(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/067 20060101AFI20221130BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20221130BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20221130BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/064 Z
B23K26/082
(21)【出願番号】P 2018142138
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】小森 一範
(72)【発明者】
【氏名】荻野 裕幸
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-108289(JP,A)
【文献】特開昭54-102694(JP,A)
【文献】特表2008-544859(JP,A)
【文献】特開2005-125783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0137849(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/067
B23K 26/064
B23K 26/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて加工対象を加工するレーザ加工方法であって、
レーザ発振器からのレーザ光を複数に分光し、加工対象の表面に複数の集光スポットに分離集光し、加工対象の表面で当該複数の集光スポットを回転させマッピングすることで疑似円環状レーザ光環を形成し、当該疑似円環状レーザ光環で加工し、
レーザ照射部位とレーザ非照射部位とが存在する当該疑似円環状レーザ光環を、加工対象の表面で移動させることで、加工対象の加工点において、当該疑似円環状レーザ光環の当該レーザ照射部位が通過した後に、当該レーザ非照射部位が通過するという不連続レーザ照射挙動を繰り返し行い加工し、
当該不連続レーザ照射挙動により発生し加工対象の母材に溶存したガス成分を、レーザ照射で繰り返し溶融させることで排出除去する
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
レーザ光を用いて加工対象を加工するレーザ加工方法であって、
レーザ発振器からのレーザ光を複数に分光し、加工対象の表面に複数の集光スポットに分離集光し、加工対象の表面で当該複数の集光スポットを回転させマッピングすることで疑似円環状レーザ光環を形成し、当該疑似円環状レーザ光環で加工し、
レーザ照射部位とレーザ非照射部位とが存在する当該疑似円環状レーザ光環を、加工対象の表面で移動させることで、加工対象の加工点において、当該疑似円環状レーザ光環の当該レーザ照射部位が通過した後に、当該レーザ非照射部位が通過するという不連続レーザ照射挙動を繰り返し行い加工し、
当該不連続レーザ照射挙動により、加工対象の母材を繰り返し溶融させることで、加工対象の表面を粗化する
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項3】
前記複数の集光スポットは、前記レーザ発振器からのレーザ光を2点以上7点以下に分離集光した請求項
1又は請求項
2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記複数の集光スポットに分離集光するレーザ光のエネルギは、各集光スポット間で略均一である請求項
1~請求項
3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属部材の切断や金属部材同士を接合させる等の加工を施す手段として、レーザ加工が採用されている。このレーザ加工は、光学素子等により集光したエネルギ密度の高いレーザ光として、これを加工対象に照射し、照射先の母材金属を溶融させて行うのが一般的である。レーザ光は、光学素子によって極めて小さな面積に集光することができ、照射先の母材金属を溶融させるのに十分な程度にまでエネルギ密度を高めることができる。従って、レーザ加工によれば、他の溶接加工方法を採用するよりも加工時間の短縮が図られ、困難とされる融点の異なる金属部材同士の溶接も可能となる。
【0003】
ところが、レーザ加工において、熱源となるレーザ光の照射領域のエネルギ密度を適切に制御することが困難とされており、この照射領域の光強度分布にばらつきが生じやすいという問題がある。そのため、金属の溶け込み深さを所望の深度とすることが要求される加工を安定して適切に行うことは困難とされていた。例えば、スポット溶接は、溶接施工面とは反対側の面に溶接痕を残さずに高強度で溶接することが要求されるが、複数の金属薄板を重ね合わせてレーザスポット溶接を行う場合に、溶接施工箇所において金属の溶け込み深さが所望の深度に達しなかったり、加工対象をレーザ光が突き抜けて孔があく等の不具合が生じやすい。
【0004】
上述した問題に対し、例えば特許文献1には、レーザ光の照射領域における光強度分布を均一化するレーザ加工技術が開示されている。具体的には、レーザ光の中央にマスクを配置して当該レーザ光の断面形状をリング状とし、その後リング状の中空部分が消滅するまで当該レーザ光を集光させることを特徴としたものである(特許文献1の段落0020等を参照のこと。)。特許文献1に開示のレーザ加工技術によれば、広い範囲で均一なレーザ加工ができ、金属薄板を重ねた状態での溶接も可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示のレーザ加工技術は、レーザ光の照射領域における光強度分布のばらつきがあり、例えば複数の金属薄板を重ね合わせたレーザスポット溶接を行なおうとしても、安定して適切に行えなかった。また、リング状のエネルギ分布を有するレーザ光を形成するに際して、レーザ光の中央部に遮蔽用マスクを配置する等の方法が採用されているが(特許文献1の段落0021,0040を参照のこと。)、この方法だと高い精度でリング状のレーザ光を形成することは困難である。そのため、加工品質を安定させることができなかった。さらに、マスクを配置した領域のレーザ光が加工対象に対し遮蔽されるため、エネルギ損失が大きく、レーザ光の照射領域の外径が大きくなるに従いエネルギ強度の低下が著しくなる傾向があり好ましくない。
【0007】
本件出願では、上述の問題に鑑み、エネルギ損失をおこすことがなく、レーザ光照射領域の形状及び光強度分布のばらつきを従来よりも安定して小さくできるレーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ照射ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件出願に係るレーザ加工方法: 本件出願に係るレーザ加工方法は、レーザ光を用いて加工対象を加工するレーザ加工方法であって、レーザ発振器からのレーザ光を複数に分光し、加工対象の表面に複数の集光スポットに分離集光し、加工対象の表面で当該複数の集光スポットを回転させマッピングすることで疑似円環状レーザ光環を形成し、当該疑似円環状レーザ光環で加工することを特徴とする。
【0009】
本件出願に係るレーザ加工装置: 本件出願に係るレーザ加工装置は、レーザ光を用いて加工対象を加工するレーザ加工装置であって、レーザ発振器からのレーザ光を複数に分光し、加工対象の表面に複数の集光スポットに分離集光させるレーザ照射ヘッドと、加工対象の表面で当該複数の集光スポットを回転させマッピングして疑似円環状レーザ光環を形成するレーザ光回転機構とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本件出願に係るレーザ照射ヘッド: 本件出願に係るレーザ照射ヘッドは、レーザ光を用いて加工対象を加工するレーザ加工装置に用いられるレーザ照射ヘッドであって、当該レーザ光を複数の集光スポットに分離集光させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本件出願に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ照射ヘッドは、エネルギ損失をおこすことがなく、レーザ光照射領域の形状及び光強度分布のばらつきを従来よりも安定して小さくすることができる。従って、本件出願に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ照射ヘッドによれば、複数の金属薄板を重ね合わせて溶接を行った場合でも、安定して高精度で加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本件出願の一実施形態としてのレーザ加工装置を説明する概略構成図である。
【
図2】本件出願の実施例の集光スポットの配置パターンを示す図である。
【
図3】
図3(1)が溶接部の溶接状態が正常である場合を例示した観察図であり、
図3(2)が溶接部の溶接状態が不良である場合を例示した観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本件出願に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ照射ヘッドの実施の形態を説明する。但し、以下に説明する当該レーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ照射ヘッドは本件出願の一態様であって、以下の態様に限定されるものではない。
【0014】
1.本件出願に係るレーザ加工方法
本件出願に係るレーザ加工方法は、レーザ光を用いて加工対象を加工するレーザ加工方法であって、レーザ発振器からのレーザ光を複数に分光し、加工対象の表面に複数の集光スポットに分離集光し、加工対象の表面で当該複数の集光スポットを回転させマッピングすることで疑似円環状レーザ光環を形成し、当該疑似円環状レーザ光環で加工することを特徴とする。本件出願に係るレーザ加工方法は、レーザ発振器から射出されたレーザ光が本来もつエネルギを損失無く利用できるため、レーザ光照射領域の加工速度及び光強度分布のばらつきを安定して小さくできる。以下に、本件出願に関し詳説する。
【0015】
加工対象: 本件出願におけるレーザによる加工対象に関しては、レーザ加工可能なものである限り、特段の限定はない。例えば、電子部品材料、装飾材料の表面形状加工、金属部材や炭素繊維材の切断加工、及び金属材同士の溶接加工、金属と炭素繊維複合材等である。
【0016】
集光スポット: 本件出願における集光スポットは、レーザ発振器からのレーザ光を複数に分光し、加工対象の表面において、複数の分離集光箇所となっている部分である。
図1において、レーザ発振器2からのレーザ光10を複数に分光して加工対象11の表面に集光した複数の集光スポットXが示されている。また、
図2には、加工対象11の表面に現れる集光スポットXの出現パターンのバリエーションを示している。なお、このときの分離集光は光学素子4を用いて行うことが好ましく、これに関しては後述する。
【0017】
この複数の集光スポットは、加工対象の表面において、2点以上7点以下に分離集光したものであることが好ましい。集光スポットが2点以上でなければ、複数という概念も無く、後述する疑似円環状レーザ光環を得ることも困難となるため好ましくない。一方、7点を超える集光スポットが存在しても、レーザ光の光強度分布を改善する効果は飽和し、むしろ照射領域の加工速度が低下する傾向があるため好ましくない。また、集光スポットの数を7点を超えるものとするための光学素子は、形状が複雑化し、コストが上昇するため好ましくない。なお、研究の結果得られているデータを考慮すると、集光スポットの数は2点以上4点以下であることが、より好ましい。
【0018】
そして、加工対象の表面における集光スポットの配置を考えると、レーザ発振器からのレーザ光のもつエネルギが損失を受けること無く、エネルギ的に均一となるよう複数に分光することが好ましい。分光したレーザ光のエネルギにばらつきがあると、加工精度の低下を招く可能性が高いからである。そして、このときの複数の集光スポットは、当該複数の集光スポットの所定の回転軸を中心とした回転対称となる位置に各集光スポットが存在することが好ましい。「複数の集光スポットの所定の回転軸を中心とした回転対称となる位置」とは、複数の集光スポットが回転する軌道が円弧を描き、その円弧上を各集光スポットが通過することを意味している。このような状態とすることで、加工エネルギの低下を起こすこと無く、連続的ではない不連続なレーザ照射となるため加工時の温度上昇に伴う熱影響を最小に抑制できる。このように一定の円弧軌道を走行する集光スポットを「プラネタリ集光スポット」と称している。
【0019】
また、加工対象の表面における集光スポットの配置として、加工対象によっては、上述のプラネタリ集光スポットの回転軸部分に、レーザ光を連続的に照射したい場合もある。かかる場合には、複数の集光スポットの一つを、当該加工対象の表面と当該回転軸との交点上に配することも可能である。この集光スポットを「中央集光スポット」と称している。
【0020】
この中央集光スポットを必要とするのは、加工対象の融点が高い場合、深い加工深度が要求される場合等であるから、分離集光するレーザ光のエネルギとして、プラネタリ集光スポットに集光するレーザ光のエネルギに比べ、中央集光スポットのレーザ光のエネルギを強く設定することも好ましい。
【0021】
疑似円環状レーザ光環: 本件出願における疑似円環状レーザ光環とは、複数の集光スポットを回転させて得られるものである。このときの回転軸の位置については、特に限定はないが、加工対象の表面に複数の集光スポットが表れる領域の略中心を軸とすることが好ましい。そして、複数の集光スポットを高速回転させマッピングすると、複数の集光スポットが円周軌道を描き、目視で確認する限り円環状のレーザ光となる。これを「疑似円環状レーザ光環」と称している。このような疑似円環形状のレーザ光環を用いることで、1点のレーザ光で加工する場合に比べ、より広い範囲に熱を伝え、レーザ光照射位置のずれに伴う加工不良の抑制、加工時間短縮による加工対象の変形の抑制、融点の異なる金属部材同士の溶接の実現等が可能になる。また、レーザ光照射領域におけるエネルギ強度の均一化が図られ、加工精度を高めることができる。
【0022】
疑似円環状レーザ光環の制御: 加工対象の表面で、疑似円環状レーザ光環を移動させながら加工することが、加工の自由度を向上させるという観点から好ましい。また、このように加工対象の表面で、疑似円環状レーザ光環を移動させれば、加工部において「レーザ光照射領域」と「レーザ光非照射領域」とが交互に位置することになる。よって、一点の箇所に対するレーザ光の連続照射を回避して、加熱による影響を、より効率的に回避して、高品質なレーザ加工が実施できる。加工対象の表面で疑似円環状レーザ光環が移動するとは、「加工対象が静止した状態で、レーザ照射ヘッドから照射される疑似円環状レーザ光環自体が移動する場合」と、「疑似円環状レーザ光環が静止した状態で、加工対象を載置したステージが移動する場合」とがあり、いずれの方法を採用しても構わない。
【0023】
疑似円環状レーザ光環の利用態様: 本件出願に係る疑似円環状レーザ光環は、この疑似円環状レーザ光環が単純円環である場合、この光環の外周部が「レーザ照射部位」であり、その内周部が「レーザ非照射部位」である。従って、加工対象の表面の一点を「加工点」とすると、複数の集光スポットを回転させて得られる疑似円環状レーザ光環を加工対象の表面で移動させるときに、この加工点では疑似円環状レーザ光環のレーザ照射部位が通過した後に、レーザ非照射部位が通過するという不連続レーザ照射挙動が繰り返されることになる。その結果、不連続なレーザ照射で母材を繰り返し溶融させることで、不連続レーザ照射挙動により発生し加工対象の母材に一旦溶存した溶存ガスの排出が可能となる。
【0024】
また、上述と同様の不連続レーザ照射挙動を繰り返すことで、加工対象の母材を繰り返し溶融させ、そこに断続的にレーザ照射することで、加工対象の表面の粗化を行うことも可能である。
【0025】
2.本件出願に係るレーザ加工装置
図1を参照しつつ説明する。本件出願に係るレーザ加工装置1は、レーザ光10を用いて加工対象11を加工するレーザ加工装置であって、「レーザ発振器2からのレーザ光10を複数に分光し、加工対象11の表面に複数の集光スポットXに分離集光させるレーザ照射ヘッド3」と、「加工対象11の表面で複数の集光スポットXを回転させマッピングして疑似円環状レーザ光環を形成するレーザ光回転機構5」とを備えたことを特徴とする。これらの構成を備えることで、エネルギ損失をおこすことがなく、レーザ光照射領域の形状及びレーザ光の強度分布のばらつきを安定して小さくできる。以下に、レーザ加工装置1に関して、具体的に説明する。以下、本件出願に係るレーザ加工装置1について説明するにあたり、レーザ発振器2、レーザ照射ヘッド3、レーザ光回転機構5、レーザ移動機構6の順に説明する。
【0026】
レーザ発振器: 本実施形態に係るレーザ発振器2は、光を増幅して指向性や収束性に優れたレーザ光10を射出する装置である。一般的には、固体レーザ(YAGレーザ、Nd:YAGレーザ、ファイバーレーザ等)、ガスレーザ(アルゴンイオンレーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ等)の使用が可能であり、加工対象の種類に合わせて適宜選択使用することが好ましい。
図1には、レーザ光10がレーザ発振器2から後述するレーザ照射ヘッド3に直接入射する構成が示されているが、これに限定されるものではない。例えば、レーザ発振器2からレーザ照射ヘッド3にレーザ光10を伝送する手段として光ファイバを用い、レーザ光10の伝送を容易化することもできる。
【0027】
レーザ照射ヘッド: 本件出願に係るレーザ照射ヘッド3は、上述のレーザ発振器2から射出されたレーザ光10を分光し、加工対象11の加工表面で複数の集光スポットXに分離集光させるものである。レーザ照射ヘッド3は、複数の集光スポットXに分離集光させる機能と、集光スポットXに求める条件(照射領域のサイズ、スポット形状、エネルギ量等)の調整機能を備えるものである。
【0028】
このレーザ照射ヘッド3は、レーザ発振器2からのレーザ光10を複数の集光スポットXに分離集光するための光学素子4を備えたものとすることが好ましい。レーザ照射ヘッド3がこのような光学素子4を備え、レーザ発振器2より発振されたレーザ光10を複数のレーザ光に分岐することで、複数のレーザ光源を用いる必要性がなくなる。その結果、レーザ加工装置1の構造の簡素化を図れる。なお、レーザ光10の照射領域の大きさの調整を行う場合には、図示せぬ光学素子位置調整手段により、光学素子4を光軸方向に移動させ、レーザ発振器2との距離を調整することで容易に行うことができる。
【0029】
レーザ光回転機構: 本件出願に係るレーザ光回転機構5は、上述した疑似円環状レーザ光環を形成するために、上述した複数の集光スポットXを所定の中心軸で回転させるためのものである。ここでは、レーザ照射ヘッド3が備える複数の集光スポットXに分離集光するための光学素子4を、レンズ面に水平に回転させるものである。このときの回転手段に関して、特段の限定は無く、例えばモータ駆動により光学素子4を回転させることが可能である。
【0030】
レーザ移動機構: 加工対象11に対し、レーザ光10を移動させるレーザ移動機構6は、上述のように、「加工対象が静止した状態で、レーザ照射ヘッド3から照射される疑似円環状レーザ光環自体が移動する場合」と、「疑似円環状レーザ光環が静止した状態で、加工対象を載置したステージが移動する場合」とがある。いずれの移動方法を採用するかにより、任意にレーザ移動機構6を採用すれば足りる。
【0031】
以上に本件出願に係るレーザ加工装置1の構成について説明したが、レーザ照射ヘッド3が加工対象11の表面に上述の疑似円環状レーザ光環を形成することで、高品質な加工を行うことができる。当該疑似円環状レーザ光環を形成することで得られる効果に関しては、既に「レーザ加工方法」で述べているため、ここでの説明は省略する。
【0032】
次に、本件出願の光学素子4に関して以下に説明する。
【0033】
光学素子: 本件出願において用いる光学素子4は、結像面において、少なくとも2つの焦点を有するものである。光学素子4は、このような特性を有することで、レーザ発振器2からのレーザ光10を複数に分光し、加工対象11の表面に複数の集光スポットXとして分離集光することが可能となる。すなわち、この光学素子4によれば、レーザ光10の中央付近のエネルギをその周囲に分散させて、レーザ光照射領域のトータルエネルギの低下を抑制できる。
【0034】
本件出願に係るレーザ加工装置1に用いる光学素子4の数に関して特に限定はないが、上述した疑似円環状レーザ光環を形成するためには、一つの光学素子があれば実現可能である。よって、設備コスト増大の抑制及びメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0035】
このときの光学素子4は、例えば、少なくとも1面が、集光スポットXの数n(nは2以上の整数)に対し、n回の回転対称となる自由曲面を備える非球面レンズにより構成することができる。本件出願の光学素子4は、各集光スポットXの円周上の間隔が均等となる多焦点レンズを採用し、レーザ光照射領域におけるレーザ光の強度分布を安定的に均一化することができる。また、3個以上の集光スポットXを設ければ、集光スポットXの回転速度を必要以上に速くしなくても当該疑似円環状レーザ光環を形成することが可能となり、モータ等からなるレーザ光回転機構5の駆動に起因する振動の弊害を抑制することができる。
【0036】
また、このような機能を果たす光学素子4として、回折光学素子を用いることも好ましい。回折光学素子は、レーザ光10のエネルギ損失を最小限に抑えながらレーザ光10を複数に分光できるため、レーザ光照射領域におけるトータルエネルギを高く維持することができる。また、光学素子4として、プリズムレンズであるアキシコンレンズを用いることも好ましい。アキシコンレンズも、上述した回折光学素子と同様の効果を得られるからである。
【0037】
以下、本件出願の実施例を示し、本件出願をより詳細に説明する。なお、本件出願はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本実施例1では、加工対象として、板厚1.0mmの溶融亜鉛めっき鋼板(Z22)を2枚用意した。そして、ファイバーレーザ発振器(IPG社製)から出力2.0kWで発振されたレーザ光を光学素子を用いて分光し、回転モータの作動により加工対象表面の複数の集光スポットを1000rpm~6000rpmで回転させながら1.0~7.0m/minの送り速度で走査させて、この加工対象に対しレーザ重ね溶接を行った。そして、溶接後、溶接部の状態を顕微鏡により観察した。
【0039】
表1には、集光スポットの送り速度と集光スポットの配置パターンとの関係を示す。表1の集光スポットの配置パターンに関しては、
図2に示す。また、表2には、集光スポットの送り速度と集光スポットの回転速度との関係を示す。これら表1,2において、溶接ビードに不良が見受けられない場合を「○」(
図3(1)を参考のこと)、溶接ビードに肌荒れやビード切れ等の不良が見受けられた場合を「×」(
図3(1)を参考のこと)とした。
【0040】
表1,2より、本件出願の方法によれば、集光スポットの送り速度、及び集光スポットの回転速度を調整することで、従来困難とされていた亜鉛めっき鋼からなる金属薄板のレーザ重ね溶接を問題なく行えることが確認できた。
【0041】
【0042】
【実施例2】
【0043】
本実施例2では、加工対象として、板厚1.0mmのアルミ板(A1050)を2枚用意した。そして、ファイバーレーザ発振器(IPG社製)から出力2.0kWで発振されたレーザ光を光学素子を用いて分光し、回転モータの作動により加工対象表面の複数の集光スポットを1000rpm~6000rpmで回転させながら1.0~7.0m/minの送り速度で走査させて、この加工対象に対しレーザ重ね溶接を行った。そして、溶接後、溶接部の状態を顕微鏡により観察した。
【0044】
表3には、集光スポットの送り速度と集光スポットの配置パターンとの関係を示す。表3の集光スポットの配置パターンに関しては、
図2に示す。また、表4には、集光スポットの送り速度と集光スポットの回転速度との関係を示す。これら表3,4に示す「○」及び「×」に関しては実施例1で既に説明したため、ここでの説明は省略する。
【0045】
表3,4より、本件出願の方法によれば、集光スポットの送り速度、及び集光スポットの回転速度を調整することで、従来困難とされていたアルミニウムからなる金属薄板のレーザ重ね溶接を問題なく行えることが確認できた。
【0046】
【0047】
【実施例3】
【0048】
本実施例3では、加工対象として、板厚1.0mmの純銅板を2枚用意した。そして、ファイバーレーザ発振器(IPG社製)から出力2.0kWで発振されたレーザ光を光学素子を用いて分光し、回転モータの作動により加工対象表面の複数の集光スポットを1000rpm~6000rpmで回転させながら1.0~7.0m/minの送り速度で走査させて、この加工対象に対しレーザ重ね溶接を行った。そして、溶接後、溶接部の状態を顕微鏡により観察した。
【0049】
表5には、集光スポットの送り速度と集光スポットの配置パターンとの関係を示す。表5の集光スポットの配置パターンに関しては、
図2に示す。また、表6には、集光スポットの送り速度と集光スポットの回転速度との関係を示す。これら表5,6に示す「○」及び「×」に関しては実施例1で既に説明したため、ここでの説明は省略する。
【0050】
表5,6より、本件出願の方法によれば、集光スポットの送り速度、及び集光スポットの回転速度を調整することで、従来困難とされていた純銅からなる金属薄板のレーザ重ね溶接を問題なく行えることが確認できた。
【0051】
【0052】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本件出願に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ照射ヘッドによれば、レーザ光照射領域の形状及び光強度分布を従来よりも安定して均一にすることができる。よって、本件出願に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ照射ヘッドは、様々な種類のレーザ加工に適用でき、従来困難とされていた金属薄板を重ね合わせて行う溶接にも好適である。
【符号の説明】
【0054】
1 レーザ加工装置
2 レーザ発振器
3 レーザ照射ヘッド
4 光学素子
5 レーザ光回転機構
6 レーザ移動機構
10 レーザ光
11 加工対象
X 集光スポット