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特許7185527ミトコンドリアおよび組み合わされたミトコンドリア剤の治療的使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ミトコンドリアおよび組み合わされたミトコンドリア剤の治療的使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/46 20060101AFI20221130BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 51/02 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 47/51 20170101ALI20221130BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221130BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221130BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20221130BHJP
   A61K 47/68 20170101ALN20221130BHJP
【FI】
A61K47/46
A61P9/10
A61P1/16
A61P13/00
A61P13/12
A61P1/18
A61P11/00
A61P27/02
A61P19/00
A61K49/00
A61K51/02 100
A61K51/02 200
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P3/10
A61P25/16
A61K47/51
A61K35/12
A61K31/7088
C12N5/10
C12N5/071
A61K47/68
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2018536875
(86)(22)【出願日】2017-01-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 US2017013564
(87)【国際公開番号】W WO2017124037
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2020-01-14
(31)【優先権主張番号】62/279,442
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/279,489
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/420,381
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】505415019
【氏名又は名称】ベス イスラエル デアコネス メディカル センター インコーポレイティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マッカリー ジェイムズ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】レビツキー シドニー
(72)【発明者】
【氏名】コワン ダグラス ビー.
(72)【発明者】
【氏名】エマニ シタラム エム.
(72)【発明者】
【氏名】デル ニド ペドロ ジェイ.
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0008310(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0178993(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0107285(US,A1)
【文献】国際公開第2015/192020(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0193511(US,A1)
【文献】Am J Physiol Heart Circ Physiol,2009年,Vol.296,pp.H94-H105
【文献】Cytotherapy,2013年,Vol.15,pp.1580-1596
【文献】Journal of Visualized Experiments,2014年,Vol.91:e51682,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00 -47/69
A61K 35/00 -35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離したミトコンドリアおよび作用物質を含む組み合わされたミトコンドリア剤の治療的有効量を含む、対象の標的部位の細胞への該作用物質送達用の薬学的組成物であって、
該作用物質が、ミトコンドリアに連結される、ミトコンドリアに付着する、ミトコンドリアに埋め込まれる、またはミトコンドリアによって封入され、かつ
組み合わされたミトコンドリア剤が、標的部位の細胞によって内在化され、それにより該作用物質標的部位の細胞に送達されることを特徴とする、前記薬学的組成物
【請求項2】
標的部位が、対象の心臓、腎臓、肝臓、膵臓、肺、消化管、眼、視神経、脳、または骨格筋である、請求項1記載の薬学的組成物
【請求項3】
組み合わされたミトコンドリア剤が、標的部位に血液を運ぶ血管に投与されることを特徴とする、請求項1または2記載の薬学的組成物
【請求項4】
作用物質が、共有結合によってミトコンドリアに連結され、請求項1~3のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項5】
作用物質が、ミトコンドリア膜に埋め込まれ、請求項1~3のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項6】
作用物質が治療物質である、請求項1~5のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項7】
作用物質が診断物質である、請求項1~5のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項8】
組み合わされたミトコンドリア剤が、抗体または抗原結合断片をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項9】
ミトコンドリアが対象にとって自己由来である、請求項1~8のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項10】
自己由来ミトコンドリアが外来性ミトコンドリアDNA(mtDNA)を有する、請求項9記載の薬学的組成物
【請求項11】
ミトコンドリアが対象にとって同種由来である、請求項1~8のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項12】
ミトコンドリアが対象にとって異種由来である、請求項1~8のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項13】
作用物質が18F-ローダミン6Gである、請求項1~5および7~12のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項14】
作用物質が酸化鉄ナノ粒子である、請求項1~5および7~12のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項15】
血管が、対象の冠動脈、対象の肺動脈、対象の前立腺動脈、対象の肝門静脈または対象の大膵動脈である、請求項3記載の薬学的組成物
【請求項16】
組み合わされたミトコンドリア剤が免疫応答を引き起こさない、請求項1~15のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項17】
治療物質が細胞傷害性物質である、請求項6記載の薬学的組成物
【請求項18】
細胞傷害性物質が毒素である、請求項17記載の薬学的組成物
【請求項19】
作用物質が低分子である、請求項1~12および15~18のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項20】
作用物質がタンパク質である、請求項1~12および15~18のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項21】
作用物質がDNAである、請求項1~12および15~18のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項22】
作用物質がRNAである、請求項1~12および15~18のいずれか1項記載の薬学的組成物
【請求項23】
単離したミトコンドリアが、インビボ送達のため、水、生理食塩水、緩衝液、呼吸緩衝液、または滅菌ミトコンドリア緩衝液に懸濁される、請求項1~22のいずれか1項記載の薬学的組成物。
【請求項24】
対象が、カーンズ・セイヤー症候群、MERRF症候群、MELAS症候群、レーベル病、バース(Barth)症候群、パーキンソン病、糖尿病、虚血関連疾患、急性冠症候群、心筋梗塞、またはストレス関連精神障害を有する、請求項1~23のいずれか1項記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2016年1月15日に出願された米国仮出願第62/279,442号、2016年1月15日に出願された米国仮出願第62/279,489号、および2016年11月10日に出願された米国仮出願第62/420,381号の恩典を主張するものである。前述の内容全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する声明
本開示は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)、米国国立心臓・肺・血液研究所(National Heart Lung and Blood Institutes)、米国公衆衛生局(Public Health Service)の助成金番号第HL103642の下、ならびに米国国立心臓・肺・血液研究所の助成金番号第HL29077および第HL068915の下で政府支援によって成された。米国政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
分野
本開示は、ミトコンドリアおよび組み合わされたミトコンドリア剤の治療的使用に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
ミトコンドリアは、有核真核細胞の細胞質に見いだされる二重膜結合型細胞小器官である。これらは、赤血球を除いた人体のほぼ全ての細胞に見いだされる。これらは、細胞のエネルギー代謝の原発部位であり、かつ、様々な細胞機能のためにアデノシン三リン酸(ATP)を生成する。典型的には、細胞のATP必要量の90%超が細胞自体のミトコンドリアによって供給される。
【0005】
ミトコンドリアは、特殊な機能を有する2つの同心円膜から構成される。内側のミトコンドリア膜は、ATP合成酵素のためのタンパク質を含有する。多数の内在性膜タンパクを含有する外側のミトコンドリア膜は、細胞小器官全体を包み込む。
【0006】
ミトコンドリアの構造は、いくつかの現代の原核生物と特筆すべき類似性を持つ。実際に、ミトコンドリアは、有核細胞が好気性原核生物を取り込んだ古代の共生から生じたと考えられている。共生関係において、宿主細胞は、取り込まれた原核生物にエネルギー産生を頼るようになり、原核細胞は、宿主細胞によって提供される防御環境を頼り始めた。
【0007】
細胞代謝におけるミトコンドリアの主要機能に起因して、ミトコンドリアの損傷及び機能不全は、様々なヒトの疾患を引き起こす可能性がある。ミトコンドリアDNA(mtDNA)中の突然変異によって引き起こされる疾患は、カーンズ・セイヤー(Kearns-Sayre)症候群、MELAS症候群およびレーベル遺伝性視神経症(Leber’s hereditary optic neuropathy)を含む。これらの疾患は、母から子へ伝達されることが多い。さらに、カーンズ・セイヤー症候群、ピアーソン(Pearson)症候群、および進行性外眼筋麻痺のような疾患は、大規模なmtDNA再編成に起因すると考えられている。
【0008】
さらに、ミトコンドリアの損傷及び機能不全はまた、後天性のミトコンドリア病によっても引き起こされる可能性がある。これらの後天性のミトコンドリア病は、傷害、毒性、化学療法、および加齢に伴う変化によって引き起こされ得る。特に、虚血/再灌流傷害は、ミトコンドリア損傷を引き起こす可能性があり、これは、酸素消費及びエネルギー合成に対して負の影響を及ぼすだろう。
【0009】
現在、ミトコンドリアを用いた公知で承認された処置法はない。そのような処置法に対するニーズがある。また、薬物送達ならびにいくつかの他の治療目的および診断目的にミトコンドリアを利用するニーズもある。
【発明の概要】
【0010】
概要
本開示は、ミトコンドリアを含む薬学的組成物、およびそのような薬学的組成物を使用する障害を処置する方法を提供する。本明細書は、そのような薬学的組成物を使用した診断法およびイメージング法をさらに提供する。記載の方法は、単離したミトコンドリアそれ自体、ならびに治療物質、診断物質および/またはイメージング物質に連結された単離したミトコンドリアを患者の血管に注射することによって、それらを患者の組織に送達することができるという発見に少なくとも一部基づくものである。すなわち、ミトコンドリアの標的組織への直接注射または適用は、本明細書に記載されるある特定の方法によって企図されるが、常に必要とは限らない。むしろ、いくつかの事例では、本明細書に記載される方法は、ミトコンドリアが、例えば動脈に、注射または注入された後、ミトコンドリアが動脈壁を横断して患者の組織の細胞に取り込まれることができるという発見を巧みに利用する。本明細書に記載される方法は、比較的簡単な医療手技を使用した、様々な処置、診断、および/またはイメージング目的のための、組織または細胞に対する、ミトコンドリアの、または治療物質、診断物質および/もしくはイメージング物質を伴うミトコンドリアの局所および全体分布を提供することができる。
【0011】
一局面において、本開示は、虚血関連疾患を有する対象を処置する方法に関する。該方法は、単離したミトコンドリアを含む組成物、または組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を、例えば、直接注射によって、血管注入によって、および/または対象の血管に組成物を注射することによって、対象に投与する工程を含む。虚血関連疾患は、虚血を伴う任意の疾患、例えば、急性冠症候群、心筋梗塞、肝虚血-再灌流傷害、または虚血傷害-コンパートメント症候群であることができる。
【0012】
組み合わされたミトコンドリア剤は、薬学的物質、診断物質、イメージング物質、もしくは治療物質、または任意の他の作用物質を含むことができる。イメージング物質は、磁気共鳴画像法(MRI)によって検出可能である、放射性物質、蛍光物質、または任意の作用物質、例えば、18F-ローダミン6Gまたは酸化鉄ナノ粒子であることができる。
【0013】
ある特定の態様において、血管は、標的部位、標的臓器、または標的領域に血液を運ぶ血管または血管系の一部、例えば、対象の冠動脈、対象の肝門静脈、対象の大膵動脈、または対象の前立腺動脈である。
【0014】
ある特定の態様において、ミトコンドリアは、異なる供給源を有することができ、例えば、ミトコンドリアは、自己由来(autogeneic)、同種由来(allogeneic)、または異種由来(xenogeneic)であることができる。ある特定の態様において、自己由来ミトコンドリアは、外来性mtDNAを有することができる。いくつかの態様において、ミトコンドリアは、対象の第一度近親者に由来する。
【0015】
いくつかの態様において、記載の方法は、投与の前に、単離したミトコンドリアを細胞から収集する工程を含む。単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、単離したミトコンドリアが細胞から収集された直後に、対象に投与することができる。
【0016】
別の局面において、本開示は、化学療法からの心臓毒性を最小限に抑える方法に関する。該方法は、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の薬学的組成物を、化学療法での対象の処置の前(例えば、直前)、その間、またはその後に対象に投与する工程を含む。該組成物を、種々の経路によって、例えば、直接注射によって、血管注入によって、または対象の血管に組成物を注射することによって、対象に投与することができる。組み合わされたミトコンドリア剤は、薬学的物質をさらに含むことができる。ある特定の態様において、血管は、対象の冠動脈である。
【0017】
さらに別の局面において、本開示は、作用物質を対象の標的部位に送達する方法に関する。該方法は、治療有効量の組み合わされたミトコンドリア剤を対象の血管に投与する工程を含む。標的部位は、対象の任意の部分、例えば、心臓、腎臓、膵臓、肺、視神経、脳、または骨格筋であることができる。これらの方法では、血管は、血液を標的部位に運ぶ対象の血管系の一部である。送達される作用物質は、薬学的物質、診断物質、イメージング物質、もしくは治療物質、抗体もしくは抗原結合断片、または任意の他の作用物質であることができる。作用物質とミトコンドリアとは、互いに物理的に接触し、例えば、作用物質は、ミトコンドリアに連結される(例えば、共有結合によって)、ミトコンドリアに埋め込まれる、ミトコンドリアに付着する、ミトコンドリア膜に埋め込まれる、ミトコンドリア内に実質的に被包化される、またはミトコンドリアによって完全に封入されることができる。
【0018】
なお別の局面において、本開示は、対象の組織をイメージングする方法に関する。該方法は、イメージング物質を含む有効量の組み合わされたミトコンドリア剤を対象に投与する工程;およびイメージング技術によって対象の組織をイメージングする工程を含む。イメージング物質は、MRIによって検出可能である、放射性物質、蛍光物質、または任意の作用物質、例えば、18F-ローダミン6Gまたは酸化鉄ナノ粒子であることができる。イメージング技術は、例えば、ポジトロン断層撮影(PET)、コンピュータ断層撮影(CT)、マイクロ-コンピュータ断層撮影(μCT)、PET/CT、PET/MRI、蛍光分子断層撮影(FMT)、またはFMT/CTであることができる。
【0019】
一局面において、本開示は、組み合わされたミトコンドリア剤を作製する方法に関する。該方法は、細胞からミトコンドリアを単離する工程、およびミトコンドリアと有効量の治療物質、診断物質またはイメージング物質とを、ミトコンドリアへの治療物質、診断物質、またはイメージング物質の連結を可能にするのに十分な条件下で混合する工程を含む。いくつかの態様において、ミトコンドリアは、イメージング物質と混合され、イメージング物質は、18F-ローダミン6Gまたは酸化鉄ナノ粒子であることができる。
【0020】
別の局面において、本開示は、組み合わされたミトコンドリア剤を含む薬学的物質を作製する方法に関する。該方法は、組み合わされたミトコンドリア剤を提供する工程、および組み合わされたミトコンドリア剤と薬学的に許容される担体、例えば水、生理食塩水、および呼吸緩衝液とを混合する工程を含む。
【0021】
さらに別の局面において、本開示は、ミトコンドリア機能不全障害、例えば、カーンズ・セイヤー症候群、MERRF症候群、MELAS症候群、レーベル病、バース(Barth)症候群、糖尿病、またはパーキンソン病を有する対象を処置する方法に関する。これらの方法では、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の薬学的組成物が、例えば、直接注射によって、血管注入によって、または対象の血管に組成物を注射することによって、対象に投与される。組み合わされたミトコンドリア剤は、薬学的物質をさらに含むことができる。
【0022】
本明細書に記載される方法のある特定の態様において、血管は、標的部位、標的臓器、または標的領域に血液を運ぶ血管または血管系の一部、例えば、対象の冠動脈、対象の肝門静脈、対象の大膵動脈、または対象の前立腺動脈である。
【0023】
本明細書に記載される方法のある特定の態様において、ミトコンドリアは、異なる供給源を有することができ、例えば、ミトコンドリアは、自己由来、同種由来、または異種由来であることができる。ある特定の態様において、自己由来ミトコンドリアは、外来性mtDNAを有することができる。いくつかの態様において、ミトコンドリアは、対象の第一度近親者に由来する。
【0024】
いくつかの態様において、記載の方法は、投与の前に、単離したミトコンドリアを細胞から収集する工程を含む。単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、単離したミトコンドリアが細胞から収集された直後に、対象に投与することができる。
【0025】
なお別の局面において、本開示は、化学療法からの心臓毒性を最小限に抑える方法であって、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の薬学的組成物を対象の血管に投与する工程を含む前記方法に関する。組み合わされたミトコンドリア剤は、薬学的物質をさらに含むことができる。ある特定の態様において、血管は、対象の冠動脈である。いくつかの事例では、対象を、化学療法処置の前、その間、および/またはその後に処置することができる。
【0026】
一局面において、本開示は、臓器の再灌流損傷を最小限に抑える方法に関する。該方法は、有効量の単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、臓器において生じる再灌流損傷の前(例えば、直前)、その間、および/またはその後に、臓器の血管に注射する工程を含む。いくつかの態様において、臓器は、インサイチューまたはエクスビボで処置される。単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、種々の経路によって、例えば、直接注射によって、血管注入によって、および/または臓器の血管に組成物を注射することによって、臓器に注射することができる。いくつかの事例では、臓器は、高いエネルギー産生を必要とする臓器、例えば、脳、心臓、腎臓、肝臓である。いくつかの他の事例では、臓器は、移植臓器、例えば、移植心臓、移植腎臓、および移植肝臓である。
【0027】
別の局面において、本開示は、対象におけるがんを処置する方法に関する。がんは、任意のタイプのがん、例えば、肺がん、脳がん、膵臓がん、黒色腫、前立腺がん、卵巣がん、結腸がんであることができる。いくつかの場合では、がんは、神経芽細胞腫(例えば、小児神経芽細胞腫)である。該方法は、治療有効量の組み合わされたミトコンドリア剤を、がんを有する対象の血管に投与する工程を含む。組み合わされたミトコンドリア剤は、細胞傷害性物質、細胞増殖抑制物質、成長阻害因子、またはCSF-1阻害因子などを含むことができる。
【0028】
さらに別の局面において、本開示は、細胞におけるミトコンドリアの欠陥を処置する方法であって、対象から有効数のミトコンドリアを得る工程、および細胞と有効数のミトコンドリアとを接触させる工程を含む前記方法に関する。細胞は、ミトコンドリアの欠陥を有する任意の細胞、例えば、体外受精の間に調製された卵細胞または胚細胞であることができる。対象は、男性、例えば、体外受精のための精子を提供する人であることができる。
【0029】
別の局面において、本開示は、細胞におけるミトコンドリア機能を改善する方法に関する。該方法は、細胞と単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤とを、ミトコンドリア機能を改善するのに十分な量で接触させる工程を含む。細胞は、熟練実践者に公知の任意のタイプの細胞、例えば、幹細胞であることができる。
【0030】
なお別の局面において、本開示は、対象の組織におけるミトコンドリア機能を改善する方法に関する。該方法は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、組織におけるミトコンドリア機能を改善するのに十分な量で組織に投与する工程を含む。組織は、任意のタイプの組織、例えば、皮膚組織、顔面筋、骨髄組織、または白色脂肪組織であることができる。いくつかの態様において、該組成物は、組織に組成物を注射することによって組織に投与される。
【0031】
本開示はまた、対象の臓器における血流を増加させるまたは血管抵抗を減少させる方法を提供する。該方法は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、血流を増加させるまたは血管抵抗を減少させるのに十分な量で対象に投与する工程を含む。臓器は、任意の臓器、例えば、心臓、肺、腎臓、脳、または骨格筋であることができる。いくつかの態様において、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリア単離プロセスが始まった時点から約30分、40分、50分、または60分以内に対象に投与される。加えて、該組成物を、心臓手術の前、その間、またはその後に冠動脈に注射することができる。いくつかの場合では、該組成物は、血液を臓器に運ぶ血管に組成物を注射することによって対象に投与される。
【0032】
一局面において、本開示は、対象の血管における閉塞を除去する方法を提供する。該方法は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を血管に注射する工程を含む。いくつかの場合では、対象は、末梢血管疾患を有する。該組成物は、ミトコンドリア単離プロセスが始まった時点から約30分、40分、50分、または60分以内に血管に注射される。
【0033】
別の局面において、本開示は、細胞または組織を対象に移植する方法を提供する。該方法は、細胞または組織と、単離したミトコンドリアおよび/または単離したミトコンドリア剤を含む有効量の組成物とを接触させる工程;および細胞または組織を対象に移植する工程を含む。細胞は、任意のタイプの細胞、例えば、幹細胞であることができ、組織は、任意のタイプの組織、例えば、骨髄組織であることができる。
【0034】
なお別の局面において、本開示は、細胞または組織におけるミトコンドリア機能を改善する方法に関する。該方法は、細胞または組織と、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む有効量の組成物とを接触させる工程を含む。いくつかの場合では、細胞は、移植細胞、または幹細胞である。いくつかの他の場合では、組織は、移植組織または骨髄組織である。
【0035】
本開示はまた、対象における創傷を処置する方法であって、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、創傷を処置するのに十分な量で創傷領域に投与する工程を含む前記方法を提供する。創傷は、任意の種類の創傷、例えば、開放創、または熱傷創であることができる。いくつかの場合では、該組成物は、創傷組織に組成物を注射することによって投与される。
【0036】
本開示はまた、代謝障害を有する対象を処置する方法に関する。該方法は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、代謝障害を処置するのに十分な量で対象の白色脂肪組織に投与する工程を含む。いくつかの態様において、代謝障害は、肥満またはII型糖尿病である。該組成物を、白色脂肪組織に組成物を注射することによって投与することができる。
【0037】
一局面において、本開示は、対象の白色脂肪組織におけるミトコンドリア機能を増加させる方法を提供する。該方法は、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、ミトコンドリア機能を増加させるのに十分な量で白色脂肪組織に投与する工程を含む。いくつかの態様において、該組成物は、白色脂肪組織に組成物を注射することによって投与される。
【0038】
なお別の局面において、本開示は、対象における脂肪沈着を減少させる方法を提供する。該方法は、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、対象における脂肪沈着を減少させるのに十分な量で脂肪沈着部に投与する工程を含む。いくつかの態様において、脂肪組織は、白色脂肪組織である。
【0039】
脂肪問題は、体内の種々の場所、例えば、対象の顎下または腹部に位置する可能性がある。
【0040】
本開示はまた、対象における皮膚のしわまたは瘢痕を処置する(例えば、その出現を低減する)方法を提供する。該方法は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、皮膚のしわまたは瘢痕を処置する(例えば、その出現を低減する)のに十分な量で対象における皮膚のしわまたは瘢痕領域に投与する工程を含む。いくつかの態様において、該組成物は、28、29、30、31、32、33、または34ゲージの皮下注射針によって投与される。
【0041】
本開示はまた、対象の皮膚におけるミトコンドリア機能を改善する方法に関する。該方法は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、対象の皮膚におけるミトコンドリア機能を改善するのに十分な量で対象に投与する工程を含む。いくつかの態様において、該組成物は、皮膚組織に組成物を注射することによって投与される。該組成物を、皮下注射針、例えば、28、29、30、31、32、33、または34ゲージの皮下注射針によって投与することができる。
【0042】
一局面において、本開示は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤;および担体を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、該組成物は、薬学的組成物である。担体は、任意の好適な担体、例えば、呼吸緩衝液、ミトコンドリア緩衝液、滅菌ミトコンドリア緩衝液、ウィスコンシン大学(UW: University of Wisconsin)液、血液、血清、または造影剤であることができる。
【0043】
なお別の局面において、本開示は、移植細胞または移植組織の統合を改善する方法を提供する。該方法は、移植細胞または移植組織と、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物とを、移植細胞または移植組織の統合を改善するのに十分な量で接触させる工程を含む。
【0044】
本明細書に記載される全ての方法および/または組成物において、組み合わされたミトコンドリア剤は、薬学的物質を含むことができる。薬学的物質は、治療物質、イメージング物質、診断物質、またはそれらの任意の組み合わせであることができる。イメージング物質は、放射性物質であることができる。いくつかの態様において、イメージング物質は、18F-ローダミン6G、または酸化鉄ナノ粒子である。いくつかの態様において、薬学的物質は、共有結合によってミトコンドリアに連結される。代替的に、または追加的に、薬学的物質は、ミトコンドリアに埋め込まれる。組み合わされたミトコンドリア剤は、抗体もしくは抗原結合断片を含むことができる。さらに、本明細書に記載される全ての方法および/または組成物において、ミトコンドリアは、自己由来、同種由来、または異種由来であることができる。いくつかの態様において、ミトコンドリアは、外来性DNA(例えば、mtDNA)を有する。
【0045】
本明細書において使用される場合、「単離したミトコンドリア」という用語は、外来の真核細胞物質を含有しない、機能的で無傷のミトコンドリアを意味する。
【0046】
「組み合わされたミトコンドリア剤」は、薬学的物質、診断物質、もしくはイメージング物質、または任意の他の作用物質と人工的に組み合わされた、単離したミトコンドリアである。該作用物質は、ミトコンドリアと作用物質が互いに物理的に接触する限り、ミトコンドリアと任意の様式で組み合わされ、例えば、ミトコンドリアに連結される(例えば、化学的にまたは静電的に連結される)、ミトコンドリアに付着する、ミトコンドリア膜に埋め込まれる、ミトコンドリア内に実質的に被包化される、またはミトコンドリアによって完全に封入される。組み合わされたミトコンドリア剤は、注射後に作用物質を患者の組織に輸送できる「担体」としてミトコンドリアが作用するように設計される。
【0047】
「対象」および「患者」という用語は、本明細書全体をとおして、本開示の方法に係る処置が提供される動物、ヒトまたは非ヒトを説明するために使用される。本開示によって獣医学的適用が明確に予想される。該用語は、鳥類、爬虫類、両生類、および哺乳類、例えば、ヒト、他の霊長類、ブタ、マウスおよびラットのような齧歯類、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ヒツジならびにヤギを含むが、これらに限定されない。好ましい対象は、ヒト、家畜、ならびにネコおよびイヌのような家庭内ペットである。
【0048】
「処置する(処置)」という用語は、本明細書において、本明細書に記載される病態(例えば、疾患)の発症を遅延させること、該病態の影響を阻害すること、軽減すること、または該病態に罹患している患者の寿命を延長させることを示すために使用される。
【0049】
「虚血関連疾患」は、虚血を伴う疾患である。虚血は、本明細書において使用される場合、臓器および/または組織への低減した血流である。低減した血流は、血液を臓器および/または組織に供給する1つまたは複数の血管の、部分的もしくは完全な閉塞(妨害)、狭窄(収縮)、および/または漏出/断裂をとりわけ含む、任意の好適な機序によって引き起こされ得る。
【0050】
「ミトコンドリアが細胞から収集された直後」とは、ミトコンドリアが細胞から収集された直後であり、かつ、ミトコンドリアの生存能力の何らかの大幅な低減が生じる可能性の前のことを意味する。
【0051】
本明細書において使用される場合、「移植」という用語は、本明細書全体をとおして、臓器、組織、細胞塊、個別細胞、または細胞小器官をレシピエントにインプラントするプロセスを説明する一般的な用語として使用される。「細胞移植」という用語は、本明細書全体をとおして、少なくとも1つの細胞、例えば、膵島細胞、または幹細胞をレシピエントに移入するプロセスを説明する一般的な用語として使用される。例えば、そのような移植は、ドナーの膵臓からβ細胞(または無傷の膵島)を取り出し、これを膵臓が十分なインスリンを産生できないレシピエント患者に入れることによって実施することができる。該用語は、輸血を除いた当技術分野において公知の全てのカテゴリーの移植を含む。移植は、部位およびドナーとレシピエントとの間の遺伝的関係によって分類される。該用語は、例えば、自己移植(患者上の1つの位置から同じ対象上の同じまたは別の位置への細胞または組織の取り出しおよび移入)、同種間移植(同じ種のメンバー間の移植)、および異種間移植(異なる種のメンバー間の移植)を含む。
【0052】
別段の定義がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によってその全体として組み入れられる。無盾が生じた場合は、定義を含めて本明細書が優先される。加えて、該材料、方法、および実施例は、単なる例示であって、限定することを意図したものではない。
【0053】
[本発明1001]
虚血関連疾患を有する対象を処置する方法であって、虚血関連疾患を有する対象に、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の組成物を投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1002]
前記組成物が、対象の血管に該組成物を注射することによって該対象に投与される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
組み合わされたミトコンドリア剤が治療物質を含む、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
組み合わされたミトコンドリア剤がイメージング物質を含む、本発明1001または1002の方法。
[本発明1005]
イメージング物質が放射性である、本発明1004の方法。
[本発明1006]
イメージング物質が 18 F-ローダミン6Gである、本発明1005の方法。
[本発明1007]
イメージング物質が酸化鉄ナノ粒子である、本発明1004の方法。
[本発明1008]
虚血関連疾患が急性冠症候群である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1009]
虚血関連疾患が心筋梗塞である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1010]
血管が対象の冠動脈である、本発明1009の方法。
[本発明1011]
虚血関連疾患が肝虚血-再灌流傷害である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1012]
血管が対象の肝門静脈である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
虚血関連疾患が虚血傷害-コンパートメント症候群である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1014]
ミトコンドリアが自己由来(autogeneic)である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1015]
ミトコンドリアが同種由来(allogeneic)である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1016]
ミトコンドリアが異種由来(xenogeneic)である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1017]
投与工程の前に、単離したミトコンドリアを細胞から収集する工程をさらに含み、該投与工程が、該単離したミトコンドリアが細胞から収集された直後に、該単離したミトコンドリアを対象に投与することを含む、本発明1001または1002の方法。
[本発明1018]
対象における化学療法からの心臓毒性を最小限に抑える方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の薬学的組成物を、化学療法での該対象の処置の前、その間、またはその後に該対象に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1019]
前記組成物が、対象の血管に該組成物を注射することによって該対象に投与される、本発明1018の方法。
[本発明1020]
組み合わされたミトコンドリア剤が薬学的物質を含む、本発明1018の方法。
[本発明1021]
血管が対象の冠動脈である、本発明1019の方法。
[本発明1022]
作用物質を対象の標的部位に送達する方法であって、治療有効量の組み合わされたミトコンドリア剤を該対象の血管に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1023]
標的部位が、対象の心臓、腎臓、膵臓、肺、視神経、脳、または骨格筋である、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記血管が、血液を標的部位に運ぶ対象の血管系の一部である、本発明1022の方法。
[本発明1025]
組み合わされたミトコンドリア剤が、共有結合によってミトコンドリアに連結された薬学的物質を含む、本発明1022の方法。
[本発明1026]
組み合わされたミトコンドリア剤が、ミトコンドリアに埋め込まれた薬学的物質を含む、本発明1022の方法。
[本発明1027]
組み合わされたミトコンドリア剤が治療物質を含む、本発明1022の方法。
[本発明1028]
組み合わされたミトコンドリア剤が診断物質を含む、本発明1022の方法。
[本発明1029]
組み合わされたミトコンドリア剤が、抗体または抗原結合断片を含む、本発明1022の方法。
[本発明1030]
対象の組織をイメージングする方法であって、以下を含む方法:
a)イメージング物質を含む有効量の組み合わされたミトコンドリア剤を該対象に投与する工程;および
b)イメージング技術によって該対象の該組織をイメージングする工程。
[本発明1031]
イメージング物質が 18 F標識ローダミン6Gである、本発明1030の方法。
[本発明1032]
イメージング物質が酸化鉄磁性ナノ粒子である、本発明1030の方法。
[本発明1033]
組み合わされたミトコンドリア剤を作製する方法であって、以下を含む方法:
1)細胞からミトコンドリアを単離する工程;
2)該ミトコンドリアと有効量の治療物質、診断物質またはイメージング物質とを、該ミトコンドリアへの該治療物質、該診断物質、または該イメージング物質の連結を可能にするのに十分な条件下で混合する工程。
[本発明1034]
ミトコンドリアがイメージング物質と混合され、該イメージング物質が 18 F-ローダミン6Gである、本発明1033の方法。
[本発明1035]
ミトコンドリアがイメージング物質と混合され、該イメージング物質が酸化鉄ナノ粒子である、本発明1033の方法。
[本発明1036]
組み合わされたミトコンドリア剤を含む薬学的物質を作製する方法であって、以下を含む方法:
組み合わされたミトコンドリア剤を提供する工程;および
該組み合わされたミトコンドリア剤と薬学的に許容される担体とを混合する工程。
[本発明1037]
薬学的に許容される担体が呼吸緩衝液である、本発明1036の方法。
[本発明1038]
対象におけるミトコンドリア機能不全障害を処置する方法であって、ミトコンドリア機能不全障害を有する対象に単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む治療有効量の薬学的組成物を投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1039]
前記組成物が、対象の血管に該組成物を注射することによって該対象に投与される、本発明1038の方法。
[本発明1040]
ミトコンドリア機能不全障害が、カーンズ・セイヤー症候群、MERRF症候群、MELAS症候群またはレーベル病である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1041]
ミトコンドリア機能不全障害がバース症候群である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1042]
ミトコンドリア機能不全障害が糖尿病である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1043]
血管が対象の大膵動脈である、本発明1042の方法。
[本発明1044]
ミトコンドリア機能不全障害がパーキンソン病である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1045]
前記薬学的組成物が、薬学的物質を含む組み合わされたミトコンドリア剤を含む、本発明1038または1039の方法。
[本発明1046]
ミトコンドリアが自己由来である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1047]
自己由来ミトコンドリアが外来性mtDNAを有する、本発明1046の方法。
[本発明1048]
ミトコンドリアが同種由来である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1049]
ミトコンドリアが対象の第一度近親者由来である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1050]
ミトコンドリアが異種由来である、本発明1038または1039の方法。
[本発明1051]
臓器における再灌流損傷を最小限に抑える方法であって、有効量の単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、該臓器において生じる再灌流損傷の前、その間、またはその後に、該臓器の血管に注射する工程を含む、前記方法。
[本発明1052]
臓器が、インサイチューまたはエクスビボで処置される、本発明1051の方法。
[本発明1053]
臓器が移植臓器である、本発明1051の方法。
[本発明1054]
臓器が脳である、本発明1051の方法。
[本発明1055]
臓器が心臓である、本発明1051の方法。
[本発明1056]
臓器が腎臓である、本発明1051の方法。
[本発明1057]
治療有効量の組み合わされたミトコンドリア剤を、がんを有する対象の血管に投与する工程を含む、対象におけるがんを処置する方法であって、該組み合わされたミトコンドリア剤が細胞傷害性物質を含む、前記方法。
[本発明1058]
がんが、前立腺がん、卵巣がん、または神経芽細胞腫である、本発明1057の方法。
[本発明1059]
前記血管が対象の前立腺動脈である、本発明1057の方法。
[本発明1060]
卵細胞または胚細胞におけるミトコンドリアの欠陥を処置する方法であって、以下を含む方法:
1)対象から有効数のミトコンドリアを得る工程;および
2)該細胞と該有効数のミトコンドリアとを接触させる工程。
[本発明1061]
卵細胞が体外受精のために調製される、本発明1060の方法。
[本発明1062]
胚細胞が体外受精の間に調製される、本発明1060の方法。
[本発明1063]
対象が、体外受精のための精子を提供する男性である、本発明1060の方法。
[本発明1064]
細胞におけるミトコンドリア機能を改善する方法であって、該細胞と単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤とを、該細胞におけるミトコンドリア機能を改善するのに十分な量で接触させる工程を含む、前記方法。
[本発明1065]
細胞が幹細胞である、本発明1064の方法。
[本発明1066]
対象の組織におけるミトコンドリア機能を改善する方法であって、該組織に、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、該組織におけるミトコンドリア機能を改善するのに十分な量で投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1067]
前記組織が、皮膚組織、顔面筋、骨髄組織、または白色脂肪組織である、本発明1066の方法。
[本発明1068]
前記組成物が、前記組織に該組成物を注射することによって該組織に投与される、本発明1066の方法。
[本発明1069]
対象の臓器における血流を増加させるまたは血管抵抗を減少させる方法であって、以下を含む方法:
単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、血流を増加させるまたは血管抵抗を減少させるのに十分な量で該対象に投与する工程。
[本発明1070]
臓器が、心臓、肺、腎臓、脳、または骨格筋である、本発明1069の方法。
[本発明1071]
単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤が、ミトコンドリア単離プロセスが始まった時点から30分、40分、50分、または60分以内に対象に投与される、本発明1069の方法。
[本発明1072]
前記組成物が、心臓手術の前、その間、またはその後に冠動脈に注射される、本発明1069の方法。
[本発明1073]
前記組成物が、血液を臓器に運ぶ血管に該組成物を注射することによって対象に投与される、本発明1069の方法。
[本発明1074]
対象の血管における閉塞を除去する方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を該血管に注射する工程を含む、前記方法。
[本発明1075]
対象が末梢血管疾患を有する、本発明1074の方法。
[本発明1076]
前記組成物が、ミトコンドリア単離プロセスが始まった時点から約30分、40分、50分、または60分以内に血管に注射される、本発明1074の方法。
[本発明1077]
細胞または組織を対象に移植する方法であって、以下を含む方法:
該細胞または該組織と、単離したミトコンドリアまたは単離したミトコンドリア剤を含む有効量の組成物とを接触させる工程;および
該細胞または該組織を該対象に移植する工程。
[本発明1078]
細胞が幹細胞である、本発明1077の方法。
[本発明1079]
組織が骨髄である、本発明1077の方法。
[本発明1080]
細胞または組織におけるミトコンドリア機能を改善する方法であって、該細胞または該組織と、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む有効量の組成物とを接触させ、それによって該細胞または該組織におけるミトコンドリア機能を改善する工程を含む、前記方法。
[本発明1081]
細胞が移植細胞である、本発明1080の方法。
[本発明1082]
細胞が幹細胞である、本発明1080の方法。
[本発明1083]
組織が移植組織である、本発明1080の方法。
[本発明1084]
組織が骨髄組織である、本発明1080の方法。
[本発明1085]
対象における創傷を処置する方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、該創傷を処置するのに十分な量で該対象の創傷領域に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1086]
創傷が、開放創、または熱傷創である、本発明1085の方法。
[本発明1087]
前記組成物が、創傷組織に該組成物を注射することによって投与される、本発明1085の方法。
[本発明1088]
代謝障害を有する対象を処置する方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、該代謝障害を処置するのに十分な量で該対象の白色脂肪組織に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1089]
代謝障害が、肥満またはII型糖尿病である、本発明1088の方法。
[本発明1090]
前記組成物が、白色脂肪組織に該組成物を注射することによって投与される、本発明1088の方法。
[本発明1091]
対象の白色脂肪組織におけるミトコンドリア機能を増加させる方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、ミトコンドリア機能を増加させるのに十分な量で該白色脂肪組織に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1092]
前記組成物が、白色脂肪組織に該組成物を注射することによって投与される、本発明1091の方法。
[本発明1093]
対象における脂肪沈着を減少させる方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、該対象における脂肪沈着を減少させるのに十分な量で該脂肪沈着部に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1094]
脂肪組織が白色脂肪組織である、本発明1093の方法。
[本発明1095]
脂肪問題が、対象の顎下または腹部に位置している、本発明1093の方法。
[本発明1096]
対象における皮膚のしわまたは瘢痕を処置する方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、皮膚のしわまたは瘢痕を処置するのに十分な量で該皮膚のしわまたは瘢痕領域に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1097]
前記組成物が、28、29、30、31、32、33、または34ゲージの皮下注射針によって投与される、本発明1096の方法。
[本発明1098]
対象の皮膚におけるミトコンドリア機能を改善する方法であって、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、該対象の該皮膚におけるミトコンドリア機能を改善するのに十分な量で該対象に投与する工程を含む、前記方法。
[本発明1099]
前記組成物が、皮膚組織に該組成物を注射することによって投与される、本発明1098の方法。
[本発明1100]
前記組成物が、28、29、30、31、32、33、または34ゲージの皮下注射針によって投与される、本発明1098の方法。
[本発明1101]
単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤;および
担体
を含む、組成物。
[本発明1102]
薬学的組成物である、本発明1101の組成物。
[本発明1103]
組み合わされたミトコンドリア剤が治療物質を含む、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1104]
組み合わされたミトコンドリア剤がイメージング物質を含む、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1105]
イメージング物質が放射性である、本発明1104の組成物。
[本発明1106]
イメージング物質が、 18 F-ローダミン6G、または酸化鉄ナノ粒子である、本発明1104の組成物。
[本発明1107]
組み合わされたミトコンドリア剤が診断物質を含む、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1108]
組み合わされたミトコンドリア剤が、共有結合によってミトコンドリアに連結された薬学的物質を含む、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1109]
組み合わされたミトコンドリア剤が、ミトコンドリアに埋め込まれた薬学的物質を含む、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1110]
組み合わされたミトコンドリア剤が、抗体または抗原結合断片を含む、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1111]
ミトコンドリアが、自己由来、同種由来、または異種由来である、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1112]
ミトコンドリアが外来性DNAを有する、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1113]
担体が、呼吸緩衝液、またはミトコンドリア緩衝液である、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1114]
担体がウィスコンシン大学(UW: University of Wisconsin)液である、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1115]
担体が血液または血清である、本発明1101または1102の組成物。
[本発明1116]
担体が造影剤である、本発明1101または1102の組成物。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】組織または培養細胞からミトコンドリアを単離するための1つの例示的なプロトコルの模式図である。
図2図2Aは、再灌流の開始時に1×108の二重標識ミトコンドリアが注射された、局所虚血のウサギ心臓の一連の画像である。上の列は、心臓のボリュームレンダリングを表示する。マイクロ-コンピュータ断層撮影(μCT)、ポジトロン断層撮影(PET)、および合成レンダリングが左から右に示される。中央の列は、心臓の単冠状動脈スライスを示す。磁気共鳴画像法(MRI)、PET、および合成画像が左から右に描写される。下の列の画像は、注射された心臓のシングル横断スライスである。MRI、PET、および合成画像が左から右に示される。図2Bは、再灌流の開始時に1×108の二重標識ミトコンドリアで灌流した、局所虚血のウサギ心臓の一連の画像である。上の列は、心臓のボリュームレンダリングを表示し、μCT、PET、および合成レンダリングが左から右に示される。中央の列は、心臓の単冠状動脈スライスを示し、そして、MRI、PET、および合成画像が左から右に描写される。下の列は、灌流した心臓の単横断スライスを示す。MRI、PET、および合成画像が左から右に示される。
図3図3Aは、ヒトミトコンドリアが注射された虚血心臓の組織染色を示す一連の画像である。注射された心臓断片を、デスミン(緑色)およびヒト特異的ミトコンドリアマーカーMTC02(赤色、ヒト特異的抗ミトコンドリアマウスモノクローナル抗体[MTC02](ab80649, Abcam, Cambridge, MA))について蛍光免疫染色した(上の列)。中央の列は、コムギ胚芽凝集素(赤色)および113-1ヒト特異的ミトコンドリアマーカー(緑色)(抗ミトコンドリア抗体[113-1](ab92824))での染色を示す。核は、DNA結合色素 4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(青色)を使用して特定される。MTC02および核染色が位相差照明法で示される(下の列)。心筋細胞膜と結合した移植されたミトコンドリアが矢印で表示される。図3Bは、ヒトミトコンドリアで灌流した虚血心臓の組織染色を示す一連の画像である。灌流した心臓を、α-アクチニン(赤色)およびMTC02(緑色、ヒト特異的抗ミトコンドリアマウスモノクローナル抗体[MTC02](ab80649, Abcam, Cambridge, MA))で免疫染色した(上の列)。移植されたミトコンドリアが矢印で表示される。いくつかの心臓をレクチンで灌流し、その後固定して、内腔の血管表面を明らかにした。右中央の列は、レクチン(緑色)および113-1(赤色)染色を示し;一方、下の列は、鉄(青色)のプルシアンブルー染色およびパラローザニリン対比染色(桃色)を示す。
図4】対照の局所虚血心臓(n=3)および1×108の自己に由来する肝ミトコンドリア(n=3)で灌流したものにおける、リスク領域(モナストリル(Monastryl)青色顔料を使用)および梗塞サイズ(トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)染色を使用)の定量を示す模式図である。
図5】3つの圧電超音波トランスデューサを使用した局所心筋収縮期短縮(segmental systolic shortening)によって評価された、虚血領域における局所心筋機能を示す模式図である。
図6図6Aは、ヒト心筋細胞中のミトコンドリアの内在化および融合を示す、超解像構造化照明顕微鏡法(SR-SIM)赤色チャネル画像である。図6Bは、ヒト心筋細胞中のミトコンドリアの内在化および融合を示す、SR-SIM緑色チャネル画像である。図6Cは、ヒト心筋細胞中のミトコンドリアの内在化および融合を示す、SR-SIM青色チャネル画像である。図6Dは、ヒト心筋細胞中のミトコンドリアの内在化および融合を示す、SR-SIM合成画像である。
図7図7Aは、対照群におけるミトコンドリアについてのフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。図7Bは、緑色蛍光タンパク質(GFP)標識ミトコンドリアについてのフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。図7Cは、赤色蛍光タンパク質(RFP)標識ミトコンドリアについてのフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。図7Dは、GFP標識ミトコンドリアで処置されたiCell(登録商標)心筋細胞から単離したミトコンドリアについてのフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
図8】ミトコンドリア内在化についてのエンドソーム経路の提案モデルを示す模式図である。
図9】注射されたミトコンドリアが冠血流を閉塞しないことを実証するための実験プロトコルを示す図式である。
図10図10Aは、ベースラインECG、ならびにブタモデルがアデノシン、バソプレシン、およびエピネフリンで処置された後のECGを示す、心電図(ECG)トレーシンググラフである。図10Bは、ブタモデルがビヒクルおよびミトコンドリアで処置された後のECGを示すECGトレーシンググラフである。図10Cは、ブタモデルが3um、10umおよび150umのポリスチレンビーズで処置された後のECGを示すECGトレーシンググラフである。
図11図11Aは、ベースラインQRS、ならびにブタモデルがアデノシン、バソプレシン、エピネフリン、ミトコンドリア、およびビヒクルで処置された後のQRSを示す棒グラフである。図11Bは、ベースライン補正QT(cQT)間隔、ならびにブタモデルがアデノシン、バソプレシン、エピネフリン、ミトコンドリア、およびビヒクルで処置された後のcQT間隔を示す棒グラフである。図11Cは、ベースラインQRS、ならびにブタモデルが3um、10umおよび150umのポリスチレンビーズおよびミトコンドリアで処置された後のQRSを示す棒グラフである。図11Dは、ベースラインcQT間隔、ならびにブタモデルが3um、10umおよび150umのポリスチレンビーズおよびミトコンドリアで処置された後のcQT間隔を示す棒グラフである。
図12図12Aは、ビヒクル、アデノシン、エピネフリン、バソプレシン、およびミトコンドリアの冠注入後の収縮期短縮の百分率を示す棒グラフである。図12Bは、3um、10umおよび150umのポリスチレンビーズおよびミトコンドリアの冠注入後の収縮期短縮の百分率を示す棒グラフである。
図13図13Aは、ビヒクル、アデノシン、バソプレシン、およびミトコンドリアの冠注入後の冠血流を示す棒グラフである。図13Bは、ミトコンドリア、失活ミトコンドリア、ならびに3um、10umおよび150umのポリスチレンビーズの冠注入後の冠血流を示す棒グラフである。
図14】アデノシン、バソプレシン、ミトコンドリア、および失活ミトコンドリアの冠注入後の異なる時点での冠血流を示すグラフである(ミトコンドリア1×109の細胞小器官/ml;アデノシン 60ug;バソプレシン 1U;失活ミトコンドリア1×109の細胞小器官/ml;ベースライン=20ml/min;値は、平均±SEである)。
図15図15Aは、異なる用量のミトコンドリアに応答した冠血流を示す棒グラフである。図15Bは、異なる用量のミトコンドリアに応答した異なる時点での冠血流を示すグラフである。
図16】大きな動物モデル(ブタ)におけるミトコンドリアの血管注入によって与えられる心臓保護を実証する方法を示す図式である。
図17図17Aは、ミトコンドリアの血管注入に伴う、左室拡張終期圧(LVEDP)および左室圧のdP/dtを示す一連のグラフである。図17Bは、ミトコンドリアの血管注入に伴う、収縮期短縮の百分率を示すグラフである。
図18図18Aは、ビヒクルの血管注入に伴うおよびミトコンドリアの血管注入に伴う、左室におけるリスク領域の百分率を示すグラフである。図18Bは、ビヒクルの血管注入に伴うおよびミトコンドリアの血管注入に伴う、リスク領域における梗塞サイズの百分率を示すグラフである。
図19図19Aは、自己由来ミトコンドリアの単回または複数回注射、ならびに脾細胞の単回および複数回注射を受けたマウスにおけるスポット数を示す棒グラフである。図19Bは、同種由来ミトコンドリアの単回または複数回注射、ならびに脾細胞の単回および複数回注射を受けたマウスにおけるスポット数を示す棒グラフである。
図20】自己由来および同種由来ミトコンドリアの単回および複数回注射、ならびに脾細胞の単回および複数回注射に応答した同種抗体の百分率を示すグラフである。
図21】ローダミン6Gの最適濃度、インキュベーション時間、およびミトコンドリアがローダミン6Gを取り込む温度を決定するプロトコルを示す図式である。
図22図22Aは、異なるインキュベーション条件下での未結合画分中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである(4℃)。図22Bは、異なるインキュベーション条件下での未結合画分中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである(26℃)。
図23図23Aは、異なるインキュベーション条件下での結合分画中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである(4℃)。図23Bは、異なるインキュベーション条件下での結合分画中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである(26℃)。
図24図24Aは、ミトコンドリアを2.5uMのローダミン6Gと異なるインキュベーション条件下でインキュベートした後の結合画分中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである。図24Bは、ミトコンドリアを2.5uMのローダミン6Gと異なるインキュベーション条件下でインキュベートした後の結合画分中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである。
図25図25Aは、ミトコンドリアを1.25uMのローダミン6Gと異なるインキュベーション条件下でインキュベートした後の結合画分中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである。図25Bは、ミトコンドリアを1.25uMのローダミン6Gと異なるインキュベーション条件下でインキュベートした後の結合画分中のローダミン6G濃度を示す棒グラフである。
図26】養子ミトコンドリアのヒト内皮コロニー形成細胞(ECFC)への移入を示す模式図である。
図27図27Aは、インビボ脈管形成アッセイを示す模式図である。図27Bは、移植の7日後に採取された外植片を示す一連の肉眼画像である。
図28図28Aは、赤血球充填血管がECFC-ミトコンドリア(ECFC-Mito)を含有したインプラントに豊富にあるがECFC対照を含有したインプラントでは豊富ではなかったことを示す、2つのヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色画像である。図28Bは、ECFC対照を含有したインプラントよりもECFC-Mitoを含有したインプラントにおいて血管密度がより高いことを明らかにした、微小血管密度の定量を示すグラフである。
図29図29Aは、新しく形成された灌流血管の内腔中のローダミンコンジュゲートUEA-1レクチンの結合を示す画像である。図29Bは、新しく形成された灌流血管の内腔のヒト特異的CD31(h-CD31)免疫染色画像である。
図30図30Aは、18F-ローダミン6G標識ミトコンドリアを主肺動脈に注射した後の左および右の両肺中のミトコンドリア分布を示すPET/CT画像である。図30Bは、18F-ローダミン6G標識ミトコンドリアを主肺動脈に注射した後の左および右の両肺中のミトコンドリア分布を示すPET/CT画像である。
図31図31Aは、ミトコンドリア処置を伴わない肺の虚血/再灌流傷害を示す写真である。図31Bは、ミトコンドリア処置を伴う肺の虚血/再灌流傷害を示す写真である。
図3218F-ローダミン6G標識ミトコンドリアをマウスの総頸動脈に注射した後の視神経に位置するミトコンドリアを示すPET/CT画像である。
図33】心臓セグメンテーションを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
詳細な説明
本発明は、単離したミトコンドリア、ならびに治療物質、診断物質および/またはイメージング物質に連結された単離したミトコンドリアを患者の血管に注射することによって、それらを患者の組織に送達することができるという発見に少なくとも一部基づくものである。熟練実践者は、比較的簡単な医療手技を使用して、様々な目的のために、ミトコンドリアを患者の組織および/または細胞に局所的および/または全体的に分布させることができる。さらに、ミトコンドリアを担体物質として使用して、例えば、治療物質、診断物質、および/またはイメージング物質を患者の組織に送達することができる。ナノ粒子を用いたいくつかの従来の治療レジメンと比較して、ミトコンドリアが、無毒であり、かつ、いかなる実質的に有害な免疫または自己免疫応答も引き起こさないことがさらに注目される。
【0056】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、注入されたミトコンドリアは、最初に内皮に接着することによって毛細血管壁を通って血管外漏出すると考えられる。これらが動脈に注射または注入された後、ミトコンドリアは、血管の内皮を横断することができ、かつ、エンドソームのアクチン依存性内在化プロセスを介して組織細胞に取り込まれることができる。
【0057】
組み合わされたミトコンドリア剤
組み合わされたミトコンドリア剤は、作用物質、例えば治療物質、診断物質、および/またはイメージング物質と物理的に結合しているミトコンドリアを含む。
【0058】
治療物質は、治療的または予防的用途を有する任意の作用物質であることができる。例示的な治療物質は、数ある中で、例えば、虚血関連障害のための治療物質、がんを処置するための細胞傷害性物質を含む。いくつかの事例では、ミトコンドリアは、治療物質を特定の細胞、例えば、腫瘍細胞に送達することができる。治療物質は、例えば、細胞内にひとたび入ると、もはや正常に機能および/または生存できないように、細胞を阻害し、破壊し、拘束し、修飾しかつ/または変更する、細胞内阻害因子、不活性化因子、毒素、拘束物質および/または細胞増殖抑制/細胞傷害性物質であり得る。治療物質は、細胞の適切な機能を回復させる作用物質、例えば、遺伝子治療用のDNAベクターであることができる。治療物質は、例えば、無機または有機化合物;低分子(500ダルトン未満)もしくは巨大分子;タンパク質性分子、例えばペプチド、ポリペプチド、タンパク質、翻訳後修飾されたタンパク質、もしくは抗体;または核酸分子、例えば二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、もしくは三重らせん核酸分子であることができる。いくつかの態様において、治療物質は、任意の公知の生物に由来する(例えば、動物、植物、細菌、真菌、原生生物、またはウイルスに由来する)天然物であるか、または合成分子のライブラリーに由来するものであることができる。いくつかの態様において、治療物質は、単量体化合物または高分子化合物であることができる。いくつかの例示的な治療物質は、細胞傷害性物質、DNAベクター、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、反応性ペプチド、ナノ粒子、マイクロスフェア、および蛍光分子を含む。
【0059】
診断物質は、診断的用途を有する作用物質である。ミトコンドリアは診断物質を細胞に運ぶので、いくつかの態様において、細胞内条件、例えば、細胞内のpHおよび酸化ストレスを測定するように診断物質を設計することができる。
【0060】
イメージング物質は、イメージング技術における使用に採用される作用物質である。該技術またはモダリティは、X線、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、シンチグラフィー、蛍光発光、超音波検査などを含むが、これらに限定されない。イメージング物質は、蛍光性および/または放射性であることができる。いくつかの態様において、イメージング物質はまた、診断物質であることができる。例示的なイメージング物質は、MitoTrackerフルオロフォア(Thermo Fisher Scientific Inc.)、CellLight(登録商標)RFP、BacMam 2.0(Thermo Fisher Scientific Inc.)、pH感受性pHrodo蛍光色素(Thermo Fisher Scientific Inc.)、18F-ローダミン6G、18F標識ローダミンB、磁気酸化鉄ナノ粒子、ならびに金系および白金系ナノ粒子を含むが、これらに限定されない。
【0061】
上に考察したとおり、組み合わされたミトコンドリア剤は、互いに直接的および/または間接的な物理的接触状態にあるミトコンドリアおよび作用物質を含む。例えば、作用物質は、ミトコンドリアに連結される、ミトコンドリアに付着する、ミトコンドリア膜に埋め込まれる、またはミトコンドリア中に完全にもしくは部分的に被包化されることができる。いくつかの事例では、薬学的物質を、共有結合でミトコンドリアに連結させることができる。いくつかの事例では、該作用物質は、共有結合(例えば、カルボキサミド結合およびジスルフィド結合)により直接的に、またはリンカー(例えば、ペプチドリンカー)もしくは別の共有結合された作用物質により間接的に、ミトコンドリア膜の構成成分に連結される。他の事例では、作用物質を、非共有結合で、例えば、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、および/または静電的相互作用などを介して、ミトコンドリアに連結させることができる。
【0062】
いくつかの態様において、組み合わされたミトコンドリア剤は、2つ以上の異なるタイプの作用物質、例えば、2つの異なる種類の治療物質、3つの異なる種類のイメージング物質、1つの治療物質および1つのイメージング物質、治療物質および診断物質などを含むことができる。熟練実践者は、任意の変形が可能であることを認識するだろう。
【0063】
ミトコンドリアと作用物質とを連結する1つの特に有用なリンカーは、注射後の該作用物質の持続放出を提供する。これを、例えば、ヒドラゾン官能基を使用して成し遂げることができる。例えば、作用物質をミトコンドリア膜上の構成成分に共有結合させるようにヒドラゾンが形成される。ひとたびこの組み合わされたミトコンドリア剤が細胞に取り込まれると、pHの変化がヒドラゾンの加水分解をもたらして、結合された作用物質が細胞内に放出される。
【0064】
いくつかの態様において、治療物質、診断物質、および/またはイメージング物質を、機能化された界面化学を使用して、外側のミトコンドリア膜に連結させることができる。いくつかの場合では、ヘテロ二機能性化学が、治療物質、診断物質、および/またはイメージング物質をミトコンドリア表面に連結させることができ、ひとたびこれらが内在化されると、細胞間エステラーゼとの相互作用を介して(例えば、アセトキシメチルエステルとの相互作用を介して)またはUV光活性化もしくは近赤外光活性化の戦略によって、これらの作用物質を放出することができる。UV光活性化および近赤外光活性化の戦略は、例えば、Zhou, Fang, Hanjie Wang, and Jin Chang, "Progress in the Field of Constructing Near-Infrared Light-Responsive Drug Delivery Platforms," Journal of Nanoscience and Nanotechnology 16.3(2016): 2111-2125; Bansal, Akshaya, and Yong Zhang, "Photocontrolled nanoparticle delivery systems for biomedical applications," Accounts of chemical research 47.10(2014): 3052-3060; Barhoumi, Aoune, Qian Liu, and Daniel S. Kohane, "Ultraviolet light-mediated drug delivery: Principles, applications, and challenges," Journal of Controlled Release 219(2015): 31-42に記載されている。それらの各々は、参照によってその全体として組み入れられる。
【0065】
薬学的組成物および他の組成物
本開示は、単離したミトコンドリアを含む組成物、組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物、単離したミトコンドリアと組み合わされたミトコンドリア剤との両方を含む組成物、およびそのような組成物を使用する方法を提供する。
【0066】
本明細書に記載される薬学的組成物は、ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤と薬学的に許容される担体とを含み得る。本明細書において使用される場合、言語「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与と適合性である、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。いくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水、クレブス緩衝液、タイロード溶液、造影剤、もしくはオムニパーク、またはそれらの混合物である。いくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、滅菌ミトコンドリア緩衝液(300mMスクロース;10mM K+-HEPES(カリウム緩衝(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、pH 7.2);1mM K+-EGTA、(カリウム緩衝エチレングリコール四酢酸、pH 8.0))である。いくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、呼吸緩衝液(250mMスクロース、2mM KH2PO4、10mMMgCl2、20mM K-HEPES緩衝液(pH 7.2)、および0.5mM K-EGTA(pH 8.0))である。
【0067】
薬学的組成物は、典型的には、その意図する投与経路と適合可能となるように製剤化される。投与経路の例は、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、舌下、経皮(例えば、局所)、経粘膜、および直腸の投与を含む。
【0068】
薬学的組成物を、種々の臨床的使用、例えば、イメージング、創傷の処置、傷害の処置、臓器の保存、臓器または組織におけるミトコンドリア機能の改善、および皮膚の治癒のために製剤化することができる。いくつかの場合では、薬学的に許容される担体は、イメージング目的のための造影剤である。いくつかの態様において、薬学的組成物は、防腐剤、抗菌剤(例えば、抗生物質)、抗真菌剤、消毒剤、鎮痛剤、麻酔剤、ステロイド剤、栄養補給剤、エーテル油などを含み得る。麻酔剤は、手術または処置の間の痛みを抑制することができる薬物である。例示的な鎮痛剤は、非限定的に、パラセタモール、非ステロイド系抗炎症薬、サリチラート、イブプロフェンおよびリドカインを含む。例示的な抗菌剤は、非限定的に、ジクロロベンジルアルコール、アミルメタクレゾールおよび抗生物質を含む。例示的な抗生物質は、ペニシリン類、カルバペネム類、セファロスポリン類、アミノグリコシド類、バシトラシン、グラミシジン、ムピロシン、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、リンコマイシン、クリンダマイシン、マクロライド類、ノボビオシン、ポリミキシン類、リファマイシン類、スペクチノマイシン、テトラサイクリン類、バンコマイシン、テイコプラニン、ストレプトグラミン類、抗葉酸剤、スルホンアミド類、トリメトプリム、ピリメタミン、ニトロフラン類、マンデル酸メテナミン、馬尿酸メテナミン、ニトロイミダゾール類、キノロン類、フルオロキノロン類、イソニアジド、エタンブトール、ピラジナミド、パラ-アミノサリチル酸、サイクロセリン、カプレオマイシン、エチオナミド、プロチオナミド、チアセタゾンおよびバイオマイシンを含む。防腐剤は、感染、敗血症、または腐敗の可能性を低減するために生組織/皮膚に適用することができる抗菌物質である。例示的な防腐薬は、非限定的に、クロルヘキシジンおよびその塩、ベンザルコニウムおよびその塩、トリクロサンならびに塩化セチルピリジニウム(cetylpyridium chloride)を含む。例示的な抗真菌剤は、非限定的に、トルナフタート、ミコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、テルビナフィン、アムホテリシン、ナイスタチンおよびナタマイシンを含む。例示的なステロイド剤は、非限定的に、酢酸プレドニゾン、吉草酸プレドニゾロン、プレドニゾロン、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、デソニド、ピボラート(pivolate)、ピボル酸クロコルトロン(clocortolone pivolate)、トリアムシノロンアセトニド、プレドニカルバート、プロピオン酸フルチカゾン、フルランドレノリド、フランカルボン酸モメタゾン、デスオキシメタゾン、ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、プロピオン酸ベタメタゾン、安息香酸ベタメタゾン、二酢酸ジフロラゾン、フルオシノニド、ハルシノニド、アムシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、およびプロピオン酸クロベタゾールを含む。例示的な栄養補給剤は、非限定的に、ビタミン類、ミネラル類、ハーブ生成物およびアミノ酸を含む。ビタミン類は、非限定的に、ビタミンA、ビタミンBファミリー中のビタミン、ビタミンC、ビタミンDファミリー中のビタミン、ビタミンEおよびビタミンKを含む。エーテル油は、非限定的に、ミント、セージ、モミ、ラベンダー、バジル、レモン、ジュニパー、ローズマリー、ユーカリ、マリーゴールド、カモミール、オレンジなどに由来するものを含む。これらの作用物質の多くは、例えば、国際公開公報第2008152626号に記載されており、それは参照によってその全体として組み入れられる。
【0069】
ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を、任意の形態、例えば、液体、半固体、または固体で製剤化することができる。例示的な組成物は、とりわけ、液剤、クリーム剤、軟膏、塗薬、油剤、乳剤、リポソーム製剤を含む。
【0070】
移植のための組成物
単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、臓器、組織、または細胞移植における使用のために設計された組成物中に含めることができる。該組成物は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤と、例えば、臓器、組織または細胞をエクスビボで維持するための、患者および/または臓器へのインサイチューまたはエクスビボ投与に好適な液体とを含み得る。一般に、該液体は、水溶液であろう。溶液の例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Celsior(商標)溶液、Perfadex(商標)溶液、コリンズ溶液、クエン酸溶液、組織培養培地(例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM))、ヒスチジン-トリプトファン-ケトグルタル酸(HTK)溶液、およびウィスコンシン大学(UW)液(Oxford Textbook of Surgery, Morris and Malt, Eds., Oxford University Press, 1994)を含む。
【0071】
ウィスコンシン大学冷保存液は、臓器移植のための標準溶液と見なされる。それは、以下を含む:100mMラクトビオン酸カリウム、25mM KH2PO4、5mM MgSO4、30mMラフィノース、5mMアデノシン、3mMグルタチオン、1mMアロプリノール、および50g/Lヒドロキシエチルデンプン。単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、臓器、組織および細胞保存のためにこれらの液体に加えることができる。
【0072】
血液製剤
ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、血液および/または血液に由来する製剤を含む組成物中に含めることができる。いくつかの態様において、該組成物は、ミトコンドリアおよび/またはミトコンドリア剤と、血液、例えば、全血、血清、1つまたは複数の個々の血液成分、および/または人工血液代替物とを含むことができる。いくつかの場合では、これらの血液製剤を対象に投与することができ、そして、血液製剤中のミトコンドリアは、対象におけるミトコンドリア機能を改善することができる。例えば、そのような血液製剤を輸血手順の一部として患者に投与することができる。当技術分野において公知であるとおり、血液または血液製剤を、任意の数の容器、例えば、血液バッグ、アンプル、および/またはバイアル中に保存することができる。
【0073】
皮膚用組成物および化粧用組成物
単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、皮膚におよび/または皮膚中の創傷(例えば、熱傷、小さな切り傷、より大きな裂傷、壊死領域、細菌、真菌、もしくはウイルスによる感染によって損傷された領域、または炎症によって引き起こされる損傷を有する領域、例えば、発疹)、しわ、または瘢痕(例えば、局所的におよび/または注射によって)に適用することができる組成物中に含めることができる。該組成物はまた、皮膚用または化粧用製品に使用することができる任意の公知の作用物質、例えば、研磨剤、防腐剤、抗菌剤(例えば、抗生物質)、抗真菌剤、消毒剤、鎮痛剤、麻酔剤、ステロイド剤、栄養補給剤、および/またはエーテル油を含むことができる。
【0074】
熟練実践者は、局所用組成物、例えば、液剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏、または油剤のような組成物について、該組成物に研磨剤を加えて、適用後の皮膚細胞の下層へのミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤の送達を助けることができる(例えば、該組成物が皮膚に擦り込まれるおよび/またはその上に塗られるように)ことを認識するだろう。研磨剤は、摩擦によって組織の一部(例えば、損傷されたまたは死滅した皮膚細胞)をすり減らすために使用される材料である。研磨剤と単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤とを含む組成物を、種々の目的、例えば、化粧用使用、創傷を処置するなどに使用することができる。いくつかの研磨剤は、例えば、米国特許第5830445号、米国特許第2561043号、米国特許第4279890号に記載されており、その各々は、参照によってその全体として組み入れられる。熟練実践者はまた、皮膚の下層および/または皮膚の毛穴への化合物の輸送を助ける任意の当技術分野において公知の作用物質または組成物が、そのような態様において有用であり得ること、ならびに、前記作用物質または組成物を、ミトコンドリアおよび/またはミトコンドリア剤を含む組成物中に含めてもよいし、該組成物と別々ではあるが併用して患者に適用してもよいことを認識するだろう。
【0075】
ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を作製する方法
ミトコンドリアの単離
本記載の方法において使用するためのミトコンドリアを、任意の供給源から単離または提供する、例えば、培養細胞または組織から単離することができる。例示的な細胞は、とりわけ、筋肉組織細胞、心臓線維芽細胞、培養細胞、ヒーラ細胞、前立腺がん細胞、酵母、およびそれらの任意の混合物を含むが、これらに限定されない。例示的な組織は、肝組織、骨格筋、心臓、脳、および脂肪組織を含むが、これらに限定されない。ミトコンドリアを、自原性(autogenous)源、同種由来源、および/または異種由来源の細胞から単離することができる。いくつかの事例では、ミトコンドリアは、遺伝子改変を受けた細胞、例えば、mtDNAが改変されたまたは核DNAが改変された細胞から単離される。
【0076】
ミトコンドリアを、当業者に公知の任意の手段によって細胞または組織から単離することができる。一例では、組織試料または細胞試料が収集され、次いでホモジナイズされる。ホモジナイズに続いて、繰り返しの遠心分離によってミトコンドリアが単離される。あるいは、細胞ホモジネートを、ナイロンメッシュフィルターに通して濾過することができる。ミトコンドリアを単離する典型的な方法は、例えば、以下に記載されている:McCully JD, Cowan DB, Pacak CA, Toumpoulis IK, Dayalan H and Levitsky S, Injection of isolated mitochondria during early reperfusion for cardioprotection, Am J Physiol 296, H94-H105. PMC2637784 (2009); Frezza, C., Cipolat, S., & Scorrano, L, Organelle isolation: functional mitochondria from mouse liver, muscle and cultured filroblasts. Nature protocols, 2(2), 287-295 (2007); および標題“Products and Methods to Isolate Mitochondria”のPCT出願(PCT/US2015/035584; 国際公開公報第2015192020号);その各々は、参照によって組み入れられる。
【0077】
組み合わされたミトコンドリア剤を作製する方法
熟練実践者は、作用物質を、幾つもの数の手法で、例えば、ミトコンドリアに付着する、ミトコンドリア膜に完全にもしくは部分的に埋め込む、ミトコンドリアに被包化する、またはミトコンドリア内に封入することによって、ミトコンドリアに連結させることができることを認識するだろう。
【0078】
いかなる理論またはいかなる特定のアプローチにも束縛されるものではないが、ミトコンドリアの外側膜は接着性であり、したがって、種々の作用物質との組み合わせに特に適すると考えられる。いくつかの態様において、薬学的物質は、インキュベーションによって簡単にミトコンドリアの外側膜に付着することができる。例えば、有効量の薬学的物質を、単離したミトコンドリアと、緩衝液、例えば、呼吸緩衝液中、単離したミトコンドリアに有利な温度、例えば、0℃~26℃、0℃~4℃、または約0℃、4℃、26℃で十分に混合することができる。この手順は、有効量の薬学的物質(例えば、ナノ粒子、DNAベクター、RNAベクター)をミトコンドリアに付着させるのに有用である。
【0079】
いくつかの態様において、有機陽イオン(例えば、ローダミンおよびテトラメチルローザミン)が、ミトコンドリア膜上の電位を理由として、機能的ミトコンドリアによって容易に取り込まれる(sequestered)。健常なミトコンドリア膜は、膜電位と称される、細胞小器官の内部と外部との間の電位差を維持する。この膜電位は、ミトコンドリアの機能的プロセスの直接的な結果であり、かつミトコンドリアが適正に作用しない場合には喪失する可能性がある。内膜脂質およびマトリックス水性空間の両方における正電荷および溶解性の結果として、脂溶性の陽イオンがミトコンドリアによって取り込まれる。同様に、いくつかの他の態様において、陰イオンがその負電荷のためにミトコンドリアの外側膜に付着することができる。ミトコンドリアがこれらの薬学的物質と連結するために、有効量の薬学的物質が単離したミトコンドリアと、緩衝液、例えば、呼吸緩衝液中、単離したミトコンドリアに有利な温度、例えば、約0℃または4℃で十分に混合されるべきである。
【0080】
治療物質、診断物質、および/またはイメージング物質を、ミトコンドリア膜上のリン脂質、ペプチド、またはタンパク質に化学結合により連結させることができる。例えば、フルオロフォア(pHrodo Red(Thermo Fisher Scientific, Inc.))および金属粒子(例えば、30nmの磁気酸化鉄ナノ粒子(Sigma))を含む分子を、スクシンイミジルエステルコンジュゲートを使用して、無傷のミトコンドリアの外側の膜上に露出したタンパク質およびペプチド上の露出したアミン基に共有結合で連結させることができる。これらの反応性の試薬は、タンパク質のアミン末端およびリシン残基のε-アミノ基を含むプロトン化していない脂肪族アミン基と反応して、これが安定なカルボキサミド結合を創出する。別の例では、薬学的物質、例えば、MitoTracker(登録商標)Orange CMTMRos(Invitrogen, Carlsbad, CA, 現在Thermo-Fisher Scientific, Cambridge, MA)が機能的ミトコンドリアと混合されると、これらは、酸化され、次いで、ミトコンドリア上のタンパク質およびペプチド上のチオールと反応して、コンジュゲートが形成される。
【0081】
治療物質、診断物質、および/またはイメージング物質をミトコンドリアの表面に付着させるのに利用可能な多数の反応性の化学部分がある(例えば、官能化されたカルボン酸、アミンなど)。
【0082】
作用物質は、タンパク質結合、アミン結合または他の付着法を介して、外側または内側のいずれかのミトコンドリア膜に付着することができる。代替的に、または追加的に、作用物質は、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、および/または静電的相互作用を介してミトコンドリア膜に付着することができる。
【0083】
多くの事例では、治療物質、診断物質およびイメージング物質を、単離したミトコンドリアと簡単に混合し、そして、緩衝液(例えば、呼吸緩衝液)中で、十分な時間(例えば、数分間、5分間、10分間、または1時間)、有利な条件(例えば、0℃~26℃、0℃~4℃、または約0℃、4℃、26℃、pH 7.2~8.0)でインキュベートしてよい。
【0084】
組み合わされたミトコンドリア剤の例示的な調製法は、McCully et al, Injection of isolated mitochondria during early reperfusion for cardioprotection, Am J Physiol 296, H94-H105. PMC2637784 (2009); および Masuzawa et al, Transplantation of autologously derived mitochondria protects the heart from ischemia-reperfusion injury, Am J Physiol 304, H966-982. PMC3625892(2013)に記載されている。前述の各々は、参照によってその全体として組み入れられる。
【0085】
ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を調製する方法
単離したミトコンドリアおよび組み合わされたミトコンドリア剤を薬学的に許容される担体と混合して、薬学的組成物を作製することができる。薬学的に許容される担体は、ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤の保存、安定性、投与、細胞ターゲティングおよび/または送達を促進するのに有用な任意の化合物または組成物(好適なビヒクル、希釈剤、溶媒、賦形剤、pH調節剤、塩類、着色剤、レオロジー調節剤、潤滑剤、コーティング剤、充填剤、消泡剤、ポリマー、ヒドロゲル、界面活性剤、乳化剤、補助剤、保存料、リン脂質、脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-グリセリドならびにそれらの誘導体、ロウ、油、ならびに水を非限定的に含む)を含む。いくつかの態様において、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤は、インビボ送達のため、水、生理食塩水、緩衝液、呼吸緩衝液、または滅菌ミトコンドリア緩衝液に懸濁される。生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または呼吸緩衝液を非限定的に含む、薬学的に許容される塩、緩衝液または緩衝液系を、本明細書に記載される組成物中に含めることができる。細胞へのインビボ送達を促進する能力を有するビヒクル、例えばリポソームを、組み合わされたミトコンドリア剤の標的細胞への送達を促進するために利用してよい。
【0086】
組成物、例えば、液体、半固体、および固体組成物(例えば、とりわけ、液剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏、油剤)を作製する方法は、当技術分野において周知である。熟練実践者は、ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を加えて本明細書に記載される組成物を形成するために、1つまたは複数の工程を加えるようそのような公知の方法を改変できることを認識するだろう。熟練実践者は、いくつかの事例では、本明細書に記載される組成物が1つより多い種類の組み合わされたミトコンドリア剤を含んでもよいことを認識するだろう。例えば、本質的に各ミトコンドリアが複数の種類の作用物質と結合されたミトコンドリアを含む組成物が含まれる。また、ミトコンドリアを含む組成物であって、各ミトコンドリアがたった1種類の作用物質とだけ対になるが、組成物がミトコンドリア/作用物質の対の混合物を含む、前記組成物も含まれる。
【0087】
使用法
投与
単離したミトコンドリアおよび組み合わされたミトコンドリア剤を、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、筋肉内に注射することによって、および/または骨髄内注入を介して、患者に投与することができる。いくつかの態様において、単離したミトコンドリアおよび組み合わされたミトコンドリア剤を、直接注射によってまたは血管注入によって送達することができる。
【0088】
ひとたびミトコンドリアが組織内に注射されると、ミトコンドリアは、注射部位の周囲の細胞に取り込まれるだろう。それゆえ、いくつかの態様において、注射部位は、標的部位である。いくつかの他の態様において、ミトコンドリアは、血液を標的部位、例えば、臓器、組織、または傷害部位に運ぶ血管に注射される。いかなる理論にも束縛されるものではないが、エビデンスは、直接注射によって送達されたミトコンドリアがアクチン依存性エンドサイトーシスを介して細胞によって内在化されることを示唆している。しかしながら、血管内送達によるミトコンドリアの取り込みは、より複雑であるように見える。血管注入によって送達されたときのミトコンドリアの急速でかつ幅広い取り込みは、ミトコンドリアの急速な血管壁通過を可能にする機序が関与することを示唆する。いくつかの研究は、細胞が血液循環から日常的に漏出することができるという概念を支持している。ある特定の心臓および間葉の幹細胞が血管外遊出とは異なるプロセスで血管系から能動的に排出されるように見えることが示されている(Cheng, K., Shen, D., Xie, Y., Cingolani, E., Malliaras, K., Marban, E., 2012, Brief report: Mechanism of extravasation of infused stem cells. Stem Cells. 30, 2835-2842.; Allen, T.A., Gracieux, D., Talib, M., Tokarz, D.A., Hensley, M.T., Cores, J., Vandergriff, A., Tang, J., de Andrade, J.B., Dinh, P.U., Yoder, J.A., Cheng, K., 2017. Angiopellosis as an Alternative Mechanism of Cell Extravasation. Stem Cells. 35,170-180)。幹細胞が血管壁を通過する移行は、内皮の広範な再構築を必要とする。ミトコンドリアは、類似の再構築機序を使用して血管壁を通過し得る。別の可能なミトコンドリアの取り込み機序は、血管外遊出様の機序であり得る。いくつかの細胞は、血液循環から日常的に漏出する。例えば、静脈内皮細胞間の白血球血管外漏出(すなわち、血管外遊出)は、細胞接着タンパク質が関与するよく理解されているプロセスである。さらに、注入されたミトコンドリアが内皮細胞間の空間を通って毛細血管壁を通って血管外漏出することも可能である。ミトコンドリアが血管の内皮を横断した後、ミトコンドリアは、エンドソームのアクチン依存性内在化プロセスを介して組織細胞に取り込まれる。
【0089】
ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、唯一の1回処置として、または代替的に、複数回処置、例えば、断続的にまたは連続的に約1、2、5、8、10、20、30、50、もしくは60日間、1年間、無期限に、または医師がミトコンドリアもしくは組み合わされたミトコンドリア剤の投与はもはや必要でないと決定するまで継続する処置コースとして、対象に投与することができる。
【0090】
1つの投与法では、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤が臓器組織内に直接注射される。注射は、臓器の異なる部位で数回繰り返される。そのような方法では、小さい針(例えば、28ゲージ)を備えた滅菌の1mlインスリンシリンジを注射に使用することができ、各注射部位は、例えば、約1.2×106のミトコンドリアを受けることができる。
【0091】
熟練実践者は、患者に投与されるべきミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤、例えば、ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物の量が、例えば、とりわけ、処置されている障害の種類、投与経路、処置期間、処置されるべき領域のサイズ、および/または患者における処置部位の位置に応じて変動することを認識するだろう。熟練実践者は、投与されるべき投与量をこれらのおよび他の変動項目に応じて決定できるだろう。例えば、合計約1×107のミトコンドリアを対象の血管に投与して、例えば、心筋中の局所虚血を処置することができる。別の例として、より大きな臓器または罹患領域の場合、より多くの数のミトコンドリア、例えば、1×1010~1×1014のミトコンドリアを血管に注射することができる。反対に、小さな局所性病変の場合、1×103~1×106のミトコンドリアを患者に注入することができる。それゆえ、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤(またはそれを含む組成物)の有効量は、所望の治療効果をもたらすのに十分なミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤の総量である。有効量は、例えば、少なくとももしくは約1×102のミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤、例えば、約1×103~約1×1014、約1×104~約1×1013、約1×105~約1×1012、約1×106~約1×1011、約1×107~約1×1010、約1×103~約1×107、約1×104~約1×106、約1×107~約1×1014、または約1×108~約1×1013、約1×109~約1×1012、約1×105~約1×108、または少なくとももしくは約1×103、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、または少なくとももしくは約1×1014、または例えば、1×1014より多い量であることができる。本明細書において使用される場合、「総量」という用語は、患者への投与の文脈において、単回投与(例えば、1回の注射、注入において投与される1回の用量)または複数回投与(例えば、複数回の注射)における、実施されている投薬レジメンに応じた、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤の総量を指すことができる。
【0092】
単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、12~24時間毎に種々の経路、例えば、直接注射、血管内送達によって対象に投与することができる。いくつかの態様において、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、5~10分毎(例えば、5分毎、10分毎)に種々の経路、例えば、直接注射、血管注入によって対象に投与することができる。
【0093】
いくつかの態様において、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、および34ゲージの針によって組織または臓器に直接注射することができる。いくつかの他の場合では、単離したミトコンドリア、または組み合わされたミトコンドリア剤を、カテーテルによって標的部位に送達することができる。
【0094】
いくつかの場合では、ミトコンドリアの効果は、単離の時間と使用の時間との間の時間の長さに依存することが留意される。したがって、いくつかの事例では、ミトコンドリアは、新たに単離され、生存可能なものである。ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、ミトコンドリアが単離されてから約5分、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約70分、約80分、約90分、約100分、約110分、約120分以内に対象に投与することができる。いくつかの事例では、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリア単離プロセスを開始してから約5分、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約70分、約80分、約90分、約100分、約110分、約120分以内に対象に投与される。ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、いくつかの事例では、使用前に短時間(例えば、約10分間、約20分間、約30分間、約40分間、約50分間、または約60分間)保存してよい。
【0095】
また、いくつかの場合では、凍結解凍されたミトコンドリアは、生存できず、本明細書に記載されるある特定の処置、例えば、虚血/再灌流傷害の処置に有効でないことが留意される。したがって、いくつかの場合では、ミトコンドリアは、組織および/または細胞からの単離後に凍結および解凍されない。
【0096】
処置のためのミトコンドリアを、自原性源、同種由来源、および異種由来源の細胞または組織から単離することができる。いくつかの事例では、ミトコンドリアは、対象の培養細胞または組織から収集され、これらのミトコンドリアが同じ対象に投与して戻される。いくつかの他の場合では、ミトコンドリアは、第二の対象の培養細胞または組織から収集され、これらのミトコンドリアが第一の対象に投与される。いくつかの場合では、ミトコンドリアは、異なる種(例えば、マウス、ブタ、酵母)由来の培養細胞または組織から収集される。
【0097】
虚血心臓および他の虚血関連疾患の処置
心臓は、正常な機能を維持するために酸素の連続供給を必要とする高度に活動的な臓器である。好気性条件下で、心臓は、そのエネルギーを主にミトコンドリアから得て、それは心筋細胞の全体積の30%を占める。虚血の発症に続いて、ミトコンドリアの構造、体積、酸素消費、およびATP合成の変更を伴って、高エネルギーリン酸レベルの急速な低下がある。
【0098】
薬理学的介入および/または外来性物質介入を、単独または処置技術との組み合わせのいずれかで使用する、心筋組織壊死を低下させて虚血後の機能を改善する試みは、これまで限定された心臓保護しか提供していない。これらの介入にもかかわらず、ミトコンドリアの損傷および機能不全は、心筋虚血後の主要な問題を引き続き示し、依然として罹患率および死亡率の重大な原因である。
【0099】
ミトコンドリア損傷は、再灌流の間というより主に虚血の間に起こり、ミトコンドリアの呼吸機能の保存は、収縮回復を増強させ、かつ心筋梗塞サイズを減少させる。
【0100】
本明細書に記載される方法を使用して、虚血心臓を処置することができる。例えば、有効量の単離したミトコンドリアを、対象の血管、例えば、対象の冠血管系に注射することができる。例えば、約1×107のミトコンドリアを対象の冠血管系に投与することができる。注射されたミトコンドリアは、移植後に心筋細胞によって内在化され、増強された酸素消費を提供し、梗塞後の心臓機能を増強するケモカイン類をアップレギュレートし、かつ心筋エネルギー論の保存において重要であるタンパク質経路の発現をアップレギュレートする。別の例では、有効量のミトコンドリアを、リスク領域(局所虚血領域)に直接注射することができる。注射は、心臓の異なる部位で数回繰り返すことができる。
【0101】
再灌流傷害は、虚血期間または酸素欠乏の後に血液が組織に戻るときの血液供給による組織損傷である。虚血期間の間の酸素および栄養素の欠如は、血流が回復すると炎症および酸化的損傷をもたらす。炎症応答は、組織の再灌流傷害をさらに導く。それゆえ、いくつかの事例では、処置はまた、免疫抑制剤を患者に投与することも伴う。免疫抑制剤は、例えば、別々ではあるがミトコンドリア剤との併用処置として投与することができる。代替的に、または追加的に、免疫抑制剤を、ミトコンドリアに連結させて、組み合わされたミトコンドリア剤を形成することができ、これを処置に使用することができる。特に有用な免疫抑制剤は、ビスホスホネート類である。
【0102】
いくつかの他の臓器の虚血/再灌流傷害も同じく、ミトコンドリアの損傷および機能不全と関連することが多い。これらの臓器は、肺、腎臓、肝臓、骨格筋、脳などを含むが、これらに限定されない。これらの傷害または疾患は、虚血性大腸炎、腸間膜虚血、脳虚血、卒中、急性肢虚血、チアノーゼおよび壊疽を含むが、これらに限定されない。記載の方法はまた、これらの臓器/組織の虚血傷害を処置するために採用することができる。これらの処置のために、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、臓器組織に直接注射するか、または血液を対象の標的臓器/組織もしくは傷害部位に運ぶ血管に注射することができる。
【0103】
血管拡張および血流
血管注入によるミトコンドリアの送達は、平均血圧または心拍数を変化させることなく冠血流を大幅に増加させることが実証されている。心拍数の増加なしに血流を増加できることは、狭心症型傷害および虚血/再灌流関連傷害におけるならびに増加した血流および酸素送達が必要とされる組織損傷領域における臨床的利用を可能にする。したがって、本明細書に記載される方法を冠動脈介入において使用して、血管中の血栓または妨害物を除去することができる。
【0104】
また、種々の臓器または組織(例えば、心臓、肺、腎臓、脳、骨格筋)のための血流および/または酸素送達を増加させるために本明細書に記載される方法を使用することもできる。いくつかの事例では、本明細書に記載される方法を使用して、末梢血管疾患を処置することができる。末梢血管疾患(PVD)は、心臓および脳以外の血管の狭窄、封鎖、または攣縮を引き起こす血液循環障害である。これは、動脈においても静脈においても起こる可能性がある。PVDは、典型的には、疼痛および疲労を、しばしば足において、とりわけ運動の間に生じさせる。単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、血管に注射することができる。血流は、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を標的部位に運び得る。いくつかの事例では、本明細書に記載される方法を、平滑筋機能を増強させるために使用することもできる。
【0105】
本明細書に記載される方法を、種々の臓器における血管拡張に使用することもできる。いくつかの事例では、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を使用して、臓器(例えば、心臓、腎臓、肝臓、または肺)の血管抵抗を減少させることができる。単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を使用して、血管造影のために血流を増加させることができる。単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を造影剤に加えることができ、かつ、閉塞の特定および除去に使用することができる。
【0106】
本明細書に記載される方法を使用して、封鎖された血管を処置することができる。該方法は、例えば、血栓の位置を特定する工程、血栓から遠位にケージ付きの第一のカテーテルを留置する工程、血栓の近位に第二のカテーテルを留置する工程、ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を近位のカテーテルを介して注射して血管拡張を引き起こす工程、バスケット中に血栓を収集する工程、および血栓を除去する工程を伴う。
【0107】
ミトコンドリアの血管注入の効果が単離から使用までの時間に依存することが留意される。血管拡張効果は、単離からの時間が延びるにつれて減少する。いかなる理論にも束縛されるものではないが、新たに単離したミトコンドリアが血流を増加させることができるある特定の化学物質を有すると仮定される。それゆえ、いくつかの方法では、ミトコンドリアは、新たに単離され、生存可能なものである。例えば、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリア単離プロセスが始まった時点からまたはミトコンドリアが単離されてから約5分、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約70分、約80分、約90分、約100分、約110分、約120分以内に対象に投与される。いくつかの場合では、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリア単離プロセスが始まった時点からまたはミトコンドリアが単離されてから約20分~約60分(例えば、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分)以内に対象に投与される。
【0108】
いくつかの場合では、血流を増加させることは、望ましくない(例えば、肺の虚血/再灌流を処置する場合)。これらの場合では、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、使用前に短時間(例えば、約30~約60分間)保存することができる。この方法を使用して、血流の増加を引き起こすことなく組織生存能を増加させることができる(例えば、虚血/再灌流傷害を処置する場合)。これらの場合では、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤は、ミトコンドリア単離プロセスが始まった時点からまたはミトコンドリアが単離されてから少なくとも約60分(例えば、約65分、約70分、約80分、約90分、約100分、約110分、約120分)後に対象に投与される。
【0109】
心臓手術
単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を心臓に送達してスタンニングを減少させることができ、かつ、外科手術からの心臓のウィーニング(例えば、心臓機能停止)、および心拍数または心臓の酸素要求を増加させることなしの心臓の回復を可能にすることができる。いくつかの態様において、該方法は、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤の心臓への直接注射を伴う。いくつかの方法では、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤は、冠動脈に注射される。
【0110】
イメージング
イメージング物質をミトコンドリアに、多くの場合ミトコンドリアとイメージング物質との共インキュベーションによって付着させることができる。そのようなイメージング物質は、Thermo Fisher Scientific Inc.社のMitoTrackerおよびpHrodoフルオロフォア、18F-ローダミン6G、ならびに酸化鉄ナノ粒子を含むが、これらに限定されない。
【0111】
イメージング物質を含む組み合わされたミトコンドリア剤を、組織に注射するかまたは血管を通して灌流することができる。標識したミトコンドリアを含有する組織を、イメージング技術、例えばポジトロン断層撮影(PET)、マイクロコンピュータ断層撮影(μCT)、および磁気共鳴画像法(MRI)、明視野顕微鏡、ならびに3D超解像顕微鏡法などを使用して調べることができる。熟練実践者は、他のイメージング技術またはモダリティを使用してもよいことを認識するだろう。これらは、X線、シンチグラフィー、蛍光発光および超音波検査を含むが、これらに限定されない。
【0112】
ポジトロン断層撮影は、身体の3次元画像を生成するイメージング技術であり、これを本明細書に記載される方法において使用することができる。該システムは、ポジトロン放出放射性同位体(トレーサー)によって間接的に放出されるガンマ線対を検出する。次いで、コンピュータ解析によって体内のトレーサー濃度の3次元画像が構成される。有用なレポーター群は、11C、13N、15 O、18F、64Cu、68Ga、81mKr、82Rb、86Y、89Zr、111In、123I、124I、133Xe、201Tl、125I、35S 14C、3Hのような放射性同位体を含む。いくつかの方法では、放射性同位体、例えば、18Fによって、または放射性同位体を組み込んだ分子、例えば、18F-ローダミン6G、18F標識ローダミンBによって、ミトコンドリアを標識することができる。ミトコンドリアが標的細胞によって内在化された後、PETイメージング技術、または類似の技術を、標的細胞を見るために採用することができる。
【0113】
磁気共鳴画像法は、身体の生体構造および生理学的プロセスをイメージングする医療用イメージング技術であり、これを本明細書に記載される方法において使用することができる。いくつかの事例では、それを、いくつかの他のイメージング技術、例えば、PETと併用することができる。両方の機器から取得された画像を同じセッションで連続的に撮影することができ、これを組み合わせて単一の重ね合わせ(共同登録)画像にすることができる。PET/MRIスキャンを使用して、ヒトおよび動物の健康状態を、例えば、研究、医療、および農業目的に診断することができる。
【0114】
マイクロ-コンピュータ断層撮影は、X線を使用して物理的対象の断面を生成し、これを使用して元の物体を破壊することなく仮想モデルを再現することができ、かつこれを本明細書に記載される方法において使用することができる。いくつかの事例では、それは、いくつかの他のイメージング技術、例えば、PETと併用される。両方の機器から取得された画像を同じセッションで連続的に撮影することができ、これを組み合わせて単一の重ね合わせ(共同登録)画像にすることができる。したがって、身体の代謝活性または生化学的活性の空間分布を描写する、PETによって得られた機能的なイメージングを、CTスキャニングによって得られた解剖学的イメージングとより正確に整列または相関させることができる。2次元および3次元画像再構成を、一般的なソフトウェアおよび制御システムに応じてレンダリングしてよい。
【0115】
3D構造化照明顕微鏡法、3D-SIM、または3D超解像顕微鏡法は、細胞内部の構造の完全な3D可視化を可能にし、かつこれを本明細書に記載される方法において使用することができる。構造化照明顕微鏡法は、空間的に構造化された照明光を使用することによって慣用の広域蛍光顕微鏡の空間分解能を倍加することができるイメージング法である。それは、観測可能領域以外の周波数空間からの情報を収集することによって空間分解能を増強する。
【0116】
記載の方法、すなわち、ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を投与することを含む方法は、様々な疾患、例えば、がん(例えば、肺がん、脳がん、膵臓がん、黒色腫、前立腺がん、結腸がん)、心血管疾患(例えば、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症)、自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症、糖尿病、過敏性腸症候群、セリアック病、クローン病)、および炎症性疾患を診断するのに有用である。
【0117】
イメージング目的のための作用物質を使用する方法は、当技術分野において周知であり、例えば、Bartholoma MD, He H, Pacak CA, Dunning P, Fahey FH, McGowan FX, Cowan DB, Treves ST and Packard AB, Biological characterization of F18-labeled Rhodamine B, a potential positron emission tomography perfusion tracer, Nucl Med Biol 40, 1043-1048, PMC3820364(2013); Bartholoma MD, Zhang S, Akurathi V, Pacak CA, Dunning P, Fahey FH, Cowan DB, Treves ST and Packard AB, 18F-labeled rhodamines as potential myocardial perfusion agents: comparison of pharmacokinetic properties of several rhodamines, Nucl Med Biol 42, 796-803, PMC4567415(2015); および Pacak CA, Hammer PE, MacKay AA, Dowd RP, Wang KR, Masuzawa A, Sill B, McCully JD and Cowan DB, Superparamagnetic iron oxide nanoparticles function as a long-term, multi-modal imaging label for non-invasive tracking of implanted progenitor cells, PLoS ONE 9, e108695, PMC4177390(2014)に記載されている。前述の各々は、本明細書に記載される方法において有用であることができ、かつ参照によってその全体として本明細書に組み入れられる。
【0118】
薬物送達
本明細書は、薬学的物質を、例えば、患者の細胞および/または組織に送達する方法を提供する。ミトコンドリアは、アクチン依存性内在化プロセスを介して組織細胞に取り込まれ、それによって薬学的物質を細胞に直接的に送達する手法を提供する。さらに、組み合わされたミトコンドリア剤は、注射部位近くの血管の内皮を横断する可能性がより高いので、いくつかの事例では、組み合わされたミトコンドリア剤を、標的部位に血液を運ぶ血管に注射することができる。いくつかの事例では、組み合わされたミトコンドリア剤は、毛細血管の内皮を通って組織に侵入する。
【0119】
抗体または抗原結合断片をミトコンドリアに連結または付着させることができる。熟練実践者は、抗体または抗原結合断片をミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤に連結させることでミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤が特定部位に、例えば、標的細胞および/または組織にターゲティングされることが可能となり得ることを認識するだろう。いくつかの事例では、抗体または抗原結合断片は、特定の細胞タイプ、例えば、肺の平滑筋細胞、免疫細胞、マクロファージなどを標的とするよう設計される。
【0120】
遺伝子治療
遺伝子治療は、疾患を処置する薬物としての核酸高分子の患者の細胞への治療用送達である。単離したミトコンドリアを、核酸高分子を細胞に送達するための担体として使用することができる。いくつかの事例では、核酸高分子を含む組み合わされたミトコンドリア剤を、疾患を引き起こす対象の突然変異遺伝子を置換する、突然変異遺伝子を不活化する、すなわち「ノックアウトする」、または対象に新たな遺伝子を導入するために、対象に投与することができる。例示的な核酸高分子は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、または三重らせん核酸分子を含むが、これらに限定されない。ある特定の事例では、核酸高分子は、DNA、干渉RNA(siRNA)、およびマイクロRNAである。ミトコンドリアDNAの機能不全に関連するミトコンドリアミオパチーの場合、ミトコンドリアの骨格筋または筋肉への直接注入によって遺伝子治療を実施することができる。核DNAが関連するミトコンドリアミオパチーの場合、経時的な複数回注入が有益であるかまたは必要とされ得る。
【0121】
心臓毒性の最小限化
化学療法は、種々のがんのための一般的な処置であるが、それはまたいくつかの深刻な合併症を引き起こす。化学療法誘導性の心臓毒性は、化学療法物質の臨床的使用を制限する1つの合併症である。ある特定の化学療法物質、例えばアントラサイクリン類は、急性リンパ芽球性および骨髄芽球性白血病に対して極めて有効であるが、ミトコンドリアに対するその作用に起因して心臓に特に有害である。ミトコンドリアへの損傷は、化学療法誘導性の心臓毒性をさらに導く。Angsutararux P, Luanpitpong S, Issaragrisil S. Chemotherapy-Induced Cardiotoxicity: Overview of the Roles of Oxidative Stress. Oxid Med Cell Longev. 2015; 2015: 795602. doi: 10.1155/2015/795602(2015); Guo S, Wong S. Cardiovascular toxicities from systemic breast cancer therapy, Front Oncol. 4:346. doi: 10.3389/fonc.2014.00346. eCollection(2014)。
【0122】
化学療法誘導性の心臓毒性を最小限に抑える1つの有用な方法は、有効量の単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、現在化学療法処置レジメン下にある患者に投与することである。患者が化学療法で処置される必要がある場合(例えば、医師または獣医によって規定されているという理由で)、化学療法の投与の前、その間、および/またはその後に、患者をミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤で処置することができる。例えば、投与の直後に開始して、唯一の処置として、あるいは、断続的にまたは連続的に約1、2、5、8、10、20、30、50、もしくは60日間、1年間、無期限に、またはミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤の投与はもはや必要でないと医師が決定するまで継続して、患者をミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤で処置することができる。
【0123】
臓器/組織移植
本開示はまた、臓器、組織、細胞塊および/または単離した細胞を移植する方法を特徴とする。該方法は、臓器、組織、細胞塊および/または単離した細胞を移植前にミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤に曝露させる工程を含むことができる。そのような曝露は、インサイチューおよび/またはエクスビボで行うことができる。臓器、組織および/または単離した細胞を、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物に曝露してよい。
【0124】
ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物への臓器または組織の曝露を、当技術分野において公知の任意の方法によってエクスビボおよび/またはインサイチューで実施することができる。例えば、曝露を、エクスビボにて、該組成物中に臓器または組織を完全にもしくは部分的に浸漬させるために十分な体積を有する任意のチャンバーまたは空間で実施してよい。別の例として、臓器を任意の好適な容器に入れ、臓器がミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物の連続流に曝露されるように組成物が臓器に「打ち寄せる(wash over)」ことによって、臓器をミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物に曝露してよい。
【0125】
あるいは、臓器を、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物で灌流してもよい。「灌流」という用語は、当技術分野において認識されている用語であり、液体、例えば、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物が臓器または組織の血管を通過することに関する。臓器をエクスビボおよびインサイチューで灌流する方法は、当技術分野において周知である。臓器を、エクスビボにて、組成物で、例えば、連続低温機灌流によって灌流することができる(Oxford Textbook of Surgery, Morris and Malt, Eds., Oxford University Press, 1994を参照のこと)。任意で、インサイチューまたはエクスビボ灌流では、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物での灌流の前に、臓器を洗浄液、例えば、UW液で灌流して、臓器からドナーの血液を取り出すことができる。別の選択肢として、UW液は、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含むことができる。
【0126】
臓器または組織を、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む培地または溶液中に留置、例えば、浸漬してよい。代替的に、または追加的に、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を該培地または溶液に加えることもできる。当技術分野において公知の任意の方法によって、例えば、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物での臓器のインサイチューフラッシングまたは灌流によって、インサイチュー曝露を実施することができる(Oxford Textbook of Surgery, Morris and Malt, Eds., Oxford University Press, 1994を参照のこと)。
【0127】
本開示は、臓器または組織をミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物に曝露させる、例えば、洗浄する、浸漬する、または灌流するための上記方法のいずれかまたは全てを所与の移植手順において使用することができることを企図する。
【0128】
本開示は、固体または半固体組成物を創出できることをさらに企図する。例えば、上記のとおりのミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物である液体を、臓器または組織が積層され得るかまたは埋め込まれ得る固体または半固体組成物にすることができる。あるいは、半固体組成物を臓器に注入することができる。固体または半固体組成物を、例えば、ゲル化剤(例えば、コラーゲンまたはアルギン酸塩)のような凝固剤を該液体に加えることによって作製することができる。
【0129】
本明細書に記載される方法を使用して、移植臓器のために虚血/再灌流損傷を制御することができる。虚血-再灌流傷害は、臓器移植の間の非常に重要な問題である。臓器移植における大きな損害は、再灌流傷害によって誘導されるように見える。移植に使用される臓器は、しばしば、脈管切除および冷灌流後の長期の冷虚血保存を受け、結果として再灌流時の損傷への感受性の増加をもたらす。エビデンスは、虚血/再灌流傷害がしばしばミトコンドリアの酸化的損傷を導き、これが遅延した移植片機能を引き起こし得ることを示す。Dare AJ, Logan A, Prime TA, Rogatti S, Goddard M, Bolton EM, Bradley JA, Pettigrew GJ, Murphy MP, Saeb-Parsy K. The mitochondria-targeted anti-oxidant MitoQ decreases ischemia-reperfusion injury in a murine syngeneic heart transplant model, J Heart Lung Transplant, 34(11):1471-80. doi: 10.1016/j.healun.2015.05.007(2015); Liu Q, Krishnasamy Y, Rehman H, Lemasters JJ, Schnellmann RG, Zhong Z. Disrupted Renal Mitochondrial Homeostasis after Liver Transplantation in Rats. PLoS One 10(10): e0140906. doi: 10.1371/journal.pone.0140906(2015)。いくつかの場合では、移植臓器は、例えば、心臓、肺、腎臓、または肝臓であることができる。一態様において、有効量(例えば、1×107、1×108)のミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤が移植臓器の血管(例えば、動脈)に注射される。別の態様において、有効量(例えば、1×107、1×108)のミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤が臓器組織に直接注射される。
【0130】
ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤の有効量は、インビボおよび/またはインビトロにて臓器、または細胞の生存を増強するおよび/またはその機能を改善するのに有効な量である。個別細胞または細胞塊の移植、例えば、移植ドナーおよび/またはレシピエントの文脈内で、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤の有効量は、細胞もしくは細胞塊の生存を増強する、例えば細胞、もしくは細胞塊の喪失を低減する、および/または移植細胞もしくは細胞塊の機能的性能を改善するのに十分な、移植ドナーおよび/またはレシピエントに投与される量である。移植のために培養および/または使用される体外の細胞、例えば、膵島細胞を処置する文脈内で、有効量は、細胞の保存を増強するためおよび/または細胞の喪失、例えば、アポトーシスを介した喪失を低減するため、および/または機能を増強するために、細胞がインキュベートまたは保存される量である。臓器および組織の移植、例えば、移植ドナーおよび/またはレシピエントの文脈内で、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤の有効量は、関心対象の臓器、組織もしくは細胞の生存を増強する、例えば、臓器もしくは組織が構成される細胞の喪失を低減する、および/または臓器の機能的性能を改善するのに十分な、移植ドナーおよび/またはレシピエントに投与される量である。
【0131】
いくつかの事例では、注射は、ドナーから臓器が回収される前に実施される。いくつかの事例では、注射は、臓器が回収された後であるが移植される前のいくつかの時点に実施される。いくつかの事例では、注射は、臓器がレシピエントへ移植された後に実施される。いくつかの事例では、注射は、臓器回収の前に、臓器の採取後に、かつその後の再度レシピエントへの移植後に実施される。いくつかの事例では、注射は、移植手術の間に実施される。いくつかの態様において、移植臓器は、有効量の単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含有する溶液中に保存される。いくつかの場合では、該溶液は、ウィスコンシン大学冷保存液である。
【0132】
臓器移植の主な制限は、ドナー臓器のアベイラビリティである。ドナー臓器の数を増やすために、センターは、基準が拡張されたドナーまたは心臓死のドナー由来の臓器を使用してよい。これらの場合では、記載の方法は、臓器の品質を改善することができ、したがってドナー臓器のアベイラビリティを増加させることができる。
【0133】
本開示はまた、移植された組織および/または細胞の統合を改善する方法を提供する。いくつかの態様において、組織は、皮膚組織または骨髄である。いくつかの態様において、細胞は、幹細胞である。これらの場合では、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤は、レシピエントの体内での移植された組織および細胞の統合を改善することができる。
【0134】
ミトコンドリア機能不全障害の処置
細胞代謝におけるミトコンドリアの主要機能に起因して、ミトコンドリアの損傷及び機能不全は、様々なヒトの疾患を引き起こす可能性がある。mtDNA中の突然変異によって引き起こされる疾患は、カーンズ・セイヤー症候群、MELAS症候群およびレーベル遺伝性視神経症、ピアーソン症候群、ならびに進行性外眼筋麻痺を含む。ミトコンドリア機能不全を伴う他の疾患は、ミトコンドリアミオパチー、真性糖尿病および難聴(DAD)、リー症候群、「ニューロパチー、運動失調、網膜色素変性、および眼瞼下垂(Neuropathy, ataxia, retinitis pigmentosa, and ptosis)」(NARP)、筋神経胃腸脳症(myoneurogenic gastrointestinal encephalopathy)(MNGIE)、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(Myoclonic Epilepsy with Ragged Red Fibers)(MERRF症候群)、脳筋症、乳酸アシドーシス、パーキンソン病、ならびに卒中様症状(MELAS症候群)などを含むが、これらに限定されない。
【0135】
さらに、ミトコンドリアの損傷及び機能不全はまた、傷害、毒性、化学療法、および加齢に伴う変化によっても引き起こされる可能性がある。ミトコンドリア機能不全は、さらに、対象の組織または臓器の適切な機能を妨害し得る。
【0136】
本開示は、ミトコンドリア移植が、細胞機能を救出しかつ損傷を受けたまたは機能不全のミトコンドリアを置換する潜在性を有することを示す。ミトコンドリアは、血管注入をとおして組織に効果的に送達できるので、ここで記載される方法は、ミトコンドリア機能不全障害を処置する新規方法に関する。
【0137】
処置のためのミトコンドリアを、自原性源、同種由来源、および異種由来源の細胞から単離することができる。その目的は、十分機能的なミトコンドリアを対象に投与して所望の治療効果を得ることである。一態様において、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤が、ミトコンドリア機能不全障害を処置するのに十分な量で患者に投与される。ミトコンドリア機能不全障害の症状は、エネルギーの連続供給を必要とする臓器に現れる可能性が高いので、該投与は、これらの罹患臓器、例えば心臓、脳および肝臓を特異的に標的とすることができる。一態様において、注射部位は、血液を標的臓器に運ぶ血管である。別の態様において、該処置は、全身投与を伴う。
【0138】
本明細書に記載される方法は、真性糖尿病を処置する手法を提供する。糖尿病のいくつかの形態は、ベータ細胞のミトコンドリア機能不全によって引き起こされる。膵島β細胞レベルで、ミトコンドリアのATP産生によって急性インスリン放出が調節され、ミトコンドリアのROSが、2型糖尿病において見られるインスリン分泌能力の長期低下の一因となり得る。ミトコンドリア機能はまた、筋肉、肝臓、および脂肪組織内のインスリン感受性の重要な決定因子のようにも見える。Sivitz, William I., and Mark A. Yorek. "Mitochondrial dysfunction in diabetes: from molecular mechanisms to functional significance and therapeutic opportunities." Antioxidants & redox signaling 12.4(2010): 537-577。これらの患者を単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤で処置することは、ベータ細胞の正常機能を回復させることができ、それによってインスリン産生を改善することができる。いくつかの態様において、該方法は、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む有効量の組成物を患者に投与することを伴う。該組成物を種々の経路によって患者に投与することができ、例えば、該組成物を膵臓組織に直接注射することができるか、あるいは、該組成物を、血液を膵臓に運ぶ血管に注射することができる。いくつかの場合では、血管は、膵臓の動脈、例えば、大膵動脈である。いくつかの態様において、膵島β細胞が、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤で処置され、次いで、対象に移される。これらの膵島β細胞は、同じ対象に由来することも、異なる対象に由来することもできる。
【0139】
加えて、本明細書に記載される方法は、パーキンソン病を処置する手法を提供する。パーキンソン病は、黒質のドーパミン生成細胞の機能不全または死から生じる。細胞機能不全または細胞死の原因は、あまり理解されていない。エビデンスは、低減したミトコンドリア活性またはミトコンドリア機能不全がその原因の一部であり得ることを示唆している。それゆえ、有効量の単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤をパーキンソン病患者に投与することは、これらの患者におけるドーパミン生成細胞の正常機能を回復させことができ、それによってドーパミン産生を改善することができる。
【0140】
さらに、ミトコンドリア機能不全は、ストレス関連精神障害(例えば、心的外傷後ストレス障害(PTSD))の重要な成分として認識が高まっている。ストレス関連精神障害とミトコンドリア機能不全との関係は、例えば、Flaquer, A., et al. "Mitochondrial genetic variants identified to be associated with posttraumatic stress disorder." Translational psychiatry 5.3(2015): e524に記載されている。したがって、いくつかの場合では、ストレス関連精神障害はまた、ミトコンドリア機能不全障害である。したがって、本明細書に記載される方法を、ストレス関連精神障害、例えば、PTSDを処置するために使用することもできる。
【0141】
傷害の処置
傷害は、しばしば、ミトコンドリアの損傷および機能不全と関連している。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法を使用して、種々の傷害、例えば、外傷性脳傷害、脳震盪、切断術傷害などを処置することができる。
【0142】
単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を使用して、創傷(例えば、開放創、熱傷、および発疹)を処置することができる。開放創は、体組織(例えば、皮膚、筋肉組織、骨)の外部または内部の破壊を伴う傷害である。いくつかの場合では、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、創傷の周囲に位置する組織に直接注射することができる。あるいは、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、創傷の部位に局所適用することができる。いくつかの態様において、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、連続注入によってまたは直接適用によって傷害部位に周期的に、例えば、2時間毎、創傷が治癒するまで、対象に投与することができる。
【0143】
がんの処置
本明細書に記載される方法はまた、がんの処置を提供する。がん細胞および腫瘍細胞は、ある特定のサイズを超えて成長するために酸素および他の必須の栄養素を提供する特化した血液供給を必要とする。これらは、しばしば、種々の成長因子(例えば、VEGF)を分泌することによって血管成長(血管新生)を誘導する。正常な血管とは異なり、腫瘍血管は、異常な形状で拡張され、より繊細な血管系を有する。治療物質を伴うミトコンドリアは血管の内皮を横断するので、腫瘍血管中の広大な構造は、薬物送達のための天然の標的部位を提供する。組み合わされたミトコンドリア剤が血管に注射された後、これらは、正常組織よりも腫瘍組織に送達される可能性が高い。一態様において、細胞増殖抑制物質または細胞傷害性物質を腫瘍に送達して、がん細胞を殺傷することができる。一態様において、治療物質は、化学療法物質、例えば、アントラサイクリンである。特に有用な一態様において、記載の方法は、小児神経芽細胞腫および前立腺がんを処置するために使用される。
【0144】
「がん」という用語は、自立成長のための能力を有する細胞を指す。そのような細胞の例は、急速に増殖する細胞成長によって特徴付けられる異常な状態または病態を有する細胞を含む。該用語は、がん性成長、例えば、腫瘍;発がんプロセス、転移組織、および悪性形質転換した細胞、組織、または臓器(病理組織学的タイプまたは侵襲性のステージに関係なく)を含むことを意味する。また、呼吸系、心血管系、腎臓系、生殖系、血液系、神経系、肝臓系、消化器系、および内分泌系のような種々の臓器系の悪性腫瘍;ならびにほとんどの結腸がん、腎細胞癌、前立腺がんおよび/または精巣腫瘍、肺の非小細胞癌、小腸のがん、および食道のがんのような悪性腫瘍を含む腺癌が含まれる。「天然に発生する」がんは、がん細胞の対象へのインプランテーションによって実験的に誘導されない任意のがんを含み、かつ、例えば、自然に発生するがん、患者の発がん物質への曝露によって引き起こされるがん、トランスジェニックがん遺伝子の挿入または腫瘍抑制遺伝子のノックアウトから生じるがん、および感染、例えば、ウイルス感染によって引き起こされるがんを含む。「癌腫」という用語は、当技術分野において認識されており、上皮組織または内分泌組織の悪性腫瘍を指す。該用語はまた、癌腫組織および肉腫組織から構成される悪性腫瘍を含む癌肉腫を含む。「腺癌」は、腺組織に由来する癌腫、または腫瘍細胞が認識可能な腺状構造を形成している癌腫を指す。「肉腫」という用語は、当技術分野において認識されており、間葉由来の悪性腫瘍を指す。「造血新生物性障害」という用語は、造血起源の増生細胞/新生細胞を伴う疾患を含む。造血新生物性障害は、骨髄系列、リンパ系列もしくは赤血球系列、またはその先駆細胞から生じることができる。
【0145】
本開示の方法および組成物を使用して処置され得るがんは、例えば、とりわけ、胃、結腸、直腸、口腔/咽頭、食道、喉頭、肝臓、膵臓、肺、乳房、子宮頸部、子宮体部、卵巣、前立腺、精巣、膀胱、皮膚、骨、腎臓、頭部、頸部、および喉のがん、ホジキン病、非ホジキン白血病、肉腫、絨毛癌、リンパ腫、脳/中枢神経系のがん、ならびに神経芽細胞腫(例えば、小児神経芽細胞腫)を含む。
【0146】
さらに、いくつかの態様において、抗体または抗原結合断片を、ミトコンドリアに連結または付着させることができる。熟練実践者は、抗体または抗原結合断片をミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤に連結させることによって、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を特定部位に、例えば、標的細胞および/または組織にターゲティングすることができることを認識するだろう。いくつかの事例では、抗体または抗原結合断片は、特定の細胞タイプ、例えば、がん細胞を標的とするよう設計される。
【0147】
代謝障害の処置
白色脂肪組織または白色脂肪は、哺乳類において見いだされる2つのタイプの脂肪組織の1つである。それは、しばしば、エネルギーの貯蔵として身体によって使用され、かつ、多くの白色脂肪細胞を含む。他の種類の脂肪組織は、褐色脂肪組織である。褐色脂肪組織の機能は、食物から熱へエネルギーを移行させることである。
【0148】
白色脂肪細胞は、しばしば、単一の脂肪滴を含有する。対照的に、褐色脂肪細胞は、多数のより小さい液滴と非常に多くの数のミトコンドリアを含有する。ヒト成人は、褐色脂肪組織中にエネルギー消費量が大きい器官を有するという理解により、褐色脂肪組織の熱発生を標的とすることは、肥満およびその関連代謝疾患(例えば、II型糖尿病)のような代謝障害を治療または予防する手法であると現在見なされている。肥満および糖尿病を処置するための褐色脂肪組織の使用は、例えば、Cypess, Aaron M., and C. Ronald Kahn. "Brown fat as a therapy for obesity and diabetes." Current opinion in endocrinology, diabetes, and obesity 17.2 (2010): 143に記載されており、これは、参照によってその全体として組み入れられる。
【0149】
褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞との1つの主な違いは、細胞中のミトコンドリアの数であるので、本開示は、代謝障害を治療および予防する方法を提供する。これらの代謝障害は、肥満およびその関連代謝疾患(例えば、II型糖尿病)を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様において、単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を、対象の白色脂肪組織に直接注射することができる。いくつかの態様において、該方法は、代謝障害を有するまたはそのリスクのある対象を特定する工程、およびミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を白色脂肪組織に種々の経路(例えば、直接注射、または、ミトコンドリアもしくは組み合わされたミトコンドリア剤を、白色脂肪組織に血液を運ぶ血管に注射)によって送達する工程を伴う。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に変換し、したがって白色脂肪組織を褐色脂肪組織に変換することができる。
【0150】
単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を限局性送達によって対象に投与することができる。いくつかの態様において、該方法は、標的部位(例えば、顎下の脂肪組織、および腹部脂肪組織)の位置を特定する工程、ならびに単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物を標的部位に注射する工程を伴う。いくつかの場合では、少量の該組成物が注射毎に送達されるが、その量が所望の効果をもたらすのに十分になるまで注射は数回繰り返される。
【0151】
化粧品使用
老化したまたは損傷を受けた皮膚および筋肉(例えば、顔面筋)は、ミトコンドリアの損傷および機能不全と関連している。単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を使用して、これらの損傷を受けたまたは老化した組織のミトコンドリア機能を改善し、それによって、皮膚のしわ、瘢痕を取り除くか、または弛緩した皮膚、熱傷、創傷、脂肪腫などを処置することができる。
【0152】
いくつかの態様において、該方法は、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を老化したまたは損傷を受けた組織(例えば、皮膚組織、または顔面筋)に投与する工程を伴う。いくつかの場合では、投与は、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、および34ゲージの皮下注射針によって実施される。いくつかの他の場合では、単離したミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を、局所投与によって老化したまたは損傷を受けた組織に投与することができる。あるいは、老化したまたは損傷を受けた組織を有する身体の一部(例えば、手、足)を、ミトコンドリアまたは組み合わされたミトコンドリア剤を含む培地または溶液で満たした容器(例えば、バスタブ)に留置、例えば、浸漬してもよい。さらに、老化したまたは損傷を受けた組織に、該組成物の連続流で、例えば、該組成物を注ぎ入れることによって、ミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を投与することができる。
【0153】
該組成物はまた、研磨剤を含み得る。研磨剤は、老化したまたは損傷を受けた細胞/組織(例えば、老化した皮膚組織、創傷上の死細胞)を効果的に取り除き、下にある比較的健常な細胞または組織を露出させることができる。次いで、該組成物中の単離したミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤がこれらの比較的健常な細胞または組織に取り込まれ、それによって、これらの細胞または組織のミトコンドリア機能を改選することができる。
【0154】
本開示はまた、液体、ペースト、クリーム、ゲル、固体、半固体組成物を創出できることを企図する。これらの組成物は、ミトコンドリア剤または組み合わされたミトコンドリア剤を含み、外用に好適である。例えば、これらを局所処置に使用することができる。あるいは、これらを皮膚または創傷上に噴霧することができる。
【0155】
体外受精
ミトコンドリア遺伝子は、核遺伝子と同じ機序によって継承されるわけではない。これらは、典型的には、一方の親からのみ継承される。ヒトでは、ミトコンドリアは、卵子、したがって母親に由来する。ミトコンドリア提供は、母親の突然変異したミトコンドリア遺伝子が新生児に継代されないようにする特殊な形態の体外受精である。通常、未来の新生児のミトコンドリアDNAは、第三者の卵子に由来する。そのような手順の1つの顕著な問題は、それが3人の遺伝学的な親を有するヒト子孫をもたらすことである。それは、生命倫理学の分野において大きな論争を引き起こしている。
【0156】
記載の方法は、この課題を解決する方法を提供する。一態様において、未来の父親の細胞が収集および培養される。次いで、培養細胞からミトコンドリアが単離される。次いで、これらのミトコンドリアが、体外受精のために調製されたミトコンドリア枯渇卵子と共培養される。別の態様において、父親のミトコンドリアが卵子と、いくつかの事例では、胚と共培養される。これらの場合では、たとえ母親の突然変異したミトコンドリアが除去されていなくとも、十分な量の機能的で生存可能なミトコンドリアが卵子または胚中にある限り、新生児をミトコンドリア疾患について処置し得る。
【0157】
細胞培養
本開示は、動物細胞をインビトロで維持または培養する方法を提供する。動物細胞を、ミトコンドリア剤または組み合わされたミトコンドリア剤の存在下で培養または単に維持することができる。
【0158】
熟練実践者は、培養されるべき細胞タイプに応じて、培養条件、例えば、温度を選択および/または変更することができることを認識するだろう(例えば、Cells: A Laboratory Manual, Spector and Leinwand, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1997を参照のこと)。例えば、ネズミのインシュリノーマ細胞株βTC3(DSMZ, Braunschweig, Germany)を、加湿した5%CO2/95%大気中、37℃でインキュベートすることができる。
【0159】
動物細胞を、液体培地中に配置、例えば、懸濁または浸してよい。培地は、関心対象の細胞を培養、保存、または洗浄するのに好適である当業者に公知の任意の培地であることができる(例えば、Cells: A Laboratory Manual, Spector and Leinwand, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1997を参照のこと)。そのようなタイプの培地は、種々の緩衝液、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ/フォークト変法イーグル最小必須培地(DMEM)、またはロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地を含むが、これらに限定されない。そのような培地はまた、適切な栄養補助剤、例えば、ウシ胎児血清(FBS)、個々のアミノ酸、抗生物質、および/またはビタミン類も含み得る。例えば、培地は、2mM L-グルタミン、100U/mlペニシリンG、100U/mlストレプトマイシンおよび10%ウシ胎仔血清(FCS)(Life Technologies)を補充したRPMI培地1640(Life Technologies, Grand Island, N.Y.)であることができる。細胞が液体培地中にある態様において、細胞をミトコンドリアおよび/または組み合わされたミトコンドリア剤を含む組成物に曝露させることができる。
【0160】
本開示はまた、適切な遺伝子改変を加えた、組み合わされたミトコンドリア剤、同種由来ミトコンドリア、異種由来ミトコンドリア、または自原性ミトコンドリアを含む細胞を含む、組成物を企図する。これらの細胞は、種々の臨床使用のための当技術分野において公知の任意の細胞、例えば、幹細胞、または置換細胞であることができる。
【実施例
【0161】
本発明は、以下の実施例においてさらに記載されるが、それは特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定するものではない。
【0162】
実施例1:組織試料または培養細胞からのミトコンドリアの単離
組織試料または培養細胞からミトコンドリアを単離する実験を実施した。
【0163】
調製
無傷の生存可能な呼吸能力のあるミトコンドリアを単離するために以下の溶液を調製した。本方法を使用してミトコンドリアをうまく単離するために、溶液および組織試料は、ミトコンドリアの生存能力を保つために氷上で維持されるべきである。氷上で維持しても、単離したミトコンドリアは、経時的に機能活性の減少を示すだろう(Olson et al., J Biol Chem 242:325-332, 1967)。これらの溶液は、可能なら前もって調製されるべきである。
1M K-HEPESストック溶液(KOHでpH 7.2に調整)
0.5M K-EGTAストック溶液(KOHでpH 8.0に調整)
1M KH2PO4ストック溶液
1M MgCl2ストック溶液
ホモジネート緩衝液(pH 7.2):300mMスクロース、10mM K-HEPES、および1mM K-EGTA。4℃で保存した。
呼吸緩衝液:250mMスクロース、2mM KH2PO4、10mMMgCl2、20mM K-HEPES緩衝液(pH 7.2)、および0.5mM K-EGTA(pH 8.0)。4℃で保存した。
10×PBSストック溶液:NaCl 80g、KCl 2g、Na2HPO4 14.4g、およびKH2PO4 2.4gを再蒸留H2O(pH 7.4)1Lに溶解した。
10×PBS 100mLを再蒸留H2O 1Lにピペッティングすることによって1×PBSを調製した。
サブチリシンA 4mgを1.5mL微量遠心管に量り取ることによってサブチリシンAストックを調製した。使用まで-20℃で保存した。
BSA 20mgを1.5mL微量遠心管に量り取ることによってBSAストックを調製した。使用まで-20℃で保存した。
【0164】
組織からのミトコンドリアの単離
組織解離および分別濾過を使用したミトコンドリアの単離の手順工程を概説する図を図1に示す。2つの6mm生検試料パンチを、解離C管中のホモジネート緩衝液5mLに移し、組織解離装置の1分間ホモジナイズプログラムを使用してその試料をホモジナイズした(A)。サブチリシンAストック溶液(250μL)を解離C管中のホモジネートに加え、氷上で10分間インキュベートした(B)。ホモジネートを750×Gで4分間遠心分離した(任意の工程として)。ホモジネートを、氷上の50mLコニカル遠心分離管中に、予め湿らせた40μmメッシュフィルターに通して濾過し、次いで、BSAストック溶液250μLを濾液に加えた(C)。濾液を、氷上の50mLコニカル遠心分離管中に、新たな予め湿らせた40μmメッシュフィルターに通して再度濾過した(D)。濾液を、氷上の50mLコニカル遠心分離管中に、新たな予め湿らせた10μmメッシュフィルターに通して再度濾過した(E)。濾液を、氷上の50mLコニカル遠心分離管中に、新たな予め湿らせた6μmメッシュフィルターに通して再度濾過した。得られた濾液を直ちに使用することも、遠心分離によって濃縮することもできる。濃縮の場合、濾液を1.5mL微量遠心管に移して、4℃にて9000×gで10分間遠心分離した(F)。上清を除去し、ミトコンドリアを含有するペレットを呼吸緩衝液1mLに再懸濁して合わせた(G)。
【0165】
単離直前に、サブチリシンAをホモジネート緩衝液1mLに溶解した。単離直前に、BSAをホモジネート緩衝液1mLに溶解した。6mm生検試料パンチを使用して2つの新鮮な組織試料を収集し、氷上の50mLコニカル遠心分離管内の1×PBS中に保存した。2つの組織の6mmパンチを、氷冷ホモジネート緩衝液5mLを含有する解離C管に移した。組織解離装置上に解離C管をはめ込み、予め設定されたミトコンドリアの単離サイクル(60秒のホモジナイズ)を選択することによって、組織をホモジナイズした。
【0166】
解離C管をアイスバケットに移動させた。サブチリシンAストック溶液(250μL)をホモジネートに加え、反転混合し、ホモジネートを氷上で10分間インキュベートした。40μmメッシュフィルターを氷上の50mLコニカル遠心分離管上に置き、フィルターをホモジネート緩衝液で予め湿らせ、ホモジネートを氷上の50mLコニカル遠心分離管中に濾過した。
【0167】
新たに調製したBSAストック溶液(250μL)を濾液に加えて、反転混合した(ミトコンドリアタンパク質の決定が必要である場合この工程を省略した)。40μmメッシュフィルターを氷上の50mLコニカル遠心分離管上に置き、フィルターをホモジネート緩衝液で予め湿らせ、ホモジネートを氷上の50mLコニカル遠心分離管中に濾過した。10μmフィルターを氷上の50mLコニカル遠心分離管上に置き、フィルターをホモジネート緩衝液で予め湿らせ、ホモジネートを氷上の50mLコニカル遠心分離管中に濾過した。濾液を、2つの予冷した1.5mL微量遠心管に移し、4℃にて9000×gで10分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットを氷冷呼吸緩衝液1mLに再懸濁して合わせた。
【0168】
組織から単離したミトコンドリアは、直ちに、注射に、または組み合わされたミトコンドリア剤を調製するために使用すべきである。
【0169】
培養細胞からのミトコンドリアの単離
ミトコンドリアをまた培養細胞から単離した。その手順は、生検試料ではなくヒト線維芽細胞を使用した以外は、組織試料からミトコンドリアを単離する手順と基本的に同じであった。
【0170】
ミトコンドリア数
単離したミトコンドリアのアリコート(10μl)をMitoTracker Orange CMTMRos(5μmol/l;Invitrogen, Carlsbad, CA, 現在Thermo-Fisher Scientific, Cambridge, MA)で標識することによって、生存ミトコンドリア数を測定した。標識したミトコンドリアのアリコートをスライド上にスポットし、63×C-アポクロマート対物レンズ(1.2 W Korr/0.17 NA, Zeiss)を備えたスピニングディスク共焦点顕微鏡を使用して計数した。ミトコンドリアを、ミトコンドリア特異的色素MitoFluor Green(Invitrogen, Carlsbad, CA, 現在 Thermo-Fisher Scientific, Cambridge, MA)で対比染色した。未染色細胞および組織を用いて自己蛍光およびバックグラウンド蛍光の測定のために適切な波長を選択した。簡潔には、標識したミトコンドリア1μlを顕微鏡スライド上に載せて、カバーした。MetaMorphイメージング解析ソフトウェアを使用して、全標本領域を網羅する低い(×10)倍率でミトコンドリア数を測定した。
【0171】
実施例2:組み合わされたミトコンドリア剤の調製
ミトコンドリアを18F-ローダミン6G、酸化鉄ナノ粒子、MitoTracker Orange CMTMRos(Invitrogen, Carlsbad, CA, 現在Thermo-Fisher Scientific, Cambridge, MA)と組み合わせる実験を実施した。
【0172】
電位によるミトコンドリアと18F-ローダミン6Gとの組み合わせ
18F-ローダミン6G(20μlの体積で40~100μCi)を、4℃にて、ミトコンドリア単離溶液A(ホモジネート緩衝液:300mMスクロース、10mM K-HEPES、および1mM K-EGTA, pH 7.2)で1.0mLの体積まで希釈し、次いで、単離したミトコンドリア(1×107~1×108を含有する0.5ml)とミトコンドリア単離溶液A中で十分に混合した。その混合物において、18F-ローダミン6Gは、内側のミトコンドリア膜を挟んだ電位に応答して電気泳動的にミトコンドリアマトリックス中に分布し、それゆえ、機能的ミトコンドリアによって取り込まれた。混合物を氷上で10~30分間インキュベートした。混合物を、9,000rpm(10,000g)で10分間の遠心分離によって3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁した。最後の洗浄に続いて、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁した。
【0173】
ミトコンドリア外膜によりミトコンドリアと酸化鉄ナノ粒子とを組み合わせる
スクシンイミジルエステルを含有する酸化鉄ナノ粒子(10mg)を、4℃で、呼吸緩衝液に懸濁し、次いで、単離したミトコンドリア(1×107~1×108を含有する1.0ml)と十分に混合した。スクシンイミジルエステルアミン反応によって、ミトコンドリア外膜上のミトコンドリアのアミン基に酸化鉄を結合させた。混合物を氷上で10~30分間インキュベートした。混合物を、9,000rpm(10,000g)で10分間の遠心分離によって3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁した。最後の洗浄に続いて、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁した。
【0174】
ミトコンドリアと2つの薬学的物質とを組み合わせる
18F-ローダミン6G(20μlの体積で40~100μCi)とスクシンイミジルエステルを含有する酸化鉄ナノ粒子(10mg)とを合わせ、4℃にて、ミトコンドリア単離溶液Aで1.0mLの体積まで希釈し、次いで、単離したミトコンドリア(1×107~1×108を含有する0.5ml)とミトコンドリア単離溶液中で十分に混合した。混合物を氷上で10~30分間インキュベートした。混合物を、9,000rpm(10,000g)で10分間の遠心分離によって3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁した。最後の洗浄に続いて、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁した。
【0175】
チオールを介してミトコンドリアを組み合わせる
MitoTracker(登録商標)フルオロフォア(5μmol/l;Invitrogen, Carlsbad, CA, 現在Thermo-Fisher Scientific, Cambridge, MA)を、単離したミトコンドリア(1.0mL)と呼吸緩衝液中で混合した。プローブを機能的ミトコンドリアと混合したとき、これらは酸化され、次いで、ミトコンドリア上のタンパク質およびペプチド上のチオールと反応してコンジュゲートを形成する。混合物を氷上4℃にて10分間暗所でインキュベートした。混合物を、9,000rpm(10,000g)で10分間の遠心分離によって3回洗浄し、ペレットをミトコンドリア単離溶液Aに毎回再懸濁した。最後の洗浄に続いて、ペレットを呼吸緩衝液に再懸濁した。
【0176】
実施例3:イメージング
組み合わされたミトコンドリア剤のイメージング使用を示す実験を実施した。
【0177】
動物モデル
ニュージーランドホワイトウサギ(Millbrook Farm, Amherst, MA)を実験に使用した。実験は、ハーバード大学医学大学院(Harvard Medical School)の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認され、実験動物の管理および使用に関する米国国立衛生研究所(NIH: National Institutes of Health)ガイドラインに準拠した(NIH Publication No. 5377-3, 1996)。全ての調査は、動物の管理および使用(Care and Use of Animals)の米国生理学会(American Physiological Society)の基本理念に従って実施された。
【0178】
アセプロマジンの筋肉内投与(0.5mg/kg im)でウサギを鎮静状態にした。22ゲージの静脈内(iv)カテーテルを辺縁耳静脈に挿入してテープで固定し、ウサギに、35mg/kgケタミンおよび2.5mg/kg(iv)キシラジンの注射を与えた。また、この静脈内ラインを手術中に使用して、ヘパリンおよび乳酸リンゲル液を10ml・kg-1・h-1の速度で投与した。ヘパリンを注射した(静脈内ラインを介してivで3mg/kg)。
【0179】
次いで、胸骨正中切開によって胸腔を開いた。心膜嚢を露出させ、これを開いて、心膜クレードル(pericardial cradle)を形成し、深麻酔下、心臓を取り出した後の瀉血によって動物を安楽死させた。
【0180】
摘出した心臓を、4℃のクレブス-リンゲル溶液(100mmol/l NaCl、4.7mmol/l KCl、1.1mmol/l KH2PO4、1.2mmol/l MgSO4、25mmol/l NaHCO3、1.7mmol/l CaCl2、11.5mmol/lグルコース、4.9mmol/lピルビン酸、および5.4mmol/lフマル酸)の浴に入れた。次いで、心臓をランゲンドルフ逆行性灌流に10分間供して、血液を洗い流した。
【0181】
虚血および再灌流
左前下行枝動脈(LAD)を位置特定し、テーパー針を用いてプロリン(Prolene)糸(3-0)(Ethicon, Somerville, NJ)を動脈周囲に通し、プロリン紐の両端を小さなビニル管に通してスネアを形成した。スネアを引っ張ることによって冠動脈を閉塞させ、次いで、モスキート鉗子で管を挟むことによってこれを固定した。心筋表面の局所チアノーゼによって局所虚血を目視で確認した。スネアを取り外すことによって再灌流を達成した。
【0182】
対照的に、ランゲンドルフ逆行性灌流装置上で灌流ラインをクロスクランプすることによって全虚血を達成した。クロスクランプを取り外すことによって再灌流を達成した。
【0183】
イメージングのために、虚血を20分間誘導した。機能および梗塞サイズの調査のために、局所虚血を30分間誘導した。
【0184】
投与
1×108の二重標識ミトコンドリアをランゲンドルフウサギの心臓のリスクのある領域に注射するかまたはその冠動脈に灌流するかのいずれかを行った。
【0185】
再灌流の開始時に、ランゲンドルフウサギの心臓のリスク領域に、滅菌呼吸緩衝液(対照群)の数回の注射、または1×107/mlのミトコンドリアを含有する滅菌呼吸緩衝液(注射群)の数回の注射を受けさせた。合計1×108のミトコンドリアをリスク領域に注射した。注射は、28ゲージ針を備えた滅菌1mlインスリンシリンジを使用して行った。対照群について、ミトコンドリア不含の呼吸緩衝液をリスク領域に注射した。
【0186】
第三群では、再灌流の開始時に合計1×108のミトコンドリアを冠動脈に灌流した(灌流群)。
【0187】
PET
Siemens Focus 120 MicroPETスキャナーを使用してイメージングを実施した。データを60分間取得し、単一画像へと再構成した。画像を生成する非加重型(unweighted)OSEM2Dを使用して再構成を実施した。ASIProソフトウェアパッケージ(Siemens Medical Solutions)を使用して画像解析を実施した。
【0188】
MRI
画像およびT2*緩和時間を取得するために、ParaVision Version 5.1ソフトウェアで作動するBioSpec 70/30 USR 7T MRI System(Bruker)またはParaVision Version 4.0で作動するBioSpec 4.7T MRI system(Bruker)に心臓を入れた。初期位置決めスキャン後、多重スライスのFLASHシネ画像を取得した。画像を再構成し、そして、ImageJソフトウェアを使用して強度データを分析した。
【0189】
マイクロ-CT
Albira Software Suite version 1.530で作動するAlbira Preclinical Imaging System(Bruker)を使用してマイクロ-CTを実施した。切除した心臓を、それぞれ45kVおよび400μAのX線管電圧および電流で、1スキャン当たり600回の投射を使用してスキャンした。再構成した画像は、512×512×512ボクセルであり、等方性ボクセルサイズは125μmであった。Amideソフトウェアパッケージ(http://amide.sourceforge.net)を使用してSPIO勾配画像を解析した。VolView, version 3.4(Kitware)を使用して断面画像およびボリュームレンダリング画像を作成した。
【0190】
心臓組織の蛍光染色
組織化学的および顕微鏡法研究のための組織試料を、虚血発症の約30分後に収集した。
【0191】
経心筋試料を左室自由壁中のリスク領域から包埋後に解離させ、組織試料を完全に切開し(厚さ5~7μm)、次いでガラススライド上に封入した。スライドを65℃で一晩焼き、キシレン中で脱パラフィンし、段階的エタノールシリーズに通して再水和し、高に設定した700W電子レンジを使用して1mmol/lエチレンジアミン四酢酸(pH 8.0)中で5分間3回加熱することによる抗原回復に供した。以下の抗体でスライドを免疫組織化学染色した。
【0192】
注射された心臓断片を、デスミン(緑色)およびヒト特異的ミトコンドリアマーカーMTC02(赤色)(抗ミトコンドリアマウスモノクローナル抗体[MTC02](ヒト特異的)、Abcam, Cambridge, MA)、コムギ胚芽凝集素(赤色)、113-1ヒトミトコンドリアマーカー(緑色)ついて蛍光免疫染色した。核は、DNA結合色素4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(青色)(Invitrogen, Carlsbad, CA, 現在Thermo-Fisher Scientific, Cambridge, MA)を使用して特定される。灌流した心臓を、α-アクチニン(赤色)およびMTC02(緑色)(抗ミトコンドリアマウスモノクローナル抗体[MTC02](ヒト特異的)、Abcam, Cambridge, MA)、またはレクチン(緑色)および113-1(赤色)染色または鉄(青色)のプルシアンブルー染色ならびにパラローザニリン対比染色(桃色)で免疫染色した。いくつかの心臓をレクチンで灌流し、その後固定して、内腔の血管表面を明らかにした。MTC02および核染色を位相差照明法で示した。
【0193】
使用した他の抗体は、ヒト特異的抗MTC02ウサギポリクローナル抗体(ab91317, Abcam, Cambridge, MA)、ヒト特異的抗ミトコンドリアマウスモノクローナル抗体[113-1](ab92824, Abcam, Cambridge, MA)、およびヒト特異的抗MTC02抗体ウサギモノクローナル[EPR3314](ab79393, Abcam, Cambridge, MA)であった。
【0194】
結果
局所虚血のウサギ心臓に、再灌流の開始時にそれぞれ1×108の二重標識ミトコンドリアを注射(図2A)または灌流した(図2B)。図2Aおよび図2Bの上の列は、各心臓のボリュームレンダリングを表示し、そして、マイクロ-コンピュータ断層撮影(μCT)、ポジトロン断層撮影(PET)、および合成レンダリングが左から右に示される。金属縫合糸(μCTで明るいシグナル)は、左前下行枝(LAD)冠動脈結紮の部位を示す。図2Aおよび図2Bの中央の列は、心臓の単冠状動脈スライスであり、そして、磁気共鳴画像法(MRI)、PET、および合成画像が左から右に描写される。図2Aおよび図2Bの画像の下の列は、注射または灌流した心臓の単横断スライスであり、MRI、PET、および合成画像が左から右に示される。鉄に由来する低強度のT2*MRIシグナルの領域は、18F-ローダミン6G由来のPETシグナルと相関する。これらの図はまた、外来性ミトコンドリアの冠動脈灌流がこれらの細胞小器官の心臓全体にわたる広範な分布をもたらしたことを示す。
【0195】
全虚血を受けたウサギの心臓は、18F-ローダミン6G標識ミトコンドリアの類似の分布を示した。
【0196】
図3Aおよび図3Bは、それぞれヒトミトコンドリアを注射および灌流した虚血心臓の組織学的染色を示す。注射された心臓断片(図3A)を、デスミン(緑色)およびヒト特異的ミトコンドリアマーカーMTC02(赤色)について蛍光免疫染色した(上の列)。左中央の列は、コムギ胚芽凝集素(赤色)および113-1ヒトミトコンドリアマーカー(緑色)での染色を示す。核は、DNA結合色素4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(青色)を使用して特定される。MTC02および核染色が位相差照明法で示される(下の列)。心筋細胞膜と結合した移植されたミトコンドリアが矢印で表示される(左);しかし、注射された細胞小器官の大部分は、間質腔中に留まった。灌流した心臓(図3B)を、α-アクチニン(赤色)およびMTC02(緑色)で免疫染色した(上の列)。移植されたミトコンドリアが矢印で表示される。いくつかの心臓をレクチンで灌流し、その後固定して、内腔の血管表面を明らかにした。右中央の列は、レクチン(緑色)および113-1(赤色)染色を示し;一方、下の列は、鉄(青色)のプルシアンブルー染色およびパラローザニリン対比染色(桃色)を示す。これらの図は、ミトコンドリアが典型的には間質腔中に見いだされたことを示す;しかしながら、いくつかの灌流したミトコンドリアは、血管系と結合したかまたは心筋細胞中に内在化された。
【0197】
実施例4:組み合わされたミトコンドリア剤の治療的使用
実施例3に記載の動物モデルで、未標識の、自己に由来する肝ミトコンドリアを使用して、組み合わされたミトコンドリア剤を虚血心臓に送達することによる心臓保護効果を判定する、さらなる実験を実施した。
【0198】
テトラゾリウム試験(TTC)および梗塞サイズの測定
トリフェニルテトラゾリウムクロリドを使用して、代謝的に活性な組織と代謝的に不活性な組織とを区別した。典型的なテトラゾリウム試験では、種々の脱水素酵素(有機化合物の酸化、ひいては細胞代謝において重要な酵素)の活性が原因で、生組織では、白色の化合物は、赤色のTPF(1,3,5-トリフェニルホルマザン)へと酵素的に還元される一方で、壊死領域ではこれらの酵素が変性または分解されるかのいずれかであるので白色のTTCとして残る。この理由から、TTCは、剖検病理学において、心筋梗塞の死後特定を援助するために採用されている。健常な生存心筋は、心臓の乳酸脱水素酵素から深い赤色に染色するが;一方、潜在的な梗塞領域はより薄くなるだろう。
【0199】
組織化学的および顕微鏡法研究のための組織試料を、虚血発症の約150分後に収集した。モナストリル青色顔料の大動脈への注射によってリスク領域(AAR)を画成した。心臓を素早く取り出し、LVの長軸を横断して心尖部から心基部へ厚さ1cmの断面にスライスし、ガラスプレートを覆う透明アセテートシート上に室内灯下で透写した。スライスした心臓を、リン酸緩衝液(pH 7.4)中1%トリフェニルテトラゾリウムクロリド(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)中にて38℃で20分間インキュベートした。染色した心臓スライスのコピーを、ガラスプレートを覆う透明アセテートシート上に室内灯下で透写した。LV内のAARおよび梗塞サイズ(IS)の領域を面積測定法によって測定した。面積測定した領域にスライス厚を掛けることによって梗塞域およびAARの体積を計算した。LV重量に対するARRの比を計算した。梗塞サイズを心臓毎のAARの百分率(IS/AAR)として表した。詳細な方法は、Wakiyama H, Cowan DB, Toyoda Y, Federman M, Levitsky S, McCully JD. Selective opening of mitochondrial ATP-sensitive potassium channels during surgically induced myocardial ischemia decreases necrosis and apoptosis, Eur J Cardiothorac Surg.21:424-433. doi: 10.1016/S1010-7940(01)01156-3(2002)に記載されている。それは、参照によって本明細書に組み入れられる。
【0200】
結果
再灌流の前の血管注入によるミトコンドリア移植は、筋細胞壊死を有意に減少させ、かつ、虚血後の機能を有意に増強した(図4)。心筋傷害の程度を定量するために、梗塞サイズをTTC染色で生化学的に測定した。TTC染色による梗塞サイズの絶対測定は、対照群と灌流群との間でリスク領域(すなわち、LAD閉塞によって虚血にされた領域)のサイズに有意差はなかったが(図4)、対照と比較してミトコンドリアで処置された心臓ではリスク領域の百分率として表される心筋梗塞サイズが有意に減少した(P<0.05)を明らかにした(図4)。図5は、3つの圧電超音波トランスデューサを使用した局所心筋収縮期短縮によって評価した場合の虚血領域の局所心筋機能を示す。それは、ミトコンドリアが虚血および再灌流傷害に対して心臓保護を提供することができることを裏付ける。
【0201】
実施例5:ミトコンドリア機能の救出およびmtDNAの置換
ミトコンドリアを細胞へ投与することがミトコンドリア機能を救出しかつ損傷を受けたミトコンドリアDNAを置換することができるかどうかを判定する実験を実施した。
【0202】
方法
ヒーラp0細胞は、発酵によりエネルギーを生成できるが、mtDNAによってコードされる電子伝達系タンパク質の枯渇が原因で酸素消費能を欠如している。本実験は、ヒーラp0細胞のミトコンドリア機能を回復させるように設計される。
【0203】
無傷のmtDNAを含有するヒーラ細胞からミトコンドリアを単離し、次いで、18F-ローダミン6Gおよび30nmの酸化鉄ナノ粒子で標識した。次いで、ヒーラp0細胞をこれらのミトコンドリアと共インキュベートした。
【0204】
詳細な方法は、Pacak CA, Preble JM, Kondo H, Seibel P, Levitsky S, del Nido PJ, Cowan DB and McCully JD, Actin-dependent mitochondrial internalization in cardiomyocytes: evidence for rescue of mitochondrial function. Biol Open 4, 622-626. PMC4434813(2015)に記載されている。本明細書において、それは、参照によってその全体として組み入れられる。
【0205】
結果
ATP含量は、ミトコンドリアとの24、48、72時間ならびに1および2週間の共インキュベーション後にヒーラp0細胞において有意に増加した。増強された細胞内ATP含量は、ミトコンドリアの内在化後のヒーラp0細胞の酸素消費率の有意な増加に対応した。
【0206】
PCR分析は、ミトコンドリア移植後のヒーラp0細胞におけるmtDNAの置換を実証した。その結果は、ヒーラ細胞ミトコンドリア(無傷のmtDNAを含有する)と共インキュベートしたヒーラp0細胞におけるmtDNAの絶対量がヒーラ細胞において観察されたものより有意に低いことを示しているが、存在するmtDNAは、細胞内ATP含量および酸素消費率を未処置ヒーラp0細胞と比較して有意に増強させるのに十分である。
【0207】
まとめると、その結果は、ミトコンドリア移植が、細胞機能を救出しかつ損傷を受けたミトコンドリアDNAを置換する潜在性を有することを示唆している。
【0208】
実施例6:ヒト患者処置
有効量の単離したミトコンドリアを、体外膜型酸素供給(ECMO)または体外生命維持装置(ECLS)下の臨床状態にある2人の患者に投与して、そのような処置の治療効果を評価した。症例毎に、約100マイクロリットルの約8~10の別個の注射(呼吸緩衝液中1×107のミトコンドリアを含有する)を、左室のリスク領域(前部および後部)に送達した。これらの手順の全ては、治験審査委員会(Institutional Review Board)によって審議および承認されている。症例毎に、これらの手順と関連するリスクが予想される利益によって正当化されることができると決定されている。
【0209】
症例報告1
重大な併存症を有する9日齢の男児患者を、冠不全の外科合併症が原因で体外膜型酸素供給(ECMO)下に置いた。ECMO9日目に、患者は、冠動脈修復のための外科処置を受けた。外科修復後、患者を、ECMO補助下で心臓集中治療室(Cardiac Intensive Care Unit)(CICU)に戻した。
【0210】
患者を継続してECMO補助下に置いたがECMOから外すことができなかった。出生(Day of Life)(DOL)19日目に、自原性ミトコンドリア単離のために直筋を採取した。ミトコンドリアを、心筋に左室(LV)の前面および外側面に沿ってかつ低収縮の領域へ注射した。患者は、その手順とペーシングワイヤーが留置されることの両方に耐容性を示した。胸を開放したままにし、消毒して包帯を当てた。患者は、ECMO下で一晩安定したままであった。患者はカニューレ抜去できず、そして、第二のミトコンドリア移植をDOL21日目に完了した。直筋を再度生検し、ミトコンドリアを処理した。次いで、約100マイクロリットルの10の別個の注射でミトコンドリアを注射した。各注射(呼吸緩衝液中1×107のミトコンドリアを含有する0.1mL)を左室のリスク領域に送達した。
【0211】
翌日、患者は、ECMO離脱試験に耐容性であることができ、心外膜エコー図は、力強いRV機能および良好なLV機能と50mL/kg/minの低い流速を表示した。しかしながら、患者は循環路の完全クランプに耐容性であることができず、そして、肺、腎臓、肝臓の臓器不全についての進行中の懸念が継続してあった。DOL23日目に、家族と話し合った後、ケアを変更する決定がなされた。
【0212】
症例報告2
第二の患者は、VACTERL症候群(椎骨欠損、肛門閉鎖、心臓欠陥、気管食道瘻、腎臓異常、および四肢の異常)の病歴、単心室循環の段階的緩和のために提示された複雑な心臓手術歴を有する肺動脈弁狭窄(PS)および心室中隔欠損(VSD)を伴う三尖弁閉鎖症1Bを有する2歳の女児であった。術中経過は、低い酸素供給および通気ならびに低下した右肺動脈(RPA)血流のための多数の心肺バイパス法(CPB)の実行によって複雑になった。術後経食道心エコー図(TEE)は、正常と中程度に落ち込んだ状態の間で変動する心室機能を明らかにした。彼女は、安定になり、開胸および人工呼吸器を付けた状態で心臓集中治療室(CICU)に移された。
【0213】
術後(POD)1日目に、心筋機能は悪化し、彼女は体外膜型酸素供給装置(ECMO)にカニューレ挿入された。血管造影は、有意な狭窄外科介入で回復させた冠血流で左前下行枝冠動脈(LAD)がほぼ完全に閉塞されたことを明らかにした。患者を全開流量のECMO補助下のCICUに戻し、重篤であったが安定したままであった。POD3日目に、LCAの反復評価のために患者をカテーテル検査室に戻した。この場合も、左主冠動脈(LMA)を通る有意な血流は確認されなかった。LMAにステント装着して拡張し、反復血管造影は、LMAおよびLADへの血流の回復を明らかにした。POD4日目に、エコー図は、軽いMR、軽い大動脈弁逆流(AR)、および重度の広範なLV機能不全を明らかにした。患者は、ECMO補助下で重篤であったが安定したままであった。
【0214】
POD5日目に、患者は依然として、エコー図で重度のLV機能不全を示した。自原性ミトコンドリア移植を胸部洗浄、血腫除去、および新たな心房リード置換と同時に進める決定がなされた。全ての臨床手順に続き、TEEを完了して、ほぼ後部自由壁に沿ったLV機能不全を確認した。直筋生検を実施し、組織からミトコンドリアを採取した。ミトコンドリアを、1回の注射当たり1×107のミトコンドリアを各々有する100マイクロリットルの10の別個の注射に分割した。機能不全の心筋への注射を数か所(5回の注射を前部に、5回の注射を後部左室に沿って)に行った。患者は、注射に対して十分に耐容性を示し、心電図(ECG)によって決定される電気妨害のエビデンスも壁内血腫のエビデンスもなく、エコー図によって決定される不整脈のエビデンスもなかった。
【0215】
POD7日目に、反復カテーテル検査を行って、少なくとも中程度のLV機能不全を示した;注目すべきことに、LCAステントは安定であり、そして、両冠動脈を通る血流は良好であった。患者は、翌日、安定な中程度の機能不全の状態で、ECMOからカニューレ抜去された。POD14日目に、軽度の機能不全への機能の改善が僧帽弁逆流(MR)またはARを伴わず認められ、継続してステントを良好に流れた。心臓機能は、POD38日目の患者の退院まで、軽度機能不全で安定なままであった。
【0216】
実施例7:高分解能顕微鏡法
心臓細胞におけるミトコンドリア融合をイメージングして融合機序を実証する実験を実施した。3D超解像顕微鏡法を使用して、ヒトiPS由来心筋細胞および初代ヒト心臓線維芽細胞におけるミトコンドリアの内在化を研究した。
【0217】
ヒト線維芽細胞におけるミトコンドリアを、緑色蛍光タンパク質(GFP)用のミトコンドリア特異的バキュロウイルスベクターを使用して標識した。ヒトiPS心臓細胞におけるミトコンドリアを、赤色蛍光タンパク質(RFP)用のミトコンドリア特異的バキュロウイルスベクターを使用して標識した。
【0218】
次いで、BacMam 2.0が感染したヒト線維芽細胞からGFP標識ミトコンドリアを単離し、そして、これらの細胞小器官を、RFP標識ミトコンドリアを含有する心臓線維芽細胞とインキュベートした。単離したミトコンドリアは、MitoTracker Red CMXRosとのインキュベーションによって決定される膜電位を保持しており、かつ抗ヒトミトコンドリア抗体と反応性であった。実験は、単離したミトコンドリアがATPを産生し、かつ、内在化および機能に必要である呼吸能力を有していることを裏付けた。2または4時間後、細胞を固定および封入して、超解像構造化照明顕微鏡法(SR-SIM)が内在化されたミトコンドリアの細胞内位置を解像できたかを評価した。実験は、外来性ミトコンドリアがヒト心臓線維芽細胞(HCF)中に急速に内在化し、かつ、レシピエント線維芽細胞のミトコンドリアネットワークと共局在化したことを示した。エンドサイトーシスされたミトコンドリアがレシピエント心臓線維芽細胞においてミトコンドリアネットワークと融合したかどうかを確立するために、4つの利用可能なレーザーラインのうち3つを使用してヒト心臓線維芽細胞に対して同等の実験を実施した。
【0219】
SR-SIM画像のボリュームレンダリングの回転は、レシピエント線維芽細胞の内因性のミトコンドリアネットワークと融合する外来性ミトコンドリアと思われるものを明らかにした。iCell(登録商標)心筋細胞(iCell-CM)を使用した類似実験のより広範な分析(図6A~6D)は、ターゲティングされたGFPを含有する外来性の線維芽細胞由来ミトコンドリアと内因性の細胞小器官ネットワークとの4時間の融合を裏付けた。図6A~6Dは、単離したGFPミトコンドリアで0.5、1、2、および4時間処置されたミトコンドリアのターゲティングされたRFPを発現する心筋細胞の3Dボリュームレンダリングを示す。外来性ミトコンドリアと内因性のミトコンドリアネットワークとの融合が容易に明白である(図6Aは、赤色チャネルを示し、図6Bは、緑チャネルを示し、図6Cは、青色チャネルを示し、そして、図6Dは、合成画像を示す)。
【0220】
これらの結果は、細胞中に内在化されたミトコンドリアの位置を明確に決定するためのSR-SIMの使用可能性の有力なエビデンスを提供し、かつ、外来性ミトコンドリアと内因性ミトコンドリアとの融合を裏付けた。
【0221】
その観測を裏付けかつ定量化するために、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用した。フローサイトメトリーを使用して単離したミトコンドリアを分析できたことを検証した後、感染HCF由来のGFP標識ミトコンドリアを、RFP標識ミトコンドリアを含有するiCell-CMに4時間加えた。これらの細胞を洗浄し、次いでミトコンドリア集団全体を単離することによって、赤色および緑色の両蛍光を発したミトコンドリアが観測された(図7A~7D)。図7A~7Dでは、それぞれ、緑色蛍光はX軸に示され、赤色蛍光はY軸に示される(対数)。対照群は、未標識のミトコンドリアを表し、GFPおよびRFP-ミトコンドリア群を感染HCFから単離した。単離したHCF GFP標識ミトコンドリア(外来性)で4時間処置されたRFP-ミトコンドリア(内因性)を発現するiCell-CMから、総ミトコンドリアを単離した。ミトコンドリア融合は、緑色および赤色の両チャネルにおいて蛍光であった細胞小器官中で明らかであった。これらの実験は、外来性ミトコンドリアの18.1%が内因性ミトコンドリアと4時間融合していたことを示した。明らかに、内因性ミトコンドリア(標識および未標識の両方)は、外来性ミトコンドリアよりはるかに数が多く;しかしながら、実験は、心臓機能の改善を誘起するのにわずかの細胞小器官だけが必要であることを証明した。
【0222】
結果は、かなりの数の外来性ミトコンドリアが内因性のミトコンドリアネットワークと融合したことを示したので、これらの細胞小器官がエンドソーム-リソソーム系から脱出するポイントを理解するために他の細胞コンパートメントを調べた。SR-SIMにより得られる情報を最大化するために、4つの利用可能なレーザーライン全てを使用した。単回取得における赤色、緑色、青色、および遠赤色チャネルを読み取る能力を試験するために、iCell-CMにBacMam 2.0 CellLight(商標)RFP-ミトコンドリアを感染させ、これらの細胞を1×107のGFP標識HCFミトコンドリアで4時間処置した。処置に続いて、心筋細胞を洗浄して、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)およびα-アクチニン(ACTN)に対する抗体で染色し、これをAlexa 633コンジュゲート二次抗体で検出した。この研究は、蛍光タンパク質発現および抗体検出の組み合わせを使用して、多くの情報を各取得から抽出でき、かつ、種々の細胞コンパートメントおよび構造のアイデンティティーを決定できることを示した。
【0223】
この戦略を使用して、単離したミトコンドリアで心筋細胞を1時間処置することによってエンドソームの脱出を調査した。最初に、iCell-CMに、RFP-Early EndosomeまたはRFP-Late Endosome CellLight(商標)試薬を感染させ、次いで、HCFから単離したGFP標識ミトコンドリアで処置した。内在化された外来性ミトコンドリアは、アクチン依存性機序を介して、酸性細胞内コンパートメントへエンドサイトーシスされた。CellLight(商標)試薬を採用したことに加えて、抗ヒトミトコンドリア抗体(MTC02)を使用して、緑色蛍光球が、内在化されたミトコンドリアであることを確認した。
【0224】
結果は、1時間で、内在化されたミトコンドリアが初期エンドソームを通過し、後期エンドソーム内に含有されたことを示した。4チャネル超解像顕微鏡法は、後期エンドソームからのGFP標識ミトコンドリアの脱出を明らかにし、これらのミトコンドリアの全てがMTC02抗体と十分に反応した。
【0225】
SR-SIMおよびフローサイトメトリーを使用することによって、ミトコンドリアの内在化に関与するエンドソーム経路の提案モデルを創出した。図8は、外来性ミトコンドリアの細胞内運命の略図である。単離したミトコンドリアは、心臓細胞(HCFおよびiCell-CM)にアクチン依存性エンドサイトーシスを介して侵入する。内在化された細胞小器官は、初期エンドソーム(<0.5時間)から、後期エンドソーム、エンドリソソーム、およびリソソーム(0.5~4時間)へと急速に進行する。確立されたタンパク質発現プロファイルを使用してこれらのコンパートメントの各々を同定することができる(図の上部)。ミトコンドリア脱出は、主に後期エンドソームコンパートメントから生じるように見える。次いで、脱出した外来性ミトコンドリアは、内因性ミトコンドリアと融合する(矢頭によって示される)。他の内在化された外来性ミトコンドリアは、ファゴリソソーム経路を通じて分解へと向かう。
【0226】
まとめると、結果は、ミトコンドリアがエンドサイトーシスによって細胞に侵入することを実証した。これらの細胞小器官は、初期エンドソーム、後期エンドソーム、およびエンドリソソームから脱出するか、またはリソソームおよびファゴリソソーム経路を通じて分解されるかのいずれかである。エンドソームコンパートメントから脱出した外来性ミトコンドリアは、続いて内因性心筋細胞ミトコンドリアネットワークと融合する。取り込みの時間枠は、>30分である。結果はさらに、種々のイメージング目的のために、3D超解像構造化照明顕微鏡法を標識したミトコンドリアと共に使用できることを実証した。
【0227】
実施例8:冠血管注入および血流
本開示の例は、血管系を通って心臓にミトコンドリアを送達することができることを実証した。冠動脈を通るミトコンドリアの血管内送達は、注射の10~30分後に心臓全体にわたるミトコンドリアの送達および取り込みをもたらす。これは、心臓自体へのミトコンドリアの直接注射(ミトコンドリアが注射された領域にミトコンドリアが留まる)とは対照的である。したがって、ミトコンドリアの血管内送達は、心臓全体のミトコンドリアの分布を可能にし、かつ、心臓全体へエネルギーを提供および回復させる迅速な方法を提供するが、いくつかの懸念がある。心臓が傷害を受けると、血管系は変化する。これらの変化は、注射されたミトコンドリアの送達または取り込みに影響を及ぼし得る。ミトコンドリアは、心臓細胞まで移動しようとせず、その変化した状態が原因で血管系に足止めされ、血管系を詰まらせ得る可能性がある。これは、心臓への血流を止めることによって心臓に損傷を与え、死に至ることもある。これらの懸念に取り組むために、ミトコンドリアが心臓の血流を変化させないことを実証する実験を実施した。
【0228】
この例では、全ての実験を臨床的に関連するブタモデルで実施した。心臓の血流を測定し、次いで、ミトコンドリアまたは他の作用物質を冠血管注入によって送達した。次いで、血流を再度測定して、血流に変化があるかを決定した。図9に示されるとおり、冠動脈を、バソプレシン、次いでエピネフリン(Epi)で収縮させて、増加した心拍数を誘導した。アデノシンを使用して血管の反応性を実証した。これらの実験を正常心臓と損傷を受けた心臓の両方で実施した。また、ポリスチレンビーズを陽性対照に使用した。3um、10umおよび150umのポリスチレンビーズを使用して血流を遮断した。実験全体で免疫反応も自己免疫反応も観測されなかった。
【0229】
結果は、冠血管注入によるミトコンドリアの送達が正常心臓または血管収縮した心臓において血流または心筋灌流を変化させないことを示す。図10A~10Cおよび図11A~11Dは、ミトコンドリアの血管内送達と共に心拍数または伝導度が変化しないことを示す。これらの結果は、ミトコンドリアの冠注入後に冠閉塞がないことを実証した。これらの結果は、ミトコンドリアの冠注入を心臓手術において容易に使用できることを裏付けている。
【0230】
加えて、血管注入によるミトコンドリアの送達は、平均血圧または心拍数を変化させることなく冠血流を有意に増加させた。図12A~12Bは、種々の作用物質の冠注入後の収縮期短縮の百分率を示す一連のグラフである。図13A~13Bは、種々の作用物質の冠注入後の冠血流を示す一連のグラフである。図12A~12Bおよび図13A~13Bは、ミトコンドリアの冠注入が冠血流を増加させることを示す。この応答は、アデノシンのような血流を増加させることができる薬物に対する応答より大きく、バソプレシンによって誘導された血管収縮を克服した。心拍数の増加なしに血流を増加できることは、狭心症型傷害および虚血/再灌流関連傷害におけるならびに増加した血流および酸素送達が必要とされる組織損傷領域における臨床的利用を可能にする。
【0231】
冠血流の増加はまた、濃度依存的であり、およそ5分間持続した。図14は、ミトコンドリアがアデノシンの血管拡張を超えて血管拡張を拡大し、ミトコンドリア注入の血管拡張効果が即効であったことを示す。その効果はまた、ミトコンドリア単離の時間と使用の時間との間の時間の長さにも依存的であった。血管拡張効果は、単離からの時間が延びる(例えば、30~60分間保存している)につれて減少した。したがって、ミトコンドリアは、新たに単離され生存可能でなければならない。死および失活ミトコンドリアは、冠血流を増加させる上で効果的でない(図13A~13Bおよび図14)。
【0232】
図15A~15Bは、異なる用量のミトコンドリアに応答した冠血流をさらに示す。1×109のミトコンドリアを使用して最適な冠血流を達成した。
【0233】
実施例9:心筋損傷を処置するための冠血管注入
また、臨床的に関連するブタモデルにおいて実験的に誘導した可逆的心筋虚血後の、心筋損傷を制限しかつ心筋機能を増強する血管注入によるミトコンドリアの送達の有効性を実証する実験を実施した。
【0234】
ブタに、15分(スタンニング)または30分(虚血/再灌流傷害)のいずれかの局所虚血、および120分の再灌流を受けさせた(図16)。これらの群間の比較は、異種混合細胞(生細胞および死細胞)集団(虚血/再灌流傷害)と比較した、生組織のモデル(スタンニング)におけるミトコンドリア注入の効果を決定する手段を提供した。
【0235】
スタンニングおよび虚血/再灌流における以下の3群を各々調査した:LAD局所虚血を伴う2つの局所虚血群、および動物のスネアが締め付けまたは固定されておらず局所虚血が存在しない偽の対照群。15または30分間の局所虚血に続いて、スネアを取り外し、そして、心臓に、血管造影カテーテルから左冠動脈口へと順行性に投与する、10mLの滅菌呼吸緩衝液(RI-ビヒクルおよび偽の対照)の単回注射またはミトコンドリア(1.7×107、RI-ミトコンドリア)を含有する滅菌呼吸緩衝液(10mL)の単回注射のいずれかを受けさせた。カテーテルを生理食塩水10mLで洗い流した。動物を、麻酔下に2時間置いたままにし、リスク領域の再灌流を可能にした。これらの実験は、臨床的に関連するブタモデルにおいてミトコンドリアの血管注入が梗塞サイズを低減しかつ虚血後の機能回復を増強したことを裏付けた(図17A~17B、図18A~18B)。
【0236】
実施例10:免疫応答
いずれの濃度の単回または複数回の自己由来または同種由来ミトコンドリア注射に対してもB細胞またはT細胞の免疫応答がないことを実証する実験を実施した。
【0237】
自己由来および同種由来ミトコンドリアの免疫原性を実証するために、5~8週齢の雌マウスBALB/cJ(レシピエントおよびドナー)およびC57BL/6J(ドナー)を使用した。
【0238】
第一の実験は、ミトコンドリアの単回または複数回注射に対する免疫応答を決定するように設計された。3群を調査した。マウスに、1×105(n=10);1×106(n=10)または1×107(n=10)のいずれかのミトコンドリアを含有する単回腹腔内(ip)注射(0.5~1.0mL)を受けさせた。BALB/cJマウスから自己由来ミトコンドリアを単離した。C57BL/6Jマウスから同種由来ミトコンドリアを単離した。陽性対照を提供するために、マウスに、C57BL/6Jマウスから単離した同種由来脾細胞の単回注射を受けさせた。滅菌呼吸培地の単回腹腔内注射(0.5~1.0mL)を受けた別個のマウス群(BALB/cJ、n=10)を対照として使用した。
【0239】
単回注射については、0日目にマウスに注射を受けさせ、次いで10日間回復させた。10日目に、免疫応答を評価した。複数回注射については、6日目、3日目、および0日目にBALB/cJマウスに注射を受けさせ、次いで10日間回復させた。10日目に、免疫応答を評価した。図19A~19Bは、単回および複数回用量のミトコンドリアに対するT細胞応答を示す。結果は、いずれの濃度の単回または複数用量のミトコンドリアに対してもT細胞応答がなかったことを示す。図20は、単回および複数回用量のミトコンドリアに対するB細胞応答を示す(* P<0.01 脾細胞対自己由来ミトコンドリア)。ミトコンドリアの濃度は1×107の細胞小器官/mlであり、そして、脾細胞の濃度は2×107の細胞/mlであった。対照は、緩衝溶液であった。これらの結果は、単回または複数用量のミトコンドリアに対してB細胞応答がないことを実証した。
【0240】
拒絶反応および同種応答を決定する第二の実験を実施した。5~8週齢の雌マウスBALB/cJ(レシピエントおよびドナー)およびC57BL/6J(ドナー)に、第一の実験に記載したとおりのミトコンドリアの単回および複数回腹腔内注射を受けさせた。10日目に、マウスに、C57BL/6Jマウス由来の皮膚移植片を受けさせた。皮膚移植に続いて、マウスを20日間経過観察して、皮膚移植片拒絶反応および免疫応答を決定した。ミトコンドリアが免疫応答を引き起こすことができたなら、レシピエントマウスは、ビヒクルを受けたマウス(対照)より速く移植皮膚を拒絶するだろう。結果は、単回または複数用量のミトコンドリアを受けたマウスが対照群におけるマウスより速く移植皮膚を拒絶することはなかったことを示した。したがって、単回または複数用量のミトコンドリアは、拒絶応答を引き起こさない。
【0241】
実施例11:薬物の細胞内送達
最適なローダミン6Gの濃度、インキュベーション時間、および単離したミトコンドリアがローダミン6Gを取り込む温度を決定する実験を実施した。
【0242】
この例では、2×107のミトコンドリアを、0.325uM、0.65uM、1.25umおよび2.5uMのローダミン6Gとインキュベートした。4℃または26℃のいずれかでの15、30、45および60分間のインキュベーション後に、ローダミン6Gの結合画分および未結合画分を判定した(図21)。
【0243】
図22A~22B、23A~23B、24A~24B、および25A~25Bは、ミトコンドリアを2.5uMのローダミン6Gと26℃でインキュベートしたとき、60分間が15分間より有意に劣ることを示す。ミトコンドリアを1.25uMのローダミン6Gと5℃でインキュベートしたとき、30分間、45分間、および60分間は全て15分間より有意に優れている。さらに、ミトコンドリアを2.5uMまたは1.25uMのいずれかのローダミン6Gと30分間または60分間インキュベートすることについて、インキュベーション温度の4℃と26℃に有意差がある。4℃でのローダミン6Gの結合画分は9~13%であり、26℃でのローダミン6Gの結合画分は3~8%である。まとめると、最適条件では、1.25uMのローダミン6Gについて、約0.15uMのローダミン6Gが2×107のミトコンドリアにおいて結合し、2.5uMのローダミン6Gについて、約0.3uMのローダミン6Gが2×107のミトコンドリアにおいて結合する。
【0244】
さらに、2×107のミトコンドリアについて、最適条件は、2.5uMのローダミン6Gが4℃で30分間インキュベートされることである。
【0245】
この例は、ミトコンドリアを薬物の細胞内送達のための担体として使用できることを実証した。
【0246】
実施例12:養子ミトコンドリア移入は、内皮細胞生着を増強する
幹細胞の統合および血管新生は、幹細胞の治療可能性の主な障害である。養子ミトコンドリア移入が内皮細胞生着を増強することを示す実験を実施した。
【0247】
ヒト内皮コロニー形成細胞(ECFC)の単離および培養
Melero-Martin, J. M., Melero-Martin, J. M., Khan, Z. A., Khan, Z. A., Picard, A., Picard, A., et al. (2007). In vivo vasculogenic potential of human blood-derived endothelial progenitor cells. Blood, 109(11), 4761-4768に記載されているとおり、治験審査委員会(Institutional Review Board)が承認したプロトコルに従って臍帯血試料からヒトECFCを単離した。ECFC培地:20% FBS、1×GPSを補充したEGM-2(ヒドロコルチゾンを除いて;Lonza)を使用して、1%ゼラチンコートプレート上でECFCを培養した。全ての実験を5~8継代のECFCで行った。
【0248】
ヒト間葉幹細胞(MSC)の単離および培養
Lin, R.-Z., Moreno-Luna, R., Moreno-Luna, R., Munoz-Hernandez, R., Munoz-Hernandez, R., Li, D., et al.(2013). Human white adipose tissue vasculature contains endothelial colony-forming cells with robust in vivo vasculogenic potential. Angiogenesis, 16(4), 735-744に記載されているとおり、治験審査委員会が承認したプロトコルに従って臨床的に適応がある手順の間に得られた正常な処分された皮下白色脂肪組織からヒトMSCを単離した。MSC培地:10% MSC適格FBS(Hyclone)、1×グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン(GPS; Invitrogen)を補充したMSCGM(Lonza)を使用して未コートプレートでヒトMSCを培養した。全ての実験を4~6継代のMSCで行った。
【0249】
ECFCからのミトコンドリアの単離
培養物からECFC(9×106の細胞)を採取して、Mitochondria Isolation Kit for Cultured Cells(Thermo Scientific)の試薬A 800μLに再懸濁した。Dounce Homogenization(VWR)を使用して細胞を氷上で30秒間溶解した。細胞溶解物を試薬C 800μLと混合し、次いで、4℃にて700gで10分間遠心分離した。上清を新しい管に移し、 4℃にて12,000gで15分間遠心分離した。遠心分離後、ペレットを試薬C 500μLに再懸濁し、再び4℃にて12,000gで15分間遠心分離した。最終ペレットは、移入可能な状態にある単離したミトコンドリアを含有する。
【0250】
ECFCへのミトコンドリア移入
単離したミトコンドリアをECFC培地1mLに再懸濁し、培養下のECFCに直接加えた。9×106のECFCから単離したミトコンドリアを使用して、3×106の細胞に移入した(ドナー対レシピエント比 3:1)。ミトコンドリア移入の5時間後、培地を新しいECFC培地に一新し、次いで、レシピエントECFCをインビボ移植実験にすぐさま使用した。レシピエントECFCは、ECFC-Mitoと称され、そして、外来性ミトコンドリアを受けなかった対照のECFCは、ECFC対照と称される。
【0251】
免疫不全ヌードマウスへのECFCのインビボ移植
動物実験は、ボストン小児病院(Children's Hospital Boston)の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコル下、AAALACによって承認されている施設で実行された。コラーゲン-フィブリン-ラミニンゲル200μLに再懸濁したヒトECFC(2×105の細胞;ミトコンドリア移入ありまたはなし)およびMSC(3×105の細胞)を、6週齢の雄の無胸腺nu/nuマウスの背中に皮下注射した(Massachusetts General Hospital, Boston, MA)。マウスを安楽死させ、7日後にインプラントを採取した。
【0252】
組織学、免疫組織化学、および免疫蛍光
インプラントを7日後に採取した。外植片を10%緩衝ホルマリン中で一晩固定し、パラフィン包埋し、そして、切開した(7μm厚)。ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色した切片を、ImageJ 1.47vソフトウェア(米国国立衛生研究所)を使用して血管構造の存在について調べた。ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色した切片を、赤血球を含有する血管の存在について調べた。免疫染色のために、切片を脱パラフィンし、抗原回復をtris-EDTA緩衝液(10mM Tris-Base、2mM EDTA、0.05% Tween-20、pH 9.0)で行った。次いで、切片を5~10%ブロッキング血清中で30分間ブロッキングし、マウス抗ヒトCD31一次抗体(1:50; abcam)と室温で1時間インキュベートした。セイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲートマウス二次抗体(1:200; Vector Laboratories)および3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)を使用して、hCD31の検出、続いて、ヘマトキシリン対比染色およびパーマウント(Permount)封入を行った。ローダミンコンジュゲートUEA-1(1:200)を使用して蛍光染色、続いてDAPI対比染色(Vector Laboratories)を実施した。
【0253】
微小血管密度
インプラントの中央部由来のH&E染色した切片における赤血球充填血管の平均数(血管/mm2)として微小血管密度を報告した。各切片の領域全体を分析した。各実験条件について報告された値は、4つの個々のインプラントから得られた平均±平均の標準誤差(SEM)に対応する。
【0254】
顕微鏡法
Axio Observer Z1倒立顕微鏡(Carl Zeiss)およびAxioVision Rel. 4.8ソフトウェアを使用して画像を撮影した。ApoTome.2 Optical sectioning system(Carl Zeiss)および40×/1.4油対物レンズで蛍光画像を撮影した。40×/1.4対物油レンズを使用してAxioCam MRc5カメラで非蛍光画像を撮影した。
【0255】
統計分析
データを平均±平均の標準誤差(SEM)として表した。対応のないスチューデントのt検定を使用して平均を比較した。GraphPad Prism v.5ソフトウェア(GraphPad Software Inc)を使用して全ての統計分析を実施した。P<0.05を統計学的に有意とした。
【0256】
結果
ドナーECFCからミトコンドリアを単離し、レシピエントECFCにドナー対レシピエント比3:1で移入した。単離したミトコンドリアをレシピエントECFCによって5時間吸収させた。次いで、外来性ミトコンドリアを受けたレシピエントECFC(ECFC-Mito)をマウスに移植して、それらの血管新生能を評価した(図26)。
【0257】
ECFCおよびMSCをコラーゲンヒドロゲルに再懸濁し、次いで、免疫不全ヌードマウスの背中に皮下注射した(図27A)。図27Aは、インビボ脈管形成アッセイを示す。図27Bは、移植の7日後に採取された外植片を示す。上部画像は、ECFC-Mito(2×105の細胞)およびMSC(3×105の細胞)を含有したインプラントに対応する。ECFC対照(2×105の細胞)およびMSC(3×105の細胞)を含有するインプラントは、対照としての役割を果たした。
【0258】
H&E画像は、赤血球充填血管がECFC-Mitoを含有したインプラントに豊富にあるが、ECFC対照を含有したインプラントではそうではなかったことを示す(図28A)。微小血管密度は、ECFC対照を含有したインプラントよりもECFC-Mitoを含有したインプラントにおいて血管密度がより高いことを明らかにした(図28B)。図28Bでは、バーは、平均±SEM(n=4)を表し、その差は統計学的に有意であった(*P<0.05)。
【0259】
外来性ミトコンドリアを受けたレシピエントECFC(ECFC-Mito)は、新たに形成された灌流したヒト血管の内腔を覆った。ローダミンコンジュゲートUEA-1レクチンの結合は、ECFC-Mitoを含有したインプラントにおけるヒト特異的血管腔の形成を実証した(図29A)。注目すべきことに、UEA-1レクチンは、ヒト内皮に高親和性で結合するが、ネズミ内皮には結合しない。ヒト特異的CD31(h-CD31)免疫染色は、移植されたヒトECFC-Mitoによって血管の内腔が構築されたことを裏付けた(図29B)。
【0260】
これらの実験は、細胞をミトコンドリアで処置することが細胞生着を増強することを示す。それは、幹細胞における血管形成を増強し、かつ、インビボの細胞生存を増強する。
【0261】
実施例13:肺の虚血/再灌流傷害
肺動脈を通じて血管注入によって送達されたミトコンドリアが肺内に位置することを示す実験を実施した。
【0262】
マウスに麻酔をかけ、人工呼吸器を付けた。18F-ローダミン6G標識マウスミトコンドリアを主肺動脈に注射した(胸骨切開によって可視化した)。20分後にAlvira PET/SPECT/CT Imaging System(Bruker, Billerica, MA)を使用したPPETおよびμCTによって画像を得た。画像は、マウスの肺動脈へのミトコンドリアの送達が肺全体への分布をもたらすことを示す(図30A~30B)。
【0263】
別個の実験では、1時間(中)および2時間(下)の虚血のためにマウスの右肺の中葉および下葉をクランプした。アンクランプ(再灌流)後、緩衝液または単離したミトコンドリアでマウスを処置した。再灌流の48時間後にマウスを評価した。結果は、無傷の生存可能なミトコンドリアの送達がマウスモデルにおいて肺の虚血再灌流傷害を低減したこと、ならびにミトコンドリアが虚血/再灌流後の肺の構造および機能を保存したことを示す。
【0264】
別の実験では、またマウスに麻酔をかけ、人工呼吸器を付けた。左肺門構造を2時間クランプした。緩衝液または3cc(立方センチメートル)のミトコンドリア溶液を左肺動脈に注射し、翌日マウスを屠殺した。結果は、無傷の生存可能なミトコンドリアの送達が左肺における虚血再灌流傷害を低減することを示す(図31A~31B)。
【0265】
これらの結果は、ミトコンドリアを、虚血、再灌流、喫煙または毒素によって損傷を受けた肺の救出を助けるために使用できること、また肺移植において使用するための肺保存に使用できることを実証する。
【0266】
実施例14:ミトコンドリアミオパチー
ミトコンドリアをマウスの総頸動脈に注射することによってミトコンドリアを視神経に送達できることを示す実験を実施した。PETスキャン画像は、注射されたミトコンドリアが視神経に位置することを示す(図32)。
【0267】
これらの結果は、レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON)および他のミトコンドリアミオパチーの処置にミトコンドリア注入を使用できることを実証する。
【0268】
実施例15:虚血再灌流傷害後の機能不全に対する自原性ミトコンドリア移植
心筋の虚血-再灌流傷害を患っている小児患者に対する現在の処置は、強心および機械循環補助を含む。体外膜型酸素供給(ECMO)補助後の心筋機能の回復は、ECMOからの離脱に40%失敗したことに反映されるとおり一貫性はない。ミトコンドリアの損傷および機能不全は、虚血-再灌流傷害を伴うそのような患者の心筋機能不全に大きく寄与する。非虚血骨格筋から採取された健常な自原性ミトコンドリアが傷害された心筋へ移植される、「ミトコンドリア自己移植」と呼ばれる、損傷を受けたミトコンドリアを修復および補完する新規戦略が開発されている。本開示における例は、移植されたミトコンドリアが、ミトコンドリア機能および生存能力を回復させ、かつ、高エネルギー合成、トランスクリプトームおよびプロテオーム変化、ならびにDNA修復を含む内部および細胞外機序によって虚血後の心筋機能を改善することを実証した。
【0269】
患者および方法
心臓外科手術後の虚血-再灌流関連心筋機能不全のために開胸下ECMO(central ECMO)補助を必要した小児患者は、ミトコンドリア自己移植を受ける資格があった。患者が外科手術介入およびECMO補助によって改善しなかった心臓手術後の心筋虚血性イベントを経験した場合に、その患者を含めた。患者が末梢血管(頸部または大腿部)を通じたECMOカニューレ挿入を受けた場合に(心筋注射への手段がこのアプローチに不適格であるので)、その患者を除外した。
【0270】
ミトコンドリアの採取および単離を、同じ手順中で20~30分以内に実施することができ、筋肉組織の最小限の操作を伴う。提唱された治療の概説は、患者のケアに関与しなかった2人の独立した医師によって提供され、そして、家族は、手順の潜在的リスクに関して十分に助言を受けた。該処置は、ボストン小児病院の治験審査委員会によって開発されたInnovative Therapiesプロトコル下で提供された。
【0271】
全ての患者で、縦隔にアクセスし、心外膜エコーを実施して、心筋無動または低収縮の領域を特定した。鋭的剥離を使用してその領域下面から健常な腹直筋の6mm×6mm片を採取した。自原性ミトコンドリア(1×108±1×105)を滅菌条件下で単離し、呼吸緩衝液1mLに懸濁した。1×107±1×104のミトコンドリアを含有する10種の100uL注射の各々を、1mLツベルクリンシリンジ(28ゲージ針)で虚血-再灌流に罹患した心筋に直接注射によって送達した(心外膜エコー図によって特定されたとおり)。該手順の終わりに心外膜エコーを実施して、注射に関連した心筋血腫の存在を評価した。
【0272】
盲検検査者によって、報告された時間にわたる全体および局所の両方の機能不全区分についてエコー図が読み取られた。
【0273】
結果
ミトコンドリア自己移植を受けた患者の特徴および結果(死亡率および全体心臓機能および局所低収縮区分)を表1に記載する。表1ついての心臓セグメンテーションスキームを図33に示す。いずれの患者も心外膜注射に関する不整脈も出血も経験しなかった。5人の対象のうち4人は、心室機能の改善を実証し、ECMO補助から離脱させることに成功した。
【0274】
この例は、虚血-再灌流傷害のためにECMO補助を必要とする小児患者における心筋回復のためのミトコンドリア自己移植の使用を記載する。患者は、ミトコンドリア注射に関連する有害な短期合併症(不整脈、心筋内血腫、または瘢痕化)を経験することなく、全てが処置後数日以内に心室機能の改善を実証した。ミトコンドリア治療は、動物モデルでの研究によって証明されているとおり、虚血傷害後できるだけ早期に送達される場合に最も有利である。このシリーズにおける患者は、患者が1~2日のECMO補助にもかかわらず心筋機能の回復を示さず、心室機能の自然回復がほとんど見られなかったという理由で選択された。
【0275】
ミトコンドリアの用量および送達法は、動物実験に基づくもので、これをヒト患者の心臓質量に対して推定した。この研究に心外膜注射を利用したが、経冠動脈送達を含む代替送達法も可能である。
【0276】
さらに、全身性炎症応答症候群の注射前マーカーと注射後マーカーにおいて検出可能な差はなく(安定な呼吸および腎臓の状態によって証明されるとおり)、これは動物の研究データと一致した。患者1に対する剖検は、注射部位に炎症の徴候も拒絶反応の徴候もないことを明らかにし、白血球計数に臨床的に関連性のある変化はなかった。
【0277】
この例は、虚血-再灌流傷害を伴う患者に有用であり得る、ミトコンドリア自己移植の新規技術の最初の臨床適用を実証する。
【0278】
他の態様
本発明は、その詳細な説明と併せて記載されているが、前述の説明が、例示を目的としたものであって、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。他の局面、利点、および改良は、以下の特許請求の範囲内である。
【0279】
【表1】
略称:
D-TGA:右旋性大血管転位
HLHS:左心低形成症候群
LVOTO:左室流出路閉塞
ASO:大動脈スイッチ手術
RmBTS:右修正ブラロック・トーシックシャント
LCA:左冠動脈
POD:術後の日数
DKS:ダムス・ケー・スタンセル吻合(Damus-Kaye-Stansel procedure)
ECMO:体外膜型酸素供給
LV:左室
RV:右室
BDG:両方向性グレン手術
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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