(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】減速機システム、駆動ユニットへの指令値の補正方法、補正データの生成方法、及び減速機システムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20221130BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B25J9/10 A
G05B19/404 G
(21)【出願番号】P 2018208375
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 和彦
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-210643(JP,A)
【文献】特開平07-100781(JP,A)
【文献】特開2001-113488(JP,A)
【文献】特開2003-223225(JP,A)
【文献】特開2017-113867(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014110413(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10-17/00
G05B 19/404
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機と、
前記減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される
ロボットの使用条件
に関する補正情報、に基づく補正データを記憶したメモリと、
を備え、
前記使用条件は、
(c)前記減速機が使用されるロボットの用途、
(d)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の重量、
(e)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の移動距離、及び
(f)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の速度、
のうちの少なくとも一つを含み、
(a)前記減速機の種類、及び、
(b)前記減速機が使用されるロボットの種類
を含まない、減速機システム。
【請求項2】
前記補正データが前記使用条件における前記減速機の使用から収集された位置データに基づき生成される、請求項1記載の減速機システム。
【請求項3】
前記減速機が使用されるロボットの駆動ユニットに前記補正データが入力される、請求項1記載の減速機システム。
【請求項4】
前記減速機が使用されるロボットの駆動ユニットの制御部に前記補正データが入力される、請求項1記載の減速機システム。
【請求項5】
前記補正データによって前記制御部が前記駆動ユニットへの指令値を補正する、
請求項
4記載の減速機システム。
【請求項6】
前記位置誤差は、
(a)前記減速機の角度伝達誤差、
(b)ねじれ誤差、及び
(c)摩擦誤差
の少なくとも一つを含む、請求項1記載の減速機システム。
【請求項7】
前記請求項1記載の減速機システムであって、
駆動ユニットと、
前記メモリに記録した前記補正データを用いて前記駆動ユニットの補正を行う、前記駆動ユニットの制御部と、を含む減速機システム。
【請求項8】
請求項1記載の減速機システムを含む、ロボット。
【請求項9】
減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される
ロボットの使用条件
に関する補正情報、に基づ
く補正データによって、駆動ユニットへの指令値を補正することを特徴とする補正方法
であって、
前記使用条件は、
(c)前記減速機が使用されるロボットの用途、
(d)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の重量、
(e)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の移動距離、及び
(f)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の速度、
のうちの少なくとも一つを含み、
(a)前記減速機の種類、及び、
(b)前記減速機が使用されるロボットの種類
を含まない、
補正方法。
【請求項10】
減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される
ロボットの使用条件
に関する補正情報、に基づき補正データを生成し、
前記補正データをメモリに記録する、
補正データの生成方法
であって、
前記使用条件は、
(c)前記減速機が使用されるロボットの用途、
(d)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の重量、
(e)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の移動距離、及び
(f)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の速度、
のうちの少なくとも一つを含み、
(a)前記減速機の種類、及び、
(b)前記減速機が使用されるロボットの種類
を含まない、
補正データの生成方法。
【請求項11】
減速機とメモリからなる減速機システムの製造方法であって、
前記減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される
ロボットの使用条件
に関する補正情報、に基づき補正データを生成し、
前記補正データを前記メモリに記録し、
前記減速機と前記メモリとを組み合わせ
、
前記使用条件は、
(c)前記減速機が使用されるロボットの用途、
(d)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の重量、
(e)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の移動距離、及び
(f)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の速度、
のうちの少なくとも一つを含み、
(a)前記減速機の種類、及び、
(b)前記減速機が使用されるロボットの種類
を含まない、
減速機システムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機システム、駆動ユニットへの指令値の補正方法、補正データの生成方法、及び減速機システムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、レーザ溶接用途やプラズマ溶接用途のロボット(工作機械)を水平面上で直線動作させたとき、重力方向のうねり等が発生し加工精度に悪影響を与えることが分かっている。当該うねりはロボットの手先位置を重力方向に変化させる軸に取り付けられた減速機の角度伝達誤差により発生すると考えられ、これまでに減速機の入力側と出力側に回転速度検出手段を設け角度伝達誤差を個体毎に直接計測する方法など様々な方法が提案されてきた。
【0003】
組み上がったロボットに対して、作業空間の狭いロボット稼動現場において、人為的調整手段を必要とすること無く角度伝達誤差の補正パラメータを同定する装置として、特許文献1が知られている。特許文献1は、各関節部で回転駆動するモータと、モータに連結された減速機と、減速機に連結されるロボットアームとを備えるロボットにおいて、ロボットの手先位置の軌跡誤差を補正するために、各モータに対する角度指令に加算される補正値のパラメータを同定する装置であって、該モータに対するトルク指令が最大となるリンク角度において最大値をとる、トルク指令と同一周期の正弦波の位相に基づいて、補正値の位相パラメータを同定し、且つ、同定された位相パラメータ及び任意の振幅パラメータを用いて計算される補正値と角度指令との合計に対して順運動学計算を行うことにより得られるロボットの手先位置とロボットの現在の手先位置との差分についてロボットの動作時間内での積分値を計算し、該積分値が最小となる振幅パラメータを補正値の振幅パラメータとして同定する手段を備えたロボットアーム位置補正パラメータの同定装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の装置では、ロボット(工作機械)の個体差である角度伝達誤差の補正パラメータを同定するために時間がかかり、補正パラメータ作成の間、工場設備の停止が必要となり、生産性が低下するという問題があった。また、ロボットの個体差に係る補正パラメータに過ぎないため、ロボットの最終調整を行う必要があるという問題があった。さらに、当該補正パラメータはロボットの個体差に係るものであり、ロボットの使用条件に応じたものではないため、ロボットの動作の精度が必ずしも十分であるとはいい難かった。
【0006】
本発明の目的の一つは、初期起動(初期のセッティング)を早期に行うことができる減速機システム、駆動ユニットへの指令値の補正方法、補正データの生成方法、及び減速機システムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による減速機システムは、減速機と、前記減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される使用条件での補正情報、に基づく補正データを記憶したメモリと、を備える。
【0008】
本発明の一実施形態による減速機システムにおいては、前記補正データが前記使用条件における前記減速機の使用から収集された位置データに基づき生成される。
【0009】
本発明の一実施形態による減速機システムにおいては、前記減速機が使用されるロボットの駆動ユニットに前記補正データが入力される。
【0010】
本発明の一実施形態による減速機システムにおいては、前記減速機が使用されるロボットの駆動ユニットの制御部に前記補正データが入力される。
【0011】
本発明の一実施形態による減速機システムにおいては、前記補正データによって前記制御部が前記駆動ユニットへの指令値を補正する。
【0012】
本発明の一実施形態による減速機システムにおいて、前記位置誤差は、(a)前記減速機の角度伝達誤差、(b)ねじれ誤差、及び(c)摩擦誤差の少なくとも一つを含む。
【0013】
本発明の一実施形態による減速機システムにおいて、前記使用条件は、(a)前記減速機の種類、(b)前記減速機が使用されるロボットの種類、(c)前記減速機が使用されるロボットの用途、(d)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の重量、(e)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の移動距離、及び(f)前記減速機が使用されるロボットが取り扱う対象物の速度、の少なくとも一つを含む。
【0014】
本発明の一実施形態による減速機システムは、駆動ユニットと、前記メモリに記録した前記補正データを用いて前記駆動ユニットの補正を行う、前記駆動ユニットの制御部を含む。
【0015】
本発明の一実施形態によるロボットは、上記の減速機システムのいずれか一つを含む。
【0016】
本発明の一実施形態による補正方法は、減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される使用条件での補正情報、に基づき補正データによって、駆動ユニットへの指令値を補正する、
【0017】
本発明の一実施形態による補正データの生成方法は、減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される使用条件での補正情報、に基づき補正データを生成し、前記補正データをメモリに記録する。
【0018】
本発明の一実施形態による減速機システムの製造方法は、減速機とメモリからなる減速機システムの製造方法であって、前記減速機の位置誤差に関する個体情報、及び、前記減速機が使用される使用条件での補正情報、に基づき補正データを生成し、前記補正データを前記メモリに記録し、前記減速機と前記メモリとを組み合わせる。
【発明の効果】
【0019】
初期起動(初期のセッティング)を早期に行うことができる減速機システム、駆動ユニットへの指令値の補正方法、補正データの生成方法、及び減速機システムの製造方法がを提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態における減速機システムを備えるロボットの概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態における補正データを模式的に説明する図である。
【
図3】本発明の一実施形態における補正データの受け渡し方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態における減速機システムを備える工作機械の概略図を示す。工作機械には、ロボット、マシニングセンター、ポジショナ等が含まれる。本明細書では、工作機械としてロボット100が使用される実施形態について主に説明する。
【0022】
図示のように、一実施形態におけるロボット100は、減速機システム1と、この減速機システム1から供給される駆動力により駆動されるアーム6と、を備える。減速機システム1は、ロボット100を制御するための制御部2と、駆動ユニット3と、減速機4と、を備える。制御部2は、例えば、不図示のコンピュータプロセッサと、メモリ5と、を備える。コンピュータプロセッサは、減速機4を制御するための制御プログラムまたはそれ以外のプログラムをロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。メモリ5は、コンピュータプロセッサによりアクセスされる記憶装置である。メモリ5は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ、又はデータを記憶可能な前記以外の各種記憶装置である。
【0023】
駆動ユニット3は、例えば電動モータである。減速機4は、駆動ユニット3から入力された駆動力を減速してアーム6に伝達する。アーム6は、減速機4からの駆動力により駆動される。メモリ5は、後述する補正データを記憶する。制御部2は、ロボット100の外部に設けられてもよい。一態様において、制御部2は、ロボット100の外部に、駆動ユニット3と通信可能に設けられる。駆動ユニット3は、減速機4を含むよう構成してもよい。また、メモリ5に記憶されている補正データは、駆動ユニット3に入力されてもよい。
【0024】
制御部2は、ロボット100に対する動作指令を生成し、当該動作指令に基づき、ロボット100の各軸(例えば、関節)に搭載した駆動ユニット3を制御するように構成される。例えば、制御部2は、ロボット100に対する動作指令を示す指令値(指令信号)を生成し、この指令値を駆動ユニット3に入力することにより駆動ユニット3を制御する。駆動ユニット3による駆動力は減速機4に入力され、その出力によりアーム6が駆動される。図示しないが、ロボット100の駆動ユニット3には、位置検出器、角度検出器、エンコーダ、及びこれら以外のセンサが適宜設けられる。
【0025】
次に、
図2を参照して、補正データ11をより詳細に説明する。補正データ11の生成のため、まず、ロボット100の製造時における当該ロボット100の個体ごとの位置誤差に関する個体差を示す個体情報9を用意する。本発明の一実施形態において、個体情報9は、例えば、ロボット100又は減速機4の角度伝達誤差、ねじれ誤差、摩擦誤差、及びこれら以外の位置誤差情報を含む。
【0026】
また、ロボット100の使用条件に関する補正情報10を用意する。本発明の一実施形態において、補正情報10は、減速機4の種類、ロボット100の種類、ロボット100の用途、ロボット100が取り扱う対象物の重量、ロボット100が取り扱う対象物の移動距離、及びロボット100が取り扱う対象物の速度、及びこれら以外のロボット100の使用条件に関する情報の少なくとも一つを含む。
【0027】
本発明の一実施形態において、補正データ11は、この個体情報9と補正情報10とに基づき生成される。補正データ11は、個体情報9及び補正情報10以外の情報にさらに基づいて生成されてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、ロボット100には、補正データ11が入力される。制御部2は、補正データ11に基づいて駆動ユニット3を駆動するための指令値を補正するように構成される。上記のように、ロボット100に入力される補正データ11は、ロボット100の個体差を示す個体情報9とロボット100の使用条件に関する補正情報10とに基づいて生成されるので、ロボット100の初期起動(初期セッティング)より前に補正データ11を準備し、この補正データをロボット100に入力することにより、初期起動を短時間で行うことが可能となる。
【0029】
本発明の一実施形態においては、駆動ユニット3に補正データ11が入力されてもよい。補正データ11は、メモリ5に記憶されていてもよい。メモリ5から読み出された補正データ11が駆動ユニット3に入力されてもよい。一実施形態においては、駆動ユニット3によって、制御部2からの指令値が補正データ11に基づいて補正されてもよい。
【0030】
本発明の一実施形態においては、制御部2に補正データ11が入力されてもよい。メモリ5から読み出された補正データ11が制御部2に入力されてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態に係る補正方法においては、個体情報9及び補正情報10に基づき補正データ11を生成するステップと、この補正データ11に基づいて制御部2から駆動ユニット3への指令値を補正するステップと、を備える。一実施形態における補正方法は、補正データ11に基づいて補正された指令値を駆動ユニット3に入力されてもよい。補正データ11に基づいて補正された指令値は、制御部2に入力されてもよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る補正データ11の生成方法では、個体情報9と補正情報10とに基づいて補正データ11を生成するステップと、生成された補正データ11をメモリ5に記憶するステップと、を備える。補正データの生成方法は、補正情報10を収集するステップをさらに備えてもよい。補正情報10は、ロボット100ごとに収集されてもよい。一のロボット100について収集される補正情報は、他のロボット100について収集される補正情報と異なるものであってもよい。一のロボット100で用いられる補正データ11は、当該一のロボット100について収集された補正情報10と、当該ロボット100の個体情報9と、に基づいて生成されてもよい。
【0033】
次に、
図3を参照して、補正データ11の受け渡し方法について説明する。
【0034】
減速機4の製造者Mは、製造した減速機4毎に製造時の位置誤差を計測し、この位置誤差を個体情報9として記録する。また、製造者Mは、減速機4(又は該ロボット100)の使用時に、当該減速機4(又は該ロボット100)についての補正情報10を減速機4(又はロボット100)の使用者から収集する。製造者Mは、固体情報0と補正情報10とに基づいて補正データ11を生成する。
【0035】
製造者Mは、補正データ11を蓄積しているため、減速機4を顧客へ提供する際に、減速機4とともに当該減速機4に関する補正データ11も提供することができる。減速機4の利用者(顧客A~顧客D1)は、製造者Mから提供された補正データ11に基づいて初期起動(初期セッティング)を行うことができる。これにより、減速機4の利用者は、初期起動を短時間で行うことができる
【0036】
補正データ11は、製造者Mから顧客(例えば、顧客A)に対して、有線通信又は無線通信により送信されてもよい。この有線又は無線の通信路には、セキュリティゲートが設定され得る。このセキュリティゲートにより、安全性を確保した上で補正データ11が送受信され得る。補正データ11は、メモリに記憶されてもよい。製造者Mは、補正データ11を記憶したメモリを減速機4に組み合わせてもよい。この場合、補正データ11は、減速機4とともに製造者Mから顧客(例えば、顧客B)に対して提供される。補正データ11は、減速機4とは別体の記憶媒体に記録されてもよい。この場合、製造者Mから顧客(例えば、顧客C)に対して補正データ11が記憶された記憶媒体が提供される。つまり、製造者Mから顧客に記憶媒体を提供することにより、当該記憶媒体に記憶された補正データ11を顧客に提供することができる。補正データ11は、紙媒体に記録されていてもよい。この場合、製造者Mから顧客(例えば、顧客D)に対して補正データ11が記憶された紙媒体が提供される。このようにして、減速機4とともに補正データ11も提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上述の実施形態の原理は、ロボット100等の工作機械に限らず、様々な作動装置、移動装置、及びこれら以外の装置に適用され得る。
【符号の説明】
【0038】
1 ロボット(工作機械)
2 制御部
3 駆動ユニット
4 減速機
5 メモリ
6 アーム
9 個体情報
10 補正情報
11 補正データ