(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】定着部材、定着装置及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221130BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
G03G15/20 515
B32B27/30 D
(21)【出願番号】P 2019028560
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018055191
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】能登屋 康晴
(72)【発明者】
【氏名】宮内 陽平
(72)【発明者】
【氏名】吉村 公博
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0321893(US,A1)
【文献】特開2018-180488(JP,A)
【文献】特開2018-001109(JP,A)
【文献】特開2015-212810(JP,A)
【文献】特開2003-029484(JP,A)
【文献】特開平09-096981(JP,A)
【文献】特開2004-053847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
表面層としての離型層と、を有する電子写真用の定着部材であって、
該離型層は、
第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂を含み、
該第1のフッ素樹脂は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)であり、
該第2のフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、及び、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも一方であり、
PFPE単体の、温度200℃で測定される
19F-NMRから求めた、PFPE単体の縦緩和時間をT1-1とし、
該離型層の、温度200℃で測定される
19F-NMRから求めた、該離型層中に含まれるPFPEの縦緩和時間をT1-2としたとき、T1-1及びT1-2が下記式(1)で示す関係を満たすことを特徴とする定着部材:
式(1)
[(T1-1)-(T1-2)]/(T1-1)≧0.1
。
【請求項2】
前記縦緩和時間T1-2が、0.5秒以上3.5秒以下である請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
前記縦緩和時間T1-2が、0.5秒以上2.0秒以下である請求項1または2に記載の定着部材。
【請求項4】
該離型層が、前記第1のフッ素樹脂及び前記第2のフッ素樹脂の合計量に対し、該第
1のフッ素樹脂を1質量%以上30質量%以下の割合で含む請求項1~3のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項5】
該離型層が、前記第1のフッ素樹脂及び前記第2のフッ素樹脂の合計量に対し、該第
1のフッ素樹脂を3質量%以上20質量%以下の割合で含む請求項1~3のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項6】
前記パーフルオロポリエーテルが、下記構造式(1)及び(2)で示される構造から選ばれる少なくとも1つの構造を有する請求項1~5のいずれか一項に記載の定着部材:
【化1】
【化2】
。
【請求項7】
前記パーフルオロポリエーテルが、下記構造式(3)~(5)で示される構造から選ばれる少なくとも1つの構造を有する請求項1~5のいずれか一項に記載の定着部材:
【化3】
【化4】
【化5】
。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の定着部材と、該定着部材の加熱手段と、を備える電子写真用の定着装置。
【請求項9】
前記定着部材が、エンドレスベルト形状を有する定着ベルトであり、前記加熱手段が、該定着ベルトの内周面に接して配置されているヒータを具備する請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
請求項8に記載の定着装置を備える電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着部材、該定着部材を備える定着装置及び該定着装置を備える電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機やレーザープリンタといった電子写真画像形成装置(以下「画像形成装置」とも称する)に用いられる定着装置では、一対の加熱されたローラとローラ、フィルムとローラ、ベルトとローラ、ベルトとベルト、といった回転体が圧接されている。そして、この回転体間に形成された圧接部位(以下「定着ニップ部」と称する)に、未定着トナーによって形成された画像を保持した紙の如き記録媒体を導入し、該未定着トナーを加熱し、溶融させることにより、記録媒体に当該画像を定着させる。記録媒体上の未定着トナー画像が接する回転体は定着部材と称され、その形態に応じて定着ローラ、定着フィルム、定着ベルトと称される。
【0003】
定着部材の外表面を構成する離型層(以下「離型層」と称する)には、トナーの付着を抑制するために、フッ素樹脂を含む離型層が用いられることがある。該フッ素樹脂は、具体的には、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、「PFA」とも称する)である。しかしながら、近年の画像形成速度の高速化に伴い、定着部材の表面温度を、より高温にすることが提案されている。この場合においては、PFAを含む離型層を備えた定着部材の外表面のトナーの離型性は未だ十分とはいえなかった。
【0004】
特許文献1は、感光体や中間転写体の如き電子写真用部材の外表面へのトナー付着の抑制のため、最外層にパーフルオロポリエーテル(以降、「PFPE」ともいう)を分子運動性が高い状態で含有させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「日本接着協会誌」、日本接着学会、1972年、第8巻、第3号、p.131-141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討の結果、特許文献1に係る電子写真用部材を、熱定着装置の加熱部材として用いた場合、長期の使用によって外表面のトナー離型性が低下し、熱定着時にトナーのホットオフセットが発生することがあった。
【0008】
本発明の一態様は、長期の使用によっても、トナーのホットオフセットが生じにくい定着部材の提供に向けたものである。また、本発明の他の態様は、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する定着装置の提供に向けたものである。さらに、本発明の他の態様は、高品位な電子写真画像を形成することのできる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【0009】
本発明の一態様によれば、
基材と、
表面層としての離型層と、を有する電子写真用の定着部材であって、
該離型層は、
第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂を含み、
該第1のフッ素樹脂は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)であり、
該第2のフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、及び、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも一方であり、
PFPE単体の、温度200℃で測定される19F-NMRから求めた、PFPE単体の縦緩和時間をT1-1とし、
該離型層の、温度200℃で測定される19F-NMRから求めた、該離型層中のPFPEの縦緩和時間をT1-2としたとき、T1-1及びT1-2が下記式(1)で示す関係を満たすことを特徴とする定着部材:
式(1)
[(T1-1)-(T1-2)]/(T1-1)≧0.1
が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上記の定着部材を備える電子写真用の定着装置が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上記の定着装置を備える電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、トナーのホットオフセットが生じにくい定着部材を得ることができる。また、本発明の他の態様によれば、高品位な電子写真画像の形成に資する定着装置を得ることができる。さらに、本発明の他の態様によれば、高品位な電子写真画像の形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様に係る定着ベルト(A)及び定着ローラ(B)の断面模式図である。
【
図2】本発明の一態様に係る定着ベルトを用いた定着装置の断面模式図である。
【
図3】本発明の一態様に係る定着ローラを用いた定着装置の断面模式図である。
【
図4】本発明の一態様に係る画像形成装置の概略断面模式図である。
【
図5】単体のPFPEの
19F-NMRスペクトルのチャートである。
【
図6】離型層から採取したサンプルの
19F-NMRスペクトルのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、特許文献1に係る電子写真用部材を定着装置の加熱部材に用いた場合に、トナーのホットオフセットが生じやすい理由を以下のように推測している。すなわち、定着装置においては、加熱部材の温度が、例えば、200℃以上といった高温となる。そのため、特許文献1に係る電子写真用部材の最外層(離型層)に含まれるPFPEの分子運動性が高くなり過ぎ、PFPEの外表面への浸み出し量が増加する。外表面に浸み出したPFPEは、トナーやトナー画像を載せた記録媒体と離型層との接触によって物理的に除去され、離型層中のPFPEは、比較的短時間で枯渇する。その結果、トナーが外表面に付着しやすくなり、ホットオフセットを生じさせているものと考えられる。
【0013】
そこで、本発明者らは、200℃の如き高温下におけるPFPEの外表面への浸み出しを抑えることにより、長期に亘る使用によっても、トナーのホットオフセットを生じさせにくい定着部材を得ることを目的として検討を重ねた。
その結果、最外層としての離型層中に、PFPEを、分子運動性を抑制した状態で含有させることによって、上記の目的を達成し得ることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の一態様に係る定着部材は、基材と、表面層としての離型層とを有する。そして、該離型層は、第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂を含む。
該第1のフッ素樹脂は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)である。また、該第2のフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及び、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも一方である。
そして、PFPE単体の、温度200℃で測定される19F-NMRから求めた、PFPE単体の縦緩和時間をT1-1とし、
該離型層の、温度200℃で測定される19F-NMRから求めた、該離型層中に含まれるPFPEの縦緩和時間をT1-2としたとき、T1-1及びT1-2が、下記式(1)で示す関係を満たす:
計算式(1)
[(T1-1)-(T1-2)]/(T1-1)≧0.1
。
【0015】
NMRにおける緩和とは、電磁波を受けることによって励起された核がエネルギを放出して基底状態に戻ることである。この緩和には、縦緩和と呼ばれるスピン-格子緩和と横緩和と呼ばれるスピン-スピン緩和がある。この緩和する過程は緩和時間と呼ばれる時定数によって規定される。特に、縦緩和時間T1は、分子の運動性と相関がある。例えば、高分子化合物においては、当該高分子化合物のガラス転移温度よりも十分に高い温度で測定したときの縦緩和時間T1が長いほど、当該高分子化合物の分子の運動性が高いことを意味する。例えば、PFPEは室温(23℃)で液状であり、温度200℃は、ガラス転移温度よりも十分に高いと言える。
【0016】
そして、分子運動性に何らの制約がない、PFPE単体の、温度200℃で測定した19F-NMRから求めたPFPE単体の縦緩和時間T1をT1-1秒とし、離型層の、温度200℃で測定した19F-NMRから求めた、該離型層中に含まれるPEFEの縦緩和時間T1をT1-2秒としたとき、T1-1及びT1-2が、上記計算式(1)で示される関係を満たすことは、離型層中に含まれるPFPEの分子運動性が第2のフッ素樹脂により有意に抑制されていることを意味している。
【0017】
該離型層の、温度200℃で測定される19F-NMRから求めた、該離型層中に含まれるPFPEの縦緩和時間T1-2としては、例えば、0.5秒以上3.5秒以下、特には、0.5秒以上2.0秒以下であることが好ましい。
【0018】
PFPEの分子運動性を制御するための第2のフッ素樹脂としては、例えば、PFA及びFEPから選ばれる少なくとも一方を好適に用い得る。PFA及びFEPは、離型層中に含有させた場合においても離型層の外表面のトナー離型性を低下させにくいためである。
【0019】
単体のPFPEの縦緩和時間T1-1は、例えば、NMR装置(例えば、商品名「400WB」、アジレント(Agilent)社製)を用いて、19F-NMRにより、以下の方法によって求めることができる。
【0020】
まず、PFPEを、乾燥空気(例えば、相対湿度50%)雰囲気下、下記の測定条件にて分析を行う。
測定条件
・測定項目:
19F
・観測周波数:376.81MHz
・プローブ:直径4.0mm
・回転速度:0kHz
・化学シフトの標準物質:六フッ化ベンゼン(-163ppm)
・(1)
19F-NMRスペクトル測定
測定法:シングルパルス法
測定温度:28℃
・(2)
19F-NMR縦緩和時間T1測定
測定法:インバージョンリカバリー法(180°-τ-90°)、
測定温度:200℃。
上記(1)の測定では、上記NMR装置の内部処理により、単体のPFPEの
19F-NMRスペクトルが得られる。得られた
19F-NMRスペクトルから、PFPEに由来するピークを帰属できる。例として単体のPFPE(ポリパーフルオロイソプロピルエーテル)の
19F-NMRスペクトルと帰属した結果を
図5に示す。
【0021】
上記(2)の測定においては、測定試料に対して高周波磁場パルスを、パルス幅180度で印加し、ついで、待ち時間τの経過後、さらに、高周波磁場パルスを、パルス幅90°で印加することにより、FID(Free Induction Decay)信号が得られる。得られたFID信号は、NMR装置の内部処理によって、フーリエ変換され、単体のPFPEの19F-NMRスペクトルが得られる。ここで、19F-NMRスペクトルから得られる、PFPEに由来する各々のシグナル強度A(τ)は、計算式(1)で表される。
計算式(1)
A(τ)=A0(1-2exp(-τ/T1))
ここで、A0は、PFPEに由来する各々のピークの強度の飽和値である。T1は、各ピークの縦緩和時間である。
そして、上記(2)の測定は、待ち時間τを、すべてのピークが飽和値に達するのに十分な時間(縦緩和時間T1の5倍以上、例えば、20~100秒)以下で少なくとも4回以上、好ましくは8回以上変化させて測定する。その結果、少なくとも4個のFID信号が得られ、当該FID信号から、少なくとも4個の19F-NMRスペクトルが得られることになる。
次いで、各スペクトルにおけるPFPEに帰属されるピークの各々について、待ち時間τを横軸とし、シグナル強度を縦軸とするグラフ上にプロットする。該グラフ上の少なくとも4個のプロットに基づいて、NMR装置の内部処理により、最小2乗法によって式(1)に基づいて曲線フィッティングを行って、A0及びT1を求める。
【0022】
そして、少なくとも4個の19F-NMRスペクトルから求まる少なくとも4つのT1のうち、最も大きい値を、T1-1とする。
【0023】
T1-1を測定するための、単体のPFPEのサンプルは、離型層中のPFPEの分子構造を、NMRの如き公知の分析方法で分析し、同じ分子構造を有するPFPEを入手してサンプルとしてもよい。
【0024】
また、離型層中のPFPEを下記の方法で抽出し、抽出したPFPEをサンプルとしてもよい。具体的な抽出方法の例を以下に述べる。まず、定着部材から離型層を採取する。定着部材から離型層を採取する方法としては、離型層を弾性層と共に切り出したのち、弾性層を「eソルブシリーズ」(カネコ化学社製)の如き樹脂溶解剤で溶解除去して、離型層のみを取り出す方法が挙げられる。採取した離型層は、PFPEの抽出効率を高めるために粉砕処理を施してもよい。
【0025】
次いで、採取した離型層をPFPEが溶解可能な溶剤(例えば、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン)中に浸漬し、温度25℃で24時間置く。これにより、溶剤中に離型層中のPFPEを溶出させる。
【0026】
次に、PFPEが溶出した溶剤と離型層とを濾別し、得られた濾液から、エバポレーターを用いて、PFPEが溶出した溶剤から溶剤を除去してPFPEを得る。なお、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタンは、「NOVEC7300」(商品名;3M社製)として市販されている。
【0027】
また、離型層中のPFPEの縦緩和時間T1-2は、例えば、NMR装置(例えば、「400WB」アジレント(Agilent)社製)を用いて、19F-NMRにより、以下の方法によって求めることができる。
【0028】
まず、離型層の測定用サンプルを採取する。定着部材から離型層の測定サンプルを採取する方法としては、以下の方法が挙げられる。離型層から測定サンプルを切り出す方法、及び、離型層の一部を弾性層と共に切り出したのち、弾性層を「eソルブシリーズ」(カネコ化学社製)の如き樹脂溶解剤で溶解除去して、測定サンプルを得る方法。
【0029】
次いで、測定用サンプルを、乾燥空気(例えば、相対湿度50%)雰囲気下、下記の測定条件にて分析を行う。
測定条件
・測定項目:
19F
・観測周波数:376.81MHz
・プローブ:直径4.0mm
・回転速度:10kHz
・化学シフトの標準物質:六フッ化ベンゼン(-163ppm)
・(3)
19F-NMRスペクトル測定
測定法:シングルパルス法
測定温度:28℃
・(4)
19F-NMR縦緩和時間T1測定
測定法:インバージョンリカバリー法(180°-τ-90°)、
測定温度:200℃。
上記(3)の測定では、上記NMR装置の内部処理により、測定用サンプルの
19F-NMRスペクトルが得られる。得られた
19F-NMRスペクトルから、PFPEに由来するピークを帰属する。帰属する方法としては、前記した単体のPFPEについて求めた
19F-NMRスペクトルから帰属されるピークに基づいて決めればよい。また、以下に示すPFPEの繰り返し単位に応じて予測されるピーク位置を参考に帰属してもよい。例として、PFPE(ポリパーフルオロイソプロピルエーテル)及びPFAを含む離型層の
19F-NMRスペクトル及び帰属した結果を
図6に示す。
【0030】
PFPEは、パーフルオロアルキレンエーテルの繰り返し単位を有する。そして、該パーフルオロアルキレンエーテルの例としては、パーフルオロメチルエーテル、パーフルオロエチルエーテル、パーフルオロプロピルエーテル及び、パーフルオロイソプロピルエーテルが挙げられる。
【0031】
従って、19F-NMRにおけるPFPEに由来するピークは、繰り返し単位の構造に応じて、以下の位置にシグナルが観測される。
・パーフルオロメチルエーテル:-50~-55ppm;
・パーフルオロエチルエーテル:-86~-91ppm;
・パーフルオロプロピルエーテル:
酸素に隣接するCF2由来のピーク:-80~-85ppm、
酸素と隣接しないCF2由来のピーク:-125ppm~-130ppm;
・パーフルオロイソプロピルエーテル:
-CF3、CF2O-由来のピーク:-77~-82ppm、
トリフルオロメチル基の結合した炭素に結合したフッ素由来のピーク:-141~-146ppm。
【0032】
上記(4)の測定においては、測定試料に対して高周波磁場パルスを、パルス幅180度で印加し、ついで、待ち時間τの経過後、さらに、高周波磁場パルスを、パルス幅90°で印加することにより、FID(Free Induction Decay)信号が得られる。得られたFID信号は、NMR装置の内部処理によって、フーリエ変換され、離型層の19F-NMRスペクトルが得られる。ここで、19F-NMRスペクトルから得られる、離型層中のPFPEに由来する各々のシグナル強度A(τ)は、上記計算式(1)で表される。
そして、上記(4)の測定は、待ち時間τを、すべてのピークが飽和値に達するのに十分な時間(例えば、20~100秒)以下で少なくとも4回、好ましくは8回以上変化させて測定する。その結果、少なくとも4個のFID信号が得られ、当該FID信号から、少なくとも4個の19F-NMRスペクトルが得られることになる。
【0033】
次いで、各スペクトルにおけるPFPEに帰属されるピークの各々について、待ち時間τを横軸とし、シグナル強度を縦軸とするグラフ上にプロットする。該グラフ上の少なくとも4個のプロットに基づいて、NMR装置の内部処理により、最小2乗法によって式(1)に基づいて曲線フィッティングを行って、A0及びT1を求める。
そして、少なくとも4個の19F-NMRスペクトルから求まる少なくとも4つのT1のうち、最も大きい値を、T1-2とする。
【0034】
離型層中のPFPEの分子運動性の抑制は、例えば、離型層中に、PFPE(第1のフッ素樹脂)とは異なる第2のフッ素樹脂を、PFPEのポリマー鎖と相互作用し得るように含有させることにより実現することができる。そして、このような離型層を備えた定着部材は、例えば、以下のような工程を経て得ることができる。
(工程1)第2のフッ素樹脂のペレットを、PFPEと撹拌混合して、混合物を得る。
(工程2)該混合物を、二軸押し出し機を用いて、第2のフッ素樹脂の融点(280~320℃)以上、450℃以下の温度で溶融混練しつつ押し出して、第2のフッ素樹脂及びPFPEの溶融混練物(以降、「第2のフッ素樹脂/PFPE溶融混練物」)を得る。
(工程3)該第2のフッ素樹脂/PFPE該溶融混練物をペレット化し、該ペレットを押し出し成形機にてチューブ状に押し出し成形し、離型層用チューブを得る。
(工程4)基材上に形成してなる弾性層の外表面を、離型層用チューブで被覆する。
【0035】
ここで、上記の(工程2)を経ることなしに、PFPEと第2のフッ素樹脂との混合物を用いて離型層を形成した場合、温度200℃における離型層中のPFPEの分子運動性を抑制することは困難である。すなわち、PFPEの縦緩和時間T1を、3.5秒以下とすることは困難である。すなわち、PFAとPFPEとを含む離型層は、例えば、2つのスプレーガンを用い、霧化中で混合する塗装システムを用いて作製することができる。ここで、一方のスプレーガンには、PFA分散液を充填し、もう一方に高分子量なPFPEを充填し、それぞれが所定量となるように噴霧量を調整しながら基体上に同時に噴霧して、PFAとPTFEとを含む塗膜を形成する。次いで、該塗膜をPFAの融点を超える温度で焼成することによって、PFA及びPFPEを含む離型層を得る。かかる方法で得られる離型層中のPFPEの縦緩和時間T1-2は、PFPE単体の縦緩和時間T1-1との変化率([(T1-1)-(T1-2)/(T1-1)])が、0.1未満である。そのため、離型層中のPFPEの分子運動性は、ほとんど抑制されない。その結果として、長期に亘る安定したトナー離型性の維持は困難である。
【0036】
以下に、本発明の一態様に係る定着部材について、具体的な構成に基づき詳細に説明する。
【0037】
1.定着部材
本発明の一態様に係る定着部材を、
図1を用いて説明する。
図1(A)は、エンドレスベルト形状の定着部材(以降、「定着ベルト」ともいう)11の周方向に平行に切断したときの断面図である。また、
図1(B)は、ローラ形状の定着部材(以降、「定着ローラ」ともいう)12の周方向に平行に切断したときの断面図である。
定着部材11、12は、基材13と、基材の表面を被覆する弾性層14と、弾性層の表面を被覆する離型層15とを有する。
離型層15は、弾性層14の表面に不図示の接着層で固定されていてもよい。なお、弾性層14は、必須の構成要素ではなく、基材13と、その表面に直接または接着層を介して離型層が設けられている構成であってもよい。
【0038】
(1)基材
基材13の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケルの如き金属及び合金、並びに、ポリイミドの如き耐熱性樹脂が用いられる。
【0039】
定着ローラにおいては、基材としては、例えば、中空状または中実の芯金が好適に用いられる。芯金の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレスの如き金属または合金が挙げられる。中空の芯金を用いる場合においては、内部に熱源を設けることが可能となる。
【0040】
定着ベルトにおいては、基材13としては、エンドレスベルト形状を有する基材が用いられる。基材の材質としては、例えば、ニッケル、ステンレス、ポリイミドの如き耐熱性に優れるものが挙げられる。かかる基材の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、強度、柔軟性、熱容量の観点から、20~100μmとすることが好ましい。
【0041】
基材13の外面には弾性層14との接着性を付与するために表面処理を施してもよい。表面処理には、ブラスト、ラップ及び研磨の如き物理的処理、酸化処理、カップリング剤処理及びプライマー処理の如き化学的処理を、一つまたは複数組み合わせて用いることが可能である。
【0042】
基材の表面に、シリコーンゴムを含む弾性層を設ける場合には、基材と弾性層との接着性を向上させるために、基材の表面に対してプライマー処理を施すことが好ましい。プライマー処理に用いるプライマーとしては、例えば、有機溶剤中に、シランカップリング剤、シリコーンポリマー、水素化メチルシロキサン、アルコキシシラン、反応促進触媒、ベンガラの如き着色剤が、適宜配合分散された塗料が挙げられる。
【0043】
プライマーは、基材の材質、弾性層の種類または架橋反応の形態によって適宜選択可能である。特に、弾性層が不飽和脂肪族基を多く含む場合には、不飽和脂肪族基との反応により接着性を付与するために、ヒドロシリル基を含有するプライマーが好適に用いられる。弾性層がヒドロシリル基を多く含む場合には、不飽和脂肪族基を含有するプライマーが好適に用いられる。プライマーとしてはそのほかにも、アルコキシ基を含有するものも挙げられる。
【0044】
プライマーは市販品を用いることができる。また、プライマー処理は、このプライマーを基材の表面(弾性層との接着面)に塗布し、乾燥または焼成させる工程を含む。
【0045】
(2)弾性層
弾性層を構成する材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴムの如き耐熱性ゴムを用いることが好ましく、中でも付加硬化型のシリコーンゴムであることが好ましい。
【0046】
弾性層の厚さは、定着部材の表面硬度、及び、形成するニップ幅を考慮して、適宜設計可能である。定着部材がベルト形状を有する場合には、弾性層の厚みは、100μm以上、500μm以下が好ましく、さらに好ましくは200μm以上、400μm以下である。
【0047】
また、定着部材がローラ形状を有する場合には、弾性層の厚みは、100μm以上、3mm以下が好ましく、さらに好ましくは300μm以上、2mm以下である。弾性層の厚みをこの範囲にすることで、定着部材を定着装置に組み込んだときに、基材の変形により十分なニップ幅が確保できる。
【0048】
弾性層はフィラーを含んでいてもよい。フィラーは、熱伝導性、耐熱性及び弾性率を制御するために添加するものである。具体的には、炭化ケイ素(SiC);窒化ケイ素(Si3N4);シリカ(SiO2);窒化ホウ素(BN);窒化アルミニウム(AlN);アルミナ(Al2O3);酸化鉄(Fe2O3);酸化亜鉛(ZnO);酸化マグネシウム(MgO);酸化チタン(TiO2);銅(Cu);アルミニウム(Al);銀(Ag);鉄(Fe);ニッケル(Ni);カーボンブラック(C);炭素繊維(C);カーボンナノチューブ(C)などが挙げられる。
【0049】
また、弾性層は反応開始時間を制御するためのインヒビターと呼ばれる反応制御剤(阻害剤)を配合してもよい。反応制御剤としては、メチルビニルテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール、ハイドロパーオキサイドの如き公知の物質が用いられる。
【0050】
(3)離型層
離型層は、第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂を含む。
該第1のフッ素樹脂は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)であり、該第2のフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及び、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも一方である。
【0051】
そして、該離型層中に含まれるPFPEの縦緩和時間T1-2は、好ましくは、0.5秒以上3.5秒以下であり、より好ましくは、0.5秒以上2.0秒以下である。
【0052】
<PFA>
PFAの例としては、例えば、パーフルオロメチルビニルエーテル[CF2=C(F)-O-CF3]、パーフルオロエチルビニルエーテル[CF2=C(F)-O-CF2CF3]及びパーフルオロプロピルビニルエーテル[CF2=C(F)-O-CF2CF2CF3]から選択される少なくとも一つと、テトラフルオロエチレンとの共重合体が挙げられる。
【0053】
PFA中におけるパーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、PAVEとも称す)は、分子鎖中に1mol%から5mol%程度含有すると、溶融混練時の樹脂粘度が下げられるため、好ましい。さらに3mol%から5mol%程度であれば、溶融混練時の樹脂粘度が下げられ、かつPFPEとの相互作用も高まるためより好ましい。
【0054】
また、PFAのメルトフローレート(MFR)は、離型層中におけるPFPEの分子運動の制御性の観点と、溶融混練時におけるPFPEとの相互作用を高める観点から、次の値の範囲にあることが好ましい。1.0g/10min以上10.0g/10min以下、特に好ましくは、1.5g/10min以上3.0g/10min以下。なお、PFAのMFRは、JIS K 7210-1:2014のA法に準じ、温度372℃で、5kgf荷重の条件下において、標準ダイを使用して測定した値である。
【0055】
用い得るPFAとしては、市販のものを用いることができ、以下に具体例を挙げる。
・「451HP-J」「959HP-Plus」「350-J」「950HP-Plus」(いずれも商品名;三井・デュポンフロロケミカル社製);
・「P-66P」、「P-66PT」、「P-802UP」(いずれも商品名;AGC社製);
・「AP-230」「AP-231SH」等(いずれも商品名;ダイキン社製)、
・「6502N」(商品名;スリーエム社製)。
【0056】
<FEP>
FEPは、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体であり、溶融混練時の粘度を下げてPFPEとの相互作用を高める観点から、ヘキサフルオロプロピレンを分子鎖中に1mol%から15mol%程度とすることが好ましい。
【0057】
またFEPのMFRとしては、PFAと同様の測定方法において、1.0g/10min以上10.0g/10min以下、特には、1.5g/10min以上3.0g/10min以下が好ましい。
【0058】
用い得るFEPとしては、市販のものを用いることができ、以下に具体例を挙げる。
・「100-J」「130-J」「140-J」等(いずれも商品名;三井・デュポンフロロケミカル社製);
・「NP-20」「NP-30」等(いずれも商品名;ダイキン社製)、
・「6301N」等(商品名;スリーエム社製)。
【0059】
<PFPE>
パーフルオロポリエーテル(PFPE)は、パーフルオロアルキレンエーテルを繰り返し単位として有するポリマーである。パーフルオロアルキレンエーテルの具体例としては、パーフルオロメチルエーテル、パーフルオロエチルエーテル、パーフルオロプロピルエーテル及び、パーフルオロイソプロピルエーテルが挙げられる。
【0060】
耐熱性の観点から、数平均分子量が、5,000以上100,000以下、特には、7,000以上30,000以下のものを好適に用いることができる。
【0061】
耐熱性の観点から、構成原子が、炭素原子、フッ素原子及び酸素原子のみであり、かつ、これらの原子が単結合で結合している化学構造を有するPFPEが好ましい。また、PFPEの中でもパーフルオロメチルエーテルの含有量が少ないことがより好ましく、1mol%以下であることが好ましい。酸素に隣り合った炭化フッ素構造は耐熱性が低く、熱分解の起点となりやすいためである。
【0062】
また、分子内に下記構造式(1)及び下記構造式(2)で示される構造の少なくとも一方を有するPFPEを、より好適に用い得る。すなわち、このような構造を分子内に有するPFPEは、離型層中において、温度200℃におけるNMRスペクトルにおける縦緩和時間T1-2をより良く調整することができる。その理由としては、構造式(1)や構造式(2)に係る構造が、PFA中の共有結合部分であるポリアルキレンビニルエーテルと構造が類似しており、ポリマー鎖同士が相互作用しやすいためであると考えられる。
【化1】
【化2】
【0063】
用い得るPFPEの具体例を以下に挙げる。なお、これらに限定されるものではない。
・構造式(3)で示される構造を有するPFPE(例えば、「Demnum S200」、「Demnum S100」(いずれも商品名;ダイキン社製)):
【化3】
。
・構造式(4)で表される構造を有するPFPE(例えば、「Krytox GPL107」、「Krytox GPL106」、「Krytox 143AD」、「Krytox VPF16256」、「Krytox XHT-750」、「Krytox XHT-1000」(いずれも商品名;ケマーズ社製)):
【化4】
。
・構造式(5)で表される構造を有するPFPE(例えば、「Fomblin M60」、「Fomblin M30」(いずれも商品名;ソルベイ社製)):
【化5】
。
【0064】
離型層は、PFA及びPFPEの合計量に対し、PFPEを1質量%以上30質量%以下の割合で、特には、3質量%以上20質量%以下の割合で含有することが好ましい。これにより該離型層の外表面の優れたトナー離型性を維持し、かつ、高温における外表面への過度な浸み出しを抑制することができる。
【0065】
<離型層の厚み>
離型層の厚みは3μm以上100μm以下、さらには10μm以上50μm以下が好ましい。3μm以上の厚みを有する離型層は形成が容易であり、かつ、離型層の厚みが100μm以下であれば定着部材から紙への伝熱性が良好であるためである。
【0066】
<定着部材の製造方法>
本態様に係る定着ベルトの製造方法について以下に述べる。
<<離型層用のフッ素樹脂チューブの調製>>
まず、下記工程1~工程3に記載の方法によって離型層用のフッ素樹脂チューブを作製する。
(工程1)第1のフッ素樹脂、すなわち、PFPEを、第2のフッ素樹脂のペレットと撹拌混合して、混合物を得る。
(工程2)該混合物を、二軸押し出し機を用いて、第2のフッ素樹脂の融点以上の温度で溶融混練しつつ押し出して、第2のフッ素樹脂及びPFPEの溶融混練物を得る。
(工程3)該溶融混練物をペレット化し、該ペレットを押し出し成形機にてチューブ状に押し出し成形し、離型層用チューブを得る。
【0067】
(工程1)
第2のフッ素樹脂のペレット及びPFPEを所定の量比にて攪拌機中で撹拌、混合して第2のフッ素樹脂及びPFPEの混合物を得る。ここでの撹拌条件は特に限定されるものではない。例えば、第2のフッ素樹脂のペレットに対してあらかじめ粉砕処理などを行った後、PFPEと撹拌、混合することができる。これにより、第2のフッ素樹脂とPFPEの接触面積が増大するため、溶融混練時にPFPEとの相互作用をさらに高めやすくなるので好ましい。
【0068】
(工程2)
工程1で得られた混合物のペレットを二軸押出機に投入し、第2のフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱して、第2のフッ素樹脂を溶融させつつ、所定の条件で混練し、第2のフッ素樹脂とPFPEとの溶融混練物を得る。
例えば、第2のフッ素樹脂としてPFAを用いる場合、例えば、温度350~420℃に加熱することでPFAを溶融させることができる。また、第2のフッ素樹脂としてFEPを用いる場合、例えば、300~370℃に加熱することでFEPを溶融させることができる。
混練条件としては、例えば、二軸押出機のスクリューの直径が46mmである場合においては、スクリュー回転数を100~600rpmとして混練する。
【0069】
第1のフッ素樹脂及び第2のフッ素樹脂は、共に表面自由エネルギが小さいため、PFAまたはFEPのポリマー鎖を、PFPEと相互作用し得るように混合することは困難かとも思われた。しかしながら、溶融状態にある第2のフッ素樹脂をPFPEと共に強いせん断を加えて混練することで、PFPEを相分離させることなく、第2のフッ素樹脂と混合させることができた。溶融状態にあるPFAやFEPは、結晶領域も含めて分子鎖にほどけている状態と考えられる。この状態においては、分子構造に類似性があり化学的親和性の高いPFPEと、PFAやFEPとは、全体もしくは部分的に相溶状態で存在している。そのため、温度200℃の如き高温においても、PFPEは、PFAやFEPと相分離することなく、PFPEがPFAに化学的に安定に含まれている状態を実現していると考えられる。
【0070】
(工程3)
工程2で得た溶融混練物をペレット化し、該ペレットを、押し出し成形機を用いてチューブ形状に押し出して、離型層形成用のフッ素樹脂チューブを成形する。
溶融状態のPFAにPFPEが混合された状態は、PFAのみが溶融している状態と比較して、溶融粘度が低いため、PFA単独の溶融物を押し出すよりも加熱温度を低く設定することが可能である。
そのため本工程における溶融混練物の加熱温度としては、PFAとの溶融混練物であれば、好ましくは、340~400℃である。
またFEPとの溶融混練物であれば、好ましくは、300~360℃である。
【0071】
<<定着部材の作製>>
(工程4)は、エンドレスベルト形状の基体の外周面を被覆してなる弾性層の外周面を、(工程3)で得たフッ素樹脂チューブで被覆する工程を含む。ここで、弾性層の外周面には、あらかじめ接着層を設けておいてもよい。
【0072】
2.定着装置
定着装置は、一対の加熱されたローラとローラ、フィルムとローラ、ベルトとローラ、ベルトとベルト、といった回転体が圧接されており、電子写真画像形成装置全体としてのプロセス速度、大きさ等の条件を勘案して適宜選択される。ここでは、定着装置の具体例を示して、その構成を説明する。
【0073】
(1)定着ベルトを用いた定着装置
図2には、本発明の一態様に係る定着ベルトと、加熱手段とを備えた、本発明の一態様に係る電子写真用の定着装置の一例における横方向断面模式図を示す。
この定着装置において、定着ベルト11は、本発明の一態様に係る定着部材としてのシームレス形状の定着ベルトである。この定着ベルト11を保持するために、耐熱性・断熱性を有する樹脂によって成形されたベルトガイド部材16が配設されている。
【0074】
このベルトガイド部材16と定着ベルト11の内面とが接触する位置に、当該定着装置の加熱手段の一部を構成する熱源としてのセラミックヒータ17を具備する。
セラミックヒータ17はベルトガイド部材16の長手方向に沿って成形された溝部に嵌入して固定支持されている。セラミックヒータ17は、不図示の手段によって通電され発熱する。
【0075】
シームレス形状の定着ベルト11はベルトガイド部材16にルーズに外嵌させてある。加圧用剛性ステイ18はベルトガイド部材16の内側に挿通してある。
加圧部材としての弾性加圧ローラ19はステンレス芯金19aにシリコーンゴムの弾性層19bを設けて表面硬度を低下させたものである。
【0076】
ステンレス芯金19aの両端部を装置に不図示の手前側と奥側のシャーシ側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設してある。
弾性加圧ローラ19は、表面性及び離型性を向上させるために表層19cとして、厚さ50μmのフッ素樹脂チューブが被覆されている。
【0077】
加圧用剛性ステイ18の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用剛性ステイ18に押し下げ力を付与している。これによってベルトガイド部材16の下面に配設したセラミックヒータ17の下面と弾性加圧ローラ19の上面とが定着ベルト11を挟んで圧接して所定の定着ニップNが形成される。すなわち、セラミックヒータ17の下面は、エンドレスベルト形状を有する定着ベルト11の内周面に接して配置されている。
【0078】
この定着ニップNに未定着トナーGによって画像が形成された、被加熱体となる記録媒体Pを搬送速度Vで挟持搬送させる。これにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色、その後、冷却されることによって記録媒体P上にトナー像が定着される。
【0079】
(2)定着ローラを用いた定着装置
図3には本発明の一態様に係る定着ローラを用いた、定着装置の一例における横方向断面模式図を示す。
この定着装置において、定着ローラ12は、本発明の一態様に係る定着部材である。この定着ローラ12は基材13の外周面に弾性層14が形成され、さらにその外側に離型層15が形成されている。
【0080】
定着ローラ12と対向するように加圧部材としての弾性加圧ローラ19が配されており、不図示の加圧手段により、二つのローラが回転可能に押圧されることで、定着ニップNが形成されている。
【0081】
定着ローラ12及び弾性加圧ローラ19の内部には、未定着トナーGを溶融するために必要な熱を供給する、熱源としてのヒータ20が設置されている。ヒータ20としてはハロゲンヒータが一般に用いられる。搬送されてくる記録媒体Pのサイズに合わせて、複数本のハロゲンヒータを内部に設置する場合もある。
【0082】
定着ローラ12及び弾性加圧ローラ19は不図示の手段により基材13及びステンレス芯金19aの端部を通じて回転力が加えられ、定着ローラ12表面の移動速度が搬送速度Vと略等速となるように回転が制御されている。この際、回転力は、定着ローラ12及び弾性加圧ローラ19のどちらかに付与され、もう一方が従動により回転していても良いし、両方に回転力が付与されていても良い。
【0083】
このように形成された定着装置の定着ニップNに、未定着トナーGによって画像が形成された被加熱体となる記録媒体Pを挟持搬送させる。これにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色、その後、冷却されることによって記録媒体上にトナー像が定着される。
【0084】
3.画像形成装置
画像形成装置としては、電子写真方式を用いた複合機、コピー、ファックス、プリンタなどがある。ここではカラーレーザープリンタを例に用い、画像形成装置の全体構成について概略説明する。
【0085】
図4は本発明の一様態に係るカラーレーザープリンタの概略断面図である。
図4に示したカラーレーザープリンタ(以下「プリンタ」と称す)40は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の色毎に一定速度で回転する電子写真感光体ドラム(以下「感光体ドラム」と称す)を有する画像形成部を有する。また、画像形成部で現像され多重転写されたカラー画像を保持し、給送部から給送された記録媒体Pにさらに転写する中間転写体38を有する。
感光体ドラム39(39Y、39M、39C、39K)は、駆動手段(不図示)によって、
図4に示すように反時計回りに回転駆動される。
【0086】
感光体ドラム39の周囲には、その回転方向にしたがって順に、以下の装置等が配置されている。
・感光体ドラム39表面を均一に帯電する帯電装置21(21Y、21M、21C、21K)
・画像情報に基づいてレーザービームを照射し、感光体ドラム39上に静電潜像を形成するスキャナユニット22(22Y、22M、22C、22K)
・静電潜像にトナーを付着させてトナー像として現像する現像ユニット23(23Y、23M、23C、23K)
・感光体ドラム39上のトナー像を一次転写部Tで中間転写体38に転写させる一次転写ローラ24(24Y、24M、24C、24K)
・転写後の感光体ドラム39表面に残った転写残トナーを除去するクリーニングブレードを有するクリーニングユニット25(25Y、25M、25C、25K)
【0087】
画像形成に際しては、ローラ26、27及び28に張架されたベルト状の中間転写体38が回転するとともに各感光体ドラム39に形成された各色トナー像が前記中間転写体38に重畳して一次転写されることでカラー画像が形成される。
【0088】
前記中間転写体38への一次転写と同期するように搬送手段によって記録媒体Pが二次転写部T2へ搬送される。搬送手段は複数枚の記録媒体Pを収納した給送カセット29、給送ローラ30、分離パッド31、レジストローラ対32を有する。画像形成時には給送ローラ30が画像形成動作に応じて駆動回転し、給送カセット29内の記録媒体Pを一枚ずつ分離し、該レジストローラ対32によって画像形成動作とタイミングを合わせて二次転写部T2へ搬送する。
【0089】
二次転写部T2には移動可能な二次転写ローラ33が配置されている。二次転写ローラ33は、略上下方向に移動可能である。そして、像転写に際して、二次転写ローラ33は記録媒体Pを介して中間転写体38に所定の圧で押しつけられる。この時同時に二次転写ローラ33にはバイアスが印加され中間転写体38上のトナー像は記録媒体Pに転写される。
【0090】
中間転写体38と二次転写ローラ33とはそれぞれ駆動されているため、両者に挟まれた状態の記録媒体Pは、
図4に示す左矢印方向に所定の搬送速度Vで搬送され、さらに搬送ベルト34により次工程である定着部35に搬送される。定着部35では熱及び圧力が印加されて転写トナー像が記録媒体Pに定着される。その記録媒体Pは排出ローラ対36によって装置上面の排出トレイ37上へ排出される。
【0091】
そして、
図2、
図3に例示した定着装置を、
図4に例示した電子写真画像形成装置の定着部35に適用することにより、良好な定着画像を提供可能な画像形成装置を得ることができる。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
(離型層の表面自由エネルギの測定)
離型層の表面自由エネルギは、非特許文献1に記載されている「北崎・畑の方法」で算出することができる。まず、水、n-ヘキサデカン、ジヨードメタンを標準液体として、定着ベルトの離型層の接触角を測定した(測定環境:温度23℃、相対湿度55%)。次いで、各接触角の測定結果を用いて、非特許文献1の第131ページの「2.Forks式の拡張」~「3.高分子固体の表面張力とその成分」の記載に従って、「拡張Fowkesの式」から表面自由エネルギを求めた。
【0094】
測定には接触角計(協和界面科学製、商品名「DM-501」)を使用し、表面自由エネルギ解析には解析ソフトウェア(協和界面科学製、商品名「FAMAS」)を使用した。
【0095】
(PFPE単体の、温度200℃における19F-NMRスペクトルの縦緩和時間T1-1の測定)
まず、定着部材から離型層を弾性層と共に切り出したのち、弾性層を「eソルブシリーズ」(カネコ化学社製)の如き樹脂溶解剤で溶解除去して、離型層のみを取り出した。次いで、採取した離型層をNOVEC7300(商品名;3M社製)中に浸漬し、温度25℃で24時間置いた。
次に、PFPEが溶出した溶剤と離型層とを濾別し、得られた濾液から、エバポレーターを用いて、PFPEが溶出した溶剤から溶剤を除去してPFPEを得た。
得られたサンプルを用いて前記の方法によってT1-1を求めた。
【0096】
(19F-NMRスペクトルの縦緩和時間T1-2の測定)
定着部材ベルトから離型層の部分だけ削りとり、得られたサンプルを用いて前記の方法によってT1-2を求めた。
【0097】
<PFAの用意>
離型層形成用のフッ素樹脂チューブの作製に用いるPFA及びPTFEとして表1及び2に記載のPFA種及びPFPE種を用意した。
【0098】
【0099】
【0100】
(実施例1)
(離型層の作製)
PFA-1とPFPE-1とを、PFA及びPFPEの合計質量に対するPFPEの質量の比(以下、「PFPE/(PFA+PFPE)」と称する)が0.10となるように撹拌機中で混合・撹拌して、PFA及びPTFEの混合物を得た。
該混合物を二軸押出機に投入し、スクリュー直径:46mm、スクリュー回転数:180rpm、シリンダー温度:350℃~420℃の条件で混練押出を行った。押出した組成物を冷却、切断することにより、PFA/PFPEペレットを作製した。
【0101】
作製したPFA/PFPEペレットを、スクリュー直径が40mmの単軸押出機に投入した。続いて、押出し速度:50g/分、シリンダー温度:320℃~370℃にて、PFA/PFPEペレットを溶融させつつ鉛直下方に向かってチューブ状に押し出しつつ、引張速度:3.0m/分にてチューブを引っ張った。これにより、厚さ50μmの離型層用のフッ素樹脂チューブを作製した。なお、フッ素樹脂チューブの内径が30mmになるよう、マンドレルを調整した。
【0102】
得られたフッ素樹脂チューブから測定サンプル1を採取し、前記の方法に従って、温度200℃におけるPFPEに由来するピークの縦緩和時間T1-2を測定した。
【0103】
(基材、弾性層の作製)
基材として、内径30mm、幅400mm、厚さ40μmのニッケル電鋳製のエンドレス形状を有する基材を用意した。この基材の外周面にプライマー処理を施した。
【0104】
弾性層形成のための原料として、フィラーを含まない付加硬化型の液状シリコーンゴム(商品名:「SE1886」、東レ・ダウコーニング株式会社製)を用意した。この液状シリコーンゴム61体積部に対して、以下の材料を加えた。
・球状フィラーとして、球状アルミナ(商品名:「アルナビーズCB-A30S」、昭和電工株式会社製)を38体積部
・異形フィラーとして、気相法炭素繊維(商品名:「VGCF-S」;昭和電工株式会社製、アスペクト比=100、平均繊維長=10μm)を1体積部
こうして、弾性層形成用の付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製した。これらを上記基材の外周面上にリングコート法を用いて塗布した後、温度200℃で4時間加熱して、付加硬化型シリコーンゴム組成物の層を架橋させて、厚さ300μmの弾性層を形成した。
【0105】
該弾性層が形成された基材を、周方向に20mm/secの移動速度で回転させながら、弾性層の表面からの離間距離が10mmの位置に配置した紫外線ランプを用いて、弾性層表面に大気雰囲気下で紫外線を照射した。紫外線ランプには、低圧水銀紫外線ランプ(商品名:GLQ500US/11;東芝ライテック社製)を用い、照射面における、185nmの波長の積算光量が800mJ/cm2となるように照射した。
【0106】
(定着ベルトの作製)
次いで、弾性層の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤(商品名:SE1819CV;東レ・ダウコーニング社製の「A液」及び「B液」を等量混合)を厚さがおよそ20μm程度になるように略均一に塗布した。
次に、離型層として、上記で作製したフッ素樹脂チューブを被せ、該フッ素樹脂チューブの上からベルト表面を均一に扱くことにより、過剰の接着剤を弾性層とフッ素樹脂チューブの間から扱き出した。
そして、温度200℃に設定した電気炉に、弾性層及び該弾性層の周面にフッ素樹脂チューブを被覆してなる基材を入れ、1時間加熱した。これにより、接着剤を硬化させてフッ素樹脂チューブを弾性層上に接着し、両端を切断して、幅が343mmの定着ベルトNo.1を得た。得られた定着ベルトNo.1を下記の評価に供した。
【0107】
(評価1:通紙耐久評価)
定着ベルトNo.1を電子写真画像形成装置(商品名:imageRUNNER-ADVANCE C5051;キヤノン社製)の定着ベルトとして装着した。また、定着ベルトの表面温度が、通常の設定温度よりも20℃高くなるように定着条件を変更した。この電子写真画像形成装置を用いて、ハンマーミル紙(International paper社製、サイズ:A4、坪量75g/m2)を通紙した。そして、1000枚目及び10000枚目の紙を通過させたのちの定着ベルトの離型層表面の表面自由エネルギを測定した。
【0108】
(実施例2~12)
フッ素樹脂チューブの作製に用いるPFA種、PFPE種及びPFAとPFPEの混合比率(PFPE/(PFA+PFPE))の少なくとも1つを表3に示すように変更した。それ以外は、実施例1に係るフッ素樹脂チューブと同様にしてフッ素樹脂チューブを作製した。各フッ素樹脂チューブについて、実施例1と同様にしてPFPEの縦緩和時間T1-2を測定した。
また、実施例1に係るフッ素樹脂チューブに代えて実施例2~12に係るフッ素樹脂チューブを用いた以外は、実施例1に係る定着ベルトと同様にして実施例2~12に係る定着ベルトを作製し、評価1に供した。
【0109】
【0110】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、基材、弾性層の作製を行い、該弾性層の表面をエキシマUVで処理した後、プライマー(商品名:EK-1909S21L、ダイキン工業株式会社製)を厚み2μmとなるように均一にスプレーコートし、乾燥させた。
【0111】
次いで、2つのスプレーガンを用意した。一方のスプレーガンにはPFA粒子の水系分散塗料(商品名:AW-5000L、ダイキン工業株式会社製、融点300℃、ガラス転移点90℃)を充填した。他方のスプレーガンには、PFPE-3を充填した。そして、これらのスプレーガンを用いて、弾性層の表面に、PFAの水系分散塗料とPFPEとを塗布し、PFA粒子とPFPEとを含む、厚さ20μmの塗膜を形成した。このとき、塗膜中のPFA固形分重量に対し、PFPE-3の質量比が0.1となるようにスプレーガンの塗布量を調整した。
【0112】
次いで、該塗膜を温度350℃で15分間加熱し、該塗膜中のPFA粒子を熔融せしめて、離型層を形成して比較例1に係る定着ベルトを得た。得られた定着ベルトの離型層について、実施例1と同様にしてPFPEの縦緩和時間T1-2を測定した。
また、比較例1に係る定着ベルトについて、評価1に供した。
【0113】
実施例1~12及び比較例1について、T1-1及びT1-2、並びに[(T1-1)-(T1-2)]/(T1-1)の各値を表4に示す。
また、実施例1~12及び比較例1に係る定着ベルトの各々について、評価1の結果を表5に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
200℃でのNMRスペクトルにおける離型層中のPFPEに由来するピークの縦緩和時間T1を0.5以上3.5以下とすることにより、複数枚の画像を連続で定着しても表面自由エネルギを15mJ/m2以下に維持できた。さらに、200℃でのNMRスペクトルにおける離型層中のPFPEに由来するピークの縦緩和時間T1を0.5以上2.0以下とすることにより、10000枚の画像を連続で定着しても通紙前後の表面自由エネルギ差が1.0以下と小さくなった。これによりPFPE維持性が高く、より長期間トナー離型性を維持可能と考えられる。さらに、実施例1と4、実施例2と5をそれぞれ比較すると、PFA中の共重合成分であるPAVEが4.3mol%と多いほうがさらに、通紙前後の表面自由エネルギ差が0.5以下と小さくできた。
【符号の説明】
【0117】
11 定着ベルト
12 定着ローラ
15 離型層
35 定着部
40 カラーレーザープリンタ