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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20221130BHJP
   F16H 55/14 20060101ALI20221130BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B25F5/00 G
F16H55/14
F16H55/17 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018187325
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2020055070
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中根 康政
(72)【発明者】
【氏名】大河内 克己
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158131(WO,A1)
【文献】特開2006-160168(JP,A)
【文献】特開2016-222183(JP,A)
【文献】特開昭61-069401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00 - 5/02
F16H 55/14
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを駆動源として刃具を回転させる電動工具であって、
前記電動モータの回転出力は、前記刃具を取り付けた最終軸に至る動力伝達経路の中途に配置した中間軸に支持した中間ギヤと、前記最終軸に公差域Hクラスのはめあい公差により支持した最終ギヤとの噛み合いを経て前記最終軸に伝達され、
前記最終ギヤははす歯ギヤであり、前記最終軸との間に回転方向及び径方向及び軸方向の相対変位を許容しつつ、前記最終軸に対して回転方向に係合してトルクを伝達可能に前記最終軸に支持されており、
前記最終軸に直接接した状態で、かつ、前記最終軸の側面円柱面部と前記最終ギヤとの間に、両者の前記相対変位を緩衝する弾性部材を介在させた電動工具。
【請求項2】
請求項に記載した電動工具であって、
前記弾性部材は、前記最終軸と前記最終ギヤとの間に、径方向に圧縮された状態で介在させた電動工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載した電動工具であって、
前記弾性部材は円環形状を有しており、前記最終軸若しくは前記最終ギヤ又はその双方に周方向に沿って設けた円環形の溝部内に沿って配置された電動工具。
【請求項4】
請求項に記載した電動工具であって、
前記弾性部材は、軸方向に2つ配置された電動工具。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載した電動工具であって、
前記最終ギヤは前記最終軸に対してキー結合された電動工具。
【請求項6】
請求項に記載した電動工具であって、
前記最終軸側のキー溝が前記弾性部材が配置された円環形の溝部に交差して設けられ、前記キー結合のキーに、前記弾性部材の前記最終ギヤ側のキー溝内への進入を規制する張り出し部を設けた電動工具。
【請求項7】
請求項1又は2に記載した電動工具であって、
前記弾性部材は柱形状を有しており、前記最終軸若しくは前記最終ギヤ又はその双方に軸方向に沿って設けた直線形の溝部内に沿って配置された電動工具。
【請求項8】
請求項に記載した電動工具であって、
前記弾性部材は、角柱形を有し、前記最終ギヤの内周孔の軸回りの複数個所に軸方向に沿って設けた直線形の各溝部内に配置した電動工具。
【請求項9】
請求項1又は2に記載した電動工具であって、
前記最終軸に径方向に張り出す張り出し部を設け、該張り出し部と前記最終ギヤとの間で前記弾性部材を軸方向に圧縮された状態で介在させた電動工具。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、作業者が手に持って移動操作することにより切断材に円板形の刃具を切り込ませて切断加工を行う携帯用切断機等の電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の携帯用切断機は、駆動源としての電動モータの回転出力を減速して、円板形の刃具を取り付けた出力軸に伝達する駆動経路を有している。電動モータの回転出力を減速するための減速機構としては例えばギヤの噛み合いにより減速するギヤ列が用いられている。このギヤ減速機構では、コンパクト性を確保しつつ刃具のより大きな切断力を実現するために電動モータの回転出力を2段階のギヤ列で減速する2段減速機構が提供されている。下記の特許文献には、ギヤ列を主体とする減速機構が開示されており、特に特許文献1,2にはこの2段減速機構が開示されている。特許文献1,2には、中間軸に対して緩衝部材を介在させることによりその振動や騒音を低減させる技術が開示されている。そして、特許文献3には、1段減速機構として上で2番軸と2番ギヤの間をクリアランスの多い隙間バメ等の緩い連結手段で連結し、間に緩衝部材を介在させる技術が開示されている。特許文献4には、同じく1段減速機構とした上で2番軸と2番ギヤの間に回転方向に緩衝部材を介在させる機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-90393号公報
【文献】特開2010-194697号公報
【文献】特開2005-324375号公報
【文献】特開2005-297125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の2段減速機構(特許文献1,2)では、最終軸(出力軸)に対して最終ギヤが圧入されて実質的に一体化されることで最終ギヤと最終軸と刃具の3者が重い質量で一体化されているため、最終ギヤに対して刃具の回転による大きな慣性モーメントが作用する。さらに、モータ軸は重い質量のロータと一体化されているため、特に刃具を空転させる無負荷時には、軽い質量の中間軸は、モータ軸と最終軸の慣性モーメントの双方の作用を受けて不規則回転し、その結果最終ギヤと噛み合う駆動側の中間ギヤとの間で噛み合い歯相互の反発が繰り返されるいわゆる打ち合い振動が発生し、これが無負荷時におけるギヤ音(ガラガラ音)を生じさせていた。なお、1段減速機構(特許文献3,4)の場合には質量の軽い中間軸が存在しないため、無負荷時のガラガラ音は生じていなかった。
【0005】
本発明は、携帯用切断機等の電動工具において、特に無負荷時における減速ギヤ列等のギヤ音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は以下の各発明により解決される。第1の発明は、電動モータを駆動源として刃具を回転させる電動工具である。第1の発明では、電動モータの回転出力は、刃具を取り付けた最終軸に至る動力伝達経路の中途に配置した中間軸に支持した中間ギヤと、最終軸に支持した最終ギヤとの噛み合いを経て最終軸に伝達される。第1の発明では、最終ギヤは、最終軸との間に回転方向の相対変位を許容しつつ、最終軸に対して回転方向に係合してトルクを伝達可能に最終軸に支持されている。第1の発明では、最終軸と最終ギヤとの間に、両者の相対変位を緩衝する弾性部材を介在させた構成となっている。
【0007】
第1の発明によれば、最終軸に対して最終ギヤの回転方向の相対変位が許容され、かつ、最終軸に対する最終ギヤの相対変位が、弾性部材により緩衝されることにより、無負荷時において最終ギヤに作用する慣性モーメントを従来よりも小さくすることができ、これにより最終ギヤと中間ギヤとの噛み合い歯の反発(打ち合い振動)が低減されて、ガラガラ音等のギヤ音が低減される。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、最終軸と最終ギヤとの間に、両者の回転方向及び径方向の相対変位を緩衝するように弾性部材を介在させた電動工具である。
【0009】
第2の発明によれば、最終ギヤの最終軸に対する回転方向及び径方向の相対変位が許容され、かつこの相対変位が弾性部材により緩衝されることにより、無負荷時における最終ギヤと中間ギヤとの噛み合い歯の反発が低減されて、ギヤ音が低減される。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、最終ギヤにねじれがある場合に、最終軸と最終ギヤとの間に、両者の軸方向の相対変位を緩衝するように弾性部材を介在させた電動工具である。
【0011】
第3の発明によれば、最終ギヤとして、バックラッシュを小さくして大きなトルクを伝達可能なはす歯ギヤやスパイラルベベルギヤなどのねじれがあるギヤを用いた場合には、最終ギヤに軸方向の力がはたらくため、軸方向の振動が生じやすい。この場合、回転方向及び径方向に加えて軸方向についても相対変位を許容することにより、無負荷時における慣性モーメントの各方向への作用を低減して、中間ギヤとの間の噛み合い歯の反発をより確実に低減することができ、ひいてはギヤ音の静音化をより確実に図ることができる。
【0012】
第4の発明は、第1~第3の何れか一つの発明において、弾性部材は、最終軸と最終ギヤとの間に、径方向に圧縮された状態で介在させた電動工具である。
【0013】
第4の発明によれば、径方向に圧縮状態で介在された弾性部材により、最終ギヤの最終軸に対する回転方向、径方向あるいは軸方向の変位が緩衝されて、中間ギヤに対する噛み合い歯の反発が低減されるとともに、弾性部材の弾性力以外に、弾性部材と最終軸、弾性部材と最終ギヤとの間に発生する摩擦摺動によっても無負荷時のギヤ音が低減される。
【0014】
第5の発明は、第1~第4の何れか一つの発明において、弾性部材は円環形状を有しており、最終軸若しくは最終ギヤ又はその双方に周方向に沿って設けた円環形の溝部内に沿って配置された電動工具である。
【0015】
第5の発明によれば、円環形の弾性部材として例えばOリングが溝部内に沿って装着される構成であることにより、組み立て性を向上させることができる。
【0016】
第6の発明は、第5の発明において、弾性部材は、軸方向に2つ配置された電動工具である。
【0017】
第6の発明によれば、弾性部材としての例えばOリングが軸方向に隣接し、若しくは一定の間隔をおいて軸方向に2つ配置されることで、最終ギヤの最終軸に対する相対変位がより確実に緩衝されるとともに、最終ギヤの姿勢の安定化を図ることができる。
【0018】
第7の発明は、第5又は第6の発明において、最終ギヤは最終軸に対してキー結合されており、最終軸側のキー溝が弾性部材が配置された円環形の溝部に交差して設けられ、キー結合のキーに、弾性部材の最終ギヤ側のキー溝内への進入を規制する張り出し部を設けた電動工具である。
【0019】
第7の発明によれば、弾性部材をキーに接近させて配置することで、相対変位の緩衝機能をより高めつつ、最終ギヤ側のキー溝内への進入が張り出し部により規制される。弾性部材としての例えばOリングが変形して、最終軸側のキー溝に対向して設けられた最終ギヤ側のキー溝内に進入すると、当該弾性部材の緩衝機能が損なわれるとともに損傷するおそれがある。キーに設けた張り出し部により弾性部材の円環形溝内からの離脱が防止されることにより、その緩衝機能が維持され、その損傷が未然に防止される。
【0020】
第8の発明は、第1~第4の発明において、弾性部材は柱形状を有しており、最終軸若しくは最終ギヤ又はその双方に軸方向に沿って設けた直線形の溝部内に沿って配置された電動工具である。
【0021】
第8の発明によれば、弾性部材として、例えばOリング等の円環形の弾性部材ではなく、より単純な形状である柱形状の弾性部材を最終軸と最終ギヤとの間に介在させておくことにより、両者の相対変位を許容して最終ギヤに作用する慣性モーメントを小さくして中間ギヤの噛み合い歯に対する反発を抑制するとともに、柱形状の弾性部材により最終ギヤの最終軸に対する相対変位を緩衝することでも噛み合い歯の反発が抑制される。
【0022】
第9の発明は、第8の発明において、弾性部材は、角柱形を有し、最終ギヤの内周孔の軸回りの複数個所に軸方向に沿って設けた直線形の各溝部内に配置した電動工具である。
【0023】
第9の発明によれば、最終軸と最終ギヤとの間において軸回りの複数個所に軸方向に沿って介在させた角柱形の弾性部材により、両者の回転方向、径方向及び軸方向の相対変位が緩衝される。直線形の溝部は、例えば内周孔のキー溝と一緒に加工することにより加工コストの低減を図ることができる。また、最終軸側に溝部を加工する場合に比して加工コストの低減を図ることができる。
【0024】
第10の発明は、第1~第4の何れか一つの発明において、最終軸に径方向に張り出す張り出し部を設け、この張り出し部と最終ギヤとの間で弾性部材を軸方向に圧縮された状態で介在させた電動工具である。
【0025】
第10の発明によれば、最終ギヤのねじれ角が大きい場合であっても、最終軸と最終ギヤとの間において軸方向に圧縮状態で介在された弾性部材により、最終ギヤの最終軸に対する回転方向、径方向に加えて特に軸方向の相対変位が効率よく緩衝される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る携帯用切断機の縦断面図である。本図は、切断が進行する前方側から見た状態を示している。本図中ギヤ列については、図2中(I)-(I)線で示すようにモータ軸、中間軸及び最終軸の軸心を通る断面矢視図で示されている。
図2】ギヤ列を図1中矢印(II)方向(回転刃具側)から見た模式図である。
図3】第1実施形態に係るギヤ緩衝構造を備えた出力軸周辺の縦断面図である。
図4図3の(IV)-(IV)線断面矢視図であって、第1実施形態に係るギヤ緩衝構造の横断面図である。
図5】第1実施形態に係るギヤ緩衝構造の分解斜視図である。
図6】第2実施形態に係るギヤ緩衝構造を備えた出力軸周辺の縦断面図である。
図7図6の(VII)-(VII)線断面矢視図であって、第2実施形態に係るギヤ緩衝構造の横断面図である。
図8】第2実施形態に係るギヤ緩衝構造の分解斜視図である。
図9】第3実施形態に係るギヤ緩衝構造を備えた出力軸周辺の縦断面図である。
図10図9の(X)-(X)線断面矢視図であって、第3実施形態に係るギヤ緩衝構造の横断面図である。
図11】第3実施形態に係るギヤ緩衝構造の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態を図1図11に基づいて説明する。以下説明する実施形態では、電動工具の一例として携帯用切断機を例示する。図1は、本発明の実施形態に係る携帯用切断機1を示している。携帯用切断機1は、携帯マルノコとも称される手持ち式の切断工具で、切断材Wの上面に当接させる矩形平板形状のベース2と、ベース2の上面側に支持した切断機本体10を備えている。
【0028】
切断機本体10は、駆動源としての電動モータ11と、円形の回転刃具12と、ループ形のハンドル部13を備えている。回転刃具12には、主として木材を切断するための丸鋸刃が用いられている。回転刃具12の上側ほぼ半周の範囲は固定カバー14で覆われている。
【0029】
固定カバー14の図1において右側部に、減速ギヤ部15が設けられている。減速ギヤ部15の左側に電動モータ11が結合されている。減速ギヤ部15のほぼ円筒形状を有するギヤハウジング15aは固定カバー14の右側部に一体に設けられている。減速ギヤ部15に、電動モータ11の回転出力を二段階で減速するギヤ列20が内装されている。ギヤ列20により、電動モータ11の回転出力を最終的に回転刃具12に回転動力(切断動力)として伝達する動力伝達経路が構成されている。図2には、ギヤ列20が模式的に示されている。図2は、ギヤ列20を回転刃具12側から見た状態を示している。図2中に示すように切断機本体10に対して図示右側を前側とし、図示左側を後側とする。切断機本体10が前側へ移動操作されて回転刃具12が切断材Wに切り込まれることにより切断加工が進行する。また、切断機本体10の移動操作はその後側に位置する使用者によりなされる。従ってこの明細書では、部材及び構成の左右方向については使用者を基準として用いる。
【0030】
図では示されていないが、電動モータ11のモータハウジング11dは、ギヤハウジング15aに対してねじ止めされている。円筒形のモータハウジング11dの内面に沿って固定子11eが支持されている。固定子11eの内周側に回転子11fが配置されている。回転子11fの中心を貫通して図1において左右にモータ軸11aが延びている。モータ軸11aは、左右の軸受11b,11cを介してモータ軸線M回りに回転自在に支持されている。右側(回転刃具側)の軸受11bは、ギヤハウジング15aに支持されている。左側(反回転刃具側)の軸受11cは、モータハウジング11dの左側(反回転刃具側)端部に支持されている。
【0031】
電動モータ11のモータ軸11aの先端部は、ギヤハウジング15a内に進入している。モータ軸11aの先端部には、1番ギヤ11gが設けられている。1番ギヤ11gには、2番ギヤ21が噛み合わされている。2番ギヤ21は、電動モータ11のモータ軸11aから最終出力軸としての最終軸16に至る動力伝達経路の中途に配置された中間軸22の左部に固定されている。中間軸22の右部には3番ギヤ23が一体に設けられている。中間軸22に一体に設けられた2番ギヤ21と3番ギヤ23は、中間ギヤに相当するもので相互に一体で回転する。中間軸22は、左右の軸受24,25を介してギヤハウジング15aに、中間軸線J回りに回転自在に支持されている。
【0032】
中間軸22の3番ギヤ23には、最終ギヤとしての4番ギヤ26が噛み合わされている。4番ギヤ26は、減速ギヤ部15の最終出力軸に相当する最終軸16に支持されている。1番ギヤ11gと2番ギヤ21との噛み合い、3番ギヤ23と4番ギヤ26との噛み合いを経て、電動モータ11の回転出力が2段階で減速されて最終軸16に伝達される。
【0033】
最終軸16は、回転刃具側の2つの軸受27,28と反回転刃具側の1つの軸受29を介してギヤハウジング15aに、出力軸線S回りに回転自在に支持されている。回転刃具側の2つの軸受27,28には、ボールベアリングが用いられ、反回転刃具側の1つの軸受29にはニードルベアリングが用いられている。
【0034】
最終軸16の先端側は、固定カバー14内に突き出されている。固定カバー14内において、最終軸16の先端部に回転刃具12が取り付けられている。回転刃具12は、アウタフランジ12aとインナフランジ12b間に挟み込まれた状態で、最終軸16の先端面に固定ねじ12cを締め込んで取り付けられている。
【0035】
回転刃具12の下部側は、ベース2の窓部2aを経て下面側へ突き出されている。ベース2の下面側へ突き出された回転刃具12の下部側の周囲は、可動カバー17で覆われている。可動カバー17は、回転刃具12の周囲に沿って開閉可能に設けられている。
【0036】
減速ギヤ部15の上方にループ形のハンドル部13が設けられている。ハンドル部13の内周側にトリガ形式のスイッチレバー18が設けられている。スイッチレバー18を指先で上方へ引き操作すると電動モータ11が起動する。
【0037】
本実施形態は、3番ギヤ23に噛み合わされた4番ギヤ26の最終軸16に対する支持構造であって、主として4番ギヤ26に付加される慣性モーメントを低減するための緩衝支持構造について特徴を有している。本実施形態では、3番ギヤ23と4番ギヤ26には、はす歯ギヤが用いられている。はす歯ギヤの噛み合いにより、バックラッシュを低減しつつ、大きな回転動力(トルク)が効率よく伝達されるようになっている。以下、4番ギヤ26の緩衝構造に係る複数の実施形態について説明する。図3図5には、第1実施形態に係る4番ギヤ26の緩衝構造が示されている。
【0038】
図3及び図5に示すように、4番ギヤ26は、最終軸16に対して圧入ではなく、キー結合されている。嵌め合いの設定は、H嵌合等のなるべくクリアランスの少ない嵌め合い設定にすることでギヤの挙動を安定化しつつ、締め代がない設定(圧入にならない設定)にしている。このため、最終軸16の外周面には、キー30を挿入するためのキー溝16aが設けられている。キー溝16aは出力軸線Sに沿って長く延びている。キー溝16aの左右にそれぞれ円環形状の溝部16b,16cが設けられている。図4及び図5に示すように左右の溝部16b,16cは、外周面全周にわたって設けられている。左右の溝部16b,16cのそれぞれに円環形の弾性部材31,32が嵌め込まれている。このため、左右の弾性部材31,32は、それぞれ径方向に圧縮された状態で介在されている。従って、左右の溝部16b,16cの底部と左右の側壁部、及び4番ギヤ26の内周面に、それぞれ弾性部材31,32が弾性的に押圧された状態となっている。本実施形態では、弾性部材31,32としてゴム素材のOリングが用いられている。
【0039】
4番ギヤ26の内周孔26aにも、キー30を挿入するためのキー溝26bが設けられている。4番ギヤ26は、H7程度のはめあい公差により最終軸16上に支持されている。このため、4番ギヤ26の内周孔26aと最終軸16の外周面との間にはごくわずかな隙間(クリアランス)が設けられている。従って、圧入による場合とは異なって、4番ギヤ26は、径方向の変位を含めて出力軸線S回りの回転について僅かな変位が許容される状態で支持されている。
【0040】
キー30の左右には、それぞれ出力軸線S方向に張り出す張り出し部30a,30bが設けられている。図3に示すように左右の張り出し部30a,30bは、それぞれ左右の弾性部材31,32の外周側(上側)へ張り出している。この左右の張り出し部30a,30bによって、弾性部材31,32の、4番ギヤ26側のキー溝26bへの進入が規制されてその損傷が防止されるようになっている。
【0041】
4番ギヤ26の回転刃具側(図3において左側)への変位は、2つの軸受27,28を固定するロックナット33により規制されている。4番ギヤ26の反回転刃具側(図3において右側)への変位は、止め輪34により規制されている。
【0042】
以上のように構成した第1実施形態に係る4番ギヤ26の緩衝構造によれば、最終軸16に対して最終ギヤとしての4番ギヤ26の回転方向若しくは径方向の相対変位がはめあい程度の僅かな範囲で許容されることにより、無負荷時において4番ギヤ26に作用する慣性モーメントを従来よりも小さくすることができ、これにより4番ギヤ26と3番ギヤ23との噛み合い歯の反発(打ち合い振動)が低減されて、ガラガラ音等のギヤ音が低減される。
【0043】
また、最終軸16に対する4番ギヤ26の相対変位が、弾性部材31,32により緩衝されることによっても噛み合い歯の反発(打ち合い振動)が抑制されてギヤ音が低減される。
【0044】
しかも、最終ギヤとしての4番ギヤ26として、はす歯ギヤが用いられていることにより、3番ギヤ23との噛み合いについてバックラッシュを低減しつつ4番ギヤ26の回転方向、径方向及び出力軸線S方向の変位が弾性部材31,32により緩衝されることから、この点でも4番ギヤ26の無負荷時における慣性モーメントの各方向への作用を低減して、3番ギヤ23との間の噛み合い歯の反発をより確実に低減することができ、ひいてはギヤ音の静音化をより確実に図ることができる。
【0045】
また、左右2つの弾性部材31,32が、最終軸16と4番ギヤ26との間に、径方向に圧縮された状態で介在されていることにより、4番ギヤ26の最終軸16に対する回転方向、径方向あるいは出力軸線S方向の変位がより確実に緩衝されて、3番ギヤ23に対する噛み合い歯の反発が低減される。
【0046】
また、キー30には、出力軸線S方向であって弾性部材31,32の側方に張り出す張り出し部30a,30bが設けられている。係る張り出し部30a,30bによれば、弾性部材31,32をキー30に接近させて配置することで、4番ギヤ26の最終軸16に対する相対変位の緩衝機能をより高めつつ、4番ギヤ26側のキー溝26b内への弾性部材31,32の進入が規制されることにより、弾性部材31,32の緩衝機能が維持されるとともに損傷が防止される。また、張り出し部30a,30bにより弾性部材31,32の溝部16b,16c内からの離脱が防止されることから、この点でもその緩衝機能が維持され、その損傷が未然に防止される。
【0047】
以上説明した4番ギヤ26の緩衝支持構造については、種々変更を加えることができる。例えば、3番ギヤ23と4番ギヤ26がはす歯ギヤである場合を例示したが、平歯車であっても同様に適用することができる。また、キー30に設けた張り出し部30a,30bは省略してもよい。
【0048】
図6図8には、第2実施形態に係る緩衝支持構造が示されている。変更を要しない部材及び構成については第1実施形態と同位の符合を用いてその説明を省略する。第2実施形態に係る緩衝支持構造でも、4番ギヤ26の最終軸16に対する結合手段として圧入ではなくキー結合が用いられている。このため、4番ギヤ26は最終軸16に対してH7程度のはめ合い公差により回転方向、径方向について僅かなクリアランスをもって支持されている。第2実施形態ではキー30について、第1実施形態の張り出し部30a,30bは省略されている。
【0049】
また、第1実施形態では、弾性部材31,32がキー30の出力軸線S方向の左右2箇所に配置された構成となっているが、第2実施形態では3つの弾性部材35が出力軸線S回りの3箇所に配置された構成となっている点で第1実施形態とは異なっている。
【0050】
図7及び図8に示すように4番ギヤ26の内周孔26aには、1つのキー溝26bに加えて、3つの矩形の溝部26cが設けられている。3つの溝部26cは、出力軸線S回りの三等分位置に設けられている。隣接する2つの溝部26c間に1つのキー溝26bが配置されている。3つの溝部26cは、キー溝26bと同じく、内周孔26aの左端から右端に至って貫通する直線形に設けられている。この3つの溝部26c内に角柱形の弾性部材35が弾性的に嵌め込まれている。
【0051】
4番ギヤ26の内周孔26aに沿って嵌め込まれた3つの弾性部材35が最終軸16の外周面に弾性的に押圧された状態で介在されている。
【0052】
図6に示すように第2実施形態の場合、4番ギヤ26の出力軸線S方向の変位は、ロックナット33の内周側に介在させたスリーブ36と止め輪34により規制されている。
【0053】
以上のように構成した第2実施形態に係る緩衝支持構造によっても、4番ギヤ26が最終軸16に対して、回転方向、径方向及び軸方向についてはめあい程度のクリアランスにより僅かな範囲で変位可能に支持されていることから無負荷時における慣性モーメントの作用を小さくして3番ギヤ23との反発を低減し、これによりギヤ音の静音化を図ることができる。
【0054】
また、第2実施形態によれば、第1実施形態のようなOリング等の円環形の弾性部材31,32ではなく、角柱形の弾性部材35を最終軸16と4番ギヤ26との間に介在させておくことにより、4番ギヤ26の最終軸16に対する相対変位が緩衝されて噛み合い歯の反発が抑制される。
【0055】
第2実施形態では、角柱形の弾性部材35を3つ介在させた構成を例示したが、円柱形の弾性部材を4番ギヤ26の内周孔26aと最終軸16との間であって出力軸線S回りの2箇所若しくは4箇所以上に介在させた構成としてもよい。
【0056】
図9図11には、第3実施形態に係る4番ギヤ26の最終軸16に対する緩衝支持構造が示されている。変更を要しない部材及び構成については上記2実施形態と同位の符合を用いてその説明を省略する。
【0057】
第3実施形態に係る緩衝支持構造でも、4番ギヤ26の最終軸16に対する結合手段として圧入ではなくキー結合が用いられている。このため、4番ギヤ26は最終軸16に対してH7程度のはめ合い公差により回転方向、径方向について僅かなクリアランスをもって支持されている。第3実施形態でも第2実施形態と同じく、キー30について、第1実施形態の張り出し部30a,30bは省略されている。
【0058】
図9に示すように、第3実施形態では、円環形の弾性部材38が4番ギヤ26の回転刃具側の端面に弾性的に押圧された構成となっている。2つの回転刃具側の軸受27,28を出力軸線S方向に固定するロックナット33の内周側にスリーブ37が介在されている。スリーブ37は、最終軸16の外周側に例えば圧入されて回転方向、径方向及び出力軸線S方向に固定されている。
【0059】
スリーブ37の反回転刃具側の端部には、径方向に張り出すフランジ部37aが設けられている。このフランジ部37aと、4番ギヤ26の回転刃具側の端面との間に、1つの弾性部材38が出力軸線S方向に弾性的に挟み込まれている。4番ギヤ26の反回転刃具側への変位は、第1、第2実施形態と同じく止め輪34により規制されている。
【0060】
第3実施形態でも、弾性部材38として1つのゴム製のOリングが用いられている。フランジ部37aの反回転刃具側の端面には、弾性部材38の径方向への変位を規制する段差部37bが設けられている。
【0061】
このように構成された第3実施形態に係る4番ギヤ26の緩衝支持構造によっても、4番ギヤ26が最終軸16に対して、回転方向、径方向及び軸方向についてはめあい程度のクリアランスにより僅かな範囲で変位可能に支持されていることから無負荷時における慣性モーメントの作用を小さくして3番ギヤ23との反発を低減し、これによりギヤ音の静音化を図ることができる。
【0062】
また、第3実施形態によっても、4番ギヤ26の最終軸16に対する回転方向、径方向及び出力軸線S方向の相対変位が弾性部材38により緩衝されることにより、3番ギヤ23に対する噛み合い歯の反発が抑制されてギヤ音の静音化が図られる。
【0063】
以上説明した第3実施形態では、弾性部材38として1つのOリングを挟み込む構成を例示したが、複数のOリングを挟み込む構成、あるいは1つの円板形の弾性シート材若しくは円筒形の弾性スリーブを挟み込む構成としてもよい。また、複数個の弾性凸部をフランジ部37aの周方向に沿って挟み込む構成としてもよい。
【0064】
以上説明した各実施形態に係る緩衝支持構造を組み合わせた構成としてもよい。第1実施形態において、最終軸16側に弾性部材31,32を装着した構成を例示したが、最終ギヤ26の内周孔26a側若しくは双方に弾性部材を装着する構成としてもよい。軸側若しくは孔側に装着する弾性部材は、1つでもよく、また2つ以上であってもよい。
【0065】
さらに、第2実施形態において、弾性部材35を最終ギア26の内周孔26a側に装着した構成を例示したが、最終軸16側若しくは双方に装着する構成としてもよい。何れの場合も、弾性部材35を軸回りの三等分位置に配置する構成とする他、軸回りの1箇所、2箇所、あるいは4箇所以上に配置する構成とすることができる。
【0066】
また、例示した各実施形態では、モータ軸線M、中間軸線J、出力軸線Sが相互に平行であるギヤ列20を例示したが、ベベルギヤを介在させて各軸線が交差する形態のギヤ列についても例示した緩衝支持構造を適用することで同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
さらに、例示した緩衝支持構造は、中間軸22を有する二段減速に限らず、三段以上の減速ギヤ列、あるいはギヤ列に加えてベルト伝達機構を併存させた減速ギヤ部について適用することができる。
【0068】
また、駆動側のギヤと従動側(最終軸)のギヤの双方に噛み合い、減速させず単に軸間距離を確保することを目的とするアイドルギヤが介在するギヤ列についても例示した緩衝支持構造を適用することができる。
【0069】
さらに、例示した緩衝支持構造は、木材切断用の携帯マルノコに限らず、刃具としてダイヤモンドホイールを備えるカッタ、砥石を回転刃具として備えるディスクグラインダ等のその他の形態の携帯用切断機に適用することができる。さらに、携帯用切断機にかぎらず、穴あけ工具、ねじ締め工具、ディスクグラインダあるいはポリッシャ等のその他の形態の回転動力を出力する電動工具の減速部について広く適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
W…切断材
1…携帯用切断機
2…ベース、2a…窓部
10…切断機本体
11…電動モータ
11a…モータ軸、11b,11c…軸受、11d…モータハウジング
11e…固定子、11f…回転子、11g…1番ギヤ
12…回転刃具
12a…アウタフランジ、12b…インナフランジ、12c…固定ねじ
13…ハンドル部
14…固定カバー
15…減速ギヤ部、15a…ギヤハウジング
16…最終軸(出力軸)
16a…キー溝、16b,16c…溝部
17…可動カバー
18…スイッチレバー
20…ギヤ列
21…2番ギヤ
22…中間軸
23…3番ギヤ
24,25…軸受
26…4番ギヤ(最終ギヤ)
26a…内周孔、26b…キー溝、26c…溝部
27,28,29…軸受
30…キー
30a,30b…張り出し部
31,32…弾性部材(第1実施形態)
33…ロックナット
34…止め輪
35…弾性部材(第2実施形態)
37…スリーブ
37a…フランジ部、37b…段差部
38…弾性部材(第3実施形態)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11