(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】糸通し装置を備えたミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 87/02 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
D05B87/02
(21)【出願番号】P 2018144593
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】東 豊大
(72)【発明者】
【氏名】沢田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩二
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-160592(JP,A)
【文献】特開2006-158412(JP,A)
【文献】特開平10-137482(JP,A)
【文献】特開平09-099192(JP,A)
【文献】特開2010-124938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 87/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸通し装置を備えたミシンであって、ミシン針を装着する針棒と、上下動且つ周方向に回転可能に支持された糸通し軸と、該糸通し軸の下端に設けられる糸保持具と、前記糸通し軸の下端に設けて針孔に出没させて該針孔に糸を通す鉤を有する糸通し具と、操作のための操作部を有し、前記糸通し軸を上下動且つ周方向に回転させる操作レバーと、上糸の切断具を備え、前記糸保持具から前記切断具に向かって上糸を案内する傾斜部が形成された上糸案内部材が前記糸保持具と前記切断具の間に具備され、前記上糸案内部材の傾斜部は前記切断具より切断された前記上糸を前記操作レバーの操作範囲外にガイドするようにしたことを特徴とする糸通し装置を備えたミシン。
【請求項2】
請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記上糸案内部材の前記傾斜部は、糸掛け時の上糸を前記糸保持具から前記切断具に亘って案内する傾斜面としてなることを特徴とする糸通し装置を備えたミシン。
【請求項3】
請求項2に記載のミシンの糸通し装置において、前記傾斜面は上方より見てミシン本体の面板側端辺はY方向に沿って前記ミシン本体の正面側から背両側に向かうに従い前記ミシン本体のX方向の前記面板側寄りに傾斜する端辺部が前記操作部より上方に位置して形成されてなることを特徴とするミシンの糸通し装置。
【請求項4】
請求項2又は3の何れか1項に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記傾斜面のY方向正面側端部には板状の補助案内片がX方向に沿って形成されてなることを特徴とする糸通し装置を備えたミシン。
【請求項5】
請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記上糸案内部材は円弧状の局面からなる垂直板状部とすると共に該垂直板状部の長手方向はY方向に沿って前記操作レバーに一体的に形成されてなることを特徴とする糸通し装置を備えたミシン。
【請求項6】
請求項5に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、
前記垂直板状部のY方向正面側寄りの部分に近接して補助案内部が設けられ、該補助案内部はX方向に沿って柱側から面板側に向かってY方向の背面側に向かって凹む
傾斜面が形成されてなることを特徴とするミシンの糸通し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン針の針孔に上糸を挿通する糸通し作業を簡単にできる装置を備えたミシンで、上糸挿通前の糸掛け作業完了時に上糸が糸通し装置の操作レバーの操作部(操作部)の上に落下し載ってしまったり、或いは纏わり付かないようにすることができる糸通し装置を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用ミシンにおけるミシン針の針孔に糸を通すために、種々の糸通し装置が提案されている。その多くは手動タイプのものであり、糸通し装置の操作レバーの操作部を上方から下方に押し下げて、糸通し具をミシン針の針孔に近接させ、該針孔に上糸を挿通させるタイプのものが多く、且つ一般的に使用されている。
【0003】
通常、家庭用ミシンにおける糸通し作業が行われる前の段階の作業として上糸の糸掛け作業が行われる。この上糸の糸掛け作業では、ミシン本体の所定位置に装着された糸巻から上糸を引き出し、該上糸を所定の位置に糸掛けを行い、ミシン針の針孔への糸通しのための糸保持具に上糸を掛け、ミシン本体の面板に装着されているカッターにて上糸の余分な部分を切断する。
【0004】
そして、糸通し装置の操作レバーの操作部を押し下げて糸保持具を糸通し具と共にミシン針の針孔に近接させてミシン針の針孔に上糸を挿通させる手動タイプの糸通し装置の主要な構造及び操作手順は上記のようになっており、この種の糸通し装置として代表的なものが特許文献1及び特許文献2等に開示されている。多くの主動タイプの糸通し装置における主要な構成及び操作手順は、特許文献1及び特許文献2と略同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-173676号公報
【文献】特開2000-271372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
家庭用ミシンにおける手動タイプの糸通し装置では、
図9(A)に示すように、操作レバーaの操作部を人の指先で下方に押してミシン針cの針孔へ上糸nと挿通させるものである。ここで、上糸nの余分な部分をミシン本体の面板に装着されているカッターbにて切断したときに、切断完了後の上糸nの端部が前記操作部の上に落下し、そのまま操作部aの上面に載ってしまったままの状態になるおそれがある。或いは、上糸nの端部が操作部aに纏わり付いてしまうことも有り得る。
【0007】
そして、糸通し作業を行おうとする人が、そのまま、上糸nと共に操作レバーの操作部aを下方に押し下げると、
図9に示すように、上糸nが人の指先と操作部との間で固定状態となり、上糸nに緊張が生じることで糸保持具がミシン針の針孔位置と同等の高さ位置となっても、糸保持具の水平面上における回転動作が阻害されることになり、針孔に上糸を挿通することができなくなるおそれがある。また、場合によっては、操作レバーそのものの下降操作ができなくなるおそれもあり、最悪の場合、装置の破損に到るおそれも十分にある。
【0008】
このように、糸掛け作業における最終段階の上糸nのカッターbによる切断にて、上糸端部が糸通し装置の操作レバーの操作部aの上に落下し、載ってしまった状態となると、家庭用ミシンの作業において種々の不都合に繋がることになる。そこで、本発明の目的は、家庭用ミシンの糸通し装置において、ミシン針の針孔への上糸挿通前における糸掛け作業完了時に、上糸が糸通し装置の操作レバーの操作部aの上に落下し載ってしまったり或いは纏わり付いたりしないようにすることを極めて簡単な構成にてできる糸通し装置を備えたミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、糸通し装置を備えたミシンであって、ミシン針を装着する針棒と、上下動且つ周方向に回転可能に支持された糸通し軸と、該糸通し軸の下端に設けられる糸保持具と、前記糸通し軸の下端に設けて針孔に出没させて該針孔に糸を通す鉤を有する糸通し具と、操作のための操作部を有し、前記糸通し軸を上下動且つ周方向に回転させる操作レバーと、上糸の切断具を備え、前記糸保持具から前記切断具に向かって上糸を案内する傾斜部が形成された上糸案内部材が前記糸保持具と前記切断具の間に具備され、前記上糸案内部材の傾斜部は前記切断具より切断された前記上糸を前記操作レバーの操作範囲外にガイドするようにした糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【0010】
請求項2の発明を、請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記上糸案内部材の前記傾斜部は、糸掛け時の上糸を前記糸保持具から前記切断具に亘って案内する傾斜面としてなる糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項2に記載のミシンの糸通し装置において、前記傾斜面は上方より見てミシン本体の面板側端辺はY方向に沿って前記ミシン本体の正面側から背両側に向かうに従い前記ミシン本体のX方向の前記面板側寄りに傾斜する端辺部が前記操作部より上方に位置して形成されてなるミシンの糸通し装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項4の発明を、請求項2又は3の何れか1項に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記傾斜面のY方向正面側端部には板状の補助案内片がX方向に沿って形成されてなる糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【0011】
請求項5の発明を、請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記上糸案内部材は円弧状の局面からなる垂直板状部とすると共に該垂直板状部の長手方向はY方向に沿って前記操作レバーに一体的に形成されてなる糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。請求項6の発明を、請求項5に記載の糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記垂直板状部のY方向正面側寄りの部分に近接して補助案内部が設けられ、該補助案内部はX方向に沿って柱側から面板側に向かってY方向の背面側に向かって凹む傾斜面が形成されてなるミシンの糸通し装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、糸保持具から切断具に向かって上糸を案内する傾斜部が形成された上糸案内部材が前記糸保持具と前記切断の間に具備され、上糸は、傾斜部によって前記操作レバーの操作範囲外にガイドされる構成としたことにより、家庭用ミシンにおける糸掛け作業の最終段階でミシン本体の面板に装着された切断具にて切断された直後の上糸端部が操作レバーの操作範囲外にガイドされる状態となる。
【0013】
これによって、家庭用ミシンにて縫い作業を行おうとする人が、糸通し装置によりミシン針の針孔への上糸の糸通し作業で、操作レバーを操作するときに誤って上糸端部を操作部上で押えて固定してしまい、糸通し作業ができなくなることを未然に防止できる。さらに、上糸案内部材の傾斜部は、糸保持具から切断具に向かって上糸を案内するものであり、糸掛け作業から糸通し作業へ移行するときに、極めて円滑に行うことができる。
【0014】
請求項2の発明では、上糸案内部材の傾斜部は、糸掛け時の上糸を糸保持具から切断具に亘って案内する傾斜面としたことで、上糸に対して余分なストレスがかかり難くなり、上糸自体の状態を良好に保つことができる。請求項3の発明では、傾斜面は上方より見てミシン本体の面板側端辺はY方向に沿って前記ミシン本体の正面側から背面側に向かうに従い前記ミシン本体のX方向の前記面板側寄りに傾斜する端辺部が前記操作部より上方に位置して形成される構成により、糸掛け時の最終段階において上糸の切断予定箇所を切断具まで円滑に導くことができ、切断後には、上糸端部を速やかに操作レバーの操作部の外部に排除することができる。
【0015】
請求項4の発明では、糸通し装置を備えたミシンにおいて、前記傾斜面のY方向正面側端部には板状の補助案内片がX方向に沿って形成されたことにより、糸掛け作業時に補助案内片のY方向内方側に向かって上糸を通過させることで、傾斜面上を通過する上糸は切断具により切断されるまで、傾斜面から外れることを防止でき、糸掛け作業を上糸の切断となる最終段階までより一層円滑にできる。また、端辺部は直交する断面形状をが円弧状とすることにより上糸に対して傷を与えることなく、良好な状態を維持できる。
【0016】
請求項5の発明では、上糸案内部材は円弧状の局面からなる垂直板状部とすると共に該垂直板状部の長手方向はY方向に沿って前記操作レバーに一体的に形成されたことにより、糸通し装置によりミシン針の針孔への上糸の糸通し作業で、操作レバーを操作するときに誤って上糸端部を操作部上で押えて固定してしまい、糸通し作業ができなくなることを未然に防止できる。さらに、上糸案内部材の傾斜部は、糸保持具から切断具に向かって上糸を案内するものであり、糸掛け作業から糸通し作業へ移行するときに、極めて円滑に行うことができる。前記垂直板状部の外周縁に直交する断面は円弧状に形成することにより、糸掛け作業及び糸通し作業の過程で上糸に傷を与えることなく、良好な状態に維持できる。請求項6の発明では、補助案内部はX方向に沿って柱側から面板側に向かって且つY方向の背面側に向かって凹む傾斜面が形成されたことにより、糸掛け作業において上糸を補助案内部から垂直板状部に移動するときに、極めて円滑な動作にできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は本発明における第1実施形態の糸通し装置を備えたミシンの正面略示図、(B)は(A)の(α)部の一部省略した拡大図、(C)は(B)の一部省略したX1-X1矢視断面図である。
【
図2】(A)は第1実施形態の上糸案内部材と一部切除した操作レバーの斜視図、(B)は第1実施形態の上糸案内部材の平面図、(C)は(B)のY1-Y1矢視断面図、(D)は(B)のY2-Y2矢視図である。
【
図3】(A)は第1実施形態の上糸案内部材によって上糸を切断する平面図、(B)は(A)のY3-Y3矢視図、(C)は第1実施形態の上糸案内部材によって上糸を切断直後の状態の平面図、(D)は(C)のY4-Y4矢視図である。
【
図4】(A)は本発明における第2実施形態の糸通し装置の要部とミシン本体面板の一部を示す拡大図、(B)は(A)のX2-X2矢視図、(C)は(A)のY5-Y5矢視において傾斜部と補助案内部とを遠ざけるように分離した状態図、(D)は傾斜部と補助案内部とを遠ざけるようにした斜視図である。
【
図5】(A)は第2実施形態における補助案内部の正面図、(B)は(A)のX3-X3矢視図、(C)は(A)のY6-Y6矢視断面図である。
【
図6】(A)は第2実施形態の上糸案内部材によって上糸を切断する正面図、(B)は(A)のX4-X4矢視図、(C)は第2実施形態の上糸案内部材によって上糸の切断後の状態の正面図、(D)は(C)のX5-X5矢視図である。
【
図7】(A)は本発明における糸通し機構体の正面図、(B)は(A)の糸通し前の状態の一部省略したX6-X6矢視断面図、(C)は(A)の糸通し完了時の状態の一部省略したX6-X6矢視断面図である。
【
図8】X方向,Y方向及びZ方向を示すミシンの斜視図である。
【
図9】(A)及び(B)は従来の欠点を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明においてX方向,Y方向及びZ方向を設定する(
図8参照)。X方向は、ミシン本体9の面板91と柱92とを結ぶ方向である。Y方向は、ミシン本体9の正面側と背面側を結ぶ方向である。また、Z方向は、ミシン本体9の高さ方向である。
【0019】
以下、本発明における主要な構成部材は、ミシン本体9に装着された状態を前提とした上で、X方向,Y方向及びZ方向を基準として説明することになる。具体的には、X方向及びY方向の特定方向を示すときには、X方向については、X方向の面板側或いは柱側とし、Y方向についてはY方向の正面側或いは背面側とする。
【0020】
本発明における糸通し装置における主な構成部材は、
図1(A)に示すように、上糸案内部材Aと、糸通しに係る糸通し機構体5とを備えている。まず、上糸案内部材Aが装着される糸通し機構体5から説明する。糸通し機構体5は、支持枠本体51,針棒52,糸通し軸53,糸保持具71,糸通し具72とを備えている。前記支持枠本体51は、ミシン本体9内に装着され、針棒52,糸通し軸53及びガイド軸54が装着されている。
【0021】
支持枠本体51には、針棒52,糸通し軸53及びガイド軸54を支持するための複数の軸支持部が形成されている。そして、針棒52,糸通し軸53及びガイド軸54は、支持枠本体51に対して上下方向に摺動自在に支持されている〔
図7(A)参照〕。支持枠本体51は、ミシン本体9の面板91内部に装着されており、針棒52を上下動及び布送り方向と直交する方向(左右)に揺動可能に支持している。支持枠本体51の上方側には、バネの一端が取り付けられ、該バネの他端は、操作レバー4に取り付けられている。そして、該操作レバー4に接続されている糸通し軸53及びガイド軸54は常時、上方に弾性付勢されている。針棒52は、先端部分に針6が取り付けられる棒状の部材である。
【0022】
糸通し軸53は、糸保持具71及び糸通し具72を、針6の針孔61に上糸nを通すことのできる位置(糸通し位置)まで降下させる。糸通し軸53は、糸保持具71と糸通し具72とを相互に逆方向に回動させる役目をなす。ガイド軸54は、糸通し軸53と共に、支持枠本体1に対して同一範囲内を上下方向に移動する〔
図7(A)参照〕。糸通し具72には、針孔61に上糸nを通すための鉤72aが設けられており、糸通し作業時では該鉤72aは、針孔61を挿通する。
【0023】
操作レバー4は、操作部41とレバー軸部42とからなり、レバー軸部42の下端に操作部41が形成され、レバー軸部42の上端は、糸通し軸53及びガイド軸54に接続される接続軸支持部42aが形成されている。操作部41は、水平面状の板片として形成され、該操作部41を作業者が指先で下方に押すことにより、操作レバー4と共に、ガイド軸54及び糸通し軸53を下方に移動させることができる。
【0024】
上糸案内部材Aは、上糸nの糸掛け作業において上糸nを切断具93の位置に案内移動させ、切断具93にて余分な部分を切断した後は、上糸nが操作レバー4の操作部41の上に落下し載ってしまうことを防止する役目をなすものである。上糸案内部材Aは、複数の実施形態が存在し、まず第1実施形態から説明する。上糸案内部材Aは、全ての実施形態において傾斜部1を有している(
図1乃至
図3参照)。切断具93は、具体的には板刃であり、一般的にミシン本体9の面板91のX方向面板91側端部に内装されている(
図8参照)。
【0025】
上糸案内部材Aは、傾斜部1,取付部2及び補助案内片12を有している(
図2参照)。傾斜部1は、傾斜面11を有しており、該傾斜面11は、ミシン本体9に適正に装着された状態で、ミシン本体9においてX方向に沿って柱92側から面板91側に向かって高くなる斜面としている〔
図1(A),
図2(A),(C)参照〕。斜面の角度は水平線に対して20度としているが、約20度程度でもかまわない。
【0026】
傾斜面11は、上方より見て略四辺形であり、略L字型の端辺部をもつ。そのX方向に沿う辺で且つY方向正面側の辺を第1端辺部11aと称する。また、傾斜面11のY方向に沿う辺で且つ×方向面板91側の辺を第2端辺部11bと称する。第1端辺部11aは、X方向に沿って柱92側から面板91側に向かうに従い、次第にY方向の背面側方向に向かって凹むように傾斜する辺である〔
図2(B)参照〕。
【0027】
また、第2端辺部11bは、Y方向に沿って正面側から背面側に向かうに従い、次第にX方向柱92側から面板91側に向かって突出するように傾斜する辺である〔
図1(A),
図2(B),
図3(A),(C)参照〕。第1端辺部11a及び第2端辺部11bは、それぞれに直交する断面形状を円弧状としている〔
図2(A),(C)等参照〕。
【0028】
傾斜面11のY方向正面側端部つまり前記第1端辺部11a側には傾斜面11に対して垂直状となる板状の補助案内片12がミシン本体9におけるX方向に沿って形成されている。該補助案内片12は、糸保持具71から引き出される上糸nを傾斜面11に導入する役目と、傾斜面11上に一旦載った上糸nが容易に傾斜面11から滑り落ちることを防止する役目をなす。また、補助案内片12には上糸nの糸掛け方向を示す矢印が刻印されることもある。
【0029】
傾斜面11は、糸保持具71から引き出された上糸nを、そのY方向の正面側端部より第1端辺部11a,第2端辺部11bに沿って移動させることで、ミシン本体9の面板91に装着された切断具93の位置に円滑に移動させることができる〔
図3(A),(B)参照〕。
【0030】
取付部2は傾斜面11のY方向背面側端部に形成されたものであり、糸通し機構体5の糸通し軸53及びガイド軸54に装着され、ガイド軸54に装着された操作レバー4の操作によって、糸通し軸53及びガイド軸54と共に上糸案内部材Aが上下動する。また、取付部2は、糸通し機構体5の糸保持具71と糸通し具72を回動操作するためのリンクの案内部材としての役目も兼用している。上糸案内部材Aは、主に合成樹脂にて形成されるが金属製としてもよい。
【0031】
次に、第1実施形態の上糸案内部材Aの作用について説明する。まず、上糸nの糸掛けの最終段階で、ミシン本体9の糸保持具71から引き出された上糸nが前記上糸案内部材Aの補助案内片12の背面側から傾斜面11上に載る。そして、上糸nを切断具93の位置に移動させ、上糸nの余分な部分を切断し、糸保持具71から引き出された上糸nを適正な長さ状態とする〔
図3(A),(B)参照〕。
【0032】
糸保持具71から適正な長さ状態とした上糸nは、前記傾斜面11上に載った状態であり〔
図3(A)参照〕、上糸nは操作レバー4の操作部41上に落下し載ってしまうことなく、操作部41上から上糸nは排除される〔
図3(C),(D)参照〕。したがって、作業者は、その指先と操作部41との間で上糸nを挟んだまま、操作部41を下方に下げるという誤操作を防止できる。
【0033】
このように、切断具93によって、切断された上糸nが操作部41の上面に落下せず且つ載らないようにするために、上糸案内部材Aの傾斜部1の傾斜面11のY方向における正面側端部の位置は、操作レバー4の操作部41のY方向正面側端部の位置よりもさらにY方向正面側の位置とすることが好ましい(
図3参照)。
【0034】
次に、上糸案内部材Aの第2実施形態について説明する(
図4及び
図5参照)。第2実施形態では、傾斜部1と補助案内部12とを備えたものであり(
図4参照)、傾斜部1は垂直板状部13としたものである。該垂直板状部13は、板状で且つ略扇形とした板状部である。垂直板状部13は、さらに具体的には(1/4)円形状とした板状部である〔
図4(C),(D)参照〕。垂直板状部13は、その垂直面がミシン本体9のY方向に沿って配置されており、さらに具体的には、前記垂直板状部13は、Y方向線においてその正面側が背面側よりも、X方向において面板91側に向かって僅か傾斜するようにしている〔
図4(A),(B),
図6(A),(B)参照〕。
【0035】
また、垂直板状部13は、ミシン本体9のY方向において、正面側端部から背面側端部に向かって次第に高くなるように構成されている〔
図4(C),(D)参照〕。そして、垂直板状部13の最高位置の箇所が面板91に装着された切断具93の位置に近接し、上糸nの切断を行うことができるようになっている。垂直板状部13の外周縁に直交する断面は円弧状に形成されている〔
図4(C),(D)参照〕。また、垂直板状部13のY方向正面側端部は、操作レバー4の操作部41のY方向正面側端部よりもさらに正面側に位置することが好ましい〔
図4(B)参照〕。
【0036】
補助案内部3は、糸通し機構体5の糸保持具71に被覆するカバー状の部材である〔
図4(A),
図5参照〕。補助案内部3は、糸保持具71と同様の形状であり、案内本体部31と案内通路部32とを有している〔
図4(A),(D),
図5等参照〕。案内本体部31は、糸保持具71に対するカバーとして装着されるものである。案内本体部31は、糸保持具71と共に、糸通し動作時には水平面上を回動する。通常の非動作時では、案内本体部31の正面がミシン本体9のX方向に沿う状態となり、糸通し動作時では案内本体部31の正面はミシン本体9のY方向に沿う状態となる〔
図7(B),(C)参照〕。
【0037】
案内本体部31は、その正面において、X方向の柱92側からミシン本体9の面板91側に亘って、該面板91側がY方向の背面側に向かって凹むような傾斜面となっている(
図5参照)。また、案内本体部31は、ミシン本体9のZ方向において下端側より上端側に向かってY方向背面側に凹むように傾斜面となっている。案内本体部31に形成された上記2つの傾斜面が交じり合って補助案内傾斜面31aが形成される(
図5参照)。
【0038】
そして、該補助案内部3は、傾斜部1の垂直板状部13のY方向正面側寄りの部分に近接している〔
図4(A),(B)参照〕。垂直板状部13と、案内本体部31の補助案内傾斜面31aとは、傾斜状態が略等しくなるように設定することで、上糸nは補助案内部3から傾斜部1の垂直板状部13に円滑に移動できる。案内通路部31は、X方向の柱92側が開口され上糸nを導入する部位となっている〔
図4(A),(B),
図5(A)参照〕。
【0039】
次に、第2実施形態の上糸案内部材Aの作用について説明する。まず、上糸nの糸掛けの最終段階で、ミシン本体9の糸保持具71に被覆した補助案内部3の案内通路部31から引き出された上糸nが、上糸案内部材Aの垂直板状部13のY方向正面側に移動し、上糸nが垂直板状部13の外周に沿ってZ方向の下端よりの位置から最高位置に移動する。垂直板状部13の最高位置に到達した上糸nは、切断具93にて切断される〔
図6(A),(B)参照〕。
【0040】
切断された上糸nは、垂直板状部13の外周に沿ってZ方向下方に落下しY方向正面側端部よりさらに落下する。このとき、垂直板状部13のY方向正面側端部は操作部41を避けるように落下するので、上糸nは操作部41上に載らない〔
図6(C),(D)参照〕。したがって、作業者は、その指先と操作部41との間に上糸nを挟んだまま、操作部41を下方に下げるという誤操作を防止できる。
【符号の説明】
【0041】
1…傾斜部、11…傾斜面、11a…第1端辺部、11b…第2端辺部、
12…補助案内片、13…垂直板状部、3…補助案内部、
31a…補助案内斜面、4…操作レバー、41…操作部、52…針棒、
53…糸通し軸、71…糸保持具、72…糸通し具、n…上糸、93…切断具、