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特許7185687プラスチックボトル用プリフォーム及びその製造方法
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  • 特許-プラスチックボトル用プリフォーム及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】プラスチックボトル用プリフォーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/02 20060101AFI20221130BHJP
   B29C 49/22 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B29C49/02
B29C49/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020518366
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2019018809
(87)【国際公開番号】W WO2019216429
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018091342
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】西山 優範
(72)【発明者】
【氏名】泊 一朗
(72)【発明者】
【氏名】山根 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
【審査官】深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-184627(JP,A)
【文献】特開昭60-201909(JP,A)
【文献】特開昭59-095120(JP,A)
【文献】特開2007-269022(JP,A)
【文献】特開平06-032924(JP,A)
【文献】特開2017-064640(JP,A)
【文献】特開2014-151632(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0061883(US,A1)
【文献】特開2012-250771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/02
B29C 49/22
B29B 11/14
B05D 7/02
B05D 7/24
B65D 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプラスチックボトル用プリフォームであって、該プリフォームの外表面上にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカー層が形成された塗膜を有し、前記アンカー層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)を含むバリア層が形成され、そして、前記バリア層の上に、ポリビニルブチラール(PVB)を含む保護層が形成されることを特徴とするプリフォーム。
【請求項2】
前記バリア層にレベリング剤がさらに含まれることを特徴とする、請求項に記載のプリフォーム。
【請求項3】
前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約65℃~約90℃未満のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のプリフォーム。
【請求項4】
前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約80℃~約85℃のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のプリフォーム。
【請求項5】
プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプラスチックボトルであって、該プリフォームの外表面上にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカー層が形成された塗膜を有し、前記アンカー層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)を含むバリア層が形成され、そして、前記バリア層の上に、ポリビニルブチラール(PVB)を含む保護層が形成されることを特徴とするプラスチックボトル。
【請求項6】
前記バリア層にレベリング剤がさらに含まれることを特徴とする、請求項に記載のプラスチックボトル。
【請求項7】
前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約65℃~約90℃未満のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、請求項5又は6に記載のプラスチックボトル。
【請求項8】
前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約80℃~約85℃のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、請求項のいずれか1項に記載のプラスチックボトル。
【請求項9】
プラスチックボトル用プリフォームの製造方法であって、
プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプリフォームを用意する工程
前記プリフォームの外表面にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカーコート剤をコーティングし、これを乾燥させてアンカー層を形成させる工程
前記アンカー層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)溶液をコーティングし、これを乾燥させてバリア層を形成させる工程、及び
前記バリア層の上に、ポリビニルブチラール(PVB)溶液をコーティングし、これを乾燥させて保護層を形成させる工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記PVA溶液がレベリング剤を含むことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約65℃~約90℃未満のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約80℃~約85℃のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項12のいずれか1項に記載の方法によって製造されたプラスチックボトル用プリフォームをブロー成形する工程を含む、プラスチックボトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デラミネーションが抑制されたプラスチックボトル用プリフォーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、飲料や食品(以下、飲料等という。)用のポリエチレンレテレフタレート製のプラスチック容器(以下、PETボトルともいう。)は広く使用されており、該PETホトルは、プリフォームの形態でボトラーに供給され、ブロー成形により製造されている。
【0003】
かかるPETボトルの表面にバリアコーティングを適用して、ガス、特に、酸素や二酸化炭素の容器内外への透過を減少させ、それによりボトル内部に充填された飲料等の保存寿命を改善することは公知である。
【0004】
例えば、以下の特許文献1には、PETボトル上のガスバリアとしてポリビニルアルコール(以下、PVAと略する。)を使用し、ポリビニルブチラール(以下、PVBと略する。)を含む追加的なトップコートを用いてバリアコーティングの耐水性を改善することが開示されている。かかる多層コーティングは、酸素及び二酸化炭素に対する良好なバリア性能、引掻耐性を示し、且つ、該バリアコーティングは水溶性であるために、該トップコートを機械的に破壊した後にリサイクル可能である。
【0005】
ソフトドリンクのために使用されるPETボトルは、一般に、いわゆるプリフォームから、射出延伸ブロー成形によって製造されている。一般に、かかるブロー法において、プリフォームは元の体積の10倍よりも大きく膨張される結果、プリフォームの表面上に層状化されたコーティングは著しく薄くなる。したがって、最終的に得られるバリアコーティングの機械的及び化学的安定性が重要となる。
【0006】
したがって、バリアコーティング適用前に、プリフォームの表面を化学的又は物理的に前処理することも重要であり、基材を、バリアコーティング前に、プラズマ、コロナ又は電子線、火炎、塩素、フッ素、化学エッチング等により前処理することも知られている。
【0007】
また、消費者及び製造業者は、PETボトルに充填された飲料等の貯蔵寿命を、PETボトルの厚さや組成を変えることなく、引き延ばしたいと要望している。
【0008】
かかる従来技術の状況下、以下の特許文献2には、PET及びポリプロピレン(以下、PPという。)容器の表面にPVB、PVA、及びPVBを順番にコーティングすることにより、ブロー成形に耐える機械的及び化学的に安定したバリアコーティングをプリフォーム表面上に形成することが提案されている。
【0009】
さらに、以下の特許文献3には、プリフォームの筒状胴部を水平に回転させながら、該筒状胴部にPVAコーティングを形成させ、次いで、その上にPVBコーティングを形成させることが提案されており、以下の特許文献4には、所定のポリビニルアセタール系樹脂からなる層が積層されたガスバリアコーティング樹脂積層体をPETボトル上に積層することが提案されている。
【0010】
しかしながら、プリフォームコーティング技術においては、中身が炭酸の場合、経時変化による中味液中の炭酸ガスが外に抜けようとする力が働くために、ボトルの外面のコーティング膜(バリア/トップコート)が剥離する(デラミネーション)という問題が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第03/037969号
【文献】特開2012-250771号公報
【文献】特開2014-151632号公報
【文献】特開2014-151631号公報
【文献】特開2017-65149号公報
【文献】特開2017-64640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、デラミネーションが抑制されたペットボトル用プリフォーム及び該プリフォームの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、プリフォームの外表面とバリア膜の間に、アンカーコート剤としてポリエステル系ウレタン樹脂を挿入することで、デラミネーションの発生を有意に抑制することができることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1] プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプラスチックボトル用プリフォームであって、該プリフォームの外表面上にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカー層が形成された塗膜を有することを特徴とするプリフォーム。
[2] 前記アンカー層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)を含むバリア層が形成されることを特徴とする、1に記載のプリフォーム。
[3] 前記バリア層の上に、ポリビニルブチラール(PVB)を含む保護層が形成されることを特徴とする、2に記載のプリフォーム。
[4] 前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約65℃~約90℃未満のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、1~3のいずれかに記載のプリフォーム。
[5] 前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約80℃~約85℃のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、1~4のいずれかに記載のプリフォーム。
[6] プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプラスチックボトルであって、該プリフォームの外表面上にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカー層が形成された塗膜を有することを特徴とするプラスチックボトル。
[7] 前記アンカー層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)を含むバリア層が形成されることを特徴とする、6に記載のプラスチックボトル。
[8] 前記バリア層の上に、ポリビニルブチラール(PVB)を含む保護層が形成されることを特徴とする、7に記載のプラスチックボトル。
[9] 前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約65℃~約90℃未満のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、6~8のいずれかに記載のプラスチックボトル。
[10] 前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約80℃~約85℃のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、6~9のいずれかに記載のプラスチックボトル。
[11] プラスチックボトル用プリフォームの製造方法であって、
プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプリフォームを用意する工程、及び
前記プリフォームの外表面にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカーコート剤をコーティングし、これを乾燥させてアンカー層を形成させる工程
を含むことを特徴とする方法。
[12] 前記アンカー層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)溶液をコーティングし、これを乾燥させてバリア層を形成させる工程をさらに含む、11に記載の方法。
[13] 前記バリア層の上に、ポリビニルブチラール(PVB)溶液をコーティングし、これを乾燥させて保護層を形成させる工程をさらに含む、12に記載の方法。
[14] 前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約65℃~約90℃未満のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、11~13のいずれかに記載の方法。
[15] 前記ポリエステル系ウレタン樹脂が、約80℃~約85℃のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする、11~14のいずれかに記載の方法。
[16] 11~15のいずれかに記載の方法によって製造されたプラスチックボトル用プリフォームをブロー成形する工程を含む、プラスチックボトルの製造方法。
[17] 11~15のいずれかに記載の方法によって製造されたプラスチックボトル用プリフォーム。
[18] 16に記載の方法によって製造されたプラスチックボトル。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、デラミネーションの発生が抑制された、プラスチックボトル用プリフォーム、及び該プリフォームの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のプラスチックボトルの製造方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中、用語「プラスチックボトル」とは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、及びポリエチレン(PE)製のボトルを包含し、はPETボトルに限定されない。
【0018】
本発明の1つの態様において、プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプラスチックボトル用プリフォームであって、該プリフォームの外表面上にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカー層が形成された塗膜を有することを特徴とするプリフォームが提供される。
【0019】
本発明に係るプリフォームにおいては、アンカー層の上に、ポリビニルアルコール(PVA)を含むバリア層が形成され、さらに、バリア層の上に、ポリビニルブチラール(PVB)を含む保護層が形成されることが好ましい。
【0020】
ポリエステル系ウレタン樹脂は、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとを、必要に応じて低分子のジオール、ジアミンなどの存在下に反応して製造される。本発明において用いられるポリエステル系ウレタン樹脂は、典型的には、約65℃~約90℃未満のガラス転移温度(Tg)、好適には、約80℃~約85℃のガラス転移温度(Tg)を有する。本発明において用いられるポリエステル系ウレタン樹脂は、水分散性であることが好ましい。このようなポリエステル系ウレタン樹脂としては、例えば、タケラック(登録商標)W-5030(三井化学株式会社)、WS-5000(三井化学株式会社)、WS-5984(三井化学株式会社)が挙げられる。
【0021】
PVAは、基材のガス透過性(特に、O2及びCO2)を著しく低下させ、それにより、梱包された食品、ソフトドリンク又はビール等の飲料等の保存寿命を改善することができる。しかしながら、PVAのみからなるコーティングの使用は、その吸湿性ゆえに制限される。そのため、ポリビニルアセタール、例えば、PVBが、PVA層(バリア層)のためのトップコーティング(保護層)として適していることが見出され、用いられている。PVAポリマーとPVBポリマーは、以下の化学式:
【化1】
【化2】
に示すように、類似したポリマー主鎖を有し、且つ、広範な混合物中で相容性である。
【0022】
本発明のさらなる態様において、プラスチックボトル用プリフォームの製造方法であって、プラスチックボトルの開口となる口部と、円筒状胴部と、該円筒状胴部を閉塞する底部とからなるプリフォームを用意する工程、及び前記プリフォームの外表面にポリエステル系ウレタン樹脂を含むアンカーコート剤をコーティングし、これを乾燥させてアンカー層を形成させる工程を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0023】
本発明に係る方法は、好ましくは、アンカー層の上に、PVA溶液をコーティングし、これを乾燥させてバリア層を形成させる工程、及びバリア層の上に、PVB溶液をコーティングし、これを乾燥させて保護層を形成させる工程をさらに含む。
【0024】
上記方法は、本発明に係るプリフォームの製法であり、上述のアンカーコート剤、PVA及びPVBが使用される。
PVA溶液の調製に使用できる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、IPA、MEK、アセトン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、アセトアミド、ジメチルアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、DMSO、ピリジン、及び/又はこれらの組み合わせが挙げられる。
PVB溶液の調製に使用できる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、IPA、n-ブタノール、オクタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、アセトン、MEK、MIBK,シクロヘキサノン、イソホロン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、エチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、酢酸、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、及び/又はこれらの組み合わせが挙げられる。
溶液中のPVAの濃度は、好ましくは、約1~約30重量%であり、溶液中のPVBの濃度は、好ましくは、約0.1~約50重量%である。
【0025】
上記各工程におけるコーティングには、例えば、ディッピング(浸漬)方式、ブロー方式、スプレー方式、コーター方式、及び転写方式といった当業界に周知のコーティング方法のほか、スロットダイを用いたディスペンサーコーティング方法を使用することができる。
【0026】
スロットダイ方式のコーティング方法は、特許文献5及び6に詳しく開示されており、プリフォームを水平方向に保持し、このプリフォームを軸線回りに回転させ、そして、回転しているプリフォームに向かってディスペンサーのスロットからコーティング液を面状に吐出させることによって達成される。このような方式のコーティング方法を用いることにより、プリフォームに形成されるコーティングの膜厚のバラツキを低減すると共に、プリフォームに塗布されたコーティング液に気泡が発生することを抑制することができるが、アンカー層の上にPVAなどのバリア材をコーティングすると、均一に塗布することができないといった問題が生じる。しかしながら、こうした塗布不良は、レベリング剤をバリア材に添加することによって回避することができる。本発明に用いることができるレベリング剤は、シロキサン、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂が好ましい。このようなレベリング剤としては、例えば、DYNOL-980(Air Products社)、KP-104及びKP-110(信越シリコーン社)、メガファックF-477及びRS-72-K(DIC株式会社)などが挙げられる。
【0027】
本発明に係るプリフォームの製造方法においては、アンカーコート剤のコーティングに先立って、前記プリフォーム表面をプラズマ、コロナ又は電子線処理することが好ましい。かかる前処理によって、基材へアンカー層の付着を強化することができる。但し、かかる前処理は、任意付加的な工程であり、本発明においては、ほとんどの場合、前処理をしないでも、ひび割れや離層の発生を伴わずに、延伸ブロー成形され得る機械的に安定なコーティングを有するプリフォームを製造することが可能である。
【0028】
上記各工程における乾燥手段は、各層が形成される限り特に限定されないが、ヒーター及び送風(常温又は熱風)により実施されることが好ましい。コーティング溶液の加熱乾燥時間を短くするためには、溶媒である水及び水酸基の吸収波長に適合した加熱波長をもつ熱源を選択することにより膜の内部からの加熱することが効果的である。この点から、近赤外線~中赤外線を発生するカーボンヒーターの使用が好ましい。また、膜を冷やさずに蒸発した水を効率良く除去するためには、近赤外線~中赤外線を発生するカーボンヒーターの使用とともに、遠赤外線ヒーターや送風(常温)又は熱風を吹き付けることを併用してもよい。
上記各工程における乾燥温度は、常温~80℃であることが好ましい。100℃以上では溶液沸騰のおそれがあり、また、80℃を超えると過加熱により基材が白化したり変形したりするおそれがある。
【0029】
本発明に係るプリフォームを延伸ブロー成形することにより、プラスチックボトルが製造される。したがって、本発明のさらに別の態様において、発明に係るプラスチックボトル用プリフォームをブロー成形することによって得られるプラスチックボトル及びその製造方法が提供される。
【実施例
【0030】
[実施例1:アンカーコート剤によるデラミネーションの抑制]
500ml用PETボトル用プリフォーム(24g)の外表面に大気中プラズマ照射表面改質装置(ウエッジ株式会社製、PS-1200AW)にて約3秒間プラズマ照射した後、オーブン中で50℃に加熱した。その後、プリフォームを各銘柄のアンカーコート剤に1回ディッピングし、50℃のオーブン中で約30分乾燥させ、アンカー層を形成させた。乾燥後、プリフォームを50℃に保ちながら、PVA溶液10%に1回ディッピングし、50℃のオーブン中で1時間乾燥させた。PVA溶液は、加熱装置及び撹拌機を備えたピーカーにPVA粉末(株式会社クラレ製、エクセバール(登録商標)HR-3010)を入れ、濃度10重量%となるように常温の水を入れ、撹拌しながら溶液温度95℃まで加熱し、PVAが完全に溶解するまで撹拌を継続することにより調製した。上記PVA溶液へのディッピング及び乾燥工程を繰り返し、バリア層を形成させた。乾燥後、プリフォームを50℃に保ちながら、PVB溶液を1回ディッピングし、50℃のオーブン中で30分乾燥させ、保護層を形成させた。PVB溶液は、加熱装置及び撹拌機を備えたピーカーにPVB粉末(株式会社クラレ製、モビタール(登録商標)B-30HH、ガラス転移温度63℃)を入れ、濃度5重量%となるように常温のエタノール(99.5%)を入れ、常温で撹拌しながら、PVBが完全に溶解するまで撹拌を継続することにより調製した。各層が形成された塗膜を有するプリフォームを延伸ブロー成形機にて、慣用の条件で延伸ブロー成形し、PETボトルを製造した。PETボトルにクエン酸と重曹を加え、4.2GVの炭酸水を充填した。炭酸水を充填したPETボトルを23℃50%の恒温室内で保管し、デラミネーションの発生の有無を確認した。
【0031】
各アンカーコート剤を用いた場合のバリア材(PVA)の塗布性及びデラミ耐日数を以下の表1に示す。ここで、アンカーコート剤として、上述のW5030やWS5000の他に、三井化学株式会社製のポリエチレン系ウレタン樹脂である、W6010、W6020、W6061、WPB341、大阪印刷インキ製造株式会社製のスチロール系樹脂のスチプリ、東洋モートン社製のポリエチレンイミ系樹脂のAD373MW、大日精化学社製のポリプタジエン系樹脂のセイカダイン、互応化学社製のポリエチレン系樹脂のZ-565、Z-730、Z-687、Z-880、RZ-105を用いた。
【表1】

ポリエステル系ウレタン樹脂で、かつ、Tgが65℃~90℃未満のWS5000とW5030とがデラミ耐日数が1ヶ月以上となり、実用に耐えられるものであることを確認した。その中で、W5030がデラミ耐日数6ヶ月となり、長期間コーティング剤が剥れないことを確認した。
図1