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特許7185682有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
H04L27/26 320
H04L27/26 111
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020506553
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2019009965
(87)【国際公開番号】W WO2019176931
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】62/642,432
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591128453
【氏名又は名称】株式会社メガチップス
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 泰二
【審査官】玉田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506349(JP,A)
【文献】国際公開第2006/080180(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/064740(WO,A1)
【文献】特開2010-124394(JP,A)
【文献】国際公開第2007/026413(WO,A1)
【文献】特開2019-153898(JP,A)
【文献】SINGH, Shailendra et al.,Adaptive Sub-Carrier Level Power Allocation in OFDMA Networks,IEEE TRANSACTIONS ON MOBILE COMPUTING VOL. 14, NO. 1, JANUARY 2015,IEEE,2014年03月20日,pp.28-41,Internet<URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/6776473>,DOI: 10.1109/TMC.2014.2312716
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
H04B 3/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有線伝送路を介して互いに接続された送信機および受信機、
を備え、
前記受信機は、
第1のサブキャリアの第1のSINR(信号対干渉雑音比:Signal-to-Interference-Plus-Noise Ratio)および第2のサブキャリアの第2のSINRを推定する推定部、
を含み、
前記送信機は、
前記第1のサブキャリアのSINRが、前記第1のSINRよりも大きい第1のMCS(変調符号化方法:Modulation and Coding Scheme)に対応する第1のSINR閾値に到達するように、前記第1のサブキャリアの伝送パワーを増大させるとともに、前記第2のサブキャリアのSINRが、前記第2のSINRよりも小さい第2のMCSに対応する第2のSINR閾値まで低下するように、前記第2のサブキャリアの伝送パワーを削減させるパワー調整部、
を含み、
前記送信機は、前記第1のMCSを前記第1のサブキャリアに割り当て
全周波数領域は、ある周波数領域を境界として、第1周波数領域と第2周波数領域に分割されており、前記第1のサブキャリアは前記第1周波数領域に属し、前記第2のサブキャリアは前記第2周波数領域に属する、有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【請求項2】
前記パワー調整部は、
前記第2のサブキャリアの伝送パワーを削減した後、前記第1のサブキャリアの伝送パワーを増大させることにより、削減した前記第2のサブキャリアの伝送パワーを前記第1のサブキャリアに割り当てる、請求項1に記載の有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【請求項3】
前記パワー調整部は、
複数の前記第2のサブキャリアの伝送パワーを削減させた後、複数の前記第2のサブキャリアの削減させた伝送パワーを積算し、および、1または複数の前記第1のサブキャリアの伝送パワーを増大させることにより、複数の前記第2のサブキャリアの削減させた伝送パワーの積算値を1または複数の前記第1のサブキャリアに割り当てる、請求項1に記載の有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【請求項4】
前記MCSは、256QAM、64QAM、16QAM、QPSKおよびBPSKからなるグループから選択された少なくとも1つの変調符号化方法を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【請求項5】
前記受信機は、
各サブキャリアについて推定されたSINRに基づいて、各サブキャリアに対して目標ビットエラー率(BER:Bit Error Rate)を満たす前記MCSを割り当てる割当部と、
送信機に対して各サブキャリアに割り当てられた前記MCSの割り当て情報を送信する送信部と、
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【請求項6】
前記送信機は、前記第1のサブキャリアの伝送パワーをダイナミックに増大させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【請求項7】
前記送信機は、前記第2のサブキャリアの伝送パワーをダイナミックに減少させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【請求項8】
前記有線伝送路、前記受信機および前記送信機は、自動車または原動機付乗物に搭載される、請求項1~7のいずれか一項に記載の有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有線伝送路を利用する通信システムに関する。詳しくは、有線伝送路を利用するネットワーク環境において、複数のサブキャリアを含むマルチキャリア変調を利用する通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)は、通信チャネルを同じ帯域幅を持つ周波数帯(サブキャリア)に分割して利用する通信技術である。また、OFDMは、高い耐ノイズ性および高伝送速度を実現する技術として知られている。下記特許文献においては、無線OFDMに関する技術が開示されている。
【文献】特開2016-192632号公報
【0003】
伝送特性は一般的に、ノイズ信号、伝送距離、送信機/受信機性能等の影響を受ける。しかしながら、工場自動化システムおよび自動車車載システムにおける有線通信においては、厳しい伝送環境のもとでの安定かつ効率的な伝送特性が要求される。ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)などの自動車車載システムでは、インバータやモータに接続されるハーネスに高出力の電流が流れ、その際に発生する電磁ノイズが、より一層伝送環境を厳しいものとしている。さらに、ハーネス等の有線伝送路に特有の伝送特性の劣化、いわゆる“Suck Out”が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、OFDMの電力スペクトルを示す図である。図1に示すように、OFDMのようなマルチキャリア変調システムにおいては、狭帯域のサブキャリアを複数束ねた帯域を利用した通信が行われる。送信機は、全て同じ伝送パワー(電力パワー)を有するサブキャリアを利用して伝送データを送信する。サブキャリア数の増加に伴って、通信帯域が広帯域化する。一方、図2に示すように、有線伝送路(例えば、ハーネス、ケーブル)の周波数特性は、周波数が高くなるにつれて劣化する。このため、有線伝送路における伝送パワーは、周波数が高くなるにつれてロスが大きくなる。
【0005】
図3は、ハーネスを使用するOFDMの電力スペクトルを示す図である。図1で示したOFDMのサブキャリアが、図2で示した周波数特性を有する有線伝送路で送信された場合、図3に示すように、高周波数帯におけるサブキャリアのSINR(信号対干渉雑音比:Signal-to-Interference-Plus-Noise Ratio)が劣化する。
【0006】
本発明の目的は、有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システムにおいて、有線伝送路の伝送特性に合わせた信号伝送を行うことである。
【0007】
本発明の目的は上記のとおりであるが、本実施の形態における付随的な課題について説明する。図4は、通信装置の受信特性を示す図であり、BPSK(Binary Phase shift Keying)およびQPSK(Quadrature Phase shift Keying)についてSINRとBERとの関係を示す図である。目標BER(ビットエラー率:Bit Error Rate)は、その通信装置に要求される値として設定される。図4に示すように、目標BERを満たすSINRは、MCS(変調符号化方法:Modulation and Coding Scheme)によって異なる。つまり、同じ目標BERを達成するために必要とされるSINRは、BPSKよりもQPSKの方が高くなる。
【0008】
図5は、通信装置Aおよび通信装置Bの受信特性を示す図であり、通信装置Aおよび通信装置Bについて、SINRとBERとの関係を示す図である。図5に示すように、同じMCSを適用した場合であっても、受信特性は通信装置間で異なる。つまり、変調符号化方法として同じBPSKを利用した場合であっても、同じ目標BERを達成するために必要とされるSINRは、通信装置Aよりも通信装置Bの方が高くなる。これは受信特性が、通信装置自身から生じるノイズ値からも影響を受けるからである。
【0009】
SINRが有線伝送路(例えば、ハーネス、ケーブル)の長さ等に基づいて推定される場合、目標BERを満たすMCSは、低い受信特性を有する通信装置に基づいて決定される。図6は、通信装置Aおよび通信装置BについてSINRとBERとの関係を示す図である。図6に示すように、推定されるSINRにおいて、通信装置AのBERは、BPSKだけなく、QPSKにおいても目標BERに到達している。一方、推定されるSINRにおいて、通信装置BのBERは、BPSKにおいては目標BERに到達しているが、QPSKにおいては目標BERに到達できないことが示されている。このような有線伝送路を利用したマルチキャリア変調システムにおいて、通信装置Xが通信装置Aおよび通信装置Bと通信する場合、通信装置Xと通信装置Aとの間の通信、および、通信装置Xおよび通信装置Bとの間の通信は、通信装置Xが通信装置A,Bの受信性能を事前に分からないため、受信特性の低い通信装置Bに基づいてBPSKが選択される。つまり、通信装置Xは、通信装置Aとの間ではQPSKによる通信が可能であるにも関わらず、受信特性の低い通信装置Bに合わせてBPSKを用いた通信を行う。
【0010】
本実施の形態の付随的な目的は、有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システムにおいて、各通信装置の受信特性を有効に利用することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一局面に従う有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システムは、有線伝送路を介して互いに接続された送信機および受信機を備え、受信機は、第1のサブキャリアの第1のSINRおよび第2のサブキャリアの第2のSINRを推定する推定部を含み、送信機は、第1のサブキャリアのSINRが、第1のSINRよりも大きい第1のMCSに対応する第1のSINR閾値に到達するように、第1のサブキャリアの伝送パワーを増大させるとともに、第2のサブキャリアのSINRが、第2のSINRよりも小さい第2のMCSに対応する第2のSINR閾値まで低下するように、第2のサブキャリアの伝送パワーを削減させるパワー調整部を含み、送信機は第1のMCSを第1のサブキャリアに割り当てる。
【0012】
ここでSINR閾値とは、図18に示すBPSKのSINR閾値、QPSKのSINR閾値等の事である。BPSK、QPSKなど各MCSには、各MCSを割当てた場合に期待されるBERを得る事が出来るSINRの範囲がある。図18におけるBPSKを割当てた場合に期待のBERを得られるSINRの範囲はBPSKのSINR閾値とQPSKのSINR閾値の間である。それぞれのMCSに対応するSINR閾値とはその範囲の下限を表す。
【0013】
有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システムにおいて、有線伝送路の伝送特性に合わせた信号伝送を行うことができる。
【0014】
(2)パワー調整部は、第2のサブキャリアの伝送パワーを削減した後、第1のサブキャリアの伝送パワーを増大させることにより、削減した第2のサブキャリアの伝送パワーを第1のサブキャリアに割り当ててもよい。これにより、第2のサブキャリアで削減した伝送パワーを有効に利用することができる。
【0015】
(3)パワー調整部は、複数の第2のサブキャリアの伝送パワーを削減させた後、複数の第2のサブキャリアの削減させた伝送パワーを積算し、および、1または複数の第1のサブキャリアの伝送パワーを増大させることにより、複数の第2のサブキャリアの削減させた伝送パワーの積算値を1または複数の第1のサブキャリアに割り当ててもよい。これにより、第2のサブキャリアで削減した伝送パワーを有効に利用することができる。送信総電力の規格の範囲内で伝送パワーを有効に利用することができる。
【0016】
(4)MCSは、256QAM、64QAM、16QAM、QPSKおよびBPSKからなるグループから選択された少なくとも1つの変調符号化方法を含んでもよい。
【0017】
(5)受信機は、各サブキャリアについて推定されたSINRに基づいて、各サブキャリアに対して目標ビットエラー率を満たすMCSを割り当てる割当部と、送信機に対して各サブキャリアに割り当てられたMCSの割り当て情報を送信する送信部とを含んでもよい。
【0018】
受信機において各サブキャリアへのMCS割当てを行うことで、受信機それぞれの性能差も考慮した最適なMCS割当て制御が可能となる。有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システムにおいて、各通信装置の受信特性を有効に利用することができる。
【0019】
(6)送信機は、第1のサブキャリアの伝送パワーをダイナミックに増大させてもよい。伝送特性に応じてダイナミックに伝送パワーを調整させることができる。
【0020】
(7)送信機は、第2のサブキャリアの伝送パワーをダイナミックに減少させてもよい。伝送特性に応じてダイナミックに伝送パワーを調整させることができる。
【0021】
(8)有線伝送路、受信機および送信機は、自動車または原動機付車両に搭載されてもよい。例えばマルチキャリア変調を利用する車載システムにおいて、有線伝送路の伝送特性に合わせた信号伝送を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システムにおいて、有線伝送路の伝送特性に合わせた信号伝送を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、OFDMの電力スペクトルを示す図である。
図2図2は、ハーネスの周波数特性を示す図である。
図3図3は、ハーネスを使用するOFDMの電力スペクトルを示す図である。
図4図4は、BPSKおよびQPSKについてSINRとBERとの関係を示す図である。
図5図5は、通信装置Aおよび通信装置BについてSINRとBERとの関係を示す図である。
図6図6は、通信装置Aおよび通信装置BについてSINRとBERとの関係を示す図である。
図7図7は、車両に搭載された通信システムを示す図である。
図8図8は、通信システムが備えるユニットのブロック図である。
図9図9は、実施の形態に係る通信システムが備えるOFDM通信装置のブロック図である。
図10図10は、SINR解析/適応変調制御部の処理内容を示すフローチャートである。
図11図11は、フレームデータ割当部の処理内容を示すフローチャートである。
図12図12は、パワー調整/MCS割当情報抽出部の処理内容を示すフローチャートである。
図13図13は、送信パワー/MCS制御部の処理内容を示すフローチャートである。
図14図14は、SINR閾値とサブキャリアごとのSINRとのギャップを示す図である。
図15図15は、サブキャリアごとに伝送パワーの増大および削減を行った後のSINRを示す図である。
図16図16は、サブキャリアごとに伝送パワーの増大および削減を行った後のMCSの割当を示す図である。
図17図17は、OFDM通信装置をソフトウェアにより構成した実施の形態のブロック図である。
図18図18は、各MCSのSINR閾値を示す図である。
図19図19は、サブキャリアごとの伝送パワーの増大および削減を行った後のMCSの割当を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[1]通信システムの全体構成
本実施の形態の通信システムは、有線伝送路およびマルチキャリア変調を利用する通信システムである。
【0025】
図7は、本実施の形態の通信システム50が搭載された車両5を示す図である。通信システム50は、電子制御ユニット(ECU)51A,51B、カメラユニット52A,52B,52Cおよび52D、液晶ユニット53A,53Bおよび53C、並びに、スピーカユニット54Aおよび54Bを備える。
【0026】
これら各ユニット51A,51B、52A~52D、53A~53C、54Aおよび54Bは、全て、有線伝送路101によって接続される。有線伝送路101としては、例えば、IEEE802.3の規格に基づくSTPやUTPを用いたイーサネットケーブルが用いられる。また、各ユニット51A,51B、52A~52D、53A~53C、54Aおよび54Bは、マルチキャリア変調を行うOFDM(orthogonal frequency-division multiplexing)伝送方式を利用するOFDM通信装置を備える。
【0027】
図8は、本実施の形態に係る通信システム50において、電子制御ユニット51Aおよびカメラユニット52Aの間の通信形態を示す図である。電子制御ユニット51Aは、ECU基板511を備える。ECU基板511には、OFDM通信装置100が実装されている。カメラユニット52Aは、カメラ制御基板521を備える。カメラ制御基板521には、OFDM通信装置100が実装されている。このように、電子制御ユニット51Aおよびカメラユニット52Aは、いずれもOFDM通信装置100を備える。電子制御ユニット51Aおよびカメラユニット52Aは、有線伝送路101で接続される。図7に示した他のユニットも、全て、OFDM通信装置100を備えており、有線伝送路101を介したOFDM伝送を行う。このように、本実施の形態の通信システム50は、有線伝送路101およびマルチキャリア変調を利用する。具体的には、本実施の形態の通信システム50は、車載ネットワークにおいてOFDM通信を利用する。
【0028】
この後説明するように、本実施の形態においては受信機として動作するOFDM通信装置100が、有線伝送路101を介して、SINR(信号対干渉雑音比:Signal-to-Interference-Plus-Noise Ratio)閾値との差分情報、および、MCS(変調符号化方法:Modulation and Coding Scheme)割当情報を、送信機として動作するOFDM通信装置100に送信する。送信機として動作するOFDM通信装置100は、受信したSINR閾値との差分情報に基づいて、各サブキャリアの伝送パワーを調整する。また、送信機として動作するOFDM通信装置100は、受信したMCS割当情報に基づいて、各サブキャリアに指定されたMCSを割り当てる。
【0029】
[2]OFDM通信装置の全体構成および動作の流れ
図9は、実施の形態に係る通信システム50で用いられるOFDM通信装置100のブロック図である。OFDM通信装置100は、有線伝送路101を介して、図示しない通信相手の装置に接続される。通信相手の装置は、OFDM通信装置100と同様の構成および機能を有する。つまり、図8で示したように、OFDM通信装置100同士が通信を行う。
【0030】
OFDM通信装置100の全体構成について説明する。OFDM通信装置100は、ハイブリッドユニット102、復調部103、OFDMデータ抽出部104、フレームデータ抽出部105、送信パワー/MCS制御部106、パワー調整/MCS割当情報抽出部107、SINR解析/適応変調制御部108、フレームデータ割当部110、OFDMデータ割当部111、変調部112、タイミング生成部113、および、上位レイヤ120を備える。これら機能部102~108,110~113および120は、ハードウェアによって構成されている。ただし、後で説明するように、これら機能部の一部または全部がソフトウェアにより実現されていてもよい。
【0031】
ハイブリッドユニット102は、有線伝送路101を介して、通信相手のOFDM通信装置100にOFDM信号を送信する。ハイブリッドユニット102は、有線伝送路101を介して、通信相手のOFDM通信装置100から、OFDM信号を受信する。ハイブリッドユニット102は、送信信号を重畳する処理、および、受信信号を分割する処理を行う。復調部103は、タイミング生成部113により生成されるタイミング情報に基づいて、ハイブリッドユニット102から出力された受信信号からOFDM受信信号を復調する。復調部103は、FFT(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)を実行することにより、OFDM受信信号を復調する。OFDMデータ抽出部104は、OFDM受信信号からサブキャリアの情報を抽出する。OFDMデータ抽出部104において抽出されたサブキャリアの情報は、SINR解析/適応変調制御部108に与えられる。また、フレームデータ抽出部105は、フレームデータと制御フレームを抽出する。
【0032】
フレームデータ抽出部105においてサブキャリアの情報から抽出されたフレームデータは、上位レイヤ120に与えられる。上位レイヤ120は、フレームデータを受け取り、各種のアプリケーション処理を実行する。フレームデータ抽出部105において抽出された制御フレームは、また、パワー調整/MCS割当情報抽出部107に与えられる。
【0033】
パワー調整/MCS割当情報抽出部107は、フレームデータ抽出部105において抽出された制御フレームから、SINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を抽出する。SINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報は、通信相手のOFDM通信装置100によって制御フレームに格納された情報である。SINR閾値との差分情報は、伝送パワーの調整のために利用される。パワー調整/MCS割当情報抽出部107の処理内容は後で詳細に説明する。
【0034】
送信パワー/MCS制御部106は、フレームデータがサブキャリアに割当てられて変調符号化されるときに、サブキャリアの伝送パワー(電力パワー)を制御する。送信パワー/MCS制御部106の処理内容は後で詳細に説明する。
【0035】
SINR解析/適応変調制御部108は、OFDM受信信号からSINRを解析する。SINRは、受信信号の品質を示し、干渉およびノイズにより劣化する性質を有する。SINR解析/適応変調制御部108は、サブキャリアごとのSINR閾値と受信SINRとの差分を算出する。また、SINR解析/適応変調制御部108は、相手の通信装置(OFDM通信装置100)に推奨するMCSを決定する。相手の通信装置に(OFDM通信装置100)に推奨するMCSは、MCS割当情報として生成される。SINR解析/適応変調制御部108の処理内容は後で詳細に説明する。
【0036】
フレームデータ割当部110は、SINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を制御データに変換する。フレームデータ割当部110は、変換した制御データを制御フレームに格納し、サブキャリアに割り当てる。OFDMデータ割当部111は、フレームデータ割当部110から出力されたサブキャリア情報を変調符号化することにより、OFDM送信信号を生成する。変調部112は、タイミング生成部113により生成されたタイミング情報に基づき、OFDM送信信号を変調する。変調部112は、IFFT(逆高速フーリエ変換:Inverse Fast Fourier Tranform)を実行することにより、OFDM送信信号を変調する。変調されたOFDM送信信号は、有線伝送路101を介して相手の通信端末であるOFDM通信装置100に送信される。
【0037】
一方、相手の通信端末であるOFDM通信装置100も同様の処理を実行する。相手の通信端末であるOFDM通信装置100は、上述した方法と同様の方法で、SINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報をOFDM送信信号に格納する。また、相手の通信端末であるOFDM通信装置100は、SINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を格納したOFDM信号を送信する。
【0038】
[3]SINR解析/適応変調制御部の処理の流れ
図10は、SINR解析/適応変調制御部108において実行される処理の内容を示すフローチャートである。SINR解析/適応変調制御部108は、OFDMデータ抽出部104において抽出された受信パイロット信号の情報を取得する。そして、SINR解析/適応変調制御部108は、受信パイロット信号に基づいて全サブキャリアに関する受信SINRを推定する(ステップS101)。つまり、SINR解析/適応変調制御部108は、各サブキャリアに関する推定SINRを算出する。OFDM受信信号の全サブキャリアには、既知のパイロット信号が埋め込まれている。SINR解析/適応変調制御部108は、受信パイロット信号の位相振幅を、既知の位相振幅と比較することにより、全サブキャリアについて受信SINRを推定することができる。
【0039】
次に、SINR解析/適応変調制御部108は、ステップS101で求めた受信SINRを基準に、既知の自端末の受信特性に基づき各サブキャリアに割り当てるMCSを決定する(ステップS102)。SINR解析/適応変調制御部108は、図4で示したような自端末におけるSINRと目標BERとの対応テーブルを有している。この対応テーブルは、自端末の受信特性を表す。また、目標BERは、予めSINR解析/適応変調制御部108に設定される。SINR解析/適応変調制御部108は、対応テーブルおよび与えられた目標BERを参照することにより、各サブキャリアについて、適応可能なMCSを決定することができる。具体的には、ステップS101で求めた受信SINR(推定SINR)において、目標BERを満たすMCSがサブキャリアごとに決定される。SINR解析/適応変調制御部108は、サブキャリアごとに、目標BERを満たすMCSを決定し、MCS割当情報を生成する。
【0040】
次に、SINR解析/適応変調制御部108は、各サブキャリアについて、ステップS102で割り当てられたMCSに要求されるSINR閾値とステップS101で推定した受信SINRとの差分を算出する。また、SINR解析/適応変調制御部108は、各サブキャリアについて、ステップS102で割り当てられたMCSから、1つ上のMCSに切り替わるSINR閾値とステップS101で推定した受信SINRとの差分を算出する(ステップS103)。
【0041】
図14は、SINR閾値とサブキャリアごとの受信SINRとのギャップを示す図である。図14に示すOFDM受信信号のサブキャリアのうち、周波数領域SAに属するサブキャリアは、受信SINRが、64QAM(64 Quadrature Amplitude Modulation)のSINR閾値を上回っている。しかし、周波数領域SAに属するサブキャリアは、受信SINRが、256QAM(256 Quadrature Amplitude Modulation)のSINR閾値を下回っている。したがって、SINR解析/適応変調制御部108は、ステップS102において、周波数領域SAに属するサブキャリアのMCSとして、64QAMの割当を決定する。
【0042】
図14に示すOFDM受信信号のサブキャリアのうち、周波数領域SBに属するサブキャリアは、受信SINRが、QPSK(Quadrature Phase shift Keying)のSINR閾値を上回っている。しかし、周波数領域SBに属するサブキャリアは、受信SINRが、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)のSINR閾値を下回っている。したがって、SINR解析/適応変調制御部108は、ステップS102において、周波数領域SBに属するサブキャリアのMCSとして、QPSKの割当を決定する。同様の方法で、周波数領域SBよりも高周波の領域のサブキャリアには、MCSとして、BPSK(Binary Phase shift Keying)が割り当てられる。
【0043】
そして、上述したように、SINR解析/適応変調制御部108は、ステップS102で割り当てられたMCSに要求されるSINR閾値とステップS101で求めた受信SINRとの差分を算出する。例えば、図14におけるギャップGBは、周波数領域SBにおけるサブキャリアに割り当てられたQPSKのSINR閾値と受信SINRとの差分を示す。
【0044】
また、上述したように、SINR解析/適応変調制御部108は、ステップS102で割り当てられたMCSから、1つ上のMCSに切り替わるSINR閾値とステップS101で求めた受信SINRとの差分を算出する。例えば、図14におけるギャップGAは、周波数領域SAにおけるサブキャリアに割り当てられた64QAMから1つ上のMCSである256QAMのSINR閾値と受信SINRとの差分を示す。
【0045】
なお、図14においては、周波数領域SAについては、ステップS102で割り当てられたMCS(つまり、64QAM)に要求されるSINR閾値とステップS101で求めた受信SINRとの差分を図示していないが、周波数領域SAについても同様に、当該差分が求められる。また、図14においては、周波数領域SBについては、ステップS102で割り当てられたMCSから、1つ上のMCS(つまり、16QAM)に切り替わるSINR閾値とステップS101で求めた受信SINRとの差分を図示していないが、周波数領域SBについても同様に、当該差分が求められる。つまり、全てのサブキャリアについて、割り当てられたMCSに要求されるSINR閾値と受信SINRとの差分、および、1つ上のMCSに切り替わるSINR閾値と受信SINRとの差分が求められる。
【0046】
次に、SINR解析/適応変調制御部108は、全サブキャリアについて、ステップS103の算出が行われたか否かを判定する(ステップS104)。全てのサブキャリアについてステップS103の算出が行われていない場合、ステップS101に戻り、次のサブキャリアについて、ステップS101~ステップS103の処理を実行する。全てのサブキャリアについてステップS103の算出が行われた場合、SINR解析/適応変調制御部108における処理は、ステップS105に移行する。
【0047】
次に、SINR解析/適応変調制御部108は、ステップS102で決定されたMCS割当情報、および、ステップS103で算出したSINR閾値との差分情報を、各サブキャリアの情報としてフレームデータ割当部110に与える。SINR閾値との差分情報は、上述したように、割り当てられたMCSに要求されるSINR閾値と受信SINRとの差分、および、1つ上のMCSに切り替わるSINR閾値と受信SINRとの差分を含む。
【0048】
[4]フレームデータ割当部の処理の流れ
次に、フレームデータ割当部110の処理の内容について説明する。図11は、フレームデータ割当部110において実行される処理の内容を示すフローチャートである。フレームデータ割当部110は、SINR解析/適応変調制御部108から、SINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を取得する(ステップS201)。フレームデータ割当部110は、取得したSINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を、制御フレームに格納する(ステップS202)。フレームデータ割当部110は、上位レイヤから取得したデータと、SINR閾値との差分情報およびMCS割当情報が格納された制御フレームとを含むフレームデータを生成する。フレームデータ割当部110は、フレームデータを、各サブキャリアに割り当てる。フレームデータ割当部110は、サブキャリア情報を、OFDMデータ割当部111に出力する。
【0049】
OFDM割当部111は、フレームデータが割り当てられた各サブキャリアを、送信パワー/MCS制御部106により取得したMCS割当情報に基づいて、指定されたMCSで変調符号化する。これにより、フレームデータ割当部110により制御フレームに格納されたSINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報は、OFDM割当部111において変調符号化される。サブキャリアに割り当てられ、指定されたMCSで変調符号化された制御フレームは、変調部112において変調された後、OFDM信号として送信される。このようにして、受信機として機能するOFDM通信装置100から、送信機として機能するOFDM通信装置100に対して、SINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報が送信される。
【0050】
送信されたOFDM信号は、送信機として機能するOFDM通信装置100において受信される。そして、OFDM信号に含まれる制御フレームは、フレームデータ抽出部105において抽出され、パワー調整/MCS割当情報抽出部107に出力される。このように、受信機として機能するOFDM通信装置100のSINR解析/適応変調制御部108において算出されたSINR閾値との差分情報、および、決定されたMCS割当情報は、送信機として機能するOFDM通信装置100のパワー調整/MCS割当情報抽出部107において抽出される。
【0051】
[5]パワー調整/MCS割当情報抽出部の処理の流れ
次に、パワー調整/MCS割当情報抽出部107の処理の内容について説明する。図12は、パワー調整/MCS割当情報抽出部107において実行される処理の内容を示すフローチャートである。パワー調整/MCS割当情報抽出部107は、フレームデータ抽出部105がOFDM受信信号から抽出した制御フレームを取得する。そして、パワー調整/MCS割当情報抽出部107は、通信相手の装置であるOFDM通信装置100が格納した各サブキャリアのSINR閾値との差分情報、および、各サブキャリアのMCS割当情報を、受信した制御フレームから抽出する(ステップS301)。つまり、上述したように、受信機として機能するOFDM通信装置100のSINR解析/適応変調制御部108において算出されたSINR閾値との差分情報、および、決定されたMCS割当情報が、送信機として機能するOFDM通信装置100において取得される。
【0052】
次に、パワー調整/MCS割当情報抽出部107は、ステップS301で抽出したSINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を送信パワー/MCS制御部106に与える(ステップS302)。パワー調整/MCS割当情報抽出部107は、ステップS302の処理を全てのサブキャリアについて実行する。パワー調整/MCS割当情報抽出部107は、全サブキャリアについてSINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を抽出したか否かを判定する(ステップS303)。全てのサブキャリアについてのSINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を抽出していない場合は、ステップS301に戻り、次のサブキャリアについてステップS301~S302の処理を繰り返す。全てのサブキャリアについてのSINR閾値との差分情報、および、MCS割当情報を抽出している場合には、処理を終了する。
【0053】
[6]送信パワー/MCS制御部の処理の流れ
次に、送信パワー/MCS制御部106の処理の内容について説明する。図13は、送信パワー/MCS制御部106において実行される処理の内容を示すフローチャートである。送信パワー/MCS制御部106は、パワー調整/MCS割当情報抽出部107から取得したMCS割当情報に基づき、各サブキャリアにMCSを割り当てる。具体的には、送信パワー/MCS制御部106は、OFDMデータ割当部111に対して、MCS割当情報を与えて、各サブキャリアにMCSを設定する。つまり、受信機として機能するOFDM通信装置100において格納されたMCS割当情報に従って、送信機として機能するOFDM通信装置100において、サブキャリアごとのMCSが割り当てられる。また、送信パワー/MCS制御部106は、上位レイヤから受け取ったデータをどのようにサブキャリアに割り当てるかを、フレームデータ割当部110へ指示する(ステップS401)。フレームデータ割当部110は、送信パワー/MCS制御部106の指示に基づき、上位レイヤから受け取ったデータを各サブキャリアに割り当てる。
【0054】
送信パワー/MCS制御部106は、全サブキャリアについてデータの割当処理が実行されたかを判定する(ステップS402)。全てのサブキャリアについてデータの割当処理が完了していない場合には、ステップS401に戻り、次のサブキャリアについてステップS401の処理を繰り返す。全てのサブキャリアについてデータの割当処理が完了した場合、送信パワー/MCS制御部106の処理はステップS403に移行する。
【0055】
次に、送信パワー/MCS制御部106は、サブキャリアごとにステップS403~S406の処理を実行する。まず、送信パワー/MCS制御部106は、処理対象のサブキャリアに低MCSが割り当てられるか否かを判定する(ステップS403)。
【0056】
ここで、低MCSとは、符号化率の低いMCSである。例えば、MCSが、256QAM、64QAM、16QAM、QPSKおよびBPSKの5つの符号化方法を含んでいる場合、低MCSは、QPSKおよびBPSK等を示す。いずれのMCSを低MCSに区分するかは、ユーザにより設定可能とすればよい。あるいは、注水定理により、全てのMCSから低MCSを決めることも可能である。
【0057】
次に、送信パワー/MCS制御部106は、パワー調整/MCS割当情報抽出部107から取得したSINR閾値からの差分情報に基づいて、差分情報に対応する伝送パワーを、低MCSが割り当てられたサブキャリアの伝送パワーから削減する(ステップS404)。
【0058】
図15は、サブキャリアごとに伝送パワーの増大および削減を行った後のSINRを示す図である。図15において、周波数領域SBのサブキャリアの伝送パワーは、差分情報に対応する伝送パワーが削減された状態を示す。図14における周波数領域SBのサブキャリアは、伝送パワーが削減される前の状態を示し、図15における周波数領域SBのサブキャリアは、伝送パワーが削減された後の情報を示す。このように、周波数領域SBのサブキャリアについては、割り当てられたMCSであるQPSKに要求されるSINR閾値まで伝送パワーを削減させる。つまり、図14に示した状態では、周波数領域SBについては、割り当てられたMCSであるQPSKに要求されるSINR閾値と受信SINRとの差だけ伝送パワーが無駄となっている。そこで、図15で示すように、割り当てられたMCSであるQPSKに要求されるSINR閾値まで伝送パワーを削減させることで、伝送パワーを別のサブキャリアに割り振ることが可能となる。
【0059】
次に、送信パワー/MCS制御部106は、ステップS404で削減させたサブキャリアごとの伝送パワーを積算する(ステップS405)。送信パワー/MCS制御部106は、全サブキャリアについて、処理を終了したか否かを判定する(ステップS406)。全てのサブキャリアについて処理が終わっていない場合、ステップS403に戻り、次のサブキャリアについて処理を実行する。そして、次の処理対象のサブキャリアについて低MCSが割り当てられている場合には、伝送パワーの削減を行い、ステップS404において削減させた伝送パワーの積算を繰り返す。全サブキャリアについて処理が終了した場合には、送信パワー/MCS制御部106の処理はステップS407に移行する。
【0060】
次に、送信パワー/MCS制御部106は、サブキャリアごとにステップS407~S409の処理を実行する。まず、送信パワー/MCS制御部106は、処理対象のサブキャリアに高MCSが割り当てられるか否かを判定する(ステップS407)。
【0061】
ここで、高MCSとは、符号化率の高いMCSである。例えば、MCSが、256QAM、64QAM、16QAM、QPSKおよびBPSKの5つの符号化方法を含んでいる場合、高MCSは、256QAM、64QAMおよび16QAM等を示す。いずれのMCSを高MCSに区分するかは、ユーザにより設定可能とすればよい。あるいは、上述したように、注水定理により、全てのMCSから高MCSおよび低MCSを決めることも可能である。
【0062】
次に、送信パワー/MCS制御部106は、ステップS405で求めた削減された伝送パワーの積算値を、高MCSが割り当てられているサブキャリアに分配する(ステップS408)。
【0063】
図15は、サブキャリアごとに伝送パワーの増大および削減を行った後のSINRを示す図である。図15において、周波数領域SAのサブキャリアは、差分情報に対応する伝送パワーが増大された様子を示す。図14における周波数領域SAのサブキャリアは、伝送パワーが増大される前の状態を示し、図15における周波数領域SAのサブキャリアは、伝送パワーが増大された後の情報を示す。このように、周波数領域SAのサブキャリアについては、割り当てられたMCSである64QAMから1つ上のMCSである256QAMのSINR閾値まで伝送パワーを増大させる。これにより、高SINRである周波数領域では、より符号化の高い通信を行うことを可能としている。
【0064】
送信パワー/MCS制御部106は、全サブキャリアについて、処理を行ったか否かを判定する(ステップS409)。全てのサブキャリアについて処理が終わっていない場合、ステップS407に戻り、次のサブキャリアについて処理を実行する。そして、次の処理対象のサブキャリアについて高MCSが割り当てられている場合には、伝送パワーの増大を行う。全サブキャリアについて処理が終了した場合には、送信パワー/MCS制御部106の処理は終了する。
【0065】
図16は、サブキャリアごとに伝送パワーの増大および削減を行った後のMCSの割当を示す図である。図16の例では、16QAM、QPSKおよびBPSKが低MCSとして処理された状態を示す。図16においては、低MCSである16QAM、QPSKおよびBPSKにおいて伝送パワーの削減を行っている。つまり、16QAM、QPSKおよびBPSKにおいては、割り当てられたMCSに要求されるSINR閾値まで伝送パワーを削減させている。図14において、周波数領域SLで示されるサブキャリアは、低MCSとして処理され、差分情報に対応する伝送パワーが削減される。そして、周波数領域SLで示されるサブキャリアにおいて削減された伝送パワーの積算値が、高MCSに割り当てられる。なお、図16で示した例では、図14で示した16QAMが割当てられたサブキャリアのうちの一部のサブキャリアが低MCSとして処理されている。つまり、16QAMに割当てられたサブキャリアの周波数帯の中に高MCSと低MCSとの境界が設けられている場合を例に挙げている。
【0066】
図16においては、高MCSである64QAM以上では伝送パワーの増大を行っている。図16において、周波数領域SHで示されるサブキャリアは、高MCSとして処理され、差分情報に対応する伝送パワーが増大される。なお、送信総電力の規定がある場合には、周波数領域SHにおいては、周波数領域SLにおいて削減された伝送パワーの積算値だけ伝送パワーを増大させることができる。周波数領域SHにおいて、いずれのサブキャリアに優先して伝送パワーを割り当てるかは、適宜、ユーザにより設定可能とすればよい。なお、図16で示した例では、図14で示した16QAMが割当てられたサブキャリアのうちの一部のサブキャリアが高MCSとして処理されている。上述したように、図16の例では、16QAMに割当てられたサブキャリアの周波数帯の中に高MCSと低MCSとの境界が設けられている。
【0067】
図19は、図14で示されるサブキャリアの伝送パワーを、図16とは異なる周波数領域を境界として、伝送パワーの増大および削減を行った後のMCSの割り当てを示す図である。図19は、元々割当てられたMCS単位で高MCSと低MCSに割り振られる例を示している。図19の例では、周波数領域SLで示されるサブキャリアは、低MCSとして処理され、差分情報に対応する伝送パワーが削減される。一方、周波数領域SHで示されるサブキャリアは、高MCSとして処理され、差分情報に対応する伝送パワーが増大される。具体的には、図14において、16QAMが割当てられるサブキャリア、つまり、SINRが16QAMの閾値と64QAMの閾値の間の値をとるサブキャリアの伝送パワーが削減されている。なお、図13で示すフローチャートの処理は、図19で示す伝送パワーの増大、削減を行う実施例である。
【0068】
このように、送信パワー/MCS制御部106は、ステップS401において、まず、取得したMCS割当情報に基づいて、サブキャリアごとのMCSを決定する。つまり、受信機として機能するOFDM通信装置100において推奨されたMCS割当情報に基づいて、サブキャリアごとのMCSを決定する。送信パワー/MCS制御部106は、さらに、ステップS408において、高MCSについては伝送パワーを増大させる。これにより、送信パワー/MCS制御部106は、高MCSについては、受信機として機能するOFDM通信装置100において推奨されたMCS割当情報で指定されたMCSから1つ上のレベルのMCSを割り当てる。
【0069】
[7]実施の形態の通信システムのまとめ
以上説明した本実施の形態に係る通信システム50におけるサブキャリアの伝送パワー(電力パワー)調整および適応変調の要点は以下のとおりである。以下の(A)サブキャリアの伝送パワーの調整、(B)SINR適応、および、(C)ダイナミックAMC適応は、単独あるいは複合的に実行される。
【0070】
(A)サブキャリアの伝送パワーの調整
<a>受信機は第1のMCSに対応する第1のSINR閾値よりも小さい第1のSINRを有する第1のサブキャリアを検知する。
<b>受信機は第2のMCSに対応する第2のSINR閾値よりも大きい第2のSINRを有する第2のサブキャリアを検知する。
<c>送信機は第1のSINRが第1のSINR閾値に到達するように、第1のサブキャリアに対する伝送パワーを増大させる。
<d>送信機は第2のSINRが第2のSINR閾値に低下するように、第2のサブキャリアに対する伝送パワーを削減させる。
<e>送信機は第1のサブキャリアに第1のMCSを割り当てる。
【0071】
ここで、第1(第2)のMCSに対応する第1(第2)のSINR閾値とは、第1(第2)のMCSでマルチキャリア変調を利用した通信を行った場合に、与えられた目標BERを満たすためのSINRの閾値である。
【0072】
上記の手続き<c>において、第1のサブキャリアの周波数は、第2のサブキャリアの周波数よりも小さい。反対に、第1のサブキャリアの周波数は、第2のサブキャリアの周波数よりも大きくてもよい。
【0073】
そして、上記の実施の形態においては、まず、<d>のプロセスを行うことによって第2のサブキャリアの伝送パワーを削減させている。続いて、<c>のプロセスを行うことによって第1のサブキャリアの伝送パワーを増大させている。このとき、第2のサブキャリアの伝送パワーを削減させることによって、余った伝送パワーが第1のサブキャリアに割り当てられる。第2のサブキャリアとして、複数のサブキャリアの伝送パワーを削減させた場合には、それら削減された伝送パワーが積算される。そして、積算された伝送パワーが第1のサブキャリアの伝送パワーに割り当てられる。第1のサブキャリアとして複数のサブキャリアの伝送パワーが増大される場合には、これら複数のサブキャリアに積算された伝送パワーが割り振られる。これにより、送信総電力の規定がある場合であっても、送信総電力の範囲内で低MCSと高MCSの伝送パワーを調整することができる。
【0074】
各MCSは、所望の伝送特性を満たす目標BERを達成するSINRの下限値(SINR閾値)を必要とする。有線伝送路の周波数の変化により、殆どのサブキャリアのSINRは、適用されているMCSに対応するSINR閾値からのギャップを有している。受信機は、各サブキャリアについて、実際のSINR(受信SINR)とSINR閾値との間のギャップを算出する。そして、送信機は、高い処理能力のあるMCSが高い受信特性を有するサブキャリアに割り当てられるように、伝送パワーの増大あるいは削減をさせることによって各サブキャリアにおけるギャップを再分配する。これにより、適用されているMCSが1段上のMCSにレベルアップされる(例えば64QAMから256QAMへのレベルアップ)。結果として、高い伝送特性が実現される。
【0075】
上述したように、どのサブキャリアを低MCSとして伝送パワーを削減し、どのサブキャリアを高MCSとして伝送パワーを増大させるかの判断は、ユーザにより設定可能とすればよい。ユーザは、例えば、256QAMおよび64QAMを高MCSとして設定し、16QAM、QPSKおよびBPSKを低MCSとして設定する。あるいは、ユーザは、256QAM、64QAMおよび16QAMを高MCSとして設定し、QPSKおよびBPSKを低MCSとして設定する。これらは一例であり、ユーザは自由に高MCSと低MCSの境界を設定することができる。
【0076】
電力の配分方法としては、各通信装置の通信品質(例えばSINR)の逆数に応じて電力を配分することで最大のチャネル容量が得られる注水定理が知られている。つまり、低MCSにおいて削減される伝送パワーの積算値が、高MCSに割り当てられることによって、伝送効率が最適化されるように、注水定理を利用して高MCSと低MCSが判定されてもよい。
【0077】
また、本実施の形態においては、MCSとして、256QAM、64QAM、16QAM、QPSKおよびBPSKを例に挙げているが、これは一例であり、他のMCSを利用することももちろん可能である。
【0078】
(B)SINR適応
<a>受信機がサブキャリアごとのSINRを推定する。
<b>受信機がサブキャリアごとに適切なMCSを割り当てる。
<c>受信機が送信機に割り当てたMCSの情報を送信する。
【0079】
受信機として機能するOFDM通信装置100は、サブキャリアごとのSINRを推定する。そして、受信機として機能するOFDM通信装置100は、自端末の既知の受信特性に基づいて、サブキャリアごとに目標BERを満たすMCSを割り当てる。OFDM通信装置100は、MCS割当情報を、送信機として機能するOFDM通信装置100に送信する。これにより、送信機として機能するOFDM通信装置100は、受信したMCS割当情報に基づいて、サブキャリアごとのMCSを設定する。これにより、OFDM通信装置100間では、受信SINRに応じた最適なMCSが決定される。複数のOFDM通信装置100が通信を行っている場合であって、実際に通信を行う2つのOFDM通信装置100間のSINRに基づいて最適なMCSが決定される。通信システム50内に、受信特性が悪く、SINRが低いOFDM通信装置100が存在した場合であっても、通信システム50全体に、その低いSINRが影響することがない。
【0080】
(C)ダイナミックAMC(適応変調符号:Adaptive Modulation and Coding)
受信機として機能するOFDM通信装置100は、自装置(OFDM通信装置100)の受信特性、および/または、有線伝送路101の周波数特性の変化に応じて、伝送パワーが増大されたサブキャリア、または、伝送パワーが削減されたサブキャリアに適当なMCSを割り当てる。つまり、通信相手との伝送路特性に応じて動的に、サブキャリアの伝送パワーの増大および削減を行うとともに、最適なMCSを設定する。OFDM通信装置100の設置後に、装置および伝送方法の調整は不要であり、高い伝送特性が実現される。
【0081】
[8]その他の実施の形態
上記の実施の形態において、図9で示したOFDM通信装置100の各機能部、つまり、ハイブリッドユニット102、復調部103、OFDMデータ抽出部104、フレームデータ抽出部105、送信パワー/MCS制御部106、パワー調整/MCS割当情報抽出部107、SINR解析/適応変調制御部108、フレームデータ割当部110、OFDMデータ割当部111、変調部112、タイミング生成部113、および、上位レイヤ120は、ハードウェアで構成される場合を例に説明した。他の構成として、各機能部102~108,110~113および120の一部または全部がソフトウェアで実現されてもよい。
【0082】
各機能部102~108,110~113および120の一部または全部がソフトウェアで実現される場合、OFDM通信装置100は、図17に示すように、CPU(Central Proccesing Unit)201、RAM(Random Access Memory)202、記憶装置203および外部インタフェース204から構成される。
【0083】
記憶装置203は、プログラム205を備える。プログラム205は、図9で示した各機能部102~108,110~113および120の一部または全部を実行可能なプログラムである。CPU201は、RAM202等のハードウェア資源を利用してプログラム205を実行することにより、図9で示した各機能部102~108,110~113および120の一部または全部を実現可能である。記憶装置203は、ハードディスクやROM(Read Only Memory)等が利用される。また、プログラム205は、外部インタフェース204を介して記憶媒体206に格納されていてもよい。
【0084】
上記実施の形態においては、本実施の形態のOFDM通信装置100が車両5に搭載される場合を例に説明した。本実施の形態のOFDM通信装置100が搭載される対象は特に限定されないが、自動車または原動機付乗物等、エンジン等の原動機を備え、ノイズが発生する乗物に利用された場合に特に効果を奏するものである。
【0085】
[9]請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明する。上記の実施の形態では、OFDM通信装置100が送信機および受信機の例である。上記の実施の形態では、SINR解析/適応変調制御部108が、推定部、割当部の例である。上記の実施の形態では、送信パワー/MCS制御部106が、パワー調整部の例である。上記の実施の形態では、フレームデータ割当部110、OFDMデータ割当部111、変調部112およびハイブリッドユニット102が、送信部の例である。
【0086】
本発明の実施の形態について具体的な図面を参照しながら、前述のとおり説明したが、本発明は、開示された実施の形態に限定されるものではなく、後述のクレームにより言及および定義される発明の本質を維持しながら、種々の再配置、変形および代用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19