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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】合成樹脂製フランジブッシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20221130BHJP
   B29C 45/38 20060101ALI20221130BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20221130BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F16C33/20 Z
B29C45/38 E
B29C45/56
F16C17/10 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019053961
(22)【出願日】2019-03-21
(65)【公開番号】P2020153463
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】福澤 覚
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-323447(JP,A)
【文献】特開2018-194023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00
F16C 33/00
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部の一端にフランジ部が一体成形された合成樹脂製のフランジブッシュをディスクゲートを用いた射出成形によって製造する合成樹脂製フランジブッシュの製造方法であって、
前記合成樹脂製フランジブッシュは軸受孔を構成する内周面がラジアル軸受面であり、前記フランジ部において前記筒部とは反対側の軸方向端面がスラスト荷重を受けるスラスト軸受面であり、
前記スラスト軸受面は可動型板と固定型板との衝合面からなり、
前記製造方法は、前記衝合面から前記可動型板側に設けられ、前記固定型板と前記可動型板を型閉じして形成される筒部およびフランジ部からなるキャビティに、該フランジ部のキャビティの内周部に設けられた前記ディスクゲートを介して合成樹脂を充填し、成形体を形成する成形工程と、型開きして前記成形体を取り出す離型工程と、前記成形工程後で、かつ、前記離型工程前に、型内でゲートカットするゲートカット工程とを備え、
前記ゲートカット工程は、前記固定型板と前記可動型板が型閉じした状態で、前記成形体の内径面を形成するコアピンを型閉じ方向に前進させて、前記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とする合成樹脂製フランジブッシュの製造方法。
【請求項2】
前記コアピンが前記可動型板側に設けられており、
前記ゲートカット工程は、前記コアピンを前記固定型板に向かって前進させ、前記ディスクゲートを前記固定型板内に押し込むことで前記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂製フランジブッシュの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、前記固定型板と前記可動型板とランナストリッパプレートとからなる3プレート構造の金型を用いる方法であり、
前記ゲートカット工程は、前記固定型板と前記ランナストリッパプレートとの開放に連動して、前記コアピンを前記固定型板に向かって前進させることを特徴とする請求項2記載の合成樹脂製フランジブッシュの製造方法。
【請求項4】
前記合成樹脂製フランジブッシュは、内径が10mm~60mm、前記フランジ部の外径が20mm~160mm、前記フランジ部の肉厚が0.2mm~8mmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の合成樹脂製フランジブッシュの製造方法。
【請求項5】
前記合成樹脂製フランジブッシュは、前記フランジ部の外周の一部を切り欠いた切り欠き部を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の合成樹脂製フランジブッシュの製造方法。
【請求項6】
シャフトを中心に回転するロータと、前記シャフトに対して同軸となる円周上に設置され、前記ロータを回転駆動するステータとを備えた電動ウォータポンプにおける前記ロータの滑り軸受として用いられる合成樹脂製フランジブッシュの製造方法であって、
前記製造方法は、筒部の一端にフランジ部が一体成形された前記合成樹脂製フランジブッシュをディスクゲートを用いた射出成形によって製造する方法であり、
前記合成樹脂製フランジブッシュは軸受孔を構成する内周面がラジアル軸受面であり、前記フランジ部において前記筒部とは反対側の軸方向端面がスラスト荷重を受けるスラスト軸受面であり、
前記スラスト軸受面は可動型板と固定型板との衝合面からなり、
前記製造方法は、前記衝合面から前記可動型板側に設けられ、前記固定型板と前記可動型板を型閉じして形成される筒部およびフランジ部からなるキャビティに、該フランジ部のキャビティの内周部に設けられた前記ディスクゲートを介して合成樹脂を充填し、成形体を形成する成形工程と、型開きして前記成形体を取り出す離型工程と、前記成形工程後で、かつ、前記離型工程前に、型内でゲートカットするゲートカット工程とを備え、
前記ゲートカット工程は、前記固定型板と前記可動型板が型閉じした状態で、前記成形体の内径面を形成するコアピンを型閉じ方向に前進させて、前記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とする合成樹脂製フランジブッシュの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製フランジブッシュの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製フランジブッシュは、無潤滑、軽量、安価などのメリットがあり、比較的緩い使用条件の装置、機器などにおいて多用されている。合成樹脂製フランジブッシュの製造方法として、例えば、ベアリーARFシリーズ(NTN社製)のようなフッ素樹脂製のフランジブッシュは圧縮成形体から機械加工により製造されている。また、ベアリーBRFシリーズ(NTN社製)のように射出成形で製造される製品も市販されている。
【0003】
射出成形で製造される合成樹脂製フランジブッシュとして、フランジ状受面のスラスト荷重を受ける受圧面より下側に、金型の導入ゲートから送られる合成樹脂の導入部を形成することが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-161094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の合成樹脂製フランジブッシュは、フランジ状受面のスラスト荷重を受ける受圧面より下側に、導入ゲートから送られる合成樹脂の導入部を形成する構成であるため、射出成形後に残る導入部を除去しなくてもよくなる。このため、受圧面の面積が狭くならず、受圧面におけるスラスト荷重による単位面積当たりの面圧が大きくなることを抑制でき、滑り軸受の寿命の延長を図っている。
【0006】
しかし、この合成樹脂製フランジブッシュでは、溶融樹脂が合流する領域であるウェルドが生じるため、軸受面の精度は妥協しなければならないという問題があった。さらに、ウェルドにおける表面平滑性の低下や、ウェルドの機械強度低下により成形体の強度低下が懸念される。
【0007】
一方、ウェルドの発生しない射出成形方法として、ディスクゲートが知られている。ディスクゲート方式の射出成形ではウェルドが生じないため、ウェルドに起因する強度低下や表面平滑性低下を防止できる。しかしこの射出成形では、一般に射出成形後に成形体の内径部を切削加工する必要がある。内径部の切削加工とは、ディスクゲートの取り外し加工であり、射出成形後に別工程として旋盤加工などが必須となるため、製造時間の延長やコストアップの要因となっている。
【0008】
本発明はこれらの問題に対処するためになされたものであり、ディスクゲートを採用しつつ、射出成形後の旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができる合成樹脂製フランジブッシュの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の合成樹脂製フランジブッシュの製造方法は、筒部の一端にフランジ部が一体成形された合成樹脂製のフランジブッシュをディスクゲートを用いた射出成形によって製造する合成樹脂製フランジブッシュの製造方法であって、上記製造方法は、固定型板と可動型板を型閉じして形成される筒部およびフランジ部からなるキャビティに、該フランジ部のキャビティの内周部に設けられた上記ディスクゲートを介して合成樹脂を充填し、成形体を形成する成形工程と、型開きして上記成形体を取り出す離型工程と、上記成形工程後で、かつ、上記離型工程前に、型内でゲートカットするゲートカット工程とを備え、上記ゲートカット工程は、上記固定型板と上記可動型板が型閉じした状態で、上記成形体の内径面を形成するコアピンを型閉じ方向に前進させて、上記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とする。
【0010】
上記コアピンが上記可動型板側に設けられており、上記ゲートカット工程は、上記コアピンを上記固定型板に向かって前進させ、上記ディスクゲートを上記固定型板内に押し込むことで上記ディスクゲートを切断する工程であることを特徴とする。
【0011】
上記製造方法は、上記固定型板と上記可動型板とランナストリッパプレートとからなる3プレート構造の金型を用いる方法であり、上記ゲートカット工程は、上記固定型板と上記ランナストリッパプレートとの開放に連動して、上記コアピンを上記固定型板に向かって前進させることを特徴とする。
【0012】
上記合成樹脂製フランジブッシュは、内径が10mm~60mm、上記フランジ部の外径が20mm~160mm、上記フランジ部の肉厚が0.2mm~8mmであることを特徴とする。
【0013】
上記合成樹脂製フランジブッシュは、上記フランジ部の外周の一部を切り欠いた切り欠き部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の合成樹脂製フランジブッシュの製造方法は、ディスクゲートを用いた射出成形によって製造するので、ウェルドが発生しない。そのため、ウェルドに起因する強度低下や表面平滑性低下を防止でき、強度の均一性や表面平滑性に優れる。また、サイドゲートやピンゲートなどの制限ゲートを用いた場合に発生するゲートでの表面平滑性の低下を防止でき、表面平滑性に優れる。
【0015】
さらに、成形工程後で、かつ、離型工程前に、固定型板と可動型板が型閉じした状態で、成形体の内径面を形成するコアピンを型閉じ方向に前進させて、ディスクゲートを切断する、つまり、型内ゲートカットするので、射出成形後の旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができる。この製造工程の省略化によって、製造時間の短縮や製造コストの削減が図れる。
【0016】
上記ゲートカット工程は、固定型板と可動型板が型閉じした状態で、可動型板側のコアピンを固定型板に向かって前進させ、ディスクゲートを固定型板内に押し込むことでディスクゲートを切断するので、成形体とゲートが相対移動してディスクゲートが切り離され、得られたフランジブッシュの内径面に、ディスクゲートの一般的な取り外し工程である旋盤加工を行なう場合のような旋削痕が付かない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】フランジブッシュの一形態を示す斜視図である。
図2】本発明の製造方法に用いる金型の構造を示す断面模式図である。
図3】本発明の製造方法の成形工程を示す断面模式図である。
図4】本発明の製造方法のランナー部の取り出しを示す断面模式図である。
図5】本発明の製造方法のゲートカット工程を示す断面模式図である。
図6】本発明の製造方法の離型工程を示す断面模式図である。
図7】フランジブッシュの他の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の製造方法によって製造される合成樹脂製フランジブッシュ(以下、フランジブッシュとも言う)の一形態を図1に基づいて説明する。図1はフランジブッシュの斜視図である。図1に示すように、フランジブッシュ1は、シャフトなどの回転軸を回転自在に支承するための軸受孔4を径方向中央部に有する略円筒体である。フランジブッシュ1は、円筒状の筒部2と該筒部2の一端に径方向外側に拡大したフランジ部3を備える。軸受孔4を構成する内周面1aがラジアル軸受面となる。フランジ部3の端面3a(筒部2とは反対側の端面)はハウジングなどの他部材の端面と接触して、スラスト荷重を受けるスラスト軸受面となる。
【0019】
本発明の製造方法によって製造されるフランジブッシュ1の大きさ(外径や内径など)は、用途などによって適宜設定される。例えば、フランジブッシュの寸法は、内径が10mm~60mmである。また、フランジ部3の外径が20mm~160mmであり、フランジ部3の肉厚(軸方向長さ)が0.2mm~8mmである。
【0020】
本発明に係るフランジブッシュは熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって製造される。合成樹脂は用途に応じて適宜採用可能である。熱可塑性樹脂の中でも、結晶性樹脂が好ましい。結晶性樹脂として、例えば、ポリアミド(PA)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、射出成形可能なポリイミド(PI)樹脂などが挙げられる。また、必要に応じて合成樹脂に、炭素繊維、ガラス繊維などの繊維状補強材や、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、グラファイトなどの固体潤滑剤を配合してもよい。
【0021】
フランジブッシュの形状は図1の形態に限らない。例えば、図7に示すように、フランジ部3の外周の一部を直線状に切り欠いた切り欠き部5を有する形態としてもよい。切り欠き部5は回り止め機能を有し、この切り欠き部5をハウジングなどに係合させることで、フランジブッシュの該ハウジングに対する相対回転を防止することができる。なお、フランジブッシュの外径面の形状は略円筒状に限らず、ハウジング形状に合わせた多角形状としてもよい。
【0022】
本発明のフランジブッシュの製造方法は、上記フランジブッシュをディスクゲート方式の射出成形により製造する方法である。本発明の製造方法は、以下の(a)~(c)の3つの工程を少なくとも備える。すなわち、(a)射出成形金型に形成されるキャビティにディスクゲートを介して合成樹脂を充填し、成形体を形成する成形工程と、(b)射出成形金型内でゲートカットするゲートカット工程と、(c)型開きして成形体を取り出す離型工程とを備える。
【0023】
本発明の製造方法に用いる射出成形金型を図2に基づいて説明する。図2の射出成形金型は、可動型板6と、固定型板7と、ランナストリッパプレート8とからなる3プレート構造の金型である。可動型板6は、金型の開閉に伴って、固定型板7に対し、型開き方向(図2の左方向)に移動可能に設けられた金型である。また、固定型板7も、ランナストリッパプレート8に対し、型開き方向に移動可能に設けられた金型である。図2は、これら金型が型閉じされた状態であり、可動型板6と固定型板7はパーティングラインPLで衝合され、固定型板7とランナストリッパプレート8は衝合面Fで衝合されている。固定型板7は、第2スプルーブッシュ7aと、第2スプルーブッシュ7aおよびコイルバネ7cを収容する入れ子7bと、コイルバネ7cと、ランナプレート7dとを有する。図2の型閉じ状態において、第2スプルーブッシュ7aの可動型板側の端面および入れ子7bの可動型板側の端面は、平坦面(面一)となっており、固定型板7のパーティングラインPLの一部を構成している。
【0024】
ランナストリッパプレート8には、合成樹脂の射出方向と同軸に設けられた第1スプルー9が、ランナストリッパプレート8と固定型板7のランナプレート7dとの間には、第1スプルー9と連通して、第1スプルー9の垂直方向に設けられたランナー10が、固定型板7の第2スプルーブッシュ7aには、ランナー10と連通して溶融樹脂の射出方向と平行に設けられた第2スプルー11が、それぞれ設けられている。
【0025】
図2の型閉じ状態において、固定型板7と可動型板6との間には、円盤状のディスクゲート12とキャビティ13がそれぞれ形成される。キャビティ13は、成形体(フランジブッシュ)の筒部に対応する筒部キャビティ13aと、フランジ部に対応するフランジ部キャビティ13bとを有し、成形体の軸方向と金型の型閉じ・型開き方向とが一致するように形成される。本発明において、「型閉じ方向」は、ランナストリッパプレートに対して固定型板および可動型板が接近する方向であり、図2における右方向である。「型開き方向」は、ランナストリッパプレートに対して固定型板および可動型板が離間する方向であり、図2における左方向である。なお、図3図6においても、各図の右方向が型閉じ方向に相当し、各図の左方向が型開き方向に相当する。この場合、フランジブッシュのスラスト軸受面は固定型板7によって形成され、フランジブッシュの外径面は可動型板6によって形成される。フランジブッシュの内径面は、固定型板7に向かって前進可能なコアピン14によって形成される。なお、本発明において、「前進」とは、金型外へ突き出す方向に進めることをいう。
【0026】
ディスクゲート12は、コアピン14およびエジェクタピン15の先端面と、これに対向する固定型板7の端面、具体的には第2スプルーブッシュ7aの端面との間に構成され、第2スプルー11と連通している。ディスクゲート12の外周部は、フランジ部キャビティ13bの内周部と全周に亘り連通しており、その境界がゲート口12aとなる。つまり、フランジブッシュの内径面になる部分にはディスクゲート12が形成される。この構成では、ディスクゲート12に流入した合成樹脂は、当該ディスクゲート12の全周から放射状に広がって均一にキャビティ13に充填される。そのため、このディスクゲートを用いた射出成形ではウェルドが発生しない。
【0027】
また、可動型板6には、コアピン14と、エジェクタピン15、16が設けられている。これらは、型閉じ方向(図2の右方向)にそれぞれ前進が可能である。エジェクタピン16は、筒部キャビティ13aの後方(図2左側)に収納され、その先端面が筒部キャビティ13aに面するエジェクタピン16aと、フランジ部キャビティ13bの後方(図2左側)に収納され、その先端面がフランジ部キャビティ13bに面するエジェクタピン16bとを有する。また、コアピン14およびエジェクタピン15はディスクゲート12の後方(図2左側)に収納され、これらのピンの先端面はディスクゲート12に面している。エジェクタピン15は、コアピン14の軸心に配置された円柱状部材である。また、コアピン14は円筒状部材であり、コアピン14の外径はディスクゲート12の外径と略同一となっている。
【0028】
図2において、コアピン14の位置は、PLからフランジブッシュのフランジ部の肉厚、つまりフランジ部キャビティ13bの軸方向長さに応じて後退している。コアピン14のPLからの後退量は、フランジ部の肉厚と同じか、この厚さよりも短くできる。なお、コアピン14のPLからの後退量は、ゲート口12aの軸方向長さである。
【0029】
本発明の製造方法の各工程について、図3図6を用いて説明する。図3は成形工程を示し、図4および図5はゲートカット工程を示し、図6は離型工程を示している。
【0030】
(a)成形工程
成形工程は、溶融した合成樹脂をキャビティに充填し、成形体を形成する工程である。図3に示すように、射出成形機のノズル(図示省略)から型内に射出された溶融状態の合成樹脂は、第1スプルー9、ランナー10、第2スプルー11、ディスクゲート12、ゲート口12aを通ってキャビティ13に充填され、保圧を経た後、一定時間冷却して合成樹脂が固化される。
【0031】
(b)ゲートカット工程
ゲートカット工程は、金型内でディスクゲートをゲートカットする工程である。この工程では、可動型板6と固定型板7とを型閉じした状態のまま、ディスクゲートを切断することを特徴とする。
【0032】
ゲートカット工程について、図4および図5に基づき説明する。この工程では、まず、ランナストリッパプレート8と固定型板7との衝合面Fが、第1スプルー、ランナー、第2スプルーの一体固化樹脂(これら一体固化樹脂を「ランナー部」と総称する)が離型され取り出せる距離だけ開放される(図4参照)。これにより、ランナー部が金型から分離し落下する。なお、ランナー部の金型からの分離構造は3プレート金型の一般的な構造による。
【0033】
ランナストリッパプレート8と固定型板7との開放と連動して(同時に)、コアピン14が固定型板7に向かって、固定型板7とランナプレート7dとの開放距離(距離D)だけ前進する(図5参照)。この前進に伴い、ディスクゲート12がPLよりも固定型板7側に押し込まれ、入れ子7bの内周部に篏合する。この場合、コアピン14の外径と、ディスクゲート12の外径と、第2スプルーブッシュ7aのコアピン14に対向する部位の外径は、略同一となっている。これら一連の動作によって、ゲート口12aを介し接続状態となっていた成形体とディスクゲート内の固化樹脂とが切り離される。
【0034】
図5において、フランジブッシュの内径面の一部は、ディスクゲート12をコアピン14によって切断することで形成される。すなわち、フランジブッシュの内径面は、コアピン14の外周面とゲートカット時のコアピン14の前進によって形成される。
【0035】
ここで、固定型板7は、その一部がPLから内側に凹むことが可能な構造となっている。図5では、第2スプルーブッシュ7aが、入れ子7bに対し型閉じ方向にわずかに(例えば距離D)スライドするように構成される。固定型板7におけるこの構造は、型閉じした状態においてディスクゲートが固定型板7内に押し込み可能なものであればよく、図5に限定されない。なお、距離Dは、接続状態となっている成形体とディスクゲートとが切り離される距離であればよく、例えばフランジ部キャビティ13bの肉厚に相当する距離、または、キャビティに溶融樹脂が充填可能な距離である。距離Dが厚いとゲートカット時にコアピン14の先端部に負荷がかかり、コアピンの交換時期が早くなるおそれがある。そのため、距離Dは数mm以下にすることが望まれる。
【0036】
このゲートカット工程では、キャビティ13内の樹脂(成形体)を固定型板7で拘束しつつ、コアピン14の前進によってディスクゲート12のみを型閉じ方向に移動させることで、成形体とゲートが相対移動してディスクゲートが切り離される。ディスクゲートの一般的な取り外し工程である旋盤加工では、フランジブッシュの内径面に周方向に沿った痕が付くが、本発明の製造方法では、型内で押し切りをすることでゲートカットするため、この旋盤加工による痕は付かない。
【0037】
(c)離型工程
離型工程は、固定型板と可動型板を型開きして、成形体を取り出す工程である。この工程では、固定型板7と可動型板6の間のパーティングラインPLが開放される。
【0038】
また、この型開きの直後に、コアピン14の軸心内に配置されたエジェクタピン15と、キャビティ13a、13b後方に配置されたエジェクタピン16a、16bとが前進する(図6参照)。この突き出しにより、コアピン14先端に張り付いていたディスクゲートと、射出成形体であるフランジブッシュ1とが金型から取り出される。
【0039】
以上、(a)~(c)の工程により、図1に示すようなフランジブッシュ1が製造される。本発明の製造方法では、上述のとおり、型内ゲートカットするので、射出成形後に旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができる。これにより、製造工程の簡略化や、製造時間の短縮、コスト削減などが図れる。また、ディスクゲート方式を採用するため、成形されたフランジブッシュにウェルドが発生せず、ウェルドによる強度低下や表面平滑性の低下が防止される。
【0040】
本発明の製造方法は、図2図6などに示した方法に限らない。例えば、射出成形金型として、上述の型閉じした状態においてディスクゲートが一方の型板内に押し込み可能なものであれば、可動型板と固定型板とからなる2プレート構造の金型を用いてもよい。また、図2図6における可動型板と固定型板との構成を反対にしてもよい。すなわち、固定型板側にディスクゲートやコアピンを設ける構成とし、そのコアピンを可動型板に向かって前進させ、ディスクゲートを可動型板内に押し込むことでゲートカットするようにしてもよい。
【0041】
本発明の製造方法によって製造されたフランジブッシュは、例えば、シャフトを中心に回転するロータと、シャフトに対して同軸となる円周上に設置され、ロータを回転駆動するステータとを備えた電動ウォータポンプにおけるロータの滑り軸受として用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の合成樹脂製フランジブッシュの製造方法では、ディスクゲートを採用しつつ、射出成形後の旋盤加工などのディスクゲートの取り外し工程を省くことができるので、製造工程の効率化や製造コストに優れ、合成樹脂製フランジブッシュの製造方法として広く利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 フランジブッシュ
2 筒部
3 フランジ部
4 軸受孔
5 切り欠き部
6 可動型板
7 固定型板
8 ランナストリッパプレート
9 第1スプルー
10 ランナー
11 第2スプルー
12 ディスクゲート
13 キャビティ
14 コアピン
15 エジェクタピン
16 エジェクタピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7