(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20221130BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20221130BHJP
【FI】
H01J37/20 D
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2019062313
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】507216098
【氏名又は名称】シチズン千葉精密株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義直
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-018498(JP,A)
【文献】特開2016-018623(JP,A)
【文献】特開平11-235082(JP,A)
【文献】特開2013-229530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡におけるテーブルを移動させるために駆動する三相のモータの制御装置であって、
前記モータに供給する目標電流として、d-q座標系のd軸目標電流及びq軸目標電流を設定する目標電流設定手段を有し、
前記目標電流設定手段は、前記q軸目標電流を小さくする場合に、前記d軸目標電流を大きくする
制御装置。
【請求項2】
前記目標電流設定手段は、前記q軸目標電流を零ではない値から零にした場合に、前記d軸目標電流を予め定められた所定電流まで大きくする
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記目標電流設定手段は、前記q軸目標電流を零にしたときから予め定められた所定増加時間経過後に前記所定電流となるように徐々に前記d軸目標電流を大きくする
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記目標電流設定手段は、位置指令速度が零かつ位置偏差が零となったときに、前記q軸目標電流を零にし、前記d軸目標電流を零から大きくする
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
電子顕微鏡におけるテーブルを移動させるために駆動する三相のモータの制御装置であって、
前記モータに供給する目標電流として、d-q座標系のd軸目標電流及びq軸目標電流を設定する目標電流設定手段を有し、
前記目標電流設定手段は、前記q軸目標電流を大きくする場合に、前記d軸目標電流を小さくする
制御装置。
【請求項6】
前記目標電流設定手段は、前記q軸目標電流を零から零ではない値にした場合に、前記d軸目標電流を零まで小さくする
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記目標電流設定手段は、前記q軸目標電流を零ではない値にしたときから予め定められた所定減少時間経過後に零となるように徐々に前記d軸目標電流を小さくする
請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記目標電流設定手段は、位置指令速度、又は、位置偏差が零ではなくなったときに、前記q軸目標電流を零ではない値にし、前記d軸目標電流を小さくする
請求項5から7のいずれか1項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡において、試料ステージの駆動用モータの動作または室温の変化により発生する試料ドリフトを抑制する技術が提案されている。
例えば、特許文献1に記載された走査型電子顕微鏡は、試料移動時と停止時にモータへの供給電流を同じないし、供給電流の差を20%以下とすることによりモータの熱量変化を小さくすることで、試料ステージの温度をコントロールして観察時の試料ドリフトを低減することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば高分解能の電子顕微鏡において、試料を載せるテーブルを移動させるためのアクチュエータとして、低速駆動中の動きも滑らかであるACサーボモータを用いることが考えられる。このACサーボモータを用いる電子顕微鏡のように、高精度の位置決め駆動が必要となる装置に用いられるモータを制御するにあたっては、モータに生じる熱による温度変化に起因する試料の位置ずれを抑制することが望まれる。
本発明は、モータの駆動によって移動させられる対象物の位置決めを精度高く行うことができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、本発明について説明する。以下の説明では、本発明の理解を容易にするために実施の形態中の構成要素の符号等を括弧書きで付記するが、それによって本発明が実施の形態に記載した内容に限定されるものではない。
上記目的のもと完成させた本発明は、対象物を移動させるために駆動する三相のモータ(110)の制御装置(100)であって、前記モータ(110)に供給する目標電流として、d-q座標系のd軸目標電流(Idt)及びq軸目標電流(Iqt)を設定する目標電流設定手段(120)を有し、前記目標電流設定手段(120)は、前記q軸目標電流(Iqt)を小さくする場合に、前記d軸目標電流(Idt)を大きくする制御装置(100)である。
【0006】
ここで、前記目標電流設定手段(120)は、前記q軸目標電流(Iqt)を零ではない値から零にした場合に、前記d軸目標電流(Idt)を予め定められた所定電流(Idt0)まで大きくしても良い。
また、前記目標電流設定手段(120)は、前記q軸目標電流(Iqt)を零にしたときから予め定められた所定増加時間(Ti)経過後に前記所定電流(Idt0)となるように徐々に前記d軸目標電流(Idt)を大きくしても良い。
また、前記目標電流設定手段(120)は、位置指令速度(Vpt)が零かつ位置偏差(pt-θd)が零となったときに、前記q軸目標電流(Iqt)を零にし、前記d軸目標電流(Idt)を零から大きくしても良い。
【0007】
他の観点から捉えると、本発明は、対象物を移動させるために駆動する三相のモータ(110)の制御装置(100)であって、前記モータ(110)に供給する目標電流として、d-q座標系のd軸目標電流(Idt)及びq軸目標電流(Iqt)を設定する目標電流設定手段(120)を有し、前記目標電流設定手段(120)は、前記q軸目標電流(Iqt)を大きくする場合に、前記d軸目標電流(Idt)を小さくする制御装置(100)である。
【0008】
ここで、前記目標電流設定手段(120)は、前記q軸目標電流(Iqt)を零から零ではない値にした場合に、前記d軸目標電流(Idt)を零まで小さくしても良い。
また、前記目標電流設定手段(120)は、前記q軸目標電流(Iqt)を零ではない値にしたときから予め定められた所定減少時間(Td)経過後に零となるように徐々に前記d軸目標電流(Idt)を小さくしても良い。
また、前記目標電流設定手段(120)は、位置指令速度(Vpt)、又は、位置偏差(pt-θd)が零ではなくなったときに、前記q軸目標電流(Iqt)を零ではない値にし、前記d軸目標電流(Idt)を小さくしても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モータの駆動によって移動させられる対象物の位置決めを精度高く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態に係る走査型電子顕微鏡の概略構成を示す図である。
【
図2】本実施の形態に係る走査型電子顕微鏡の試料移動ステージの概略構成を示す図である。
【
図6】d軸目標電流設定部が設定するd軸目標電流の時間変化を例示する図である。
【
図7】d軸目標電流調整部が行うd軸目標電流を設定する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る走査型電子顕微鏡の概略構成を示す図である。
図2は、本実施の形態に係る走査型電子顕微鏡の試料移動ステージの概略構成を示す図である。
図3は、
図2のIII方向に見た図である。
本実施の形態に係る走査型電子顕微鏡50(以下、単に「顕微鏡50」と称する場合もある。)は、特許文献1に記載された走査型電子顕微鏡に対して、xテーブル33を移動させるxモータ41と、yテーブル43を移動させるyモータ61と、これらのモータの駆動を制御する制御装置100とが異なる。以下、主に、特許文献1に記載された走査型電子顕微鏡と異なる点について説明する。
【0012】
顕微鏡50は、電子銃1と、コンデンサレンズ2と、対物レンズ3と、試料室4と、試料移動ステージ5と、2次電子検出器7と、真空ポンプ9~13と、ステージケース14とを有している。そして、顕微鏡50は、電子銃1で発生した電子ビームを、コンデンサレンズ2、対物レンズ3を通して試料室4内の試料移動ステージ5の上に取り付けられた試料S上に照射し、試料Sから出てくる2次電子を2次電子検出器7でとらえ、試料S表面の形状を観察可能にする。
【0013】
また、顕微鏡50は、zテーブル15と、チルトテーブル20とを有している。zテーブル15を駆動するための機構、及び、チルトテーブル20を駆動するための機構は、特許文献1に記載された走査型電子顕微鏡と基本的に同じであるので、その詳細な説明は省略する。
【0014】
顕微鏡50は、試料Sをx方向に移動させるxテーブル33を有している。xテーブル33は、クロスローラガイド34を介してチルトテーブル20に取り付けられている。また、顕微鏡50は、xテーブル33を移動させる、xボールネジ35及びxボールネジナット36を有している。また、顕微鏡50は、xボールネジ35の両端部をそれぞれ支持する軸受37、38と、軸受37、38をそれぞれチルトテーブル20に支持する軸受ハウジング39、40とを有している。xボールネジナット36は、x継手42を介して、xテーブル33に固定されている。
【0015】
また、顕微鏡50は、xボールネジ35に連結された、xモータ41と、xカップリング44と、xモータ41を支持するxブラケット45とを有している。xブラケット45は、チルトテーブル20に固定されている。xテーブル33は、xモータ41が駆動されてxボールネジ35が回転させられ、xボールネジナット36が移送されることによりx方向に移動し、試料Sをx方向に移動させる。
【0016】
また、顕微鏡50は、試料Sをy方向に移動させるyテーブル43を有している。yテーブル43は、クロスローラガイド54a、54bを介してxテーブル33に取り付けられている。また、顕微鏡50は、yテーブル43を移動させる、yボールネジ55及びyボールネジナット56を有している。また、顕微鏡50は、yボールネジ55の両端部をそれぞれ支持する軸受57、58と、軸受57、58をそれぞれxテーブル33に支持する軸受ハウジング59、60とを有している。yボールネジナット56は、y継手48を介して、yテーブル43に固定されている。
【0017】
また、顕微鏡50は、yボールネジ55に連結された、yモータ61と、yカップリング62と、yモータ61を支持するyブラケット63とを有している。yブラケット63は、xテーブル33に固定されている。yテーブル43は、yモータ61が駆動されてyボールネジ55が回転させられ、yボールネジナット56が移送されることによりy方向に移動し、試料Sをy方向に移動させる。
【0018】
また、顕微鏡50は、試料Sを回転させるローテーションテーブル66を有している。ローテーションテーブル66は、軸受(不図示)を介して、yテーブル43に対して回転可能に支持されている。また、顕微鏡50は、ローテーションテーブル66を回転させる、ウォームホィール67a及びウォームギヤ67bを有している。ウォームホィール67aは、ローテーションテーブル66に取り付けられている。また、顕微鏡50は、ウォームギヤ67bの両端部をそれぞれ支持する軸受69、70と、軸受69、70をそれぞれyテーブル43に支持する軸受ハウジング71、72とを有している。
【0019】
また、顕微鏡50は、ウォームギヤ67bに連結された、rモータ73と、rカップリング74と、rモータ73を支持するrブラケット75とを有している。rブラケット75は、yテーブル43に固定されている。ローテーションテーブル66は、rモータ73が駆動されてウォームギヤ67bが回転させられ、ウォームホィール67aが回転させられることにより回転し、試料Sを回転させる。
【0020】
試料Sは試料ホルダ77に接着され、試料ホルダ77はローテーションテーブル66に取り付けられたホルダ台78に挿入、固定されている。
上述したようにして、試料Sは、x,y,z方向に移動させられ、また、回転させられ、傾斜させられる。
【0021】
(モータ制御について)
上述した、xモータ41、yモータ61及びrモータ73は、3相のACサーボモータであることを例示することができる。
そして、顕微鏡50は、これらxモータ41、yモータ61及びrモータ73の駆動を制御する制御装置100を備えている。制御装置100が、xモータ41、yモータ61及びrモータ73を制御する態様は同じであるので、以下では、xモータ41、yモータ61及びrモータ73を、「モータ110」と称し、モータ110を制御する態様について説明する。
【0022】
図4、
図5は、制御装置100の概略構成図である。
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、EEPROM(Electrically Erasable & Programmable Read Only Memory)等からなる算術論理演算回路である。
そして、制御装置100は、モータ110に供給する目標電流を設定する目標電流設定部120と、目標電流設定部120が設定した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部130と、を備えている。目標電流設定部120の機能構成は、
図4に示し、制御部130の機能構成は、
図5に示している。
【0023】
目標電流設定部120は、
図4に示すように、d-q座標系のq軸目標電流Iqtを設定するq軸目標電流設定部121と、d軸目標電流Idtを設定するd軸目標電流設定部122とを有している。d-q座標系は、モータ110のロータ(永久磁石)と同期して回転するd軸およびq軸からなる回転直交座標系であり、d軸は、ロータが形成する磁束の方向に沿った軸であり、q軸は、モータ110が発生するトルクの方向に沿った軸である。
q軸目標電流設定部121、d軸目標電流設定部122、及び、目標電流設定部120が有するその他の構成要素については後で詳述する。
【0024】
制御部130は、
図5に示すように、モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部131と、モータ110を駆動させるモータ駆動部132とを有している。
また、制御部130は、モータ110に実際に流れる実電流に応じた値を出力するモータ電流検出部133と、このモータ電流検出部133によって検出された電流をd-q座標系の電流に変換する3相2軸変換部135と、を有している。
また、制御部130は、エンコーダ等の回転角センサ120からのモータ回転角度信号θsに基づいて、実際のモータ110の回転角度であるモータ回転角度θdを算出するモータ回転角度算出部136を有している。
【0025】
モータ電流検出部133は、3相のモータであるモータ110のU相に実際に流れる電流であるU相実電流を検出するためのU相電流検出部と、モータ110のV相に実際に流れる電流であるV相実電流を検出するためのV相電流検出部と、モータ110のW相に実際に流れる電流であるW相実電流を検出するためのW相電流検出部とを有している。U相電流検出部、V相電流検出部及びW相電流検出部は、それぞれモータ110のU相、V相、W相に接続されたいわゆるシャント抵抗の両端に生じる電圧から各相に流れる実電流の値を検出する。
【0026】
3相2軸変換部135には、モータ電流検出部133にて検出されたU相実電流,V相実電流,W相実電流、及びモータ回転角度算出部136にて算出されたモータ回転角度θdが入力される。そして、3相2軸変換部135は、予め定められた式に従って、U相実電流,V相実電流,W相実電流をd-q座標系の値であるd軸実電流Idaとq軸実電流Iqaとに変換し、変換したd軸実電流Ida,q軸実電流Iqaを出力する。
モータ回転角度算出部136は、モータ110に設けられた回転角センサ120からのモータ回転角度信号θsに基づいてモータ回転角度θdを算出する。
【0027】
モータ駆動制御部131は、目標電流設定部120のd軸目標電流設定部122にて設定されたd軸目標電流Idtから、3相2軸変換部135にて算出されたd軸実電流Idaを減算するd軸減算部141dを有している。また、モータ駆動制御部131は、目標電流設定部120のq軸目標電流設定部121にて算出されたq軸目標電流Iqtから、3相2軸変換部135にて算出されたq軸実電流Iqaを減算するq軸減算部141qを有している。
【0028】
また、モータ駆動制御部131は、d軸減算部141dにて算出された偏差(Idt-Ida)が零となるようにd軸目標電圧Vdtを出力する電流制御アンプ142dを有している。また、モータ駆動制御部131は、q軸減算部141qにて算出された偏差(Iqt-Iqa)が零となるようにq軸目標電圧Vqtを出力する電流制御アンプ142qを有している。
【0029】
また、モータ駆動制御部131は、電流制御アンプ142d及び電流制御アンプ142qから出力されたd軸目標電圧Vdt,q軸目標電圧Vqtを、3相交流座標系のU相目標電圧Vut、V相目標電圧Vvt、W相目標電圧Vwtに変換する2軸3相変換部151を有している。
2軸3相変換部151は、予め定められた式及びモータ回転角度算出部136にて算出されたモータ回転角度θdに基づいて、d軸目標電圧Vdt及びq軸目標電圧Vqtを、U相目標電圧Vut、V相目標電圧Vvt及びW相目標電圧Vwtに変換する。つまり、2軸3相変換部151は、電流制御アンプ142d及び電流制御アンプ142qから出力された、言い換えればフィードバック制御された値と、モータ回転角度θdとに基づいてモータ110に印加する印加電圧を決定する。
【0030】
また、モータ駆動制御部131は、2軸3相変換部151にて算出されたU相目標電圧Vut,V相目標電圧Vvt,W相目標電圧Vwtに基づいてモータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成し、生成したPWM信号を出力するPWM信号生成部160を有している。
【0031】
モータ駆動部132は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、モータ駆動部132は、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、モータ110の駆動を制御する。
【0032】
(目標電流設定部120の詳細について)
目標電流設定部120は、
図4に示すように、位置指令ptから、モータ回転角度算出部136で算出されたモータ回転角度θdを減算する位置減算部123を有している。位置減算部123は、位置指令ptからモータ回転角度θdを減算することにより、偏差(pt-θd)を算出する。
ここで、位置指令ptは、上位制御部(不図示)から出力される。上位制御部は、例えば、CPU、ROM、RAM、例えばマウスやキーボード等の操作部、例えば液晶ディスプレイ等の表示部等を備えた汎用パーソナルコンピュータ等で構成されていることを例示することができる。そして、位置指令ptは、例えば、顕微鏡50のオペレータが操作部を操作することにより、表示部上で現在表示されている拡大像から離れた位置を指定した場合に、その指定された位置の情報、現在の観察視野の中心からその指定された位置までの方向、及び距離が算出され、設定される。
【0033】
また、目標電流設定部120は、モータ回転角度算出部136で算出されたモータ回転角度θdに基づいてモータ110の回転速度であるモータ回転速度ωdを算出するモータ回転速度算出部124を有している。モータ回転速度算出部124は、モータ回転角度算出部136で算出されたモータ回転角度θdを微分することによりモータ回転速度ωdを算出する。
【0034】
上述したq軸目標電流設定部121は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零となるように目標回転速度ωtを出力する位置制御アンプ125を有している。
また、q軸目標電流設定部121は、位置制御アンプ125から出力された目標回転速度ωtから、モータ回転速度算出部124で算出されたモータ回転速度ωdを減算する速度減算部126を有している。
また、q軸目標電流設定部121は、速度減算部126にて算出された偏差(ωt-ωd)が零となるようにq軸目標電流Iqtを出力する速度制御アンプ127を有している。
【0035】
上述したd軸目標電流設定部122は、位置指令ptの時間変化率である位置指令速度Vptを算出する位置指令速度算出部128を有している。位置指令速度算出部128は、位置指令ptを微分することにより位置指令速度Vptを算出する。
また、d軸目標電流設定部122は、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vpt及び位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)に基づいてd軸目標電流Idtを調整するd軸目標電流調整部129を有している。
【0036】
以上のように構成された目標電流設定部120において、q軸目標電流設定部121は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零となり、制御対象の位置が目標位置に到達した場合には、q軸目標電流Iqtを零に設定する。例えば、試料Sのx方向の位置が制御対象である場合には、x方向の位置が目標位置に到達したときに、xモータ41のq軸目標電流Iqtを零に設定する。
【0037】
図6は、d軸目標電流設定部122が設定するd軸目標電流Idtの時間変化を例示する図である。
d軸目標電流設定部122においては、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零ではない場合、又は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零ではない場合には、d軸目標電流Idtを零に設定する。言い換えれば、d軸目標電流調整部129は、モータ110が駆動しているときのd軸目標電流Idtを零に設定する。さらに言い換えれば、d軸目標電流調整部129は、q軸目標電流Iqtが零ではないときのd軸目標電流Idtを零に設定する。
【0038】
一方、d軸目標電流調整部129は、制御対象の位置が目標位置に到達した場合、言い換えれば、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零、かつ、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零となった場合、d軸目標電流Idtを零以外の値とする。これは、q軸目標電流Iqtが小さくされることに起因して減少するモータ110の発熱分を補うためにd軸目標電流Idtを零以外の値とするものである。d軸はロータが形成する磁束の方向に沿った軸であり、d軸目標電流Idtが増えても、モータ110の駆動、言い換えれば、モータ110の出力軸の回転に寄与しないため、d軸目標電流Idtが増えることに起因して位置が目標位置からずれることが抑制される。
【0039】
そして、d軸目標電流調整部129は、予め定められた所定増加レートで、零から、予め定められた所定電流Idt0まで大きくなるようにd軸目標電流Idtを設定する。言い換えれば、d軸目標電流調整部129は、予め定められた所定増加時間Ti経過後に所定電流Idt0となるように徐々にd軸目標電流Idtを増加させる。
【0040】
所定電流Idt0及び所定増加時間Tiは、制御対象の位置が目標位置となった後に、位置が目標位置からずれることを抑制するべく、制御対象の位置を定める部品の温度変化を抑制することが可能な値に設定される。例えば、試料Sのx方向の位置を定める部品としては、xボールネジ35、xボールネジナット36であることを例示することができる。試料Sのy方向の位置を定める部品としては、yボールネジ55、yボールネジナット56であることを例示することができる。試料Sの回転方向の位置を定める部品としては、ウォームホィール67a、ウォームギヤ67bであることを例示することができる。
【0041】
モータ110が駆動した際に発生する熱がこれらの部品に伝わり、これらの部品に温度変化が生じる。例えば、試料Sのx方向の位置を例にして説明すると、xモータ41への電流の供給に起因して発生する熱が、xボールネジ35、xボールネジナット36等の試料Sのx方向の位置を定める部品に伝わるので、これらの部品が熱膨張した状態でx方向の位置が目標位置に定められる。そして、x方向の位置が目標位置に到達した後に、xモータ41への電流供給が停止されると、減少した電流の分の熱が発生しなくなるため、xボールネジ35、xボールネジナット36等のx方向の位置を定める部品の温度が低下する。そして、これらの部品の温度が低下すると、収縮するため、試料Sの位置が目標位置からずれ、試料ドリフトが生じてしまう。
【0042】
以上の事項に鑑み、試料ドリフトを抑制するべく、所定電流Idt0及び所定増加時間Tiは、設定される。例えば、試料Sのx方向の位置が目標位置となり、q軸目標電流Iqtが零に設定されたときの、xボールネジ35、xボールネジナット36等のx方向の位置を定める部品の温度と、所定増加時間Ti経過したときのこれらの部品の温度とが同じとなるように、所定電流Idt0及び所定増加時間Tiが設定される。ゆえに、所定電流Idt0及び所定増加時間Tiは、試料Sの位置を定める部品の熱伝導率に応じて定まる。例えば、熱伝導率が小さいほど所定増加時間Tiが長くなるように設定される。
【0043】
本実施の形態においては、所定電流Idt0及び所定増加時間Tiは、予め測定結果に基づいて設定され、ROMに記憶されていることを例示することができる。例えば、所定増加時間Tiは、20~30秒の範囲の中から定められた一の秒数であることを例示することができる。このように、所定増加時間Tiをかけて、d軸目標電流Idtを零から所定電流Idt0までゆっくり変化させることで、試料Sの位置が目標位置からずれることを抑制する。
なお、所定電流Idt0及び所定増加時間Tiは、シミュレーション結果や算出結果に基づいて設定されても良い。
【0044】
また、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを所定電流Idt0に到達させた後、言い換えれば、所定増加時間Tiが経過した後、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零、かつ、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零である状態が継続している間中、d軸目標電流Idtを所定電流Idt0に維持する。
【0045】
また、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零でなくなった場合、又は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零でなくなった場合には、d軸目標電流Idtを予め定められた所定減少レートで減少させる。例えば、d軸目標電流Idtが所定電流Idt0であるときに、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零でなくなった場合、又は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零でなくなった場合には、d軸目標電流調整部129は、予め定められた所定減少時間Td経過後にd軸目標電流Idtが零となるように徐々にd軸目標電流Idtを減少させる。位置指令速度Vptが零でなくなった場合、又は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零でなくなった場合には、q軸目標電流Iqtが零以外の値となると考えられるからである。
【0046】
所定減少時間Tdは、予め、測定結果、シミュレーション結果又は算出結果に基づいて設定され、ROMに記憶されていることを例示することができる。例えば、所定減少時間Tdは、20~30秒の範囲の中から定められた一の秒数であることを例示することができる。このように、所定減少時間Tdをかけて、d軸目標電流Idtを所定電流Idt0から零までゆっくり変化させることで、試料Sの位置が目標位置からずれることを抑制する。
なお、所定減少時間Tdは、所定増加時間Tiと同じであることを例示することができる。ただし、所定減少時間Tdは、所定増加時間Tiと異なっていても良い。
【0047】
また、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを上記所定増加レートで増加させているときに、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零ではなくなった場合、又は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零ではなくなった場合には、上記所定減少レートでd軸目標電流Idtを零まで減少させる。
【0048】
また、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを減少させているときに、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零となり、かつ、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零となった場合には、上記所定増加レートでd軸目標電流Idtを増加させる。
【0049】
以上説明したように、目標電流設定部120が、q軸目標電流Iqt、d軸目標電流Idtを設定することで、試料Sの位置が目標位置となった後に、温度変化により目標位置からずれることが抑制される。
【0050】
図7は、d軸目標電流調整部129が行うd軸目標電流Idtを設定する処理を示すフローチャートである。d軸目標電流調整部129は、この処理を、予め設定された一定時間(例えば1分)ごとに繰り返し実行する。
d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtが零であるか否かを判断する(S701)。d軸目標電流Idtが零である場合(S701でYes)、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度Vptが零であるか否かを判断する(S702)。位置指令速度Vptが零である場合(S702でYes)、d軸目標電流調整部129は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零であるか否かを判断する(S703)。偏差(pt-θd)が零である場合(S703でYes)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを、上述した所定増加レートで所定電流Idt0まで増加させる(S704)。
位置指令速度Vptが零ではない場合(S702でNo)、及び、偏差(pt-θd)が零ではない場合(S703でNo)、d軸目標電流調整部129は、本処理を終了する。
【0051】
一方、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtが零ではない場合(S701でNo)、d軸目標電流Idtが所定電流Idt0であるか否かを判断する(S705)。d軸目標電流Idtが所定電流Idt0である場合(S705でYes)、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度Vptが零であるか否かを判断する(S706)。位置指令速度Vptが零である場合(S706でYes)、d軸目標電流調整部129は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零であるか否かを判断する(S707)。偏差(pt-θd)が零である場合(S707でYes)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを所定電流Idt0に維持するべく、本処理を終了する。
【0052】
位置指令速度Vptが零ではない場合(S706でNo)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを、上述した所定減少レートで所定電流Idt0から零まで減少させる(S708)。また、偏差(pt-θd)が零ではない場合(S707でNo)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを、上述した所定減少レートで所定電流Idt0から零まで減少させる(S708)。
【0053】
一方、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtが所定電流Idt0ではない場合(S705でNo)、d軸目標電流Idtを増加させている途中であるか否かを判断する(S709)。言い換えれば、この処理は、d軸目標電流調整部129が、d軸目標電流Idtを、S704にて所定増加レートで所定電流Idt0まで増加させ始めた後、所定電流Idt0に到達していないか否かを判断するものである。なお、S709の処理で、d軸目標電流調整部129は、S704にて所定増加レートで所定電流Idt0まで増加させ始めた後、所定増加時間Tiが経過したか否かを判断しても良い。
【0054】
d軸目標電流Idtを増加中である場合(S709でYes)、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度Vptが零であるか否かを判断する(S710)。位置指令速度Vptが零である場合(S710でYes)、d軸目標電流調整部129は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零であるか否かを判断する(S711)。偏差(pt-θd)が零である場合(S711でYes)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtの増加を維持するべく、本処理を終了する。
【0055】
他方、位置指令速度Vptが零ではない場合(S710でNo)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを、上述した所定減少レートで零まで減少させる(S708)。また、偏差(pt-θd)が零ではない場合(S711でNo)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを、上述した所定減少レートで零まで減少させる(S708)。
【0056】
一方、d軸目標電流Idtを増加中ではない場合(S709でNo)、d軸目標電流Idtを減少させている途中、つまり、S708にて所定減少レートで減少させ始めた後、d軸目標電流Idtが零に到達していない状況であるので、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度Vptが零であるか否かを判断する(S712)。位置指令速度Vptが零である場合(S712でYes)、d軸目標電流調整部129は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零であるか否かを判断する(S713)。偏差(pt-θd)が零である場合(S713でYes)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを、上述した所定増加レートで所定電流Idt0まで増加させる(S704)。
他方、位置指令速度Vptが零ではない場合(S712でNo)、及び、偏差(pt-θd)が零ではない場合(S713でNo)、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtの減少を維持するべく、本処理を終了する。
【0057】
d軸目標電流調整部129が、この設定処理を行うことで、d軸目標電流Idtが精度高く適切な値に設定される。
そして、これにより、モータ110の駆動によって移動させられる制御対象の位置を定める部品の温度変化が抑制されるので、試料Sの位置、ひいては、xテーブル33、yテーブル43、ローテーションテーブル66等の試料Sを載せるテーブルの位置を精度高く行うことが可能となる。
【0058】
なお、上述した実施の形態においては、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零ではない場合、又は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零ではない場合には、d軸目標電流Idtを零に設定するが特に零に限定されない。位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが零ではない場合、又は、位置減算部123にて算出された偏差(pt-θd)が零ではない場合には、d軸目標電流調整部129は、零の代わりに、任意の負の値に設定しても良い。そして、d軸目標電流調整部129は、位置指令速度Vptが零、かつ、偏差(pt-θd)が零になった場合には、d軸目標電流Idtを、この任意の負の値から、所定増加レートで、所定電流Idt0まで増加させると良い。また、d軸目標電流調整部129は、d軸目標電流Idtを所定電流Idt0に設定しているときに、位置指令速度Vptが零でなくなるか、又は、偏差(pt-θd)が零でなくなった場合には、d軸目標電流Idtを、所定電流Idt0から、この任意の負の値まで減少させると良い。
【0059】
なお、上述した実施の形態においては、制御装置100を、顕微鏡50が有するモータ110の駆動を制御するために用いた例を示したが、特に顕微鏡50が有するモータ110に限定されない。つまり、位置決めを行いたい対象物は、顕微鏡50にて観察される試料S、ひいては、xテーブル33、yテーブル43、ローテーションテーブル66等の試料Sを載せるテーブルに限定されない。制御装置100を、位置決めを行いたい対象物を移動させるために駆動する三相のモータ全てに適用しても良い。
【0060】
また、上述した実施の形態においては、モータ電流検出部133を、U相電流検出部、V相電流検出部及びW相電流検出部の3つの電流検出部を用いた例を示したが、この構成に限定されない。U相実電流、V相実電流及びW相実電流の電流値の総和は零となることから、2つの相の電流値を検出すれば残りの相の電流の値を算出できる。ゆえに、U相電流検出部、V相電流検出部及びW相電流検出部のいずれか一つの電流検出部を省略した構成を適用しても良い。
【符号の説明】
【0061】
33…xテーブル、41…xモータ、43…yテーブル、61…yモータ、50…走査型電子顕微鏡、66…ローテーションテーブル、73…rモータ、100…制御装置、120…目標電流設定部、121…q軸目標電流設定部、122…d軸目標電流設定部、130…制御部