(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】増粘剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20221130BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20221130BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20221130BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221130BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221130BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20221130BHJP
A61Q 90/00 20090101ALI20221130BHJP
A23L 29/269 20160101ALN20221130BHJP
A23L 29/238 20160101ALN20221130BHJP
【FI】
C09K3/00 103G
A61K8/73
A61K8/19
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/36
A61Q90/00
C09K3/00 103F
A23L29/269
A23L29/238
(21)【出願番号】P 2018193887
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡史
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓矩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】上田 佳宏
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-057575(JP,A)
【文献】特開2016-208895(JP,A)
【文献】特開2013-234291(JP,A)
【文献】特開2006-271258(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0021112(US,A1)
【文献】特開2007-110983(JP,A)
【文献】特開2016-079348(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108909(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンタンガム、多糖類(キサンタンガムを除く)及び
マグネシウム塩
の混合物を含有する増粘剤であって、前記増粘剤を蒸留水に溶解したときの水温20℃における粘度が300mPa・s±50mPa・sとなる量を、蒸留水に溶解したときの水温20℃と45℃における粘度の変化率{(45℃における粘度-20℃における粘度)/20℃における粘度}×100の絶対値が、15%以下である、ことを特徴とする増粘剤。
【請求項2】
蒸留水中に、前記増粘剤を前記量溶解したときの20℃における粘度と1質量%塩化ナトリウム水溶液中に、前記増粘剤を前記量溶解したときの20℃における粘度の変化率{(塩化ナトリウム水溶液の粘度-蒸留水の粘度)/蒸留水の粘度}×100の絶対値が、30%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の増粘剤。
【請求項3】
前記多糖類は、グアーガム酵素分解物である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の増粘剤。
【請求項4】
キサンタンガム粉末、多糖類(キサンタンガムを除く)粉末及びマグネシウム塩粉末を混合する工程を有する、ことを特徴とする増粘剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は増粘剤に関し、さらに詳しくは、温度に依存することなく好適な増粘効果が得られる非感温性の増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、化粧品、医薬品、工業製品等様々な含水物質に添加して混合することにより,含水物質の粘度を増大させる増粘剤が広く利用されている。 特許文献1には、所定比率のキサンタンガムと、水溶性カルシウム塩と、水溶性クエン酸塩を含有するトロミ剤組成物が開示されている。具体的には、キサンタンガムと、キサンタンガム100質量部に対して、カルシウム換算でX質量部の水溶性カルシウム塩と、キサンタンガム100質量部に対して、クエン酸換算でY質量部の水溶性クエン酸塩を含有し、XとYとが、下記式(1)及び(2)を同時に満たす造粒品であることを特徴とするトロミ剤組成物が記載されている。
1≦X≦2.1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
4.7X-1.3≦Y≦13.7・・・・・・・・・・・・・(2)
【0003】
特許文献1のトロミ剤組成物を液状食品に混合することにより、10~60℃の広い温度帯で、所定の貯蔵弾性率及び損失正接を達成でき、溶解時に溶け残り(ダマ)が生じにくいこと、さらには、本トロミ剤組成物を用いることにより、嚥下障害者や高齢者が嚥下しやすいゲル状嚥下食が実現できることが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、クエン酸三ナトリウム、キサンタンガム、カラギナン、及びデキストリンからなる液状食品用増粘組成物が開示されている。この液状食品用増粘組成物は、液状食品用増粘組成物の全量に対してキサンタンガムが5~15質量%、カラギナンが5~15質量%、及び、デキストリンが65~89質量%となるように、キサンタンガム、カラギナン、及びデキストリンからなる粉粒体原料を流動層となし、クエン酸三ナトリウムの添加量が液状食品用増粘組成物の全量に対して1~5質量%となるように、クエン酸三ナトリウムを含むバインダー液を噴霧し、該粉粒体原料を造粒物とし、該造粒物を乾燥することにより製造されることが示されている。
【0005】
特許文献2の液状食品用増粘組成物は、手撹拌のような緩い撹拌条件でも良好に分散するので、油脂分やタンパク質分、ミネラル分等を比較的多く含有する液状食品に少量を添加した場合であっても、粘度の立ち上がりが早く、平衡粘度が高くなるという優れた粘度発現性を有することが記載されている。そして、一般的に水溶性高分子による粘度付与効果が得られにくいといわれる流動食や牛乳等の液状食品に添加可能であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-271258号公報
【文献】特開2009-55号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術の増粘剤では、所定の成分を含有する所定の温度の液状物に好適な粘度を付与することは可能である。しかしながら、液状物の温度変化、媒体の種類、塩分等の添加による粘度変化に関しては、検討されていない。本発明者らは、上記特許文献の組成と類似すると考えられる市販の増粘剤では、液状物の温度変化、媒体の種類、塩分等の添加により、液状物の粘度が大幅に変動することを確認した。このような増粘剤を用いて、増粘物を調製する場合、使用する液状物の温度や組成に応じて最適な増粘剤を選択する必要があり、増粘物の調製が煩雑となる。そこで、本発明では、液状物の温度や組成に依らず安定した粘度を得ることが可能な増粘剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、キサンタンガム、多糖類(キサンタンガムを除く)及び金属塩を含有する増粘剤において、上記課題を解決できることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明の増粘剤は、キサンタンガム、多糖類(キサンタンガムを除く)及び金属塩を含有する増粘剤であって、上記増粘剤を蒸留水に溶解したときの水温20℃における粘度が300mPa・s±50mPa・sとなる量を、蒸留水に溶解したときの水温20℃と45℃における粘度の変化率{(45℃における粘度-20℃における粘度)/20℃における粘度}×100の絶対値が、15%以下である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の増粘剤は、蒸留水中に、上記増粘剤を上記量溶解したときの20℃における粘度と1質量%塩化ナトリウム水溶液中に、上記増粘剤を上記量溶解したときの20℃における粘度の変化率{(塩化ナトリウム水溶液の粘度-蒸留水の粘度)/蒸留水の粘度}×100の絶対値が、30%以下であることが好ましい。
【0010】
また、上記多糖類は、グアーガム酵素分解物であることが好ましい。
さらに、上記金属塩は、マグネシウム塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の増粘剤によれば、使用する液状物の温度変化に起因する粘度変化を抑制することができ、安定した粘度の液状物を得ることができる。また、塩の添加等、液状物の組成変化による粘度変化も効果的に低減することができる。そのため、使用する液状物の温度や組成に依り増粘剤を変更する必要がなく、様々な分野において、増粘物の調製を効率的に行うことが可能となる。
本発明の増粘剤は、食品、化粧品、医薬品及び工業製品等に適用することができる。それらの製品に本発明の増粘剤を適用することにより、気温等使用環境が変化しても安定した粘度が得られ、常に所望の流動性、塗布性、塗布感、潤滑性等の特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】多糖類としてデキストリン(A)又は、グアーガム酵素分解物(B)を用いたときの、金属塩含有量及び、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率との関係をプロットした結果を示す。
【0013】
【
図2】参考例、実施例4((b1)デキストリン+(c4)硫酸マグネシウム)、実施例10((b2)グアーガム酵素分解物+(c1)塩化カリウム)、実施例12((b2)グアーガム酵素分解物+(c2)クエン酸三ナトリウム)、実施例15((b2)グアーガム酵素分解物+(c3)乳酸カルシウム))及び実施例17((b2)グアーガム酵素分解物+(c4)硫酸マグネシウム))の水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の増粘剤は、キサンタンガム、多糖類(キサンタンガムを除く)及び金属塩を含有する。本発明では、以下に示す方法で増粘剤の成分及び組成を調整することにより、増粘物の温度が変化しても、所定の粘度を安定して維持できる増粘剤を提供する。具体的には、本発明の増粘剤を蒸留水に溶解したときの水温20℃における粘度が300mPa・s±50mPa・sとなる量を、蒸留水に溶解したときの水温20℃と45℃における粘度の変化率{(45℃における粘度-20℃における粘度)/20℃における粘度}×100の絶対値が、15%以下である、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の好ましい形態では、増粘物に食塩等の塩を添加しても、所定の粘度を安定して維持することができる。具体的には、蒸留水中に、上記増粘剤を上記量溶解したときの20℃における粘度と1質量%塩化ナトリウム水溶液中に、増粘剤を上記量溶解したときの20℃における粘度の変化率{(塩化ナトリウム水溶液の粘度-蒸留水の粘度)/蒸留水の粘度}×100の絶対値を、30%以下とすることができる。
以下に、本発明の増粘剤のそれぞれの成分の詳細について説明する。
【0016】
(A)キサンタンガム
本発明の増粘剤は、増粘多糖類であるキサンタンガムを含む。キサンタンガムは、トウモロコシを原料とするデンプンを微生物(Xanthomonas campestris)が菌体外に産出することにより得られる水溶性の天然多糖類である。一次構造は、D-グルコースがβ-1,4結合した主鎖及び該主鎖のアンヒドログルコースに結合するD-マンノース、D-グルクロン酸からなる側鎖を有する。なお、側鎖は、主鎖のD-グルコース残基1つおきに、D-マンノース2分子とD-グルクロン酸が結合している。また、側鎖の末端にあるD-マンノースは、ピルビン酸塩になっている場合があり、主鎖に結合したD-マンノースのC-6位はアセチル化されている場合がある。上記多糖類の分子量は、200万ないし5000万程度のものが知られている。本発明においては、キサンタンガムの分子量は特に限定されない。
【0017】
本発明では、市販のキサンタンガムを用いることもできる。市販品としては、ネオソフトXR(太陽化学株式会社製)、SATIAXANE CX90(Cargil社製)等が挙げられる。
【0018】
キサンタンガムの含有量は、増粘剤全体に対して、20質量%以上、60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上、50質量%以下であることがより好ましい。さらに、35質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以上、45質量%以下であることがより好ましい。キサンタンガムの含有量を上記範囲とすることにより、より良好な粘性と分散性を兼ね備えた増粘剤を得ることができる。
【0019】
(B)多糖類
本発明の増粘剤は、増粘多糖類であるキサンタンガムの他に少なくとも1種の多糖類を含む。これらの多糖類は、キサンタンガムの分散性を向上させるために用いられる。
このような多糖類としては、デキストリン、砂糖、オリゴ糖、グアーガム酵素分解物、アラビアガム、ポリデキストロース、イヌリン、アラビノガラクタン、でんぷん、セルロース等を用いることができる。
【0020】
上記多糖類のなかでもグアーガム酵素分解物を用いることが好ましい。グアーガム(Cyamopsis tetragonoloba)は、パキスタンやインドで栽培されている一年生豆科植物の種子から得られる多糖類であり、主鎖がマンノース、側鎖がガラクトースのガラクトマンナンで構成される水溶性高分子である。グアーガム酵素分解物は、このガラクトマンナンを酵素的に部分分解したものである。グアーガム酵素分解物には、キサンタンガムの分散性を向上させる効果だけでなく、液状物の粘度を安定化する効果があることが確認されている。
グアーガム酵素分解物の市販品としては、サンファイバー(太陽化学株式会社製)等が挙げられる。
【0021】
(C)金属塩
本発明の増粘剤は、さらに金属塩を含む。一般に、金属塩の添加により、分散性が向上し、より均一な増粘物を調製できることが知られている。本発明の増粘剤の構成では、金属塩の添加により、粘度安定性が向上することが確認された。
金属塩としては、特に限定されないが、一般に使用されるカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩のうちから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、特にマグネシウム塩が好ましい。マグネシウム塩を用いることにより、より低濃度で、液状物の温度や組成の変化に起因する粘度変化をより効果的に低減することができる。
【0022】
金属塩の添加量は、増粘剤全体に対して、1質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上、10質量%以下であることがより好ましい。上記範囲で、金属塩を添加することにより、食品等に用いたときでも香味に影響を及ぼすことなく、温度や組成の変化に起因する液状物の粘度変化を抑制することができる。
なお、金属塩としては、通常の市販品等を用いることができる。
【0023】
カリウム塩としては、塩化カリウム、炭酸カリウム、硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、硝酸カリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、DL-酒石酸水素カリウム、L-酒石酸水素カリウム、ピロリン酸四カリウム、グルコン酸カリウム、L-グルタミン酸カリウム、酢酸カリウム、ソルビン酸カリウム及びそれらの水和物等を用いることができる。
これらのカリウム塩は、単独で用いることも複数種を組み合わせて用いることもできる。また、カリウム塩と他の金属塩とを併用することもできる。
【0024】
ナトリウム塩としては、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、L-グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、臭化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、フマル酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、5'-イノシン酸二ナトリウム、5'-ウリジル酸二ナトリウム、5'-グアニル酸二ナトリウム、5'-シチジル酸二ナトリウム、及び5'-リボヌクレオチド二ナトリウム及びそれらの水和物等を用いることができる。
これらのナトリウム塩は、単独で用いることも複数種を組み合わせて用いることもできる。また、ナトリウム塩と他の金属塩とを併用することもできる。
【0025】
カルシウム塩としては、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、L-グルタミン酸カルシウム、骨未焼成カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、5'-リボヌクレオチドカルシウム及びそれらの水和物等を用いることができる。
これらのカルシウム塩は、単独で用いることも複数種を組み合わせて用いることもできる。また、カルシウム塩と他の金属塩とを併用することもできる。
【0026】
マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、L-グルタミン酸マグネシウム及びそれらの水和物等を用いることができる。
【0027】
これらのマグネシウム塩は、単独で用いることも複数種を組み合わせて用いることもできる。また、マグネシウム塩と他の金属塩とを併用することもできる。
以下に詳細を述べるとおり、マグネシウム塩は、少量の添加により、液状物の温度変化や組成変化に起因する粘度変化を効果的に抑えることができる。そのため、食品用等、香味に影響を及ぼすことから、金属塩の添加量をできるだけ少量とすることが求められる用途にも好適に用いることができる。
【0028】
本発明の増粘剤には、本来の特性に影響を及ぼさない範囲で、他の添加物を添加することができる。他の添加物としては、pH調整剤等が挙げられる。
【0029】
本発明の増粘剤は、上記各成分を混合することにより得られる。
上述の(A)キサンタンガム、(B)多糖類(キサンタンガムを除く)及び(C)金属塩の組成等を調整することにより、増粘物の温度が変化しても安定した粘度を維持可能な増粘剤を得ることができる。混合方法は、特に限定されず、一般的な粉末の混合方法が適用される。具体的には、パドルミキサー、タンブラー混合、W型混合、V型混合、ドラム型混合、リボン混合、円錐スクリュー混合、ボールミル等が挙げられる。本発明の増粘剤では、上記成分を粒子レベルで均一に混合することにより、より優れた粘度安定性を得ることができる。
なお、本発明の増粘剤は造粒により製造することもできる。
【0030】
(B)多糖類として、グアーガム酵素分解物を用いることにより、塩を添加したときの粘度変化が効果的に抑えられるため、温度変化及び塩の添加に対して安定した粘度を維持できる増粘剤が得られる。また、金属塩として、マグネシウム塩を用いることにより、より少量の金属塩の添加で、上述の粘度安定性が得られる。このため、食品用途等、香味に影響を及ぼすことから、金属塩の添加量を極力低減することが求められる用途にも好適に用いられる。
【0031】
本発明の増粘剤は、食品用途をはじめ多くの用途に好適に用いることができる。食品用途の具体例としては、コーヒー、紅茶、緑茶、ココア、汁粉、ジュース、豆乳、生乳、加工乳、乳酸菌飲料、カルシウム強化飲料、食物繊維含有飲料などの飲料類、コーヒーホワイトナー、ホイッピングクリーム、カスタードクリーム、ソフトクリームなどの乳製品類、スープ、シチュー、ソース、たれ、ドレッシング、練り辛子、練りわさびなどの液状調理品、調味料類、フルーツソース、フルーツプレパレーションなどの果肉加工品類、流動食類、液状またはペースト状サプリメント類、液状またはペースト状ペットフード類等が挙げられる。
【0032】
また、本発明の増粘剤は、液状化粧品にも適用することができる。液状化粧品の具体例としては、皮膚用化粧品(化粧水、乳液、美容液、パック、モイスチャークリーム、マッサージクリーム、コールドクリーム、クレンジングクリーム、洗顔料、バニシングクリーム、エモリエントクリーム、ハンドクリーム、制汗・デオドラント剤、日焼け止め用化粧料など)、仕上げ用化粧品(ファンデーション、おしろい、口紅、リップクリーム、ほほ紅、サンスクリーン化粧料、まゆ墨、マスカラ等まつげ用化粧料、マニキュアや除光液など)、頭髪用化粧品(シャンプー、ヘアリンス、ヘアトニック、ヘアトリートメント、ポマード、チック、ヘアクリーム、香油、整髪料、ヘアスタイリング剤、ヘアスプレー、染毛料、育毛剤、養毛剤など)、その他ハンドクリーナーのような洗浄剤、浴用化粧品、ひげそり用化粧品、芳香剤、歯磨き剤、軟膏、貼布剤等が挙げられる。
【0033】
さらに、本発明の増粘剤は、液状医薬品に適用することもできる。液状医薬品の具体例としては、経口用製剤、経鼻用製剤、点滴用製剤、経管用製剤、軟膏、薬用化粧品、ビタミン含有保健剤、薬用育毛剤、薬用歯磨き剤、浴用剤、駆虫剤、腋臭防止剤、口内清涼剤、生体材料、貼布剤、皮膚塗布剤等が挙げられる。
【0034】
また、本発明の増粘剤は、液状工業製品に適用することもできる。液状工業製品の具体例としては、顔料、塗料、インク類、消臭・芳香剤、抗菌・防カビ剤、接着剤、コーティング剤、シーリング剤、放熱剤、各種オイル(切削油、潤滑油等)、パンク補修剤、タイヤ、自転車や自動車用チューブ、界面活性剤(分散剤)、衛生材料、湿潤材料、吸湿材料、吸着材料、表面保護剤、培養材料、洗剤、液体石けん、各種電池等が挙げられる。
【0035】
(水温20℃と45℃における粘度の変化率の測定)
本発明の増粘剤を、蒸留水に溶解したときの水温20℃における粘度が300mPa・s±50mPa・sとなる量を、蒸留水に溶解したときの水温20℃と45℃における粘度の変化率{(45℃における粘度-20℃における粘度)/20℃における粘度}×100の絶対値は、15%以下となる。
【0036】
それぞれの粘度は、以下の方法により測定される。
複数の蒸留水を準備し、異なる量の増粘剤を添加した。1分間スターラー(アズワン社製、MULTI MAGNETIC STIRRER HSDー6)で撹拌し、増粘物を得た。この増粘物の温度が20℃となるように調整した後、増粘物の粘度を測定した。粘度測定は、回転型レオメータ(マルバーン社製)を用いて、せん断速度50/秒で行った。上記結果に基づいて、検量線を作成し、増粘物の粘度が、300mPa・s±50mPa・sとなる増粘剤の量を確定した。このようにして確定した量の増粘剤を蒸留水に添加し、上記方法により、増粘物の温度が20℃のときの粘度と、増粘物の温度を45℃に調整した後の粘度を測定した。粘度測定は、増粘剤を添加してから1時間後に行った。
【0037】
なお、上記増粘剤の量に一定の幅があるときでもその範囲においては、増粘物の粘度変化は類似した挙動を示す。上記増粘剤量の範囲で、1点でも蒸留水に溶解したときの水温20℃と45℃における粘度の変化率の絶対値が15%以下となる増粘剤は、本発明の権利範囲に含まれる。
【0038】
水温20℃と45℃における粘度の変化率は、以下の式に従い算出される値である。
水温20℃と45℃における粘度の変化率(%)={(45℃における粘度-20℃における粘度)/20℃における粘度}×100
上記水温20℃と45℃における粘度の変化率の絶対値は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0039】
(水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率の測定)
本発明の増粘剤を、蒸留水中に、上記量溶解したときの20℃における粘度(Vw)と、本発明の増粘剤を、1質量%塩化ナトリウム水溶液中に、上記量溶解したときの20℃における粘度(Vs)の変化率(水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率)の絶対値は、30%以下であることが好ましい。なお、上記変化率は、以下の式に従い算出される値である。
【0040】
水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率(%)={(塩化ナトリウム水溶液の粘度(Vs)-蒸留水の粘度(Vw))/蒸留水の粘度}×100
なお、塩化ナトリウム水溶液の増粘物は、蒸留水に1質量%となる量の塩化ナトリウムを添加して、溶解するまで撹拌した後、上記量の増粘剤を添加して、1分間スターラーで撹拌することにより得た。
水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率の絶対値は、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例により本発明の実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」及び「部」は質量%及び質量部を示す。
【0042】
(参考例)
市販の増粘剤を用いて、上述した方法により、水温20℃と45℃における粘度の変化率及び水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率を測定した。それぞれの変化率は、-41%及び-37%であった。
【0043】
<増粘剤の構成成分>
(A)キサンタンガム
(a)キサンタンガム:ネオソフトXR,太陽化学株式会社製
(B)多糖類
(b1)デキストリン:NSD700、サンエイ糖化株式会社製
(b2)グアーガム酵素分解物:サンファイバーR、太陽化学株式会社製
(b3)グアーガム酵素分解物:サンファイバーHG、太陽化学株式会社製
(C)金属塩
(c1)塩化カリウム
(c2)クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)
(c3)乳酸カルシウム
(c4)硫酸マグネシウム
【0044】
(増粘剤の調製)
表1~表3に示す配合割合にて、キサンタンガム、多糖類及び金属塩を量り取り、アイボーイ広口びん(250ml用)に投入し、ハンドシェイクにより15分間混合し、実施例1~実施例19の増粘剤を得た。
同様に、表1に示す配合割合にて、各成分を量り取り、アイボーイ広口びん(250ml用)に投入し、ハンドシェイクにより15分間混合し、比較例1~比較例4の増粘剤を得た。なお、キサンタンガムと金属塩のみからなる試料では、液体中に添加した際、十分な分散性が得られなかったため、表中には、記載していない。
【0045】
(増粘物の調製及び粘度測定)
実施例1~19及び比較例1~4の増粘剤を用いて、上述した「水温20℃と45℃における粘度の変化率の測定」及び「水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率の測定」の記載に従い、増粘物を調製して、それぞれの粘度を測定して、粘度変化率を算出した。結果を表1~表3に示す。
なお、各増粘剤を蒸留水に溶解したときの水温20℃における粘度が300mPa・s±50mPa・sとなる量は、全ての実施例及び比較例において、2質量%であった。
【0046】
表1に示すように、キサンタンガムと多糖類のみからなる比較例1~4では、水温20℃と45℃における粘度の変化率は-33%~-17%の範囲となった。このことから、キサンタンガムと多糖類のみからなる増粘剤では、温度変化により大きな粘度変化が生じることが確認された。また、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率は55%~91%の範囲となり、比較例では、塩化ナトリウムの添加によっても粘度が大幅に変動することがわかった。
【0047】
これらの比較例1~4に対して、金属塩として、塩化カリウムを添加した実施例1、クエン酸三ナトリウムを添加した実施例2、乳酸カルシウムを添加した実施例3及び硫酸マグネシウムを添加した実施例4では、水温20℃と45℃における粘度の変化率が大幅に低下することが確認された。特に、実施例1及び実施例4の変化は、それぞれ0%及び-1%であり、温度変化に起因する粘度変化がほとんど生じないことがわかった。
また、実施例1~4では、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率の絶対値はいずれも30%より小さくなっており、塩化ナトリウムの添加による粘度の変動も大幅に抑制されることが確認された。
【0048】
以上の結果から、キサンタンガム、多糖類(キサンタンガムを除く)及び金属塩を含有する本発明の増粘剤では、増粘物の温度変化に起因する粘度変化を効果的に抑制できることがわかった。具体的には、本発明増粘剤では、増粘剤を蒸留水に溶解して、水温20℃における粘度が300mPa・s±50mPa・sとなる増粘剤の量を確定し、その量の増粘剤を蒸留水に溶解したとき、20℃と45℃における粘度の変化率{(45℃における粘度-20℃における粘度)/20℃における粘度}×100の絶対値を、15%以下に調整できることが確認された。
【0049】
【0050】
また、表1には、記載していないが、多糖類として、砂糖及びオリゴ糖を用いた場合、キサンタンガムと多糖類のみからなる増粘剤では、水温20℃と45℃における粘度の変化率は、-31%~-41%であった。これに対して、金属塩を添加することにより、水温20℃と45℃における粘度の変化率は、-1%程度まで低減した。このことから、多糖類として、砂糖及びオリゴ糖を用いた場合も、増粘物の温度が変化しても粘度が一定に維持されるという本発明の効果を得られることがわかった。
なお、単糖類であるぶどう糖を用いた試料では、多糖類を用いた試料には、及ばないもの一定の粘度安定性は得られることが確認された。
【0051】
表2には、実施例1、2、3及び4の試料の金属塩の添加量を3質量%から10質量%に増加した試料のそれぞれの粘度変化率を測定した結果を示す(実施例5、6、8及び9)。また、
図1(A)には、上記実施例の金属塩含有量及び水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率との関係をプロットした結果を示す。
図1に示すように、金属塩量を3質量%から10質量%に増やすことにより、いずれの金属塩の場合も、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率が大幅に低減することが確認された。ここで、(c3)乳酸カルシウムを用いた実施例8及び(c4)硫酸マグネシウムを用いた実施例9では、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率がそれぞれ、-3%及び-1%であった。これらの結果より、金属塩の添加量を調整することが、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率の低減に有効であり、特に、カルシウム塩又はマグネシウム塩を用いることにより優れた効果が得られることがわかった。
【0052】
【0053】
一方、(c2)クエン酸三ナトリウムでは、金属含有量を3質量%(実施例2)から、10質量%(実施例6)に増加すると、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率が26%から13%に低減した。そこで、より粘度安定性を向上させるために、金属塩含有量を20質量%(実施例7)まで増やした。しかし、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率は、15%に上昇した。
このことから、少量の金属塩量で、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率を十分抑制し、粘度安定性を高めるためには、最適な金属塩を選択することも重要であることが確認された。
【0054】
【0055】
表3には、実施例1、2、3及び4の試料の多糖類をデキストリンから、グアーガム酵素分解物に変更した試料のそれぞれの粘度変化率を測定した結果を示す(実施例10、12、15及び17)。また、
図1(B)には、多糖類として、グアーガム酵素分解物を用いたときの金属塩含有量及び水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率との関係をプロットした結果を示す。実施例10、12、15及び17の結果並びに
図1(A)及び(B)との比較により、金属塩として、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩のいずれを用いた場合でも、多糖類をデキストリンから、グアーガム酵素分解物に変更することにより、同じ金属塩濃度でも、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率が低減することがわかった。このことから、グアーガム酵素分解物は、増粘物への塩の添加による粘度変化の抑制に顕著な効果を有することが確認された。
【0056】
また、グアーガム酵素分解物を用いて、さらに金属塩の添加量を10質量%に増やした実施例11、13、16及び19では、いずれも20℃と45℃における粘度の変化率の絶対値及び水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率の絶対値とも5%以下であった。このことから、グアーガム酵素分解物を使用して金属塩濃度を調整することが、温度変化や塩の添加に対して安定した粘度を維持できる増粘剤を調製するために重要であることが確認された。
なお、実施例18では、多糖類として、デキストリンとグアーガム酵素分解物を併用している。このように、本発明の増粘剤では、求められる特性やコスト等を考慮して、複数の多糖類を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0057】
図2に、実施例4((b1)デキストリン+(c4)硫酸マグネシウム)、実施例10((b2)グアーガム酵素分解物+(c1)塩化カリウム)、実施例12((b2)グアーガム酵素分解物+(c2)クエン酸三ナトリウム)、実施例15((b2)グアーガム酵素分解物+(c3)乳酸カルシウム))及び実施例17((b2)グアーガム酵素分解物+(c4)硫酸マグネシウム))における水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率を示す(いずれも金属塩濃度は、3質量%)。比較として、参考例の結果も同様に示す。
【0058】
図2より、本発明の増粘剤では、市販品に比べて、水と塩化ナトリウム水溶液における粘度の変化率を大幅に低減できること確認された。特に、多糖類として、グアーガム酵素分解物を用い、金属塩として、硫酸マグネシウムを用いた実施例17では、金属塩含有量が3質量%であっても、水と塩化ナトリウム水溶液との粘度の差がほとんど認められなかった。このことから、グアーガム酵素分解物とマグネシウム塩の使用による相乗効果が明らかである。