(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】電磁動力制御装置
(51)【国際特許分類】
F16D 48/02 20060101AFI20221130BHJP
F16D 25/12 20060101ALI20221130BHJP
F16D 27/112 20060101ALI20221130BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F16D48/02 640N
F16D25/12 D
F16D25/12 E
F16D27/112
G05B11/36 P
(21)【出願番号】P 2021052547
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504456640
【氏名又は名称】姫菱テクニカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 信男
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-56157(JP,A)
【文献】特開2019-44926(JP,A)
【文献】特開2019-48589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02,25/12,27/112
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源に接続された入力軸と、負荷に接続された出力軸との間を係合又は解放する電磁クラッチ、及び前記出力軸と非回転部材との間を係合又は解放する電磁ブレーキの一方又は双方を有する電磁動力制御機構と、
前記電磁クラッチへの供給電流及び前記電磁ブレーキへの供給電流の一方又は双方を制御する制御器と、
前記出力軸の回転を検出する回転センサと、
前記電磁クラッチへの供給電流及び前記電磁ブレーキへの供給電流を検出する電流センサと、
前記出力軸から前記負荷に伝達される出力トルクを検出するトルクセンサと、を備え、
前記制御器は、
制御周期毎に、
前記回転センサの出力信号に基づいて、前記出力軸の回転速度を検出し、前記電流センサの出力信号に基づいて、前記電磁クラッチへの供給電流、及び前記電磁ブレーキへの供給電流の一方又は双方を検出し、前記トルクセンサの出力信号に基づいて、前記出力トルクを検出し、
前記制御周期毎に、
現在の
前記制御周期よりも先の時点に
仮想の目標タイミングを設定し、前記目標タイミングにおける目標回転速度を設定し、
前記目標タイミングにおける前記目標回転速度
と現在の
前記制御周期において前記回転センサの出力信号に基づいて検出された前記出力軸の回転速度の検出値
との間の速度差を、前記目標タイミングの時点と現在の前記制御周期の時点との間の時間差で除算して、目標回転加速度を算出し、前記目標回転加速度に基づいて、目標出力トルクを算出し、前記目標出力トルク、及び
現在の前記制御周期において前記電流センサの出力信号に基づいて検出された、滑り係合状態の前記電磁クラッチへの供給電流の検出値又は滑り係合状態の前記電磁ブレーキへの供給電流の検出値と、
現在の前記制御周期において前記トルクセンサの出力信号に基づいて検出された前記出力トルクの検出値との比である実電流実トルク比に基づいて、滑り係合状態の前記電磁クラッチへの供給電流又は滑り係合状態の前記電磁ブレーキへの供給電流を変化させる電磁動力制御装置。
【請求項2】
前記制御器は、
前記制御周期毎に、現在の前記制御周期において検出された前記出力トルクの検出値を、
現在の前記制御周期において検出された前記
供給電流の検出値で除算して前記実電流実トルク比を算出し、前記目標出力トルクを前記実電流実トルク比で除算して目標電流を算出し、前記目標電流に基づいて、前記電磁クラッチへの供給電流又は前記電磁ブレーキへの供給電流を変化させる請求項1に記載の電磁動力制御装置。
【請求項3】
前記制御器は、
前記制御周期毎に、現在の前記制御周期において検出された前記出力トルクの検出値を、
現在の前記制御周期において検出された前記
供給電流の検出値からオフセット電流量を減算した電流量で除算して前記実電流実トルク比を算出し、前記目標出力トルクを前記実電流実トルク比で除算した値に、前記オフセット電流量を加算して、目標電流を算出し、前記目標電流に基づいて、前記電磁クラッチへの供給電流又は前記電磁ブレーキへの供給電流を変化させる請求項1に記載の電磁動力制御装置。
【請求項4】
前記制御器は、
前記制御周期毎に、前記目標回転加速度に、前記出力軸と一体的に回転する部材の慣性モーメントを乗算した目標慣性トルクと、前記負荷にかかる負荷トルクの絶対値と、を合計したトルクを、前記目標出力トルクとして設定する請求項1から
3のいずれか一項に記載の電磁動力制御装置。
【請求項5】
前記電磁動力制御機構は、少なくとも前記電磁クラッチを有し、
前記制御器は、前記電磁クラッチが解放され、前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との間に差がある状態において、前記電磁クラッチの係合を開始し、前記電磁クラッチの係合開始時点から、予め設定された目標係合完了時間先の時点に前記目標タイミングを設定し、前記目標タイミングにおける前記目標回転速度を設定し、前記電磁クラッチへの供給電流を変化させる請求項1から
4のいずれか一項に記載の電磁動力制御装置。
【請求項6】
前記電磁動力制御機構は、前記電磁クラッチ及び前記電磁ブレーキの双方を有し、
前記制御器は、前記電磁クラッチ及び前記電磁ブレーキが解放され、前記出力軸が回転している状態において、前記電磁ブレーキの係合を開始し、前記電磁ブレーキの係合開始時点から、予め設定された目標係合完了時間先の時点に前記目標タイミングを設定し、前記目標タイミングにおける前記目標回転速度を設定し、前記電磁ブレーキへの供給電流を変化させる請求項1から
5のいずれか一項に記載の電磁動力制御装置。
【請求項7】
前記制御器は、
前記制御周期毎に、前記電磁クラッチへの供給電流又は前記電磁ブレーキへの供給電流を変化させる請求項1から
6のいずれか一項に記載の電磁動力制御装置。
【請求項8】
前記制御器は、前記目標電流が、正常範囲外になった場合に、前記電磁クラッチ又は前記電磁ブレーキに異常が生じたと判定する請求項2又は3に記載の電磁動力制御装置。
【請求項9】
前記制御器は、異常が生じたと判定した場合に、外部装置に異常を伝達する請求項
8に記載の電磁動力制御装置。
【請求項10】
前記制御器は、
前記制御周期毎に、前記目標電流に基づいてオンデューティ比を算出し、
前記オンデューティ比に基づいて、PWM制御により前記電磁クラッチ又は前記電磁ブレーキへの通電をオンオフする請求項2又は3に記載の電磁動力制御装置。
【請求項11】
前記制御器は、
前記制御周期毎に、前記目標電流に換算係数を乗算して前記オンデューティ比を算出する請求項1
0に記載の電磁動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電磁動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ等における紙搬送機構には、動力の伝達及び制動を行うために、電磁クラッチ及び電磁ブレーキを備えた動力制御装置が設けられている。電磁クラッチは、動力源に接続された入力軸と、ローラ等の機械的な負荷に接続された出力軸との間を係合又は解放する。電磁ブレーキは、出力軸と非回転部材との間を係合又は解放する。しかし、動力制御装置を構成する部品及び負荷のバラツキ、経年変化などにより、負荷の駆動及び制動が安定しない問題があった。
【0003】
特許文献1の技術は、ロボットマニピュレータの動力制御装置であるが、動力制御装置では、モータの駆動力を、減速機及びクラッチを介してマニピュレータに伝達している。減速機等の潤滑剤は、粘性変化を持つ。特許文献1の段落0029から段落0031に記載されているように、駆動制御部213は、外乱推定部238で推定される粘性係数の値を予め決められた特性パラメータに基づいて計算する。モータの駆動開始後から粘性係数が一定の範囲に収まった後に、クラッチの動力伝達を行わせる。これにより、動力伝達機構に粘性変化を持つ場合でも、時間経過に応じた粘性変化を考慮し、外乱推定の精度を極力向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電磁クラッチ又は電磁ブレーキを係合する際に、過渡的に、2つの摩擦板の間に速度差が生じ、滑り係合状態になる。しかしながら、特許文献1の技術では、減速機等の潤滑剤の粘性変化が考慮されているだけで、動力制御装置に設けられた電磁クラッチ又は電磁ブレーキを滑り係合状態に係合し、電磁クラッチ又は電磁ブレーキを介して負荷にトルクを伝達することは考慮されていない。
【0006】
滑り係合状態の電磁クラッチ又は電磁ブレーキを伝達する伝達トルクは、経年変化、生産バラツキ、温度、2つの摩擦板の速度差などの変動要因により変動しやすい。例えば、摩擦板の摩擦係数は、経年変化、生産バラツキ、温度、2つの摩擦板の速度差などにより変動しやすい。また、電磁コイルの通電電流及び電磁力は、温度などにより変動し易い。そのため、電磁クラッチ又は電磁ブレーキへの供給電流を同様に操作しても、変動要因により電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクが変動し、伝達トルクの変動により、出力軸の回転加速度が変動し、出力軸の回転加速度の変動により、出力軸の回転速度が変動する。また、電磁クラッチ又は電磁ブレーキに設けられた電磁コイルのインダクタンス等により、電流操作に対して、電磁クラッチ又は電磁ブレーキを実際に流れる電流値の変化には応答遅れが生じる。従って、電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクの変動要因により、出力軸の回転速度の制御精度が悪化する。そのため、計画的に、目標タイミングで、出力軸の回転速度を目標回転速度に一致させ、電磁クラッチ又は電磁ブレーキの係合を完了させようとした場合に、制御精度が悪化する。
【0007】
そこで、変動要因により滑り係合状態の電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクが変動した場合でも、応答性良く、供給電流を変化させ、目標タイミングにおける回転速度の制御精度を向上できる電磁動力制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に係る電磁動力制御装置は、
動力源に接続された入力軸と、負荷に接続された出力軸との間を係合又は解放する電磁クラッチ、及び前記出力軸と非回転部材との間を係合又は解放する電磁ブレーキの一方又は双方を有する電磁動力制御機構と、
前記電磁クラッチへの供給電流及び前記電磁ブレーキへの供給電流の一方又は双方を制御する制御器と、
前記出力軸の回転を検出する回転センサと、
前記電磁クラッチへの供給電流及び前記電磁ブレーキへの供給電流を検出する電流センサと、
前記出力軸から前記負荷に伝達される出力トルクを検出するトルクセンサと、を備え、
前記制御器は、
制御周期毎に、
前記回転センサの出力信号に基づいて、前記出力軸の回転速度を検出し、前記電流センサの出力信号に基づいて、前記電磁クラッチへの供給電流、及び前記電磁ブレーキへの供給電流の一方又は双方を検出し、前記トルクセンサの出力信号に基づいて、前記出力トルクを検出し、
前記制御周期毎に、
現在の前記制御周期よりも先の時点に仮想の目標タイミングを設定し、前記目標タイミングにおける目標回転速度を設定し、前記目標タイミングにおける前記目標回転速度と現在の前記制御周期において前記回転センサの出力信号に基づいて検出された前記出力軸の回転速度の検出値との間の速度差を、前記目標タイミングの時点と現在の前記制御周期の時点との間の時間差で除算して、目標回転加速度を算出し、前記目標回転加速度に基づいて、目標出力トルクを算出し、前記目標出力トルク、及び現在の前記制御周期において前記電流センサの出力信号に基づいて検出された、滑り係合状態の前記電磁クラッチへの供給電流の検出値又は滑り係合状態の前記電磁ブレーキへの供給電流の検出値と、現在の前記制御周期において前記トルクセンサの出力信号に基づいて検出された前記出力トルクの検出値との比である実電流実トルク比に基づいて、滑り係合状態の前記電磁クラッチへの供給電流又は滑り係合状態の前記電磁ブレーキへの供給電流を変化させるものである。
【発明の効果】
【0009】
本願に係る電磁動力制御装置によれば、目標回転速度及び現在の回転速度の検出値に基づいて、目標回転加速度が算出されるので、目標タイミングにおいて目標回転速度を達成するために、現在必要な目標回転加速度を算出することができる。そして、目標回転加速度に基づいて、目標出力トルクを算出することができる。電流の検出値と出力トルクの検出値との実電流実トルク比により、実電流と、滑り係合状態の電磁クラッチ又は電磁ブレーキの実伝達トルクとの比に対応する情報を検出できる。実電流を用いているので、電磁コイルのインダクタンス等による電流操作に対する実電流の応答遅れの影響を受けることなく、実電流と実伝達トルクとの状態を検出できる。すなわち、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報を、遅れなく検出できる。そして、実電流実トルク比、及び目標出力トルクに基づいて、供給電流が変化される。そのため、目標出力トルクを達成するための電流操作を、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報に基づいて、遅れなく、フィードフォワード的に行うことができる。従って、経年変化、生産バラツキ、温度、2つの摩擦板の速度差などの変動要因により、摩擦板及び電磁コイルの特性が変動し、滑り係合状態の電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクが変動した場合でも、電磁コイルのインダクタンス等による電流の応答遅れの影響を低減し、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報を検出し、フィードフォワード的に、供給電流を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る電磁動力制御装置の概略構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る電磁動力制御装置の模式図である。
【
図3】実施の形態1に係る制御器の概略ブロック図である。
【
図4】実施の形態1に係る制御器のハードウェア構成図である。
【
図5】実施の形態1に係る電磁クラッチの係合時の伝達トルクを説明するための模式図である。
【
図6】実施の形態1に係る電磁ブレーキの係合時の伝達トルクを説明するための模式図である。
【
図7】実施の形態1に係る電磁クラッチの係合時の制御挙動を説明するためのタイムチャートである。
【
図8】実施の形態1に係る電磁ブレーキの係合時の制御挙動を説明するためのタイムチャートである。
【
図9】実施の形態1に係る制御器の処理を説明するためのフローチャートである。
【
図10】実施の形態2に係る制御器のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る電磁動力制御装置1について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る電磁動力制御装置1の概略構成図である。電磁動力制御装置1は、電磁動力制御機構10、制御器20、電流センサ30、トルクセンサ40、及び回転センサ50を備えている。制御器20は、外部装置100と通信可能に接続されている。外部装置100は、電磁動力制御装置1が設けられたシステム全体の動作を監視、制御する上位の装置である。
【0012】
<電磁動力制御装置1>
図2に模式図を示すように、電磁動力制御装置1は、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12を有している。なお、電磁動力制御装置1は、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12の一方を有していてもよい。電磁クラッチ11は、入力軸SIと出力軸SOとの間を係合又は解放する。電磁ブレーキ12は、出力軸SOと非回転部材17との間を係合又は解放する。非回転部材17は、筐体などに固定されている。なお、
図2は、模式図であり、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12等の実際の構造を限定するものではなく、さまざまな構造のものが用いられる。
【0013】
入力軸SIには、動力源200が接続されている。動力源200は、モータなどとされる。入力軸SIは、動力源200に直接、連結されてもよいし、ギヤ、ベルト等の動力伝達機構を介して接続されてもよい。動力源200は、動力源の制御器(不図示)により制御される。
【0014】
出力軸SOには、負荷300が接続されている。負荷300は、出力軸SOから伝達された出力トルクToを用いて、機械的な仕事を行う。この仕事のために負荷300において発生するトルクを負荷トルクTLと称す。例えば、電磁動力制御装置1が、複写機、プリンタ等に用いられる場合は、負荷300は、ギヤ、ローラなどにより構成される。
【0015】
電磁クラッチ11は、対向する2つの摩擦板13、14、及び2つの摩擦板13、14を相互に押し付ける押し付け力を発生する電磁アクチュエータ15を有している。各摩擦板13、14は、円環板状に形成される。2つの摩擦板13、14の間に生じる摩擦力は、電磁アクチュエータ15の押し付け力に比例する。電磁アクチュエータ15の押し付け力は、電磁アクチュエータ15に供給されている電流に比例する。電磁アクチュエータ15は、電磁コイルを有しており、電流に比例する電磁コイルの電磁力により押し付け力を発生する。電磁コイルへの電流供給が停止されると、押し付け力がなくなり、リターンスプリング16により、2つの摩擦板の間の接触がなくなり、電磁クラッチ11が解放状態になる。電磁ブレーキ12も、電磁クラッチ11と同様に構成されている。
【0016】
2つの摩擦板13、14との間に速度差がある状態で、電磁アクチュエータ15の押し付け力により2つの摩擦板13、14が係合している場合は、2つの摩擦板13、14の間を、摩擦力に比例したトルクが伝達する。この2つの摩擦板13、14の間に速度差を有して、滑りながら係合している状態を、滑り係合状態と称す。従って、滑り係合状態では、2つの摩擦板13、14の間を、電流に比例したトルクが伝達する。
【0017】
<電流センサ30>
電流センサ30は、電磁クラッチ11に供給される電流及び電磁ブレーキ12に供給される電流の一方又は双方(本例では、双方)を検出する。本実施の形態では、電磁クラッチ11への供給電流を検出する第1電流センサ30a、及び電磁ブレーキ12への供給電流を検出する第2電流センサ30bが設けられている。各電流センサ30a、30bには、ホール素子、シャント抵抗等が用いられる。各電流センサ30a、30bの出力信号は、制御器20に入力される。
【0018】
<トルクセンサ40>
トルクセンサ40は、出力軸SOから負荷300に伝達される出力トルクToを検出する。トルクセンサ40は、出力軸SOから負荷300への動力伝達経路に設けられている。トルクセンサ40には、磁歪式のトルクセンサ等が用いられる。磁歪式のトルクセンサは、軸体の周囲に配置され、軸体のねじれを磁気で検出し、検出したねじれ量によりトルクを検出する。トルクセンサ40の出力信号は、制御器20に入力される。なお、磁歪式以外のトルクセンサが用いられてもよい。
【0019】
<回転センサ50>
回転センサ50は、出力軸SOの回転を検出する。例えば、回転センサ50には、MR素子を用いた磁気検出式の回転センサが用いられる。回転センサ50は、検出した回転速度に係る情報(例えば、回転周期に係る情報)を出力する。回転センサ50の出力信号は、制御器20に入力される。なお、磁気検出式以外の回転センサが用いられてもよい。
【0020】
1-1.制御器20
制御器20は、電磁クラッチ11への供給電流及び電磁ブレーキ12への供給電流の一方又は双方を制御する。
図3に示すように、制御器20は、運転状態検出部21、目標タイミング速度設定部22、及び電流制御部23を備えている。制御器20の各機能は、制御器20が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御器20は、
図4に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93、及び外部装置100等とデータ通信を行う通信装置94等を備えている。CPU及び記憶装置91等が一体化された、マイクロプロセッサが用いられてもよい。
【0021】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92は、トルクセンサ40、回転センサ50、第1電流センサ30a、及び第2電流センサ30b等の各種のセンサが接続され、これらセンサの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、電磁クラッチ11への供給電流及び電磁ブレーキ12への供給電流をオンオフするスイッチング素子95などの駆動回路等を備えている。通信装置94は、外部装置100等と通信を行う。スイッチング素子95には、FET(Field Effect Transistor)等が用いられる。
【0022】
そして、制御器20が備える
図3の各機能部21~23等の各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、出力回路93、及び通信装置94等の制御器20の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各機能部21~23等が用いる目標係合完了時間ΔTendtr、目標回転速度ωotr、慣性モーメントJ、負荷トルクTL、換算係数Kid、初期値等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、制御器20の各機能について詳細に説明する。
【0023】
1-1-1.運転状態検出部21
運転状態検出部21は、回転センサ50の出力信号に基づいて、出力軸SOの回転速度ωodetを検出する。運転状態検出部21は、第1電流センサ30aの出力信号に基づいて、電磁クラッチ11への供給電流Icldetを検出し、第2電流センサ30bの出力信号に基づいて、電磁ブレーキ12への供給電流Ibkdetを検出する。運転状態検出部21は、トルクセンサ40の出力信号に基づいて、出力トルクTodetを検出する。運転状態検出部21は、少なくとも制御周期ΔTcnt毎に各検出値を検出する。
【0024】
1-1-2.目標タイミング速度設定部22
目標タイミング速度設定部22は、現在よりも先の時点に目標タイミングTptrを設定する。本実施の形態では、詳細は後述するが、
図7に示すように、電磁クラッチ11を係合する場合は、目標タイミング速度設定部22は、電磁クラッチ11の係合開始時点Tpstから、予め設定された目標係合完了時間ΔTendtr先の時点に目標タイミングTptrを設定する。また、
図8に示すように、電磁ブレーキ12を係合する場合は、目標タイミング速度設定部22は、電磁ブレーキ12の係合開始時点Tpstから、予め設定された目標係合完了時間ΔTendtr先の時点に目標タイミングTptrを設定する。例えば、目標係合完了時間ΔTendtrは、要求性能などに基づいて、予め設定される。
【0025】
目標タイミング速度設定部22は、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを設定する。本実施の形態では、詳細は後述するが、電磁クラッチ11を係合する場合は、目標タイミング速度設定部22は、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを入力軸の回転速度に設定する。電磁クラッチ11を係合する場合の動力源200(本例では、モータ)の回転速度が、動力源200の制御器により予め規定されている場合は、目標回転速度ωotrは、規定された動力源200の回転速度に対応する値に予め設定されている。動力源200の回転速度が規定されていない場合は、目標タイミング速度設定部22は、動力源の制御器又は外部装置100から伝達された回転速度、又は入力軸SIの回転を検出する回転センサの出力信号に基づいて検出した回転速度に、目標回転速度ωotrを設定してもよい。或いは、目標タイミング速度設定部22は、目標回転速度ωotrを、負荷300の目標の回転速度に設定してもよい。
【0026】
また、詳細は後述するが、電磁ブレーキ12を係合する場合は、目標タイミング速度設定部22は、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを、0に設定する。或いは、目標タイミング速度設定部22は、目標回転速度ωotrを、負荷300の目標の回転速度に設定してもよい。
【0027】
1-1-3.電流制御部23
電流制御部23は、目標タイミングTptrにおいて、回転速度の検出値ωodetが目標回転速度ωotrに近づくように、電磁クラッチ11への供給電流、又は電磁ブレーキ12への供給電流を変化させる。
【0028】
<電流制御の課題>
上述したように、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12が、滑り係合状態である場合は、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12を伝達する伝達トルクは、供給電流に比例して変化する。しかし、滑り係合状態の伝達トルクは、経年変化、生産バラツキ、温度、2つの摩擦板の速度差などの変動要因により変動しやすい。例えば、摩擦板の摩擦係数は、経年変化、生産バラツキ、温度、2つの摩擦板の速度差などにより変動しやすい。また、電磁コイルの通電電流及び電磁力は、温度などにより変動し易い。そのため、同じ制御器20の電流操作を行っても、変動要因により電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクが変動し、伝達トルクの変動により、出力軸SOの回転加速度αoが変動し、出力軸SOの回転加速度αoの変動により、出力軸SOの回転速度ωoが変動する。また、電磁コイルのインダクタンス、及び制御器20内の処理遅れにより、制御器20の電流操作に対して、電磁クラッチ又は電磁ブレーキを実際に流れる電流値の変化には応答遅れが生じる。従って、電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクの変動要因により、目標タイミングTptrにおける回転速度の制御精度が悪化する。
【0029】
これに対して、回転速度の検出値ωodet又は出力トルクの検出値Todetを用いて、回転速度のフィードバック制御又は出力トルクのフィードバック制御を行うことが考えられる。しかし、フィードバック制御では、電流操作に対する実電流の応答遅れ、フィードバック制御器の応答遅れにより、安定性を考慮すると、制御の応答性をあまり高められない。そのため、変動要因により、電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクが変動した場合に、フィードバック制御の応答遅れにより、目標タイミングTptrにおいて、目標回転速度ωotrに対する回転速度のアンダーシュート又はオーバーシュートが発生する場合があり、目標タイミングTptrにおける回転速度の制御精度の向上には限界があった。
【0030】
従って、変動要因により電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクが変動した場合でも、応答性良く、供給電流を変化させ、目標タイミングTptrにおける回転速度の制御精度を向上することが求められる。
【0031】
<電流制御部23の構成>
そこで、電流制御部23は、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotr及び現在の回転速度の検出値ωodetに基づいて、目標回転加速度αotrを算出し、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出し、目標出力トルクTotr、及び電流の検出値Idetと出力トルクの検出値Todetとの比である実電流実トルク比に基づいて、滑り係合状態の電磁クラッチ11への供給電流又は滑り係合状態の電磁ブレーキ12への供給電流を変化させる。
【0032】
この構成によれば、目標回転速度ωotr及び現在の回転速度の検出値ωodetに基づいて、目標回転加速度αotrが算出されるので、目標タイミングTptrにおいて目標回転速度ωotrを達成するために、現在必要な目標回転加速度αotrを算出することができる。そして、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出することができる。
【0033】
電流の検出値Idetと出力トルクの検出値Todetとの実電流実トルク比により、実電流と、滑り係合状態の電磁クラッチ又は電磁ブレーキの実伝達トルクとの比に対応する情報を検出できる。実電流を用いているので、電磁コイルのインダクタンス等による電流操作に対する実電流の応答遅れの影響を受けることなく、実電流と実伝達トルクとの状態を検出できる。すなわち、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報を、遅れなく検出できる。
【0034】
そして、実電流実トルク比、及び目標出力トルクTotrに基づいて、供給電流が変化される。そのため、目標出力トルクTotrを達成するための電流操作を、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報に基づいて、遅れなく、フィードフォワード的に行うことができる。
【0035】
従って、経年変化、生産バラツキ、温度、2つの摩擦板の速度差などの変動要因により、摩擦板及び電磁コイルの特性が変動し、滑り係合状態の電磁クラッチ又は電磁ブレーキの伝達トルクが変動した場合でも、電磁コイルのインダクタンス等による電流の応答遅れの影響を低減し、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報を検出し、フィードフォワード的に、供給電流を変化させることができる。
【0036】
電流制御部23は、制御周期ΔTcnt毎に、電磁クラッチ11への供給電流、又は電磁ブレーキ12への供給電流を変化させる。
【0037】
<目標回転加速度αotrの算出>
電流制御部23は、次式に示すように、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差を、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTpで除算して、目標回転加速度αotrを算出する。時間差ΔTpの算出には、演算処理装置90の有するタイマー機能等が用いられる。
αotr=(ωotr-ωodet)/(Tptr-Tppr) ・・・(1)
【0038】
この構成によれば、目標タイミングTptrにおいて目標回転速度ωotrを達成するための目標回転加速度αotrを精度よく演算することができる。
【0039】
<目標出力トルクTotrの算出>
図2に示すように、出力軸SOから負荷300に伝達される出力トルクToは、出力軸SOの回転加速度αoに、出力軸SOと一体的に回転する部材(本例では、出力軸SO及び負荷300)の慣性モーメントJを乗算した慣性トルクTjと、負荷300にかかる負荷トルクTLの絶対値とを合計したトルクに一致する。負荷トルクTLは、負の値になる。
【0040】
そこで、電流制御部23は、次式に示すように、目標回転加速度αotrに、出力軸SOと一体的に回転する部材の慣性モーメントJを乗算した目標慣性トルクと、負荷300にかかる負荷トルクTLの絶対値と、を合計したトルクを、目標出力トルクTotrとして設定する。
Totr=J×αotr+|TL| ・・・(2)
【0041】
この構成によれば、慣性モーメントJ、及び負荷トルクTLを考慮して、目標回転加速度αotrを達成するための目標出力トルクTotrを精度よく算出することができる。
【0042】
負荷トルクTLが定格値になる場合は、負荷トルクTLは、定格値に予め設定される。負荷トルクTLが変動する場合は、電流制御部23は、負荷300の制御器又は外部装置100から伝達された負荷300の動作状態に応じて、負荷トルクTLを変化させてもよい。或いは、電流制御部23は、負荷300の動作状態を検出し、検出した負荷300の動作状態に応じて、負荷トルクTLを変化させてもよい。この際、動作状態と負荷トルクTLとの関係が予め設定されたデータが用いられるとよい。
【0043】
電磁クラッチ11を係合させる場合は、基本的に、目標回転加速度αotrは正の値になり、目標出力トルクTotrは正の値になる。なお、出力軸SOの回転速度が、入力軸SIの回転速度よりも高く、目標回転加速度αotrが負の値になり、目標出力トルクTotrが負の値になってもよい。電磁ブレーキ12を係合させる場合は、基本的に、目標回転加速度αotrは負の値になり、目標出力トルクTotrは負の値になる。なお、回転方向のトルクを正とし、回転反対方向のトルクを負とする。
【0044】
<実電流実トルク比>
図5及び次式に示すように、電磁クラッチ11を滑り係合状態で係合させる場合は、出力トルクToは、出力軸SOに伝達される電磁クラッチ11の伝達トルクTclに等しくなり、正の値になる。よって、トルクセンサ40による出力トルクの検出値Todetにより、電磁クラッチ11の伝達トルクTclを検出することができる。電磁クラッチ11の伝達トルクTclは、電磁クラッチの電流Iclに比例するが、その比例係数Kclが、変動要因により変動する。電磁クラッチの電流の検出値Icldetに対する出力トルクの検出値Todetの比により、変動要因により変動した電流に対する伝達トルクの比例係数Kclを求めることができる。
To=Tcl
Tcl=Todet
Tcl=Kcl×Icl ・・・(3)
Kcl=Todet/Icldet
【0045】
一方、
図6及び次式に示すように、電磁ブレーキ12を係合させる場合は、出力トルクToは、出力軸SOに伝達される電磁ブレーキ12の伝達トルクTbkに等しくなり、負の値になる。よって、トルクセンサ40による出力トルクの検出値Todetにより、電磁ブレーキ12の伝達トルクTbkを検出することができる。電磁ブレーキ12の伝達トルクTbkは、電磁ブレーキの電流Ibkの正負反転値に比例するが、その比例係数Kbkが、変動要因により変動する。電磁ブレーキの電流の検出値Ibkdetに対する出力トルクの検出値Todetの比により、変動要因により変動した電流に対する伝達トルクの比例係数Kbkの正負反転値を求めることができる。
To=Tbk<0
Tbk=Todet
Tbk=-Kbk×Ibk ・・・(4)
-Kbk=Todet/Ibkdet
【0046】
そこで、電流制御部23は、次式に示すように、出力トルクの検出値Todetを、電流の検出値Idetで除算して、実電流実トルク比を算出し、目標出力トルクTotrを、実電流実トルク比で除算して、目標電流Itrを算出する。そして、電流制御部23は、目標電流Itrに基づいて、電磁クラッチ11への供給電流又は電磁ブレーキ12への供給電流を変化させる。
Itr=Totr/(Todet/Idet) ・・・(5)
【0047】
この構成によれば、上述したように、実電流を用いているので、電磁コイルのインダクタンス等による電流操作に対する実電流の応答遅れの影響を受けることなく、実電流と実伝達トルクとの状態を検出できる。すなわち、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報を、遅れなく検出できる。
【0048】
そして、目標出力トルクTotrを、実電流実トルク比で除算することにより、目標出力トルクTotrを達成するための目標電流Itrを算出することができる。従って、目標出力トルクTotrを達成するための電流操作を、変動要因により変動した実電流に対する実伝達トルクの特性に係る情報に基づいて、遅れなく、フィードフォワード的に行うことができる。
【0049】
なお、上述したように、電磁クラッチ11を係合させる場合は、目標出力トルクTotrは、正の値になり、実電流実トルク比は正の値になる。よって、算出される目標電流Itrは、正の値になる。電磁ブレーキ12を係合させる場合は、目標出力トルクTotrは、負の値になり、実電流実トルク比は負の値になる。よって、算出される目標電流Itrは、正の値になる。
【0050】
リターンスプリング16の力に打ち勝つために必要なオフセット電流量ΔIoffが無視できないほど大きい場合は、実電流実トルク比の算出に、オフセット電流量ΔIoffを考慮してもよい。すなわち、電流制御部23は、次式に示すように、出力トルクの検出値Todetを、電流の検出値Idetからオフセット電流量ΔIoffを減算した電流量で除算して、実電流実トルク比を算出し、目標出力トルクTotrを実電流実トルク比で除算した値に、オフセット電流量ΔIoffを加算して、目標電流Itrを算出してもよい。オフセット電流量ΔIoffは、予め設定される。或いは、電流制御部23は、電流の検出値Idetと出力トルクの検出値Todetとの関係に基づいて、オフセット電流量ΔIoffを、出力トルクが生じ始める電流に設定してもよい。
Itr=Totr/{Todet/(Idet-ΔIoff)}+ΔIoff
・・・(6)
【0051】
<電流制御>
電流制御部23は、目標電流Itrに基づいてオンデューティ比Donを算出し、オンデューティ比Donに基づいて、PWM(Pulse Width Modulation)制御により電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12への通電をオンオフする。
【0052】
例えば、電流制御部23は、次式に示すように、目標電流Itrに、換算係数Kidを乗算して、オンデューティ比Donを算出する。換算係数Kidに、温度特性等が考慮されてもよい。
Don=Kid×Itr ・・・(7)
【0053】
この構成によれば、目標電流Itrに基づいて、遅れなく、オンデューティ比Donを変化させることができ、制御応答を高めることができる。
【0054】
なお、電流制御部23は、目標電流Itrと電流の検出値Idetとの偏差を、積分演算等によりフィードバック的にオンデューティ比Donに反映させてもよい。
【0055】
電流制御部23は、PWM周期において、オンデューティ比Donでオンになるパルス波を生成し、パルス波により電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12への通電をオンオフするスイッチング素子95をオンオフさせる。なお、パルス波がオンになると、スイッチング素子95がオンになり、通電がオンになり、パルス波がオフになると、スイッチング素子95がオフになり、通電がオフになる。
【0056】
電磁クラッチ11を係合させる場合は、電流制御部23は、目標電流Itrに基づいて、電磁クラッチ11のオンデューティ比Donを算出する。そして、電流制御部23は、オンデューティ比Donのパルス波を生成し、パルス波により、電磁クラッチ11への通電をオンオフするスイッチング素子95をオンオフさせる。
【0057】
電磁ブレーキ12を係合させる場合は、電流制御部23は、目標電流Itrに基づいて、電磁ブレーキ12のオンデューティ比Donを算出する。そして、電流制御部23は、オンデューティ比Donのパルス波を生成し、パルス波により、電磁ブレーキ12への通電をオンオフするスイッチング素子95をオンオフさせる。
【0058】
<電磁クラッチ11の係合時の制御挙動>
電流制御部23は、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12が解放され、入力軸SIの回転速度と出力軸SOの回転速度との間に差がある状態において、電磁クラッチ11の係合を開始する。例えば、電流制御部23は、外部装置100から、電磁クラッチ11の係合開始指令が伝達された場合に、電磁クラッチ11の係合を開始する。
【0059】
そして、目標タイミング速度設定部22は、電磁クラッチ11の係合開始時点Tpstから、予め設定された目標係合完了時間ΔTendtr先の時点に目標タイミングTptrを設定し、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを設定する。例えば、目標回転速度ωotrは、入力軸SIの回転速度に設定される。そして、上述したように、電流制御部23は、目標タイミングTptrにおいて、回転速度の検出値ωodetが目標回転速度ωotrに近づくように、電磁クラッチ11への供給電流を変化させる。なお、電流制御部23は、電磁ブレーキ12への供給電流を0に設定する。
【0060】
電磁クラッチ11の係合時の制御挙動の例を、
図7のタイムチャートに示す。時刻t01までは、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12が解放され、入力軸SIが回転し、出力軸SOが回転停止している。時刻t01で、電流制御部23は、電磁クラッチ11の係合を開始すると判定している。そして、電流制御部23は、電磁クラッチ11の係合開始時点Tpst(本例では、時刻t01)から、予め設定された目標係合完了時間ΔTendtr先の時点(本例では、時刻t05)に目標タイミングTptrを設定し、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを設定している。本例では、目標回転速度ωotrは、入力軸SIの回転速度に設定されている。
【0061】
そして、時刻t01以降、電流制御部23は、制御周期ΔTcnt毎に、目標電流Itrを更新し、電磁クラッチ11への供給電流を変化させている。具体的には、時刻t01で、電流制御部23は、目標電流Itrを初期値(例えば、オンデューティ比100%に対応する値)に設定し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。或いは、時刻t01で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodet(本例では、0)との間の速度差Δωoを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t05-t01)で除算して、目標回転加速度αotrを算出し、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出し、目標出力トルクTotrを、実電流実トルク比の初期値で除算して、目標電流Itrを算出してもよい。時刻t01から時刻t02までの間、電流制御部23は、時刻t01で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁クラッチ11への供給電流を制御している。
【0062】
制御周期ΔTcnt後の時刻t02では、時刻t01で算出された目標電流Itrによる制御結果が、電流の検出値Icldet、及び出力トルクの検出値Todetに表れる。本例では、目標電流Itrの初期値が大きいため、実際の電磁クラッチの伝達トルクが、目標の伝達トルクよりも大きくなり、実際の回転加速度が、目標回転加速度αotrよりも大きくなっている。時刻t02で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差Δωを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t05-t02)で除算して、目標回転加速度αotrを算出している。そして、電流制御部23は、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出している。電流制御部23は、時刻t02で検出した、電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比で除算して、目標電流Itrを算出し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。時刻t02から時刻t03までの間、電流制御部23は、時刻t02で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁クラッチ11への供給電流を制御している。
【0063】
時刻t02から時刻t03までの間、時刻t02で算出した実電流実トルク比が理想値よりも小さかったため、実際の電磁クラッチの伝達トルクが、目標の伝達トルクよりも小さくなり、実際の回転加速度が、目標回転加速度αotrよりも小さくなっている。時刻t02と同様に、時刻t03で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差Δωを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t05-t03)で除算して、目標回転加速度αotrを算出している。そして、電流制御部23は、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出している。電流制御部23は、時刻t03で検出した、電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比で除算して、目標電流Itrを算出し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。時刻t03から時刻t04までの間、電流制御部23は、時刻t03で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁クラッチ11への供給電流を制御している。
【0064】
時刻t03から時刻t04までの間、時刻t03で算出した実電流実トルク比が理想値よりも若干大きかったため、実際の電磁クラッチの伝達トルクが、目標の伝達トルクよりも若干大きくなり、実際の回転加速度が、目標回転加速度αotrよりも若干大きくなっている。時刻t03と同様に、時刻t04で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差Δωを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t05-t04)で除算して、目標回転加速度αotrを算出している。そして、電流制御部23は、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出している。電流制御部23は、時刻t04で検出した、電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比で除算して、目標電流Itrを算出し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。時刻t04から時刻t05までの間、電流制御部23は、時刻t04で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁クラッチ11への供給電流を制御している。
【0065】
そして、時刻t05で、電流制御部23は、電磁クラッチ11の係合が完了したと判定し、目標回転速度ωotr等に基づいた、目標電流Itrの算出を終了する。例えば、電流制御部23は、目標回転速度ωotrと回転速度の検出値ωodetとの回転速度差の絶対値が判定値以下になったので、係合が完了したと判定する。時刻t05の後、電磁クラッチ11を滑りなしの係合状態に維持するために、目標電流Itrを更に増加させてもよい。
【0066】
図7に示すように、変動要因により電磁クラッチ11の伝達トルクが変動したとしても、制御周期ΔTcnt毎の各時刻において、検出した電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比に基づいて、目標タイミングTptrにおいて目標回転速度ωotrを達成するための目標電流Itrを、フィードフォワード的に遅れなく、精度よく算出することができる。係合開始後に、摩擦板の温度、電磁コイルの温度、及び摩擦板の回転差が、刻々と変化し、電磁クラッチ11の伝達トルクが変化しても、変化した実電流実トルク比を遅れなく検出し、制御精度を保てる。よって、目標タイミングTptrにおいて、回転速度を目標回転速度ωotrに精度よく近づけることができる。
【0067】
<電磁ブレーキ12の係合時の制御挙動>
電流制御部23は、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12が解放され、出力軸SOが回転している状態において、電磁ブレーキ12の係合を開始する。例えば、電流制御部23は、外部装置100から、電磁ブレーキ12の係合開始指令が伝達された場合に、電磁ブレーキ12の係合を開始する。
【0068】
そして、目標タイミング速度設定部22は、電磁ブレーキ12の係合開始時点Tpstから、予め設定された目標係合完了時間ΔTendtr先の時点に目標タイミングTptrを設定し、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを設定する。そして、上述したように、電流制御部23は、目標タイミングTptrにおいて、回転速度の検出値ωodetが目標回転速度ωotrに近づくように、電磁ブレーキ12への供給電流を変化させる。なお、電流制御部23は、電磁クラッチ11への供給電流を0に設定する。
【0069】
電磁ブレーキ12の係合時の制御挙動の例を、
図8のタイムチャートに示す。時刻t11までは、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12が解放され、出力軸SOが回転している。時刻t11で、電流制御部23は、電磁ブレーキ12の係合を開始すると判定している。そして、電流制御部23は、電磁ブレーキ12の係合開始時点Tpst(本例では、時刻t11)から、予め設定された目標係合完了時間ΔTendtr先の時点(本例では、時刻t15)に目標タイミングTptrを設定し、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを0に設定している。
【0070】
そして、時刻t11以降、電流制御部23は、制御周期ΔTcnt毎に、目標電流Itrを更新し、電磁ブレーキ12への供給電流を変化させている。具体的には、時刻t11で、電流制御部23は、目標電流Itrを初期値(例えば、オンデューティ比100%に対応する値)に設定し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。或いは、時刻t11で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotr(本例では、0)と現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差Δωを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t15-t11)で除算して、目標回転加速度αotrを算出し、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出し、目標出力トルクTotrを、実電流実トルク比の初期値で除算して、目標電流Itrを算出してもよい。時刻t11から時刻t12までの間、電流制御部23は、時刻t01で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁ブレーキ12への供給電流を制御している。
【0071】
制御周期ΔTcnt後の時刻t12では、時刻t11で算出された目標電流Itrによる制御結果が、電流の検出値Icldet、及び出力トルクの検出値Todetに表れる。本例では、目標電流Itrの初期値が大きいため、実際の電磁ブレーキの伝達トルクが、目標の伝達トルクよりも大きくなり、実際の回転加速度の絶対値が、目標回転加速度αotrの絶対値よりも大きくなっている。時刻t12で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差Δωを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t15-t12)で除算して、目標回転加速度αotrを算出している。そして、電流制御部23は、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出している。電流制御部23は、時刻t12で検出した、電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比で除算して、目標電流Itrを算出し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。時刻t12から時刻t13までの間、電流制御部23は、時刻t12で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁ブレーキ12への供給電流を制御している。
【0072】
時刻t12から時刻t13までの間、時刻t12で算出した実電流実トルク比の絶対値が理想値よりも小さかったため、実際の電磁クラッチの伝達トルクの絶対値、目標の伝達トルクの絶対値よりも小さくなり、実際の回転加速度の絶対値が、目標回転加速度αotrの絶対値よりも小さくなっている。時刻t12と同様に、時刻t13で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差Δωを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t15-t13)で除算して、目標回転加速度αotrを算出している。そして、電流制御部23は、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出している。電流制御部23は、時刻t13で検出した、電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比で除算して、目標電流Itrを算出し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。時刻t13から時刻t14までの間、電流制御部23は、時刻t13で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁ブレーキ12への供給電流を制御している。
【0073】
時刻t13から時刻t14までの間、時刻t13で算出した実電流実トルク比の絶対値が理想値よりも若干大きかったため、実際の電磁クラッチの伝達トルクの絶対値が、目標の伝達トルクの絶対値よりも若干大きくなり、実際の回転加速度の絶対値が、目標回転加速度αotrの絶対値よりも若干大きくなっている。時刻t13と同様に、時刻t14で、電流制御部23は、式(1)を用い、目標回転速度ωotrと現在の回転速度の検出値ωodetとの間の速度差Δωを、目標タイミングTptrと現在の時点Tpprとの間の時間差ΔTp(本例では、t15-t14)で除算して、目標回転加速度αotrを算出している。そして、電流制御部23は、式(2)を用い、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出している。電流制御部23は、時刻t14で検出した、電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比で除算して、目標電流Itrを算出し、目標電流Itrに基づいて、オンデューティ比Donを算出している。時刻t14から時刻t15までの間、電流制御部23は、時刻t14で算出されたオンデューティ比Donを用いて、PWM制御により、電磁ブレーキ12への供給電流を制御している。
【0074】
そして、時刻t15で、電流制御部23は、電磁ブレーキ12の係合が完了したと判定し、目標回転速度ωotr等に基づいた、目標電流Itrの算出を終了する。例えば、電流制御部23は、目標回転速度ωotrと回転速度の検出値ωodetとの回転速度差の絶対値が判定値以下になったので、係合が完了したと判定する。時刻t15の後、電磁ブレーキ12を滑りなしの係合状態に維持するために、目標電流Itrを更に増加させてもよい。
【0075】
図8に示すように、変動要因により電磁ブレーキ12の伝達トルクが変動したとしても、制御周期ΔTcnt毎の各時刻において、検出した電流の検出値Idetに対する出力トルクの検出値Todetの実電流実トルク比に基づいて、目標タイミングTptrにおいて目標回転速度ωotrを達成するための目標電流Itrを、フィードフォワード的に遅れなく、精度よく算出することができる。係合開始後、摩擦板の温度、電磁コイルの温度、及び摩擦板の回転差が、刻々と変化し、電磁ブレーキ12の伝達トルクが変化しても、変化した実電流実トルク比を遅れなく検出し、制御精度を保てる。よって、目標タイミングTptrにおいて、回転速度を目標回転速度ωotrに精度よく近づけることができる。
【0076】
<目標電流Itrによる異常判定>
電流制御部23は、目標電流Itrが、正常範囲外になった場合に、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12に異常が生じたと判定する。正常範囲は、上限値と下限値との間に設定される。
【0077】
経年変化等による摩擦板の異常、電磁コイルの異常等が発生すると、目標電流Itrが、通常の変動要因による変動範囲を超えて変動する。上記の構成によれば、目標電流Itrをモニタするだけで、容易に異常の発生を判定できる。正常範囲は、許容できる伝達トルクの変動範囲等に基づいて、予め設定される。
【0078】
電流制御部23は、異常が生じたと判定した場合に、外部装置100に異常を伝達する。この構成によれば、異常が伝達された外部装置100は、動力源200の駆動を停止したり、負荷300の動作を停止したりすることができ、システムの信頼性を向上できる。
【0079】
<フローチャート>
以上で説明した制御器20の処理を、
図9に示すフローチャートのように構成できる。ステップS01で、電流制御部23は、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12の係合を開始するか否かを判定し、係合を開始すると判定した場合は、ステップS02に進み、係合を開始すると判定されていない場合は、ステップS01を繰り返し実行する。
【0080】
ステップS02で、上述したように、目標タイミング速度設定部22は、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12の係合開始時点Tpstから、予め設定された目標係合完了時間ΔTendtr先の時点に目標タイミングTptrを設定し、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrを設定する。
【0081】
ステップS03で、電流制御部23は、制御周期ΔTcnt毎のタイミングであるか否かを判定し、制御周期ΔTcntのタイミングである場合は、ステップS04に進み、タイミングでない場合は、タイミングになるまで、ステップS03を繰り返し実行する。
【0082】
ステップS04で、運転状態検出部21は、回転センサ50の出力信号に基づいて、出力軸SOの回転速度ωodetを検出する。運転状態検出部21は、トルクセンサ40の出力信号に基づいて、出力トルクTodetを検出する。電磁クラッチ11を係合する場合は、運転状態検出部21は、第1電流センサ30aの出力信号に基づいて、電磁クラッチ11への供給電流Icldetを検出する。電磁ブレーキ12を係合する場合は、運転状態検出部21は、第2電流センサ30bの出力信号に基づいて、電磁ブレーキ12への供給電流Ibkdetを検出する。
【0083】
ステップS05で、電流制御部23は、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12の係合が完了したか否かを判定し、係合が完了したと判定した場合は、ステップS12に進み、係合が完了していないと判定した場合は、ステップS06に進む。例えば、電流制御部23は、目標回転速度ωotrと回転速度の検出値ωodetとの回転速度差の絶対値が判定値以下になった場合は、係合が完了したと判定し、判定値以下になっていない場合は、係合が完了していないと判定する。電流制御部23は、回転速度の検出値ωodetの時間変化が、判定値以下になったか否かの条件が追加されてもよい。或いは、電流制御部23は、目標タイミングTptrに到達した場合は、係合が完了したと判定し、到達していない場合は、係合が完了していないと判定してもよい。
【0084】
ステップS06で、上述したように、電流制御部23は、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotr及び現在の回転速度の検出値ωodetに基づいて、目標回転加速度αotrを算出する。本実施の形態では、電流制御部23は、式(1)を用いて、目標回転加速度αotrを算出する。
【0085】
ステップS07で、上述したように、電流制御部23は、目標回転加速度αotrに基づいて、目標出力トルクTotrを算出する。本実施の形態では、電流制御部23は、式(2)を用いて、目標出力トルクTotrを算出する。
【0086】
ステップS08で、上述したように、電流制御部23は、目標出力トルクTotr、及び電流の検出値Idetと出力トルクの検出値Todetとの比である実電流実トルク比に基づいて、滑り係合状態の電磁クラッチ11への供給電流又は滑り係合状態の電磁ブレーキ12への供給電流を変化させる。本実施の形態では、電流制御部23は、式(4)又は式(5)を用いて、目標電流Itrを算出する。
【0087】
ステップS09で、電流制御部23は、目標電流Itrが、正常範囲内であるか否かを判定し、正常範囲内である場合は、ステップS11に進み、正常範囲外である場合は、ステップS10に進む。
【0088】
ステップS10で、電流制御部23は、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12に異常が生じたと判定する。電流制御部23は、異常が生じたと判定した場合に、外部装置100に異常を伝達する。
【0089】
ステップS11で、電流制御部23は、目標電流Itrに基づいて、電磁クラッチ11への供給電流又は電磁ブレーキ12への供給電流を変化させる。本実施の形態では、電流制御部23は、目標電流Itrに基づいてオンデューティ比Donを算出し、オンデューティ比Donに基づいて、PWM制御により電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12への通電をオンオフする。目標電流Itrに基づく電流供給は、制御周期ΔTcnt毎のタイミング以外でも、継続して実行される。
【0090】
ステップS11の後、ステップS03に戻り処理が継続される。
【0091】
一方、ステップS12で、電流制御部23は、係合が完了したと判定しているので、目標回転速度ωotr等に基づいた、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12への供給電流の制御を終了する。例えば、電流制御部23は、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12を滑りなしの係合状態に維持するために、目標電流Itrを更に増加させ、増加させた目標電流Itrに基づいて、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12への供給電流を継続して実行する。
【0092】
2.実施の形態2
次に、実施の形態2に係る電磁動力制御装置1について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る電磁動力制御装置1の基本的な構成は実施の形態1と同様であるが、PWM制御のパルス信号が、アナログ回路により生成される点が実施の形態1と異なる。
【0093】
図10に示すように、制御器20は、電磁クラッチ11用のコンパレータ96及び三角波生成器97、及び電磁ブレーキ12用のコンパレータ96及び三角波生成器97を備えている。
【0094】
三角波生成器97は、PWM周期で、振動幅(例えば、0Vから1V)で振動する三角波を生成する。電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12のそれぞれについて、電流制御部23は、出力回路93から、オンデューティ比Donに対応する信号を出力させる。例えば、オンデューティ比Donの0%から100%が、0Vから1Vで出力される。
【0095】
コンパレータ96の反転入力端子には、三角波生成器97の出力信号(三角波)が入力され、コンパレータ96の非反転入力端子には、出力回路93から出力されたオンデューティ比Donの対応信号が入力される。コンパレータ96は、オンデューティ比Donの対応信号が、三角波を上回った場合は、オン信号を出力し、コンパレータ96は、オンデューティ比Donの対応信号が、三角波を下回った場合は、オフ信号を出力する。
【0096】
電磁クラッチ11用のコンパレータ96の出力信号は、電磁クラッチ11用のスイッチング素子95(本例では、FET)のゲート端子に入力される。電磁ブレーキ12用のコンパレータ96の出力信号は、電磁ブレーキ12用のスイッチング素子95(本例では、FET)のゲート端子に入力される。コンパレータ96の出力信号がオン信号になると、スイッチング素子95がオンになり、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12の電磁コイルが通電される。コンパレータ96の出力信号がオフ信号になると、スイッチング素子95がオフになり、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12の電磁コイルへの通電が停止される。
【0097】
なお、電流制御部23は、出力回路93から、目標電流Itrに対応する信号を出力させてもよく、制御器20は、目標電流Itrの対応信号に基づいて、オンデューティ比Donの対応信号を生成するアナログ回路を備えていてもよい。例えば、アナログ回路は、電流センサ30の出力信号が、目標電流Itrの対応信号に近づくように、オンデューティ比Donの対応信号を変化させるフィードバック制御を行うオペアンプ、抵抗などから構成されてもよい。
【0098】
<転用例>
(1)上記の各実施の形態では、電磁動力制御装置1は、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12の双方を備えている場合を例に説明した。しかし、電磁動力制御装置1は、電磁クラッチ11及び電磁ブレーキ12の一方を備えてもよく、制御器20は、電磁クラッチ11への供給電流及び電磁ブレーキ12への供給電流の一方を制御してもよい。
【0099】
(2)上記の各実施の形態では、電磁動力制御装置1は、1つの電磁クラッチ11及び1つの電磁ブレーキ12を備えている場合を例に説明した。しかし、電磁動力制御装置1は、複数の電磁クラッチ11を備えてもよく、複数の電磁ブレーキ12を備えてもよく、制御器20は、各電磁クラッチ11への供給電流を制御し、各電磁ブレーキ12への供給電流を制御してもよい。
【0100】
(3)上記の各実施の形態では、電磁クラッチ11の一方の摩擦板13、及び電磁ブレーキ12の一方の摩擦板13が、出力軸SOと一体回転するように連結されている場合を例に説明した。しかし、電磁クラッチ11の一方の摩擦板13と出力軸SOとの間に、ギヤ機構、ベルトプーリ機構等の動力伝達機構が介在していてもよく、電磁ブレーキ12の一方の摩擦板13と出力軸SOとの間に、ギヤ機構、ベルトプーリ機構等の動力伝達機構が介在していてもよい。また、出力軸SOと負荷300との間に、ギヤ機構、ベルトプーリ機構等の動力伝達機構が介在していてもよい。また、負荷300が、複数の回転部材から構成され、複数の回転部材が、ギヤ機構、ベルトプーリ機構等の動力伝達機構を介して、一体的に回転するように接続されていてもよい。
【0101】
(4)上記の各実施の形態では、電磁動力制御装置1が、複写機、プリンタに用いられる場合を例に説明した。しかし、電磁動力制御装置1が、各種の装置に用いられてもよい。
【0102】
(5)上記の各実施の形態では、電磁クラッチ11を係合させる場合における、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrが、正の値に設定されている場合を例に説明した。しかし、電磁クラッチ11を係合させる場合における、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrが、負の値又は0に設定されてもよい。また、電磁ブレーキ12を係合させる場合における、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrが、0に設定されている場合を例に説明した。しかし、電磁ブレーキ12を係合させる場合における、目標タイミングTptrにおける目標回転速度ωotrが、0以外の値に設定されてもよい。
【0103】
(6)上記の各実施の形態では、入力軸SIが回転し、出力軸SOが回転停止している状態で、電磁クラッチ11の係合が開始されていた。しかし、電磁クラッチ11の係合開始時点で、入力軸SIの回転速度と出力軸SOの回転速度との間に差があればよく、出力軸SOが回転していてもよい。
【0104】
(7)上記の各実施の形態では、電磁クラッチ11又は電磁ブレーキ12の係合開始時点から目標係合完了時間ΔTendtr先の時点に目標タイミングTptrが設定される場合を例に説明した。目標タイミングTptrは、現在よりも先の時点に設定されれば、任意の時点に設定されてもよい。
【0105】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0106】
1 電磁動力制御装置、10 電磁動力制御機構、11 電磁クラッチ、12 電磁ブレーキ、17 非回転部材、20 制御器、30 電流センサ、40 トルクセンサ、50 回転センサ、100 外部装置、200 動力源、300 負荷、Idet 電流の検出値、Itr 目標電流、J 慣性モーメント、Kid 換算係数、SI 入力軸、SO 出力軸、TL 負荷トルク、Tj 慣性トルク、Todet 出力トルクの検出値、Totr 目標出力トルク、Tpst 係合開始時点、Tptr 目標タイミング、ΔTcnt 制御周期、ΔTendtr 目標係合完了時間、αotr 目標回転加速度、ωodet 回転速度の検出値、ωotr 目標回転速度