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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20221130BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20221130BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20221130BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20221130BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221130BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019220797
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021089874
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 春彦
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久雄
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-187891(JP,A)
【文献】特開2012-074234(JP,A)
【文献】特開2006-160543(JP,A)
【文献】特開2018-181838(JP,A)
【文献】特開2006-310002(JP,A)
【文献】特開2011-171253(JP,A)
【文献】特開2015-195208(JP,A)
【文献】特開2003-129102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた燃料電池。
(1)前記燃料電池は、
電解質膜の両面にアノード及びカソードが接合された膜電極接合体(MEA)と、
前記MEAのアノード側に配置された、アノード流路を備えたアノードセパレータと、
前記MEAのカソード側に配置された、カソード流路を備えたカソードセパレータと
を備えている。
(2)前記燃料電池は、カソード触媒として、
表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)を含む第1電極触媒と、
表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)を含む第2電極触媒と
を含む。
(3)前記カソード流路の上流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量は、前記カソード流路の下流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量より多い。
【請求項2】
前記上流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量は、50%以上であり、
前記下流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量は、50%未満である
請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記上流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量は、90%以上であり、
前記下流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量は、10%未満である
請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第1電極触媒は、前記触媒粒子(A)の単位表面積当たりの塩化物イオンの含有量が12.5μg/m2未満である請求項1から3までのいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記炭素膜の厚さは、0.2nm以上1.0nm以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記第1電極触媒は、前記触媒粒子(A)を担持する担体(A)をさらに備えている請求項1から5までのいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第1電極触媒は、前記触媒粒子(A)の単位表面積当たりの塩化物イオンの含有量が10.0μg/m2以下である請求項1から6までのいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記触媒粒子(A)は、Pt又はPt合金である請求項1から7までのいずれか1項に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、さらに詳しくは、低湿度環境下においても高い発電性能を示す燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒粒子を含む電極が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。電極は、一般に、触媒粒子を含む触媒層と、ガス拡散層の2層構造をとる。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えたセパレータ(集電体ともいう)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
上述したように、燃料電池用電極は、通常、電解質膜側に配置された触媒層と、ガス流路側に配置された拡散層の2層構造をとる。触媒層は、一般に、担体表面に白金や白金合金などの触媒粒子が担持された電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。このような構造を備えた燃料電池のアノード及びカソードに燃料(例えば、水素)及び酸化剤(例えば、空気)を供給すると、電極反応が進行し、電力を得ることができる。
【0004】
しかしながら、細長いカソード流路に空気を供給すると、電極反応の進行に伴い、下流側に行くほど酸素濃度が低下する。また、これと同時に、カソード流路の下流側に行くほど反応生成物である水蒸気の濃度が増加する。そのため、ガスの流れの方向に沿って均一な構造を備えた電極では、発電性能が低下する場合がある。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)触媒担持カーボンからなる触媒粒子と、平均繊維長が1μm以上15μm以下の繊維状物質と、高分子電解質とを含む触媒層を備え、
(b)ガスの出口側(第二の電極触媒部)におけるカーボン粒子に対する繊維状物質の質量比が、ガスの入口側(第一の電極触媒部)におけるそれより大きい
燃料電池用膜電極接合体が開示されている。
【0006】
同文献には、
(A)カーボン粒子に対する繊維状物質の質量比が大きくなるほど、繊維状物質によって触媒層内に形成される細孔が増加し、水の除去が促進される点、及び、
(B)ガスの出口側における質量比をガスの入口側のそれより大きくすると、ガスの入口側では保水性が高くなるのに対し、ガスの出口側では水の除去が促進される点
が記載されている。
【0007】
特許文献2には、
(a)電解質膜の表面に触媒層を転写し、
(b)転写された触媒層の内、ガスの入口側部分のみをさらに加圧又は加熱する
膜電極接合体の製造方法が開示されている。
【0008】
同文献には、
(A)触媒層の細孔容量が多くなるほど、水の除去が促進される点、
(B)触媒層の内、ガスの入口側部分のみ加圧又は加熱すると、ガスの入口側における細孔容量がガスの出口側のそれより小さくなる点、及び、
(C)これによって、ガスの入口側では保水性が高くなるのに対し、ガスの出口側では水の除去が促進される点、
が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、
(a)触媒担持粒子と、高分子電解質とを含む触媒層を備え、
(b)ガスの入口側(第一の電極触媒部)に含まれる高分子電解質のイオン交換容量が、ガスの出口側(第二の電極触媒部)に含まれる高分子電解質のそれより大きい
燃料電池用膜電極接合体が開示されている。
【0010】
同文献には、
(A)触媒層に含まれる高分子電解質のイオン交換容量が大きくなるほど、保水性が高くなる点、及び、
(B)ガスの入口側における高分子電解質のイオン交換容量をガスの出口側のそれより大きくすると、ガスの入口側では保水性が高くなるのに対し、ガスの出口側では水の除去が促進される点
が記載されている。
【0011】
特許文献1~3には、ガス流路の入口側における触媒層の保水性を出口側のそれより高くする方法が開示されている。しかし、水の飽和蒸気圧は、温度に対して指数関数的に増加する。そのため、特許文献1~3に記載の方法を用いる場合において、セル温度が低い時(例えば、60℃以下)には生成水による保水効果は期待できるが、セル温度が高い時(例えば、80℃以上)には保水効果は期待できない。
【0012】
自動車用燃料電池の場合、コスト削減と出力密度向上の観点から、加湿器レス及びラジエータ小型化が求められている。それに伴って、セル内温度は高くなり、セル内湿度は低くなる。このような条件では、生成水に頼らずとも低湿度で高い発電性能が得られる電極触媒、あるいは、これを用いた触媒層が必要になる。しかしながら、低湿度でも高い発電性能が得られる燃料電池が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2019-083112号公報
【文献】特開2017-174600号公報
【文献】特開2018-060715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、低湿度環境下においても高い発電性能を示す燃料電池を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、低湿度環境下に加えて、高湿度環境下においても高い発電性能を示す燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る燃料電池は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記燃料電池は、
電解質膜の両面にアノード及びカソードが接合された膜電極接合体(MEA)と、
前記MEAのアノード側に配置された、アノード流路を備えたアノードセパレータと、
前記MEAのカソード側に配置された、カソード流路を備えたカソードセパレータと
を備えている。
(2)前記燃料電池は、カソード触媒として、
表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)を含む第1電極触媒と、
表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)を含む第2電極触媒と
を含む。
(3)前記カソード流路の上流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量は、前記カソード流路の下流側領域に含まれる前記第1電極触媒の含有量より多い。
【発明の効果】
【0016】
表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)は、アイオノマによる触媒被毒が抑制されるため高活性を示すが、酸素移動抵抗が大きい。一方、表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)は、酸素移動抵抗は小さいが、アイオノマによる触媒被毒及びこれに起因する活性低下が起きやすい。そのため、これらのいずれか一方のみを燃料電池のカソード触媒として用いた場合、低湿度環境下及び/又は高湿度環境下において性能低下が生じるおそれがある。
【0017】
これに対し、低湿度となるカソード流路の上流側領域に触媒粒子(A)を配置すると、酸素移動抵抗の増大による悪影響は少なく、むしろ触媒被毒が抑制されることにより発電性能が向上する。同様に、発電生成水により高湿度となるカソード流路の下流側領域に触媒粒子(B)を配置すると、触媒被毒の増大による悪影響は少なく、むしろ酸素移動抵抗が減少することにより発電性能が向上する。
【0018】
そのため、カソード流路の上流側領域における触媒粒子(A)の含有量をカソード流路の下流側領域のそれより多くすると、カソード触媒として触媒粒子(A)又は触媒粒子(B)のいずれか一方のみを用いた場合に比べて低湿度環境下における燃料電池全体の発電性能が向上する。また、触媒層全体の酸素移動抵抗が過度に増加しないので、高湿度環境下における燃料電池全体の発電性能も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ドーパミン修飾触媒及び未修飾触媒を用いたセルの低湿度下(83℃、30%RH)での発電性能を示す図である。
図2】ドーパミン修飾触媒及び未修飾触媒を用いたセルの高湿度下(60℃、80%RH)での発電性能を示す図である。
図3】発電性能の予測に用いた仮定の模式図である。
図4】実施例1及び比較例1~2の燃料電池について簡易計算で求めた0.6V(IR損補正)での電流密度である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 第1電極触媒]
本発明に係る燃料電池は、カソード触媒として、第1電極触媒を含む。
ここで、「第1電極触媒」とは、表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)を含む触媒をいう。触媒粒子(A)は、そのままの状態でカソード触媒として用いても良く、あるいは、担体(A)の表面に担持された状態で用いても良い。
【0021】
[1.1. 触媒粒子(A)]
[1.1.1. 組成]
本発明において、触媒粒子(A)の材料は、特に限定されない。触媒粒子(A)の材料としては、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金、
などがある。
【0022】
これらの中でも、触媒粒子(A)は、Pt又はPt合金が好ましい。これは、燃料電池の電極反応に対して高い活性を有するためである。
Pt合金としては、例えば、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、Pt-Ni合金、Pt-Pd合金、Pt-Cr合金、Pt-V合金、Pt-Ti合金、Pt-Ru合金、Pt-Ir合金などがある。
【0023】
[1.1.2. 粒径]
触媒粒子(A)の粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な粒径を選択することができる。一般に、触媒粒子(A)の粒径が小さすぎると、触媒粒子(A)が溶解しやすくなる。従って、触媒粒子(A)の粒径は、1nm以上が好ましい。
一方、触媒粒子(A)の粒径が大きくなりすぎると、質量活性が低下する。従って、触媒粒子(A)の粒径は、20nm以下が好ましい。触媒粒子の粒径は、好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0024】
[1.2. 担体(A)]
[1.2.1. 材料]
触媒粒子(A)は、そのままの状態でカソード触媒として用いても良く、あるいは、担体(A)の表面に担持された状態で用いても良い。触媒粒子(A)を担体(A)の表面に担持させると、微細な触媒粒子(A)を安定して分散させることができるので、触媒使用量を低減することができる。
担体(A)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0025】
[1.2.2. 触媒担持量]
触媒粒子(A)が担体(A)の表面に担持されている場合、触媒担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、触媒担持量が少なすぎると、十分な活性が得られない。一方、触媒担持量を必要以上に多くしても、効果に差がなく、実益がない。
例えば、カーボン担体表面にPt又はPt合金からなる触媒粒子(A)を担持させる場合、触媒担持量は、5mass%~70mass%が好ましい。
【0026】
[1.3. 炭素膜]
[1.3.1. 組成]
触媒粒子(A)の表面は、炭素膜で被覆されている。炭素膜は、触媒粒子(A)の表面を有機物に由来する被膜で被覆し、被膜を熱分解させることにより形成される。炭素膜は、炭素のみからなるものでもよく、あるいは、炭素以外の元素を含んでいても良い。他の元素としては、例えば、窒素、酸素、水素などがある。
但し、塩化物イオンは、触媒粒子(A)を被毒し、活性を低下させる原因となる。そのため、塩化物イオンの含有量は少ないほど良い。塩化物イオンの含有量については、後述する。
【0027】
[1.3.2. 厚さ]
炭素膜の厚さは、触媒粒子(A)の安定性及び活性に影響を与える。炭素膜の厚さが薄すぎると、触媒粒子(A)の溶解、凝集、及び/又は、脱離が起きやすくなる。また、このような電極触媒を燃料電池用電極に適用した場合において、炭素膜の厚さが薄すぎる時には、触媒粒子(A)が触媒層アイオノマで被毒されやすくなる。従って、炭素膜の厚さは、0.2nm以上が好ましい。炭素膜の厚さは、好ましくは、0.5nm以上である。
一方、炭素膜の厚さが厚くなりすぎると、反応物質の輸送抵抗が大きくなり、高電流密度性能が低下する。従って、炭素膜の厚さは、1.0nm以下が好ましい。
【0028】
[1.4. 塩化物イオン含有量]
上述したように、炭素膜は、触媒粒子(A)の表面を有機物に由来する被膜で被覆し、被膜を熱分解させることにより形成される。この時、使用する有機物の種類によっては、触媒粒子(A)の表面に塩化物イオンが吸着する場合がある。塩化物イオンは、触媒粒子(A)を被毒し、活性を低下させる原因となる。本発明においては、この問題を解決するために、被膜を熱分解させた後、洗浄により塩化物イオンを除去する。
【0029】
高い活性を得るためには、第1電極触媒に含まれる塩化物イオンの含有量は、少ないほど良い。具体的には、塩化物イオンの含有量は、12.5μg/m2未満である必要がある。塩化物イオンの含有量は、好ましくは、10.0μg/m2以下、さらに好ましくは、8.0μg/m2以下、さらに好ましくは、6.0μg/m2以下である。
ここで、「塩化物イオンの含有量(μg/m2)」とは、触媒粒子(A)の単位表面積当たりの塩化物イオンの含有量(吸着量)をいう。
【0030】
[2. 第2電極触媒]
本発明に係る燃料電池は、カソード触媒として、第2電極触媒をさらに含む。
ここで、「第2電極触媒」とは、表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)を含む触媒をいう。触媒粒子(B)は、そのままの状態でカソード触媒として用いても良く、あるいは、担体(B)の表面に担持された状態で用いても良い。
【0031】
[2.1. 触媒粒子(B)]
[2.1.1. 組成]
本発明において、触媒粒子(B)の材料は、特に限定されない。触媒粒子(B)の組成の詳細は、触媒粒子(A)と同様であるので、説明を省略する。
【0032】
[2.1.2. 粒径]
触媒粒子(B)の粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な粒径を選択することができる。触媒粒子(B)の粒径の詳細は、触媒粒子(A)と同様であるので、説明を省略する。
【0033】
[2.2. 担体(B)]
[2.2.1. 材料]
触媒粒子(B)は、そのままの状態でカソード触媒として用いても良く、あるいは、担体(B)の表面に担持された状態で用いても良い。担体(B)の材料の詳細は、担体(A)と同様であるので、説明を省略する。
【0034】
[2.2.2. 触媒担持量]
触媒粒子(B)が担体(B)の表面に担持されている場合、触媒担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。触媒粒子(B)の担持量の詳細は、触媒粒子(A)のそれと同様であるので、説明を省略する。
【0035】
[3. 燃料電池]
本発明に係る燃料電池は、
電解質膜にアノード及びカソードが接合された膜電極接合体(MEA)と、
前記MEAのアノード側に配置された、アノード流路を備えたアノードセパレータと、
前記MEAのカソード側に配置された、カソード流路を備えたカソードセパレータと
を備えている。
【0036】
[3.1. 燃料電池の構成要素]
[3.1.1. 電解質膜]
本発明において、電解質膜の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。電解質の材料としては、例えば、
(a)ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)などのパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ、
(b)スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの炭化水素系ポリマ、
などがある。
【0037】
[3.1.2. アノード]
アノードは、電解質膜の一方の面に接合されている。アノードは、アノード触媒と、触媒層アイオノマとを含むアノード触媒層を備えている。アノードは、アノードセパレータ側に配置されたアノード拡散層をさらに備えていても良い。
本発明において、アノード触媒及び触媒層アイオノマの材料、並びに、これらの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
また、アノードがアノード拡散層を含む場合において、アノード拡散層の材料及び構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0038】
[3.1.3. カソード]
カソードは、電解質膜の他方の面に接合されている。カソードは、カソード触媒と、触媒層アイオノマとを含むカソード触媒層を備えている。カソードは、カソードセパレータ側に配置されたカソード拡散層をさらに備えていても良い。
これらの内、触媒層アイオノマの材料及びその含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
また、カソードがカソード拡散層を含む場合において、カソード拡散層の材料及び構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0039】
一方、本発明に係る燃料電池は、カソード触媒として、
表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)を含む第1電極触媒と、
表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)を含む第2電極触媒と
を含む。この点が、従来とは異なる。
第1電極触媒及び第2電極触媒の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。また、カソードに含まれるカソード触媒の含有量については、後述する。
【0040】
[3.1.4. アノードセパレータ及びカソードセパレータ]
MEAのアノード側及びカソード側には、それぞれ、アノードセパレータ及びカソードセパレータが配置される。アノードセパレータは、燃料ガスを特定方向に流すためのアノード流路を備えている。同様に、カソードセパレータは、酸化剤ガスを特定方向に流すためのカソード流路を備えている。
【0041】
本発明において、セパレータの材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。セパレータの材料としては、例えば、ステンレス鋼、カーボンなどがある。
【0042】
また、ガス流路(アノード流路及びカソード流路)の構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。例えば、ガス流路は、セパレータの一端から他端に向かって直線的に伸びているものでも良い。あるいは、ガス流路は、セパレータの面内において屈曲又は湾曲していてものでも良い。
【0043】
[3.2. カソード触媒の含有量]
[3.2.1. 定義]
本発明において、カソード流路の上流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量は、カソード流路の下流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量より多い。この点が、従来とは異なる。
ここで、「カソード流路の上流側領域」とは、カソード流路の入口から、カソード流路の入口と出口の中間地点までの領域をいう。
「カソード流路の下流側領域」とは、中間地点から、カソード流路の出口までの領域をいう。
「第1電極触媒の含有量」とは、第1電極触媒の質量(W1)と第2電極触媒の質量(W2)の和に対する第1電極触媒の質量の割合(=W1×100/(W1+W2))をいう。
【0044】
「上流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量」とは、上流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量の平均値をいい、必ずしも、上流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量が場所によらず均一であることを意味しない。例えば、第1電極触媒の含有量は、カソード流路の入口から中間地点に向かって、段階的又は連続的に減少していても良い。
同様に、「下流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量」とは、下流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量の平均値をいい、必ずしも、下流側領域に含まれる第1電極触媒の含有量が場所によらず均一であることを意味しない。例えば、第1電極触媒の含有量は、中間地点からカソード流路の出口に向かって、段階的又は連続的に減少していても良い。
【0045】
[3.2.2. 上流側領域の第1電極触媒の含有量]
第1電極触媒は、表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)を含む。触媒粒子(A)は、表面が炭素膜で被覆されているために、酸素移動抵抗は大きいが、アイオノマによる触媒被毒及びこれに起因する活性の低下が抑制される。一方、カソード流路の上流側領域では、一般に、酸素濃度が高く、湿度は低い。一般に、アイオノマによる触媒被毒は、アイオノマの吸着力が強くなる低湿度で大きくなる。
【0046】
そのため、酸素濃度の高い(すなわち、酸素移動抵抗の増大があまり問題とならない)上流側領域において、第1電極触媒の含有量を相対的に多くすると、アイオノマによる触媒被毒及びこれに起因する活性の低下を抑制することができる。このような効果を得るためには、上流側領域の第1電極触媒の含有量は、50%以上が好ましい。含有量は、好ましくは、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは、90%以上である。
【0047】
[3.2.3. 下流側領域の第1電極触媒の含有量]
第2電極触媒は、表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)を含む。触媒粒子(B)は、表面が炭素膜で被覆されていないために、アイオノマによる触媒被毒及びこれに起因する活性の低下が起きやすいが、酸素移動抵抗は小さい。一方、カソード流路の下流側領域では、一般に、酸素濃度が低く、湿度は高い。
【0048】
そのため、湿度の高い(すなわち、触媒被毒があまり問題とならない)下流側領域において、第1電極触媒の含有量を相対的に少なくすると、酸素移動抵抗の増大及びこれに起因する高電流密度性能の低下を抑制することができる。このような効果を得るためには、下流側領域の第1電極触媒の含有量は、50%未満が好ましい。含有量は、好ましくは、40%未満、30%未満、20%未満、あるいは、10%未満である。
【0049】
[4. 第1電極触媒の製造方法]
本発明に係る第1電極触媒の製造方法は、
触媒粒子(A)の表面を、有機物に由来する被膜で被覆し、第1電極触媒前駆体を得る被覆工程と、
前記第1電極触媒前駆体を熱処理することにより前記被膜を炭化させ、前記触媒粒子(A)の表面が炭素膜で被覆された第1電極触媒を得る炭化工程と、
必要に応じて、前記触媒粒子(A)の単位表面積当たりの塩化物イオンの含有量が12.5μg/m2未満となるまで前記第1電極触媒を洗浄する洗浄工程と、
を備えている。
【0050】
[4.1. 被覆工程]
まず、触媒粒子(A)の表面を有機物に由来する被膜で被覆し、第1電極触媒前駆体を得る(被覆工程)。
【0051】
[4.1.1. 触媒粒子(A)]
触媒粒子(A)は、担体(A)の表面に担持されているものでも良く、あるいは、担体(A)の表面に担持されていないものでも良い。触媒粒子(A)及び担体(A)に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0052】
[4.1.2. 被膜]
被膜は、有機物が触媒粒子(A)の表面に単に付着しているものでも良く、あるいは、低分子量の有機物が触媒粒子(A)の表面で重合することにより得られる高分子化合物でも良い。
被膜を構成する有機物は、
(a)触媒粒子(A)の表面を被覆することができ、かつ、
(b)熱分解により炭素膜を生成させることが可能なもの
であれば良い。
このような有機物としては、例えば、ドーパミン、カテコール系高分子などがある。
これらの中でも、ドーパミンは、塩酸塩の状態において、塩基性条件下で様々な材料表面に容易に付着し、被膜を形成することができる。そのため、ドーパミンは、被膜を構成する有機物として好適である。
【0053】
[4.1.3. 有機物の含有量]
第1電極触媒前駆体に含まれる有機物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。一般に、有機物の含有量が多くなるほど、炭素膜の厚さを厚くすることができる。
【0054】
最適な含有量は、有機物の種類により異なる。例えば、有機物がドーパミンからなる場合において、ドーパミンの含有量が少なすぎると、炭素膜の厚さが過度に薄くなる。従って、ドーパミンの含有量は、5mass%以上が好ましい。ドーパミンの含有量は、好ましくは、10mass%以上、さらに好ましくは、15mass%以上である。
一方、ドーパミンの含有量が多すぎると、炭素膜の厚さが過度に厚くなる。従って、ドーパミンの含有量は、30mass%以下が好ましい。ドーパミンの含有量は、好ましくは、25mass%以下である。
【0055】
[4.2. 炭化工程]
次に、前記第1電極触媒前駆体を熱処理することにより前記被膜を炭化させ、前記触媒粒子(A)の表面が炭素膜で被覆された第1電極触媒を得る(炭化工程)。
熱処理条件は、被膜を炭化させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。熱処理は、通常、不活性雰囲気下において、400℃~1100℃で、0.5時間~10時間加熱するのが好ましい。
【0056】
[4.3. 洗浄工程]
次に、必要に応じて、前記触媒粒子(A)の単位表面積当たりの塩化物イオンの含有量が12.5μg/m2未満となるまで前記第1電極触媒を洗浄する(洗浄工程)。
洗浄工程は、前記塩化物イオンの含有量が10.0μg/m2以下となるまで前記第1電極触媒を洗浄するものが好ましい。塩化物イオンの含有量は、好ましくは、8.0μg/m2以下、さらに好ましくは、6.0μg/m2以下である。
【0057】
洗浄用の溶媒は、塩化物イオンを除去することが可能なものであれば良い。洗浄用の溶媒としては、例えば、水、アルコールなどがある。
洗浄条件は、塩化物イオンの含有量を所定の値未満にすることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。例えば、洗浄用の溶媒として水を用いる場合、一般に、水温が高くなるほど、塩化物イオンの脱離が促進される。従って、水温は、40℃以上が好ましい。水温は、好ましくは、80℃以上である。
洗浄時間は、溶媒の温度に応じて最適な時間を選択するのが好ましい。一般に、溶媒の温度が高くなるほど、短時間で塩化物イオンを脱離させることができる。
【0058】
[5. 作用]
表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)は、表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)に比べて触媒活性が高い。その理由は、触媒表面に炭素膜が形成されることで、触媒とアイオノマとの接触面積が減少し、アイオノマによる触媒被毒が軽減されるからである。アイオノマによる触媒被毒は、アイオノマの吸着力が強くなる低湿度において顕著となる。そのため、炭素膜による触媒被毒低減効果は、低湿度ほど大きい。よって、低湿度条件下では、表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)を用いる方が発電性能が大きく向上すると期待される。しかし、一般に、カソード流路の出口側領域では高湿度となるので、カソード触媒として触媒粒子(A)のみを用いると、カソード流路の出口側領域での発電性能が低下する場合がある。
【0059】
他方、表面が炭素膜で被覆された触媒粒子(A)は、触媒表面に形成された炭素膜が酸素移動を阻害するため、高電流密度域の性能が低下する。特に、高湿度では、その影響が大きい。よって、高湿度条件では、表面が炭素膜で被覆されていない触媒粒子(B)を用いる方が発電性能が高くなると期待される。しかし、一般に、カソード流路の入口側領域では低湿度となるので、カソード触媒として触媒粒子(B)のみを用いると、カソード流路の入口側領域での発電性能が低下する場合がある。
【0060】
これに対し、低湿度となるカソード流路の上流側領域に主として触媒粒子(A)を配置すると、酸素移動抵抗の増大による悪影響は少なく、むしろ触媒被毒が抑制されることにより発電性能が向上する。同様に、発電生成水により高湿度となるカソード流路の下流側領域に主として触媒粒子(B)を配置すると、触媒被毒の増大による悪影響は少なく、むしろ酸素移動抵抗が減少することにより発電性能が向上する。
【0061】
そのため、カソード流路の上流側領域における触媒粒子(A)の含有量をカソード流路の下流側領域のそれより多くすると、カソード触媒として触媒粒子(A)又は触媒粒子(B)のいずれか一方のみを用いた場合に比べて低湿度環境下における燃料電池全体の発電性能が向上する。また、触媒層全体の酸素移動抵抗が過度に増加しないので、高湿度環境下における燃料電池全体の発電性能も向上する。
【実施例
【0062】
(参考例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. カソード触媒の作製]
カソード触媒を構成する触媒粒子(B)には、30%Pt/Vulcan(登録商標)(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E)をそのまま用いた。
カソード触媒を構成する触媒粒子(A)には、触媒粒子(B)に以下の方法でドーパミン修飾を行ったものを用いた。
【0063】
[工程1. 分散液の調整]
触媒粒子(B)、ドーパミン塩酸塩、及び、pH8.5に調整したトリス塩酸緩衝液をビーカーに入れ、超音波分散した。次いで、室温・大気中において、スターラーを用いて分散液を6時間撹拌した。ドーパミン塩酸塩の添加量は、触媒粒子(B)の重量に対して、30wt%とした。この場合、塩酸を除いたドーパミン重量は、24wt%になる。
【0064】
[工程2. ろ過、洗浄、及び乾燥]
次に、分散液を吸引ろ過した。残った触媒粒子(A)前駆体を室温の超純水で洗浄した後、乾燥させた。
[工程3. 熱処理]
次に、ドーパミンを炭化させるために、上記触媒粒子(A)前駆体を石英管状炉内でArを流しながら700℃で2時間の熱処理を行った。
[工程4. 洗浄]
熱処理後の触媒粒子(A)を高温(80℃)の超純水で洗浄した。
【0065】
なお、工程2及び工程4での洗浄は、いずれも、工程1で混入した不純物の除去を目的としている。しかし、工程2の洗浄は触媒粒子に付着したドーパミンが取れないように室温水で行ったのに対し、工程4の洗浄は炭化したドーパミンが取れることはないので高温水で行った。
【0066】
[1.2. カソード触媒層の作製]
触媒粒子(A)を、水・エタノール・ナフィオン(登録商標)を含むアイオノマ溶液(D-2020)に分散させ、触媒インクを作製した。インク中の水/アルコール質量比は、約1とした。このインクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗工・乾燥させて、カソード触媒層(参考例1)を作製した。カソード触媒層のPt目付量は0.1mg/cm2、アイオノマとカーボンの質量比(I/C)は1.0とした。
また、カソード触媒として触媒粒子(B)を用いた以外は、参考例1と同様にして、カソード触媒層(参考例2)を作製した。
【0067】
[1.3. アノード触媒層の作製]
触媒には、60wt%Pt/Ketjen(登録商標)を用いた。これを水・エタノール・ナフィオン(登録商標)を含むアイオノマ溶液(D-2020)に分散させ、触媒インクを作製した。このインクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗工・乾燥させて、アノード触媒層を作製した。アノード触媒層のPt目付量は0.2mg/cm2、アイオノマとカーボンの質量比(I/C)は1.0とした。
【0068】
[1.4. MEAの作製]
カソード触媒層及びアノード触媒層をナフィオン(登録商標)膜(NR211)の両面に熱転写して、膜電極接合体(MEA)を作製した。熱転写条件は、120℃、50kgf/cm2(4.90MPa)、5minとした。電極面積は、1×1cm2とした。このMEAを撥水層付きペーパー拡散層(GDL)で挟んでセルを構成した。
【0069】
[2. 試験方法]
上記セルを用いて、慣らし運転を行った。その後、低湿度下(セル温度:83℃、加湿度:30%RH)、及び高湿度下(セル温度:60℃、加湿度:80%RH)で発電性能を調べた。使用したガスの種類/流量は、アノード側が水素/500sccm、カソード側が空気/1000scmとした。これらの流量は、いずれも反応消費量に対して大過剰であるため、セル入口側と出口側の湿度はほぼ同じであった。また、ガス背圧は、両極とも大気圧とした。
【0070】
[3. 結果]
[3.1. 低湿度下での発電性能]
図1に、ドーパミン修飾触媒(参考例1)及び未修飾触媒(参考例2)を用いたセルの低湿度下(83℃、30%RH)での発電性能を示す。ドーパミン修飾した触媒粒子(A)を用いたセルは、未修飾の触媒粒子(B)を用いたセルに比べて発電性能が著しく高くなった。セル電圧:0.7V付近の電流密度から生成水量及び湿度を計算すると、セルの入口側湿度:30%RHに対して、出口側湿度は31%RHとなった。すなわち、セル内は、ほぼ30%RHの低湿度に維持されていた。この結果から、ドーパミン修飾した触媒粒子(A)を用いたセルは、生成水による保湿効果がなくても、低湿度において高い発電性能を示すことが分かった。その理由は、ドーパミン修飾によって触媒粒子の表面に形成された炭素膜が、アイオノマによる触媒被毒を軽減するからである。
【0071】
[3.2. 高湿度下での発電性能]
図2に、ドーパミン修飾触媒(参考例1)及び未修飾触媒(参考例2)を用いたセルの高湿度下(60℃、80%RH)での発電性能を示す。高湿度の場合、ドーパミン修飾した触媒粒子(A)を用いたセルは、未修飾の触媒粒子(B)を用いたセルに比べて、0.75V以上では発電性能が少し高いものの、それ以下の電圧では発電性能が低下した。ドーパミン修飾した触媒粒子(A)を用いたセルの発電性能が0.75V以上で高いのは、低湿度の場合と同様、炭素膜による触媒被毒の軽減効果によるものである。
【0072】
しかし、アイオノマによる触媒被毒は、アイオノマの吸着力が強くなる低湿度で大きい(参考文献1)のに対し、高湿度では小さい。そのため、炭素膜による触媒被毒軽減効果も高湿度では小さくなった。
他方、ドーパミン修飾によって触媒表面に形成された炭素膜は、触媒表面への酸素移動を阻害することから、高湿度の高電流密度領域では発電性能が低下した。
[参考文献1]Electrochemistry Communications 36(2013)26
【0073】
(実施例1、比較例1~2)
[1. 試験方法]
図1、2の実験では、供給ガスを大量に流しているので、ガス上流側と下流側の湿度はほぼ同じである。しかし、実際の燃料電池は供給ガスの流量を絞って流すため、供給ガスの湿度が低くても、発電生成水によって下流側の湿度は高くなる。そこで、カソード流路の上流側領域と下流側領域で異なる触媒を用いた燃料電池の発電性能を予測した。
【0074】
表1に、性能予測を行った燃料電池の構成を示す。
実施例1は、カソード流路の上流側領域にドーパミン修飾した触媒粒子(A)(含有量100%)を配置し、下流側領域に未修飾の触媒粒子(B)(含有量100%)を配置した燃料電池である。
比較例1、2は、カソード流路の上流側領域と下流側領域に同じ触媒粒子(含有量100%)を配置した燃料電池である。
【0075】
【表1】
【0076】
図3に、発電性能の予測に用いた仮定の模式図を示す。実施例1の場合、ドーパミン修飾した触媒粒子(A)と未修飾の触媒粒子(B)の面積割合は半々とした。また、供給ガスは低湿度としたが、発電生成水によって燃料電池内ガス湿度は徐々に上昇する。その状態を簡易的に表すため、カソード流路の上流側領域(前半部)は湿度30%RH、カソード流路の下流側領域(後半部)は湿度80%RHと仮定した。そして、前半部では図1の発電性能、後半部では図2の発電性能を使って、セル全体の発電性能を計算した。
【0077】
[2. 結果]
図4に、実施例1及び比較例1~2の燃料電池について簡易計算で求めた0.6V(IR損補正)での電流密度を示す。図4より、実施例1は、比較例1、2に比べて発電性能が高いことが分かる。
なお、今回の計算では、実施例1においてドーパミン修飾した触媒粒子(A)と未修飾の触媒粒子(B)の面積割合を半々としたが、最適な面積割合はセルの運転条件によって変わる。例えば、セル全体の湿度が低い条件で運転される燃料電池の場合、ドーパミン修飾した触媒粒子(A)の面積割合を大きくするのが望ましい。他方、セル全体の湿度が比較的高い条件で運転される燃料電池の場合、ドーパミン修飾した触媒粒子(A)の面積割合を小さくするのが望ましい。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る燃料電池は、車載動力源、定置型小型発電器などに用いることができる。
図1
図2
図3
図4