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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20221130BHJP
   C08F 289/00 20060101ALI20221130BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221130BHJP
   C08L 25/06 20060101ALI20221130BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20221130BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C08L51/00
C08F289/00
C08F2/44 A
C08F2/44 C
C08L25/06
C08L25/14
C08K3/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018246526
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105416
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 純
(72)【発明者】
【氏名】溝元 均
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527233(JP,A)
【文献】特開2010-209315(JP,A)
【文献】特開2015-045028(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012484(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/149631(WO,A1)
【文献】KATO, K. et al.,Synthesis, structure, and mechanical properties of silica nanocomposite polyrotaxane gels,BEILSTEIN JOURNAL OF ORGANIC CHEMISTRY,2015年,11,2194-2201,DOI:10.3762/bjoc.11.238
【文献】LAN, J. et al.,One-Pot Synthesis and Characterization of Polyrotaxane-Silica Hybrid Aerogel,ACS Macro Letters,2017年03月06日,6,281-286,DOI:10.1021/acsmacrolett.7b00014
【文献】SERRES-GOMEZ, M. et al.,Supramolecular Hybrid Structures and Gels from Host-Guest Interactions between α-Cyclodextrin and PEGylated Organosilica Nanoparticles,Langmuir,2018年08月10日,34, 36,10591-10602,DOI:10.1021/acs.langmuir.8b01744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/00
C08F 289/00
C08F 2/44
C08L 25/06
C08L 25/14
C08K 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリロタキサンを介して樹脂とシリカ粒子とが結合した変性ポリロタキサン粒子を含み、
前記変性ポリロタキサンが前記変性ポリロタキサンの有する環状分子に官能性単量体が反応することにより変性されたものであり、
前記樹脂が芳香族ビニルモノマーに由来するモノマーユニットを含む、
ことを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂がアルキル(メタ)アクリレートに由来するモノマーユニットを含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂は、ガラスに比べ軽量であることから、ガラスの代替として様々な用途に用いられている。特にスチレン系樹脂は成形加工性に優れており、自動車部品、家電、包装容器等の用途に用いられている。また、意匠性を要求される用途にも広く用いられている。これらの用途に用いられる樹脂においては、引張強度や耐衝撃性等の物性が必要とされる。
【0003】
樹脂組成物の強度を向上させる方法として、ガラスフィラー等の無機物を添加する方法がある(特許文献1)。しかし、この様な方法では、樹脂とフィラーとの界面の強度に問題があり、樹脂の種類によっては十分な強度を発現できない場合がある。
【0004】
非特許文献1ではポリロタキサンとシリカを結合させることでエアロゲルを形成している。しかしながら、このゲルを用いても、十分な強度を発現できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-544038号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Lan Jiang、他4名、「One-Pot Synthesis and Characterization of Polyrotaxane-Silica Hybrid Aerogel」、ACS Macro Lett.、2017年、第6号、281-286ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、伸び等の強度を向上させた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、変性ポリロタキサンを介して樹脂とシリカ粒子とが結合した変性ポリロタキサン粒子を用いることにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
(1)
変性ポリロタキサンを介して樹脂とシリカ粒子とが結合した変性ポリロタキサン粒子を含み、前記変性ポリロタキサンが前記変性ポリロタキサンの有する環状分子に官能性単量体が反応することにより変性されたものであり、前記樹脂が芳香族ビニルモノマーに由来するモノマーユニットを含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
(2)
前記樹脂がアルキル(メタ)アクリレートに由来するモノマーユニットを含む、(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)
(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記構成を有するため、伸び等の強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細説明する。本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「熱可塑性」とは、ガラス転移温度又は融点以上に加熱することで軟化する性質のことを指し、軟化することで容易に成形加工が可能になる。
「(メタ)アクリレート」とは、アリクレート及びメタクリレートからなる群選ばれる少なくとも1種を指す。
【0012】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
[熱可塑性樹脂組成物]
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、変性ポリロタキサンを介して樹脂とシリカ粒子とが結合した変性ポリロタキサン粒子を含む。
【0013】
(変性ポリロタキサン粒子)
-変性ポリロタキサン-
変性ポリロタキサンは、環状分子(環状構造)の開口部に直鎖状分子(直鎖状構造)が貫通し、直鎖状分子の両末端にブロック基(封鎖基)を有する変性ポリロタキサンの該環状分子に、官能性単量体が反応することにより変性されたものである。
変性ポリロタキサンとしては、環状構造が直鎖状構造上を自由に動くことができるものが好ましい。環状構造が直鎖状構造上を自由に動きやすい点から、環状構造の包接率が理論上の飽和値の50質量%以下であることが好ましい。
【0014】
環状構造としては、特に限定されないが、入手しやすさの観点から、シクロデキストリンが好ましい。シクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンが好ましく、α-シクロデキストリンが最も好ましい。シクロデキストリンは、化学修飾されていてもよい。変性ポリロタキサンに結合する樹脂との相分離等が生じにくい点で、シクロデキストリンの水酸基がイソプロピル基、カプロラクトン基等で修飾されていることが好ましい。
【0015】
変性ポリロタキサンを構成する環状構造は、シリカ粒子及び樹脂と一層強固に結合する観点から、ジカル重合可能な不飽和二重結合を有する基を有することが好ましく、(メタ)アクリレート基を有することがより好ましい。環状構造が(メタ)アクリレート基を有する場合、変性ポリロタキサンに結合する樹脂を構成するモノマーユニットと重合により一体化し、効果を発揮しやすくなる。上記環状構造は、ラジカル重合可能な上記不飽和二重結合を有する基を少なくとも2個以上有することが好ましい。
上記(メタ)アクリレート基は、シクロデキストリンの水酸基を修飾したイソプロピル基、カプロラクトン基を介して上記シクロデキストリンに結合してよい。
【0016】
変性ポリロタキサンを構成する直鎖状構造としては、特に限定されないが、耐衝撃性の発現のしやすさから、ガラス転移温度が低いものが好ましい。
ガラス転移点が低い直鎖状構造としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール、シリコーン樹脂、ポリブタジエン等が挙げられる。中でも、入手しやすさの観点から、ポリエチレングリコールが最も好ましい。
上記直鎖状構造の重量平均分子量は、5000~10万が好ましく、1万~4万がより好ましい。上記下限値以上であれば、耐衝撃性を発現しやすく、上記上限値以下であれば、変性ポリロタキサンに結合する樹脂との相分離を抑えやすい傾向がある。
なお、直鎖状構造の重量平均分子量はGel Permiation Chromatography(GPC法)により測定が可能である。
GPC機種:東ソー社製 HPLC-8320
カラム:Shodex社製 K-803L、K-806M
移動相:クロロホルム 1.0ml/min
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
単分散ポリスチレンの溶出曲線により各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレ
ン換算の分子量として算出した。
【0017】
変性ポリロタキサンを構成する封鎖基は、環状構造の直鎖状構造からの脱離を防止する基であり、例えばアダマンチル基等が挙げられる。
変性ポリロタキサンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
-樹脂-
変性ポリロタキサンに結合する樹脂を形成するモノマーユニットとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等の芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ポリエステルジオールジ(メタ)アクリレート;ポリカーボネートジオールジ(メタ)アクリレート;ポリウレタンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ化ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;等のモノマー成分に由来するユニットが挙げられる。中でも、変性ポリロタキサンとの化学結合の形成しやすさ(例えば、変性ポリロタキサンの環状構造のラジカル重合可能な不飽和二重結合との化学結合の形成のしやすさ)、及び伸び等の強度に一層優れる観点から、芳香族ビニルモノマー、モノアクリレートが好ましく、芳香族ビニルモノマー、アルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、芳香族ビニルモノマーがさらに好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
上記樹脂は、芳香族ビニルモノマーに由来するモノマーユニットを含むことが好ましく、伸び等の強度に一層優れる観点から、芳香族ビニルモノマーに由来するモノマーユニットの質量割合が、樹脂の質量100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは55~90質量部である。
【0020】
上記樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートに由来するモノマーユニットを含むことが好ましく、伸び、弾性率等の強度に一層優れる観点から、アルキル(メタ)アクリレートに由来するモノマーユニットの質量割合が、樹脂の質量100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10~45質量部である。
【0021】
上記樹脂は、上記モノマーユニットを含む樹脂であることが好ましい。上記樹脂は、伸び、弾性率等の強度に一層優れ、変性ポリロタキサン粒子を構成する樹脂中に、変性ポリロタキサン粒子を構成するシリカ粒子が分散する形態をとりやすくなる観点から、上記モノマーユニットを300~10000個含むことが好ましく、より好ましくは500~5000個である。
上記樹脂は、変性ポリロタキサンと結合していることが好ましく、変性ポリロタキサンの官能基(例えば、環状構造のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する基)と結合していることがより好ましい。
【0022】
変性ポリロタキサンに複数の樹脂が結合する場合、各樹脂は同じであってもよいし異なっていてもよい。また、各樹脂は重量平均分子量が異なっていてもよい。
【0023】
-シリカ粒子-
シリカ粒子は、表面に変性ポリロタキサン(例えば、環状構造のラジカル重合可能な不飽和二重結合)と化学結合を形成する官能基を有することが好ましい。
特に、(メタ)アクリレート基との反応が容易であることから、チオール基又は(メタ)アクリレート基であることが好ましい。シリカ粒子と変性ポリロタキサンとが化学結合を形成していることは、XPSやIRにより、シリカ粒子の表面解析をおこなうことで確認可能である。
上記シリカ粒子は、変性ポリロタキサンと結合していることが好ましく、変性ポリロタキサンの官能基(例えば、環状構造のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する基)と結合していることがより好ましい。
【0024】
変性ポリロタキサンに複数のシリカ粒子が結合する場合、各シリカ粒子は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0025】
-変性ポリロタキサン粒子の製造方法-
上記変性ポリロタキサン粒子の製造方法としては、例えば、上記シリカ粒子と上記変性ポリロタキサンとを反応させて変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子を形成し、上記モノマー成分と上記変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子とを反応させる方法等が挙げられる。
【0026】
上記変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子の製造において、シリカ粒子の添加量は、シリカ粒子と変性ポリロタキサンとの合計質量100質量部に対して、2~20質量部であることが好ましい。
上記変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子の製造において、溶媒等を加えてもよい。
上記変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子は、例えば、10~80℃(例えば、室温)で、1時間~50時間撹拌する方法、等で得ることができる。得られた変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子は、ろ過等により精製してもよいし、真空乾燥等により乾燥させてもよい。
【0027】
上記変性ポリロタキサン粒子の製造において、上記変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子、上記モノマー成分に加え、熱重合開始剤等の重合開始剤、溶媒等を加えてもよい。
上記重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類;ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等のジアルキルパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジミリスチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシエステル類;シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;p-メンタハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;2,2-ビス(4,4-ジターシャリーブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジターシャリーアミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジターシャリーブチルパーオキシシクロヘキシル)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジクミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等の多官能過酸化物類;等を挙げることができる。中でも、効率的に重合でき、分子量が均一な変性ポリロタキサン粒子が得られやすい観点から、アゾ系重合開始剤が好ましく、より好ましくは2,2’-アゾビスイソブチロニトリルである。
上記重合開始剤の添加量は、上記モノマー成分及び上記変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子の合計質量(100質量部)に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~5質量部である。重合開始剤の添加量が上記下限値以上であれば、重合が進行しやすく、上記上限値以下であれば、ゲル等の生成が起こらず重合により得られる共重合樹脂の強度がより優れる傾向がある。
上記変性ポリロタキサン粒子は、例えば、温度50~150℃で3時間~100時間重合する方法等で得ることができる。
【0028】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中の上記変性ポリロタキサン粒子の含有量としては、伸び等の物理的強度に一層優れる観点から、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.5~20質量部、更に好ましくは2~10質量部である。
【0029】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、上記変性ポリロタキサン粒子は、変性ポリロタキサン粒子を構成する樹脂中に、変性ポリロタキサン粒子を構成するシリカ粒子が分散する形態で存在する。
【0030】
(他の成分)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、さらに他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば滑剤、可塑剤、離型剤、抗菌剤、防カビ剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱安定剤、消泡剤、分散剤等が挙げられる。
【0031】
他の成分の含有量は、上記変性ポリロタキサン粒子の合計質量(100質量部)に対して、3質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。その他の成分の含有量が少ない方が、得られる成形体が良好な特性を発現しやすい。
【0032】
上記シリカ粒子は、熱可塑性樹脂組成物中に0.1~20質量部含んでおり、好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。上記下限値以上の場合は引張強度が向上し、上記上限値以下の場合は伸びの低下が発生しない。
【0033】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上述の変性ポリロタキサン粒子と、必要に応じてその他の成分を混合することにより得ることができる。
【0034】
[成形体]
本実施形態の成形体は、上述の実施形態の熱可塑性樹脂組成物を成形しなる成形体である。
上記成形体は、例えば、上記熱可塑性樹脂組成物を混練し、金型成形する方法等により得ることができる。
上記成形体は、例えば、車両内装用部品、家電製品の筐体、食品包装の容器等に用いることができる。
【0035】
(作用効果)
本実施形態の成形体は、変性ポリロタキサンを介して樹脂とシリカ粒子が化学結合した変性ポリロタキサン粒子からなる相が、マトリックス中に分散することにより、伸びを維持したまま引張強度の向上を示す。
【実施例
【0036】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0037】
後述の各例で用いた評価方法を以下に示す。
<評価方法>
(引張試験)
ISO37 type2 厚み2mmのダンベル試験片を用いて次の条件で引張試験を実施した。
機種:INSTRON社製 5564
引張速度:5mm/min
チャック間距離:25mm
試験片破断時のひずみと最大応力を読み取った。
【0038】
(XPS)
変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子を、以下の方法で分析した。
機種:アルバックファイ株式会社 Versa probeII
励起源:mono.AlKα 20kV×5mA 100W
分析サイズ:100μm×1.4mm
光電子取出角:45°
取込領域:Survey scan 0~1,100eV
Narrow scan、C 1s、S 2p、Si 2p、O 1s、N 1s
Pass Energy:Survey scan 117.4eV
Narrow scan:46.95eV
【0039】
<実施例1>
ガラスボトルにチオール変性シリカ粒子(関東化学製 R-cat-Sil MP)2.5gを秤量し窒素置換をおこなった。変性ポリロタキサンとしてセルム(登録商標)スーパーポリマーSA1313P(アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製、以下「SA1313P」)9gをトルエン56mlに溶解させ、シリンジを用いてガラスボトルに加えた。さらに、アミルアミン(東京化成(株)製、純度>98.0%)0.5mlをガラスボトルに加え、10時間攪拌後、吸引ろ過により固体を取得後、真空乾燥をおこない変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子を取得した。得られた変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子をXPSで解析し、シリカ粒子の表面近傍が変性ポリロタキサンで修飾されていることを確認した。
得られた変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子1gをガラスボトルに秤量し、スチレン180ml、エチルベンゼン20ml、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.5gを加え、80℃で8時間、110℃で4時間、130℃で4時間加熱することで、変性ポリロタキサンにシリカ粒子及びポリスチレンが結合した粒子中のシリカ粒子が、該ポリスチレンのマトリックス中に分散した熱可塑性樹脂組成物溶液を得た。
得られた溶液をエタノール中で再沈殿させた後に、真空乾燥して回収することで熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0040】
(成形体の作製)
上記熱可塑性樹脂組成物を、混錬機(Xplore MC15、レオ・ラボ株式会社製)にて220℃窒素雰囲気下で5分間スクリューを100rpmで回転させ混錬をおこなった。混錬後、溶融樹脂を30℃に保持したISO37 type2の金型に流し込み40秒間保持することで小型試験片を取得した。この試験片を用いて引張試験をおこなった。
【0041】
<実施例2>
モノマーとしてスチレン120ml、アクリル酸n-ブチル(東京化成(株))80mlを用い、混錬を160℃で実施した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物、小型試験片を取得し引張試験をおこなった。
【0042】
<比較例1>
シリカ粒子を用いず樹脂を重合し、混錬時に同量のチオール変性シリカ粒子を加えた以外は実施例1と同様に熱可塑性樹脂組成物、小型試験片を取得し引張試験をおこなった。
【0043】
実施例1、2及び比較例1で用いたモノマーユニットの種類、シリカ粒子の含有量、変性ポリロタキサン修飾シリカ粒子(比較例1は未修飾シリカ粒子)XPS測定結果、成形試験片の引張試験の測定結果を表1に示した。なお、モノマーユニットの含有量は、添加したモノマー成分全量100質量部に対する質量割合である。
【0044】
実施例1、2より、変性ポリロタキサンを介して樹脂及びシリカ粒子が結合している場合は引張り伸び、破断応力共に向上している。
【0045】
【表1】