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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20221130BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20221130BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20221130BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20221130BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20221130BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20221130BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0565
H01M10/0587
H01M50/426
H01M50/414
H01M50/489
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018179006
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020053145
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 厳
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-280072(JP,A)
【文献】特開2008-041604(JP,A)
【文献】特開2005-11595(JP,A)
【文献】特開2010-257838(JP,A)
【文献】特開2016-66595(JP,A)
【文献】特開2005-251563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/0587
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
電解液と、電子伝導性を有さず前記電解液を含浸しイオン導電性を有する固体の隔壁ポリマーと、真密度が5.0g/cm 3 以下であり前記電解液に分散している無機粒子とを含み、前記正極と前記負極との間に介在する電解質と、を備え
前記無機粒子は、(1)~(3)の特徴を有し、
前記隔壁ポリマーは、(4)、(5)の特徴を有する、リチウム二次電池。
(1)粒径が0.01μm以上1.0μm以下の範囲である。
(2)酸化アルミニウム及び酸化珪素のうち1以上である。
(3)前記隔壁ポリマーの質量に対し5質量%以上45質量%以下の範囲で前記電解質に含まれる。
(4)厚さが2μm以上18μm以下の範囲である。
(5)ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びポリエチレンオキシドのうち1以上である。
【請求項2】
前記無機粒子は、()~()のうち1以上の特徴を有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
)粒径が0.05μm以上0.3μm以下の範囲である。
)真密度が2.5g/cm3以上4.0g/cm3以下の範囲である。
)前記隔壁ポリマーの質量に対し7.5質量%以上30質量%以下の範囲で前記電解質に含まれる。
)形状が球状である。
【請求項3】
前記隔壁ポリマーは、(10)~(11)のうち1以上の特徴を有する、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
10)厚さが3μm以上15μm以下の範囲である。
(11)厚さが5μm以上10μm以下の範囲である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、リチウム二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池としては、例えば、プラスチック製不織布の表面に、セラミック微粒子を水溶性ポリマーで固定した無機被覆層を設けたセパレータを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このリチウム二次電池では、平均繊維径と平均コア径とセラミック微粒子の粒径とを所定範囲にすることにより、内部短絡を起こしにくくし、セパレータの機能を安定して発現することができるとしている。また、リチウム二次電池としては、酸化物無機粒子をバインダとにより形成されるセパレータにおいて、バインダが酸化物無機粒子の表面と架橋する官能基を末端に有するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このリチウム二次電池では、耐熱性、突刺強度が高く、耐ショート性及び充放電サイクル特性に優れたものとすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-26266号公報
【文献】特開2011-187274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウム二次電池では、例えば、車載用など、高出力での充放電の耐久性が求められている。しかしながら、特許文献1、2では、内部短絡を起こしにくくすることは考慮されているが、高出力での充放電における耐久性については、十分検討されていなかった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、高出力での充放電における耐久性をより高めることができるリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、イオン伝導性を有するポリマーに特定の無機粒子を分散させて電解質とすると高レートでの容量低下率をより抑制することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示するリチウム二次電池は、
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
電子伝導性を有さず電解液を含浸することでイオン導電性を有し厚さが20μm未満である隔壁ポリマーと、粒径が1.2μm以下であり真密度が5.0g/cm2以下である無機粒子とを含み、前記無機粒子が前記隔壁ポリマーの質量に対し50質量%未満の範囲で含まれており、前記正極と前記負極との間に介在する電解質と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示では、高出力での充放電における耐久性をより高めることができるリチウム二次電池を提供することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。例えば、電解液を含浸させた隔壁ポリマーは、イオン伝導性を有する非晶質の保液領域と結晶性の高分子骨格とを有する。隔壁ポリマーの厚さを20μm未満とした場合、電池製造時もしくは動作時にポリマーに微細な空孔が生成する。このとき、電解液に無機粒子を分散させ、その粒径を1.2μm以下とすることでポリマーの微細空孔を塞ぐことができ、電池の充放電サイクル寿命の向上効果が得られるものと考えられる。一方、粒径が1.2μmを超えると、無機粒子が微細空孔を塞ぐ効果は得られるものの、保液領域を圧迫し、イオン伝導性の低下や非晶質領域の劣化を引き起こすことが予想される。また、電解液には真密度が5.0g/cm2以下である無機粒子を分散させると、沈降などの影響がより少なく、十分に分散させることができると考えられる。また、無機粒子の添加割合は、隔壁ポリマーの質量に対し50質量%未満の範囲とすると、電解液が粘性の高いスラリー状になってしまうことをより抑制でき、電池性能の低下を抑制できると推察される。ここで、無機粒子の粒径は、レーザ回折散乱法により測定した粒度分布におけるメディアン径(D50)をいうものとする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】リチウム二次電池20の構成の一例を示す模式図。
図2】実験例20のシリカ微粒子のSEM写真。
図3】無機粒子の粒径に対する容量低下率の関係図。
図4】無機粒子の添加割合に対する容量低下率の関係図。
図5】隔壁ポリマーの厚さに対する容量低下率の関係図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のリチウム二次電池の好適な実施形態について以下に説明する。本実施形態のリチウム二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を負極と、正極と負極との間に介在する電解質とを備えている。
【0011】
正極は、正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に含まれる正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物が好ましい。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc4(但し0<a<1、0<b<1、0<c<2、a+b+c=2を満たす)や、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(但し0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1を満たす)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、各元素の組成にずれがあってもよいし、他の元素(例えば、AlやMgなど)を含んでもよい趣旨である。
【0012】
正極に含まれる導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。正極に含まれる結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0013】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0014】
電解質は、隔壁ポリマーと、無機粒子と、電解液とを含んでいる。この電解質は、リチウムイオンを伝導する。隔壁ポリマーは、電子伝導性を有さず電解液を含浸することでイオン導電性を発現するものである。電解液を含浸させた隔壁ポリマーは、イオン伝導性を有する非晶質の保液領域と結晶性の高分子骨格とを有するものとしてもよい。この隔壁ポリマーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びポリエチレンオキシド(PEO)のうち1以上であるものとしてもよく、このうちPVdFが好ましい。この隔壁ポリマーは、厚さが20μm未満である。この厚さが20μm未満では、無機粒子の添加効果が得られやすい。隔壁ポリマーの厚さは、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましい。この厚さが2μm以上では、隔壁ポリマー内の微細空孔と、無機粒子との関係などから、無機粒子の添加効果が発現しやすく好ましい。また、機械的強度などをより高めることができ、より確実に正極と負極との間の短絡を防止することができる。また、隔壁ポリマーの厚さは、18μm以下であることが好ましく、15μm以下の範囲であることがより好ましい。この厚さが18μm以下など、より薄いと、隔壁ポリマー内の微細空孔と無機粒子との関係などから、無機粒子の添加効果が発現しやすく好ましい。
【0015】
無機粒子は、粒径が1.2μm以下である。この粒径は、1.2μm以下では、隔壁ポリマーの微細空孔を塞ぐことができると推察される。無機粒子は、粒径が0.01μm以上1.0μm以下の範囲であることが好ましく、0.05μm以上0.3μm以下の範囲であることがより好ましい。粒径が0.01μm以上では、無機粒子が微細空孔を通り過ぎてしまうことをより抑制できる。また、粒径が1.0μm以下では、隔壁ポリマーの保液領域の圧迫をより抑制し、イオン伝導性の低下や非晶質領域の劣化をより抑制することができる。この無機粒子の粒径は、レーザ回折散乱法により測定した粒度分布におけるメディアン径(D50)をいうものとする。また、無機粒子は、真密度が5.0g/cm2以下である。真密度が5.0g/cm2以下では、無機粒子の沈降などの影響がより少なく、十分に無機粒子を分散させることができる。無機粒子は、その真密度が2.5g/cm3以上4.0g/cm3以下の範囲であることが好ましい。
【0016】
この無機粒子は、金属酸化物であることが好ましい。金属酸化物としては、例えば、例えば、酸化アルミニウム(真密度3.95g/cm3)、酸化珪素(真密度2.65g/cm3)、酸化ベリリウム(真密度3.02g/cm3)、酸化スカンジウム(真密度3.86g/cm3)などが挙げられる。そのうち、酸化アルミニウム及び酸化珪素のうち1以上であることが、化学的安定性、機械的強度などの観点から、より好ましい。なお、金属酸化物としては、ほかに、酸化亜鉛(真密度5.61g/cm3)、酸化銅(真密度6.31g/cm3)、酸化鉄(真密度5.24g/cm3)、酸化マンガン(真密度5.37g/cm3)、酸化コバルト(真密度6.44g/cm3)、酸化ニッケル(真密度6.67g/cm3)、酸化チタン(真密度4.23g/cm3)、酸化ガリウム(真密度6.44g/cm3)、酸化ゲルマニウム(真密度4.25g/cm3)、酸化イットリウム(真密度5.01g/cm3)などが挙げられる。
【0017】
更に、無機粒子は、隔壁ポリマーの質量Mpに対し無機粒子の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて50質量%未満の範囲で含まれている。無機粒子の添加割合が、50質量%未満では、電解液が粘性の高いスラリー状になってしまうことをより抑制でき、電池性能の低下を抑制できる。この添加割合は、5質量%以上45質量%以下の範囲であることが好ましく、7.5質量%以上30質量%以下の範囲であることがより好ましい。また、無機粒子は、電解液に分散していることが好ましい。また、無機粒子は、その形状が球状であることが好ましい。
【0018】
電解液は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、エチレンカーボネート(EC)や、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類;ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類;スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類;1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、ECと鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましく、ECとDMCとEMCとの組合せがより好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。
【0019】
電解液は、支持塩を含むものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。特に、LiPF6が好ましい。支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では電解液をより安定させることができる。
【0020】
本実施形態のリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうしたリチウム二次電池を複数直列に接続して電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本実施形態のリチウム二次電池20の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池20は、集電体21に正極合材層22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材層25を形成した負極シート26と、正極シート23と負極シート26との間に介在した電解質27と、を備えている。電解質27は、隔壁ポリマー28と、無機粒子29と、電解液30とを含んでいる。このリチウム二次電池20では、正極シート23と負極シート26との間に隔壁ポリマー28を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート26に接続された負極端子36とを配設して形成されている。
【0021】
以上詳述した本実施形態のリチウム二次電池では、高出力での充放電における耐久性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。例えば、隔壁ポリマーの厚さを20μm未満とした場合、電池製造時もしくは動作時にポリマーに微細な空孔が生成する。このとき、電解液に無機粒子を分散させ、その粒径を1.2μm以下とすることでポリマーの微細空孔を塞ぐことができ、電池の充放電サイクル寿命の向上効果が得られる。一方、粒径が1.2μmを超えると、無機粒子が微細空孔を塞ぐ効果は得られるものの、隔壁ポリマーの保液領域を圧迫し、イオン伝導性の低下や非晶質領域の劣化を引き起こすことが予想される。また、電解液には真密度が5.0g/cm2以下である無機粒子を分散させると、沈降などの影響がより少なく、十分に分散させることができる。また、無機粒子の添加割合は、隔壁ポリマーの質量に対し50質量%未満の範囲とすると、電解液が粘性の高いスラリー状になってしまうことをより抑制でき、電池性能の低下を抑制できる。
【0022】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0023】
以下には、本開示の電極及びリチウム二次電池を具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1、6、11、15、16、21、22が比較例に相当し、実験例2~5、7~10、12~14、17~20が実施例に相当する。
【0024】
(実験例1)
正極活物質としてLiCo1/3Ni1/3Mn1/32を用い、活物質を85質量%、導電材としてカーボンブラックを10質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5質量%混合し、分散材としてN-メチル-2-ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状の正極合材とした。この正極合材を15μm厚のアルミニウム箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートをロールプレスに通して高密度化させ、120mm幅×100mm長の形状に切り出して正極電極とした。負極活物質として天然黒鉛を用い、活物質を95質量%、結着材としてPVdFを5質量%混合し、正極と同様にスラリー状の負極合材とした。この負極合材を10μm厚の銅箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後塗布シートをロールプレスに通して高密度化させ、122mm幅×102mm長の形状に切り出して負極電極とした。N-メチル-2-ピロリドンに溶解させたPVdF溶液をガラス基板に塗布、乾燥したのち、剥離することで、5μmのPVdF単離膜(隔壁ポリマー)を得た。上記の正極シートと負極シートをこの5μm厚のPVdF隔壁ポリマーを挟んで対向させ、積層型電極体を作製した。この積層型電極体をアルミラミネート型袋に封入し、非水電解液を含侵させた後に密閉して得られたリチウム二次電池を実験例1とした。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30/40/30で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。
【0025】
(実験例2~6)
電池内の隔壁ポリマーの質量Mpに対し、アルミナ微粒子(粒径0.02μm,シグマアルドリッチ製)の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて10質量%となる添加割合に調整し、実験例1に記載の電解液にアルミナ微粒子を分散させた以外は、実験例1と同様に作製したものを実験例2とした。実験例2のアルミナ微粒子の代わりに、アルミナ微粒子(粒径0.05μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例2と同様に作製したものを実験例3とした。実験例2のアルミナ微粒子の代わりに、アルミナ微粒子(粒径0.3μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例2と同様に作製したものを実験例4とした。実験例2のアルミナ微粒子の代わりに、アルミナ微粒子(粒径1.0μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例2と同様に作製したものを実験例5とした。実験例2のアルミナ微粒子の代わりに、アルミナ微粒子(粒径1.5μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例2と同様に作製したものを実験例6とした。なお、アルミナの真密度は、3.95g/cm3である。
【0026】
(実験例7~11)
実験例1の正極シートと負極シートを10μm厚のPVdF隔壁ポリマーを挟んで対向させ、積層型電極体を作製した以外は、実験例2と同様に作製したものを実験例7とした。この実験例7では、電池内の隔壁ポリマーの質量Mpに対し、アルミナ微粒子(粒径0.02μm,シグマアルドリッチ製)の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて10質量%となるように調整し、実験例1に記載の電解液にアルミナ微粒子を分散させた。実験例7のアルミナ微粒子の代わりに、実験例3のアルミナ微粒子(粒径0.05μm)を用いた以外は、実験例7と同様に作製したものを実験例8とした。実験例7のアルミナ微粒子の代わりに、実験例4のアルミナ微粒子(粒径0.3μm)を用いた以外は、実験例7と同様に作製したものを実験例9とした。実験例7のアルミナ微粒子の代わりに、実験例5のアルミナ微粒子(粒径1.0μm)を用いた以外は、実験例7と同様に作製したものを実験例10とした。実験例7のアルミナ微粒子の代わりに、実験例6のアルミナ微粒子(粒径1.5μm)を用いた以外は、実験例7と同様に作製したものを実験例11とした。
【0027】
(実験例12~15)
電池内の隔壁ポリマーの質量Mpに対し、実験例3のアルミナ微粒子(粒径0.05μm)の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて5質量%となる添加割合に調整した以外は、実験例3と同様に作製したものを実験例12とした。電池内の隔壁ポリマーの質量Mpに対し、実験例3のアルミナ微粒子(粒径0.05μm)の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて20質量%となるように調整した以外は、実験例3と同様に作製したものを実験例13とした。電池内の隔壁ポリマーの質量Mpに対し、実験例3のアルミナ微粒子(粒径0.05μm)の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて30質量%となるように調整した以外は、実験例3と同様に作製したものを実験例14とした。電池内の隔壁ポリマーの質量Mpに対し、実験例3のアルミナ微粒子(粒径0.05μm)の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて50質量%となるように調整した以外は、実験例3と同様に作製したものを実験例15とした。
【0028】
(実験例16)
実験例3の正極シートと負極シートを20μm厚のPVdF隔壁ポリマーを挟んで対向させ、積層型電極体を作製した以外は、実験例3と同様に作製したものを実験例16とした。
【0029】
(実験例17~21)
電池内の隔壁ポリマーの質量Mpに対し、シリカ微粒子(粒径0.02μm,シグマアルドリッチ製)の質量Miが「Mi/Mp×100」の式に基づいて10質量%となる添加割合に調整し、実験例1に記載の電解液にシリカ微粒子を分散させた以外は、実験例1と同様に作製したものを実験例17とした。実験例17のシリカ微粒子の代わりに、シリカ微粒子(粒径0.05μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例17と同様に作製したものを実験例18とした。実験例17のシリカ微粒子の代わりに、シリカ微粒子(粒径0.3μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例17と同様に作製したものを実験例19とした。実験例17のシリカ微粒子の代わりに、シリカ微粒子(粒径1.0μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例17と同様に作製したものを実験例20とした。実験例17のシリカ微粒子の代わりに、シリカ微粒子(粒径1.5μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例17と同様に作製したものを実験例21とした。なお、シリカの真密度は、2.65g/cm3である。また、図2は、実験例20のシリカ微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。図2に示すように、シリカ微粒子は、表面に1次粒子を確認することができる球形を有していることがわかった。
【0030】
(実験例22)
実験例2のアルミナ微粒子の代わりに、酸化亜鉛微粒子(粒径0.3μm,シグマアルドリッチ製)を用いた以外は、実験例2と同様に作製したものを実験例22とした。なお、酸化亜鉛の真密度は、5.61g/cm3である。
【0031】
(ハイレート充放電サイクル試験)
上記作製した供試電池を25℃の温度環境下、C/10レートで、上限電圧4.1Vの定電流定電位充電(定電位2時間)、下限電圧3.0Vの定電流放電で充放電を行った。このときの放電容量を初期容量Qi(mAh/g)とした。その後、40℃の温度条件下、1Cレート、4.1V~3.0Vの範囲で定電流充放電を100サイクル行った。サイクル試験後の電池を25℃の温度環境下、C/10レートで、上限電圧4.1Vの定電流定電位充電(定電位2時間)、下限電圧3.0Vの定電流放電で充放電を行った。この時の放電容量を耐久後容量Qc(mAh/g)とした。耐久後電池の容量低下率を[(Qi-Qc)/Qi]という式で計算した。また、算出した容量低下率は、実験例1の値を1として各実施例を規格化した(表1参照)。この容量低下率は、1未満において、容量が低下しにくいことを表す。
【0032】
(結果と考察)
図3は、実験例1~11、17~21の無機粒子の粒径(nm)に対する容量低下率(-)の関係図である。図4は、実験例1、3、12~15の無機粒子の添加割合(質量%)に対する容量低下率(-)の関係図である。図5は、実験例1、3、8、16の隔壁ポリマーの厚さ(μm)に対する容量低下率(-)の関係図である。また、表1に、実験例1~21の隔壁ポリマーの厚さ(μm)、無機粒子の材質、粒径、添加割合(質量%)、容量低下率(-)をまとめて示した。表1に示すように、隔壁ポリマーの厚さが5μmである電池の電解液に粒径0.02μmのアルミナを10質量%添加した実験例2の電池では、無機粒子を添加しない実験例1に比して容量低下率が小さくなることがわかった。このように、アルミナやシリカなどの無機粒子を電解質に添加することによって、高レートでの充放電サイクルにおける容量低下が抑制されることが分かった。また、図3に示すように、無機粒子の粒径は、1.2μm以下の範囲で容量低下の抑制が確認され、粒径が0.01μm以上1.0μm以下の範囲でより好ましく、0.05μm以上0.3μm以下の範囲で更に容量低下が抑制され、好ましいことが明らかとなった。また、粒径が1.2μmを上回る1.5μmでは性能向上効果が認められなかった。
【0033】
また、図4に示すように、無機粒子は、隔壁ポリマーの質量に対し50質量%未満の範囲で電解質に含まれると、高レートでの充放電サイクルにおける容量低下が抑制されることが分かった。また、この無機粒子の添加割合は、隔壁ポリマーの質量に対し5質量%以上45質量%以下の範囲、より好ましくは隔壁ポリマーの質量に対し7.5質量%以上30質量%以下の範囲において、高レートでの充放電サイクルにおける容量低下が更に抑制されることがわかった。また、無機粒子は、50質量%以上の添加割合では、性能向上効果が認められなかった。
【0034】
また、図5に示すように、隔壁ポリマーの厚さは、20μm未満において、無機粒子の添加によって、高レートでの充放電サイクルにおける容量低下が抑制されることが分かった。また、隔壁ポリマーは、厚さが2μm以上18μm以下の範囲、より好ましくは、厚さが3μm以上15μm以下の範囲であると、高レートでの充放電サイクルにおける容量低下が抑制されることがわかった。この隔壁ポリマーは、短絡防止の観点からも、厚さが2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上必要であると推察された。
【0035】
また、表1に示すように、無機粒子として真密度が5.0g/cm2以下である酸化アルミニウム(アルミナ)や酸化珪素(シリカ)において、高レートでの充放電サイクルにおける容量低下の抑制が確認された。一方、真密度が5.0g/cm2を超える酸化亜鉛では、そのような効果は確認できなかった。無機粒子の真密度は、2.5g/cm3以上4.0g/cm3以下の範囲が好ましいと推察された。また、無機粒子は、電解液に分散していることが好ましく、その形状が球形であることが好ましいと推察された。
【0036】
上述した効果が得られる理由は、以下のように推察された。例えば、電解液を含浸させた隔壁ポリマーは、イオン伝導性を有する非晶質の保液領域と結晶性の高分子骨格とを有する。隔壁ポリマーの厚さを20μm未満とした場合、電池製造時もしくは動作時にポリマーに微細な空孔が生成する。このとき、電解液に無機粒子を分散させ、その粒径を1.2μm以下とすることでポリマーの微細空孔を塞ぐことができると推察された。その結果、電池の充放電サイクル寿命の向上効果が得られるものと考えられる。また、粒径が0.01μm以上では、無機粒子が微細空孔を通り過ぎてしまうことをより抑制でき、粒径が1.0μm以下では、保液領域の圧迫をより抑制し、イオン伝導性の低下や非晶質領域の劣化をより抑制することができると推察された。また、電解液には真密度が5.0g/cm2以下である無機粒子を分散させると、沈降などの影響がより少なく、十分に分散させることができると推察された。無機粒子の添加割合は、隔壁ポリマーの質量に対し50質量%未満の範囲とすると、電解液が粘性の高いスラリー状になってしまうことをより抑制でき、電池性能の低下を抑制できると推察された。無機粒子の添加割合は、隔壁ポリマーの質量に対し5質量%以上45質量%以下の範囲において、電解液の粘性などが良好であるものと推察された。また、隔壁ポリマーの厚さは、2μm未満や、20μm以上では、微細空孔と無機粒子の粒径との関係などから添加効果が得られにくいものと推察された。
【0037】
【表1】
【0038】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本明細書で開示したリチウム二次電池は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
20 リチウム二次電池、21 集電体、22 正極合材層、23 正極シート、24 集電体、25 負極合材層、26 負極シート、27 電解質、28 隔壁ポリマー、29 無機粒子、30 電解液、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子。
図1
図2
図3
図4
図5