(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/16 20060101AFI20221130BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20221130BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20221130BHJP
H02P 1/46 20060101ALI20221130BHJP
H02P 3/06 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H02P25/16
H02M7/48 L
H02P27/06
H02P1/46
H02P3/06 C
(21)【出願番号】P 2018195394
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 芳光
(72)【発明者】
【氏名】谷口 真
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-189181(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180360(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/117084(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/16
H02M 7/48
H02P 27/06
H02P 1/46
H02P 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)のクランク軸(10a)が連結されている回転軸(20a)を有する回転電機(40)に対して、直流電源(30)からの電力を変換して供給し、前記回転電機を駆動させる電力変換装置(50)であって、
前記エンジンの始動が要求された場合、前記回転電機の駆動を開始させる電力変換装置において、
前記回転電機を構成する各相巻線(42U,42V,42W)の両端のうち第1端側に電気的に接続され、前記直流電源との間で電力を伝達する第1インバータ回路(51)と、
前記回転電機を構成する各相巻線の両端のうち第2端側に電気的に接続され、前記直流電源との間で電力を伝達する第2インバータ回路(52)と、
前記第1インバータ回路及び前記第2インバータ回路を制御する制御部(60)と、を備え、
前記制御部は、前記回転電機の回転速度に応じて各相巻線に流れる電流の総和を変更する電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記回転電機の回転速度が閾値未満である場合、各相巻線に流れる電流の総和をゼロ以外とし、前記回転電機の回転速度が閾値以上である場合、各相巻線に流れる電流の総和をゼロとする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記回転電機の回転速度が閾値未満である場合、各相巻線に矩形波電流を流し、前記回転電機の回転速度が閾値以上である場合、各相巻線に正弦波電流を流す請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記閾値は、各相巻線に正弦波電流を流した場合における負荷トルクの最大値と、各相巻線に矩形波電流を流した場合における負荷トルクと、が一致する回転速度である請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記回転電機を停止させる場合、前記回転電機における回転軸の回転位置を検出する位置検出部の検出結果に基づいて、前記回転電機の駆動開始時に各相巻線に所定の電流を流した際の出力トルクが最大となる所定位置に停止させる請求項1~4のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第1インバータ回路及び前記第2インバータ回路は、各相巻線に応じた上アームスイッチ(Sp1,Sp2)及び下アームスイッチ(Sn1,Sn2)の直列接続体をそれぞれ有し、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチングにより、直流電源と各相巻線との間の電力の伝達を行う請求項1~5のうちいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの電流制御を行うインバータ(電力変換装置)には、スター接続運転とデルタ接続運転とを切り替えて、モータを運転させるものがある。特許文献1のインバータでは、3相ブリッジ回路を2組有し、一方の3相ブリッジ回路の正極端子及び負極端子を電源の正極端子及び負極端子にそれぞれ接続し、他方の3相ブリッジ回路の正極端子及び負極端子を、スイッチを介して電源の正極端子及び負極端子に接続している。そして、スイッチを切り替えることにより、スター接続運転とデルタ接続運転とを切り替えるようにしている。このようなインバータでスターデルタ始動法を実施することにより、始動時における始動電流を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータを、エンジン始動用のモータ(ISG)として利用する場合、モータの始動時におけるトルクを大きくすることが望まれている。すなわち、エンジン始動時において、モータのトルク(つまり、クランク軸に付与されるトルク)が大きいほど、エンジンが始動するまでの時間を短くすることができるため、始動時におけるトルクを大きくすることが望まれている。しかしながら、上記インバータでは、始動電流と共に、始動時におけるトルクが小さくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、エンジン始動時においてモータのトルクを向上させることができる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段のうち、第1の手段は、エンジンのクランク軸が連結されている回転軸を有する回転電機に対して、直流電源からの電力を変換して供給し、前記回転電機を駆動させる電力変換装置であって、前記エンジンの始動が要求された場合、前記回転電機の駆動を開始させる電力変換装置において、前記回転電機を構成する各相巻線の両端のうち第1端側に電気的に接続され、前記直流電源との間で電力を伝達する第1インバータ回路と、前記回転電機を構成する各相巻線の両端のうち第2端側に電気的に接続され、前記直流電源との間で電力を伝達する第2インバータ回路と、前記第1インバータ回路及び前記第2インバータ回路を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記回転電機の回転速度に応じて各相巻線に流れる電流の総和を変更する。
【0007】
回転電機において、界磁磁石の磁束密度分布には、高調波成分を含む。このため、各相巻線に流れる電流の総和を変更して、高調波成分を重畳させることにより、出力トルクを向上させることができる。すなわち、始動時間を短縮可能となる。なお、回転速度によっては、高調波成分を重畳させることにより、トルクリプル等が大きくなる。そこで、回転速度に応じて、各相巻線に流れる電流の総和を調整することにより、高調波成分の大きさを適切に調整して、トルクリプルなどを抑制しつつ、エンジン始動時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】(a)~(d)は、各相巻線に流れる電流の時間変化を示す図。
【
図7】エンジン回転数と負荷トルクの時間変化を示す図。
【
図8】別例におけるエンジン回転数と負荷トルクの時間変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る電力変換装置を、走行動力源としてエンジン及び回転電機を備える車両の駆動システムに適用した実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1に示すように、車両は、エンジン10、ISG20、直流電源としてのバッテリ30を備えている。本実施形態では、ISG20は、回転電機としてのモータ40と、電力変換装置としてのインバータ50と、制御部としての制御装置60と、を有するモータ機能付き発電機であり、機電一体型のISG(Integrated Starter Generator)として構成されている。
【0011】
モータ40は、具体的には3相巻線を有する永久磁石型同期機である。なお、巻線界磁型同期機であってもよい。ISG20の回転軸20a(つまり、モータ40の回転軸20a)は、内燃機関としてのエンジン10のクランク軸10aに対して駆動力が伝達されるように、プーリなどの連結機構101を介して連結されている。また、エンジン10のクランク軸10aは、変速機などの連結機構102を介して車軸100に連結されている。ISG20は、エンジン10のクランク軸10aや車軸100の回転により発電(回生発電)を行う発電機能と、クランク軸10aに駆動力(回転力)を付与する力行機能とを備えている。また、エンジン10の始動時に、クランク軸10aに対して初期回転力を付与する電動機(スタータ)としての機能を有している。
【0012】
バッテリ30は、充放電可能な2次電池を用いており、具体的にはリチウムイオン蓄電池を用いている。
【0013】
続いて
図2を用いて、駆動システムの電気的構成について説明する。
【0014】
図2では、モータ40の固定子巻線として3相巻線41が示されている。3相巻線41はU相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42Wよりなる。本実施形態において、U相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42Wは、電気角で位相が120度ずつずらされて配置されている。
【0015】
インバータ50は、第1インバータ回路51、第2インバータ回路52、及び平滑用のコンデンサ53を備えている。本実施形態では、第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52として、3相インバータを用いている。第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52には、それぞれバッテリ30とコンデンサ53とが並列に接続されている。
【0016】
第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52は、それぞれ3相巻線41の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されている。各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、各相巻線(U相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42W)において通電電流が調整される。
【0017】
詳しく説明すると、第1インバータ回路51は、U相、V相及びW相からなる3相において、上アームスイッチSp1と下アームスイッチSn1との直列接続体をそれぞれ備えている。本実施形態では、各相における上アームスイッチSp1及び下アームスイッチSn1として、電圧制御形の半導体スイッチング素子を用いており、具体的にはIGBTを用いている。なお、MOSFETを用いてもよい。各相における上アームスイッチSp1及び下アームスイッチSn1には、それぞれフリーホイールダイオード(還流ダイオード)Dp1,Dn1が逆並列に接続されている。
【0018】
各相の上アームスイッチSp1の高電位側端子(コレクタ)はバッテリ30の正極端子に接続されている。また、各相の下アームスイッチSn1の低電位側端子(エミッタ)は、バッテリ30の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSp1と下アームスイッチSn1との間の中間接続点には、それぞれU相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42Wの第1端が接続されている。
【0019】
すなわち、U相における上アームスイッチSp1と下アームスイッチSn1との間の中間接続点には、U相巻線42Uの第1端が接続されている。V相における上アームスイッチSp1と下アームスイッチSn1との間の中間接続点には、V相巻線42Vの第1端が接続されている。W相における上アームスイッチSp1と下アームスイッチSn1との間の中間接続点には、W相巻線42Wの第1端が接続されている。
【0020】
第2インバータ回路52は、第1インバータ回路51と同様の構成とされている。すなわち、第2インバータ回路52は、各相巻線において上アームスイッチSp2と下アームスイッチSn2との直列接続体をそれぞれ備えている。各相における上アームスイッチSp2及び下アームスイッチSn2には、それぞれフリーホイールダイオードDp2,Dn2が逆並列に接続されている。
【0021】
各相の上アームスイッチSp2の高電位側端子(コレクタ)はバッテリ30の正極端子に接続されている。また、各相の下アームスイッチSn2の低電位側端子(エミッタ)は、バッテリ30の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSp2と下アームスイッチSn2との間の中間接続点には、それぞれU相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42Wの第2端が接続されている。
【0022】
すなわち、U相における上アームスイッチSp2と下アームスイッチSn2との間の中間接続点には、U相巻線42Uの第2端が接続されている。V相における上アームスイッチSp2と下アームスイッチSn2との間の中間接続点には、V相巻線42Vの第2端が接続されている。W相における上アームスイッチSp2と下アームスイッチSn2との間の中間接続点には、W相巻線42Wの第2端が接続されている。
【0023】
制御装置60は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、ISG20における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。ISG20の検出情報には、例えば、モータ40における回転子(回転軸20a)の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。回転子の回転角度は、レゾルバ等の位置検出部としての角度検出器により検出される。制御装置60は、第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52の各スイッチを操作する操作信号を生成して出力する。なお、発電の要求は、回生駆動の要求である。
【0024】
また、制御装置60は、図示しないエンジン10を制御するエンジンECUと通信可能に接続されている。そして、制御装置60は、エンジンECUから、力行駆動の要求(エンジン始動の要求を含む)がされた場合、各スイッチを操作する操作信号を出力して、エンジン10のクランク軸10aに対してトルクを付与するようにISG20を制御する。また、制御装置60は、発電の要求がされた場合、各スイッチを操作する操作信号を出力して、発電電力を変換し、バッテリ30を充電するようにISG20を制御する。
【0025】
なお、エンジンECUは、車両の運転者によるイグニッションスイッチ(図示略)でのエンジン10の始動操作や、アイドリングストップ状態の解除操作などに基づいて、エンジン始動の要求を行う。また、エンジンECUは、燃料の噴射や点火等を制御する。また、エンジンECUは、クランク角センサが出力する信号に基づく情報を制御装置60に出力する。クランク角センサは、クランク軸10aの近傍に設けられている。クランク角センサは、クランク軸10aのクランク角を検出し、検出したクランク角に応じたエンジン回転速度信号をエンジンECUに出力する。つまり、エンジンECUは、エンジン10の回転速度(エンジン回転数)に関する情報を制御装置60に出力する。
【0026】
ところで、エンジン10の始動を行う場合、始動開始(要求時点)から始動完了(完爆時点)までの始動時間は、極力短い方が良い。このため、エンジン10の始動時において、ISG20(モータ40)の出力トルクは、なるべく大きい方が望ましい。しかしながら、一般的に、出力トルクを大きくするには、モータ40が大型化する傾向にあるため、ISG20の収容スペース、重量、及び製造コストの都合上、モータ40を大型化して出力トルクを向上させるには限度があった。
【0027】
一方、モータ40に備えられた界磁用の永久磁石の磁石密度分布は、
図3に示すように、一般的に、基本波の他に高調波成分(3次高調波又は5次高調波等)を含んでいる。このため、各相巻線に流す電流においても高調波成分を重畳することにより、永久磁石の磁束密度分布における高調波成分を有効利用して、出力トルクを向上させることができると考えられる。ただし、各相巻線に流す電流に高調波成分を重畳する場合、トルクリプルや渦電流損が大きくなるため、始動開始から一定期間に限って高調波成分を重畳することが望ましい。そこで、エンジン始動時において、制御装置60は、以下に説明するような制御を行うようにしている。
図4に基づいて説明する。
【0028】
図4は、制御装置60が実行するモータ制御処理を示すフローチャートである。モータ制御処理は、一定周期ごとに実行される。
【0029】
制御装置60は、エンジンECU等からの力行駆動又は発電の要求を取得する(ステップS101)。次に、制御装置60は、取得した要求に応じて駆動モードを設定する(ステップS102)。例えば、力行駆動の要求(エンジン始動の要求を含む)を取得した場合には、力行駆動モードを設定する。発電の要求を取得した場合には、回生駆動モードを設定する。なお、力行駆動の要求及び発電の要求のいずれも取得しなかった場合には、停止モードを設定する。
【0030】
次に、制御装置60は、力行駆動モードが設定されたか否かを判定する(ステップS103)。ステップS103の判定結果が肯定の場合、制御装置60は、モータ40の回転速度(以下、モータ回転速度)を取得する(ステップS104)。モータ回転速度は、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転軸20aの回転角度(電気角情報)に基づいて算出される。なお、モータ回転速度として、モータ40の回転数(rpm)を採用してもよい。また、回転軸20aと、クランク軸10aとは、連結されているため、エンジン回転数(エンジン回転速度)を取得して、代用してもよい。
【0031】
次に、制御装置60は、モータ回転速度が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS105)。閾値については後述する。
【0032】
ステップS105の判定結果が否定の場合、制御装置60は、各相巻線に矩形波電流を流す矩形波電流制御を実行する(ステップS106)。つまり、モータ回転速度が遅く、大きなトルクが要求されている場合(ステップS105の判定結果が否定の場合)、基本波に高調波成分を重畳させて電流を流すように、各スイッチ(Sp1,Sn1,Sp2,Sn2)を制御する。具体的には、各相巻線に流れる電流の総和が「0(ゼロ)」以外となるように、各スイッチ(Sp1,Sn1,Sp2,Sn2)を制御する。これにより、高調波成分を重畳することができる。
【0033】
本実施形態では、ステップS106において、制御装置60は、
図5(a)~(c)に示すように、U相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42Wに対して矩形波電流を所定位相(120度)ずつずらして流すように、各スイッチ(Sp1,Sn1,Sp2,Sn2)を制御する。その際、各相巻線に流す矩形波電流は、ピーク値が等しく(波形が同じであり)、3相の周波数が等しく、互いの位相差が120度の関係にあるようにしている。なお、
図5(a)は、U相巻線42Uに流れる矩形波電流を示し、
図5(b)は、V相巻線42Vに流れる矩形波電流を示し、
図5(c)は、W相巻線42Wに流れる矩形波電流を示す。また、矩形波電流の電流値(ピーク値)は、後述する正弦波電流のピーク値とほぼ同じとなるように制御する。
【0034】
なお、高調波成分を重畳した場合、各相の電流の総和が「0(ゼロ)」でなくなる。また、U相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42Wの第2端を中性点で接続するスター結線した場合には、電流の総和は常にゼロとなる。
【0035】
一方、ステップS105の判定結果が肯定の場合、制御装置60は、各相に正弦波電流を流す正弦波電流制御を実行する(ステップS107)。つまり、モータ回転速度が速くなり、大きなトルクが要求されていない場合、基本波に高調波成分を重畳させないで電流を流すように、各スイッチ(Sp1,Sn1,Sp2,Sn2)を制御する。具体的には、各相巻線に流れる電流の総和が「0(ゼロ)」となるように、各スイッチ(Sp1,Sn1,Sp2,Sn2)を制御する。これにより、高調波成分を重畳させないようにすることができる。
【0036】
本実施形態では、ステップS107において、制御装置60は、
図5(d)に示すように、U相巻線42U、V相巻線42V及びW相巻線42Wに対して正弦波電流を所定位相(120度)ずつずらして流すように、各スイッチ(Sp1,Sn1,Sp2,Sn2)を制御する。つまり、各相巻線に対称3相交流を流す。対称3相交流とは、3相の起電力が等しく(波形が等しく)、3相の周波数が等しく、互いの位相差が120度の関係にある状態のことを示す。
【0037】
その際、正弦波電流のピーク値は、矩形波電流の電流値とほぼ同じとなるように制御する。
図5(d)において、U相巻線42Uに流れる正弦波電流を、実線で示し、V相巻線42Vに流れる正弦波電流を、破線で示し、W相巻線42Wに流れる正弦波電流を、一点鎖線で示す。
【0038】
そして、ステップS106,S107の処理後、モータ制御処理を終了する。また、ステップS103の判定結果が否定の場合、制御装置60は、回生駆動モードが設定されているか否かを判定する(ステップS108)。この判定結果が肯定の場合、制御装置60は、発電制御を実行する(ステップS109)。すなわち、モータ40に回生駆動を実施させて、発電電力を変換し、バッテリ30を充電する。一方、ステップS108の判定結果が否定の場合(停止モードの場合)、制御装置60は、モータ制御処理を終了する。
【0039】
ここで、ステップS105における閾値について説明する。本実施形態では、各相巻線に正弦波電流を流した場合におけるクランク軸10aに付与されるトルク(負荷トルク)の最大値と、各相巻線に矩形波電流を流した場合における負荷トルクと、が一致するモータ回転速度を、閾値として設定している。つまり、クランク軸10aに付与されるトルク(負荷トルク)は、
図7に示すように、エンジン回転数(つまり、モータ40の回転速度)が大きくなるほど、小さくなっていく。そこで、本実施形態では、正弦波電流を流した場合における負荷トルクの最大値と、矩形波電流を流した場合における負荷トルクと、が一致するモータ回転速度を特定し、当該モータ回転速度を閾値として設定している。なお、クランク軸10aに付与されるトルクは、クランク軸10aが回転するために必要なトルクともいえる。
【0040】
次に、エンジン始動時における負荷トルク及びエンジン回転数について説明する。
【0041】
エンジン始動の要求がされると、制御装置60は、モータ回転速度は閾値未満(すなわち、ゼロ)であるため、各相巻線に対して矩形波電流を流す。
図6に示すように、矩形波電流を流した場合における出力トルク(実線で示す)は、正弦波電流を流した場合における出力トルク(破線で示す)に比較して、最大値が大きくなる。
【0042】
これにより、
図7に示すように、各相巻線に対して矩形波電流を流した場合にクランク軸10aに付与されるトルク(負荷トルク)は、正弦波電流を流した場合におけるクランク軸10aに付与されるトルクに比較して大きくなる。このため、エンジン回転数が早期に大きくなる。なお、
図7では、本実施形態において、クランク軸10aに付与されるトルク及びエンジン回転数を、実線で示す。一方、エンジン始動開始時から正弦波電流をずっと流した場合(比較例)におけるクランク軸10aに付与されるトルク、及びエンジン回転数を、破線で示す。
【0043】
図7に示すように、本実施形態におけるエンジン始動時間(時点T0~T3)は、正弦波電流のみを流した場合におけるエンジン始動時間(時点T0~時点T4)に比較して、短縮することができる。なお、時点T0は、エンジン10の始動が要求された時点を示す。また、時点T3,T4は、エンジン回転数が所定の回転数V1に到達して、エンジン10の始動が完了した時点を示す。
【0044】
ところで、モータ回転速度が小さい場合、トルクリプルもゆっくりと発生する(脈動周期もゆっくりとなる)。このため、モータ40の駆動開始時からモータ回転速度が閾値未満である期間では、矩形波電流を流しても、トルクリプルは目立ちにくくなっている。また、渦電流損も小さい。その一方で、モータ回転速度が閾値以上となった場合において、矩形波電流を流すと、トルクリプルや渦電流損が大きくなることが予想される。
【0045】
そこで、モータ回転速度が閾値以上である場合(時点T1)、制御装置60は、矩形波電流を流すことを停止し、各相巻線に正弦波電流を流して、モータ40の駆動を制御する。これにより、各相巻線に流れる電流に高調波成分が重畳されにくくなり、トルクリプルや渦電流損が抑制される。
【0046】
また、閾値は、各相巻線に正弦波電流を流した場合における負荷トルクの最大値と、各相巻線に矩形波電流を流した場合における負荷トルクと、が一致するモータ回転速度としている。このため、矩形波電流制御から正弦波電流制御に切り替える場合に、負荷トルクが急に変動することが抑制される。
【0047】
本実施形態は、以下の優れた効果を有する。
【0048】
モータ40において、磁石磁束密度分布には、高調波成分を含む。このため、各相巻線に流れる電流の総和を変更して、高調波成分を重畳させることにより、出力トルクを向上させることができる。すなわち、エンジン10の始動時間を短縮することができる。なお、モータ回転速度によっては、高調波成分を重畳させることにより、トルクリプルや渦電流損が大きくなるおそれがある。そこで、モータ回転速度に応じて、各相巻線に流れる電流の総和を変更して、基本波に重畳する高調波成分の大きさを調整することとした。
【0049】
より詳しく説明すると、制御装置60は、モータ回転速度が閾値未満である場合、各相巻線に流れる電流の総和をゼロ以外として、基本波に高調波成分を重畳させた。これにより、駆動開始からモータ回転速度が閾値に達するまで、出力トルクを向上させることができ、エンジン10の始動時間を短縮することができる。そして、制御装置60は、モータ回転速度が閾値以上である場合、各相巻線に流れる電流の総和をゼロとして、基本波に高調波成分を重畳させないようにした。これにより、モータ回転速度が閾値以上となった場合、トルクリプルや渦電流損を抑制することができる。以上により、エンジン10を始動させる場合、トルクリプルなどを抑制しつつ、エンジン始動時間を短縮することができる。
【0050】
また、制御装置60は、モータ回転速度が閾値未満である場合、各相巻線に矩形波電流を流すようにしている。矩形波電流は、のこぎり波や三角波と比較して、高調波成分をより大きくすることができるため、これらに比較して出力トルクを大きくすることができる。したがって、エンジン10の始動時間を好適に短縮することができる。一方、制御装置60は、モータ回転速度が閾値以上である場合、各相巻線に正弦波電流を流す。つまり、各相巻線に対称三相交流を流すことにより、高調波成分を少なくすることができるため、モータ回転速度が閾値以上である場合、トルクリプルなどを好適に抑制することができる。
【0051】
各相巻線に正弦波電流を流した場合における負荷トルクの最大値と、各相巻線に矩形波電流を流した場合における負荷トルクと、が一致するモータ回転速度を特定し、閾値として設定した。これにより、矩形波電流から正弦波電流に切り替える際に、負荷トルクが急変して、違和感を与えることを抑制できる。また、負荷トルクが、各相巻線に正弦波電流を流した場合における負荷トルク以上となる場合には、矩形波電流を流して出力トルクを大きくするため、最大限、エンジン10の始動時間を短縮することができる。
【0052】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0053】
・上記実施形態において、制御装置60は、モータ40を停止させる場合、レゾルバなどの角度検出器の検出結果に基づいて、モータ40の駆動開始時に各相巻線に所定の電流(第1実施形態では、矩形波電流)を流した際の出力トルクが最大となる所定位置に停止させてもよい。これにより、
図8に示すように、モータ40の駆動開始時(時点T10)における負荷トルクを、所定位置に停止させなかった場合に比較して、大きくすることができる。
【0054】
なお、
図8では、所定位置に停止させた場合におけるエンジン回転数及び負荷トルクを実線で示し、所定位置以外の位置に停止させた場合におけるエンジン回転数及び負荷トルクを破線で示す。これにより、所定位置以外の位置に停止させた場合におけるエンジン始動時間(時点T10~時点T14)に比較して、エンジン始動時間(時点T10~時点T13)を短縮することができる。なお、出力トルクが最大となる所定位置は、磁石の磁束密度分布及び各相巻線に流す電流波形により異なる。このため、所定位置は、モータ40の停止時に、所定の電流を流して所定位置を特定し、予め記憶しておけばよい。また、磁石の磁束密度分布及び各相巻線に流す電流波形に基づいて計算により予測してもよい。
【0055】
・上記実施形態において、矩形波電流としたが、基本波に高調波成分を含むのであれば、矩形波電流でなくてもよく、任意の電圧波形を採用してもよい。例えば、のこぎり波や三角波などの電流を流してもよい。
【0056】
・上記実施形態において、閾値を、任意に変更してもよい。例えば、正弦波電流を流した場合における負荷トルクの最大値よりも、矩形波電流を流した場合における負荷トルクが大きい場合におけるモータ回転速度を、閾値としてもよい。つまり、第1実施形態の閾値よりも小さい値を閾値としてもよい。これにより、トルクリプル等をより抑制することができる。
【0057】
・上記実施形態において、各相巻線に流れる電流の総和を任意に変更することができるのであれば、第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52の回路構成を変更してもよい。つまり、高調波成分の重畳の有無を選択することが可能な回路構成であれば、第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52の回路構成をそれぞれ変更してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…エンジン、10a…クランク軸、20a…回転軸、30…バッテリ、40…モータ、42U…U相巻線、42V…V相巻線、42W…W相巻線、50…インバータ、51…第1インバータ回路、52…第2インバータ回路、60…制御装置。