(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】画像処理装置および画像処理方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/087 20060101AFI20221130BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20221130BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20221130BHJP
【FI】
G01N23/087
A61B6/00 333
A61B6/00 350S
A61B6/00 350P
G01N23/04
(21)【出願番号】P 2019109018
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】照井 晃介
(72)【発明者】
【氏名】岩下 貴司
(72)【発明者】
【氏名】野田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】佃 明
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 聡太
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512776(JP,A)
【文献】国際公開第2019/014447(WO,A1)
【文献】特表2019-511729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0276802(US,A1)
【文献】国際公開第2019/044241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
A61B 6/00 - A61B 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる放射線エネルギー
に対応する複数の放射線画像を用いて物質特性画像を生成する画像処理装置であって、
前記複数の放射線画像のうちの、2つ以上の放射線画像
を合成することにより1つの放射線画像を
生成し、前記2つ以上の放射線画像
と対応している2つ以上の放射線エネルギーの2つ以上の放射線スペクト
ルを合成することにより前記1つの放射線画像に対応する1つの放射線スペクトルを生成する合成手段と、
前記複数の放射線画像から得られる2組の放射線画像と放射線スペクトルを用いて物質特性画像を生成する生成手段と、を備え、
前記2組のうちの少なくとも一方は、前記合成手段により
生成された
前記1つの放射線画像と
前記1つの放射線スペクトル
との組である
、画像処理装置。
【請求項2】
前記合成手段は、第一の放射線エネルギーに
対応する第一の放射線画像と前記第一の放射線エネルギーよりも高い第二の放射線エネルギーに
対応する第二の放射線画像
とを合成することにより前記第二の放射線エネルギーよりも高い第三の放射線エネルギーに対応する第三の放射線画像
を前記1つの放射線画像として生成し、前記第一の放射線エネルギーの第一の放射線スペクトルと前記第二の放射線エネルギーの第二の放射線スペクトルとを合成することにより前記第三の放射線エネルギーの第三の放射線スペクトルを
前記1つの放射線スペクトルとして生成し、
前記生成手段は、前記第一の放射線画像
と前記
第三の放射線画像、および
、第一の放射線スペクトル
と第三の放射線スペクトルを用いて物質特性画像を生成する
、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記合成手段は、前記第二の放射線画像から前記第一の放射線画像を減算することにより
前記第三の放射線画像を生成し、前記第二
の放射線スペクトルから前記第一
の放射線スペクトルを減算することにより
前記第三の放射線スペクトルを生成
する、請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記合成手段は、第一の放射線エネルギーに
対応する第一の放射線画像と前記第一の放射線エネルギーよりも高い第二の放射線エネルギーに
対応する第二の放射線画像
とを合成することにより前記第二の放射線エネルギーよりも高い第三の放射線エネルギーに対応する第三の放射線画像
を前記1つの放射線画像として生成し、前記第一の放射線エネルギーの第一の放射線スペクトルと前記第二の放射線エネルギーの第二の放射線スペクトルとを合成することにより前記第三の放射線エネルギーの第三の放射線スペクトルを
前記1つの放射線スペクトルとして生成し、
前記生成手段は、前記第一の放射線エネルギーおよび前記第二の放射線エネルギーとは異なる
第四の放射線エネルギーにより撮像された
第四の放射線画像と、前記
第三の放射線画像、および
、前記第四の放射線エネルギーの
第四の放射線スペクトル
と前記第三の放射線スペクトルを用いて物質特性画像を生成する
、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記第
四の放射線エネルギーは、前記第一の放射線エネルギーよりも低い
、請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記複数の放射線画像は、第一および第二の放射線エネルギー
に対応する第一および第二の放射線画像と、前記第一および第二の放射線エネルギーよりも高い第三の放射線エネルギー
に対応する第三の放射線画像を含み、
前記合成手段は、
前記第一および第二の放射線画像
を合成することにより第四の放射線画像
を前記1つの放射線画像として生成し、前記第一および第二の放射線エネルギーに対応する第一および第二の放射線スペクトルを合成することにより第四の放射線スペクトルを
前記1つの放射線スペクトルとして生成し、
前記生成手段は、前記第三の放射線画像と前記
第四の放射線画像、および
前記第三の放射線エネルギーの第三の放射線スペクトル
と前記第四の放射線スペクトルを用いて物質特性画像を生成する
、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記合成手段は、前記
1つの放射線画像
の画素値と前記
1つの放射線スペクトルと
の相関
が、前記2つ以上の放射線画像のそれぞれの画素値と前記2つ以上の放射線スペクトルのそれぞれとの間の相関を維持するように、前
記2つ以上の放射線スペクトルを合成する
ことにより、前記1つの放射線スペクトルを生成する、請求項1乃至6の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記合成手段は、
前記2つ以上の放射線スペクトルのそれぞれを、前記2つ以上の放射線画像の撮像時のそれぞれの放射線量
と相関を有するエネルギー分布に変換して加減算を行う
ことにより前記1つの放射線スペクトルを生成する、請求項
1乃至7
のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記合成手段は、前記2つ以上の放射線画像の撮像時の
それぞれの放射線量に基づいて前記
2つ以上の放射線スペクトルを
それぞれフォトン数
の分布に変換し、加減算を行うことにより前記
1つの放射線スペクトルを生成する
、請求項
1乃至8のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記合成手段は、前記2つ以上の放射線画像の少なくとも1つ
とその放射線スペクトルに所定の係数を乗じる
、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記係数は、合成された放射線スペクトルが負の値にならないように設定される
、請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記合成手段による前記2つ以上の放射線画像の合成は、画素ごとのゲインのばらつきを補正するゲイン補正の前に行われる
、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記複数の放射線画像は、1ショット間にエネルギーが変化する放射線が照射され、当該1ショット間に前記放射線を複数回検出することにより得られる
、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記複数の放射線画像は、前記1ショット間のうち、曝射される放射線の立上り期、安定期、立下り期の3つの期間から得られる3つの放射線画像であり、
前記合成手段は、前記立上り期と前記立下り期から得られる2つの放射線画像
とそれらの放射線スペクトルとをそれぞれ合成することにより前記1つの放射線画像と
前記1つの放射線スペクトル
とを
生成し、
前記生成手段は、前記安定期から得られる放射線画像と前記
1つの放射線画像、およびそれらの放射線スペクトルを用いて物質特性画像を生成する
、請求項13に記載の画像処理装置。
【請求項15】
第一の放射線エネルギーに対応する第一の放射線画像と前記第一の放射線エネルギーとは異なる第二の放射線エネルギーに対応する第二の放射線画像とを合成して得た放射線画像と、前記第一の放射線エネルギーに対応する第一の放射線スペクトルと前記第二の放射線エネルギーに対応する第二の放射線スペクトルとを合成して得た放射線スペクトルと、前記第一の放射線エネルギー及び前記第二の放射線エネルギーとは異なる第三の放射線エネルギーに対応する第三の放射線画像と、前記第三の放射線エネルギーに対応する第三の放射線スペクトルとを用いて、物質特性画像を生成する生成手段を備える
、画像処理装置。
【請求項16】
前記第三の放射線エネルギーは、前記第一の放射線エネルギー及び前記第二の放射線エネルギーよりも低く、且つ、前記合成して得た放射線スペクトルに対応する放射線エネルギーは、前記第一の放射線エネルギー及び前記第二の放射線エネルギーよりも高い
、請求項15に記載の画像処理装置。
【請求項17】
異なる放射線エネルギー
に対応する複数の放射線画像を用いて物質特性画像を生成する画像処理方法であって、
前記複数の放射線画像のうちの、2つ以上の放射線画像
を合成することにより1つの放射線画像を
生成し、前記2つ以上の放射線画像
と対応している2つ以上の放射線エネルギーの2つ以上の放射線スペクト
ルを合成することにより前記1つの放射線画像に対応する1つの放射線スペクトルを生成する合成工程と、
前記複数の放射線画像から得られる2組の放射線画像と放射線スペクトルを用いて物質特性画像を生成する生成工程と、を備え、
前記2組のうちの少なくとも一方は、前記合成工程で
生成された
前記1つの放射線画像と
前記1つの放射線スペクトル
との組である
、画像処理方法。
【請求項18】
第一の放射線エネルギーに対応する第一の放射線画像と前記第一の放射線エネルギーとは異なる第二の放射線エネルギーに対応する第二の放射線画像とを合成して得た放射線画像と、前記第一の放射線エネルギーに対応する第一の放射線スペクトルと前記第二の放射線エネルギーに対応する第二の放射線スペクトルとを合成して得た放射線スペクトルと、前記第一の放射線エネルギー及び前記第二の放射線エネルギーとは異なる第三の放射線エネルギーに対応する第三の放射線画像と、前記第三の放射線エネルギーに対応する第三の放射線スペクトルとを用いて、物質特性画像を生成する生成工程を備える
、画像処理方法。
【請求項19】
請求項17または18に記載された画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮像装置および放射線撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、放射線による医療画像診断や非破壊検査に用いる撮影装置として、半導体材料によって形成された平面検出器(Flat Panel Detector、以下FPDと略す)を用いた放射線撮影装置が普及している。このような放射線撮影装置は、例えば医療画像診断においては、一般撮影のような静止画撮影や、透視撮影のような動画撮影のためのデジタル撮影装置として用いられている。
【0003】
FPDの応用技術の一つに、放射線のエネルギー情報を利用したスペクトラルイメージングがある。スペクトラルイメージングでは、管電圧の異なる放射線を複数回照射するなどして、エネルギーの異なる複数枚の放射線画像を取得し、それら放射線画像に対して演算処理をすることで、任意の種類の物質を除去した画像、面密度画像、実効原子番号画像などを得る。特許文献1では、被検査物を構成する物質の種類を精度良く判定するために、低エネルギーX線の透過強度と高エネルギーX線の透過強度について重みづけ差分を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペクトラルイメージングではエネルギーの異なる複数の放射線画像とスペクトルの情報をもとに計算が行われる。良好な画質のスペクトラルイメージングの画像を得るには、より正確な計算結果を得ることが必要であり、そのためには、元画像のエネルギー差が大きいこと、放射線のスペクトルの情報が正確であることが求められる。しかしながら、放射線発生装置や被写体、検出器の方式など、撮影環境や撮影手法の制限により、十分なエネルギー差の元画像や高精度なスペクトル情報の取得が難しい場合がある。また、特許文献1では、X線の透過強度に重みづけを行うことで、物質の種類の判定精度を向上することが記載されているが、放射線スペクトルに関して何等考慮されていない。
【0006】
本発明の一態様によれば、生成される物質特性画像の精度または画質を向上する放射線画像と放射線スペクトルを提供可能にする技術が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による画像処理装置は以下の構成を備える。すなわち、
異なる放射線エネルギーに対応する複数の放射線画像を用いて物質特性画像を生成する画像処理装置であって、
前記複数の放射線画像のうちの、2つ以上の放射線画像を合成することにより1つの放射線画像を生成し、前記2つ以上の放射線画像と対応している2つ以上の放射線エネルギーの2つ以上の放射線スペクトルを合成することにより前記1つの放射線画像に対応する1つの放射線スペクトルを生成する合成手段と、
前記複数の放射線画像から得られる2組の放射線画像と放射線スペクトルを用いて物質特性画像を生成する生成手段と、を備え、
前記2組のうちの少なくとも一方は、前記合成手段により生成された前記1つの放射線画像と前記1つの放射線スペクトルとの組である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生成される物質特性画像の精度または画質を向上する放射線画像と放射線スペクトルを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態によるX線撮像システムの全体構成を示す図。
【
図2】X線画像のエネルギーのスペクトルの例を示す図。
【
図3】X線のエネルギーとフォトン数の関係の例を示す図。
【
図5A】撮像制御装置による処理を説明するフローチャート。
【
図5B】第1実施形態の撮像制御装置による処理を説明する図。
【
図6】第2実施形態によるX線撮像装置の画素回路図。
【
図7】第2実施形態によるサンプリングと読み出しのタイミングチャート。
【
図8】第2実施形態の撮像制御装置による処理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
なお、本発明における放射線には、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギーを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども、含まれるものとする。以下の実施形態では、放射線の一例としてX線を用いた装置を説明する。したがって、以下では、放射線、放射線画像、放射線エネルギー、放射線スペクトル、放射線量をそれぞれX線、X線画像、X線エネルギー、X線スペクトル、X線量として説明する。
【0012】
<第1実施形態>
第1実施形態では、X線画像のエネルギー差ΔEを大きくする構成を説明する。
図1は、第1実施形態に係る放射線撮像システムの構成を示すブロック図である。放射線撮像システムは、X線発生装置101、X線制御装置102、撮像制御装置103、X線撮像装置104を具備し、X線を用いて撮像を行う。
【0013】
X線発生装置101は、X線を発生し、被写体を曝射する。X線制御装置102は、X線発生装置101におけるX線の発生を制御する。撮像制御装置103は、例えば、1つまたは複数のプロセッサー(CPU)とメモリを有し、プロセッサーがメモリに格納されたプログラムを実行してX線画像の取得及び画像処理を行う。なお、撮像制御装置103による画像処理を含む各処理は、専用のハードウエアにより実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアの協働により実現されてもよい。
【0014】
X線撮像装置104は、X線を可視光に変換する蛍光体105と、可視光を検出する二次元検出器106を有する。二次元検出器106は、X線量子を検出する画素60をX列×Y行のアレイ状に配置したセンサである。二次元検出器106は、画素60にて検出したX線量子を不図示のAD変換器でデジタル値に変換し、撮像制御装置103にX線画像として転送する。撮像制御装置103では、二次元検出器106から取得されたX線画像に対し演算処理を行い、物質特性画像である物質分離画像または物質識別画像を生成する。
【0015】
例えば物質分離画像は、エネルギーごとに以下の[数1]で示される式を立て、連立方程式を解くことで得られる。
【数1】
【0016】
[数1]において、EはX線のエネルギー、N(E)はX線のスペクトル、μ1(E)は物質1の線減弱係数、μ2(E)は物質2の線減弱係数、d1は物質1の厚さ、d2は物質2の厚さである。[数1]において未知の変数は、厚さd1と厚さd2である。異なる2つのエネルギーのX線による撮像画像を[数1]に代入することで、2つの独立した式を生成することができるので、それら独立した2つの式を解くことで厚さd1と厚さd2の値を求めることができる。
【0017】
一方、物質識別画像(実効原子番号画像、面密度画像)は、以下の[数2]を用いて得ることができる。
【数2】
【0018】
[数2]において、EはX線のエネルギー、N(E)はX線のスペクトル、μ(Zeff,E)は実効原子番号ZeffとエネルギーEにおける質量減弱係数、Deffは実効面密度である。[数2]において未知の変数は、実効原子番号Zeffと実効面密度Deffである。よって、上述した物質分離画像(物質ごとの厚さの空間分布)を求める場合と同様に、異なる2つのエネルギーのX線によって得られた撮像画像を[数2]に代入することで、2つの独立した式が生成される。それら独立した2つの式を解くことにより、実効原子番号Zeffと実効面密度Deffの値を求めることができる。
【0019】
[数1]及び[数2]ともに、X線のスペクトルN(E)のスペクトル空間情報の計算を行う。このとき、異なる2つのX線のエネルギーの差が大きく、スペクトルの情報が正確であれば、精度が高い計算ができ、好適な物質分離画像、物質識別画像を生成することができる。
【0020】
図2に第1実施形態に係るX線のエネルギーのスペクトルを示す。第一のX線エネルギーにて撮像されたX線画像をX
1、第二のX線エネルギーにて撮像されたX線画像をX
2とし、第二のX線エネルギー>第一のX線エネルギーとする。X線画像X
1のX線エネルギーのスペクトル及びX線画像X
2のX線エネルギーのスペクトルはそれぞれ第一のX線スペクトル201、第二のX線スペクトル202である。
【0021】
第1実施形態では、X線画像X1とX線画像X2および第一のX線スペクトル201と第二のX線スペクトル202をそれぞれ合成することで、第三のX線スペクトルをもつ第三のX線エネルギーに対応したX線画像X3を生成する。本実施形態では、X線画像X1とX線画像X2の合成を、所定の係数αを用いてX3=X2-αX1により行う場合について説明する。なお、αは任意の係数である。
【0022】
X線画像およびX線スペクトルの合成において、X線画像の画素値とX線スペクトルは相関が取れていなければならない。X線画像の画素値はX線のエネルギーと線量を示す情報であるのに対し、スペクトルはX線のエネルギーの比率(分布)を示す情報である。よってX線画像同士(X線画像X1、X2)の加減算で得られた合成後のX線画像(X3)のX線スペクトルを、単なるスペクトル同士(X線スペクトル201、202)の加減算で求めることはできない。そこで、本実施形態の画像処理では、合成後のX線画像X3に対応する第三のX線スペクトルを求めるために、一旦、X線スペクトル201とX線スペクトル202をX線フォトン数に変換する。
【0023】
図3に、第1実施形態に係るX線エネルギーとフォトン数の関係の例を示す。第一のX線エネルギーによるX線画像X
1、及び第二のX線エネルギーによるX線画像X
2のX線スペクトルのフォトン数を、それぞれ301、302に示す。フォトン数301、302は、X線画像X
1、X
2の撮像時の線量と相関がある。線量が増減すると、それに伴いフォトン数もエネルギースペクトルを維持しつつ増減する。フォトン数303はフォトン数301とフォトン数302を合成したフォトン数である。フォトン数303は、X線画像X
1とX線画像X
2からX線画像X
3を得たのと同様の加減算をフォトン数301とフォトン数302について行うことで得られる。すなわち、第1実施形態では、「フォトン数301」から「フォトン数302とαの積」を差し引くことでフォトン数303を得る。そして、フォトン数303の積分値がX線スペクトル201の積分値(=X線スペクトル202の積分値)と一致するように規格化すれば第三のスペクトルが得られる。
【0024】
なお、第一のX線エネルギーによるX線画像X1、及び第二のX線エネルギーによるX線画像X2のX線のフォトン数301、302には、X線画像の撮像時の線量とX線エネルギーのスペクトル(201、202)の情報から算出した推定値を用いることができる。線量は各X線のエネルギー×フォトン数の積分であり、各エネルギーのフォトン数はX線のスペクトルに比例するので、線量とスペクトルの情報からフォトン数を推定することができる。あるいは、スペクトロメータなどで計測して得られた実測値を用いてもよい。また、係数αは任意の値あり、例えば所望のエネルギーのスペクトルに近づくように設定される。このとき、合成後のスペクトルが負の値を取らない範囲で係数αを設定するのが好ましい。
【0025】
図4は、第1実施形態による画像X
1~X
3のX線の平均エネルギーを示す。
図4(a)は、第一のX線エネルギーで撮像されたX線画像X
1の平均エネルギー401を示している。
図4(b)は、第二のX線エネルギーで撮像されたX線画像X
2の平均エネルギー402を示している。
図4(c)は、合成されたX線画像X
3に対応する第三のX線エネルギーの平均エネルギー403を示している。これらの平均エネルギーの大小関係は、[平均エネルギー403]>[平均エネルギー402]>[平均エネルギー401]となり、合成により生成された第三のX線エネルギーのX線スペクトル404による平均エネルギー403が最も高くなる。
【0026】
図5Aは、第1実施形態の撮像制御装置103による物質特性画像の生成処理を示すフローチャートである。また、
図5Bは、取得される画像と、画像に加えられる処理を説明する図である。S501において、撮像制御装置103は、X線制御装置102を介してX線発生装置101を制御し、X線撮像装置104から異なる2種類のX線エネルギーのX線画像(XH、XL)を得る。ここで、撮像制御装置103は、X線の曝射の無い状態で撮像されたオフセット画像(OF)、被写体の無い状態で2種類のX線エネルギーのX線照射により撮像された2つのゲイン画像(GH、GL)も取得する。S502において、撮像制御装置103は、2種類のX線エネルギーで撮像された2つのX線画像のそれぞれとオフセット画像との差分をとり、オフセット成分が除去されたX線画像X
1(=XL-0F)とX線画像X
2(=XH-0F)を得る。なお、オフセット画像(OF)が共通の例を示したが、その限りではない。ゲイン画像、X線画像(GH,GL,XH,XL)のそれぞれに対応したオフセット画像(OF
GH、OF
GL、OF
XH、OF
XL)を取得し使用してもよい。
【0027】
S503において、撮像制御装置103は、2種類のX線エネルギーのそれぞれのX線スペクトルを求める。このとき、X線画像の取得において照射されたX線エネルギーの情報が必要になる。そのようなX線エネルギーの情報は、例えば、X線制御装置102がX線発生装置101に設定した管電圧から求めることができる。或いは、X線画像における物質透過量から推定してもよい。また、X線スペクトルは文献値を使用してもよいが、スペクトロメータなどでX線発生装置101が発生するX線を計測した実測値を用いる方が好ましい。
【0028】
S504において、撮像制御装置103は、
図2~
図4で説明した方法により、X線画像X
1とX線画像X
2の合成およびX線スペクトルの合成を行い、合成されたX線画像X
3と第三のX線スペクトル404を得る。S505において、撮像制御装置103は、X線画像X
1、X
3を、それぞれのX線エネルギーで得られたゲイン画像(G
1、G
3)で除算することにより、画素ごとのゲインのばらつきを補正する、ゲイン補正を行う。なお、この処理で使用されるゲイン画像G
1は、S502の処理によりオフセット補正(GL-OF)されたゲイン画像である。また、第三のX線スペクトル404に対応するゲイン画像G
3は、S502~S504の処理により、オフセット補正され(GH-OF)、2種類のX線エネルギーに対応したゲイン画像(G
1、G
2)の、上述した合成処理(G
3=G
2-αG
1)により生成される。
【0029】
S506において、撮像制御装置103は、ゲイン補正後の2つの画像(減弱率画像IH/I0とIL/I0)を用いてスペクトラルイメージングの演算を行う。すなわち、撮像制御装置103は、[数1]あるいは[数2]に、異なる複数のエネルギーのX線画像の画素値およびスペクトルを代入することで得られる連立方程式を解くことで物質分離画像あるいは物質識別画像を得る。
【0030】
ここで、撮像制御装置103は、[数1]または[数2]を用いて異なる2つのX線エネルギーの式を立てる際に、合成により導出した、第三のX線エネルギーに対応するX線画像X3と第三のX線スペクトルを高エネルギーX線画像として用いる。また、第一のX線エネルギーにより得られたX線画像にオフセット補正とゲイン補正を施して得られたX線画像が低エネルギーX線画像として用いられる。これにより、物質特性画像の生成に用いられる高エネルギーX線画像と低エネルギーX線画像のX線エネルギー差を大きくすることができる。上述したように、物質特性画像の生成に用いられるX線画像のエネルギーの差が大きいと、計算精度が高くなり、物質分離精度の向上や、実効原子番号画像や面密度画像のノイズ低下による画質の向上が期待できる。
【0031】
以上、異なる2つのX線エネルギーのX線画像とそれらのX線スペクトルから第三のX線画像とX線スペクトルを合成し、合成後のX線画像とX線スペクトルと、もとの2つのX線画像のいずれかを用いて2つの連立方程式を立てる例を示した。すなわち、本実施形態では、物質特性画像の生成に合成画像X3と第一のX線エネルギーによるX線画像X1を用いる例を示した。しかしながら、スペクトラルイメージングの演算(物資特性画像の生成)に用いるX線画像はこれに限られるものではない。例えば、低エネルギーX線画像として第一、第二のX線エネルギーとは異なる別のX線エネルギーで撮影した画像を用いて物質特性画像を生成するようにしてもよい。この場合、異なる3つのX線エネルギーの画像から2つの連立方程式を立てる形態となる。この形態で連立方程式を解いて得られる結果は、異なる2つのX線エネルギーから2つの連立方程式を立てる場合よりも多くのX線画像を用いた演算となるので、より精度の高い結果が期待できる。また、第一のX線エネルギーよりも低いX線エネルギーによるX線画像と合成画像を物質特性画像の生成に用いれば、X線エネルギーの差をさらに大きくすることができる。
【0032】
また、第1実施形態では、異なる2つのX線エネルギーのX線画像とX線スペクトルを合成したが、異なる3つ以上のX線エネルギーのX線画像とそれらのX線スペクトルを合成するようにしてもよい。また、異なる3つ以上のX線エネルギーによるX線画像について連立方程式を立ててもよい。この形態を採用することにより、例えば、分離する物質の数を増加させることが可能になる。
【0033】
以上のように、第1実施形態の撮像制御装置103は、複数の放射線画像のうちの、2つ以上の放射線画像から放射線画像を合成し、当該2つ以上の放射線画像の放射線スペクトルから放射線スペクトルを合成する。そして、撮像制御装置103は、複数の放射線画像から得られる2組の放射線画像と放射線スペクトルの組を用いて、例えば[数1]、[数2]に示した方程式を解き、物質特性画像を生成する、スペクトラルイメージングの演算処理を行う。ここで、演算に用いられる2組の2組の放射線画像と放射線スペクトルのうちの少なくとも一方は、上記に合成された放射線画像と放射線スペクトルの組である。合成された放射線画像と放射線スペクトルの組は、例えば、より平均エネルギーの高いX線スペクトルとそのX線画像となるので、スペクトラルイメージングに用いられるX線画像においてより大きなエネルギー差を確保できる。また、合成に用いたX線画像以外のX線画像と、合成されたX線画像を用いれば、スペクトラルイメージングに用いられるX線画像の枚数を増やすことができ、より精度の高い結果が期待できる。また、ゲイン補正よりも前の段階で異なる放射線エネルギーの放射線画像同士の加減算およびスペクトル同士の加減算を行うことで、スペクトラルイメージングの演算処理に適した画像とスペクトルを得ることができる。
【0034】
<第2実施形態>
第2実施形態では、1ショット間にエネルギーが変化するX線が照射され、当該1ショット間にX線を時分割で複数回検出することにより得られる複数のX線画像を用いて物質特性画像を生成する構成を説明する。第2実施形態による放射線撮像システムは、第1の実施形態(
図1)と同様に、X線発生装置101、X線制御装置102、撮像制御装置103、X線撮像装置104で構成される。また、撮像制御装置103によるX線画像の合成と物質特性画像の生成に関する基本的な処理手順も第1実施形態と同様である。第2実施形態の撮像制御装置103は、時分割型の中央2色駆動で得られたX線画像について、X線スペクトルをより正確にすることで、より正確な物質特性画像を得る。
【0035】
図6に、第2実施形態によるX線撮像装置104が有する画素60の等価回路図を示す。画素60は、光電変換素子601と、出力回路部602とを含む。光電変換素子601は、典型的にはフォトダイオードでありうる。出力回路部602は、増幅回路部604、クランプ回路部606、サンプルホールド回路部607、選択回路部608を含む。
【0036】
光電変換素子601は、電荷蓄積部を含む。この電荷蓄積部は、増幅回路部604のMOSトランジスタ604aのゲートに接続されている。MOSトランジスタ604aのソースは、MOSトランジスタ604bを介して電流源604cに接続されている。MOSトランジスタ604aと電流源604cとによってソースフォロア回路が構成されている。MOSトランジスタ604bは、そのゲートに供給されるイネーブル信号ENがアクティブレベルになるとオンしてソースフォロア回路を動作状態にするイネーブルスイッチである。
【0037】
図6に示す例では、光電変換素子601の電荷蓄積部およびMOSトランジスタ604aのゲートが共通のノードを構成している。このノードは、該電荷蓄積部に蓄積された電荷を電圧に変換する電荷電圧変換部として機能する。即ち、電荷電圧変換部には、該電荷蓄積部に蓄積された電荷Qと電荷電圧変換部が有する容量値Cとによって定まる電圧V(=Q/C)が現れる。電荷電圧変換部は、リセットスイッチ603を介してリセット電位Vresに接続されている。リセット信号PRESがアクティブレベルになると、リセットスイッチ603がオンして、電荷電圧変換部の電位がリセット電位Vresにリセットされる。
【0038】
クランプ回路部606は、リセットした電荷電圧変換部の電位に応じて増幅回路部604によって出力されるノイズをクランプ容量606aによってクランプする。つまり、クランプ回路部606は、光電変換素子601で光電変換により発生した電荷に応じてソースフォロア回路から出力された信号から、このノイズをキャンセルするための回路である。このノイズはリセット時のkTCノイズを含む。クランプは、クランプ信号PCLをアクティブレベルにしてMOSトランジスタ606bをオン状態にした後に、クランプ信号PCLを非アクティブレベルにしてMOSトランジスタ606bをオフ状態にすることによってなされる。クランプ容量606aの出力側は、MOSトランジスタ606cのゲートに接続されている。MOSトランジスタ606cのソースは、MOSトランジスタ606dを介して電流源606eに接続されている。MOSトランジスタ606cと電流源606eとによってソースフォロア回路が構成されている。MOSトランジスタ606dは、そのゲートに供給されるイネーブル信号EN0がアクティブレベルになるとオンしてソースフォロア回路を動作状態にするイネーブルスイッチである。
【0039】
光電変換素子601で光電変換により発生した電荷に応じてクランプ回路部606から出力される信号は、光信号として、光信号サンプリング信号TSがアクティブレベルになることによってスイッチ607Saを介して容量607Sbに書き込まれる。電荷電圧変換部の電位をリセットした直後にMOSトランジスタ606bをオン状態とした際にクランプ回路部606から出力される信号は、クランプ電圧である。このノイズ信号は、ノイズサンプリング信号TNがアクティブレベルになることによってスイッチ607Naを介して容量607Nbに書き込まれる。このノイズ信号には、クランプ回路部606のオフセット成分が含まれる。スイッチ607Saと容量607Sbによって信号サンプルホールド回路607Sが構成され、スイッチ607Naと容量607Nbによってノイズサンプルホールド回路607Nが構成される。サンプルホールド回路部607は、信号サンプルホールド回路607Sとノイズサンプルホールド回路607Nとを含む。
【0040】
駆動回路部が行選択信号をアクティブレベルに駆動すると、容量607Sbに保持された信号(光信号)がMOSトランジスタ608Saおよび行選択スイッチ608Sbを介して信号線61Sに出力される。また、同時に、容量607Nbに保持された信号(ノイズ)がMOSトランジスタ608Naおよび行選択スイッチ608Nbを介して信号線61Nに出力される。MOSトランジスタ608Saは、信号線61Sに設けられた不図示の定電流源とソースフォロア回路を構成する。同様に、MOSトランジスタ608Naは、信号線61Nに設けられた不図示の定電流源とソースフォロア回路を構成する。MOSトランジスタ608Saと行選択スイッチ608Sbによって信号用選択回路部608Sが構成され、MOSトランジスタ608Naと行選択スイッチ608Nbによってノイズ用選択回路部608Nが構成される。選択回路部608は、信号用選択回路部608Sとノイズ用選択回路部608Nとを含む。
【0041】
画素60は、隣接する複数の画素60の光信号を加算する加算スイッチ609Sを有してもよい。加算モード時には、加算モード信号ADDがアクティブレベルになり、加算スイッチ609Sがオン状態になる。これにより、隣接する画素60の容量607Sbが加算スイッチ609Sによって相互に接続されて、光信号が平均化される。同様に、画素60は、隣接する複数の画素60のノイズを加算する加算スイッチ609Nを有してもよい。加算スイッチ609Nがオン状態になると、隣接する画素60の容量607Nbが加算スイッチ609Nによって相互に接続されて、ノイズが平均化される。加算部609は、加算スイッチ609Sと加算スイッチ609Nを含む。
【0042】
画素60は、感度を変更するための感度変更部605を有してもよい。画素60は、例えば、第1感度変更スイッチ605aおよび第2感度変更スイッチ605'a、並びにそれらに付随する回路素子を含みうる。第1変更信号WIDEがアクティブレベルになると、第1感度変更スイッチ605aがオンして、電荷電圧変換部の容量値に第1付加容量605bの容量値が追加される。これによって画素60の感度が低下する。第2変更信号WIDE2がアクティブレベルになると、第2感度変更スイッチ605'aがオンして、電荷電圧変換部の容量値に第2付加容量605'bの容量値が追加される。これによって画素601の感度が更に低下する。このように画素60の感度を低下させる機能を追加することによって、より大きな光量を受光することが可能となり、ダイナミックレンジを広げることができる。第1変更信号WIDEがアクティブレベルになる場合には、イネーブル信号ENwをアクティブレベルにして、MOSトランジスタ604aに変えてMOSトランジスタ604'aをソースフォロア動作させてもよい。
【0043】
次に、第2実施形態によるX線撮像システムの撮像動作について説明する。
図7に、第2実施形態に係るX線撮像システムにおいてエネルギーの異なる複数のX線画像を取得するための基本的な駆動タイミングを示す。第2実施形態では、1ショット間にエネルギーが変化するX線が照射され、当該1ショット間にX線を複数回検出することによりX線エネルギーの異なる複数の放射線画像が得られる。なお、図中の波形は横軸を時間として、X線の曝射、光電変換素子601のリセット、サンプルホールド回路607、信号線61からの画像の読み出しのタイミングを示している。
【0044】
まず、光電変換素子601のリセットを行ってから、X線を曝射する。X線の管電圧は理想的には矩形波となるが、管電圧の立上りと立下りには有限の時間がかかる。特に、パルスX線で曝射時間が短い場合は、管電圧はもはや矩形波とはみなせず、
図7に示すような波形となる。すなわち、X線の立上り期(X線701)、安定期(X線702)、立下り期(X線703)の3つの期間でX線のエネルギーが異なる。
【0045】
そこで、立上り期のX線701が曝射された後に、ノイズサンプルホールド回路607Nでサンプリングを行い、さらに安定期のX線702が曝射された後に信号サンプルホールド回路607Sでサンプリングを行う。その後、信号線61Nと信号線61Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路607Nには立上り期のX線701の信号Rが保持され、信号サンプルホールド回路607Sには立上り期のX線701の信号Rと安定期のX線702の信号Gの和(R+G)が保持されている。従って、上記差分により、安定期のX線702の信号Gに対応した画像704が読み出される。
【0046】
立下り期のX線703の曝射と、画像704の読み出しとが完了してから、再び信号サンプルホールド回路607Sでサンプリングを行い、信号線61Nと信号線61Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路607Nには立上り期のX線701の信号Rが保持されている。また、このタイミングにおいて、信号サンプルホールド回路607Sには、立上り期のX線701の信号Rと安定期のX線702の信号Gと立下り期のX線703の信号Bの和(R+G+B)が保持されている。従って、安定期のX線702の信号Gと立下り期のX線703の信号Bの和(G+B)に対応した画像707が読み出される。
【0047】
画像707の読み出しが完了してから、光電変換素子601のリセットを行い、再びノイズサンプルホールド回路607Nでサンプリングを行い、信号線61Nと信号線61Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路607NにはX線が曝射されていない状態の信号が保持され、信号サンプルホールド回路607Sには立上り期のX線701の信号Rと安定期のX線702の信号Gと立下り期のX線703の信号Bの和が保持されている。従って、立上り期のX線701の信号Rと安定期のX線702の信号Gと立下り期のX線703の信号Bの和(R+G+B)に対応した画像708が読み出される。
【0048】
その後、画像707と画像704の差分を計算することで、立下り期のX線703に対応した画像705が得られる。また、画像708と画像707の差分を計算することで、立上り期のX線701に対応した画像706が得られる。以上のようにして、パルスX線の立上り期、安定期、立下り期にそれぞれ対応した画像706、画像704、画像705が得られる。ここで、画像704、705、706の画像を形成する際に曝射されたX線のエネルギーはそれぞれ異なるものとなっている。例えば、画像705と画像706を足して得られる画像(R+B)を低エネルギーの画像、画像704を高エネルギーの画像(G)として用いてスペクトラルイメージングの演算を行うことができる。この場合、低エネルギーの画像(R+B)のスペクトルは、画像708と画像704の差分画像から得られたものを用いてもよい。一方、第2実施形態では、画像705と画像706のそれぞれスペクトルの合成により得られた合成スペクトルを用いることで、生成される物質特性画像の精度を向上させる。
【0049】
画像704、705、706について、[数1]または[数2]を用いた連立方程式を解くことで物質分離画像または物質識別画像が得られる。上述のように、第2実施形態では、画像705と画像706を合成して得られた画像を低エネルギーの画像、画像704を高エネルギーの画像として用いて連立方程式を立てる。すなわち、画像705を第一のX線エネルギーによるX線画像X1、画像706を第二のX線エネルギーによるX線画像X2とし、これらを合成して第三のX線エネルギーによるX線画像X3を生成する。
【0050】
連立方程式を立てる際、各画像のX線のスペクトルが必要になる。第1実施形態で説明したように、X線のスペクトルを求めるためには、画像を撮像した際のX線のエネルギーの情報が必要である。第2実施形態ではエネルギーが時間的に変化しているため、X線制御装置102の管電圧の設定値から得ることは難しい。そのため、線減弱係数が既知である被参照物体のX線透過率から、画像704~706に関して曝射されたX線のエネルギー(管電圧〇〇kV相当)を推定する。
【0051】
合成画像である第三のX線エネルギーに対応したX線画像X3は、第一のX線エネルギーで得られたX線画像X1(画像705)と第二のX線エネルギーで得られたX線画像X2(画像706)の単純な加算で求めることができる。一方、第三のX線エネルギーのX線スペクトルについては、第1実施形態で説明したように、第一および第二のX線エネルギーのX線スペクトルを一旦フォトン数に変換してから加算し、フォトン数の総数を規格化することで求める。合成により得られたX線スペクトルは、合成後の第三のX線エネルギーに対応したX線画像X3に対してX線のエネルギーの推定を行って求めたスペクトルよりも正確になる。結果、[数1]または[数2]の精度が高くなり、物質分離精度の向上や、実効原子番号画像や面密度画像のノイズ低下が期待できる。
【0052】
なお、X1、X2の加減算から合成画像X3および合成スペクトルを生成する際に、第1実施形態と同様に任意の係数αを乗じてもよい。第2実施形態は、第1実施形態のX3=X2-αX1の係数αが負の値を取った場合といえる。
【0053】
図8は、第2実施形態の撮像制御装置103による上記処理を説明する図である。画像XG、XB、XRはそれぞれ、被写体ありでX線を照射して得られた画像704,705,706に対応する。また、被写体なしでX線を照射して画像704,705,706を得ることでゲイン補正用の画像GG、GB、GRが得られる。同様に、X線を非照射の状態で画像704,705,706を得る駆動を行い、オフセット補正用の画像OG、OB、ORが得られる。ゲイン補正用の画像、X線画像は、オフセット補正用の画像によりそれぞれ補正されて、G
G、G
B、G
R、X
G、X
B、X
Rが得られる。なお、
図8ではゲイン画像(GG、GR、GB)とX線画像(XG、XR、XB)で共通のオフセット画像(OG、OR、OB)を用いているがこれに限られるものではない。
図5Bで説明したように、ゲイン画像とX線画像のそれぞれに対応したオフセット画像(O
GG、O
GR、O
GB、O
XG、O
XR、O
XB)を取得し、使用するようにしてもよい。
【0054】
オフセット補正済みのX線画像XBとXRの合成により第三のX線画像X3が生成される。同様に、オフセット補正済みのゲイン補正用の画像GBとGRの合成により第三のゲイン補正用画像G3が生成される。オフセット済みのX線画像XGとゲイン補正用の画像GGは、それぞれ第一のX線画像X1、第一のゲイン補正用の画像G1として用いられる。第一のX線画像X1を第一のゲイン補正用の画像G1で割ることで、高エネルギーの減弱率画像が得られる。同様に、合成された第三のX線画像X3を、合成された第三のゲイン補正用の画像G3で割ることで、低エネルギーの減弱率画像が得られる。得られた減弱率画像は、スペクトラルイメージングの演算(物質特性画像の生成)に用いられる。
【0055】
以上、第2実施形態では、X線エネルギーが異なる3つの画像のうち、エネルギーの低い2つのX線画像を合成して新たな低エネルギー画像を生成したがこれに限られるものではない。例えば、X線エネルギーが異なる3つの画像のうち、最も高いエネルギーのX線画像と中間のエネルギーのX線画像を第1実施形態で説明したように合成(減算)して新たな高エネルギー画像を生成してもよい。その場合、生成されたが高エネルギー画像と3つの画像のうちの最も低いエネルギーの画像を用いて連立方程式を立てることになる。すなわち、第2実施形態では、X線エネルギーが異なる3つの画像704、705、706のうちの2つの画像を合成し、合成により得られた画像と合成に用いられていない画像とから2つの連立方程式を立てる構成である。
【0056】
また、第2実施形態では、異なる3つのエネルギーのX線画像から、2つの連立方程式を立てる形態について説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。サンプリングノードを増やし、異なる3つ以上のエネルギーの画像のスペクトルおよび画像を合成してもよい。また、異なる3つ以上のエネルギー画像を用いて連立方程式を立ててもよい。また、異なる2つのエネルギーの画像のスペクトルおよび画像を合成し、合成後の画像と、もとの画像のいずれかを用いて2つの連立方程式を立てるようにしてもよい。また、画像704(G)を高エネルギー画像、画像708から画像704を差し引いて得られる画像(R+B)を低エネルギー画像として、第1実施形態で説明した処理を適用してもよい。
【0057】
以上のように、上記各実施形態によれば、事前に異なる放射線エネルギーの放射線画像同士の加減算およびスペクトル同士の加減算を行うことで、スペクトラルイメージングの演算処理に適した画像とスペクトルを得る。
【0058】
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0059】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0060】
101:X線発生装置、102:X線制御装置、103:撮像制御装置、104:X線撮像装置、105:蛍光体、106:二次元検出器