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特許7185696新規な二重特異性CD3/CD19ポリペプチド複合体相互参照
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】新規な二重特異性CD3/CD19ポリペプチド複合体相互参照
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20221130BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221130BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20221130BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20221130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12P21/08
C12N15/13
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K47/42
A61K47/68
A61P43/00 111
A61P35/02
A61P35/00
A61K39/395 T
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020537830
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 CN2018106776
(87)【国際公開番号】W WO2019057124
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/103032
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518330176
【氏名又は名称】ウーシー バイオロジクス アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】リョウ チエイン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ チエンチン
(72)【発明者】
【氏名】チュオチー ワン
(72)【発明者】
【氏名】チン メイ
(72)【発明者】
【氏名】チン リー
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/055314(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/014796(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104829726(CN,A)
【文献】国際公開第2016/048938(WO,A1)
【文献】mAbs,2015年,Vol.7, No.2,pp.364-376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二の抗原結合部分に会合した第一の抗原結合部分を含む二重特異性ポリペプチド複合体であって、
前記第一の抗原結合部分は、
N末端からC末端に、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域(C1)に動作可能に結合された第一の抗体の第一の重鎖可変領域(VH)を含む第一のポリペプチド、および
N末端からC末端に、第二のTCR定常領域(C2)に動作可能に結合された第一の抗体の第一の軽鎖可変領域(VL)を含む第二のポリペプチドを含み、
ここで、C1は、配列番号1を含む操作されたCβを含み、C2は、配列番号2を含む操作されたCαを含み、
配列番号1のアミノ酸C48と配列番号2のアミノ酸C41は、非天然の鎖間ジスルフィド結合を形成することができ、
C1とC2は二量体を形成することができ、前記非天然の鎖間ジスルフィド結合は前記二量体を安定させることができ、そして
前記第二の抗原結合部分は、
抗体重鎖CH1ドメインに動作可能に結合された第二の抗体の第二のVH、および
抗体軽鎖定常(CL)ドメインに動作可能に結合された第二の抗体の第二のVLを含み、
ここで、前記第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の一方は抗CD3結合部分であり、他方は抗CD19結合部分であり、
前記抗CD3結合部分は抗CD3抗体に由来し、前記抗CD3抗体は、
a)配列番号3を含む重鎖CDR1、b)配列番号4を含む重鎖CDR2、c)配列番号5を含む重鎖CDR3、d)配列番号6を含むκ軽鎖CDR1、e)配列番号7を含むκ軽鎖CDR2、および配列番号8を含むκ軽鎖CDR3を含み、
前記抗CD19結合部分は抗CD19抗体に由来し、前記抗CD19抗体は、
a)配列番号9を含む重鎖CDR1、b)配列番号10を含む重鎖CDR2、c)配列番号11を含む重鎖CDR3、d)配列番号12を含むκ軽鎖CDR1、e)配列番号13を含むκ軽鎖CDR2、およびf)配列番号14を含むκ軽鎖CDR3を含み、そして
前記第一の抗原結合部分と前記第二の抗原結合部分の誤対合は、前記第一の抗原結合部分と前記第二の抗原結合部分の両方が天然のFabの対部分である場合に起こる可能性よりも少ない、
二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項2】
前記抗CD3結合部分は、配列番号15を含む重鎖可変領域配列と、配列番号17を含む軽鎖可変領域配列を含む、請求項1に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項3】
前記抗CD19結合部分は、配列番号19を含む重鎖可変領域配列と、配列番号21を含む軽鎖可変領域配列を含む、請求項1又は2に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項4】
前記第一のVHは、第一の結合ドメインでC1に動作可能に結合され、かつ
前記第一のVLは、第二の結合ドメインでC2に動作可能に結合される、請求項1~3の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項5】
前記第一の結合ドメインは配列番号23を含むか、もしくは配列番号23であり、かつ/または、前記第二の結合ドメインは配列番号24を含むか、もしくは配列番号24である、請求項4に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項6】
前記第一の抗原結合部分は第一の二量体化ドメインに結合され、前記第二の抗原結合部分は第二の二量体化ドメインに結合され、前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは会合している、請求項1~5の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項7】
前記会合は結合部、ジスルフィド結合、水素結合、静電相互作用、塩架橋、疎水性親水性相互作用、またはこれらの組み合わせによる、請求項6に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項8】
前記第一の二量体化ドメインおよび/または前記第二の二量体化ドメインは、抗体ヒンジ領域の少なくとも一部を含み、前記抗体ヒンジ領域は、任意によりIgG1、IgG2、またはIgG4に由来する、請求項6に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項9】
前記第一の二量体化ドメインおよび/または前記第二の二量体化ドメインは、抗体CH2ドメインおよび/または抗体CH3ドメインを含む、請求項6に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項10】
前記第一の二量体化ドメインは、第三の結合ドメインで第一のTCR定常領域(C1)に動作可能に結合される、請求項6に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項11】
前記第三の結合ドメインは配列番号25を含む、請求項10に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項12】
前記第二の二量体化ドメインは、前記第二の抗原結合部分の重鎖可変領域に動作可能に結合される、請求項6に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項13】
前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは、異なっており、ホモ二量体化を妨げる、かつ/またはヘテロ二量体化を促進するように会合している、 請求項6~12の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項14】
前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは、ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)、疎水性相互作用、静電相互作用、親水性相互作用、または高められた柔軟性により会合してヘテロ二量体を形成することができる、請求項13に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項15】
前記二重特異性ポリペプチド複合体は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号29という4つのポリペプチド配列の組み合わせを含む、請求項1~14の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項16】
前記二重特異性ポリペプチド複合体は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号30という4つのポリペプチド配列の組み合わせを含む、請求項1~14の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体。
【請求項17】
ある部分に接合した請求項1~16の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体を含む接合体。
【請求項18】
請求項1~16の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体をコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項18に記載のポリヌクレオチドを含む、単離ベクター。
【請求項20】
請求項18に記載の単離ポリヌクレオチドまたは請求項19に記載の単離ベクターを含む宿主細胞。
【請求項21】
前記二重特異性ポリペプチド複合体が発現する条件で請求項2に記載の宿主細胞を培養することを含む、請求項1~16の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体を発現させる方法。
【請求項22】
二重特異性ポリペプチド複合体を作製する方法であって、
a)請求項1~16の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること、および
b)前記宿主細胞に前記二重特異性ポリペプチド複合体を発現させること、を含む方法。
【請求項23】
前記二重特異性ポリペプチド複合体を単離することをさらに含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1~16の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体を含む組成物。
【請求項25】
請求項1~16の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項26】
CD19に関連した疾患または状態の治療を必要とする対象において、前記疾患または状態を治療するための、請求項25に記載の医薬組成物
【請求項27】
前記疾患または状態は癌である、請求項26に記載の医薬組成物
【請求項28】
前記癌はリンパ腫、肺癌、肝臓癌、頸部癌、大腸癌、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、メラノーマ、膠芽細胞腫、前立腺癌、食道癌、または胃癌である、請求項27に記載の医薬組成物
【請求項29】
前記疾患または状態はB細胞リンパ腫であり、任意によりホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫であり、ここで、前記非ホジキンリンパ腫は、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫(MZL)、粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALT)、小リンパ球リンパ腫(慢性リンパ性白血病、CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、急性リンパ芽球性白血病急性リンパ芽球性白血病(ALL)、またはヴァルデンストレームマクログロブリン血症(Waldenstrom's Macroglobulinemia)(WM)を含む、請求項26に記載の医薬組成物
【請求項30】
請求項1~16の何れか一項に記載の二重特異性ポリペプチド複合体を含むキット。
【請求項31】
前記キットはCD19に関連した疾患または状態の検出、診断、予後、または治療に用いられる、請求項30に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年9月22日に提出された国際特許出願第PCT/CN2017/103032の優先権を主張するものである。
【0002】
本開示は、一般に、TCR定常領域に融合した抗体可変領域を含む二重特異性抗CD3×CD19ポリペプチド複合体に関する。
【背景技術】
【0003】
二重特異性抗体は、新たなカテゴリーの治療用抗体となりつつある。これらは、異なる2つの標的または1つの標的表面の異なる2つのエピトープに結合して、個々の抗体の効果よりも優れた相加効果または相乗効果を生み出すことができる。DVD-Ig、CrossMab、BiTEなどの新規な二重特異性の形式を設計するのに抗体操作という多大な労力が注がれている(Spiess et al., Molecular Immunology, 67(2), pp.95-106 (2015))。しかしながら、現在、これら形式は安定性、溶解性、短い半減期、および免疫原性に様々な制限がある場合がある。
【0004】
これらの二重特異性抗体形式の中でも、IgG様二重特異性抗体は、一方の腕で標的Aに結合し、他方の腕で標的Bに結合するのが一般的な形式である。構造的には天然のIgGと同様の大きさと形状を持っているが、半分が抗体A、半分が抗体Bで作られている。下方調節の進行を容易にするため、そのような二重特異性分子を通常のIgGと同様に単一宿主細胞から高い発現量と正しい会合形態を持って容易に作製することができることが望ましい。しかしながら、同源の軽鎖・重鎖対合と2つの異なる半抗体の会合体を自動制御することができない。あらゆる種類の無作為な誤対合の結果、生成物が有意に不均一になることがある。
【0005】
Fc領域に「ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)」(Ridgway et al., Protein Engineering, 9(7), pp.617-21(1996); Merchant et al., Nature Biotechnology, 16(7), pp.677-681(1998))、 静電法 (Gunasekaran et al., Journal of Biological Chemistry, 285(25), pp.19637-19646 (2010))、あるいは陰性状態設計(Kreudenstein et al., mAbs, 5(5), pp.646-654 (2013); Leaver-Fay et al., Structure, 24(4), pp.641-651 (2016))などの突然変異を導入することにより、2つの異なる重鎖の好ましいヘテロ二量体会合体が得られた。しかしながら、それぞれ個々の抗体の軽鎖・重鎖の選択的対合はいまだに難題である。軽鎖と重鎖の界面(interface)は、可変領域(VH-VL)と定常領域(CH1-CL)を含む。同源の対合を促進するために、いくつかの方法が直交界面の設計に適用された。Rocheは、CH1とCLのドメインを交換して、CrossMabプラットフォームを作製した(Schaefer et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 108(27), pp.11187-11192 (2011)), MedImmuneは代替的にジスルフィド結合を導入した (Mazor et al., mAbs, 7(2), pp.377-389 (2015))。AmgenはさらにCH1-CL領域に静電気を起こして(Liu et al., Journal of Biological Chemistry, 290(12), pp.7535?7562 (2015)), そしてLilly (Lewis et al., Nature Biotechnology, 32(2), pp.191-198 (2014))及びGenentech (Dillon et al., mAbs, 9(2), pp.213-230 (2017))は、可変領域と定常領域の両方に突然変異を導入した。
【0006】
ヒトCD19は免疫グロブリンスーパーファミリーに属するI型膜貫通タンパク質である(Carter et al., Curr Dir Autoimmun, 7:4-32 (2004))。ヒトCD19はほとんどのB細胞表面で発現するが、血漿細胞、幹細胞、または正常な骨髄系統の表面では検出されない(Tedder, Nat Rev Rheumatol, 5(10):572-577 (2009))。CD19は、B細胞受容体(BCR)依存シグナル伝達およびB細胞受容体独立シグナル伝達の両方を調節することにより本来のB細胞シグナル伝達閾値を確定することに大きく関与する(Wang et al., Experimental Hematology & Oncology, 1:36 (2012))。CD19はCD20よりも幅広く発現する。CD19の発現パターンは、遅発性から攻撃性の形態を持つ亜種のB細胞リンパ腫すべてを含むB細胞悪性腫瘍、並びにB細胞慢性リンパ性白血病、および非T細胞型急性リンパ芽球性白血病に維持され、リツキシマブでは標的できない急性リンパ芽球性白血病(ALL)などの初期B細胞の腫瘍標識を標的することができる。リンパ腫治療について数種のCD19モノクローナル抗体が検討されている(米国特許出願公開第20140072587A1号、米国特許第8,242,252B2号、および米国特許第8,097,703B2号)。
【0007】
CD3 T細胞共受容体は、1つのCD3γ鎖、1つのCD3δ鎖、及び2つのCD3ε鎖という4つの個別の分子鎖からなるタンパク質複合体である。これら4つの分子鎖は、T細胞受容体(TCR)として知られる分子とζ鎖に会合してTリンパ球内の活性化シグナルを生成する。TCR、ζ鎖、およびCD3分子はTCR複合体を構成し、サブユニットとしてのTCRは抗原を認識して結合し、下位単位としてのCD3は抗原刺激をシグナル伝達経路に伝達して最終的にT細胞活性を調節する。CD3タンパク質は、実質すべてのT細胞に存在する。CD3-TCR複合体は、自然免疫応答および適応免疫応答の両方においてT細胞機能を調節し、また細胞性免疫機能および液性免疫機能をも調節する。これらは、病原体生物を排除すること、および広範囲の細胞毒性効果により腫瘍増殖を制御することを含む。ヒトCD3に特異的なマウスモノクローナル抗体、例えばOKT3(Kung et al., Science, 206: 347-9 (1979))は治療用に開発された第一世代のCD3抗体であった。OKT3は強い免疫抑制能を持っていたが、臨床での使用はその免疫原性と有糸分裂の可能性に関連した深刻な副作用により妨げられた(Chatenoud, Nature Reviews, 3:123-132 (2003))。OKT3は抗グロブリン応答を誘導して、それ自体の素早い排除と中和を促進した(Chatenoud et al., Eur. J. Immunol., 137:830-8 (1982))。また、OKT3はインビトロでのT細胞増殖とサイトカイン生成を誘導し、インビボでは多量のサイトカイン放出につながった(Hirsch et al., J. Immunol, 142: 737-43 (1989))。このような深刻な副作用により、移植でOKT3の使用をより普及させること、また自己免疫など他の臨床分野にその使用を拡大することが制限された。
【0008】
CD3およびCD19を標的する二重特異性抗体は、同時にT細胞とB細胞に結合することができる。この二重特異性抗体がCD3陽性T細胞とCD19陽性B細胞にひとたび結合すると、細胞溶解シナプスが形成される。次いで、細胞毒性T細胞の顆粒からパーフォリンとグランザイムの放出により細胞毒性が誘導される。後者は、悪性B細胞のアポトーシスと溶解を誘導する。
【0009】
望ましい発現量とインビボでの半減期を有するCD3とCD19に対する二重特異性分子を設計する必要性が高まっている。そのような二重特異性抗CD3×CD19ポリペプチド複合体は癌を含むCD19に関連した疾患に対して有用である。
【発明の概要】
【0010】
一態様では、本開示は、第二の抗原結合部分に会合した第一の抗原結合部分を含む二重特異性ポリペプチド複合体を提供する。前記二重特異性ポリペプチド複合体において、
前記第一の抗原結合部分は、
N末端からC末端に、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域(C1)に動作可能に結合する第一の抗体の第一の重鎖可変領域(VH1)を含む第一のポリペプチド、および
N末端からC末端に、第二のTCR定常領域(C2)に動作可能に結合する第一の抗体の第一の軽鎖可変領域(VL1)を含む第二のポリペプチドを含み、
ここで、C1は配列番号1を含む操作されたCβを含み、C2は配列番号2を含む操作されたCαを含み、
配列番号1のアミノ酸C48と配列番号2のアミノ酸C41は、非天然の鎖間ジスルフィド結合を形成することができ、
C1とC2は二量体を形成することができ、前記非天然の鎖間ジスルフィド結合は前記二量体を安定させることができ、そして
前記第二の抗原結合部分は、
抗体重鎖CH1ドメインに動作可能に結合する第二の抗体の第二の重鎖可変領域(VH2)、および
抗体軽鎖定常(CL)ドメインに動作可能に結合する前記第二の抗体の第二の軽鎖可変領域(VL2)を含み、
ここで、前記第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の一方は抗CD3結合部分であり、他方は抗CD19結合部分であり、
前記抗CD3結合部分は抗CD3抗体に由来し、前記抗CD3抗体は、
a)配列番号3を含む重鎖CDR1、b)配列番号4を含む重鎖CDR2、c)配列番号5を含む重鎖CDR3、d)配列番号6を含むκ軽鎖CDR1、e)配列番号7を含むκ軽鎖CDR2、および配列番号8を含むκ軽鎖CDR3を含み、
前記抗CD19結合部分は抗CD19抗体に由来し、前記抗CD19抗体は、
a)配列番号9を含む重鎖CDR1、b)配列番号10を含む重鎖CDR2、c)配列番号11を含む重鎖CDR3、d)配列番号12を含むκ軽鎖CDR1、e)配列番号13を含むκ軽鎖CDR2、およびf)配列番号14を含むκ軽鎖CDR3を含み、そして
前記第一の抗原結合部分と前記第二の抗原結合部分の誤対合は、前記第一の抗原結合部分と前記第二の抗原結合部分の両方が天然のFabの対部分である場合に起こる可能性よりも少ない。
【0011】
特定の実施形態では、前記二重特異性ポリペプチド複合体の抗CD3結合部分は、配列番号15を含む重鎖可変領域配列と配列番号17を含む軽鎖可変領域配列を含む抗CD3抗体に由来する。
【0012】
特定の実施形態では、前記二重特異性ポリペプチド複合体の抗CD19結合部分は、配列番号19を含む重鎖可変領域配列と配列番号21を含む軽鎖可変領域配列を含む抗CD19抗体に由来する。
【0013】
特定の実施形態では、前記二重特異性ポリペプチド複合体は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号29という4つのポリペプチド配列の組み合わせを含む。
【0014】
特定の実施形態では、前記二重特異性ポリペプチド複合体は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号30という4つのポリペプチド配列の組み合わせを含む。
【0015】
一態様では、本開示は、ある部分に接合した本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を含む接合体を提供する。
【0016】
一態様では、本開示は、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体をコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0017】
一態様では、本開示は、本明細書で提供されるポリヌクレオチドを含む単離ベクターを提供する。
【0018】
一態様では、本開示は、本明細書で提供される単離ポリヌクレオチドまたは本明細書で提供される単離ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0019】
一態様では、本開示は、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を発現させる方法を提供する。前記方法は、前記二重特異性ポリペプチド複合体が発現する条件で本明細書で提供される宿主細胞を培養することを含む。
【0020】
一態様では、本開示は、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を含む組成物を提供する。
【0021】
一態様では、本開示は、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体と薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0022】
一態様では、本開示は、CD19に関連した疾患または状態の治療を必要とする対象において、前記疾患または状態を治療する方法を提供する。前記方法は、治療有効量の本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を前記対象に投与することを含む。特定の実施形態では、第一の抗原と第二の抗原の両方が調節されると前記疾患または状態を軽減、除去、治療、または予防することができる。
【0023】
特定の実施形態では、第一のVHは、抗体V/C結合のC末端断片を含み、かつ配列番号23のアミノ酸配列(LEDLKNVFPP)を有する第一の結合ドメインでCβに動作可能に結合し、第一のVLは、TCR V/C結合のN末端断片を含み、かつ配列番号24のアミノ酸配列(KPDIQNPDP)を有する第二の結合ドメインでCαに動作可能に結合する。
【0024】
特定の実施形態では、前記第一の抗原結合部分は第一の二量体化ドメインに結合し、前記第二の抗原結合部分は第二の二量体化ドメインに結合し、前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは会合している。特定の実施形態では、前記会合は、結合部、ジスルフィド結合、水素結合、静電相互作用、塩架橋、疎水性-親水性相互作用、またはこれらの組み合わせによる。
【0025】
特定の実施形態では、前記第一の二量体化ドメインおよび/または前記第二の二量体化ドメインは、抗体ヒンジ領域の少なくとも一部を含み、前記抗体ヒンジ領域は、任意によりIgG1、IgG2、またはIgG4に由来する。
【0026】
特定の実施形態では、C1は操作されたCβを含み、前記第一の二量体化ドメインは、配列番号25 (YGPPCPPCPAPEFLGGP)を含む第三の結合ドメインで前記操作されたCβに動作可能に結合される。
【0027】
特定の実施形態では、前記第二の二量体化ドメインは、前記第二の抗原結合部分の重鎖可変領域に動作可能に結合される。
【0028】
特定の実施形態では、前記前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは異なり、ホモ二量体化を妨げる、かつ/またはヘテロ二量体化を促進するように会合している。
【0029】
特定の実施形態では、前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは、「ノブ・イントゥ・ホール」、疎水性相互作用、静電相互作用、親水性相互作用、または高められた柔軟性により会合してヘテロ二量体を形成することができる。
【0030】
他の態様では、本開示は、疾患または状態の検出、診断、予後、または治療のための本明細書で提供されるポリペプチド複合体を含むキットを提供する。
【0031】
本発明の上記の特徴および他の特徴、並びに利点は、以下に示すいくつかの実施形態の詳細な記述からさらに明らかになる。以下の記述は、添付の図面を参照しつつ行う。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、試験した抗体形式の概略図を示す。抗CD3抗体T3と抗CD19抗体U4の両方を開発した。T3の定常領域(CLおよびCH1)をTCRの定常領域で置換して、通常の抗体に直交する固有の軽鎖-重鎖界面を設計した。Fcドメインの「ノブ・イントゥ・ホール」突然変異と結合したTCR改変T3と天然のU4を用いて二重特異性抗体形式E17とF16を設計した。
図2A-2D】図2A図2Dは、抗体FvとTCR定常領域を融合する経路を提供する抗体FvモデルとTCR構造を重ね合わせた図を示す。図2Aは、研究室で開発した抗CD3抗体T3の配列に基づいて構築された抗体Fv構造モデルを示す。図2Bは、PDB 4L4Tに由来するTCR構造を示す。図2Cは、TCR可変領域に重ね合わせた抗体Fv構造モデルを異なる方向から示す。図2Dに示すように、重ね合わせた図のTCR可変領域を除去することにより粗キメラタンパク質を作製する。結合領域の重なっている残基により結合領域の設計が補助された。抗体VL鎖とTCRα鎖は白色で示した。VHとβ鎖は黒色で示した。
図3A図3Aは、天然のTCRα鎖の配列と、突然変異させたシステイン残基を持つ対応する配列を示す。TRAC_Humanは、α鎖定常領域の天然の配列である。4L4T_Alpha_Crystalは、鎖間ジスルフィド結合を形成することができるS55C突然変異を持つ結晶構造の配列(PDBコード4L4T)である。灰色の領域は、本発明のキメラタンパク質の主鎖として用いられる定常領域である。
図3B図3Bは、天然のTCRβ鎖の配列と突然変異させたシステイン残基を持つ対応する配列を示す。
図4A-4B】図4A図4Bは、N-グリコシル化を除去したTCRのCα定常領域とCβ定常領域の配列および番号を示す。図4Aは、TCRのα定常領域の配列および番号を示す。図4Bは、TCRのβ定常領域の配列および番号を示す。
図5図5は、カニクイザルCD19形質導入細胞株WBP701.CHO-K1.cpro1.FL.C9とCHO-K1親細胞株のフローサイトメトリーによるヒストグラムを示す。
図6図6は、W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPのSDS-PAGEを示す。M:タンパク質マーカー;帯1:W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SP、非還元;帯3:W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SP、還元。
図7図7は、W3438-T3U4.F16-1.uIgG4のSEC-HPLCクロマトグラムを示す。
図8図8は、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのSDS-PAGEを示す。M:タンパク質マーカー;帯1:W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SP、非還元;帯2:W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SP、還元。
図9図9は、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのSEC-HPLCクロマトグラムを示す。
図10A-10B】図10A図10Bは、FACSによるW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのRamos細胞(図10A)とJurkat細胞(図10B)の結合を示す。
図11A-11B】図11A図11Bは、FACSによるW3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPのRamos細胞(図11A)とJurkat細胞(図11B)の結合を示す。
図12図12は、FACSによるW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのカニクイザルCD19発現細胞との結合を示したものである。
図13図13は、ELISAによるW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのカニクイザルCD3への結合を示す。
図14A-14B】図14A図14Bは、Ramos細胞(図14A)とJurkat細胞(図14B)の結合により測定されたW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのヒトCD19およびCD3との親和性を示す。
図15A-15B】図15A~15Bは、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのCD19およびCD3(図15A)、ならびにW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの陰性対照(図15B)との二重結合を示す。
図16A-16B】図16A図16Bは、Raji細胞表面のW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの細胞毒性活性(図16A)とRaji細胞表面のW3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPの細胞毒性活性(図16B)を示す。
図17A-17B】図17A図17Dは、CD19+標的細胞の存在/非存在下でのT細胞表面のCD69およびCD25の発現を示す。CD4+T細胞サブセットにおけるCD69発現T細胞の百分率(図17A);CD8+T細胞サブセットにおけるCD69+発現T細胞の百分率(図17B);
図17C-17D】CD4+T細胞サブセットにおけるCD25発現T細胞の百分率(図17C);CD8+T細胞サブセットにおけるCD25発現T細胞の百分率(図17D)。
図18A-18B】図18A図18Dは、CD19+標的細胞の存在/非存在下でのT細胞のIFN-γおよびTNF-αサイトカイン放出を示す。CD4+T細胞サブセットにおけるIFN-γの放出(図18A);CD4+T細胞サブセットにおけるTNF-αの放出(図18B);
図18C-18D】CD8+T細胞サブセットにおけるIFN-γの放出(図18C);CD8+T細胞サブセットにおけるTNF-αの放出(図18D)。
図19A-19B】図19A図19Bは、ヒト血清中でのW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの安定性を示す。示した日における血清インキュベートW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SP試料のRamos細胞との結合(図19A);示した日における血清インキュベートW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SP試料のJurkatとの結合(図19B)。
図20図20は、ELISAによるW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのC1Qに対する結合を示す。IgG1抗体をアッセイ対照として用いた。
図21図21は、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPを異なる投与量でRaji異種移植片腫瘍を持つ混合PBMCヒト化マウスに投与した後の腫瘍容積のグラフを示す。データ点は群の平均を示し、誤差範囲は平均の標準誤差(SEM)を示す。無関係のIgG4抗体を陰性対照として用いた。
図22図22は、1mg/kgの単回投与後におけるカニクイザル血清中のW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SP濃度を示す。2匹のサルに由来する血清試料をELISAにより検出した。
図23A-23B】図23A図23Bは、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの投与前後を含むサル#1に由来する血清試料(図23A)およびサル#2に由来する血清試料(図23B)中の抗薬物抗体(ADA)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示の以下の記載は、本開示の様々な実施形態を例示することのみを意図している。
【0034】
定義
【0035】
本明細書で用いられる冠詞「a」、「an」、および「the」は、1つ以上(すなわち少なくとも1つ)の冠詞の文法上の目的語を指すのに用いられる。例えば、「a polypeptide complex」は1つのポリペプチド複合体または2つ以上のポリペプチド複合体を意味する。
【0036】
本明細書で用いられる用語「約」または「ほぼ」は、ある量、レベル、値、数、周波数、百分率、寸法、大きさ、量、重量、または長さに対して30、25、20、25、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%変動するような量、レベル、値、数、周波数、百分率、寸法、大きさ、量、重量、または長さを指す。特定の実施形態では、用語「約」または「ほぼ」が数値の前にある場合は、その数値プラスまたはマイナス15%、10%、5%、または1%の範囲を指す。
【0037】
本開示を通して、特に文脈で必要とされない限り、用語「含む」、「含み」、および「含んでいる」は、記述された工程または要素あるいは工程または要素の群を含むことを含意するが、任意の他の工程または要素あるいは工程または要素の群を排除しないものと理解される。「からなる」は、「からなる」という表現の後に何が続こうとそれを含みかつそれに限定されることを意味する。従って、用語「からなる」は、列挙した要素が必要または必須であり、他の要素は存在していないことを示す。「から本質的になる」は、その表現の後に列挙された任意の要素を含み、列挙した要素について本開示で指定された活性または作用を阻害しない、あるいはそれらに寄与しない他の要素に限定されることを意味する。従って、用語「から本質的になる」は、列挙した要素が必要または必須であるが、他の要素は任意であり、列挙した要素の活性または作用に影響を及ぼすか否かに応じて存在してもしなくてもよいことを示す。
【0038】
本開示を通して、「一実施形態」、「一実施の形態」、「一特定の実施形態」、「関連する一実施形態」、「特定の一実施形態」、「追加の一実施形態」、「さらなる実施形態」、あるいはこれらの組み合わせへの言及は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、または特性が本開示の少なくとも一実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書を通して様々な箇所で上記の表現が現れた場合、必ずしもすべて同じ実施形態を指すわけではない。さらに、これらの特定の特徴、構造、または特性は、1つ以上の実施形態で任意の好適なやり方で組み合わせてもよい。
【0039】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は本明細書では互いに言い換え可能であり、アミノ酸残基の重合体、アミノ酸残基の複数の重合体の会合体を指す。この用語は、1種以上のアミノ酸残基が対応する天然起源のアミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸重合体、天然起源のアミノ酸重合体、および非天然のアミノ酸重合体にあてはまる。用語「アミノ酸」は、天然起源のアミノ酸、合成アミノ酸、および天然起源のアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類縁体とアミノ酸模倣物を指す。天然起源のアミノ酸は、遺伝暗号によってコードされたもの、およびアミノ酸が後に修飾されたもの、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類縁体は天然起源のアミノ酸と同じ化学的基本構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素を持つ化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。そのような類縁体は修飾R基(例えば、ノルロイシン)または修飾ペプチド主鎖を持つが、天然起源のアミノ酸と同じ化学的基本構造を保持している。α炭素は、カルボニルなどの官能基に結合する1つ目の炭素原子を指す。β炭素は、2つ目のα炭素に結合した炭素原子を指し、この命名体系では続けてギリシャ文字のアルファベット順に炭素を命名する。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を持つが、天然起源のアミノ酸と同様に機能する化学化合物を指す。用語「タンパク質」は、典型的には大きいポリペプチドを指す。用語「ペプチド」は、典型的には短いポリペプチドを指す。ポリペプチド配列は、通常ポリペプチド配列の左側をアミノ末端(N末端)、ポリペプチド配列の右側をカルボキシル末端(C末端)と記載している。本明細書で用いられるように「ポリペプチド複合体」は、会合して特定の機能を行う1種以上のポリペプチドを含む複合体を指す。特定の実施形態では、ポリペプチドは免疫に関連する。
【0040】
本明細書で用いられるように用語「抗体」は、特定の抗原に結合する任意の免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ポリクロナール抗体、多重特異性抗体、または二重特異性(2価の)抗体を包含する。天然の完全な抗体は、2つの重鎖と2つの軽鎖を含む。各重鎖は、可変領域(「HCVR」)と第一、第二、および第三の定常領域(CH1、CH2、およびCH3)からなり、各軽鎖は、可変領域(「LCVR」)と定常領域(CL)からなる。哺乳類の重鎖はα、δ、ε、γ、およびμに分類され、哺乳類の軽鎖はλまたはκに分類される。抗体は「Y」形状を有し、2つの重鎖の第二および第三の定常領域からなるYの柄はジスルフィド結合により互いに結合している。Yの各腕は、単一の軽鎖の可変領域と定常領域に結合した単一の重鎖の可変領域と第一の定常領域を含む。軽鎖および重鎖の可変領域は、抗原結合に関与する。これら両方の鎖の可変領域は、一般に、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの超可変性ループ(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む軽(L)鎖CDR、HCDR1、HCDR2、HCDR3を含む重(H)鎖CDR)を含む。抗体のCDR境界は、Kabat、Chothia、またはAl-Lazikani (Al-Lazikani, B., Chothia, C., Lesk, A. M., J. Mol. Biol., 273(4), 927 (1997); Chothia, C. et al., J Mol Biol. Dec 5;186(3):651-63 (1985); Chothia, C. and Lesk, A.M., J.Mol.Biol., 196,901 (1987); Chothia, C. et al., Nature. Dec 21-28; 342(6252):877-83 (1989); Kabat E.A. et al., National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))の規約により規定または同定されてもよい。これら3つのCDRは、フレームワーク領域(FR)として知られる隣接部分に挟まれている。フレームワーク領域は、CDRよりもよく保存されており、超可変ループを支える足場材料を形成している。それぞれのHCVRとLCVRは、4つのFRを含み、CDRとFRはFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配置されている。重鎖と軽鎖の定常領域は、抗原結合に関与しないが、様々なエフェクター機能を示す。抗体は、重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づいてクラスに割り当てられる。抗体の5つの主要クラス、すなわちアイソタイプはIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMであり、それぞれα、δ、ε、γ、およびμ重鎖の存在により特徴づけられる。主要な抗体クラスのいくつかは、IgG1(γ1重鎖)、IgG2(γ2重鎖)、IgG3(γ3重鎖)、IgG4(γ4重鎖)、IgA1(α1重鎖)、またはIgA2(α2重鎖)などのサブクラスに分けられる。
【0041】
本明細書で用いられるように、抗体に関する用語「可変領域」は、1つ以上のCDRを含む抗体可変領域またはその断片を指す。可変領域は完全な可変領域(HCVRまたはLCVR)を含んでいてもよいが、完全な可変領域よりも短いが抗原との結合能あるいは抗原結合部位形成能を保持しえている可能性もある。
【0042】
本明細書で用いられるように用語「抗原結合部分」は、1つ以上のCDRを含む抗体の一部、または抗原に結合するが完全な天然の抗体構造を含まない任意の他の抗体断片から形成された抗体断片を指す。抗原結合部分の例としては、これらに限定されないが、可変ドメイン、可変領域、二重特異性抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化二重特異性抗体(ds二重特異性抗体)、多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、および2価ドメイン抗体が挙げられる。抗原結合部分は、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合することができる。特定の実施形態では、抗原結合部分は、1種以上の異なるヒト抗体に由来するフレームワーク領域にグラフトされる特定のヒト抗体に由来する1つ以上のCDRを含んでいてもよい。抗原結合部分のより詳細な形式については、Spiess et al, 2015 (Supra), and Brinkman et al., mAbs, 9(2), pp.182-212 (2017)に記載されており、これらの全内容を引用により本明細書に組み込む。
【0043】
抗体に関して「Fab」は、可変領域および単一の重鎖の第一の定常領域にジスルフィド結合によりに会合する単一の軽鎖(可変領域と定常領域の両方)からなる抗体の部分を指す。特定の実施形態では、軽鎖および重鎖の両方の定常領域はTCR定常領域により置換されている。
【0044】
「Fab’」は、ヒンジ領域の一部を含むFab断片を指す。
【0045】
「F(ab’)2」はFab’の二量体を指す。
【0046】
抗体に関して「フラグメント・ディフィカルト(fragment difficult、Fd)」は、軽鎖と結合してFabを形成することができる重鎖断片のアミノ末端の半分を指す。
【0047】
抗体に関して「Fc」は、ジスルフィド結合を介して第二の重鎖の第二および第三の定常領域に結合した第一の重鎖の第二の定常領域(CH2)と第三の(CH3)定常領域からなる抗体の部分を指す。抗体のFc部分は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)などの様々なエフェクター機能に関与するが抗原結合には機能しない。
【0048】
抗体に関して「ヒンジ領域」は、CH1ドメインをCH2ドメインに結合させる重鎖分子の部分を含む。このヒンジ領域は約25個のアミノ酸残基を含み、柔軟性があるので、2つのN末端抗原結合領域は独立して動くことができる。
【0049】
本明細書で用いられるように「CH2ドメイン」は、例えば、従来の付番スキーム(アミノ酸244~360、Kabat付番システム;およびアミノ酸231~340、EU付番システム;Kabat, E., et al., U.S. Department of Health and Human Services, (1983)を参照のこと)による、IgG抗体のおおよそアミノ酸244~アミノ酸360にある重鎖分子の部分を含む。
【0050】
「CH3ドメイン」は、IgG分子のCH2ドメインからC末端に延び、約108個のアミノ酸を含む。ある免疫グロブリンクラス、例えば、IgMはCH4領域をさらに含む。
【0051】
抗体に関して「Fv」は、完全な抗原結合部位を担持する抗体の最も小さい断片を指す。Fv断片は、単一の重鎖の可変領域に結合した単一の軽鎖の可変領域からなる。dsFvを含む複数のFv設計が提供されている。これらの設計では、導入されたジスルフィド結合により2つのドメイン間の会合が高められており、ペプチドリンカーを用いてscFvを形成して2つのドメインを単一のポリペプチドとして結合させてもよい。対応する免疫グロブリン重鎖または軽鎖の可変領域と定常領域に会合した免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の可変領域を含むFv構築物が作製されている。また、Fvを多量化して、二重特異性抗体や三重特異性抗体が形成されている(Maynard et al., Annu Rev Biomed Eng 2 339-376 (2000))。
【0052】
「ScFab」は、ポリペプチドリンカーを介して軽鎖に結合させたFdを有する融合ポリペプチドを指す。これにより、単一鎖Fab断片(scFab)が形成される。
【0053】
「TriFab」は、Fab機能を持つ3つのユニットからなる3価の二重特異性融合タンパク質を指す。TriFabは、非対称のFab様部分に融合する2つの通常のFabを有する。
【0054】
「Fab-Fab」は、第一のFabの腕のFd鎖を第二のFabの腕のFd鎖のN末端に融合させることにより形成された融合タンパク質を指す。
【0055】
「Fab-Fv」は、HCVRをFd鎖のC末端に融合し、LCVRを軽鎖のC末端に融合することにより形成された融合タンパク質を指す。「Fab-dsFv」分子は、HCVRドメインとLCVRドメインにドメイン間ジスルフィド結合を導入することで形成されてもよい。
【0056】
「MAb-Fv」または「IgG-Fv」は、1つのFc鎖のC末端と個別に発現させたか、あるいはもう一方のC末端に融合させたLCVRドメインにHCVRドメインを融合させて、ドメイン間ジスルフィド結合によって安定させたFvを有する3価の二重特異性IgG-Fv(mAb-Fv)融合タンパク質を得ることで形成された融合タンパク質を指す。
【0057】
「ScFab-Fc-scFv2」および「ScFab-Fc-scFv」は、単一の鎖FabとFcとジスルフィド安定化Fvドメインを融合させて形成された融合タンパク質を指す。
【0058】
「付加IgG(Appended IgG)」は、二重特異性(Fab)2-Fcの形式を形成するのにIgGに融合させたFabの腕を有する融合タンパク質を指す。これは、コネクタありまたはなしで、IgG分子のC末端またはN末端に融合させたFabを有する「IgG-Fab」または「Fab-IgG」を形成してもよい。特定の実施形態では、付加IgGは、IgG-Fab4の形式にさらに改変してもよい(Brinkman et al., 2017(上記参照)を参照のこと)。
【0059】
「DVD-Ig」は、第二の特異性を持つさらなるHCVRドメインとLCVRドメインを融合させることで形成した二重可変ドメイン抗体を指す。「CODV-Ig」は、2つのHCVRドメインと2つのLCVRドメインが可変HCVR-LCVRドメイン(HCVRA-HCVRBおよびLCVRB-LCVRAの順、またはHCVRB-HCVRAおよびLCVRA-LCVRBの順の何れかで(N末端からC末端に)配置されている)の交差対合を可能にするような方法で繋がっている関連する形式を指す。
【0060】
「CrossMab」は、無修飾軽鎖と対応する無修飾重鎖との対合および修飾軽鎖と対応する修飾重鎖との対合により軽鎖の誤対合を低減した抗体を得る技術を指す。
【0061】
「BiTE」は、二重特異性T細胞結合分子であり、第二の特異性を有するHCVR-LCVR方向の第二のscFvに結合させた第一の抗原特異性を有するLCVR-HCVR方向の第一のscFvを含む。
【0062】
「WuXiBody」は、抗体の可変領域とTCRの定常領域を有する可溶性キメラタンパク質を含む二重特異性抗体であり、TCR定常領域のサブユニット(例えば、αドメインおよびβドメイン)は操作されたジスルフィド結合により繋がっている。
【0063】
アミノ酸配列(または核酸配列)に関して「百分率(%)配列同一性」は、配列を整列させ、任意によりギャップを導入して最大数の同一アミノ酸(または核酸)を達成した後の基準配列のアミノ酸(または核酸)残基と同一の候補配列中のアミノ酸(または核酸)残基の百分率として規定される。アミノ酸残基の保存的置換は、同一残基として見なしてもそうでなくてもよい。百分率アミノ酸(または核酸)配列同一性を決定するための配列は、例えば、以下のような公開されているツールを用いて達成されてもよい:BLASTN, BLASTp (U.S. National Center for Biotechnology Information (NCBI)のウエブサイトで入手可能、またAltschul S.F. et al., J. Mol. Biol., 215:403-410 (1990)を参照のこと; Stephen F. et al., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402 (1997)), ClustalW2 (European Bioinformatics Instituteのウエブサイトで入手可能、またHiggins D.G. et al., Methods in Enzymology, 266:383-402 (1996)を参照のこと; Larkin M.A. et al., Bioinformatics (英国オックスフォード)、23(21): 2947-8 (2007))、およびALIGNまたはMegalign (DNASTAR)ソフトウェア。当業者はツールによって提供されている基準のパラメータを用いてもよく、あるいは例えば、好適なアルゴリズムを選択することにより配列に適切なようにパラメータをカスタマイズしてもよい。
【0064】
本明細書で用いられるように「抗原」すなわち「Ag」は、細胞培養物または動物において抗体の生成またはT細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、または物質を指す。「抗原」は、細胞培養物(例えば、ハイブリドーマ)に加える組成物(例えば、癌特異的タンパク質を含む組成物)あるいは動物に注入または吸収させる組成物を含む。抗原は、異種抗原により誘導されるものを含む特異的な液性免疫または細胞性免疫(例えば、抗体)の生成物と反応する。
【0065】
「エピトープ」すなわち「抗原決定基」は、結合剤(例えば、抗体)が結合する抗原の領域を指す。エピトープは、近接するアミノ酸から形成されてもよく(線状または連続エピトープともいう)、あるいはタンパク質の三次折りたたみにより並列している近接しないアミノ酸から形成されてもよい(構成または立体構造エピトープともいう)。近接するアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的にはタンパク質表面の一次アミノ酸残基に沿って線状に配置されており、近接するアミノ酸の小分節は、主要組織適合抗原(MHC)分子を有する抗原結合から消化されてもよく、あるいは変性溶媒にさらされた状態で保持されてもよい。一方、三次折りたたみによって形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒での処理により失われる。エピトープは、典型的には、少なくとも3個、より一般的には、固有の空間高次構造において少なくとも5個、約7個、または約8~10個のアミノ酸を含む。
【0066】
本明細書で用いられる用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、2つの分子(例えば、抗体と抗原)間の非無作為の結合反応を指す。特定の実施形態では、本明細書で提供されるポリペプチド複合体と二重特異性ポリペプチド複合体は、結合親和性(KD)が10-6M以下(例えば、5×10-7M以下、2×10-7M以下、10-7M以下、5×10-8M以下、2×10-8M以下、10-8M以下、5×10-9M以下、2×10-9M以下、10-9M以下、または10-10M以下)の抗原と特異的に結合する。本明細書で用いられるように、KDは、会合速度に対する解離速度の比(koff/kon)を指し、例えば、Biacoreなどの装置を用いた表面プラズモン共鳴法で決定されてもよい。
【0067】
用語「動作可能に結合(operably link)」または「動作可能に結合された」は、意図したように機能することができる関係にあるような2つ以上の対象とする生物学的配列の、スペーサーまたはリンカー付きまたはなしの並置を指す。ポリペプチドに関して用いる場合、結合した生成物が意図していた生物学的機能を持つようにポリペプチド配列が結合されていることを意味する。例えば、抗原結合活性を持つ安定した生成物を提供するため、抗体可変領域を定常領域に動作可能に結合させてもよい。この用語はまた、ポリヌクレオチドに関しても用いてもよい。一例として、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが調節配列(例えば、プロモーター、転写促進因子、サイレンサー配列など)に動作可能に結合されている場合、これらのポリヌクレオチドからのポリペプチドの調節された発現が可能であるようにこれらのポリヌクレオチド配列は結合されていることを意味する。
【0068】
アミノ酸配列(例えば、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質)に関して用いられる場合の用語「融合」または「融合している」は、例えば、化学結合または組み換え手段により天然には存在しない単一のアミノ酸配列に変換される2つ以上のアミノ酸配列の組み合わせを指す。融合アミノ酸配列は、2つのコードポリヌクレオチド配列の遺伝子組み換えにより産生されてもよく、組み換えポリヌクレオチドを含む構築物を宿主細胞に導入する方法で発現させてもよい。
【0069】
本明細書に用いられるように、用語「スペーサー」は、1、2、3、4、または5個のアミノ酸残基を有する人工アミノ酸配列を指す。または、ペプチド結合により結合された5~15、20、30、50個あるいはそれ以上の長さのアミノ酸残基を用いて1つ以上のポリペプチドを結合する。スペーサーは二次構造を持っていてもいなくてもよい。スペーサー配列は当該分野で知られており、例えば以下を参照のこと:Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993); Poljak et al., Structure 2:1121-1123 (1994)。当該分野で知られている何れの好適なスペーサーを用いてもよい。
【0070】
用語「抗原特異性」は、抗原結合分子によって選択的に認識される特定の抗原またはエピトープを指す。
【0071】
本明細書で用いられるように、アミノ酸残基関して用語「置換」は、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質における1つ以上のアミノ酸の他のアミノ酸との天然起原の置換あるいは誘導された置換を指す。ポリペプチドにおける置換により、ポリペプチドの機能が弱まる、高まる、あるいはなくなることがある。
【0072】
置換は、また、アミノ酸配列に関して「保存的置換」であってもよい。これは、同様の生理化学特性を有する側鎖を有する異なるアミノ酸残基でアミノ酸残基を置換すること、あるいはポリペプチドの活性に重要ではないアミノ酸の置換を指す。例えば、非極性側鎖を持つアミノ酸残基(例えば、Met、Ala、Val、Leu、およびIle、Pro、Phe、Trp)間、帯電してない極性側鎖を持つ残基(例えば、Cys、Ser、Thr、Asn、Gly、およびGln)間、酸性の側鎖を持つ残基(例えば、Asp、Glu)間、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えば、His、Lys、およびArg)間、β分岐状側鎖を持つアミノ酸(例えば、Thr、Val、およびIle)間、硫黄含有側鎖を持つアミノ酸(例えば,CysおよびMet)間、芳香族側鎖を持つ残基(例えば、Trp、Tyr、His、およびPhe)間で保存的置換が行われてもよい。特定の実施形態では、置換、欠失、または付加を「保存的置換」と見なしてもよい。挿入または削除されるアミノ酸の数は、約1~5の範囲であってもよい。保存的置換は、一般的に、タンパク質の高次構造に有意な変化を起こさず、従って、タンパク質の生物学的活性を保持することができる。
【0073】
本明細書で用いられるように、アミノ酸残基に関して用語「突然変異」または「突然変異した」は、アミノ酸残基の置換、挿入、または付加を指す。
【0074】
本明細書で用いられるように「T細胞」は、細胞媒介免疫で重要な役割を果たすリンパ球の種類を指す。これには、ヘルパーT細胞(例えば、CD4+T細胞、Tヘルパー1型T細胞、Tヘルパー2型T細胞、Tヘルパー3型T細胞、Tヘルパー17型T細胞)、細胞毒性T細胞(例えば、CD8+T細胞)、メモリーT細胞(例えば、中央記憶T細胞(TCM細胞)、エフェクターメモリーT細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)、および滞在型メモリーT細胞(TRM)(CD8+またはCD4+の何れか)、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、および抑制性T細胞が含まれる。
【0075】
天然の「T細胞受容体」または天然の「TCR」は、不変のCD3鎖と会合してシグナル伝達を媒介することができる複合体を形成するヘテロ二量体T細胞表面タンパク質である。TCRは免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、単一の重鎖と単一の軽鎖を持つ半抗体に類似している。天然のTCRは細胞外部分、貫通膜部分、および細胞内部分を持つ。TCRの細胞外ドメインは、膜近位定常領域と膜遠位可変領域を有する。
【0076】
本明細書で用いられるように、用語「対象」、「個体」、「動物」、または「患者」は、疾患または障害の診断、予測、緩和、予防および/または治療が必要なヒトまたは非ヒト動物(哺乳類または霊長類を含む)を指す。哺乳類の対象としては、ヒト、家畜動物、農場の動物、動物園の動物、スポーツに使用する動物、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ブタ、ウシ、クマなど)が挙げられる。
【0077】
二重特異性ポリペプチド複合体
【0078】
一態様では、本開示は二重特異性ポリペプチド複合体を提供する。本明細書で用いられるように、用語「二重特異性」は、異なる抗原または同じ抗原の異なるエピトープに特異的に結合することができる2つの抗原結合部分があることを意味する。本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、第二の抗原結合部分と会合する第一の抗原結合部分を含み、その一方がCD3に特異的に結合し、他方がCD19に特異的に結合する。換言すると、第一の抗原結合部分はCD3に特異的に結合してもよく、第二の抗原結合部分はCD19に特異的に結合してもよい。あるいは、第一の抗原結合部分はCD19に特異的に結合してもよく、第二の抗原結合部分はCD3に特異的に結合してもよい。
【0079】
特定の実施形態では、本開示は、第二の抗原結合部分と会合した第一の抗原結合部分を含む二重特異性ポリペプチド複合体を提供する。
前記第一の抗原結合部分は、
N末端からC末端に、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域(C1)に動作可能に結合する第一の抗体の第一の重鎖可変領域(VH1)を含む第一のポリペプチド、および
N末端からC末端に、第二のTCR定常領域(C2)に動作可能に結合する第一の抗体の第一の軽鎖可変領域(VL1)を含む第二のポリペプチドを含み、
ここで、C1は配列番号1を含む操作されたCβを含み、C2は配列番号2を含む操作されたCαを含み、
配列番号1のアミノ酸C48と配列番号2のアミノ酸C41は、非天然の鎖間ジスルフィド結合を形成することができ、
C1とC2は二量体を形成することができ、前記非天然の鎖間ジスルフィド結合は前記二量体を安定にすることができ、そして
前記第二の抗原結合部分は、
抗体重鎖CH1ドメインに動作可能に結合する第二の抗体の第二の重鎖可変領域(VH2)、および
抗体軽鎖定常(CL)ドメインに動作可能に結合する前記第二の抗体の第二の軽鎖可変領域(VL2)を含み、
ここで、前記第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の一方は抗CD3結合部分であり、他方は抗CD19結合部分であり、
前記抗CD3結合部分は抗CD3抗体に由来し、前記抗CD3抗体は、
a)配列番号3を含む重鎖CDR1、b)配列番号4を含む重鎖CDR2、c)配列番号5を含む重鎖CDR3、d)配列番号6を含むκ軽鎖CDR1、e)配列番号7を含むκ軽鎖CDR2、および配列番号8を含むκ軽鎖CDR3を含み、
前記抗CD19結合部分は抗CD19抗体に由来し、前記抗CD19抗体は、
a)配列番号9を含む重鎖CDR1、b)配列番号10を含む重鎖CDR2、c)配列番号11を含む重鎖CDR3、d)配列番号12を含むκ軽鎖CDR1、e)配列番号13を含むκ軽鎖CDR2、およびf)配列番号14を含むκ軽鎖CDR3を含み、そして
前記第一の抗原結合部分と前記第二の抗原結合部分の誤対合する可能性は、前記第一の抗原結合部分と前記第二の抗原結合部分の両方が天然のFabの対部分である場合に起こる可能性よりも少ない。
【0080】
特定の実施形態では、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、TCR定常領域に由来する配列を含む第一の抗原結合部分を含むが、第二の抗原結合部分はTCR定常領域に由来する配列を含まない。
【0081】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、誤対合した重鎖可変領域と軽鎖可変領域を有する可能性が有意に低い。何らかの理論に束縛されるわけではないが、第一の抗原結合部分で安定させたTCR定常領域は互いに特異的に会合することができ、従って、意図したVH1とVL1の非常に特異的な対合に寄与する一方、意図した抗原結合部位を提供しない他の可変領域とのVH1またはVL1の望ましくない誤対合を妨げると考えられる。
【0082】
特定の実施形態では、第二の抗原結合部分は、VH2に動作可能に結合させた抗体の定常領域CH1と、VL2に動作可能に結合させた抗体の軽鎖定常領域をさらに含む。従って、第二の抗原結合部分はFabを含む。
【0083】
第一、第二、第三、および第四の可変領域(例えば、VH1、VH2、VL1、およびVL2)が1つの細胞に発現している場合は、得られる二重特異性タンパク質生成物が正しい抗原結合特異性を有するようにVH1がVL1と特異的に対合し、VH2がVL2と特異的に対合するのが非常に望ましい。しかしながら、ハイブリッドハイブリドーマ(またはクアドローマ)などの既存の技術では、VH1、VH2、VL1、およびVL2のランダム対合が起こり、その結果、最大10の異なる種が生成されるが、そのうちの1種のみが機能的二重特異性抗原結合分子である。これにより、生成の収率が低下するだけでなく、目標とする生成物の精製が複雑になる。
【0084】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の両方が天然のFabの対部分である場合に比べて、その可変領域が誤対合する可能性が低いという点で例外的である。具体例では、第一の抗原結合ドメインはVL1-C2と対合したVH1-C1を含み、第二の抗原結合ドメインはVL2-CLと対合したVH2-CH1を含む。意外にも、C1とC2は互いに優先的に会合し、CLまたはCH1とは会合しにくいことが分かった。これにより、C1-CH、C1-CL、C2-CH、およびC2-CLなどの望ましくない対合の形成が阻害され、有意に低減される。C1-C2の特異的会合の結果、VH1はVL1に特異的に対合することで第一の抗原結合部分が得られ、CH1がCLに特異的に対合することでVH2-VL2の特異的対合が可能になり、第二の抗原結合部分が得られる。従って、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分は、不一致を生じにくく、例えば、VH1-VL2、VH2-VL1、VH1-VH2、VL1-VL2の誤対合は、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の両方が天然のFabの対部分である場合、例えば、VH1-CH1、VL1-CL、VH2-CH1、およびVL2-CLの形態に比べて有意に低減される。
【0085】
特定の実施形態では、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、細胞から発現させると、誤対合の生成物が有意に少ない(例えば、誤対合の生成物が少なくとも1、2、3、4、5個あるいはそれ以上少ない)、かつ/または同等の条件で発現させた基準分子よりも生成収率が有意に高い(例えば、収率が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、あるいはそれ以上高い)。この基準分子は、C1の代わりに天然のCH1、C2の代わりに天然のCLを有することを除いて二重特異性ポリペプチド複合体と同一である。
【0086】
操作されたCαおよびCβを含む抗原結合部分
【0087】
本明細書で提供される第一の抗原結合部分は、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域に動作可能に結合第一の抗体の重鎖可変領域と、第二のTCR定常領域に動作可能に結合された第一の抗体の軽鎖可変領域を含み、第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域は少なくとも1つの非天然の鎖間ジスルフィド結合により会合している。第一の抗原結合部分は、少なくとも2つのポリペプチド鎖を含み、各ポリペプチド鎖は、抗体由来の可変領域とTCR由来の定常領域を含む。従って、第一の抗原結合部分は、これらのTCR定常領域の対合に動作可能に、それぞれ結合された重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む。特定の実施形態では、第一の抗原結合部分のTCR定常領域の対合はα/β TCR定常領域である。本明細書で提供されるポリペプチド複合体のTCR定常領域は、互いに会合することができ、少なくとも1つの非天然ジスルフィド結合を介して二量体を形成する。
【0088】
意外にも、少なくとも1つの非天然ジスルフィド結合を有する本明細書で提供される第一の抗原結合部分は、組み換えで発現して所望の高次構造にすることができることが分かっている。この高次構造は、TCR定常領域二量体を安定させ、かつ抗体の可変領域の抗原結合活性を向上させる。また、第一の抗原結合部分は、定法の抗体遺伝子操作、例えば、グリコシル化部位の修飾、およびいくつかの天然の配列の除去に寛容であることが分かっている。さらに、第一の抗原結合部分にTCR定常領域があるため、抗原結合配列の誤対合が最小あるいは実質的になしで容易に発現・会合させることができる二重特異性形式に本明細書で提供されるポリペプチド複合体を組み込むことができる。本明細書で提供される第一の抗原結合部分と構築物のさらなる利点は以下の開示でより明らかになる。
【0089】
要するに、本明細書で提供される第一の抗原結合部分は、N末端からC末端に、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域(C1)に動作可能に結合された第一の抗体の第一の重鎖可変領域(VH)を含む第一のポリペプチド、およびN末端からC末端に、第二のTCR定常領域(C2)に動作可能に結合された第一の抗体の第一の軽鎖可変領域(VL)を含む第二のポリペプチドを含み、C1は配列番号1を含む操作されたCβを含み、C2は配列番号2を含む操作されたCαを含み、配列番号1のアミノ酸C48と配列番号2のアミノ酸C41は、非天然の鎖間ジスルフィド結合を形成することができ、C1とC2は二量体を形成することができ、C1とC2の間の非天然の鎖間ジスルフィド結合は前記二量体を安定させることができる。
【0090】
TCR定常領域
【0091】
本明細書で提供される第一の抗原結合部分は、TCR由来のαまたはβ定常領域を含む。
【0092】
図3Aおよび図3Bは、TCRのα鎖およびβ鎖の天然のTCR定常領域のアミノ酸配列を示す。明瞭さと一貫性のため、これら配列のアミノ酸残基のそれぞれに図4Aおよび図4Bで番号を付与し、本開示においてはこのような番号を用いて特定のTCR定常領域の特定のアミノ酸残基について述べる。
【0093】
ヒトTCRα鎖定常領域はTRAC(NCBI登録番号:P01848、あるいは配列番号31のアミノ酸配列を持つ)として知られている。
【0094】
ヒトTCRβ鎖定常領域は、TRBC1およびTRBC2として知られる2つの異なる変形体を有する(IMGT nomenclature)(また、Toyonaga B, et al., PNAs, Vol. 82, pp.8624-8628, Immunology (1985)を参照のこと)。TRBC1配列(配列番号33)を主鎖に選んで本明細書で開示されるポリペプチド複合体を設計した。
【0095】
具体的には、天然のTCRβ鎖は、位置74に天然のシステイン残基を含む(図4Bを参照のこと)。この天然のシステイン残基は対合しておらず、従って、天然のα/β-TCRでジスルフィド結合を形成しない。本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、このTCRβ鎖の位置74にある天然のシステイン残基は突然変異させてアラニン残基になっている。これは、不正な鎖内対合または鎖間対合を避けるために有用な場合がある。特定の実施形態では、特定の実施形態における置換は、インビトロでのTCRの再折りたたみ効率を向上させる場合がある。
【0096】
本開示では、本明細書で提供される第一の抗原結合部分の第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域は、二量体を形成することができる。この二量体は、これらTCR定常領域の間に、二量体を安定させることができる少なくとも1つの非天然の鎖間ジスルフィド結合を含む。
【0097】
本明細書で用いられるように、用語「二量体」は、ポリペプチドあるいはタンパク質などの2つの分子によって共有結合または非共有結合の相互作用により形成される会合構造を指す。ホモ二量体またはホモ二量体化は2つの同一の分子により形成され、ヘテロ二量体またはヘテロ二量体化は2つの異なる分子によって形成される。第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域により形成される二量体はヘテロ二量体である。
【0098】
「突然変異」アミノ酸残基は、置換、挿入、または付加により、対応する天然のTCR定常領域でその天然の対応する残基とは異なるアミノ酸残基を指す。例えば、野生型のTCR定常領域の特定の位置にあるアミノ酸残基を「天然の」残基と言う場合、その突然変異されたものは天然の残基とは異なるが、そのTCR定常領域の同じ位置にある任意の残基である。突然変異残基は、同じ位置の天然の残基を置換する、あるいは天然の残基の前に挿入されてその本来の位置を占める異なる残基であってもよい。
【0099】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、第一のTCR定常領域および/または第二のTCR定常領域は、非天然の鎖間ジスルフィド結合の形成に関与する1つ以上の突然変異アミノ酸残基を含むように遺伝子操作されている。TCR定常領域にそのような突然変異残基を導入するため、TCR領域のコード配列を操作して、例えば、天然の残基をコードするコドンを突然変異残基をコードするコドンで置換する、あるいは天然の残基のコドンの前に突然変異残基をコードするコドンを挿入してもよい。
【0100】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、システイン残基への置換後に2つのTCR定常領域の間に非天然の鎖間ジスルフィド結合が形成されるように、第一のTCR定常領域および/または第二のTCR定常領域を1つ以上の突然変異システイン残基を含むように遺伝子操作した。
【0101】
非天然の鎖間ジスルフィド結合は第一の抗原結合部分を安定させることができる。安定化におけるそのような効果は様々な方法で具体化してもよい。例えば、突然変異アミノ酸残基または非天然の鎖間ジスルフィド結合の存在により、ポリペプチド複合体は安定して発現し、かつ/または多量に発現でき、かつ/または会合して所望の生物学的活性(例えば、抗原結合活性)を持つ安定した複合体になり、かつ/または会合して多量の所望の生物学的活性を有する所望の安定した複合体となることができる。当該分野で知られた適切な方法(例えば、SDS-PAGEに表示された分子量、示差走査熱量測定法(DSC)で測定した熱安定性、あるいは示差走査蛍光定量法(DSF))を用いて、第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域を安定させる鎖間ジスルフィド結合の能力を評価してもよい。例示の一例では、生成物の分子量が第一のポリペプチドと第二のポリペプチドを合わせた分子量と同等である場合、本明細書で提供される安定した第一の抗原結合部分の形成はSDS-PAGEによって確認してもよい。特定の実施形態では、本明細書で提供される第一の抗原結合部分は、その熱安定性が天然のFabの50%、60%、70%、80%、または90%以上であれば安定である。特定の実施形態では、本明細書で提供される第一の抗原結合部分は、その熱安定性が天然のFabの熱安定性と同等であれば、安定である。
【0102】
何らかの理論に束縛されるわけではないが、第一の抗原結合部分の第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域の間に形成される非天然の鎖間ジスルフィド結合は、これらTCR定常領域のヘテロ二量体を安定にすることができ、これにより、正しい折りたたみの量、構造的安定性および/またはヘテロ二量体と第一の抗原結合部分の発現量を高める。T細胞表面の膜表面に固定された天然のTCRとは異なり、天然のTCR細胞外ドメインのヘテロ二量体は、三次元構造では抗体Fabに類似しているにも関わらず安定性がかなり低いことが分かっている。事実、用いる可溶条件での天然のTCRの不安定性は、結晶構造の解明を妨げる大きな障害である(Wang, Protein Cell, 5(9), pp.649-652 (2014)を参照のこと)。TCR定常領域にシステイン(Cy)突然変異の対合を導入し、これによって鎖間非天然ジスルフィド結合を形成することができるようにすることで、第一の抗原結合部分は安定して発現し、その間、抗体の可変領域の抗原結合能が保持される。
【0103】
突然変異残基を含むTCR定常領域はまた、「操作された」TCR定常領域とも言う。特定の実施形態では、ポリペプチド複合体の第一のTCR定常領域(C1)は操作されたTCRα鎖(Cα)を含み、第二のTCR定常領域(C2)は操作されたTCRβ鎖(Cβ)を含む。本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、C1は操作されたCβを含み、C2は操作されたCαを含む。
【0104】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、操作されたTCR定常領域は、第一の操作されたTCR定常領域および/または第二の操作されたTCR定常領域の接触界面内に1つ以上の突然変異システイン残基を含む。
【0105】
本明細書で用いられるように、用語「接触界面(contact interface)」は、ポリペプチドが互いに相互作用/会合するポリペプチド表面の特定の領域を指す。接触界面は、相互作用が生じた際に接触または会合する対応するアミノ酸残基と相互作用することができる1つ以上のアミノ酸残基を含む。接触界面のアミノ酸残基は連続した配列にあってもなくてもよい。例えば、界面が三次元である場合、界面内のアミノ酸残基は線状配列の異なる位置に離れてあってもよい。
【0106】
特定の実施形態では、1つ以上のジスルフィド結合は、操作されたCαと操作されたCβの間に形成されてもよい。特定の実施形態では、Cβの突然変異システイン残基はS56C(配列番号1のアミノ酸C48に対応する)であり、Cαの突然変異システイン残基はT49C(配列番号2のアミノ酸C41に対応する)であり、これらシステイン残基の対合は非天然の鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。
【0107】
本明細書の出願を通して用いられるように、TCR定常領域に関する「XnY」は、TCR定常領域のn番目のアミノ酸残基X(本明細書で提供される図4Aおよび図4Bの番号に基づく)がアミノ酸残基Yにより置換されていることを意味するものである。ここで、XおよびYはそれぞれ、特定のアミノ酸残基の1文字で表したものである。なお、数字nは単に図4Aおよび図4Bに示された番号に基づいたものであり、実際の位置とは異なる場合がある。例示のため、配列番号1に示すCβ(S56C)(N69Q)の配列を一例として用いる。SのCへの置換は配列番号1の48番目の残基で生じているが、この残基は図4Bの付番システムに基づく56番目の残基として示されている。従って、SのCへの置換はS48CではなくS56Cとして示されている。同様に、NのQへの置換は図4Aおよび図4Bの付番システムに基づくN69Qとして示されている。特に断りのない限り、アミノ酸残基の置換を示すこの規則は本開示のすべてのTCR定常領域に当てはまる。
【0108】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、操作されたCβは配列番号1を含むか、もしくは配列番号1であり、操作されたCαは配列番号2を含むか、もしくは配列番号2である。
配列番号1および2のアミノ酸配列を以下に示す。
配列番号1
【表1】
配列番号2
【表2】
【0109】
本明細書で提供されるペプチド複合体では、天然のTCR定常領域に存在する1つ以上の天然のグリコシル化部位は、本開示で提供される第一の抗原結合部分で修飾(例えば、除去)されている。本明細書で用いられるように、ポリペプチド配列に関して用語「グリコシル化部位」は、糖鎖(例えば、オリゴ糖構造)を結合させることができる側鎖を有するアミノ酸残基を指す。ポリペプチド様抗体のグリコシル化は、典型的には、N-結合またはO-結合のいずれかである。N-結合は、例えば、トリペプチド配列(例えば、アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-トレオニン)のアスパラギン残基などのアスパラギン残基の側鎖への糖鎖の結合を指す。ここで、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である。O-結合のグリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはトレオニンへの糖であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1種の結合を指す。天然のグリコシル化部位の除去は、従来、上記のトリペプチド配列(N-結合のグリコシル化部位の場合)のうちの1つ以上、あるいはセリンまたはトレオニン残基(O-結合のグリコシル化部位の場合)のうちの1つ以上が置換されるようにアミノ酸配列を変化させることで達成することができる。
【0110】
本明細書で提示される第一の抗原結合部分では、例えば、第一のTCR定常領域および/または第二のTCR定常領域の操作されたTCR定常領域中に、少なくとも1つの天然のグリコシル化部位が欠けている。何らかの理論に束縛されるわけではないが、本明細書で提供される第一の抗原結合部分は、タンパク質の発現と安定性に影響を及ぼすことなくグリコシル化部位のすべてまたは一部の除去に耐えられると考えられる。これに対して、従来の教示では、Cα(すなわち、N34、N68,およびN79)およびCβ(すなわち、N69)などTCR定常領域でのN-結合グリコシル化部位の存在はタンパク質の発現と安定に必要である(Wu et al., Mabs, 7:2, 364-376, 2015を参照のこと)と考えられる。
【0111】
本明細書で提供される第一の抗原結合部分では、N34、N68、およびN79の操作されたCαにN-グリコシル化部位がない。グリコシル化部位がない操作されたCα配列は配列番号2を含むか、もしくは配列番号2である。本明細書で提供される第一の抗原結合部分では、N69の操作されたCβにN-グリコシル化部位がない。グリコシル化部位がない操作されたCβ配列(TRBC1)は配列番号1を含むか、もしくは配列番号1である。
【0112】
本明細書で提供される第一の抗原結合部分では、TCRに由来する定常領域は、抗体に由来する可変領域に動作可能に結合される。
【0113】
特定の実施形態では、第一の抗体の可変領域(VH)は第一の結合ドメインで第一のTCR定常領域(C1)と融合し、第一の抗体の可変領域(VL)は第二の結合ドメインで第二のTCR定常領域(C2)と融合している。
【0114】
本明細書で用いられるように、「結合ドメイン(Conjunction domain)」は2つのアミノ酸配列が融合または結合している境界あるいは境界領域を指す。特定の実施形態では、第一の結合ドメインは抗体のV/C結合部のC末端断片の少なくとも一部を含み、第二の結合ドメインはTCRのV/C結合部のN末端断片の少なくとも一部を含む。
【0115】
本明細書で用いられるように、用語「抗体V/C結合部」は、抗体の可変領域と定常領域の境界、例えば、重鎖可変領域とCH1ドメイン、あるいは軽鎖可変領域と軽鎖定常領域との境界を指す。同様に、用語「TCRのV/C結合部」は、TCRの可変領域と定常領域の境界、例えば、TCRのα可変領域と定常領域、あるいはTCRのβ可変領域と定常領域の境界を指す。
【0116】
特定の実施形態では、第一のポリペプチドは、式(I):VH-HCJ-C1のように動作可能に結合されたドメインを含む配列を含み、第二のポリペプチドは、式(II):VL-LCJ-C2のように動作可能に結合されたドメインを含む配列を含み、ここで:
VHは抗体の重鎖可変領域であり;
HCJは上に規定された第一の結合ドメインであり;
C1は上に規定された第一のTCR定常領域であり;
VLは抗体の軽鎖可変領域であり;
LCJは上に規定された第二の結合ドメインであり;
C2は上に規定された第二のTCR定常領域である。
このような実施形態では、C1は配列番号1を含むか、もしくは配列番号1である操作されたCβであり、C2は配列番号2を含むか、もしくは配列番号2である操作されたCαであり、HCJは配列番号23を含む、あるい配列番号23であり、LCJは配列番号24を含むか、もしくは配列番号24である。
【0117】
抗体の可変領域
【0118】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、第二の抗原結合部分に会合した第一の抗原結合部分を含み、その一方はCD3に特異的に結合し、他方はCD19に特異的に結合する。本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、第一の抗原結合部分は第一の抗体の第一の重鎖可変領域(VH1)と第一の軽鎖可変領域(VL1)を含み、第二の抗原結合部分は第二の抗体の第二の重鎖可変領域(VH2)と第二の軽鎖可変領域(VL2)を含み、第一の抗体と第二の抗体は異なっており、抗CD3抗体と抗CD19抗体からなる群より選択される。特定の実施形態では、第一の抗体は抗CD3抗体であり、第二の抗体は抗CD19抗体である。特定の他の実施形態では、第一の抗体は抗CD19抗体であり、第二の抗体は抗CD3抗体である。
【0119】
従来の天然の抗体では、可変領域は、例えば、下記式FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4で表されるように、N末端からC末端に隣接フレームワーク(FR)領域が介在した3つのCDR領域を含む。
【0120】
a)抗CD3結合部分
【0121】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、第一の抗原結合部分または第二の抗原結合部分は抗CD3結合部分である。特定の実施形態では、抗CD3結合部分は、以下の表Aに示す抗CD3抗体WBP3311_2.306.4-z1に由来する。WBP3311_2.306.4-z1抗体のCDR配列を以下に示す。
【表3】
【0122】
WBP3311_2.306.4-z1抗体の重鎖可変領域配列およびκ軽鎖可変領域配列を以下に示す。
【0123】
WBP3311_2.306.4-z1-VH
アミノ酸配列(配列番号15):
【表4】
核酸配列(配列番号16):
【表5】
【0124】
WBP3311_2.306.4-z1-VK
アミノ酸配列(配列番号17):
【表6】
核酸配列(配列番号18):
【表7】
【0125】
CDRは抗原結合に関与することが知られている。
【0126】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、WBP3311_2.306.4-z1の重鎖CDR3配列を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、配列番号5を含む重鎖CDR3を含む。重鎖CDR3領域は抗原結合部位の中心に位置し、従って、抗原と最もよく接触して、抗体の抗原に対する親和性に最も高い自由エネルギーを与えると考えられる。また、重鎖CDR3は、これまでのところ、複数の多様化機構による長さ、アミノ酸組成物、および高次構造の点で抗原結合部位の中で最も多様なCDRであると考えられる(Tonegawa S., Nature. 302:575-81 (1983))。重鎖CDR3の多様性は、大部分の抗体特異性(Xu JL, Davis MM., Immunity. 13:37-45 (2000))と望ましい抗原結合親和性(Schier R, et al., J Mol Biol. 263:551-67 (1996))を提供するのに十分である。
【0127】
本明細書で提供される抗CD3結合部分は、その抗CD3結合部分がCD3に特異的に結合することができる限り、好適なフレームワーク領域(FR)配列をさらに含む。
【0128】
ヒト化抗CD3抗体WBP3311_2.306.4-z1は、CD3発現細胞(例えば、CD4 T細胞)に対する特異的結合親和性を有し、ヒトT細胞を活性化して、TNF-αおよびIFN-γのサイトカイン放出を誘導することができる。
【0129】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、配列番号15を含む重鎖可変領域配列と、配列番号17を含む軽鎖可変領域配列を含む。
【0130】
本明細書で提供される抗CD3結合部分の結合親和性はKD値によって表すことができる。KD値は、抗原と抗原結合分子との結合が平衡に達する時の会合速度に対する解離速度の比(koff/kon)を表す。抗原結合親和性(例えば、KD)は、例えば、フローサイトメトリーアッセイを含む当該分野で周知の好適な方法を用いて適切に決定されてもよい。実施形態によっては、異なる濃度での抗体の抗原への結合は、フローサイトメトリーによって決定されてもよい。まず、決定された平均蛍光強度(MFI)を抗体濃度に対してプロットし、次いで、Prismバージョン5(GraphPad Software, カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて特異的結合蛍光強度(Y)と抗体濃度(X)の依存度を一部位飽和式Y=Bmax*X/(KD+X)に当てはめてKD値を算出してもよい。ここで、Bmaxは試験した抗体の抗原に対する最大特異的結合を指す。
【0131】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、細胞表面に発現したヒトCD3あるいは組み換えヒトCD3に特異的に結合することができる。CD3は、細胞表面に発現した受容体である。組み換えCD3は、組み換えによって発現し、細胞膜と会合していない可溶性CD3である。様々な組み換え技術により組み換えCD3を作製してもよい。一例として、ヒトCD3(NP_000724.1) (Met1-Asp126)の細胞外ドメインをコードするCD3のDNA配列は、発現ベクターのC末端でポリヒスチジンタグと融合させて、293E細胞に形質導入して発現させ、Ni親和性クロマトグラフィーで精製してもよい。
【0132】
実施形態によっては、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、フローサイトメトリーアッセイで測定した5×10-9M未満、4×10-9M未満、3×10-9M未満、2×10-9M未満、10-9M未満、5×10-10M未満、4×10-10M未満、3×10-10M未満、2×10-10M未満、10-10M未満、5×10-11M未満、4×10-11M未満、3×10-11M未満、2×10-11M未満、または10-11M未満の結合親和性(KD)を有する細胞の表面に発現したヒトCD3に特異的に結合することができる。
【0133】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、例えば、細胞表面に発現したカニクイザルCD3、または可溶性組み換えカニクイザルCD3と交差反応する。
【0134】
組み換えCD3または細胞表面に発現したCD3への抗CD3結合部分の結合は、当該分野で知られている方法、例えば、ELISA、ウェスティンブロット、フローサイトメトリーアッセイ、および他の結合アッセイなどのサンドイッチアッセイにより測定されてもよい。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、ELISAによる0.01nM未満、0.02nM未満、0.03nM未満、0.04nM未満、0.05nM未満、0.06nM未満、0.07nM、または0.08nM未満のEC50(すなわち、50%の結合濃度)で組み換えヒトCD3と特異的に結合する。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、フローサイトメトリーアッセイによる0.5nM未満、0.6nM未満、0.7nM未満、0.8nM未満、0.9nM未満、1nM未満、2nM未満、3nM未満、4nM未満、5nM未満、6nM未満、7nM未満、8nM未満、9nM未満、または10nM未満のEC50で細胞表面に発現したヒトCD3と特異的に結合する。
【0135】
特定の実施形態では、抗CD3結合部分は、ヒトCD3に対する結合親和性と同程度の結合親和性でカニクイザルCD3に結合する。例えば、例示的な抗体WBP3311_2.306.4のカニクイザルCD3との結合は、ヒトCD3に対する親和性すなわちEC50値と同程度である。
【0136】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、ELISAによる0.001nM未満、0.005nM未満、0.01nM未満、0.02nM未満、0.03nM未満、0.04nM未満、または0.05nM未満のEC50で組み換えカニクイザルCD3に特異的に結合する。
【0137】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、診断および/または治療での使用に十分なヒトCD3に対する特異的結合親和性を有する。複数の治療方針は、TCRシグナル伝達を標的することにより、特に、臨床で用いられる抗ヒトCD3モノクローナル抗体によりT細胞免疫を調節する。
【0138】
b) 抗CD19抗体
【0139】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、第一の抗原結合部分または第二の抗原結合部分は抗CD19結合部分である。特定の実施形態では、抗CD19結合部分は、以下の表Bに示す抗CD19抗体W7011-4.155.8-z1-P15に由来する。抗CD19抗体のCDR配列を以下に示す。
【表8】
【0140】
WBP7011_4.155.8-z1-P15抗体の重鎖可変領域配列およびκ軽鎖可変領域配列を以下に示す。
【0141】
W7011-4.155.8-z1-P15-VH
アミノ酸配列(配列番号19):
【表9】
核酸配列(配列番号20):
【表10】
【0142】
W7011-4.155.8-z1-P15-VK
アミノ酸配列(配列番号21):
【表11】
核酸配列(配列番号22):
【表12】
【0143】
CDRは抗原結合に関与することが知られている。
【0144】
特定の実施形態では、本明細書で開示される抗CD19結合部分は、抗CD19抗体W7011-4.155.8-z1-P15の重鎖CDR3配列を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD19結合部分は、配列番号11を含む重鎖CDR3配列を含む。重鎖CDR3領域は抗原結合部位の中心に位置し、従って、抗原と最もよく接触して、抗体の抗原に対する親和性に最も高い自由エネルギーを与えると考えられる。また、重鎖CDR3は、これまでのところ、複数の多様化機構による長さ、アミノ酸組成物、および高次構造の点で抗原結合部位の中で最も多様なCDRであると考えられる(Tonegawa S., Nature. 302:575-81 (1983))。重鎖CDR3の多様性は、大部分の抗体特異性(Xu JL, Davis MM., Immunity. 13:37-45 (2000))と望ましい抗原結合親和性(Schier R, et al., J Mol Biol. 263:551-67 (1996))を提供するのに十分である。
【0145】
本明細書で提供される抗CD19結合部分は、その抗CD19結合部分がCD19に特異的に結合することができる限り、好適なフレームワーク領域(FR)配列をさらに含む。
【0146】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD19結合部分は、配列番号19を含む重鎖可変領域配列と配列番号21を含む軽鎖可変領域配列を含む。
【0147】
実施形態によっては、本明細書で提供される抗CD19結合部分は、フローサイトメトリーアッセイで測定した結合親和性(KD)が5×10-9M未満、1×10-9M未満、9×10-10M未満、8×10-10M未満、7×10-10M未満、6×10-10M未満、5×10-10M未満、4×10-10M未満、3×10-10M未満、2×10-10M未満、1×10-10Mで細胞表面に発現したヒトCD19に特異的に結合することができる。
【0148】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD19結合部分は、カニクイザルCD19、例えば、細胞表面で発現したカニクイザルCD19、あるいは可溶性組み換えカニクイザルCD19と交差反応する。
【0149】
抗CD19結合部分の細胞表面に発現したCD19への結合は、当該分野で知られている方法、例えば、ELISA、ウェスティンブロット、フローサイトメトリーアッセイ、および他の結合アッセイなどのサンドイッチアッセイにより測定されてもよい。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD19結合部分は、フローサイトメトリーアッセイによるEC50が0.01nM未満、0.02nM未満、0.03nM未満、0.04nM未満、0.05nM未満、0.1nM未満、0.2nM未満、0.3nM未満、0.4nM未満、0.5nM未満、0.5nM未満、0.6nM未満、0.7nM未満、0.8nM未満、0.9nM未満、または1nM未満で細胞表面に発現したヒトCD19に特異的に結合する。
【0150】
特定の実施形態では、抗CD19結合部分は、ヒトCD19の結合親和性と同程度の結合親和性でカニクイザルCD19に結合する。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD19結合部分は、フローサイトメトリーアッセイによるEC50が0.2nM未満、0.5nM未満、0.8nM未満、1nM未満、2nM未満、または3nM未満で細胞表面に発現したカニクイザルCD19に特異的に結合する。
【0151】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD19結合部分は、Fab-ZapアッセイによるEC50が1pM未満、2pM未満、3pM未満、4pM未満、5pM未満、6pM未満、7pM未満、8pM未満、9pM未満、10pM未満、11pM未満、12pM未満、13pM未満、14pM未満、15pM未満、16pM未満、17pM未満、18pM未満、19pM未満、20pM未満、21pM未満、22pM未満、23pM未満、24pM未満、25pM未満、30pM未満、35pM未満、40pM未満、45pM未満、または50pM未満でCD19発現細胞により内部移行される。
【0152】
二重特異性ポリペプチド複合体
【0153】
特定の実施形態では、第一の抗原結合部分および/または第二の抗原結合部分は、2価、3価、4価などの多価である。本明細書で用いられるように、用語「価数」は所与の分子における抗原結合部位の指定された数を指す。従って、用語「2価」、「4価」、および「6価」は、抗原結合分子においてそれぞれ2つ、4つ、および6つの結合部位があることを示す。2つの結合部位がいずれも同じ抗原または同じエピトープと特異的に結合する場合、2価の分子は単一特異性であってもよい。同様に、例えば、2つの結合部位が第一の抗原(またはエピトープ)に対して単一特異性であり、第三の結合部位が第二の抗原(またはエピトープ)に対して特異的である場合、3価の分子は二重特異性であってもよい。特定の実施形態では、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体の第一の抗原結合部分および/または第二の抗原結合部分は、同じ抗原またはエピトープに対して特異的な少なくとも2つの結合部位を持つ2価、3価、または4価の部位であってもよい。特定の実施形態では、これにより、1価のものに比べてより強く抗原またはエピトープと結合することができる。特定の実施形態では、2価の抗原結合部分では、結合部位の第一の価数と結合部位の第二の価数は構造的に同じである(すなわち、同じ配列を持つ)、あるいは構造的に異なる(すなわち、同じ特異性を持つが異なる配列を持つ)。
【0154】
特定の実施形態では、第一の抗原結合部分および/または第二の抗原結合部分は、多価であり、動作可能に結合した、スペーサー付きあるいはなしの2つ以上の抗原結合部位を含む。
【0155】
特定の実施形態では、第二の抗原結合部分は第二の抗体の2つ以上のFabを含む。2つのFabを動作可能に互いに結合させてもよく、例えば、第一のFabを重鎖を介して第二のFabに共有結合させてもよく、その間にはスペーサーがあってもなくてもよい。
【0156】
特定の実施形態では、第一の抗原結合部分は第一の二量体化ドメインに結合し、第二の抗原結合部分は第二の二量体化ドメインに結合している。本明細書で用いられるように、用語「二量体化ドメイン」は、互いに会合して二量体を形成することができる、あるいは、いくつかの例では、2つのペプチドの自発的二量体化を可能にするようなペプチドドメインを指す。
【0157】
特定の実施形態では、第一の二量体化ドメインは第二の二量体化ドメインと会合されてもよい。会合は、例えば、結合部、ジスルフィド結合、水素結合、静電相互作用、塩架橋、疎水性親水性相互作用、またはこれらの組み合わせなどの任意の好適な相互作用、連結、または結合によってなされていてもよい。二量体化ドメインの例としては、これらに限定されないが、抗体ヒンジ領域、抗体CH2ドメイン、抗体CH3ドメイン、および二量体化して互いに会合することができる他の好適なタンパク質単量体が挙げられる。ヒンジ領域、CH2、および/またはCH3ドメインは、IgG1、IgG2、およびIgG4などの任意の抗体アイソタイプに由来していてもよい。
【0158】
「ジスルフィド結合」は、構造R-S-S-R’を持つ共有結合を指す。アミノ酸の1つであるシステインは、(例えば、他のシステイン残基由来の)第二のチオール基とジスルフィド結合を形成することができるチオール基を含む。ジスルフィド結合は、それぞれ2つのポリペプチド鎖にある2つのシステイン残基のチオール基の間で形成されてもよい。これにより、鎖間架橋または鎖間結合が形成される。
【0159】
水素結合は、水素原子が電気陰性度の高い原子(例えば、窒素、酸素、またはフッ素)に共有結合すると2つの極性基の間の静電引力によって形成される。水素結合は、ポリペプチド中で、2つの残基の骨格酸素(例えば、カルコゲン基)とアミド水素(窒素基)、例えば、アスパラギンの窒素基とヒスチジンの酸素基またはアスパラギンの酸素基とリシンの窒素基、の間でそれぞれ形成されてもよい。水素結合はファン・デル・ワールス相互作用よりも強いが、共有結合またはイオン結合よりも弱く、二次構造および三次構造の維持に重要である。例えば、αヘリックスは、アミノ酸残基の空間が位置iとi+4の間に規則的に生じると形成される。βシートは、2つのペプチドが少なくとも2つまたは3つの主鎖の水素結合により連結されると形成される長さが3~10個のアミノ酸のペプチド鎖の伸張部であり、ねじれたひだ状のシートを形成する。
【0160】
静電相互作用は、非共有結合の相互作用であり、イオン性相互作用、水素結合、およびハロゲン結合を含むタンパク質の折りたたみ、安定性、柔軟性、および機能に重要である。静電相互作用は、ポリペプチドにおいて、例えば、リシンとアスパラギン酸との間、リシンとグルタミン酸との間、グルタミン酸とアルギニンとの間、または第一の鎖のグルタミン酸、トリプトファンと第二の鎖のアルギニン、バリン、またはトレオニンとの間に形成されてもよい。
【0161】
塩架橋は、アスパラギン酸またはグルタミン酸のいずれかのアニオン性のカルボン酸基と、リシンまたはアルギニンのグアニジンに由来するカチオン性のアンモニウム(これらは天然のタンパク質構造で反対の電荷を帯びた残基の空間的に近位の対合である)から主に生じる狭い範囲の静電相互作用である。高疎水性界面に帯電した極性残基は、結合が起こりやすい箇所として作用することがある。とりわけ、ヒスチジン、チロシン、およびセリンなどのイオン性側鎖を有する残基もまた、塩架橋の形成に関与することがある。
【0162】
疎水性相互作用は、第一の鎖の1つ以上のバリン、チロシン、およびアラニンと第二の鎖の1つ以上のバリン、ロイシン、およびトリプトファンとの間、あるいは第一の鎖のヒスチジンおよびアラニンと第二の鎖のトレオニンおよびフェニルアラニンとの間に形成されてもよい(Brinkmann, et al, 2017(上記参照)を参照のこと)。
【0163】
特定の実施形態では、第一の二量体化ドメインおよび/または前記第二の二量体化ドメインは、抗体ヒンジ領域の少なくとも一部を含む。特定の実施形態では、第一の二量体化ドメインおよび/または前記第二の二量体化ドメインは、抗体CH2ドメインおよび/または抗体CH3ドメインをさらに含んでいてもよい。特定の実施形態では、第一の二量体化ドメインおよび/または前記第二の二量体化ドメインは、ヒンジ-Fc領域の少なくとも一部、すなわちヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む。特定の実施形態では、第一の二量体化ドメインは、第一のTCR定常領域のC末端に動作可能に結合されてもよい。特定の実施形態では、第二の二量体化ドメインは、第二の抗原結合部分の抗体CH1定常領域のC末端に動作可能に結合されてもよい。
【0164】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、C1は操作されたCβを含み、第一の二量体化ドメインは、配列番号25を含む第三の結合ドメインで操作されたCβに動作可能に結合される。
【0165】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、第一の二量体化ドメインは操作されたTCR定常領域のC末端に動作可能に結合されて、キメラ定常領域を形成する。換言すると、キメラ定常領域は、操作されたTCR定常領域に動作可能に結合された第一の二量体化ドメインを含む。
【0166】
特定の実施形態では、キメラ定常領域は、IgG1、IgG2、IgG4に由来する第一のヒンジ-Fc領域に結合された操作されたCβを含む。そのようなキメラ定常領域の例示的な配列は実施例2に示される。
【0167】
特定の実施形態では、キメラ定常領域は、第一の抗体CH2ドメインおよび/または第一の抗体CH3ドメインをさらに含む。例えば、キメラ定常領域は、第三の結合ドメインのC末端に結合された第一の抗体CH2-CH3ドメインをさらに含む。そのようなキメラ定常領域の例示的な配列は実施例2に示される。
【0168】
キメラ定常領域と第二のTCR定常領域のこのような対合は、本明細書で開示されるポリペプチド複合体を提供するように操作して所望の抗体可変領域と融合させることができるという点で有用である。例えば、抗体重鎖可変領域をキメラ定常領域(C1を含む)に融合させて、本明細書で提供されるポリペプチド複合体の第一のポリペプチド鎖とし、同様に抗体軽鎖可変領域を第二のTCR定常領域(C2を含む)に融合させて、本明細書で提供されるポリペプチド複合体の第二のポリペプチド鎖としてもよい。
【0169】
特定の実施形態では、第二の二量体化ドメインは、ヒンジ領域を含む。ヒンジ領域は、IgG1、IgG2、またはIgG4などの抗体に由来してもよい。特定の実施形態では、第二の二量体化ドメインは、任意により、例えば、ヒンジ-Fc領域など、抗体CH2ドメインおよび/または抗体CH3ドメインをさらに含んでいてもよい。ヒンジ領域は、第二の抗原結合部位(例えば、Fab)の抗体重鎖に結合されてもよい。
【0170】
二重特異性ポリペプチド複合体では、第一の二量体化ドメインと第二の二量体化ドメインは会合して二量体とすることができる。特定の実施形態では、前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは異なっていて、ホモ二量体化を妨げる、かつ/またはヘテロ二量体化を促進するように会合している。例えば、前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは、これらの中でホモ二量体を形成するのではなく、これら2つのドメインは同じではなく、互いの間でヘテロ二量体を優先的に形成するように選択してもよい。特定の実施形態では、前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは、「ノブ・イントゥ・ホール」の形成、疎水性相互作用、静電相互作用、親水性相互作用、または高められた柔軟性により会合してヘテロ二量体とすることができる。
【0171】
特定の実施形態では、前記第一の二量体化ドメインと前記第二の二量体化ドメインは、それぞれ突然変異させてノブ・イントゥ・ホールを形成することができるCH2ドメインおよび/またはCH3ドメインを含む。ノブは、第一のCH2/CH3ポリペプチドの大きい方で小さいアミノ酸残基を置換して得てもよく、穴は、小さいほうで大きい残基を置換して得てもよい。ノブ・イントゥ・ホールの突然変異部位の詳細は、Ridgway et al., 1996(上記参照), Spiess et al., 2015, supra and Brinkmann et al., 2017(上記参照)を参照のこと。
【0172】
二重特異性形式
【0173】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体では、第一の抗原結合部分と第二の結合部分を会合させてIg様構造とする。Ig様構造は、抗原結合のための2つの腕と会合および安定化のための1つの柄を持つY形状の構築物を持つ天然抗体類似物である。天然の抗体に似ているため、インビボ薬物動態、所望の免疫応答および安定性などの様々な利点を持っている可能性がある。本明細書で提供される第二の抗原結合部分に会合した本明細書で提供される第一の抗原結合部分を含むIg様構造は、Ig(例えば、IgG)と同等の熱安定性を有することが分かった。特定の実施形態では、本明細書で提供されるIg様構造は、天然のIgGの少なくとも70%、80%、90%、95%、または100%である。
【0174】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、i)VH1-C1-ヒンジ-CH2-CH3、ii)VL1-C2、iii)VH2-CH1-ヒンジ-CH2-CH3、およびiv)VL2-CLという4つのポリペプチド鎖を含み、C1とC2は少なくとも1つの非天然の鎖間結合を含む二量体を形成することができ、2つのヒンジ領域および/または2つのCH3ドメインは二量体化を容易にすることができる1つ以上の鎖間結合を形成することができる。
【0175】
本明細書で開示される二重特異性ポリペプチド複合体は、他の形式の二重特異性ポリペプチド複合体に比べてインビボの半減期がより長く、製造が比較的容易になっている。
【0176】
二重特異性複合体配列
【0177】
実施形態によっては、二重特異性複合体の第一の抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができ、第二の抗原結合部分はCD19に特異的に結合することができる。他の実施形態では、二重特異性複合体の第一の抗原結合部分はCD19に特異的に結合することができ、第二の抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができる。
【0178】
特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2で示すように、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号29(E17)の4つのポリペプチド配列の組み合わせを含む。特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2で示すように、配列番号26、配列番号27、配列番号28、および配列番号30(F16)の4つのポリペプチド配列の組み合わせを含む。そのような実施形態では、第一の抗原結合部分はCD3に結合し、第二の抗原結合部分はCD19に結合する。E17の設計は二重特異性の2価の抗体であり、F16の設計は抗CD19抗体Fabの2つの繰り返しを持つ二重特異性の3価の抗原結合複合体である。
【0179】
特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、i)第一のキメラ定常領域に動作可能に結合させたVH1、ii)第二のキメラ定常領域に動作可能に結合させたVL1、iii)従来の抗体重鎖定常領域に動作可能に結合させたVH2、およびiv)従来の抗体軽鎖定常領域に動作可能に結合させたVL2の4つのポリペプチド鎖を含む。特定の実施形態では、第一のキメラ定常領域は、それぞれ上に規定されたC1-ヒンジ-CH2-CH3を含んでいてもよい。特定の実施形態では、第二のキメラ定常領域は、それぞれ上に規定されたC2を含んでいてもよい。特定の実施形態では、従来の抗体重鎖定常領域は、それぞれ上に規定されたCH1-ヒンジ-CH2-CH3を含んでいてもよい。特定の実施形態では、従来の抗体軽鎖定常領域は、上に規定されたCLを含んでいてもよい。
【0180】
作製法
【0181】
本開示は、ポリペプチド複合体をコードする単離された核酸またはポリヌクレオチドと、本明細書で提供される二重特異性抗CD3×CD19ポリペプチド複合体を提供する。
【0182】
本明細書で用いられるように、用語「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、および一本鎖または二本鎖のいずれかの形態でのその重合体を指す。特に断りがなければ、この用語は、基準核酸と同様の結合特性を持ち、天然起源のヌクレオチドと同様に代謝される天然のヌクレオチドの周知の類縁体を含むポリヌクレオチドを包含する。特に断りがなければ、特定のポリヌクレオチド配列はまた、これらの保存的修飾変形体(例えば、縮重コドン置換)、アレル、相同分子種、SNP、および相補配列、ならびに明示された配列を暗黙的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの第三の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することで達成されてもよい(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985); and Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994)を参照のこと)。
【0183】
組み換え技術を用いて、本明細書で提供されるポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体をコードする核酸またはポリヌクレオチドを構築してもよい。この目的のため、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブにより)親抗体の抗原結合部分(例えば、CDRまたは可変領域)をコードするDNAを単離して、並べてもよい。同様に、TCR定常領域をコードするDNAを得てもよい。一例として、可変領域(VH)をコードするポリヌクレオチド配列と第一のTCR定常領域(C1)をコードするポリヌクレオチド配列を得て、動作可能に結合して、宿主細胞中で転写および発現させて第一のポリペプチドを産生する。同様に、宿主細胞内で第二のポリペプチドが発現するようにVLをコードするポリヌクレオチド配列を、C1をコードするポリヌクレオチド配列に動作可能に結合する。任意により、1つ以上のスペーサーに対してコードされたポリヌクレオチド配列もまた、他のコード配列に動作可能に結合して所望の生成物を発現させる。
【0184】
コードするポリヌクレオチド配列は、さらに、適切な制御下で第一のポリペプチドと第二のポリペプチドの発現または生成が実行可能なように、任意により発現ベクター内で動作可能に1つ以上の調節配列に結合させてもよい。
【0185】
さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のため、当該分野で知られている組み換え技術を用いてコードするポリヌクレオチド配列をベクターに挿入してもよい。他の実施形態では、本明細書で提供されるポリペプチド複合体と二重特異性ポリペプチド複合体を当該分野で知られている相同組み換えにより作製してもよい。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分は、一般に、シグナル配列、複製起点、1種以上のマーカー遺伝子、転写促進因子要素、プロモーター(例えば、SV40、CMV、EF-1α)、および転写終止配列のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0186】
本明細書で用いられるように、用語「ベクター」は、タンパク質が発現するようにタンパク質をコードするポリヌクレオチドが動作可能に挿入されてもよい媒体を指す。典型的には、この構築物は適切な調節配列も含む。例えば、ポリヌクレオチド分子は、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列および/または部位指向修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(宿主細胞内で所望の転写物/遺伝子を発現することができるようにコード配列に動作可能に結合されている)の5’隣接領域に位置する調節配列を含んでいてもよい。宿主細胞内に運び込まれた遺伝要素が発現するように、ベクターを用いて宿主細胞を形質転換、形質導入、または形質移入してもよい。ベクターの例としては、プラスミド、ファージミド、コスミド、人工染色体(例えば、酵母菌人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC))、バクテリオファージ(例えば、ラムダファージまたはM13ファージ)、および動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして用いられる動物ウイルスのカテゴリーとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポーバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、転写促進因子配列、選択可能要素、およびレポーター遺伝子を含む発現を制御するための様々な要素を含んでいてもよい。また、ベクターは複製起点を含んでいてもよい。また、ベクターは、細胞に入るのを補助する材料を含んでいてもよく、例えば、ウイルス粒子、リポソーム、またはタンパク質被覆が挙げられるが、これらに限定されない。
【0187】
実施形態によっては、ベクター系は、哺乳類系、細菌系、酵母菌系などを含み、プラスミド(これらに限定されないが、例えば、pALTER、pBAD、pcDNA、pCal、pL、pET、pGEMEX、pGEX、pCI、pCMV、pEGFP、pEGFT、pSV2、pFUSE、pVITRO,pVIVO、pMAL、pMONO、pSELECT、pUNO、pDUO、Psg5L、pBABE、pWPXL、pBI、p15TV-L、pPro18、pTD、pRS420、pLexA、pACT2.2が挙げられる)および他の実験室のベクターや市販のベクターを含む。適切なベクターは、プラスミド、またはウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を含んでいてもよい。
【0188】
本明細書で提供されるポリヌクレオチド配列を含むベクターは、クローニングまたは遺伝子の発現のために宿主細胞に導入されてもよい。本明細書で用いられるように、表現「宿主細胞」は、外因性ポリヌクレオチドおよび/またはベクターが導入された細胞を指す。
【0189】
本明細書のベクター内でDNAをクローニングまたは発現するために適切な宿主細胞は、上記の原核生物、酵母菌、または高等真核生物の細胞である。この目的で好適な原核生物はグラム陰性またはグラム陽性生物などの真正細菌を含み、グラム陰性またはグラム陽性生物は、腸内細菌科、例えば、大腸菌などの大腸菌属、エンテロバクタ-属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、ネズミチフス菌などのサルモネラ属、セラチア・マルセッセンスなどのセラチア属、および赤痢菌属、枯草菌およびバチルス・リケニフォルミスなどのバシラス属、緑膿菌などのシュードモナス属、およびストレプトマイセス属を含む。
【0190】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母菌などの真核微生物は、ポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体をコードするベクターにとって好適なクローニングまたは発現宿主である。出芽酵母、すなわち一般的なパン酵母菌は、下等真核宿主微生物の中で最もよく用いられる。しかしながら、複数の他の属、種、および株が一般に利用可能であり、本明細書で有用である。例えば、分裂酵母;クルイベロミセス・ラクチス、クルイベロミセス・フラギリス(ATCC 12,424)、クルイベロミセス・ブルガリカス(ATCC 16,045)、クルイベロミセス・ウィッカラミイ(ATCC 24,178)、クルイベロミセス・ワルティ(ATCC 56,500)、クルイベロミセス・ドロソフィラルム(ATCC 36,906)、クルイベロミセス・サーモトレランス、およびクルイベロミセス・マルシアヌスなどのクルイベロミセス宿主;ヤロウィア(EP 402,226);ピキア酵母(EP 183,070);カンジダ;トリコデルマ・レエシア(EP 244,234);ニューロスポラ・クラッサ;シュワニオミセス・オキシデンタリスなどのシュワニオミセス;ニューロスポラ、アオカビ、トリポクラジウム、およびアスペルギルス宿主(アスペルギルス・ニデュランスおよびアスペルギルス・ニガーなど)などの糸状菌が挙げられる。
【0191】
本明細書で提供されるグリコシル化ポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体にとって好適な宿主細胞は、多細胞生物由来である。無脊椎動物の細胞の例としては、植物および昆虫の細胞が挙げられる。多くのバキュロウイルス株、変異体、および宿主由来の対応する許容される昆虫宿主細胞、例えば、ツマジロクサヨトウ(芋虫)、ネッタイシマカ(蚊)、ヒトスジシマカ(蚊)、キイロショウジョウバエ(ショウジョウバエ)、およびカイコが同定されている。例えば、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルスのL-1変異体およびカイコ核多角体病ウイルスのBm-5株など、形質移入のための様々なウイルス株が公開されている。このようなウイルスを本発明によるウイルスとして、特にツマジロクサヨトウ細胞の形質移入に用いてもよい。綿、トウモロコシ、じゃがいも、大豆、ペチュニア、トマト、およびタバコの植物細胞培養物を宿主として用いてもよい。
【0192】
しかしながら、最も関心が高いのは脊椎動物細胞であり、培養(組織培養)における脊椎動物細胞の増殖は通常の手順となっている。有用な哺乳類の宿主細胞株の例としては、SV40により形質変換されたサル腎臓CV1系統株(COS-7, ATCC CRL 1651);Expi293などのヒト胚腎臓系統株(懸濁液培養物中での増殖用にサブクローンされた293または293細胞、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977));ベイビーハムスター腎臓細胞(BHK, ATCC CCL 10); チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR (CHO, Urlaub et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216 (1980)); マウスセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol.Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587);ヒト頸部上皮性悪性腫瘍細胞(HELA, ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK, ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A, ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138, ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2, HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562, ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad.Sci. 383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4 細胞;およびヒトヘパトーマ系統株(Hep G2)である。
【0193】
宿主細胞は、上記の発現またはクローニングベクターで形質変換されており、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、クローニングベクターの増幅に適するように修飾された従来の栄養培地で培養されてもよい。
【0194】
本明細書で提供されるポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体の生成のため、発現ベクターで形質変換した宿主細胞を様々な培地で培養してもよい。Ham's F10 (Sigma), 最小必須培地(MEM) (Sigma), RPMI-1640 (Sigma), およびダルベッコ改変イーグル培地 (DMEM) (Sigma) など、市販の培地は宿主細胞の培養に好適である。また、Ham et al., Meth.Enz. 58:44 (1979), Barnes et al., Anal.Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4,767,704号; 4,657,866号; 4,927,762号; 4,560,655号; または5,122,469号; WO90/03430; WO87/00195;または米国再発行特許30,985号に記載の培地の何れかを宿主細胞の培養培地として用いてもよい。任意により、これら培地の何れかをホルモンおよび/または他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液(例えば、HEPES)、ヌクレオチド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCIN(登録商標)薬物)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で一般的に存在する無機化合物として規定)、およびグルコースまたは等価のエネルギー源で栄養補充してもよい。また、他の必要なサプリメントを当業者に知られている適切な濃度で含有させてもよい。温度、pHなどの培養条件は、発現に選択した宿主細胞でこれまで用いられたものであり、当業者には自明である。
【0195】
一態様では、本開示は、本明細書で提供されるポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体を発現する方法を提供する。前記方法は、ポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体が発現する条件で本明細書で提供される宿主細胞を培養することを含む。
【0196】
特定の実施形態では、本開示は、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を作製する方法を提供する。前記方法は、a)(1)N末端からC末端に第一のTCR定常領域(C1)に動作可能に結合させた第一の抗体の第一の重鎖可変領域(VH)を含む第一のポリペプチドをコードする第一のポリヌクレオチドを含む第一の抗原結合部分をコードする1つ以上のポリヌクレオチド、(2)N末端からC末端にに第二のTCR定常領域(C2)に動作可能に結合させた第一の抗体の第一の軽鎖可変領域(VL)を含む第二のポリペプチドをコードする第二のポリヌクレオチド、および(3)第二の抗原結合部分をコードする1つ以上のさらなるポリヌクレオチドを宿主細胞に導入すること(ここで、C1は配列番号1を含む操作されたCβを含み、C2は配列番号2を含む操作されたCαを含み、配列番号1のアミノ酸C48と配列番号2のアミノ酸C41は非天然の鎖間ジスルフィド結合を形成することができ、C1とC2は二量体を形成することができ、非天然の鎖間ジスルフィド結合はC1とC2の二量体を安定にすることができ、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分は、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の両方が天然のFabの対応する部分である場合に比べて誤対合が減少し、第一の抗体は第一の抗原特異性を有し、第二の抗体は第二の抗原特異性を有する)、およびb)宿主細胞に二重特異性ポリペプチド複合体を発現させることを含む。
【0197】
特定の実施形態では、前記方法は、二重特異性ポリペプチド複合体を単離することをさらに含む。
【0198】
組み換え技術を用いた場合、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、細胞内または細胞周辺腔内で作製されるか、または直接培地に分泌されてもよい。第一の工程のように生成物が細胞内で作製される場合、粒子状の残骸、宿主細胞または溶解した断片の何れかを、例えば遠心分離または限外ろ過で除去する。Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992)には、大腸菌の細胞周辺腔に分泌される抗体を単離する手順が記載されている。手短に言うと、約30分かけて細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で解凍する。細胞の残骸を遠心分離で除去してもよい。生成物が培地に分泌される場合、一般に、市販のタンパク質濃縮フィルター(例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon 限外ろ過装置)を用いてそのような発現系からの上清をまず濃縮する。タンパク質分解を阻害するため、上記の工程のどこかにPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を含めてもよく、偶然性の汚染物質の増殖を防ぐため、抗生物質を含めてもよい。
【0199】
細胞から作製される本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動法、透析、DEAE-セルロースイオン交換クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム沈殿、塩析、および親和性クロマトグラフィーなどを用いて精製してもよいが、親和性クロマトグラフィーが好ましい精製技術である。
【0200】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体が免疫グロブリンFcドメインを含む場合は、ポリペプチド複合体に存在するFcドメインの種およびアイソタイプに応じてAタンパク質を親和性リガンドとして用いてもよい。Aタンパク質をヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖に基づいてポリペプチド複合体を精製するのに用いてもよい(Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62:1-13 (1983))。Gタンパク質はすべてのマウスアイソタイプとヒトγ3に対して推奨される(Guss et al., EMBO J. 5:1567 1575 (1986))。親和性リガンドが結合される母材は、アガロースが最多であるが、他の母材も利用可能である。細孔性ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定な母材により、アガロースの場合よりも高流速で短時間での処理が可能になる。
【0201】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX樹脂(J. T. Baker, Phillipsburg, N.J.)が精製に有用である。回収される抗体に応じて、イオン交換カラム分別、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカカラムクロマトグラフィー、ヘパリンカラムクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂カラム(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)SEPHAROSE(登録商標)クロマトグラフィー、クロマト分画、SDS-PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿などの他のタンパク質精製技術もまた利用可能である。
【0202】
任意の予備精製工程の後、pHが2.5~4.5の溶出緩衝液を用いて、好ましくは低塩濃度(例えば、約0~0.25Mの塩)で目的とするポリペプチド複合体と汚染物質を含む混合物を低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーにかけてもよい。
【0203】
特定の実施形態では、従来の方法を用いて本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を高収率で精製してもよい。二重特異性ポリペプチド複合体の利点の1つは重鎖可変領域配列と軽鎖可変領域配列の誤対合が有意に低下することである。これにより、望ましくない副生物の生成が減少し、比較的簡単な精製過程を用いて高い収率で高純度の生成物を得ることができる。
【0204】
派生物
【0205】
特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体を所望の接合体との接合ベースとして用いてもよい。
【0206】
様々な接合体を本明細書で提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体に結合させてもよいと考えられる(例えば、“Conjugate Vaccines”, Contributions to Microbiology and Immunology, J. M. Cruse and R. E. Lewis, Jr. (eds.), Carger Press, New York, (1989)を参照のこと)。他の方法のうち、共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合,複合体化、会合、ブレンド、付加を用いてこれらの接合体をポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体に連結させてもよい。
【0207】
特定の実施形態では、1つ以上の接合体との結合に用いてもよいエピトープ結合部の外に特異的な部位を含むように、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を遺伝子操作してもよい。例えば、そのような部位は、接合体との共有結合を容易にするため、1つ以上の反応性アミノ酸残基(例えば、システインまたはヒスチジン残基)を含んでいてもよい。
【0208】
特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は接合体に直接、または間接的に(例えば、他の接合体あるいはリンカーを介して)連結していてもよい。
【0209】
例えば、システインなどの反応性残基を持つ二重特異性ポリペプチド複合体を、反応性基が例えば、マレイミド、ヨードアセトアミド、ピリジルジスルフィド、または他のチオール反応性接合相手であるチオール反応剤と連結してもよい(Haugland, 2003, Molecular Probes Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals, Molecular Probes, Inc.; Brinkley, 1992, Bioconjugate Chem. 3:2; Garman, 1997, Non-Radioactive Labelling: A Practical Approach, Academic Press, London; Means (1990) Bioconjugate Chem. 1:2; Hermanson, G. in Bioconjugate Techniques (1996) Academic Press, San Diego, pp. 40-55, 643-671)。
【0210】
他の例では、二重特異性ポリペプチド複合体を、ビオチンに接合し、次いでアビジンに接合している第二の接合体に間接的に接合してもよい。さらに他の例では、ポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体は、接合体にさらに連結するリンカーに連結していてもよい。リンカーの例としては、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)、シクロヘキサン-1-カルボン酸スクシンイミジル-4-(N-オスイミドメチル)(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能誘導体(例えば、アジプイミド酸ジメチルHCl)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビスジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えば、トルエン-2,6-ジイソシアナート)、およびヒスチジンに活性なフッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)などの二官能カップリング剤が挙げられる。特に好ましいカップリング剤は、ジスルフィド結合を提供する3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)(Carlsson et al., Biochem.J. 173:723-737 (1978))と、4-(2-ピリジルチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジル(SPP)が挙げられる。
【0211】
接合体は、検出可能な標識、薬物動態修飾部分、精製部分、または細胞毒性部分であってもよい。検出可能な標識の例としては、蛍光標識(例えば、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、フィコエリスリン、またはテキサスレッド)、酵素基質標識(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼまたはβ-D-ガラクトシダーゼ)、放射性同位体(例えば、123I、124I、125I、131I、35S、3H、111In、112In、14C、64Cu、67Cu、86Y、88Y、90Y、177Lu、211At、186Re、188Re、153Sm、212Bi、および32P、他のランタノイド、発光標識)、色素体部分、ジゴキシゲニン、ビオチン/アビジン、DNA分子、または検出用の金が挙げられる。特定の実施形態では、接合体は、抗体の半減期を長くするPEGなどの薬物動態修飾部分であってもよい。他の好適な重合体としては、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体などが挙げられる。特定の実施形態では、接合体は磁性ビーズなどの精製部分であってもよい。「細胞毒性部分」は、細胞にとって好ましくない、あるいは細胞を損傷または殺傷することができる任意の薬剤であってもよい。細胞毒性部分の例としては、これらに限定されないが、タクソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミスラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシンおよびその類縁体、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバンジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパクロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロトスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシス-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(かつてのダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミスラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、および抗有糸分裂薬(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられる。
【0212】
抗体、免疫グロブリン、またはそれらの断片などのタンパク質に接合体を接合する方法は、例えば、米国特許第5,208,020号、米国特許第6,441,163号、WO2005/037992号、WO2005/081711号、およびWO2006/034488号に見られる。その全内容を引用により本明細書に組み込む。
【0213】
医薬品組成物
【0214】
本開示はまた、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体と薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0215】
用語「薬学的に許容される」は、示された担体、媒体、希釈剤、賦形剤、および/または塩が一般に、配合物を含む他の成分と化学的におよび/または物理的に相溶性であり、その受容者と相性がよいことを表す。
【0216】
「薬学的に許容される担体」は、対象者にとって生物活性容認可能であり、かつ非毒性である、薬効成分以外の医薬品配合物中の成分を指す。本明細書で開示される医薬組成物に用いられる医薬的に容認可能な担体は、例えば、薬学的に許容される液体、ゲル、または固体担体、水性媒体、非水性媒体、抗菌剤、等張剤、緩衝液、酸化防止剤、麻酔薬、懸濁/分散剤、封鎖またはキレート剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または非毒性の補助物質、当該分野で知られている他の成分、あるいはこれらの様々な組み合わせが挙げられる。
【0217】
好適な成分としては、例えば、酸化防止剤、充填剤、結着剤、崩壊剤、緩衝液、保存料、潤滑剤、風味量、増粘剤、着色剤、乳化剤、または安定化剤(例えば、糖およびシクロデキストリン)が挙げられる。好適な酸化防止剤としては、例えば、メチオニン、アスコルビン酸、EDTA、チオ硫酸ナトリウム、白金、カタラーゼ、クエン酸、システイン、チオグリセリン、チオグリコール酸、チオソルビトール、ブチル化アニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、および/または没食子酸プロピルが挙げられる。本明細書で開示されるように、本明細書で提供される医薬組成物にメチオニンなどの1種以上の酸化防止剤を含有させると、ポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体の酸化が抑制される。このように酸化が抑制されると、結合親和性の喪失が防止または抑制され、これによりタンパク質の安定性が向上し、品質保持期限を最大限に延ばすことができる。従って、特定の実施形態では、本明細書で開示されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体と1種以上の酸化防止剤(例えば、メチオニン)を含む組成物が提供される。
【0218】
さらなる例示のために、医薬品容認可能な担体としては、例えば、水性媒体(例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張ブドウ糖注射液、殺菌水注射液、またはブドウ糖、および乳酸化リンゲル注射液)、非水性媒体(例えば、野菜由来の固定油、綿実油、トウモロコシ油、ごま油、またはピーナッツ油)、静菌性または静真菌性濃度の抗菌剤、等張剤(例えば、塩化ナトリウムまたはブドウ糖)、緩衝液(例えば、リン酸塩緩衝液またはクエン酸塩緩衝液)、酸化防止剤(例えば、重硫酸ナトリウム)、局所麻酔薬(例えば、塩酸プロカイン)、懸濁および分散剤(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドン)、乳化剤(例えば、ポリソルバート80(TWEEN-80))、封鎖またはキレート剤(例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)またはEGTA(エチレングリコール四酢酸)、エチルアルコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸、または乳酸)が挙げられる。担体として用いられる抗菌剤を、フェノールまたはクレゾール、汞剤、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルおよびプロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、チメロサール、塩化ベンザルコニウム、および塩化ベンゼトニウムを含む複数の投与量の容器の医薬組成物に加えてもよい。好適な賦形剤としては、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセリン、またはエタノールが挙げられる。好適な非毒性の補助物質としては、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、安定化剤、溶解性転写促進因子、あるいは酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン、またはシクロデキストリンなどの薬剤が挙げられる。
【0219】
これらの医薬組成物は溶液、懸濁液、乳液、丸薬、カプセル、錠剤、徐放性製剤、または粉末であってもよい。経口製剤は、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、でんぷん、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含んでいてもよい。
【0220】
特定の実施形態では、これらの医薬組成物は、注射可能な組成物として処方される。注射可能な医薬組成物は、任意の従来の形態、例えば、溶液、懸濁液、乳液、あるいは溶液、懸濁液、乳液を生成するための好適な固体形態で調製されてもよい。注射製剤は、注射液として準備された殺菌済みおよび/または非発熱性の溶液、使用する直前に溶媒と混合するように準備された殺菌乾燥可溶性生成物(凍結乾燥された粉末などで皮下錠剤、注射液として準備された殺菌懸濁液を含む)、使用する直前に媒体と混合するように準備された殺菌乾燥不溶性生成物、および殺菌済みおよび/または非発熱性乳液を含んでいてもよい。これらの溶液は水性または非水性の何れであってもよい。
【0221】
特定の実施形態では、単位投与量の非経口投与製剤は、アンプル、バイアル、または針付き注射器に入れられている。非経口投与用のすべての製剤は、当該分野で知られており、実践されているように殺菌済みであり、発熱性ではない。
【0222】
特定の実施形態では、本明細書で開示されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体を好適な溶媒に溶解して殺菌済み凍結乾燥粉末を調製する。この溶媒は、粉末またはその粉末から作製した再構成溶液の安定性や他の薬理成分を向上させる賦形剤を含んでもよい。用いてもよい賦形剤は、これらに限定されないが、水、ブドウ糖、ソルビトール、フルクトース、トウモロコシシロップ、キシリトール、グリセリン、グルコース、スクロース、または他の好適な薬剤が挙げられる。この溶媒は、クエン酸塩、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムなどの緩衝剤、あるいは当業者に知られている、一実施形態ではほぼ中性の、その他の緩衝剤を含んでいてもよい。当業者に知られている標準的な条件で冷凍乾燥した後、溶液を殺菌ろ過することで、望ましい製剤が得られる。一実施形態では、得られた溶液を冷凍乾燥用のバイアルに分配してもよい。各バイアルは、単一の投与量または複数の投与量の本明細書で提供されるポリペプチド複合体、二重特異性ポリペプチド複合体、またはその組成物を含んでいてもよい。試料を正確に取り正確に投与できるように、1回または1組の投与量よりもわずかに多く(例えば約10%)充填したバイアルが好ましい。凍結乾燥粉末を適切な条件、例えば約4℃~室温で保存してもよい。
【0223】
凍結乾燥粉末を注射用の水で再構成して、非経口投与に用いられる製剤が得られる。一実施例では、殺菌済みおよび/または非発熱性の水あるいは他の液状の好適な担体を凍結乾燥粉末に加える。正確な量は、選択された治療に依存し、実験的に決定することができる。
【0224】
治療方法
【0225】
また、治療有効量の本明細書で提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体をそれを必要とする対象に投与して、これにより疾患または障害を治療あるいは予防する治療方法が提供される。特定の実施形態では、対象は、本明細書で提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体に反応すると思われる障害または疾患を持つことが確認されている。
【0226】
本明細書で用いられるように、状態「を治療する」または「の治療」は、状態を予防または軽減すること、状態の発症または進行速度を下げること、状態が進行するリスクを低減すること、状態と関連づけられた症状の進行を予防または遅らせること、状態に関連づけられた症状を軽くあるいは終わらせること、状態の完全または部分的な退縮を生じさせること、状態を治癒すること、あるいはこれらのいくつかの組み合わせを含む。
【0227】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体の治療有効量は、当該分野で知られている様々な因子に依存する。そのような因子としては、例えば、体重、年齢、過去の病歴、現在処方されている薬物、対象の健康状態および交差反応の可能性、アレルギー、感度および好ましくない副作用、投与経路、および疾患の進行程度などが挙げられる。投与量は、これらの状況または要件および他の状況または要件によって示されるように、当業者(例えば、医師または獣医)により相応に増減されてもよい。
【0228】
特定の実施形態では、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、約100mg/kgに対して約0.01mg/kg(例えば、約0.01mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約2mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約25mg/kg、約30mg/kg、約35mg/kg、約40mg/kg、約45mg/kg、約50mg/kg、約55mg/kg、約60mg/kg、約65mg/kg、約70mg/kg、約75mg/kg、約80mg/kg、約85mg/kg、約90mg/kg、約95mg/kg、または約100mg/kg)の治療有効投与量で投与されてもよい。これら実施形態のあるものでは、本明細書で提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体は、約50mg/kg以下の投与量で投与される。これら実施形態のあるものでは、投与量は10mg/kg以下、5mg/kg以下、1mg/kg以下、0.5mg/kg以下、または0.1mg/kg以下である。特定の実施形態では、投与量は治療過程中に変えてもよい。例えば、特定の実施形態では、初期投与量は後続の投与量よりも多くてもよい。特定の実施形態では、投与量は、対象の反応に応じて治療過程中に変えてもよい。
【0229】
投薬計画を、最適な所望の応答(例えば、治療応答)が得られるように調節してもよい。例えば、単回投与量を投与してもよく、何回かに分けた投与量を時間をかけて投与してもよい。
【0230】
本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、例えば、非経口投与(例えば、静脈注入、筋肉内または皮内投与注射を含む皮下投与、腹腔内投与、静脈内投与)または非経口投与以外の投与(例えば、経口投与、経鼻投与、眼球内、舌下投与、直腸投与、または局所投与)などの当該分野で知られている任意の経路で投与してもよい。
【0231】
特定の実施形態では、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体で治療される疾患または障害は、癌または癌性状態、自己免疫疾患、感染症および寄生虫性疾患、心臓血管疾患、神経障害、精神神経疾患、傷害、炎症、または凝固障害である。
【0232】
本明細書で用いられるように、「癌」または「癌性状態」は、腫瘍性または悪性細胞の成長、増殖、または転移により媒介される任意の医学的疾患を指し、例えば、固形癌および白血病などの非固形癌を含む。本明細書で用いられるように、「腫瘍」は腫瘍性および/または悪性細胞の固形腫瘤を指す。
【0233】
癌に関して、「治療する」または「治療」は、腫瘍性または悪性細胞の成長、増殖、または転移を阻害または遅らせること、あるいは腫瘍性または悪性細胞の成長、増殖、または転移の進行を予防または遅延させること、あるいはこれらのいくつかの組み合わせを指すことがある。腫瘍に関して、「治療する」または「治療」は、腫瘍のすべてまたは一部を根絶すること、腫瘍の成長および転移を阻害または遅らせること、腫瘍の進行を予防または遅延させること、あるいはこれらのいくつかの組み合わせを含む。
【0234】
例えば、癌を治療するための本明細書で開示される二重特異性ポリペプチド複合体の使用に関して、治療有効量は、腫瘍のすべてまたは一部を根絶する、腫瘍の成長および転移を阻害または遅らせる、癌性状態を媒介する細胞の成長または増殖を阻害する、腫瘍細胞の転移を阻害する、腫瘍または癌性状態に関連づけられた任意の症状またはマーカーを改善する、腫瘍または癌性状態の進行を予防または遅延させることができるような、あるいはこれらのいくつかの組み合わせでのポリペプチド複合体の投与量または濃度である。
【0235】
特定の実施形態では、前記状態および障害としては、腫瘍および癌、例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎臓細胞癌、結腸直腸癌、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、胃上皮性悪性腫瘍、膀胱癌、食道癌、中皮腫、メラノーマ、頭部および頸部癌、甲状腺癌、肉腫、前立腺癌、膠芽細胞腫、頸部癌、胸腺上皮性悪性腫瘍、白血病、リンパ腫、骨髄腫、菌状息肉腫、メルケル細胞癌、および他の血液悪性腫瘍(例えば、古典的ホジキンリンパ腫(CHL)、縦隔原発大B細胞リンパ腫、T細胞/組織球富化B細胞リンパ腫、EBV陽性および陰性PTLD、およびEBV関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、形質芽球性リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻咽頭上皮性悪性腫瘍、およびHHV8関連原発性滲出性リンパ腫、ホジキンリンパ腫)、中枢神経系(CNS)の新生物(例えば、原発性CNSリンパ腫、脊椎軸腫瘍、脳幹グリオーマ)が挙げられる。
【0236】
特定の実施形態では、状態および障害は、CD19関連疾患、例えば、B細胞リンパ腫、任意によりホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫を含む。ここで、非ホジキンリンパ腫は、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫(MZL)、粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALT)、小リンパ球リンパ腫(慢性リンパ性白血病、CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、またはヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)を含む。
【0237】
二重特異性ポリペプチド複合体は、単独で、または1つ以上のさらなる治療手段または治療薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0238】
特定の実施形態では、癌、腫瘍、または増殖性疾患の治療に用いられる場合、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、化学療法、放射線治療、癌治療のための手術(例えば、腫瘍摘出)、1種以上の制吐薬または化学療法から生じる合併症のための他の治療薬、癌または関連する任意の医学的障害の治療で用いられる任意の他の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。本明細書で用いられるように、「組み合わせて投与する」は、同じ医薬組成物の一部として同時に投与すること、個別の組成物として同時に投与すること、あるいは個別の組成物として異なるタイミングで投与することを含む。他の薬剤の前または後に投与される組成物は、その組成物と第二の薬剤が異なる経路で投与されても、本明細書で用いられる用語のように、「組み合わせて」投与されたと見なされる。可能であれば、本明細書で提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体と組み合わせて投与されるさらなる治療薬は、そのさらなる治療薬の製品情報シートに示された予定に従って、あるいはPhysicians' Desk Reference (Physicians' Desk Reference, 70th Ed (2016)) 、または当該分野でよく知られている試験規約に従って投与される。
【0239】
特定の実施形態では、治療薬は癌に対する免疫応答を誘導または増強させることができる。例えば、腫瘍ワクチンを用いて特定の腫瘍または癌に対する免疫応答を誘導してもよい。また、サイトカイン治療を用いて免疫系への腫瘍抗原提示を高めてもよい。サイトカイン治療の例としては、これらに限定されないが、インターフェロン(例えば、インターフェロン-α、-β、および-γ)、コロニー刺激因子(例えば、マクロファージ-CSF、顆粒球マクロファージCSF、および顆粒球-CSF)、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、およびIL-12)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF-αおよびTNF-β)が挙げられる。また、例えば、TGF-β阻害剤、IL-10阻害剤、およびFasリガンド阻害剤など、免疫抑制性標的を不活性化する薬剤を用いてもよい。他の薬剤群は、腫瘍または癌細胞に対する免疫応答性を活性化させるもの、例えば、T細胞活性化を高めるもの(例えば、CTLA-4、ICOS、およびOX-40などのT細胞共刺激分子の作動薬)、および樹状細胞機能と抗原提示を高めるものを含む。
【0240】
キット
【0241】
本開示は、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を含むキットをさらに提供する。実施形態によっては、これらキットは、生体試料中の目的の1種以上の標的の存在または量を検出する、あるいは標的を捕捉または富化するのに有用である。生体試料は、細胞または組織を含んでいてもよい。
【0242】
実施形態によっては、このキットは検出可能な標識に接合される本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を含む。特定の他の実施形態では、このキットは、標識のない本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体を含み、この標識のない本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体に結合することができる第二の標識化抗体をさらに含む。このキットは、使用の指示と、キットの成分をそれぞれ分離する包装をさらに含んでいてもよい。
【0243】
特定の実施形態では、本明細書で提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、基質または装置と関連づけられている。有用な基質または装置は、例えば、磁性ビーズ、マイクロタイタープレート、または試験片であってもよい。これらは、結合アッセイ(例えば、ELISA)、免疫グラフィックアッセイ、生体試料中の標的分子の富化に有用である場合がある。
【0244】
以下の実施例は、権利を主張する発明をよりよく例示するために提供されており、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。以下で記載するすべての特定の組成物、材料、および方法の全体あるいは一部が本発明の範囲内である。これらの特定の組成物、材料、および方法は、本発明を限定することを意図しておらず、本発明の範囲内の特定の実施形態を例示することのみを意図している。当業者は、発明的な能力を発揮することなく、また本発明の範囲を逸脱することなく等価の組成物、材料、および方法を開発してもよい。自明であるように、本発明の境界内に留まったまま本明細書に記載された手順に多くの変形をなすことができる。本発明者らは、その変形は本発明の範囲内に含まれることを意図している。
【実施例
【0245】
実施例1:抗体とTCRキメラタンパク質の設計および操作
【0246】
TCR配列
【0247】
TCRは、2つの分子鎖で構成されるヘテロ二量体タンパク質である。約95%のヒトT細胞はα鎖とβ鎖からなるTCRを持つ。β鎖TRBC1に対して多くの結晶構造が利用可能であることを考慮して、本明細書で開示されるポリペプチド複合体(「WuXiBody」)を設計する主鎖としてTRBC1配列を選んだ。TRBC1の典型的なアミノ酸配列は、Protein Data Bgank (PDB)構造4L4Tに見られる。
【0248】
TCRの鎖間ジスルフィド結合
【0249】
TCR結晶構造を用いて本発明のWuXiBody設計を導いた。T細胞表面の膜のに固定されている天然のTCRとは異なり、可溶性TCR分子は、その三次元構造は抗体Fabに非常に似ているが安定性が低い。事実、用いる可溶性条件でのTCRの不安定性は、その結晶構造の解明を妨げる大きな障害である(Wang 2014, 上記参照)。本発明者らは、TCR定常領域にシステイン突然変異の対合を導入する方法を取り、これが有意に鎖会合体を向上させて、発現を高めることができることを見い出した。
【0250】
抗体の可変領域とTCR定常領域を結合する結合部、これらの相対的な融合方向、並びにFc結合接合部は、すべて慎重に細かく調整して安定した機能的WuXiBodyを作製した。TCR構造は抗体Fabに非常に似ているので、TCR可変領域に抗体Fv相同性モデルを重ね合わせた(PDB 4L4T、図2)。重ね合わせた構造は、抗体FvがTCR定常領域と構造的に互換性があることを示している。この構造的な配列と対応する配列に基づき、すべての関連する操作パラメーターを設計した。実施例2に適切な結合領域を開示する。
【0251】
実施例2:二重特異性抗CD13×CD19 WuXiBody
【0252】
カニクイザルCD19発現細胞株の生成
【0253】
完全な長さのヒトまたはカニクイザルCD19の遺伝子をクローンしてpcDNA3.3ベクターに導入した。次いで、Lipofectamine 2000を用いて、各発現ベクターをそれぞれCHO-K1細胞に形質移入した。細胞を10%のFBSと共にF12-Kで培養した。形質移入の24~48時間後にブラストサイジンを加えた。選択したものを2世代または3世代継代後、細胞をPE接合抗CD19抗体と抗PEマイクロビーズ(Miltenyi-013-048-801)により富化した。安定した単一の細胞クローンを限界希釈により単離して、抗CD19抗体を用いてFACSでスクリーニングした。
【0254】
標的発現腫瘍株
【0255】
Raji細胞およびJurkat細胞をATCCから得た。Ramos細胞をECACCから得た。すべての腫瘍細胞をRPMI1640/10%FBSで培養した。
【0256】
WuXiBody W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPおよびW3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPの生成
【0257】
既存の実験室のDNA鋳型からPCRによりVL、VH、Ck、CH1遺伝子を増幅した。CαおよびCβ遺伝子はGenewiz Inc.により作製された。天然の抗CD19軽鎖遺伝子または抗CD3キメラ軽鎖遺伝子を、CMVプロモーターとκシグナルペプチドを含む線状化ベクターに挿入した。抗CD3 VH-CβのDNA断片を、ノブ(knob)突然変異を持つヒトIgG4S228P定常領域CH2-CH3を含む線状化ベクターに挿入した。抗CD19 VH-CH1のDNA断片を、ホール(hole)突然変異を持つヒトIgG4S228P定常領域CH2-CH3を含む線状化ベクターに挿入した。このベクターは、CMVプロモーターとヒト抗体重鎖シグナルペプチドを含む。
【0258】
W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPとW3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPの発現および精製
【0259】
Expi293発現システムキット(ThermoFisher-A14635)を用いて、製造者の指示に従って重鎖発現プラスミドと軽鎖発現プラスミドをExpi293細胞に共形質移入した。形質移入の5日後、上清を採取して、Aタンパク質カラム(GE Healthcare-17543802)とさらにサイズ排除カラム(GE Healthcare-17104301)を用いてタンパク質を精製した。抗体濃度をNano Dropにより測定した。タンパク質の純度をSDS-PAGEとHPLC-SECで評価した。
【0260】
FACSによる標的の結合
【0261】
JurkatとRamosを用いて、二重特異性抗体のCD3発現細胞とCD19発現細胞との結合をそれぞれ評価した。アイソタイプ対照として、無関係の抗体を用いた。細胞を105細胞/ウェルの密度で96ウェルプレート(Corning-3799)に広げて、PBS/1%のBSAで洗浄した。抗体を連続希釈して、細胞と共に4℃で1時間インキュベートした。PE結合ヤギ抗ヒトIgG Fc抗体(Jackson-109-115-098)を用いて検出した。洗浄および再懸濁後、細胞をフローサイトメトリー(Canto II, BD Bioscience)で分析した。データをFlowJoソフトウェアを用いて分析した。4パラメーター非直線回帰分析を用いてPrism GraphPadソフトウェアによりEC50値を算出した。
【0262】
カニクイザルCD3への結合
【0263】
タンパク質結合ELISAにより、CD3×CD19二重特異性抗体のカニクイザルCD3への結合を試験した。96ウェル高タンパク質結合ELISAプレート(Nunc MaxiSorp, ThermoFisher, Thermo-442404)を4℃で一晩、1μg/mlのカニクイザルCD3εタンパク質(Acro,#CDE-C5226)の炭酸塩-重炭酸塩緩衝液(20mMのNa2CO3、180mMのNaHCO3、PH9.2)100ulで被覆した。すべてのウェルを1ウェルあたり300μLのPBS/0.5‰のTween-20(v/v)で一回洗浄した。次いで、ウェルを室温で1時間、1ウェルあたり200μLのPBS/2%のBSA(BOVOGEN,#BSAS)で遮断し、1ウェルあたり300μLのPBS/0.5‰のTween-20(v/v)で3回洗浄した。一次抗体の結合のため、PBS/2%のBSAで連続希釈したCD3×CD19二重特異性抗体を適切なウェルに加えて、室温で2時間インキュベートした。プレートを3回洗浄した後、100ng/mlの二次抗体のヤギ-抗ヒトIgG Fc-HRP(Bethyl, #A80-304P)を100ul加えた。プレートを室温で1時間インキュベートして、その後、上記のように6回洗浄した。結合の検出のため、暗室にて室温で10分間、100ulのテトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液(Sigma-860336)をすべてのウェルに加えて、2MのHCl(100ul)で反応を停止した。SpectraMax(登録商標)M5eマイクロプレートリーダーを用いてOD450吸光度を測定して、二重特異性抗体のカニクイザルCD3との結合の度合いを決定した。適切であれば、4パラメーター非直線回帰分析を用いてGraphPad Prism5ソフトウェアにを用いて結合EC50値を得た。
【0264】
カニクイザルCD19への結合
【0265】
CHOK1細胞表面に発現したカニクイザルCD19標的タンパク質へのCD3×CD19二重特異性抗体の結合をフローサイトメトリー分析により決定した。手短に言うと、カニクイザルCD19を過剰発現させた安定細胞株(WBP701.CHOK1.cPro1.C9、WuXi Biologic)をトリプシンで採取して、1×106細胞/mlの1%BSA/1×PBS溶液に希釈した。1×105細胞/ウェル(100ul)を96ウェルU-プレート(Corning,#3799)の各ウェルに加えて、1500rpmで5分間遠心分離し(Eppendorf, #5810R)、上清を除去した。1%BSA/1×PBSで連続希釈した抗体を100ul/ウェルでペレット化した細胞に加えて、4℃で1時間インキュベートした。関連しないhIgG4抗体をアイソタイプ対照として用いた。細胞を4℃で5分間1500rpmで遠心分離して、180ul/ウェルの1%BSA/1×PBSで2回洗浄した。暗室でペレット化した細胞を4℃で30分間、100ul/ウェルの蛍光標識抗ヒトIgG Fc抗体(Jackson,#109-115-098)(1%BSA/1×PBSで1:150に希釈)に再懸濁した。次いで、上記のように細胞を2回洗浄した。最終洗浄後、細胞を80ulの1%BSA/1×PBSに再懸濁して、蛍光値をFACS Canto II cytometer (BD Bioscience)で測定した。細胞表面に結合した抗CD19&CD3二重特異性抗体の量を平均蛍光(MFI)を測定して評価した。FlowJoソフトウェアでFACS生データを分析して、抗体を含まないウェルまたは二次抗体のみを含むウェルを用いて背景蛍光を確立した。4パラメーター非直線回帰分析を用いてGraphPad Prism5ソフトウェアを用いて結合EC50値を得た。
【0266】
FACSによる親和性
【0267】
CD3およびCD19への結合親和性は、それぞれ、Jurkat細胞およびRamos細胞を用いてフローサイトメトリーにより決定された。細胞を5×104細胞/ウェルの密度で96ウェルU-底部プレート(BD)に移した。試験する抗体を1%の1×PBS/1%のBSAで1:2倍に連続希釈し、4℃で1時間、細胞と共にインキュベートした。次いで、プレートを1500rpmで4分間、遠心分離して、上清を捨てた。二次抗体のAlexa647結合ヤギ抗ヒトIgG Fc(Jackson, Cat# 109-605-098)またはFITC結合ヤギ抗His(Bethyl, Cat# A190-113F)を再懸濁した細胞に加えて、暗室にて4℃で30分間インキュベートした。細胞を1回洗浄して、100μLの1×PBS/1%のBSAに再懸濁させた。蛍光強度をフローサイトメトリー(BD Canto II)で測定し、FlowJoで分析した。定量ビーズ(Quantum(登録商標) MESF Kits, Bangs Laboratorie)に基づいて蛍光強度を結合分子/細胞に変換した。Graphpad Prism5でKDを算出した。
【0268】
標的細胞表面の二重結合
【0269】
CD3 T細胞とCD19 B細胞を架橋する二重特異性抗体の能力をFACSで試験した。37℃で30分間、1×106細胞/mlの密度でJurkat細胞およびRaji細胞を20nMのCellTrace Far Red (Invitrogen-C34564)と50nMのカルセイン-AM (Invitrogen-C3099)で別々に予め標識した。予め標識した細胞ペレットをPBS/1%のBSAで2回洗浄して、1:1で混合し、最終密度1×106細胞/mlとした。細胞混合物を遠心分離して、10nMの抗体で再懸濁し、その後、1時間インキュベートした。インキュベーションの直後に細胞混合物をフローサイトメトリーで分析した。架橋百分率を、Far-Redとカルセインで同時に標識された事象の百分率として算出した。
【0270】
細胞毒性アッセイ
【0271】
Ficoll-Paque PLUS (GE Healthcare-17-1440-03)密度遠心分離により末梢血単核細胞(PBMC)をヘパリン化静脈血液から単離した。次いで、エフェクター細胞として用いたCD8+T細胞の富化のため、得られたPBMCをEasySep (Stemcell-19053)カラムに通した。CD8+T細胞による腫瘍細胞溶解を媒介する抗体の有効性をフローサイトメトリーにより決定した。細胞毒性アッセイでは、37℃で30分間、標的細胞としてのRaji CD19 B細胞を20nMのCellTrace Far Red (Invitrogen-C34564)で予め標識し、次いで、1%FBSで栄養補充したフェノールを含まないRPMI 1640 (Invitrogen-11835030)で細胞ペレットを2回洗浄した。Far Red染色したRaji(1ウェルあたり20000細胞)を単離CD8+T細胞(エフェクター/標的細胞の比が5:1)と連続希釈された抗体と共に37℃で4時間、96ウェル丸底プレート(Corning-3799)でインキュベートした。インキュベーション後、死細胞を同定するため、3μMのヨウ化プロピジウム(PI, Invitrogen-P3566)を全体に混合した。15分間後、FACSCanto II cytometerを用いて細胞をフローサイトメトリーで分析した。Ab媒介細胞毒性は、Far Red陽性標的細胞におけるPI陽性標的細胞の百分率として規定してもよい。Prismを用いて細胞毒性のEC50を決定した。
【0272】
T細胞活性化アッセイ:分泌されたサイトカインTNF-αおよびIFN-γ
【0273】
T細胞が活性化されたか否かは、上清に分泌されたTNF-αおよびIFN-γの量に反映された。CD4およびCD8陽性T細胞の単離手順は、項「T細胞活性化(細胞内サイトカインTNF-αおよびIFN-γ染色)」に記載した。RajiヒトB細胞(2×104細胞/ウェル)、CD4またはCD8 T細胞(1×105細胞/ウェル)、および抗体の混合物を37℃で24時間共インキュベートした。上清を採取後、反応混合物を1500rpmで5分間遠心分離した。上清中のTNF-αとIFN-γの量をそれぞれ、ヒトTNF ELISAセット(R&D-DY210)およびヒトIFN-γ ELISAセット(Capture Ab: Thermo Fisher-M700A, Detection Ab: Thermo Fisher-M701B, 標準物質: PEROTECH- 300-02)で決定した。
【0274】
サンドイッチELISAの手順は以下の通りであった。キットの仕様書に従って、4℃または室温で一晩、96ウェル高タンパク質結合ELISAプレート(ThermoFisher-442404) を炭酸塩-重炭酸塩緩衝液(20mMのNa2CO3、180mMのNaHCO3、pH9.2)の50μl/ウェルの捕捉抗体で被覆した。すべてのウェルを1ウェルあたり300μlのPBS/0.5%のTween-20(v/v)で3回洗浄した。アッセイの以下の洗浄工程はすべて同時に行った。次いで、TNF-αはPBS/2%のBSA(BovoGen Biologicals-BSAS)、IFN-γは100%のカゼイン(Pierce-37528)でウェルを1時間ブロックして、3回洗浄した。その後、室温で1時間上記の採取した上清または標準物質(50μl/ウェル)と結合させた後、3回洗浄した。検出抗体の結合のため、TNF-αはPBS/2%のBSAで、IFN-γは50%のカゼインで希釈した対応する抗体を適切なウェルに加えて、室温で2時間インキュベートした。プレートを3回洗浄して、50μlの二次抗体SA-HRPを加えた。プレートを室温で1時間インキュベートして、上記のように6回洗浄した。結合の検出のため、50μlのテトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液(Sigma-860336)を10分間すべてのウェルに加えて、50μlの2MのHClで反応を停止した。SpectraMax(登録商標)M5eマイクロプレートリーダーを用いてOD450吸光度を測定して、TNF-αとIFN-γの量を決定した。
【0275】
T細胞活性化アッセイ:表面マーカーCD25およびCD69の発現
【0276】
T細胞が活性化されたか否かは、表面受容体CD25とCD69の染色信号に反映された。CD4およびCD8陽性T細胞の単離手順は、項「T細胞活性化(細胞内サイトカインTNF-αおよびIFN-γ染色)」に記載した。RajiヒトB細胞(2×104細胞/ウェル)、CD4またはCD8 T細胞(1×105細胞/ウェル)、および抗体の混合物を37℃で24時間共インキュベートした。1%のBSAで1回洗浄後、FITCマウス抗ヒトCD4(BD-550628)またはPerCpCy5.5マウス抗ヒトCD8(BD-560662)、PEマウス抗ヒトCD69(BD-560968)およびAPCマウス抗ヒトCD25(BD-555434)染色緩衝液で細胞ペレットを再懸濁させた。その後、4℃で30分間インキュベートした。細胞を2回洗浄した後、フローサイトメトリーでFITC陽性またはPerCpCy5.5陽性細胞中のPE陽性およびAPC陽性細胞の百分率を決定した。
【0277】
熱安定性(DSF)
【0278】
QuantStudio(登録商標) 7 FlexリアルタイムPCRシステム (Applied Biosystems)を用いて抗体の融解温度(Tm)を調べた。19μLの抗体溶液を1μLの62.5 X SYPROオレンジ溶液(Invitrogen)と混合し、96ウェルプレート(Biosystems)に移した。プレートを0.9℃/分の速度で26℃から95℃に加熱し、得られた蛍光データを収集した。異なる温度に対する蛍光変化の負の導関数を算出し、最大値を融解温度Tmとして規定した。タンパク質のアンフォールディングが複数回あった場合、最初の2つのTmをTm1およびTm2として報告した。データの収集とTmの計算は操作ソフトウェアにより自動で行った。
【0279】
血清の安定性
【0280】
選択した提供者からヒト血液を新たに集めて、抗凝血剤を含まないポリスチレン管に入れた。30分間室温で静置した後、ヒト血液を4000rpmで10分間遠心分離して血清層を採取した。血清が透明になるまで遠心分離工程を繰り返した。採取した血清で1:9の比での検出下、抗体を混合して、示した時間、0日目、1日目、4日目、7日目、および14日目に一部を37℃で取り出した。試料を異なる時点で液体窒素で急速冷凍し、使用するまで-80℃で保存した。試料をFACSで分析して、血清治療をしていない対応する抗体と比べてJurkat CD3 T細胞およびRamos CD19 B細胞に対する結合能を評価した。
【0281】
SPRによるFcγ受容体結合親和性
【0282】
Biacore T200(またはBiacore 8K)を用いてFcγRに対する抗体の結合親和性を検出した。各受容体を抗his抗体固定化CM5センサーチップ(GE)で捕捉した。異なる濃度の抗体を30uL/分の流量で、60秒の会合相、その後、60秒の解離でセンサーチップに注入した。次いで、各結合サイクル後にチップを10mMのグリシン(pH1.5)で再生した。
【0283】
黒色表面と緩衝液流路のセンサーグラムを試験センサーグラムから減じた。Langmiur分析(FcγRIの場合)あるいは定常状態モデル(他の受容体の場合)を用いて1:1モデルで実験データをフィッティングした。分子量150KDaを用いて抗体のモル濃度を算出した。
【0284】
ELISAによるC1q結合
【0285】
4℃で一晩、3μg/mLでELISAプレート(Nunc)を抗体試料で被覆した。ブロッキングと洗浄後、C1qを600μg/mLから始めて勾配希釈し、室温で2時間インキュベートした。次いで、プレートを洗浄して、次いで、ヒツジ抗ヒトC1q Ab-HRPと共に1時間インキュベートした。洗浄後、TMB基質を加えて、相互作用を2MのHClで停止した。マイクロプレートリーダー(Molecular Device)を用いて450nmの吸光度を読み取った。
【0286】
SPRによるFcRn結合親和性
【0287】
Biacore T200(またはBiacore 8K)を用いてFcRnに対する抗体結合親和性を検出した。各抗体をCM5センサーチップ(GE)に固定した。測定用緩衝液(50mMのNa2HPO4/NaH2PO4、150mMのNaCl、0.05%のTween20、pH6.0)中の異なる濃度のFcRnを、60秒の会合相、その後、60秒の解離で30uL/分の流量でセンサーチップに注入した。次いで、各結合サイクル後にチップを1×PBS(pH7.4)で再生した。
【0288】
黒色表面と緩衝液流路のセンサーグラムを試験センサーグラムから減じた。実験データを定常状態モデルによりフィッティングした。分子量45KDaを用いてFcRnのモル濃度を算出した。
【0289】
マウスRaji/PBMCモデルにおける有効性の研究
【0290】
空気中、37℃、5%のCO2の雰囲気でRaji腫瘍細胞(ATCC(登録商標) CCL-86(登録商標))を10%のウシ胎児血清、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンで栄養補充したRPMI-1640培地中で単層培養物としてインビトロで維持した。腫瘍細胞を週2回、定法により継代した。指数関数的成長相で成長する細胞を採取して、腫瘍の接種のために計測した。
【0291】
Ficoll-Paque Plusを用いて製造者の指示に従ってヒトPBMCをヘパリン全血から単離した。
【0292】
0日目に、Raji腫瘍細胞、マトリゲル、新しいPBMCを0.2mlのPBSに混合したものを各マウスの右脇腹の皮下に共接種した。3日目に抗体注射液を行った(週に2回の静脈注射を4回)。
【表13】
【0293】
腫瘍の測定とエンドポイント
【0294】
主なエンドポイントは、腫瘍の成長が遅れたか否か、あるいはマウスが治癒したか否かを調べることであった。カリパスを用いて二次元の腫瘍の大きさを週2回測定した。式V = 0.5a×b2を用いて体積をmm3で表した。ここで、aおよびbはそれぞれ、腫瘍の長径と短径である。T/C値(パーセント)は抗癌有効性の指標である。
【0295】
式TGI(%) = [1-(Ti-T0)/(Vi-V0)] × 100を用いて各群のTGIを算出した。Tiは、所与の日の治療群の平均腫瘍体積、T0は治療開始日の治療群の平均腫瘍体積、ViはTiと同じ日の媒体対照群の平均腫瘍体積、およびV0は治療開始日の媒体群の平均腫瘍体積である。
【0296】
カニクイザルPK、毒性および免疫原性
【0297】
1匹のオスと1匹のメスのカニクイザルにWBP3438を1mg/kgで1回、静脈内急速静注投与により投与した。製剤は、20mMのNaAc-HAc、7.0%(w/w)スクロース、0.02%(w/v)のPS80、pH5.0で処方した。PK血液試料を投与前(-1日目)、0.25時間、0.5時間、1時間、4時間、8時間、24時間、3日目、7日目、14日目、21日目、および28日目に採取した。抗薬物抗体(ADA)試料を3日目、14日目(312時間)、および28日目(480時間)に採取した。
【0298】
血清試料中のWBP3438およびADAの血清濃度をELISAで決定した。Phoenix WinNonlinソフトウェア(バージョン6.3, Pharsight, Mountain View, カリフォルニア州)を用いてサルのWBP3438の血清濃度を非区画薬物動態分析にかけた。PKパラメーターを得るのに線形/対数台形公式を用いた。
【0299】
一般的な健康と外観、特に皮膚の炎症についてケージでの観察を行った。血液学(CBC)のための全血液試料分析と化学検出のための血清分析を、それぞれ血液分析器(ADVIA2120)および化学(HITACHI 7180)により決定した。
【0300】
結果
【0301】
カニクイザルCD19発現細胞株の生成
【0302】
カニクイザルCD19発現細胞株WBP701.CHO-K1.cpro1.FL.C9の発現をフローサイトメトリーにより抗CD19抗体を用いて検出した。WBP701.CHO-K1.cpro1.FL.C9は、サルCD19の高い発現を示した(図5
【0303】
WuXiBodyの生成および最適化
【0304】
図1は、試験した抗体と形式の概略図を示す。抗CD3抗体T3と抗CD19抗体U4の両方が開発された。通常の抗体に直交する固有の軽鎖・重鎖界面を設計するため、T3の定常領域(CLおよびCH1)はTCRの定常領域と置換された。Fcドメインに「ノブ・イントゥ・ホール」突然変異と結合したTCR改変T3と天然のU4を用いて二重特異性抗体形式E17とF16を設計した。
【0305】
W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPとW3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPに由来する抗CD3および抗CD19結合部分の可変重鎖配列および軽鎖配列を以下に示す。
【表14】
【0306】
完全な長さのW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPとW3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SP配列を以下に示す。
【表15】
【表16】
【0307】
W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPの作製
【0308】
抗体W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPの発現力価は、一過性発現を通して90mg/Lより高い。2工程精製の後、W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPの純度は97.5%に達する(SEC-HPLC、図7)。W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPは、2つの重鎖と2つの軽鎖に対応する還元条件のSDS-PAGEで見かけの分子質量が75kDa、55kDa、および25kDaで移動する。2つの軽鎖は、同じくらいの分子量なので重なっていることがある。抗体は、完全な二重特異性分子を示す非還元条件で見かけ分子質量200kDaで移動する(図6)。
【0309】
W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの作製
【0310】
抗体W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの発現力価は、一過性発現を通じて100mg/Lより高い。2工程精製の後、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの純度は95%に達する(SEC-HPLC、図9)。W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPは、2つの重鎖と2つの軽鎖に対応する還元条件のSDS-PAGEで見かけ分子質量が54kDa、56kDa、および、25kDaで移動する。2つの軽鎖は、同じくらいの分子量であるので重なっていることがある。抗体は、完全な二重特異性分子を示す非還元条件で見かけ分子質量150kDaで移動する(図8)。
【0311】
標的結合
【0312】
Ramos細胞およびJurkat細胞についてW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのCD19およびCD3への結合をフローサイトメトリーにより試験した(図10A図10B)。抗体W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPは、Ramos細胞およびJurkat細胞に対して強い結合活性を示し、EC50値がそれぞれ15.6nMと47nMであった。
【0313】
Ramos細胞およびJurkat細胞について、W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPのCD19およびCD3への結合をフローサイトメトリーにより試験した(図11A図11B)。抗体W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPは、Ramos細胞およびJurkat細胞に対して強い結合活性を示し、EC50値がそれぞれ1.8nMと19.3nMであった。
【0314】
交差種結合
【0315】
WBP701.CHO-K1.cpro1.FL.C9細胞(CD19発現細胞)について、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのカニクイザルCD19への結合をフローサイトメトリーにより試験した(図12)。結合EC50は26nMであった。W331-cynoPro1.ECD.His(カニクイザルCD3εタンパク質)を用いて、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのカニクイザルCD3への結合をELISAにより試験した(図13)。結合EC50は0.04nMであった。
【0316】
標的細胞に対する親和性
【0317】
Ramos細胞およびJurkat細胞について、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのヒトCD19およびCD3への結合親和性をフローサイトメトリーにより試験した。結合IgGに対する結合IgG/遊離IgGを図14A図14Bにプロットした。CD19およびCD3への結合のフィッティングしたKD値は、それぞれ23nMと9.0nMであった。
【0318】
標的細胞表面の二重結合
【0319】
フローサイトメトリーにより、予め標識したJurkat細胞およびRaji細胞を用いてCD3 T細胞およびCD19 B細胞を架橋するW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの活性を試験した(図15A図15B)。Q2は、架橋されたJurkat細胞およびRaji細胞の集団を示す。陰性対照に比べて、細胞の約18%が二重特異性抗体W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPを介して架橋された。
【0320】
細胞毒性アッセイ
【0321】
CD8+T細胞とraji細胞を用いてW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの細胞毒性活性を評価した。W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPは、4時間のインキュベーション後、素早く有効な細胞溶解を誘導し(図16A)、EC50値は15nMであった。最大細胞殺傷百分率は90%であった。
【0322】
CD8+T細胞とraji細胞を用いてW3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPの細胞毒性活性を評価した。W3438-T3U4.F16-1.uIgG4.SPは、4時間のインキュベーション後、素早く有効な細胞溶解を誘導し(図16B)、EC50値は3.2nMであった。最大細胞殺傷百分率は90%であった。
【0323】
標的特異的なT細胞活性化
【0324】
CD19+標的細胞の存在/非存在下での活性化マーカーCD69およびCD25を介したT細胞活性化を示すアッセイで、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPを調べた。その結果から、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPはCD19+標的細胞の存在下でのみ投与量に依存してT細胞活性化マーカーCD25およびCD69の発現を誘導することが示された(図17A図17D)。B細胞が存在しないと、CD4+T細胞サブセットおよびCD8+T細胞サブセットの両方でCD25とCD69の発現は観察されなかった。
【0325】
また、CD19+標的細胞の存在/非存在下でサイトカイン放出のT細胞活性化アッセイにおいてW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPを調べた。その結果から、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPは、CD19+標的細胞の存在下でのみ投与量に依存してIFN-γおよびTNF-αの放出を誘導することが示された(図18A図18D)。B細胞が存在しないと、CD4+T細胞サブセットおよびCD8+T細胞サブセットの両方でIFN-γとTNF-αは検出されなかった。
【0326】
熱安定性
【0327】
リアルタイムPCRを用いてW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの熱安定性を調べた。W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのTm1とTm2 は60.2℃、72.7℃であった。
【0328】
血清安定性
【0329】
W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPを血清中、37℃で14日間インキュベートした。0日、1日、4日、7日、および14日間インキュベートした抗体の結合活性をフローサイトメトリーにより検出した。その結果から、14日間ヒト血清中でインキュベートした後のW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのCD3細胞およびCD19細胞に対する結合活性は変わらなかった(図19Aおよび図19B)。
【0330】
Fcγ受容体結合
【0331】
W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのFcγRI、FcγRIIa(H167)、FcγRIIa(R167)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F176)、FcγRIIIa(V176)、およびFcγRIIIbに対する結合活性をSPRで調べた。表1に親和性をまとめた。W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPは、すべてのFcγ受容体に対して典型的なヒトIgG4結合親和性を示した。
【表17】
【0332】
ELISAにより抗体のC1Qに対する結合活性を試験した。W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPはELISAで結合信号を示さなかった(図20)が、対照ヒトIgG1抗体は通常の結合信号を示した。
【0333】
FcRn結合
【0334】
W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPのFcRnへの結合をSPRによりpH6.0で試験した。親和性は2.58μMとしてフィッティングした。これはFcRnに対するヒトIgG4の典型的な親和性である。
【0335】
インビボの特徴付け
【0336】
PBMC/Raji異種移植モデルにおける有効性の研究
【0337】
本研究では、NOGマウスにRaji細胞を担持させた混合PBMCヒト化モデルでのW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの抗腫瘍有効性を調べた。図21に腫瘍成長曲線を示す。
【0338】
14日目にアイソタイプ対照治療群の平均腫瘍サイズは342mm3に達した。1.5mg/kgおよび0.5mg/kgのW3438-T3U4.E17-1.uIG4.SPで治療すると有意な抗癌活性が得られた。平均腫瘍サイズは、それぞれ、78mm3(T/C=23.0%、TGI=93.9%、p=0.016)および75mm3(T/C=22.0%、TGI=95.3%、p=0.014)であり、高投与量群の1匹の動物の腫瘍は根絶された。非常に低い投与量(0.06mg/kg)のW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPは抗癌活性を全くしめさなかった。
【0339】
カニクイザルにおけるWuXiBodyの薬物動力学
【0340】
ELISAによりカニクイザル血清におけるW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの濃度を試験した(図22)。算出したPKパラメーターを表2に示す。1mg/kgの1回の単回静脈注射液でのW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの半減期は152時間であった。チンパンジーでの半減期が非常に短い(1.5~2.6時間)ブリナツモマブ(European Medicines Agency評価報告EMA/CHMP/469312/2015)に比べて、W3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPはサルで非常に長い半減期を示した。
【表18】
【0341】
毒性
【0342】
本研究の全過程ですべてのサルは薬物に十分に忍容性であった。本研究の生存相中は有害効果は観察されなかった。食べ物の摂取および重量には明らかな変化はなかった。AST、ALT、WBC、HGB、およびHCTを含む血液学と臨床化学のパラメーターは一般に基準範囲内であった。
【0343】
免疫原性
【0344】
投与の3日後、14日後、および28日後のW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの抗薬物抗体(ADA)の結果を図23A図23Bに示す。投与後3、14及び28日のサル血清中のW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPに対するADAの力価は、投与前と有意な差を示さなかった。従って、1mg/kgでのW3438-T3U4.E17-1.uIgG4.SPの単回の静脈注射液はサルでは免疫原性ではないと思われる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A-4B】
図5
図6
図7
図8
図9
図10A-10B】
図11A-11B】
図12
図13
図14A-14B】
図15A-15B】
図16A-16B】
図17A-17B】
図17C-17D】
図18A-18B】
図18C-18D】
図19A-19B】
図20
図21
図22
図23A-23B】
【配列表】
0007185696000001.app