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特許7185512ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20221130BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20221130BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B41J2/16 303
B41J2/14 303
B41J2/16 503
B41J2/14 611
B41J2/18
B41J2/14 607
B41J2/14 501
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018229310
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2020090054
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-155590(JP,A)
【文献】特開2012-091381(JP,A)
【文献】特開2009-292009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0072692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々、ノズル孔に連通する複数の吐出チャネルと、前記吐出チャネル各々の内壁に設けられた共通電極と、隣り合う前記吐出チャネルの間に設けられた非吐出チャネルと、前記非吐出チャネルの内壁に設けられた個別電極とを有するアクチュエータプレートと、
前記アクチュエータプレートに接合され、かつ、前記吐出チャネルに流入した液体が接触する液体接触面を有する被接着プレートと、
前記被接着プレートと前記アクチュエータプレートとの間に設けられるとともに、前記被接着プレートと前記アクチュエータプレートとを接合する接着層と、
前記吐出チャネル各々の内壁から、前記吐出チャネル側に露出された前記接着層の端面を介して前記液体接触面の少なくとも一部を連続して覆う保護膜と
を備え
前記保護膜は、前記非吐出チャネルの内壁も覆っている
ヘッドチップ。
【請求項2】
前記被接着プレートは、前記ノズル孔を有するノズルプレートである
請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
更に、前記ノズル孔を有するノズルプレートを有し、
前記被接着プレートは、前記ノズルプレートと前記アクチュエータプレートとの間に設けられている
請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記被接着プレートは、前記吐出チャネルと前記ノズル孔とを連通させる連通孔を有し、
前記非吐出チャネルは、前記被接着プレートにより塞がれている
請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記被接着プレートは絶縁性を有する
請求項または請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記吐出チャネルは、当該吐出チャネルの延在方向の中央部で前記ノズル孔に連通されている
請求項1ないし請求項のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
更に、前記吐出チャネルに連通する液体導入流路と、
前記吐出チャネルに連通するとともに前記液体導入流路とは別に設けられた液体排出流路とを有する
請求項に記載のヘッドチップ。
【請求項8】
前記保護膜は、前記共通電極を覆っている
請求項1ないし請求項のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項9】
前記保護膜は、パラキシリレン系樹脂材料を含む
請求項1ないし請求項のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項10】
請求項1ないし請求項のうちいずれか1項に記載のヘッドチップと、
前記ヘッドチップに前記液体を供給する供給機構と
を備えた液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体を収容する収容部と
を備えた液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体を噴射するヘッドチップ、このヘッドチップを用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被記録媒体に画像を記録する記録装置として、液体噴射ヘッドを備えた液体噴射記録装置が知られており、その液体噴射ヘッドは、液体を噴射するヘッドチップを含んでいる。この液体噴射記録装置では、ヘッドチップから被記録媒体に液体が噴射されるため、その被記録媒体に画像が記録される。
【0003】
このヘッドチップは、液体を噴射させるために電気的に駆動されるアクチュエータプレートを含んでいる。アクチュエータプレートには、複数の吐出チャネルが設けられている(例えば、特許文献1参照)。この吐出チャネルに液体が供給される。吐出チャネルに供給された液体が、ノズル孔を介して噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-55544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなヘッドチップでは、吐出チャネルに供給された液体が、吐出チャネル近傍の部材に影響を及ぼし、信頼性を低下させるおそれがある。
【0006】
そこで、信頼性の低下を抑えることが可能なヘッドチップ、このヘッドチップを用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態のヘッドチップは、各々、ノズル孔に連通する複数の吐出チャネルと、吐出チャネル各々の内壁に設けられた共通電極と、隣り合う吐出チャネルの間に設けられた非吐出チャネルと、非吐出チャネルの内壁に設けられた個別電極とを有するアクチュエータプレートと、アクチュエータプレートに接合され、かつ、吐出チャネルに流入した液体が接触する液体接触面を有する被接着プレートと、被接着プレートとアクチュエータプレートとの間に設けられるとともに、被接着プレートとアクチュエータプレートとを接合する接着層と、吐出チャネル各々の内壁から、吐出チャネル側に露出された接着層の端面を介して液体接触面の少なくとも一部を連続して覆う保護膜とを備えたものである。また、この保護膜は、非吐出チャネルの内壁も覆っている。
【0008】
本開示の一実施形態の液体噴射ヘッドは、液体を噴射するヘッドチップと、そのヘッドチップに液体を供給する供給部と備え、そのヘッドチップが上記した本開示の一実施形態のヘッドチップと同様の構成を有するものである。
【0009】
本開示の一実施形態の液体噴射記録装置は、被記録媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、その液体を収容する収容部とを備え、その液体噴射ヘッドが上記した本開示の一実施形態の液体噴射ヘッドと同様の構成を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態のヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置によれば、吐出チャネルに供給された液体に起因する吐出チャネル近傍の部材への影響を軽減し、信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の第1の実施形態の液体噴射記録装置(液体噴射ヘッド)の構成を表す斜視図である。
図2図1に示した液体噴射ヘッドの構成を模式的に表す平面図である。
図3図1に示した循環機構の構成を模式的に表す図である。
図4図2に示したノズルプレート、アクチュエータプレートおよびカバープレートのそれぞれの構成を表す斜視図である。
図5図4に示したアクチュエータプレートの構成を表す平面図である。
図6図5に示したA-A線に沿ったノズルプレート、アクチュエータプレートおよびカバープレートのそれぞれの構成を表す断面図である。
図7図6の一部を拡大して表す断面図である。
図8図7に示した保護膜の構成の他の例を表す断面図である。
図9図2等に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一例を表す工程図である。
図10図9に示した液体噴射ヘッドの製造方法の他の例を表す工程図である。
図11】比較例に係る液体噴射ヘッドの要部の構成を表す断面図である。
図12】変形例に係る液体噴射ヘッドの要部の構成を表す断面図である。
図13図12の一部を拡大して表す断面図である。
図14図13に示した保護膜の構成の他の例(1)を表す断面図である。
図15図13に示した保護膜の構成の他の例(2)を表す断面図である。
図16図13に示した保護膜の構成の他の例(3)を表す断面図である。
図17図13に示した保護膜の構成の他の例(4)を表す断面図である。
図18図13に示した保護膜の構成の他の例(5)を表す断面図である。
図19図12等に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一例を表す工程図である。
図20図19に示した液体噴射ヘッドの製造方法の他の例を表す工程図である。
図21】本開示の第2の実施の形態に係る液体噴射ヘッドの要部の構成を表す分解斜視図である。
図22図21に示した液体噴射ヘッドの断面図である。
図23図22に示した液体噴射ヘッドの他の断面図である。
図24図23に示した液体噴射ヘッドの一部を拡大して表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.第1の実施の形態(インク循環を行うサイドシュート型の液体噴射ヘッドの例)
2.変形例(アクチュエータプレートとノズルプレートとの間に中間プレートを有する例)
3.第2の実施の形態(インク循環を行うエッジシュート型の液体噴射ヘッドの例)
4.その他の変形例
【0013】
<1.液体噴射記録装置(液体噴射ヘッド)>
本開示の一実施形態の液体噴射記録装置に関して説明する。
【0014】
なお、本開示の一実施形態の液体噴射ヘッドは、ここで説明する液体噴射記録装置のうちの一部であるため、その液体噴射ヘッドに関しては、以下で併せて説明する。
【0015】
<1-1.液体噴射記録装置および液体噴射ヘッドのそれぞれの構成>
最初に、液体噴射記録装置および液体噴射ヘッドのそれぞれの構成に関して説明する。
【0016】
図1は、液体噴射記録装置の一具体例であるプリンタ1の斜視構成を表している。図2は、図1に示した液体噴射ヘッドの一具体例であるインクジェットヘッド4の平面構成を模式的に表している。図3は、図1に示した循環機構5の構成を模式的に表している。ただし、図1では、筐体10の外縁(輪郭)を破線で示すことにより、その筐体10の内部を示している。
【0017】
このプリンタ1は、主に、被記録媒体である記録紙Pに対して、後述する記録用の液体であるインク9を用いて画像などを記録(印刷)するインクジェット方式のプリンタであり、いわゆるインクジェットプリンタである。
【0018】
特に、ここで説明するプリンタ1は、例えば、循環機構5において循環されているインク9を用いるインク循環方式のインクジェットプリンタである。
【0019】
具体的には、プリンタ1は、例えば、図1図3に示したように、筐体10の内部に、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、循環機構5と、走査機構6とを備えている。
【0020】
なお、図1図3および後述する各図面では、プリンタ1に関する一連の構成要素の大きさを認識可能な大きさとするために、各構成要素の縮尺を適宜変更している。
【0021】
[搬送機構]
一対の搬送機構2a,2bは、主に、プリンタ1に投入された記録紙Pを搬送方向D(X軸方向)に搬送させる機構である。
【0022】
搬送機構2a,2bのそれぞれは、例えば、図1に示したように、グリッドローラ21およびピンチローラ22を含んでいる。グリッドローラ21およびピンチローラ22のそれぞれは、例えば、搬送方向Dと交差する方向(Y軸方向)に延在しており、その方向に延在する回転軸を中心として回転可能である。また、搬送機構2a,2bのそれぞれは、例えば、図示しないモータなどの駆動機構に接続されており、その駆動機構の動力を利用して回転する。
【0023】
ここでは、記録紙Pの平面形状は、例えば、互いに対向する一対の長辺と互いに対向する一対の短辺とにより規定される矩形である。これに伴い、搬送方向Dは、例えば、記録紙Pの長手方向に沿った方向(X軸方向)であると共に、搬送方向Dに交差する方向は、例えば、記録紙Pの短手方向に沿った方向(Y軸方向)である。
【0024】
[インクタンク]
インクタンク3は、主に、インク9を貯蔵する液体貯蔵部である。このインクタンク3が、本開示の「収容部」の一具体例に対応する。
【0025】
インクタンク3の数は、特に限定されないため、1個だけでもよいし、2個以上でもよい。ここでは、プリンタ1は、例えば、図1に示したように、互いに異なる色のインク9を収容する4個のインクタンク3(3Y,3M,3C,3K)を備えている。インクタンク3Y,3M,3C,3Kは、例えば、搬送方向D(X軸方向)において、上流側から下流側に向かってこの順に配列されている。
【0026】
インクタンク3Yは、例えば、イエロー(Y)のインク9を貯蔵している。インクタンク3Mは、例えば、マゼンタ(M)のインク9を貯蔵している。インクタンク3Cは、例えば、シアン(C)のインク9を貯蔵している。インクタンク3Kは、例えば、ブラック(K)のインク9を収容している。
【0027】
インクタンク3Y,3M,3C,3Kのそれぞれは、例えば、インク9の種類(色)が互いに異なることを除いて、互いに同様の構成を有している。以下では、必要に応じて、インクタンク3Y,3M,3C,3Kをまとめて「インクタンク3」と総称する。
【0028】
[インクジェットヘッド]
インクジェットヘッド4は、主に、記録紙Pに画像などを記録するために、その記録紙Pにインク9を噴射するデバイス(ヘッド)である。このインクジェットヘッド4では、特に、記録紙Pに液滴状のインク9が噴射される。
【0029】
ここで説明するインクジェットヘッド4は、例えば、いわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッド4であり、後述する複数のチャネルC(図4図6参照)それぞれの延在方向(図4図6のY方向)の略中央領域からインク9を噴射する。すなわち、サイドシュートタイプのインクジェットヘッド4では、後述するように、アクチュエータプレート42に設けられた各チャネルCがY軸方向に延在しており、ノズルプレート41に設けられた各ノズル孔HからY軸方向と交差するZ軸方向にインク9が噴射される。
【0030】
また、インクジェットヘッド4は、例えば、いわゆる循環式のインクジェットヘッド4であり、上記した循環機構5を利用してインクタンク3とインクジェットヘッド4との間において循環されるインク9を用いる。
【0031】
具体的には、インクジェットヘッド4は、図2に示したように、ヘッドチップ400と、流路プレート44とを含んでいる。この流路プレート44は、例えば、プレート状の流路部材である。ヘッドチップ400および流路プレート44のそれぞれは、例えば、所定の方向(X軸方向)に延在している。このヘッドチップ400は、流路プレート44の一面に対して沿うように延在していると共に、その流路プレート44の一面に対して固定されている。
【0032】
ヘッドチップ400は、例えば、ノズルプレート41と、アクチュエータプレート42と、カバープレート43とを含んでいる。ノズルプレート41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43は、流路プレート44よりも遠い側からこの順に積層されている。ここで、ヘッドチップ400が本開示の「ヘッドチップ」の一具体例に対応し、流路プレート44が本開示の「供給機構」の一具体例に対応する。
【0033】
インクジェットヘッド4の数は、特に限定されないため、1個だけでもよいし、2個以上でもよい。ここでは、プリンタ1は、例えば、図1に示したように、上記した4個のインクタンク3(3Y,3M,3C,3K)に対応して、互いに異なる色のインク9を噴射する4個のインクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4K)を備えている。インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kは、例えば、搬送方向Dと交差する方向(Y軸方向)においてこの順に配列されている。
【0034】
インクジェットヘッド4Yは、例えば、イエローのインク9を噴射する。インクジェットヘッド4Mは、例えば、マゼンタのインク9を噴射する。インクジェットヘッド4Cは、例えば、シアンのインク9を噴射する。インクジェットヘッド4Kは、例えば、ブラックのインク9を噴射する。
【0035】
インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kのそれぞれは、例えば、インク9の種類(色)が互いに異なることを除いて、互いに同様の構成を有している。以下では、必要に応じて、インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kをまとめて「インクジェットヘッド4」と総称する。
【0036】
なお、ヘッドチップ400(ノズルプレート41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43)の詳細な構成に関しては、後述する(図4図6参照)。
【0037】
[循環機構]
循環機構5は、主に、インクタンク3とインクジェットヘッド4との間においてインク9を循環させる機構である。
【0038】
この循環機構5は、例えば、図3に示したように、インク9の循環流路50と、加圧ポンプ51aと、吸引ポンプ51bとを含んでいる。
【0039】
循環流路50は、例えば、インクタンク3からインクジェットヘッド4に向かってインク9が流れる第1流路50aと、インクジェットヘッド4からインクタンク3に向かってインク9が流れる第2流路50bとを含んでいる。
【0040】
第1流路50aおよび第2流路50bのそれぞれでは、例えば、チューブの内部にインク9が流れており、そのチューブは、例えば、可撓性を有するフレキシブルチューブなどである。
【0041】
加圧ポンプ51aは、例えば、第1流路50aに設けられている。この加圧ポンプ51aは、第1流路50aの内部を加圧することにより、インクジェットヘッド4にインク9を供給する。
【0042】
吸引ポンプ51bは、例えば、第2流路50bに設けられている。この吸引ポンプ51Bは、第2流路50bの内部を減圧することにより、インクジェットヘッド4からインク9を吸引する。
【0043】
これにより、循環機構5では、例えば、循環方向Fに向かってインク9が流れる。すなわち、インクタンク3から供給されたインク9は、例えば、第1流路50a、インクジェットヘッド4および第2流路50bをこの順に経由することにより、そのインクタンク3に戻る。
【0044】
[走査機構]
走査機構6は、主に、搬送方向Dと交差する方向(Y軸方向)にインクジェットヘッド4を走査させる機構である。
【0045】
この走査機構6は、例えば、図1に示したように、一対のガイドレール61a,61bと、キャリッジ62と、駆動機構63とを含んでいる。
【0046】
ガイドレール61a,61bのそれぞれは、例えば、搬送方向Dと交差する方向(Y軸方向)に延在している。キャリッジ62は、例えば、ガイドレール61a,61bにより支持されており、そのガイドレール61a,61bに沿って搬送方向Dと交差する方向(Y軸方向)に移動可能である。駆動機構63は、例えば、一対のプーリ631a,631bと、無端状のベルト632と、駆動モータ633とを含んでいる。
【0047】
一対のプーリ631a,631bは、例えば、ガイドレール61a,61bの間に配置されている。プーリ631a,631bのそれぞれは、例えば、ガイドレール61a,61bの両端近傍に対応する位置に、Y軸方向に延在するように設けられている。ベルト632は、例えば、プーリ631a,631bの間において巻回されている。このベルト632は、例えば、キャリッジ62に連結されており、そのキャリッジ62の上には、例えば、インクジェットヘッド4が載置されている。
【0048】
搬送機構2a,2bおよび走査機構6を移動機構として利用することにより、記録紙Pおよびインクジェットヘッド4のそれぞれは、相対的に移動可能である。
【0049】
<1-2.インクジェットヘッド4の具体的な構成>
次に、インクジェットヘッド4(ノズルプレート41、アクチュエータプレート42、カバープレート43および流路プレート44)の具体的な構成に関して説明する。
【0050】
図4は、図2に示したノズルプレート41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43のそれぞれの斜視構成を表している。ただし、図4では、ノズルプレート41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43が互いに離間された状態を示している。
【0051】
図5は、図4に示したアクチュエータプレート42の平面構成を表し、図6は、図5に示したA-A線に沿ったノズルプレート41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43のそれぞれの断面構成を表している。図7は、図6に示した3つのチャネルCに対応する部分を拡大して表している。
【0052】
ただし、図5では、ノズル列411,412(複数のノズル孔H1,H2)を破線で示している。
【0053】
[ノズルプレート]
ノズルプレート41は、主に、後述するインク9の噴射口である複数のノズル孔Hが設けられたプレートである。
【0054】
このノズルプレート41は、アクチュエータプレート42の一方の主面(図4図6のXY平面)に、接着層AL1(図7)により貼り合わされている。このノズルプレート41は、複数のチャネルC(後述する吐出チャネルC1e,C2e)に対応する位置に複数のノズル孔Hを有している。第1の実施の形態では、このノズルプレート41が、本開示の「被接着プレート」の一具体例に対応する。
【0055】
また、ノズルプレート41は、例えば、絶縁性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。絶縁性材料の種類は、特に限定されないが、例えば、ポリイミドなどの高分子材料である。なお、ノズルプレート41は、例えば、絶縁性材料の代わりに導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。導電性材料の種類は、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼(SUS)などの金属材料である。ステンレス鋼の種類は、特に限定されないが、例えば、SUS316LおよびSUS304などである。
【0056】
具体的には、ノズルプレート41は、例えば、図4図6に示したように、Y軸方向において所定の間隔を隔てながら配列された複数のノズル列410を有している。各ノズル列410は、例えば、X軸方向に延在しており、複数のノズル孔Hを含んでいる。ノズル孔Hの開口形状(Z軸方向から見たノズル孔Hの形状)は、例えば、円形である。
【0057】
ここでは、ノズルプレート41は、例えば、2列のノズル列410(411,412)を有している。このため、インクジェットヘッド4は、例えば、いわゆる2列タイプのインクジェットヘッドでる。
【0058】
ノズル列411は、例えば、X軸方向において所定の間隔を隔てながら配列された複数のノズル孔H1を含んでいる。各ノズル孔H1は、ノズルプレート41を貫通するようにZ軸方向に延在しており、後述するアクチュエータプレート42のうちの吐出チャネルC1eに連通されている。また、各ノズル孔H1は、Y軸方向に延在する吐出チャネルC1eのうちの略中央領域に対応する位置に配置されている。X軸方向における複数のノズル孔H1のピッチ(互いに隣り合う2個のノズル孔H1の間の距離)は、例えば、X軸方向における吐出チャネルC1eのピッチ(互いに隣り合う2個の吐出チャネルC1eの間の距離)と同様である。これにより、各吐出チャネルC1eから供給されるインク9は、各ノズル孔H1から噴射される。
【0059】
ノズル列412は、例えば、上記したノズル列411と同様の構成を有している。すなわち、ノズル列412は、例えば、X軸方向において所定の間隔を隔てながら配列された複数のノズル孔H2を含んでいる。各ノズル孔H2は、ノズルプレート41を貫通しており、後述するアクチュエータプレート42のうちの吐出チャネルC2eに連通されている。また、各ノズル孔H2は、Y軸方向に延在する吐出チャネルC2eのうちの略中央領域に対応する位置に配置されている。X軸方向における複数のノズル孔H2のピッチ(互いに隣り合う2個のノズル孔Hの間の距離)は、例えば、X軸方向における複数の吐出チャネルC2eのピッチ(互いに隣り合う2個の吐出チャネルC2eの間の距離)と同様である。これにより、各吐出チャネルC2eから供給されるインク9は、各ノズル孔H2から噴射される。
【0060】
即ち、各吐出チャネルC1e,C2eに供給されたインク9は、ノズルプレート41のノズル孔H1,H2近傍に接触して噴射される。換言すれば、ノズルプレート41は、各吐出チャネルC1e,C2eに流入したインク9が接触する面(以降、ノズルプレート41の液体接触面と称する)を有している。例えば、インク9は、各吐出チャネルC1e,C2eに対向する位置のノズルプレート41の主面、およびノズル孔H1,H2の内表面に接触する。ここでは、このノズルプレート41のうち、各吐出チャネルC1e,C2eに供給されたインク9が接触する面が、本開示の「液体接触面」の一具体例に対応する。
【0061】
ノズル孔H1,H2のそれぞれからインク9が噴射される方向は、上記したように、複数のチャネルCの延在方向(Y軸方向)と交差する方向(Z軸方向)である。より具体的には、インク9の噴射方向は、アクチュエータプレート42からノズルプレート41に向かう方向(図4中の下方向)である。ノズル孔H1,H2のそれぞれの内径は、例えば、噴射方向に向かって次第に小さくなっている。すなわち、ノズル孔H1,H2のそれぞれは、例えば、テーパ状の貫通口である。
【0062】
[アクチュエータプレート]
アクチュエータプレート42は、主に、複数のノズル孔Hからインク9を噴射させるために電気的に動作するプレートである。
【0063】
このアクチュエータプレート42は、上記したように、Y軸方向に延在する複数のチャネルCを有している。チャネルCの開口形状(Z軸方向から見たチャネルCの形状)は、例えば、矩形である。各チャネルCにインク9が収容されることにより、そのインク9が各ノズル孔Hのそれぞれから噴射される。
【0064】
また、アクチュエータプレート42は、例えば、圧電材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。圧電材料の種類は、特に限定されないが、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などである。このアクチュエータプレート42は、例えば、Z軸方向における分極方向が互いに異なる方向となるように設定されている2枚の圧電基板が積層された積層体である(シェブロンタイプ)。
【0065】
具体的には、アクチュエータプレート42は、例えば、図4図6に示したように、Y軸方向において所定の間隔を隔てながら配列された複数のチャネル列420を有している。各チャネル列420は、例えば、X軸方向に延在しており、複数のチャネルCを含んでいる。ここでは、アクチュエータプレート42は、例えば、2列のチャネル列420(421,422)を有している。
【0066】
このアクチュエータプレート42では、例えば、X軸方向における略中央領域(チャネル列421,422が形成されている領域)にインク9の噴射領域A1が設けられていると共に、そのX軸方向における両端領域(チャネル列421,422が形成されていない領域)にインク9の非噴射領域A2が設けられている。すなわち、非噴射領域A2は、X軸方向において噴射領域A1よりも外側に配置されている。
【0067】
チャネル列421は、例えば、Y軸方向に延在する複数のチャネルC1を含んでいる。複数のチャネルC1は、例えば、X軸方向において所定の間隔を隔てながら配列されている。各チャネルC1は、例えば、圧電体を含む駆動壁Wdにより画定されている。この駆動壁Wdが、本開示の「内壁」の一具体例に対応する。
【0068】
チャネル列422は、例えば、上記したチャネル列421と同様の構成を有している。すなわち、チャネル列422は、例えば、Y軸方向に延在する複数のチャネルC2を含んでいる。複数のチャネルC2は、例えば、X軸方向において所定の間隔を隔てながら配列されている。各チャネルC2は、例えば、圧電体を含む駆動壁Wdにより画定されている。
【0069】
複数のチャネルC1は、例えば、インク9を噴射させる吐出チャネルC1eと、インク9を噴射させないダミーチャネルC1dとを含んでいる。チャネル列421において、吐出チャネルC1eおよびダミーチャネルC1dは、例えば、X軸方向において交互に配置されている。各吐出チャネルC1eは、ノズルプレート41に設けられた各ノズル孔H1に連通されている。これに対して、各ダミーチャネルC1dは、各ノズル孔H1に連通されておらずに、ノズルプレート41により遮蔽されている。
【0070】
複数のチャネルC2は、例えば、上記した複数のチャネルC1と同様の構成を有している。すなわち、複数のチャネルC2は、例えば、インク9を噴射させる吐出チャネルC2eと、インク9を噴射させないダミーチャネルC2dとを含んでいる。チャネル列422において、吐出チャネルC2eおよびダミーチャネルC2dは、例えば、X軸方向において交互に配置されている。各吐出チャネルC2eは、ノズルプレート41に設けられた各ノズル孔H2に連通されている。これに対して、各ダミーチャネルC2dは、各ノズル孔H2に連通されておらずに、ノズルプレート41により遮蔽されている。ここでは、吐出チャネルC1e,C2eが、本開示の「吐出チャネル」の一具体例に対応し、ダミーチャネルC1d,C2dが、本開示の「非吐出チャネル」の一具体例に対応する。
【0071】
吐出チャネルC1eおよびダミーチャネルC1dと、吐出チャネルC2eおよびダミーチャネルC2dとは、例えば、互い違いとなるように配列されている。すなわち、吐出チャネルC1e,C2eは、例えば、千鳥配列されている。なお、アクチュエータプレート42のうち、ダミーチャネルC1d,C2dのそれぞれに対応する領域には、例えば、浅溝部Ddが設けられている。この浅溝部Ddは、例えば、Y軸方向に延在するダミーチャネルC1d,C2dのそれぞれのうちの外側端部に連通されている。
【0072】
このアクチュエータプレート42では、例えば、駆動壁Wdに対向する内側面に、Y軸方向に延在する駆動電極Edが設けられている。この駆動電極Edは、例えば、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの内側面に設けられたコモン電極Edcと、ダミーチャネルC1d,C2dのそれぞれの内側面に設けられたアクティブ電極Edaとを含んでいる。ここでは、コモン電極Edcが本開示の「共通電極」の一具体例に対応し、アクティブ電極Edaが本開示の「個別電極」の一具体例に対応する。駆動電極Ed(コモン電極Edcおよびアクティブ電極Eda)は、例えば、Z軸方向においてアクチュエータプレート42(駆動壁Wd)の一端部から他端部まで延在している。このため、Z軸方向における駆動電極Edの寸法は、例えば、Z軸方向における駆動壁Wdの厚さとほぼ等しくなっている。Z軸方向における駆動電極Edの寸法は、駆動壁Wdの厚さよりも小さくなっていてもよい。駆動電極Edは、図7に示したように、保護膜Pにより覆われている。これにより、駆動電極Edとインク9との接触が抑えられ、駆動電極Edの腐食等の発生を抑えることが可能となる。
【0073】
1個の吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)の内部において互いに対向する一対のコモン電極Edcは、例えば、コモン端子を介して互いに電気的に接続されている。1個のダミーチャネルC1d(またはダミーチャネルC2d)の内部において互いに対向する一対のアクティブ電極Edaは、例えば、互いに電気的に分離されている。吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)を介して互いに対向する一対のアクティブ電極Edaは、例えば、アクティブ端子を介して互いに電気的に接続されている。
【0074】
アクチュエータプレート42のY軸方向の端部には、例えば、駆動電極Edとインクジェットヘッド4とを互いに電気的に接続させるフレキシブルプリント基板45が実装されている。ただし、図4では、フレキシブルプリント基板45の一部の外縁(輪郭)を破線で示している。このフレキシブルプリント基板45に形成されている配線は、例えば、上記したコモン端子およびアクティブ端子のそれぞれに電気的に接続されている。これにより、フレキシブルプリント基板45を介してインクジェットヘッド4から各駆動電極Edに駆動電圧が印加される。
【0075】
[接着層]
アクチュエータプレート42とノズルプレート41との間には、図7に示したように、接着層AL1が設けられている。この接着層AL1は、アクチュエータプレート42とノズルプレート41とを接合するためのものであり、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂等を含む樹脂材料により構成されている。この接着層AL1は、吐出チャネルC1e,C2eからノズル孔H1,H2へのインク9の移動を妨げないよう、吐出チャネルC1e,C2eおよびノズル孔H1,H2を避けて設けられている。具体的には、アクチュエータプレート42の駆動壁Wdと、ノズルプレート41のフィルム材との間に接着層AL1が設けられている。ダミーチャネルC1d,C2dがAL1で塞がれることがないよう、ダミーチャネルC1d,C2dとノズルプレート41との間も避けて、接着層AL1を配置することが好ましい。これにより、駆動壁Wdが正常に駆動される。ここでは、接着層AL1が、本開示の「接着層」の一具体例に対応する。
【0076】
[保護膜]
保護膜Pは、例えば、図7に示したように、複数の吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)および複数のダミーチャネルC1d(またはダミーチャネルC1d)各々に設けられ、吐出チャネルC1eおよびダミーチャネルC1d各々の内側面および底面を覆っている。保護膜Pは、駆動電極Edを間にして吐出チャネルC1eおよびダミーチャネルC1dの内側面を覆っている。保護膜Pは、例えば、パラキシリレン系樹脂材料(例えば、パリレン(登録商標))等の有機絶縁材料を含んでいる。パラキシリレン系樹脂材料を用いて保護膜Pを形成することにより、保護膜Pの下側へのインク9の浸入を抑え、駆動電極Ed等の部材を確実に保護することが可能となる。
【0077】
本実施の形態では、この保護膜Pが、吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)の内側面(駆動壁Wd)から、吐出チャネルC1e側に露出された接着層AL1の端面を介してノズルプレート41の液体接触面(ノズル孔H1,H2近傍の面)までを覆っている。保護膜Pは、ノズルプレート41の液体接触面を全て覆っていなくてもよく、接着層AL1側からノズルプレート41の液体接触面の少なくとも一部を覆うように設けられていればよい。この保護膜Pは、吐出チャネルC1eから接着層AL1の端面を介してノズルプレート41の液体接触面まで連続して設けられている。ここで、保護膜Pが連続して設けられているとは、吐出チャネルC1eからノズルプレート41の液体接触面までの間に、保護膜Pの設けられていない領域および保護膜Pの断面が存在しないことを意味する。保護膜Pの断面は、例えば、アッシング等を用いて保護膜Pの一部を除去することにより形成される。
【0078】
ここでは、このように連続して設けられた保護膜Pが、吐出チャネルC1e側に露出された接着層AL1の端面を覆っている。詳細は後述するが、これにより、インク9が吐出チャネルC1eに供給された際に、インク9が接着層AL1に侵入しにくくなる。また、アクチュエータプレート42、接着層AL1およびノズルプレート41のうち、インク9が接触する部分が保護膜Pにより連続して覆われる。即ち、インク9が接触する部分に、保護膜Pの断面がないので、保護膜Pの断面を介した保護膜Pの下側へのインク9の浸入が抑えられる。保護膜Pは、アクチュエータプレート42の一方の主面(アクチュエータプレート42と接着層AL1との間)およびノズルプレート41の表面(アクチュエータプレート42に貼り合わされた面と反対の面)に設けられていてもよい。保護膜Pは、ノズルプレート41の表面に設けられていなくてもよい。例えば、ノズルプレート41の表面にマスク用のフィルムを貼り合わせた後、保護膜Pを形成することにより、ノズルプレート41の表面には保護膜Pが形成されないようにしてもよい。
【0079】
図8は、図7に示した保護膜Pの構成の他の例を表している。保護膜Pは、吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)およびダミーチャネルC1d(またはダミーチャネルC2d)のうち、少なくとも吐出チャネルC1eに設けられていればよい。例えば、ダミーチャネルC1dの内側面および底面は、保護膜Pにより覆われていなくてもよい(図8)。保護膜Pは、アクチュエータプレート42の一方の主面に設けられていなくてもよい(図8)。
【0080】
図7に示したように、ダミーチャネルC1dにも保護膜Pを設けることにより、仮に、飛散等により、ダミーチャネルC1dの延在方向(図4図6のY軸方向)の端部からインク9がダミーチャネルC1d内に侵入しても、アクティブ電極Edaとインク9との接触が抑えられる。したがって、ヘッドチップ400の信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【0081】
[カバープレート]
カバープレート43は、主に、アクチュエータプレート42(複数のチャネルC)にインク9を導入すると共に、そのアクチュエータプレート42からインク9を排出させるプレートである。カバープレート43は、アクチュエータプレート42の他方の主面に貼り合わされている。
【0082】
このカバープレート43は、例えば、アクチュエータプレート42の形成材料と同様の材料を含んでいる。
【0083】
具体的には、カバープレート43は、例えば、図4図6に示したように、アクチュエータプレート42に設けられた複数のチャネルC1,C2(複数のチャネル列421,422)を遮蔽するように配置されている。
【0084】
このカバープレート43は、例えば、一対の入口側共通インク室431a,432aと、一対の出口側共通インク室431b,432bとを有している。入口側共通インク室431aおよび出口側共通インク室431bのそれぞれは、例えば、アクチュエータプレート42に設けられた複数のチャネル列421(複数のチャネルC1)に対応する領域に配置されている。入口側共通インク室432aおよび出口側共通インク室432bのそれぞれは、例えば、アクチュエータプレート42に設けられた複数のチャネル列422(複数のチャネルC2)に対応する領域に配置されている。
【0085】
入口側共通インク室431aは、Y軸方向に延在する各チャネルC1のうちの一端部(内側端部)に対応する位置に設けられている。入口側共通インク室431aのうち、各吐出チャネルC1eに対応する領域には、例えば、供給スリットSaが形成されている。また、入口側共通インク室432aは、Y軸方向に延在する各チャネルC2のうちの一端部(内側端部)に対応する位置に設けられている。入口側共通インク室432aのうち、各吐出チャネルC2eに対応する領域には、例えば、上記した入口共通インク室431aと同様に、供給スリットSaが形成されている。
【0086】
出口側共通インク室431bは、入口側共通インク室431aとは別に設けられており、Y軸方向に延在する各チャネルC1のうちの他端部(外側端部)に対応する位置に配置されている。出口側共通インク室431bのうち、各吐出チャネルC1eに対応する領域には、例えば、排出スリットSbが形成されている。また、出口側共通インク室432bは、入口側共通インク室432aとは別に設けられており、Y軸方向に延在する各チャネルC2のうちの他端部(外側端部)に対応する位置に配置されている。出口側共通インク室432bのうち、各吐出チャネルC2eに対応する領域には、例えば、上記した出口側共通インク室431bと同様に、排出スリットSbが形成されている。
【0087】
入口側共通インク室431aおよび出口側共通インク室431bのそれぞれは、供給スリットSaおよび排出スリットSbを介して各吐出チャネルC1eに連通されているのに対して、各ダミーチャネルC1dに連通されていない。すなわち、各ダミーチャネルC1dは、入口側共通インク室431aおよび出口側共通インク室431bにより遮蔽されている。
【0088】
入口側共通インク室432aおよび出口側共通インク室432bのそれぞれは、供給スリットSaおよび排出スリットSbを介して各吐出チャネルC2eに連通されているのに対して、各ダミーチャネルC2dに連通されていない。すなわち、各ダミーチャネルC2dは、入口側共通インク室432aおよび出口側共通インク室432bにより遮蔽されている。
【0089】
ここで、入口側共通インク室431a,432aおよび供給スリットSaが、本開示の「液体導入流路」の一具体例に対応し、出口側共通インク室431b,432bおよび排出スリットSbが、本開示の「液体排出流路」の一具体例に対応する。
【0090】
[流路プレート]
流路プレート44は、図2に示したように、カバープレート43の上面に配置されており、インク9が流れる所定の流路(不図示)を有している。また、このような流路プレート44内の流路には、前述した循環機構5における流路が接続されており、この流路に対するインク9の流入と、この流路からのインク9の流出とが、それぞれなされるようになっている。なお、上述したように、ダミーチャネルC1d,C2dはカバープレート43の底部によって閉塞されるようになっているので、インク9は、吐出チャネルC1e,C2eのみに供給され、ダミーチャネルC1d,C2dには流入しない。
【0091】
<1-4.インクジェットヘッドの製造方法>
次に、図9を用いてインクジェットヘッド4の製造方法について説明する。図9は、インクジェットヘッド4の製造方法の一例を工程順に表したものである。
【0092】
まず、チャネル形成工程(ステップS1)および電極形成工程(ステップS2)により、アクチュエータウェハを形成する。このアクチュエータウェハを分割する(ステップS5)ことにより、複数のアクチュエータプレート42が形成される。具体的には、例えば、以下のようにしてアクチュエータウェハを形成する。
【0093】
まず、PZT等の圧電材料からなる圧電基板を準備する。圧電基板は、例えば、厚み方向における分極方向が互いに逆方向の2枚の圧電基板の積層体により形成する。次いで、この圧電基板の表面に、例えば、フォトリソグラフィ法を用いてレジスト膜のパターンを形成する。続いて、このレジスト膜のパターンを形成した圧電基板の表面から研削加工を行い、複数の溝を形成する。これにより、チャネルC1,C2が形成される(ステップS1)。
【0094】
次に、例えば、斜方蒸着法を用いて、チャネルC1,C2内の内側面に金属材料を成膜する。これにより、駆動電極Edが形成される(ステップS2)。この後、レジスト膜を除去することにより、吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)内に形成されたアクティブ電極Edaと、ダミーチャネルC1d(またはダミーチャネルC2d)内に形成されたコモン電極Edcとが電気的に分離される(リフトオフ法)。
【0095】
このようにしてアクチュエータウェハを形成した後、このアクチュエータウェハの表面に、接着剤を用いてカバーウェハを貼り合わせる(ステップS3)。続いて、カバーウェハの表面に、接着剤を用いて流路ウェハを貼り合わせる(ステップS4)。カバーウェハを分割する(ステップS5)ことにより、複数のカバープレート43が形成され、流路ウェハを分割する(ステップS5)ことにより、複数の流路プレート44が形成される。
【0096】
アクチュエータウェハに、カバーウェハおよび流路ウェハをこの順に貼り合わせた後、これらの積層体を、例えばダイサー等を用いてチップ状に分割する(ステップS5)。これにより、互いに接合されたアクチュエータプレート42、カバープレート43および流路プレート44が形成される。
【0097】
次に、アクチュエータプレート42の一方の主面(カバープレート43が貼り合わされた主面と反対側の主面)およびチャネルC1,C2内に保護膜Pを形成する(ステップS6)。保護膜Pは、例えば、化学蒸着法等を用いてパラキシリレン系樹脂材料を成膜することにより形成する。保護膜Pは、アクチュエータプレート42の一方の主面から、チャネルC1,C2の開口を介してチャネルC1,C2の内側面および底面に連続して成膜される。保護膜Pを形成した後、アクチュエータプレート42の一方の主面にプラズマ照射等の表面処理を施す。これにより、ノズルプレート41をアクチュエータプレート42に貼り合わせる際(ステップS7)に、保護膜Pに起因した接着力の低下を抑えることができる。
【0098】
続いて、アクチュエータプレート42の一方の主面に、接着層AL1を介してノズルプレート41を貼り合わせる(ステップS7)。この後、ノズルプレート41の表面から、ノズル孔H1,H2を介して吐出チャネルC1e,C2e内まで連続して保護膜Pを形成する(ステップS8)。これにより、ノズル孔H1,H2近傍から、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を介して吐出チャネルC1e,C2e内まで連続して保護膜Pが形成される。このようにして、図2図7等に示したインクジェットヘッド4を製造することができる。
【0099】
図10は、インクジェットヘッド4の製造工程の他の例を表している。このように、保護膜Pの形成工程を一回にするようにしてもよい。この製造方法では、ノズルプレート41の貼合せ工程(ステップS7)の前の保護膜Pの形成工程(図9のステップS6)を行わず、ステップS7の工程後に保護膜Pを形成している(ステップS8)。この製造方法では、ダミーチャネルC1d,C2dの内側面および底面には、保護膜Pが形成されない(図8参照)。
【0100】
ここでは、インクジェットヘッド4(ヘッドチップ400)がサイドシュートタイプであり、アクチュエータプレート42の一方の主面に設けられた吐出チャネルC1e,C2eの開口に、ノズル孔H1,H2が連通される。このようなサイドシュートタイプのインクジェットヘッド4は、エッジシュートタイプのインクジェットヘッド(例えば、後述の図20のインクジェットヘッド4B)に比べて、ノズル孔H1,H2に連通される吐出チャネルC1e,C2eの開口が広くなっている。したがって、アクチュエータプレート42とノズルプレート41とを、接着層AL1を介して接合した後に、保護膜Pを形成しても(ステップS8)、吐出チャネルC1e,C2eからノズル孔H1,H2への連通部分で保護膜Pを形成するための樹脂材料が流動しやすい。これにより、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を覆う保護膜Pを厚く形成し易くなる。
【0101】
また、インクジェットヘッド4(ヘッドチップ400)は、インクタンク3からのインク9の導入流路と、インクタンク3へのインク9の排出流路とを有している。即ち、インクジェットヘッド4は、循環型のインクジェットヘッドであり、非循環型のインクジェットヘッドに比べて、流体が移動しやすくなっている。したがって、アクチュエータプレート42とノズルプレート41とを接着層AL1を介して接合した後に、保護膜Pを形成しても(ステップS8)、吐出チャネルC1e,C2eからノズル孔H1,H2への連通部分で保護膜Pを形成するための樹脂材料が流動しやすい。この点においても、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を覆う保護膜Pを厚く形成し易い。
【0102】
<1-4.動作>
次に、プリンタ1の動作に関して説明する。
【0103】
[プリンタの動作]
まず、プリンタ1全体の動作を説明する。このプリンタ1では、以下の手順により、記録紙Pに画像などが記録される。
【0104】
初期状態では、4個のインクタンク3(3Y,3M,3C,3K)に、互いに異なる4色(イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラック)のインク9が収容されている。このインク9は、循環機構5において循環されることにより、インクジェットヘッド4に供給されている。
【0105】
プリンタ1が稼働すると、搬送機構2a,2bのそれぞれのグリッドローラ21が回転するため、グリッドローラ21およびピンチローラ22により記録紙Pが搬送方向Dに搬送される。この場合には、駆動機構63(駆動モータ633)が駆動するため、プーリ631a,631bのそれぞれが回転することにより、ベルト632が作動する。また、キャリッジ62がガイドレール61a,61bを利用してY軸方向に往復移動する。これにより、4個のインクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4K)から記録紙Pに4色のインク9が噴射されるため、その記録紙Pに画像などが記録される。
【0106】
[インクジェットヘッドの動作]
次に、プリンタ1の稼働時におけるインクジェットヘッド4の動作に関して説明する。このインクジェットヘッド4では、以下の手順により、せん断(シェア)モードを用いて記録紙Pにインク9が噴射される。
【0107】
最初に、キャリッジ62が往復移動すると、フレキシブルプリント基板45を介して、インクジェットヘッド4のうちの駆動電極Ed(コモン電極Edcおよびアクティブ電極Eda)に駆動電圧が印加される。具体的には、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれを画定する一対の駆動壁Wdに設けられた各駆動電極Edに駆動電圧が印加される。これにより、一対の駆動壁Wdのそれぞれは、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれに隣接されたダミーチャネルC1d,C2dに向かって突出するように変形する。
【0108】
ここで、上記したように、アクチュエータプレート42では、Z軸方向における分極方向が互いに異なる方向となるように設定された2枚の圧電基板が積層されていると共に、そのZ軸方向において駆動電極Edが駆動壁Wdの一端部から他端部まで延在している。この場合には、駆動電極Edに駆動電圧が印加されることにより、圧電厚み滑り効果によって、Z軸方向における駆動壁Wdの略中間位置を起点として、その駆動壁Wdが屈曲変形する。これにより、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれは、上記した駆動壁Wdの屈曲変形を利用して、あたかも膨らむように変形する。
【0109】
上記した圧電厚み滑り効果に基づく一対の駆動壁Wdの屈曲変形を利用して、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの容積が増大する。これにより、入口側共通インク室431a,432aのそれぞれに貯留されたインク9は、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの内部に誘導される。
【0110】
続いて、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの内部に誘導されたインク9は、圧力波として吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの内部に伝播する。この場合には、ノズルプレート41に設けられたノズル孔H1,H2に圧力波が到達したタイミングにおいて、駆動電極Edに印加される駆動電圧がゼロ(0V)になる。これにより、屈曲変形した駆動壁Wdが元の状態に戻るため、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの容積が元に戻る。
【0111】
最後に、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの容積が元に戻ると、吐出チャネルC1e,C2eのそれぞれの内部において圧力が増加するため、吐出チャネルC1e,C2eの内部に誘導されたインク9が加圧される。これにより、ノズル孔H1,H2から外部(記録紙P)に液滴状のインク9が噴射される。
【0112】
この場合には、例えば、上記したように、ノズル孔H1,H2のそれぞれの内径が噴射方向に向かって次第に小さくなっているため、インク9の噴射速度が増加すると共に、そのインク9の直進性が向上する。これにより、記録紙Pに記録される画像などの品質が向上する。
【0113】
<1-5.作用および効果>
次に、インクジェットヘッド4(ヘッドチップ400)を備えたプリンタ1の作用および効果に関して説明する。
【0114】
本実施の形態にかかるヘッドチップ400、インクジェットヘッド4およびプリンタ1では、保護膜Pが、吐出チャネルC1e,C2e内から、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を介してノズルプレート41の液体接触面までを覆っている。即ち、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面全面が保護膜Pに覆われている。これにより、吐出チャネルC1e,C2e内のインク9が接着層AL1に侵入しにくくなる。以下、この作用効果について、比較例を用いて説明する。
【0115】
図11は、比較例に係るヘッドチップ140の要部の断面構成を模式的に表したものであり、図7に対応する部分を表している。この比較例に係るヘッドチップ140では、保護膜Pが吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を覆っていない。この保護膜Pは、例えば、接着層AL1を介してアクチュエータプレート42にノズルプレート41を貼り合わせる前に形成されたものであり、アクチュエータプレート42の表面(ノズルプレート41に貼り合わされた面)から吐出チャネルC1e,ダミーチャネルC1dの内側面および底面を覆っている。
【0116】
このようなヘッドチップ140では、吐出チャネルC1eに誘導されたインク9が接着層AL1に直接触れるため、端面を介してインク9が接着層AL1に浸入しやすい。接着層AL1に侵入したインク9は、接着層AL1内を移動する。これにより、インク9の成分が接着層AL1を介して吐出チャネルC1eからダミーチャネルC1dに浸みだすおそれがある。インク9の成分が吐出チャネルC1eからダミーチャネルC1dに浸みだすと、吐出チャネルC1eに設けられたコモン電極Edcと、ダミーチャネルC1dに設けられたアクティブ電極Edaとの短絡が発生するおそれがある。また、接着層AL1に侵入したインク9が、接着層AL1の接着力を低下させ、ノズルプレート41がアクチュエータプレート42から剥がれるおそれがある。これにより、ヘッドチップ140では信頼性が低下する。
【0117】
これに対し、ヘッドチップ400では、ノズルプレート41をアクチュエータプレート42に貼り合わせた後に、保護膜Pを形成しており(図9図10のステップS8)、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面が保護膜Pにより覆われている。これにより、吐出チャネルC1e,C2e内のインク9は、接着層AL1の端面に直接触れず、接着層AL1へのインク9の浸入が抑えられる。したがって、接着層AL1に侵入したインク9に起因するコモン電極Edcとアクティブ電極Edaとの間の短絡の発生、および接着層AL1の接着力の低下を抑えることができる。よって、ヘッドチップ400では、ヘッドチップ140に比べて信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【0118】
また、ここでは、ノズルプレート41を貼り合わせる(図9図10のステップS7)前に、アクチュエータプレート42の表面にプラズマ照射等の表面処理を施している。これにより、吐出チャネルC1e,C2eからノズルプレート41の液体接触面まで連続した保護膜Pを形成することができる。
【0119】
例えば、保護膜Pを形成した後(図9のステップS6)、アクチュエータプレート42の表面にアッシングを施し、アクチュエータプレート42の表面に成膜された保護膜Pを除去することも考え得る。アクチュエータプレート42の表面の保護膜Pを除去しておくことにより、アクチュエータプレート42とノズルプレート41との接着性を高めることができる。しかし、このようなアッシングを保護膜Pに施すと、保護膜Pに断面が形成され、この断面から保護膜Pの下側にインク9が浸入しやすくなる。即ち、保護膜Pの保護機能が十分に維持できなくなる。これにより、インク9の成分に起因した駆動電極Ed等の不具合が発生するおそれがある。駆動電極Edの不具合とは、例えば、インク9の成分に起因した駆動電極Edの腐食および駆動電極Edの短絡等である。
【0120】
ここでは、上記のように、アクチュエータプレート42に保護膜Pを形成した後、アクチュエータプレート42の表面に、アッシングに代えて、プラズマ照射等の表面処理を施している。このため、保護膜Pの保護機能を損なうことなく、アクチュエータプレート42をノズルプレート41に十分な強度で接着することができる。よって、保護膜Pの保護機能の低下に起因した駆動電極Edの不具合の発生を抑え、ヘッドチップ400の信頼性の低下を抑えることができる。
【0121】
以上のように本実施の形態のヘッドチップ400、インクジェットヘッド4およびプリンタ1では、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面が、保護膜Pにより覆われているので、吐出チャネルC1e,C2e内のインク9が、接着層AL1に侵入しにくくなる。これにより、接着層AL1にインク9が浸入することに起因したヘッドチップ400、インクジェットヘッド4およびプリンタ1の信頼性の低下を抑えることが可能となる。即ち、吐出チャネルC1e,C2eに供給されたインク9に起因する吐出チャネルC1e,C2e近傍の部材への影響を軽減し、信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【0122】
また、吐出チャネルC1e,C2e内から、接着層AL1の端面を介してノズルプレート41の液体接触面まで連続して保護膜Pが形成されているので、保護膜Pの保護機能の低下が抑えられる。この点においてもヘッドチップ400、インクジェットヘッド4およびプリンタ1の信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【0123】
特に、循環型のサイドシュートタイプであるヘッドチップ400では、ヘッドチップ400内の流路を流体が移動し易くなっている。したがって、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面に、十分に厚い保護膜Pを容易に形成することができる。
【0124】
続いて、上記第1の実施の形態の変形例および他の実施の形態について説明する。なお、以下では、上記第1の実施の形態における構成要素と実質的に同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0125】
<2.変形例>
図12および図13は、上記第1の実施の形態の変形例に係るインクジェットヘッド4Aの要部の断面構成を表している。図12は、上記第1の実施の形態のインクジェットヘッド4を表す図6に対応している。図13は、図12に示した3つのチャネルCに対応する部分を拡大して表したものであり、上記第1の実施の形態のインクジェットヘッド4を表す図7に対応している。変形例に係るインクジェットヘッド4Aは、ノズルプレート41とアクチュエータプレート42との間に中間プレート46を有している。インクジェットヘッド4Aは、この点を除き、インクジェットヘッド4と実質的に同じ構成を有しており、上記第1の実施の形態のインクジェットヘッド4と同様の効果が得られる。
【0126】
中間プレート46は、例えば、ノズルプレート41とアクチュエータプレート42との間に介在することにより、これらノズルプレート41とアクチュエータプレート42とを互いに位置合わせするためなどに用いられるプレートである。中間プレート46は、ノズルプレート41とアクチュエータプレート42との間に設けられていればよく、例えば、他の役割を担っていてもよい。中間プレート46とアクチュエータプレート42との間には接着層AL1が設けられており、接着層AL1により、中間プレート46がアクチュエータプレート42に接合されている。本変形例では、中間プレート46が、本開示の「被接着プレート」の一具体例に対応し、接着層AL1が、本開示の「接着層」の一具体例に対応する。
【0127】
中間プレート46とノズルプレート41との間には接着層AL2が設けられており、接着層AL2により、ノズルプレート41が中間プレート46に接合されている。接着層AL2は、例えばエポキシ系、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂等を含む樹脂材料により構成されている。
【0128】
ノズルプレート41とアクチュエータプレート42との間に中間プレート46を介在させることにより、中間プレート46とアクチュエータプレート42との間の接着層AL1に加えて、中間プレート46とノズルプレート41との間の接着層AL2が形成される。即ち、プレート間の接合面積が増え、プレート間の剥がれが生じにくくなる。よって、インクジェットヘッド4Aでは、プレート間の剥がれを抑え、信頼性を向上させることが可能となる。
【0129】
この中間プレート46は、例えば、絶縁性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいるため、絶縁性を有している。絶縁性材料の種類は、特に限定されないが、例えば、ポリイミドおよびポリパラキシリレンなどの高分子材料である。
【0130】
ノズルプレート41およびアクチュエータプレート42は、中間プレート46を介して互いに張り合わされている。これにより、導電性のノズルプレート41と導電性のアクチュエータプレート42とは、例えば、絶縁性の中間プレート46を介して電気的に分離(絶縁)される。したがって、ノズルプレート41の形成材料として導電性材料を使用しても、インク9を介したノズルプレート41とアクチュエータプレート43との間の短絡の発生を抑えることができる。
【0131】
中間プレート46は、例えば、複数の吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)および複数のノズル孔H1(またはノズル孔H2)それぞれに対応する位置に連通孔46Mを有している。連通孔46Mは、中間プレート46を厚み方向(図12図13のZ方向)に貫通しており、吐出チャネルC1eおよびノズル孔H1に連通している。ここでは、連通孔46Mが、本開示の「連通孔」の一具体例に対応する。吐出チャネルC1eに供給されたインク9は、中間プレート46の連通孔46Mを通り、ノズル孔H1から噴射されるようになっている。換言すれば、中間プレート46は、各吐出チャネルC1e,C2eに流入したインク9が接触する面(以降、中間プレート46の液体接触面と称する)を有している。例えば、インク9は、連通孔46Mの内表面に接触する。ここでは、この中間プレート46のうち、各吐出チャネルC1e,C2eに供給されたインク9が接触する面が、本開示の「液体接触面」の一具体例に対応する。接着層AL2は、連通孔46Mからノズル孔H1,H2へのインク9の移動を妨げないよう、連通孔46Mおよびノズル孔H1,H2を避けて設けられている。
【0132】
連通孔46Mは、例えば、吐出チャネルC1eに対応する位置にスリット状に設けられている。このスリット状の連通孔46Mは、例えば、吐出チャネルC1eの延在方向と略平行(図12のY軸方向)に延びている。例えば、中間プレート46が、上記のように、ノズルプレート41とアクチュエータプレート42との間の位置合わせの役割を担っているとき、連通孔46Mの幅(図12のX軸方向の大きさ)の大きさが、例えば、吐出チャネルC1eの幅の大きさよりも大きくなっていることが好ましい。吐出チャネルC1eの幅が十分に大きいとき、連通孔46Mの幅が、吐出チャネルC1eの幅の大きさと同じであってもよく、あるいは、吐出チャネルC1eの幅の大きさよりも小さくなっていてもよい。連通孔46Mは、例えば、略円状の平面形状を有していてもよく、この略円状の連通孔46Mがノズル孔H1に対応する位置に設けられていてもよい。アクチュエータプレート42の一方の主面に設けられたダミーチャネルC1d(またはダミーチャネルC2d)の開口は、中間プレート46により塞がれている。
【0133】
保護膜Pは、例えば、吐出チャネルC1e内から、吐出チャネルC1e側に露出された接着層AL1の端面、中間プレート46の液体接触面および連通孔46M側に露出された接着層AL2の端面を介してノズルプレート41の液体接触面まで連続して設けられている(図13)。保護膜Pは、アクチュエータプレート42の一方の主面、中間プレート46の表面(アクチュエータプレート42に貼り合わされた面と反対の面)およびノズルプレート41の表面に設けられていてもよい。
【0134】
図14図18は、図13に示した保護膜Pの構成の他の例を表している。保護膜Pは、図14および図15に示したように、少なくとも、吐出チャネルC1e内から、吐出チャネルC1e側に露出された接着層AL1の端面を介して中間プレート46の液体接触面まで連続して設けられていればよい。これにより、吐出チャネルC1e側に露出された接着層AL1の端面が保護膜Pに覆われるので、接着層AL1へのインク9の浸入に起因したインクジェットヘッド4Aの信頼性の低下を抑えることが可能となる。保護膜Pは、ノズルプレート41の表面に設けられていなくてもよく(図14)、中間プレート46の表面に設けられていなくてもよい(図15)。
【0135】
上記第1の実施の形態で説明したのと同様に、ダミーチャネルC1d内にも保護膜Pが設けられていることが好ましいが、図16図17および図18に示したように、ダミーチャネルC1d内側面および底面には保護膜Pが設けられていなくてもよい。保護膜Pは、アクチュエータプレート42の一方の主面に設けられていなくてもよく(図16)、あるいは、アクチュエータプレート42の一方の主面およびノズルプレート41の表面に設けられていなくてもよい(図17)。アクチュエータプレート42の一方の主面および中間プレート46の表面に保護膜Pが設けられていなくてもよい(図18)。
【0136】
次に、図19を用いてインクジェットヘッド4Aの製造方法について説明する。図19は、インクジェットヘッド4Aの製造方法の一例を工程順に表したものである。
【0137】
まず、上記第1の実施の形態で説明したのと同様に、チャネル形成工程(ステップS1)、電極形成工程(ステップS2)、カバーウェハ貼合せ工程(ステップS3)、流路ウェハ貼合せ工程(ステップS4)および分割工程(ステップS5)をこの順に行う。これにより、互いに接合されたアクチュエータプレート42、カバープレート43および流路プレート44が形成される。
【0138】
次に、アクチュエータプレート42の一方の主面(カバープレート43が貼り合わされた主面と反対側の主面)およびチャネルC1,C2内に保護膜Pを形成する(ステップS6)。保護膜Pは、アクチュエータプレート42の一方の主面から、チャネルC1,C2の開口を介してチャネルC1,C2の内側面および底面に連続して成膜される。保護膜Pを形成した後、アクチュエータプレート42の一方の主面にプラズマ照射等の表面処理を施す。これにより、中間プレート46をアクチュエータプレート42に貼り合わせる際(ステップS9)に、保護膜Pに起因した接着力の低下を抑えることができる。
【0139】
続いて、アクチュエータプレート42の一方の主面に、接着層AL1を介して中間プレート46を貼り合わせる(ステップS9)。この後、中間プレート46の表面から、連通孔46Mを介して吐出チャネルC1e,C2e内まで連続して保護膜Pを形成する(ステップS10)。これにより、連通孔46M近傍から、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を介して吐出チャネルC1e,C2e内まで連続して保護膜Pが形成される。
【0140】
本変形例では、このように、ノズルプレート41を中間プレート46に貼り合わせる前に、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を覆う保護膜Pを形成することが可能となる。したがって、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面がノズルプレート41の陰とならない状態で、保護膜Pを形成することができる。したがって、保護膜Pを形成するための樹脂材料が接着層AL1の端面に流れやすくなり、接着層AL1の端面を十分に厚い保護膜Pで容易に覆うことができる。
【0141】
中間プレート46の表面から保護膜Pを形成した後、中間プレート46の表面にプラズマ照射等の表面処理を施す。これにより、ノズルプレート41を中間プレート46に貼り合わせる際(ステップS7)に、保護膜Pに起因した接着力の低下を抑えることができる。
【0142】
中間プレート46の表面にプラズマ照射等の表面処理を施した後、中間プレート46の表面に、接着層AL2を介してノズルプレート41を貼り合わせる(ステップS7)。この後、ノズルプレート41の表面から、ノズル孔H1,H2および連通孔46Mを介して吐出チャネルC1e,C2e内まで連続して保護膜Pを形成する(ステップS8)。これにより、ノズルプレート41の液体接触面から、連通孔46M側に露出された接着層AL2の端面、連通孔46Mおよび吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を介して吐出チャネルC1e,C2e内まで連続して保護膜Pが形成される。
【0143】
このようにして、図13に示したインクジェットヘッド4Aを製造することができる。ノズルプレート41を中間プレート46に貼り合わせた後の保護膜Pの形成工程(ステップS8)は省略するようにしてもよい。ステップS8の保護膜Pの形成工程を省略することにより、図14に示したインクジェットヘッド4Aを製造することができる。あるいは、中間プレート46をアクチュエータプレート42に貼り合わせた後の保護膜Pの形成工程(ステップS10)を省略するようにしてもよい。これにより、図15に示したインクジェットヘッド4Aを製造することができる。
【0144】
図20は、インクジェットヘッド4Aの製造工程の他の例を表している。この製造工程では、中間プレート46の貼合せ工程(ステップS9)の前の保護膜Pの形成工程(図18のステップS6)を行わず、ステップS9の工程後およびステップS7の工程後に保護膜Pを形成している(ステップS8,S10)。この製造方法では、ダミーチャネルC1d,C2dの内側面および底面には、保護膜Pが形成されず、図16に示したインクジェットヘッド4Aを製造することができる。上記図19で説明したのと同様に、ノズルプレート41を中間プレート46に貼り合わせた後の保護膜Pの形成工程(ステップS8)は省略するようにしてもよい。ステップS8の保護膜Pの形成工程を省略することにより、図17に示したインクジェットヘッド4Aを製造することができる。あるいは、上記図19で説明したのと同様に、中間プレート46をアクチュエータプレート42に貼り合わせた後の保護膜Pの形成工程(ステップS10)を省略するようにしてもよい。ステップS10の保護膜Pの形成工程を省略することにより、図18に示したインクジェットヘッド4Aを製造することができる。
【0145】
インクジェットヘッド4Aでは、中間プレート46を介して、ノズルプレート41とアクチュエータプレート42とを貼り合わせているので、アクチュエータプレート42の一方の主面に設けられた吐出チャネルC1e,C2eの開口が中間プレート46の連通孔46Mを介してノズル孔H1,H2に連通される。したがって、上記第1の実施の形態のインクジェットヘッド4に比べて、吐出チャネルC1e,C2eの開口からノズル孔H1,H2への連通部分の体積が大きくなる。これにより、保護膜Pを形成する樹脂材料がより流動しやすくなる。したがって、図16および図18に示したように、ノズルプレート41を中間プレート46に貼り合わせた後に、吐出チャネルC1e,C2e側に露出された接着層AL1の端面を覆う保護膜Pを形成する場合にも、十分に厚い保護膜Pを形成することができる。
【0146】
<3.第2の実施の形態>
図21,図22および図23は、本開示の第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド4Bの構成を模式的に表したものである。図21は、インクジェットヘッド4Bの要部の構成例を斜視図で表したものである。図22は、インクジェットヘッド4Bにおける、ヘッドチップ40Aの吐出チャネルC3eとヘッドチップ40BのダミーチャネルC4dとを含むYZ断面の構成例を表す断面図である。図23は、インクジェットヘッド4Bにおける、ヘッドチップ40AのダミーチャネルC3dとヘッドチップ40Bの吐出チャネルC4eとを含むYZ断面の構成例を表す断面図である。このインクジェットヘッド4Bは、吐出チャネルC3e,C4eの延在方向(Z軸方向)の先端部からインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのうち、インクジェットヘッド4Bとインクタンク3との間でインクを循環させる循環式(エッジシュート循環式)のものである。図21では、帰還プレート47(後出)およびノズルプレート41の図示を省略しているが、アクチュエータプレート42の下端面42Eに、帰還プレート47(後出)およびノズルプレート41が接合されている。このようなエッジシュートタイプのインクジェットヘッド4Bにも、本開示の構成は適用可能である。
【0147】
図21図23に示したように、インクジェットヘッド4Bは、一対のヘッドチップ40A,40Bと、帰還プレート47と、ノズルプレート41と、流路プレート44と、入口マニホールド48と、出口マニホールド(不図示)と、フレキシブルプリント基板45とを備える。
【0148】
一対のヘッドチップ40A,40Bは実質的に同一の構成を有しており、Y軸方向において流路プレート44を挟んで実質的に対称の姿勢をなすように実質的に対称の位置に設けられている。ヘッドチップ40A,40Bは各々、流路プレート44に近い位置から順にカバープレート43と、アクチュエータプレート42と、保護プレート49とを備える。ヘッドチップ40A,40Bに共通して、帰還プレート47およびノズルプレート41が設けられている。なお、ここでは、ヘッドチップ40A,40Bに加えて、帰還プレート47およびノズルプレート41を含む構成が、本開示の「ヘッドチップ」の一具体例に対応している。
【0149】
アクチュエータプレート42は、X軸方向を長手方向、Z軸方向を短手方向とし、XZ面に沿って広がっている。アクチュエータプレート42の一方の主面は、保護プレート49に貼り合わされ、他方の主面はカバープレート43に貼り合わされている。アクチュエータプレート42の下端面42Eは、XY平面に設けられている。
【0150】
このアクチュエータプレート42には、複数の吐出チャネルC3eおよび複数のダミーチャネルC3dが設けられている。この複数の吐出チャネルC3eおよび複数のダミーチャネルC3dは、それぞれZ軸方向へ直線状に延在している。吐出チャネルC3eとダミーチャネルC3dとは、X軸方向において互いに離間して交互に配置されている。吐出チャネルC3eの下端部は、図21に示したようにアクチュエータプレート42の下端面42Eに至るまで延在し、下端面42Eに開口を形成している。この開口が、インク9を吐出するための吐出端となる。吐出チャネルC3eの上端部はアクチュエータプレート42の上端面(下端面42Eと反対の面)に至らずにアクチュエータプレート42内で終端している。ダミーチャネルC3dの上端部は、上端面で開口しており、ダミーチャネルC3dの下端部は、下端面42Eで開口している。上記第1の実施の形態で説明したのと同様に、吐出チャネルC3eの内側面にはコモン電極Edcが設けられ、ダミーチャネルC3dの内側面にはアクティブ電極Edaが設けられている。
【0151】
ヘッドチップ40Bの吐出チャネルC3eおよびダミーチャネルC3dは、ヘッドチップ40Aの吐出チャネルC3eおよびダミーチャネルC3dの配列ピッチに対してX軸方向に半ピッチずれて配列されている。すなわち、ヘッドチップ40Aの吐出チャネルC3eおよびダミーチャネルC3dと、ヘッドチップ40Bの吐出チャネルC3eおよびダミーチャネルC3dとが千鳥状に配列されている。
【0152】
このため、図22に示したように、ヘッドチップ40Aの吐出チャネルC3eと、ヘッドチップ40BのダミーチャネルC3dとがY軸方向で対向している。同様に、図23に示したように、ヘッドチップ40AのダミーチャネルC3dと、ヘッドチップ40Bの吐出チャネルC3eとがY軸方向で対向している。なお、ヘッドチップ40A,40Bにおける各々の吐出チャネルC3eおよびダミーチャネルC3dのピッチは適宜変更可能である。
【0153】
カバープレート43は、X軸方向を長手方向、Z軸方向を短手方向とし、XZ面に沿って広がっている。カバープレート43には、流路プレート44側に開口する共通インク室431cと、共通インク室431cとそれぞれ連通すると共にアクチュエータプレート43側に開口する複数のスリットScとが設けられている。複数のスリットScは、複数の吐出チャネルC3eと対応する位置に設けられている。共通インク室431cは、複数のスリットScに対し共通に設けられており、複数のスリットScを通じて各吐出チャネルC3eと連通している。共通インク室431cは、ダミーチャネルC3dには連通していない。
【0154】
共通インク室431cは、X軸方向に延在する窪みである。共通インク室431cには、流路プレート44を通じてインク9が流入するようになっている。複数のスリットScは、Y軸方向において共通インク室431cの一部とそれぞれ重なり合う位置に配置されている。複数のスリットScは、共通インク室431cと複数の吐出チャネルC3eとに連通している。各スリットScのX軸方向の幅は、各吐出チャネルC3eのX軸方向の幅と実質的に同じであることが望ましい。
【0155】
保護プレート49は、カバープレート43と同様、X軸方向を長手方向、Z軸方向を短手方向とし、XZ面に沿って広がっている。この保護プレート49は、アクチュエータプレート42のXZ面の平面形状と略同じ平面形状を有している。アクチュエータプレート42の一方の主面に設けられた複数の吐出チャネルC3eおよび複数のダミーチャネルC3dの開口は、この保護プレート49により閉塞されるようになっている。
【0156】
流路プレート44は、Y軸方向においてヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとの間に挟持されている。流路プレート44は、同一の部材により一体に形成されているとよい。流路プレート44は、X軸方向を長手方向、Z軸方向を短手方向とし、XZ面に沿って広がっている。Y軸方向から見て、流路プレート44の外形は、カバープレート43の外形と実質的に同じである。
【0157】
流路プレート44の一方の主面にはヘッドチップ40Aが設けられ、他方の主面には、ヘッドチップ40Bが設けられている。図22および図23に示したように、流路プレート44の一方の主面および他方の主面には、共通インク室431cに各別に連通する入口流路441と、帰還プレート47の循環路471c,471dに各別に連通する出口流路442とが形成されている。
【0158】
入口流路441は、流路プレート44の一方の主面、他方の主面各々からY軸方向の内側に向けて窪んでいる。各入口流路441の下端部が、共通インク室431cに連通されており、各入口流路441の上端部が、流路プレート44の上端面で開口している。各出口流路442は、流路プレート44の下端部に設けられ、流路プレート44の下端面から上方に向けて窪んでいる。出口流路442は、流路プレート44をY軸方向に貫通している。出口流路442は、入口流路441よりもX軸方向の外側で、出口マニホールドに接続されている。
【0159】
入口マニホールド48は、ヘッドチップ40A,40Bおよび流路プレート44の上端面に接合されている。入口マニホールド48には、各入口流路441に連通する供給路480が形成されている。供給路480は、入口マニホールド48の下端面から上方に向けて窪んでいる。
【0160】
帰還プレート47は、X軸方向を長手方向、Y軸方向を短手方向とし、XY平面に沿って広がっている。帰還プレート47は、ヘッドチップ40A,40Bの下端面および流路プレート44の下端面に接着層(後述の図24の接着層AL1)を介して貼り合わされている。すなわち、帰還プレート47は、ヘッドチップ40Aおよびヘッドチップ40Bにおける吐出端側に、共通して配設されている。帰還プレート47は、ヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとにおける吐出端と、ノズルプレート41の上面との間に介在するスペーサプレートである。第2の実施の形態では、帰還プレート47が、本開示の「被接着プレート」の一具体例に対応する。
【0161】
帰還プレート47には、ヘッドチップ40A,40Bの吐出チャネルC3eと出口流路442との間を接続する複数の循環路471c,471dが形成されている。複数の循環路471c,471dは、帰還プレート47をZ軸方向に貫通している。循環路471cは、ヘッドチップ40Aの吐出チャネルC3eに対応する位置に設けられ、循環路471dは、ヘッドチップ40Bの吐出チャネルC3eに対応する位置に設けられている。循環路471cのY軸方向の内側端部は、出口流路442に連通し、循環路471cのY軸方向の外側端部は、ヘッドチップ40Aの吐出チャネルC3eに連通している(図22)。循環路471dのY軸方向の内側端部は、出口流路442に連通し、循環路471dのY軸方向の外側端部は、ヘッドチップ40Bの吐出チャネルC3eに連通している(図23)。ここでは、循環路471c,471dが、本開示の「連通孔」の一具体例に対応する。
【0162】
ノズルプレート41は、X軸方向を長手方向、Y軸方向を短手方向とし、XY平面に沿って広がっている。このノズルプレート41は、帰還プレート47の一方の主面に接着層(後述の図24の接着層AL2)を介して貼り合わされている。ノズルプレート41には、ノズルプレート41をZ軸方向に貫通する複数のノズル孔H3,H4が配列されている。
【0163】
図22に示したように、ノズル孔H3は、ノズルプレート41のうち、帰還プレート47の各循環路471cとZ軸方向で対向する部分にそれぞれ形成されている。すなわち、ノズル孔H3は、循環路471cと同ピッチで、X軸方向に間隔をあけて一直線上に配列されている。ノズル孔H3は、例えば、Y軸方向の中央部で循環路471cに連通している。これにより、各ノズル孔H3は、循環路471cを介してヘッドチップ40Aの対応する吐出チャネルC3eにそれぞれ連通している。
【0164】
図23に示したように、ノズル孔H4は、ノズルプレート41のうち、帰還プレート47の各循環路471dとZ軸方向で対向する部分にそれぞれ形成されている。すなわち、ノズル孔H4は、循環路471dと同ピッチで、X軸方向に間隔をあけて一直線上に配列されている。ノズル孔H4は、例えば、循環路471dにおけるY軸方向の中央部で循環路471dに連通している。これにより、各ノズル孔H4は、循環路471dを介してヘッドチップ40Bの対応する吐出チャネルC3eにそれぞれ連通している。ダミーチャネルC3dは、ノズル孔H3,H4には連通しておらず、帰還プレート47により下方から覆われている。
【0165】
このように、各吐出チャネルC3eに供給されたインク9は、帰還プレート47の循環路471c,471d近傍に接触して噴射される。換言すれば、帰還プレート47は、各吐出チャネルC3eに流入したインク9が接触する面(以降、帰還プレート47の液体接触面と称する)を有している。例えば、インク9は、循環路471c,471dの内表面に接触する。第2の実施の形態では、この帰還プレート47のうち、各吐出チャネルC3eに流入したインク9が接触する面が、本開示の「液体接触面」の一具体例に対応する。
【0166】
図24は、アクチュエータプレート42を含む位置でのヘッドチップ40A、帰還プレート47およびノズルプレート41のXZ断面の構成の一例を表している。アクチュエータプレート42(ヘッドチップ40A)の下端面42Eは、接着層AL1により帰還プレート47に貼り合わされ、帰還プレート47の一方の主面は、接着層AL2によりノズルプレート41に貼り合わされている。ヘッドチップ40B側については図示を省略するが、ヘッドチップ40B側もヘッドチップ40Aと同様の構成を有している。ここでは、接着層AL1が、本開示の「接着層」の一具体例に対応する。
【0167】
保護膜Pは、例えば、コモン電極Edcを間にして吐出チャネルC3eの内側面および底面を覆っている。この保護膜Pは、吐出チャネルC3e内から、吐出チャネルC3e側に露出された接着層AL1の端面を介して帰還プレート47の液体接触面まで連続して設けられている。保護膜Pは、帰還プレート47の一方の主面に設けられていてもよい。あるいは、図示は省略するが、保護膜Pは、例えば、吐出チャネルC3e内から、吐出チャネルC3e側に露出された接着層AL1の端面、帰還プレート47の液体接触面および循環路471c側に露出された接着層AL2の端面を介してノズルプレート41の液体接触面まで連続して設けられていてもよい。ダミーチャネルC3dの内側面および底面は、保護膜Pに覆われていなくてもよい。
【0168】
本実施の形態のインクジェットヘッド4Bにおいても、上記第1の実施の形態で説明したのと同様に、吐出チャネルC3e側に露出された接着層AL1の端面が、保護膜Pにより覆われているので、吐出チャネルC3e内のインク9が、接着層AL1に侵入しにくくなる。これにより、接着層AL1にインク9が浸入することに起因したインクジェットヘッド4Bの信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【0169】
また、エッジシュートタイプのインクジェットヘッド4Bは、サイドシュートタイプのインクジェットヘッド4に比べて、吐出チャネルC3eの吐出端が小さくなるが、インクジェットヘッド4Bでは、以下のような理由により、十分に厚い保護膜Pを形成することが可能となる。
【0170】
インクジェットヘッド4Bでは、アクチュエータプレート42の下端面42Eに設けられた吐出チャネルC3eの開口が帰還プレート47の循環路471c(または循環路471d)を介してノズル孔H3(またはノズル孔H4)に連通されている。したがって、アクチュエータプレート42の下端面42Eに直接ノズルプレート41を接合する場合に比べて、吐出チャネルC3eの開口からノズル孔H3への連通部分の体積が大きくなる。これにより、保護膜Pを形成する樹脂材料が流動しやすくなる。更に、インクジェットヘッド4Bは、循環路471c,471dを有する循環型のインクジェットヘッドであり、インクジェットヘッド4B内の流路は、非循環型のインクジェットヘッドに比べて、流体が移動し易くなっている。これにより、保護膜Pを形成する樹脂材料がより流動しやすくなる。したがって、吐出チャネルC3e側に露出された接着層AL1の端面も、十分に厚い保護膜Pで覆うことが可能となる。
【0171】
また、インクジェットヘッド4Bでは、上記変形例で説明したのと同様に、ノズルプレート41を帰還プレート47に貼り合わせる前に、吐出チャネルC3e側に露出された接着層AL1の端面を覆う保護膜Pを形成することが可能となる。したがって、吐出チャネルC3e側に露出された接着層AL1の端面がノズルプレート41の陰とならない状態で、保護膜Pを形成することができる。したがって、保護膜Pを形成するための樹脂材料が接着層AL1の端面に流れやすくなり、接着層AL1の端面を保護膜Pで容易に覆うことができる。
【0172】
<4.その他の変形例>
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示はこの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0173】
例えば、上記実施の形態等では、プリンタ1およびインクジェットヘッド4,4A,4Bにおける各部材の構成例(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。また、上記実施の形態で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0174】
具体的には、例えば、上記第1実施の形態では、2列タイプの(2列のノズル列411,412を有する)インクジェットヘッド4を挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、1列タイプ(1列のノズル列を有する)のインクジェットヘッドや、3列以上の複数例タイプ(3列以上のノズル列を有する)インクジェットヘッドであってもよい。
【0175】
また、例えば、上記第1実施の形態では、ノズル列411,412がそれぞれX軸方向に沿って直線状に延在している場合について説明したが、この例には限らず、例えば、ノズル列411,412がそれぞれ、斜め方向に延在するようにしてもよい。更に、ノズル孔H1,H2,H3,H4の形状についても、上記実施の形態で説明したような円形状には限られず、例えば、三角形状等の多角形状や、楕円形状や星型形状などであってもよい。
【0176】
また、例えば、上記実施の形態等では、インクジェットヘッド4,4A,4Bが循環式となっている場合について説明したが、この例には限らず、例えば、インクジェットヘッド4が循環しない他の方式となっていてもよい。
【0177】
また、アクチュエータプレート42は、分極方向が厚み方向に沿って一方向に設定されている1つの圧電基板から形成された、いわゆるカンチレバータイプ(モノポールタイプ)のアクチュエータであってもよい。
【0178】
また、上記実施の形態等では、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例として、プリンタ1(インクジェットプリンタ)を挙げて説明したが、この例には限られず、インクジェットプリンタ以外の他の装置にも、本開示を適用することが可能である。換言すると、本開示の「液体噴射ヘッド」(インクジェットヘッド4)や「ヘッドチップ」(ヘッドチップ4c)を、インクジェットプリンタ以外の他の装置に適用するようにしてもよい。具体的には、例えば、ファクシミリやオンデマンド印刷機などの装置に、本開示の「液体噴射ヘッド」や「ヘッドチップ」を適用するようにしてもよい。
【0179】
また、上記実施の形態およびその変形例では、プリンタ1の記録対象物は記録紙Pであったが、本開示の「液体噴射記録装置」の記録対象物はこれに限られない。例えば、ボール紙、布、プラスチック、金属など、様々な材料にインクを噴射することによって、文字や模様を形成することができる。また、記録対象物は平面形状である必要もなく、食品、タイル等の建材、家具、自動車など様々な立体物の塗装や装飾を行うこともできる。さらに、本開示の「液体噴射記録装置」によって、繊維を捺染することができ、あるいは噴射後にインクを固化させることによって立体造形を行うこともできる(いわゆる3Dプリンタ)。
【0180】
更に、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
【0181】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0182】
また、本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
各々、ノズル孔に連通する複数の吐出チャネルと、前記吐出チャネル各々の内壁に設けられた電極とを有するアクチュエータプレートと、
前記アクチュエータプレートに接合され、かつ、前記吐出チャネルに流入した液体が接触する液体接触面を有する被接着プレートと、
前記被接着プレートと前記アクチュエータプレートとの間に設けられるとともに、前記被接着プレートと前記アクチュエータプレートとを接合する接着層と、
前記吐出チャネル各々の内壁から、前記吐出チャネル側に露出された前記接着層の端面を介して前記液体接触面の少なくとも一部を連続して覆う保護膜と
を備えたヘッドチップ。
(2)
前記吐出チャネルの内壁に設けられた前記電極は共通電極であり、
前記アクチュエータプレートは、更に、隣り合う前記吐出チャネルの間に設けられた非吐出チャネルと、前記非吐出チャネルの内壁に設けられた個別電極とを有し、
前記保護膜は、前記非吐出チャネルの内壁も覆っている
前記(1)に記載のヘッドチップ。
(3)
前記被接着プレートは、前記ノズル孔を有するノズルプレートである
前記(1)または前記(2)に記載のヘッドチップ。
(4)
更に、前記ノズル孔を有するノズルプレートを有し、
前記被接着プレートは、前記ノズルプレートと前記アクチュエータプレートとの間に設けられている
前記(1)または前記(2)に記載のヘッドチップ。
(5)
前記被接着プレートは、前記吐出チャネルと前記ノズル孔とを連通させる連通孔を有し、
前記アクチュエータプレートは、更に、隣り合う前記吐出チャネルの間に設けられるとともに前記被接着プレートにより塞がれた非吐出チャネルを有する
前記(4)に記載のヘッドチップ。
(6)
前記被接着プレートは絶縁性を有する
前記(4)または前記(5)に記載のヘッドチップ。
(7)
前記吐出チャネルは、当該吐出チャネルの延在方向の中央部で前記ノズル孔に連通されている
前記(1)ないし前記(6)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(8)
更に、前記吐出チャネルに連通する液体導入流路と、
前記吐出チャネルに連通するとともに前記液体導入流路とは別に設けられた液体排出流路とを有する
前記(7)に記載のヘッドチップ。
(9)
前記保護膜は、前記電極を覆っている
前記(1)ないし前記(8)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(10)
前記保護膜は、パラキシリレン系樹脂材料を含む
前記(1)ないし前記(9)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(11)
前記(1)ないし前記(10)のいずれか1つに記載のヘッドチップと、
前記ヘッドチップに前記液体を供給する供給機構と
を備えた液体噴射ヘッド。
(12)
前記(11)に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体を収容する収容部と
を備えた液体噴射記録装置。
【符号の説明】
【0183】
1…プリンタ、3…インクタンク、4,4A,4B…インクジェットヘッド、9…インク、41…ノズルプレート、42…アクチュエータプレート、43…カバープレート、44…流路プレート、45…フレキシブルプリント基板、46…中間プレート、46M…連通孔、47…帰還プレート、48…入口マニホールド、411,412…ノズル列、AL1,AL2…接着層、P…保護膜、Ed…駆動電極、C…チャネル、H…ノズル孔、P…記録紙。
図1
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