(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法および酸性ガス除去装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20221130BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20221130BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20221130BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20221130BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20221130BHJP
B01D 53/52 20060101ALI20221130BHJP
C10K 1/14 20060101ALI20221130BHJP
C07D 205/04 20060101ALI20221130BHJP
C07D 207/09 20060101ALI20221130BHJP
C07D 207/08 20060101ALI20221130BHJP
C07D 211/22 20060101ALI20221130BHJP
C07D 295/088 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/18 ZAB
B01D53/62
B01D53/78
B01D53/96
B01D53/52 220
C10K1/14
C07D205/04
C07D207/09
C07D207/08
C07D211/22
C07D295/088
(21)【出願番号】P 2018100707
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】村井 伸次
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭子
(72)【発明者】
【氏名】宇田津 満
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0072361(US,A1)
【文献】特開2007-325996(JP,A)
【文献】特開昭61-136421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18、
53/34-53/85、
53/92、53/96
C01B 32/50
C10K 1/14
C07D 205/04
C07D 207/09
C07D 207/08
C07D 211/22
C07D 295/088
C07B 31/00-61/00、
63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-イソプロピルジエタノールアミン、
N-イソプロピルジプロパノールアミン、
3-[(2-ヒドロキシエチル)(プロパン-2-イル)アミノ]プロパン-1-オール、および
N-シクロペンチルジプロパノールアミン
からなる群から選択されるアミン化合物、および
1-ピペラジンエタノール、および
4-ヒドロキシピペリジン
からなる群から選択される環状アミノ化合物を含む、酸性ガス吸収剤。
【請求項2】
前記酸性ガス吸収剤の全量を100質量%として、前記アミン化合物の含有量が10~60質量%であり、前記環状アミノ化合物の含有量が1~50質量%である、請求項1に記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項3】
酸性ガスを含有するガスと、請求項1または2に記載の酸性ガス吸収剤とを接触させて、前記の酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去することからなる、酸性ガスの除去方法。
【請求項4】
酸性ガスを含有するガスと請求項1
または2に記載の酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより前記の酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
前記の再生器で再生した前記の酸性ガス吸収剤を前記の吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置である、酸性ガス除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法および酸性ガス除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化現象の一因として二酸化炭素(CO2)濃度の上昇による温室効果が指摘され、地球規模で環境を守る国際的な対策が急務となっている。CO2の発生は産業活動によるところが大きく、その環境への排出抑制の機運が高まっている。
【0003】
CO2をはじめとする酸性ガスの濃度の上昇を抑制するための技術として、省エネルギー製品の開発、酸性ガスの資源としての利用や隔離貯留させる技術、酸性ガスを排出しない自然エネルギーや原子力エネルギーなどの代替エネルギーへの転換などがあり、その一つとして、排出する酸性ガスの分離回収技術が知られている。
【0004】
現在までに研究されてきた酸性ガス分離技術としては、吸収法、吸着法、膜分離法、深冷法などがある。中でも吸収法は、ガスを大量にかつ効率的に処理するのに適しており、工場や発電所への適用が検討されている。
【0005】
主に、化石燃料を使用する火力発電所などを対象にした方法として、化石燃料(石炭、石油、天然ガス等)を燃焼する際に発生する排ガスを、化学吸収剤と接触させて、燃焼排ガス中のCO2を除去して回収する方法、さらに回収されたCO2を貯蔵する方法が知られている。また、化学吸収剤を用いてCO2以外に硫化水素(H2S)等の酸性ガスを除去することが提案されている。
【0006】
一般に、吸収法において使用される化学吸収剤としてモノエタノールアミン(MEA)に代表されるアルカノールアミン類が1930年代ころから開発されており、現在も使用されている。この方法は、経済的であり、また除去装置の大型化が容易である。
【0007】
吸収法に使用される一般的なアルカノールアミンとしては、2-アミノ-2-メチルプロパノールアミン、メチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、プロピルアミノエタノール、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、またはジメチルアミノ-1-メチルエタノールなどがある。
【0008】
これらのアミンを単独で用いた場合、CO2吸収速度が十分でない場合があり、通常は反応促進効果のある化合物が併用されることがある。このような反応促進効果のある化合物として環状のジアミンが知られているが、これは一般に蒸気圧が高くて放散しやすく、取り扱い性が悪い場合がある。
【0009】
また、二酸化炭素の回収には、アミン水溶液への二酸化炭素の吸収工程、及び二酸化炭素を吸収した水溶液からの二酸化炭素の脱離工程が高効率に行われ、その間の二酸化炭素回収に消費される回収エネルギーが低いことが要求されている。この要求に応えるには吸収剤として吸収量の多い吸収剤が有効である。また、同時に大気に放出されるアミンの放散を極力抑制することが環境への影響の観点から求められている。
【0010】
例えば特許文献1には流体から酸性ガスを除去するための吸収剤を開示している。この吸収剤は、第3級アルカノールアミンとヒドロキシエチルピペラジン等との組み合わせを含む。
【0011】
また特許文献2には、排ガス中の二酸化炭素を回収するための組成物が開示されている。この組成物は、ジエタノールアミンとピペラジン化合物との組み合わせを含む。
【0012】
また、特許文献3には、アミンとして各種アミンおよびその組み合わせが開示されている。その組み合わせには、第3級アミンと活性化剤として組み合わせる第1級または第2級アミンの混合物が例示されている。この組み合わせに用いることができる第3級アミンの例として、tert-ブチルジエタノールアミン等が、第1級または第2級アミンの例としてN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン等が記載されている。
【0013】
特許文献4には、液体水溶性CO2吸収材が開示されている。この吸収材は、2種以上のアミン化合物を含み、アミンの少なくとも1種は第3級アミンで、アミンの少なくとも1種は第1級または第2級アミンである。そして、第3級アミンの例としてDIPAE(2-ジイソプロピルアミノエタノール)やN-TBDEA(N-tert-ブチルジエタノールアミン)等が、第1級または第2級アミンの例としてHEP(1-ピペラジンエタノール)等が記載されている。
【0014】
特許文献5には、燃焼排ガス中の二酸化炭素を除去する方法において、アミン化合物の組み合わせを含む混合水溶液が開示されている。この混合水溶液に含まれる第3級アミンの例としてt-ブチルジエタノールアミン等が、第2級アミンの例として2-ピペリジンエタノール等が記載されている。
【0015】
しかしながら、これまでの吸収液は吸収量が多く、かつアミン化合物の放散の少ないものはなく、これらを同時に満足する新しい吸収液が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特表2006-518662号公報
【文献】特開2008-168184号公報
【文献】特表2016-529087号公報
【文献】特表2014-520661号公報
【文献】特開平5-301024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、酸性ガスの吸収量が多く、かつ放散性が低い酸性ガス吸収剤、およびこれを用いた酸性ガスの除去方法ならびに酸性ガス除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の実施形態による酸性ガス吸収剤は、下記の一般式(1)で表されるアミン化合物および下記の一般式(2)または(3)で表される環状アミノ化合物を含むものである。
【化1】
[式中、
R
1はそれぞれ独立に、末端に水酸基を有する炭素数2~6の直鎖状ヒドロキシアルキル基であり、
R
2は炭素数3~6の分岐状の2級アルキル基である。]
【化2】
[式中、
R
3は、水素原子、水酸基、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表し、
R
4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表し、
R
3およびR
4のうち少なくともひとつは、炭素数1~8の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基であり、
pは、それぞれ独立に2~4の整数であり、
式(2)中の環状骨格は構成員として酸素を含んでいてもよい]
【化3】
[式中、
R
5は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表し、
R
5のうち少なくともひとつは炭素数1~8の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基であり、
qは、3~8の整数であり、
式(3)中の環状骨格は構成員として酸素を含んでいてもよい]
【0019】
さらに本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、酸性ガスを含有するガスと、前記の酸性ガス吸収剤とを接触させて、前記の酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去することからなるものである。
【0020】
さらに本発明の実施形態による酸性ガス除去装置は、酸性ガスを含有するガスと前記の酸性ガス吸収剤との接触によって、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより前記の酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
前記の再生器で再生した前記の酸性ガス吸収剤を前記の吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置であるものである。
【発明の効果】
【0021】
実施形態によれば、酸性ガス吸収剤の放散性を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
以下の実施態様では、主として、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明するが、本発明の実施形態に係る酸性ガス吸収剤は、硫化水素等、その他の酸性ガスに関しても同様の効果を得ることができる。実施態様による酸性ガス吸収剤は、二酸化炭素、硫化水素等の酸化性ガスの吸収に特に適している。
【0025】
本発明の実施形態による酸性ガス吸収剤は、下記の一般式(1)で表される特定のアミン化合物と、下記の一般式(2)または(3)で表される特定の環状2級アミン化合物とを含むものである。
【0026】
本発明の実施形態の第一の酸性ガス吸収剤は、必須成分として、下記の一般式(1)で表されるアミン化合物を含むものである。
【化4】
式中、R
1はそれぞれ独立に、末端に水酸基を有する炭素数2~6の直鎖状ヒドロキシアルキル基である。R
1の具体例は、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、およびヒドロキシヘキシルであり、好ましくはヒドロキシエチル基またはヒドロキシプロピル基である。
【0027】
R2は炭素数3~6の分岐状の2級アルキル基である。ここで「分岐状」とは「環状」をも包含する。R2の具体例としては、イソプロピル基、sec-ブチル基、シクロブチル基、およびシクロペンチル基であり、好ましくはイソプロピル基である。
【0028】
一般式(1)で表されるアミン化合物の具体例としては、
N-イソプロピルジエタノールアミン、
N-イソプロピルジプロパノールアミン、
N-イソプロピルジブタノールアミン、
N-イソプロピルジペンタノールアミン、
N-イソプロピルジヘキサノールアミン、
3-[(2-ヒドロキシエチル)(プロパン-2-イル)アミノ]プロパン-1-オール、
4-[(2-ヒドロキシエチル)(プロパン-2-イル)アミノ]ブタン-1-オール、
5-[(2-ヒドロキシエチル)(プロパン-2-イル)アミノ]ペンタン-1-オール、
6-[(2-ヒドロキシエチル)(プロパン-2-イル)アミノ]ヘキサン-1-オール、
N-sec-ブチルジエタノールアミン、
N-sec-ブチルジプロパノールアミン、
N-sec-ブチルジブタノールアミン、
N-sec-ブチルジペンタノールアミン、
N-sec-ブチルジヘキサノールアミン、
3-[(2-ヒドロキシエチル)(ブタン-2-イル)アミノ]プロパン-1-オール、
4-[(2-ヒドロキシエチル)(ブタン-2-イル)アミノ]ブタン-1-オール、
5-[(2-ヒドロキシエチル)(ブタン-2-イル)アミノ]ペンタン-1-オール、
6-[(2-ヒドロキシエチル)(ブタン-2-イル)アミノ]ヘキサン-1-オール、
N-シクロペンチルジエタノールアミン、
N-シクロペンチルジプロパノールアミン、
N-シクロペンチルジブタノールアミン、
N-シクロペンチルジペンタノールアミン、
N-シクロペンチルジヘキサノールアミン、
3-[(2-ヒドロキシエチル)(シクロペンチル)アミノ]プロパン-1-オール、
4-[(2-ヒドロキシエチル)(シクロペンチル)アミノ]ブタン-1-オール、
5-[(2-ヒドロキシエチル)(シクロペンチル)アミノ]ペンタン-1-オール、
6-[(2-ヒドロキシエチル)(シクロペンチル)アミノ]ヘキサン-1-オール、などが挙げられる。
【0029】
これらのうち、
N-イソプロピルジエタノールアミン、
N-イソプロピルジプロパノールアミン、
3-[(2-ヒドロキシエチル)(プロパン-2-イル)アミノ]プロパン-1-オール、
N-sec-ブチルジエタノールアミン、
N-sec-ブチルジプロパノールアミン、
N-sec-ブチルジブタノールアミン、
3-[(2-ヒドロキシエチル)(ブタン-2-イル)アミノ]プロパン-1-オール、
N-シクロペンチルジエタノールアミン、
N-シクロペンチルジプロパノールアミン、および
3-[(2-ヒドロキシエチル)(シクロペンチル)アミノ]プロパン-1-オール、
からなる群から選ばれるものが好ましい。
【0030】
これらの化合物の一種を単独で、あるいは2種以上を併用することができる。酸性ガス吸収剤に含まれる一般式(1)で表される特定のアミン化合物の含有量は、10~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。
【0031】
一般に、アミン成分の濃度が高い方が単位容量当たりの二酸化炭素の吸収量、脱離量が多く、また二酸化炭素の吸収速度、脱離速度が速いため、エネルギー消費の面やプラント設備の大きさ、処理効率の面においては好ましい。
【0032】
しかし、アミン成分の濃度が高すぎると、吸収液の粘度の上昇などが起こることがある。一般式(1)のアミン化合物の含有量が60質量%以下の場合、そのような傾向は見られない。また、一般式(1)のアミン化合物の含有量を10質量%以上とすることで、十分な二酸化炭素の吸収量、吸収速度を得ることができ、優れた処理効率を得ることができる。
【0033】
一般式(1)のアミン化合物の含有量が上記の範囲にある酸性ガス吸収剤は、二酸化炭素回収用として用いた場合、二酸化炭素吸収量および二酸化炭素吸収速度が高いだけでなく、二酸化炭素脱離量が多く、かつ二酸化炭素脱離速度も高いため、二酸化炭素の回収を効率的に行える点で有利である。
【0034】
本発明の実施形態による酸性ガス吸収剤は、特定の環状2級アミン化合物を少なくとも1種類含む。このような化合物の一つは下記の一般式(2)で表されるものである。
【化5】
式中、R
3は、水素原子、水酸基、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表し、R
4は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す。複数存在するR
4は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよい。またR
3と同一であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、R
3およびR
4のうち少なくともひとつは、炭素数1~8の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。すなわち一般式(2)の化合物は、構造中に少なくともひとつのヒドロキシアルキル基を含んでいる。
【0035】
前記ヒドロキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、またはヒドロキシオクチル基が挙げられ、前記アミノアルキル基の例としては、アミノエチル基、アミノプロピル基、アミノペンチル基、アミノヘキシル基、アミノヘプチル基、またはアミノシオクチル基が挙げられ、これらのうちヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が好ましい。
【0036】
pは、それぞれ独立に2~4の整数である。したがって、一般式(2)の化合物は、構成員の数が6~10の複素環状骨格を含んでいる。
【0037】
なお、その複素環状骨格はさらに構成員として酸素を含んでいてもよい。
【0038】
また、特定の環状2級アミン化合物のもうひとつは下記の一般式(3)で表されるものである。
【化6】
式中、
R
5は、それぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1~8のヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基を表す、複数存在するR
5は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよい。そして、R
5のうち少なくともひとつは炭素数1~8の、ヒドロキシアルキル基またはアミノアルキル基である。すなわち一般式(3)の化合物は、構造中に少なくともひとつのヒドロキシアルキル基を含んでいる。
【0039】
前記ヒドロキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、またはヒドロキシオクチル基が挙げられ、前記アミノアルキル基の例としては、アミノエチル基、アミノプロピル基、アミノペンチル基、アミノヘキシル基、アミノヘプチル基、またはアミノシオクチル基が挙げられ、これらのうちヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が好ましい。
qは、3~8の整数である。したがって、一般式(2)の化合物は、構成員の数が4~9の複素環状骨格を含んでいる。
【0040】
なお、その複素環状骨格はさらに構成員として酸素を含んでいてもよい。
【0041】
一般式(2)または(3)で表される環状2級アミン化合物の例としては、
2-アゼチジンメタノール、
2-(2-アミノエチル)アゼチジン、
2-ピロリジンメタノール、
2-(2-アミノエチル)ピロリジン、
2-ピペリジンメタノール、
3-ピペリジンエタノール、
2-(2-アミノエチル)ピロリジン、
1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、
2-(ヒドロキシメチル)ピペラジン、
3-ヒドロキシピロリジン、3-ピロリジンメタノール、
2-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン、
4-ピペリジンエタノール、
3-ヒドロキシピペリジン、
4-ヒドロキシピペリジン、
4-(ヒドロキシメチル)ピペリジン、
N-(2-アミノエチル)ピペラジン、および
3-アミノピペリジン
などが挙げられる。
【0042】
これらのうち、
2-アゼチジンメタノール、
2-(2-アミノエチル)アゼチジン、
2-ピロリジンメタノール、
2-(2-アミノエチル)ピロリジン、
4-ヒドロキシピペリジン、
2-ピペリジンメタノール、
3-ピペリジンエタノール、
2-(2-アミノエチル)ピロリジン、
1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、および
2-(ヒドロキシメチル)ピペラジン
からなる群から選ばれるものが好ましい。
【0043】
一般式(2)で表される環状アミン化合物と一般式(3)で表される環状アミン化合物とを併用することができる。
【0044】
本実施形態では、好ましくは、例えばアミン化合物(1)と環状2級アミン化合物(2)、(3)からなる吸収剤を例えば水溶液としたものを、酸性ガス吸収剤として用いることができる。このような酸性ガス吸収剤は、単位モル当たりの二酸化炭素吸収量や、酸性ガス吸収剤の単位体積当たりの二酸化炭素吸収量および二酸化炭素吸収速度の点で特に好ましいものである。二酸化炭素吸収後に酸性ガスを分離するエネルギー(酸性ガス脱離エネルギー)も低下し、酸性ガス吸収剤を再生させる際のエネルギーを低減させることができる。
【0045】
酸性ガス吸収剤に含まれる、一般式(2)または(3)で表される化合物の量は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~50質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。酸性ガス吸収剤に含まれる一般式(2)または(3)で表される化合物の含有量が1質量%未満であると、酸性ガスの吸収速度を向上させる効果を十分に得られないおそれがある。上記の特定の環状アミン化合物の含有量が50質量%を超えると、吸収剤の粘度が過度に高くなり、かえって反応性が低下するおそれがある。
<任意成分>
本発明の実施形態による酸性ガス吸収剤は、一般式(1)のアミンと一般式(2)または(3)で表される環状アミン化合物とを含むものであるが、必要に応じて任意成分を含むことができる。
【0046】
任意成分のひとつとして、アミノアルコールが挙げられる。アミノアルコールの使用によって、酸性ガス吸収剤の例えば吸収量、放出量、吸収速度等の改良ないし向上を図ることが可能となる。
【0047】
好適なアミノアルコールとしては、例えば、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-ジプロパノール、ジエタノールアミン、ビス(2-ヒドロキシ-1-メチルエチル)アミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノ-1-メチルエタノール、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール、2-プロピルアミノエタノール、n-ブチルアミノエタノール、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、3-エチルアミノプロパノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。これらの化合物の一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を併用することができる。
【0048】
これらの中でも、アルカノールアミン類としては、一般式(1)~(3)で表されるアミン化合物と酸性ガスとの反応性をより向上させる観点から、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0049】
これらのアミノアルコールを用いる場合、その使用量は、一般式(1)で表されるアミン化合物の100体積%に対して、1~30体積%が好ましい。
【0050】
また、一般式(2)または(3)以外の環状アミン化合物をさらに含むことができる。環状アミン化合物としてはアゼチジン、1-メチルアゼチジン、1-エチルアゼチジン、2-メチルアゼチジン、2-アゼチジルメタノール、2-(2-アミノエチル)アゼチジン、ピロリジン、1-メチルピロリジン、2-メチルピロリジン、2-ブチルピロリジン、ピペリジン、1-メチルピペリジン、2-エチルピペリジン、3-プロピルピペリジン、4-エチルピペリジン、ヘキサヒドロ-1H-アゼピン、ピペラジン、ピぺラジン誘導体等が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、特にピぺラジン誘導体は、酸性ガス吸収剤の二酸化炭素吸収量および吸収速度向上の観点から望ましい。
【0052】
ピペラジン誘導体は第2級アミン化合物であり、一般に、第2級アミノ基の窒素原子が二酸化炭素と結合し、カルバメートイオンを形成することで、反応初期段階における吸収速度の向上に寄与する。さらに第二級アミノ基の窒素原子は、これに結合した二酸化炭素を重炭酸イオン(HCO3
-)に転換する役割を担っており、反応後半段階の速度向上に寄与する。
【0053】
ピぺラジン誘導体としては、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジンのうちの少なくとも1種類であることがより好ましい。また、ヘキサメチレンテトラミンも一般式(2)または(3)で表される環状アミン化合物と併用して用いることができる。
【0054】
実施形態による吸収剤は、例えば、水等の溶媒を含んでいてもよい。溶媒として水を用いる時、その含有量は、好ましくは20~60質量%、特に好ましくは30~60質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。水の含有量がこの範囲内である場合、吸収液の粘度の上昇を抑制し、また二酸化炭素を吸収する際における泡立ちを抑制する点で好ましい。
【0055】
また、任意成分には、例えば、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤、防食剤等が包含される。
【0056】
酸化防止剤の好ましい具体例としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、二酸化硫黄、2-メルカプトイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール等を挙げることができる。酸化防止剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.01~1質量%、特に好ましくは0.1~0.5質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。酸化防止剤は、酸性ガス吸収剤の劣化を防止し、その寿命を向上させることができる。
【0057】
消泡剤の好ましい具体例としては、例えばシリコーン系消泡剤、有機系消泡剤を挙げることができる。消泡剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.00001~0.001質量%、特に好ましくは0.0005~0.001質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。消泡剤は、酸性ガス吸収剤の泡立ちを防止し、酸性ガスの吸収効率や離脱効率の低下を抑制し、酸性ガス吸収剤の流動性ないし循環効率の低下等を防止することができる。
【0058】
防食剤の好ましい具体例としては、例えばリン酸エステル類、トリルトリアゾール類、ベンゾトリアゾール類を挙げることができる。防食剤を用いる場合、その含有量は、好ましくは0.00003~0.0008質量%、特に好ましくは0.00005~0.005質量%、である(酸性ガス吸収剤の全量を100質量%とする)。このような防食剤は、プラント設備の腐蝕を防止し、その寿命を向上させることができる。
【0059】
以上のとおり、本実施形態の酸性ガス吸収剤によれば、二酸化炭素等の酸性ガスの吸収量を高くすることができ、また反応促進剤の放散性を小さくすることができる。そして、酸性ガスの回収に必要とするエネルギーが少ない。さらに、極性基である水酸基を分子中に複数個有するアミン化合物を用いており、放散性が抑制されているので、反応装置外への放散が抑制されている。このことから、蒸気圧が低い反応促進剤を組み合わせて用いた際にも、長期間にわたって安定的に酸性ガスの処理を行うことができる。そして、酸性ガス(例えば、二酸化炭素(CO2)、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)に対して高い反応性を有しており、かつ水に対する溶解性に優れていることから、酸性ガス吸収時に析出しにくい。
【0060】
化合物と含む本発明の実施形態の酸性ガス吸収剤は、単位モル当たり酸性ガス(特に、二酸化炭素)の吸収量や、酸性ガス吸収剤の単位体積当たりの酸性ガス吸収量および酸性ガス吸収速度がより一層向上したものである。かつ、吸収塔や再生塔から放出されるアミンの量を少なくすることができる。
【0061】
<酸性ガスの除去方法>
本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、酸性ガスを含有するガスと、前記の第一または第二の酸性ガス吸収剤とを接触させ、前記の酸性ガスを含むガスから酸性ガスを除去するもの、である。
【0062】
本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法は、上述の本発明の実施形態による酸性ガス吸収剤へ対して酸性ガスを吸収させる工程(吸収工程)、およびこの酸性ガスを吸収した上述の本発明の実施形態による酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させる工程を、基本的な構成とする。
【0063】
即ち、本発明の実施形態による酸性ガスの除去方法の基本的な構成は、酸性ガス吸収剤に、酸性ガスを含有するガス(例えば、排ガス等)を接触させて、酸性ガス吸収剤に、酸性ガスを吸収させる工程(酸性ガス吸収工程)と、上記の酸性ガス吸収工程で得られた、酸性ガスが吸収された酸性ガス吸収剤を加熱して、酸性ガスを脱離して、除去する工程(酸性ガス分離工程)とを含む。
【0064】
酸性ガスを含むガスを、上記の酸性ガス吸収剤を含む水溶液に接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、酸性ガス吸収剤中に酸性ガスを含むガスをバブリングさせて、吸収剤に酸性ガスを吸収させる方法、酸性ガスを含むガス気流中に酸性ガス吸収剤を霧状に降らす方法(噴霧ないしスプレー方式)、あるいは磁製や金属網製の充填材の入った吸収器内で酸性ガスを含むガスと酸性ガス吸収剤とを向流接触させる方法などによって行うことができる。
【0065】
酸性ガスを含むガスを水溶液に吸収させる時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常、室温から60℃以下が好ましい。より好ましくは50℃以下、特に好ましくは20~45℃、である。低温度で行うほど、酸性ガスの吸収量は増加するが、処理温度の下限値は、プロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス吸収時の圧力は、通常、ほぼ大気圧である。吸収性能を高めるためより高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0066】
酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離し、純粋なあるいは高濃度の二酸化炭素を回収する方法としては、蒸留と同じく酸性ガス吸収剤を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段塔、スプレー塔、磁製や金属網製の充填材の入った再生塔内で液界面を広げて加熱する方法などが挙げられる。これにより、カルバミン酸アニオンや重炭酸イオンから酸性ガスが遊離して放出される。
【0067】
酸性ガス分離時の酸性ガス吸収剤の温度は、通常70℃以上であり、好ましくは80℃以上、より好ましくは90~120℃、である。温度が高いほど、酸性ガスの脱離量は増加するが、温度を上げると吸収液の加熱に要するエネルギーが増すため、その温度はプロセス上のガス温度や熱回収目標等によって決定することができる。酸性ガス脱離時の圧力は、通常、1~3気圧程度とすることができる。脱離性能を高めるためより低い圧力まで減圧することもできるが、減圧のために要するエネルギー消費を抑えるためこの範囲で行うのが好ましい。
【0068】
酸性ガスを分離した後の酸性ガス吸収剤は、再び酸性ガス吸収工程に送られて循環使用(リサイクル)することができる。また、酸性ガス吸収の際に生じた熱は、一般的には水溶液のリサイクル過程において再生器に注入される水溶液の予熱のために熱交換器で熱交換されて冷却される。
【0069】
このようにして回収された酸性ガスの純度は、通常、95~99体積%程度と極めて純度が高いものである。この純粋な酸性ガスあるいは高濃度の酸性ガスは、化学品、あるいは高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等として用いることができる。その他、回収した酸性ガスを、現在技術開発されつつある地下等へ隔離貯蔵することも可能である。
【0070】
上述した工程のうち、酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離して酸性ガス吸収剤を再生する工程が最も多量のエネルギーを消費する部分であり、この工程で、全体工程の約50~80%程度のエネルギーが消費されることがある。従って、酸性ガス吸収剤の再生工程における消費エネルギーを低減することにより、酸性ガスの吸収分離工程のコストを低減でき、排気ガスからの酸性ガス除去を、経済的に有利に効率良く行うことができる。
【0071】
本実施形態によれば、上記の実施形態の酸性ガス吸収剤を用いることで、酸性ガス脱離(再生工程)のために必要なエネルギーを低減することができる。このため、二酸化炭素の吸収分離工程を、経済的に有利な条件で効率良く行うことができる。
【0072】
また、上述した実施形態に係るアミン化合物は、従来より酸性ガス吸収剤として用いられてきた2-アミノエタノール等のアルカノールアミン類と比較して、炭素鋼などの金属材料に対し、著しく高い腐食防止性を有している。したがって、このような酸性ガス吸収剤を用いた酸性ガス除去方法とすることで、例えばプラント建設において、高コストの高級耐食鋼を用いる必要がなくなり、コスト面で有利である。
【0073】
<酸性ガス除去装置>
本発明の実施形態による酸性ガス除去装置は、酸性ガスを含有するガスと、前記の第一または第二の酸性ガス吸収剤とを接触させ、この酸性ガス吸収剤に酸性ガスを吸収させることにより前記の酸性ガスを含有するガスから酸性ガスを除去する吸収器と、
この酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを脱離させて、この酸性ガス吸収剤を再生する再生器とを有し、
前記の再生器で再生した前記の酸性ガス吸収剤を前記の吸収器にて再利用する酸性ガス除去装置である。
【0074】
図1は、実施形態の酸性ガス除去装置の概略図である。
この酸性ガス除去装置1は、酸性ガスを含むガス(例えば、排気ガス)と酸性ガス吸収剤とを接触させ、この酸性ガスを含むガスから酸性ガスを吸収させて除去する吸収器2と、酸性ガスを吸収した酸性ガス吸収剤から酸性ガスを分離し、酸性ガス吸収剤を再生する再生器3と、を備えている。以下、酸性ガスが二酸化炭素である場合を例に説明する。
【0075】
図1に示すように、火力発電所等から排出される燃焼排ガス等の、二酸化炭素を含む排気ガスが、ガス供給口4を通って吸収器2下部へ導かれる。この排気ガスは、吸収器2に押し込められ、吸収器2上部の酸性ガス吸収剤供給口5から供給された酸性ガス吸収剤と接触する。酸性ガス吸収剤としては、上述した実施形態に係る酸性ガス吸収剤を使用する。
【0076】
酸性ガス吸収剤のpH値は、少なくとも9以上に調整すればよいが、排気ガス中に含まれる有害ガスの種類、濃度、流量等によって、適宜最適条件を選択することがよい。
【0077】
また、この酸性ガス吸収剤には、上記のアミン系化合物、および水などの溶媒の他に、二酸化炭素の吸収性能を向上させる含窒素化合物、酸化防止剤、pH調整剤等、その他化合物を任意の割合で含有していてもよい。
【0078】
このように、排気ガスが酸性ガス吸収剤と接触することで、この排気ガス中の二酸化炭素が酸性ガス吸収剤に吸収され除去される。二酸化炭素が除去された後の排気ガスは、ガス排出口6から吸収器2外部に排出される。
【0079】
二酸化炭素を吸収した酸性ガス吸収剤は、熱交換器7、加熱器8に送液され、加熱された後、再生器3に送液される。再生器3内部に送液された酸性ガス吸収剤は、再生器3の上部から下部に移動し、この間に、酸性ガス吸収剤中の酸性ガスが脱離し、酸性ガス吸収剤が再生される。
【0080】
再生器3で再生した酸性ガス吸収剤は、ポンプ9によって熱交換器7、吸収液冷却器10に送液され、酸性ガス吸収剤供給口5から吸収器2に戻される。
【0081】
一方、酸性ガス吸収剤から分離された酸性ガスは、再生器3上部において、還流ドラム11から供給された還流水と接触し、再生器3外部に排出される。
【0082】
二酸化炭素が溶解した還流水は、還流冷却器12で冷却された後、還流ドラム11において、二酸化炭素を伴う水蒸気が凝縮した液体成分と分離される。この液体成分は、回収酸性ガスライン13により酸性ガス回収工程に導かれる。一方、酸性ガスが分離された還流水は、還流水ポンプ14で再生器3に送液される。
【0083】
本実施形態の酸性ガス除去装置1によれば、酸性ガスの吸収特性および脱離特性に優れた酸性ガス吸収剤を用いることで、効率の高い酸性ガスの吸収除去を行うことが可能となる。
【0084】
以上、本発明のいくつかの実施形態による第一の酸性ガス吸収剤、第二の酸性ガス吸収剤、酸性ガスの除去方法および酸性ガス除去装置を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更あるいは付加等を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施形態について実施例、比較例を参照して更に詳細な説明を行う。
【0086】
<実施例1>
N-イソプロピルジエタノールアミンを20質量%、1-ピペラジンエタノールを20質量%となるように水に溶解させ、50mlの水溶液(以下、吸収液と示す。)とした。この吸収液を試験管に充填して40℃に加熱し、二酸化炭素(CO2)10体積%、窒素(N2)ガス90体積%含む混合ガスを流速400mL/minで通気して、試験管出口でのガス中の二酸化炭素(CO2)濃度を赤外線式ガス濃度測定装置(株式会社島津製作所製、商品名「CGT-700」)を用いて測定し、吸収性能を評価した。
【0087】
また、120℃/202kPaの条件で100%CO2を通気した際の吸収量を測定し回収量を求めた。
【0088】
放散性は上記アミン水溶液に1%CO2を40℃で通気した際に放散されたアミンを回収して求めた。
【0089】
40℃での吸収液の二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.49mol、120℃での二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.07molであり、回収量は0.42molであった。一方、放散性は、窒素ガスを吸収液に流通した際に窒素ガスに同伴されてくる吸収液を採取して濃度を測定した。その結果、放散性は1.2ppm程度であった。
【0090】
<実施例2>
N-イソプロピルジエタノールアミンの代わりに3-[(2-ヒドロキシエチル)(プロパン-2-イル)アミノ]プロパン-1-オールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収液を調製し、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0091】
40℃での吸収液の二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.48mol、120℃での二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.07molであり、回収量は0.41molであった。一方、放散性は1.4ppm程度であった。
【0092】
<実施例3>
N-イソプロピルジエタノールアミンの代わりに N-イソプロピルジプロパノールアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収液を調製し、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0093】
40℃での吸収液の二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.47mol、120℃での二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.07molであり、回収量は0.40molであった。一方、放散性は1.6ppm程度であった。
【0094】
<実施例4>
1-ピペラジンエタノールの代わりに4-ヒドロキシピペリジンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収液を調製し、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0095】
40℃での吸収液の二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.50mol、120℃での二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.09molであり、回収量は0.41molであった。一方、放散性は3.0ppm程度であった。
【0096】
<実施例5>
N-イソプロピルジエタノールアミンの代わりに N-シクロペンチルジプロパノールアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして吸収液を調製し、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0097】
40℃での吸収液の二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.46ol、120℃での二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.06molであり、回収量は0.40molであった。一方、放散性は2.8ppm程度であった。
【0098】
<比較例1>
メチルイミノジエタノール20質量%、ピペラジンエタノールを20質量%となるように水に溶解させ、50mlの水溶液(以下、吸収液と示す。)とした。その後、実施例1と同様の装置を用い、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0099】
40℃での吸収液の二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.44mol、120℃での二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.06molであり、回収量は0.38molであった。一方、放散性は1.5ppm程度であった。
【0100】
<比較例2>
N-tert-ブチルジエタノールアミン20質量%、1-ピペラジンエタノールを20質量%となるように水に溶解させ、50mlの水溶液(以下、吸収液と示す。)とした。その後、実施例1と同様の装置を用い、実施例1と同様の装置を用い、同条件下で二酸化炭素吸収量、アミン化合物の回収量、放散量を測定した。
【0101】
40℃での吸収液の二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.42mol、120℃での二酸化炭素吸収量は、吸収液中のアミン化合物1mol当り0.06molであり、回収量は0.38molであった。一方、放散性は4.0ppm程度であった。
【0102】
<結果>
以上の結果から明らかなように、実施形態の実施例の吸収液では、比較例に比べて二酸化炭素吸収量が多く、回収量も多い。また、実施形態の放散性は比較例に対して同等以上であった。
【0103】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の酸性ガス吸収剤、酸性ガス除去方法および酸性ガス除去装置によれば、二酸化炭素等の酸性ガスの高い吸収量を実現することができる。
【符号の説明】
【0104】
1…酸性ガス除去装置、2…吸収器、3…再生器、4…ガス供給口、5…酸性ガス吸収剤供給口、6…ガス排出口、7…熱交換器、8…加熱器、9…ポンプ、10…吸収液冷却器、11…還流ドラム、12…還流冷却器、13…回収酸性ガス炭素ライン、14…還流水ポンプ