(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221130BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B41J2/14 303
B41J2/14 611
B41J2/16 517
(21)【出願番号】P 2018237685
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-301718(JP,A)
【文献】特開平11-254678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、前記液体を噴射するヘッドチップであって、
前記アクチュエータプレートは、
第1面および前記第1面と反対を向く第2面と、
前記第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、前記第1面から前記第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、
隣り合う前記チャネルの間に設けられ、かつ、前記第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、
前記深さ方向にわたって、複数の前記チャネル各々に露出された前記第1駆動部を覆うとともに、前記非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極と
を含
んでおり、
前記第1駆動部は、
第1圧電基板と、
前記第1圧電基板と前記非駆動部との間に設けられるとともに、前記第1圧電基板と逆の分極方向を有する第2圧電基板と
を有するヘッドチップ。
【請求項2】
液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、前記液体を噴射するヘッドチップであって、
前記アクチュエータプレートは、
第1面および前記第1面と反対を向く第2面と、
前記第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、前記第1面から前記第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、
隣り合う前記チャネルの間に設けられ、かつ、前記第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、
前記深さ方向にわたって、複数の前記チャネル各々に露出された前記第1駆動部を覆うとともに、前記非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極と、
前記第2面に設けられるとともに、前記複数のチャネルが各々連通された第2開口と
を含んでおり、
前記壁部分は、前記非駆動部を間にして前記第1駆動部に対向する第2駆動部を有し、
前記電極は、前記深さ方向にわたって、前記複数のチャネル各々に露出された前記第2駆動部を覆うとともに、前記非駆動部の少なくとも一部を覆う第2電極膜を含んでおり、
前記複数のチャネルの少なくとも一部では、前記電極が、前記第1電極膜および前記第2電極膜の重なる、重なり部を有している
ヘッドチップ。
【請求項3】
前記複数のチャネルは吐出チャネルを含み、
前記電極は、前記吐出チャネルを間にして対向する一対の前記壁部分のうち、前記吐出チャネルに露出された部分に設けられた一対の共通電極を含み、
前記一対の共通電極の少なくとも一方が、前記重なり部を有する
請求項
2に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記複数のチャネルは交互に配置された吐出チャネルおよび非吐出チャネルを含み、
前記電極は、前記吐出チャネルを間にして対向する一対の壁部分のうち、前記吐出チャネルを間にして隣り合う前記非吐出チャネル各々に露出された部分に設けられた一対の個別電極を含み、
前記一対の個別電極の少なくとも一方が、前記重なり部を有する
請求項
2または請求項
3に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記非駆動部は、前記第1駆動部の構成材料と同じ材料を含む
請求項1ないし請求項
4のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記非駆動部の構成材料の誘電率は、前記第1駆動部の構成材料の誘電率よりも低くなっている
請求項1ないし請求項
4のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、前記液体を噴射するヘッドチップであって、
前記アクチュエータプレートは、
第1面および前記第1面と反対を向く第2面と、
前記第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、前記第1面から前記第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、
隣り合う前記チャネルの間に設けられ、かつ、前記第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、
前記深さ方向にわたって、複数の前記チャネル各々に露出された前記第1駆動部を覆うとともに、前記非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極と
を含んでおり、
前記非駆動部は、前記第1駆動部の構成材料と同じ材料を含む
ヘッドチップ。
【請求項8】
液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、前記液体を噴射するヘッドチップであって、
前記アクチュエータプレートは、
第1面および前記第1面と反対を向く第2面と、
前記第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、前記第1面から前記第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、
隣り合う前記チャネルの間に設けられ、かつ、前記第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、
前記深さ方向にわたって、複数の前記チャネル各々に露出された前記第1駆動部を覆うとともに、前記非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極と
を含んでおり、
前記非駆動部の構成材料の誘電率は、前記第1駆動部の構成材料の誘電率よりも低くなっている
ヘッドチップ。
【請求項9】
前記第1電極膜は、蒸着膜である
請求項1ないし請求項8のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のヘッドチップと、
前記ヘッドチップに前記液体を供給する供給機構と
を備えた液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体を収容する収容部と
を備えた液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射記録装置の1つとして、記録紙等の被記録媒体にインク(液体)を吐出(噴射)して画像や文字等の記録を行う、インクジェット方式の記録装置が提供されている(例えば、特許文献1参照)。この方式の液体噴射記録装置では、インクタンクからインクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)へインクを供給し、このインクジェットヘッドのノズル孔から被記録媒体に対してインクを吐出することで、画像や文字等の記録が行われるようになっている。また、このようなインクジェットヘッドには、インクを吐出するヘッドチップが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなヘッドチップ等では、インクの吐出量のばらつきや吐出速度のばらつきを小さくし、吐出の均一性を高めることが望ましい。よって、吐出の均一性を高めることが可能なヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態に係る第1のヘッドチップは、液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、液体を噴射するヘッドチップであって、アクチュエータプレートは、第1面および第1面と反対を向く第2面と、第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、第1面から第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、隣り合うチャネルの間に設けられ、かつ、第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、深さ方向にわたって、複数のチャネル各々に露出された第1駆動部を覆うとともに、非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極とを含むものである。上記第1駆動部は、第1圧電基板と、この第1圧電基板と非駆動部との間に設けられるとともに、第1圧電基板と逆の分極方向を有する第2圧電基板と、を有している。
本開示の一実施の形態に係る第2のヘッドチップは、液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、液体を噴射するヘッドチップであって、アクチュエータプレートは、第1面および第1面と反対を向く第2面と、第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、第1面から第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、隣り合うチャネルの間に設けられ、かつ、第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、深さ方向にわたって、複数のチャネル各々に露出された第1駆動部を覆うとともに、非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極と、第2面に設けられるとともに、複数のチャネルが各々連通された第2開口とを含むものである。上記壁部分は、非駆動部を間にして第1駆動部に対向する第2駆動部を有し、上記電極は、上記深さ方向にわたって、複数のチャネル各々に露出された上記第2駆動部を覆うとともに、非駆動部の少なくとも一部を覆う第2電極膜を含んでおり、複数のチャネルの少なくとも一部では、上記電極が、第1電極膜および第2電極膜の重なる、重なり部を有している。
本開示の一実施の形態に係る第3のヘッドチップは、液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、液体を噴射するヘッドチップであって、アクチュエータプレートは、第1面および第1面と反対を向く第2面と、第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、第1面から第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、隣り合うチャネルの間に設けられ、かつ、第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、深さ方向にわたって、複数のチャネル各々に露出された第1駆動部を覆うとともに、非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極とを含むものである。上記非駆動部は、第1駆動部の構成材料と同じ材料を含んでいる。
本開示の一実施の形態に係る第4のヘッドチップは、液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、液体を噴射するヘッドチップであって、アクチュエータプレートは、第1面および第1面と反対を向く第2面と、第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、第1面から第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、隣り合うチャネルの間に設けられ、かつ、第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、深さ方向にわたって、複数のチャネル各々に露出された第1駆動部を覆うとともに、非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極とを含むものである。上記非駆動部の構成材料の誘電率は、第1駆動部の構成材料の誘電率よりも低くなっている。
【0006】
本開示の一実施形態の液体噴射ヘッドは、液体を噴射するヘッドチップと、そのヘッドチップに液体を供給する供給機構と備え、そのヘッドチップが上記した本開示の一実施形態のヘッドチップ(上記第1ないし第4のヘッドチップのうちのいずれか)と同様の構成を有するものである。
【0007】
本開示の一実施形態の液体噴射記録装置は、被記録媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、その液体を収容する収容部とを備え、その液体噴射ヘッドが上記した本開示の一実施形態の液体噴射ヘッドと同様の構成を有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施の形態に係るヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置によれば、インクの吐出量のばらつきや吐出速度のばらつきを小さくし、吐出の均一性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置の概略構成例を表す模式斜視図である。
【
図2】
図1に示した液体噴射ヘッドおよびインク循環機構の概略構成例を表す模式図である。
【
図3】
図1に示した液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
【
図4】
図1に示した液体噴射ヘッドの断面模式図である。
【
図5】
図1に示した液体噴射ヘッドの他の断面模式図である。
【
図6A】
図1に示した液体噴射ヘッドのアクチュエータプレートにおける、吐出チャネルの延在方向と直交する断面を表す断面模式図である。
【
図6B】
図6Aに示した液体噴射ヘッドのアクチュエータプレートを拡大して表す拡大断面図である。
【
図7A】
図6Bに示したアクチュエータプレートの第1面の構成の一例を表す平面模式図である。
【
図7B】
図6Bに示したアクチュエータプレートの第2面の構成の一例を表す平面模式図である。
【
図8】
図3に示したカバープレートを拡大して表す斜視図である。
【
図9A】
図1に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一工程を表す断面模式図である。
【
図10】
図1に示した液体噴射ヘッドの製造方法のうちのカバープレートを形成する一工程を表す平面模式図である。
【
図12】
図1に示した液体噴射ヘッドの製造方法のうちの流路プレート作製工程を表す平面模式図である。
【
図13】比較例に係る液体噴射ヘッドの要部の構成を表す断面模式図である。
【
図14】変形例1に係る液体噴射ヘッドの断面模式図である。
【
図15】変形例2に係る液体噴射ヘッドの断面模式図である。
【
図16A】変形例3に係る液体噴射ヘッドの断面模式図である。
【
図16B】
図16Aに示した液体噴射ヘッドのアクチュエータプレートを拡大して表す拡大断面図である。
【
図17A】
図16Aに示した液体噴射ヘッドの断面構成の他の例を表す模式図である。
【
図17B】
図17Aに示した液体噴射ヘッドのアクチュエータプレートを拡大して表す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(第1面および第2面に開口が設けられたアクチュエータプレートを有するインクジェットヘッドの例。)
2.変形例
変形例1(インク非循環の例。)
変形例2(流路プレートの片側にヘッドチップが配置される例。)
変形例3(第1面に開口が設けられたアクチュエータプレートの例。)
3.その他の変形例
【0011】
<1.実施の形態>
[プリンタ1の全体構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置としてのプリンタ1の概略構成例を、模式的に斜視図にて表したものである。このプリンタ1は、インクを利用して、被記録媒体としての記録紙Pに対して、画像や文字等の記録(印刷)を行うインクジェットプリンタである。
【0012】
プリンタ1は、
図1に示したように、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、供給チューブ50と、走査機構6と、インク循環機構8とを備えている。これらの各部材は、所定形状を有する筺体10内に収容されている。なお、本明細書の説明に用いられる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0013】
ここで、プリンタ1は、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例に対応し、インクジェットヘッド4(後述するインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4K)は、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応している。
【0014】
搬送機構2a,2bはそれぞれ、
図1に示したように、記録紙Pを搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送する機構である。これらの搬送機構2a,2bはそれぞれ、グリッドローラ21、ピンチローラ22および駆動機構(不図示)を有している。グリッドローラ21およびピンチローラ22はそれぞれ、Y軸方向(記録紙Pの幅方向)に沿って延設されている。駆動機構は、グリッドローラ21を軸周りに回転させる(Z-X面内で回転させる)機構であり、例えばモータ等によって構成されている。
【0015】
(インクタンク3)
インクタンク3は、インクを内部に収容するタンクである。このインクタンク3としては、この例では
図1に示したように、イエロー(Y),マゼンダ(M),シアン(C),ブラック(K)の4色のインクを個別に収容する、4種類のタンクが設けられている。すなわち、イエローのインクを収容するインクタンク3Yと、マゼンダのインクを収容するインクタンク3Mと、シアンのインクを収容するインクタンク3Cと、ブラックのインクを収容するインクタンク3Kとが設けられている。これらのインクタンク3Y,3M,3C,3Kは、筺体10内において、X軸方向に沿って並んで配置されている。ここでインクタンク3が、本開示の「収容部」の一具体例に対応する。
【0016】
なお、インクタンク3Y,3M,3C,3Kはそれぞれ、収容するインクの色以外については同一の構成であるので、以下ではインクタンク3と総称して説明する。
【0017】
(インクジェットヘッド4)
インクジェットヘッド4は、後述する複数のノズル78から記録紙Pに対して液滴状のインクを噴射(吐出)して、画像や文字等の記録を行うヘッドである。このインクジェットヘッド4としても、この例では
図1に示したように、上記したインクタンク3Y,3M,3C,3Kにそれぞれ収容されている4色のインクを個別に噴射する、4種類のヘッドが設けられている。すなわち、イエローのインクを噴射するインクジェットヘッド4Yと、マゼンダのインクを噴射するインクジェットヘッド4Mと、シアンのインクを噴射するインクジェットヘッド4Cと、ブラックのインクを噴射するインクジェットヘッド4Kとが設けられている。これらのインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kは、筺体10内において、Y軸方向に沿って並んで配置されている。
【0018】
なお、インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kはそれぞれ、利用するインクの色以外については同一の構成であるので、以下ではインクジェットヘッド4と総称して説明する。また、このインクジェットヘッド4の詳細構成については、後述する(
図2など参照)。
【0019】
供給チューブ50は、インクタンク3内からインクジェットヘッド4内へとインクを供給するためのチューブである。
【0020】
(走査機構6)
走査機構6は、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って、インクジェットヘッド4を走査させる機構である。この走査機構6は、
図1に示したように、Y軸方向に沿って延設された一対のガイドレール31,32と、これらのガイドレール31,32に移動可能に支持されたキャリッジ33と、このキャリッジ33をY軸方向に沿って移動させる駆動機構34と、を有している。また、駆動機構34は、ガイドレール31,32の間に配置された一対のプーリ35,36と、これらのプーリ35,36間に巻回された無端ベルト37と、プーリ35を回転駆動させる駆動モータ38と、を有している。
【0021】
プーリ35,36はそれぞれ、Y軸方向に沿って、各ガイドレール31,32における両端付近に対応する領域に配置されている。無端ベルト37には、キャリッジ33が連結されている。このキャリッジ33は、前述した4種類のインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kを載置する平板状の基台33aと、この基台33aから垂直(Z軸方向)に立ち上げられた壁部33bとを有している。基台33a上には、インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kが、Y軸方向に沿って並んで載置されている。
【0022】
なお、このような走査機構6と前述した搬送機構2a,2bとにより、インクジェットヘッド4と記録紙Pとを相対的に移動させる、移動機構が構成されるようになっている。
【0023】
(インク循環機構8)
図2は、インク循環機構8の概略構成例を表した模式図である。インク循環機構8は、インクタンク3とインクジェットヘッド4との間でインクを循環させる機構であり、インク供給管81およびインク排出管82により構成される循環流路83と、インク供給管81に設けられた加圧ポンプ84と、インク排出管82に設けられた吸引ポンプ85とを備える。インク供給管81およびインク排出管82は、例えば、インクジェットヘッド4を支持する走査機構6の動作に追従可能な程度に可撓性を有するフレキシブルホースにより構成されている。
【0024】
加圧ポンプ84は、インク供給管81内を加圧し、インク供給管81を通してインクジェットヘッド4にインクを送り出すものである。加圧ポンプ84の機能により、インクジェットヘッド4に対し、加圧ポンプ84とインクジェットヘッド4との間のインク供給管81内は正圧となっている。
【0025】
吸引ポンプ85は、インク排出管82内を減圧し、インク排出管82を通してインクジェットヘッド4からインクを吸引するものである。吸引ポンプ85の機能により、インクジェットヘッド4に対して、吸引ポンプ85とインクジェットヘッド4との間のインク排出管82内は負圧となっている。インクは、加圧ポンプ84および吸引ポンプ85の駆動により、インクジェットヘッド4とインクタンク3との間を、循環流路83を通して循環可能となっている。なお、インク循環機構8は上述の構成に限定されず、他の構成を有していてもよい。
【0026】
[インクジェットヘッド4の詳細構成]
次に、
図1に加えて
図3~
図8を参照して、インクジェットヘッド4の詳細構成例について説明する。
図3は、インクジェットヘッド4の詳細構成例を、斜視図で表したものである。
図4は、インクジェットヘッド4における、ヘッドチップ40A(後出)の吐出チャネル54(後出)とヘッドチップ40B(後出)のダミーチャネル55(後出)とを含むY-Z断面の構成例を表す断面図である。
図5は、インクジェットヘッド4における、ヘッドチップ40Aのダミーチャネル55(後出)とヘッドチップ40Bの吐出チャネル54(後出)とを含むY-Z断面の構成例を表す断面図である。
図6Aは、インクジェットヘッド4における、吐出チャネル54およびダミーチャネル55の延在方向(Z軸方向)と直交する断面(X-Y断面)を表す断面図である。
図6Bは、
図6Aに示したインクジェットヘッド4の断面を拡大して表す拡大断面図である。但し、
図6Bでは、インクジェットヘッド4のうち、X軸方向の両端部(端部R4,L4)と、X軸方向の中央部C4とを表しており、端部R4と中央部C4との間の部分および端部L4と中央部C4との間の部分については図示を省略している。
図6Bにおいて、一点鎖線で表した中心線CLは、インクジェットヘッド4におけるX軸方向の中心位置を示している。なお、後出の
図9A~9Hにおいても同様に、各製造過程における、インクジェットヘッド4のX軸方向の両端部(端部R4,L4)とX軸方向の中央部C4とを表しており、両端部(端部R4,L4)と中央部C4との間の部分については図示を省略している。
図7Aは、
図6Bに示した、インクジェットヘッド4のうちの端部L4の第1面51f1(後出)の構成の一例を表し、
図7Bは、
図6Bに示した、インクジェットヘッド4のうちの端部L4の第2面51f2(後出)の構成の一例を表している。なお、インクジェットヘッド4のうちの端部R4は、中心線CL(
図6B)を対称軸として端部L4と実質的に線対称の断面構成を有するので、本明細書では端部R4の説明および図示を省略する。
図8は、
図3に示したカバープレート52(後出)の構成の一例を表す斜視図である。
【0027】
図3に示したように、インクジェットヘッド4は、一対のヘッドチップ40A,40Bと、流路プレート41と、入口マニホールド42と、出口マニホールド(不図示)と、帰還プレート43と、ノズルプレート(噴射プレート)44とを備える。インクジェットヘッド4は、吐出チャネル54の延在方向(Z軸方向)の先端部からインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのうち、インクジェットヘッド4とインクタンク3との間でインクを循環させる循環式(エッジシュート循環式)のものである。
【0028】
(ヘッドチップ40A,40B)
一対のヘッドチップ40A,40Bは互いに実質的に同一の構成を有しており、Y軸方向において流路プレート41を挟んで実質的に対称の姿勢をなすように実質的に対称の位置に設けられている。以下では、特に区別が必要のない場合は、一対のヘッドチップ40A,40Bをヘッドチップ40と総称して説明する。なお、ヘッドチップ40は本開示における「ヘッドチップ」の一具体例に対する。ヘッドチップ40は、流路プレート41に近い位置から順にカバープレート52と、アクチュエータプレート51と、封止プレート53とを備える。
【0029】
(アクチュエータプレート51)
アクチュエータプレート51は、インクを吐出させるため、電気的に駆動される部材である。このアクチュエータプレート51は、X軸方向を長手方向とすると共にZ軸方向を短手方向とする、X-Z面に沿って広がる板状部材であり、カバープレート52に貼り合わされた第1面51f1と、第1面51f1と反対を向く第2面51f2とを有している。第2面51f2は、封止プレート53に貼り合わされている。ここで、第1面51f1は本開示の「第1面」に対応する一具体例であり、第2面51f2は本開示の「第2面」に対応する一具体例である。
図7Bに示したように、第2面51f2は、端部領域R1とチャネル形成領域R2とを含んでいる。端部領域R1は封止プレート53と重なることなく外部に露出する部分であり、チャネル形成領域R2は吐出チャネル54およびダミーチャネル55が形成されると共に封止プレート53と重なり合う部分である。
【0030】
このアクチュエータプレート51は、第1面51f1と第2面51f2とを繋ぐ厚さ方向(Y軸方向)において互いに異なる分極方向を有する2枚の圧電基板51aおよび圧電基板51bを含んでいる。本実施の形態では、このアクチュエータプレート51が、圧電基板51a,51bに加えて、圧電基板51aと圧電基板51bとの間に中間基板51cを有している。圧電基板51a,51bは、電界を印加すると変形する基板、即ち、逆圧電効果を有する基板であるのに対し、中間基板51cは、逆圧電効果を示さない基板である。本実施の形態では、このようにアクチュエータプレート51が、逆圧電効果を示さない中間基板51cを含んでいるので、吐出チャネル54とダミーチャネル55との間の駆動壁56(後出)に、電圧を印加しても駆動に寄与しない(変形しない)部分、即ち、非駆動部が形成される。なお、中間基板51cは、実質的に逆圧電効果を示さない基板により構成されていればよく、例えば、本開示の効果を奏する範囲で微小な逆圧電効果を有する基板により構成されていてもよい。
【0031】
アクチュエータプレート51は、例えば、第1面51f1側から、圧電基板51a、中間基板51cおよび圧電基板51bをこの順に有している。圧電基板51bは、中間基板51cを間にして圧電基板51aに対向している。圧電基板51aおよび圧電基板51bは、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料により構成されたプレートである。例えば、圧電基板51aは、Y軸に沿った一方の分極方向(例えば、
図6Aの上向き方向)を有し、圧電基板51bは、Y軸に沿った他方の分極方向(例えば、
図6Aの下向き方向)を有している。
【0032】
圧電基板51aと圧電基板51bとの間に設けられた中間基板51cは、例えば、圧電基板51a,51bの構成材料と同じ材料により構成されている。例えば、中間基板51cは未分極のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等により構成されている。中間基板51cを、圧電基板51a,51bの構成材料と同じ材料により構成すると、圧電基板51a,51bおよび中間基板51cの物理的および化学的特性が、略同じになる。このため、例えば、圧電基板51a、中間基板51cおよび圧電基板51bにわたる溝(後述の吐出チャネル54,ダミーチャネル55)を、機械加工を用いて、容易に形成することができる。また、圧電基板51a,51bおよび中間基板51cの熱膨張率が、互いに同じになるので、例えば、ヘッドチップ40を駆動させた際に熱応力が発生しても、この熱応力に起因した圧電基板51a,51bと中間基板51cとの間での剥がれが生じにくくなる。
【0033】
中間基板51cは、圧電基板51a,51bの構成材料と、異なる材料により構成されていてもよい。例えば、中間基板51cは、圧電基板51a,51bの構成材料の誘電率よりも低い誘電率を有する材料により構成されていることが好ましい。これにより、アクチュエータプレート51に生じる静電容量が小さくなる。したがって、アクチュエータプレート51の電気的な駆動に必要なエネルギーが低減され、ヘッドチップ40の発熱を抑えることが可能となる。このような中間基板51cの構成材料としては、例えば、ガラス,セラミックおよび樹脂材料等が挙げられる。
【0034】
圧電基板51a、中間基板51cおよび圧電基板51bには、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55が設けられている。複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55は、圧電基板51a、中間基板51cおよび圧電基板51bの積層体を、厚さ方向(Y軸方向)に貫通しており(
図6A)、第1面51f1から第2面51f2に向かう方向(Y軸方向)に深さ方向を有している。第1面51f1には、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55それぞれに連通された開口M1が設けられ、第2面51f2には、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55それぞれに連通された開口M2が設けられている。複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55(開口M1,M2)は、共にそれぞれZ軸方向へ直線状に延在している(
図7A,
図7B)。ここで、開口M1は本開示の「第1開口」の一具体例に対応し、開口M2は本開示の「第2開口」の一具体例に対応する。
【0035】
吐出チャネル54とダミーチャネル55とは、X軸方向において互いに離間して交互に配置されている。吐出チャネル54とダミーチャネル55とは、駆動壁56によって仕切られている。このため、アクチュエータプレート51は、Z軸方向と直交する断面(X-Y断面)において、スリット状のチャネルが複数並ぶ構造となっている(
図6A参照)。換言すれば、吐出チャネル54とダミーチャネル55との間には、第1面51f1側から圧電基板51a、中間基板51cおよび圧電基板51bがこの順に積層された駆動壁56が設けられている。ここで、吐出チャネル54およびダミーチャネル55は本開示の「チャネル」に対応する一具体例であり、吐出チャネル54は本開示の「吐出チャネル」、ダミーチャネル55は本開示の「非吐出チャネル」に対応する一具体例である。「駆動壁56」は、本開示の「壁部分」に対応する一具体例である。駆動壁56のうち、圧電基板51aにより構成された部分、中間基板51cにより構成された部分および圧電基板51bにより構成された部分が、それぞれ、本開示の「第1駆動部」、「非駆動部」および「第2駆動部」の一具体例に対応する。
【0036】
吐出チャネル54は、インクに対して圧力を印加するための圧力室として機能する部分であり、X軸方向において対向する一対の内面541を有している。内面541は、駆動壁56のうち、吐出チャネル54側に露出された面であり、例えば、Y-Z平面に平行な平面により構成されている。一対の内面541は、それぞれ、圧電基板51aにより構成された内面541aと、中間基板51cにより構成された内面541cと、圧電基板51bにより構成された内面541bとを含んでいる。一対の内面541各々が、第1面51f1側から順に内面541a、内面541cおよび内面541bを含んでいる。吐出チャネル54の一対の内面541には、共通電極61が設けられている。吐出チャネル54の一対の内面541に設けられた共通電極61は、第2面51f2に設けられた共通電極パッド62(
図4,
図5,
図7B)により電気的に接続されている。
【0037】
吐出チャネル54の下端部は、
図7Aに示したようにアクチュエータプレート51の下端面511(帰還プレート43に貼り合わされた面)に至るまで延在し、帰還プレート43と対向する開口を形成している。この下端面511に設けられた開口は、インクが吐出される吐出端である。これに対し、吐出チャネル54の上端部はアクチュエータプレート51の上端面(下端面511と反対の面)512に至らずにアクチュエータプレート51内で終端している。すなわち、吐出チャネル54の上端部近傍は、下端面511と上端面512との間に位置すると共に傾斜面54bを含む閉塞端となっており、上端面512に向かうに従って深さ(Y軸方向の寸法)が徐々に減少するように形成されている。換言すれば、吐出チャネル54におけるZ軸方向の端部である閉塞端54T(
図7A)は、カバープレート52に対して傾斜して向き合う傾斜面54bを含んでいる。このため、傾斜面54bと第2面51f2との交差位置から吐出端である下端面511までの第1の距離L1は、傾斜面54bと第1面51f1との交差位置から下端面511までの第2の距離L2よりも短い(
図4参照)。
【0038】
図6Bに示したように、吐出チャネル54の一対の内面541に設けられた共通電極61は、第1共通電極部分61Aと第2共通電極部分61Bとを有している。第1共通電極部分61Aは、内面541を第1面51f1から第2面51f2に向けて連続的に覆うように設けられ、第2共通電極部分61Bは、内面541を第2面51f2から第1面51f1に向けて連続的に覆うように設けられている。第1共通電極部分61Aは、内面541a全面を覆うととともに、内面541cの少なくとも一部を覆っている。第1共通電極部分61Aは、内面541aから内面541cを介して内面541bを覆うように、内面541全てを覆っていてもよい。第2共通電極部分61Bは、内面541b全面を覆うととともに、内面541cの少なくとも一部を覆っている。第2共通電極部分61Bは、内面541bから内面541cを介して内面541aを覆うように、内面541全てを覆っていてもよい。各内面541では、第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bが電気的に接続され、一体的に機能するようになっている。
【0039】
第1共通電極部分61Aは、例えば、第1面51f1の開口M1側からの斜方蒸着により形成されたものであり、第2共通電極部分61Bは、例えば、第2面51f2の開口M2側からの斜方蒸着により形成されたものである。即ち、第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bは、蒸着膜により構成されている。このような第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bの吐出チャネル54の深さ方向(Y軸方向)の大きさは、吐出チャネル54のX軸方向の位置(端部L4,R4,中央部C4)に応じて、所定の傾向を有している。
【0040】
例えば、端部L4,R4では、各吐出チャネル54の一対の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61BのY軸方向の大きさは以下のような傾向を有している。各吐出チャネル54の一対の内面541のうち、一方の内面541(例えば、端部L4では中心線CL側の内面541)に設けられた第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61BそれぞれのY軸方向の大きさは、他方の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61BそれぞれのY軸方向の大きさよりも小さい。各吐出チャネル54の一対の内面541のうち、一方の内面541では、例えば、第1共通電極部分61Aと第2共通電極部分61Bとの間に間隙が設けられている。換言すれば、各吐出チャネル54の一対の内面541cのうち、一方の内面541cの一部は第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bのいずれにも覆われていない。各吐出チャネル54の一対の内面541のうち、他方の内面541には、例えば、第1共通電極部分61Aと第2共通電極部分61Bとが重なる部分が設けられている。換言すれば、端部L4では、共通電極61が、各吐出チャネル54の一対の内面541のうち、少なくとも他方の内面541に第1共通電極部分61Aと第2共通電極部分61Bとが重なる重なり部を有している。
【0041】
例えば、中央部C4では、各吐出チャネル54の一対の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61BのY軸方向の大きさは以下のような傾向を有している。各吐出チャネル54の一対の内面541のうち、一方の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61BそれぞれのY軸方向の大きさは、他方の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61BそれぞれのY軸方向の大きさと略同じである。例えば、各吐出チャネル54の一対の内面541両方に、第1共通電極部分61Aと第2共通電極部分61Bとが重なる部分が設けられている。換言すれば、中央部C4では、共通電極61が、各吐出チャネル54の一対の内面541両方に第1共通電極部分61Aと第2共通電極部分61Bとが重なる重なり部を有している。
【0042】
複数の共通電極61それぞれは、第2面51f2に設けられた共通電極パッド62に接続されている。共通電極パッド62は、
図7Bに示したように、第2面51f2のうち吐出チャネル54の上端部の周辺部分の一部を覆うように形成されている。共通電極パッド62は、第2面51f2のうち、吐出チャネル54の周辺部分から端部領域R1に至るまで延在している。共通電極パッド62には、外部配線基板45が接続される。
【0043】
上記のように、端部L4,R4では、吐出チャネル54の一方の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bが内面541上で接続されていなくてもよい。一方の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aは、傾斜面54bを含む閉塞端54Aにより他方の内面541に設けられた第1共通電極部分61Aに接続され、一方の内面541に設けられた第2共通電極部分61Bは、共通電極パッド62により他方の内面541に設けられた第2共通電極部分61Bに接続される。したがって、共通電極61が、吐出チャネル54の一対の内面541のうち、少なくとも他方の内面541に、第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bの重なり部を有することにより、一対の内面541各々に設けられた共通電極61の電気的な接続を維持することができる。
【0044】
吐出チャネル54には、インクが充填されるのに対し、ダミーチャネル55にはインクが充填されないようになっている。
図7Aに示したように、このダミーチャネル55の上端部は、上端面512で開口しており、ダミーチャネル55の下端部は、下端面511で開口している。
【0045】
図6Aおよび
図6Bに示したように、ダミーチャネル55はX軸方向において対向する一対の内面551を有している。内面551は、駆動壁56のうち、ダミーチャネル55側に露出された面であり、例えば、Y-Z平面に平行な平面により構成されている。一対の内面551は、それぞれ、圧電基板51aにより構成された内面551aと、中間基板51cにより構成された内面551cと、圧電基板51bにより構成された内面551bとを含んでいる。一対の内面551各々が、第1面51f1側から順に、内面551a、内面551cおよび内面551bを有している。ダミーチャネル55の一対の内面551各々には、個別電極63が設けられている。ダミーチャネル55の一対の内面551各々に設けられた個別電極63同士は互いに絶縁されている。吐出チャネル54を間にして隣り合う個別電極63は、第2面51f2の端部領域R1に設けられた個別電極パッド64に接続されている。
【0046】
図6Bに示したように、ダミーチャネル55の一対の内面551に設けられた個別電極63は、第1個別電極部分63Aと第2個別電極部分63Bとを有している。第1個別電極部分63Aは、内面551を第1面51f1から第2面51f2に向けて連続的に覆うように設けられ、第2個別電極部分63Bは、内面551を第2面51f2から第1面51f1に向けて連続的に覆うように設けられている。第1個別電極部分63Aは、内面551a全面を覆うととともに、内面551cの少なくとも一部を覆っている。第1個別電極部分63Aは、内面551aから内面551cを介して内面551bを覆うように、内面551全てを覆っていてもよい。第2個別電極部分63Bは、内面551b全面を覆うととともに、内面551cの少なくとも一部を覆っている。第2個別電極部分63Bは、内面551bから内面551cを介して内面551aを覆うように、内面551全てを覆っていてもよい。各内面551では、第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bが電気的に接続され、一体的に機能するようになっている。
【0047】
第1個別電極部分63Aは、例えば、第1面51f1の開口M1側からの斜方蒸着により形成されたものであり、第2個別電極部分63Bは、例えば、第2面51f2の開口M2側からの斜方蒸着により形成されたものである。即ち、第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bは、蒸着膜により構成されている。このような第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bのダミーチャネル55の深さ方向(Y軸方向)の大きさは、ダミーチャネル55のX軸方向の位置(端部L4,R4,中央部C4)に応じて、所定の傾向を有している。
【0048】
例えば、端部L4,R4では、各ダミーチャネル55の一対の内面551に形成された第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63BのY軸方向の大きさは以下のような傾向を有している。各ダミーチャネル55の一対の内面551のうち、一方の内面551(例えば、端部L4では中心線CL側の内面551)に形成される第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63BそれぞれのY軸方向の大きさは、他方の内面551に形成される第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63BそれぞれのY軸方向の大きさよりも小さい。各ダミーチャネル55の一対の内面551のうち、一方の内面551では、例えば、第1個別電極部分63Aと第2個別電極部分63Bとの間に間隙が設けられている。換言すれば、各ダミーチャネル55の一対の内面551cのうち、一方の内面551cの一部は第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bのいずれにも覆われていない。各ダミーチャネル55の一対の内面551のうち、他方の内面551には、例えば、第1個別電極部分63Aと第2個別電極部分63Bとが重なる部分が設けられている。換言すれば、端部L4では、個別電極63が、各ダミーチャネル55の一対の内面551のうち、他方の内面551に第1個別電極部分63Aと第2個別電極部分63Bとが重なる重なり部を有している。
【0049】
例えば、中央部C4では、各ダミーチャネル55の一対の内面551に形成された第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63BのY軸方向の大きさは以下のような傾向を有している。各ダミーチャネル55の一対の内面551のうち、一方の内面551に形成される第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63BそれぞれのY軸方向の大きさは、他方の内面551に形成される第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63BそれぞれのY軸方向の大きさと略同じである。各ダミーチャネル55の一対の内面551両方に、例えば、第1個別電極部分63Aと第2個別電極部分63Bとが重なる部分が設けられている。換言すれば、中央部C4では、個別電極63が、各ダミーチャネル55の一対の内面551両方に第1個別電極部分63Aと第2個別電極部分63Bとが重なる重なり部を有している。
【0050】
複数の個別電極63各々は、第2面51f2に設けられた個別電極パッド64に接続されている。個別電極パッド64は、共通電極パッド62と電気的に分離されており、例えば、周辺部分のうち共通電極パッド62よりも上方に位置する部分をX軸方向に延在するように設けられている(
図7B)。個別電極パッド64は、吐出チャネル54を間に挟んで隣り合う一対の個別電極63同士を接続している。この個別電極パッド64には、外部配線基板45が接続される。
【0051】
図7Aに示したように、第1面51f1には、吐出チャネル54を間に挟んで隣り合う一対の個別電極63同士を接続する配線63fが設けられている。この配線63fは、例えば、吐出チャネル54の閉塞端54Tよりも上方に設けられている。第1面51f1の個別電極パッド64に加えて、第2面51f2に配線63fを設けることにより、仮に、個別電極パッド64が断線した場合にも、吐出チャネル54を間に挟んで隣り合う一対の個別電極63同士の電気的な接続を維持することができる。後述のように、配線63fおよび個別電極パッド64により、内面551に分離して設けられた第1個別電極部分63Aと第2個別電極部分63Bとが電気的に接続されていてもよい。
【0052】
上記のように、端部L4,R4では、ダミーチャネル55の一方の内面551に設けられた第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bが接続されていなくてもよい。一方の内面551に設けられた第1個別電極部分63Aは、配線63fにより、吐出チャネル54を間にして隣り合うダミーチャネル55の他方の内面551に設けられた第1個別電極部分63Aに接続され、一方の内面551に設けられた第2個別電極部分63Bは、個別電極パッド64により、吐出チャネル54を間にして隣り合うダミーチャネル55の他方の内面551に設けられた第2個別電極部分63Bに接続される。したがって、吐出チャネル54を間にして隣り合う一対の個別電極63のうち、少なくとも一方(例えば、ダミーチャネル55の他方の内面551に設けられた個別電極63)が、第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bの重なり部を有することにより、吐出チャネル54を間にして隣り合う一対の個別電極63の電気的な接続を維持することができる。
【0053】
このように、ヘッドチップ40では、第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bが接続されていない内面541が設けられていてもよく、第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bが接続されていない内面551が設けられていてもよい。したがって、本開示は、アスペクト比の高い駆動壁56を有するアクチュエータプレート51に好適に用いられる。
【0054】
ここでは、共通電極61および個別電極63が本開示の「電極」の一具体例に対応する。また、第1共通電極部分61Aおよび第1個別電極部分63Aが、本開示の「第1電極膜」の一具体例に対応し、第2共通電極部分61Bおよび第2個別電極部分63Bが、本開示の「第2電極膜」の一具体例に対応する。
【0055】
(カバープレート52)
カバープレート52は、X軸方向を長手方向とすると共にZ軸方向を短手方向とする、XZ面に沿って広がる板状部材である。カバープレート52は、アクチュエータプレート51の第1面51f1に貼り合わされた対向面52f1と、対向面52f1と反対を向く対向面52f2とを有している。
【0056】
図8は、カバープレート52を流路プレート41側から眺めた斜視図である。カバープレート52には、カバープレート52をY軸方向(厚さ方向)に貫通するとともに、吐出チャネル54に連通する液体供給路70が形成されている。液体供給路70は、Y軸方向の流路プレート41側に開口する共通インク室71と、共通インク室71とそれぞれ連通すると共にY軸方向のアクチュエータプレート51側に開口する複数のスリット72とを含んでいる。複数のスリット72は、複数の吐出チャネル54と対応する位置に設けられている。共通インク室71は、複数のスリット72に対し共通に設けられており、複数のスリット72を通じて各吐出チャネル54と連通している。共通インク室71は、ダミーチャネル55には連通していない。
【0057】
共通インク室71は、カバープレート52における流路プレート41と対向する対向面52f2に形成されている。共通インク室71は、Z軸方向において、吐出チャネル54の傾斜面54bと実質的に同じ位置に配置されている。共通インク室71は、対向面52f1側に向けて窪むと共にX軸方向に延在する溝状に形成されている。共通インク室71には、流路プレート41を通じてインクが流入するようになっている。
【0058】
複数のスリット72は、アクチュエータプレート51と対向する対向面52f1に形成されている。複数のスリット72は、Y軸方向において共通インク室71の一部とそれぞれ重なり合う位置に配置されている。複数のスリット72は、共通インク室71と複数の吐出チャネル54とに連通している。各スリット72のX軸方向の幅は、各吐出チャネル54のX軸方向の幅と実質的に同じであることが望ましい。
【0059】
なお、カバープレート52は、絶縁性を有し、かつアクチュエータプレート51を形成する材料の熱伝導率と同等以上の熱伝導率を有する材料により形成されているとよい。例えば、アクチュエータプレート51をPZTにより形成した場合、カバープレート52は、PZTまたはシリコンにより形成することが好ましい。これにより、ヘッドチップ40Aのカバープレート52の温度とヘッドチップ40Bのカバープレート52の温度との差が低減され、インクジェットヘッド4内におけるインク温度の均一化を図ることができるからである。その結果、インクの吐出速度のばらつきが低減され、印字安定性が向上する。
【0060】
(封止プレート53)
封止プレート53は、カバープレート52と同様、X軸方向を長手方向とすると共にZ軸方向を短手方向とする、XZ面に沿って広がる板状部材である。封止プレート53は、アクチュエータプレート51の下端面511およびカバープレート52の下端面521とZ軸方向において一致する下端面531と、Z軸方向において下端面531と反対側に位置する上端面532とを有している。上端面532は、Z軸方向において上端面512および上端面522の位置から後退した位置にある。封止プレート53は、アクチュエータプレート51の第2面51f2と対向する対向面53f1をさらに有する。封止プレート53は、対向面53f1がアクチュエータプレート51の第2面51f2のうちのチャネル形成領域R2と対向するように配置される。したがって、封止プレート53とカバープレート52とによって複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55が閉塞されるようになっている。封止プレート53は、開口や切り欠き、溝などを有しなくともよい。すなわち、単純な直方体でよいので、その構成材料として加工の困難な機能性材料や、高い加工精度が得にくい低価格材料を用いることもできる。すなわち、材料種の選択の自由度が向上する。
【0061】
(一対のヘッドチップ40A,40Bの配置関係)
図3に示したように、一対のヘッドチップ40A,40Bは、各々の対向面52f2同士をY方向で対向させた状態で、Y軸方向に流路プレート41を挟んで配置されている。
【0062】
ヘッドチップ40Bの吐出チャネル54およびダミーチャネル55は、ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54およびダミーチャネル55の配列ピッチに対してX軸方向に半ピッチずれて配列されている。すなわち、ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54およびダミーチャネル55と、ヘッドチップ40Bの吐出チャネル54およびダミーチャネル55とが千鳥状に配列されている。
【0063】
このため、
図4に示したように、ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54と、ヘッドチップ40Bのダミーチャネル55とがY軸方向で対向している。同様に、
図5に示したように、ヘッドチップ40Aのダミーチャネル55と、ヘッドチップ40Bの吐出チャネル54とがY軸方向で対向している。なお、ヘッドチップ40A,40Bにおける各々の吐出チャネル54およびダミーチャネル55のピッチは適宜変更可能である。
【0064】
(流路プレート41)
流路プレート41は、Y軸方向においてヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとの間に挟持されている。流路プレート41は、同一の部材により一体に形成されているとよい。
図3に示したように、流路プレート41は、X軸方向を長手方向としY軸方向を短手方向とする矩形板状をなしている。Y軸方向から見て、流路プレート41の外形は、カバープレート52の外形と実質的に同じである。ここでは、流路プレート41が本開示の「供給機構」の一具体例に対応する。
【0065】
流路プレート41のY軸方向における主面41f1(ヘッドチップ40Aと対向する面)には、ヘッドチップ40Aにおける対向面52f2が接合されている。流路プレート41のY軸方向における主面41f2(ヘッドチップ40Bと対向する面)には、ヘッドチップ40Bにおける対向面52f2が接合されている。
【0066】
図4および
図5に示したように、流路プレート41の各主面41f1,41f2には、共通インク室71に各別に連通する入口流路74と、帰還プレート43の循環路76に各別に連通する出口流路75とが形成されている。
【0067】
図3に示したように、出口流路75は、流路プレート41の各主面41f1,41f2からY軸方向の内側に向けて窪むとともに、流路プレート41の下端面411から上端面412へ向かうように窪んでいる。各出口流路75の一端部は、流路プレート41のX軸方向の他端面で開口している。各出口流路75は、流路プレート41のX軸方向の他端面から下方にクランク状に屈曲した後、X軸方向の一端側に向けて直線状に延びている。
図4に示したように、出口流路75のZ軸方向の幅は、入口流路74のZ軸方向の幅よりも小さいとよい。また、出口流路75のY軸方向の深さは、入口流路74のY軸方向の深さと実質的に同じである。出口流路75は、流路プレート41のX軸方向の他端面において出口マニホールド(図示せず)に接続されている。出口マニホールドは、インク排出管82(
図1参照)に接続されている。
【0068】
(入口マニホールド42)
図3に示したように、入口マニホールド42は、ヘッドチップ40A,40Bおよび流路プレート41のX軸方向の一端面に接合されている。入口マニホールド42には、一対の入口流路74に連通する供給路77が形成されている。供給路77における流路プレート41と反対側の端部はインク供給管81(
図2参照)に接続されている。
【0069】
(帰還プレート43)
帰還プレート43は、X軸方向を長手方向としY軸方向を短手方向とする矩形板状をなしている。帰還プレート43は、ヘッドチップ40A,40Bの下端面511,521,531および流路プレート41の下端面411にまとめて接合されている。すなわち、帰還プレート43は、ヘッドチップ40Aおよびヘッドチップ40Bにおける吐出チャネル54の開口54K側に配設されている。帰還プレート43は、ヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとにおける吐出チャネル54の開口54Kと、ノズルプレート44の上面との間に介在するスペーサプレートである。帰還プレート43には、ヘッドチップ40A,40Bの吐出チャネル54と出口流路75との間を接続する複数の循環路76が形成されている。複数の循環路76は、第1循環路76aおよび第2循環路76bを含んでいる。複数の循環路76は、帰還プレート43をZ軸方向に貫通している。
【0070】
(ノズルプレート44)
図3に示したように、ノズルプレート44の外形は、X軸方向を長手方向としY軸方向を短手方向とする矩形板状をなしている。ノズルプレート44は、帰還プレート43の下端面に接合されている。ノズルプレート44には、ノズルプレート44をZ軸方向に貫通する複数のノズル78(噴射孔)が配列されている。複数のノズル78は、第1ノズル78aおよび第2ノズル78bを含む。複数のノズル78は、ノズルプレート44をZ軸方向に貫通している。
【0071】
図4に示したように、第1ノズル78aは、ノズルプレート44のうち、帰還プレート43の各第1循環路76aとZ軸方向で対向する部分にそれぞれ形成されている。すなわち、第1ノズル78aは、第1循環路76aと同ピッチで、X軸方向に間隔をあけて一直線上に配列されている。第1ノズル78aは、第1循環路76aにおけるY軸方向の外端部で第1循環路76a内に連通している。これにより、各第1ノズル78aは、第1循環路76aを介してヘッドチップ40Aの対応する吐出チャネル54にそれぞれ連通している。
【0072】
図5に示したように、第2ノズル78bは、ノズルプレート44のうち、帰還プレート43の各第2循環路76bとZ軸方向で対向する部分にそれぞれ形成されている。すなわち、第2ノズル78bは、第2循環路76bと同ピッチで、X軸方向に間隔をあけて一直線上に配列されている。第2ノズル78bは、第2循環路76bにおけるY軸方向の外側端部で第2循環路76b内に連通している。これにより、各第2ノズル78bは、第2循環路76bを介してヘッドチップ40Bの対応する吐出チャネル54にそれぞれ連通している。ダミーチャネル55は、第1ノズル78aおよび第2ノズル78bには連通しておらず、帰還プレート43により下方から覆われている。
【0073】
(外部配線基板45)
外部配線基板45は、共通電極パッド62,個別電極パッド64各々と駆動回路とを電気的に接続する。外部配線基板45には、例えば、複数の共通電極パッド62のそれぞれに接続された複数の端子と、複数の個別電極パッド64のそれぞれに接続された複数の端子とが設けられている。駆動回路は、例えば、集積回路(IC:Integrated Circuit)等により構成されている。集積回路は、外部配線基板45に搭載されていてもよい。
【0074】
[インクジェットヘッド4の製造方法]
次に、インクジェットヘッド4の製造方法について説明する。本実施形態のインクジェットヘッド4の製造方法は、ヘッドチップ作製工程と、流路プレート作製工程と、プレート接合工程と、帰還プレート等接合工程と、を含む。なお、ヘッドチップ作製工程は、ヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとで同様の方法により行うことが可能である。したがって、以下の説明ではヘッドチップ40Aにおけるヘッドチップ作製工程について説明する。
【0075】
(ヘッドチップ作製工程)
本実施の形態のインクジェットヘッド4の製造方法におけるヘッドチップ作製工程は、主に、アクチュエータプレート51に係る工程と、カバープレート52に係る工程とを含んでいる。これらのうち、アクチュエータプレート51に係る工程は、例えばウエハ準備工程、マスクパターン形成工程、チャネル形成工程および電極形成工程を含む。以下、
図9A~
図9Hを参照して、主にアクチュエータプレート51に係る工程を説明する。
【0076】
ウエハ準備工程では、
図9Aに示したように、厚さ方向(Y軸方向)に分極処理された2枚の圧電ウエハ51aZおよび圧電ウエハ51bZと、例えば、未分極の中間ウエハ51cZとを用意する。圧電ウエハ51aZの分極方向と、圧電ウエハ51bZの分極方向とが逆向きとなるように配置し、圧電ウエハ51aZと圧電ウエハ51bZとの間に中間ウエハ51cZを介在させる。そののち、必要に応じて圧電ウエハ51aZに対しグラインダ加工を行い、圧電ウエハ51aZの厚さを調整する。このときの圧電ウエハ51aZの表面が第1面51f1となる。これにより、アクチュエータウエハ51Zが形成される。
【0077】
続くマスクパターン形成工程により、
図9Bに示したように、共通電極61等を形成する際にマスクとして利用するレジストパターンRP1を上述のアクチュエータウエハ51Zの第1面51f1上に形成する。レジストパターンRP1は、第1共通電極部分61A、第1個別電極部分63Aおよび配線63fを形成するためのものであり、これらに応じた開口を有している。なお、レジストパターンRP1はドライレジストにより形成してもよいし、ウェットレジストにより形成してもよい。
【0078】
続くチャネル形成工程では、図示しないダイシングブレード等により、上述のアクチュエータウエハ51Zの第1面51f1から切削加工を行う。これにより、第1面51f1には、複数の開口M1が形成されるとともに、アクチュエータウエハ51Zに、開口M1に連通された複数のトレンチ54U,55Uが形成される。複数のトレンチ54Uおよび複数のトレンチ55Uは、X軸方向に間隔をあけて平行をなすように、かつ交互に並ぶように形成する(
図9B参照)。なお、トレンチ54Uおよびトレンチ55Uは、それぞれ、のちに吐出チャネル54およびダミーチャネル55となる部分である。
【0079】
続く第1の電極形成工程では、
図9Cに示したように、例えば蒸着法により、第1面51f1、複数のトレンチ54Uの内面541Uおよび複数のトレンチ55Uの内面551Uを覆うように金属被膜MF1を形成する。このとき、金属被膜MF1の蒸着深さ(Y軸方向の大きさ)は、内面541U,551Uのうち圧電ウエハ51aZにより構成された部分全部を覆い、かつ、中間ウエハ51cZにより構成された部分の少なくとも一部を覆うように調整する。蒸着法としては、第1面51f1に対する法線方向から傾斜した方向から金属被膜MF1の構成材料を付着させる斜方蒸着を行うことが望ましい。これにより、深い位置まで各トレンチ54Uの内面541Uおよび各トレンチ55Uの内面551Uが覆われる。なお、金属被膜MF1を形成する前段階において、各トレンチ54Uの内面541Uおよび各トレンチ55Uの内面551Uに付着したレジストなどの残渣を除去するディスカム処理を適宜行うようにしてもよい。
【0080】
続いてレジストパターンRP1を除去することによりアクチュエータウエハ51Zの第1面51f1を露出させたのち、
図9Dに示したように、第1面51f1に対向面52f1を重ね合わせるようにカバープレート52を接合する。その際、液体供給路70が吐出チャネル54と対向するようにカバープレート52の対向面52f1を第1面51f1に接合する。ここでレジストパターンRP1とともに、レジストパターンRP1に付着した金属被膜MF1が除去される(リフトオフ法)。これにより、トレンチ54Uの内面541Uに第1共通電極部分61Aが形成され、トレンチ55Uの内面551Uに第1個別電極部分63Aが形成される。第1面51f1には、配線63fが形成される(
図7A参照)。
【0081】
次に、
図9Eに示したように、圧電ウエハ51bZを裏面(圧電ウエハ51aZと反対側の面)からグラインダ加工を行い、圧電ウエハ51bZの厚さを調整する。その際、複数のトレンチ54U,55Uを露出させる。このときの圧電ウエハ51bZの裏面が第2面51f2となり、この第2面51f2には複数のトレンチ54U,55U各々に連通された開口M2が形成される。即ち、圧電基板51a、中間基板51cおよび圧電基板51bの積層体と、開口M1,M2に連通された吐出チャネル54およびダミーチャネル55が形成される。
【0082】
次に、
図9Fに示したように、第2面51f2に選択的にレジストパターンRP2を形成する。レジストパターンRP2は、第2共通電極部分61B、第2個別電極部分63B、共通電極パッド62および個別電極パッド64を形成するためのものであり、これらに応じた開口を有している。
【0083】
続く第2の電極形成工程では、
図9Gに示したように、例えば蒸着法により、第2面51f2、複数の吐出チャネル54の内面541および複数のダミーチャネル55の内面551を覆う金属被膜MF2を形成する。このとき、金属被膜MF2の蒸着深さ(Y軸方向の大きさ)は、内面541,551のうち内面541b,551b全部を覆い、かつ、内面541c,551cの少なくとも一部を覆うように調整する(
図6B参照)。蒸着法としては、第1の電極形成工程と同様に、斜方蒸着を行うことが望ましい。
【0084】
次に、
図9Hに示したように、レジストパターンRP2を除去する。これにより、レジストパターンRP2とともに、レジストパターンRP2に付着した金属被膜MF2が除去される(リフトオフ法)。これにより、内面541に第2共通電極部分61Bが形成され、内面551に第2個別電極部分63Bが形成される。第2面51f2には、共通電極パッド62および個別電極パッド64が形成される。
【0085】
上記のように、フォトリソグラフィ法により金属被膜MF2をパターニングして共通電極パッド62および個別電極パッド64等を形成する方法の他、第2面51f2にレーザ照射を行い、金属被膜MF2をパターニングするようにしてもよい。レーザ照射による金属被膜MF2をパターニングすることにより、フォトリソグラフィ法に起因した第2面51f2でのバリの発生を抑えることが可能となる。また、レーザ照射法では、バリ取りの工程等も省略可能であり、フォトリソグラフィ法に比べて、パターニング工程を簡略化することができる。
【0086】
最後に、第2面51f2に封止プレート53の対向面53f1を貼り合わせることにより、アクチュエータプレート51と封止プレート53とを接合する。以上により、ヘッドチップ40Aの作製が完了する。ヘッドチップ40Bについても同様に作製可能である。
【0087】
ここで、カバープレート52に係る工程について、主に
図10および
図11を参照して説明する。
図10は、共通インク室71の形成工程を表す平面図であり、
図11は、
図10に続くスリット72の形成工程を表す断面図である。なお、
図11は、
図10に示したXI-XI切断線に沿った矢視方向の断面を表している。
【0088】
図10に示したように、共通インク室71の形成工程では、まず、用意されたカバーウエハ120に対して表面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、共通インク室71を形成する。続いて、
図11に示すように、スリット形成工程において、カバーウエハ120に対して裏面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、共通インク室71内に各別に連通するスリット72を形成する。なお、共通インク室71の形成工程およびスリット72の形成工程は、それぞれサンドブラストに限らず、ダイシング、切削等により行っても構わない。最後に、
図10に示した、X軸方向に延びる一点鎖線に沿ってカバーウエハ120を個片化する。これにより、カバープレート52が完成する。
【0089】
(流路プレート作製工程)
本実施の形態のインクジェットヘッド4の製造方法における流路プレート作製工程は、流路形成工程および個片化工程を含むものである。
【0090】
図12は、流路プレート作製工程を表す平面図である。
図12に示したように、流路形成工程では、まず流路ウエハ130に対して表面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、表面側の入口流路74および表面側の出口流路75をそれぞれ形成する。
【0091】
加えて、流路形成工程では、流路ウエハ130に対して裏面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、裏面側の入口流路74および裏面側の出口流路75を形成する。なお、流路形成工程の各工程は、サンドブラストに限らず、ダイシング、切削等により行っても構わない。
【0092】
流路形成工程に続く個片化工程では、ダイサー等を用いて出口流路75におけるX軸方向直線部の軸線(
図12に示した仮想線D)に沿って流路ウエハ130を個片化する。これにより、流路プレート41(
図3参照)が完成する。
【0093】
(各種プレート接合工程)
図3に示したように、各種プレート接合工程では、ヘッドチップ40Aのカバープレート52およびヘッドチップ40Bのカバープレート52のそれぞれと流路プレート41とを接合する。具体的に、流路プレート41の主面41f1をヘッドチップ40Aの対向面52f2に貼り付けると共に、流路プレート41の主面41f2をヘッドチップ40Bの対向面52f2に貼り付ける。これにより、プレート接合体を作製する。なお、流路ウエハ130の両面にカバーウエハ120を1枚ずつ貼り合わせてからチップ分割(個片化)を行うことにより、ヘッドチップ40Aのカバープレート52と流路プレート41とヘッドチップ40Bのカバープレート52とが順に貼り合わされたプレート接合体を作製するようにしてもよい。
【0094】
(帰還プレート等接合工程)
次いで、上述のプレート接合体に対して帰還プレート43およびノズルプレート44を接合する。そののち、共通電極パッド62および個別電極パッド64に対し外部配線基板45を実装する(
図4,
図5参照)。
【0095】
以上により、本実施形態のインクジェットヘッド4が完成する。
【0096】
[動作および作用・効果]
(A.プリンタ1の基本動作)
このプリンタ1では、以下のようにして、記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作(印刷動作)が行われる。なお、初期状態として、
図1に示した4種類のインクタンク3(3Y,3M,3C,3K)にはそれぞれ、対応する色(4色)のインクが十分に封入されているものとする。また、インクタンク3内のインクがインク循環機構8を介してインクジェットヘッド4内に充填された状態となっている。より具体的には、所定量のインクが、インク供給管81および流路プレート41を介してヘッドチップ40に供給され、液体供給路70を経て吐出チャネル54内に充填された状態となっている。
【0097】
このような初期状態において、プリンタ1を作動させると、搬送機構2a,2bにおけるグリッドローラ21がそれぞれ回転することで、グリッドローラ21とピンチローラ22と間に記録紙Pが挟持されつつ搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送される。また、このような搬送動作と同時に、駆動機構34における駆動モータ38が、プーリ35,36をそれぞれ回転させることにより無端ベルト37を動作させる。これにより、キャリッジ33がガイドレール31,32にガイドされながら、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って往復移動する。そしてこの際に、各インクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4K)によって、4色のインクを記録紙Pに適宜吐出させることで、この記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作がなされる。
【0098】
(B.インクジェットヘッド4における詳細動作)
続いて、
図1~
図8を参照して、インクジェットヘッド4における詳細動作(インクの噴射動作)について説明する。すなわち、本実施の形態のインクジェットヘッド4(エッジシュートタイプ)では、以下のようにして、せん断(シェア)モードを用いたインクの噴射動作が行われる。なお、以下の噴射動作はインクジェットヘッド4に搭載された駆動回路(図示せず)により実行される。
【0099】
本実施形態のような、エッジシュートタイプであって縦循環式のインクジェットヘッド4では、まず、
図2に示した加圧ポンプ84および吸引ポンプ85を作動させることにより、循環流路83内にインクを流通させる。この場合、インク供給管81を流通するインクは、
図3に示したす入口マニホールド42の供給路77を通り、流路プレート41の入口流路74内へ流入する。入口流路74内へ流入したインクは、共通インク室71を通過した後、スリット72を通って吐出チャネル54内に供給される。吐出チャネル54内に流入したインクは、帰還プレート43の循環路76を経由して出口流路75内で再集合したのち、出口マニホールドを通過して
図2に示したインク排出管82に排出される。インク排出管82に排出されたインクは、インクタンク3に戻されたのち、再びインク供給管81に供給される。これにより、インクジェットヘッド4とインクタンク3との間でインクが循環する。
【0100】
そして、キャリッジ33(
図1参照)によって往復移動が開始されると、外部配線基板45を介して共通電極61と個別電極63との間に駆動電圧を印加する。この際、例えば個別電極63を駆動電位Vddとし、共通電極61を基準電位GNDとする。共通電極61と個別電極63との間に駆動電圧を印加すると、吐出チャネル54を画成する2つ駆動壁56に厚み滑り変形が生じ、これら2つの駆動壁56がダミーチャネル55側へ突出するように変形する。すなわち、アクチュエータプレート51は、厚さ方向(Y軸方向)に分極処理された2枚の圧電基板51a,51bが積層された構造を有するので、上記の駆動電圧を印加することで、駆動壁56におけるY軸方向の中間位置を中心にしてV字状に屈曲変形する。これにより、吐出チャネル54があたかも膨らむように変形する。このとき、駆動壁56のうち、中間基板51cにより構成された部分は変形しない、
【0101】
吐出チャネル54を画成する2つの駆動壁56の変形によって吐出チャネル54の容積が増大すると、共通インク室71内のインクがスリット72を通って吐出チャネル54内に誘導される。そして、吐出チャネル54の内部に誘導されたインクは、圧力波となって吐出チャネル54の内部に伝搬する。この圧力波がノズル78に到達したタイミングで、共通電極61と個別電極63との間の駆動電圧をゼロにする。そうすることにより、2つの駆動壁56の形状が復元し、一旦増大した吐出チャネル54の容積が元の容積に戻る。この動作によって吐出チャネル54の内部の圧力が増加し、吐出チャネル54内のインクが加圧される。その結果、インクをノズル78から吐出させることができる。この際、インクはノズル78を通過する際に液滴状のインク滴となって吐出される。これにより、上述したように記録紙Pに文字や画像等を記録することができる。
【0102】
なお、インクジェットヘッド4の動作方法は上述した内容に限られない。例えば、通常状態の駆動壁56が吐出チャネル54の内側に変形し、吐出チャネル54があたかも内側に凹むように構成しても構わない。この場合は、共通電極61と個別電極63との間に印加する駆動電圧を上述した電圧とは正負逆の電圧にするか、電圧の正負は変えずにアクチュエータプレート51の分極方向を逆にすることで実現可能である。また、吐出チャネル54が外側に膨らむように変形させた後で、吐出チャネル54が内側に凹むように変形させ、吐出時のインクの加圧力を高めるようにしても構わない。
【0103】
(C.作用・効果)
次に、本実施の形態のヘッドチップ40、インクジェットヘッド4およびプリンタ1における作用および効果について詳細に説明する。
【0104】
本実施の形態のヘッドチップ40では、アクチュエータプレート51が、圧電基板51aと圧電基板51bとの間に中間基板51cを有しているので、駆動壁56に電圧を印加しても駆動に寄与しない部分(非駆動部)が形成される。これにより、圧電基板51aと圧電基板51bとの間に中間基板51cを設けずに、駆動壁56を全て駆動部により構成した場合に比べて、内面541,551のうち駆動に寄与する部分(
図6Bの内面541a,541b,551a,551b)全面に共通電極61および個別電極63を形成し易くなる。したがって、複数の共通電極61および複数の個別電極63の形成面積および膜質等のばらつきに起因したインクの吐出量および吐出速度等のばらつきが抑えられる。以下、この作用および効果について、比較例を用いて説明する。
【0105】
図13は、比較例に係るヘッドチップ140のX-Y断面の構成を模式的に表したものである。
図13は、ヘッドチップ40を表す
図6Bに対応している。このヘッドチップ140のアクチュエータプレート51は、互いに分極方向が逆の圧電基板51aおよび圧電基板51bの積層構造を有するシェブロンタイプのアクチュエータプレートである。圧電基板51aと圧電基板51bとは、直接接合されており、これらの間に中間基板(
図6Bの中間基板51c)は介在していない。このようなアクチュエータプレート51では、駆動壁56全部が駆動に寄与する。したがって、複数の内面541各々に設けられる共通電極61の形成面積および複数の内面551各々に設けられる個別電極63の形成面積がばらつくと、駆動壁56の駆動がばらつき、インクの吐出量およびインクの吐出速度等に大きく影響を及ぼす。即ち、共通電極61および個別電極63の形成面積のばらつきが、吐出の均一性に大きく影響を及ぼす。
【0106】
特に、斜方蒸着法を用いて、例えば、第1面51f1のみから、共通電極61および個別電極63を形成する場合、即ち、第1共通電極部分61Aおよび第1個別電極部分63Aのみを形成する場合には、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55に形成される共通電極61および個別電極63の形成面積を揃えることは困難である。これは、上述のように、内面541,551のX軸方向の位置により、形成される第1共通電極部分61Aおよび第1個別電極部分63AのY軸方向の大きさが異なるためである。例えば、中央部C4では、内面541全面が第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bに覆われ、内面551全面が第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bに覆われる。これに対し、端部L4,R4では、内面541の一部(例えば、吐出チャネル54の深さ方向の中央部)が第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61B5から露出され、内面551の一部(例えば、ダミーチャネル55の深さ方向の中央部)が第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bから露出される。したがって、端部L4,R4では駆動壁56の一部が機能せず、中央部C4に比べて吐出速度が低下する。
【0107】
例えば、共通電極61および個別電極63の形成面積のばらつきを、駆動電圧および駆動波形により補正する方法も考え得る。しかし、この方法では、吐出の均一性を十分に高めることが困難である。また、駆動壁56のアスペクト比を低くすることにより、共通電極61および個別電極63の形成面積のばらつきを小さくすることは可能である。しかし、この場合にも、アクチュエータプレート51を形成する際の位置精度およびウエハ間の貼合せ精度等に起因して吐出の均一性が低下するおそれがある。
【0108】
ヘッドチップ140では、ヘッドチップ40と同様に、第1面51f1からの斜方蒸着により第1共通電極部分61Aおよび第1個別電極部分63Aを形成し、かつ、第2面51f2からの斜方蒸着により、第2共通電極部分61Bおよび第2個別電極部分63Bを形成している。これにより、内面541,551に形成される共通電極61,個別電極63の面積が大きくなり、複数の吐出チャネル54におよび複数のダミーチャネル55での共通電極61および個別電極63の形成面積のばらつきが緩和される。したがって、第1共通電極部分61Aおよび第1個別電極部分63Aのみを形成する場合に比べて、吐出の均一性の低下を抑えることが可能である。
【0109】
しかし、ヘッドチップ140のアクチュエータプレート51全体の厚みが、ヘッドチップ40のアクチュエータプレート51全体の厚みと略同じであるとすると、ヘッドチップ140では、ヘッドチップ40に比べて、共通電極61および個別電極63のY軸方向の大きさを大きくしなければ、複数の駆動壁56の駆動のばらつきを抑えることができない。ヘッドチップ140では、駆動壁56に非駆動部が設けられていないため、複数の駆動壁56の駆動のばらつきを十分に小さくするためには、複数の内面541,551それぞれの全面に共通電極61,個別電極63を形成する必要がある。
【0110】
例えば、内面541,551全面に共通電極61,個別電極63を形成するため、蒸着方向を第1面51f1および第2面51f2に対して垂直方向に近づけることが考え得る。蒸着方向を第1面51f1および第2面51f2に対して垂直方向に近づけると、吐出チャネル54およびダミーチャネル55の深さ方向(Y軸方向)にわたってより大きく蒸着膜が形成されるが、この蒸着膜の膜質は低下しやすい。これにより、複数の吐出チャネル54、複数のダミーチャネル55で、共通電極61、個別電極63の膜質のばらつきが発生し、吐出の均一性に影響を及ぼすおそれがある。
【0111】
また、このように、吐出チャネル54およびダミーチャネル55の深さ方向にわたって大きく蒸着膜を形成する場合には、第1面51f1および第2面51f2に堆積される蒸着膜の厚みが大きくなる。これにより、例えば、共通電極パッド62および個別電極パッド64等を形成する際のパターニングに不具合が発生しやすくなる。例えば、フォトリソグラフィ法を用いると、第2面51f2に大きなバリが発生するおそれがある。また、第2面51f2に堆積される蒸着膜の厚みが大きいと、レーザ照射によるパターニングが困難となる。
【0112】
例えば、ヘッドチップ140の圧電基板51a,51bの厚みを小さくすることにより、蒸着方向を第1面51f1および第2面51f2に対してより小さい角度にすることも考え得る。しかし、この場合には、吐出チャネル54の深さ(Y軸方向の大きさ)が小さくなるので、吐出チャネル54の変形量、即ち、吐出効率が大きく低下する。
【0113】
これに対し、本実施の形態のヘッドチップ40では、駆動壁56の一部が非駆動部により構成されているので、ヘッドチップ140の駆動壁56に比べて駆動に寄与する部分が小さくなる。換言すれば、内面541および内面551のうち、内面541a,541bおよび内面541a,541bの全面に共通電極61および個別電極63を形成することにより、駆動壁56が十分に駆動される。即ち、ヘッドチップ140に比べて、Y軸方向に形成する共通電極61および個別電極63の面積を小さくしても、中央部C4および端部L4,R4ともに、内面541a,541bおよび内面541a,541bの全面に共通電極61および個別電極63が形成される。よって、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55間での駆動のばらつきを抑えることができる。
【0114】
また、ヘッドチップ40では、ヘッドチップ140に比べて、蒸着方向を第1面51f1および第2面51f2に対してより小さい角度にすることができ、共通電極61および個別電極63の膜質の低下が抑えられる。よって、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55間で、共通電極61、個別電極63の膜質のばらつきの低下に起因した吐出のばらつきを抑えることができる。
【0115】
また、ヘッドチップ140に比べて、吐出チャネル54およびダミーチャネル55の深さ方向にわたって形成する共通電極61および個別電極63の面積が小さくなるので、第1面51f1および第2面51f2に成膜される蒸着膜の厚みを小さくすることができる。したがって、共通電極パッド62および個別電極パッド64等を形成する際のパターニングでの不具合の発生が抑えられる。特に、このようなヘッドチップ40の製造工程では、レーザパターニングを好適に用いることができる。
【0116】
更に、ヘッドチップ40では、ヘッドチップ140に比べて共通電極61および個別電極63を形成する際の成膜材料を少なくし、コストを抑えることが可能となる。
【0117】
また、圧電基板51aと圧電基板51bとの間に中間基板51cが設けられているので、駆動壁56の駆動に寄与する部分を小さくしつつ、吐出チャネル54の深さ(駆動壁56の高さ)が維持される。したがって、吐出効率の低下が抑えられる。
【0118】
また、ヘッドチップ40では、上記のように、駆動壁56の一部を非駆動部により構成しているので、ヘッドチップ140に比べて、よりアスペクト比の高い駆動壁56に共通電極61および個別電極63を形成することが可能となる。同じアスペクト比を有する駆動壁56であれば、この駆動壁56の一部を非駆動部により構成することにより、蒸着方向の角度を第1面51f1および第2面51f2に対してより小さくできるためである。
【0119】
以上のように本実施の形態のヘッドチップ40、インクジェットヘッド4およびプリンタ1では、吐出チャネル54とダミーチャネル55との間の駆動壁56が、非駆動部を含んでいるので、駆動壁56を全て駆動部により構成した場合に比べて、駆動壁56のうち、駆動に寄与する部分が小さくなる。これにより、駆動壁56のうち、駆動に寄与する部分の全面に共通電極61および個別電極63を容易に形成することができる。よって、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55での電極面積のばらつきおよび膜質のばらつき等を小さくし、吐出の均一性を向上させることが可能となる。
【0120】
また、ヘッドチップ40は、共通電極61が第1共通電極部分61Aおよび第2共通電極部分61Bを含み、個別電極63が第1個別電極部分63Aおよび第2個別電極部分63Bを含んでいる。即ち、駆動壁56では、非駆動部の第1面51f1側および第2面51f2側に駆動部が形成される。これにより、駆動壁56が非駆動部の第1面51f1側のみに駆動部を有する場合(後述の
図16A,
図16B参照)に比べて、吐出効率を向上させることができる。
【0121】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例(変形例1~3)について説明する。なお、実施の形態における構成要素と実質的に同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0122】
[変形例1]
図14は、変形例1に係るインクジェットヘッド4Aにおける、吐出チャネル54に延在方向に沿った断面を表している。
図13は、上記実施の形態のインクジェットヘッド4を表す
図4に対応している。上記実施の形態のインクジェットヘッド4は、ヘッドチップ40とノズルプレート44との間に帰還プレート43が挿入され、インクタンク3とインクジェットヘッド4との間においてインク循環を行う構造を有している。これに対し、
図13に示した変形例1に係るインクジェットヘッド4Aは、帰還プレート43を有していない。すなわち、ヘッドチップ40A,40Bの下端面511,521,531および流路プレート41の下端面411に、ノズルプレート44が接着剤等により接合されている。また、流路プレート41には、入口流路74が設けられているものの、出口流路75は設けられていない。したがって、インクジェットヘッド4Aでは、その内部におけるインク循環が行われずに、吐出チャネル54の開口(吐出端)から吐出されるインクがノズルプレート44へ向かい、ノズル78から吐出されるようになっている。変形例1に係るインクジェットヘッド4Aは、上記の点を除き、他は上記実施の形態のインクジェットヘッド4と実質的に同じ構成を有するので、上記実施の形態のインクジェットヘッド4と同様の効果が期待できる。
【0123】
[変形例2]
図15は、変形例2に係るインクジェットヘッド4Bにおける、吐出チャネル54に延在方向に沿った断面を表している。
図14は、上記実施の形態のインクジェットヘッド4を表す
図4に対応している。上記実施の形態のインクジェットヘッド4は、1つの流路プレート41の両側にヘッドチップ40Aおよびヘッドチップ40Bが設けられた構造を有する。これに対し、
図14に示した変形例2に係るインクジェットヘッド4Bは、1つの流路プレート41Bの片側のみにヘッドチップ40が設けられた構造を有している。変形例2に係るインクジェットヘッド4Bは、上記の点を除き、他は上記実施の形態のインクジェットヘッド4と実質的に同じ構成を有する。
【0124】
[変形例3]
図16Aは、変形例3に係るインクジェットヘッド4Dにおける、吐出チャネル54およびダミーチャネル55の延在方向と直交する断面を表す断面図である。
図16Bは、
図16Aに示したインクジェットヘッド4Dの断面を拡大して表す拡大断面図である。
図16A,
図16Bはそれぞれ、上記実施の形態のインクジェットヘッド4を表す
図6A,
図6Bに対応している。上記実施の形態のインクジェットヘッド4では、アクチュエータプレート51が第1面51f1側から、圧電基板51a、中間基板51cおよび圧電基板51bをこの順に有している。これに対し、
図16A,
図16Bに示した変形例3に係るインクジェットヘッド4Dでは、アクチュエータプレート51が第1面51f1側から、圧電基板51a、圧電基板51bおよび中間基板51cをこの順に有している。このように、駆動壁56が、非駆動部の第1面51f1側のみに駆動部を有していてもよい。変形例3に係るインクジェットヘッド4Dは、上記の点を除き、他は上記実施の形態のインクジェットヘッド4と実質的に同じ構成を有する。
【0125】
ここでは、駆動壁56のうち、圧電基板51aおよび圧電基板51bにより構成された部分が、本開示の「第1駆動部」に対応する一具体例である。
【0126】
このアクチュエータプレート51では、例えば、吐出チャネル54およびダミーチャネル55が非貫通溝により構成されている。第1面51f1には、吐出チャネル54およびダミーチャネル55に連通された開口M1が設けられている。吐出チャネル54の一対の内面541は、第1面51f1側から順に、内面541a、内面541bおよび内面541cを有している。ダミーチャネル55の一対の内面551は、第1面51f1側から順に、内面541a、内面541bおよび内面541cを有している。
【0127】
吐出チャネル54に設けられた共通電極61は、例えば、第1面51f1側からの斜方蒸着により形成されたものであり、内面541を第1面51f1から第2面51f2に向けて連続的に覆うように設けられている。この共通電極61は、内面541a全面および内面541b全面を覆うとともに、内面541cの少なくとも一部を覆っている。共通電極61は、内面541全てを覆っていてもよい。
【0128】
ダミーチャネル55に設けられた個別電極63は、例えば、第1面51f1側からの斜方蒸着により形成されたものであり、内面551を第1面51f1から第2面51f2に向けて連続的に覆うように設けられている。この個別電極63は、内面551a全面および内面551b全面を覆うとともに、内面551cの少なくとも一部を覆っている。個別電極63は、内面551全てを覆っていてもよい。
【0129】
ここでは、共通電極61および個別電極63が、本開示の「第1電極膜」の一具体例に対応する。
【0130】
図17A,
図17Bはそれぞれ、
図16A,
図16Bに示したインクジェットヘッド4Dの断面構成の他の例を表している。このように、アクチュエータプレート51が、分極方向が厚み方向に沿って一方向に設定された1枚の圧電基板(圧電基板51a)と中間基板51cとにより構成されていてもよい。即ち、アクチュエータプレート51は、モノポールタイプ(あるいは、カンチレバータイプ)のアクチュエータプレートにより構成されていてもよい。ここでは、駆動壁56のうち、圧電基板51aにより構成された部分が、本開示の「第1駆動部」の一具体例に対応する。
【0131】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例をいくつか挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0132】
例えば、上記実施の形態等では、プリンタ、インクジェットヘッドおよびヘッドチップにおける各部材の構成例(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。
【0133】
上記実施の形態等では、吐出チャネルの延在方向における端部である吐出端からインクを吐出させる、いわゆるエッジシュートタイプのインクジェットヘッドを例示して説明したが、本開示の液体噴射ヘッドはこれに限定されない。具体的には、アクチュエータプレートの厚さ方向、すなわち、吐出チャネルの深さ方向にインクが通過する、いわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッドであってもよい。
【0134】
また、上記実施の形態等では、アクチュエータプレート51の第2面51f2に共通電極パッド62および個別電極パッド64を設ける場合について説明したが、共通電極パッド62および個別電極パッド64は、アクチュエータプレート51の第1面51f1に設けられていてもよい。
【0135】
また、上記実施の形態等では、主に、アクチュエータプレート51に中間基板51cを設けることにより、インクジェットヘッド4,4A,4B,4Dの吐出の均一性が向上することについて説明したが、インクジェットヘッド4,4A,4B,4Dは、更に、吐出の均一性を向上させるための構成を備えていてもよい。例えば、インクジェットヘッド4,4A,4B,4Dでは、更に吐出の均一性を向上させるために、駆動電圧および駆動波形の補正がなされていてもよい。
【0136】
さらに、上記実施の形態等では、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例として、プリンタ1(インクジェットプリンタ)を挙げて説明したが、この例には限られず、インクジェットプリンタ以外の他の装置にも、本開示を適用することが可能である。換言すると、本開示の「ヘッドチップ」(ヘッドチップ40A,40B)および「液体噴射ヘッド」(インクジェットヘッド4)を、インクジェットプリンタ以外の他の装置に適用するようにしてもよい。具体的には、例えば、ファクシミリやオンデマンド印刷機などの装置に、本開示の「ヘッドチップ」および「液体噴射ヘッド」を適用するようにしてもよい。
【0137】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0138】
また、本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、前記液体を噴射するヘッドチップであって、
前記アクチュエータプレートは、
第1面および前記第1面と反対を向く第2面と、
前記第1面に設けられた複数の第1開口各々に連通するとともに、前記第1面から前記第2面に向かう方向に深さ方向を有するチャネルと、
隣り合う前記チャネルの間に設けられ、かつ、前記第1面側から第1駆動部と、非駆動部とがこの順に積層された壁部分と、
前記深さ方向にわたって、複数の前記チャネル各々に露出された前記第1駆動部を覆うとともに、前記非駆動部の少なくとも一部を覆う第1電極膜を有する電極とを含む
ヘッドチップ。
(2)
前記第1駆動部は、
第1圧電基板と、
前記第1圧電基板と前記非駆動部との間に設けられるとともに、前記第1圧電基板と逆の分極方向を有する第2圧電基板とを有する
前記(1)に記載のヘッドチップ。
(3)
前記アクチュエータプレートは、更に、前記第2面に設けられるとともに、前記複数のチャネルが各々連通された第2開口を有し、
前記壁部分は、更に、前記非駆動部を間にして前記第1駆動部に対向する第2駆動部を有し、
前記電極は、更に、前記深さ方向にわたって、前記複数のチャネル各々に露出された前記第2駆動部を覆うとともに、前記非駆動部の少なくとも一部を覆う第2電極膜を含む
前記(1)に記載のヘッドチップ。
(4)
前記複数のチャネルの少なくとも一部では、前記電極が、前記第1電極膜および前記第2電極膜の重なる重なり部を有している
前記(3)に記載のヘッドチップ。
(5)
前記複数のチャネルは吐出チャネルを含み、
前記電極は、前記吐出チャネルを間にして対向する一対の前記壁部分のうち、前記吐出チャネルに露出された部分に設けられた一対の共通電極を含み、
前記一対の共通電極の少なくとも一方が、前記重なり部を有する
前記(4)に記載のヘッドチップ。
(6)
前記複数のチャネルは交互に配置された吐出チャネルおよび非吐出チャネルを含み、
前記電極は、前記吐出チャネルを間にして対向する一対の壁部分のうち、前記吐出チャネルを間にして隣り合う前記非吐出チャネル各々に露出された部分に設けられた一対の個別電極を含み、
前記一対の個別電極の少なくとも一方が、前記重なり部を有する
前記(4)または前記(5)に記載のヘッドチップ。
(7)
前記非駆動部は、前記第1駆動部の構成材料と同じ材料を含む
前記(1)ないし前記(6)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(8)
前記非駆動部の構成材料の誘電率は、前記第1駆動部の構成材料の誘電率よりも低くなっている
前記(1)ないし前記(6)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(9)
前記第1電極膜は、蒸着膜である
前記(1)ないし前記(8)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(10)
前記(1)ないし前記(9)のいずれか1つに記載のヘッドチップと、
前記ヘッドチップに前記液体を供給する供給機構と
を備えた液体噴射ヘッド。
(11)
前記(10)に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体を収容する収容部と
を備えた液体噴射記録装置。
【符号の説明】
【0139】
1…プリンタ、10…筺体、2a,2b…搬送機構、21…グリッドローラ、22…ピンチローラ、3(3Y,3M,3C,3K)…インクタンク、4(4Y,4M,4C,4K)…インクジェットヘッド、40(40A,40B)…ヘッドチップ、41…流路プレート、42…入口マニホールド、43…帰還プレート、44…ノズルプレート、50…供給チューブ、51…アクチュエータプレート、51a,51b…圧電基板、51c…中間基板、51f1…第1面、51f2…第2面、511…下端面、512…上端面、52…カバープレート、53…封止プレート、54…吐出チャネル、541,541a,541b,541c…内面、55…ダミーチャネル、551,551a,551b,551c…内面、6…走査機構、31,32…ガイドレール、33…キャリッジ、33a…基台、33b…壁部、34…駆動機構、35,36…プーリ、37…無端ベルト、38…駆動モータ、61…共通電極、61A…第1共通電極部分、61B…第2共通電極部分、62…共通電極パッド、63…個別電極、63A…第1個別電極部分、63B…第2個別電極部分、64…個別電極パッド、70…液体供給路、71…共通インク室、72…スリット、74…入口流路、75…出口流路、76…循環路、77…供給路、78…ノズル、8…インク循環機構、81…インク供給管、82…インク排出管、83…循環流路、84…加圧ポンプ、85…吸引ポンプ、M1,M2…開口、P…記録紙、R1…端部領域、R2…チャネル形成領域、d…搬送方向。