(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ロケットエンジンに供給するための改善された供給システム
(51)【国際特許分類】
F02K 9/56 20060101AFI20221130BHJP
F02K 9/60 20060101ALI20221130BHJP
F02K 9/50 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F02K9/56
F02K9/60
F02K9/50
(21)【出願番号】P 2020511509
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(86)【国際出願番号】 FR2018052085
(87)【国際公開番号】W WO2019038501
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-21
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516257464
【氏名又は名称】アリアーヌグループ ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ マチュー アンドレ サンギャル
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ベクレ
(72)【発明者】
【氏名】マチュー アンリ レイモン トリジェ
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-287498(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0196273(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/56
F02K 9/60
F02K 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロケットエンジンに少なくとも1つの推進剤を供給するための供給システム(1)において、
前記供給システム(1)は、
主槽から前記ロケットエンジンまでの少なくとも1つの供給回路(10)内で前記推進剤を循環させることができる少なくとも1つの供給回路(10)と、
前記少なくとも1つの供給回路(10)から分岐している少なくとも1本の連通管(50)を介して前記供給回路(10)に流体連通する、少なくとも1つの槽(20)であって、従って前記槽(20)に含まれる流体が、
前記少なくとも1本の連通管(50)を介して前記槽(20)から前記供給回路(10)まで流れることができ、
前記供給回路(10)に含まれる流体が、前記少なくとも1つの連通管(50)を介して
前記供給回路(10)から前記槽(20)まで流れることができ且つ前記槽(20)が、特定の体積の気体(G)を含むことができる、少なくとも1つの槽(20)と、
ヘリウム又は他の任意の気体の注入なしで前記槽(20)内の気体の前記体積を変化させることができる、加熱手段と、を具備し、
前記加熱手段は、
前記槽(20)内の液体/気体界面を下げるように前記槽(20)内の前記推進剤を蒸発させるように構成される、ことを特徴とする供給システム(1)。
【請求項2】
前記槽(20)及び前記加熱手段は、断熱領域(40)により、前記供給回路(10)から少なくとも部分的に分離される、ことを特徴とする請求項1に記載の供給システム(1)。
【請求項3】
前記供給回路(10)は、軸線方向(A)を有するダクトを具備し、前記槽
(20)は、前記軸線方向(A)に対して、前記供給回路(10)の周りで半径方向に配設される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の供給システム(1)。
【請求項4】
前記槽(20)は、空洞(22)を有し、前記空洞(22)は、前記供給回路(10)の一方の側において、前記軸線方向(A)に対して半径方向に偏倚する、ことを特徴とする請求項3に記載の供給システム(1)。
【請求項5】
前記槽(20)は、環状であり、前記軸線方向(A)に対して前記供給回路(10)の周りで半径方向に配設される、ことを特徴とする請求項3に記載の供給システム(1)。
【請求項6】
前記加熱手段は、前記槽(20)の一方の面において少なくとも2つの加熱要素(30)を具備し、前記少なくとも2つの加熱要素(30)は、前記面に沿って分布する、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の供給システム(1)。
【請求項7】
前記少なくとも2つの加熱要素(30)は電気抵抗器である、ことを特徴とする請求項6に記載の供給システム(1)。
【請求項8】
前記少なくとも2つの加熱要素(30)は、高温流体を循環させるように各々が構成された回路である、ことを特徴とする請求項6に記載の供給システム(1)。
【請求項9】
前記回路は、前記槽(20)の壁の内側に配設される、ことを特徴とする請求項8に記載の供給システム(1)。
【請求項10】
前記加熱要素(30)をお互いに独立して作動させるように構成された、電子制御ユニットを具備する、ことを特徴とする請求項6~9のいずれか一項に記載の供給システム(1)。
【請求項11】
前記槽(20)内の液体/気体界面のレベルを決定するためのレベル測定装置(70)を具備し、前記レベル測定装置(70)は、前記電子制御ユニット(60)に接続する、ことを特徴とする請求項10に記載の供給システム(1)。
【請求項12】
前記電子制御ユニット(60)は、前記レベル測定装置(70)により決定される、前記槽(20)内の前記液体/気体界面のレベルの関数として、前記加熱要素(30)のいずれか又は両方を作動させるように構成される、ことを特徴とする請求項1
1に記載の供給システム(1)。
【請求項13】
前記槽(20)が、外壁と、前記外壁よりも高い導電性の内壁と、を有する二重壁を具備する、ことを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の供給システム(1)。
【請求項14】
前記槽(20)に含まれる気体の体積は、気体状態の推進剤によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の供給システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットエンジンに少なくとも1つの推進剤を供給するための改善された供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体推進式ロケットの分野において、ロケットの機械的振動を伴うロケットエンジン供給回路内の推進剤(液圧モード(方式))の共振の発生に対して「ポーゴー(POGO)効果」という名称が与えられている。ロケットエンジンの推力が、供給回路により供給される推進剤の流量により変化し、更に推進剤の流量がエンジンの推力変動により変動するので、その様な共振の発生は、急速に発散する振動を引き起こしてもよく、従って誘導を困難にし、更にペイロード(搭載物)又は乗り物さえもの全体的な損失に至る損傷さえも引き起こす。従って、液体推進式ロケットの開発が始まって以来、このポーゴー効果の発生を制限又は回避するように、あらゆる可能な手段を講じることが非常に重要であった。
【0003】
この現象の減衰は、従来、供給回路に容量型補正システム(SCP)が存在することにより達成され、この回路の流量変動を低減し、アセンブリ(組立体)の液圧周波数を変更することを可能にする。特許文献1(国際公開第2012/156615号)に記載されるこのシステムの例は、オリフィスを介して供給回路と連通する空洞に閉じ込められた気泡(例えばヘリウム)を含む。このヘリウム気泡の圧縮性により、供給回路の流量変動を抑えることが可能になる。気泡の体積は、供給ラインの圧力変動がシステムの性能に与える影響を制限するように調整される。この調整は、空洞内にヘリウムを恒久的に注入するための装置と、供給回路内においてヘリウムを吸引により吸い込み、及び排出するための装置を使用する。
【0004】
しかしながら、これらの装置には様々な欠点がある。システム内に注入されたヘリウムは、供給システム内に吐出されて、その後、動的不安定性を引き起こし得る、ターボポンプにより吸い込まれる。また、ヘリウムは、本質的に高価であるが、更に運搬体積及び質量が非常に大きい。更に、特許文献2(仏国特許出願公開第2975440号明細書)に記載されるもののような機械的に複雑な装置を使用しない限り、気泡の体積は、単一の値にだけ調整可能である。しかし、槽が空になると、ロケットの構造の固有振動数(構造モード)が飛行中に変化するので、これらのモードにおいて、気泡の存在にも係わらず、液圧振動(液圧モード)により、共振が発生する危険性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/156615号
【文献】仏国特許出願公開第2975440号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、上記の欠点を、少なくとも部分的に、克服することを可能にするであろう装置に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ロケットエンジンに少なくとも1つの推進剤を供給するための供給システムに関し、供給システムは、推進剤を循環させることができる少なくとも1つの供給回路と、供給回路と流体連通していて且つ特定の体積の気体を含むことができる、少なくとも1つの槽と、槽内の気体の体積を変えることができる、加熱手段と、を具備し、加熱手段は、槽内の推進剤を蒸発させるように構成される。
【0008】
本開示において、「少なくとも1つの推進剤」により、1つ以上の推進剤が、液体状態で供給回路内を流れ得ることが理解される。
【0009】
槽が、供給回路と流体連通するので、槽に含まれる流体が、槽から供給回路まで流れることができ、そして逆も同様である。より具体的には、流体は、槽と供給回路との間において往復運動を有することができ、供給回路内に存在する液圧振動を槽に伝達することを可能にする。従って、この槽は供給回路に付加された槽であり、供給回路と槽の間の流体連通は、燃焼室への供給が意図される推進剤を含むロケットエンジンの主槽と燃焼室との間において、供給ラインの中間部分において実施されることが理解される。槽内に存在する流体は、供給回路内を循環する液体状態の推進剤と、ならびに、これに限らないが、この槽の上部に存在する気体状態の推進剤により実質的に形成された気泡とであり得る。
【0010】
供給システムは、加熱手段を更に具備する。「槽内の気体の体積を変化させることができる」ことにより、これらの加熱手段は、例えば、槽内の温度を上昇させるように調節可能であり、従って、槽内に存在する液体推進剤の蒸発を引き起こし、更に従ってやはりこの槽内に存在する気泡の体積を増大させることが理解される。従って、この気泡の体積を操作することにより、供給回路の液圧周波数を変更して、例えもし液圧周波数が飛行中に変化したとさえしても、この液圧周波数がロケットの機械的振動の周波数と一致しないことを確保することができるので、従ってアセンブリの共振の発生を回避する。従って、この装置は、ロケットの機械的完全性を維持し、この泡の体積の形成及び調整のためにヘリウム又は任意の別の気体注入を使用することを省くことを可能にする。従って、気体の少なくとも一部は、一旦気体が供給ラインに入ると、再凝縮するので、ターボポンプに至るこの気体の流出により引き起こされる、動的不安定性を生成する危険性は制限される。更に、この装置は、仏国特許第2975440号特許に記載されるもの等の可変な体積構成と比較して費用を削減可能である。
【0011】
幾つかの実施の形態において、槽及び加熱手段は、熱伝導性領域により供給回路から少なくとも部分的に分離される。
【0012】
槽及び供給回路は、例えば、壁又は金属の橋により分離可能である。これにより、槽と供給回路との間の伝導を制御することを可能にする。従って、必要な場合、例えば10秒程度の限られた時間内において気泡の体積を変化させることが可能である。
【0013】
幾つかの実施の形態において、槽及び加熱手段は、断熱領域により供給回路から少なくとも部分的に分離される。
【0014】
この断熱領域は、槽と供給回路との間に配設された任意のタイプの断熱材料を具備可能であるか、又は槽及び供給回路が空間により分離される領域を具備することさえも可能である。この断熱領域により、槽への供給回路の熱的影響を制限することにより、槽の熱損失を制限することを可能にする。従って、加熱手段の精度が向上し、必要な熱動力が減少し、供給回路の温度の影響は、最小限に抑えられる。
【0015】
幾つかの実施の形態において、槽は、少なくとも2つの連通管により供給回路と連通する。
【0016】
これらの少なくとも2つの管は、槽と供給回路とを流体連通させることを可能にする。
【0017】
幾つかの実施の形態において、供給回路は、軸線方向を有するダクト(導管)を具備し、槽は、軸線方向に対して供給回路の周りで半径方向に配設される。
【0018】
例えば、幾つかの実施の形態において、槽は空洞を有し、空洞は、供給回路の一方の側において、軸線方向に対して半径方向に偏倚する。
【0019】
この配設により、それぞれお互いに対向する槽と供給回路との表面の割合を制限することにより、槽と供給回路との間の断熱を最適化することを可能にする。
【0020】
別の例によれば、幾つかの実施の形態において、槽は、環状であり、軸線方向に対して供給回路の周りで半径方向に配設される。
【0021】
この配設は、よりコンパクトなアセンブリを得ることを可能にし、従って、供給システムの剛性を最適化することを可能にする。配設はまた、回転の対称性により、供給回路内のより均一な流れを可能にする。
【0022】
幾つかの実施の形態において、加熱手段は、槽の一方の面において少なくとも1つの加熱要素を具備する。
【0023】
幾つかの実施の形態において、加熱手段は、槽の一方の面において少なくとも2つの加熱要素を具備し、少なくとも2つの加熱要素は、該面に沿って分布する。
【0024】
加熱要素(単数又は複数)は、例えば、槽の外面と接触していてもよい。その結果、槽空洞の加熱は、槽の壁を介した伝導により実施される。従って、空洞内の気泡の体積の調整は、空洞内に気体を追加する必要なく、単純な熱伝達により実行可能である。
【0025】
特定の実施の形態において、加熱要素(単数又は複数)は、電気抵抗器である。
【0026】
電流が通過すると、これらの電気抵抗器は、槽の壁を介する伝導により伝達される熱を放出する。従って、この装置の空洞内の気体の体積の調整は、単純で且つ安価な装置により実行できる。
【0027】
幾つかの実施の形態において、加熱要素(単数又は複数)は、各々が高温流体を循環させるように構成された、回路である。
【0028】
「高温」とは、推進剤の気化温度よりも高い温度を意味する。これらの回路は、例えば、高温流体が循環する、槽の周りに巻かれたダクトであり得る。高温の流体は、例えばロケットエンジンにおける異なる場所において回収可能である。従って、1つ以上の追加の流体の供給は必要ではなく、そのことは、費用対効果の高い解決案を提示する。また、この場合において、熱伝達はまた、槽の壁を介する伝導により行われる。
【0029】
幾つかの実施の形態において、回路は、槽の壁の内側に配設される。
【0030】
従って、回路は、例えば付加製造により、槽壁の製造中に槽壁と同時に製造される。これにより、供給システムの全体的な製造コストを最小限に抑えることを可能にする。更に、回路が槽の壁に配設されるという事実により、これらの回路から装置の空洞までの熱伝達を最適化することが可能になる。
【0031】
幾つかの実施の形態において、供給システムは、電子制御ユニットを具備する。
【0032】
幾つかの実施の形態において、電子制御ユニットは、加熱要素をお互いに独立して作動させるように構成される。
【0033】
幾つかの実施の形態において、電子制御ユニットは、加熱要素の各々に供給される電力をお互いに独立して変調するように構成される。
【0034】
電子制御ユニットは、ECUタイプのものであり得る。このユニットは、例えば、使用者からの命令により、又は自動的に、加熱要素のいずれか又は両方を独立して作動又は停止することを可能にする。これにより、槽空洞内の気体の所望の体積の関数として、これらの加熱要素の作動を制御することを可能にする。従って、この空洞内の気泡の体積を容易に調整することが可能であり、従って、既存の解決策とは異なり、単一の体積に制限されることはない。
【0035】
幾つかの実施の形態において、供給システムは、槽内の液体/気体界面のレベル(水準)を決定するためのレベル測定装置を具備し、レベル測定装置は、電子制御ユニットに接続する。
【0036】
レベル測定装置は、例えば、液体/気体界面のレベルを間接的に推定するための複数の温度センサを具備してもよい。
【0037】
幾つかの実施の形態において、レベル測定装置は、レベルプローブである。
【0038】
レベルプローブは、空洞内の液体/気体界面のレベル、及び従ってこの空洞内の気泡の体積を、直接的に且つ容易に知ることを可能にする。
【0039】
幾つかの実施の形態において、電子制御ユニットは、レベル測定装置により決定された、槽内の液体/気体界面のレベルの関数として、加熱要素のいずれか又は両方を作動させるように、及び/又は加熱要素のいずれか又は両方を停止するように構成される。
【0040】
レベルプローブは、理想的には即時で、装置の空洞内の液体/気体界面のレベルを、電子制御ユニットに伝えることを可能にする。所望の気体体積の関数として、電子制御ユニットは従って、使用者の外部介入なしに、レベルプローブにより伝えられた情報に基づいて、1つ以上の加熱要素(単数又は複数)の作動又は停止を、それ自体により制御可能である。その結果、気体の体積は、閉ループにおいて、自律的な状態で調整可能である。
【0041】
幾つかの実施の形態において、電子制御ユニットは、加熱要素の各々に送られる電力の変調を適時プログラムするように構成される。
【0042】
従って、ミッション(任務)プロファイル及び想定される飛行条件の関数として、ECUを、及び従って加熱要素に供給する電力を、事前に設定することが可能である。これにより、レベルセンサー又はプローブの必要性を排除し、更に従って装置を簡素化することを可能にする。
【0043】
幾つかの実施の形態において、槽は、外壁と、外壁よりも高い導電性の内壁とを有する二重壁を具備する。
【0044】
結果として、槽の外壁と供給回路との間の熱伝達を最小限に抑えながら、加熱要素と推進剤との間の熱伝達は、改善できる。従って、空洞内の気泡の体積は、より正確に且つより費用効果の高い方法で調整できる。
【0045】
本発明及びその利点は、非限定的な例により与えられる、本発明の様々な実施の形態の以下に与えられる詳細な説明を読むことにより、より良好に理解されるであろう。この説明は、添付の図の頁を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、供給システムのブロック(構成)図を表す。
【
図3A】
図3Aは、2つの動作状態における、第1の実施の形態の供給システムの第1の例の横断面図を表す。
【
図3B】
図3Bは、2つの動作状態における、第1の実施の形態の供給システムの第1の例の横断面図を表す。
【
図4】
図4は、第1の実施の形態の供給システムの第2の例の横断面を表す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は、ロケットエンジンに少なくとも1つの推進剤を供給するための供給システム1のブロック図を示す。供給システム1は、軸線方向Aに沿って延びる供給回路10を含んでおり、前記軸線方向Aにおいて、推進剤Lは、エンジンに供給されることが意図される推進剤が貯蔵される主槽(図示せず)と燃焼室(図示せず)との間において、矢印により示される流れの方向に沿って液体状態で循環する。供給システム1はまた、空洞22を具備する、槽20を具備する。槽20は、少なくとも1つの連通管50により、供給回路10と流体連通する。
【0048】
空洞22は、その下部において、管50を介して供給回路10内において循環する液体推進剤と連通する一定の体積の液体推進剤Lを含んでおり、その上部において、蒸気状態の推進剤に対応する気泡Gを含む。従って、供給回路10に存在する液圧振動は、管50を介して槽20に伝播可能であり、気泡Gの存在により減衰され得る。
【0049】
供給システム1はまた、ここでは槽20の壁の外面に配設された、加熱要素30も具備する。加熱要素30は、槽20の外面に熱を供給するように構成される。この熱はその後、槽20の壁を介して空洞22まで伝導により伝達されるので、従ってそこ(空洞22)の中の温度を上昇させる。この温度の上昇は、液体推進剤Lの蒸発を引き起こし、従って、空洞22内の気泡Gの体積の増加を引き起こす。
【0050】
更に、供給回路10及び槽20が流体連通する、連通管50の存在とは別に、供給回路10及び槽20は、断熱領域40によりお互いに絶縁される。この断熱領域40により、供給回路10の温度の影響を最小限に抑えることだけではなく、更に槽20の温度の供給回路10への影響を最小限に抑えることにより、加熱要素30を所望の温度に正確に調整可能である。
【0051】
これとは別に、供給回路10及び槽20は、熱伝導性領域によりお互いに分離可能である。従って、供給回路10の温度の影響を制御でき得る。これにより、必要に応じて、槽20を急速に冷却するので、従って、供給回路10の温度の利点を利用して、気泡Gの体積を急速に減少させることができる。
【0052】
図2は、本発明の第1の実施の形態の、供給システム1の軸線Aに平行な断面平面における断面を示す斜視図を表す。供給回路10は、軸線Aの周りで実質的に円筒形の構造を有する。この実施の形態によれば、槽20は、実質的に円筒形の胴体を具備する、楕円形状を有し、供給回路10に対して半径方向に偏倚する。
【0053】
槽20は、連通管50のみを介して供給回路10に連通する。槽20は、気泡Gが自然に連通管50に対向する槽20の部分に閉じ込められるように、槽20の回転軸が軸線方向Aに平行になるように配設される。
【0054】
システムの機械的強度を改善するために、少なくとも一組の補強材42を槽20の周りで、槽20の外面上及び供給回路10の外面上に設けることができる。槽20と供給回路10との周りの補強材42が一体で一緒に形成されるという事実により、管50に加えて、供給回路10との第2の接続点が、槽20に与えられる。これにより、アセンブリ(組立体)の機械的強度を改善することを可能にする。更に、補強材42は、供給回路10と槽20との間に熱橋を形成しないように、断熱材料により形成可能である。従って、供給回路10及び槽20は、これらの補強材42を具備してもよい、断熱領域40と、槽20及び供給回路10を分離する空間と、によりお互いに断熱されており、該空間は、気体を具備するか又は空にすることができる。これとは別に、供給回路10及び槽20が熱伝導性領域によりお互いに分離されている場合に、補強材42は、熱伝導性材料により形成可能である。
【0055】
図3A及び3Bは、第1の実施の形態の供給システムの第1の例の横断面を表す。この例において、加熱要素30は、電気抵抗器である。より具体的には、第1の電気抵抗器30aは、ここではその外壁に対して、槽の上部において槽の周りに配設される。第2の電気抵抗器30bは、垂直方向に沿って、第1の電気抵抗器30aの下に配設されており、第3の電気抵抗器30cは、第2の電気抵抗器30bの下に配設される。第1の電気抵抗器30aは、第1のスイッチ31aに接続しており、第2の電気抵抗器30bは、第2のスイッチ31bに接続しており、第3の電気抵抗器30cは、第3のスイッチ31cに接続する。各スイッチ31a、31b及び31cにより、各抵抗器30a、30b、30cをそれぞれ、お互いから独立して作動及び停止することができる。スイッチは、例えば、断続器であり得る。そうするために、スイッチを具備する電子制御ユニット(装置)60は、スイッチの開閉を制御する。
図3Aの例において、電子制御ユニット60は、第1の電気抵抗器30aを電池32等のエネルギ源に連絡させるように、スイッチ31aの閉鎖を制御する。エネルギ源はその後、第1の電気抵抗器30aに電気を供給可能であり、従って第1の電気抵抗器30aは、槽20の壁を加熱する。この同じ例において、スイッチ31b及び31cは、開位置にあるので、電池32は、第2と第3の抵抗器30bと30cに給電しない。
【0056】
更に、レベル(水準)プローブ(探り針)70は、空洞22に設置可能であり、電子制御ユニット60に接続可能である。このレベルプローブ70により、空洞22内に存在する、推進剤の液相Lと気相Gとの間の界面の位置及び従って気泡の体積を、決定することを可能にする。その結果として、ロケットエンジンの動作速度に対応する気泡の所望の体積の関数として、及びレベルプローブ70により受信された情報に基づいて、電子制御ユニット60は、液体/気体界面を所望の高さに移動するために、一つ又は幾つかの抵抗器の作動を制御可能であり、従って所望の体積の気泡に到達する。
【0057】
この例において、
図3Aにおいて、第1の電気抵抗器30aのみが作動されるので、空洞22内の液体/気体界面は、この抵抗器に配置される。
図3Aの状態から
図3Bの状態に切り替えるように、液体/気体界面のレベルを下げるために、及び従って気泡の体積を増加させるために、制御ユニット60は、第1の電気抵抗器30aを作動停止するように、第1のスイッチ31aの開放を制御する。同時に、制御ユニット60は、第3のスイッチ31cを閉じることにより、別の電気抵抗器に対して槽20の最下部に配設された、第3の電気抵抗器30cの作動を制御する。従って、液体/気体界面は、この第3の電気抵抗器30cに下げられる。第3の電気抵抗器30cの作動前に、第2の電気抵抗器30bの作動を制御することもまた可能である。これにより、気泡の体積の変更を効果的且つ正確に制御することを可能にする。
【0058】
図3A及び3Bの例は、3つの抵抗器を具備するが、しかしより多くの抵抗器が具備可能である。従って、より一般的には、液体/気体界面は、最下部の作動された抵抗器に実質的に下げることができる。
【0059】
図4は、第1の実施の形態の供給システムの第2の例の横断面を表す。この例において、加熱要素30は、高温の流体が循環する、回路である。従って、熱交換は、これらの回路と空洞22との間の対流伝達及び伝導伝達により行われる。より具体的には、第1の回路300aは、槽の周りで槽の上部において、ここではその外壁に対して配設される。第2の回路300bは、垂直方向に沿って、第1の回路300aの下に配設される。第1の回路300aは、第1の弁310aと流体出口320aとに接続し、第2の回路300bは、第2の弁310bと流体出口320bとに接続する。各弁310a及び310bは、気泡の所望の体積とレベルプローブ70により受信された情報との関数として、お互いから独立して回路300a及び300bそれぞれに供給することを可能にする。そうするために、弁は、これらの弁の開閉を制御する、電子制御ユニット60に接続する。電子制御ユニットはまた、弁310a及び310bの開度に応じて、回路300a及び300bのいずれかにおける高温流体の流量を調節可能である。高温流体は、ロケットエンジン内に吸引された高温気体、又は供給回路10内を流れる推進剤よりも高い、想定される圧力に対する飽和温度を有する別の推進剤、又は槽20の壁の加熱及び空洞22内の液体推進剤の蒸発を可能にする任意の別の流体であってもよい。
図4に示される例において、回路300a及び300bは、槽20の外壁に対して槽20の周りに巻かれたチューブ(管)である。しかしながら、これらのチューブはまた、槽20の壁の内側に配設可能である。更に、
図4の例は、2つの回路を具備するが、しかしより多くの回路が可能である。更に、
図4の例において、同じ高温の流体により回路のいずれかを選択的に供給することを可能にするが、しかしこれらの回路の各々はまた、異なる高温の流体を供給可能である。
【0060】
図5は、第2の実施の形態の、供給システム1の軸線Aに平行な断面平面の断面を示す、斜視図を表す。供給回路10は、軸線Aの周りで、実質的に円筒形の構造を有する。この実施の形態によれば、槽20は、環状形状を有し、供給回路10の周りで半径方向に配設される。槽20は、槽20の下部に接続する、複数の連通管50を介して供給回路10と連通する。
【0061】
供給回路10及び槽20は、断熱領域40によりお互いに断熱される。この実施の形態において、この断熱領域40は、気体、真空又は槽20と供給回路10との間の非構造的絶縁材料(例えば、泡状物質)を具備してもよい、空間に加えて、供給回路10と槽20とを機械的に接続するメッシュ(網状)構造44、例えばハニカム構造、を具備する。このメッシュ構造44は、低い熱伝導率を有する。このメッシュ構造44は、空洞22内の熱損失を制御しながら、供給システム1の剛性を改善することを可能にする。
【0062】
図5の例において、加熱要素30は、槽20の周りで且つその全周にわたって配設された、電気抵抗器である。しかし、
図4を参照して説明されたもの等の回路もまた、この実施の形態の加熱要素30として使用可能である。更に、空洞22内の気泡Gの体積を調整するための、供給システム1の動作モード(方式)は、第1の実施の形態と同じであるので、従って、ここでは繰り返されない。
【0063】
本発明は、特定の例示的な実施の形態を参照して説明されたが、しかし修正及び変更が、特許請求の範囲により定義される本発明の一般的な範囲から逸脱することなく、これらの例に加えることができることは明らかである。特には、様々な例示され/言及された実施の形態の個々の特徴は、追加の実施の形態において組み合わせ可能である。更に、導電性要素(電気抵抗)又は対流交換器を使用した、加熱要素が提示されているが、しかし別の伝導性及び対流性解決策が、放射交換又は誘導交換により動作する加熱要素と同様に、可能である。その結果として、説明及び図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味において考慮されるべきである。
【0064】
また、1つの方法を参照して説明された全ての特性は、単独で又は組み合わせて、1つの装置に置き換え可能であることができる、そして逆に、1つの装置を参照して説明された全ての特性は、単独で又は組み合わせて、1つの方法に置き換え可能であることも明らかである。