(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】建築構造体の変形量測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/32 20060101AFI20221130BHJP
E04G 21/18 20060101ALI20221130BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
G01B21/32
E04G21/18 Z
G01C15/00 102C
(21)【出願番号】P 2018009323
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005005
【氏名又は名称】不二サッシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神崎 喜和
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-217213(JP,A)
【文献】特開平07-091071(JP,A)
【文献】特開2015-102529(JP,A)
【文献】特開2017-096867(JP,A)
【文献】特開2004-198389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/32
E04G 21/18
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に配置された縦部材と、水平方向に配置された横部材と、前記縦部材と前記横部材とに取り付けられるパネルとを備える建築構造体の変形量測定方法であって、
前記縦部材、前記横部材および前記パネルのうち、少なくとも1つの部材に位置センサを支持し、
前記建築構造体に外力が加わっていない状態において、前記位置センサの位置を表す初期値を取得しておき、
前記建築構造体に外力が加わった状態で、前記位置センサが無線通信により取得した情報に基づいて、前記位置センサの位置を表す2次元座標値を算出し、該2次元座標値の前記初期値からのずれ
として、前記位置センサを支持した部材の面内方向に関する変位量および面外方向に関する変位量を求めることにより、前記位置センサを支持した部材の外力による変形量を求める、
建築構造体の変形量測定方法。
【請求項2】
前記位置センサが、GPSセンサである、請求項1に記載の建築構造体の変形量測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、カーテンウォールや開口部装置などの矩形枠状の建築構造体の耐風圧試験や層間変位試験などの際に、建築構造体の縦部材や横部材、パネルの変形量を測定するための、建築構造体の変形量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨建造物を造る場合、鉄骨(躯体)を組み立てた後、この鉄骨の外側に外壁を構成する複数枚のカーテンウォールを取り付ける。このようなカーテンウォールは、現場での設置前に、建物の形状や設置条件、設計条件などに応じて、耐風圧試験や層間変位試験などの各種性能試験を行う必要がある。耐風圧試験や層間変位試験では、カーテンウォールに対し外力を加え、このカーテンウォールの方立や無目、パネルの変形量を測定する。カーテンウォールの方立や無目、パネルの変形量を測定するためのセンサとしては、たとえば、特開2004-233194号公報などに記載された、接触式変位計を使用することができる。
【0003】
図3および
図4は、性能試験の際に、カーテンウォール1の方立6の変形量を、接触式変位計2a、2bにより測定する方法の従来例を示している。試験装置の仮想躯体(図示省略)に対し支持されたカーテンウォール1に対向するようにして、接触式変位計2a、2bを支持するための支持用躯体3を設ける。支持用躯体3の支持枠4に対して支持した接触式変位計2a、2bのプローブ5a、5bの先端部を、カーテンウォール1の方立6の側面に接触させることにより、方立6の面内方向(
図4(A)および
図4(C)の左右方向)および面外方向(
図4(B)の左右方向、
図4(C)の上下方向)の変位を測定可能としている。すなわち、接触式変位計2aを、プローブ5aの軸方向が面内方向に一致するように、本体部7aを支持枠4に対し、面外方向に伸長する補助アーム8を介して支持し、軸方向の弾力が付与されたプローブ5aの先端部を方立6の面内方向に関する片側面に接触させている。一方、接触式変位計2bを、プローブ5bの軸方向が面外方向に一致するように、本体部7bを支持枠4に対し支持し、その軸方向の弾力が付与されたプローブ5bの先端部を方立6の面外方向に関する片側面に接触させている。性能試験では、カーテンウォール1に送風機から発生させた風圧を加えたり、カーテンウォール1を支持する仮想躯体を変位させたりすることで、カーテンウォール1に外力を加える。この外力によってカーテンウォール1の方立6が変形すると、接触式変位計2a、2bのプローブ5a、5bがそれぞれの軸方向に変位する。それぞれのプローブ5a、5bの変位量をデータロガーにより記録することで、カーテンウォール1の方立6の面内方向および面外方向に関する変形量を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような、カーテンウォールの変形量測定方法は、コストおよび工数の低減を図る面からは改良の余地がある。すなわち、
図3および
図4に示した従来方法では、高価な接触式変位計2a、2bが、測定位置P(
図4(A)参照)1箇所ごとに、カーテンウォール1の面内方向に関する変位を測定するものと、面外方向に関する変位を測定するものとの2個必要になる。装置全体における接触式変位計2a、2bの個数は、試験体であるカーテンウォール1の大きさや試験条件などにもよるが、最大で200個程度必要になることもある。
【0006】
また、接触式変位計2a、2bは、カーテンウォール1に対し対向するようにして設置された支持用躯体3に、精度よく取り付ける必要がある。すなわち、本体部7a、7bに対するプローブ5a、5bの軸方向位置(プローブ5a、5bの本体部7a、7bからの突出量)を適正に規制し、かつ、プローブ5a、5bの中心軸が方立6の側面に対し垂直となるように、プローブ5a、5bの先端部を方立6の側面に接触させた状態で、接触式変位計2a、2bを支持用躯体3に取り付ける必要がある。要するに、接触式変位計2a、2bの支持用躯体3への取付作業は熟練を要し、かつ、煩雑で、工数が嵩む。支持用躯体3の設置作業および接触式変位計2a、2bの取付作業を含め、カーテンウォール1の試験を行うための準備には、多くの時間と人手がかかる。
【0007】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、コストおよび工数の低減を図るとともに、取付作業者の熟練度によるばらつきを低減することができる、建築構造体の変形量測定方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の建築構造体の変形量測定方法の対象となる建築構造体は、上下方向に配置された縦部材と、水平方向に配置された横部材と、前記縦部材と前記横部材とに取り付けられるパネルとを備える。すなわち、本発明の建築構造体の変形量測定方法は、たとえば、カーテンウォール、または、サッシやドアなどの開口部装置などを対象とすることができる。
【0009】
本発明の建築構造体の変形量測定方法では、前記縦部材、前記横部材および前記パネルのうち、少なくとも1つの部材に位置センサを支持する。そして、前記建築構造体に外力が加わっていない状態において、前記位置センサの位置を表す初期値を取得しておき、前記建築構造体に外力が加わった状態で、前記位置センサが無線通信により取得した情報に基づいて、前記位置センサの位置を表す2次元座標値を算出し、該2次元座標値の前記初期値からのずれ(変位量)として、前記位置センサを支持した部材の面内方向に関する変位量および面外方向に関する変位量を求めることにより、前記位置センサを支持した部材の外力による変形量(弾性変形量や残留変形量など)を求める。
【0010】
前記位置センサを、GPSセンサとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建築構造体の変形量測定方法によれば、コストおよび工数の低減を図るとともに、取付作業者の熟練度によるばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の1例に係るカーテンウォールの変形量測定方法に関して、位置センサによる測定態様を示す略斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、本発明の実施の形態の1例に係るカーテンウォールの変形量測定方法に関して、測定位置を示す略正面図であり、
図2(B)は、位置センサの取付態様を示す、
図2(A)のa-a断面に相当する図であり、
図2(C)は、位置センサの取付態様を示す、
図2(A)のb-b断面に相当する図である。
【
図3】
図3は、従来のカーテンウォールの変形量測定方法に関して、接触式変位計による測定態様を示す略斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、従来のカーテンウォールの変形量測定方法に関して、測定位置を示す略正面図であり、
図4(B)は、接触式変位計による測定態様を示す、
図4(A)のc-c断面に相当する図であり、
図4(C)は、接触式変位計による測定態様を示す、
図4(A)のd-d断面に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1および
図2は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例を含め、本発明の建築構造体の変形量測定方法の対象となるカーテンウォール1は、それぞれが上下方向に配置された縦部材である、複数本の方立6と、隣り合う左右の方立6同士の間にそれぞれ水平方向に配置された横部材である、複数本の無目9と、方立6と無目9とにより四辺を囲まれた開口部に取り付けられたパネル10とを備える。
【0014】
次に、耐風圧試験や層間変位試験などの性能試験の際に、カーテンウォール1の変形量を測定するための、本例のカーテンウォールの変形量測定方法について説明する。性能試験は、カーテンウォール1の方立6の上下方向複数箇所を、ブラケットを介して、試験装置の仮想躯体(図示省略)に対し支持固定した状態で行う。
【0015】
本例の特徴は、位置センサ11として、衛星からの無線信号に基づいて自身の位置情報を、2次元座標値(本例では、緯度および経度)として出力する、GPS(Global Positioning System)センサを使用して、カーテンウォール1の方立6、無目9およびパネル10のうちの少なくとも1種の部材の変形を測定する点にある。なお、
図1および
図2は、位置センサ11により、方立6の変形を測定する構造を示している。
【0016】
本例では、位置センサ11に接続した、USBケーブルなどの信号ケーブルにより、位置センサ11への給電、および、この位置センサ11が出力する2次元座標値を、計算機によりリアルタイムに取得することが可能となっている。
【0017】
ただし、位置センサ11への給電方法や、位置センサ11が出力する2次元座標値の取得方法については、特に限定されない。たとえば、センサホルダ内に内蔵した電池により位置センサ11に給電するようにしたり、位置センサ11が試験中に出力した2次元座標値を、センサホルダ内に内蔵したメモリに記録しておき、後でメモリから読み取るようにしたりすることもできる。
【0018】
また、本例では、2次元座標値は、位置センサ11内の演算器により、衛星からの無線信号に基づいて算出し、位置センサ11から計算機に送信しているが、位置センサ11により受信した、衛星からの無線信号の情報を、そのまま計算機に送信し、該計算機により、位置センサ11の2次元座標値を算出するようにすることもできる。
【0019】
本例では、カーテンウォール1を構成する方立6の面外方向(
図2(B)の左右方向、
図2(C)の上下方向)に関する片側面(建造物に取り付けた状態での屋内側の側面)のうち、試験条件などに応じて決定された、複数の測定位置P(図示の例では、3箇所位置)に、位置センサ11を、磁石や貼着テープなどを用いた貼付などにより、1つずつ取り付けている。なお、位置センサ11は、方立6の面外方向に関する片側面に限らず、方立6の面外方向に関する他側面(建造物に取り付けた状態での屋外側の側面)や、方立6の面内方向(
図2(A)および
図2(C)の左右方向)に関する側面に取り付けることもできる。
【0020】
性能試験中のカーテンウォール1の変形量を測定するためには、まず、試験を実施する前に、外力が加わっていない状態でのそれぞれの位置センサ11の2次元座標値(初期値)を取得しておく。
【0021】
次いで、カーテンウォール1に、試験条件に応じた外力を加える。すなわち、耐風圧試験を行う場合には、送風機から発生させた風圧をカーテンウォール1に加え、層間変位試験を行う場合には、カーテンウォール1を支持した仮想躯体を面外方向や面内方向に変位させる。
【0022】
本例では、試験中に取得した位置センサ11の2次元座標値に基づいて、計算機上のプログラムにより、位置センサ11の初期値からのずれ(変位量)に変換する。具体的には、試験中に取得した位置センサ11の2次元座標値に基づいて、計算機により、位置センサ11の初期位置からの面内方向に関する変位量、および、同じく面外方向に関する変位量を算出する。これにより、カーテンウォール1の方立6の外力による変形を測定することができる。
【0023】
上述のような本例のカーテンウォールの変形量測定方法によれば、コストおよび工数の低減を図るとともに、取付作業者の熟練度によるばらつきを低減することができる。
【0024】
すなわち、本例では、位置センサ11として、
図3および
図4に示した従来方法で使用した接触式変位計2a、2bよりも安価なGPSセンサを使用している。また、1個の位置センサ11により、面内方向に関する変位量および面外方向に関する変位量の両方を求めることができる。したがって、位置センサ11は、測定位置1箇所につき、1個で済むため、装置全体における位置センサ11の個数は、
図3および
図4に示した従来方法で使用した接触式変位計2a、2bの個数よりも少なく(半数程度に)抑えることができる。これらの理由により、コストの低減を図ることができる。
【0025】
本例では、位置センサ11が無線通信により取得した情報に基づいて、該位置センサ11の位置を表す2次元座標値を算出し、該2次元座標値の
初期値からのずれを求めることにより、方立6の面内方向および面外方向に関する変位量を求めるようにしている。さらに、本例では、位置センサ11を、方立6の面外方向に関する片側面に、貼付により支持している。したがって、本例によれば、位置センサ11の取付作業は熟練を要することなく、容易に行え、かつ、
図3および
図4に示した従来方法のように、接触式変位計2a、2bを支持するための支持用躯体3を設置する必要もない。これらの理由により、工数の低減を図るとともに、取付作業者の熟練度によるばらつきを低減することができる。
【0026】
上述のように、本例では、従来方法のように、カーテンウォール1に対向する位置に支持用躯体3を設置していない。このため、耐風圧試験や層間変位試験などの試験中や試験直後に、カーテンウォール1を、至近距離から容易に観察することができる。また、位置センサ11を、カーテンウォール1に対し取り付けたまま、このカーテンウォール1の気密性を確認するための気密試験や水密性を確認するための水密試験などの別の性能試験を行うこともできる。
【0027】
本例では、カーテンウォール1の方立6に位置センサ11を取り付けて、方立6の変形量を測定する場合について説明したが、本発明のカーテンウォールの変形量測定方法では、方立6に加え、あるいは、方立6に代えて、無目9やパネル10の変形量を測定することもできる。
【0028】
また、本発明の建築構造体の測定方法は、本例のカーテンウォール1に限らず、サッシやドアなどの開口部装置など、各種の矩形枠状の建築構造体を対象とすることができる。具体的には、たとえば、引き違い窓を対象とする場合には、位置センサ11を、召合せ框に取り付けることが好ましい。
【0029】
本例では、耐風圧試験や層間変位試験の際に、カーテンウォール1の変形量を測定する場合について説明したが、本発明の建築構造体の変形量測定方法によれば、様々な場面において、建築構造体の変形量を測定することができる。具体的には、たとえば、建造物の鉄骨(躯体)に支持したカーテンウォール1に位置センサ11を取り付けることにより、実際の施工現場において、カーテンウォール1の変形量を測定することもできる。
【0030】
また、位置センサ11として、GPSセンサを使用する場合であって、屋内など、衛星からの無線信号の電波強度が十分ではない環境において、本発明の建築構造体の変形量測定方法を実施する場合には、中継装置を設置することができる。すなわち、屋外に設置したアンテナにより、衛星からの無線信号を受信し、屋内に設置され、かつ、アンテナと信号ケーブルで接続された放射器から、増幅された無線信号を再放射することができる。
【0031】
本例のように、位置センサ11として、GPSセンサを使用する場合には、計算機に、位置センサ11の出力信号に重畳した誤差を除去するためのノイズ除去手段を設けても良い。具体的には、耐風圧試験や層間変位試験などの性能試験の際にも変位しない不動位置に、GPSセンサを1個設置し、この不動位置に設置したGPSセンサの出力信号に基づいて、計算機により、カーテンウォール1に支持した位置センサ11の出力信号に重畳した誤差を除去することができる。
【0032】
本例では、位置センサ11として、衛星からの無線信号に基づいて自身の位置を表す2次元座標値を出力する、GPSセンサを使用したが、本発明では、他のセンサを使用することもできる。具体的には、たとえば、耐風圧試験や層間変位試験などの性能試験の際にも変位しない不動位置に発信器を設置し、この発信器から無線により発信された基準信号を、カーテンウォールに支持した位置センサにより受信し、該位置センサまたは計算機により、三点測位法に基づいて、位置センサの位置を表す2次元座標値を算出するようにすることができる。この場合、発信器と位置センサとの間の通信には、たとえば、Bluetooth(登録商標)やWi-Fiなどの無線通信手段を使用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 カーテンウォール
2a、2b 接触式変位計
3 支持用躯体
4 支持枠
5a、5b プローブ
6 方立
7a、7b 本体部
8 補助アーム
9 無目
10 パネル
11 位置センサ