(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】二次資源から貴金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20221130BHJP
C22B 3/18 20060101ALI20221130BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20221130BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20221130BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20221130BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20221130BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20221130BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20221130BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/18
C22B7/02 B
C22B7/00 A
C22B3/24
C22B3/24 101
C22B3/26
C22B3/02
B09B3/00 ZAB
(21)【出願番号】P 2019569898
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2018065044
(87)【国際公開番号】W WO2018228924
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-13
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519444133
【氏名又は名称】ブレイン・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】BRAIN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】エスター・ガボール
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンヌ・ティファート
(72)【発明者】
【氏名】グイド・モイラー
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103320619(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106011484(CN,A)
【文献】特表2012-523247(JP,A)
【文献】Arda Isildar et. al.,Two-step bioleaching of copper and gold from discarded printed circuit boards (PCB),Waste Management,2016年12月15日,vol. 57,pages 149-157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次資源から貴金属を回収する方法であって、
(a)少なくとも0.0001
質量%の量の貴金属を含む固形廃棄材料の供給源を提供する工程と;
(b)前記廃棄材料を、シアン化水素酸を産生および放出することができる従属栄養微生物と接触させる工程と;
(c)溶媒、または前記微生物の栄養源となり得る栄養素水溶液を、混合物に添加する工程と;
(d)前記金属と、前記微生物によって放出された前記シアン化水素酸との錯体形成により、前記廃棄材料から、そこに含まれる前記貴金属を枯渇させる工程と;
(e)金属-シアノ錯体を含む液体から、枯渇させた前記固体廃棄材料を分離する工程と;
(f)既知の方法で、前記貴金属を、それらのシアノ錯体から回収する工程と
を含む、または、それらの工程からな
り、
7~10のpH範囲内で前記枯渇させる工程を行う、方法。
【請求項2】
前記固体廃棄材料は、フライアッシュ、廃棄物焼却灰、金属スコリアおよび電子スクラップからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記固形廃棄材料は、
0.0001~0.2質量%の貴金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記固形廃棄材料は、5mm未満の粒径を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記従属栄養微生物は、バチルス・メガテリウム、バチルス・マイコイデス、クロモバクテリウム・アクアチカム、シュードモナス属、ロドコッカス属、ステノトロホモアス属、ストレプトマイセス
属からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記従属栄養微生物はシュードモナス11571である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記枯渇させる工程は、前記廃棄材料中に存在する前記貴金属の100%を金属シアノ錯体に変えるのに必要な非生物性シアン化水素酸の濃度の最大50%である、前記微生物により放出される生物由来のシアン化水素酸の濃度、で行われる請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記栄養素水溶液は、ミネラル微量元素および/または炭水化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記廃棄材料の枯渇
は20か
ら40℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
液体からの固体の分離は、重力、濾過または遠心分離によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程(e)から得られた前記液体を、前記金属-シアノ錯体と物理的に結合して液層から取り出すことができる吸着剤と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記吸着剤は樹脂または木炭である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記貴金属は、前記金属-シアノ錯体の溶媒溶出、前記溶媒の除去、およびpH変化による金属のそれらの錯体からの遊離により、前記吸着剤から回収される、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマイニング(又は微生物を利用した鉱業技術:biomining)の分野に関連し、特定の微生物を使用して二次資源から貴金属を回収する方法、その方法を実施するのに適した装置、および特定の材料の浸出(又は溶脱:leaching)に優れた性能を有する新しい微生物を開示する。
【背景技術】
【0002】
(先行技術)
シアン化物、およびグアニジン(LIX7950)またはアミン(LIX7820)などの適切な抽出剤、による鉱石からの銅の回収は、数十年にわたって知られている(例えば、米国特許第3403020号、1968年)。抽出剤によるCu(CN)4
3-およびCN-よりもCu(CN)32-の優先的な抽出のため、遊離シアンは水相に残る。シアン化物レベルが高いと、シアン化銅およびシアン化銀の抽出が抑制される傾向があるが、金、亜鉛、ニッケルおよび鉄のシアン化物の抽出にはほとんど効果がない。この技術の概要は、例えばXIEらにより、J.Hazardous Materials、169巻、333-338頁(2009年)で与えられる。
【0003】
過去において、シアン化カリウムを使用して、銅および貴金属、特に金を回収するプロセスでは、有毒な材料で汚染された巨大な廃棄物処分場に至ったが、今日のプロセスは閉サイクルで実行され、過去のような環境への影響はない。それにもかかわらず、特に工場にはシアン化物が豊富な数十万ガロンの抽出剤が典型的に含まれているため、閉鎖系でさえシアン化物を扱うことは依然として危険である。
【0004】
このため、今日の鉱石および廃棄材料の生物学的抽出方法、いわゆる「バイオリーチングプロセス(bioleaching processes)」に高い商業的関心があることは、驚くことではない。これらのプロセスは環境への影響がより少ないものの、従来はターゲット金属、特に銅が豊富な材料に対してのみ最適化されていた。通常、これらの目的には、銅が可溶性硫酸塩を形成する硫酸を産生し得る独立栄養細菌(又は自栄養細菌:autotrophic bacteria)が使用される。これらのプロセスは、かなりゆっくり実行されるという事実の他、金、銀または白金などの貴金属には、これらの金属は硫酸に不溶であるため、通常機能しない。現在、世界の銅生産の約24%には、3未満の低いpH値で動作し、且つ微生物の唯一の炭素源として二酸化炭素を使用する、バイオリーチングプロセスが使用される。
【0005】
これに関連して、その鉱石から金を回収および再濃縮する方法を開示する、欧州特許EP0432935B1およびEP0695809A1(GEOBIOTICS)が参照される。その方法は、シアン化水素酸(又は青酸:hydrocyanic acid)を産生および放出して金錯体を形成するための適切な微生物として、好ましくは藻類または青緑色のシアノバクテリアを使用するバイオリーチング工程を含む。他のさまざまな微生物の中で、バチルス・メガテリウム(又はバシラス・メガテリウム:Bacillus megaterium)および一部のシュードモナス属(Pseeu-domonas sp.)が言及されている。しかし、この先行技術の技術的教示は、この貴金属が特に豊富な供給源から金を回収することに向けられている。その文献は、貴金属の、それらを数ppmという微量のみ含む供給源からの回収に関する指針を提供していない。
【0006】
例えば、電子スクラップから金を回収するための他の周知微生物は、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)である。残念ながら、浸出プロセスにおけるこの細菌の有効性はかなり低いことがわかっている(CAM PBELLら、J.Industrial Microbiology&Biotechnology、26巻、134-139頁(2001年)またはFARAMARZIら、J.Biotechnology、113巻、321-326頁(2004年)を参照)。
【0007】
しかし、産業の残留物および廃棄材料を使用することの特定の欠点は、それらの大量の有毒金属、特に鉛である。バイオマイニングまたはバイオリーチングが可能なほとんどの微生物は、特に高用量で存在するときに、それらにかなり影響を受ける(又は敏感である:sensitive)ためである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、非常に少ないターゲット金属の量、典型的には0.2%以下の範囲を含むPCBおよび他の有機材料でしばしば汚染された、産業の残留物または廃棄材料を意味する、いわゆる二次資源から、例えば金、銀、白金、および/またはパラジウムなどの貴金属を回収する方法を提供することである。本方法は、適切な微生物から産生および放出された非常に少量のHCNを必要とし、約4~約11の広いpH範囲で機能するように設計する必要がある。可能な限り多くの貴金属、特にその少なくとも25%を回収できる解決策を提供することが望ましい。
【0009】
さらなる要件は、短時間で産業の残留物または廃棄材料から高収率の貴金属を回収することであり、したがって、独立栄養プロセス(autotrophic processes)と比較したとき、はるかに好ましい浸出速度が必要である。
【0010】
本発明の別の要件は、鉛などの有毒金属に耐性がある微生物を、高用量でも使用する方法を提供することである。鉛などの有毒金属は産業の残留物および廃棄材料に典型的であるためである。
【0011】
最後に、安全上の理由で、本方法に関与するすべての微生物は、リスククラス1に属する必要がある。将来、リスククラス2以上に属する微生物を含む技術プロセスは、政府の健康およびリスク当局から承認されないであろうためである。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、二次資源から貴金属を回収する方法を対象とし、以下の工程を含む、または以下の工程からなる:
(a)少なくとも0.0001%b.w.(=1ppm)の量の貴金属を含む固形廃棄材料の供給源を提供する工程と;
(b)前記廃棄材料を、シアン化水素酸を産生および放出することができる従属栄養微生物と接触させる工程と;
(c)溶媒、または前記微生物の栄養源となり得る栄養素水溶液を、混合物に添加する工程と;
(d)前記微生物により放出された前記シアン化水素酸と金属との複合化により、前記廃棄材料から、それらに含まれる貴金属を枯渇させる(depleting)工程と;
(e)金属シアノ錯体を含む液体から、枯渇させた固体廃棄材料を分離する工程と;
(f)既知の方法で貴金属を、それらのシアノ錯体から回収する工程。
【0013】
驚くべきことに、工程(a)から(f)の適応は、上記のすべてのニーズを満たす方法を提供することに注意されたい。本発明に係る方法は、貴金属、特に金および銀だが、パラジウムおよび白金をも、実用的な条件下(under economic conditions)平均0.005~0.05%b.w.の範囲で少量それらを含んでいる、産業の残留物および廃棄材料から、迅速に、簡便に、高収率で回収することを可能にする。
【0014】
いくつかの従属栄養微生物は、一方でバイオリーチング剤および有機シアン化水素酸の供給源としての性能の観点で、他方で、それらのすべてが、(例えば、クラス2に属するクロモバクテリウム・ビオラセウムとは異なり)リスククラス1に属しているため、安全性の観点で、特に有用であることを見出した。
【0015】
本発明に関連する別の驚くべき効果は、本方法により、すべての貴金属をシアン化物錯体に少なくとも50%変える(transfer)のに理論的に必要なシアン化物の量を減らすことができるという見解である。これは、先行技術から知られている方法における非生物シアン化物の量と比較するとき、本方法が異なるメカニズムに従うことを示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(二次資源)
【0017】
本発明に係る方法は、特定の貴金属が豊富な鉱石および供給源の浸出にも基本的に有用であるが、焦点は、貴金属、特に金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムおよびそれらの混合物を、かなり少量含む二次資源にある。本発明はまた、「貴金属」という用語には通常含まれない銅の浸出にも適している。
【0018】
典型的には、廃棄材料は、貴金属を約0.0001~約0.2%b.w.、好ましくは約0.001~約0.15%b.w.、より好ましくは約0.01~約0.1%b.w.、特に好ましくは約0.025~約0.05%b.w.の量で含み得る。
【0019】
5mm未満、好ましくは約1mm未満、特に好ましくは約100μm~500μmの平均直径を示す、特定の粒径に粉砕された二次資源を使用することも有用であることを見出した。
【0020】
適切な二次資源には、フライアッシュ(又は飛灰:fly ashes)、廃棄物焼却灰、金属スコリア(又は金属鉱滓:metal scoriae)、電子スクラップなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
(微生物)
【0022】
適切な微生物の選択は、公的および独自の微生物収集株(microbial strain collections)からの約2000種に基づいて行われた。本発明により開示される微生物は、ppm範囲で存在する貴金属を浸出させるそれらの能力に関して、他のバイオリーチング生物と比較して優れている。
【0023】
適切な微生物は、以下からなる群から選択される:
・バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、
・バチルス・マイコイデス(Bacillus mycoides)、
・クロモバクテリウム・アクアチカム(Chromobacterium aquaticum)、
・シュードモナス属(Pseudomonas spec)、
・ロドコッカス属(Rhodococcus spec)、
・ステノトロホモアス属(又はステノトロホモナス属:Stenotrophomoas spec)、
・ストレプトミセス属(Streptomyces spec)、および特に
・シュードモナス11571(Pseudomonas 11571)。
【0024】
上記のように、これらの微生物は、バイオリーチングにおいて驚くべき挙動を示す。それらは、廃棄材料中に存在する貴金属の100%を金属シアノ錯体に変える(transfer)のに必要な非生物性(又は非生物由来の:abiotic)シアン化水素酸の濃度の最大50%である、それらによって放出される生物由来の(biogenic)シアン化水素酸の濃度で、枯渇させる工程の実施を可能にするためである。
【0025】
現在、この興味深い効果の科学的説明が何であるかは明確ではないが、本方法は明らかに、異なるメカニズムおよび/または異なる速度論(又は動力学:kinetic)に従っている。
【0026】
(培養させる培地(CULTIVATING MEDIUM))
【0027】
本発明は2つの選択肢を含む:
(i)(直接的)ワンステップ浸出(又は一工程浸出:one-step leaching)、または
(ii)(間接的)ツーステップ浸出(又は二工程浸出:two-step leaching)。
【0028】
ワンステップ浸出とは、細かく粉砕された廃棄材料のスラリーを微生物と接触させることを意味する。この目的に最適な溶媒は、もちろん水である。微生物がすでに栄養素溶液に分散されているか、栄養素または栄養素溶液が別々に添加される。前記ワンステップ浸出プロセスの特徴は、浸出プロセス中に微生物がバイオシアン化物の生成と放出を開始することである。
【0029】
別の方法では、ツーステップ浸出とは、微生物がバイオシアン化物を生成および放出する栄養素溶液中ですでに培養されており、微生物、残留栄養素およびバイオシアン化物を含む前記溶液が廃棄材料スラリーに添加されることを意味する。
【0030】
適切な栄養組成物は、先行技術から周知であり、ミネラル、微量元素および炭水化物、好ましくは微生物の培養および成長に必要な糖を含む。
【0031】
(枯渇させる工程)
【0032】
通常、枯渇させる工程または浸出させる工程は撹拌容器内で行われる。廃棄材料は、必要に応じて、例えばボールミルを用いて小粒径に粉砕され、水または他の適切な溶媒にさらされてスラリーを形成し、反応器内にポンプで送られる。通常、スラリーは、約0.1~約50%b.w.、好ましくは約1~約30%b.w.、より好ましくは約2.5~約25%b.w.の固形物含量を示す。
【0033】
また、約7~約10のpH範囲内で枯渇させる工程を行うことが望ましい。回避されない限り、HCNは溶液中に保持され、危険な化学物質の蒸発が減少するため、より高いpH値が有利である。同時に、より多くの抽出剤が本方法に利用でき、有効性が向上する。好ましい実施形態では、本方法は、微生物の成長を増大させるために約7.5のpHで開始され、その後、収率を増加させるためにより高い値に向かって段階的にシフトされる。
【0034】
乾燥バイオマスまたは溶液として、微生物が添加され、それがワンステッププロセスであるかツーステッププロセスであるかに応じて、栄養素も添加される。典型的には、浸出には、0.01から約10重量%、好ましくは約0.1から約5重量%、特に約0.5~約5重量%の範囲の微生物(細胞乾燥重量、cdw)の量が必要であり、それは貴金属を枯渇させる必要がある廃棄材料の量に基づいて計算される。
【0035】
浸出は、微生物の性質にわずかに依存する温度で、典型的には約20~約40℃の範囲内で、好ましくは微生物が機能する最適条件に応じて25~35℃の温度で行われる。典型的には、浸出は激しい攪拌下で行われ、任意で反応器が通気される。十分な程度の枯渇浸出を達成するには、通常、約10~約120時間、好ましくは約16~約36時間の反応時間が必要である。
【0036】
(分離)
【0037】
浸出が完了すると、混合物は分離ユニットに移される(transferred)。最も簡単な実施形態では、分離はタンク内で重力により行われる。より効率的には、さまざまな形式で利用できるろ過ユニット、特にフィルタープレスである。
【0038】
例えば、プレート・フレームフィルタープレス(a plate and frame filter press )は最も基本的な設計であり、現在多くはそれを「フィルタープレート」と称する。この種のフィルタープレスは、一対のレールのサポート(又は支持体:supports)と交互に組み立てられた多くのプレートおよびフレームで構成されている。遠心ポンプの存在により、残りの懸濁固形物(又は浮遊固形物:suspended solids)がシステム内に沈殿しないことが確保され、その主な機能は、プレート・フレームフィルターの分離チャンバーの各々に懸濁液を送達することである。個々の分離チャンバーの各々に、ろ布によって2つのフィルタープレートから分離された1つの中空フィルターフレームがある。導入されたスラリーは個々のフレームのポートを通って流れ、ろ過ケークは各中空フレームに蓄積される。ろ過ケークが厚くなるにつれて、ろ過抵抗も増加する。そのため、分離チャンバーが満たされるとき、最適な圧力差に達するため、ろ過プロセスが停止する。ろ布を通過したろ液は、収集管を通して収集され、フィルタータンク内に保管される。ろ過ケーク(懸濁固形物)の蓄積は、中空プレートフレームで発生し、その後プレート・フレームフィルタープレスを引き離すことによりフィルタープレートで分離される。その後、ケークはそれらのプレートから落ちて、最終収集ポイントに排出される。
【0039】
ケークの排出はさまざまな方法で行うことができる。例えば、プレートが開いている間にプレートを振るか、または布を振る。1つのチャンバーから別のチャンバーに移動させて、布からケークをこすり落とすことによって、スクレーパーも使用され得る。各実行の終了時に、布は洗浄液を使用して洗浄され、次のサイクルをすぐに開始できる。
【0040】
別の方法として、自動フィルタープレスは、プロセス全体が完全に自動化されていることを除き、手動フィルターおよびフレームフィルターと同じコンセプトを有する。それは、機械的な「プレートシフター」を備えた、より大きいプレート・フレームフィルタープレスからなる。プレートシフターの機能は、プレートを移動させ、プレート間に蓄積されたろ過ケークを迅速に排出できるようにすることである。また、フィルタープレート内にダイアフラムコンプレッサーも含まれており、ろ過ケークをさらに乾燥させることにより、動作条件を最適化するのに役立つ。
【0041】
凹型プレートフィルタープレスは、通常、各中央に凹状のくぼみと穴を有する、約2~4フィート角のポリプロピレンで構成される。2つのプレートが共に結合してチャンバーを形成し、スラリーを加圧し、チャンバー内のろ布の裏地を通してろ液を絞り出す。必要な容量に応じて、12~80枚のプレートを互いに隣接して保持できる。フィルタープレスを閉じるとき、一連のチャンバーが形成される。プレート・フレームフィルターとの違いは、各プレートの凹部にケークが形成されるようにプレートが共に結合されていることであり、スペーサーとして余分なフレームを使用しない限り、ケークの厚さは32mmに制限されることを意味する。ただし、この方法には、布の交換時間が長くなる、濾紙を収容できない、および不均一なケークが形成される可能性がある、などの欠点がある。
【0042】
本発明の好ましい実施形態は、チャンバーフィルタープレスまたは遠心分離機による分離を包含する。
【0043】
プロセスが連続的に行われるケースでは、よりコストがかかるが、加圧ろ過も有利であり得た。例えば、セラミック、スチールまたはポリマーからなる膜によって、スラリーが液相から分離されるダイアフィルトレーションは、適切な代替手段を示す。
【0044】
酸化還元調節剤(redox-modulators)(例えば、過酸化水素)などの、分離を促進するためのさらなる添加剤、またはポリアクリレート、アルギン酸塩、デンプンなどの凝集剤を添加してもよい。
【0045】
(吸着)
【0046】
シアノ錯体として溶解した貴金属を溶媒から回収するために、液相は吸着ユニット内に移される。最も簡単な実施形態では、前記ユニットは、金属シアノ錯体を物理的に結合して液相から取り出すことができる、任意の吸着剤で満たされた攪拌容器である。別の実施形態は、充填カラムであり得た。適切な吸着剤は、配位結合またはイオン交換化学結合を介して金属を結合させる樹脂を含み、例えばランクセス社が提供するLewatit(登録商標)MP62またはLewatit(登録商標)タイプの他の樹脂が含まれるが、これらに限定されない。工程が容器内で実行されるケースでは、完全な吸着には、周囲温度で約15~約60分、好ましくは約20~30分が必要である。カラム内で吸着を行うことには、工程を連続的に実行できるという利点がある。
【0047】
(回収)
【0048】
吸着剤により吸着された貴金属シアノ錯体を除去するための最初の適切な方法は、適切な溶媒を用いてそれらを溶出し、溶媒を除去し、化学的手段、例えばpH変化により錯体から金属を遊離させることである。
【0049】
好ましくは、貴金属は、吸着剤の焼却により前記吸着剤から回収される。残留物は、さらなる精製プロセスにかけることができる。
【0050】
(装置)
【0051】
本発明のさらなる実施形態は、請求項1に記載の方法を実施するための装置に関し、以下の部分を含むか、または以下の部分からなる:
(i)微生物の成長を維持し、且つ廃金属を浸出させることができる反応器、好ましくは攪拌された通気容器と、
(ii)枯渇させた固体残留物を液相から分離できる分離ユニットと、
(iii)希釈された金属シアノ錯体を液相から吸着することができる適切な吸着剤を含む吸着ユニットと、
(iv)吸着剤から貴金属または金属シアノ錯体を放出できる回収ユニット。
【0052】
基本的に、前記装置はバッチプロセスに適している。しかし、例えば、連続容器反応器(a continuous vessel reactor)をダイアフィルトレーションユニットおよび吸着カラムと組み合わせることにより、連続プラントを設計することも可能である。
【0053】
(シュードモナス)
【0054】
最後の実施形態は、バイオマイニングおよび/またはバイオリーチングを可能にする微生物および新しい土壌微生物を識別する方法を指し、それは次の手順に従って得られる:4mMのKCNおよび100μg/mlのナイスタチンを補足した(supplemented)0.5xHD栄養寒天プレート(又は0.5倍ヒスチジン栄養寒天プレート:0,5xHD nutrient agar plates)に、0.85%NaClの土壌懸濁液をプレーティングする(又は組み込む:plating)。出現した微生物コロニーは、新鮮な寒天プレート上の「クリーンストリーク」によって移植(transferred)および精製され、続いてシアン化水素酸の産生(production)および二次資源からの貴金属の浸出効率について分析される。性能基準を満たす微生物は、16S rDNA分析、ゲノムシーケンス、および生理学的テスト(Analytical Profile Index/APIシステム、Biolog PM 1およびPM2aテストプレート)によって系統学的に特徴付けられる。
【実施例】
【0055】
(比較した実施例1(又は比較例1:COMPARATIVE EXAMPLE 1))
【0056】
電子スクラップ、すなわちプリントカードボード(PCB)を、シアン化水素酸を産生および放出できる従属栄養微生物として以下を使用してバイオリーチングにかけた。
(a)クロモバクテリウム・アクアチカム、DSMZ19852(本発明に係る)
(b)シュードモナス HB11571(本発明に係る)、
(c)クロモバクテリウム・ビオラセウム、DSMZ30191(比較用)
金属に関する廃棄材料は、主に銅(6%b.w.)、鉄(6%b.w.)、アルミニウム(4%b.w.)および亜鉛(2%b.w.)で構成されていた。また、微量の貴金属、特に銀、金およびパラジウムも含まれていた。
【0057】
サンプル材料をインパクトミルで細かく粉砕した。得られた微細片(<1mm)を浸出実験に使用した。この材料1gを0.3リットルの容量の浸出容器に添加した。容器は、微生物(a)、(b)または(c)をそれぞれ約1g/l湿潤重量の量で含み、また、微生物の栄養素として役立つのに適切な量でミネラルおよび炭水化物も含む、0.1リットルの水溶液で満たされた。シアン化水素酸の産生を維持するために、グリセリン0.5gの量を添加した。混合物を約30℃に加熱し、約180rpmで120時間にわたって攪拌した。その後、スラリーを遠心分離によって収集し、ICP-MS分析によって、放出された貴金属と銅の量についてその液相を分析した。実験は3回繰り返して実施した。結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
シュードモナスHB11571は、クロモバクテリウム・ビオラセウムよりも、銀の浸出効率が5倍高く、金の浸出が30%優れていることを示す。2つのクロモバクテリウム属の浸出効果は同程度である。ただし、クロモバクテリウム・アクアチカムとシュードモナスHB11571はリスクグループ1に属し、一方でクロモバクテリウム・ビオラセウムはリスクグループ2に属し、経済的に実行可能な工業環境で後者の微生物の使用をしにくくする(compromising)。
【0060】
(実施例2、例示的実施例C2)
【0061】
鉱物スラッジ(又は無機スラッジ:Mineral sludge)を、浸出反応器内で、シアン化水素酸を産生および放出できる従属栄養微生物として以下を使用して、バイオリーチングにかけた。
(a)クロモバクテリウム・アクアチカム、DSMZ19852(本発明に係る)
金属に関する廃棄材料は、主に鉄(13%b.w.)で構成されていた。また、微量の貴金属、特に金も含まれていた。
【0062】
鉱物スラッジを、ボールミルを使用して細かく粉砕し、37.5gを1.2リットルの容量を有する浸出反応器に添加した。反応器は、約1g/l(湿潤重量)の量の微生物(a)を含み、また、微生物の栄養素として役立つのに適した量のミネラルおよび炭水化物も含む、0.75リットルの水溶液で満たされた。シアン化水素酸の産生を補助するために、カザミノ酸とグリシン(0.5%w/v)が添加された。混合物を28℃に加熱し、約500rpmで、0.5vvmの通気で48時間にわたって撹拌した。このようにして得られたスラリーを、16ppmのアニオン共凝集剤、20ppmのケイ酸アルミニウムおよび100ppmの中性ポリアクリレートと混合して、凝集を誘発し、Beco Integra LAB60Pろ過ユニット内で、以下のろ過を促進した。きれいな(又は透明な:cleared)液相を、高分子金属吸着樹脂(3mlのベッドボリューム)で満たされたカラムに移した。溶液は、26ml/hの流速でカラムを通過した。最後に、金属シアノ錯体を含む樹脂を燃焼ユニットに移し、100~1100℃の温度勾配で焼却した。残留物から貴金属が回収された。結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
シアン生成微生物では、存在する金の36%以上が鉱物スラッジから抽出できた。抽出された金のうち50%以上が、高分子樹脂への吸着および焼却の後に、生の金塊として回収された。
【0065】
(実施例3、例示的実施例C3)
【0066】
鉱物フライアッシュを、シアン化水素酸を産生および放出できる従属栄養微生物として以下を使用して、バイオリーチングにかけた。
(a)クロモバクテリウム・アクアチカム(本発明に係る)
金属に関する廃棄材料は、主に亜鉛(20%b.w)と銅(3%)で構成されていた。また、微量の貴金属、特に銀(0.2%b.w.)も含まれていた。
【0067】
フライアッシュは、その微粒子分布のために粉砕する必要がなかった。各0.5gの2つのサンプルを0.3Lの浸出容器に添加した。1つの容器は、微生物の成長を補助するのに適した量のミネラルと炭水化物、および約1g/Lの濃度の微生物を含む、0.1Lの水溶液で満たされた。in-situ(又はインサイチュ:in situ)でのシアン化水素酸の産生を補助するために、カザミノ酸とグリシン(0.5%w/v)が添加された。他の容器は、シアン化水素酸の産生が可能な条件下で成長した微生物(a)の0.1Lの定常培養液(又は静止培養液:stationary culture)で満たされた。すなわち、シアン化水素酸の産生は、浸出した材料と培養液(culture)を接触させる前に、このような方法でex-situ(又はエクスサイチュ:in situ)で行われた。両方の容器を30℃でインキュベートし(又は培養し:incubated)、180rpmのオービタルシェーカーで16時間にわたって攪拌した。続いて、こうして得られたスラリーを遠心分離し、きれいな上清を、ICP-MSを使用して金属について分析した。結果を表3に示す。
【0068】
【0069】
クロモバクテリウム・アクアチカムは、in-situのバイオリーチングと比較して、ex-situのセットアップで約10倍の有効性の増大を提供することがわかった。鉱物フライアッシュの銀含有量が高いため、材料は微生物に対して毒性があり、in-situのバイオリーチングでの浸出効率の低下に至る。
1100%を超える、見かけの浸出効率は、材料の不均一性に起因する。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
二次資源から貴金属を回収する方法であって、
(a)少なくとも0.0001%b.w.の量の貴金属を含む固形廃棄材料の供給源を提供する工程と;
(b)前記廃棄材料を、シアン化水素酸を産生および放出することができる従属栄養微生物と接触させる工程と;
(c)溶媒、または前記微生物の栄養源となり得る栄養素水溶液を、混合物に添加する工程と;
(d)前記金属と、前記微生物によって放出された前記シアン化水素酸との錯体形成により、前記廃棄材料から、そこに含まれる前記貴金属を枯渇させる工程と;
(e)金属-シアノ錯体を含む液体から、枯渇させた前記固体廃棄材料を分離する工程と;
(f)既知の方法で、前記貴金属を、それらのシアノ錯体から回収する工程と
を含む、または、それらの工程からなる方法。
(態様2)
前記固体廃棄材料は、フライアッシュ、廃棄物焼却灰、金属スコリアおよび電子スクラップからなる群から選択される、態様1に記載の方法。
(態様3)
前記貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される、態様1に記載の方法。
(態様4)
前記固形廃棄材料は、約0.2~0.0001%b.w.の貴金属を含む、態様1に記載の方法。
(態様5)
前記固形廃棄材料は、5mm未満の粒径を示す、態様1に記載の方法。
(態様6)
前記従属栄養微生物は、バチルス・メガテリウム、バチルス・マイコイデス、クロモバクテリウム・アクアチカム、シュードモナス属、ロドコッカス属、ステノトロホモアス属、ストレプトマイセス属、および特にシュードモナス11571からなる群から選択される、態様1に記載の方法。
(態様7)
前記枯渇させる工程は、前記廃棄材料中に存在する前記貴金属の100%を金属シアノ錯体に変えるのに必要な非生物性シアン化水素酸の濃度の最大50%である、前記微生物により放出される生物由来のシアン化水素酸の濃度、で行われる態様1記載の方法。
(態様8)
前記栄養素水溶液は、ミネラル微量元素および/または炭水化物を含む、態様1に記載の方法。
(態様9)
前記廃棄材料の枯渇は約20から約40℃の温度で行われる、態様1に記載の方法。
(態様10)
液体からの固体の分離は、重力、濾過または遠心分離によって行われる、態様1に記載の方法。
(態様11)
工程(e)から得られた前記液体を、前記金属-シアノ錯体と物理的に結合して液層から取り出すことができる吸着剤と接触させる、態様1に記載の方法。
(態様12)
前記吸着剤は樹脂または木炭である、態様10に記載の方法。
(態様13)
前記貴金属は、前記金属-シアノ錯体の溶媒溶出、前記溶媒の除去、およびpH変化による金属のそれらの錯体からの遊離により、前記吸着剤から回収される、態様10に記載の方法。
(態様14)
態様1に記載の方法を実施するための装置であって、
(i)廃金属を浸出させることができる反応器、好ましくは攪拌容器と、
(ii)枯渇した固体残留物を液相から分離できる分離ユニットと、
(iii)希釈された金属シアノ錯体を前記液相から吸着することができる適切な吸着剤を含む吸着ユニットと、
(iv)前記吸着剤から前記貴金属または前記金属シアノ錯体を放出できる回収ユニットと
を含む、または、からなる装置。
(態様15)
ブーミングプロセスおよび/またはバイオリーチングプロセスを可能にする微生物を識別する方法であって、
(i)4mMのKCNおよび100μg/mlのナイスタチンを補足した0.5xHD栄養寒天プレートに0.85%NaClの土壌懸濁液をプレーティングする工程と;
(ii)新鮮な寒天プレート上の「クリーンストリーク」によって、出現している微生物コロニーを移植および精製し、続いてシアン化水素酸の産生と、二次資源からの貴金属の浸出効率とを分析する工程と;
(iii)性能基準を満たす微生物を、16S rDNA分析、ゲノムシーケンスおよび生理学的テスト(Analytical Profile Index/APIシステム、Biolog PM1およびPM2aテストプレート)により、系統学的に特徴付ける工程と、を含む方法。