(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】光学活性体の製造方法、光学活性体、キラル分子の製造方法およびキラル分子
(51)【国際特許分類】
C07B 57/00 20060101AFI20221130BHJP
C07C 231/20 20060101ALI20221130BHJP
C07C 235/40 20060101ALI20221130BHJP
C07C 311/20 20060101ALI20221130BHJP
C07C 303/40 20060101ALI20221130BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20221130BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20221130BHJP
C07C 233/88 20060101ALI20221130BHJP
C07D 225/06 20060101ALI20221130BHJP
C07D 491/044 20060101ALI20221130BHJP
C07D 311/78 20060101ALI20221130BHJP
C07D 225/02 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C07B57/00 350
C07B57/00 370
C07B57/00 340
C07B57/00 390
C07B57/00 380
C07C231/20
C07C235/40
C07C311/20
C07C303/40
C07F7/18 N
C07F7/08 J
C07C233/88
C07D225/06
C07D491/044
C07D311/78
C07D225/02
(21)【出願番号】P 2019518824
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2018018865
(87)【国際公開番号】W WO2018212216
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2017097928
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】友岡 克彦
(72)【発明者】
【氏名】井川 和宣
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-255658(JP,A)
【文献】特開2005-255659(JP,A)
【文献】Journal of Organic Chemistry,2000年01月15日,Vol.65,PP.722-728,doi:10.1021/jo9913356
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B
C07C
C07F
C07D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満であるキラル分子に、
セルロース誘導体またはアミロース誘導体を含む不斉誘導剤を作用させることにより、前記キラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高める不斉誘導工程を含む、光学活性体の製造方法。
【請求項2】
前記キラル分子に前記不斉誘導剤を作用させることにより、前記キラル分子内の結合の開裂や再形成を伴うことなく、一方のエナンチオマーの存在比を高める、請求項1に記載の光学活性体の製造方法。
【請求項3】
前記キラル分子の一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーは、互いに立体配座が異なる、
請求項1または2に記載の光学活性体の製造方法。
【請求項4】
前記キラル分子が面不斉分子である、請求項2または3に記載の光学活性体の製造方法。
【請求項5】
前記キラル分子が軸不斉分子(ただし置換ビフェニル分子は除く)である、請求項2または3に記載の光学活性体の製造方法。
【請求項6】
前記キラル分子がらせん不斉分子である、請求項2または3に記載の光学活性体の製造方法。
【請求項7】
前記キラル分子が下記一般式(1)~(3)、(4a)、(4b)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9a)、(9b)のいずれかで表される構造を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、R
11~R
14は各々独立に水素原子または置換基を表す。X
11はO、SまたはNR
15を表し、R
15は置換基を表す。n1は1~10の整数を表す。]
【化2】
[一般式(2)において、R
21およびR
22は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
23~R
26は各々独立に水素原子または置換基を表す。X
12はO、SまたはNR
27を表し、R
27は置換基を表す。n2は1~10の整数を表す。]
【化3】
[一般式(3)において、R
31およびR
32は各々独立に置換基を表し、R
33~R
37は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【化4】
[一般式(4a)において、R
41~R
43は各々独立に置換基を表す。n4は1~10の整数を表す。一般式(4a)におけるシクロアルケン骨格にはベンゼン環が縮環していてもよい。]
【化5】
[一般式(4b)において、R
44~R
48は各々独立に置換基を表す。]
【化6】
[一般式(5)において、R
51~R
55は各々独立に置換基を表す。ただし、R
54およびR
55は互いに異なる基である。]
【化7】
[一般式(6)において、R
61~R
64は互いに異なる基であり、各々独立に置換基を表す。]
【化8】
[一般式(7)において、R
71およびR
72は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【化9】
[一般式(8)において、R
81およびR
82は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
83は置換基を表す。]
【化10】
[一般式(9a)および(9b)において、R
91~R
96は各々独立に置換基を表し、n91およびn92は各々独立に1~10の整数を表す。]
【請求項8】
前記不斉誘導工程の後に、前記一方のエナンチオマーを単離する単離工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
【請求項9】
前記不斉誘導工程の後に、前記キラル分子に反応剤を作用させることにより、前記一方のエナンチオマーを、前記キラル分子よりも鏡像体過剰率の半減期が長い第2のキラル分子の一方のエナンチオマーへ変換する不斉安定化工程をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
【請求項10】
50℃における鏡像体過剰率の半減期が10時間未満であって、一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰に存在している第1のキラル分子の光学活性体に、反応剤を作用させることにより、鏡像体過剰率の半減期がより長い第2のキラル分子の光学活性体へ変換する不斉安定化工程を含
み、下記の条件(A)~(D)のいずれかを満たすことを特徴とする、キラル分子の製造方法。
(A)前記キラル分子が下記一般式(1)、(2)、(3)、(4a)または(4b)で表される構造を有し、前記反応剤がエポキシ化剤である。
(B)前記キラル分子が、下記一般式(1)で表される構造(ただし、R
12
はアシルオキシ基で置換されたアルキル基である)または下記一般式(2)で表される構造(ただし、R
22
はアシルオキシ基である)を有し、前記反応剤がアルキルリチウム反応剤である。
(C)前記キラル分子が、下記一般式(1)で表される構造(ただし、R
12
はハロゲン原子である)または下記一般式(2)で表される構造(ただし、R
22
はハロゲン原子である)を有し、前記反応剤がアルキルマグネシウム反応剤である。
(D)前記キラル分子が下記一般式(7)または(8)で表される構造を有し、前記反応剤が金属アルコキシド反応剤である。
【化11】
[一般式(1)において、R
11
~R
14
は各々独立に水素原子または置換基を表す。X
11
はO、SまたはNR
15
を表し、R
15
は置換基を表す。n1は1~10の整数を表す。]
【化12】
[一般式(2)において、R
21
およびR
22
は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
23
~R
26
は各々独立に水素原子または置換基を表す。X
12
はO、SまたはNR
27
を表し、R
27
は置換基を表す。n2は1~10の整数を表す。]
【化13】
[一般式(3)において、R
31
およびR
32
は各々独立に置換基を表し、R
33
~R
37
は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【化14】
[一般式(4a)において、R
41
~R
43
は各々独立に置換基を表す。n4は1~10の整数を表す。一般式(4a)におけるシクロアルケン骨格にはベンゼン環が縮環していてもよい。]
【化15】
[一般式(4b)において、R
44
~R
48
は各々独立に置換基を表す。]
【化16】
[一般式(7)において、R
71
およびR
72
は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【化17】
[一般式(8)において、R
81
およびR
82
は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
83
は置換基を表す。]
【請求項11】
前記不斉安定化工程の前に、50℃における鏡像体過剰率の半減期が10時間未満であるキラル分子に
セルロース誘導体またはアミロース誘導体を含む不斉誘導剤を作用させることにより、前記キラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高めて、前記キラル分子の一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰に存在している前記第1のキラル分子を得る工程を有する、請求項
10に記載のキラル分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナンチオマー間の相互変換が速いキラル分子(以下,動的キラル分子)の一方のエナンチオマーを選択的に得る方法と、そのような方法を利用してさらにエナンチオマー間で相互変換しないキラル分子(以下,静的キラル分子)あるいはエナンチオマー間の相互変換が動的キラル分子よりも遅いキラル分子(以下,準静的キラル分子)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キラル分子には、一対のエナンチオマー(鏡像異性体)がある。それらのエナンチオマー同士は、一般的な化学的性質や物理的性質は同じであるが、旋光度の符号が逆で生理活性が大きく異なることから、その一方のエナンチオマーのみを選択的に用いることは医薬品や機能性材料の開発に極めて重要である。そのため、一方のエナンチオマーを選択的に得る方法について、これまでに膨大な研究がなされている。
【0003】
キラル分子としては、例えばsp3炭素原子を不斉中心とするキラル炭素分子が代表的なものとして知られている。ここで、キラル炭素分子の一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーとは不斉炭素周りの立体配置が異なるために、ラセミ体の他方のエナンチオマーを一方のエナンチオマーに変換して一方のエナンチオマーのみを得るには、不斉炭素上の結合を開裂、再形成することが必須であり、それには極めて大きなエネルギーを要する。そのため、キラル炭素分子の一方のエナンチオマーを選択的に得る方法としては、こうした相互変換に依らずに、入手が容易なラセミ体(一対のエナンチオマーを50:50の割合で含む混合物)から一方のエナンチオマーのみを分割する光学分割法や、アキラルな分子を製造原料(基質)に用い、その分子をエナンチオ選択的に反応させて一方のエナンチオマーを選択的に合成する不斉合成法が主に用いられている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「Asymmetric Synthesis」,James D. Morrison編集,Academic Press発行(New York),1983年出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、光学分割法では、ラセミ体からのエナンチオマーの分割であるため、目的のエナンチオマーの収率が最高でも50%に留まり、少なくとも半分のキラル分子が無駄になってしまう。また、不斉合成法では、基質をエナンチオ選択的に反応させるための特殊なキラル反応剤を用いることが必要であるため、適用できるキラル分子に制限が多く、汎用性に欠ける。
【0006】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、キラル反応剤を用いなくても、キラル分子の一方のエナンチオマーを選択的且つ効率よく得ることができる方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、50℃における鏡像体過剰率の半減期が10時間未満である動的キラル分子に、室温で不斉誘導剤を作用させると、そのキラル分子の他方のエナンチオマーが一方のエナンチオマーへ容易に変換し、一方のエナンチオマーの存在比が顕著に高くなることを見出した。さらに、ラセミ化しやすいキラル分子からなる光学活性体に反応剤を反応させると、その光学純度を維持したまま、静的キラル分子あるいは準静的キラル分子に変換されて、それらの光学活性体が得られることも見出した。本発明はこれらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満であるキラル分子に、不斉誘導剤を作用させることにより、前記キラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高める不斉誘導工程を含む、光学活性体の製造方法。
[2] 前記キラル分子に前記不斉誘導剤を作用させることにより、前記キラル分子内の結合の開裂や再形成を伴うことなく、一方のエナンチオマーの存在比を高める、[1]に記載の光学活性体の製造方法。
[3] 前記キラル分子の一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーは、互いに立体配座が異なる、[1]または[2]に記載の光学活性体の製造方法。
[4] 前記キラル分子が面不斉分子である、[2]または[3]に記載の光学活性体の製造方法。
[5] 前記キラル分子が軸不斉分子(ただし置換ビフェニル分子は除く)である、[[2]または[3]に記載の光学活性体の製造方法。
[6] 前記キラル分子がらせん不斉分子である、[2]または[3]に記載の光学活性体の製造方法。
[7] 前記キラル分子が下記一般式(1)~(3)、(4a)、(4b)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9a)、(9b)のいずれかで表される構造を有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、R
11~R
14は各々独立に水素原子または置換基を表す。X
11はO、SまたはNR
15を表し、R
15は置換基を表す。n1は1~10の整数を表す。]
【化2】
[一般式(2)において、R
21およびR
22は各々独立に
水素原子または置換基を表し、R
23~R
26は各々独立に水素原子または置換基を表す。
X
21
はO、SまたはNR
27を表し、R
27は置換基を表す。n2は1~10の整数を表す。]
【化3】
[一般式(3)において、R
31およびR
32は各々独立に置換基を表し、R
33~R
37は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【化4】
[一般式(4a)において、R
41~R
43は各々独立
に置換基を表す。n4は1~10の整数を表す。一般式(4a)におけるシクロアルケン骨格にはベンゼン環が縮環していてもよい。]
【化5】
[一般式(4b)において、R
44~R
48は各々独立に置換基を表す。]
【化6】
[一般式(5)において、R
51~R
55は各々独立に置換基を表す。ただし、R
54およびR
55は互いに異なる基である。]
【化7】
[一般式(6)において、R
61~R
64は互いに異なる基であり、各々独立に置換基を表す。]
【化8】
[一般式(7)において、R
71およびR
72は各々独立に水素原子または置換基を表す。]
【化9】
[一般式(8)において、R
81およびR
82は各々独立に水素原子または置換基を表し、R
83は置換基を表す。]
【化10】
[一般式(9a)および(9b)において、R
91~R
96は各々独立に置換基を表し、n91およびn92は各々独立に1~10の整数を表す。]
[8] 前記キラル分子のラセミ化に要する活性化エネルギー(以下,ラセミ化エネルギー)が20~27kcal/molである、[1]~[7]のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
[9] 前記不斉誘導剤が光学活性体である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
[10] 前記不斉誘導剤が糖鎖誘導体である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
[11] 前記糖鎖誘導体が、糖鎖のユニットに連結基を介してアリール基が連結した構造を有し、前記連結基がエステル結合またはウレタン結合を含む、[10]に記載の光学活性体の製造方法。
[12] 前記不斉誘導剤が粒状の担体に担持されている、[1]~[11]のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
[13] 前記不斉誘導工程の後に、前記一方のエナンチオマーを単離する単離工程をさらに含む、[1]~[12]のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
[14] 前記不斉誘導工程の後に、前記キラル分子に反応剤を作用させることにより、前記一方のエナンチオマーを、前記キラル分子よりも鏡像体過剰率の半減期が長い第2のキラル分子の一方のエナンチオマーへ変換する不斉安定化工程をさらに含む、[1]~[13]のいずれか1項に記載の光学活性体の製造方法。
[15] 前記第2のキラル分子の鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間以上である、[14]に記載の光学活性体の製造方法。
[16] 前記反応剤が光学活性体である、[14]または[15]に記載の光学活性体の製造方法。
[17] 前記反応剤がエポキシ化剤である、[14]または[15]に記載の光学活性体の製造方法。
[18] [1]~[17]のいずれか1項に記載の製造方法により製造された光学活性体。
【0009】
[19] 50℃における鏡像体過剰率の半減期が10時間未満であって、一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰に存在している第1のキラル分子(動的キラル分子)の光学活性体に、反応剤を作用させることにより、ラセミ化半減期がより長い第2のキラル分子(静的キラル分子あるいは準静的キラル分子)の光学活性体に変換する工程(以下、不斉安定化工程)を含むことを特徴とする、キラル分子の製造方法。
[20] 前記不斉安定化工程の前に、鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満であるキラル分子に不斉誘導剤を作用させることにより、前記キラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高めて、前記キラル分子の一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰に存在している前記第1のキラル分子を得る工程を有する、[19]に記載のキラル分子の製造方法。
[21] 前記第1のキラル分子の鏡像体過剰率が40%ee以上である、[19]または[20]に記載のキラル分子の製造方法。
[22] [19]~[21]のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたキラル分子。
[23] 50℃において鏡像体過剰率の半減期が10時間以上である、[22]に記載のキラル分子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学活性体の製造方法によれば、キラル分子における一方のエナンチオマーを選択的且つ効率よく得ることができる。また、本発明のキラル分子の製造方法によれば、キラル分子のエナンチオマー間で相互変換が起きにくく、立体化学的に安定な光学活性体を得ることができる。こうして得られた光学活性体は、医薬品や機能性材料の原料として有用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0012】
<光学活性体の製造方法>
本発明の光学活性体の製造方法は、50℃における鏡像体過剰率の半減期が10時間未満であるキラル分子に、不斉誘導剤を作用させることにより、キラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高める工程を含む。本発明では、この工程を「不斉誘導工程」と言う。この工程により存在比を高めたエナンチオマーが、本発明の製造方法で製造する光学活性体である。また、本発明において「キラル分子」という場合は、単一の分子を意味するものではなく、分子の集合体を意味するものとする。
この製造方法によれば、キラル反応剤を用いることなく、さらには、キラル分子内の結合の開裂や再形成を伴うことなく、キラル分子における一方のエナンチオマーの存在比を顕著に高めることができ、一方のエナンチオマーを選択的且つ効率よく得ることができる。そのため、光学純度を極めて高く(鏡像体過剰率を極めて高く)することができる。また、この製造方法は多様なキラル分子に適用することができ、汎用的に用いうる方法である。この製造方法は、従来のラセミ分割法や不斉合成法とは概念がまったく異なる新しい方法である。
以下において、本発明の不斉誘導工程で用いるキラル分子、不斉誘導剤および条件について詳細に説明する。なお、本明細書中において室温とは一例として25℃を意味する。
【0013】
[不斉誘導工程]
この工程では、鏡像体過剰率の半減期が10時間未満であるキラル分子に、不斉誘導剤を作用させることにより、キラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高める。
【0014】
(鏡像体過剰率の半減期が10時間未満であるキラル分子)
本発明において、不斉誘導工程で用いるキラル分子の「鏡像体過剰率の半減期」とは、ある温度においてキラル分子の鏡像体過剰率が初期の鏡像体過剰率の1/2になるまでの時間のことを言う。
また、鏡像体過剰率とは、下記式(I)で求められる値である。
【0015】
【数1】
式(I)において、A
1およびA
2は、対象となるキラル分子に含まれる一方および他方のエナンチオマーのモル分率を表し、A
1はモル分率が大きい方のエナンチオマーのモル分率であり、A
2はモル分率が小さい方のエナンチオマーのモル分率である。
【0016】
一方および他方のエナンチオマーのモル分率は、キラル固定相を用いたHPLC・GC分析,旋光度測定,キラルシフト試薬を用いたNMR分析などにより求めることができる。
なお、一方または他方のエナンチオマーが過剰に存在するキラル分子は光学活性を示すため、本明細書中では、そのようなキラル分子を「光学活性体」と言うことがある。
キラル分子は、エナンチオマー間で相互変換を生じやすく、ラセミ化しやすいもの程、鏡像体過剰率の半減期が短い。そのため、鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満であるキラル分子は、温和な温度条件(0~50℃)で適切な不斉誘導剤を作用させることにより、その他方のエナンチオマーが一方のエナンチオマーへ容易に変換し、一方のエナンチオマーの存在比を高めることができる。本発明の光学活性体の製造方法で用いるキラル分子(動的キラル分子)の鏡像体過剰率の半減期は、例えば5時間未満や3時間未満や1時間未満とすることができる。キラル分子の鏡像体過剰率の半減期の下限は特に制限されないが、キラル分子の立体化学的な安定性、それによる取り扱い易さの点から、例えば0℃よりも低温において10分以上、1時間以上、10時間以上とすることができる。
【0017】
不斉誘導工程で用いるキラル分子としては、例えばエナンチオマー同士で立体配座が異なるキラル分子、すなわち立体配座の違いによってキラリティが発現するキラル分子を用いることができる。こうしたキラル分子では、分子内の結合の回転や結合角の変化といった比較的低いエネルギー障壁(例えば20数kcal/mol)の立体配座変換によって、他方のエナンチオマーから一方のエナンチオマーに変化する。そのため、室温程度の緩和な条件で、キラル分子に不斉誘導剤を作用させることにより、他方のエナンチオマーが一方のエナンチオマーに容易に変化して、その一方のエナンチオマーの存在比を顕著に高めることができる。エナンチオマー同士で立体配座が異なるキラル分子として、面不斉分子、軸不斉分子(例えば置換ビフェニル分子以外の軸不斉分子を選択することができる)、らせん不斉分子、中心性不斉分子等を挙げることができる。面不斉分子としては環状ジエン、オルトシクロフェン等を挙げることができる。軸不斉分子としてはアニリド、不飽和アミド、置換スチレンを挙げることができ、例えば置換ビフェニル分子以外の軸不斉分子を選択したりすることもできる。らせん不斉分子としてはラクトン、ラクタム等を挙げることができる。中心性不斉分子としてはシラン等を挙げることができる。具体的には、例えば下記一般式(1)~(3)、(4a)、(4b)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9a)、(9b)で表される化合物を採用することができる。これらの一般式で表される化合物は、いずれも温和な温度条件(0~50℃)でエナンチオマー同士が容易に相互変換するため、不斉誘導剤を作用させる際の温度を温和な温度条件(0~50℃)に設定することができる。
【0018】
まず、キラル分子として用いる環状ジエンとして、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0019】
【0020】
一般式(1)において、R11~R14は各々独立に水素原子または置換基を表す。R11~R14が表す置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。X11はO、SまたはNR15を表し、R15は置換基を表す。n1は1~10の整数を表す。
置換基は特に限定されないが、R12が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基またはハロゲン原子を用いることができ、置換アルキル基である場合には、ハロゲン原子または置換もしくは無置換のアシルオキシ基で置換されたアルキル基を用いることができる。R15が表す置換基として、例えばトシル基等の保護基を用いることができる。
【0021】
キラル分子として用いるオルトシクロフェンとして、下記一般式(2)で表される化合物を用いることができる。
【0022】
【0023】
一般式(2)において、R21およびR22は各々独立に水素原子または置換基を表す。R21とR22がともに置換基を表す場合、その置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。一つの態様として、R21とR22のいずれか一方が水素原子で他方が置換基である場合を挙げることができる。R23~R26は各々独立に水素原子または置換基を表す。R23~R26の中の置換基の数は特に制限されず、R23~R26のすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R21~R26のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。X
21
はO、SまたはNR27を表し、R27は置換基を表す。n2は1~10の整数を表す。
置換基の種類は特に限定されないが、R22が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基またはハロゲン原子を用いることができ、置換アルキル基である場合には、ハロゲン原子またはアシルオキシ基で置換されたアルキル基を用いることができる。R27が表す置換基として、例えばトシル基等の保護基を用いることができる。
【0024】
以下に、一般式(1)、(2)で表される化合物の一例のR体およびS体の立体配座を模式的に示す。X、Yは置換基を表す。
【0025】
【0026】
キラル分子として用いるアニリドとして、下記一般式(3)で表される化合物を用いることができる。
【0027】
【0028】
一般式(3)において、R31およびR32は各々独立に置換基を表す。R31とR32が表す置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。R33~R37は各々独立に水素原子または置換基を表す。R33~R37の中の置換基の数は特に制限されず、R33~R37のすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R33~R37のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
置換基は特に限定されないが、R31が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基を用いることができ、置換アルキル基である場合には、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基で置換されたアルキル基を用いることができる。R32が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアルケニル基を用いることができ、置換アルキル基または置換アルケニル基である場合には、置換もしくは無置換のアリール基で置換されたアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基で置換されたアルケニル基を用いることができる。R33、R37が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基またはハロゲン原子を用いることができる。
【0029】
以下に、一般式(3)で表される化合物の一例のR体およびS体の立体配座を模式的に示す。R、R’、X、Yは置換基を表す。
【0030】
【0031】
キラル分子として用いる不飽和アミドとして、下記一般式(4a)または(4b)で表される化合物を用いることができる。
【0032】
【0033】
一般式(4a)、(4b)において、R41~R43、R44~R48は各々独立に置換基を表す。R41~R43が表す置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。R44~R48が表す置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。n4は1~10の整数を表す。一般式(4a)におけるシクロアルケン骨格にはベンゼン環が縮環していてもよい。
置換基は特に限定されないが、R41が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアリーロイルオキシ基、置換もしくは無置換のシリルオキシ基を用いることができ、置換アリーロイルオキシ基である場合には、置換もしくは無置換のアルコキシ基で置換されたアリーロイルオキシ基を用いることができ、置換シリルオキシ基である場合には、置換もしくは無置換のアルキル基および置換もしくは無置換のアリール基の少なくとも一方で3つの水素原子が置換されたシリルオキシ基を用いることができる。R42、R43、R47、R48が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基を用いることができる。
【0034】
以下に、一般式(4a)で表される化合物の一例のR体およびS体の立体配座を模式的に示す。R、Xは置換基を表す。
【0035】
【0036】
キラル分子として用いる置換スチレンとして、一般式(5)で表される化合物を用いることができる。
【化18】
【0037】
一般式(5)において、R51~R55は各々独立に置換基を表す。ただし、R54およびR55は互いに異なる基である。
置換基は特に限定されないが、R51~R53が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基を用いることができる。R54およびR55が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基またはハロゲン原子を用いることができる。
【0038】
キラル分子として用いるシランとして、一般式(6)で表される化合物を用いることができる。
【化19】
【0039】
一般式(6)において、R61~R64は互いに異なる基であり、各々独立に置換基を表す。
置換基は特に限定されないが、R61およびR62が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基を用いることができる。R63およびR64が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基またはハロゲン原子を用いることができる。
【0040】
キラル分子として用いるラクトンとして、一般式(7)で表される化合物を用いることができる。
【0041】
【0042】
一般式(7)において、R71およびR72は各々独立に水素原子または置換基を表す。R71およびR72の中の置換基の数は特に制限されず、R71およびR72の両方が無置換(水素原子)であってもよい。R71およびR72の両方が置換基である場合、2つの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
R71、R72が表す置換基は特に限定されないが、例えば置換もしくは無置換のアルコキシ基を用いることができ、置換アルコキシ基である場合には、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のアルコキシ基で置換されたアルコキシ基を用いることができる。さらに、置換アルコキシ基で置換されたアルコキシ基における置換アルコキシ基の置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルコキシ基、アルキル基で置換された3つの水素原子が置換されたシリル基を挙げることができる。
【0043】
以下に、一般式(7)で表される化合物の一例をR体およびS体の立体配座を模式的に示す。X、Yは置換基を表す。
【0044】
【0045】
キラル分子として用いるラクタムとして、一般式(8)で表される化合物を用いることができる。
【0046】
【0047】
一般式(8)において、R81およびR82は各々独立に水素原子または置換基を表す。R81およびR82の中の置換基の数は特に制限されず、R81およびR82の両方が無置換(水素原子)であってもよい。R81およびR82の両方が置換基である場合、2つの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。R83は置換基を表す。
置換基は特に限定されないが、R81、R82が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルコキシ基を用いることができ、置換アルコキシ基である場合には、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のアルコキシ基で置換されたアルコキシ基を用いることができる。さらに、置換アルコキシ基で置換されたアルコキシ基における置換アルコキシ基の置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルコキシ基、アルキル基で置換された3つの水素原子が置換されたシリル基を挙げることができる。
【0048】
キラル分子として用いるラクタムとして、一般式(9a)または(9b)で表される化合物を用いることもできる。
【化23】
【0049】
一般式(9a)および(9b)において、R91~R96は各々独立に置換基を表し、n91およびn92は各々独立に1~10の整数を表す。
置換基は特に限定されないが、R91、R92、R94、R95が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基を用いることができる。R93、R96が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアシル基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、スルホニル基を用いることができる。アシル基として、例えばアセチル基、ベンジル基を用いることができる。アルコキシカルボニル基として、例えばtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)を用いることができる。スルホニル基として、例えばp-トルエンスルホニル基(トシル基、Ts基)、2-ニトロベンゼンスルホニル基(ノシル基、Ns基)、メタンスルホニル基(メシル基、Ms基)を用いることができる。
【0050】
一般式(1)のR11~R15、一般式(2)のR21~R27、一般式(3)のR31~R37、一般式(4a)のR41~R43、一般式(4b)のR44~R48、一般式(5)のR51~R55、一般式(6b)のR61~R64、一般式(7)のR71、R72、一般式(8)のR81~R83、一般式(9a)のR91~R93、一般式(9b)のR94~R96がとりうる置換基、および、各一般式で例示した置換基に置換しうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数2~20のアシル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数12~40のジアリールアミノ基、炭素数12~40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~10のアルコキシカルボニル基、炭素数1~10のアルキルスルホニル基、炭素数1~10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2~10のアルキルアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基、炭素数4~20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは、これらの具体例の置換基で置換されていてもよい。
なお、本明細書中における「アルキル基」またはアルキル基をその一部に含む置換基におけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。炭素数は例えば1~10、1~6、1~3などから選択することができる。例えばメチル基、エチル基、プロピル基を挙げることができる。また、本明細書中における「ハロゲン原子」の具体例として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0051】
不斉誘導工程で用いるキラル分子は、そのラセミ化エネルギーが例えば27kcal/mol以下、25kcal/mol以下、24kcal/mol以下、23kcal/mol以下とすることができる。また、不斉誘導工程で用いるキラル分子は、そのラセミ化エネルギーが例えば20kcal/mol以上、21kcal/mol以上、22kcal/mol以上とすることができる。ラセミ化エネルギーの範囲として、例えば21~23kcal/molの範囲を挙げることができる。適切な範囲のラセミ化エネルギーを有するキラル分子は、室温でゆっくりラセミ化する程度の適切な立体化学的安定性を有しながら、室温で適切な不斉誘導剤を作用させると、他方のエナンチオマーから一方のエナンチオマーへ比較的容易に変化する。そのため、そのようなラセミ化エネルギーを有するキラル分子を本発明の製造方法に供することにより、一方のエナンチオマーを選択的且つ効率よく得ることができるとともに、そのキラル分子を良好に取り扱うことができる。
キラル分子のラセミ化エネルギーは、速度論解析実験、もしくはラセミ遷移状態の密度汎関数法計算(DFT計算)により求めることができる。
【0052】
以下において、本発明で用いることができる鏡像体過剰率の半減期が25℃において10時間未満であるキラル分子の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる鏡像体過剰率の半減期が25℃において10時間未満であるキラル分子はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、Tsはトシル基(p-トルエンスルホニル基)、Acはアセチル基、iPrはイソプロピル基、Phはフェニル基、TBDPSはt-ブチルジフェニルシリル基、Bnはベンジル基、MEMは2-メトキシエトキシメチル基、SEMは2-(トリメチルシリル)エトキシメチル基をそれぞれ表す。
【0053】
【0054】
(不斉誘導剤)
本発明において「不斉誘導剤」とは、キラル分子に作用させたとき、そのキラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高めるように作用する物質のことを言う。不斉誘導剤は、キラル分子に作用させたとき、キラル分子内の結合の開裂や再形成を伴うことなく、一方のエナンチオマーの存在比を高める物質であることが必要であり、回収、再利用できるようにしてもよい。また、不斉誘導剤は、他方のエナンチオマーと優先的に相互作用して、他方のエナンチオマーの立体配座を一方のエナンチオマーの立体配座へ変換する機能を有する物質としてもよい。
そのような不斉誘導剤として、例えばセルロース誘導体やアミロース誘導体等の糖鎖誘導体(糖鎖誘導型高分子)、ポリペプチド、DNA、抗体等の天然由来のキラル高分子およびその誘導体、アミノ酸誘導体、キラル鋳型高分子(人工キラル高分子)等を挙げることができる。
不斉誘導剤はシリカゲル等の粒状の担体に担持されていてもよい。これにより、溶媒中においてキラル分子に作用させた後の不斉誘導剤を、ろ過等の簡単な操作により、キラル分子から容易に分離して再利用することができる。
【0055】
(キラル分子に不斉誘導剤を作用させる方法および条件)
上記のように、本発明の光学活性体の製造方法では、鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満であるキラル分子に、不斉誘導剤を作用させる。
キラル分子に不斉誘導剤を作用させる操作は、キラル分子と不斉誘導剤を溶媒中に共存させ、その溶媒を攪拌した後、静置することで行うことができる。溶媒の攪拌によりキラル分子に不斉誘導剤を十分に接触させ、その後静置することで、不斉誘導剤の作用を発現させ、エナンチオマー間の平衡を十分に偏らせることができる。なお、キラル分子と不斉誘導剤を共存させた溶媒を攪拌した後、その溶媒を留去し、その代わりに他の溶媒を加え、その溶媒中でキラル分子と不斉誘導剤を静置させてもよい。
【0056】
溶媒は特に限定されず、キラル分子や不斉誘導剤に悪影響を与えず、不斉誘導剤の作用を損なわないものであればよい。溶媒の相溶性については、キラル分子とは相溶性があり、不斉誘導剤、または、不斉誘導剤が担持された担体は、該溶媒中において固体状で存在しうるものとしてもよい。キラル分子が溶媒に溶解し、不斉誘導剤、または、不斉誘導剤が担持された担体が固体状で存在していることにより、ろ過等の簡単な操作により、キラル分子に作用させた後の不斉誘導剤をキラル分子から容易に分離することができる。また、溶媒はキラル分子よりも蒸気圧が高い(沸点が低い)ようにしてもよい。これにより、留去のような簡単な操作により、溶媒とキラル分子を容易に分離することができる。
【0057】
キラル分子と不斉誘導剤を静置する際の溶媒の量は、キラル分子と不斉誘導剤の合計量に対して1~20倍とすることができる。
その溶媒中における不斉誘導剤の量は、キラル分子の重量に対してたとえば50倍以上、100倍以上、200倍以上、また、1000倍以下、500倍以下、300倍以下とすることができる。
キラル分子と不斉誘導剤を静置する際の溶媒の温度は、例えば0~50℃とすることができる。本発明の光学活性体の製造方法は、このように温和な温度条件(0~50℃)で処理を行うことができるため、高温加熱のための装置や器具、操作が不要であり、光学活性体の製造コストを低く抑えることができる。
キラル分子と不斉誘導剤を静置する時間は、作業効率の点から72時間以下とすることができる。
【0058】
[その他の工程]
本発明の光学活性体の製造方法では、不斉誘導工程の後に、光学活性体を単離する工程(単離工程)や、キラル分子に反応剤を作用させることにより、光学活性体を、そのキラル分子よりも鏡像体過剰率の半減期が長い第2のキラル分子の光学活性体へ変換する工程(不斉安定化工程)を行うこともできる。以下において、各工程について説明する。
【0059】
[単離工程]
上記の不斉誘導工程で得られた光学活性体は、溶媒中に不斉誘導剤とともに共存している。単離工程では、これらのものから光学活性体を単離する。
不斉誘導剤が溶媒中で固体状であるか、固体状の担体に担持されている場合、光学活性体と不斉誘導剤との分離は、光学活性体と不斉誘導剤と溶媒の混合物をろ過することにより行うことができる。これにより、不斉誘導剤はろ過材上に残り、光学活性体はろ液中に溶解しているため、両者が分離した状態になる。また、光学活性体と溶媒の分離は、溶媒を留去することで行うことができる。ろ過と留去は、いずれを先に行ってもよいが、留去を先に行う場合には、留去した後の濃縮物に新たに溶媒を加えてろ過を行う。
なお、分離された不斉誘導剤は、不斉誘導工程で不斉誘導剤として再利用することができる。
また、ろ液の一方のエナンチオマーの鏡像体過剰率が100%eeではない場合、すなわち他方のエナンチオマーがろ液に含まれている場合には、その他方のエナンチオマーを一方のエナンチオマーから分離する操作を行ってもよい。一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーの分離は公知の光学分割法を応用して行うことができる。一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーの分離は、不斉安定化工程の後に行ってもよい。
【0060】
[不斉安定化工程]
上記の不斉誘導工程で、存在比が高くなった一方のエナンチオマーは、経時的に他方のエナンチオマーに変化する場合がある。この工程では、不斉誘導工程で光学活性体となったキラル分子に反応剤を作用させて、光学活性体を、そのキラル分子よりも鏡像体過剰率の半減期が長い第2のキラル分子の光学活性体へ変換する。これにより、高い光学純度を有するとともに、その光学活性が安定な光学活性体を得ることができる。不斉安定化工程は、不斉誘導工程の次工程として行ってもよいし、上記の単離工程の後に行ってもよい。
【0061】
(反応剤)
不斉安定化工程における「反応剤」とは、上記の不斉誘導工程で得られた光学活性体と反応して、不斉誘導工程で用いたラセミ分子よりも鏡像体過剰率の半減期が長い第2のラセミ分子の光学活性体に変換する機能を有する物質である。反応剤としては、こうした機能を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。なお、反応剤で実際に処理する対象は、単離された一方のエナンチオマーのみからなるキラル分子であってもよいし、一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーを含み、一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰に存在しているキラル分子であってもよい。一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーを含む混合物を不斉誘導剤で処理する場合、他方のエナンチオマーも反応剤の作用を受けてもよい。
【0062】
反応剤としては、エポキシ化剤、アルキルリチウム反応剤、アルキルマグネシウム反応剤、金属アルコキシド反応剤等を挙げることができる。
【0063】
光学活性体に反応剤を作用させる方法および条件は、特に制限されない。例えば、エポキシ化剤を反応剤として用いる場合には、実施例の欄に記載した不斉安定化工程の方法および条件により不斉安定化を行うことができる。
【0064】
(第2のキラル分子)
不斉安定化工程で用いる第2のキラル分子の「鏡像体過剰率の半減期」とは、ある温度において第2のキラル分子の一方のエナンチオマーの鏡像体過剰率が初期の鏡像体過剰率の1/2になるまでの時間のことを言い、ここでの「一方のエナンチオマー」は、不斉安定化工程で得るべき目的のエナンチオマー(一方のエナンチオマー)である。
不斉安定化工程において、第2のキラル分子の鏡像体過剰率の半減期とは、ある温度において一方のエナンチオマーの初期の鏡像体過剰率が初期の鏡像体過剰率の1/2になるまでの時間のことを言い、ここでの「一方のエナンチオマー」は、不斉誘導工程で存在比が高くなったエナンチオマー(一方のエナンチオマー)である。
第2のキラル分子の鏡像体過剰率の半減期は、50℃において例えば10時間以上、100時間以上、1,000時間以上とすることができる。
【0065】
第2のキラル分子として採りうる化合物、すなわち、鏡像体過剰率の半減期が比較的長いキラル分子として、面不斉分子、5員環化合物、シクロヘキサン誘導体、テトラヒドロナフタレン誘導体、エポキシド、オルトシクロファン、インドロン、ビナフチル化合物等を挙げることができる。
【0066】
第2のキラル分子としての面不斉分子として、下記一般式(10)または(11)で表される化合物を用いることができる。
【0067】
【0068】
一般式(10)において、R101~R103は各々独立に水素原子または置換基を表す。R101~R103の中の置換基の数は特に制限されず、R101~R103のすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R101~R103のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。X101はO、SまたはNR104を表し、R104は置換基を表す。
置換基は特に限定されないが、R104はトシル基等の保護基とすることができる。
【0069】
【0070】
一般式(11)において、R111は水素原子または置換基を表す。X111はO、SまたはNR112を表し、R112は置換基を表す。R112はトシル基等の保護基とすることができる。
【0071】
第2のキラル分子としての5員環化合物は、下記一般式(12)で表される化合物とすることができる。
【0072】
【0073】
一般式(12)において、R121~R124は各々独立に水素原子または置換基を表す。R121~R124の中の置換基の数は特に制限されず、R121~R124のすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R121~R124のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。X121はO、SまたはNR125を表し、R125は置換基を表す。
【0074】
第2のキラル分子としてのシクロヘキサン誘導体は、下記一般式(13)で表される化合物とすることができる。
【化28】
【0075】
一般式(13)において、R131~R134は各々独立に水素原子または置換基を表す。R131~R134の中の置換基の数は特に制限されず、R131~R134のすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R131~R134のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。X131はO、SまたはNR135を表し、R135は置換基を表す。n13は1~10の整数を表す。
置換基は特に限定されないが、R132が表す置換基は、水酸基で置換されたアルキル基とすることができ、R135が表す置換基はトシル基等の保護基とすることができる。
【0076】
第2のキラル分子としてのテトラヒドロナフタレン誘導体は、下記一般式(14)で表される化合物とすることができる。
【化29】
【0077】
一般式(14)において、R141およびR142は各々独立に水素原子または置換基を表す。R141およびR142の中の置換基の数は特に制限されず、R141およびR142の両方が無置換(水素原子)であってもよい。R141およびR142の両方が置換基である場合、2つの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。XはO、SまたはNR143を表し、R143は置換基を表す。n14は1~10の整数を表す。
置換基は特に限定されないが、R142が表す置換基は、例えば水酸基で置換されたアルキル基とすることができ、R143が表す置換基は、トシル基等の保護基とすることができる。
【0078】
第2のキラル分子としてのエポキシドは一般式(15)、(16)、(17)、あるいは(18)で示されるエポキシドとすることができる。第2のキラル分子の具体例として、以下の一般式で表されるものを挙げることができる。
【0079】
第2のキラル分子としてのオルトシクロファンは、下記一般式(15)~(19)で表される化合物とすることができる。
【0080】
【0081】
一般式(15)~(19)において、R151~R154、R161~R165、R171~R175、R181~R183、R191~R193は各々独立に水素原子または置換基を表す。R151~R154、R161~R165、R171~R175、R181~R183、R191~R193の中の置換基の数は特に制限されず、すべてが無置換(水素原子)であってもよい。2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。X151、X161、X191は各々独立にO、SまたはNR194を表し、R194は置換基を表す。n18、n19は各々独立に1~10の整数を表す。
【0082】
第2のキラル分子としてのインドロンは、下記一般式(20)で表される化合物とすることができる。
【0083】
【0084】
一般式(20)において、R201は置換基を表し、R202~R206は各々独立に水素原子または置換基を表す。R202~R206の中の置換基の数は特に制限されず、R202~R206のすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R201~R206のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0085】
第2のキラル分子としてのビナフチル化合物は、一般式(21)または(22)で表される化合物とすることができる。
【0086】
【0087】
一般式(21)、(22)において、R211、R221およびR222は各々独立に置換基を表す。R212、R213、R223およびR224は各々独立に水素原子または置換基を表す。例えば、R212およびR213の少なくとも一方と、R223およびR224の少なくとも一方を、置換基とすることができる。R211~R213、R221~R224が表す置換基は同一であっても異なっていてもよい。
置換基は特に限定されないが、R211、R221が表す置換基は例えば置換もしくは無置換のアルキル基とすることができる。
【0088】
一般式(10)のR101~R104、一般式(11)のR111、R112、一般式(12)のR121~R125、一般式(13)のR131~R135、一般式(14)のR141~R143、一般式(19)のR191~R194、一般式(20)のR201~R206、一般式(21)のR211、一般式(22)のR221、R222が採りうる置換基の範囲と具体例については、一般式(1)のR11~R15等が採りうる置換基の範囲と具体例を参照することができる。
【0089】
以下において、本発明で用いることができる第2のキラル分子の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる第2のキラル分子はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、Acはアセチル基、Tsはトシル基(p-トルエンスルホニル基)、TBDPSはt-ブチルジフェニルシリル基、iPrはイソプロピル基、Etはエチル基、
SEMは2-(トリメチルシリル)エトキシメチル基をそれぞれ表す。
【0090】
【0091】
<光学活性体>
次に、本発明の光学活性体について説明する。
本発明の光学活性体は、本発明の光学活性体の製造方法により製造されたものである。
本発明の光学活性体の製造方法についての説明、範囲および具体例については、上記の<光学活性体の製造方法>の欄に記載された内容を参照することができる。
本発明の光学活性体は、本発明の光学活性体の製造方法において、不斉誘導工程で得られた光学活性体であってもよいし、不斉誘導工程の後、単離工程を行って単離された光学活性体であってもよいし、不斉誘導工程の後、不斉安定化工程を行って得られた第2のキラル分子の光学活性体であってもよいし、不斉誘導工程の後、単離工程を行って単離された一方のエナンチオマーに、さらに不斉安定化工程を行って得られた第2のキラル分子の一方のエナンチオマーであってもよい。本発明の光学活性体が第2のキラル分子の光学活性体である場合には、第2のキラル分子の他方のエナンチオマーへ変化しにくく、安定な光学活性が得られる。本発明の光学活性体である、キラル分子の一方のエナンチオマーまたは第2のキラル分子の一方のエナンチオマーは、キラル分子の他方のエナンチオマーまたは第2のキラル分子の他方のエナンチオマーと共存していてもよいが、本発明の製造方法により製造されていることにより、これらの他方のエナンチオマーよりも高い存在比を有する。
本発明の光学活性体(一方のエナンチオマー)の鏡像体の過剰率は、例えば40%ee以上、60%ee以上、70%ee以上、全てが一方のエナンチオマーとすることができる。このように一方のエナンチオマーの存在比が大きい光学活性体は、その不斉による機能を効果的に発揮することができ、医薬品や各種機能材料として有用性が極めて高い。
【0092】
<キラル分子の製造方法>
次に、キラル分子の製造方法について説明する。
本発明のキラル分子の製造方法は、鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満であって、一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰に存在している第1のキラル分子に、反応剤を作用させることにより、第1のキラル分子を鏡像体過剰率の半減期がより長い第2のキラル分子へ変換する工程(不斉安定化工程)を含む。
このキラル分子の製造方法によれば、第1のキラル分子に反応剤を作用させることにより、鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満である第1のキラル分子を鏡像体過剰率の半減期が長い第2のキラル分子へ変換するため、第1のキラル分子の光学活性体(ラセミ化しやすい光学活性体)を、その光学純度を維持したまま、ラセミ化しにくい光学活性体に変換することができる。これにより、光学純度が安定な光学活性体を容易に得ることができる。
第1のキラル分子の説明と範囲、具体例については、上記の<光学活性体の製造方法>における不斉誘導工程の欄のキラル分子の説明と範囲、具体例を参照することができる。第2のキラル分子の鏡像体過剰率の半減期の定義、反応剤および第2のキラル分子の説明と範囲、具体例については、上記の<光学活性体の製造方法>における不斉安定化工程の欄の第2のキラル分子の鏡像体過剰率の半減期の定義、反応剤および第2のキラル分子の説明と範囲、具体例を参照することができる。
この不斉安定化工程で用いる第1のキラル分子の「鏡像体過剰率の半減期」とは、ある温度において一方のエナンチオマーの初期の鏡像体過剰率が初期の鏡像体過剰率の1/2になるまでの時間のことを言い、ここでの「一方のエナンチオマー」は、第1のキラル分子において過剰に存在しているエナンチオマー(一方のエナンチオマー)である。
第1のキラル分子における「一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰に存在している」とは、一方のエナンチオマーの鏡像体過剰率が0%ee超であることを意味し、鏡像体過剰率が100%eeである場合も含む。すなわち、第1のキラル分子は、一方のエナンチオマーと他方のエナンチオマーを含み、一方のエナンチオマーの方が他方のエナンチオマーよりも存在比が大きいものであってもよいし、一方および他方のエナンチオマーのうち一方のエナンチオマーのみを含むものであってもよい。
第1のキラル分子における一方のエナンチオマーの鏡像体過剰率は、例えば40%ee以上、70%ee以上、100%eeとすることができる。
第1のキラル分子は、固体状態、液体状態、溶液状態のいずれであってもよい。また、第1のキラル分子から第2のキラル分子への変換反応に悪影響を及ぼさない限り、第1のキラル分子および第2のキラル分子以外の他の成分が混在していてもよい。
【0093】
第1のキラル分子は、いかなる方法で得られたものであってもよいが、本発明の光学活性体の製造方法を応用して得られたものとすることができる。具体的には、不斉安定化工程の前に、鏡像体過剰率の半減期が50℃において10時間未満であるキラル分子の光学活性体に、不斉誘導剤を作用させることにより、キラル分子の一方のエナンチオマーの存在比を高めて、キラル分子の一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも過剰の存在している第1のキラル分子を得る不斉誘導工程を行い、この工程で得られた第1のキラル分子を不斉安定化工程の第1のキラル分子として用いることができる。これにより、一方のエナンチオマーの鏡像体過剰率が高い第1のキラル分子を、室温程度の緩和な条件で簡単な操作により得ることができる。第1のキラル分子の鏡像体過剰率の半減期の定義、第1のキラル分子、不斉誘導剤および第1のキラル分子に不斉誘導剤を作用させる方法、条件については、上記の<光学活性体の製造方法>における不斉誘導工程の欄の対応する記載を参照することができる。
【0094】
<キラル分子>
本発明のキラル分子は、本発明のキラル分子の製造方法により製造されたものである。
本発明のキラル分子の製造方法についての説明、範囲および具体例については、上記の<キラル分子の製造方法>の欄に記載された内容を参照することができる。本発明のキラル分子の範囲と具体例については、<光学活性体の製造方法>における不斉安定化工程の欄の第2のキラル分子の範囲と具体例を参照することができる。
本発明のキラル分子は、本発明のキラル分子の製造方法により製造されていることにより、エナンチオマー間で相互変換が生じにくく、温和な温度条件(0~50℃)で鏡像対過剰率がほとんど変化しない光学活性体が得られる。
【実施例】
【0095】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0096】
[実施例1] キラル分子として2.5mgの化合物1を用い、不斉誘導剤としてセルローストリス(4-メチルベンゾエート)を用い、反応剤としてジメチルジオキシランを用いた光学活性体の製造(2.5mgスケールの製造例)
(不斉誘導工程:2.5mgスケール)
化合物1(2.5mg)のジエチルエーテル溶液(5mL)を20mLの丸底フラスコ中で調製し、セルローストリス(4-メチルベンゾエート) (不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを500mg加えて撹拌した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末を1mLのサンプル管に移し、シクロヘキサン-ジイソプロピルエーテル混合溶媒(10:1)を0.35mL加えて30秒間遠心圧縮した。その後、さらに同じ混合溶媒を0.25mL加えて30秒間遠心圧縮し、ヒートブロックを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(21mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物1の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLCにより測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AD-3(ダイセル社製、Φ4.6×50mm)を用い、エタノールを溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:10℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物1の鏡像体過剰率は96%eeであり、極めて高い光学純度を実現することができた。
【0097】
(不斉誘導工程:20mgスケール)
化合物1(20mg)のジエチルエーテル溶液(40mL)を100mLの丸底フラスコ中で調製し、セルローストリス(4-メチルベンゾエート) (不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを4.0g加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末にシクロヘキサン-ジイソプロピルエーテル混合溶媒(10:1)を2.0mL加えて混合した後、得られた混合物を、予め同じ混合溶媒1.8mLを加えておいた15mLのサンプル管に移して沈殿させた。その後、この混合物に、さらに同じ混合溶媒を1.0mL加え、インキュベーターを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFEフィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(84mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物1の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC分析により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、2.5mgスケールの不斉誘導工程でのHPLC分析と同じ条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物1の鏡像体過剰率は96%eeであった。このことから、本発明の製造方法は、スケールにかかわらず高い鏡像体過剰率を達成することができ、大スケールの工業化にも向いている方法であることがわかった。
【0098】
【0099】
不斉誘導後の化合物1の溶液を、-40℃で攪拌しながら油回転式真空ポンプを用いて減圧し、溶媒を留去した。得られた無色アモルファス状の化合物1を-78℃に冷やし、ジメチルジオキシラン(反応剤)のアセトン溶液(0.055M、2.8mL)を加えた後に、撹拌しながら-30℃までゆっくり昇温した。3時間後、この反応液から-30℃で溶媒を留去し、ジクロロメタン(10mL)と飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(10mL)を加えて分液漏斗に移した。有機相を分離した後に、水相をジクロロメタンで抽出(2×10mL)し、合わせた有機相を飽和食塩水(10mL)で洗浄した後に、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機相を綿栓で濾過した後に、溶媒をエバポレーターで留去した。得られた濃縮物をヘキサン:酢酸エチル=2:1の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィー1にて精製し、そのピークフラクションを濃縮したところ、化合物1aの無色結晶を収量19.6mg、収率89%で得た。得られた化合物1aについて、キラル固定相を用いたHPLCにより鏡像体過剰率を測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AD-3(ダイセル社製、Φ4.6×250mm)を用い、ヘキサン:エタノール=50:50の混合溶媒を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。化合物1aは鏡像体過剰率が96%eeであり、不斉誘導後の化合物1と同じ鏡像体過剰率を有していた。このことから、不斉安定化工程を行うことにより、鏡像体過剰率を維持したまま、光学活性体が得られることがわかった。
【0100】
(不斉安定化工程:アザ[2,3]転位工程)
【化35】
不斉誘導後の化合物1の溶液を、-40℃で攪拌しながら油回転式真空ポンプを用いて減圧し、溶媒を留去した。得られた無色アモルファス状固体の化合物1を-78℃にてTHFに溶解させた後に、ノルマルブチルリチウム(反応剤)のヘキサン溶液(1.46M、0.662mL)加え、撹拌しながら-40℃までゆっくり昇温した。2.5時間後、この反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルを加えて室温まで昇温した後に分液漏斗に移した。有機相を分離した後に、水相を酢酸エチルで抽出(2×10mL)し、合わせた有機相を飽和食塩水(10mL)で洗浄した後に、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機相を綿栓で濾過した後に、溶媒をエバポレーターで留去した。得られた濃縮物をヘキサン:酢酸エチル=1:1の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、そのピークフラクションを濃縮したところ、化合物1bの無色アモルファス状固体を収量11.2mg、収率62%で得た。得られた化合物1bについて、キラル固定相を用いたHPLCにより鏡像体過剰率を測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AD-H(ダイセル社製、Φ4.6×250mm)を用い、ヘキサン:エタノール=70:30の混合溶媒を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:20℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。化合物1bは鏡像体過剰率が96%eeであり、不斉誘導後の化合物1と同じ鏡像体過剰率を有していた。
【0101】
[実施例2] キラル分子として化合物2を用い、不斉誘導剤としてセルローストリス(4-メチルベンゾエート)を用い、反応剤としてジメチルジオキシランを用いた光学活性体の製造
(不斉誘導工程:2.5mgスケール)
化合物2(2.5mg)のジエチルエーテル溶液(5mL)を20mLの丸底フラスコ中で調製し、セルローストリス(4-メチルベンゾエート) (不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを500mg加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末を1mLのサンプル管に移し、シクロヘキサン-ジイソプロピルエーテル混合溶媒(10:1)を0.35mL加えて30秒間遠心圧縮した。その後、さらに同じ混合溶媒を0.25mL加えて30秒間遠心圧縮し、ヒートブロックを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(21mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物2の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC(high performance liquid chromatography)により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AD-3(ダイセル社製、Φ4.6×50mm)を用い、エタノールを溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:10℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物2の鏡像体過剰率は94%eeであった。
【0102】
(不斉誘導工程:20mgスケール)
化合物2(20mg)のジエチルエーテル溶液(40mL)を100mLの丸底フラスコ中で調製し、セルローストリス(4-メチルベンゾエート) (不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを4.0g加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末にシクロヘキサン-ジイソプロピルエーテル混合溶媒(10:1)を2.0mL加えて混合した後に、得られた混合物を、予め同じ混合溶媒1.8mLを加えておいた15mLのサンプル管に移して沈殿させた。その後、この混合物に、さらに同じ混合溶媒を1.0mL加え、インキュベーターを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFEフィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(84mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物2の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC分析により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、2.5mgスケールの不斉誘導工程でのHPLC分析と同じ条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物2の鏡像体過剰率は96%eeであった。
【0103】
【0104】
(不斉安定化工程)
不斉誘導後の化合物2の溶液を、-40℃で攪拌しながら油回転式真空ポンプを用いて減圧し、溶媒を留去した。得られた無色アモルファス状の化合物2を-78℃に冷やし、ジメチルジオキシラン(反応剤)のアセトン溶液(0.055M、2.9mL)を加えた後、撹拌しながら-30℃までゆっくり昇温した。4時間後、この反応液から-30℃で溶媒を留去し、ジクロロメタン(10mL)と飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(10mL)を加えて分液漏斗に移した。有機相を分離した後に、水相をジクロロメタンで抽出(2×10mL)し、合わせた有機相を飽和食塩水(10mL)で洗浄した後に、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機相を綿栓で濾過した後に、溶媒をエバポレーターで留去した。得られた濃縮物をヘキサン:酢酸エチル=5:1の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、そのピークフラクションを濃縮したところ、化合物2aの無色アモルファス状固体を収量18.0mg、収率83%で得た。得られた化合物2aについて、キラル固定相を用いたHPLCにより鏡像体過剰率を測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AD-H(ダイセル社製、Φ4.6×250mm)を用い、ヘキサン:2-プロパノール=50:50の混合溶媒を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。化合物2aは鏡像体過剰率が94%eeであり、不斉誘導後の化合物2と同じ鏡像体過剰率を有していた。
【0105】
[実施例3] キラル分子として化合物3を用い、不斉誘導剤としてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバマート)を用い、反応剤としてiPrMgCl・LiClを用いた光学活性体の製造
(不斉誘導工程:2.5mgスケール)
化合物3(2.5mg)のジエチルエーテル溶液(5mL)を20mLの丸底フラスコ中で調製し、アミローストリス(3,5ージメチルフェニルカーバメート)が担持されたシリカゲルを500mg加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末を1mLのサンプル管に移し、シクロヘキサン-エタノール混合溶媒(10:1)を0.35mL加えて30秒間遠心圧縮した。その後、さらに同じ混合溶媒を0.25mL加えて30秒間遠心圧縮し、ヒートブロックを用いて25℃で保温した。168時間後に、ゲルをサンプル管からPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(21mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物3の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC(high performance liquid chromatography)により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AS-3(ダイセル社製、Φ4.6×50mm)を用い、ヘキサン-エタノール混合溶媒(4:1)を溶離液として、流速:1.0mL/min、カラム温度:15℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物3の鏡像体過剰率は81%eeであり、極めて高い鏡像体過剰率を実現することができた。
【0106】
(不斉誘導工程:20mgスケール)
化合物3(20mg)のジエチルエーテル溶液(40mL)を100mLの丸底フラスコ中で調製し、アミローストリス(3,5ージメチルフェニルカーバメート)(不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを4.0g加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末にシクロヘキサン-ジイソプロピルエーテル混合溶媒(10:1)を2.0mL加えて混合した後、得られた混合物を、予め同じ混合溶媒1.8mLを加えておいた15mLのサンプル管に移して沈殿させた。その後、この混合物に、さらに同じ混合溶媒を1.0mL加え、インキュベーターを用いて25℃で保温した。192時間後に、ゲルをサンプル管からPTFEフィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(84mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物3の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC分析により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、2.5mgスケールの不斉誘導工程でのHPLC分析と同じ条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物3の鏡像体過剰率は81%eeであった。
【0107】
【0108】
不斉誘導後の化合物3の溶液を、-40℃で攪拌しながら油回転式真空ポンプを用いて減圧し、溶媒を留去した。得られた無色アモルファス状の化合物3(23.0mg、0.0570mmol、81%ee)のテトラヒドロフラン溶液(5mL)を-78℃に冷やして、iPrMgCl・LiCl(反応剤)加えた後、撹拌しながら-10℃までゆっくり昇温した。30分後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止して、酢酸エチルで抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄した後に、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機相を綿栓で濾過した後に、溶媒をエバポレーターで留去した。得られた濃縮物をヘキサン:酢酸エチル=10:1の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、そのピークフラクションを濃縮したところ、化合物3aの無色結晶を収量11.4mg、収率88%で得た。得られた化合物3aについて、キラル固定相を用いたHPLCにより鏡像体過剰率を測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK IB(ダイセル社製、Φ4.6×250mm)を用い、ヘキサン:イソプロパノール=80:20の混合溶媒を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。化合物3aは鏡像体過剰率が81%eeであり、不斉誘導後の化合物3と同じ鏡像体過剰率を有していた。このことから、不斉安定化工程を行うことにより、鏡像体過剰率を維持したまま、光学活性体が得られることがわかった。
【0109】
[実施例4] キラル分子として化合物4を用い、不斉誘導剤としてセルローストリス(4-メチルベンゾエート) を用いた光学活性体の製造
(不斉誘導工程:2.5mgスケール)
化合物4(2.5mg)のジエチルエーテル溶液(5mL)を20mLの丸底フラスコ中で調製し、セルローストリス(4-メチルベンゾエート) (不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを500mg加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末を1mLのサンプル管に移し、シクロヘキサン-ジエチルエーテル混合溶媒(10:1)を0.35mL加えて30秒間遠心圧縮した。その後、さらに同じ混合溶媒を0.25mL加えて30秒間遠心圧縮し、ヒートブロックを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(21mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物4の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC(high performance liquid chromatography)により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRAL CEL OD-3(ダイセル社製、Φ4.6×50mm)を用い、ヘキサン-エタノール混合溶媒(4:1)を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:10℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物4の鏡像体過剰率は59%eeであった。
【0110】
[実施例5~9] 化合物1の代わりに表1に示す化合物5~9と不斉誘導剤を用いること以外は、実施例1と同様にして不斉誘導工程を行った。不斉誘導はいずれも成功した。不斉誘導後の化合物7、9について鏡像体過剰率を測定した結果を表1に示す。
【0111】
[実施例10] キラル分子として化合物10を用い、不斉誘導剤としてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバマート)を用い、反応剤としてメタクロロ過安息香酸とトリメチルアルミニウムを用いた光学活性体の製造
(不斉誘導工程:2.5mgスケール)
化合物10(2.5mg)のジエチルエーテル溶液(5mL)を20mLの丸底フラスコ中で調製し、アミローストリス(3,5ージメチルフェニルカーバメート)(不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを500mg加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末を1mLのサンプル管に移し、シクロヘプタンを0.35mL加えて30秒間遠心圧縮した。その後、さらに同じ混合溶媒を0.25mL加えて30秒間遠心圧縮し、ヒートブロックを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(21mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物10の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC(high performance liquid chromatography)により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AD-3(ダイセル社製、Φ4.6×50mm)を用い、ヘキサン-2-プロパノール混合溶媒(9:1)を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:20℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物10の鏡像体過剰率は76%eeであった。
【0112】
(不斉誘導工程:20mgスケール)
化合物10(20mg)のジエチルエーテル溶液(40mL)を100mLの丸底フラスコ中で調製し、アミローストリス(3,5ージメチルフェニルカーバメート)(不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを4.0g加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末にシクロペンタンを2.0mL加えて混合した後に、得られた混合物を、予め同じ溶媒1.8mLを加えておいた15mLのサンプル管に移して沈殿させた。その後、この混合物に、さらに同じ溶媒を1.0mL加え、インキュベーターを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFEフィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したジエチルエーテル(84mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物10の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC分析により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AD-3(ダイセル社製、Φ4.6×250mm)を用い、ヘキサン-2-プロパノール混合溶媒(9:1)を溶離液として、流速:0.7mL/min、カラム温度:10℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物10の鏡像体過剰率は76%eeであった。
【0113】
(不斉安定化工程:エポキシ化,エポキシ開環)
【化38】
【0114】
不斉誘導後の化合物10の溶液を、-40℃で攪拌しながら油回転式真空ポンプを用いて減圧し、溶媒を留去した。得られた無色アモルファス状の化合物10(20.0mg、0.0391mmol、76%ee)のジクロロメタン溶液(5mL)を0℃に冷やして、メタクロロ過安息香酸(約70%,62.0mg(反応剤)加えたて1時間撹拌した。飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて反応を停止して、ジエチルエーテルで抽出した。有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄した後に、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機相を綿栓で濾過した後に、溶媒をエバポレーターで留去した。得られた濃縮物をペンタン(5mL)に溶かして、-78℃でトリメチルアルミニウム(1.08M,0.2mL)を加えその後、撹拌しながら0℃までゆっくり昇温した。20分後,メタノール、酒石酸カリウムナトリウムを加えて、30分撹拌した。水を加えた後に、水相を酢酸エチルで抽出し、合わせた有機相を飽和食塩水(10mL)で洗浄した後に、硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機相を綿栓で濾過した後に、溶媒をエバポレーターで留去した。得られた濃縮物をヘキサン:酢酸エチル=3:1の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、そのピークフラクションを濃縮したところ、合物10bの白色結晶を収量17.7mg、収率86%で得た。得られた化合物10bについて、キラル固定相を用いたHPLCにより鏡像体過剰率を測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK IG(ダイセル社製、Φ4.6×250mm)を用い、ヘキサン:イソプロパノール=95:5の混合溶媒を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。化合物10bは鏡像体過剰率が76%eeであり、不斉誘導後の化合物10と同じ鏡像体過剰率を有していた。このことから、不斉安定化工程を行うことにより、鏡像体過剰率を維持したまま、光学活性体が得られることがわかった。
【0115】
[実施例11~17] キラル分子として化合物11~17を用い、不斉誘導剤としてセルローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバマート)を用い、反応剤としてエタノールと水酸化リチウムを用いた光学活性体の製造
化合物1の代わりに化合物11~17を用いて、不斉誘導剤としてセルローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバマート)を用いること以外は、実施例1と同様にして不斉誘導工程を行った。不斉誘導はいずれも成功した。不斉誘導後の化合物11、13~17について鏡像体過剰率を測定した結果を表1に示す。以下に、代表例として化合物17の不斉誘導工程を具体的に示す。
(不斉誘導工程:2.5mgスケール)
化合物17(2.5mg)のジエチルエーテル溶液(5mL)を20mLの丸底フラスコ中で調製し、アミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバマート)(不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを500mg加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末を1mLのサンプル管に移し、ヘキサン-ジイソプロピルエーテル混合溶媒(10:1)を0.35mL加えて30秒間遠心圧縮した。その後、さらに同じ混合溶媒を0.25mL加えて30秒間遠心圧縮し、ヒートブロックを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したエタノール(21mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物17の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC(high performance liquid chromatography)により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRAL CEL OD-3(ダイセル社製、Φ4.6×50mm)を用い、ヘキサン-エタノール混合溶媒(4:1)を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:15℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物17の鏡像体過剰率は92%eeであった。
【0116】
(不斉誘導工程:20mgスケール)
化合物17(20mg)のジエチルエーテル溶液(40mL)を100mLの丸底フラスコ中で調製し、アミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバマート)(不斉誘導剤)が担持されたシリカゲルを4.0g加えて撹拌した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粉末にヘキサン-ジイソプロピルエーテル混合溶媒(10:1)を2.0mL加えて混合した後に、得られた混合物を、予め同じ混合溶媒1.8mLを加えておいた15mLのサンプル管に移して沈殿させた。その後、この混合物に、さらに同じ混合溶媒を1.0mL加え、インキュベーターを用いて25℃で保温した。24時間後に、ゲルをサンプル管からPTFEフィルター付きの濾過器に取り出し、氷冷したエタノール(84mL)で洗浄、ろ過した。得られたろ液を氷冷した100mLの丸底フラスコ中に回収し、化合物17の鏡像体過剰率を、キラル固定相を用いたHPLC分析により測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、2.5mgスケールの不斉誘導工程でのHPLC分析と同じ条件で行った。HPLCによる測定の結果、化合物17の鏡像体過剰率は92%eeであった。
【0117】
【0118】
不斉誘導後の化合物17(20.0mg、0.0452mmol、92%ee)のエタノール溶液(82mL)を-30℃に冷やして、水酸化リチウム(21.6mg,0.904mmol)(反応剤)加えたて15分間撹拌した後に、溶媒をエバポレーターで残り0.5mL程度まで留去した。得られた濃縮物をヘキサン:酢酸エチル=3:1の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、そのピークフラクションを濃縮したところ、合物17aの無色結晶を収量19.1mg、収率86%で得た。得られた化合物について、キラル固定相を用いたHPLCにより鏡像体過剰率を測定した。ここで、HPLCによる鏡像体過剰率の測定は、CHIRALPAK AS-H(ダイセル社製、Φ4.6×250mm)を用い、ヘキサン:イソプロパノール=9:1の混合溶媒を溶離液として、流速:0.5mL/min、カラム温度:25℃、検出波長λ:254nmの条件で行った。化合物17aは鏡像体過剰率が92%eeであり、不斉誘導後の化合物17と同じ鏡像体過剰率を有していた。このことから、不斉安定化工程を行うことにより、鏡像体過剰率を維持したまま、光学活性体が得られることがわかった。
【0119】
各実施例で用いたキラル分子は、いずれも50℃における鏡像体過剰率の半減期が10時間未満であった。また、各実施例では、いずれも不斉誘導に成功した。実施例1~4、7、9~11、13~17で得られた化合物の鏡像体過剰率を測定した結果を表1にまとめて示す。
【0120】
【0121】
上記の実施例中において合成した新規化合物のNMRデータを以下に記載する。
【0122】
【0123】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.77 (d, J = 8.1 Hz,2H), 7.67 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 8.1 Hz, 2H),7.30-7.20 (m, 2H), 7.07 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 4.59 (dd, J = 11.6,5.4 Hz, 1H), 4.53 (d, J = 14.1 Hz, 1H), 4.08-3.93 (m, 3H), 3.61 (dd, J= 11.1, 10.8 Hz, 1H), 3.10 (d, J = 14.1 Hz, 1H), 2.80-2.74 (m, 1H),2.52-2.38 (m, 2H), 2.47 (s, 3H), 2.25-2.16 (m, 1H), 2.00 (s, 3H), 2.03-1.91 (m,1H), 1.83 (dd, J = 13.2, 11.4 Hz, 1H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 170.8, 143.4, 141.2, 139.7,137.8, 135.1, 131.2, 131.1, 129.9, 128.0, 127.4, 127.3, 122.8, 62.6, 46.3,45.7, 38.8, 32.9, 29.9, 21.7, 21.0.
【0124】
【0125】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.76 (d, J = 8.4 Hz,2H), 7.68 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.39 (d, J = 8.4 Hz, 2H),7.32-7.12 (m, 2H), 7.09 (dd, J = 7.4, 1.4 Hz, 1H), 4.72 (dd, J =11.6, 5.4 Hz, 1H), 4.58 (d, J = 14.0 Hz, 1H), 4.03 (dd, J = 10.8,5.4 Hz, 1H), 3.84 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 3.80 (d, J = 12.0 Hz,1H), 3.59 (dd, J = 11.6, 10.8 Hz, 1H), 3.16 (d, J = 14.0 Hz, 1H),2.83 (ddd, J = 13.6, 4.9, 2.3 Hz, 1H), 2.71 (ddd, J = 12.3, 4.9,1.8 Hz, 1H), 2.58 (dd, J = 13.6, 13.4 Hz, 1H), 2.48 (s, 3H), 1.92 (dd, J= 13.4, 12.3 Hz, 1H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ143.8, 140.0, 139.3, 137.8,131.3, 131.2, 130.0, 128.3, 127.5, 127.3, 125.4, 46.7, 45.8, 41.8, 37.2, 33.6,21.7.
【0126】
【0127】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): d 7.70 (d, J = 8.4 Hz,2H), 7.33 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 5.79 (ddd, J = 11.4, 11.4, 4.8 Hz,1H), 5.45 (dd, J = 10.5, 4.8 Hz, 1H), 5.44-5.38 (m, 1H), 4.44 (dd, J= 10.8, 4.8 Hz, 1H), 3.87 (dd, J = 14.1, 4.8 Hz, 1H), 3.42 (dd, J= 10.8, 10.5 Hz, 1H), 2.97 (dd, J = 14.1, 11.4 Hz, 1H), 2.76-2.69 (m,1H), 2.44 (s, 3H), 2.34-2.25 (m, 1H), 2.13-2.06 (m, 2H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): d 143.3, 135.5, 134.2, 132.5,129.7, 127.2, 126.7, 116.1, 55.3, 45.1, 45.0, 26.3, 21.7.
【0128】
【0129】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.77 (d, J = 8.0 Hz,2H), 7.69 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 8.0 Hz, 2H),7.29-7.18 (m, 2H), 7.06 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 4.54 (d, J = 14.0Hz, 1H), 4.52-4.47 (m, 1H), 3.95 (dd, J = 10.5, 5.4 Hz, 1H), 3.55 (dd, J= 10.8, 10.5 Hz, 1H), 3.07 (d, J = 14.0 Hz, 1H), 2.74 (ddd, J =13.7, 5.1, 2.1 Hz, 1H), 2.52-2.43 (m, 1H), 2.46 (s, 3H), 2.36 (ddd, J =11.7, 5.1, 1.5 Hz, 1H), 1.89 (ddd, J = 11.7, 10.5, 1.5 Hz, 1H), 1.49 (s,3H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 143.3, 141.4, 140.1, 138.4,135.1, 131.0, 131.0, 129.8, 127.7, 127.4, 127.1, 120.4, 46.4, 46.3, 40.9, 32.7,21.6, 17.3.
【0130】
【0131】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.83 (d, J = 15.3 Hz,1H), 7.73 (ddd, J = 3.6, 3.6, 1.2 Hz, 1H), 7.36-7.23 (m, 10H), 7.11-7.04(m, 2H), 6.12 (dd, J = 15.6, 0.6 Hz, 1H), 5.33 (d, J = 14.1 Hz,1H), 4.66 (d, J = 14.1 Hz, 1H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 165.9, 158.9 (d, JC-F= 254 Hz), 143.8, 136.0, 135.5 (d, JC-F = 3.8 Hz), 135.0, 132.1(d, JC-F = 14.4 Hz), 131.3 (d, JC-F = 8.6Hz), 130.1, 129.8, 128.7, 128.2, 128.0, 127.8, 117.6, 116.8 (d, JC-F= 21.1 Hz), 102.0, 51.7.
【0132】
【0133】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.33 (ddd, J = 4.8, 1.5,1.5 Hz, 1H), 7.74 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 7.68-7.56 (m, 3H), 7.26-7.19 (m,5H), 7.09 (ddd, J = 7.5, 5.1, 1.8 Hz, 1H), 7.04-7.00 (m, 2H), 6.12 (d, J= 15.3 Hz, 1H), 5.43 (d, J = 14.4 Hz, 1H), 4.69 (d, J = 14.4 Hz,1H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 166.1, 158.9 (d, JC-F= 254 Hz), 156.5, 148.8, 144.1, 136.7, 135.6 (d, JC-F = 3.8Hz), 134.9, 132.6 (d, JC-F = 14.4 Hz), 131.5 (d, JC-F= 8.6 Hz), 129.9, 128.8, 128.1, 124.8, 122.6, 117.1 (d, JC-F= 3.8 Hz), 116.9, 101.9, 54.3.
【0134】
【0135】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.37-7.16 (m, 5H), 7.01-6.99(m, 3H), 6.74-6.66 (m, 3H), 6.36 (dd, J = 7.5, 0.6 Hz, 1H), 5.47 (d, J= 14.1 Hz, 1H), 3.99 (d, J = 14.1 Hz, 1H), 3.05-2.84 (m, 3H), 2.38-2.12(m, 2H), 1.15 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 1.12 (d, J = 6.9 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 172.9, 162.9 (dd, JC-F= 248, 12.5 Hz), 146.1, 141.3 (t, JC-F = 8.6 Hz), 141.0,138.9, 129.3, 129.2, 128.6, 128.5, 127.5, 126.8, 126.2, 112.0 (dd, JC-F= 18.2, 6.7 Hz), 103.0 (t, JC-F = 24.9 Hz), 52.5, 36.0, 31.7,27.6, 24.4, 23.9.
【0136】
【0137】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.11 (ddd, J = 7.2, 1.4,0.6 Hz, 2H), 7.63 (tt, J = 7.2, 1.4 Hz, 1H), 7.46 (ddd, J = 7.2,7.2, 0.6 Hz, 1H), 7.18-7.16 (m, 3H), 7.09-7.06 (m, 1H), 4.09 (qq, J =6.6, 6.6 Hz, 1H), 3.38 (tt, J = 6.6, 6.6 Hz, 1H), 3.21-2.97 (m, 2H),2.81 (ddd, J = 16.2, 6.7, 6.6 Hz, 1H), 2.66 (ddd, J = 16.2, 11.7,6.7 Hz, 1H), 1.57 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.34 (d, J = 6.6 Hz, 3H),1.01 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.99 (d, J = 6.6 Hz, 3H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 165.5, 164.3, 145.8, 133.6,133.3, 131.1, 129.9, 128.9, 128.4, 127.5, 127.3, 126.6, 124.3, 124.1, 50.5,45.6, 28.2, 25.8, 20.9, 20.8, 20.3, 20.3.
【0138】
【0139】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.36 (s, 2H), 7.19-7.17 (m,3H), 7.08-7.05 (m, 1H), 4.06 (qq, J = 6.6, 6.6 Hz, 1H), 3.93 (s, 3H),3.90 (s, 6H), 3.40 (qq, J = 6.9, 6.9 Hz, 1H), 3.19-2.98 (m, 2H), 2.80(ddd, J = 16.5, 7.2, 7.2 Hz, 1H), 2.62 (ddd, J = 16.8, 11.4, 6.9Hz, 1H), 1.58 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.39 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.02(d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.00 (d, J = 6.9 Hz, 3H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 165.8, 164.2, 153.1, 146.0,142.9, 133.6, 131.3, 127.7, 127.6, 126.9, 124.4, 124.3, 123.9, 107.3, 61.0,56.3, 50.7, 45.8, 28.4, 26.0, 21.2, 21.0, 20.7, 20.5.
【0140】
【0141】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.87-7.84 (m, 2H), 7.82-7.79(m, 2H), 7.49-7.43 (m, 3H), 7.40-7.37 (m, 3H), 7.14-7.09 (m, 1H), 7.01-6.94 (m,3H), 4.23 (qq, J = 6.6, 6.6 Hz, 1H), 3.54 (qq, J = 6.9, 6.9 Hz,1H), 2.53 (ddd, J = 15.2, 10.8, 6.9 Hz, 1H), 2.38 (ddd, J = 15.2,6.9, 6.9 Hz, 1H), 2.09 (ddd, J = 16.5, 6.9, 6.9 Hz, 1H), 1.92 (ddd, J= 16.5, 10.8, 6.9 Hz,1H), 1.67 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.65 (d, J =6.9 Hz, 3H), 1.29 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.04 (d, J = 6.9 Hz, 3H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 167.9, 149.9, 135.3, 135.0,133.9, 133.5, 132.7, 131.7, 130.1, 129.9, 127.9, 126.9, 126.6, 125.2, 122.8,116.7, 50.8, 45.7, 28.9, 28.5, 26.1, 21.7, 21.5, 20.9, 20.3, 19.3 (one aromaticcarbon is overlapping).
【0142】
【0143】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.01 (d, J = 9.3 Hz,1H), 7.91 (dd, J = 8.4, 8.4 Hz, 2H), 7.79 (dd, J = 9.6, 9.6 Hz,2H), 7.70 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.59-7.55 (m, 2H), 7.50-7.41 (m, 4H),7.36-7.31 (m, 2H), 7.23-7.17 (m, 1H), 5.50 (d, J = 13.8 Hz, 1H), 5.44(d, J = 13.8 Hz, 1H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 158.1, 155.5, 150.5, 138.5,137.5, 136.7, 132.1, 131.0, 130.2, 129.7, 129.3, 128.7, 128.5, 127.8, 127.1,127.0, 126.9, 125.9, 125.3, 124.1, 123.4, 116.9, 114.3, 112.7, 109.7, 71.1.
【0144】
【0145】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.00 (d, J = 9.0 Hz,1H), 7.93-7.85 (m, 3H), 7.77-7.74 (m, 2H), 7.62-7.57 (m, 1H), 7.56 (d, J= 9.0 Hz, 1H), 7.50-7.44 (m, 1H), 7.35-7.30 (m, 1H), 7.26-7.20 (m, 1H), 5.63(d, J = 6.9 Hz, 1H), 5.60 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 4.05-4.01 (m, 2H),3.65-3.62 (m, 2H), 3.40 (s, 3H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 158.2, 154.0, 150.3, 138.3,137.5, 132.1, 131.0, 130.2, 129.7, 129.2, 128.5, 127.4, 127.0, 126.0, 125.3,124.8, 123.8, 116.9, 114.4, 113.1, 112.8, 94.8, 71.6, 68.3, 59.1.
【0146】
【0147】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.00 (d, J = 9.0 Hz,1H), 7.93-7.84 (m, 3H), 7.78-7.72 (m, 2H), 7.62-7.55 (m, 2H), 7.47 (ddd, J= 6.9, 6.9, 1.2 Hz, 1H), 7.32 (ddd, J = 8.7, 8.7, 1.5 Hz, 1H), 7.22(ddd, J = 8.4, 8.4, 1.5 Hz, 1H), 5.59 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 5.56(d, J = 6.9 Hz, 1H), 4.03-3.88 (m, 2H), 1.07-1.01 (m, 2H), 0.19 (s, 9H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 158.2, 154.3, 150.4, 138.3,137.6, 132.0, 131.0, 130.2, 129.7, 129.2, 128.5, 127.4, 127.0, 126.0, 125.3,124.6, 123.7, 116.9, 114.4, 112.8, 94.4, 67.0, 18.3, -1.3 (one aromatic carbonis overlapping).
【0148】
【0149】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.39 (d, J = 8.7 Hz,1H), 8.12 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.06 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 8.01 (d,J = 8.4 Hz, 1H), 7.81 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 7.78 (d, J =9.0 Hz, 1H), 7.68 (ddd, J = 6.9, 6.9, 0.9 Hz, 1H), 7.59 (d, J =7.5 Hz, 2H), 7.47-7.35 (m, 6H), 7.22 (ddd, J = 8.1, 6.6, 1.2 Hz, 1H),5.42 (s, 2H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 161.4, 146.2, 142.9, 136.7,136.4, 134.9, 131.0, 129.7, 129.3, 129.1, 128.8, 128.6, 128.4, 128.2, 127.4,127.3, 127.1, 125.8, 125.5, 124.9, 124.2, 123.5, 121.7, 114.3, 111.2, 71.1.
【0150】
【0151】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.37 (d, J = 8.4 Hz,1H), 8.11 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.06 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 8.00 (d,J = 8.1 Hz, 1H), 7.86-7.80 (m, 3H), 7.68 (ddd, J = 7.8, 7.8, 0.9 Hz,1H), 7.49-7.38 (m, 2H), 7.27-7.22 (m, 1H), 5.61 (d, J = 7.2 Hz, 1H),5.57 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 4.03-4.00 (m, 2H), 3.65-3.62 (m, 2H), 3.40 (s,3H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 161.4, 144.8, 143.0, 136.8,135.0, 131.1, 129.7, 129.3, 129.2, 128.7 128.4, 127.7, 127.0, 125.9, 125.6,125.5, 124.2, 124.0, 121.6, 114.4, 114.2, 94.7, 71.6, 68.3, 59.1.
【0152】
【0153】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.38 (d, J = 8.7 Hz,1H), 8.13 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.06 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 8.01 (d,J = 8.4 Hz, 1H), 7.85 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.82 (d, J = 8.7Hz, 1H), 7.79 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 7.68 (ddd, J = 7.2, 7.2, 1.1Hz, 1H), 7.49-7.30 (m, 2H), 7.27-7.20 (m, 1H), 5.57 (d, J = 7.2 Hz, 1H),5.53 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 3.96-3.87 (m, 2H), 1.07-1.01 (m, 2H), 0.02 (s,9H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 161.3, 144.9, 142.8, 136.6,134.8, 131.0, 129.5, 129.2, 129.0, 128.5, 128.2, 127.5, 126.9, 125.7, 125.4,125.2, 124.0, 123.7, 121.5, 114.1, 113.7, 94.0, 66.9, 18.2, -1.4.
【0154】
【0155】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.80 (d, J = 7.8 Hz,1H), 7.74 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.37 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.31(dd, J = 7.4, 7.2 Hz, 1H), 7.22 (dd, J = 7.8, 7.4Hz, 1H), 7.07(d, J = 7.2 Hz, 1H), 4.82 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 4.28-4.11 (m,2H), 3.98 (dd, J = 17.1, 10.2 Hz, 1H), 3.59 (d, J = 14.9 Hz, 1H),2.85-2.70 (m, 2H), 2.59-2.50 (m, 3H), 2.47 (s, 3H), 2.12-2.03 (m, 1H), 2.04 (s,3H), 1.26-1.15 (m, 1H), 1.01 (dd, J = 12.9, 12.9 Hz, 1H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 170.9, 143.9, 138.1, 137.8,134.4, 131.2, 130.9, 130.1, 128.5, 127.7, 127.4, 61.0, 59.4, 57.1, 46.6, 46.1,36.2, 29.1, 28.3, 21.7, 21.1.
【0156】
【0157】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.68 (d, J = 8.4 Hz,2H), 7.26 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.10 (dd, J = 7.5, 7.1 Hz, 1H),7.02 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 6.93 (dd, J = 7.8, 7.1 Hz, 1H), 6.84(d, J = 7.8 Hz, 1H), 5.68 (dd, J = 17.5, 11.1 Hz, 1H), 5.05 (d, J= 11.1 Hz, 1H), 5.03 (d, J = 17.5 Hz, 1H), 4.73 (d, J = 8.6 Hz,1H), 4.33 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 3.67-3.54 (m, 2H), 2.91-2.69 (m, 2H),2.43 (s, 3H), 1.91-1.47 (m, 5H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 143.3, 142.2, 138.7, 135.4,135.2, 129.6, 129.6, 128.8, 127.6, 127.2, 126.2, 115.6, 59.4, 59.4, 42.2, 37.5,25.2, 25.1, 21.6.
【0158】
【0159】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.79 (d, J = 7.8 Hz,1H), 7.72 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.37 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.32(dd, J = 7.8, 7.4 Hz, 1H), 7.23 (dd, J = 7.8, 7.8 Hz, 1H), 7.08(d, J = 7.4 Hz, 1H), 4.85 (d, J = 14.6 Hz, 1H), 4.04 (dd, J= 11.1, 2.7 Hz, 1H), 3.80 (d, J = 11.6 Hz, 1H), 3.47 (d, J = 14.6Hz, 1H), 3.04 (d, J = 11.6 Hz, 1H), 2.84-2.70 (m, 4H), 2.53 (dd, J= 11.1, 11.1 Hz, 1H), 2.47 (s, 3H), 1.02 (dd, J = 10.8, 10.2 Hz, 1H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 144.2, 137.9, 137.4, 134.1,131.2, 130.9, 130.1, 128.7, 127.8, 127.4, 60.1, 59.3, 47.0, 46.1, 44.5, 33.5,29.2, 21.7.
【0160】
【0161】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.90-7.87 (m, 2H), 7.83-7.80(m, 2H), 7.45-7.34 (m, 6H), 7.22-7.17 (m, 3H), 7.17-7.08 (m, 1H), 6.62 (s, 1H),4.82 (dd, J = 4.0, 4.0 Hz, 1H), 4.03 (tt, J = 6.6, 6.6 Hz, 1H),3.40 (dd, J = 22.5, 4.0 Hz, 1H), 3.35 (tt, J = 6.6, 6.6 Hz, 1H),3.20 (dd, J = 22.5, 4.0 Hz, 1H), 1.54 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.45(d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.09 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.26 (d, J =6.6 Hz, 3H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 170.9, 148.7, 137.4, 136.1,135.6, 134.0, 132.9, 131.6, 129.80, 129.76, 127.9, 127.7, 127.6, 127.5, 127.4,126.8, 103.2, 73.1, 48.5, 47.1, 28.9, 26.5, 20.6, 20.2, 19.7, 18.3 (one aliphatic carbonis overlapping).
【0162】
【0163】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.15 (d, J = 8.4 Hz,1H), 8.03 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 7.96 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.77 (d,J = 7.8 Hz, 1H), 7.61 (s, 1H), 7.54 (ddd, J = 6.9, 6.9, 1.5 Hz, 1H),7.41 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.35-7.26 (m, 2H), 7.12 (ddd, J = 7.2,7.2, 1.2 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 5.95 (s, 1H), 5.49 (s, 2H),3.94-3.85 (m, 4H), 1.08-1.02 (m, 2H), 0.72 (dd, J = 6.9, 6.9 Hz, 3H),0.04 (s, 9H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 167.8, 145.0, 143.0, 135.3,135.2, 132.7, 130.1, 129.7, 128.7, 128.4, 128.2, 127.8, 127.5, 127.1, 126.9,126.3, 124.8, 124.7, 123.9, 119.2, 109.9, 94.4, 67.2, 60.6, 18.3, 13.4, -1.3.
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の光学活性体の製造方法によれば、キラル反応剤を用いることなく、簡単な操作により、キラル分子の一方のエナンチオマーを選択的かつ効率よく得ることができる。こうしてエナンチオマーが得られたキラル分子は光学活性が極めて高く、医薬品や機能材料として効果的に用いることができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。