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特許7185491磁気共鳴イメージング装置およびその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
A61B5/055 376
A61B5/055 311
A61B5/055 382
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018207533
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020069329
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公輔
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0063739(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0019935(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0329528(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0108894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットのコントラストを異ならせた第一の撮像シーケンスと第二の撮像シーケンスとを実行し、それぞれの撮像シーケンスで、被検体から核磁気共鳴信号を計測する計測部と、
前記計測部の動作を制御する制御部と、
前記第一の撮像シーケンス及び前記第二の撮像シーケンスで計測した核磁気共鳴信号からなる計測データを用いて、前記ターゲットの画像を作成する画像処理部と、を備え、
前記第一の撮像シーケンスは、プリサチュレーションパルス及び前記ターゲットをラベリングするパルスを含まない3D-血管撮像シーケンスであり、前記第二の撮像シーケンスは、プリサチュレーションパルス又は前記ターゲットをラベリングするパルスを含む3D-血管撮像シーケンスであり、
前記制御部は、前記第二の撮像シーケンスをアンダーサンプリングするとともに、前記第一の撮像シーケンスの複数の繰り返し時間の計測と、前記第一の撮像シーケンスの1ないし複数の繰り返し時間の計測とを交互に実行するようように前記計測部を制御し、
前記画像処理部は、前記アンダーサンプリングして得た計測データを圧縮センシングにより復元するデータ復元部と、計測データと画像データとの変換を行う変換部と、異なる撮像シーケンスで得た画像間の差分を算出する差分画像算出部とを有し、
前記データ復元部は、前記第一の撮像シーケンスの実行により得た画像と前記第二の撮像シーケンスの実行により得た画像との差分画像について、L1ノルムを最小化するようにデータ復元を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、前記第一の撮像シーケンスをフルサンプリングするよう前記計測部を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記データ復元部は、圧縮センシングによるデータ再現を式(1)に従い行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【数1】
(式中、IwoSAT、IwSATは、それぞれ、第一撮像シーケンスで得た画像、第二撮像シーケンスで得た画像を表し、Fuはフーリエ変換を表す。yは第二撮像シーケンスで得た計測データ、λは係数である。)
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記式は、スパース変換空間のL1ノルムを最小化する項、及び、全変動を最小化する項の少なくとも一方をさらに含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第一の撮像シーケンスは、プリサチュレーションパルスを含まないTOF(Time of flight)シーケンスであり、前記第二の撮像シーケンスは、プリサチュレーションパルスを含むTOFシーケンスであるとことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記ターゲットは、前記被検体の頭部血管であって、前記プリサチュレーションパルスは、柱状領域を選択励起するパルスであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第一の撮像シーケンス及び第二の撮像シーケンスは、非造影血管撮像シーケンスであり、前記第二の撮像シーケンスはターゲットをラベリングするパルスを含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
ターゲットのコントラストを異ならせた第一の撮像シーケンスと第二の撮像シーケンスとを実行し、それぞれの撮像シーケンスで、被検体から核磁気共鳴信号を計測する計測部と、前記計測部の動作を制御する制御部と、前記第一の撮像シーケンスの実行により得た画像と前記第二の撮像シーケンスの実行により得た画像との差分画像について、L1ノルムを最小化するようにデータ復元を行い前記ターゲットの画像を作成する画像処理部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の制御方法であって、
前記第一の撮像シーケンスとして、プリサチュレーションパルス及び前記ターゲットをラベリングするパルスを含まない3D-血管撮像シーケンスを行い、前記第二の撮像シーケンスとして、プリサチュレーションパルス又は前記ターゲットをラベリングするパルスを含む3D-血管撮像シーケンスを行い、且つ、前記第二の撮像シーケンスをアンダーサンプリングするとともに、前記第一の撮像シーケンスの複数の繰り返し時間の計測と、前記第一の撮像シーケンスの1ないし複数の繰り返し時間の計測と、を交互に実行するようように前記計測部を制御する磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、MRIという)装置に係り、特に造影剤を用いずに所望の血管画像を取得する技術(非造影血管撮像)に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置を用いた非造影血管撮像として、プリサチュレーションパルスを用いて所定の血管からの信号を抑制した画像と、プリサチュレーションパルスを用いずに撮像した画像との差分を取ることで、所望の血管のみを高コントラストで描出した画像を取得する技術(例えば非特許文献1、特許文献1)や、観察しようとする血流中のスピンを、予め反転パルスを用いてラベリングし(識別可能な状態にし)画像化する技術(ASL:Arterial spin labeling)が知られている。ASLでも、ラベリングして得た画像と、ラベリングしていないコントロール画像との差分画像を取得する。
【0003】
特許文献1記載された技術には、プリサチュレーションパルスとしてBeamSaturationパルス(以下、BeamSatパルスという)と呼ばれる二次元励起パルスを用いることで、例えば頭部の血管を撮像する場合に、左右の頚動脈の一方を選択的に抑制する技術が開示されている。このような左右の一方の血管を抑制して撮像した3D(三次元)-TOF(Time of flight)画像と、通常の3D-TOF画像とを差分することにより、脳における左右別々の血管像を取得できる。
【0004】
このようなプリサチュレーションパルスを用いた血管撮像では、通常の3D-TOF撮像に加えて、BeamSat付きの3D-TOF撮像を行う必要があるため、左右それぞれの画像を得る場合、3倍以上の撮像時間を要する。特許文献1では、観察の対象となる血管の構造の繊細さ(空間周波数)に合わせて3D-k空間データのエンコード数を減らすことにより、周波数撮像時間を短縮することが提案されている。
【0005】
一方、画像処理分野で用いられている圧縮センシング(CS:Compressed Sensing)技術を、MRIでアンダーサンプリング(規定のサンプリング数よりも少ない数だけ収集)したデータに適用し、データを再現することで、撮像時間を短縮する手法が提案されている(特許文献2)。CS技術は、未知数を含む観測データからデータを復元する際に、データのスパース性を利用してノルムの最適化を行う。特許文献2に記載された技術では、アンダーサンプリングしたk空間データから再構成した画像に対しウェーブレット変換等のスパース化変換を行ったスパース空間データについて、L1ノルムを最適化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-7817号公報
【文献】特開2016-12385号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Selective TOF MRA using Beam Saturation pulse. Takashi Nishimura, et al, Proc. ISMRM 2012, 2497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された技術は、観察対象血管の構造がある程度絞られている場合には有効な手法であるが、観察対象に細かい血管から太い血管までを含む場合には、十分な時間短縮効果を達成できない。
【0009】
またCS技術では、用いるデータのスパース性がデータ復元の精度にとって重要な要素であるため、特許文献2に記載された技術では観察データのスパース化変換と正則化項の工夫によって精度を高めている。しかし上述したプリサチュレーションやラベリングを伴う血管撮像の画像(差分画像)については検討されていない。
【0010】
本発明は、リファレンス画像やコントロール画像との差分によって目的組織を画像化する技術において、CS技術を適用する新たな手法を提供することにより、撮像時間の短縮を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、二つの画像の、差分画像として残る部分以外の部分は基本的に同一であり、差分画像自体がスパース性のあることに着目し、上記課題を解決するものである。すなわち、本発明のMRI装置は、ターゲットのコントラストを異ならせた第一の撮像シーケンスと第二の撮像シーケンスとを実行し、それぞれの撮像シーケンスで、被検体から核磁気共鳴信号を計測する計測部と、前記計測部の動作を制御する制御部と、前記第一の撮像シーケンス及び前記第二の撮像シーケンスで計測した核磁気共鳴信号からなる計測データを用いて、前記ターゲットの画像を作成する画像処理部と、を備え、前記制御部は、前記第二の撮像シーケンスをアンダーサンプリングするよう前記計測部を制御し、前記画像処理部は、前記アンダーサンプリングして得た計測データを圧縮センシングにより復元するデータ復元部と、計測データと画像データとの変換を行う変換部と、異なる撮像シーケンスで得た画像間の差分を算出する差分画像算出部とを有し、前記データ復元部は、前記第一の撮像シーケンスの実行により得た画像と前記第二の撮像シーケンスの実行により得た画像との差分画像について、L1ノルムを最小化するようにデータ復元を行う。
【0012】
上述した本発明の画像処理部の機能は、MRI装置内部の計算機で実現することも、また核磁気共鳴信号からなる計測データを収集するMRI装置とは独立した画像処理装置において実現することも可能である。
【0013】
即ち本発明の画像処理装置は、MRI装置においてフルサンプリングして得られた第一の計測データと、前記第一の計測データとは異なる撮像条件でアンダーサンプリングして得られた第二の計測データとを受け付ける受付部と、前記第一の計測データ及び前記第二の計測データを、それぞれ画像データに変換する変換部と、圧縮センシングによってデータ復元を行うデータ復元部とを備える。前記データ復元部は、前記第一の計測データを変換した第一の画像データと、前記第二の計測データを変換した第二の画像データとの差分データについて、L1ノルムを最小化するように第二の計測データのデータ復元を行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、CS技術を適用する際に、リファレンス画像やコントロール画像との差分のスパース性を利用してデータ復元を行う。差分画像は従来のMRI画像再構成のCS演算で用いるスパース空間データよりもスパース性が高いため、高い倍速率(アンダーサンプリングする際の間引き率)を設定することが可能であり、2種の撮像が必須である撮像の撮像時間の短縮を図ることができる。同時に、精度よく再現された画像、特に血管画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のMRI装置の実施形態を示すブロック図。
図2】MRI装置の、主として計測部の詳細を示すブロック図。
図3】第一実施形態の計測及び画像復元の概要を示すフロー図。
図4】第一実施形態の計測に用いる撮像シーケンスの一例を示す図で、(a)はBeamSatパルスを含まない3D-TOFシーケンス、(b)はBeamSatパルスを含む3D-TOFシーケンス、である。
図5】目的領域とプリサチュレーション領域との関係を示す図。
図6】(a)、(b)は、それぞれ、k空間のアンダーサンプリングの例を示す図。
図7】第一実施形態の画像復元の概念を示す図。
図8】第一実施形態の画像復元を実際に行った結果画像を示す図で、(a)は第一実施形態による復元画像を示す図、(b)は参考例の画像を示す図。
図9】第一実施形態の変形例2における撮像シーケンス実行のタイムチャートを示す図。
図10】本発明の画像処理装置の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のMRI装置の実施形態を説明する。まず後述する各実施形態に共通するMRI装置の概要を説明する。
【0017】
本実施形態のMRI装置100は、図1に示すように、大きく分けて、計測部10と、画像処理部20と、計測部10及び画像処理部20を制御する制御部30とを備える。計測部10は、被検体を構成する組織に含まれる原子のスピンを励起し、被検体から発生する核磁気共鳴信号を計測する部分であり、従来のMRI装置と同様の構成を持つ。具体的には、計測部10は、静磁場磁石11、共鳴周波数のRFパルスを送信するRFコイル(送信用RFコイル)12、静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル13、被検体から発生する核磁気共鳴信号を検出するRFコイル(受信用RFコイル)14、送信用RFコイル12にRF信号を送り、RFコイル12を動作させる送信部15、傾斜磁場コイル13の電源16、及び、受信用RFコイル14が検出した信号を受け取り、検波する受信部17を備えている。さらに静磁場磁石11の不均一を補正するためのシムコイルや、静磁場磁石11によって形成される静磁場空間に被検体40を搬入するためのベッド18が備えられている。
【0018】
傾斜磁場コイル13は、3軸方向それぞれに傾斜磁場を発生する3組のコイルから構成されており、これら3組の傾斜磁場コイル13が与える3方向の傾斜磁場パルスの組み合わせを選択することにより、所望の方向について所望の強度の傾斜磁場パルスを生成することができる。これによりRFパルスにより励起する被検体の領域を選択し、また被検体から発生する核磁気共鳴信号に所望の方向に沿った位置情報を付与することができる。
【0019】
計測部10を構成する各要素については、公知の装置と同様であり、且つ公知の種々の変形や改良が加えられてもよく、本明細書では発明との関係で特に必要がない限り、詳細な説明は省略する。
【0020】
画像処理部20は、計測部10が取得した計測データ(核磁気共鳴信号)に対し、種々の演算や画像処理を行い、被検体に関する画像を作成する。画像処理部20は、図2に示すように、フーリエ変換あるいはフーリエ逆変換等の変換を行うFT変換部21、CS演算を行うCS演算部(データ復元部)22、及び画像間の差分等の演算を行って差分画像を作成する差分画像算出部23を備える。画像処理部20の機能は、CPUやGPUを備えた計算機で実現することができる。また機能の一部或いは全部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで実現してもよい。図2に示す例では、画像処理部20は、後述の制御部30とともにCPUやGPUを備えた計算機150により実現される。
【0021】
制御部30は、計算機150が制御用或いは演算用のプログラムをアップロードして実行することにより、上述した計測部10及び画像処理部20の各部の動作を制御する。制御部30は、計算機150とは別に、特に計測部10を制御するシーケンサを備えていてもよい。
【0022】
制御部30(計算機150)は、さらに、計算機150による演算に必要な条件やパラメータ等を入力するための入力装置32、演算結果やGUI等を表示する表示装置33、制御部30の制御や演算に必要なデータや演算途中のデータあるいは演算結果等を格納する記憶装置31などを備えていてもよい。具体的には、制御部30は、送信部15、傾斜磁場電源16及び受信部17等の動作を制御し、所定の撮像シーケンスに従って、RFパルス及び傾斜磁場パルスの印加、核磁気共鳴信号の受信が行われるようにする。撮像シーケンスは、撮像方法によって、種々のパルスシーケンスが予め用意され、記憶装置31に格納されており、ユーザが入力装置32を介して所定のパルスシーケンスを含む検査プロトコルやパルスシーケンス自体を選択するとともに、パルスシーケンスを実行するための撮像パラメータ等の撮像条件を設定することにより、所望の撮像シーケンスが実行可能となる。制御部30は、また画像処理部20の動作を制御する。
【0023】
以下、制御部30の制御の具体的な実施形態を説明する。以下の実施形態では、撮像の目的とする部位(ターゲット)が血管である場合を説明するが、ターゲットは血管に限定されない。
【0024】
<第一実施形態>
本実施形態では、制御部30が計測部10を制御し、血管撮像シーケンスとして2つの3D-TOFシーケンスを実行する。一つは、プリサチュレーションパルスを含まない3D-TOFシーケンス(第一の撮像シーケンス)、もう一つはプリサチュレーションパルスを含む3D-TOFシーケンス(第二の撮像シーケンス)である。プリサチュレーションパルスは、例えば、所定の柱状領域を励起する2D励起BeamSatパルスである。画像処理部20は、これら2つの撮像シーケンスで得た2種の画像間の演算を行い、プリサチュレーションパルスによって抑制された部分以外の血管が高コントラストで得た画像を作成する。
【0025】
本実施形態における撮像から画像作成までの流れを、図3を参照して説明する。
まず撮像シーケンスと撮像パラメータ等の撮像条件を設定し、計測を開始する(S301)。設定された条件に従い、計測部10は、2つの撮像シーケンス(3D-TOFパルスシーケンス)を実行し、それぞれについて計測データを取得する。
【0026】
3D-TOFパルスシーケンスは、流入効果を利用して血流スピンを高コントラストで描出するシーケンスで、図4(a)に示すように、傾斜磁場パルス(Gs)とともに励起用RFパルス(RF)を印加し、所望の領域を励起した後、二軸方向(図ではスライスエンコード方向Gsと位相エンコード方向Gp)にそれぞれエンコード用の傾斜磁場パルスを印加し、極性が反転する読み出し傾斜磁場Grを印加してエコー信号Sigを計測する。その後、リフェイズ用傾斜磁場パルスを印加する。このようなシーケンスをスライスエンコード傾斜磁場Gs及び位相エンコード傾斜磁場Gpの一方を異ならせながら、それぞれについて予め決められたエンコード数となるまで繰り返し時間TRで繰り返し、最終的に、三次元の計測データを得る。傾斜磁場Gs、Gpの組み合わせで決まるk空間のスキャン方法は、特に限定されず、k空間を軸に沿って平行に計測する直交(Cartesian)スキャン、放射状に計測するラジアルスキャン、らせん状に計測するスパイラルスキャン、など公知のスキャン方法を採用することができる。
【0027】
図4(b)の撮像シーケンスでは、上述した3D-TOFパルスシーケンス400に先立って、2D励起のためのRFパルスと傾斜磁場パルスとの組み合わせからなるBeamSatパルス401を印加する。BeamSatパルスは、左側の点線四角で囲って示したように、強度が非対称に変化するRFパルスと、2軸方向の振動傾斜磁場Gx、Gyを組み合わせたものであり、振動傾斜磁場Gx、Gyの軸を選択することにより、任意の方向に沿った柱状領域を選択でき、且つ振動傾斜磁場の印加量によって柱状領域の径を制御することができる。図4(b)は、傾斜磁場の軸Gx、GyがそれぞれGs、Gpである場合を示している。
【0028】
本実施形態では、脳内の血管の走行状態を撮像対象とするとき、右頚動脈及び左頚動脈の一方を選択して、選択した領域の血流スピンを予め飽和させる。例えば図5に示すように、柱状領域510は右頚動脈及び左頚動脈の一方を通り且つ撮像対象である領域500と重複しないように、傾斜磁場の軸を決定する。傾斜磁場の軸の決定は、例えば、被検体の頭部を低分解能で高速撮像したスカウト画像を表示装置33に表示させて、ユーザが所望の抑制領域を指定するようにしてもよいし、撮像領域500が設定された後、撮像領域500との関係で経験的に決まる所定の領域を自動的に設定するようにしてもよい。
【0029】
このようなプリサチュレーションパルスに続く3D-TOFパルスシーケンス400は、図4(a)の3D-TOFパルスシーケンスと基本的には同じであるが、BeamSatパルスを印加しない場合には、位相エンコード方向及びスライスエンコード方向のエンコード数は、撮像パラメータとして設定されたFOVにおいて折り返しの生じないエンコード数である(フルサンプリングである)のに対し、図4(b)のパルスシーケンスでは、それより少ないエンコード数でサンプリングする(アンダーサンプリングする)。データの間引き方について特に限定されないが、例えば、図6(a)、(b)に示すように、k空間を放射状にサンプリングするラジアルスキャンにおいて、サンプリングする角度を間引いたり、点状に間引いたりすることができる。また直交スキャンにおいて、位相エンコード方向或いはスライスエンコード方向について、k空間中心から周辺に向かうに従ってサンプリング密度を薄くするようにサンプリングして所定の間引き率とすることも可能である。このようにBeamSatパルス付きの3D-TOFパルスシーケンスではアンダーサンプリングすることにより、計測時間は間引き率とほぼ比例して短縮することができる。なお間引き率は、その逆数である倍速率という撮像パラメータでユーザが指定することができる。
【0030】
図4(a)に示す3D-TOFパルスシーケンス(以下、第一撮像シーケンスという)と図4(b)に示すBeamSatパルス付きの3D-TOFパルスシーケンス(以下、第二撮像シーケンスという)は、どちらかを先行して実行してもよいし、繰り返し数の第一撮像シーケンスの繰り返しの合間に、第二撮像シーケンスを適宜挟みこんで実行してもよい。
【0031】
最終的に両方の撮像シーケンスで、それぞれ設定したエンコード数の(加算がある場合には加算数倍の)エコー信号を収集し、計測(S301)を完了する。
【0032】
次に画像処理部20が、エコー信号からなる3D-k空間データを用いて、それぞれの画像を作成するとともに、2つの画像の差分を取り、差分画像を作成する(S302~S305)。画像処理部20による処理は、必ずしも全ての計測が完了するのを待つ必要はなく、例えば、2つの撮像シーケンスのうち、一つの撮像シーケンス(例えばBeamSatパルス無し3D-TOFパルスシーケンス)のエコー信号収集が完了していたならば、その時点でk空間データの画像再構成を行うことも可能である。
【0033】
ステップS302では、FT変換部21が、第一撮像シーケンスで得た3D-k空間データを3D-逆フーリエ変換し、3D-画像データ(画像1)とする。
【0034】
ステップS303では、CS演算部22が、アンダーサンプリングした第二撮像シーケンスで得た3D-k空間データの復元を行う。CS演算部22は、次式に従い、データの復元を行う。
【数1】
式(1)において、IwoSAT、IwSATは、それぞれ、第一撮像シーケンスで得た画像(画像1)、第二撮像シーケンスで得た画像(画像2)であり、Fはフーリエ変換(画像データから計測空間データへの変換)を表し、yは第二撮像シーケンスで得た3D-k空間データ(計測データ)である。λは第2項の係数である。
【0035】
式(1)で表されるデータ復元は、計測データyと復元されたデータとの差(L2ノルム)を最小化する際に、正則化項として、画像1と画像2との差のL1ノルムを最小化する項を加えたものである。
【0036】
データ復元の具体的な処理は、図7に示すような、繰り返し演算となる。すなわち、第二撮像シーケンスでアンダーサンプリングされた計測データ(y)70-2を逆フーリエ変換し(S701)、実空間データ(IwSAT)72とする。次にこの実空間データ72と、ステップS302で得た第一撮像シーケンスの画像データ(IwoSAT)71とを差分し(S702)、差分データ73を得る。この差分データ73についてL1ノルムの最小化を行う(S703)。
【0037】
L1ノルム最小化後の差分データ74に対し、S702の逆演算を行う(S704)。即ち、差分データ73がδ1(=画像1-画像2)であり、処理後の差分データ74をδ2とするならば、逆演算は、画像1からδ2を引く演算(画像1-δ2)となる。こうして得た実空間データ75をフーリエ変換し(S705)、k空間データ76(FwSAT)に戻す。
【0038】
次の繰り返しでは、このk空間データ76を、計測データ71に置き換えて同様の演算を行う。繰り返しは、予め決めた回数行ってもよいし、データ76について終了を判定するための閾値を設定しておき、閾値に達した時点で繰り返しを終了してもよい。以上の処理により、復元されたk空間データ即ち第二の撮像シーケンスにおいてフルサンプリングしたk空間データに相当するk空間データ(復元後データ)が得られる。
【0039】
次にステップS304では、FT変換部21が、復元後のk空間データを3D-逆フーリエ変換し、3D-画像データを得る。最後にステップS305で、第一撮像シーケンスで得た画像(画像1)とステップS304で得た画像との差分を取り、血管像を作成する。第二撮像シーケンスのBeamSatパルスが、例えば、左頚動脈の血流スピン信号を抑制するプリサチュレーションパルスであれば、左頚動脈から脳の右半分に流れる血流からの信号が抑制され、脳の左側血管が高コントラストで描出された血管像が得られる。その逆も同様である。
【0040】
得られた画像データは、例えば、記憶装置31に格納され、表示画像として表示装置33に表示される(S306)。
【0041】
なお受信用RFコイル14として複数の感度分布の異なる小型受信コイルを用いた場合には、撮像ステップ(S301)において小型受信コイル数に応じた間引き率で間引き撮像を行い、画像再構成ステップ(S302、S701)において、計測データを画像データに変換する際に、受信コイルの感度分布を利用したパラレルイメージング法による演算を行い、画像再構成することも可能である。
【0042】
<実施例>
図4に示す3D-TOFパルスシーケンスを用い、BeamSatを用いない計測と用いる計測とを実施して、作成した差分画像を図8(a)に示す。3D-TOFパルスシーケンスの撮像条件は、FOV:220mm、TR:23.8msec、TE:3.3msec、FA:15度、スライスエンコード数:60、位相エンコード数:224、とし、BeamSat付きの第二の撮像シーケンスの間引き率は1/5とした。第二の撮像シーケンスで取得した計測データを、上述した式(1)に従って、繰り返し回数を20回として復元し、画像再構成し、これをフルサンプリングして得たBeamSat無しの計測で得た画像と差分したものが図8(a)に示した画像である。
【0043】
また参考例として、第二の撮像シーケンスをフルサンプリングした場合の差分画像を図8(b)に示す。参考例の画像との比較からわかるように、図8(a)の画像では、フルサンプリングした場合とほぼ同様のコントラストで、脳の片側の血管が描出されている。また撮像時間は、図8(b)の画像の撮像時間が5分20秒であるのに対し、図8(a)の画像の撮像時間は1分4秒であり、約4分16秒短縮することができた。
【0044】
以上、説明したように、本実施形態によれば、プリサチュレーション付きの3D-TOFシーケンスで取得した画像とプリサチュレーション無しの3D-TOFシーケンスで取得した画像との差分を取って血管画像を作成する際に、プリサチュレーション付きの3D-TOFシーケンスをアンダーサンプリングするとともに、その計測データを、CS技術を用いて復元することにより、全体としての撮像時間を大幅に短縮することができる。またCS技術の適用において、プリサチュレーション付きの3D-TOFシーケンスで取得した画像とプリサチュレーション無しの3D-TOFシーケンスで取得した画像とが、血管部分を除けばほぼ等しく、それらの差分画像のスパース性が高いことを利用して、スパース空間でのL1ノルムを最小化するので、倍速率を高めるとともにデータ復元の精度を高めることができ、精度のよい差分画像を高速で得ることができる。
【0045】
<変形例1>
第一実施形態では、差分画像自体のスパース性を利用してCS演算を行うので、通常のCS演算で必須となるスパース空間へのデータ変換、例えばウェーブレット変換等、は不要であるが、式(1)の項に加えて、スパース変換項や画像上の全変動TV(Total Variation)を最小化する項などを追加してもよい。これらは一方のみを追加してもよいし、両方を追加してもよい。例えば、両方を追加する場合、式(1)は次式(2)のようになる。
【0046】
【数2】
式(2)中、第三項は、ウェーブレット変換Ψ等により変換した後のスパース空間データについてL1ノルムを最小化する項、第四項は画像上の全変動(TV:Total Variation)あるいはそのL1ノルムを最小化する項である。λ~λはそれぞれ正則化項の重みを決める係数である。
正規化項を増やすことにより演算時間は長くなるが、復元の精度をより高めることができる。
【0047】
<変形例2>
第一実施形態では、第一の撮像シーケンスと第二の撮像シーケンスを行う順序については特に限定しないものとしたが、第一の撮像シーケンスの繰り返しの間に、第二の撮像シーケンスを実行してもよい。第一の撮像シーケンス実行中に、入れ子状に第二の撮像シーケンスを実行する計測の例を図9に示す。なお図9に示すTRは、図4に示す撮像シーケンスのTRに相当する。図9では図4のパルスシーケンスのうち、RFパルスのみを示し、それ以外のパルスと信号収集については省略している。
【0048】
図9の例では、各スライスエンコードにおいて、第一の撮像シーケンスのN回(ここでは4回)のTR毎に、第二の撮像シーケンスの1回のTRを挿入した例であり、第一の撮像シーケンスのN回のTRに対し、第二の撮像シーケンスは1回のTRが実行される。第二の撮像シーケンスの倍速数に応じて、連続する第一の撮像シーケンスの繰り返し数を変更してもよいし、第一の撮像シーケンスの繰り返し(TR)の間に挿入する第二の撮像シーケンスの繰り返し数を1より多くしてもよい。
【0049】
本変形例によれば、第一の撮像シーケンスと第二の撮像シーケンスとが、実質的に同じ計測時間内に実行されるので、2つの撮像間の体動の影響を低減することができ、体動による差分画像の劣化を防止できる。
【0050】
<第二実施形態>
第一実施形態では、3D-TOFシーケンスを用いて血管撮像を行ったが、本実施形態では、撮像シーケンスとしてASLシーケンスを用いる。ASLシーケンスでは、特定の血管を流れる血流スピンを予め識別可能にする予備パルスを印加して、血管撮像シーケンスを実行して画像を取得し、予備パルスを印加しないで実行した同じ血管撮像シーケンスで得た画像(コントロール)との差分を取り、血管画像を作成する。例えば、脳血流画像を作成する場合、頚動脈を含む領域を選択して、スピンをラベルする予備パルスを印加し、予備パルスによりラベルされた血流スピンが脳に到達する時間を待って脳を選択して血管撮像シーケンスを実行する。予備パルスとしてはスピンを反転するIRパルスが一般的である。ラベリングする領域の選択は、頚動脈を含む領域のスライス選択や、頚動脈のみを選択する柱状領域選択でもよい。
【0051】
血管撮像シーケンスとしては、FSE(Fast Spin Echo)シーケンスを採用することができる。また第一実施形態と同様のTOFシーケンスを採用してもよい。
【0052】
本実施形態においても、撮像の流れは図3に示す第一実施形態のステップと同様であり、ASLシーケンス(予備パルスを伴う撮像シーケンス)をアンダーサンプリングし(S301)、ASLシーケンスにより得た画像とコントロール画像との差分を用いて、CS演算により、差分のL1ノルムを最小化するようにASLシーケンスの計測データを復元する(S302、S303)。復元された計測データを用いてASLシーケンスの画像(復元後の画像)を作成し、コントロール画像との差分を取り、血管画像とする(S304、S305)。CS演算に用いられる差分データは、第一実施形態と同様にスパース性の高いデータであるので、CS演算において良好な復元結果を得ることができる。
【0053】
本実施形態によれば、予備パルスの印加後に到達時間を待つ必要があるため計測時間が長くなるASLシーケンスをアンダーサンプリングすることで、計測時間の短縮を図ることができ、しかも計測データの復元をコントロール画像との差分を利用したCS演算で行うことで、画質の良好な血管画像を得ることができる。
【0054】
本実施形態においても、第一実施形態の変形例と同様の変形例を採用することも可能である。また第一実施形態及び第二実施形態では、差分画像を作成する撮像の例として、プリサチュレーションパルスを用いた撮像、ASLパルス(予備パルス)を用いた撮像をそれぞれ説明したが、本発明は、これらに限定されず、二つの撮像により得た画像の差分が高いスパース性を持ち、且つ最終的に差分画像を取得する撮像であれば、本発明を適用することが可能である。
【0055】
<画像処理装置の実施形態>
以上、本発明のMRI装置の実施形態を説明したが、図1のMRI装置において画像処理部20が行う機能の一部又は全部を、MRI装置から独立した画像処理装置において実現することも可能であり、このようなMRI装置100と画像処理装置200とを含むシステムも本発明に包含される。図10に画像処理装置の一例を示す。
【0056】
この画像処理装置200は、MRI装置100が計測した計測データを取り込み、画像再構成を行い、画像データを出力する。このため、画像処理装置200は、MRI装置100からのデータを受け付ける受付部250を備え、さらに、図2の画像処理部20と同様に、FT変換部210、CS演算部(データ復元部)220、差分画像作成部230を備えている。これら各部の機能は、上述した画像処理部20と同様である。この場合のMRI装置100の画像処理部20は、一般的なMRI装置の画像処理の機能と同様であるが、画像処理装置200の機能を備えていてもよい。
【0057】
なお図10には、図2の画像処理部20の機能全体を実現する画像処理装置を例示したが、画像処理部20の機能の一部、例えば、FT変換部210、CS演算部220のみを画像処理装置200で実現し、CS演算部220で復元した計測データをMRI装置100に送り、MRI装置の画像処理部20において、画像再構成や差分などの処理を行うことも可能である。
【0058】
このようなシステムにおいてMRI装置100と画像処理装置200とのデータのやりとりは、有線或いは無線によるデータ送受信手段、或いは可搬媒体など公知の手段が採用可能である。また画像処理装置200はクラウド等に構築されたものであってもよいし、複数のCPUから構成されるものであってもよい。このように所定の演算機能をMRI装置とは別のモダリティで実現することにより、ユーザの自由度が増し、またMRI装置内の計算機の負荷を軽減できる。
【符号の説明】
【0059】
10:計測部、20:画像処理部、21:FT変換部、22:CS演算部(データ復元部)、23:差分画像作成部、30:制御部、31:記憶装置、32:入力装置、33:表示装置、100:MRI装置、150:計算機、200:画像処理装置。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10