(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-29
(45)【発行日】2022-12-07
(54)【発明の名称】腹腔鏡下手術中に排煙するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/34 20060101AFI20221130BHJP
A61B 17/94 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
A61B17/34
A61B17/94
(21)【出願番号】P 2021072528
(22)【出願日】2021-04-22
(62)【分割の表示】P 2020020542の分割
【原出願日】2013-11-20
【審査請求日】2021-05-10
(32)【優先日】2013-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509065827
【氏名又は名称】サージクェスト,インコーポレーテッド
【住所又は居所原語表記】488 Wheelers Farms Road,Milford,Connecticut 06461 Unites states of America
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン,レイモンド,ユエシン
(72)【発明者】
【氏名】ブリエ,ケネス
(72)【発明者】
【氏名】スターンズ,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】アザルバルジン,ハート
(72)【発明者】
【氏名】マストリ,ドミニク
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505027(JP,A)
【文献】特開2012-075874(JP,A)
【文献】国際公開第2011/014394(WO,A1)
【文献】特表2010-502360(JP,A)
【文献】特許第6875571(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/34
A61B 17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の腹腔のなかで腹腔鏡下手術の間に送気及び排煙をするための二重管腔カニューレにおいて、
a)第1フローポートと第2フローポートとを画定する近位ハウジングと、
b)前記近位ハウジングの上端に接続され、主アクセスポートを画定する端部キャップと、
c)前記近位ハウジングのなかで支持され、前記主アクセスポートを通して加圧ガスが出ていくのを防止するダックビルシールと、
d)前記近位ハウジングと一体的に形成され、そこから遠位へ向けて延びた外側カニューレと、
e)前記近位ハウジングのなかで支持された上端部分と、前記外側カニューレのなかに配置された下端部分とを有する内側カニューレと、
f)前記内側カニューレのなかに画定され、前記近位ハウジングの前記第1フローポートと連通した内側管腔と、
g)前記外側カニューレと前記内側カニューレとの間に形成され、前記近位ハウジングの前記第2フローポートと連通した外側管腔と
を備え
、
前記ダックビルシールは、上側支持部分と下側シール部分とを含み、
前記上側支持部分は、水平セクションと、垂直セクションとを含み、
前記下側シール部分は、角度的に収束する第一及び第二のシールリップを含み、
角度的に収束する第一及び第二の前記シールリップは、連続的な収束角度で、前記支持部分の前記垂直セクションから、前記ダックビルシールの水平基部まで延びる、
二重管腔カニューレ。
【請求項2】
請求項1に記載された二重管腔カニューレにおいて、
前記近位ハウジングの前記第1フローポートは、第1の導管を介して再循環ポンプと連通し、前記内側管腔を通して前記患者の前記腹腔から排煙するのを容易にする、
二重管腔カニューレ。
【請求項3】
請求項1に記載された二重管腔カニューレにおいて、
前記近位ハウジングの前記第2フローポートは、第2の導管を介して送気源と連通し、前記外側管腔を通して前記患者の前記腹腔に送気するのを容易にする、
二重管腔カニューレ。
【請求項4】
請求項1に記載された二重管腔カニューレにおいて、
前記ダックビルシールは、前記内側カニューレのなかで延びている、
二重管腔カニューレ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年5月22日出願の米国特許仮出願第61/826,088号および2012年11月20日出願の米国特許仮出願第61/728,608号の優先権を主張し、各出願の開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は腹腔鏡下手術に関し、より具体的には、腹腔鏡下手術中に、二重管腔カニューレを使用して患者の腹腔から煙を除去し、かつ、排出するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
腹腔鏡下または「低侵襲」の手術手技は、胆嚢摘出、虫垂切除、ヘルニア修復および腎摘出などの手術を行う際に普通に使用されるようになってきている。腹腔鏡下手術の利点には、患者の切開創の縮小、感染の可能性の減少および回復時間の短縮がある。腹(膜)腔内におけるこうした手術は、通常、腹腔鏡器具の患者の腹腔内への挿入を容易にするトロカールまたはカニューレと呼ばれる装置を介して行われる。
【0004】
さらに、腹腔鏡下手術は、一般的に気腹と呼ばれる状態を生成するために、炭酸ガスなどの加圧流体で腹(膜)腔を満たす、または「送気する」ステップを含む。送気は、送気流体を供給するために設けられたカニューレまたはトロカールなどの外科的アクセス装置か、または送気(べレス)針などの別の送気装置を使用して行われる。手術器具の気腹内への挿入は、気腹を維持するために送気ガスの実質的な損失なしに行われるのが望ましい。
【0005】
典型的な腹腔鏡下手術において、外科医は、外科的アクセス装置(通常は装置内部に配置された別個のインサータまたはオブチュレータ)を使用して、それぞれの大きさが通常約12mm未満の3~4つの小さい切開部を作成する。インサータは挿入後に除去され、トロカールが腹腔内に挿入される器具のアクセスを可能にする。多くの場合典型的なトロカールは、外科医が処置を施すための開かれた内部空間を確保できるように腹腔に送気する手段を提供する。
【0006】
トロカールは、トロカールと使用中の手術器具との間を密封して腹腔内の圧力を維持し、かつ手術器具の少なくとも最小限の自由な動きを可能にする手段を提供する必要がある。このような器具には、例えば、鋏、把持器具、閉塞器具、焼灼装置、カメラ、光源およびその他の手術器具が含まれる。密封要素または機構が、送気ガスの漏出を防止するために通常トロカール上に設けられる。密封要素または機構は、トロカールを通過する手術器具の外面の周りを密封するために、比較的柔軟な材料からなるダックビル型弁を通常備える。
【0007】
さらに、腹腔鏡下手術においては、電気焼灼器やその他の技術(例えば、高調波メス)が気腹内に煙およびその他のデブリス(残屑)を生成し、内視鏡などからの画像を曇らせ、また内視鏡などの表面を覆うことにより視認性が低下する。様々な外科用送気装置および排煙装置が当技術分野で知られている。
【0008】
また、米国特許第7,854,724号明細書に、その全体または一部が記載されているように、米国コネチカット州ミルフォードのサージクェスト,インコーポレーテッド社は、従来のメカニカルシールを使用せずに気腹へのアクセスを可能にする外科的アクセス装置を開発し、また当該アクセス装置に十分な圧力および流量を提供するための関連装置を開発した。
【0009】
上述した装置および方法はその使用目的に関して、概ね満足のいくものであるが、その一方で送気システムおよびその関連技術の機能向上を求める声は継続している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、患者の腹腔内等における腹腔鏡下手術中に使用する新規で有用な外科用ガス供給システムに関し、より具体的には、システム内に加圧ガスを循環させるポンプと、患者の腹腔へのアクセスを提供するように構成され、かつ送気流体源に連通する第1の管腔およびポンプに連通する第2の管腔を備える二重管腔カニューレとを含む、送気および排煙システムに関する。
【0011】
本発明の一実施形態では、二重管腔カニューレが、加圧ガスと送気流体を腹腔に供給するために送気流体源およびポンプの加圧側とに連通する第1の管腔と、腹腔からガスを除去するためにポンプの吸引側に連通する第2の管腔とを備える。
【0012】
本発明の別の実施形態では、二重管腔カニューレが、送気流体源に連通する第1の管腔と腹腔に加圧ガスを供給するためにポンプの圧縮側に連通する第2の管腔とを備える。さらに、本システムは、腹腔からガスを除去するためにポンプの吸引側に連通する単一管腔を有する第2のカニューレを備える。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、バイパス弁がシステム内のガス循環速度を制御するためにポンプと機能的に連結する。さらに、メカニカルシールが腹圧を維持するために第2の管腔に動作可能に結合し、第1の管腔が腹圧を感知するセンス線として機能する。システムから煙およびデブリスを除去するために、システム内を循環するガスを濾過するフィルタ装置もまた設けられる。
【0014】
本発明のシステムにおけるこれら特徴やその他の特徴、およびその製造方法ならびに使用方法が、以下に記載の本発明の好ましい実施形態の記述と以下に記載の図面の説明により当業者に明らかにされる。
【0015】
本発明が関連する分野における当業者が、過度の実験をすることなしに本発明の作成方法および使用方法を理解できるように、いくつかの図面を参照しながら好ましい実施形態を以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に従って構成された二重管腔カニューレの上部の断面図であり、他の要素およびメカニカルダックビルシールを含んでいる。
【
図2】
図1に示す二重管腔カニューレおよび追加の単一管腔カニューレを使用する、本発明の送気および排煙システムの一実施形態の概略図である。
【
図3】
図1に示す二重管腔カニューレを使用する、本発明の送気および排煙システムの一実施形態の概略図である。
【
図4】三重管腔カニューレおよび追加の単一管腔カニューレを使用する、本発明の送気および排煙システムのさらに別の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面について以下に説明するが、類似の符号は本発明の同様の構成特性または態様を示す。限定するためではなく説明する目的で、本発明に従った符号10で示す送気および排煙システムの例示的一実施形態の部分図を
図1に示す。後述するように、本発明に従った送気および排煙システムのその他の実施形態または態様が
図2~
図4に示される。本明細書に記述されるシステム、装置および方法は、適合する外科装置と共に適用可能な外科手術における送気、排煙および/または再循環を含む外科用ガス供給のために使用されうることを理解されたい。
【0018】
本発明は、ベレス針などの標準または特殊な外科的アクセス装置やその他の手段への送気と、標準または特殊な外科的アクセス装置を介する排煙と、送気流体の再循環や濾過などの特殊機能とを含む、多様な外科用ガス供給機能を実施可能な複合システムおよびその関連装置や方法に関し、上述の外科的アクセス装置は、例えば、米国特許第7,854,724号明細書に記載され、さらに米国特許第7,182,752号、米国特許第7,285,112号、米国特許第7,413,559号または米国特許第7,338,473号明細書に記載されており、上記特許の各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
本明細書に記載の単一複合システムの使用は、多様な機能を実行できる1つのシステムのみを購入するためコストを削減でき、さらにそれにより手術室で必要となる機器の数が減少して整理され、他の必要な機器のためのスペースを確保できる。
【0020】
本発明は手術室で必要となる機器の数を最小化するのに特に適しており、本発明のシステムは多機能を実行でき、それにより柔軟な手術手法を可能にする。本明細書で開示されるガス供給システムは、腹腔鏡下胆嚢摘出術、腹腔鏡下虫垂切除術、腹腔鏡下ヘルニア修復、腹腔鏡下ニッセン手術および腹腔鏡下腎摘出術を含むがこれに限定されない一般的な腹腔鏡下手術に使用できる。
【0021】
当業者は、米国特許第7,854,724号明細書に記載のシステムが、例えば、患者の腹腔などの外科的腔内に貫通する専用外科的アクセス装置に加圧ガスを供給し、かつ専用外科的アクセス装置から減圧ガスを除去することを理解するであろう。このようなアクセス装置は、大気中への送気ガスの損失を抑止するための圧力バリアを形成するように適合され、かつ構成される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態に従って構成された、符号10で表すアクセス装置の一例を
図1に示す。アクセス装置10は二重管腔カニューレとして構成される。すなわち、アクセス装置10は近位ハウジング12、外側カニューレ14および内側カニューレ16を備える。内側カニューレ16は中央または内側管腔18を画定し、環状または外側管腔20は外側カニューレ14と内側カニューレ16との間に形成される。
【0023】
ハウジング12は、内側カニューレ16の中央管腔18に連通する第1フローポート28と環状管腔20に連通する第2フローポート30とを備える。主アクセスポート32がハウジング12の端部キャップ34に設けられ、ダックビルシール36は、加圧ガスがアクセスポート32を介して装置から流出するのを防止するためにハウジング12内に支持されている。
【0024】
図2を参照して以下に詳細に記載するように、腹部(例えば、気腹116)からの使用ガスがアクセス装置10から供給されるガスと交換される際に、使用ガスの一部は収集されシステム内を再循環し、途中で1つ以上のフィルタ(例えば、以下に記載のフィルタ123)を通過して再加圧される。この再循環の過程で、煙および/または噴霧流体などのその他の循環デブリスがフィルタにより除去され、外科的腔内の可視度が向上しそれにより外科手術の補助となる。本発明に使用できるフィルタの一例が米国特許第8,088,189号明細書に開示されており、その開示はその全体が本明細書中に参考として援用される。
【0025】
図2は本発明に従って構成された、符号100で表す送気および排煙システムを示し、システム内に加圧ガスを循環させるための再循環ポンプ112を備える。システム100は
図1に示す二重管腔カニューレ10を含む。本発明のこの実施形態において、二重管腔カニューレ10は、ハウジング12のフローポート30に接続された導管115を介して送気流体源114に連通する第1または外側管腔20を備える。送気流体源114は気腹116内の圧力を維持する。二重管腔カニューレ10の外側管腔20はまた、システム100内の腹圧を感知し制御するセンス線としても機能する。
【0026】
システム100の二重管腔カニューレ10は、さらに、(例えば、後述の再循環のために)腹腔に加圧ガスを供給するための、ハウジング12のフローポート28に接続された導管117を介して再循環ポンプ112の加圧または供給側に連通する第2または中央管腔18を備える。
【0027】
さらに、システム100は、腹腔からガスを除去するために、例えば、ルアー接続により導管119を介して再循環ポンプ112の吸引側に連通する単一管腔を有する第2のカニューレ150を備える。システム100はさらに、導管117および導管119に接続する導管121を介して再循環ポンプ112に機能的に連結する、システム100内のガス循環速度を制御するためのバイパス弁125を備える。バイパス弁125が閉じると、ポンプ112は、接続する導管117、中央管腔18、気腹116、第2のカニューレ150およびフィルタ123を備える導管119を介してガスを再循環させる。フィルタ123は、気腹116を介して循環する送気ガスから煙、粒子、水分などを除去できる。バイパス弁125は、気腹116を介する再循環ガスの流れを減少させるために必要に応じて開放および調整が可能である。
【0028】
図3は本発明に従って構成された、符号200で表される別の送気および排煙システムを示し、システム内に加圧ガスを循環させるための再循環ポンプ212を備える。システム200はさらに
図1に示す二重管腔カニューレ10を備える。
【0029】
本発明の本実施形態において、二重管腔カニューレ10は、ハウシング12のフローポート30に接続する導管217を介して送気流体源214およびポンプ212の高圧側(供給側)に連通する第1の環状管腔20を備える。二重管腔カニューレ10の環状管腔20はまた、システム200内の腹圧を感知するセンス線としても機能する。
【0030】
システム200において、二重管腔カニューレ10はさらに、腹腔(例えば、
図1の気腹116)からガスを除去するために、ハウジング12のフローポート28に接続する導管219を介して再循環ポンプ212の吸引側に連通する第2の管腔18を備える。本実施形態において、第2の管腔18は1つの線、すなわち吸引管である導管219のみを有し、第2の管腔18用のセンス/送気線は存在しない。システム200はさらに、システム200内のガス循環速度を制御するために、導管217と導管219に接続する導管221を介して再循環ポンプ212に機能的に連結するバイパス弁225を備える。バイパス弁225は、上述したように二重管腔カニューレ10を介する再循環フローの量を制御するために使用できる。フィルタ223は上述のフィルタ123と同様に動作する。
【0031】
図4は、符号300で表される別の送気および排煙システムを示す。システム300は、送気ガス源314、ポンプ312、バイパス弁325、第2のカニューレ350およびフィルタ323を備え、実質的に
図2に示すシステム100と同様であるが、システム300が三重管腔カニューレ320と、カニューレ320の内側ボウル領域と真空ライン319との間に延びる連通ライン360を備える点だけが異なる。その結果、三重管腔カニューレ320が腹腔鏡のアクセスポートとして使用される場合、煙は腹腔鏡の可視性に悪影響を及ぼさないように腹腔鏡の遠位端から離れた領域で腹腔を出ることになる。
【0032】
腹膜腔の送気の模範的な構成について記述してきたが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して任意の適した体腔に送気できることを容易に理解されるであろう。
【0033】
好ましい実施形態を参照して本発明を図示し記述してきたが、当業者は、添付の特許請求の範囲により定義された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な修正および/または変更が成されうることを理解されるであろう。