお、9つの巻線スロット部4の合計面積は巻線スロット面積の一例、ステータ20の全体面積はステータ面積の一例である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・センサレスベクトル制御回路
3、3´・・・ティース部
4、4´・・・巻線スロット部
5、5´・・・ヨーク部
6、6´・・・磁石
10・・・圧縮機
11・・・ハウジング
12A,12B・・・シリンダ
13A,13B・・・ピストンロータ
16・・・クランクシャフト
18・・・モータ
19、19´・・・モータロータ
20、20´・・・ステータ
20d、20d´・・・ステータ外径
21、21´・・・巻線
22A、22B・・・開口
23A、23B・・・吸入ポート
24・・・アキュムレータ
25・・・ステー
26A、26B・・・吸入管
31・・・コンバータ
32・・・コンデンサ
33・・・リアクタ
34・・・インバータ
35・・・電流センサ
36・・・電流検出回路
37・・・A/D変換回路
38・・・PWMデュ-ティ計算回路
39・・・A/D変換回路
40・・・電圧検出回路
41・・・フルベクトル制御回路
42、43・・・2相/3相変換回路
44・・・電流PI制御回路
45・・・電流変換テーブル
46・・・速度PI制御回路
47・・・速度位置推定回路
48・・・減算器
49・・・減算器
50・・・電流推定回路
51・・・速度推定回路
52・・・積分回路
図1
図2
図3
図4
図5