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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】流体機械及び流体機械の改修方法
(51)【国際特許分類】
   F03B 11/00 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
F03B11/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018215916
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020084799
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 峻浩
(72)【発明者】
【氏名】川尻 秀之
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 貞男
(72)【発明者】
【氏名】中村 高紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夕介
(72)【発明者】
【氏名】井戸本 武士
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0114655(US,A1)
【文献】国際公開第2018/005846(WO,A1)
【文献】特開2012-082817(JP,A)
【文献】特開昭56-020772(JP,A)
【文献】特表平08-505462(JP,A)
【文献】実開昭62-108573(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 1/00-11/08
F16J 15/40-15/453
F16J 15/54-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流の圧力により回転軸線を中心に回転し、複数のランナ羽根と前記複数のランナ羽根を固定するバンドとを含む回転部材と、前記回転部材を覆う静止部材と、を備え、
前記回転軸線に直交する径方向で互いに対向する前記回転部材の前記バンドの壁部及び前記静止部材の壁部のうちの少なくともいずれか一方が、周方向に延びる複数の溝と、前記溝を部分的に埋めるように位置する堰き止め部と、を有し、
複数の前記溝は、軸方向に間隔を空けて設けられ、
複数の前記溝のそれぞれに対応して、前記堰き止め部が設けられ、
前記軸方向で隣り合う前記溝に設けられた前記堰き止め部のうちの前記水流の流れの方向で下流側に位置するものの一部が、上流側に位置するものよりも前記回転部材の回転方向逆側に位置し、且つ、前記軸方向で隣り合う前記堰き止め部は、前記軸方向で互いに重なる、流体機械。
【請求項2】
前記溝は、前記周方向に延びるとともに軸方向に延びるように傾斜している、請求項1に記載の流体機械。
【請求項3】
前記堰き止め部は、前記溝の内部において締結部材によって固定されている、請求項1又は2に記載の流体機械。
【請求項4】
水流の圧力により回転軸線を中心に回転し、複数のランナ羽根と前記複数のランナ羽根を固定するバンドとを含む回転部材と、前記回転部材を覆う静止部材と、を備え、前記回転軸線に直交する径方向で互いに対向する前記回転部材の前記バンドの壁部及び前記静止部材の壁部のうちの少なくともいずれか一方が、周方向に延びる複数の溝を有し、複数の前記溝は、軸方向に間隔を空けて設けられる流体機械の改修方法であって、
堰き止め部を準備する工程と、
複数の前記溝の内部それぞれに、前記溝を部分的に埋めるように前記堰き止め部を設ける工程と、を備え、
前記軸方向で隣り合う前記溝に設けられた前記堰き止め部のうちの前記水流の流れの方向で下流側に位置するものの一部が、上流側に位置するものよりも前記回転部材の回転方向逆側に位置し、且つ、前記軸方向で隣り合う前記堰き止め部が、前記軸方向で互いに重なるように、前記堰き止め部を設ける、流体機械の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、流体機械、シール部材及び流体機械の改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電等に用いられる流体機械には、回転部材であるランナと、ランナを覆う静止部材である上カバー及び下カバーとを有するものがある。このような流体機械では、ランナと上カバーとの間に背圧室と呼ばれる空間が形成され、ランナと下カバーとの間に側圧室と呼ばれる空間が形成される。
【0003】
ランナは、そのランナ羽根で水流の圧力を受けることにより回転し、水力発電のための動力を生成する。ところが、このような運転の際、ランナを通過することなく上述した背圧室や側圧室を通過する水流が存在する。
【0004】
ランナを通過しない水流はランナ羽根に流体力を与えないため、背圧室や側圧室を通過する水流の流量が多くなるほど、流体機械の効率は低下する。このように背圧室や側圧室を流れる水流は一般に、漏れ流れと呼ばれ、漏れ流れによって発生する損失は一般に、漏れ損失と呼ばれる。
【0005】
漏れ損失を抑制するための技術には様々なものがあり、例えばランナと静止部材との間に構造上許される寸法の範囲内で微小隙間を形成し、当該微小隙間によって漏れ流れの通流を抑制するシール構造や、静止部材側のシール面に矩形やねじ山形の突起を形成して隙間を絞るシール構造が知られている。
【0006】
また、互いに対向する回転部材の壁部又は静止部材の壁部に周方向の溝を形成するシール構造も知られている。このシール構造では、溝によって隙間の流路面積が拡大及び縮小することにより、漏れ流れが減速された後にすぐさま加速され、衝突や壁面との摩擦等によりシール効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭54―53145号公報
【文献】特許第5835687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、回転部材と静止部材との間の隙間を流れる漏れ流れは、回転部材との摩擦により、隙間内を通過する際に大きな周方向速度成分を持つことになる。上述した回転部材の壁部又は静止部材の壁部に周方向の溝を形成するシール構造は漏れ流れの軸方向速度成分に対する減速を効果的に行うことは可能であるが、周方向速度成分に対する減速に関しては改善の余地がある。
【0009】
本発明は上記実情を考慮してなされたものであり、回転部材と静止部材との間を通過する流体に対するシール効果を向上させ、漏れ損失を効果的に抑制できる流体機械、シール部材及び流体機械の改修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施の形態に係る流体機械は、流体の圧力により回転する回転部材と、前記回転部材を覆う静止部材と、を備える。互いに対向する前記回転部材の壁部及び前記静止部材の壁部のうちの少なくともいずれか一方が、周方向に延びる溝と、前記溝を部分的に埋めるように位置する堰き止め部と、を有する。
【0011】
一実施の形態に係る流体機械は、流体の圧力により回転する回転部材と、前記回転部材を覆う静止部材と、を備える。互いに対向する前記回転部材の壁部及び前記静止部材の壁部との間には、第1の隙間と、前記第1の隙間に対し径方向及び軸方向の両方に離れた第2の隙間と、前記第1の隙間及び前記第2の隙間の間に位置して前記第1の隙間及び前記第2の隙間の両方と折れ曲がり形状をなすように結合する第3の隙間と、が形成されている。そして、前記回転部材の壁部及び前記静止部材の壁部のうちの少なくともいずれか一方が、前記第3の隙間を部分的に埋めるように位置する堰き止め部を有する。
【0012】
一実施の形態に係るシール部材は、流体の圧力により回転する回転部材と、前記回転部材を覆う静止部材と、を備え、互いに対向する前記回転部材の壁部及び前記静止部材の壁部のうちの少なくともいずれか一方が、周方向に延びる溝を有する流体機械に用いられるシール部材である。当該シール部材は、前記溝の内部に配置され、前記溝を部分的に埋めるように設けられる。
【0013】
一実施の形態に係る流体機械の改修方法は、流体の圧力により回転する回転部材と、前記回転部材を覆う静止部材と、を備え、互いに対向する前記回転部材の壁部及び前記静止部材の壁部のうちの少なくともいずれか一方が、周方向に延びる溝を有する流体機械の改修方法である。当該改修方法は、堰き止め部を準備する工程と、前記溝の内部に、前記溝を部分的に埋めるように前記堰き止め部を設ける工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回転部材と静止部材との間を通過する流体に対するシール効果を向上させ、漏れ損失を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施の形態に係る流体機械としてのフランシス形水車の子午断面図である。
図2】第1の実施の形態に係るフランシス形水車のランナと下カバーとの間に形成されるシール構造の拡大子午断面図である。
図3】第1の実施の形態におけるシール構造を構成する下カバー側の部分を図2の矢印IIIの方向に見た際の概略図である。
図4】(A)は、第2の実施の形態に係る流体機械を説明する図であって、そのシール構造を構成する下カバー側の部分を図2の矢印IIIの方向と同様の方向に見た際の概略図であり、(B)及び(C)は、変形例を示す図である。
図5】第3の実施の形態に係る流体機械を説明する図であって、そのシール構造を構成する下カバー側の部分を図2の矢印IIIの方向と同様の方向に見た際の概略図である。
図6】第4の実施の形態に係る流体機械を説明する図であって、そのシール構造を構成する下カバー側の部分を図2の矢印IIIの方向と同様の方向に見た際の概略図である。
図7】第5の実施の形態に係る流体機械を説明する図であって、そのシール構造を構成する下カバー側の部分を図2の矢印IIIの方向と同様の方向に見た際の概略図である。
図8図7のVIII-VIII線に沿う断面図である。
図9】第6の実施の形態に係る流体機械を説明する図であって、そのシール構造の子午断面面である。
図10図9のX-X線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、添付の図面を参照して各実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る流体機械としてのフランシス形水車1の一部の子午断面図である。なお、ここでは流体機械の一例としてフランシス形水車1を例示して説明するが、流体機械は水車に限られるものではない。また、図1においては、説明の便宜上、フランシス形水車1の構成部材に対するハッチングの図示を省略している。
【0018】
図1に示すフランシス形水車1では、水車運転時において、ケーシング10からの水流がステーベーン11及びガイドベーン12を介して回転部材であるランナ2に流入し、流入した水流の圧力によりランナ2が回転軸線C1を中心に回転する。
【0019】
以下の説明において、単に軸方向と言う場合には、その方向は、回転軸線C1上の方向又は回転軸線C1に沿う方向を意味する。また、周方向という用語は、ランナ2が回転軸線C1を中心に回転する方向に沿う方向を意味するものとし、径方向という用語は、回転軸線C1に直交する方向を意味するものとする。
【0020】
ランナ2は、周方向に並ぶように配置される複数のランナ羽根3と、複数のランナ羽根3を翼高さ方向の一方の側から固定する環状部材であるクラウン4と、他方の側から固定する環状部材であるバンド5とを備える。
【0021】
図中の符号6は、ランナ2の特にバンド5を径方向の外側から覆う静止部材としての下カバーを示す。バンド5と下カバー6との間には空間である側圧室7が形成されている。図示省略するが、クラウン4の上方にはクラウン4を上方から覆う静止部材としての上カバーが設けられ、上カバーとクラウン4との間には空間である背圧室が形成される。
【0022】
本実施の形態では、水流の方向における側圧室7の下流側の部分にシール構造20が形成され、シール構造20は、バンド5と下カバー6との間の空間を絞る微小隙間を形成することにより、漏れ流れを通過させ難くする。
【0023】
図2はシール構造20の拡大子午断面図である。図2に示すように、本実施の形態におけるシール構造20は、水流の方向における下カバー6の下流側の部分に取り付けられてバンド5を径方向外側から覆うシールライナ21と、水流の方向におけるバンド5の下流側部分とで構成される。シール構造20では、径方向で互いに対向するシールライナ21の壁部21Aとバンド5の壁部5Aとがその上流側よりも隙間を絞ることにより微小隙間を形成する。シールライナ21の壁部21Aとバンド5の壁部5Aとの間の微小隙間は環状をなすように周方向に一連に延びている。
【0024】
シールライナ21の壁部21Aは周方向に延びる溝22を有し、本実施の形態における溝22は水平面において周方向の全周にわたって延びる環状に形成されている。しかしながら、溝22は環状でなくてもよく、円弧状であってもよい。また、図2においては溝22が3つ形成されるが、溝22の数は特に限られるものではない。さらに、本実施の形態における溝22の断面形状は子午断面において矩形状であるが、その断面形状も特に限られるものではなく、例えば台形状や半円状等であってもよい。
【0025】
図3は、シール構造20を構成する下カバー6側の部分、具体的にはシールライナ21を図2の矢印IIIの方向に見た際の概略図を示す。図2及び図3に示すように、本実施の形態に係るランナ2には、溝22を部分的に埋めるように位置する堰き止め部23が設けられている。本実施の形態では、堰き止め部23が各溝22に一つ設けられるが、堰き止め部23は一つの溝22において複数設けられてもよい。また、複数の溝22の中には、堰き止め部23が設けられないものがあってもよい。
【0026】
堰き止め部23は溝22と協働してシール効果を高めるためのシール部材として機能する。本実施の形態において例示された堰き止め部23は、軸方向で対向する溝22の壁部の間を完全に埋めるが、軸方向で対向する溝22の壁部の間に隙間を設けるように設けられてもよい。また、径方向で見た場合に堰き止め部23の形状は矩形であるが、その形状は特に限られるものではない。また、堰き止め部23の形成方法は特に限られるものではなく、シールライナ21の一体物として形成されてもよいし、シールライナ21の別体として形成されてシールライナ21に対して溶接等で取り付けられてもよい。
【0027】
次に、本実施の形態の作用について図2及び図3を参照しつつ説明する。
【0028】
水車運転時において、ケーシング10からの水流がステーベーン11及びガイドベーン12を介して回転部材であるランナ2に流入した際、ランナ2は、そのランナ羽根3で水流の圧力を受けることにより回転する。この際、一部の水流である漏れ流れが側圧室7を流入する。
【0029】
側圧室7内の漏れ流れは、シール構造20においてシールライナ21の壁部21Aとバンド5の壁部5Aと間の微小隙間によって下流側への通過を抑制されるとともに、溝22による流路面積の増大及び減少による減速と加速とを繰り返すことにより、下流側への通過をさらに抑制される。しかしながら、この際、微小隙間内の漏れ流れは、図3の矢印αに示すようにバンド5の回転に影響を受け、回転方向Rと同方向の周方向速度を持った流れとなる。そして、溝22だけでは漏れ流れの周方向速度を十分に抑えられない状況が生じ得て、漏れ流れが速い速度を保ったままシール構造20から流出しようとする。
【0030】
この際、本実施の形態では、溝22を部分的に埋めるように位置する堰き止め部23が設けられることで、上述のような周方向速度を持った漏れ流れが微小隙間内の溝22を通過する際に、堰き止め部23に衝突して堰き止められる。これにより、漏れ流れは、急激に且つ大きく減速されることで、溝22のみが設けられる場合に比較し漏れ流れの通過が抑制される。
【0031】
以上のようにして本実施の形態によれば、ランナ2とシールライナ21との間を通過する水流(漏れ流れ)に対するシール効果を向上させ、漏れ損失を効果的に抑制できる。
【0032】
なお、本実施の形態では、新たな流体機械を作製する際に堰き止め部23を設けることを想定しているが、堰き止め部23は、溝22を有する既存の例えば発電所に設置済みの流体機械に対して改修の目的で設けられてもよい。この場合、堰き止め部23を準備し、既存の周方向の溝の内部に、当該溝を部分的に埋める堰き止め部23を設けられてもよい。
【0033】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態における構成部分のうちの第1の実施の形態の構成部分と同様のものには、同一の符号を付し、共通する部分の説明については省略する場合がある。
【0034】
本実施の形態では、図4(A)に示すように溝22がシールライナ21において軸方向に間隔を空けて複数設けられ、複数の溝22のそれぞれに対応して堰き止め部23が設けられる。
【0035】
そして、複数の堰き止め部23は、矢印Fで示す水流の方向で下流側に位置する堰き止め部23の少なくとも一部が、その上流側に位置する堰き止め部23よりもランナ2の回転方向R逆側に位置するように配列されている。また、軸方向で隣り合う堰き止め部23は軸方向で互いに重なっている。
【0036】
本実施の形態においても、シールライナ21の壁部21Aとバンド5の壁部5Aと間の微小隙間内の漏れ流れは、矢印αに示すように周方向成分を持つが、堰き止め部23に衝突することで周方向速度が減速される。この後、減速された漏れ流れは溝22から流出して軸方向に向かって流れようとする。
【0037】
ここで、本実施の形態では、下流側の堰き止め部23が上流側の堰き止め部23よりも回転方向R逆側に位置する。これにより、上流側の堰き止め部23により減速された漏れ流れが溝22から流出して軸方向に向かって流れようとする際、下流側の堰き止め部23上の溝22内よりも高圧になっている領域によって通過を制約される。これにより、漏れ流れが効果的に抑制されるため、漏れ損失を効果的に低減させることができる。
【0038】
なお、図4(B)及び(C)は、第2の実施の形態の変形例を示す。図4(B)の変形例では、堰き止め部23の周方向の長さが下流側のものほど長くなっている。これにより、水流の方向で下流側に位置する堰き止め部23の少なくとも一部が、その上流側に位置する堰き止め部23よりもランナ2の回転方向R逆側に位置する。
【0039】
また、図4(C)では、水流の方向で下流側に位置する堰き止め部23の少なくとも一部が、その上流側に位置する堰き止め部23よりもランナ2の回転方向R逆側に位置するが、軸方向で隣り合う堰き止め部23は周方向に離れており、軸方向で互いに重なっていない。
【0040】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態における構成部分のうちの第1及び第2の実施の形態の構成部分と同様のものには、同一の符号を付し、共通する部分の説明については省略する場合がある。
【0041】
図5に示すように、本実施の形態では、溝22がシールライナ21において軸方向に間隔を空けて複数設けられ、複数の溝22のそれぞれに対応して堰き止め部23が設けられる。
【0042】
そして、ランナ2の回転方向R逆側を向く堰き止め部23の端面23Aが、矢印Fで示す水流の流れの方向で上流から下流に向けて延びるに従い、回転方向R逆側に延びるように傾斜している。
【0043】
本実施の形態では、堰き止め部23に衝突して周方向速度が減速された後、軸方向に向かう漏れ流れが、傾斜した端面23Aによってさらに堰き止められて減速される。これにより、漏れ流れが効果的に抑制されるため、漏れ損失を効果的に低減させることができる。
【0044】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態における構成部分のうちの第1乃至第3の実施の形態の構成部分と同様のものには、同一の符号を付し、共通する部分の説明については省略する場合がある。
【0045】
図6に示すように、本実施の形態では、溝22がシールライナ21において軸方向に間隔を空けて複数設けられ、複数の溝22のそれぞれに対応して堰き止め部23が設けられる。溝22は、周方向に延びるとともに軸方向に延びるように水平方向に対して角度βの傾きで傾斜している。
【0046】
角度βは、0°よりも大きく設定され、漏れ流れの影響を考慮し、好ましくは10°~45°に設定される。
【0047】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
<第5の実施の形態>
次に、第5の実施の形態について説明する。本実施の形態における構成部分のうちの第1乃至第4の実施の形態の構成部分と同様のものには、同一の符号を付し、共通する部分の説明については省略する場合がある。
【0049】
図7に示すように、本実施の形態では、溝22がシールライナ21において軸方向に間隔を空けて複数設けられ、複数の溝22のそれぞれに対応して堰き止め部23が設けられる。
【0050】
堰き止め部23は、図8に示すようにボルト24を通すための貫通孔23Bを有し、締結部材であるボルト24によって溝22の内部に固定されている。図8に示すように、シールライナ21にはボルト孔25が形成され、ボルト24はボルト孔25に締結される。ボルト24は、図示の例では、シールライナ21の壁部21Aから飛び出さない(突出しない)ように締結されるが、ボルト24は壁部21Aから突出してもよい。また、図示の例では、ボルト24がシールライナ21を貫通しないが、ボルト24がシールライナ21を貫通し、シールライナ21から径方向外側に貫通して露出したボルト24の先端部分にナットを締め付けることで、堰き止め部23が固定されてもよい。
【0051】
堰き止め部23を溝22に形成する際に、例えば溝22を削る際に同時に削りだしによって堰き止め部23を形成することができるが、堰き止め部23を設計形状の通りに正確に加工することは、溝加工の工程の増長を招くこととなる。これは堰き止め部23を設ける箇所が増えるほど大幅な増長となる。これに対して、本実施の形態では、堰き止め部23は溝22の加工後にボルト24によって固定されるため、溝加工の工程を短縮することが可能となる。
【0052】
また、側圧室7における漏れ流れは土砂を含むことがあるため、土砂を含んだ漏れ流れにより堰き止め部23が磨耗し、経年的に流れを堰止める効果が得られなくなり、漏れ損失の抑制効果が低下することが考えられる。このような場合に、本実施の形態では、堰き止め部23を交換可能であるため、復帰作業の作業負担を低減することができる。
【0053】
<第6の実施の形態>
次に、第6の実施の形態について説明する。本実施の形態における構成部分のうちの第1乃至第5の実施の形態の構成部分と同様のものには、同一の符号を付し、共通する部分の説明については省略する場合がある。
【0054】
図9に示すように、本実施の形態では、静止部材であるシールライナ21と回転部材であるバンド5との間に段付き形状のシール構造が形成される。シールライナ21は段付き形状を有し、水流の方向で上流から下流に向けて、径方向内側を向く壁面と、軸方向で水流の上流側を向く壁面と、径方向内側を向く壁面とをこの順で段状をなすように接続しており、シールライナ21に対向するバンド5にも段付き形状が形成されている。
【0055】
シールライナ21とバンド5との間には、上流側に位置して径方向の微小隙間を形成する第1の隙間31と、第1の隙間31に対し径方向及び軸方向の両方に離れ、第1の隙間31よりも下流側に位置して径方向の微小隙間を形成する第2の隙間32と、第1の隙間31及び第2の隙間32の間に位置して第1の隙間31及び第2の隙間32の両方と折れ曲がり形状をなすように結合する第3の隙間33とが形成され、各隙間によってシール構造が形成される。
【0056】
第1の隙間31、第2の隙間32及び第3の隙間33はそれぞれ円環状をなしている。また、第3の隙間33の径方向寸法は第1の隙間31及び第2の隙間32よりも大きくなっている。
【0057】
そして、第3の隙間33を部分的に埋めるように位置する堰き止め部23がシールライナ21に設けられる。本実施の形態では、堰き止め部23が軸方向で水流の上流側を向くシールライナ21の壁面に設けられるが、堰き止め部23はシールライナ21の径方向内側を向く壁面又はバンド5側に設けられてもよい。
【0058】
微小隙間として機能する第1の隙間31内の漏れ流れは、バンド5の回転に影響を受け、図10の矢印αで示すように回転方向と同方向の周方向速度を持った流れとなるため、第3の隙間33に流入する流れもまた回転方向と同方向の周方向速度を持っている。本実施の形態では第3の隙間33を部分的に埋める堰き止め部23により、周方向速度を持った漏れ流れが堰き止められることで急激に減速される。これにより、シール効果を向上させ、漏れ損失を効果的に抑制できる。
【0059】
なお、本実施の形態では第3の隙間33を埋める堰き止め部23が1つ設けられている場合を例示したが、その数は特に限られるものではない。
【0060】
以上、各実施の形態を説明したが、上記の各実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0061】
例えば上述の第1乃至第5の実施の形態では、溝22及び堰き止め部23が静止部材であるシールライナ21に設けられる例を示したが、溝22はバンド5側に設けられてもよい。また、溝22及び堰き止め部23は回転部材及び静止部材の両方に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…フランシス形水車、2…ランナ、3…ランナ羽根、4…クラウン、5…バンド、5A…壁部、6…下カバー、7…側圧室、10…ケーシング、11…ステーベーン、12…ガイドベーン、20…シール構造、21…シールライナ、21A…壁部、22…溝、23…堰き止め部、23A…端面、23B…貫通孔、24…ボルト、25…ボルト孔、31…第1の隙間、32…第2の隙間、33…第3の隙間、C1…回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10