(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】選択的細胞死誘導酵素系
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20221130BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20221130BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20221130BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20221130BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221130BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221130BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20221130BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20221130BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221130BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221130BHJP
C07K 14/08 20060101ALI20221130BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20221130BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221130BHJP
C12N 9/50 20060101ALI20221130BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20221130BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
A61K38/48
A61K9/127
A61K9/14
A61K9/50
A61K31/7088
A61K35/76
A61K38/17
A61K47/64
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 105
C07K14/08
C07K14/435
C07K19/00
C12N9/50
C12N15/57
C12N15/62 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2019571779
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2018056313
(87)【国際公開番号】W WO2018167105
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-11
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】320001880
【氏名又は名称】トゥーレル,シルヴァン
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥーレル,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】クレフト,タベア
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01873251(EP,A1)
【文献】特表2016-510324(JP,A)
【文献】特開2005-278630(JP,A)
【文献】特開2008-308440(JP,A)
【文献】特表2009-522372(JP,A)
【文献】特表2008-521398(JP,A)
【文献】特表2006-518737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/48
A61K 48/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカスパーゼの不活性型と、少なくとも1つの抗アポトーシスタンパク質のインヒビターと、タバコエッチウイルス(TEV)プロテアーゼとを含み、次の(1)から(4)の特徴を備える、融合タンパク質。
(1)前記少なくとも1つのカスパーゼの不活性型、前記少なくとも1つの抗アポトーシスタンパク質のインヒビターおよび前記TEVプロテアーゼは、前記TEVプロテアーゼの認識部位(TEV認識部位という)によって切り離され、その結果それらは前記TEVプロテアーゼによる切り離しで放出され得る。
(2)前記カスパーゼの不活性型は、前記TEV認識部位を含み、その結果、前記TEVプロテアーゼによる切断で、前記カスパーゼの2つの断片が放出され、ここにおいて前記カスパーゼの不活性型は、
- 配列番号9および10の前記断片が、前記TEVプロテアーゼによる切断により放出される、配列番号5を持つカスパーゼの不活性型3、
- 配列番号11および12の前記断片が、前記TEVプロテアーゼによる切断により放出される、配列番号6を持つカスパーゼの不活性型7、
- 配列番号13および14の前記断片が、前記TEVプロテアーゼによる切断により放出される、配列番号7を持つカスパーゼの不活性型8、および
- 配列番号15および16の前記断片が、前記TEVプロテアーゼによる切断により放出される、配列番号8を持つカスパーゼの不活性型10、
からなる群の中から選択される。
(3)前記抗アポトーシスタンパク質の前記インヒビターは、
Smac/DIABLO(配列番号17)およびXAF1(配列番号18)
からなる群の中から選択される。
(4)前記少なくとも1つのカスパーゼの不活性型、前記少なくとも1つの抗アポトーシスタンパク質のインヒビターおよび前記TEVプロテアーゼを切り離す前記TEVプロテアーゼの認識部位は、ENLYFQS(配列番号3)およびENLYFQG(配列番号4)からなる群の中から選択される。
【請求項2】
配列番号19で示される、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
配列番号1もしくは配列番号2を含む、請求項1または請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸を含み、さらに賦形剤および添加剤を含んでいてもよい、薬物。
【請求項6】
対象への遺伝子治療によって、がんまたは腫瘍性疾患の治療に使用するための請求項4に記載の核酸または請求項5に記載の薬物。
【請求項7】
前記対象がヒトである、請求項6に記載の核酸または薬物。
【請求項8】
前記遺伝子治療ビヒクルは、リポソーム、ナノ粒子またはマイクロ粒子、ウイルス、リポプレックスからなる群の中から選択される、請求項6または請求項7に記載の核酸または薬物。
【請求項9】
前記ビヒクルが腫瘍マーカを認識するリガンドを含む、請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の核酸または薬物。
【請求項10】
前記腫瘍マーカが、がん胎児性抗原(CEA)、αフェトプロテイン(AFP)、炭水化物抗原19-9(CA19-9)、がん抗原72-4(CA72-4)、がん抗原125、がん抗原15-3(CA15-3)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、扁平上皮がん抗原(SCC)、サイトケラチンフラグメント(CYFRA)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、前立腺特異抗原(PSA)、ヒトサイログロブリン(HTG)、およびムチン様がん関連抗原(MCA)からなる群の中から選択される、請求項9に記載の核酸または薬物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトおよび動物のがんおよび腫瘍の療法および/または治療に使用するための選択的細胞死誘導酵素系を含む融合タンパク質、プロセスおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、体内での無制限な細胞増殖および変性細胞の播種を特徴とする疾患の類であり、転移の場合には最終的に患者を死に至らしめる。腫瘍およびがん疾患の治療は、発生する腫瘍のタイプに強く依存しており、今日では、治療は通例、侵襲的な手術に加えて放射線療法または化学療法の使用を含む。がん疾患は、外部要因(たばこ喫煙、感染性微生物またはウイルス、突然変異原および電離放射線)と内部要因(遺伝的素因、ホルモン、免疫系因子および自然体細胞突然変異)との両方によって引き起こされる。がんはまた、免疫療法、ホルモン療法によって、および標的療法によっても治療することができる。腫瘍細胞を殺すために化学療法を用いる利点は、細胞内DNAまたはRNAに破壊的効果を発揮することによる、細胞分裂を阻止するその能力によって妥当性が明らかになる。腫瘍細胞は、もはや分裂することができなくなるとすぐに死ぬ。より急速に細胞が分裂すれば、化学療法剤によってそれらを死滅させることができる確率および、細胞死の誘導によって腫瘍が縮小する確率はより高くなる。その結果として、化学療法は、急速に分裂する細胞に対して最も効率よく作用する。しかしながら、化学療法は、がん細胞/腫瘍細胞と、急速に増殖している体内の正常細胞とを区別することができないため、脱毛、疲労、疼痛、血球数の変化および吐き気などの副作用が生じる。化学療法は、作用機構に基づいて5つの大きなクラス(アルキル化剤、植物アルカロイド、抗腫瘍性抗生物質および代謝拮抗剤)に類別される。
【0003】
いわゆる標的療法は、がん細胞と正常な健康細胞との違いについての我々の知識を活用する。標的療法は、正常な健康細胞への損傷がないようにがん細胞の特定の特徴を活用することによってこれらのがん細胞を排除することを目的としている。これらの標的療法の活性成分は、特に、がん細胞を特異的に認識してがん細胞に特異的に結合するモノクローナル抗体および、腫瘍に栄養供給する血管の成長を特異的に抑制する血管新生阻害薬を含む。標的療法は、ほとんどの場合、がん細胞膜を通過し、細胞代謝を妨げ、特にアポトーシスを引き起こして細胞を殺すことができる有機小分子を用いる。こうしたアポトーシスを引き起こす、細胞内シグナル経路を標的とする多くの活性成分が記載されている。他の活性成分は、細胞表面の腫瘍特異的受容体を認識して該受容体に結合する。
【0004】
しかしながら、これらの療法は、免疫系に極端な負担をかけ、また、多くの場合、限られた範囲でしか使用することができない。さらに、ほとんどの場合、これらの形態の療法は、免疫系の再生のために個々の治療間で長い休止期を必要とする。したがって、近年、特に遺伝子治療アプローチまたは遺伝子ワクチン接種は、治療のために、またはこれらの古典的処置の補助において有望であることが判明している。
【0005】
遺伝子治療および遺伝子ワクチン接種は、疾患の療法および予防におけるその一般的使用が医療にかなりの影響を有する分子医療である。どちらの方法も、患者の細胞または組織への核酸またはペプチドの導入および、それに続く、導入された核酸によってコードされる情報のこれらの細胞または組織でのプロセシング、すなわち所望のポリペプチドの発現に基づく。
【0006】
既存の遺伝子治療法および遺伝子ワクチン接種法の通常のアプローチは、DNAを用いて所望の遺伝情報を細胞に導入することである。この点について、細胞にDNAを導入するための様々な方法、たとえばリン酸カルシウムトランスフェクション、Polybrene(登録商標)トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションおよびリポフェクションが記載されている。
【0007】
特に遺伝子ワクチン接種のために提案されている別の方法は、DNAビヒクルとしてのDNAウイルスの使用である。これらのウイルスは、それらの感染性が、大変高いトランスフェクション率の実現を可能にするという利点を有する。
【0008】
アポトーシスの生理過程による疾患関連細胞の排除は、患者のために極めて有益である。他の形態の細胞死とは対照的に、アポトーシスは、いくつかの利点をもたらす高度に制御および調節されたプロセスである。アポトーシス細胞は大変急速に死に、アポトーシス小体と呼ばれる生成された細胞断片は食細胞によって除去される。これによって、周囲の細胞はどのような損傷からも保護される(非特許文献1)。
【0009】
さらに、植物または細菌起源の免疫毒素などの他の死誘発剤は、しばしば、中和抗体の発生の問題に直面する。それらの薬剤の免疫原性は、その臨床的有用性に対する主な障壁と考えられている。
【0010】
しかしながら、がん細胞はアポトーシス傷害に抵抗することが公知であり、それによって腫瘍のイニシエーションおよび進行が可能となる。不完全なまたは非効率的なアポトーシスシグナル伝達は、多くの場合、生存促進タンパク質のアップレギュレーションまたはアポトーシス促進性タンパク質の抑制をもたらす変異によって引き起こされる。
【0011】
細胞のアポトーシスは、様々なアポトーシス促進機構およびタンパク質によって誘発することができる。これらの機構とタンパク質との共通点は、それらが、細胞を標的とする、カスパーゼと呼ばれるタンパク質分解性システインプロテアーゼのカスケードを活性化することである。このカスケードは、はじめに活性化されるカスパーゼ、たとえばカスパーゼ8およびカスパーゼ9などと、それによって活性化されるエフェクターカスケード、たとえばカスパーゼ3および6または7などとを含む。これらは、引き続いて一連の細胞基質を切断し、冒された細胞のアポトーシスを引き起こす。
【0012】
本発明の文脈において、用語「プログラム細胞死」は、「アポトーシス」の同義語として用いることができる。本発明の定義によれば、「誘導細胞死」は、活性物質が、好ましくはカスパーゼにより、アポトーシスすなわちプログラム細胞死を引き起こす細胞死である。
【0013】
しかしながら、たとえば特許文献1に開示されているように、腫瘍治療にカスパーゼを使用することができることは公知である。
【0014】
カスパーゼ3、7、8または10を送達することによるアポトーシスの誘導は、これらの酵素の上流のアポトーシス経路のすべての機能障害を回避することができる。カスパーゼ、特にカスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ8またはカスパーゼ10は、アポトーシス経路において主要な役割を有しており、それらは、細胞内の100超のタンパク質標的を提供する。他のカスパーゼとは対照的に、カスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ8またはカスパーゼ10は、がん細胞に送達されると、単独でまたは一緒にアポトーシスを誘導することができる。
【0015】
しかしながら、カスパーゼ3、7、8または10抵抗性がん細胞もいくつか存在する。これらの細胞は、カスパーゼ依存アポトーシスを抑制する、天然に存在する細胞内タンパク質であるアポトーシス阻害タンパク質(IAP)を高レベルで発現する。
【0016】
特異的認識配列を有する基質タンパク質に対してのみ酵素的に活性な一連のプロテアーゼが存在する。以下の表にいくつかの例を挙げる。P1は、その後が切断されるアミノ酸の位置を示す。P4、P3およびP2は、制限部位P1の前のN末端位置である。P1’およびP2’は、P1の後のC末端位置である。これは、これらのプロテアーゼがP1とP1’ との間のポリペプチド鎖を切断することを意味する。
【0017】
【表1】
アミノ酸は1文字コードで示した
特に有効で特異的なカスパーゼ(表1参照)はカスパーゼ3、7、8および10である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許出願公開第2003/0054000号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】Kreitman RJ:Immunotoxins in cancer therapy.Current Opinion in Immunology 1999,11:570-578
【文献】Earnshaw WC,Martins LM,Kaufmann SH:Mammalian caspases:structure,activation,substrates,and functions during apoptosis.Annu Rev Biochem 1999,68:383-424
【文献】The P1’ specificity of tobacco etch virus protease,Biochemical and Biophysical Research Communications,294(2002)949-955
【文献】Dougherty WG,Parks TD,Cary SM,Bazan JF,Fletterick RJ:Characterization of the catalytic residues of the tobacco etch virus 49-kDa proteinase.Virology 1989,172:302-310
【文献】Kapust RB,Waugh DS:Controlled intracellular processing of fusion proteins by TEV protease.Protein Expr Purif 2000,19(2):312-318
【文献】Ausubelら(ed.),(1989).Preparation of Genomic DNA from Mammalian Tissue.In:Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY.John Wiley&Sons
【文献】Feigner,P.L.ら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci,USA 84,7413;Behr,J.P.ら(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,6982;Feigner,J.H.ら(1994)J.Biol.Chem.269,2550またはGao,X.&Huang,L.(1991)Biochim.Biophys.Acta 1189,195
【文献】Gene delivery by lipoplexes and polyplexes.Tros de Ilarduya C,Sun Y,Duzgunes N.Eur J Pharm Sci.2010 Jun 14;40(3):159-70.doi:10.1016/j.ejps.2010.03.019.Epub 2010 Mar 30;Efficient gene delivery by EGF-lipoplexes in vitro and in vivo,Buniuales M,Duezguenes N,Zalba S,Garrido MJ,de Ilarduya CT.Nanomedicine(Lond).2011 Jan;6(1):89-98.doi:10.2217/nnm.10.100;Genetic nanomedicine:gene delivery by targeted lipoplexes,Duezguenes N,de Ilarduya CT.Methods Enzymol.2012;509:355-67.doi:10.1016/B978-0-12-391858-1.00018-6
【文献】Pschyrembel,(266st edition)2014,de Gruyter,Berlin
【発明の概要】
【0020】
この従来技術から出発して、活性成分を用いてがんまたは腫瘍細胞の誘導細胞死を引き起こすことが本発明者らの目標であった。
【0021】
カスパーゼは不活性な酵素前駆体として発現され、活性化のためには特異的切断を必要とする。本発明によるカスパーゼ3、7、8、10を特異的に活性化するために、それらの天然の切断部位は、タバコエッチウイルスプロテアーゼ(以後、「TEV」と略記する)によって一意的に切断されるアミノ酸配列(認識部位)によって置換されている。
【0022】
通例、カスパーゼ3、7、8、10は、(たとえばグランザイムBによって)天然に切断される不活性な酵素前駆体として翻訳される。プロカスパーゼ3、7、8、10遺伝子は、N末端プロドメインとそれに続く2つの成分、いわゆる小サブユニットと大サブユニットとからなる(非特許文献2)。プロセシング部位は、プロドメインと大サブユニットとの接合部および、2つのサブユニット間のサブユニット間リンカーに位置する。カスパーゼ成熟に必要なすべての天然切断は、アスパラギン酸残基のカルボキシル側(P1’残基と名付ける、表1参照)で生じる。
【0023】
活性を誘導するには、サブユニット間リンカーの切断が必要であり、かつ十分であることが報告されている。したがって、本発明によって用いられる好ましいカスパーゼ3、7、8、10バリアントは、該カスパーゼの小サブユニットと大サブユニットとの間のP1’位置に好ましくはセリン(S)を提示するTEVプロテアーゼ切断部位を有する。それにより、グランザイムBによる切断に極めて重要な内因性P1’アスパラギン酸(D)が除去され、P1’としてTEVプロテアーゼに好ましいセリン(S)が天然に提供される。
【0024】
さらに、2つのドメイン間に認識部位を配置することによって、表面接触性が有利に確保される。
【0025】
驚くべきことに、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型またはそれをコードする核酸ならびにTEV(配列番号1もしくは配列番号2)またはそれをコードする核酸を含む融合タンパク質であって、カスパーゼ3、7、8、10が、TEVの少なくとも1つの認識部位(認識配列)ENLYFQS(配列番号3)および/またはENLYFQG(配列番号4)を含む改変体で提供される、融合タンパク質を含む細胞死誘導酵素系によって、腫瘍細胞は死ぬことが可能である。
【0026】
本発明によれば、TEVは、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の改変体における認識部位(認識配列)ENLYFQS(配列番号3)またはENLYFQG(配列番号4)を認識し、ここで認識部位(認識配列)は、好ましくは、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の大サブユニットと小サブユニットとの間に連結されている(ライゲーションされている)。
【0027】
このような配列は、次のように定義することができる:
TEVの認識部位(下線)を有する改変カスパーゼ3(配列番号5):
MENTENSVDS KSIKNLEPKI IHGSESMDSG ISLDNSYKMD YPEMGLCIII MTSRSGTDVD AANLRETFRN LKYEVRNKND LTREEIVELM RDVSKEDHSK RSSFVCVLLS HGEEGIIFGT NGPVDLKKIT NFFRGDRCRS LTGKPKLFII QACRCTELDC GIETENLYFQ SGVDDDMACH KIPVEADFLY AYSTAPGYYS WRNSKDGSWF IQSLCAMLKQ YADKLEFMHI LTRVNRKVAT EFESFSFDAT FHAKKQIPCI VSMLTKELYF YH
TEVの認識部位(下線)を有する改変カスパーゼ7(配列番号6):
ADDQGCIEEQGVEDSANEDSVDAKPDRSSFVPSLFSKKKKNVTMRSIKTTRDRVPTYQYNMNFEKLGKCIIINNKNFDKVTGMGVRNGTDKDAEALFKCFRSLGFDVIVYNDCSCAKMQDLLKKASEEDHTNAACFACILLSHGEENVIYGKDGVTPIKDLTAHFRGDRCKTLLEKPKLFFIQACRGTELDDGIQAENLYFQSGPINDTDANPRYKIPVEADFLFAYSTVPGYYSWRSPGRGSWFVQALCSILEEHGKDLEIMQILTRVNDRVARHFESQSDDPHFHEKKQIPCVVSMLTKELYGFSQ
TEVの認識部位(下線)を有する改変カスパーゼ8(配列番号7):
MDSESQTLDKVYQMKSKPRGYCLIINNHNFAKAREKVPKLHSIRDRNGTHLDAGALTTTFEELHFEIKPHDDCTVEQIYEILKIYQLMDHSNMDCFICCILSHGDKGIIYGTDGQEAPIYELTSQFTGLKCPSLAGKPKVFFIQACQGDNYQKGIPVETDSENLYFQGMDLSSPQTRYIPDEADFLLGMATVNNCVSYRNPAEGTWYIQSLCQSLRERCPRGDDILTILTEVNYEVSNKDDKKNMGKQMPQPTFTLRKKLVFPSD
TEVの認識部位(下線)を有する改変カスパーゼ10(配列番号8):
MDVKTFLEALPQESWQNKHAGSNGNRATNGAPSLVSRGMQGASANTLNSETSTKRAAVYRMNRNHRGLCVIVNNHSFTSLKDRQGTHKDAEILSHVFQWLGFTVHIHNNVTKVEMEMVLQKQKCNPAHADGDCFVFCILTHGRFGAVYSSDEALIPIREIMSHFTALQCPRLAEKPKLFFIQACQGEEIQPSVSIEAENLYFQGQAPTSLQDSIPAEADFLLGLATVPGYVSFRHVEEGSWYIQSLCNHLKKLVPRMLKFLEKTMEIRGRKRTVWGAKQISATSLPTAISAQTPRPPMRRWSSVS
したがって、本目標は、作成された特許請求の範囲によって全面的に達成される。
【0028】
カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型ならびにTEVがともに腫瘍細胞に導入され、発現される(適用可能な場合)とすぐに、TEVはカスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の活性型を放出し、アポトーシスすなわちプログラム細胞死を通じて細胞死を誘導する。
【0029】
本発明に用いられるカスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10ならびに、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型を活性型にアンマスキングするために用いられる手段、すなわちTEVという本発明の選択が特に有利である。これらの2つのポリペプチドが腫瘍細胞に含まれるとすぐに、完全に特異的かつ効率的にアンマスキングが進行する。ここで、プロカスパーゼもTEVもヒトまたは哺乳動物に存在しないことが特に有利である。
【0030】
TEVは、Kapustらの文献(非特許文献3)で言及されている。TEVは、タバコエッチウイルス由来の核内封入体a(NIa)プロテアーゼの触媒活性を示す27kDaのC末端ドメインのことをいう(非特許文献4)。このプロテアーゼは、7残基の標的配列ENLYFQ/S(式中、「/」は、切断されたペプチド結合を意味する)を認識する。このセリンP1’残基は、プロセシングの効率にほとんど影響を与えずにいくつかの他のアミノ酸によって置換されることができる。その非常に厳密な配列特異性のために、in vitroおよびin vivoにおいて、TEVプロテアーゼは、融合タンパク質の調節された細胞内プロセシングのための有用な試薬となる。ヒトプロテオーム中にこの認識配列は存在しないことから、その用途はin vivoで比較的非毒性である(非特許文献5)。
【0031】
したがって、本発明は、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型またはそれをコードする核酸ならびにTEV(配列番号1もしくは配列番号2)またはそれをコードする核酸を含む、薬物または融合タンパク質に関する。TEVは、配列番号5または配列番号6または配列番号7または配列番号8のような改変カスパーゼ3および/または改変カスパーゼ7および/または改変カスパーゼ8および/または改変カスパーゼ10の不活性型における認識部位(認識配列)ENLYFQS(配列番号3)またはENLYFQG(配列番号4)を認識する。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型は、改変「プロカスパーゼ」(配列番号5または配列番号6または配列番号7または配列番号8)またはそれをコードする核酸である。
【0033】
本発明の別の好ましい実施形態において、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型は、融合タンパク質またはそれをコードする核酸であり、ここで、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16の群から選択される少なくとも1つの配列は、ENLYFQ(配列番号3)またはENLYFQG(配列番号4)におけるTEV(たとえば配列番号1または配列番号2)による切断によって得られるかまたは放出される。
【0034】
したがって、本発明は、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型、すなわち配列番号5、6、7もしくは8を含む融合タンパク質またはそれをコードする核酸に関し、ここで、配列番号9、10、11、12、13、14、15または16の群から選択される少なくとも1つの配列は、認識配列ENLYFQS(配列番号3)またはENLYFQG(配列番号4)におけるTEV(たとえば配列番号1または配列番号2)による切断によって放出される。
【0035】
したがって、本発明は、カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型、すなわち、ENLYFQS(配列番号3)またはENLYFQG(配列番号4)を含む配列番号5、6、7または8の群から選択される少なくとも1つの配列を含む融合タンパク質またはそれをコードする核酸に関する。任意の他の融合タンパク質を対応する方法で(たとえばHISタグなどによって)調製することができ、この試料タグは、任意のペプチド、たとえば50~100アミノ酸に置き換えることができる。
【0036】
当業者は、適切な融合タンパク質を製造および設計することができる(非特許文献6)。実施例も参照のこと。
【0037】
本発明のさらに好ましい実施形態において、がん細胞のアポトーシス抵抗性は、特にSmac/DIABLO(配列番号17)およびXAF1(配列番号18)の群から選択される抗アポトーシスタンパク質のインヒビターと同時にこの融合タンパク質を送達することによって克服される。
【0038】
Smac/DIABLOは、IAP(前出)の活性に拮抗する、すなわちそれを阻害する機能を有する細胞内タンパク質である。さらに、Smac/DIABLOは、プロカスパーゼのタンパク質分解活性化を促進することができるが、成熟カスパーゼの酵素活性も促進することができる。アポトーシス刺激を受けて、Smac/DIABLOは、通例ミトコンドリアから放出される。いずれにせよ、この放出は、多くの場合、がん細胞においてBcl-2によってブロックされる。本発明の他の側面において、サイトゾルにおける直接発現を確実にするために、Smac/DIABLOのミトコンドリア標的配列が除去された。
【0039】
XAF1は、正常組織において遍在的に発現されるが、多くのがんにおいて低レベルかまたは検出不能なレベルで存在する。それはIAPを分解し、Baxの発現を誘導することができる。さらに、XAF1は、カスパーゼを阻害することが公知である亜鉛と結合することができる。
【0040】
さらに好ましい実施形態において、本発明による融合タンパク質は、限定するものではないが、Smac/DIABLO(配列番号17)またはXAF1(配列番号18)などの抗アポトーシスタンパク質を含んでもよい。
【0041】
まさにこのような抗アポトーシスタンパク質を放出するために、
図1に説明的に示したように、融合タンパク質は1以上のTEV認識部位を含んでもよい。このような融合タンパク質の適切な例を配列番号19に示すが、この例においては、1つのプラスミドにたとえばカスパーゼ3、カスパーゼ7、SMAC、XAF1およびTEVが配置され、異なるタンパク質間にTEV認識部位およびリンカー配列が挿入されている。
【0042】
本発明の融合タンパク質または配合剤および薬物は、それらに追加される適切な賦形剤および添加剤を含むことができる。適切な添加剤および/または賦形剤は、たとえば生理食塩水、安定剤、プロテイナーゼ阻害薬、ヌクレアーゼ阻害薬などである。
【0043】
したがって、本発明は、ヒトおよび動物、特に哺乳動物のがんまたは腫瘍性疾患の治療および/または予防における用途または使用のための前述の配合剤または薬物にも関する。
【0044】
別の好ましい実施形態において、本発明の配合剤または薬物は、遺伝子治療プロセスによって投与される。
【0045】
遺伝子治療プロセスは、たとえば本発明の核酸とリポソームとの複合体形成によって得ることができる。この目的に適した脂質混合物は、非特許文献7に記載されている。リポソームが生成されると、DNAはリポソームの表面に正の正味電荷が残存する比率でイオン結合し、DNAはリポソームと完全に複合体を形成する。ポリエチレングリコール(PEG)シェルで立体的に安定化されたリポソームは、単核食細胞系(MPS)による摂取の明確な減少を示し、血液循環時間の大幅な延長、PEG化小胞の凝集の低下およびリポソーム製剤の安定性の改善も示す。PEGと同様に、直鎖および多分岐ポリグリセロール(lPGおよびhbPG)は優れた生体適合性を示すが、官能基の追加によってさらなる誘導体を形成することが可能である。多分岐ポリグリセロール、直鎖多分岐PEG-hbPGブロック共重合体およびPEG-PGランダム共重合体に基づく新規脂質を、コレステロールまたは1,2-ビス-n-アルキルグリセリルエーテルなどの親油性開始剤を用いて、様々なエポキシドモノマーの組み合わせのアニオン重合によって製造した。共脂質(colipid)として1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC:1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)を用いて、リポソーム膜への新規両親媒性構造体の導入に成功した。
【0046】
したがって、本発明は、ビヒクルを用いることによる標的細胞、好ましくは腫瘍細胞への送達を含む遺伝子治療プロセスにも関する。
【0047】
別の実施形態において、このビヒクルは、リポソーム、ナノ粒子またはマイクロ粒子、ウイルス、リポプレックスなどの群から選択することができる(非特許文献8)。
【0048】
特に好ましい実施形態において、本発明のビヒクルは、腫瘍マーカを認識する表面のリガンドを有する。このようなリガンドの例は、腫瘍マーカに結合することができるポリクローナルもしくはモノクローナル抗体または共有結合形成性結合体(covalent binder)(アプタマー)である。
【0049】
最後に、このような提示されている腫瘍マーカは、がん胎児性抗原(CEA)、αフェトプロテイン(AFP)、炭水化物抗原19-9(CA19-9)、がん抗原72-4(CA72-4)、がん抗原125、がん抗原15-3(CA15-3)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、扁平上皮がん抗原(SCC)、サイトケラチンフラグメント(CYFRA)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、前立腺特異抗原(PSA)、ヒトサイログロブリン(HTG)、ムチン様がん関連抗原(MCA)などに限定されないか、または、特にこれらを含むことができる。
図2は、腫瘍マーカの例と、それらが適しているがんとを示す。
【0050】
したがって、本発明は、配列番号5、6、7または8をコードする核酸を含むカスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型ならびにタバコエッチウイルスプロテアーゼ(たとえば配列番号1または配列番号2)をコードする核酸、特に配列番号9、10、11、12、13、14、15または16およびENLYFQS(配列番号3)またはENLYFQG(配列番号4)から選択される少なくとも1つの配列を含む融合タンパク質をコードする核酸を含むカスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の不活性型ならびにタバコエッチウイルスプロテアーゼをコードする核酸が、
i.)少なくとも1つのビヒクルに導入され、
ii.)腫瘍細胞に導入されてそこで発現され、
iii.)カスパーゼ3および/またはカスパーゼ7および/またはカスパーゼ8および/またはカスパーゼ10の活性型を生成し、腫瘍細胞の細胞死を誘導すること
を特徴とする、本発明の薬物または融合タンパク質を導入するためのプロセスにも関する。
【0051】
このプロセスは、前述の他の実施形態に同様に対応させることができる。本発明の薬物、融合タンパク質および、特にそれらのビヒクルは、好ましくはヒトおよび動物に局所的に、たとえば皮下に、投与することができる。もちろん、本発明は腫瘍治療におけるすべての用途を含む。
【0052】
本発明の定義によれば、用語「機能的バリアント」は、本発明のペプチドに機能的に関連するポリペプチドまたは核酸を意味すると理解される。用語「バリアント」は、また、対立遺伝子バリアント、または他の生物、細胞または組織由来のポリペプチドおよび核酸を意味すると理解される。
【0053】
また、より広義には、配列相同性を有するポリペプチドまたは核酸、特に、指定された配列番号との約70%、好ましくは約80%、特に好ましくは約90%、最も好ましくは約95%の配列同一性を有するポリペプチドまたは核酸を意味すると理解される。
【0054】
これは、約1~50、好ましくは約1~30、特に好ましくは約1~15、最も好ましくは約1~6アミノ酸の範囲のポリペプチド欠失も含む。たとえば、最初のアミノ酸は、そのポリペプチドの機能を実質的に変化させることなくメチオニンを欠くことができる。
【0055】
さらに、これは、本発明の上記ポリペプチドを含む融合タンパク質、すなわちそれぞれの配列番号の機能をすでに有する融合タンパク質それ自身または、融合体の一部分の排除後にのみ特定の機能を獲得することができる融合タンパク質も含む。とりわけ、これは、特に非ヒト配列の成分が約1~50、好ましくは約1~30アミノ酸である融合タンパク質を含む。非ヒトペプチド配列の例は、原核生物ペプチド配列、たとえば大腸菌ガラクトシダーゼ由来のペプチド配列または、いわゆるヒスチジンタグ、たとえばMet-Ala-His6タグを有するペプチド配列である。いわゆるヒスチジンタグを有する融合タンパク質が適している特に有利な用途は、金属イオン含有カラム、たとえばNi2+-NTAカラムによる発現タンパク質の精製である。ここで、「NTA」はキレート剤ニトリロ三酢酸(Qiagen社、ヒルデン)を表す。
【0056】
特に、ポリペプチドの該部分は、古典的なペプチド合成(メリフィールド法)を用いて合成することもできる。それらは特に、本発明のポリペプチドの他の機能的バリアントを得るために適切な遺伝子発現ライブラリを検索するのに用いることができる、抗血清を得るのに適している。
【0057】
好ましい実施形態において、各例において前述した本発明の核酸は、DNA、cDNA、またはRNAであり、好ましくは二本鎖DNAであるが、PNAまたはそれに類似したものも考えられる。
【0058】
本発明の核酸は、(発現)ベクター、たとえば構成CMVプロモーターを備えるベクターpcDNA(商標)3.1(Invitrogen社)などによって腫瘍細胞に導入することもできる。
【0059】
本発明の定義によれば、腫瘍、がん、がん細胞および腫瘍細胞という用語は同義語として解釈されるべきである。これらは、あらゆる良性腫瘍または悪性腫瘍を含み、特に、浮腫、急性および慢性の炎症、動脈瘤肥大(拍動性腫瘤)などによるあらゆる局所腫脹ならびに炎症性器官膨張(たとえばいわゆる脾臓腫瘍の場合)ばかりでなく、概して、様々な重症度の特定の細胞機能および組織機能の低下と関係している、様々な程度に抑制解除された身体自身の組織の自然な増殖、自律的増殖および不可逆的な過剰な増殖の形態での組織新生物(増殖、芽細胞腫、新形成)を含む、局所的に組織量が増加した増殖を含む。(非特許文献9を参照のこと)。
図面および説明:
これらの実施例は、本発明を説明するためだけのものであって、本発明をこれらの実施例に限定するものではない。
実施例:
実施例1
実験データ
カスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ10、Smac/DIABOLOおよびXAF1をコードする遺伝子を市販のEGFPプラスミド(pEGFP-N1)にクローニングした。蛍光タンパク質EGFPは、蛍光顕微鏡法によるタンパク質の可視化を可能にする。異なるタンパク質間にTEV認識部位(ENLYFQ/SまたはENLYFQ/A)を挿入した。構造的柔軟性を提供し、それによって切断効率を高めるために、TEV認識部位はグリシン/アラニンリンカー配列に隣接している。たとえば配列番号5~8に示されるように、カスパーゼの天然の切断部位がTEV認識部位に交換された。
【0060】
Fugene6トランスフェクション試薬(Promega社)を用いて、得られたプラスミドを種々の細胞株、たとえばHEKおよびWM35(黒色腫)にトランスフェクトした。トランスフェクションの1日前に、96ウェルプレートの各ウェルに1×104細胞を播種し、トランスフェクションの日にはおおよそ80%のコンフルエンスを達成した。Opti-MEM I(Invitrogen社、カールスルーエ)を含むチューブにFuGene6トランスフェクション試薬を加え、5分間インキュベートした。3:1の試薬対DNA比を用いた。FuGene6トランスフェクション試薬/媒体にプラスミドDNA 100ngを加え、直ちに混合した。室温で15分間インキュベートした後に、8μlのトランスフェクション試料を細胞培養培地に加えた。細胞を蛍光顕微鏡法によって分析した。
【0061】
アポトーシスは、仮足の球形化および収縮、細胞膜破壊ならびにアポトーシス小体の形成によって証明される。
HEK細胞:
アポトーシスは、Cas3-TEV-EGFP、Cas7-TEV-EGFP、Cas3-Cas7-TEV-EGFP、XAF1-Smac-TEV-EGFPおよびCas3-Cas7-Smac-TEV-EGFPによって誘導される。
【0062】
健康細胞において、Smac-TEV-EGFPおよびXAF1-TEV-EGFPはアポトーシスを誘導することができない。
WM35細胞:
単一のタンパク質TEV構築物は部分的にアポトーシスを誘導することができる。
【0063】
組み合わせの構築物であるCas3-Cas7-TEV-EGFP、XAF1-Smac-TEV-EGFPおよびCas3-Cas7-Smac-TEV-EGFPによって、より優れたアポトーシス誘導が起こる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、融合ペプチドの実施形態を示す図である。
【
図2】
図2は、特定のがん疾患の腫瘍マーカを示す図である。
【
図3】
図3は、特定のがん疾患の腫瘍マーカを示す図である。
【配列表】