(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】布型枠
(51)【国際特許分類】
E02D 27/01 20060101AFI20221130BHJP
E04G 9/08 20060101ALI20221130BHJP
E02B 3/12 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
E02D27/01 D
E04G9/08
E02B3/12
(21)【出願番号】P 2018044157
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000204620
【氏名又は名称】大嘉産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恵
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00030452(EP,A1)
【文献】実開昭57-075016(JP,U)
【文献】特開昭51-094609(JP,A)
【文献】特開2008-308896(JP,A)
【文献】特開2016-089528(JP,A)
【文献】特開昭58-150627(JP,A)
【文献】実開昭51-138943(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/01
E04G 9/08
E02B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材から形成した袋状枠の中に充填材を注入して使用する布型枠であって、
前記袋状枠の内部に非可撓性の管材を配置して該管材の端部に前記繊維材を固着させると共に、該管材の管内空間に連通する穴を前記繊維材に開けてあり、前記管内空間を
通し貫通させた固定具により前記繊維材と前記管材との間が密閉されている、布型枠。
【請求項2】
前記袋状枠の内部に配筋材を配設してある、請求項1に記載の布型枠。
【請求項3】
前記配筋材は、互いに交差する2方向に延伸するように配設してある、請求項2に記載の布型枠。
【請求項4】
前記配筋材は、板状の繊維強化プラスチックから形成されている、請求項2又は3に記載の布型枠。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の布型枠を構造物に付設した付設構造であって、
前記固定具で当該布型枠を施工面へ固定してある、付設構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する発明は、内部に充填材を充填して使用する布型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維材を袋状に形成し、その内部にコンクリート、モルタル等の充填材を注入して使用する布型枠は、法面への施工を主眼に製造され、施工面の起伏に追従する柔軟性をもつことが特徴である。このような布型枠において、充填材を注入したときに膨らむ2枚の繊維材がある程度以上離れないように引っ張り留めて厚みを決めるために、特許文献1に開示されているような綴じ紐を備えるもの、また、特許文献2に開示されているように、所定の方向の曲げ強度を増すために、補強用索条を内部に備えたものなどがある。
【0003】
これら布型枠は、綴じ紐が充填材の膨張圧で10%以上伸びてしまうため、形状や寸法の安定性に難があり、さらには、ボルト等で施工面に固定できるような固定手段をもっていない。本来、それ自体を直立させて使用することが想定されていないこともあり、コンクリート製の壁や天井などの補強施工に使おうとしても、形状が安定せず、補強施工面に簡単に固定することができない。
【0004】
特許文献3には、強化繊維シートを使用したシート状の軽量型枠をコンクリート構造物の周りにアンカーで固定し、コンクリート構造物と軽量型枠との間にモルタルを充填して一体化する補強又は補修方法が開示されている。この方法の場合、軽量型枠を固定した後にその端部を別途シール剤で密閉してモルタルの漏れを防止しないと施工できない。もし、このような補強又は補修に布型枠を応用することができれば、施工が楽になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-106096
【文献】特開平11-336084
【文献】特開平11-256839
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の背景に鑑みて本発明は、施工面へ固定し易く、コンクリート構造物などの補強にも容易に利用可能な布型枠を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る布型枠は、繊維材から形成した袋状枠の中に充填材を注入して使用する布型枠であって、その袋状枠の内部に非可撓性の管材を配置してこの管材の端部に繊維材を固着させると共に、該管材の管内空間に連通する穴を繊維材に開けてあることを特徴とする。
【0008】
この布型枠では、袋状枠の内部に配筋材を配設することができる。配筋材は、互いに交差する2方向に延伸するように配設可能である。好ましくは配筋材は、板状の繊維強化プラスチックとし、屈曲性をもたせるのがよい。
【0009】
本発明に係る布型枠は、ボルト等の固定具を管材に通して使用することができるので、管内空間を通し貫通させた固定具で当該布型枠を施工面へ固定することで、構造物へ付設することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る布型枠は、非可撓性の管材が形状や寸法(特に厚さ)を安定させる枠間隔保持材(いわば柱)として機能すると共に、布型枠を固定するための固定手段に利用できるので、施工面への固定が容易であり、且つ、コンクリート構造物などの構造物へ付設してその補強に容易に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る布型枠の平面図(A)と側面図(B)。
【
図4】第2実施形態に係る布型枠の付設例を断面で示す図。
【
図5】第1又は第2実施形態に係る布型枠の壁面への付設例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る布型枠の第1実施形態について、
図1に平面図(A)と側面図(B)で示している。本実施形態の布型枠は、2枚のシート状の繊維材1a,1bにより形成した袋状枠1からなる。強化繊維織物の繊維材1a,1bは、
図1A中の左右方向の縁部が接着剤による接着又は縫製、あるいはその両方で互いに接合されている。
図1Aにおいては、この接合部を見分けるために、点線で仮想の境界線を示してある。
図1A中の上下方向の縁部も接着、縫製で接合されるが、こちらは、いわゆるマチ付の形態に形成されて厚みが出るようにしてある。繊維材を袋状にする方法はこれに限らず様々な方法があるので、ここでは詳しく言及しない。
【0013】
この袋状枠1の中にコンクリート、モルタルといった充填材を注入して使用するので、その注入のための注入口2が、
図1A中左側の縁部に設けられている。注入口2は、プラスチック又は金属製のパイプを繊維材1a,1bの間に挟み込んで接着剤により周りを密封することで形成されている。
【0014】
袋状枠1の内部には、所定の間隔、好ましくは等間隔にして、管材10が多数配置される。管材10は、プラスチック又は金属製(好ましくは軽量のプラスチック製)の非可撓性中空パイプで、この管材10の端部に繊維材1a,1bを固着させることで、当該管材10が、繊維材1a,1bの間隔保持材として機能する。非可撓性の管材10は、袋状枠1の膨張方向と収縮方向の両方に対して間隔保持の(所定の厚さを保つ)機能を発揮する。管材10で支持される繊維材1a,1bには、配置された管材10の管内空間に連通する穴が開けられていて、管材10を通しボルト等の固定具を貫通させることができる。
【0015】
図2に、1つの管材10の部分について断面図を示す。管材10の端部(図示の場合は端面)は、繊維材1a,1bの穴周囲に接着剤で接着されたパッキン材11に当接させてあり、接着剤で接着してある。例えばワッシャ付きボルトBを管材10に通し、反対側からワッシャ付きナットNで締め込むと、繊維材1a,1b-パッキン材11-管材10の圧着密閉構造ができあがり、充填材に対して十分な封止性を発揮する。ナットNがコンクリート壁面などの構造物に設けたプラグアンカーであっても同じ効果を発揮する。つまり、管材10に通すボルトB、あるいはアンカーボルト等は、袋状枠1を構造物へ固定する固定具として使用できる。
【0016】
当該布型枠では、袋状枠1の内部に配筋材を配設することもできる。この第2実施形態について
図3に示す。本実施形態の配筋材は、互いに交差する2方向(図示の場合は縦横)に延伸する縦の配筋材20と横の配筋材21とが配設されている。配筋材20,21は、接着剤により繊維材1a,1bの内面に接着する。両者の交差部分では、縦の配筋材20の上を横の配筋材21が越えて延伸する(あるいはこの逆)。配筋材20,21は、薄板状の繊維強化プラスチックから形成されており、屈曲性をもつ。この屈曲性により袋状枠1を折り畳んで持ち運ぶことができる。また、施工面の起伏に合わせて折り曲げて使用することも可能になる。例えば、前述の特許文献2にあるような棒状にした補強用索条の場合、折り曲げることができないので、折り畳んでの可搬性を考えると、縦横の2方向に配筋することができない。したがって、特許文献2の場合は縦か横の1方向配筋に限られるが、そうすると布型枠の縦横均等な強度が保てないという不具合が生じる。
図3の第2実施形態の場合、屈曲性をもつ板状の繊維強化プラスチックから配筋材20,21を形成することで、縦横の2方向配筋と折り畳んでの可搬性との両方を満足するものとなる。また、板状にすることでコンクリートの付着面積が広くなり、コンクリートの食いつきが良くなるという利点もある。
【0017】
第2実施形態に係る布型枠の付設例を
図4に示す。この例は、コンクリート構造物Cの側面に布型枠を固定し、立設したものである。充填材を注入する前の袋状枠1は、その管材10を通し固定具としてのボルトB(又はアンカーボルト)を、コンクリート構造物Cに打ち込んだプラグアンカー(グリップアンカー)Pへねじ込むことで、構造物側面に付設される。各管材10は、当該布型枠により形成するコンクリート体に必要な厚さに従って長さが決められ、作製されている。コンクリート構造物Cよりも上に突出する袋状枠1の部分にある、固定されない管材10は、
図2のようにボルトB及びナットNで締め上げる。このとき、配筋材20,21があることにより、袋状枠1の起立状態が維持されている。全ての管材10にボルトBを適用した後、注入口2を通して充填材のコンクリートをポンプ等で注入する。非可撓性の管材10が所定間隔で多数配置されているので、これらが、繊維材1a,1bの間隔拡張、すなわち袋状枠1の厚さ方向の膨張を規制する枠間隔保持材として機能し、コンクリート注入からその後の養生にかけて、袋状枠1の形状、寸法を安定させる。施工後の当該布型枠は、注入されたコンクリートと一体となってコンクリート体を形成し、そのまま残される。
【0018】
図5には、別の付設例を示す。この付設例は、第1又は第2実施形態に係る布型枠を使用したコンクリート構造物C’の補強構造で、該コンクリート構造物C’は、1本の柱と2枚の壁を構成しているものとする。上述のとおり作製された袋状枠1は、全管材10を利用して、ボルトB及びプラグアンカーによりコンクリート構造物C’に固定される。第2実施形態に係る袋状枠1の場合は配筋材20,21を備えているが、上述のように配筋材20,21は屈曲性をもつので、コンクリート構造物C’の施工面起伏にぴったり沿わせて固定することができる。このように、第1及び第2実施形態に係る布型枠は、ボルトBという簡単な固定具で容易に施工することができる。袋状枠1の固定後、注入口2からコンクリートを注入し養生すれば、布型枠による補強構造が完成する。このときにも、上述したとおり、非可撓性の管材10が布型枠の形状、寸法を安定させるべく機能する。
【符号の説明】
【0019】
1 袋状枠
1a,1b 繊維材
2 注入口
10 管材
11 パッキン
20,21 配筋材